6月12日(木) 9:30〜10:10 ポスター会場(707会議室,7F)
神経病理・遺伝学
入谷修司(名古屋大学医学部精神医学教室)
P-A-1
FUS 遺伝子変異(R521S)を有する家族性筋萎縮性側索硬化症の家族例
池田智香子(岡山大学精神神経病態学,南岡山医療センター臨床研究部),横田 修(岡山大学精神神経病態学,南岡山医療センター臨床研究部,きのこエスポアール病院),長尾茂人(岡山大学精神神経病態学,南岡山医療センター臨床研究部),石津秀樹(慈圭病院),原口 俊(南岡山医療センター神経内科),鎌田正紀,池田和代(香川大学神経難病講座),高田忠幸,久米広大,出口一志(香川大学消化器神経内科),森田光哉(自治医科大学神経内科),市原典子(高松医療センター神経内科),寺田整司(岡山大学精神神経病態学,南岡山医療センター臨床研究部),内富庸介(岡山大学精神神経病態学)
【目的】家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)の一部ではFUS遺伝子変異が認められるが,なかでもR521C変異を有する家系が多く報告されている.我々はFUS遺伝子にR521S変異を有するALS症例の臨床像と病理学的特徴,及びこの例の長女でALSを発症した症例の臨床像を報告する.
【倫理的配慮】剖検例は南岡山医療センター倫理委員会の承認を,生存例は本人の同意を書面で得た.
【症例1】死亡時45才男性.家族歴:長女がALS.39才時に上肢,次いで下肢の脱力が出現し神経内科受診.初診時,嚥下障害・構音障害なし,舌萎縮はないが線維束攣縮あり.四肢に筋萎縮を認め,上腕二頭筋,手関節屈筋群,前脛骨筋の筋力低下.膝蓋腱反射亢進.病的反射なし.感覚,小脳,自律神経系に異常なし.頭部MRIで異常所見なし.運動神経伝導速度は正常,複合筋活動電位低下,筋電図で活動性慢性脱神経所見あり.43才時,四肢遠位筋萎縮が著明.左Babinski反射,Chaddock反射陽性.嚥下障害は目立たず.人工呼吸器使用せず,全経過5年10ヵ月.臨床診断ALS.
【症例2】33歳女性.家族歴:父親がALS.33歳で話しにくさ,飲み込みにくさが出現,その後両上肢の脱力が出現し神経内科受診.初診時,構音・嚥下障害あり,舌萎縮なし,筋線維束攣縮あり.胸鎖乳突筋,僧帽筋,頸部屈筋伸筋,三角筋,上腕二頭筋筋力低下.上肢近位筋筋萎縮と線維束攣縮.膝蓋腱反射亢進.病的反射なし.感覚,小脳,自律神経系に異常なし.頭部MRIや神経伝導検査正常.筋電図で急性及び慢性の脱神経所見あり.存命中.遺伝子検索にて両例でFUS遺伝子にR521S変異あり.
【病理】脳重1,108g.肉眼的に大脳,小脳,脳幹の萎縮を認めない.組織変性・神経細胞脱落:頸髄下部,胸・腰髄の脊髄前角で高度.脊髄の錐体路変性も明らか.クラーク柱,後脊髄小脳路は保たれる.舌下神経も高度に脱落.中心前回,視床,ルイ体,赤核,橋核では軽度から中等度の神経細胞脱落.小脳では白質が高度に変性し,虫部上部の顆粒細胞が減少.プルキンエ細胞,分子層は保たれる.線条体,淡蒼球,辺縁系,大脳新皮質は著変なし.残存運動神経細胞にBunina小体なし.好塩基性封入体:下オリーブ核,橋核に認め,一部は内部に好酸性の顆粒状又は桿状構造を含む.FUS病理:NCIを島回,扁桃核,脊髄前角,後索に少量,橋核,下オリーブ核に中等量認める.Coiled body様のグリア内封入体(GCI)を淡蒼球,赤核,橋核,小脳白質に中等量,中心前回,被殻,視床,前頭橋路/皮質脊髄路,下オリーブ核,錐体路,歯状核,脊髄前角,前索,側索,後索に少量認める.αインターネキシン病理:下オリーブ核,脊髄前角に認めず.p62陽性構造:小脳歯状核,基底核に認めず.神経原線維変化,Aβ沈着,αシヌクレイン病理,TDP‐43病理,嗜銀顆粒,tufted astrocytes,astrocytic plaquesは認めず.
【考察】両例で上肢近位筋の筋力低下を認めた点,更に症例2では頸部筋の筋力低下を認めた点は,R521C変異例の特徴的な症状と類似していた.病理学的にはNCIよりGCIを広範囲に多く認めた点が特徴的であった.
本報告は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-2
アルツハイマー病におけるAPOE ε4 保有と認知機能の関連性;年齢依存的な認知機能への影響
永田智行(東京慈恵会医科大学精神医学講座,東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部),品川俊一郎(東京慈恵会医科大学精神医学講座),Bolati Kuerban,柴田展人,大沼 徹,新井平伊(順天堂大学医学部精神医学講座),中山和彦(東京慈恵会医科大学精神医学講座),山田 尚(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部)
【目的】本研究ではアルツハイマー病(AD)患者のなかで,アポリポタンパクE(APOE)遺伝子多型ε4の保有と認知機能が年齢別に関連しているかを調査することが目的となる.
【方法】本学における研究へ参加した200人の認知症連続例のなかから,133人のAD患者を抽出しAPOEε4保有の有無を制限酵素断片長多型(RFLP)法を用いて同定した(遺伝子型同定は順天堂大学医学部精神医学講座で施行).遺伝子型同定後,保有者群(ホモタイプ,ヘテロタイプ)と非保有者群の2群に分け,神経心理検査:Mini‐Mental State Examination(MMSE),前頭葉機能検査(FAB)の全スコアとその下位スコアを比較した.さらに70歳代,80歳代の世代別で同様の2群間比較を行った.統計学的手法として群間比較にはマン・ホイットニーU検定を用いた.
【倫理的配慮】本研究参加に際し,患者とその家族の双方から書面で事前に同意を得ている.また,患者の個人を特定できないよう連結不可能匿名化を行っている.本研究は,本学倫理委員会の承認を得ている. 
【結果】80歳代で,APOEε4保有者のMMSEスコア(P=0.02)とその下位スコアである3段階指示スコア(P=0.003)が有意に低下していた.それら神経心理検査スコアの有意な低下に,疾患罹患期間の交絡的な影響はなかった.また,70歳代では2群間の神経心理検査スコアに有意差は見られなかった.
【考察】本研究の結果はAPOEε4保有が,より高齢なAD患者(80歳代)の認知機能に影響しており,さらにいくつかの神経認知機能のなかで比較的単純な行程を伴う課題に影響し得ることが示唆された.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-3
プリオン蛋白遺伝子codon 180 変異を伴うクロイツフェルト・ヤコブ病の一例
松岡 究,安野史彦,北村聡一郎,木内邦明,小坂 淳,岸本年史(奈良県立医科大学附属病院精神医学講座)
【目的】今回,われわれはプリオン蛋白遺伝子codon180変異を伴うクロイツフェルト・ヤコブ病の一例を報告したので報告する.
【方法】症例報告である.
【倫理的配慮】本症例の報告にあたって,個人が同定されないように配慮し,理解を損なわない程度で内容の一部を改変した.匿名化した発表において,本人及び家族より同意を得た.
【結果】症例は73歳男性.主訴:物忘れ.既往歴:高血圧.家族歴:特記事項なし.現病歴:同胞3名中第1子.右利き.出生発達に特記事項なし.中学校卒業後は実家で農業を営んでいた.X−7年に妻と死別してからは,長男夫婦や孫と4人暮らしをしていた.X年3月頃より,1年前までは出来ていた家業の花の世話ができないようになった.夜中に起きて家の中を徘徊することも時折あった.同年6月頃より,徐々に他の農作業もできないようになった.会話により意思疎通はできるものの,お金の桁を間違えたり,物品名を思い出せなかったりすることが度々あった.同年8月10日,心配した家人に連れられ,A精神科病院を受診した.アルツハイマー型認知症の診断にて,donepezilを中心とした薬物療法が開始となった.しかし,同年9月には人の話を聞かなくなり,会話が成立しなくなるなどの急速な認知症状の進行がみられた.精査目的にて同年10月1日に当科を初診となった.初診時の診察において,部分的にしか会話は成り立たず,自らの名前を言うこともできなかった.心理検査ではMMSE 6点,HDS‐R 3点と低値であり,頭部MRIでは海馬などの萎縮は軽度であったが,拡散強調画像では皮質に散在性の高信号が認められた.認知機能低下の進行が早い点も考慮し,ミオクローヌスや脳波での周期性同期性放電はみられなかったが,クロイツフェルト・ヤコブ病を疑った.プリオン蛋白遺伝子解析を行ったところcodon180の変異が認められ,脳脊髄液中の14‐3‐3蛋白が陽性であった.進行性認知機能障害を呈する他疾患が否定的であったことより,プリオン蛋白遺伝子codon180変異を伴うクロイツフェルト・ヤコブ病と診断した.
【考察】プリオン病は正常プリオン蛋白が伝播性を有する異常プリオン蛋白に変化し,中枢神経内に蓄積することにより神経細胞変性をおこす稀な致死性疾患である.認知症状,ミオクローヌス,脳波上の周期性同期性放電の古典的三徴が有名であるが,これらを認めない病型も存在する.特にプリオン蛋白遺伝子codon180変異を伴うクロイツフェルト・ヤコブ病は,ミオクローヌスや周期性同期性放電は稀であり,プリオン病の中でも進行が緩徐であるため,アルツハイマー型認知症と鑑別が困難なことがある.当日は上記症例について若干の考察を加えて報告する.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-4
解剖データから見た老年期精神障害;連続剖検記録を基にした解析
内山裕之(東京都立松沢病院精神科),新里和弘(東京都立松沢病院精神科,東京都医学総合研究所老年期疾患研究部門),厚東知成(東京都立松沢病院精神科),河上 緒(東京都医学総合研究所老年期疾患研究部門,横浜市立大学附属病院精神科),大島健一(東京都立松沢病院精神科,東京都医学総合研究所老年期疾患研究部門),入谷修司(名古屋大学精神科),齋藤正彦(東京都立松沢病院精神科)
【目的】現在においても,解剖で新たな知見が得られることはしばしば経験される.特に病因不明の疾患の多い精神・神経疾患においては,病理解剖の重要性は論をまたない.当院には長期にわたる解剖データが存在する.それらを解析することは,今後の老年疾患の変化や傾向を知る上で,重要な示唆を与えてくれるものと考えられる.当院の解剖例2500例余りのうち,特に老年期精神障害を中心にしてその特徴を検討した.
【方法】大正7年に当院が現地に開院以来解剖が行われており,大正11年からの連続剖検番号は2380(平成25年12月末の時点)である.解剖台帳は大正9年からのものが現存しており,その台帳を基に検討を行った.
【結果】大正10年から同15年までの6年間で222例の解剖が行われている.男女比はほぼ6対4である.臨床診断では,Dementia PraecoxとKatatonieを合わせた統合失調症圏が39.7%,Dementia paralytica(進行麻痺)が28.1%,初老期及び血管性を含む認知症圏が6.2%,Idiodic(精神発達遅滞)が5.5%,てんかん関連が5.5%,Paranoides(妄想性障害)が3.4%であった.解剖までの平均時間は16.3時間,全身解剖と局所解剖の比率はほぼ7対3であった.
【考察】診断は時代により異なり,抗生物質のなかった時代を反映して,進行麻痺が統合失調症圏に次ぐ割合を占めていた.現在の当院の解剖では認知症疾患が解剖全体の半数以上を占め,統合失調症がそれに続いて4分の1程度であることから,現在との違いは明らかである.昭和,平成年間も含めて解析し,老年期精神疾患の時代に伴う変化・特徴を報告する予定である.
【倫理的配慮】データ解析にあたっては,プライバシーの保護に十分な配慮を行った.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 10:10〜10:50 ポスター会場(707会議室,7F)
疫学
角 徳文(東京慈恵会医科大学医学部精神科)
P-A-5
高齢患者の内科的管理と認知機能の関係について
阿部庸子,豊島堅志,佐々木真理,下門顕太郎(東京医科歯科大学老年病内科)
【目的】高齢者医療現場では合併症や認知機能,家庭環境に配慮した治療計画が必要である.特に糖尿病においては,低血糖が認知機能の低下を誘発し不可逆的な精神障害を起こすことが知られている.東京医科歯科大学老年病内科の外来では,若年者より高めの目標値を据え,必要に応じ用法の簡易化につとめているが,時に入院による調整が必要となる.入院した高齢糖尿病患者の背景についての調査の一部を報告する.
【方法】2008年4月から2010年3月の間に,東京医科歯科大学老年病内科に糖尿病の教育または治療目的で予定入院した患者の後向き調査を行った.年齢・性別は不問とし,ケトアシドーシス等の糖尿病関連緊急入院や肺炎・尿路感染症等の合併症入院は除外した.電子カルテの情報から血液検査や心理検査などの情報を収集し,解析を行った.
【倫理的配慮】診療録からの情報収集であるため,患者に身体的・時間的な拘束はない.情報収集の際には,氏名・住所・病歴番号は対象とせず,別途新しい通し番号を割り当て,診療情報を整理した.そのため,それ以降の処理において患者個人を特定することはできない状態である.
【結果】対象患者は122名,全体平均年齢は67.4±12歳で,男性73名(28〜89歳,平均66.3±12.7歳),女性49名(30〜85歳,平均68.9±10.8歳)であった.入院時のHbA1cとBMIは,65歳以上(80名)で8.6±1.7%と23.4±4.1,65歳未満(42名)で10.1±2.1%と25.1±4.4であった.また,65歳以上の患者うち60名にHDS‐Rを実施した結果,平均得点25.9±4.9点となり,その得点は年齢およびHbA1cと相関が認められた.それぞれの入院目的について,外来主治医の意図をカルテの記述内容から確認したところ,若年者の入院が教育目的が主であるのとは異なり,処方調整やインスリン抵抗性の解除にあることが分かった.
【考察】高齢糖尿病患者は若年患者に比べHbA1cが極めて悪い状態になる前に入院していることが分かった.背景として,外来での処方薬の管理が困難となり,外来主治医の危惧により入院に至った経緯が考えられた.HbA1c高値と認知機能との関連が認められており,今後増え行く高齢の糖尿病患者に対しては若年患者に対する入院治療とは異なる対策が必要であることが再認された.患者背景的情報をもとに,高齢患者の基礎疾患管理と認知機能の関連について文献的考察を交えて報告する.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-6
DSM-5 における行動優位型前頭側頭型認知症の亜型分類についての考察
福田耕嗣,服部英幸(独立行政法人国立長寿医療研究センター行動心理療法部)
【目的】DSM‐5における行動優位型前頭側頭型認知症(長体使用! 注意!major Frontotemporal Neurocognitive Disorder, behavioral variant;以下,bvFT‐NCD)は“probable”と“possible”に亜型分類される.画像診断にて前頭側頭型認知症に典型的な所見が認められるものを“probable”とし,画像診断が行われていないものを“possible”と定義している.画像診断は行われているものの典型的な所見が認められない症例に関しては定義されていないため,そういった症例はbvFT‐NCDの診断基準を満たしていても亜型分類できない.ここではbvFT‐NCDの診断基準を満たし画像診断は行われているものの典型的な所見が認められない症例をunclassified bvFT‐NCDと定義し,これをbvFT‐NCDの第3の亜型分類とするのが妥当か否かを検討する.
【方法】2011年5月1日から2013年4月30日までに国立長寿医療研究センター精神科を受診し,行動優位型前頭側頭型認知症(以下,bvFTD)と診断された症例を,DSM‐5の診断基準に準拠し再診断した.なお当センターでは認知症が疑われる症例の大半に対し,画像検査および神経心理検査を含めた包括的高齢者評価を施行している.またDSM‐5以前の診断は,International consensus criteria for behavioral variant FTD1,2(以下,ICC)に準じている.
【倫理的配慮】本研究の内容は,国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けている.
【結果】ICCにてbvFTDと診断された症例は16例あり,全例がDSM‐5でのbvFT‐NCDの診断基準を満たしていた.16例中8例がunclassified bvFT‐NCDに相当した.これら8例をDSM‐5がbvFT‐NCDとの鑑別診断に挙げている疾患の診断基準と照合した.その結果,unclassified bvFT‐NCDが前頭葉優位型アルツハイマー型認知症および精神疾患である可能性は否定しきれないものの,レビー小体型認知症・パーキンソン病による認知症・血管性認知症・進行性核上性麻痺・皮質基底核変成症・身体疾患に伴う認知機能障害である可能性は低いと考えられた.またDSM‐5の鑑別診断には挙げられていないが,成人型発達障害との鑑別についても考察したが,その可能性も低いと考えられた.
【考察】本研究は後方視的な横断研究である.unclassified bvFT‐NCDをbvFT‐NCDの亜型分類として定義するためには,こういった症例を前方視的に集積し,長期経過を診てゆく必要性がある.
【参考文献】
1)Rascovsky K et al. Alzheimer disease and associated disorders 2007;21:S14‐8.
2)Piguet O, et al. Lancet neurology 2011;10: 162‐72.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-7
地域在住高齢者の悉皆調査データに基づくWHO 精神的健康状態表に関する報告;「町田市こころとからだの健康調査」より
稲垣宏樹,宇良千秋,宮前史子,佐久間尚子(東京都健康長寿医療センター研究所),新川祐利(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所,東京医科歯科大学医学総合研究科血流制御内科),伊集院睦雄(東京都健康長寿医療センター研究所),岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),杉山美香,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】WHO‐5精神的健康状態表(以下,WHO‐5‐J)は,簡便に実施可能であり,かつ信頼性,妥当性が確認された精神的健康の測定を目的とした尺度である.しかし,これまで,国内で大規模な地域在住高齢者の標準的データが報告された例は少ない.本稿では,地域在住高齢者7,682名を対象に悉皆で実施した結果について報告する.
【方法】対象:東京都町田市鶴川地区を中心とした特定地区に在住の全ての65歳以上高齢者7,682名.調査方法:郵送留置き法による自記式アンケート調査.調査項目:WHO‐5‐Jに加え,背景情報(性別,年齢,家族,婚姻,職業,教育年数),疾患,自覚的認知機能低下及び自覚的生活機能低下の項目,ADLおよびIADL,ソーシャルサポート,日本語版エプワース眠気尺度(JESS)等.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】回収率及び分析対象:7,109票(92.5%)を回収,回収率は高かった.このうち施設入居者及び欠損値の多かった対象者を除く6,932票(90.2%)が分析対象となった.さらに,WHO‐5‐Jで2項目以上欠損のあった対象者81名を分析から除外し,本稿の最終的に分析対象者は6,851名(89.1%)だった.欠損のあった対象者については残り項目の平均値を代入して合計得点を算出した.分析対象者のうち女性は3,684名(53.8%),平均年齢は73.9±6.69歳(65−101歳)だった.分散分析の結果,女性で有意に年齢が高かった(男性73.6±6.41歳,女性74.1±6.91歳,F(1,6845)=18.312,MSE=8.127,偏η2=0.003,p<0.001).  WHO‐5‐J得点の分布および平均:分布を図1に示した.平均17.1±5.18点,最頻値20,中央値17.5だった.平均得点について性別と年齢(65−74歳,75−84歳,85歳以上)による分散分析を実施したところ,ぞれぞれの主効果が有意であった.女性より男性で高く(17.3±5.17>16.9±5.19,F(1,6845)=7.323,MSE=26.146,偏η2=0.001,p=0.007),年齢が高いほど低かった(17.7±4.92>6.7±5.26>14.7±5.63,F(2,6845)=82.844,MSE=26.146,偏η2=0.024,p<0.001).また,精神的健康不良者(合計13点未満,または1項目でも0か1をマーク)1,529名(21.6%)だった.
【考察】大規模な地域在住高齢者の悉皆サンプルにおいても先行研究と同様の結果が得られた.本稿の結果は,回収率が極めて高い悉皆データに基づいており,地域高齢者の精神的健康に関する信頼性の高い結果と考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-8
認知症の人の暮らしを支える地域包括ケアシステムの構築をめざした高齢者の実態把握調査;「町田市こころとからだの健康調査」より
新川祐利(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),宇良千秋(東京都健康長寿医療センター研究所),宮前史子(東京都健康長寿医療センター研究所,横浜国立大学大学院環境情報学府),佐久間尚子,稲垣宏樹,伊集院睦雄(東京都健康長寿医療センター研究所),井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所,東京医科歯科大学医歯学総合研究科血流制御内科),岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学),杉山美香,粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】本研究の目的は,地域在住高齢者の認知機能,生活機能,身体的健康,精神的健康,社会的健康の実態を大規模サンプルで明らかにするとともに,認知症の人の暮らしを支える地域包括ケアシステムの構築をめざした自治体の認知症支援体制づくりに資する基礎資料を得ることにある.本報告では,本研究の調査方法を紹介するとともに,本調査の長所と限界について考察する.
【方法】東京都町田市の特定地域に在住する65歳以上高齢者7,682名(住民基本台帳人口)を調査対象とした.調査は3段階に分けて実施し,調査期間は,1次調査が2013年1月と6月,2次調査が同年11月から12月,3次調査が2014年1月から3月とした.1次調査では,7,682名を対象に郵送留め置き回収法(質問票を郵送し,後日訓練を受けた調査員が訪問して回収する.但し,多忙といった理由で訪問回収が難しい方は郵送返送も可とした)による悉皆調査を実施した.調査項目は,基本情報(性別,年齢,同居家族,近隣親族の有無,婚姻状況),身体的健康関連指標(主観的健康感,かかりつけ医の有無,既往疾患,運動機能),精神的健康関連指標(自覚的認知機能低下,自覚的生活機能低下,精神的健康状態WHO‐5‐J,日中の眠気JESS),社会的健康関連指標(年収,家計の状況,仕事の有無,ソーシャルサポート,近所づき合いの頻度,外出頻度)である.また,自治体の協力を得て,対象の要支援要介護認定と認知症高齢者の日常生活自立度に関する情報を収集した.2次調査では,1次調査の対象者(7,682名)から無作為抽出した3,000名のうち,死亡,転居,1次調査を拒否した者を除く2,858名を対象とした.対象者には事前に案内状を送付し,一般調査員が戸別訪問をして訪問調査に関する同意を得た上で日程調整を行い,指定された日時に訓練された看護師と一般調査員が訪問し,改めて文書による同意を得た上で調査を実施した.調査項目は,認知機能と生活機能(MMSE‐J,DASC),現在処方されている薬,既往疾患,血圧,身体の状態)である.3次調査では,2次調査の参加者のうちMMSE‐Jが24点未満の者全員(155名),24点以上の者から無作為抽出した100名を対象とし,医師と心理士による訪問調査を実施した.調査にあたっては2次調査の結果とは独立に,医師が問診(認知症疾患の診断歴の有無を含む)とCDRを実施し,熟練した心理士がMMSE‐JとFABを実施した.認知症が疑われ,かつ認知症疾患の診断歴がない場合は,専門医療機関への受診勧奨を実施した.
【倫理的配慮】本調査は東京都健康長寿医療センター研究所の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果と考察】1次調査では,7,109票が回収され(回収率92.5%),高い回収率を得た.2次調査では,1,341名に訪問を実施した(訪問実施率46.9%).3次調査の訪問実施率,各段階の有効回答率は現在解析中である.当日は3次調査の結果とともに,反応者と非反応者の分布を比較して,調査方法の長所と限界について考察する.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 10:50〜11:40 ポスター会場(707会議室,7F)
薬物療法
小田原俊成(横浜市立大学附属市民総合医療センター精神医療センター)
P-A-9
ドネペジルによりPisa 症候群を呈したレビー小体型認知症の一症例
市橋佳世子,竹内裕二,小原尚利(医療法人清陵会南ヶ丘病院),堀  輝(産業医科大学精神医学教室)
【背景】Pisa症候群は体幹の側弯,体軸の後方回旋を特徴とするジストニアの一種である.通常抗精神病薬の副作用として観察されるが,近年神経変性疾患によるものや,抗うつ薬やコリンエステラーゼ阻害薬によって引き起こされた症例も報告されている.今回,我々はドネペジルの投与によって引き起こされたPisa症候群の一例を経験したため報告する.
【倫理的配慮】匿名化しての発表には,本人及び家族の同意を得た.
【症例】69歳女性.X−2年8月より認知機能の低下と被害妄想が出現.X年10月近医外来を受診し,アルツハイマー型認知症と診断された.X年11月当院精神科へ紹介初診され被害妄想のため入院.X+1年1月ドネペジルを3mgから投与開始し5mgまで増量した.入院後幻視とパーキンソニズムを認めたため,診断をレビー小体型認知症と変更.幻覚妄想は改善したが7月に再燃を認めたため,ハロペリドール2mg/dayを投与開始,同時にビペリデン2mgを投与開始した.その後ハロペリドールはリスペリドンへ変薬し,症状の改善とともにX+2年8月中止したが,ビペリデンは継続処方した.X+3年9月ビペリデンを漸減中止したところ,中止6週間後,歩行時に増悪する体幹の右方偏位と屈曲,軽度の体軸の後方回旋を認めた.ビペリデンの筋注で一時的に症状は改善を認めたものの,数日で再度悪化した.その為ドネペジルによるPisa症候群と診断しドネペジルを中止.中止後10日で症状は完全消失した.
【考察】コリンエステラーゼ阻害薬によるPisa症候群は,これまでドネペジルによるもの以外に,リバスチグミン(Leelavathiら),ガランタミン(Cossu Gら)によるものも報告されている.Pisa症候群が引き起こされる正確な機序は明らかではないが,抗精神病薬によって引き起こされること,抗コリン薬が改善に役立つことから,アセチルコリンとドーパミンの不均衡が主要な原因であると言われている.コリンエステラーゼ阻害薬は薬剤性に中枢のアセチルコリンの過剰を引き起こすことで,Pisa症候群を誘発しうる.今回我々の経験した症例では,ドネペジルのみの投与ではPisa症候群を引き起こさなかったにもかかわらず,その後投与開始したビペリデンを中止したところ,Pisa症候群をきたした.これは長期にビペリデンを内服した結果,受容体のup‐regulationが起こりコリンの感受性が増大した結果とも考えられ,Pisa症候群の発症に過剰なコリン作用が関係するという仮説を支持するものである.もともと脳内コリン作動性神経が障害されているアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症においてはPisa症候群を起こしやすいことが推測され,これらの患者にコリンステラーぜ阻害薬を投与する際には,Pisa症候群の出現にも注意を払う必要がある.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-10
抗認知症薬の切り替えによりBPSD が悪化した一例;ドネペジル塩酸塩からリバスチグミンへの切り替え
吉見明香,勝瀬大海,浅見 剛,高石政男,河上 緒,井出恵子(横浜市立大学医学部精神医学教室),松本香織(横浜市立大学医学部精神医学教室,旭メンタルクリニック),玉澤彰英,千葉悠平,平安良雄(横浜市立大学医学部精神医学教室)
【目的】2011年よりわが国で使用できる抗認知症薬が4剤となり,治療の選択肢が増え,効果不十分である場合に他の抗認知症薬に切り替えることが可能になった.しかし,切り替えによる有効性,忍容性,安全性については知見が少ない.  今回,ドネペジル塩酸塩からリバスチグミンパッチへの変薬中に易怒性,易刺激性,暴力行為などの認知症の行動・心理症状Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)が顕著になった症例を経験したので報告する.
【症例】80歳女性.音大卒業後,音楽教師として2年仕事をした後,板金会社に就職.75歳まで取締役として勤めた.35歳で結婚.2女を設けた.現在は夫と子供2人の4人暮らし.
【現病歴】76歳ごろから同じことを繰り返し聞くようになった.自発性も低下し無為に過ごすようになった.77歳時,夫とともに当院当科初診.短期記憶障害,見当識障害などの認知機能障害をみとめMini‐Mental State Examination(MMSE)19点,長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)18点で,BPSDは顕著ではなかった.頭部MRI検査では海馬とその周囲にやや強調されるびまん性脳萎縮を認めSDATと診断され,ドネペジル塩酸塩5mg/日が開始された.その後はデイサービスの利用や趣味であった囲碁を再開したり出来,ある程度の効果がみられていた.  80歳時,意欲低下,食欲不振などみられHDSRなどの得点では変化なかったが,短期記憶障害も目立ち,再び無為に過ごすようになった.家族と相談し,リバスチグミンパッチに変更することとし,4.5mgから開始.ドネペジル塩酸塩は中止とした.一時的に変更前より明るく状態が改善しているように見えたが,9mg/日に増量した後から,些細なことで声を荒げるなど,易怒的,易刺激的な様子が見られ,娘の髪を引っ張る,肩に爪を立てるなたどの暴力行為が出現した.また夜間不眠となり,布団に起き上がりぶつぶつ独り言をいう様子が散見されるようになった.リバスチグミンパッチを中止したが,易怒性,焦燥感は残存した.このためリスペリドン1mgを開始.当院当科に入院となった.入院時には猜疑的で,敵意を強く見せ,質問に家族が答える際も「だまっててちょうだい.そんなみっともないこといわないで」などと発言していた.リスペリドンを継続投与し,様子を観察したところ,徐々に穏やかになった.このためリスペリドンを漸減中止とし,退院となった.
【倫理的配慮】症例発表につき,患者本人より書面にて同意を得ている.また患者の匿名性に配慮し個人情報には一部改変を行っている.
【考察】本症例は入院中に施行したMRI,SPECT,脳波などに初診時と著変を認めず,器質的な変化は認められなかった.このため入院前の精神症状の増悪は薬剤切り替えにおけるものと考えられた.  過去の報告ではドネペジルからリバスチグミンへの変薬の際に数%に焦燥興奮が見られるといわれている.今後抗認知症薬の切り替えは症例数が増加すると考えられ,切り替えの際にこのような変化がみられることを念頭に置いておくことが重要である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
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顕著な幻覚妄想にコリンエステラーゼ阻害貼付剤が著効したレビー小体病の1 症例;コリンエステラーゼ阻害剤の投薬経路についての考察
松永慎史,安江一朗(藤田保健衛生大学精神科,桶狭間病院藤田こころケアセンター),藤城弘樹(桶狭間病院藤田こころケアセンター,名古屋大学睡眠医学),宮原研吾,藤田 潔(桶狭間病院藤田こころケアセンター),岩田仲生(藤田保健衛生大学精神科)
【目的】レビー小体病(Lewy body disease:LBD)は,パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)とレビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)を含む精神神経疾患である.LBDの幻覚妄想に対する薬物療法の一つとして,複数の異なる作用機序を持つ,cholinesterase inhibitors(CHEI)があるが,各薬剤の特性について知見が乏しいのが現状である.今回,Donepezilの経口薬治療に対して消化器症状の副作用が出現したため,Rivastigmineの貼付剤に切り替えることで,幻覚妄想が消失した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
【方法】症例報告.
【倫理的配慮】家族の同意を得て,また個人情報保護に配慮した.
【結果】症例:68歳,女性.  主訴:幻覚妄想  既往歴:2型糖尿病  家族歴:特記すべきものなし  現病歴:X−14年幻視・幻聴が出現した.X−4年左上肢振戦にてA大学神経内科を受診し,心筋MIBGの取り込みの低下を認め,PDと診断され,抗パーキンソン病薬による薬物治療が開始された.断続的な幻覚妄想状態は認めていたものの,日常生活には影響なく,在宅生活を継続していた.X年Y月7月から幻覚妄想状態が悪化し,A大学に入院し,薬剤調整が施行されたが,幻臭,抑うつ,経口摂取困難,自殺企図を認め,Y+1月O精神科病院に電気痙攣療法(ECT)目的で転院となった.  臨床経過:ECT10クールを施行されたが,精神症状は軽度の改善であった.Y+3月いったん退院となったが,「家の者がスイッチを押し,それで体が動かなくなってしまう」という妄想から,家族へ攻撃的となり包丁を向けるようになり,同月再入院となった.内服していたDonepezil 5mgを10mgに漸増して,徐々に精神症状の改善を認めたが,消化器症状のため治療継続が困難となり,Rivastigmine貼付剤に変更した.4.5mg/日で精神症状は改善し,9mg/日に増量したところで幻覚妄想は消失し,Y+5月に自宅退院となった.
【考察】本症例は,顕著な幻覚妄想を呈し,CHEIが著効した症例である.投薬経路を変更することで,副作用を避け,薬剤量も減量できたと考えられた.LBDでは消化管運動障害を高頻度に呈し,本症例においても便秘が認められた.経口薬による薬物吸収が不安定となり,薬物の体内動態に影響を与えた可能性が考えられた.LBDにおけるCHEIの体内動態は不明であり,投薬経路の考慮も重要と考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-12
地域包括ケアにおける医薬品適正使用に関する研究(第1 報);高齢者において処方薬の削減によりQOL が上昇した事例
瀬義昌((医社)至会たかせクリニック),笹田美和((医社)至会たかせクリニック,東京臨海病院メンタルクリニック),榊原幹夫(NPO 法人医薬品適正使用推進機構,名城大学薬学部病院薬学研究室),城戸充彦(名城大学薬学部地域医療薬局学講座),五十嵐中(東京大学大学院薬学系研究科・医薬政策学講座),亀井浩行(名城大学薬学部病院薬学研究室),鍋島俊隆(NPO 法人医薬品適正使用推進機構,名城大学薬学部地域医療薬局学講座),小山恵子(楓の森メンタルクリニック)
【背景と目的】高齢者は複数の薬剤を使用していることが多く,また認知機能の低下もあるため,医薬品の適正使用が重要となる.6剤以上を服用する患者では医薬品有害反応(Adverse Drug Reaction)と関連性が強いとの先行研究もある.  そこで本院において,特に処方薬数が多く10剤以上の処方薬を服用している高齢者に対して,適正使用の観点から処方薬数を削減し,QOL(生活の質)が向上した事例を報告する.
【方法】たかせクリニックで往診診療を開始した患者の年齢,性別,削減前後の処方薬(期間,処方薬剤数,受診している医療機関数),QOL,介護度,協働した医療介護従事者による対応記録に関して調査した.医療の質を保ちつつ処方薬数を削減するため,配合剤の活用,飲み方の簡易化(1日3回から1日1回など),口腔内崩壊錠の活用などの手法を用いた.
【倫理的配慮】患者又は患者家族より文書にて学術発表の承諾を得た.
【結果】以下の3症例について,QOLを向上させつつ処方薬数の削減が可能であった.
症例1.87歳,男性.
削減前:処方薬数17種類 要介護3
削減後:処方薬数6種類(内2剤頓服)要介護2
服薬を夕食後1回に調節(1日薬価で704円分削減)した.徘徊がなくなり,デイサービスにも通うことができるようになった.
症例2.84歳,女性.
削減前:処方薬数13種類 要介護4 3つの医療機関が処方薬をそれぞれ処方していた.
削減後:処方薬数7種類 要介護3
1つの医療機関からの処方薬とした(1日薬価で1298円分削減)食欲不振,不眠により6回入退院を繰り返していたが,処方薬削減後の入院はなくなった.
症例3.74歳,女性.
削減前:処方薬数18種類 要支援1
削減後:処方薬数7種類 要支援1 糖尿病治療のインスリン注射薬も削減対象とした.(1日薬価で1119円分削減)
めまい,ふらつきがなくなり本人が心配なく買い物に出かけることができるようになった.
【考察】処方薬の削減により,3つの事例ともQOLが向上した.主治医のみならず患者及び患者家族も,処方薬の削減によるQOLの向上を実感できた.  処方薬の削減には,多職種協働での対応が必要である.例えば削減時の体調の確認には,介護職からの報告が有効であった.  また,薬剤師の関与も重要で,特に複数の医療機関から処方薬が出ている場合には,薬剤師からの薬剤情報提供が有効であった.QOLを維持・向上しつつ薬剤数削減を達成するためには,薬剤師が医師・看護師・介護関係者と連携した上で,医療チームの一員として関与することが重要と思われる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-13
メマンチン投与前後における向精神薬使用量変化の検討
花田一志(近畿大学医学部リハビリテーション医学教室,近畿大学医学部精神神経科学教室),野村守弘(近畿大学医学部附属病院薬剤部),白川 治(近畿大学医学部精神神経科学教室),福田寛二(近畿大学医学部リハビリテーション医学教室)
【目的】アルツハイマー型認知症では,中核症状に加えBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)により治療に苦慮することが多く,介護施設に入所している認知症高齢者の78%にBPSDが認められるとの報告もある.その対応として抗精神病薬や睡眠導入薬を用いることがあるが,結果として多剤併用になっていることも少なくない.メマンチンは中核症状の進行を抑制する抗認知症薬であるがBPSDへの治療的効果も報告されている薬剤である.今回メマンチン投与により,併用している向精神薬の使用量の変化を検討した.
【方法】2013年1月から2013年6月までの間,近畿大学医学部附属病院メンタルヘルス科において,アルツハイマー型認知症の診断でメマンチンの投与を開始した患者のうち,メマンチン内服が6ヶ月以上継続できた51例を対象に,年齢,性別,併用している抗精神病薬,睡眠導入薬,抗不安薬,抗うつ薬,抗認知症薬の種類,投与量をメマンチン投与時,投与6ヶ月後,12ヶ月後のそれぞれの時点で調査を行った.
【倫理的配慮】情報収集にあたり,本研究に関する統計データのみを後方視的に解析し,個人情報の保護に最大限配慮した.
【結果】51例中男性20例,女性31例で,平均年齢は74.59±7.54歳,6ヶ月後のメマンチン平均投与量は17.50±4.90mgであった.抗精神病薬を使用していた症例は14例で,使用量は,メマンチン投与時はリスペリドン換算で1.47±1.13mg,6ヶ月後0.99±0.86mg(p=0.04),睡眠導入薬・抗不安薬を使用していた症例は18例で,使用量はジアゼパム換算でメマンチン投与時6.22±4.50mg,6ヶ月後4.85±3.96mg(p=0.02),抗うつ薬を使用していた症例は10例で,使用量はイミプラミン換算でメマンチン投与時75.00mg±31.05mg,6ヶ月後43.92±48.30mg(p=0.05)であった.
【考察】メマンチンはNMDA受容体拮抗を作用機序とするアルツハイマー型認知症治療薬であり,副作用の少なさ,過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化抑制,神経細胞保護などが期待されている薬剤である.今回の調査では抗精神病薬,睡眠導入薬・抗不安薬,抗うつ薬のすべてでメマンチン投与開始時に比べて投与6か月後の併用量が減少していた.BPSDの対応は,薬物療法,非薬物療法を問わず,今後検討を重ねていく必要があると考える.発表当日はその他のデータを加え考察を行う.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 13:20〜14:20 ポスター会場(707会議室,7F)
検査@
加藤伸司(東北福祉大学総合福祉学部)
P-A-14
うつ病とアルツハイマー型認知症における認知機能の比較;COGNISTAT による認知機能の検討
磯谷一枝,古田 光,扇澤史子,今村陽子,須田潔子,菊地幸子,萩原寛子,三瀬耕平,福島康浩,筒井啓太(東京都健康長寿医療センター精神科),田中 修(翠会成増厚生病院),磯野沙月,市川幸子(東京都健康長寿医療センター精神科),粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】老年期のうつ病は,思考抑制や意欲低下,注意障害等により,認知機能の低下が見られたり,物忘れの訴えが目立つこと等から,「仮性認知症」と呼ばれ,アルツハイマー型認知症(以下,AD)と誤診されることも少なくない.また,ADもうつ状態やアパシーを呈することもあり,うつ病との鑑別が難しいことも多い.これまでにこうしたうつ病とADについては,臨床像の区別についてはある程度示されているが,両者の認知機能を比較し両者の特徴を明らかにした研究は多くない.そこで本研究ではうつ病とADの認知機能について両者を比較しその特徴を検討した.
【方法】2010年1月4日〜2013年11月21日にA病院の物忘れ外来と精神科の外来患者及び精神科病棟の入院患者の内COGNISTATを行い,且つうつ病あるいはADと診断された161名(平均年齢=77.31±7.75歳,男:女=45名:116名,外来:入院=58名:103名,うつ病:AD=50:111)を対象とした.なお,うつ病とADの合併患者は除いた.まずCOGNISTATの11の下位検査の内,「覚醒」を除く10項目において各々の素点を従属変数とし,年齢,性別,診断(うつ病・AD),受検形態(入院・外来)を独立変数とし回帰分析を行い,診断と有意に関連が認められた項目においてうつ病とADの得点の差についてt検定を行った.
【倫理的配慮】予め病院として診療データの使用の告知をし患者・家族に文書にて研究の同意を得,データは個人が特定されないように数値化した.
【結果】回帰分析の結果,見当識(β=.430,p<.001),記憶(β=.318,p<.001)において,診断が独立して関連していることが示された.さらに両項目に関してうつ病とADの比較をt検定によって検討した結果,見当識(t=−4.635,p<.001,うつ病vsAD=10.20vs8.17)と記憶(t=−3.571,0<.001,うつ病vsAD=5.75vs3.86)ともにADよりうつ病の方が有意に高かった.
【考察】まず,COGNISTATの注意,理解,呼称,復唱,構成,計算,類似,判断におけるうつ病とADの差は見られず,両者において同程度であった.すなわちこれらの認知機能に関しては近似したプロフィールであり鑑別の難しさにつながっていると思われた.一方,見当識について,COGNISTATのプロフィール上,ADが軽度障害域である一方,うつ病では日時など意欲・関心の低下に伴って多少の誤りはあるが,ほぼ正常域に相当した.また,記憶力についてもAD同様もの忘れの訴えは見られ,実際の認知機能検査においてはうつ病の方がADより記憶力が良く,COGNISTATの記憶の平均点から推測すると,ADでは全く想起できない回答が多いのに対し,うつ病では少なくともヒントや再認等の手掛かりにより想起できる可能性が高いことがうかがわれた.本研究では1度の検査のみで評価したが,うつ病であれば精神症状の改善に伴い認知機能の改善が見られたり,うつ病がADのリスクファクターとなりうるという報告も見られるため定期的に認知機能の評価を行い経過を追うことも重要である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-15
かかりつけ医が作成しやすい成年後見用診断書様式作成の試み
成本 迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学),江口洋子(放射線医学総合研究所),加藤佑佳(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学),小賀野晶一(千葉大学法経学部),澤田親男(北山病院),福居顯二(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
【目的】成年後見用診断書については,全国の各家庭裁判所が異なる様式を提供しているが,ADLに関することから精神症状まで多岐にわたる項目があり,非専門医には記載が難しい内容も含まれる1).一方で,成年後見制度利用者の急増に対処するため,かかりつけ医に作成が求められる場面が増えている.このため,非専門医であっても,財産管理能力や日常生活能力といった診断書作成にあたって評価が求められている内容について,簡便かつ正確に記載することが可能な新しい様式(京都試案)の作成を試みた.
【方法】本発表の演者が中心となり,従来の診断書様式と財産管理能力評価に関する文献2)を参考にして,成年後見用診断書に必要な項目を抽出し,原案を作成した.その後第三者後見人を務めた経験のある司法書士1名,及びかかりつけ医2名に従来の様式と比較してもらいコメントを得た.  作成にあたっては,以下の点を考慮した.1)かかりつけ医が記載を求められるのは認知症患者を対象とした診断書であることがほとんどであると考え,他の精神障害(知的障害を含む)のための評価項目は除外した.2)神経心理学や精神医学の専門用語を極力避け,記載項目を財産管理能力と日常生活能力を評価する項目に絞った.3)判定に迷った場合や状態に変動がみられる場合にチェックできる「専門医による鑑定を要する」と「定期的な再評価を要する」という項目を新たに設けた.4)類型の決定は家庭裁判所の判断であることを明確にする目的で,一部の様式に含まれていた「後見相当」等の文言は省いた.
【倫理的配慮】コメントを得た司法書士,かかりつけ医には本発表について口頭で同意を得た.
【結果】司法書士からは,家庭裁判所における審査の負担軽減のため,見当識,意思疎通,記憶力についての項目や,鑑定不要という項目を入れては,との提案がなされた.かかりつけ医からは,専門医と比較して家族との関係が深いことから,家族の意見に左右される危険性が高いことに配慮する必要があることや,専門医による鑑定が必要であることを明記できる欄があることは有用である,などの意見がきかれた.
【考察】作成者であるかかりつけ医の利便性と家庭裁判所が必要とする情報の双方を考慮し,記載が容易でかつ十分な情報が得られる診断書様式を作成することが望ましいと考えられた.
【参考文献】
1)成本 迅他.成年後見用診断書の様式に関する全国調査.老年精神医学雑誌23:74‐79,2012.
2)熊沢桂子他.アルツハイマー病患者の金銭管理能力と認知機能の関連―Financial Competency Assessment Tool(FCAT)による検討―.老年精神医学雑誌15:1177‐1185,2004.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-16
軽度認知障害の症例に対するドネペジルの長期効果の検討
井上 淳(浜松医科大学精神科神経科),星野良一(絋仁病院精神科),野島秀哲,岡本典雄(岡本クリニック)
【目的】認知症の早期治療の必要性が知られるようになり,早期の段階で治療を希望して受診するアルツハイマー型認知症(Alzheimer's type dementia:AD)の外来症例が増加し,治療開始前のClinical Dementia Ratings(CDR)が0.5の症例に対しても本人ないし介護者の希望に応じてドネペジルによる治療を行うことも少なくない.そこで,治療開始前のCDRが0.5であった軽度認知障害の症例を対象に,同時期に治療を開始した軽度認知症の症例と比較しながら臨床的特徴と長期経過の特徴を後方視的に検討した.
【方法】岡本クリニックの認知症専門外来を2004年1月から2011年12月までに受診し,1年以上ドネペジル(5mg/day)による治療を受けた症例で,治療開始前のCDRが0.5であった症例(以下A群),39例(男性11例,女性28例,平均年齢79.1±4.8歳)を対象とした.いずれも経過,記銘力や見当識の低下などから臨床的に初期のADであると診断された.同時期に治療を開始し,治療開始前のCDRが1であった症例(以下B群)は90例(男性21例,女性69例,平均年齢79.4±6.9歳)であった.対象は治療前にCDR,MMSE,Rorschach testによる認知評価(RCI)によって評価を受け,治療開始後4か月ごとに同じ評価を受けた.
【倫理的配慮】認知症の診断と予想される経過,ドネペジルによる利益・不利益を全ての症例と介護者に説明した.CDR0.5の症例については,適応外使用になることを説明し,同意を得た.また,治療期間中に得た数量データを個人が特定されない形で研究に使用することについて同意を得た.本研究は岡本クリニックの倫理委員会の承認のもとに行われた.
【結果】背景因子に関して,治療開始時点の平均年齢,性別でA群とB群の間に有意な差異は認められなかった.家族から聴取した発症と推定できる時点から治療開始までの期間はA群1.0±0.7年,B群1.6±1.0年でB群が有意に長かった(p<.001).治療期間はA群54.5±24.9月,B群41.4±22.6月でA群が有意に長かった(p<.01).治療効果に関して,短期的効果はA群ではRCIの改善傾向(p=.05)が見られたものの,MMSEでは改善が示されず,CDRでは悪化が示された(p<.05).B群ではCDRの有意な改善(p<.05),MMSE(p=.08)とRCI(p=.06)の改善傾向が示された.治療開始前のCDRを維持できた期間はA群28.4±17.8月,B群30.6±18.9月で両群間に有意な差異は認められなかった.治療開始前のCDRから1段階低下した状態を維持できた期間はA群26.8±20.4月,B群16.6±12.5月でA群が有意に長かった(p<.01).
【考察】治療開始前のCDRが0.5であったAD症例は同時期に治療を開始した軽度認知症のAD症例の半数以下であったが,家族から聴取した発症と推定できる時点から治療開始までの期間は有意に短く,治療継続期間,治療開始前のCDRから1段階低下した状態を維持できた期間が有意に長く,早期の受診と治療開始の重要性を裏付ける結果であった.一方で,これらの症例はドネペジル治療の短期的効果があらわれにくいため,治療への動機づけと治療継続のための本人・家族への働きかけが重要であると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-17
地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC)の得点分布;主な認知症と非認知症の比較
扇澤史子,古田 光,磯谷一枝,白取絹恵,畠山 啓,齋藤久美子,今村陽子(東京都健康長寿医療センター),井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所),須田潔子,菊地幸子(東京都健康長寿医療センター),岡村 毅(東京都健康長寿医療センター研究所),田中 修(翠会成増厚生病院),萩原寛子,三瀬耕平,福島康浩(東京都健康長寿医療センター),粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】近年,認知症高齢者を早期に適切な医療・介護サービスに繋げる地域包括システムの構築のために,地域医療・介護従事者の認知症アセスメント力の向上は重要な課題である.認知症アセスメントシート(以下DASC)は,記憶,見当識,問題解決・判断力,家庭外IADL,家庭内IADL,身体的ADLから成り,認知症疾患に起因する認知機能障害と生活機能障害を網羅的かつ簡便にアセスメントするツールとして開発された(粟田,2012).DASCは軽度認知症と非認知症の弁別的妥当性と信頼性が報告されているが,現場でより有効に活用されるため,主な認知症と非認知症のDASCの下位項目の特徴を知ることが有用と考えられ,本研究で比較・検討を行った.
【方法】2011年8月〜2013年11月にAかなつめ使用!センター物忘れ外来を初診し,経過,HDS‐R・MMSE等の認知機能検査,画像検査結果をICD‐10に基づいて,主治医がAD(+CVD)(以下AD群),VD,DLB,Mixed Dementia,MCI,正常(NC)と診断した65歳以上の患者のうち家族が自己記入式DASC18に有効回答した539名(患者:80.8±6.1歳,男:女=172:367,介護者:59.9±12.4歳,夫53,妻101,娘223,息子105,嫁44,その他13,同居:独居=330:209)を分析対象とした.
【倫理的配慮】本研究では,病院として診療データの使用について予め告知し,患者または家族に文書にて研究の同意を得た.また,データは数量的に処理し,個人が特定されないよう配慮した.
【結果】DASC18の各下位項目についてKruskal‐Wallis検定の後,多重比較(Bonferroni法)を行った結果,記憶と見当識はNC,MCI(以下非認知症群)がAD群より有意に低く,問題解決は非認知症群が認知症全群より低い結果となった.なおHDS‐R・MMSEは,非認知症群>認知症全群であったが,認知症の各群の間に有意差はなかった.
【考察】DASC18の下位項目のうち記憶と見当識は,AD群のみ非認知症群との差があったが,他の認知症群とは差がなかった.問題解決のみ非認知症群と認知症全群間に差があったことから,問題解決は認知症において早期に障害される機能を反映していると考えられ,地域において認知症アセスメントの際に考慮に入れることが望まれる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-18
事例報告とアンケート調査から分析する身体疾患治療にまつわる医療同意能力の現状
加藤佑佳,成本 迅,松岡照之,谷口将吾,藤本 宏,小川真由(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学,JST,RISTEX),柴田敬祐(川越病院),中村佳永子,福居顯二(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
【目的】有効なインフォームド・コンセントを得るためには患者本人の医療同意能力が保たれていることが不可欠である.しかし,わが国では同意能力評価について必ずしも十分な検討がなされてこなかった.今回,院内の臨床倫理専門委員会において精神科以外の科の医師,看護師を対象に同意能力評価の研修会を開催する機会を得たので,同意能力にまつわる課題について収集し,現状での解決策について検討した.
【方法】院内の同意能力評価勉強会に参加した医師5名,看護師7名,外部委員1名の計13名を対象に,医療行為を提供する際に同意能力の評価が問題となった事例についての提供を求めた.さらに,アンケート調査によって,@同意能力評価の必要性の有無,A同意能力評価にかけられる所要時間,B誰が評価すべきか,などについて記載を求めた.
【倫理的配慮】対象者に口頭で研究内容につき説明し,学会発表の同意を得た.
【結果】医療同意にまつわる困難事例として,1)生命に関わる程の重大な疾患でなく本人の意思や好みを反映させる余地がある場合,本人が治療を拒否するが,後に同席していない親族から批判を受ける可能性があり判断に苦慮する,2)せん妄により一過性に同意能力が低下して本人の意思が二転三転する,3)本人の同意能力がないため親族に医療行為の説明をするも,親族も同意能力が保たれているのか不確かで,かつ親族間でも意見が割れている,などが挙げられた.アンケート調査によると,@同意能力評価が必要という回答が12名(92%)と多く,同意能力の必要性は高く認識されていた.A同意能力評価にかけられる所要時間は10〜15分(2名:17%),30分(2名:17%),1時間(3名:23%)とばらつきがみられた.B評価者については精神科医という回答が最も高く(6名:46%),続いて看護師,臨床心理士,多職種で評価という回答が続いた.
【考察】これらの解決策の1つとして,1)同意能力評価によって本人の同意能力が保たれていることが確認されれば,その旨をカルテに記載しておくことで本人の意思を尊重して治療を控えたことが担保され,後に親族との間でトラブルを回避できる可能性がある.2)に関しては,日常臨床の中で繰り返し本人の意思を確認しておくことが推奨される.さらに,3)親族にも同意能力評価を行い,適切に医療への理解を有している親族の意見を参考にするといった,キーパーソンを決定するための手がかりとしても同意能力評価を活かすことができる可能性も考えられる.  今後,同意能力評価の需要がますます高まり,精神科医療が担うべき重要な役割となることが予想される.時間とマンパワーが限られた医療現場において,いかに同意能力評価を導入していくか検討する必要がある.また,精神科と他科との連携も欠かせず,専門家のみならず,他科の医師や看護師,その他コメディカルなどが施行可能な簡便なツールの開発,および日常業務の中で同意能力評価のエッセンスを広く共有して活かしていけるような教育法の開発が急務と考えられる.  
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
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アルツハイマー型認知症における血漿IGF-T,血漿Aβと認知機能の関係
木本絢子,笠貫浩史,熊谷 亮,一宮洋介(順天堂大学医学部精神医学教室,順天堂東京江東高齢者医療センター),新井平伊(順天堂大学医学部精神医学教室)
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)とIGF-Tの研究は近年盛んに行われては来たがADにおける詳細な認知機能の状態とIGF-1 ならびにアミロイドβ(Aβ)との関係についてはまだ十分に検討されていない.AD 患者における血漿IGF-TおよびAβのレベルと認知機能との関わりを調査することを目的とした.本研究において,AD患者を対象に,血漿IGF-T,血漿,Aβ40 およびその比を測定し,認知機能の状態との相関を解析した.
【方法】2008 年から2012 年の間に物忘れを主訴に当院メンタルクリニックを受診しAD またはMCI-AD と診断された81 名(男性24 人,女性57 人;46−99 歳,mean:78 歳)を対象とした.血漿IGF-TをRIA 固相法により,血漿Aβ42 およびをサンドイッチELISA 法によりそれぞれ測定した.また各対象者にMMSE およびHDS-Rを施行した.MMSE のカットオフポイント(23点)で対象者を2 群に分け,MMSE 23 点未満の者をMMSE 低スコア群,23 点以上の者をMMSE 高スコア群とした.
【倫理的配慮】本研究は当センターの倫理委員会の承認を受けており,患者・家族には書面により同意を得た.
【結果】血漿IGF-Tと年齢に有意な負の相関(ρ=−0.359,P<.01)が得られ,HDS-R(ρ=0.486,P<.01)およびMMSE(ρ=0.450,P<.01)とも有意に相関した.認知機能検査の下位項目のうち,遅延再生(ρ=0.337,P<.01),計算・逆唱(ρ=0.430,P<.01)および語の流暢性(ρ=0.355,P<.01)がIGF-と有意な正の相関を示した.血漿Aβ42/40 比はMMSE 高スコア群でのみHDS-R(ρ=0.443,P=.01)・MMSE(ρ=0.395,P=.03)と有意な正の相関を示し,下位項目では見当識(ρ=0.568,P<.01)と高い相関がみられた.
【考察】アルツハイマー型認知症とIGF-1 の関連についての研究はこれまでに多くなされているが結果はinconsistent である.本研究では,AD 患者では認知機能が損なわれるにつれて血漿IGF-1も低下していることが示唆された.IGF-Tは特に海馬の領域に多く,海馬の神経を守ると先行研究で示されているが,本研究においても認知機能の中で特に記憶の項目(「遅延再生」)が血漿IGF-1と有意な相関を示し,血中IGF-1 レベルは記憶の機能の低下と関係することが示唆された.ADの経過では,言語理解は比較的保たれるのに比べて,語の流暢性は早い段階から障害されることが多い.本研究で血漿IGF-1 と語の流暢性との間に相関がみられ,さらにtask performance の低下を示す計算・逆唱とも有意な相関がみられたので,IGF-1 がAD の進行に何らかの形で関与しているということを示唆するものと思われる.
 近年,Aβ42 やAβ40 は早期診断に有用なのではないかとの議論がされているが, 本研究でもMMSE 高得点群でのみ,血漿Aβ42/40 比がHDSR・MMSE と相関をしめした.今後更に症例数を増やして検討を加えたい.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 14:20〜15:10 ポスター会場(707会議室,7F)
検査A
中野正剛((医)相生会認知症センター)
P-A-20
もの忘れ外来初診患者を対象としたRey-Osterrieth 複雑図形検査;アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の特徴づけ
沼田悠梨子(医療法人相生会認知症センター,東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科もの忘れ外来),伊藤一弥(医療法人相生会墨田病院),中野正剛(医療法人相生会認知症センター,東邦大学医療センター大橋病院脳神経外科もの忘れ外来)
【目的】Rey‐Osterrieth複雑図形検査(以下,Reyの図と略す)は非言語性記憶機能評価尺度として認知症の記憶障害査定に用いることがガイドラインで推奨されているが,実際に臨床で実施されている報告が殆ど無い.しかし,もの忘れ外来でのReyの図の模写において,アルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症(DLB)に特徴的な描写を認める事を昨年の当学会で報告した.特に,摸写時にDLBでは「unit9‐13の連結」,ADでは「unit7の描き落とし」が多く観察されることから,今回はこれらの2点による疾患群の特徴づけを試みた.
【方法】東邦大学医療センター大橋病院もの忘れ外来を受診し診断の確定した,AD161名(男性47名,女性114名,平均年齢78.4±8.6歳と,DLB119名(男性53名,女性66名,平均年齢79.6±5.6歳)を対象に,両疾患群の初診時未治療時点における上記2所見の発現割合をオッズ比とその95%信頼区間を用いて比較した.全ての計算にはSAS ver. 9.3(SAS Institute Japan株式会社)を用いた.
【倫理的配慮】全ての情報は通常の診療行為の過程で得られたものであり,今回の報告にあたっては,東邦大学の『診療に伴い発生する試料の研究への利用についての同意説明書(包括同意)』による同意を得ている.また,個人情報の流出防止のためデータを匿名化して解析し,個人情報の保持に関して十分に配慮した.  また,本研究は医療法人相生会の倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】「unit7の正答(描き落としが認められない)」割合はDLB 49/119(41%),AD 46/161(29%)であった.そのオッズ比と95%信頼区間は1.75[1.06,2.89]と推定され,DLBはADに比べunit7の正答割合が有意に高くなることが示された.「unit9‐13の連結」割合はDLB 69/119(58%),AD 72/161(45%)であった.そのオッズ比と95%信頼区間は1.71[1.06,2.75]と推定され,DLBはADに比べunit9‐13を連結させて描く割合が有意に高くなることが示された.さらに,当該2所見のいずれかが認められる割合は,DLB 97/119(82%),AD 97/161(60%)であった.そのオッズ比と95%信頼区間は2.71[1.66,5.09]と推定され,「unit7の正答」または「unit9‐13の連結」のどちらか一方の所見が認められる割合は,DLBがADに比べ有意に高くなることが示された.
【考察】ADとDLBに異なった認知機能の障害があることは知られているが,今回のReyの図を用いた非言語性記憶機能査定において,ADよりDLBにおいて「unit9‐13の連結」「unit7の正答」が多く認められることが,統計学的有意差を持って示された.このことは,Reyの図の摸写時の所見を用いたADとDLBの特徴づけの可能性を支持するものと考える.今後,「unit9‐13の連結」「unit7の正答」に焦点を当てて,よりDLBらしさが反映される採点方法を検討する予定である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-21
五角形模写に関連する認知機能と認知症評価における有用性について;日本語版COGNISTAT を用いた検討
今村陽子,扇澤史子,磯谷一枝,古田 光,磯野沙月,市川幸子,須田潔子,菊地幸子,萩原寛子,三瀬耕平,福島康浩(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター精神科),粟田主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と介護予防研究チーム)
【目的】図形模写課題は認知症診療にかかわる多くの現場で施行されている.特にMMSEの下位検査に含まれる五角形模写は使用される頻度が最も多い課題のひとつであるが,これまで五角形模写がどのような認知機能を評価しているのか,また,その精度について十分に検討されているとは言い難い.一方,日本語版COGNISTATAは見当識,注意,語り,理解,復唱,呼称,構成,記憶,計算,類似,判断の下位検査から認知機能の多面的評価を目的とした検査である.そこで今回はCOGNISTATを用いて,五角形模写に関連する認知機能,課題としての有用性について検討することを目的とした.
【方法】2009年12月〜2013年12月に当院精神科・もの忘れ外来患者のうち,解析に必要な検査を施行しえた223名(男性:69名 女性:154名 平均年齢77.9±7.3歳 範囲53−94歳)を対象とした.HDS‐R平均:19.87±5.91点,MMSE平均:20.60±5.20点.五角形模写の正誤の基準は,10個の角があり,2つの五角形の重なりが四角であることとした(正答:182名,誤答:41名).五角形模写の正誤を目的変数,<語り>を除くCOGNISTAT下位項目の素点,年齢,性別を説明変数として2項ロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を行った.
【倫理的配慮】個人が特定されないように解析では匿名化し倫理的配慮を行った.
【結果】五角形模写の正誤について<呼称><構成>が有意に影響を及ぼしていた.(<呼称>:β=0.4,OR=1.61(95%CI[1.16−2.24],p<.01),<構成>β=0.47,OR=1.59(95%CI[1.25−2.03],p<.01)).判別的中率は83%であった.また,五角形模写正答群と誤答群の<構成><呼称>の素点についてt検定で比較したところ,ともに正答群が有意に高かった(<構成>正答群:誤答群=7.0±1.0点:6.0±1.2点(p<.01),<呼称>正答群:誤答群=3.6±1.5点:2.0:±1.6点(p<.01)).HDS‐R,MMSEの合計点にてt検定で比較し,ともに正答群が有意に高かった(<HDS‐R>正答群:誤答群=20.9±5.4点:15.2±6.0点(p<.01),<MMSE>正答群:誤答群=21.8±4.5点:15.4±4.8点(p<.01)).
【考察】以上の結果より,五角形模写が構成機能を反映していることが改めて確認された.また,<呼称>との関連がみられたことについて,視覚認知の問題以外にその物の意味,概念が把握できているかということも五角形模写課題の成否に影響を与えていると考えられた.模写課題の失敗した際には,図形が何に見えていたのかを確認することは評価に重要と考えられる.また,五角形模写正答群と誤答群の<構成>の成績は正答群でも平均5点以下と,COGNISTATのプロフィール上での軽度障害域に相当しており,また,MMSEの正答群の平均点もカットオフ値(23/24)を下回っていることから,認知症初期のレベルでも五角形模写は正答しうることが示唆された.認知症の有無の判定に重要な構成障害の早期発見のためには,五角形模写のみでは十分とは言えず,透視立方体などのより難易度の高い模写課題等を併せて行うことが有用と考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-22
コンピュータ化記憶機能検査(STM-COMET-Ver 2-)における老年期うつ病の認知機能の特徴;健常群・AD 群との比較検討
田所正典,塚原さち子,小島綾子,野口美和,板谷光希子,佐々木央我,岩藤元央,南 麻依,鈴木 慈,橋本知明,山口 登(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室)
【目的】コンピュータ化記憶機能検査(以下:STM‐COMET‐Ver2‐)における老年期うつ病の特徴を明らかにする
【対象】1)老年期うつ病(以下:Dep)群6名:65歳以上85歳未満,DSM‐〓で大うつ病性障害と診断され,長谷川式認知症スケール(以下:HDS‐R)は21点以上でアルツハイマー病の診断基準を満たさない者/2)健常(以下NC)群6名:研究協力に同意し,日常生活に支障ない高齢者/3)アルツハイマー病(以下:AD)群6名:DSM‐〓の診断基準に準じる者とし,年齢と教育歴を統制した3群を設定した.
【方法】Dep群,NC群,AD群に対し,STM‐COMET‐Ver2‐の下位検査[IVR(Immediate Verbal Recall:直後自由再生)/DVR(Delayed Verbal Recall:遅延自由再生)/DVRG(Delayed Verbal Recognition:遅延再認)/MST(Memory Scanning Test:項目再認)]の成績ならびに総得点を分散分析および多重比較を行った.〓STM‐COMET‐Ver2‐の下位検査MSTを時間経過で3パート<初等部/中間部/後半部>に分け,各群の反応時間の分散分析を行った
【倫理的配慮】聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会で承認を受け,被験者に対し説明し文書にて同意を得た.
【結果】1)各群の人数(男/女)[平均年齢(SD)/教育歴(SD)/HDS‐R得点(SD)]の内訳は,NC群6名(2/4)[72.0(4.9)歳/13.7(2.9)点/27.3(2.2)点],Dep群6名(2/4)[72.3(4.7)歳/13.7(1.5)点/26.5(3.0)点],AD群6名(2/4)[72.7(5.4)歳/12.0(2.5)点/18.3(2.5)点]で,HDS‐R得点で3群に有意差が認められた(F値=22.2). 2)下位検査の成績ならびに総得点の分散分析及び多重比較したところ,Dep群はNC群と統計学的有意差が認められず,AD群とは,MSTの反応時間を除いて統計学的有意差が認められた. 3)MSTを時間経過で3パートに分け各群で分散分析を行ったところ,NC群は時間経過とともに反応時間は短縮し,3パートの反応時間に統計学的有意差を認めた.Dep群は反応時間に統計学的有意差が認められなかった.AD群の反応時間は有意に短縮したが,NC群に比して反応時間はが有意に長かった.
【考察】老年期うつ病のSTM‐COMET‐Ver2‐のプロフィールは健常群と統計学的有意差がなく,MSTの平均反応時間の時間経過に伴った遅延も認められなかった.また,アルツハイマー病群と比べ,MSTの平均反応時間を除いて下位検査項目で統計学的有意差が認められたことより,STM‐COMET‐Ver2‐は,アルツハイマー病とのスクリーニングに活用できる可能性が示唆され,また,うつ病性仮性認知症とのスクリーニングに活用できる可能性は,MSTの反応時間と正答数の両者を含めた傾向を詳細に吟味することであることが推察された.  本研究の限界は,薬剤や罹病期間(初発か再発のうつ病かなども含む)の影響を加味していないことであり,今後の検討課題といえる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-23
長谷川式認知症スケール得点に及ぼす加齢の影響に関する研究;高齢者の認知症スクリーニングについて
塚原さち子,小島綾子,田所正典,板谷光希子,橋本知明,野口美和,岩藤元央,鈴木 慈,南 麻依,佐々木央我,山口 登(聖マリアンナ医科大学病院認知症(老年精神疾患)治療研究センター)
【目的】健常加齢に伴う認知機能の低下の程度を把握することは,認知症(病的な認知機能障害)の早期診断において重要である.我が国では,認知症スクリーニング検査として長谷川式認知症スケール(以下HDS‐R.30点満点中21/20点がカットオフ)の施行がルーチン化され,広く用いられている.そこで本研究では,早期診断補助としてのHDS‐Rの利用価値を高めることを目的に,1.各年代の健常者のHDS‐R得点における標準を把握する,2.アンケート調査を行い,かかりつけ医がHDS‐Rにおける各年代の標準をどの程度と認識しているか把握する,3.1と2の結果を比較し,実際と医師による認識との差異について検討する,の3点を明らかにする.
【対象と方法】1:健常者(人数(男/女):40歳代 25(12/13)名,50歳代 21(8/13)名,60歳代 24(12/12)名,70歳代 33(6/27)名,80歳代 26(8/18)名)にHDS‐Rを施行し,年代毎の平均得点を算出した. 2:かかりつけ医(認知症を診る機会のある地域の精神科・内科医)にアンケート調査を施行.回答者38名.「健常者を対象とした場合,40〜80歳代の各年代におけるHDS‐Rの平均得点はどの位になると思われますか?」の問いに回答を求め,HDS‐R被施行者の年代毎に予想平均得点を算出した. 3:1と2で得られた年代毎の平均得点をSPSSを用いて統計解析し,対応のないt検定を行った.
【倫理的配慮】聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会承認の上,全ての対象者に研究の主旨を説明し,書面及びアンケートへの回答をもって同意を得た.
【結果】分析の結果,70歳代と80歳代で,1に比べ2の平均得点が有意に低値であった(p<0.01).即ち認知症を診察する医師は,70歳以上の健常高齢者に対し,実際より低いHDS‐R得点を予想することが示された.
【考察】健常者でも加齢に伴いHDS‐R得点は低下するが,70〜80歳代でも27〜28点前後が標準となる.それに対し,かかりつけ医の予想は有意に低く,我々の先行研究におけるMCI群の平均得点(25.4±2.6)に相当した.特に70歳以上のHDS‐Rの標準を知ることは,より早期に認知症の可能性を見極める上で重要になると言えよう.また,HDS‐Rがカットオフに至らずとも各年代の標準を下回る場合は,その社会的・職業的機能の障害や日常生活の状況把握が,より重要な意味を持つと考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-24
地域臨床における認知症早期発見のためのMoCA-J の有用性について;街ぐるみ認知症相談センターの取り組みからの検討
根本留美,川西智也,稲垣千草(日本医科大学街ぐるみ認知症相談センター,日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター),若松直樹(新潟リハビリテーション大学医療学部リハビリテーション学科),並木香奈子(日本医科大学街ぐるみ認知症相談センター,日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター),野村俊明(日本医科大学街ぐるみ認知症相談センター,日本医科大学医療心理学教室),北村 伸(日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター)
【目的】日本医科大学街ぐるみ認知症相談センター(以下センター)は,もの忘れを主訴として来談した相談者に対して,臨床心理士がもの忘れエピソードや生活状況の聴取を行った後,タッチパネル式検査(以下TP)及びMMSEにて認知機能評価を実施している.近年TP,MMSE両検査では機能低下が明らかでないものの,本人や家族情報では何らかの機能低下がうかがわれる事例が多くなっている.そこでセンターではTP,MMSEに加え,より軽微な認知機能低下を評価するとされるMoCA‐J(Montreal Cognitive Assessment)を2011年から導入した.認知症早期発見の観点から,地域の相談所におけるMoCA‐Jの有用性について若干の検討を加える.
【方法】センター来談者のうちTP13点以上(カットオフポイント12/13)であり,かつMMSE24点以上で,もの忘れの訴えがある相談者56名(年齢68.5±10.0歳,教育年数13.3±2.6年,脳卒中等の明らかな既往のあるものは除外)にMoCA‐Jを実施した.さらにそのカットオフポイントから,MoCA‐J≧26(n=29)を操作的健常群(以下健常群),MoCA‐J<25(n=27)を操作的MCI群(以下MCI群)とし,視空間認知(TMT‐B,透視立方体模写,時計描画),命名,記憶(5語遅延再生),注意(数唱,ビジランス,計算),抽象概念,言語(復唱,語想起),見当識の各下位項目の比較を行った.
【倫理的配慮】来談者全員に相談内容や研究でのデータ使用の可能性を説明し,書面で同意を得ている.
【結果】本研究の対象者全体でのMoCA‐Jの平均得点は25.0±2.9点であった.健常群(年齢65.2±10.2歳,教育年数13.9±1.9年)とMCI群(年齢72.0±8.5歳,教育年数12.7±3.1年)の各項目における得点は,視空間認知(4.8±0.4点,4.3±1.1点),命名(2.9±0.3点,2.6±0.8点),記憶(3.7±1.0点,1.5±1.5点),注意(5.8±0.4点,5.1±0.8点),抽象概念(1.9±0.3点,1.5±0.7点),言語(2.0±0.8点,1.4±0.9点),見当識(5.9±0.3点,5.6±0.6点)であり,MCI群では視空間認知,抽象概念,記憶,見当識の得点が有意に低かった(p<.05,p<.01,p<.01,p<.05).
【考察】本研究の対象者全体のMoCA‐Jの平均得点からみて,TPおよびMMSEを通過してもなお何らかの認知機能低下を来しているケースが明らかとなり,その検出にMoCA‐Jが有効であることが示唆された.さらに,MoCA‐Jの下位項目のうち,視空間認知,抽象概念,記憶,見当識が,機能低下の検出により鋭敏である可能性がうかがわれ,認知機能評価及び認知症早期介入において重要な指針となりうると思われた.センターでは半年毎に定期的な来談を促し,継続的な相談や認知機能評価を通じて,(必要に応じて医療機関へつなげるなど)認知症の早期発見・早期介入を目指している.この点においてもMoCA‐Jの有用性が示されたが,同質の先行研究での指摘通り,本研究でも健常群,MCI群には有意な年齢差が見られた.身近な相談窓口を目指すセンターでは,様々な年齢層が相談に訪れており,MoCA‐Jを実施・評価する場合には,特に来談者の年齢に留意する必要性がある.さらに,軽微な認知機能低下を来した人への支援は,認知症の早期発見・早期介入とともに急務の課題と言えるだろう.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月12日(木) 15:10〜16:00 ポスター会場(707会議室,7F)
診断
井関栄三(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
P-A-25
英米圏における遺言能力判定の源流;The Banks v Goodfellow test
平井茂夫(入間平井クリニック)
【目的】英米圏において遺言能力の判定基準となった,古典的症例・判例を紹介する.
【方法】ヴィクトリア朝の英国における判例Banks v. Goodfellow[1870]について,成書の記載を検索・参照し,その要点を報告する.
【倫理的配慮】既に広く知れ渡った歴史的事実であり,改めての匿名化は不必要と考えた.
【結果】症例:John Banks氏 男性  Banks氏は1863年に遺言を作成した.その22年前,1841年に彼は精神症状を呈し,数か月間に渡って閉鎖処遇を受けた.その後,大昔に亡くなった人物に「付きまとわれ」,なおかつ「悪霊にとりつかれてる」との妄想に,Banks氏は悩まされていた.こうした精神症状は,1841年から彼の死(1865年)に至るまで,持続していた.  彼は莫大な資産(家15軒)を残しており,その遺言(遺産を姪に贈与するという内容)の妥当性が,法廷で争われた.  1870年,この遺言は有効であるとの判決が下された.彼の精神症状は,遺産を贈与する方法に実質的な影響を及ぼしていないと,法廷は判断した.  この判決において裁判長Cockburn卿は,遺言者が法的に有効な遺言を作成するために必要な具体的条件を列挙した.今日その内容は以下の如く要約され,“The Banks v Goodfellw test”として,およそ150年の長きにわたり,英米圏で今日まで広く尊重されている.
The Banks v Goodfellow test  1)遺言者は,遺言を作成するという行為の性質と効果を理解していなければならない.  2)遺言者は,彼が贈与する財産の範囲を知っていなければならない.  3)遺言者は,彼の贈与を求める権利者の性質と範囲を,彼が遺言に組み入れあるいは除外しようとしている両者にわたって,理解できなければならない.  4)遺言者は,彼が精神的に健全であったならばそうしなかったであろう財産贈与の方法をもたらす精神疾患を,有してはならない.
【考察】遺言能力とは,法的に妥当な遺言を作成する能力のことであり,その判定は医学でなく法律の領域に属する.その点においては英米圏であっても我が国であっても変わりはない.  法律の異なる我が国でBanks v Goodfellow testが法的効力を持たないことは自明である.  しかし,一臨床医の観点に立脚し,患者・家族から遺言に関する助言を求められた場面を想定するとき,この一連の条文は「示唆に富む助言」として受け取ることが,可能であると考えた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-26
認知症スクリーニングテストとMRI のVSRAD 画像所見が乖離した群の検討
山下裕之(久留米大学医学部神経精神医学講座,久留米大学高次脳疾患研究所,大牟田市立病院精神科),森田喜一郎,小路純央,藤木 僚,加藤雄輔,佐藤 守,内村直尚(久留米大学医学部神経精神医学講座,久留米大学高次脳疾患研究所)
【目的】平成20年から平成25年までの6年間において,久留米大学病院もの忘れ外来及びもの忘れ検診を受診された2726人において,以下を検討した.
【方法】認知症スクリーニングテストである,改訂−長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS‐R)のスコアが25点以上,Mini‐Mental State Examination(以下,MMSE)のスコアが26点以上,そしてMRIのVSRADplusのZスコアが3点以上の受診者を認知症スクリーニングテストと画像所見が乖離した群,乖離群とした.今回この乖離群の特性について検討した.
【倫理的配慮】この研究は久留米大学倫理委員会の承認を得ている.
【結果】認知症スクリーニングテストにおいて全受診者(2726名)の中で認知症(HDS‐R 20点以下,又はMMSE 23点以下)群は1091名で全受診者数の約40%,非認知症群は1436名で全受診者数の約55%を占め,乖離群は118名で全受診者数のうち約4.4%だった.  平均年齢は認知症群が77.4±7.1歳,健常群は73.1±8.0歳,乖離群は73.7±8.8歳で乖離群は50歳台から80歳台まで存在し年齢に関係なかった.★MRIのVSRADplusのZスコアは認知症群が 2.6±1.4,健常群が1.1±0.6,乖離群が3.7±1.0であった.乖離群を認知症と考えた場合認知症群の中で乖離群は9.6%を占めた.乖離群の中で,精神科受診歴があるのは47名で43%がうつ病だった.乖離群の89.1%ではVSRADadvanceのZスコアが2.0を超えていた.乖離群の46.1%は2年間で認知症に移行した.
【考察】認知症スクリーニング検査が認知症群に至るまでの低下はないがMRIのVSRADの結果では脳の関心領域の萎縮が強い乖離群が存在し,認知症群の中では約1割を占めた.乖離群は病識も乏しく,認知症の早期発見,早期治療にはこれら乖離群は重要であると考える.当日は症例をあげ経過を含め考察する.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-27
レビー小体型認知症の臨床診断における心拍変動解析の有用性
笠貫浩史,井関栄三(順天堂大学精神医学教室,順天堂東京江東高齢者医療センター認知症研究センター),杉山秀樹,北沢麻衣子(順天堂大学精神医学教室),藤城弘樹,千葉悠平(順天堂東京江東高齢者医療センター認知症研究センター),一宮洋介,新井平伊(順天堂大学精神医学教室)
【目的】パーキンソン病の初期所見として心拍変動(heart rate variability:HRV)が減少するとの先行報告がある.本研究ではレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)とアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)の鑑別診断に関して,HRV障害が有用であるかどうか検討した.
【方法】対象はMcKeithおよびMcKhannの診断基準を満たしたprobable DLB 30例(平均年齢79.9歳)およびprobable AD 30例(平均年齢79.6歳)と年齢・性別を調整した対照群20例.HRV障害を来す糖尿病,心疾患既往のある患者は除外した.安静仰臥位にて肢誘導心電図記録を行い,記録時間はアメリカ心臓協会委員会の推奨に則り5分間とした.自律神経(便秘,起立性めまい,尿失禁,発汗過多,唾液増加)および精神症状(抑うつ,幻視)の有無については質問紙による後方視的評価を行った.DLB群22例では123I‐MIBG心筋シンチグラフィーを施行しており,HRVの各パラメーターとの相関性を検討した.
【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認を受けた.検査実施にあたり患者および家族よりインフォームドコンセントを取得した.
【結果】DLB群では,AD群と比較してtime domain(RR‐standard deviation(SDNN),root mean square diffence of successive RR intervals(RMSSD),percentage of consecutive RR intervals differing by more than 50msec(pNN50)およびfrequency domain(very low‐(VLF),low‐(LF),high‐frequency(HF)components,total spectral power(TP))の各パラメーターで低下が有意に認められた.DLB罹病期間,自律神経および精神症状とHRVとの間に有意な相関性は認められなかった.ADとの鑑別能に関しては,ROC解析上SDNNがAUC 0.80で最も高く,感度90.0%,特異度56.7%であった.心筋シンチグラフィーを施行したDLB群では,SDNN,VLF,TPが心筋シンチグラフィー後期相値との有意な相関性が認められた.
【考察】ADと比較してDLBではHRV障害が高度であり,心臓自律神経の障害がより高度であることが示唆された.本検査は簡便かつ侵襲性が低い心電図記録のみで解析可能であり,DLB診断補助ツールとして高度専門医療機関以外でも実施可能な利点を有する.一方,HRV障害と臨床項目との関係性は今回の検討では明らかとならなかった.各パラメーターの経時的変化やstate markerとしての可能性に関しては今後の検討を要する.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-28
アルツハイマー型認知症者の単一しりとり課題中の酸素化ヘモグロビンの変動;非認知症者との比較検討
加藤雄輔,森田喜一郎,小路純央,藤木 僚(久留米大学医学部精神神経科学講座,久留米大学高次脳疾患研究所),石井洋平(久留米大学医学部精神神経科学講座),内村直尚(久留米大学医学部精神神経科学講座,久留米大学高次脳疾患研究所)
【目的】我々は,認知症の早期発見を目的にもの忘れ検診を平成18年から行なってきた.検診では,改訂長谷川式テスト(HDS‐R),MMSE,10単語想起テスト,バウムテスト等の検査に加え,探索眼球運動,多チャンネル近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を行い,認知症および認知症のリスクのある検診者には,本人同意のもと大学病院で頭部MRI等の検査を行った.今回,多チャンネルNIRSを用いて,単一「しりとり」課題中の脳酸素化ヘモグロビン濃度の変動を検討したので報告する.
【方法】総被験者を,HDS‐R,MMSEから認知症群(HDS‐Rが20点以下またはMMSEが23点以下:71名)と非認知症群(299名)とした.さらに非認知症群を,高リスク群(HDS‐R:21〜24点:72名),低リスク群(HDS‐R:25〜27点:114名)および健常群(HDS‐RおよびMMSE:28点以上:113名)とした.多チャンネルNIRS(日立ETG‐4000)を使用し,単一「しりとり」課題を用いて,左右各々22部位から酸素化・還元型ヘモグロビン値を測定した.前方のディスプレイに映る1単語に続き,「できるだけ速く,1語のしりとりをしてください」と指示する視覚誘発の単一言語課題を用いた.交互に12秒間隔で20回施行した.ヘモグロビン変動量(以下,Hb変動量)を100ms毎の近値面積より求め解析データとした.
【倫理的配慮】総ての被験者には,当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【結果】しりとり数は,認知症群が,その他の群より有意に少なかった.前頭極領域と考えられる,左19および右22記録部においては,酸素化Hb変動量は,認知症群と高リスク群の間には有意差は無く,認知症群および高リスク群と低リスク群および健常群の間に有意差が観察された.ブロードマン46野あたり(中前頭野)と考えられる左11記録部において,酸素化Hb変動量は,認知症群と高リスク群の間には有意差は無く,認知症群および高リスク群と低リスク群および健常群の間に有意差が観察された.HDS‐R値と左11,19記録部における酸素化Hb変動量に有意な正の相関が観察された.VSRADのZスコアーと左11,19記録部における酸素化Hb変動量に有意な負の相関が観察された.
【考察】日本人に馴染みの深い,単一「しりとり」課題を用いた多チャンネルNIRS検査は,可搬性に優れ,特に場所を選ばずに計測することが可能であり,無侵襲である.また検査試行中の画像を被験者にリアルタイムに見せることが可能である.  認知症では早期から前頭葉機能の低下が見られるとの報告が多くあり,今回の結果もこれを反映するものと考えられる.よって,認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となり得る.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-29
アルツハイマー病における内因性の抗コリンの出現;症例の検討から
細井美佐,森 愛奈(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター),小林麻美(昭和大学藤が丘病院),神保光一,幾瀬大介,菊池 優,青木麻梨(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター),小西公子(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター,東京都立東部療育センター),岡田正樹(日立梅ヶ丘病院),蜂巣 貢(昭和大学薬学部臨床精神薬理学科),堀 宏治(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター)
【目的】我々は,アルツハイマー病(AD)において,内因性の抗コリン活性(AA)が出現し,AD病態を進行させる「内因性抗コリン仮説」を提唱している(Hori et al, 2011, Hori et al, 2012,堀宏治ら,2013).内因性抗コリン仮説を実証すべく血清抗コリン活性(SAA)が陰性から陽転した症例を報告する.
【方法】抗認知症薬が定常状態に到達したAD症例において,定期的にSAAを測定しながら内因性の抗コリン活性の変動を追跡する.
【結果】
[70歳代の女性](MMSE)
X−2年頃 記銘力低下
X−3ヶ月 転居後,幻視を自覚
X年 初診 ドネペジル5mg SAA:4.28nM(26)
X+1年 SAA 陰性:1.95nM(24)
その後,記銘力低下進行:ドネペジル10mg
X+2年 SAA 陰性(22)
X+2年+5ヶ月 メマンチン20mg追加 陰性
X+3年 SAA:2.02nM(23)
上記症例は70歳代の女性で,初診の2年前から記銘力低下が出現し,転居をきっかけに幻視を自覚したため,メンタルケアの受診となった.初診時のSAAは4.28nMであった.
本症例は,抗認知症薬ドネぺジル5mgで治療開始し,1年後にはSAAが陰性化した(定量限界以下1.95nM:Konishi et al, 2013).その後,記銘力低下の進行が認められ,ドネぺジル10mgに増量となった.増量1年後のSAAは陰性であったが,5ヶ月後,再び記銘力低下を認め,メマンチン20mgが追加開始となった.メマンチン開始時点のSAAは陰性だったが,7ヶ月後にはSAAが2.02nMに陽転していた.
【倫理的配慮】症例の匿名化を図るために,病歴のみの記載とした.また,症例の報告に当たり,本人と家人より同意を取得した.
【考察】今回,陰性化していたSAAが,3年後に再び陽性に転じた症例を経験した.  初診時のSAA陽性は,「ADによる疾患の負荷」と「ストレス」の両者が相関しており,アセチルコリン(ACh)を増強することで陰性化したと判断した(Konishi et al, 2013).一方,初診から3年後のSAA陽転は,治療薬の追加があるものの,その他の要因として合併疾患の増悪や新たなストレスがなかったことから,AD進行によりSAAの陽転がみられたものと考察した(Hori et al, 2012,堀宏治ら,2013).  我々はADの内因性によるSAAが出現し,メマンチンにて消失したと思われる症例を報告している(Hori et al, 2013).メマンチンで消失した症例のSAAは,2.38nMと基準値をわずかに上回る程度であったことからもADで内因性のAAが出現することを裏付けていると考えている.
本研究に係る利益相反は,企業・財団が関わっていないことに間違いありません.

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6月12日(木) 16:00〜17:00 ポスター会場(707会議室,7F)
症候学
服部英幸((独)国立長寿医療研究センター行動・心理療法部(精神科))
P-A-30
パーキンソン病と進行性核上性麻痺における過眠症状へのオレキシン神経系の関与
高橋裕哉,徳永 純,今西 彩,佐川洋平,筒井 幸(秋田大学大学院医学系研究科医学専攻精神科学講座),伊藤若子(University of South Carolina, Department of Exercise Science, Columbia, SC, USA),若井正一(掛川市立総合病院睡眠医療センター),服部優子(本町クリニック),高梨雅史(順天堂大学脳神経内科),油川陽子(独立行政法人国立病院機構旭川医療センター脳神経内科),神林 崇,清水徹男(秋田大学大学院医学系研究科医学専攻精神科学講座)
【目的】パーキンソン病(PD)ではしばしば過眠症状を認めることが知られている.PDにおける過眠症状は進行した病期に明らかになることが多く,QOL低下につながりやすいため注目されている.この原因としては,治療薬のドパミンアゴニストによって生じるもの,疾患そのものによるもの,合併する睡眠障害により睡眠の質が悪化するため,など複数の原因が考えられているがその機序は未だ明らかにはなっていない.
【方法】今回我々はPDと進行性核上性麻痺(PSP)で髄液オレキシン値を測定し,臨床症状と過眠症状について検討した.今までに測定した約200例のPDとPSPの髄液オレキシン値は,大多数が200〜400pg/mLと正常範囲内であったが,過眠症状が重症であったPDの5例とPSP 2例では髄液オレキシン値が低値であった.今回はその7例について報告したい.
【倫理的配慮】オレキシンの測定は秋田大の倫理委員会で承認されており,また患者個人が特定できないよう匿名性に配慮した.本研究は所属大学の倫理審査委員会の承諾を得,保護者に研究の趣旨を説明後,同意書にて同意を得て実施した.
【結果・考察】PDの5症例は平均年齢66.8歳,男女比:3:2であり,PSPの2症例は74歳女性と74歳男性である.これまでにPDでは過眠があってもオレキシン値は正常との報告や,重症で罹病期間の長く,治療薬量が多い症例では測定限界以下の低値であるとの報告があるがまだ一定した見解は得られていない.またPSPにおいてもオレキシンを測定した報告は少ない.今回報告したいずれの症例もオレキシン値は低値を認めており,PDの2症例とPSP1例はナルコレプシー罹患後10−20年以上後にPD,PSPを発症した例であったが,その他の症例は2つの病態の発症時期が近く,変性疾患の病態がオレキシン低値と過眠症状に関与すると考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-31
老年期身体表現性障害における認知機能障害
稲村圭亮,品川俊一郎,角 徳文,永田智行,互 健二,忽滑谷和孝,中山和彦(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
【目的】老年期患者の日常診療において,身体愁訴はよく見かけられる症状である.老年期における身体表現性障害は,疾病の罹患,ライフイベント,認知機能の低下など加齢に伴う様々な因子が誘因となると考えられる.しかしながら,現在の診断基準では,その症状形成におけるプロセスが明確となっていない.本研究では,関連する因子のなかでも特に認知機能に焦点を当て,老年期の身体表現性障害における特徴を捉えるとともに,症状との相関を調べることを目的とした.
【方法】本研究では,DSM‐IV‐TRにて身体表現性障害と診断された60歳以上の高齢者47名を対象とした.身体表現性障害の重症度をハミルトン不安評価尺度(HAMA)にて測定し,認知機能の評価はmini‐mental state examination(MMSE),frontal assessment battery(FAB),日本語版neurobehavioural cognitive examination(J‐COGNISTAT)を用いた.
【倫理的配慮】本研究は,慈恵医大倫理員会の承認を得ている.参加者には書面および口頭で説明の上同意を得た.
【結果】老年期身体表現性障害患者では,J‐COGNISTATにおいて注意の低下が認められた.また,身体表現性障害の重症度であるHAMAとFABの総得点,およびFABの下位項目における類似・運動系列において相関が認められた.
【考察】本所見により,老年期における身体表現性障害が認知機能低下と関連し,また重症度が遂行機能と関連しており,これが症状の形成過程の関与していることが示唆された.老年期身体表現性障害の治療にあたるうえで,背景にこのような関連する因子が存在することを考慮しなければならないと考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-32
「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(小阪・柴山病)」の臨床診断基準について;新しい臨床診断基準の提唱
鵜飼克行(総合上飯田第一病院,名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野),小阪憲司(メディカルケアコートクリニック)
【目的】「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(小阪・柴山病)Diffuse neurofibrillary tangles with calcification(Kosaka‐Shibayama disease)」(以下,DNTC)は,神経病理学的にFahr型の石灰沈着とびまん性の神経原線維変化が特徴的な比較的稀な認知症性疾患の一つである.これまでに,この疾患の発見者である柴山らのグループと小阪によって,それぞれのDNTC臨床診断基準(いずれも邦文)が提唱されているが,両者ともに疾患の特徴を列記した形となっている.今回,これらの臨床診断基準を参考にして,中心的特徴,中核的特徴,および支持的特徴からなる新たな診断基準を作成したので,これを提唱したい.
【方法】2012年まで文献的に報告されたすべてのDNTC剖検症例(本邦26例,欧州2例)の臨床病理学的特徴を調査した.
【倫理的配慮】匿名性に配慮した.
【結果】DNTC剖検症例の臨床病理学的特徴については,学会発表の場で具体的に提示する.
【考察】臨床診断基準として以下を提示する.  Criteria for the clinical diagnosis of diffuse neurofibrillary tangles with calcification  1.Central feature (essential for a diagnosis of possible or probable DNTC):   Dementia defined as a progressive cognitive decline of sufficient magnitude to interfere with normal social or occupational function. Prominent memory impairment may not necessarily occur in the early stages, but is typically evident with progression.  2.Core features (either A and B or A and C is sufficient for a diagnosis of probable DNTC, A only for possible DNTC):   A:Bilateral calcification in the basal ganglia and/or dentate nuclei (Fahr‐type calcification) on CT scans.   B:Temporo‐frontal syndrome of sufficient magnitude to interfere with normal social or occupational function, such as personality change, irritability, disinhibition, and semantic aphasia.   C:Localized atrophy of the bilateral temporal or temporo‐frontal lobes on CT/MRI scans.  3.Supportive features (commonly present, but not proven to have diagnostic specificity):   Presenile onset.   Lack of insight into disease.   Loss of initiative.   Extrapyramidal sings.   Normal serum levels of Ca, P, and PTH.   Generalized low uptake on SPECT perfusion scans with reduced bilateral temporo‐frontal activity.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-33
脳梗塞後の慢性期における後部帯状回萎縮とアパシー症状
安野史彦(奈良県立医科大学精神医学講座,国立循環器病研究センター脳神経内科),松岡 究(奈良県立医科大学精神医学講座),田口明彦(国立循環器病研究センター脳神経内科),山本明秀(国立循環器病研究センター研究所画像診断医学部),梶本勝文(国立循環器病研究センター脳神経内科),数井裕光,工藤 喬(大阪大学医学部精神医学講座),関山敦生(大阪市立大学大学院脳科学部門),北村総一郎,木内邦明,小坂 淳(奈良県立医科大学精神医学講座),飯田秀博(国立循環器病研究センター研究所画像診断医学部),長束一行(国立循環器病研究センター脳神経内科),岸本年史(奈良県立医科大学精神医学講座)
【目的】脳梗塞後慢性期の経時的な脳構造的変化についての報告は乏しい.本研究の目的は脳梗塞後の局所脳皮質容積変化について検討し,その変化が,脳梗塞後の神経精神医学症候にどのような影響があるかを調べることにある.
【方法】被験者は20人の脳梗塞患者と,15人の健常被験者である.T1‐MRI撮像が脳梗塞後亜急性期と,その半年後の2回にわたり行われ,全脳的voxel‐based morphometric解析により,患者における脳皮質容積変化を検討した.また,皮質容積と神経精神症状変化の関連もあわせて検討した.
【倫理的配慮】本研究は国立循環器病研究センターの倫理委員会による承認を受けた.被験者に対して十分な説明を行った後,文書による同意を得た.
【結果】本研究において我々は,半年後に,後部帯状回の前方部における有意な脳皮質容積減少を見出した(図1).また,その変化率は半年間におけるアパシー評価スコア変化と有意な相関を示した(図2).
【考察】脳梗塞後半年間で,梗塞部位と離れた後部帯状回に容積減少を認め,さらに容積減少の程度が大きいほど,アパシー症状の変化も大きいことが示された.後部帯状回の梗塞後の萎縮は,2次的な変性過程を反映するものと思われ,それによる目的指向性行動の調節機能の障害がアパシー発現に関連すると思われた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-34
幻聴が前景化した非定型アルツハイマー病と考えられた1 症例;非定型アルツハイマー病における初発症状についての考察
辻 里花,藤城弘樹,入谷修司(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学,桶狭間病院藤田こころケアセンター),藤田 潔(桶狭間病院藤田こころケアセンター),尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)
【目的】アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の初発症状は,主に記憶障害であるが,脳機能局在に対応した皮質巣症状としての視覚認知障害,言語障害などが前景化する非定型ADの存在が明らかとなっている.今回我々は,幻聴が主症状であった非定型AD症例を経験し,コリンエステラーゼ阻害剤の投与により幻聴の改善を認めたので,若干の文献的考察を加え報告する.
【方法】症例報告.
【倫理的配慮】匿名性に配慮し,臨床経過に影響がない範囲で病歴を改変し,患者及び家族より書面での承諾を得た.
【結果】症例:81歳,女性.
主訴:幻聴
既往歴:難聴(65歳頃から徐々に悪化)
家族歴:特記すべきものなし
現病歴:X−2年夜間2時に「外で物音がするから戸締りをしなさい」という電話が娘宅にあり,家族が不審に思った.X−1年親戚の葬儀のときに不適切な場面で笑うことがあったが,日常生活は自立しており,記憶障害を含め認知機能低下の病歴聴取は家族より確認できなかった.X年Y月(81歳)「韓国人のトムヤンさんが裸踊りをしている声が聞こえる.自分にも裸踊りをしろと言われる.」と訴えるようになり,不眠も出現した.幻聴は徐々に悪化し,同年Y+3月下旬には「幻聴を抑えてもらうために警察にお願いをしに行く」と訴えて外出し,家族が捜索することがあった.その後も「警察に行く」と言い続け,警察に電話するようになった.在宅生活が困難となり,同年Y+3月医療保護入院となった.
入院時診察所見:礼節整容は保持され,接触性は良く,取り繕い反応が認められた.意思疎通は可能だが,難聴のため時折筆談が必要であった.神経学的には特記すべき所見は認めず,MMSE17/30,HDS‐R14/30であった.
臨床経過:幻聴に対して,ブロナンセリン4mg/日より投与開始し,6mg/日に増量したところ歩行障害,流涎が出現した.入院後施行した頭部MRIでは,前頭葉優位な全般的脳萎縮を認めたが,海馬萎縮は目立たなかった.脳血流SPECTにおけるiSSP解析では,後部帯状回,左頭頂葉に加え,前頭葉の血流低下を認めた.非定型ADと臨床診断し,塩酸ドネぺジルに薬剤を変更し,徐々に幻聴は消失した.いったん幻聴は増悪したが塩酸ドネぺジル10mg/日に増量することで幻聴は改善し,Y+6月に自宅退院となった.
【考察】本症例は,幻聴が前景化し,海馬萎縮が目立たず,臨床経過・神経画像結果より,非定型ADと臨床診断し,コリンエステラーゼ阻害剤を投与することで幻聴の改善を認めた.幻聴が発現する神経基盤は不明であるが,高齢期に幻聴を発症した症例では,レビー小体型認知症を含めた神経変性疾患の鑑別診断を要すると考えられた.神経病理による確定診断を含む症例の更なる蓄積が必要である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-35
メマンチン投与が前頭側頭型認知症のBPSD に有効であった3 例;ドネペジルからの変更についての考察
長谷川浩,前泊味音,石川哲也,岩藤元央(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院),鈴木 慈,浅利翔平,山口 登(聖マリアンナ医科大学)
【目的】前頭側頭型認知症(FTD)の初期において,自発性低下・記憶障害・意味性認知症(SD)が前景にある場合,ドネペジルを試みるケースが多い.病状の進行によりいわゆるbehavioral variant FTDとしてBPSDが著明に出現すると,興奮や脱抑制がドネペジルにより更に悪化する.メマンチン変更によりBPSDが軽減した3例の検討を行い薬理学的な考察を行った.
【方法】FTD3例におけるBPSDおよび薬物療法の経過(初診時ドネペジル投与,メマンチン変更)をNPIを用いて検討した.
【倫理的配慮】各症例の報告にあたり,個人が特定されないよう現病歴の一部を改変して倫理的な配慮を行った.匿名化した発表において本人および家族から口頭で同意を得た.
【結果】(症例1)65歳男性.既往歴・家族歴は特記事項なし.高校卒業後工務店勤務.X−4年12月記憶障害と意欲低下にて近医を受診,アルツハイマー型認知症の診断にてドネペジル5mg開始.その後易刺激性・脱抑制・SDも発現した.X−3年12月当科紹介,MRI,SPECT,MMSE,FAB施行してFTDへの診断変更を行った.前医からのドネペジルにBPSD抑制のため抑肝散およびチアプリド併用したが興奮は続き,ゾテピン併用したところ転倒が増えた.X−2年8月からドネペジルを中止してメマンチンに変更したところ,興奮が収まりゾテピン減量後も在宅日常生活が安全に行われるようになった. (症例2)51歳男性.既往歴・家族歴は特記事項なし.大学卒業後家電メーカー勤務.X−5年10月作業能力の低下・脱抑制・常同行為が出現した.同年12月当科初診,FTDの診断を行った.作業能力の低下(記憶障害)を主症状と判断したためドネペジル3mgを1年間投与したが不変であり,興奮と脱抑制が増加した.ドネペジルに抑肝散またはバルプロ酸を併用したが改善せず,X−3年4月ドネペジルを中止してメマンチンに変更したところBPSDが軽快した. (症例3)70歳女性.既往歴・家族歴は特記事項なし.X−3年6月記憶障害と抑うつ感にて当科紹介.進行性非流暢性失語も認めFTDの診断を行い,前医からのドネペジル5mgにオランザピンを併用した.X−1年8月易刺激性・脱抑制が始まり,ドネペジルからメマンチンへの変更を行ったところBPSDは改善した.
【考察】ドネペジル投与時とメマンチン変更時のNPIにおいて,無為や抑うつ状態は変化ないものの,脱抑制・易刺激性・異常行動において著明な低下を示した.またドネペジルに向精神薬を併用した場合にはNPIの変化は認めなかった.FTDの診断を行った場合,早期からのメマンチン投与はBPSDの改善が得られ,在宅介護の援助となる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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