6月12日(木) 9:00〜9:36 第4会場(中会議室,7F)
検査@
中野倫仁(北海道医療大学心理科学部)
T-1
軽度認知障害と晩発型アルツハイマー型認知症における脳血管障害と動脈硬化・生活習慣との関連
新井久稔(相模台病院,北里大学精神科学),高橋 恵(北里大学精神科学),中島啓介(中島クリニック),大石 智,宮岡 等(北里大学精神科学)
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)において,認知機能や症状の進行などに大脳の虚血性病変や生活習慣・食生活の関与が報告されている.MCI(軽度認知障害)はADへの移行率も高いことから,脈波検査や動脈硬化度と生活習慣を中心に,MCI・ADにおける血管障害の程度や血管障害の危険因子との関連を調査した.
【方法】対象は北里大学東病院精神神経科認知症鑑別外来を2004年4月から2011年12月までに受診し研究協力の得られたMCI群99例,SADT群107例.2群における年齢,性別,既往歴,血圧,脈波,合併症,脳MRI所見,生活習慣・食習慣などを横断的に調査して検討した.さらに大脳白質病変の程度と血管障害因子との関係を比較検討した.
【倫理的配慮】本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】MCI群においては大脳白質病変の重症度と拡張期血圧と身体合併症数において有意差を認めた.SDAT群においては年齢や平均動脈硬化度・生活習慣のリスク因子数とMMSEにおいて有意差を認めた.
【考察】SDAT群において動脈硬化度の進行度(重症度)と生活習慣や認知機能の低下の関与が示唆された.今後さらにMCI群における血管障害因子や生活習慣などとの関連も調査していきたい.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-2
レビー小体型認知症の鑑別における主観的輪郭検査の開発;下位項目の比較検討
太田一実(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター),井関栄三(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター,順天堂大学医学部・精神医学),村山憲男(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター,北里大学医療衛生学部),笠貫浩史(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター,順天堂大学医学部・精神医学),近藤大三,佐藤 潔(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター),新井平伊(順天堂大学医学部・精神医学)
【目的】レビー小体型認知症(DLB)の鑑別に,主観的輪郭を用いた視覚認知検査が有用である可能性が指摘されている(Ota et al., In Press).この論文で用いられた主観的輪郭課題は,白抜き文字で書かれた意味単語(「ヨコ」「ニコニコ」)および無意味単語(ロコエ)「ユニ」),影付き文字で書かれた意味単語(「エコ」「コロコロ」)および無意味単語(「ニヨユ」「ユヨ」),3種類の図形で構成されていた.しかし,この課題には,DLBの鑑別に適切でない下位項目も含まれている.本研究では,DLBの鑑別により有用な項目を検討した.
【方法】DLB患者30名(DLB群:平均年齢79.7±5.1歳,MMSE平均18.0±4.6点),アルツハイマー病(AD)患者21名(AD群:平均年齢76.1±6.7歳,MMSE平均20.0±2.5点),健常高齢者18名(健常群:平均年齢70.3±8.1歳,MMSE平均28.8±1.2点)を対象に,主観的輪郭検査を実施し,下位項目の正解数を3群間で比較検討した.
【倫理的配慮】順天堂東京江東高齢者医療センター倫理委員会の承認を受けた研究の一部である.患者には文章による同意を得た.
【結果】白抜き文字4種類,影付き文字4種類,図形3種類のうち,DLB群とAD群に正解率に比較的大きな差(20%以上)があった項目は,白抜き文字の「コロコロ」と「ロコエ」(Figure a,b),影付き文字「ユヨ」と「ニヨユ」(Figure c,d),そして2つの三角形が重なる図形と立方体(Figure e,f)であった.その他の白抜き文字,影付き文字,図形では,DLB群とAD群の正解率に大きな差は認められなかった.これらの結果から,Figure a〜fが主観的輪郭検査の項目として妥当であることが示唆された.  今回検討した6項目の主観的輪郭検査の平均正解率は,DLB群が20.0±19.8%,AD群が37.3±25.8%,健常群が95.4±9.6%であった.分散分析の結果,3群間に有意差が認められた.
【考察】本研究では,Figure a〜fで構成された主観的輪郭検査を開発し,DLBの鑑別に有用であることが示唆された.  Figure c〜fでは,DLB群は黒で描かれた図形の一部分にのみ注目した回答が多く,DLBではADや健常高齢者よりも全体の図形を把握することが困難であった.また,DLB患者の一部は,図形が桜やおかっぱ頭など別の物に見えるといった錯視を示唆する発言もあった.AD患者は不正解であった項目でも正解を伝えることによって理解することができたが,DLB患者は正解を伝えられても理解できないことが多かった.このように,DLBとADでは,主観的輪郭課題において質的な違いもあることが示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-4
重症度別によるアルツハイマー型認知症と軽度認知機能障害における言語流暢性課題
光戸利奈,稙田千里,岩本竜一(医療法人辰川会山陽病院),山田達夫(一般社団法人巨樹の会赤羽リハビリテーション病院),辰川和美(医療法人辰川会山陽病院),橋本優花里(福山大学)
【目的】言語流暢性課題(以下;WFT)の再生語数は,アルツハイマー型認知症(以下;AD)や軽度認知機能障害(以下;MCI)と健常高齢者を鑑別する上で有用な指標となるとされている(櫻井・羽生,2012).光戸ら(2013)の研究では,WFTの成績について再生語数のみならず,重複率や再生方略について検討した結果,認知症疾患別の特徴を明らかにすることができた.一方,長濱(2011)によると,MMSE得点とWFTの再生語数は並行して低下することから,認知症の重症度とWFTの関連性についての検討も必要であると考える.そこで本研究では,光戸ら(2013)の研究と同様にWFTの再生特徴についてMCI患者とADの重症度ごとに比較することを目的とした.
【方法】物忘れ外来を受診したAD患者とMCI,地域の健常高齢者を対象とした.AD患者については,Clinical Dementia Rating(以下;CDR)に基づき,CDR 2点を中等度AD,1点を軽度AD,0.5点を最軽度ADに分類した.対象者にWFTの意味カテゴリー流暢性課題(以下;意味課題)と文字流暢性課題(以下;文字課題)を施行した.意味課題では「動物」のカテゴリーを用い,文字課題では「か」から始まる語を用いた.
【倫理的配慮】本課題について対象者には検査の一部として実施することの了承を得た.また,個人が特定されないよう十分な配慮を行い,辰川会山陽病院倫理審査委員会の承認を受けた.
【結果】再生語数についてはすべての群において,意味課題は文字課題よりも再生語数が多かった(p<.05).また,両課題においても,中等度AD群の再生語数がその他の群のと比べて少ないことが示されたが,軽度AD群,最軽度AD群,MCI群の間には違いがなかった(p>.05).重複率については,意味課題は,中等度AD群が最も高く,次いで軽度AD群,最軽度AD群,MCI群,NC群の順となることが示された(p<.05).一方,文字課題においては,最軽度AD群がその他の群と比べ高いことが示された(p<.05).再生方略については,すべての群において意味課題のほうが文字課題よりもカテゴリー別に再生することができていた.
【考察】中等度AD群は,両課題において再生語数がその他の群と比べて少ないことが認められた.このことから,先行研究で示されているように,全般的な認知機能の低下とWFTの成績の関連性が示唆された.一方,軽度AD群,最軽度AD群,MCI群では,再生語数には差がないものの,認知症の重症度が上がるにつれて重複率が増加することが示唆された.本研究のWFTの重複率の上昇は,自分がすでに再生した語を保持しつつ課題を遂行することの困難さを意味し,これはワーキングメモリの低下が関係していると考えられる.  WFTの再生方略は,いずれの群においても,意味課題は文字課題よりも再生語数が多く,且つカテゴリー別に再生することができた.これは,動物の種類別に再生するほうが音韻別に再生するよりも容易であり,その結果,意味課題のほうが文字課題よりも再生語数が多かったと考えられる.  このように,本研究ではWFTの再生語数だけでなく質的側面についても検討することで,MCIやADの重症度別によるWFTの再生特徴についても明らかにすることができたと考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 9:48〜10:24 第4会場(中会議室,7F)
検査A
中嶋義文(三井記念病院精神科)
T-5
もの忘れ外来における本人及び家族の生活機能評価の乖離とその推移の関連要因;老研式活動能力指標を用いた検討
南  潮,鈴木宏幸,安永正史,竹内瑠美,村山幸子,扇澤史子,井藤佳恵,古田 光,藤原佳典(東京都健康長寿医療センター)
【目的】認知症の状態把握には認知機能の低下だけでなく生活機能の低下を併せて考慮する必要がある.生活機能の把握には主に家族等による情報提供が不可欠であるが,それが可能な状況は限られており本人評価を参考とすることがある.本研究ではもの忘れ外来に来院する本人が,自分の生活機能の状態をどの程度把握できているか老研式活動能力指標(TMIG‐IC)(古谷野他1986)を用いて家族評価と比較し検証する.また認知機能の低下がその差異に与える影響を明らかにすると共に,初診時の状態から3年後の差異を予測するモデルを構築し検証する.
【方法】2009年から2013年において東京都健康長寿医療センターもの忘れ外来に継続して通院した34名を対象に6か月ごと3年間に亘り追跡調査を行った.各回検査室で対象者本人,診察室で同伴する家族から老研式活動能力指標を別々に聴取した.また検査室では同時に認知機能検査を行った.対象疾患はAD 18人,ADwithCVD 3人,MCI 13人であった.3年間の本人及び家族評価の推移を明らかにするとともに,その乖離の要因を,認知機能検査(MoCA‐J:Japanese version of Montreal Cognitive Assessment),性別,年齢,教育年数,診断名,CDRを説明変数とし分析した.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所および同病院の倫理委員会において研究実施が承認されており,個人を特定しない条件で本人或は代諾者の同意が得られている.
【結果】ベースライン(BL)時における本人評価と家族評価の差(d1)は2.9点(p<0.01).3年間で家族評価が3.4点(d2)(p<0.01)低減する一方,本人評価にほとんど変化は見られない.  TMIG‐IC(d1,d2)については2点以上の変化が有意とされている(藤原他2003).次にそれを基準点にカテゴリー化し,横断分析としてd1を,縦断分析としてd2を目的変数として二項ロジスティック回帰分析(尤度比に基づく変数減少法)による予測モデルを構築した.
【考察】もの忘れ外来の来院患者は本人の生活機能の評価について家族の評価と乖離があるが,それは認知機能の低下により説明され,以降変化せず実態を反映しない.その後の乖離の拡大についてはBL時のCDRが予測因子として有効であり,その変化に際し家族に注意を促す事も可能である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-6
アルツハイマー病におけるレーヴン色彩マトリックス検査と局所脳血流の関係
吉田 卓,森 崇明,山崎聖広,園部直美,清水秀明,松本光央(愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学講座),小森憲治郎(財団新居浜病院臨床心理科),谷向 知,上野修一(愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学講座)
【背景と目的】認知症の診療において,Mini‐Mental State Examination(MMSE)や改訂版長谷川式認知症スケールなどが広く用いられているが,これらは主として言語を介した神経心理検査である.一方で,レーヴン色彩マトリックス検査(RCPM:Raven's Colored Progressive Materices)は,図柄の欠損部分に合致する最も適切な図柄を選択させる,簡便かつ短時間で施行可能な非言語性の検査である.RCPMは,知的能力の中でも視覚を介した推論能力を評価することができ,アルツハイマー病(AD:Alzheimer's disease)においては,その病期進行に伴い点数が低下するとされている.今回我々は,RCPMおよびSPECTを用いて,視覚性の推論能力と脳画像の関連について検討を行った.
【方法】愛媛大学医学部附属病院精神科の外来を受診し,NIA‐AAアルツハイマー病診断ガイドライン(2011年版)のprobable AD dementiaを満たす23名を対象とした.明かな脳血管障害を有する者は除外した.対象者23名に対し,MMSEおよびRCPMを施行し,脳機能画像検査としてN‐isopropyl‐p‐[123I]‐iodoamphetamine(123I‐IMP)を用いてSPECTを施行した.RCPMの総得点と脳血流との関連について,Statistical Parametric Mapping 8(SPM8)を用いて重回帰分析を行った.共変量として,性別,年齢,教育年数を使用した.
【倫理的配慮】対象者には研究の主旨および匿名性の確保について説明し同意を得た.なお,当大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】対象23名の内訳は,利き手は全例右利き,男:女=9:14,年齢75.2±8.1歳,罹病期間4.1±2.9年,教育年数11.0±2.4年,MMSE総点21.5±3.9,RCPM総得点22.9±6.2であった.SPM8を用いてRCPM総得点と脳血流について解析を行った結果,右側頭葉(FWE‐corr p=0.043,uncorr p<0.001),両側帯状回(FWE‐corr p=0.093,uncorr p<0.001),両側前頭葉(FWE‐corr p=0.098,uncorr p<0.001)などの部位で局所脳血流と正の相関が認められた.負の相関を認めた部位はなかった.
【考察】側頭葉は視覚認知に関与すると言われており,特に右紡錘状回の障害では相貌失認を来たすことが知られている.また,前頭葉は思考や推論に関与すると言われている.本研究により,これらの各部位の機能不全が,ADにおける視覚性の推論能力と関連する可能性が示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-7
Validation of the Chinese Dementia Apathy Interview and Rating and Study of Clinical Correlates of Apathy in Alzheimer's Disease
MS Lau(Department of Old Age Psychiatry, Castle Peak Hospital)
Objective:Apathy is common in patients with Alzheimer's disease (AD) and is associated with older age, faster progression of cognitive and functional deficits, higher level of impaired activities of daily living and greater burden for caregivers. This study aims at validating an informant‐based apathy measure that is specifically designed for patients with AD ─ the Chinese version of the Dementia Apathy Interview and Rating (C‐DAIR). Important clinical correlates of apathy in patients with AD are also explored.
Methods:Seventy‐five AD patients and their caregivers were recruited. The C‐DAIR was administered and the result was compared against the consensus diagnostic criteria of apathy proposed by the task force with members from various scientific associations and experts in the field. The Cantonese version of Mini‐Mental State Examination, Clinical Dementia Rating, Cornell Scale for Depression in Dementia, the Chinese version of the Disability Assessment for Dementia, Extrapyramidal Symptom Rating Scale, and the Chinese version of the Zarit Burden Interview were also administered to study the relationship between the C‐DAIR and important clinical correlates.
Results:The C‐DAIR had good internal consistency (α=0.892), test‐retest reliability (ICC=0.988) and inter‐rater reliability (ICC=0.909). The optimal cut‐off point of the C‐DAIR was〓0.780. Apathy was associated with older age, more severe cognitive impairment, lower daily functioning, and higher caregiver burden. It was not associated with depression.
Conclusions:The C‐DAIR is a valid and reliable tool to assess apathy in local Chinese patients with AD.
Keywords:Alzheimer's disease, apathy, Chinese

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6月12日(木) 10:24〜11:24 第4会場(中会議室,7F)
薬物療法@
千葉 茂(旭川医科大学医学部精神医学講座)
T-8
アルツハイマー型認知症における行動・心理症状に対するガランタミンの効果
天野浩一朗(宮崎若久病院,野崎病院),甲斐恭子(野崎病院,あいクリニック)
【目的】認知症における行動・心理症状(BPSD)の出現は,患者と家族に心理的・身体的・経済的負担を増す.一般に非薬物的介入がBPSDの第1選択となるが,患者または介護者のQOL,あるいはその機能に影響を及ぼす場合は薬物療法の適応となりうる.  そこで新規アルツハイマー型認知症(以下AD)治療薬であるgalantamineのADのBPSDに対する有効性と安全性を検討した.
【方法】2012年10月1日から2013年3月31日までに野崎病院に通院する外来患者および新規入院患者のなかで新たにgalantamineによる薬物治療を開始したAD患者62例について,認知機能,BPSDに対する効果,副作用の出現などを6か月前向きに検討した.認知機能は,Mini‐mental State Examination(MMSE),BPSDはNeuropsychic Inventory(NPI)を用いた.研究期間中は他のAChEIとの併用は行わないものの向精神薬の併用は許可した.統計解析は有意水準両側5%とした.
【倫理的配慮】研究対象者に対しては,研究内容を説明し,本人または家族から文書にて同意を得た.また対象の患者に対しては個人情報が特定されず,患者の不利益にならないように配慮した.
【結果】研究期間中に新たにgalantamineによる薬物治療を開始したAD患者で研究に同意が得られた症例は62例である.男性17例,女性45例で,平均年齢は79歳,ベースラインにおけるMMSEの平均値は18.4点,NPIの平均値は12.1であった.6か月間galantamineを継続した症例は52例(83.9%)であった.開始用量は全例で8mg/日,その後24mg/日まで増量し継続した.副作用のために8mg/日へ減量された症例は4例であった.副作用の内容は嘔気が2例,食欲不振1例,眠気1例であった.また観察期間中に8例(クエチアピン5例,リスぺリドン3例)に抗精神病薬が併用投与された.観察期間中MMSEは18.4から3か月後19.1,6か月後20.0へと改善を示しベースラインと比較しても統計学的な有意差は認められなかった.一方,NPIスコアは12.1から3か月後4.04,6か月後2.82へと統計学的に有意に改善した(P<0.05).さらにNPIの下位項目(10項目)をみると妄想,易刺激性,異常行動がベースラインと較べて有意に改善した(P<0.05).Galantamine単独投与群ではNPIスコアは11.3から3か月後3.24,6か月後2.15へと有意に改善した(P<0.05).
【考察】今回の研究ではNPIスコアが有意に改善していた.抗精神病薬の併用は8例のみで,6か月間galantamine単独投与群でもNPIスコアが有意に減少していたことからBPSDの改善は抗精神病薬の効果とは考えにくくgalantamineがBPSDの改善に有効に作用したと考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-9
病名告知によりうつ状態が悪化しガランタミンの投与が奏功したアルツハイマー病の1例
互健二,加田博秀(東京慈恵会医科大学精神医学講座,町田市民病院神経科・精神科),品川俊一郎,稲村圭亮,永田智行,角徳文,中山和彦(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
【はじめに】近年,認知症の早期発見・早期診断が重要視される一方で,その告知に関しては推奨する立場と慎重な立場から様々な議論がなされている.今回,病名告知によりうつ状態が悪化し,それに対しガランタミンの投与が奏功した初期アルツハイマー病(AD)の1例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】本発表に際し,患者本人より書面で同意を取得し,匿名性にも配慮した.
【症例】76歳男性.社交的,活動的な性格.X−1年より徐々に忘れ物をしたり昨日の出来事を忘れたりということが増えた.X年Y月,仕事上の案件を忘れたことを契機に混乱し,他院精神科を受診したところ,「認知症」とのみ告知され,詳しい説明のないまま塩酸ドネペジルの投与が開始された.本人が「そんなはずはない.薬は飲みたくない」と拒薬したため,家族の希望により精査目的にX年Y+2月当院受診となった.  受診時,MMSE 28/30,CDR 0.5,頭部MRIでの海馬の萎縮は顕著ではなかったが,COGNISTATで記憶・構成の項目の低下が,脳血流SPECTで後部帯状回,楔前部及び下頭頂小葉の血流低下が認められた.高学歴である背景も考慮し,amnestic MCI due to ADから初期ADの段階と判断した.当人・家族も含め「現段階で明らかな認知症とはいえないが,認知症に進展する可能性はある.」と告知したところ,「やはり痴呆が始まっていたんだ.もうだめだ.」と不安・焦燥感が強まり希死念慮も出現した.そのため抗うつ薬の投与に加え仕事と距離をとるよう環境調整を行ったところ,症状は一部軽減したが「頭が全然働かない」と執拗に訴え,うつ状態は遷延化した.  背景にあるAD病理を考慮し,「今のあなたはうつ病に加え老化等の影響で脳の働きが鈍っている状態です.脳の働きを活発化する薬も併せて飲みましょう」と説明しながらガランタミンの投与を開始したところ,「少し頭が働くようになって来た」と薬効を実感すると共に徐々にうつ状態が改善した.また疾患に関しては「あの失敗は精神的ショックのせいだった.そうですよね?」と否認傾向ではあったが,拒薬はなかった.否認に対しては否定も肯定もせず,支持的に接することで「この病院で治療を続けたい」と治療を継続することが可能となった.この時点でのMMSEには変化はなかった.
【考察】認知症の病名告知は積極的な治療介入を可能とする一方で,患者の不安や抑うつを惹起する危険性があり,告知の際には十分な注意が必要である.ガランタミンはnAChRに対するAPL作用を併せ持ち,ADの周辺症状に対する効果が期待されている.本症例においては支持的な対応に加えガランタミンの投与がうつ状態に対する治療の一助を担った可能性があると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-10
著しい食欲不振を呈したが,寛解をなし得た初老期・老年期重症うつ病の3症例
深津孝英,郷治洋子,吉田毅史,田村 瑤,馬場大介,兼本浩祐(愛知医科大学精神科学講座)
【はじめに】高齢者のうつ病では,不安,焦燥,不眠を伴い食欲不振が前景化している症例が少なくない.食欲不振は妄想と関連し拒薬・拒食といった病像を呈している場合も見受けられる.今回,我々は,著しい食欲不振を呈した初老期・老年期重症うつ病の3症例を経験したので報告する.
【各症例の経過】〔症例1〕68歳女性.X−5年から脳出血後の姉の介護をしていたが,X年2月頃より,抑うつ気分,中途覚醒が出現し「自分のせいで姉の病状が悪くなった」などと言うようになった.6月中旬にエチゾラム20錠とトイレ用洗剤を自殺目的で服用し医療保護入院となった.「私の罪,姉と一緒に行きたかった」などの罪業妄想,希死念慮がみられ,自発語は少なく,首を横に振りながら,拒食・拒薬を繰り返した.NGtubeを挿入し,経管栄養を行いながら,ミルタザピン45mg/日とオランザピン2.5mg/日を投与した.約3ヶ月半後退院となった.〔症例2〕73歳男性.X−12年突発性難聴後に抑うつ気分が続き,精神科で薬物療法を受け症状は寛解した.X−3年に健診で肺の異常陰影を指摘され,精査後経過観察となったが,X年5月に抑うつ気分,心気妄想が著しくなり当院初診.便秘になると「大腸がんだ」などと言うようになり,焦燥・消耗著しく医療保護入院となった.食欲不振も著しく,かすれた声で心気症状を訴えていた.クロミプラミンの点滴注射を行ったが,せん妄状態となり,隔離室を必要とした.ミルタザピン30mg/日とオランザピン2.5mg/日を投与したが,肝臓機能障害を来たし,最終的に炭酸リチウム600mg/日で症状安定した.〔症例3〕59歳女性.X−8年抑うつ気分,不眠,食欲不振あり,うつ病と診断され治療が開始されたが,X−7年に多弁・浪費・夜中に掃除を始めるなど躁状態となり,入院加療が行われた.以後,炭酸リチウム,バルプロ酸Na,ミルタザピン,デュロキセチン,オランザピンなどで加療が行われていたが,X年10月に尿閉から敗血症を来し,改善後も自宅でこもりがちの生活となり,意欲低下,食欲不振著しく,医療保護入院となった.自発語は殆どなく,拒薬・拒食が続いたため,修正型電気ショック療法(mECT)を2コース施行した.症状は寛解し,現在も外来通院を続けている.
【倫理的配慮】各報告にあたり,個人が特定されないよう現病歴の一部を改変し,匿名性の保持に十分な配慮を行った.
【考察】高齢者のうつ病で食欲不振が前景化する場合は治療に難渋することが多い.3症例ともmECTを見据え治療を開始し,症例1,3では,体重低下も著しく誤嚥性肺炎に気を付けながら,経管栄養を行った.薬物治療では自験例の様にせん妄や肝機能障害が出現することもあり十分な注意が必要であると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-11
慢性硬膜下血腫を合併した認知症患者4例に対する五苓散の使用経験
佐藤隆郎(秋田県立リハビリテーション・精神医療センター精神科)
【目的】認知症患者は転倒の頻度が高く,慢性硬膜下血種(CSDH)がしばしば認められる.漢方薬である五苓散には「利水作用」という余分に溜まった水分を除去する作用があると言われ,CSDHの保存的治療に使用されることがある.慢性硬膜下血腫を合併した認知症患者自験例4例で五苓散を使用したので,臨床的な評価を試みた.
【方法】症例1:78歳女性.診断―アルツハイマー型認知症,網膜静脈分枝閉塞症.症例2:86歳男性.診断―アルツハイマー型認知症,高血圧症.症例3:76歳男性.診断―アルツハイマー型認知症,心房細動.症例4:86歳女性.診断―アルツハイマー型認知症,脂質異常症.  血腫に関連があると考えられる処方の変化,五苓散の投与期間を調査した.頭部CTにおいてCSDHがおおむね半分以下になった時点で改善が見られたと評価した.
【倫理的配慮】病歴の抽象化を行い,個人の特定を困難にした.
【結果】4例中3例で五苓散投与後にCSDHの減少がみられた.症例1ではカリジノゲナーゼを中止して五苓散投与46日でCSDH軽減した.症例2ではニセルゴリンを中止して五苓散投与49日でCSDH軽減した.症例3ではアスピリンを中止して五苓散投与59日でCSDH軽減した.症例4では五苓散投与中にCSDHが増大して,五苓散投与18日目で総合病院脳外科に転院して血腫除去術を受けた.
【考察】五苓散の長期投与はCSDHに有効である可能性がある.しかし症例数も少なく,自然経過と比較してCSDHの吸収を促進しているのかは不明である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-12
認知症の行動・心理症状に対するramelteon の効果
木村武実(国立病院機構菊池病院臨床研究部)
【目的】Ramelteonはmelatoninの受容体に選択的に結合して,催眠作用や睡眠・覚醒リズムを調節する作用がある.認知症高齢者では,夜間のmelatonin分泌が低下するため,夜間不眠,睡眠・覚醒リズムの障害をきたしやすい.このリズム障害は,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)の1つであり,他のBPSDの増大を招くおそれがある.これらのことから,ramelteonはリズム障害を調節し,BPSDを軽減する可能性が期待される.そこで,本研究では,ramelteonのBPSDに対する有効性と安全性を調べるために,ramelteonを投与された認知症高齢者を後方視的に調査した.
【方法】対象はNational Institute on Aging‐Alzheimer's Associationによる認知症診断基準を満たし,ramelteonを服用している23名の入院・外来患者であった.Ramelteon服用前と調査時のBPSDを後方視的にNeuropsychiatric Inventory(NPI)により各々評価した.また,服用前と調査時に処方された抗精神病薬量,睡眠薬量を,chlorpromazine(CP)換算,diazepam(DZ)換算で各々算出した.
【倫理的配慮】本研究は,当院倫理審査委員会で審査され,家族の書面による同意を条件に承認されたため,その同意を得られた対象者を評価・調査した.
【結果】対象者23名中,1名が起床時の眠気のためにramelteon服薬が中止となり,他の22名は服薬を継続していた.投与されていた抗精神病薬のCP換算では,ramelteon投与前は88.91±177.13,調査時は54.87±89.30であり,有意差は認められなかったが,減少傾向であった(P<0.08).睡眠薬を服用していた16名のうち10名は不要になり,DZ換算では,投与前は3.13±2.71,調査時は1.12±1.94と有意に減少していた(P<0.02).NPIはramelteon投与で有意に減少し(P<0.001),下位項目では,焦燥・攻撃性(P<0.04),不安(P<0.02),アパシー(P<0.01),異常行動(P<0.03)などで有意に改善が認められた.
【考察】本研究では,認知症高齢者にramelteonを投与することにより,睡眠だけでなく,BPSDも改善し,就寝前の睡眠薬を減少させることができた.認知症患者のせん妄に対してramelteonが効果的であった症例,BPSDを軽減した症例,レビー小体型認知症の幻視,昼間の眠気が改善した症例などはそれぞれ報告されているが,BPSDを改善したという臨床研究は本研究が初めてである.  この研究の問題点として,(1)オープン試験であること,(2)対象者が少ないこと,(3)後向き研究であり,NPIも後方視的に評価していることなどが挙げられる.したがって,ramelteonによるBPSD抑制の可能性を明らかにするために,今後,多数の症例による大規模前向き二重盲検試験が必要と考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 13:15〜14:15 第4会場(中会議室,7F)
薬物療法A
池田 学(熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野)
T-13
ドネペジル塩酸塩のレビー小体型認知症(DLB)を対象とした臨床第V相試験(速報);プラセボ対照二重盲検試験と長期投与を統合した試験からの考察
池田 学(熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野),森 悦朗(東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野),小阪憲司(医療法人社団香風会メディカルケアコート・クリニック)
【目的】DLB患者を対象に,ドネペジル5mg,10mgの有効性のプラセボに対する優越性を検証し,更に長期投与の安全性,有効性を検討した.
【方法】2011年2月から2013年3月に,国内72施設共同で,probable DLB患者142例を対象として,二重盲検期(DB期;プラセボ,5mg,10mgの3群,12週)と長期投与期から成る計52週の試験を実施した.主要評価項目には,認知機能評価MMSE及び精神症状・行動障害評価NPI‐2(幻覚,認知機能変動)の変化量を設定し,各実薬群の優越性は多重性を考慮の上で両項目が有意であった場合に検証されたと判定すると規定した.DB期終了後,実薬群は24週までその用量を維持し,プラセボ群は16週より実薬投与を開始した.24週以降全群10mgに増量し,副作用により継続不可の場合5mgへ減量した.
【倫理的配慮】本試験はGCPに準拠した.各施設のIRBによる承認を得,介護者及び患者本人(可能な限り)から文書同意を取得した.
【結果】5mg,10mg群ともプラセボ群に対して事前規定に基づく優越性は検証されなかった.  項目ごとの評価では,MMSE変化量はプラセボ群0.6点に対し,5mg群1.4点,10mg群2.2点であり,10mg群はプラセボ群に比して有意な改善を示した(P=0.016;共分散分析,FAS).PPS解析では,5mg群でも有意差が認められた(プラセボとの差1.6点,P=0.025,共分散分析).長期投与では,MMSEの改善が52週まで維持された.5mg群では10mg増量後に更なる改善がみられ,特に24週時に変化量が3点未満の部分集団では増量前に比べて有意な改善が認められた.  NPI‐2は,DB期において実薬群,プラセボ群ともに改善がみられ,群間に有意差は認められなかった.プラセボ群での改善には,被験者の不安の軽減が影響していることが示された.  安全性について,DB期の有害事象発現率はプラセボ群67.4%,5mg群63.8%,10mg群69.4%であり,多くは軽度又は中等度であった.実薬群で発現率が比較的高い事象は,パーキンソニズム,食欲減退,悪心であった.パーキンソン関連事象は全て軽度又は中等度であり,重篤なものはなく,UPDRS partVの悪化もみられなかった.  長期投与は100例(70.4%)が完了した.24週以降5mg/日への減量を要した症例は21例(24週完了例の19.6%)であった.長期投与に伴う遅発性の有害事象発現はみられなかった.
【考察】DLBの認知機能障害に対するドネペジルの有効性が改めて確認された.精神症状・行動障害については先行試験(Mori E et al:Ann Neurol, 2012)と異なる結果が得られたが,適切な介護指導等を通じた介護方法改善が患者の不安を軽減し,プラセボ群でも幻視等の改善に繋がった可能性が考えられた.本疾患における非薬物療法の重要性を示唆するものである.安全性については,減量等のリスク軽減を図ることで,10mg/日までの長期投与の安全性に大きな問題はないと考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-14
認知症患者に対する薬物療法;抗認知症薬投与前後の向精神薬の使用頻度について
松岡照之,成本 迅,藤本 宏,加藤佑佳(京都府立医科大学精神機能病態学),谷口将吾(嶺南病院),柴田敬祐(川越病院),中村佳永子,福居顯二(京都府立医科大学精神機能病態学)
【目的】平成23年に新たに3種類の抗認知症薬が加わり,現在4種類の抗認知症薬が使用可能である.認知症の行動と心理症状(BPSD)に対して向精神薬がしばしば使用されるが,副作用が生じる危険を考えると,極力使用しない方が望ましい.海外のある調査ではmemantineを投与後,向精神薬の使用頻度が減少傾向であったと報告している1).そこで,今回認知症患者に対する薬物療法,特に抗認知症薬投与前後の向精神薬の使用頻度などについて調べることを目的とした.
【方法】平成20年1月〜平成25年11月に京都府立医科大学附属病院認知症疾患医療センターを受診したアルツハイマー型認知症患者の内,当院で初めて抗認知症薬が開始され,1ヶ月以上外来通院した167名(男性59名,女性108名,平均年齢77.6±7.5歳)を対象とした.後方視的にカルテ調査を行い,患者背景,処方歴などを調べた.
【倫理的配慮】本研究は当大学医学倫理審査委員会の承認を受けており,患者,家族に説明し同意を得た.また発表にあたり匿名性に配慮した.
【結果】158名でMMSEが施行されており,平均20.8±4.4点であった.最初に投与された抗認知症薬はdonepezilが83.2%,galantamineが10.8%,memantineが3.6%,rivastigmineが2.4%であり,後者3剤が発売になった平成23年3月以降で調べると,donepezilが74.3%,galantamineが16.5%,memantineが5.5%,rivastigmineが3.7%であった.平均フォローアップ期間は16.9±16.0ヶ月であった.コリンエステラーゼ阻害薬投与半年前,投与開始日,半年後の向精神薬の使用頻度は,18.7%,26.3%,30.5%であり,経過と共に増加していた.向精神薬を内服していた患者の内,どの時期もベンゾジアゼピン系が一番多く使用されていた(80.6%,72.7%,66.7%).抗精神病薬の使用頻度は12.9%,15.9%,16.7%であった.Memantineは41名で使用されており,投与理由としては,BPSDに対してが19名,認知症進行に対してが17名,他の抗認知症薬が内服できない場合が5名であった.Memantine投与半年前,投与開始日,半年後の向精神薬の使用頻度は,35.0%,39.0%,40.0%であり,図1のような経過であった.
【考察】向精神薬の使用頻度は3割程度であり,memantineの適応となる中等度以降になると4割程度になっていた.Memantine開始4ヶ月後から向精神薬の使用頻度は減少傾向であった.Memantineを使用するなどの工夫をしながら向精神薬の使用を減らしていく努力が必要であると思われた.
【参考文献】 1)Martinez C et al. BMJ open. 2013 Jan 7;3(1).
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-15
BPSD に対してアリピプラゾールが奏効したアルツハイマー型認知症の3 症例
長濱道治(島根大学医学部精神医学講座,こなんホスピタル),三木啓之,田中一平,三浦章子,金山三紗子,山下智子,河野公範,林田麻衣子,安田英彰,岡崎四方,和氣 玲,橋岡禎征,宮岡 剛,堀口 淳(島根大学医学部精神医学講座),福田賢司(こなんホスピタル)
認知症のBPSDは,介護者やスタッフが対応に難渋しており,その治療においては,まずは原因の除去や環境調整などの非薬物療法を検討することが必要である.しかし,実際の臨床場面では,薬物療法を検討せざるを得ないほどのBPSDに直面することも多く,早急の対応が必要となる場合もある.BPSDに対する薬物療法として,非定型抗精神病薬の適応外使用が行われてきたが,錐体外路症状や過鎮静などの副作用を生じ,薬物治療が困難となることもめずらしくない.また,近年海外からその使用に際しての警告や注意点が喚起されている.非定型抗精神病薬の副作用は十分に認識されなければならないが,個々の状態・状況に応じて薬物を選択し,適切に用いることができれば,副作用をほとんど生じることなく,BPSDを軽減,消退させることが可能であると思われる.
今回,非定型抗精神病薬の中では比較的副作用が少ないと考えられているアリピプラゾールを投与することによりBPSDが改善したアルツハイマー型認知症の3症例を経験したので報告する.なお,症例報告にあたり,患者個人が特定されないように配慮し,家族に口頭で承諾を得た.
症例1は,78歳,女性.既往歴は高血圧.一人暮らし.X−2年頃より物忘れがみられ,X−1年になり物盗られ妄想を認めるようになった.X−1年12月A病院に入院,HDS‐R:17点.症例2は,80歳,男性.既往歴は高血圧,高尿酸血症,気管支拡張症.妻との2人暮らし.Y−10年頃より物忘れがみられ,家の中で物を探すことが増えた.妻がサポートしていたが,Y−3年頃よりその妻に対して攻撃的となったためY−3年6月B病院を受診,HDS‐R:14点.症例3は,83歳,男性.既往歴は高血圧,脳梗塞.妻,娘夫婦,孫の5人暮らし.Z−1年12月C病院を受診,暴言・暴力を認めたためZ年1月に同院に入院,HDS‐R:13点.これらアルツハイマー型認知症と診断したいずれの症例も焦燥,興奮を認めたため,薬物療法が必要であったと判断し,アリピプラゾールを選択・投与したところ,これらの症状が改善した.この際,錐体外路症状や過鎮静などの副作用は認めず,検査所見でも糖代謝・脂質代謝の悪化は認めなかった.
以上より,アリピプラゾールは,BPSDにおいて幻覚・妄想以外にも焦燥,興奮などの症状に対する有効性を認め,さらに副作用が少ないことから,身体的機能の低下を引き起こすことなくQOLの改善が得られる可能性のある薬剤と考えられた.アリピプラゾールはドパミンD2受容体に対する部分アゴニスト作用を有する非定型抗精神病薬であり,セロトニン1A受容体に対する部分アゴニスト作用や,セロトニン2A受容体に対するアンタゴニスト作用を併せ持つ薬剤である.既存の定型および非定型抗精神病薬は,いずれもドパミンD2受容体に対してアンタゴニスト作用を有していることから,アリピプラゾールは既存の抗精神病薬とは異なる薬理学的プロフィールを有する.幻覚・妄想や焦燥,興奮などのBPSDの発現には,ドパミン,セロトニンをはじめとする神経伝達物質の関与が示唆されていることから,本症例におけるBPSDの改善には,前述した薬理学的プロフィールが寄与した可能性が推察された.アリピプラゾールのBPSDに対する使用について,今後もどのような特徴をもった症例に効果が期待できるのかを検討する必要があると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-16
Risk Predictors for Hypnosedative-related Complex Sleep Behaviors in Elderly Outpatients
Chih-Yun Hsu, Tzung-Jeng Hwang, Hsi-Chung Chen, Ming H. Hsieh(Department of Psychiatry,National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan), Chien-An Yao(Department of Family Medicine, National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan), Chen-Chung Liu(Department of Psychiatry, National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan), Wen-Jing Liu(Department of Family Medicine, National Taiwan University Hospital, Taipei, Taiwan), Chih-Min Liu, Shih-Cheng Liao(Department of Psychiatry, National Taiwan University Hospital,Taipei, Taiwan)
Background:To explore the risk predictors for complex sleep‐related behaviors (CSBs) in elderly populations takinghypnosedativedrugs.
Methods:A total of 312elderly subjects (55−85 years of age) using hypnosedatives were enrolled from the outpatient clinics of a medical center in Taiwan from June 2011 to November 2012. CSBs included somnambulism with object manipulation, SRED and other less frequent amnestic complex behavior. All subjects completed a questionnaire that included demographic data, usual sleep habits, childhood sleep habits, and sleep‐related behaviors. Demographic and clinical variables were compared in those with CSBs and those without in total sample and in zolpidem users. Then multiple logistic regression analyses were performed in order to identify significant risk predictors for CSBs.
Results:Out of the 312 elderly subjects, 113 (36.2%) took zolpidem, 19 (6.1%) had CSBs and 15 (78.9%) of those having CSBs took zolpidem. Univariate analysis showed that those with CSBs were significantly more likely to take zolpidem (P<.001) and to have fewer medical comorbidities (P=0.035). When we focused on the 113 elderly zolpidem users, multiple logistic regression analyses revealed that zolpidem≧15mg/day (OR=4.2;95% CI, 1.1−16.3;P=0.038) and having fewer medical comorbidities (OR=1.4;95% CI, 1.1−1.7;P=0.019) were the significant predictors of CSBs.
Conclusions:This study suggests that taking zolpidem, especially with higher dose, is the key risk predictor for CSBs in elderly outpatients.
Keywords:complex sleep‐related behaviors, CSBs, hypnosedatives,zolpidem
T-17
Enhancement of NMDA neurotransmission for the treatment of early-phase Alzheimer's disease
Chieh-Hsin Lin(Institute of Clinical Medical Science, China Medical University, Taichung,Taiwan, Department of Psychiatry, Kaohsiung Chang Gung Memorial Hospital, Chang Gung University College of Medicine, Kaohsiung, Taiwan), Ping-Kun Chen(Institute of Clinical Medical Science, China Medical University, Taichung, Taiwan, Department of Neurology, Lin-Shin Hospital, Taichung, Taiwan), Yue-Cune Chang(Department of Mathematics, Tamkang University, Taipei, Taiwan), Liang-Jen Chuo(Department of Psychiatry, Taichung Veterans General Hospital, Taichung, Taiwan), Yan-Syun Chen(Department of Psychiatry, Kaohsiung Chang Gung Memorial Hospital, Chang Gung University College of Medicine, Kaohsiung, Taiwan), Guochuan E. Tsai(Department of Psychiatry, Harbor-UCLA Medical Center, Torrance, California), Hsien-Yuan Lane(Institute of Clinical Medical Science, China Medical University, Taichung, Taiwan, Department of Psychiatry, China Medical University Hospital, Taichung, Taiwan)
Background:N‐methyl‐D‐aspartate receptor (NMDAR)‐mediated neurotransmission is vital for learning and memory. Hypofunction of NMDAR has been reported to play a role in the pathophysiology of Alzheimer's disease (AD), particularly in the early phase. Enhancing NMDAR activation may be a novel treatment approach. One of the methods to enhance NMDAR activity is to raise the levels of NMDA coagonists by blocking their metabolism. This study examined the efficacy and safety of sodium benzoate, a D‐amino acid oxidase (DAAO) inhibitor, for the treatment of amnestic mild cognitive impairment (aMCI) and mild AD.
Methods:We conducted a randomized, double‐blind, placebo‐controlled trial in four major medical centers in Taiwan. Sixty patients with aMCI or mild AD were treated with 250−750 mg/day of sodium benzoate or placebo for 24 weeks. Alzheimer's disease assessment scale‐cognitive subscale (ADAS‐cog, the primary outcome) and global function (assessed by Clinician Interview Based Impression of Change plus Caregiver Input [CIBIC‐plus]) were measured every eight weeks. Additional cognition composite was measured at baseline and endpoint.
Results:Sodium benzoate produced a better improvement than placebo in ADAS‐cog (p=0.0021, 0.0116 and 0.0031 at week 16, week 24 and endpoint, respectively), additional cognition composite (p=0.007 at endpoint) and CIBIC‐plus (p=0.015, 0.016 and 0.012 at week 16, week 24 and endpoint, respectively). Sodium benzoate was well tolerated without evident side‐effects.
Conclusions:Sodium benzoate substantially improved cognitive and overall functions in patients with early‐phase AD. The preliminary results show promise for DAAO inhibition as a novel approach for early dementing processes.
Ref:Lin CH, Chen PK, Chang YC, Chou LJ, Chen YS, Tsai G, Lane HY*:Benzoate, a D‐Amino Acid Oxidase Inhibitor, for the Treatment of Early‐Phase Alzheimer's Disease:★A Randomized, Double‐Blind, Placebo‐ Controlled Trial. (Online published by Biological Psychiatry 2013)

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6月12日(木) 14:15〜15:27 第4会場(中会議室,7F)
非薬物療法
松田 修(東京学芸大学総合教育科学系教育心理学講座臨床心理学分野)
T-18
老人保健施設における認知症の進行予防についての前向き研究;介護職による認知症短期集中リハビリテーションの効果について
葉梨大輔,葉梨之紀(医療法人葉梨整形外科,老人保健施設えびな)
【目的】近年の高齢化に伴い,老人保健施設における入所者の高齢化は進み,介護度は重度化している.介護施設において認知症は,介護度と密に関係する重要な問題であり,認知症の進行予防と周辺症状への対策は今後重要な課題と考える.  今回われわれは,老人保健施設の入所者に対し介護職員により認知症リハビリテーションを実施し,その効果につき検討したので報告する.
【方法】老人保健施設入所者80人の中から,年齢,性別,HDS‐R,基礎疾患の有無により対象とする30人をランダムに抽出し,HDS‐Rを基準にA,B群にわけた.A群15人は平均年齢85歳,男3人女12人で平均HDS‐Rは11.4点であった.B群15人は平均年齢88歳,男2人女13人で平均HDS‐Rは11.1点であった.  A群に対して,医師の指導のもと介護職員により1回20分の認知症リハビリテーションを週2回12週間(計24回)行った.認知症リハビリテーションの方法としては,全国老人保健施設協会編集の「認知症短期集中リハビリテーションプログラムガイド」に準じて行った.  対象の30人に対し,リハビリテーション実施期間の前後1ヶ月以内に,HDS‐R,MMSE,ADL,活動性,周辺症状,意欲,NMスケールの7項目につき評価した.
【倫理的配慮】対象30人の入所者,および家族に対し当研究の主旨を説明した.匿名を原則とし,学術研究に協力いただけるようお願いし同意書をいただいた.
【結果】認知症リハビリテーション開始時には,年齢,男女比,評価7項目についてA,B群間に有意な差を認めなかった.認知機能(HDS‐R)評価はA群において有意に改善し,B群においては不変であった.また,周辺症状はA群において有意に改善し,B群においては不変であった.その他の項目については,リハビリテーション前後の評価においてA,B群ともに有意な差を認めなかった.
【考察】老人保健施設における認知症短期集中リハビリテーション実施加算は平成18年度より創設された.全国老人保健施設協会では,認知症リハビリテーションの効果に関する研究事業を実施し,中核症状・周辺症状ともに改善に効果があると報告した.当施設においては,長期入所者が多く入れ替わりが少ないことや実施可能な資格者の不足により,加算条件を満たした上で多くの入所者に実施することは困難であった.しかし認知症は,介護施設における医師や介護職員の負担の増加や,社会的責任の重度化につながる重要な問題である.認知症リハビリテーションを日々の生活の中に浸透させ長期間行うためには,医師の指導のもと介護職員により実施することが有用であると考えた.  今回の結果から,認知症リハビリテーションを介護職員が行い,周辺症状を含む認知症が改善される可能性が示唆された.しかし,長期間効果が維持できるかは不明であり,今後さらなる検討が必要と考えた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-19
軽度認知機能障害(MCI)患者を対象とした精神科デイケアの取り組み
浅見大紀,羽田舞子,新沼舘卓也,石川正憲,新井哲明,朝田 隆(筑波大学附属病院)
【目的】近年,人口の高齢化に伴い,認知症およびその予備軍とされる軽度認知機能障害(mild cognitive impairment:MCI)の患者数が増加し,早急な対応が求められている.MCIが認知症に移行するまでの期間を延ばす,あるいは移行率を低下させることが,認知症患者数の減少につながると考えられる.その方法として,これまで有酸素運動や認知機能訓練などが報告されているが,その有効性について一致した見解は得られていない.  当院では,2013年4月,MCI患者を対象に,これまでの研究で有効性が報告されている有酸素運動,認知機能訓練,芸術療法などのプログラムを組み合わせた新たな精神科デイケア(認知力アップデイケア)を開設した.今回,プログラムの内容とその成果について,若干の考察とともに紹介する.
【方法】当院の認知力アップデイケアに平成25年4月15日〜平成25年11月25日の間に通所した20名のMCI患者を対象とした.  平成25年12月25日時点における登録者数は66名(男性32名:女性34名)であり,平均年齢71.0±7.4歳である.  プログラムは,絵画療法を主体とした芸術療法,ストレッチ,筋力トレーニングなどを組み合わせた運動療法,種々の楽器を用いた即興演奏と歌唱による音楽療法,コンピューターを用いた認知機能訓練,回想法などを組み合わせて実施した.  評価指標としてMini‐Mental State Examination(MMSE),Alzheimer's Disease Assessment Scale‐cognitive subscale(ADAS‐cog),Alzheimer's disease cooperative study‐activities of daily living(ADCS‐ADL)などを用いた.結果はSPSS Statistics ver.22を用いて統計学的検討を行った.
【倫理的配慮】参加者に学会発表に関する説明を口頭および書面にて実施し,書面による同意を得た.
【結果】デイケア開始時および約半年後に上記の評価を実施できた参加者数は20名である(M:F=14:6,平均年齢71.5±5.7歳,平均参加回数19.3回).MMSEの平均値はデイケア参加前後において変化は認められなかった(p<.159).ADAS‐cogでは有意な改善が認められ(p<.030),下位項目では,遅延再生において有意な改善が示された(p<.023).さらに,多くの参加者において,会話が増えた,明るくなった,琴の教室に再び通い出したなどの日常生活における活動性の増加が認められた.
【考察】本デイケアプログラムを,20名のMCI患者に半年間施行した結果,認知機能および活動性に改善が認められた.プログラムが多岐にわたるため,各プログラムの個別の有効性については不明であり,今後の課題である.また,評価指標上の改善以外に,認知症への移行率が低下するかどうかも今後の重要な検討課題である.MCI患者がこのように新しい人的・物理的環境に集い,様々な知的・身体的刺激を受けることが認知機能の向上や日常生活の改善に影響を与えることが示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-20
短絡遮断術により認知機能と脳MRI 所見が改善した門脈大循環短絡による肝性脳症の1例
山口雅靖,布村明彦,大槻正孝,安田和幸,玉置寿男,保延直美(山梨大学精神科),佐藤光明(山梨大学消化器内科),岡田大樹(山梨大学放射線科),井上泰輔,前川伸哉,坂本 穣(山梨大学消化器内科),荒木拓次,大西 洋(山梨大学放射線科),榎本信幸(山梨大学消化器内科),本橋伸高(山梨大学精神科)
もの忘れと易怒性を主訴に来院し,門脈大循環短絡による肝性脳症と診断された症例を経験した.短絡遮断術の結果,認知機能と脳画像所見の改善が認められ,示唆に富む症例と考えられた.
【倫理的配慮】報告において個人が特定されないよう配慮し,匿名下での学会発表について本人,家族より書面にて同意を得た.
【症例】69歳男性.
[家族歴]両親が血族婚で,家系内に内臓奇形が多発している.
[初診までの経過]X−13年に当院消化器内科で肝内門脈静脈シャントが指摘されたが,無症状で肝予備能評価指標Child‐Pugh 6点であり,経過観察となった.X−7年ころから営業車の軽微な衝突事故を反復し,X−6年に退職した.X−2年から突然怒り出したり,命令口調になることが目立ち始めた.X年にもの忘れを自覚したため,当院精神科を受診した.
[初診時所見]比較的おだやかで,意識清明.HDS‐R=25点.羽ばたき振戦なし.血中アンモニア170μg/dlと高値であり,脳MRIのT1強調画像で淡蒼球高信号が認められた.また,脳波は基礎波が8〜9Hzで,三相波は認められなかった.
[術前経過]当院消化器内科にて血中アミノ酸組成異常と造影CTによる門脈静脈シャントの存在が確認され,門脈大循環短絡による肝性脳症と診断された.薬物療法(アミノ酸製剤,ラクツロース)では検査値や症状が改善されなかったため,X+1年に当院放射線科にてカテーテルによる短絡遮断術が行われた.
[術後経過]薬物療法継続下に血中アンモニア値は50〜80 μg/dlに低下し,認知機能検査上の改善が認められた(表).また,脳MRI上の異常所見も改善された(図).他方,家族によれば,易怒性の改善は乏しかった.
【考察】近年,門脈大循環短絡による肝性脳症に対するカテーテル治療の報告が国内外で散見される.治療可能な認知機能障害をきたす疾患として,肝性脳症を鑑別に挙げる意義が再確認された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-21
生活の広がりが認知機能や運動機能に与える影響;Elderly Status Assesssment Set を使用して
上原光司,小杉 正,是永優華,後藤友希恵,榎本有希,保原啓志,石原拓郎,西田明日香,松下浩尚,大井康史,西島浩二(社会医療法人愛仁会高槻病院技術部リハビリテーション科),欅  篤(社会医療法人愛仁会高槻病院診療部リハビリテーション科)
【目的】初期もの忘れ外来診療の中で認知機能や運動機能だけではなく,心理社会的側面の評価をする必要性を感じ,地域在住高齢者の介護予防評価として日本理学療法士協会が開発した 『Elderly‐status Assessment Set』(以下E‐SAS)を導入した.その中の『生活の広がりLife‐Space Assessment』(以下LSA)に着目し,認知機能や運動機能にどのような関連を示すのか調査を行ったので報告する.
【方法】対象は2012年7月〜2013年12月の間に,当院初期もの忘れ外来を初めて受診された97名(男性39名,女性58名)で平均年齢は76.8±7.0歳.全例独歩可能で日常生活は自立していた.E‐SASの構成は,理学療法士が直接的・専門的な視点から評価する運動機能及び動作能力指標と,それらの能力向上の波及効果として向上が期待される心理社会的評価項目で『LSA』『ころばない自信』『入浴動作』『歩くチカラ』『休まず歩ける距離』『人とのつながり』の6つの指標から成り立っており,実際に計測や聴取しスコアを記載した.運動機能検査の内容は,運動器の痛み,転倒歴や運動習慣を聴取し,BMI,握力,大腿四頭筋筋力,10m歩行,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位を測定した.神経心理検査は,Mini‐Mental State Examination(以下MMSE)を今回の研究対象とした.またE‐SASの基準値に準じてLSAが84点以上を一般高齢者,83点以下を特定高齢者や要支援群とし2群に分けて統計解析を行った.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た.
【結果】全対象者のBMIは21.9±3.2kg/m2,握力は25.3±7.9kg,大腿四頭筋筋力体重比は0.46±0.12kgf/kg,10m歩行は6.8±2.7秒,TUGは7.8±2.7秒,開眼片脚立位は20.0±11.3秒,E‐SASの『LSA』は88.7±27.2点,『転ばない自信』は35.6±5.5点,『入浴動作』は9.9±0.5点,『休まず歩ける距離』は5.5±0.9点,『人とのつながり』は15.4±6.6点だった.LSAとの相関係数は10m歩行,MMSE,人とのつながりの項目で中等度の相関(r=0.4)を認めた.またLSAの点数で2群に分けると84点以上が62名,83点以下が35名であり,年齢,握力,大腿四頭筋筋力体重比,10m歩行,TUG,開眼片脚立位時間,MMSE,転ばない自信,休まず歩ける距離,人との繋がりの項目で有意差を認めた.
【考察】本研究では,当院初期もの忘れ外来を受診した97名を対象とし,LSAが運動機能や認知機能にどのように関連しているのかを検討した.LSAに関する先行研究では,生活空間の狭小化が高齢者の生理的予備能の低下を示す事象であり,虚弱発生の独立した予測因子であると報告されている.本研究でも,LSAは歩行能力やMMSEそして人との繋がりの項目に関連しており,LSAが低いと運動機能が有意に低下していることが分かった.更に,LSAの低下による虚弱発生に伴い,転ばずに活動することに対する自己効力感も低下し,より動く自信がなくなる悪循環が考えられた.  LSAはADL・IADL障害と密接な関係があると言われており,本研究の結果からも運動機能面だけではなく『LSA』や『人とのつながり』などの心理社会的要因にも着目して運動指導を行うことで,より非薬物療法としての効果を得られる可能性が示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
T-22
The self-efficacy based memory training program for healthy non-dementic elderly
Hong Jun Jeon, Seolmin Kim, Seung-Ho Ryu(Department of Psychiatry, Konkuk University,Konkuk University Hospital, Seoul, Korea)
Objectives:According to the increase of the older people, the need for effective methods to maintain or improve cognitive functions in the elderly becomes increased. However, there are few effective non‐pharmacologic and cognition based treatment for preventing and improving cognition. Specialized and self‐efficacy basedcognitive enhancing methodmay contribute to prevent elderly cognitive decline by aging and dementing illness. Here, we aimed to provide the effective memory training program for normal healthy older people so as to improve cognition or prevent disease causing dementia.
Methods:Meta‐memory training program (MMTP) based on memory self‐efficacy theory was developed by psychiatrists and psychologists in accordance to Korean situation. We applied the MMTP to the community‐dwelling healthy elderly with subjective memory complaints. 112Participants were randomized to receive the MMTP (intervention) with non‐treatment 89controls. This programconsists of 10 sessions and has once a week schedule. Comprehensive neuropsychological tests for pre‐treatment and post‐treatment werecompared by well‐trained psychologists between two groups.
Results:In general linear model analysis, the changes of baseline and post‐treatment scores in participants were significantly higher than in controlsin verbal short‐term delayed cuedrecall (F=4.85, p<0.05), verbal long‐term delayed free recall (F=4.48, p<0.05), and delayed recall of visual memory (F=4.985, p<0.05) We excluded the effect of changes in depressive symptoms on cognitive performance.
Conclusion:It seems that MMTP has an effect on the improvement of cognitive performance in the normal older adults. This strategic and memory self‐efficacy based approach may be an effective tool for preventing cognitive decline and dementia like disease in the elderly.
T-23
Cognitive Stimulation as Therapeutic Modality for Early Dementia and Mild Cognitive Impairment ; A Meta-Analysis Study
Kayoung Kim, Ji Won Han, You Joung Kim(Department of Neuropsychiatry, Seoul National University Bundang Hospital, Seongnam, Korea), Joon Hyuk Park(Department of Neuropsychiatry, Jeju National University Hospital, Jeju, Korea), Seok Bum Lee, Jung Jae Lee (Department of Psychiatry, Dankook University Hospital, Cheonan, Korea), Hyun-Ghang Jeong (Department of Neuropsychiatry, Korea University Guro Hospital, Seoul, Korea), Tae Hui Kim(Department of Neuropsychiatry, Dongin medical center, Gangneung, Korea), Ki Woong Kim (Department of Neuropsychiatry, Seoul National University Bundang Hospital, Seongnam, Korea, Department of Psychiatry, Seoul National University, College of Medicine, Seoul, Korea,
Department of Brain and Cognitive Science, Seoul National University College of Natural Sciences, Seoul, Korea)
Background:There is a commonaspect that lack of cognitive activityaccelerates cognitive deterioration in normal ageing as well as dementia. Cognitive stimulation is an intervention for people with dementia, which involves various activities mainly aim to cognitive improvement. Although cognitive stimulation is frequently used in clinical settings, there is inconsistency about the effectiveness due to its various manner and small size of studies.
Objectives:To evaluate the impact of cognitive stimulation for patients having early dementia or mild cognitive impairment.
Search Methods:The trials for meta‐analysis were selected from academic databases including PubMed, EMBASE, The Cochrane library, and psychINFO.
Selection criteria:All RCTs of cognitive stimulation figuring out the effectiveness for dementia or MCI, including negative findings, which involved outcome measures of global cognition, behavior, memory, frontal function, mood, and quality of life were eligible.
Data collection and analysis:Data were reexamined by two reviewers using our data extraction format. Reviewers performed data extraction and checked risk of bias of included studies.
Methods:The total literature yields were 5,118 articles. After we excluded 4,467 articles after deleting duplicated data, 335 RCTs were suitable for qualitative research. 21 RCTs of cognitive stimulation met our inclusion criteria and eight studies were excluded in final meta‐analysis because those different controls group settings. Meta‐analyses were performed with 1421 participants, 798 receiving cognitive stimulation and 623 receiving usual care. Results showed that individuals having dementia or MCI obtain moderate benefit that cognitive stimulation improves global cognition (MMSE, standardized mean difference(SMD) 0.481, 95% CI 0.308 to 0.654; ADAS‐Cog, SMD 0.379, 95% CI 0.217 to 0.542), quality of life (SMD 0.445, 95% CI 0.157 to 0.734), and communication (SMD 0.471, 95% CI 0.180 to 0.762).
Results:Although there was only little evidence for improvement for mood and behavioral problems due to various measurement modalities, it promotes from multiple trials that cognitive stimulation programmes benefit cognition, quality of life and communication.
Keywords:Cognitive stimulation, Dementia, MCI, Meta‐analysis

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