創刊のことば
                      
人間の老化現象を組織的かつ綜合的に研究するようになったのは,そんなに古いことではない.アメリカでゼロントロジィという学名が学会で市民権をえたのは1944年だとされている.本誌の編集母体である日本老年社会科学会が正式に発足したのは,1958年のことであった.
 そもそも老年学は,老化の生理的レベルや行動レベルや生活環境レベルの研究など,それぞれの専門分野からのアプローチを必要とすることはいうまでもない.だが,どのレベルの研究にしても,老年ないし老人を
as a whole として統合的にとらえなければ,いいかえれば他の専門領域との共同研究や情報交換がなければ,その本質を解明できない性質をもっている.
 とりわけ老人の社会科学的研究は,これまで常識とされてきた老人観への科学的疑問から発想して,実践的にも社会に寄与できる実証的研究を志向しなければならない.つまり老人処遇の現状への反省と未来への政策的志向が期待されているのである.
 日本老年社会科学会は歴史的には日なお浅いが,それでも今年で
21年目を迎えるに至っている.成人期に入ったのである.そこで学会20周年を期して,これまでの学会年報が各年次の大会報告要旨集と変らず,学術誌として形式と内容を十分備えていなかったので,これを発展的に解消した.そして会員はいうに及ばず広く老化ないし老人問題に関心のある実務者や研究者に最新の研究成果や研究情報を提供できる学術研究誌にあらたに変身することになった.
 本誌が単に大会報告誌に終始することなく,国際的な評価に耐えうる,質量ともにすぐれた老年学研究の学術研究誌として発展することを心から期待してやまない.
1979年9月1日

日本老年社会科学会会長  那 須 宗 一