論文名 | 初期/軽度の認知障害 ― 軽度認知障害(MCI)の問題を中心に ― |
著者名 | 目黒謙一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):379-384,2006 |
抄録 | 認知障害があるものの,生活に支障をきたすほどではない場合をMCI(広義)という.しかしMCIという疾患があるのではなく,さまざまな病気の最軽度状態としてのMCI状態であることに注意する必要がある.これは認知症の原因疾患にさまざまな病気があるのと同じである.特定の神経疾患の最軽度状態は,それぞれの疾患特有の認知機能障害が想定されるが,多くの場合,認知機能の特徴として認知ドメインそのものの障害よりも,基盤にある注意力・遂行機能・実行機能の障害が認められる.生活に支障をきたすほどではないものの,軽度の生活障害が家庭や地域で認められる場合があるが,それにも遂行機能・実行機能障害が関係している. |
キーワード | MCI,注意力,遂行機能,社会適応能力 |
論文名 | アルツハイマー病の認知機能障害 |
著者名 | 古田伸夫,三村 將 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):385-392,2006 |
抄録 | アルツハイマー病はもの忘れに始まる進行性の認知機能障害をその中核症状とする.記憶障害は近時記憶が最も早期より認められ,その他の認知機能障害(失語,失行,失認など)も出現する.初期の障害を評価するためにはスクリーニング検査が有効であり,とくに遅延再生項目に着目するとよい.そのほか,日時の見当識,計算,語想起課題などで早期から得点の低下が認められる. |
キーワード | アルツハイマー病,中核症状,近時記憶,遅延再生,スクリーニング |
論文名 | 初期血管性認知症の認知障害 |
著者名 | 大下智彦,郡山達男,松本昌泰 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):393-399,2006 |
抄録 | 血管性認知症(VaD)とは脳血管障害が原因となって生じる認知症(痴呆)の総称であり,アルツハイマー型認知症(AD)に次ぐ認知症の主要病型である.VaDは臨床的に均一でなく,いくつかの病型に分けられている.そのうち緩徐進行性のsubcortical vascular dementiaは早期診断が困難であるが,記憶障害よりも企画立案機能の低下に伴う異常行動,知的活動の処理速度の低下などが初期症状である.また,より早期の認知障害の段階から進展を防ぐという見地からvascular cognitive impairment(VCI)という概念が提唱されている.認知症を有さないVCI(VCI-ND)は約半数が認知症へ進展するが,神経心理学的には注意障害と前頭葉機能の認知速度軽度低下が中心であり,記憶障害はあっても軽度である.VaDは運動障害を合併しやすく死亡率も高いが,予防できる可能性があり,初期診断の重要性は増している. |
キーワード | vascular dementia,vascular cognitive impairment,subcortical vascular dementia,前頭葉遂行機能 |
論文名 | レビー小体型認知症の認知機能障害 |
著者名 | 長濱康弘 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):400-407,2006 |
抄録 | レビー小体型認知症(DLB)では記憶,視知覚・構成能力,注意,遂行機能などが広範に障害される.エピソード記憶障害はアルツハイマー病(AD)より軽く,想起障害の寄与が大きい.構成障害はADより目立ち,視空間認知,物体認知や低次の視知覚も障害される.注意障害はADより広範で,持続性・選択性・分配性注意のすべてが障害される.DLBでは認知機能の動揺が特徴的で,ADの認知障害とは質的にも異なると考えられる. |
キーワード | dementia with Lewy bodies,構成,視覚,記憶,注意 |
論文名 | 前頭側頭型認知症の認知障害の特徴とその鑑別 |
著者名 | 中川賀嗣 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):408-416,2006 |
抄録 | 前頭側頭葉変性に関する問題点を,萎縮部位の水準,臨床症候群の水準,組織病理学的な診断の水準でそれぞれ指摘し,さらに前頭側頭型認知症を意味性認知症,進行性(非流暢性)失語,およびアルツハイマー病と鑑別しながらその認知障害の特徴を述べた.進行性(非流暢性)失語ではアナルトリーが,前頭側頭型認知症との排他的な指標となりうること,意味性認知症では語義失語像が排他的症状であること,また前頭側頭型認知症では,進行性(非流暢性)失語や意味性認知症と対比して特異的症状に乏しいことを指摘した. |
キーワード | アナルトリー,アルツハイマー病,意味性認知症,前頭側頭型認知症,進行性(非流暢性)失語 |
論文名 | 特発性正常圧水頭症の認知機能障害をめぐって |
著者名 | 数井裕光,久保嘉彦,吉田哲彦,武田雅俊 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):417-422,2006 |
抄録 | 特発性正常圧水頭症(iNPH)の中核的な認知機能障害は注意障害,精神運動速度の低下,作動記憶の障害,語想起能力の低下などの前頭葉機能障害である.アルツハイマー病(AD)と比べると,iNPHではこれらの障害がより顕著である一方,記憶障害,見当識障害は軽度である.iNPHにおいて認知機能を評価することは,iNPHの診断に役立つとともに,iNPHの診療において重要な髄液排除試験の判定にも有用である.さらにiNPHの前頭葉機能障害と歩行障害との間には関連があり,それぞれの症状が共通の脳内基盤を有する可能性が示唆された. |
キーワード | 特発性正常圧水頭症,認知機能障害,記憶,前頭葉機能,髄液排除試験,歩行障害 |
論文名 | 老年期うつ病における認知障害 ― 仮性認知症を中心に ― |
著者名 | 楯林義孝 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):423-429,2006 |
抄録 | 老年期うつ病における認知障害について仮性認知症を中心に考察した.長期間の追跡調査によると仮性認知症の大部分が認知症に移行することが判明している.神経病理学的に神経原線維変化を中心とした老年性変化と虚血性変化,とくにMRIなどの画像診断で同定される深部白質病変と仮性認知症の関係を考察し,仮性認知症が認知症と連続した病態である可能性を論じた.疫学調査などによると,仮性認知症も含めうつ症状に認知障害を併発するケースは,老年期うつ病のかなりの部分を占めると考えられ,その予後の悪さを考えると早急な治療法の開発が望まれる. |
キーワード | 老年期うつ病,認知障害,仮性認知症,認知症,アルツハイマー病 |
論文名 | パーキンソン病における認知障害 |
著者名 | 久野貞子,大江田知子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年精神医学雑誌,17(4):430-433,2006 |
抄録 | パーキンソン病は,1817年のJames Parkinsonによる記載では「知能の障害を伴わない」と明記されているが,人口の高齢化や治療法の進歩によって経過の長い患者が増えて,認知症(痴呆)を伴うパーキンソン病患者が増加している.認知症を伴うパーキンソン病の頻度は,対照高齢者の数倍との報告もあり,認知症対策が課題となってきている.筆者らの自験症例の解析からは,パーキンソン病発症後10年以上を経て認知症を合併したPDD(Parkinson s disease with dementia)症例では,典型的なDLB(dementia with Lewy bodies)とは,少なくとも,認知症状の強弱において異なり,患者マネジメントではPDDとDLBとでは異なった対応が必要であることが予測される. |
キーワード | パーキンソン病,認知症,認知障害,高齢患者 |