6月13日(金) 9:00〜10:00 第4会場(中会議室,7F)
症候学@
上村直人(高知大学医学部精神科)
U-1
物忘れ外来を受診した発達障害の男性の一例
上村直人,永野志歩,福島章恵,今城由里子(高知大学医学部精神科),泉本雄司(高知こころのサポートセンター児童精神科),森信 繁(高知大学医学部精神科)
【はじめに】近年,児童精神医学領域では発達障害が注目されて国家的な対策も進んでいるが,高齢者における発達障害者の実態は不明な点も多い.今回我々は,社会の変化により成果主義,業績主義により発達障害者が抑うつや注意障害を記憶障害と周囲の者に指摘され,物忘れ外来を受診した45歳男性を経験した.
【倫理的配慮】症例発表に際して,口頭で患者本人,および配偶者の許可を得た.なお,個人情報は年齢や仕事内容などは一部改変しているが,発表の趣旨を変えない範囲内としている.
【症例】45歳,男性,既婚,夫婦の間に女児が一人.
主訴:上司に物忘れがあるため,マスコミで若年性認知症も話題になっているので早めに受診したほうが良いと言われた.
既往歴:特記事項なし 家族歴:なし 発育歴:特に問題はなかった.
現病歴:35歳で結婚し,40歳で女児を設けた.妻の言葉ではもともと言葉数も少なく,慎重で物事を何でもコツコツとする性格と,ひとつのことにこだわりやすい傾向があったが,社会生活や近所付きいで特に問題はなかった.入職以来,郵便局の事務配達作業であったが,43歳で保險勧誘業務の部署に異動になった.その後上司から,「覇気がない,目標やノルマを気にしない,先輩の指導をきちんと守らない」とのことで若年性認知症を疑われて,高知大学物忘れ外来受診した.
<血液生化学>特記すべき異常なし.
<脳画像・脳波>SPECTで両側側頭葉の血流低下を認めるが,MRIでは異常なし.
<神経心理学的検査>MMSE:29/30,WAIS‐T T‐IQ:110,言語性IQ:104 動作性IQ:116 言語理解=97,知覚統合=112,作動記憶=109,処理速度=105
【結果と考察】患者には深刻味が感じられなかった,臨床症状や診察態度,神経心理検査結果から,認知症性疾患というよりは,発達障害が考えられ,職場での発達障害の理解が必要と考え上司の同伴をお願いした.
【結語】物忘れ外来において,発達障害圏の患者が2次障害としての抑うつや記銘力低下を主訴として受診するケースがありえる.そして発達障害圏の成人期の多くがMCIとしてフォローされていることも十分ありえる.そのため,初老期,若年期のMCIでは発達障害者が含まれる可能性が有り,そのことを念頭にして鑑別診断を慎重に行う必要があると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-2
軽度認知障害やアルツハイマー病における脳糖代謝量の非対称性と認知機能の関係
村山憲男(北里大学医療衛生学部,順天堂東京江東高齢者医療センター),井関栄三,太田一実,笠貫浩史,藤城弘樹(順天堂東京江東高齢者医療センター),田ヶ谷浩邦(北里大学医療衛生学部),佐藤 潔(順天堂東京江東高齢者医療センター)
【目的】変性性認知症のうち,意味性認知症や皮質基底核変性症などは脳機能に左右差があることが知られているが,アルツハイマー病(AD)やその前駆状態としての健忘型軽度認知障害(aMCI)については,これまでほとんど左右差に注目されてこなかった.しかし,臨床的には,脳機能に左右差が認められるADやaMCIの例も存在する.本研究では,aMCIおよび初期ADを対象に,脳糖代謝量の左右差によって記憶機能にどのような特徴がみられるか検討した.
【方法】順天堂東京江東高齢者医療センターの物忘れドックで,aMCIないし初期のAD(CDR 0.5)と診断された高齢者を対象にした.脳18F‐FDG PETを実施し,3D‐SSPを用いた画像統計解析を行った.楔前部,後部帯状回,頭頂側頭連合野における糖代謝量低下の分布(%)と重症度(Z値)について左右差を算出し,左右に有意な低下がみられた上位25%(第1,3四分位数),および,有意な左右差がみられなかった25%を,それぞれ,左優位群,右優位群,左右差なし群とした.各群は,年齢,教育年数,脳全体の糖代謝低下の分布と重症度が,いずれも,ほぼ等しくなるように選択された.各群の最終的な対象者数は,いずれも12名であった.また,全対象者に頭部MRI,MMSE,WMS‐R,WAIS‐Vを実施した.
【倫理的配慮】本研究は,順天堂東京江東高齢者医療センター倫理委員会の承認を受けた研究の一部である.
【結果】頭部MRIでは,側頭葉内側部の萎縮に明らかな左右差が認められた対象者はいなかった.また,萎縮の程度に,3群間で有意差は認められなかった.  3群間の心理検査得点の差を,ANOVAおよびTukey法による多重比較によって検討した.その結果,MMSE得点では,3群間に有意差がみられなかった.一方,WMS‐Rでは,言語性記憶と遅延再生において,左優位群は他群よりも有意に低得点であった(p<.05).一般的記憶では,左優位群と左右差なし群の間に有意差がみられた(p<.05).視覚性記憶は,3群間に統計的な有意差は認められなかった.WAIS‐Vでは,3個のIQ,4個の群指数,14個の下位検査のいずれにも,統計的な有意差は認められなかった.  また,ADと診断された割合は,左優位群が58.3%,右優位群が25.0%,左右差なし群が16.7%であり,左優位群は他群よりもやや多かった(p<.10).
【考察】3群間の年齢や教育年数,脳全体の糖代謝量を統制し,側頭葉内側部の萎縮にも有意差がなかったにも関わらず,左優位群は他群よりも有意に言語性記憶,一般的記憶,遅延再生の得点が低かった.視覚性記憶に有意差がなかったことから,一般的記憶や遅延再生での有意差は言語性記憶の影響が強かったと考えられる.また,WAIS‐Vの言語性IQを含め,言語性記憶以外の認知機能には統計的な有意差はなかった.さらに,左優位群は他群よりもaMCIではなくADと診断される割合も多かった.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-3
男性中高齢者の「依存の心」に関するアンケートによる精神医学的な検討
奥田正英,内田あおい(八事病院精神科),田中沙弓(八事病院精神科,名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),石井啓子(八事病院精神科,名古屋大学大学院医学研究系研究科),水野将己(八事病院精神科),鳥井勝義,大竹啓史(八事病院精神科,名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),大草英文,田中雅博,三和啓二(八事病院精神科),磯村 毅(リセット禁煙研究会・予防医療研究所),斉藤政彦(大同特殊鋼星崎診療所),荻野あゆみ(瑞穂・天白障害者地域生活支援センター「かけ橋」),水谷浩明(八事病院精神科)
【目的】演者らは,昨年の本学会でアルコール依存症を含めた「依存の心」に関する30項目からなるアンケートを新たに作成して高齢断酒者について調査した結果,人生経験を積むことで心理的危機をうまく乗り越えられ,さらに本アンケートの陽性項目は治療の動機付けにも有用であることを指摘した.今年度は男性中高年者を対象に本アンケートを実施して,若年群と比較して依存の心理機制に関して検討を行なったので報告する.
【方法】対象は,本アンケートに賛同を頂けた企業や学校に通う51歳以上の中高年男性166名(中高年群:57.0±3.5歳)とそれより若年の男性609名(若年群:34.2±8.5歳)である.この両群について,先ず基本属性としてアルコールを含めた物質依存,行為依存,関係依存の有無を調べ,それに「依存の心」に関係する30項目のアンケートを各項目5段階評価で行った.さらに総合指標としてアンケート合計,抑うつ指標,嗜癖指標,共依存指標,それに陽性指標を加えて統計学的に両群をt検定で比較・検討した.
【倫理的配慮】調査対象は本研究の主旨を文書で説明して,アンケートに同意をされ協力が得られた方々である.また個人情報の取り扱いには充分な注意を払った.
【結果】中高齢群は若年群と比較して基本属性では物質依存が有意に高かった.アンケート項目では,#2私は物事をあまり先読みや深読みをせずくよくよと考えない,#6私は自分の健康に注意をはらい無理をしない生活をしている,#13私はいつもゆとりの生活を心がけている,#22私は他人の顔色を気にせず自分の意見を出すことにためらいはない,で有意に高かった.他方,#1私は物事を白か黒かではっきりさせて考える, #3私はささいな失敗で自分をせめる,#5私は相手の意見や長所を素直に受け入れられる,#7私はいつも不安・イライラ・抑うつ感があり心が暗くなる,#12私は何かをはじめると没頭してしまい他のことが考えられない,#17私は何かをしたい強い欲求や衝動にかられ抑えられないことがある,#19私はいろいろと欲張りで欲が深いと思う,#23私は自分のことを二の次にして家族や親しい人の世話を焼く,#24私はときどき他人の問題を自分のことのように感じ巻き込まれる,で有意に低かった.総合指標では抑うつ指標と嗜癖指標が有意に低かった.
【考察】基本属性でアルコールやニコチンの物質依存は中高齢群で約32%に認められ若年群より有意に高く,年齢とともに増加すると考えられた.各アンケート項目では,中高年群は人生の経験を積むことで,いろいろな陽性感情が増え,他方陰性感情が減少したと考えられる.また総合指標では抑うつ指標や嗜癖指標が減少するので,抑うつ感情が減り,さらに欲望にとらわれない自由な心理になる考えられた.しかしアンケート項目の合計や陽性指標の合計は単純に有意差を示さないことから依存の心理機制には複雑要因が関与し,また今後男女差を含めた検討を行う必要があると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-4
意味性認知症におけるうつと自殺の検討
小林良太,川勝 忍,林 博史(山形大学医学部精神科),渋谷 譲,三浦裕介(日本海総合病院精神科),佐々木哲也(秋野病院精神科),鈴木春芳(公立置賜病院精神科),大谷浩一(山形大学医学部精神科)
【目的】意味性認知症(SD)では,症状に対する病感が比較的あるとされるものの,うつや自殺は稀と考えられてきた.しかし,最近のSabodashらの報告では,SDでうつと病識が保たれる場合には自殺リスクが高く20%で自殺企図があったとされた.今回,我々はSDの自殺例を経験したので,SDのうつと自殺念慮やその他の精神症状,予後について検討したので報告する.
【方法】対象は2000年4月から2013年12月までの期間で,当科または関連病院を受診した意味性認知症(SD)30例(男/女,11/19,平均年齢63.2±6.6歳,MMSE18.4±6.0点,左優位萎縮20例,右優位萎縮10例)であり,早期発症型アルツハイマー型認知症(EOAD)60例(男/女,23/37平均年齢61.9±4.7歳,MMSE19.0±5.5点)である.NPIの抑うつを含む各項目の有無,自殺念慮の有無,抗うつ剤投与の有無,病識の有無,経過中の死亡の有無を検討した.
【倫理的配慮】山形大学医学部および関連病院の倫理委員会の承認を得ており,対象となる患者または家族の同意を得た.
【結果】うつの頻度は,SD19%,EOAD19%で有意差はなかった.抗うつ薬の投与(うつに対する投与のみ),自殺念慮の訴えについても,SDとEOADで有意差はなかった.精神症状では,多幸,脱抑制,異常行動がSDでEOADより有意に多かった.病感欠如はSD57%,EOAD70%で有意差はなかった.うつがある場合SDでは全例で病感あり,EOADでは60%で病感ありであった.経過では,不慮の死は,SDで13%(迷子2例,火事1例,自殺1例),EOADで3%(迷子2例)であった.  SDの自殺例は50歳台,左優位萎縮例,当初うつ状態が前景で,自殺企図があったが,徐々にSD症状が優位となった後も自殺企図を反復,固執・衝動性・常同性が関与したものと考えられた.
【考察】うつはSDでもEOADと同等な程度には呈しうること,病感保持と関係することが示唆された.SDで自殺リスクが高いとまでは言えないが,自殺企図には,固執性などに基づく行動異常の関与を考える必要がある.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-5
地域在住高齢者におけるDual Task Walking に対する認知機能,微細脳病変の影響に関する検討
橋本 学,高島由紀(国立病院機構肥前精神医療センター),内野 晃(埼玉医科大学国際医療センター),杠 岳文,八尾博史(国立病院機構肥前精神医療センター)
【目的】地域在住高齢者について,認知課題を行いながらの歩行と通常の歩行において,潜在的脳病変と認知機能がどのように影響を及ぼすのかについて検討した.
【方法】2010年から2013年の間に,認知症のない201名の地域在住高齢者に対して,頭部MRI検査を施行した.すべての被験者に対して神経心理学的検査として,Mini Mental State Examination(MMSE),Trail Making Test(TMT),Rivermead行動記憶検査(RBMT)を行った.歩行状態を調べるため,Timed Up and Go Test(TUG)を以下の2条件のもと施行した.1)TUGのみを行う(single task),2)“1”から始めて3ずつ加算をしていきながら,TUGを行う(dual task).
【倫理的配慮】この研究は,国立病院機構肥前精神医療センター倫理委員会の承認を受けた.被験者からは文書にて同意を得た.
【結果】201名の被験者(男性92名,女性109名,年齢67.8±6.5歳)の教育年数は,11.3±2.1年,MMSEのスコアは,27.8±2.1であった.MRI所見では,無症候性脳梗塞は20例(10.0%),深部白質病変(DWMLs)は62例(30.8%),periventricular hyperintensities(PVHs)は28例(13.9%),微小出血(MBs)は10例(5.0%)認められた.Single task walkingすなわちTUGにおける歩行速度の低下は,DWMLsの量と有意な相関がみられた(OR 2.321,95% CI 1.112−4.844,p=0.025).Dual task walkingにおける歩行速度の低下は,年齢(OR3.624,95% CI 2.008−6.540,p<0.000)とRBMTのスコア(OR 0.899,95% CI 0.813−0.994,p=0.038)と有意な相関がみられた.上記に示したMRI所見とdual task walkingとの間には有意な相関はみられなかった.
【考察】Single task walkingにおける歩行速度の低下はDWMLsと相関していた.一方,Dual task walkingでは,歩行速度の低下と認知機能の低下との関連を示唆していた.健康な高齢者において,歩行は身体機能のみならず認知機能の低下とも関連していることが示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月13日(金) 10:00〜10:48 第4会場(中会議室,7F)
症候学A
橋本 衛(熊本大学医学部附属病院)
U-6
tangle-predominant dementia の精神医学的特徴
河上 緒(東京都医学総合研究所認知症プロジェクト,都立松沢病院精神科,横浜市立大学精神医学),池田研二(香川大学医学部炎症病理学),新井哲明(筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学),大島健一,新里和弘(都立松沢病院精神科),勝瀬大海,平安良雄(横浜市立大学精神医学),秋山治彦(東京都医学総合研究所認知症プロジェクト)
【背景】tangle‐predominant dementia(TPD)は,神経原線維型老年期認知症,辺縁系神経原線維変化型認知症とも呼ばれる,アルツハイマー病(AD)よりも平均年齢が高い高齢者にみられる認知症疾患である.辺縁系に多数の神経原線維変化が出現し,老人斑をほとんど認めないことを病理学的特徴とするタウ蛋白異常疾患(タウオパチー)である.TPDは,生前の診断に有用なバイオマーカーは未だ無く,死後の病理検査によってのみ診断される.その臨床的特徴については,緩徐進行性の記憶障害が主体で,言語理解や意思の疎通は比較的良く,人格レベルは保たれているとされるが,その精神医学的特徴についての系統的な研究は十分になされていない.
【目的】神経病理学的にTPDと診断された症例の精神医学的特徴を明らかにする.
【方法】当施設におけるTPD 8例(発症年齢 53−95歳,死亡時年齢79−102歳,罹病期間平均10.1年)を対象とし,病歴から精神症状を評価した.
【倫理的配慮】今回の発表に際して個人情報が特定されないよう配慮した.
【結果】臨床診断は,経過の中期まで明らかな認知症を欠いた,遅発精神病性障害(40歳以降で精神障害を初発)5例,大うつ病性障害1例,および認知症疾患(AD)2例であった.初発症状の頻度は,記憶障害63%に次いで被害妄想50%が多く,行動異常25%,希死念慮13%であった.全経過中の精神症状の頻度は,被害妄想(75%)が最も多く,行動異常50%,拒食38%,焦燥25%,幻視,心気妄想,不機嫌は13%であった.病理学的には基底核ラクナ梗塞の併存を50%に認め,嗜銀性顆粒型認知症の併存を25%に認めた.
【考察】本研究により,TPDでは記憶障害に加え,被害妄想で初発する症例が多いことが判明し,遅発精神病性障害と臨床的に診断される症例群の一部がTPDの病理学的基盤を持つ可能性が示唆された.TPDではAGDとの併存例が多いとされており,本研究でもAGDの代表的な精神症状である焦燥や不機嫌を有した症例をTPD群の一部に認めたが,一方で,情動障害を欠き,被害妄想を基盤とした行動異常や拒食を呈する症例が多いことはTPDに特徴的であった.近年,我々はTPDの側坐核におけるタウの異常蓄積の存在を報告しており,扁桃核,海馬,海馬傍回の病変に加えて,被害妄想を主体とする精神症状出現に同部位の病変が関与している可能性も考慮される.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-7
低体温症により認知機能低下の増悪をみた2 症例
橋本洋一(苫小牧東病院)
【目的】今回,低体温症を呈した認知症の2症例を経験したので,その経過を報告すると共に低体温症と認知症との関係について考察を試みた.
【方法】症例1.96歳,女性.
主訴:低体温症 意識障害
既往歴:両側大腿骨頸部骨折 胆石症(時期不詳)
現病歴:平成X年3月15日,自宅玄関で倒れているところを近隣住民に発見され,低体温症,意識障害で市立A病院に緊急搬送された.搬入時の膀胱温29度意識レベル JCS 20−30復温により意識清明となり,食事を取ることも可能になる.4月5日,低体温症による廃用症候群に対するリハビリテ−ション目的に当院に転院となる.入院時,両下肢の筋力低下がみられ,見守りで自力立位可能であったが立位保持が不安定.
症例2.84歳,女性.
主訴:低体温症,物忘れ,道に迷う
既往歴:高血圧症
現病歴:平成X年5月16日,低体温症とそれに伴う横紋筋融解症にてB市立病院内科に緊急入院となる.復温により低体温症は改善するも両下肢の筋力低下と物忘れ,道に迷う(地誌的障害)等の高次脳機能障害が認められ,6月10日,低体温症による廃用症候群と高次脳機能障害に対するリハビリテ−ション目的に当院に転院となる.
【結果】症例1,入院後経過.
 ADL訓練,立位訓練,歩行訓練施行し,BBS3 7点 立位保持や立ち上がり,前方リ−チで安定性の向上がみられた.歩行器歩行は見守りで歩行器使用で最大歩行距離が140m.杖歩行は軽介助レベル.ベッド上での更衣動作訓練を施行しているが,立位で行おうとして定着までは至っていない.種々の動作は立位でも臥位でも見守りで可能.FIM:62→78と向上し,立位不安定,記憶障害(MMSE:8→10→13)あるも歩行器歩行,更衣動作見守りレベルで7月16日に自宅退院.
症例2,入院後経過.
 回復期リハビリ施行し夫の協力のもと料理,洗濯,掃除等のAPDLも可能となり,8月30日自宅退院となる.脳スペクトで両側前側頭葉の脳血流低下を認めた.
【倫理的配慮】本研究は苫小牧東病院倫理委員会の承認を受け,患者及び家族から同意を得ている.
【考察】低体温症により認知機能低下の増悪をみた2症例に作業療法を中心としたリハビリテーション介入により改善を認めた.改善の程度は年齢並びに前頭葉機能低下の関与が考えられた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-8
物盗られ妄想を認めた頭部外傷後器質性精神障害の神経画像所見
関口裕孝(ミサトピア小倉病院,NPO 法人脳神経オーダーメード医療研究センター),入谷修司(名古屋大学大学院医学系研究科精神医療学講座),藤田 潔(桶狭間病院藤田こころケアセンター)
【目的】認知症のBPSDにおいて妄想は出現頻度が高くかつ介護負担を増大させる.その中でも物盗られ妄想はアルツハイマー型認知症(AD)でよくみられ,右楔前部の脳血流低下との関連が示唆されている(Fukuhara et al, 2001).今回われわれは頭部外傷後の器質性精神障害に物盗られ妄想を呈し,脳神経画像で右楔前部の脳血流低下を示した症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】本発表の趣旨を家族に説明し同意を得,かつ個人が特定できないよう十分に配慮した.
【症例】43歳男性.16歳時に交通事故による頭部開放性骨折,脳挫傷のため左前頭葉に広範に脳損傷を負った.集中持続困難,遂行機能障害を呈するが日常生活に粗大な支障を来さず仕事を続けていた.28歳時に幻視,魔術的思考を認めA病院入院.33歳時に兄に対する物盗られ妄想が出現した.鍵や私物を対象とし頻繁に鍵を変えるなどの対処行動を取り,妄想は揺らぐことはないが,ADでみられるような対象者への激しい威嚇や猜疑心を認めることはなかった.その後43歳時に独語,空笑,被害妄想,易刺激性,まとまりのない会話を認めたためB病院に約2ヶ月間入院した.長谷川式簡易認知症スケール22点,JART予測IQ93,言語障害は軽微で言語流暢性の低下が示された.外来通院中も同様の物盗られ妄想が続いた.頭部MRIで外傷部位に一致した左前頭葉の損傷を認めたが内側側頭葉は保たれていた.SPECT 3D‐SSP解析において右楔前部の血流低下を認めたが同部位はMRIで形態が保持されていた.
【考察】頭部外傷後において認知症疾患類似の物盗られ妄想がみられたが過剰に情動が刺激されず心理的反応における相違点が認められた.SPECTで右楔前部脳血流低下がみられADにおける物盗られ妄想との関連が考えられた.BPSDの神経基盤を検討する上で,本症例は物盗られ妄想の成因について参考になる症例と考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-9
SMQを用いた軽度アルツハイマー病患者の生活障害の検討;軽度血管性認知症患者との差異も含めて
田中 響(熊本大学大学院医学教育部神経精神科学分野),橋本 衛(熊本大学医学部附属病院神経精神科),福原竜治,石川智久,矢田部裕介(熊本大学大学院生命科学研究室神経精神医学分野),遊亀誠二(熊本大学医学部附属病院神経精神科),松崎志保,露口敦子,畑田 裕(熊本大学大学院医学教育部神経精神科学分野),池田 学(熊本大学大学院生命科学研究室神経精神医学分野)
【目的】観察式スクリーニング検査であるShort‐Memory Questionnaire(SMQ)の質問項目を用いてアルツハイマー病(AD)患者の軽症例における生活障害の特徴を検討した.またその結果を血管性認知症(VaD)患者と比較した.
【方法】2007年4月から2013年12月までの間に熊本大学医学部附属病院認知症専門外来を初診した連続例のうち,CDR1であったAD患者245名,VaD患者35名を対象とした.初診時のSMQの質問項目毎の1−4(1が最も重度を示す)からなる得点の平均値を算出し,それらを比較した.なお逆方向の順序尺度をとる第7,13項目については他項目との比較がしやすいように5から減じた点数を便宜的に用いた.
【倫理的配慮】本人あるいは家族から書面にて研究参加に対する同意を得,匿名性に十分配慮した.
【結果】SMQの質問項目毎の平均値を図1に示す.AD患者において,先週の日曜日の記憶を問う第11項目の点数が最も低く,雑貨店で5つの品目を忘れずに買うことができるかを問う第4項目,おつりをいくらもらったかの記憶を問う第10項目など近時記憶障害を反映していると考えられる項目は総じて低得点であった.次いで,記憶と注意の二つの機能を反映していると考えられる鍵や眼鏡の置き場所を問う第5,6項目が比較的低得点であった.意味記憶を反映すると考えられる停留所や電話番号の記憶を問う第2,3項目,言語機能を問う第13項目などは他項目に比し得点は高かった.この傾向はVaD患者においてもほぼ同様であった.
【考察】本研究により軽度AD患者において障害されやすい生活障害が明らかになった.この知見は,AD患者のケアを行う上で貴重な情報となると考える.AD患者の軽症例において,特に近時記憶の障害に基づく生活障害が強く,次に実行機能,注意機能,そして意味記憶や言語の障害へと続く傾向がみられた.このことは既知の軽度AD患者の認知機能障害パターンとほぼ合致しており興味深い.VaD患者の軽症例にてもほぼ同様の傾向がみられたことは,生活障害だけでは軽症例のAD患者とVaD患者を区別することは困難である可能性が示唆された.なお発表当日は統計学的解析を加えて報告する.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月13日(金) 10:48〜11:36 第4会場(中会議室,7F)
診断@
堀 宏治(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター)
U-10
落ち着かなさ(restlessness)と不注意を前景とした血管性認知症の一例
佐藤大仁(上毛病院精神科),橋本俊英,漆松由美子(上毛病院リハビリテーション科),服部徳昭(上毛病院精神科)
【はじめに】従来からアパシーと抑うつ状態の鑑別の重要性は指摘されているが,「落ち着かなさ」を前景とし,うつ病との鑑別に一年以上を要した血管性認知症例を経験したため,報告する.本例の報告にあたっては,個人が特定されないよう本質と関係ない部分を改変し,本人および家族に発表の承諾を得た.
【症例】初診時67歳の男性.
【既往歴】虚血性心筋症,糖尿病,高血圧症(X−2年に指摘され,A医院に通院)
【生活歴】高校卒業後,飲食店で修業.35歳で自営の飲食店を開業した.
【現病歴】X−2年11月,時々転倒することに妻が気付いた.室内の洗濯物干しが倒れていたり,転んで擦り傷を作ったりしたためであった.仕事中に落ち着かず,調理場と店外を頻繁に行き来するようになった.X−1年4月,腸閉塞で入院したが,床上安静が苦痛で無理を言って早く退院した.退院後呆然としていることが多く,ふらつきやすくなった.疲れ易く仕事をこなせないと感じ,休業した.「いらいらする」ことが次第に増えたため,A医院に勧められ同年7月に精神科医院を受診した.うつ病と診断され,抗うつ薬療法を受けたが改善しなかった.X年5月に総合病院精神科に転医した.脳MRIで慢性虚血性変化とびまん性の軽度脳萎縮,脳血流SPECTで左前頭葉,左側頭頭頂葉主体の集積低下を認めた.血管性うつ病の診断で,デュロキセチン中心の治療を続けた.転び易いにもかかわらず,落ち着きがなく,「油断して不用意に」杖を忘れて立ち上がるため,転倒を繰り返した.顔面も含め,全身傷だらけとなった.自宅での介護が困難となり,入院目的でX年8月下旬に当院を初診した.
【初診時現症】診察中も車椅子にじっと座っていられなかった.「再び仕事ができるのか,できないのか心配だ」という一方で,「この落ち着かなさを何とかしたい」と治療に積極的で悲観的な観念はなかった.落ち着かなさ,不注意,将来への不安,入眠困難,中途覚醒,すくみ足,易転倒性を認め,うつ病ではなく高次脳機能障害や認知症の可能性が高いと推察した.
【経過】「落ち着かなさ」に対し,アマンタジン100mg/日を開始し,他の向精神薬を中止した.1週間後の再診時には独歩で診察室に入ることができた.転倒の頻度が減り,心窩部の「落ち着かなさ」は残るものの,自覚的に大幅に軽快した.この時点でも本人が不眠の改善とリハビリテーション目的の入院を希望したため,9月上旬当院に入院した.入院中の行動や神経心理学的検査から遂行機能障害,脱抑制的行動,記憶障害,右不全片麻痺が明らかになり,血管性認知症と診断した.右片麻痺と注意機能障害に対するリハビリテーションを行い,第85病日に自宅に退院した.退院後,妻の再開した飲食店を手伝っている.
【考察】1.アパシーと抑うつ状態の鑑別問題に注目し,うつ病との鑑別について考察した.2.パーキンソン病に伴う認知症等,他の認知症疾患との鑑別について考察した.3.本例の「落ち着かなさ」の特徴を挙げ,認知症に伴う「落ち着かなさ」の一部にアマンタジンが有効である可能性を示した.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-11
AD に移行するMCI の特徴;NAR,MCI,AD 65 例の経年変化の検討
唐澤秀治,安間芳秀(船橋市立医療センター脳神経外科)
【目的】認知症になる前の時期に,近い将来認知症になるかどうかを予想することは,非常に重要である.本発表の目的は,経年変化を観察することができた加齢による物忘れ(NAR),軽度認知障害(MCI),アルツハイマー型認知症(AD)合計65例の検査所見から,ADに移行するMCIの特徴を明らかにすることである.
【方法】2009年にメモリークリニックを開設して以来,2013年までの5年間に受診した患者は1683人であった.このうち,初診時にVSRAD検査が実施され,かかりつけ医から複数回に亘って紹介され,1年以上の間隔で診察・検査を行うことができたNAR 11例,MCI 31例,AD 23例,合計65例を研究の対象とした(男性28人,女性37人).観察期間は1−4年(平均1.7±0.9年).65例中55例でSPECTも実施されていた.MCIからADに移行した症例の特徴について,後ろ向きに検討した.
【倫理的配慮】本研究は当院の倫理委員会で承認されている.
【結果】MCIからADに移行した症例は65例中19例であった(MCA 31例からの移行18例,NAR 11例からMCIへ更にADに移行した例1例).移行を確認した年齢は65−87歳,平均76.9±5.2歳.32例のMCIのうち,その後改善しNARとなったのは5例,MCIのまま変わらなかったのは8例,ADに移行したのは19例であった.移行した19例のCDRは0が1例,0.5が17例,1.0が1例であった.CDRのSOB(sum of box)の値別にMCIからADへの移行割合を検討すると,SOB 0群は0/1,0.5群は0/3,1.0群は1/1,1.5群は5/10(50%),2.0群は3/4(75%),2.5群は5/8(62.5%),3.0群は2/2(100%),3.5群は3/3(100%)であった.MCI 31例中,VSRADだけでなくeZISも実施されていたのは26例であり,このうち両者とも値が正常範囲内であった症例は12例であり,このうち9例(75%)がADに移行した.それに対して,VSRADまたは/かつeZISの値が異常であった症例は14例であり,このうち8例(57.1%)がADに移行した.MCIのsubtypeがamnestic single domain 26例中15例(57.7%)がADに移行,amnestic multiple domain 6例中4例(66.7%)がADに移行した.
【考察】MCIからADへのコンバートを予想するのに,最もよい目安となるのはCDRのSOBであると考えられる:SOBが1.0以下ならば移行する可能性は低い.1.5以上ならば数年以内にADにコンバートする可能性が高い(SOB1.5なら50%,2.0−2.5なら67%,SOB3.0以上なら100%).
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-12
Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids(HDLS)の一家系;臨床病理学的検討
井上輝彦,三山吉夫,藤元登四郎(藤元メディカルシステム大悟病院老年期精神疾患センター)
【目的】HDLSの一家系について報告する.
【方法】Colony stimulating factor receptor 1 geneの変異c.2381 T>C(p.I794T)が確認されている一家系2世代6症例の剖検例につき臨床病理学的に検討した.
【倫理的配慮】発表にあたり本人の同定ができないように配慮した.
【症例】症例1:56歳,男性.40歳,意欲減退,動作緩慢.41歳,記憶障害,計算・書字困難.運転困難で休職.42歳,全面介助.44歳,寝たきり.経過中,強迫性感情,痙攣.無言無動で12年.56歳,肺炎で死亡.経過16年.症例2:53歳,男性.40歳,計算困難,動作緩慢,発語困難.42歳,会話不能,歩行困難,全面介助.経過中,感情失禁,痙攣.無言無動で10年.53歳,肺炎,死亡.経過14年.症例3:60歳,男性.50歳頃,動作がぎこちない,考え不精,着衣失行.54歳,歩行困難.失禁.55歳,全面介助.構音・嚥下障害,強迫性笑い,自発語なし.56歳,無言寡動.感情失禁.57歳,無言無動.60歳,肺炎,死亡.経過10年.症例4:58歳,男性.51歳,段取りが悪くなる.52歳,着衣失行.53歳,退職.漢字を忘れる,発語減少.54歳,病態無関心,計算困難,トイレの失敗,左片麻痺,痙攣,易怒興奮.入院中,帰宅願望,徘徊.保続,失禁,前傾姿勢.55歳,嚥下構語障害.57歳時,寝たきり,無言寡動.肺炎.58歳時,死亡.経過7年.症例5:28歳,男性.出産時異常なし.3歳,知的発達遅延を指摘.養護学校卒.23歳,右上下肢筋力低下,歩行困難,箸が使えない.24歳,痙性片麻痺.年齢は正答.深刻感なし.25歳,頻回転倒.歩行不能.食べこぼしが多い.嚥下障害.寝たきり.27歳,無言無動.強迫笑い.痙攣.吃逆.嘔吐.肺炎.28歳,死亡.経過6年.症例6:58歳,男性,家具製造.54歳,機械が使えず,仕事ができない.55歳,解雇.金銭管理困難.痙攣.粗暴行為.57歳時,無言無動.痙攣吃逆が頻繁.58歳,肺炎,死亡.経過4年4カ月.全症例臨床診断は家族性大脳白質変性症.
【神経病理所見】脳重量980〜1100g.肉眼的に著明な白質の脱落,脳室の拡大,脳梁の萎縮を認めた.組織学的には,白質の髄鞘・軸索の脱落,同部にspheroids・褐色顆粒細胞・グリオーシス・少数の石灰化を認めた.白質病変は大脳白質よりはじまり,錐体路が早期より侵され,小脳白質に及ぶ.皮質病変は,概ね軽度であるが,病変が進行すると深部皮質よりグリオーシス・脱落が進行し,時に皮質中層の著明な脱落・表層に海綿状変化をきたす.Ballooned neuronを伴う症例も認めた.
【考察】HDLSは,常染色体優性遺伝形式のび慢性白質変性症である.多くは30−40歳代に発症,数年以内に寝たきりとなり,全経過平均6年で死亡となる.家族性の若年型認知症の背景疾患として注目すべき疾患である.本家系には世代が進むと発症年齢の若年化(症例5)がみられ,HDLSでも独特な家系と考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-13
アルツハイマー型認知症における病態失認と関連する脳領域の検討;Voxel-based morphometry を用いた検討
藤本 宏(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学),柴田敬祐(川越病院),松岡照之,加藤佑佳,谷口将吾,中村佳永子,成本 迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学),山田 惠(京都府立医科大学大学院医学研究科放射線診断治療学),福居顯二(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
【目的】病態失認は,アルツハイマー型認知症(AD)の患者の治療と介護において問題となることが多い.我々のグループの過去の研究では,眼窩前頭皮質における血流低下と病態失認との関連を報告した1).今回の研究では,MRI脳構造画像検査を用いて,病態失認と関連する脳領域を解析することで,病態失認の神経基盤をより明らかにすることを目的とした.
【方法】京都府立医科大学附属病院・認知症疾患医療センターを受診したprobable AD患者のうち,抗認知症薬,抗精神病薬が処方されていないMini−Mental State Examination(MMSE)18点以上の患者を対象とした.精神・神経疾患の既往がある対象は除外した.病態失認の評価においては,SquireとZouzounisが開発した質問紙を使用し,Michonらによる方法で病態失認スコアを計算した.スコアが高いほど,病態失認の程度が重度であることを示す.脳構造画像として,3.0テスラのPhilips社のMRIを用いた.病態失認スコアと局所灰白質体積との相関を調べるため,Voxel‐Based Morphometry 8 tools(VBM8)を用いてmultiple regressionを行い,共変数としてMMSE,年齢,性別,教育歴,GDSを投入した.
【倫理的配慮】本研究は京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を受けており,患者,家族に説明し書面で同意を得た.
【結果】AD患者48名(男性12名,女性36名,平均年齢80.1±5.7歳,平均MMSE 22.3±2.3点)を対象とした.右上前頭回における局所灰白質体積と病態失認スコアとの間に負の相関を認めた(図1;p<0.001,uncorrected,k>150).
【考察】脳構造画像解析において,ADにおける病態失認と,前頭前皮質における障害との有意な関連を認めた.研究方法に関わらず,認知症の病態失認を対象とした脳画像研究の多くが前頭葉・側頭頭頂葉との関連を指摘しており,今回の結果は,ADにおける病態失認の神経基盤に,前頭葉の機能障害が関与する可能性を支持するものであると考えられる.
【文献】1)Shibata et al. “Correlation between anosognosia and regional cerebral blood flow in Alzheimer's disease." Neurosci Lett 435(1):7‐10. 2008
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月13日(金) 13:15〜13:51 第4会場(中会議室,7F)
診断A
谷向 知(愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学)
U-14
認知症との鑑別を要した高齢初発てんかんの4 例
ア元仁志,石塚貴周,瀬戸下玄郎,富安昭之,春日井基文,中村雅之,佐野 輝(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野)
【目的】高齢者人口の増加に伴い,高齢初発てんかん罹患率は増加していると考えられるが,いまだ十分に認知されていない.高齢初発てんかんは殆どが症候性部分てんかんであり,記憶障害等が主体でけいれんを伴わない発作を主症状とする事が多く,認知症と診断され見逃される例が多数存在している.今回我々は,認知症等との鑑別を要した高齢初発てんかん4例を経験したため報告する.
【方法】症例1は69歳女性.1年前より突然の意味不明な訴えや,過去の出来事を忘れる等の健忘症状が出現した.近医にて一過性全健忘症と診断されたが,意欲低下も出現し本院当科受診した.脳波上右側頭部に焦点を持つ棘波を認め側頭葉てんかんと診断され,少量の抗てんかん薬によりこれらの症状は速やかに消失した.
症例2は65歳女性.5年前より旅行に行った事を忘れる等の健忘症状が出現した.近医にて軽度認知機能障害と診断されたが,意欲低下や尿失禁が出現し本院当科受診した.脳波上左側頭部に焦点を持つ棘波を認め側頭葉てんかんと診断され,少量の抗てんかん薬により健忘症状や尿失禁等の症状は消失した.
症例3は60歳男性.1年前より旅行に行ったエピソードを忘れる事や,慣れている道に迷う事があり,近医にて軽度認知機能障害と診断された.数日前の事も思い出せないことがしばしばあり,易怒性も亢進し本院当科受診した.終夜脳波検査施行されたところ,脳波上左側頭部及び右側頭部に焦点を持つ棘波を認め側頭葉てんかんと診断され,現在少量の抗てんかん薬にて治療開始しており,症状は改善している.
症例4は62歳女性.2年前に突然茫として視線が合わなくなることがあり,一日の出来事が思い出せず,近医にて一過性健忘,軽度認知機能障害等と診断された.その後も同症状が度々出現し本院当科受診した.脳波上左及び右側頭部に焦点を持つ棘波を認め側頭葉てんかんと診断され,抗てんかん薬により症状改善したが,薬疹が出現し現在調整中である.
【倫理的配慮】今回の発表に関して,プライバシーの保護には留意しており,対象者の了解は得られている.
【結果】健忘症状を有していた4症例全てにおいて一過性健忘症や軽度認知機能障害の診断がなされていた.脳波検査において,全例で側頭部に焦点をもつ棘波が確認され,側頭葉てんかんの診断で抗てんかん薬での加療が行われた.抗てんかん薬の投与により諸症状は改善している.
【考察】高齢者では認知症等と診断された例の中に高齢初発てんかんが存在する可能性があり,今後広く認識されることが望まれる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-15
認知症スクリーニング検査と画像結果の乖離した群の探索眼球運動の特徴(その2)
中島洋子(久留米大学医学部看護学科),森田喜一郎(久留米大学高次脳疾患研究所,久留米大学医学部神経精神科講座),石井洋平(久留米大学高次脳疾患研究所),藤木 僚,小路純央(久留米大学高次脳疾患研究所,久留米大学医学部神経精神科講座)
【目的】我々は,久留米大学病院もの忘れ外来において,HDS‐R,MMSEの認知症スクリーニング検査およびMRI等の画像検査に加えて探索眼球運動検査を行ない認知症について検討してきた.横S字を用いた探索眼球運動は,日本で開発され視覚認知機能を反映すると報告されている.今回,物忘れ外来受診者において横S字探索眼球運動検査装置を用いて,RSS(反応探索スコアー)を精神生理学的指標にして,認知症スクリーニング検査と画像結果の乖離した群,いわゆる乖離群について検討したので報告する.
【対象】もの忘れ外来にこられた受診者でMRI施行者306名(平均年齢73.6±7.7歳)を対象とした.総ての受診者を認知症群(HDS‐Rが20点,MMSEが23点まで:110名),健常群(HDS‐RおよびMMSEが28点以上:50名)および中間群(110名)とした.さらに,中間群を,高リスク(HDS‐Rが,21から24点:52名)と低リスク群(HDS‐Rが,25から27点:58名)と分けた.今回,HDS‐Rが25点以上でMMSEが26点以上であり,MRI解析であるVSRADプラスのZスコアーが3.0以上あるいはアドバンスのZスコアーが2.0以上群を乖離群(36名)として,他の群と探索眼球運動の特性において比較検討したので報告する.
【方法】探索眼球運動は,ナック社製のEMR‐8を使用し,S字の3つのパターンを見せ反応探索スコアーを計測した.すべての被験者に,注視が可能な者のみ検査を施行した.診察後にMRIを施行しVSRAD解析を行なった.
【倫理的配慮】すべての被験者には,当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【結果】眼球運動の総移動距離は,S字1(S1)および3(S3)において5群間に有意差は観察されなかった.反応探索スコアーは,S字2(S2)では乖離群は健常群より有意に低い値であったが,認知症群および高リスク群の間では有意差は観察されなかった.認知症群が,低リスク群および健常群より有意に低い値であった.S字の3(S3)の反応探索スコアーでは,認知症群が,低リスク群および健常群より有意に低い値であったが,乖離群と他の3群間に有意差は無かった.
さらに,S字2と3の総合反応探索スコアーで検討した.乖離群は,健常群および低リスク群より有意に低い値であった.乖離群は,認知症群および高リスク群との間に有意差は観察されなかった.乖離群のZスコアーは,3.6±0.7で,認知症群,高リスク群,低リスク群,健常群より有意に高い値であった.総合反応探索スコアーとZスコアーに負の有意な相関が観察された.
【考察】探索眼球運動の反応探索スコアー解析は,簡便な検査であり,侵襲も無く乖離群の早期診断の有用な精神生理学的指標と考える.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を得た.
U-16
石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)の二例
厚東知成,新里和弘(東京都立松沢病院精神科),新井哲明(筑波大学付属病院精神神経科),齋藤正彦(東京都立松沢病院精神科)
【目的】神経原線維変化病(DNTC)は,大脳全体に神経原線維が出現し,大脳基底核・小脳歯状核を中心とした石灰沈着と前頭側頭葉の限局性萎縮を呈する,比較的まれな非アルツハイマー型変性認知症である.今回,行動障害が著しく,医療保護入院となった2例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】発表に際し,個人情報が特定されないよう一部情報の改変を行うなど配慮した.
【症例】1)79歳男性.60歳代で妻が他界し,独居となった.X−10年(68歳),抑うつ状態で自殺企図があった.X−2年(77歳)から隣家の玄関を杖で叩くなどの異常行動が見られたため,特別養護老人ホームに入所した.しかし施設を抜け出て通行人から煙草を入手したり,他の利用者に暴言が続いたりしたため,X年3月(79歳)に当院を初診.初診時,HDS‐R 17点.X年5月,精査加療目的で医療保護入院となった.
2)73歳男性.16歳で地方から単身上京した.45歳から現住マンションに独居で,61歳で退職してからは年金生活だった.家族とは疎遠だった.X−1年(72歳)頃から,部屋のゴミが溢れて近隣苦情が出ていた.また,ものとられ妄想を生じて110番通報を繰り返した.X年10月(73歳),玄関の鍵を紛失して業者を呼んだが,その対応に納得できずに興奮し,暴力を振るったため,24条通報で当院初診.措置要件は認めなかったが,認知機能低下による生活破綻は明らかで,区長同意で医療保護入院となった.初診時,HDS‐R 18点.  いずれの症例も頭部MRIで大脳基底核・小脳歯状核の石灰沈着,SPECTで両側前頭葉皮質の血流低下を認めた.また血液検査ではCa,P,PTHの値は正常範囲だった.臨床症状,心理検査と脳画像所見からDNTCと診断した.入院後,易怒性や脱抑制に対して抗精神病薬の投与を行って,改善がみられた.一方で意欲低下が前景に立ち,好褥的に過ごした.  症例1は入院前の施設に戻ったが,短期間で行動障害が再燃した.X年7月,当院に2回目の医療保護入院となって,療養病床へ転院した.症例2は家族と連絡をとり,退院して地元で継続治療することになった.
【考察】2例とも記銘力低下や見当識障害を認めたが,性格変化・易怒性・脱抑制といった前頭葉症状がより顕著で,反社会的行動から強制入院に至った事例である.初期の精神神経症状として,症例1では抑うつ,症例2では意欲低下・遂行機能障害・ものとられ妄想を呈していた.これらの症状は非特異的で,初期アルツハイマー型認知症との鑑別は困難である.しかしFahr病型の脳内石灰化が精神神経症状に先行した報告もあり,画像所見と臨床症状からDNTCを早期に診断できる可能性が考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月13日(金) 13:51〜14:39 第4会場(中会議室,7F)
地域医療・ケア
内海久美子(砂川市立病院精神神経科)
U-17
高齢者の“接触欠損パラノイド”に対する包括的介入
宮川正治(南草津けやきクリニック),原 宏子,青木浄亮(瀬田川病院),高橋 淳(南草津けやきクリニック)
【目的】Janzarik W(1973)は,発症や症状改善に孤立状況が深く関与している老年期の慢性精神病を接触欠損パラノイドと名付けた.これに対する治療の報告は乏しく,孤立回避の方法も入院や施設入所などにとどまることが多い.我々は医療・保健・福祉の連携によって,住み慣れた地域で孤立回避を図ることによって症状改善をみた症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】症例報告に関する同意を本人から得,個人情報の一部を改変した.
【症例】76歳,男性. X−1年6月妻が施設に入所し独居となった.X年1月,「体に虫が一杯ついている」と皮膚科に受診したが,異常ないと言われた.X年2月には「隣家から騒音が夜通し聞こえて眠れない」と言い,隣家や自治会長に苦情を言った.A市地域包括支援センター(以下「包括」)の勧めでX年3月当院初診.身なりや表情は自然.ガムテープに毛玉のようなものを多数貼り付け,「体に付いていた虫」と主張した.MMSE:28/30,HDS‐R:27/30,頭部MRI:年齢相応,MIBG心筋シンチ:正常所見.不眠に対する治療という名目でペロスピロン4mg開始.介護認定を受け,週1回訪問介護開始.X年4月〜5月,幻聴が活発で自治会長や警察に頻繁に相談.リスペリドン(RIS)0.5mgに変更し,3週間後1mgに増量.X年5月第1回目サービス担当者会議開催.経済状況が厳しいため,成年後見法人も関与.ケアマネジャー・包括職員が頻回に自宅訪問.包括職員が自治会長に協力要請.X年11月第2回目サービス担当者会議.この頃より幻聴の訴えが目立って軽減した.不眠が強まり,X年12月RIS1.5mgに増量したが,過鎮静が出現.X+6月までに0.5mgに減量した.同月成年後見被補助人となった.精神障害者保健福祉手帳も取得.負債整理を進め,デイサービス開始.男性利用者との交流が多く,活発に過ごした.X+1年10月,第3回サービス担当者会議.生活状況は安定し,幻聴の訴えもない.
【考察】若干の認知機能低下はあるが,日常生活は概ね自立し,現時点で認知症とは言えない.妻の施設入所で孤立状況になったことが,被害的な幻覚妄想症状の形成に関与していると思われる.本症例のように地域住民に対する行動化を示し,周囲が対応を迫られる場合,困難事例として精神科への入院が強く要請され,症状が改善したあとも地域に戻ることが困難になる.本症例では包括・ケアマネジャー・ヘルパー・デイサービス職員・補助人・自治会長など多職種が関わり,緊密に連携することで生活上の不安を軽減させ,症状を改善させることができた.特にケアマネジャーの連携に対する意識が高く,主治医へのFAXは1年半で10回以上あり,毎回受診に同行した.多職種連携においては,認知症医療で培った手法やネットワークが有効であり,他の症例にも応用可能である.一方病識が欠如した患者に治療を導入・維持するためには,妄想への接近法など精神科医療の専門性が必要とされる.今後も症例を重ね,老年期の精神病性障害に対する有効な介入方法を確立させていきたい.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-18
処遇困難である高齢者に対して他職種が関わった症例
原 宏子,青木浄亮,水元洋貴(瀬田川病院),宮川正治(南草津けやきクリニック)
【目的】認知機能の低下により,自身の身体管理が不十分となり,それに伴い精神症状の悪化をきたすことが多い.我々は社会の中で孤立しがちな高齢者を,多種職の関わりを得て自宅療養が可能となった症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】症例報告に関する同意を本人から得,個人情報の一部を改変した.
【症例】66歳,男性. X−13年脳梗塞,糖尿病. X−5年,娘が男性と失踪した後,孫2人(当時12歳A君と6歳Bちゃん)との3人暮らしとなった.X年1月頃より物忘れが目立つようになり,心ここにあらずといった印象で言葉が出にくくなった.大まかな服薬管理は孫が行ったが,インスリン施注は自己管理を続けた.次第に易怒性が高まり,大声を上げたり暴言を吐くようになり,物を投げつけるなど粗暴性が高まった.「しんどい」と訴える度当時11歳の孫Bが怯えながら救急車を呼ぶ事を繰り返した.X年7月頃より服薬内容が全く分からなくなった.地域包括支援センターが介入したが,自宅からは異臭,尿臭が酷く,トイレの流し忘れが頻回,水回りはかびだらけ,焦がした鍋や腐敗した食べ物が散乱するなど,不衛生な環境下での生活を行っていた.地域包括支援センター職員の説得の末,同8月当院受診した.生活は破綻し,身体管理の必要もあった為に入院を提案したが了解が得られず,市長同意のもと,同日医療保護入院となった.改訂長谷川式簡易知能評価スケール6/30であり,血管性認知症と考えた.入院後は17歳となった孫Aの拒否も強く,地域包括支援センター職員に対して敵意をあらわにした.社会の中に信用できる大人がいない事が原因として考えられたが,本人の今後の処遇についての理解を得るために面談を重ね,その後の方針について理解を得た.成年後見制度,介護保険サービスの導入を行う事としたが,自宅退院に際して,当時11歳の孫Bの保護者として適切では無いため,孫Bの保護が必要であった.成年後見制度に関わる職員,社会福祉課職員,子供家庭課職員,当院スタッフを交えて本人,孫Bの処遇に関して打ち合わせを重ねた.孫Bの施設入所が決定したことを本人に報告する際には細心の注意を払った.退院後は介護保険サービスの導入を行い保護的な環境下での生活を目指すと共に,安定した精神状態で孫Bとの関わりを提供することとなった.
【考察】未成年の孫との暮らしの中で,周囲への助けを拒否し閉鎖的な環境下での生活を行ってきた.本人の心身の不安定さの下で,未成熟な小学生の孫の精神面での不安定さも出現した.孫Aを中心に,本人,孫Bに対して他職種が関わることで安定した関係をもたらすことを目標とした.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-19
日本語版Marwit-Meuser 介護者悲嘆尺度短縮版の信頼性と妥当性の検討;認知症家族介護者の悲嘆について
大村裕紀子(埼玉医科大学大学院,埼玉医科大学総合医療センター,西熊谷病院),井藤佳恵,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所),深津 亮(埼玉医科大学総合医療センター,西熊谷病院)
【目的】高齢期は喪失の時代とされ,高齢者,認知症高齢者,介護家族はそれぞれ特有の喪失とそれに伴う悲嘆を体験していると思われる.このような喪失や悲嘆は精神状態や介護機能に大きな影響を与え得る.Marwit‐Meuser Caregiver Grief Inventory‐Short Form(以下,MM‐CGI‐SF)は認知症高齢者を介護する家族の喪失や悲嘆を評価するために米国で開発された評価尺度である.本研究ではMM‐CGI‐SF日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を検討した.
【方法】2012年8月1日から2013年7月31日までに埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニックを受診した患者から45名を抽出し,患者本人とその介護者を研究対象とした.患者は男性18名,女性27名,平均年齢74.0(標準偏差3.0)歳で,アルツハイマー型認知症9名,血管性認知症5名,レビー小体型認知症3名,脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症14名,前頭側頭型認知症1名であった.介護者の平均年齢は77.0(標準偏差2.0)歳,男性18名,女性27名で,続柄は夫13人,妻14人,息子5人,娘10人,嫁2人,姪1人であった.患者本人に対し精神科医が基本情報を得ると共に日本語版MMSE,日本語版CDRを用い評価した.介護者に対し日本語版MM‐CGI‐SFの調査票を渡し,自己記入式で回答を得た.これと独立してZarit介護負担尺度日本語版短縮版(以下,J‐ZBI_8),日本語版Beck抑うつ評価尺度(以下,BDI‐U)を用いた面接による評価を行った.日本語版MM‐CGI‐SF総合得点および各下位尺度のCronbach's α,検査−再検査間の級内相関係数,日本語版MM‐CGI‐SF合計得点とJ‐ZBI_8およびBDI‐Uの合計得点とのSpearman相関係数を算出した.さらに因子分析を行っスた.
【倫理的配慮】本研究は埼玉医科大学総合医療センターの倫理委員会の承認を得て行われた.本発表に際し,文書を以て,研究参加に同意した患者とその家族の了解を得ている.
【結果】日本語版MM‐CGI‐SFの総合得点,下位得点共にCronbach's α≧0.80であった.検査−再検査間の級内相関係数は0.985(p<0.001)であった.日本語版MM‐CGI‐SF合計得点とJ‐ZBI_8およびBDI‐Uの合計得点とのSpearman相関係数はそれぞれ0.762(p<0.01),0.443(p<0.01)であった.因子分析の結果,4因子構造が妥当であると考えられ,各因子を次のように命名した.第1因子「個人的な犠牲を払う苦しみ」,第2因子「認知症発症に伴う深い悲しみと心配」,第3因子「孤立無援であることの実感」,第4因子「認知症者を前にした時の喪失感」.
【考察】日本語版MM‐CGI‐SFの内的整合性,検査−再検査信頼性,J‐ZBI_8およびBDI‐Uを外的基準とした併存的妥当性が確認された.因子分析の結果,日本人の認知症家族介護者の悲嘆の特徴として,悲しみ,心配,孤独感は不可分な感情であること,認知症特有の「人格の形骸化」に対する精神的反応と孤独感が結びついている可能性があることが示唆された.本尺度を用いることにより,的確に認知症家族介護者の悲嘆を評価し,今後の介護支援の在り方に活かせる可能性がある.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
U-20
上越地域における認知症連携ノートの実施と検討;「にっこり手帳」の運用の試み
川室 優(医療法人高田西城会高田西城病院,医療法人高田西城会高田西城病院認知症疾患医療センター),森橋恵子(医療法人高田西城会高田西城病院認知症疾患医療センター),湯浅 悟(医療法人高田西城会高田西城病院,医療法人高田西城会高田西城病院認知症疾患医療センター),俵木一志(医療法人高田西城会高田西城病院),にっこり手帳プロジェクト委員会(新潟県上越地域医療福祉機関)
【目的】上越市は全国認知症有病率調査に参加した.しかしながらその結果は,厚労省の条件に適合せず最終的な集計からは除外となったが,参加者の22.2%に認知症が疑われた.さらに調査に参加した約16%に軽度認知機能障害(MCI)が認められた.このような結果から,高齢化が進む上越市(現高齢化率27.9%)において,潜在的に数多くの認知症高齢者の存在が疑われ,さらには認知症の早期発見と重症化の予防が重要な課題の一つであることが浮び上がった.  そこで本研究では,新潟県補助金により,上越地域における認知症の地域連携ノート「にっこり手帳」を作成し,それを活用することで認知症の早期発見,早期介入による重症化の予防の可能性と,さらに認知症のご本人,ご家族,医療・介護福祉関係者が情報を共有することで,ご本人のケアサポートの構築の実現化を検討することが目的である.
【方法】本研究では,第一に当院の認知症疾患医療センターが中心となり,地域で様々な医療・福祉・介護ケアサービスや社会資源などを利用する組織機関から委員を選出して,地域連携ノート「にっこり手帳」を作成し,平成25年4月1日より試行運用した.運用開始6か月後に当事者,ご家族ならびに関係各位にアンケート調査を実施し,さらに意見交換会を開催した.このアンケートは12か月後にも実施を予定している.  第二に,現在,上越地域で使用されている「上越認知症地域連携パス」,「地域連携連絡票」,「ものわすれ連絡箋」の3つの連携ツールと本手帳の関連性と位置づけを担当者に聞き取り調査を行った.  第三に,ご本人,ご家族,医療・介護関係者が「にっこり手帳」内の情報を十分共有できるように,新たにWEBサービスシステムを構築した.
【倫理的配慮】本研究は,医療法人高田西城会高田西城病院の倫理委員会において承認された.
【結果および考察】「にっこり手帳」は,本年1月現在で213名が活用している.  第一の検討であるアンケート調査では,試行から6か月の時点でご本人・ご家族,関係機関118か所に送付した.その結果,医療の相談がしやすくなったと感じ始めているご本人・ご家族の割合が約38%であった.  第二の検討である3つの連携ツールの聞き取り調査では,既存のツールはコンシューマであるご本人・ご家族の情報が少ないことが分かった.そのためご本人・医療・福祉・介護の情報が整理されている当手帳を既存の連携ツールの一つに組み合わせることが重要であるといった指摘を得た.  さらに第三の検討であるWEBサービスシステムの構築では,遠方のご家族とご本人・医療・介護関係者が情報共有し,結果的に認知症の早期発見,重症化の予防が可能になると考えられる.  以上のように,全国的に広がりがみられる認知症地域連携ノートの実施は,今後の超高齢社会では認知症予防対策の一助になり得ると考える.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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