6月13日(金) 9:30〜10:10 ポスター会場(707会議室,7F)
地域医療・福祉
今井幸充((医・社)翠会和光病院)
P-B-1
郵送による生活機能調査回答未返送の後期高齢者を対象とした訪問調査;調査協力依頼未回答群の特性と,ハイリスク群の1年予後
井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所,東京医科歯科大学医歯学総合研究科血流制御内科),稲垣宏樹,杉山美香,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】地域在住のハイリスク高齢者の特徴を明らかにすることを目的として,自治体が実施する介護予防二次予防対象者把握事業としての郵送調査の回答未返送の後期高齢者を対象とした,訪問による健康調査を行った.
【方法】@東京都A区在住の65歳以上の全高齢者の中で,10月から3月生まれ,要介護要支援未認定の者を対象として,郵送によるアンケート調査を行った.郵送調査票の回答が未返送だった1701人(未回収率38.2%)の内,75歳以上の637人から134人を抽出して訪問調査を行った.訪問調査では,訪問看護師の聞き取りによるアンケート調査とMMSE,精神科医によるCDRと包括的リスク評価を行った.A昨年度訪問調査を実施した,郵送調査票回答未返送,要介護要支援未認定後期高齢者43人の内,CDR≧0.5だった13人を対象に,1年予後の追跡調査を行った.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所の倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】@訪問調査対象者134人に調査協力依頼文を送付し,61人から回答を得た(回収率45.5%).調査協力可の回答を得られた25人と,調査協力依頼に回答がなかった73人から抽出した高齢世帯の56人の,計81人に対して訪問調査を行った(表1).A 1年予後調査対象者13人のうち,介入を行ったハイリスク事例6人(CDR=0.5が3人,CDR=1が3人)の,1年後の医療・介護サービス利用状況は,CDR=0.5だった1人は転倒・骨折による入院を機に介護認定を受け,他の2人には動きがなかった.CDR=1だった2人は専門外来を受診して医療・介護保険サービスにつながったが,困難事例化が予想された1人については諸機関の連携の不備により介入が中断されていた.
【考察】@‐1訪問成立率は,調査協力依頼に回答があった群で84.6%,なかった群(高齢世帯)で33.9%だった.@‐2今回の調査では,自治体が実施する郵送調査の回答未返送者の中に,住民票の住所地に居住実態のない者が26.7%含まれ,特に,郵送調査回答未返送かつ自治体に電話番号登録のない群ではその頻度は40%であった.このような高齢者は居住地の自治体でも把握されていないことが考えられ,適切な行政サービスにつながることの困難さが予想される.また,同群には行政レベルの対応を要する困難事例が含まれていた.A訪問調査で検出される地域に潜在するハイリスク事例では,介入から1年間で医療・介護保険サービスが導入できた事例は半数であった.介護保険制度の枠組みの中で処遇することが難しいハイリスク高齢者に対して,介護保険サービス外の自治体独自のサービスによる支援体制を構築していく必要がある.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-2
高齢者の日中の眠気は主観的記憶障害に関連する;「町田市こころとからだの健康調査」より
岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),宇良千秋(東京都健康長寿医療センター研究所),宮前史子(東京都健康長寿医療センター研究所,横浜国立大学大学院環境情報学府),佐久間尚子,稲垣宏樹,伊集院睦雄(東京都健康長寿医療センター研究所),井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所,東京医科歯科大学医歯学総合研究科血流制御内科),新川祐利(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),杉山美香,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】近年,日中の眠気が認知症発症の危険因子であるという報告がなされており,認知機能との関連が注目されている.本研究の目的は地域在住高齢者の日中の眠気の関連要因を探索するとともに,主観的記憶障害との関連を明らかにすることである.
【方法】対象:東京都町田市の特定地区に在住の全ての65歳以上高齢者7,682名. 調査方法:郵送留置き回収法による自記式アンケート調査. 調査項目:日中の眠気の尺度は日本語版エプワース眠気尺度(Japanese version of Epworth Sleepiness Scale,以下JESS)を採用し,先行研究に従って10点以上を過度の眠気と定義した.JESSおよび主観的記憶障害に加え,人口統計学的要因,身体的健康関連要因,精神的健康関連要因,社会的健康関連要因を調査した.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】7,109名から調査票を回収し(回収率92.5%),ここから,既に施設入所していた者と白紙回答,さらにESSに欠損値を含む663名を除いた6,269名を解析対象とした.
【結果】全体のJESS平均(標準偏差)は4.6(3.7)で,男性は5.0(3.8),女性は4.4(3.7)であり,男性で高かった(p<0.05).なおJESSは高得点ほど眠気が強い.全体で6.7%,男性の7.9%,女性は5.6%に過度の眠気がみられ,男性で多かった(p<0.05).過度の眠気を目的変数とした多変量ロジスティック回帰分析では「主観的記憶障害がある」(OR,6.08;95%CI,3.61−10.26),「男性」(OR,1.75;95%CI,1.27−2.41),「閉じこもり」(OR,1.97;95%CI,1.23−3.15),「精神的健康度不良」(OR,2.58;95%CI,1.91−3.49),「情緒的ソーシャルサポートの欠如」(OR,1.70;95%CI,1.13−2.56),「脳卒中(脳出血・脳梗塞など)」(OR,1.75;95%CI,1.12−2.73),「外傷(転倒・骨折など)」(OR,1.50;95%CI,1.08−2.08),「認知症(アルツハイマー病など)」(OR,3.02;95%CI,1.48−6.14),「肥満」(OR,1.47;95%CI,1.07−2.03)が関連した.
【考察】地域在住高齢者の過度の眠気と最も強い関連を示したのは主観的記憶障害であった.  本研究は,1)記憶障害および日中の眠気が客観的に評価されていない,2)日中の眠気を生じる要因として,薬物や睡眠障害などの関連疾患が検討されていない,という限界を持つ.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-3
高齢者のうつ状態の変遷及ぼす影響
兪  今(公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団)
【目的】高齢者において,約2〜3割はうつ状態であると報告されている.本研究は,うつ予防・支援対策の手ががりを見い出すため,3年間の縦断研究を行い,高齢者特有な要因が抑うつ状態の変遷にどのように影響しているのかを明らかにすることを目的とした.
【方法】新潟県N市(高齢化率25.2%)において,65歳以上の基本チェックリスト参加者の中からうつリスク該当者(うつ項目の5項目中,2項目以上該当者)2,916人を抽出し(基本チェックリスト認知機能低下該当者,要介護認定者,転出,死亡,調査不能者を除く)自記式調査票を用い,郵送法によるベースライン調査を平成22年に実施した.さらに有効回答が得られた者を対象に1年後と2年後に2回追跡調査を行い,3時点とも有効回答が得られた1,705人を本研究の分析対象者とした.その内訳は男性37.9%,女性62.1%,平均年齢は77.2(±5.7)歳であった.  評価指標は抑うつ状態(GDS),関連指標は不眠(AIS),不安(STAI)老研式活動能力(TMIG),主観的幸福感(FEQ)と基本属性からなるものである.分析は2年後の抑うつ状態の変遷(改善,維持,悪化群別)と各指標の関係を見た(制御変数:ベースライン時のGDS得点,性,年齢,経済状況).
【倫理的配慮】本研究に関連して取り扱われる個人情報は,個人情報保護条例に沿った上で,あらかじめ文書により交付し,本人の同意署名を得た上で行った.なお,調査,データの解析,公表時に問題がないかを公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団の倫理委員会の審査を受け,承認を得た.
【結果】2年間の間にGDS得点の有意な増加が見られた(p<.001).また,AIS得点の有意な増加とTMIG得点の有意な低下が認められた(p<0.001).状態不安と特性不安は有意な変化は認められなかった.  抑うつ状態を有する者の割合はベースライン時48.2%,1年後は48.2%,2年後は50.2%を占め,明らかな変化は見られなかった.2年後にうつ状態の改善割合は11.6%,悪化割合は13.8%であった.  ベースライン時の性,年齢,経済状況を制御後,改善群,維持群,悪化群別AIS,SAI,TAI,TMIG得点の変遷をみた結果,ぞれぞれの指標において有意な交互作業が認められた(p<0.001).ベースライン時のGDS得点をさらに制御しても同様な結果がえられた.改善群ではAIS,SAI,TAI,TMIGそれぞれの指標の改善がみられる一方,悪化群では悪化が認められた.
【考察】地域在住高齢者において2年間の間に生活機能の低下,抑うつ,睡眠の悪化が見られた.また,うつ状態改善及び悪化は不眠,不安,活動能力の変化の影響を受けることが明らかになった.以上の結果から,地域高齢者のうつ予防・支援を考える上では生活機能の向上を図るとともに不眠,不安の改善が有益な支援策と考えられる.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-4
関西医科大学附属滝井病院精神神経科外来における10 年後転帰;平成15 年脳血流検査実施患者を対象として
鈴木美佐,吉村匡史,諏訪 梓,嶽北佳輝,西田圭一郎,木下利彦(関西医科大学附属滝井病院精神神経科)
【はじめに】認知症医療において早期診断,早期治療は,症状の進行を抑えこむことや,家族の疾患理解につながり認知症の当事者が安心して在宅で生活を継続できることにつながる.認知症ケアの提供が必要となった際に,認知症の重症度や病型の診断が確定されていると,介護計画も立案しやすくなる.しかし,認知症かどうかの診断を受けたことがなく,経過のわからないまま処遇困難事例になると,治療入院を行っても,地域移行に難渋し社会的入院に移行しかねない.そのことを防ぐべく適切な医療資源の配分をめざし,各地域では認知症連携パスが展開されている.
【目的】当院では脳血流検査が実施でき,結果は早期診断に有用である.しかし,脳血流検査は脳機能画像検査として,MRIなどの頭部形態画像検査に比べると,早期診断に有効であるが,一方で患者への身体的侵襲,経済的負担ともに大きな検査である.そのため,物忘れを主訴に精査目的で来院された全例に実施する検査ではない.  検査を受けることのできた患者さんの10年を経過した平成25年に当科に通院を継続している者,転医や施設入所など当科での診療を終結することができたもの,転帰確認ができないものでどのような傾向があるかを把握することで,安定して外来通院を継続できる要因は何かを考える.
【方法】平成15年1月1日から12月31日までの間に,当院放射線科で脳血流検査(IMP)を受けた患者を対象とし,その10年後である平成25年に当科通院の継続,治療中断,入院などの転帰に関してカルテをもとに検証を行った.
【倫理的配慮】当院における個人情報後の取り扱いを踏まえ,数量化した.
【結果】平成15年1月から12月の1年間において,脳血流検査を受けたものは延べ183人であった.その内,精神神経科外来において物忘れを主訴とし鑑別診断や治療効果判定のために検査を受けた延べ118人(実人数98人)について検討を行った.その内40人は平成15年以前に初診をした者であり,臨床治験や,抗認知症薬での薬物療法開始後の治療効果判定のために複数回目の検査を受けていた.年齢層は最高年齢で88歳での検査を受けている者も複数あり,若年発症の鑑別診断だけに実施していたわけではなかった.また,早期診断に必要と考えていても,初診時の神経心理検査でMMSEの点数が既に4点であった者もあり,点数にもばらつきがみられた.
【考察】若年発症や初期認知症が疑わしく検査を実施することを考えても,社会的状況では,医療費自己負担は高くなるため,自立支援医療(精神通院)制度などの活用を考えるとタイムリーな検査が困難なことや,通院に同行する家族の時間的負担もあった.晩発型であっても,家族の協力のもと検査を受けることのできた者もあった.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月13日(金) 10:10〜11:00 ポスター会場(707会議室,7F) 
非薬物療法・介護負担感・ケア
山口晴保(群馬大学大学院保健学研究科)
P-B-5
LED を用いた照明環境が認知症高齢者の睡眠および認知状況に及ぼす影響
岡本和士(愛知県立大学看護学部),北川邦行(名古屋大学エコトピア研究所,愛知県立芸術大学),久野 覚,吉田友紀子(名古屋大学大学院環境学研究科),田上恭子,中谷こずえ,廣田こころ,中川真里果(愛知県立大学看護学部),小林英樹(愛知県立芸術大学),宮地清和,高田誠一郎(ミヤチ株式会社)
【目的】現在普及が進んでいる白色LEDの光には青色の波長が含まれ,これがヒトの睡眠に深く関与するメラトニン分泌が抑制的に作用を有するとの報告が散見されてきたが,私の知る限り,睡眠状況及び認知状況に及ぼす影響を検討した報告は皆無といえる.そこで,本研究はこの照明システムの効果の実証的検証を目的として,認知症病棟の入院患者を対象に,共同研究者が概日リズムの調整を目的として開発した白色LEDを光源とする青色の波長を自動的に調整できる照明(以下照明システムとする)を導入し,その前後での唾液中のメラトニンの分泌量に加え睡眠状況及び認知状況の変化について比較・検討を行った.
【方法】対象は三重県内の1病院にて認知症による65歳以上の入院患者のうち,家族から同意が得られた7名を対象とした.メラトニンは予め設定した7調査日(導入3日前と導入開始と開始から7日,14日,21日,28日および導入終了3日後)の午前8時と午後6時に2回脱脂綿を舌下に留置する方法で唾液から採取した.なお本検討では7調査日すべてで唾液及び生活状況に関する情報が得られた5名を解析対象とした.メラトニンは,7調査日の午前8時と午後6時に2回脱脂綿を舌下に留置する方法で唾液から採取しELISA法で測定した.青色の波長の強度は,朝〜昼間>夕方>夜間となるように設定した
【倫理的配慮】本研究は愛知県立大学看護学部の承認を受けた.
【結果】 1.照明設置前後で唾液中のメラトニン濃度を測定した結果,対象者全員で設置後のメラトニン濃度は顕著な現象を認めた.  2.設置前後の睡眠状況や認知状況を比較した結果,対象とした5名ほぼ全員に睡眠状況特に夜間の覚醒,早期覚醒および夜間の興奮に,また認知状況にも改善が認められた.  さらに,会話の状況に関しても,設置前に「つじつまが合わなかった」者すべてが,「簡単な会話が通じる」ようになっていた・
【考察】本研究にて,昼間に蛍光灯にない青色の波長を加えたLED照明を用いたことにより,昼間のメラトニン分泌の抑制を認めた.さらに,睡眠状況や認知状況も改善の傾向を認めたことは,昼間のメラトニン分泌の減少に伴い,日中のセロトニンの分泌の増加により認知機能の向上,さらに夜間のメラトニン分泌増加による睡眠の改善が生じた結果と推測された.  これらの知見は,今後高齢者における不眠や認知症に対するスペクトル・セラピーの確立に示唆を与える知見と考えられた.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-6
睡眠障害を有する在宅高齢者に対する認知行動療法
佐藤大介(千葉県立保健医療大学)
【目的】睡眠障害を有する在宅高齢者に対してグループ認知行動療法を実施し,その実施可能性を検討することを目的とする.
【方法】精神科外来を利用し,睡眠の質や維持に関する訴え,あるいは,早朝覚醒の継続に関する訴えを有する在宅高齢者のうち,医師により不眠症の診断を受けた者を対象とした.Morin(2004)らのプログラムをもとに認知行動療法を実施した.7回のグループセッションと1回の個人セッションから成り,セッションは1回60分実施した.1グループは4名から9名の小グループに編成した.各セッションの内容は,第1回グループセッションで睡眠効果に関する心理教育,第2回グループセッションで睡眠衛生とリラクゼーション,第3・4回グループセッションで睡眠習慣の再構成と睡眠薬の作用の理解,第5・6回グループセッションで認知再構成,第1回個別セッションで睡眠に関する個別的要因,第7回グループセッションで日常生活における認知行動療法実践の工夫とした.プログラムの運営は,認知行動療法の経験を有する作業療法士が行い,各セッション後には,セッション記録をもとに,睡眠障害を専門とする医師よりフィードバックを得た.プログラム前後の評価項目として,睡眠習慣の評価に睡眠日誌及び朝型夜型質問紙,睡眠に起因する倦怠感の評価にFlinders Fatigue Scale,睡眠の質の評価にピッツバーグ睡眠質問票を用いた.
【倫理的配慮】調査実施施設の倫理審査委員会の承認を得,また,対象者本人より文書で同意を得たうえで実施した.
【結果】参加の条件に合致し,プログラムに参加した対象者は39名であり,プログラムに最後まで継続して参加した対象者は36名(平均年齢63.90±5.42歳)であった.介入の前後を比較して,有意な改善を示した主要項目は,睡眠潜時,睡眠効率,睡眠の質であった.また,不眠症状の程度,生活満足度において有意な改善を示した.
【考察】本調査で用いた,睡眠障害に対するグループ認知行動療法は,不眠症を有する在宅高齢者に実施可能であり,睡眠状態および不眠症状に影響を与えうるプログラムであることが示唆された.本調査を踏まえ,今後,比較対照群とサンプルサイズを考慮して本プログラムの効果を検討することが必要である.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-7
地域の認知症相談からみる家族のニーズ;街ぐるみ認知症相談センターにおける家族相談の検討より
稲垣千草,根本留美,川西智也,並木香奈子(日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター),野村俊明(日本医科大学基礎科学・心理学),北村 伸(日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター)
【目的】認知症診療において家族の存在は重要である.医療機関では,家族からの聞き取りが診断/治療に一定の役割を果たす.日常でも,現状は家族が患者の生活を支える部分が大きい.今回,認知症患者だけでなく認知症が心配な方を含めて「地域における認知症相談」という枠組みで受けた家族相談の事例より,家族が抱えるニーズを探り,求められる支援について検討した.
【方法】2013年4月〜11月に,家族のみで当相談センターに初回来所しIDを取得したケース46件(52名)に関して,カルテの記載より相談内容を家族のニーズとして分類し支援について検討した.
【倫理的配慮】対象者には,来所時に当相談センターの研究活動と発表時の匿名性の厳守について説明を行い,書面にて同意を得ている.
【結果】相談者の続柄:娘25名(48.1%),妻6名(11.5%),嫁6名(11.5%),息子4名(7.7%),夫3名(5.8%),兄弟姉妹3名(5.8%),孫2名(3.8%),その他親族3名(5.8%),主な相談者の年齢:30代2名(4.4%),40代12名(27.7%),50代14名(31.1%),60代9名(20%),70代5名(11.1%),80代3名(6.7%),対象者の年齢:50代1名(2.2%),60代6名(13.0%),70代13名(28.3%),80代21名(45.7%),90代5名(10.9%),相談者と対象者の同別居:同居22件(47.9%),別居24件(52.2%),対象者の居住形態:独居7名(15.2%),高齢者世帯15名(32.6%),独身の子と同居10名(21.3%),子ども家族と同居(二世帯含め)10名(21.3%),施設2名(4.3%),その他2名(4.3%),認知症の診断:なし34件(73.9%),あり11件(23.9%),不明1件(2.2%),相談内容:「認知症を疑う症状(未診断)」34件(73.9%),「医療のかかり方」22件(47.8%),「対応方法」13件(28.2%),「介護負担」10件(21.7%),「本人の受診拒否」5件(10.9%),「介護保険/サービス利用拒否」3件(6.5%),「認知症症状(既診断)」3件(6.5%),「医師とのディスコミュニケーション」3件(6.5%),「その他」6件(13.0%)
【考察】最も話題になったのは対象者の諸症状である.対象者の変化が健常の範囲内であろうと判じられるケースはなく,次に医療機関へのかかり方が話題となるケースが多い.既に家族が受診を促したが本人が拒否しているケースもあるが,未だ受診を試みていないケースが多数である.対象者の症状やかかりつけ医の有無,既往等により適切と思われる診療科や医療機関は異なる.家族関係や対象者の性格等により受診の声かけにも工夫が必要である.早期発見・早期治療の重要性が認識されてきてはいるが,その為には今一歩,個別の具体的な助言が必要と考える.「対応方法」「介護負担」の相談に対しては家族への心理教育的な支援が望まれよう.サービスにつながらなかったり,医師とのディスコミュニケーションが話題となったケースもある.認知症は単一の機関で支えられる疾患ではないが,支援のネットワーク構築は必ずしも容易ではない.専門医,かかりつけ医,福祉,家族をつなぎ,本人と家族を支えるネットワークづくりを視野に入れた相談対応が望まれる.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-8
レビー小体型認知症の一高齢者女性におけるwandering 関連行動と気象との関連
青木萩子,成澤幸子,齋藤君枝(新潟大学医学部保健学科)
【目的】認知症にみられるwanderingは生活上危険な側面を有する.アルツハイマー病認知症ではwandering関連行動に影響する気象として平均気温と相関し,平均風速は負の相関を示す結果が得られたと報告した.レビー小体型認知症による認知機能低下や注意・遂行機能障害,視空間機能障害においてwandering関連行動と気象との関連性を把握するために1事例を通して検討する.
【方法】対象はDewingのScreening for wandering(2005)でwandering発現可能性有と判断された77歳女性でレビー小体型認知症.地域のグループホームに居住.施設職員が対象のwandering関連行動(行動)を直接観察法でAlgase Wandering ScaleU(AlgaseU)30項目と,Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS)25項目を観察・記録した.期間は平成22年11月から平成25年3月まで,季節毎に各2週間観察した.行動は1日1回以上見られたら「有」と判定した.気象データは居住地最寄りの観測所データを用い,行動と気象データをspearmanの順位相関係数を求め,有意差のあった行動を目的変数に,気象データを説明変数とし判別分析で影響要因を検討した.有意水準は5%未満とした.
【倫理的配慮】新潟大学医学部倫理審査委員会の承認を得た.協力施設の承諾,対象への研究協力の説明は対象と対象の家族に行い,家族の同意署名を得た上で実施した.
【結果】 1.対象の概要:認知症度判定基準はランクV,要介護度3である.内服薬は当初塩酸ドネぺジル(5mg),抑肝散,レボドバであったが,平成24年7月に前2薬が中止になった.普通体型で,眼鏡を使用し,聴力障害はない.  2.行動と気象との関連:観察した日は計126日であった.AlgaseUでは「障害物にぶつかる」「1か所をグルグル回る」「空間失認」がみられ,平均気温と相関(r=0.498,0.544,0.393)し,日照時間とも相関(r=0.460,0.507,0.381)を示した.ADASでは,「幻視」「予定以外のその他の不安」「独りぼっちの恐怖」が平均気温と相関(r=0.237,0.470,0.477)を表わし,日照時間とも相関(r=0.330,0.389,0.491)を,「予定以外のその他の不安」は降雪量と負の相関(r=−0.272)を示した.  3.判別分析結果:「障害物にぶつかる」は1番目に平均気温が,2番目に日照時間が影響し(判別的中率92.1%),「空間失認」は日照時間,次いで平均気温(判別的中率84.1%)が,「幻視」では平均気温,そして降雪量(判別的中率76.2%)が影響すると判別された.
【考察】レビー小体型認知症の特徴である空間失認および障害物に体がぶつかる行動は平均気温の比較的高い状況でみられ,アルツハイマー型認知症と類似の傾向を示す.しかし,幻視の発現においては平均気温と降雪量とが相反する気象条件で,夏季と冬季の二極化を示唆する結果である.  本研究は,平成22年度科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究「気象情報を活用したwandering高齢者の安全な生活実現」の研究成果の一部である.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-9
認知症の介護負担感とSense of coherence の関係
松下正輝,石川智久,小山明日香(熊本大学生命科学研究部神経精神医学分野),長谷川典子(神戸大学大学院医学系研究科精神医学分野),一美奈緒子,池田 学(熊本大学生命科学研究部神経精神医学分野)
【目的】Sense of coherence(SOC)は慢性的なストレスやライフイベントなどの人生における逆境を経験した際に,ストレスに対して成功的に対処し,健康を保持,増進させる能力である.これまで,SOCは様々な健康問題に関係していることが報告されており,ストレスへの対処能力の一つの要因であると考えられている.本研究では,認知症者の介護者のSOCと介護負担感の関係を検討し,SOCのストレッサー緩衝効果を明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は,地方都市の65歳以上の地域住民から無作為に1000名を抽出し,研究への参加同意の得られた511人のうち,主たる介護者である家族に対して聞き取りを実施可能であった,229名の地域在住高齢者とその家族を対象とした.  認知症重症度を評価するため,Mini‐Mental State Examination(MMSE)を実施し,Clinical Dementia Rating(CDR)に関する聞き取りを行った.認知症の診断は,精神科医,または神経内科医が行った.主たる介護者の介護負担感の評価についてはZarit介護負担尺度日本語短縮版(ZBI)を用いた.SOCについてはSOCスケール13項目版を用いて評価を行った.
【倫理的配慮】研究の参加について十分に説明を行い,地域在住高齢者,およびその家族から,それぞれ書面による参加同意を得た.また,本研究は熊本大学大学院の承認を得て実施した.
【結果】本研究に参加した高齢者のうち,MCI,および認知症者は78名であった(CDR=0.5,54名;CDR=1,9名;CDR=2,7名;CDR=3,8名;不明5名).  78名の認知症者とその介護者において,介護者のストレス対処能力と介護負担感の関係を明らかにするため,従属変数をZBI score,独立変数を年齢,性別,教育歴,MMSE,SOCとした重回帰分析を行った結果,MMSE(β=−0.28,t=−2.68,P=0.009)とSOC(β=−0.42,t=−4.10,P<0.001)がZBIと関連することが明らかになった.さらに,ZBIのうち,Personal strain(介護を必要とする状況に対する否定的な感情の程度)が,Role strain(介護によって社会生活に支障を来している程度)よりも,密接に介護負担感に関係していることが明らかになった(β=−0.41,t=−4.04,P<0.001).
【考察】本研究の結果から,認知症者の認知機能の低下と介護者の低いSOCが介護負担の増加と関連していることが明らかになった.認知症者の認知機能のみならず,介護者のSOCといった個人的要因が介護負担感に影響していることから,ストレス対処能力の低い介護者に対して一層の支援が必要である可能性が示唆された.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
6月13日(金) 11:00〜11:40 ポスター会場(707会議室,7F)
医療施設・その他
水野 裕((社医)杏嶺会いまいせ心療センター・認知症センター)
P-B-10
認知症要支援者の自動車運転に係る現況及び外出に関する自治体への要望
水野洋子,荒井由美子(独立行政法人国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
【目的】本研究は,要支援認定を受けた者(以下,要支援者)の外出・移動に関する実態把握を企図して実施した「日常生活における外出・移動手段に関するアンケート(主任研究者:荒井由美子)」において,特に,認知症要支援者に着目し,「自動車の運転状況」及び,外出を可能とするために「市区町村へ要望する事項」を明らかにすることを目的とした.
【方法】全国の40歳以上の一般生活者のうち,以下の a)〜 c)の回答者条件を満たした2,000名に対して,Web調査を実施した(2013年2月実施).  a)両親,義父母,配偶者の中で,「要支援1」又は「要支援2」の認定を受けている者がいる.  b)上記 a)の外出状況を,ある程度,把握している.  c)上記 a)の外出状況について代理で回答することが可能である.
【倫理的配慮】本研究の調査対象者は,対象者自身の自由意思に基づいて,自ら調査モニターとして登録をしている者である.なお,調査の実施に際しては,本研究の意義及びデータの管理,使途について事前に説明し,同意を得た上で実施した.
【結果】(1)回答者の内訳:男性1,112名(55.6%),女性888名(44.4%),平均年齢は56.9歳であった. (2)要支援者の内訳:男性543名(27.1%),女性1,457名(72.9%),平均年齢は83.0歳であった.また,「要支援1」が691名(34.6%),「要支援2」が867名(43.4%),「要支援だが1か2か不明」が442名(22%)であった. (3)認知症要支援者の運転状況:要支援者2,000名のうち,認知症要支援者は395名(19.8%)であった.395名のうち,運転免許取得者は133名であった.この133名の中から,入院患者及び施設在住者を除いた124名のうち,既に「運転免許を返納した」者は82名(66.1%)であった.一方,「未返納だが殆ど運転をしていない」者は32名(25.8%)であり,調査の時点において「運転を継続していた」者は10名(8.1%)であった. (4)市区町村に対する要望:認知症要支援者の外出を可能とするために,在住する市区町村に対して要望する事項を尋ねたところ,最も多かった回答は,「外出の機会・場の拡充」であった.次いで,認知症要支援者の外出や移動を可能とするための,「代替移動手段」の確保に関する要望が確認された.なお,「バリアフリー化」や,「付き添い・見守り」といった支援を望む見解も把握された.
【考察】認知症要支援者の運転免許取得者(124名)の中には,「運転を継続していた」者も確認されたが,「運転免許を返納した」者も含めると,9割は「自主的に運転を控えている」ことが推察された.なお,市区町村に対する要望からは,代替移動手段の確保は元より,それ以前の問題として,認知症要支援者にとって,安全な形での外出可能な場や機会が少ないことが示唆された.認知症要支援者が,外出自体を控えてしまわぬよう,今後は,場や機会の提供を含めた外出・移動支援の実施が重要と思われる.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-11
秋津鴻池病院における認知症治療病棟の現状と今後の役割;認知症治療病棟の機能とその評価
洪 基朝,福島慎一,西千亜紀,芝田友吾,赤枩弘庸,平井基陽(医療法人鴻池会秋津鴻池病院),岸本年史(奈良県立医科大学精神医学教室)
【目的】秋津鴻池病院の認知症治療病棟の現状を分析し,今後の果たすべき役割を考察する.
【方法】平成24年12月1日〜平成25年11月30日までの間,当院の認知症治療病棟に入院した患者を対象とした.入院患者の入院経路と退院先を分析し,認知症治療病棟の問題点などを考察した.
【結果】入院患者93名のうち,73%にあたる68人が自宅からの入院であったが,自宅から入院した患者が自宅へ退院となるのは18%にとどまった.また,平均在院日数では,自宅から自宅へ退院した患者(以下A群とする)の在院日数は平均60日で,自宅から施設へ退院となった患者(以下B群とする)の在院日数の平均は95.2日であった.また,A郡とB郡のそれぞれのMMSEの平均は16.4と12.6点であった.さらに入院時の認知症の自立度については,A群とB群とでは,A群の方がより自立度が高い傾向にあった.
【考察】認知症患者の在宅生活を支えていくには,早い段階での認知症の評価や,早期の段階での薬物調整を含めた入院治療も検討していく必要があることがわかった.学会当日には結果の詳細と考察を含めて発表する予定である.
【倫理的配慮】報告にあたり,個人が特定されないよう倫理的な配慮を行った.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-12
認知症介入困難事例に対する事態打開策としての虐待通報
新里和弘(東京都立松沢病院精神科),今井紀子,鈴木美里,米林徳子(東京都立松沢病院社会復帰支援室),厚東知成,大島健一,齋藤正彦(東京都立松沢病院精神科)
【目的】介入の困難な認知症事例に関して,虐待通報が事態打開策として機能した事例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】今回の発表に際し,一部情報を改変するなど,個人情報が特定されないよう配慮を行った.
【事例】被虐待者は88歳女性.虐待者はその息子である.夫は数年前に他界し,現在は息子と2人暮らし.息子は定職に就いておらず,母親の年金をあてにしているところがある.被虐待者は80歳頃より,物忘れが出現.同じ話を繰り返す,夜寝ないで騒ぐ,などの行動が出現するようになった.87歳時,当院を初診(初診時には虐待情報は捉えられていない).初診時,長谷川式で11点,MMSE 14点で近時記憶を中心に低下が認められ,中等度のアルツハイマー型認知症と診断した.初診後1か月経った頃,「夜眠らないで騒ぐ,何とかしてほしい」と息子からSOSの電話あり.相談の結果,当院認知症病棟に入院治療の運びとなるが,入院日の夕刻,「こんな変な人たちがいるところに母を預けられない」と息子が一方的に主張し連れ帰った.入院時の被虐待者の様子は,風呂も入っていない状態と思われ不潔.ネグレクトが疑われた.その後外来は中断.半年後の88歳時,息子から隣家から苦情が来たので,「寝かせてほしい,睡眠薬を出してほしい」と再度診察の依頼あり.外来で薬物調整を行った.同時期より地域包括から息子による虐待があるのでは,といった情報があがるようになった.外来再開から1カ月経った時点で,再び息子から「もう家でみられない」と,入院を希望する電話が入り,同日認知症病棟に入院とした.被虐待者は不潔が著しく,あごには古い絆創膏が貼られたまま.高血圧も放置され収縮期血圧200以上であった.入院翌日に息子の面会あり.「外を散歩させたい」と外出を希望し,そのまま許可なく自宅に連れ帰った.3日間全く連絡を拒絶したため,関係者に混乱を招いた.院内の虐待対策検討委員会を急きょ開催し,「虐待事例」と決定し,院として通報を行った.区の判定会議においても「虐待事例.緊急事態・措置対応」の判断となった.この判断に基づき当院に入院の依頼があった(高血圧など身体治療も必要とされたため).息子の反対を押し切る形で,某日当院に首長同意の医療保護入院となった.現在,施設にて生活中.現時点で息子には入所先は知らされているようであるが,面会は許可されていない.
【考察】介入の困難な認知症事例の中には,介護者に問題が存在する事例が少なくない.そこに虐待という事実がつかめた場合には,虐待通報が,事態を打開する一法として機能する可能性がある.ただし,強制力を行使する際の責任の所在や事後のフォローアップなどいくつかの重要な問題が存在する.それらに関して考察を行う.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-B-13
身体疾患と認知症による生活破綻で入院した2 症例;合併症による処遇の差
古田 光(東京都健康長寿医療センター精神科,東京医科歯科大学精神科),扇澤史子,筒井啓太(東京都健康長寿医療センター精神科),福島康浩,三瀬耕平(東京都健康長寿医療センター精神科,東京医科歯科大学精神科),萩原寛子(東京都健康長寿医療センター精神科),菊地幸子(東京都健康長寿医療センター精神科,東京医科歯科大学精神科),須田潔子(東京都健康長寿医療センター精神科),粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所),松下正明(東京都健康長寿医療センター精神科,東京都健康長寿医療センター研究所)
【はじめに】認知症患者の処遇を決めるにあたり,認知症の重症度,BPSD,身体合併症などの医学的な要因と,ソーシャルサポートやキーパーソンの有無,経済状況などの社会的要因がある.当院は東京都区部にある550床の二次救急指定総合病院であるが,東京都認知症疾患医療センターの指定を受けており,また,精神科閉鎖病棟30床があるため,身体合併症を伴った認知症患者の入院が多い.身体疾患と認知方による生活破綻で入院し,合併症の管理の困難さの差で処遇が異なった2症例を若干の考察を加え提示する.
【症例提示】■症例1,82歳女性.#アルツハイマー型認知症(CRR1)+もともと精神疾患を疑う #肝硬変(HCV+)治療中断
 独居,身寄りなし.X−25年頃からゴミ屋敷問題を繰り返していたが,X−1年ほど前から道に迷って保護されたり,ものとられ妄想を訴えたり,と認知症の発症が疑われていた.不潔に対する近隣苦情も増え,包括支援センターが区に相談し,当院認知症専門相談室(以下相談室)に連絡があった.X年肝硬変の評価治療および認知症の評価,BPSDの対応目的で当科に入院した.BPSDは投薬なく落ち着くも,肝硬変,心不全に対して食餌療法と投薬が必要であったが,厚く介護サービスを導入しても身体疾患管理は困難にて療養型病院に転院した.
■症例2,75歳女性.#アルツハイマー型認知症(CDR1) #高度貧血
 独居,貯金を崩して生活している,兄弟とは疎遠,電話をする従姉妹はいる
 数年来健康診断受けず.X−2年頃からもの忘れあったが,継続した医療や介護サービスにはつながらず.X年外出先で倒れており他院に救急搬送されHb6.0の高度貧血認め入院を指示されたが,本人拒否した.食事管理,金銭管理などできず生活破綻しており,当科に医療保護入院した.入院時は強い拒否を示し以後も焦燥が強まるときがあったが,支持的な関わりと向精神薬の調整で病棟には適応できた.精査の結果貧血は栄養不良によるものと診断され輸血と鉄剤投与で改善した.介護保険サービスの導入で服薬・食事の管理可能と判断し,自宅退院を試すこととなった.
【考察】2症例はいずれも,身体疾患の管理不良とBPSDによる強い逸脱のため入院となった.症例1では服薬管理および食事療法の施行が在宅では難しく,自宅退院はかなわなかったが,症例2は独居ではあるが服薬頻度少なく,介護保険サービス内で服薬管理可能であったため,自宅退院が可能となった.認知症の程度やBPSDだけでなく,合併症治療も患者の処遇の決定に強く関わるため,認知症発症で身体疾患管理が途切れぬような関わりも大切であると考える.
※個人情報に配慮し,症例の骨子を損なわない範囲で症例を変更した.
 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.