6月5日(水) 9:00〜10:00 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 検査・診断@
座長: 内海 久美子 (砂川市立病院精神神経科)
T-1
認知症者,特にDLB患者の視覚認知機能評価について;新たな視覚認知機能評価機器を用いた検討
福島 章恵 (高知大学医学部精神科)
【目的】少子高齢化を迎え,全国的に高齢者の運 転が社会問題化している.しかしながら高齢者や 認知機能低下を来たしたドライバーの事故予測や 運転能力評価を行う方法はまだ確立されてない. そこで我々は視覚認知障害,注意機能に着目した デバイスを共同開発し,認知機能低下を来たした 障害者を対象に検討したので報告する. 【方法】対象は2011 年3 月1 日〜2012 年2 月28 日までに高知大学精神科物忘れ外来を初診氏,認 知症疾患データベースに登録され,視覚認知機能 検査を施行した97 名である.平均年齢71.7± 13.5 才,平均MMSE 21.6±5.4 点で,CDR 別で はCDR 0:14 名,CDR 0.5:53 名,CDR 1:11 名,CDR 2:19 名である.背景疾患はDAT:11 名,FTLD:3 名,VaD:12 名,DLB:13 名, MCI:27 名,高次脳機能障害:7 名,その他の 精神疾患24 名である.研究参加同意は書面で行 った.基本的評価として初診時年齢,罹病期間, MMSE,CDR,IADL,NPI,ZBI,運転行動・ 習慣評価を行った.本研究は高知大学医学部倫理 員会の承認を取得し研究を実施した. 【倫理的配慮】本研究は高知大学医学部倫理委員 会の承認を得て行われた. 【結果】視覚機能検査結果では標準偏差比 (Attention 課題有無に対する有時の位置決め標 準偏差)とMMSE の関係では,DLB 群(8 名) で統計的に有意な相関が認められた(P=0.027). 【考察】本デバイスにより,DLB の注意機能を鋭 敏に捉え,運転能力評価の指標として活用が出来 うると考えられた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-2
リバスチグミン貼付剤によると考えられる肝機能障害と食欲不振について
諸隈 陽子 (一陽病院)
【はじめに】リバスチグミン貼付剤は,AD 治療 薬として本邦では2011 年に上梓された.本剤は 皮膚からの薬剤吸収のため肝代謝を経ず薬効が発 揮されること,経口薬と異なり介護者が服薬確認 などでの手間が省け介護負担が軽減されるなど他 のChEI とは異なる効果も期待され副作用も少な いと考えられる.しかしながら当院では本薬剤使 用者の中で血液生化学検査においてChE 値の著 明低下と食欲不振を来たし,薬剤中止に至ったケ ースを経験した.添付文書や製造企業では特にこ のような報告は見当たらないが,内科主治医から 指摘によりこのような本薬剤の影響と考えられる 現象を経験した.そこで当院通院中の連続例で, 本薬剤の使用例した事例のChE 値と食欲不振の 有無について検討したので報告する. 【対象と方法】本検討の対象者は2011 年1 月〜 2012 年12 月までに高知大学医学部附属病院物 忘れ外来を受診し,リバスチグミン貼付剤を処方 し血液生化学検査及び,食欲不振などの精神症 状・行動障害,及びADL 評価のできる介護者か ら情報取得が可能であった11 事例である.対象 者の年齢,性別,独居・同居の有無,臨床診断, CDR,MMSE,IADL,NPI,リバスチグミン投 与前ChE 値,投与後ChE 値,中断後ChE 値, 食欲不振の有無と改善について評価した. 【倫理的配慮】なお本発表における検討に際して は診療記録を後方視的に調査を行っているため, 研究参加同意書を取得していないが,通常臨床業 務における当大学病院での総合同意書をすべて取 得したものを検討対象としている. 【結果】対象者11 名の平均年齢78.5±8 歳(男・ 女:5:6 名,独居2 名,同居9 名)で,臨床診 断ではDAT 10 名,DLB 1 名(平均MMSE:21.8 ±2.9(17‐25))であった.対象者11 名は全例投 与前ChE 値は正常であったが,8 例(72%)が 異常低下を示した.その中で食欲不振は5 例に 見られた.ChE 異常もしくは嘔吐・食欲不振中 断はで5 例,薬剤減量で対応3 例,継続は3 例 であった.薬剤中止後全例でChE 値は改善し, 食欲不振も回復した. 【考察】当院専門外来でのリバスチグミン貼付剤 を使用した連続例を対象に肝機能障害,および食 欲不振の有無について検討した.リバスチグミン は副作用の少ない薬剤であるが,ChE の低下や 食欲不振をきたすことがあるため注意が必要であ ると考えられる.結論を出すには,今後症例数を 増やした検討が必要である. 【結語】リバスチグミン貼付剤は副作用の少ない 薬剤であるが,維持期間中でも肝機能異常と食欲 不振に注意をすべきてあると考えられる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-3
DLB診断におけるドパミントランスポータイメージングの有用性
井関 栄三 (順天堂東京江東高齢者医療センターPET-CT認知症研究センター,順天堂東京江東高齢者医療センター精神医学)
【目的】ドパミントランスポータ(DAT)は,黒質 線条体ドパミン神経終末の細胞膜に発現し,シナ プス間隙に放出されたドパミンの再取り込みを行 う.それを可視化する方法として,SPECT では 123I -FP-CIT[(N-( 3-fluoropropyl )-2β -carbome thoxy-3β(- 4iodophenyl)nortropane(123I)]が欧 米ではすでにパーキンソン症候群やレビー小体型 認知症(DLB)の診断に臨床応用されている. 本邦でも『医療上の必要性の高い未承認薬・適応 外薬検討会議』の決定を受け第相臨床試験が行 われたので,自験例データについて報告する. 【方法】臨床診断基準を満たし診断が確定した DLB 5 例(75〜81 歳)を対象とし,アルツハイ マー型認知症(AD)2 例(80〜85 歳)及び認知 症でない健康成人3 例(55〜73 歳)と比較した. 123I-FP-CIT 111 MBq もしくは185 MBq を投与 し,3 時間後および6 時間後にSPECT の撮像を 行い,視覚的および半定量的に線条体の集積を検 討した. 【倫理的配慮】本治験はヘルシンキ宣言に基づく 倫理的原則及びGCP を遵守して実施した.また, 当院の治験審査委員会の審査を受けて実施し,被 験者には治験の目的,方法,治験への参加の自由, プライバシーの保護などについて説明し,文書で 同意を得た. 【結果】123I-FP-CIT の3 時間像の視覚的評価では, DLB 5 例のうち4 例が異常と判定され,臨床診 断と一致した.AD 2 例,健康成人3 例の画像は すべて正常と判定され,臨床診断と一致した.6 時間像も同様であった.半定量的評価でも視覚的 評価を支持する結果が得られた. 【考察】123I-FP-CIT は,黒質線条体ドパミンニュ ーロンが障害される疾患と障害されない疾患の鑑 別に有用であり,障害の程度に応じて集積が低下 する.パーキンソニズムにおいては,黒質線条体 が障害されるパーキンソン病(PD)や多系統萎 縮症・進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症 等と,障害されない本態性振戦や薬剤性パーキン ソニズム等を鑑別することができる.認知症でも, DLB ではPD と同様に線条体でDAT の集積低下 がみられるため,DLB と鑑別が困難でDAT の 機能が正常であるAD との鑑別に有用である.さ らに,123I-FP-CIT によるDAT の低下はDLB の 国際臨床診断基準(2005 年改訂版)の中で示唆 症状の一つに挙げられている.今回実施した第3 相臨床試験でも,DLB 例では123I-FP-CIT の線条 体への集積が低下し,対照となるAD 例,健康成 人では集積が保たれた画像が得られた.123I-FPCIT によるSPECT は黒質線条体ドパミン神経の 変化を直接可視化できることから,脳血流 SPECT やFDG-PET,MIBG 心筋シンチなど他 の機能画像とは異なるDLB の病態の一端を明ら かにできることが期待される. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-4
認知機能の低下と血清中のアミロイドβ蛋白の関連
敦賀 光嗣 (弘前大学大学院神経精神医学講座)
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)の発症機 序の仮説として,アミロイド仮説は有力なものの ひとつとされている.AD の神経病理学的所見と して老人斑が出現するが,この主要成分であるア ミロイドβ蛋白(以下Aβ)およびこの代謝関連 物質がAD の発症と密接に関与している可能性が ある.認知機能低下の程度と血清中のAβの相関 は,AD の発症機序において重要な情報をあたえ るものと考える.本研究では,認知機能低下の程 度と血清Aβの相関を,一般健康住民において検 討する. 【方法】対象者として,岩木健康増進プロジェク ト2012 に参加した一般健康住民(n=463)を用 いた.本研究を説明し,参加者の同意を得た.採 血により各種生化学データに併せて血清Aβを測 定し,認知機能のの評価にはMini-Mental State Examination(MMSE),抑うつ状態の評価には Center for Epidemiologic Studies Depression (CES-D)scale を共に日本版で使用した.自記 式アンケートにて(年齢,性別,教育年数,アル コール摂取,喫煙歴)を,身長,体重の測定も実 施した. 参加者のMMSE の点数と血清Aβを,血清A β40,血清Aβ42,および(血清Aβ40/血清 Aβ42)比のそれぞれについて,年齢,性別,教 育年数を共変数として重回帰分析を実施した.ま た同様の方法で,CES-D と血清Aβの各項目に ついて重回帰分析を実施した.なお,有意水準は p<0.05 に設定した. 【倫理的配慮】本研究の実施に先立ち,弘前大学 大学院医学研究科倫理委員会の承認を得た. 【結果】MMSE の点数と血清Aβの各項目との間 に有意な相関は認めなかった.CES-D の点数に ついても,血清Aβの各項目との間に有意な相関 は認めなかった.当日は,糖尿病の治療歴など交 絡因子を考慮した解析結果を併せ,報告する予定 である. 【考察】先行データにおいては,一般健康住民に おいて,認知機能の低下の程度と血清Aβの間に 相関は認めなかった.当日は追加データを加えた 解析結果を報告し,それについて考察を付け加え たい. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-5
早期発症型の意味性認知症とアルハイマー病のVSRAD advance所見の比較検討
小林 良太 (山形大学医学部精神科)
【目的】意味性認知症(Semantic dementia ; SD) は語義失語を特徴とする言語症状がしばしば記憶 障害とみなさアルツハイマー病(Alzheimer’s Disease ; AD)と診断されていることが多い.さ らに,SD のMRI では側脳室下角の拡大や海馬 の萎縮を呈するためAD とされてしまう場合も多 い.ここでは,早期発症型のSD とAD について, 海馬から海馬傍回の萎縮をVoxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer’s Disease advance(VSRAD advance)を用いて 比較検討した. 【方法】65 歳以前の早期発症型SD 17 例(平均 年齢62.4±4.5 歳,罹病期間4.1±1.8 年,MMSE 16.5±9.1 点),早期発症型AD 49 例(平均年齢 62.3±4.4 歳,罹病期間3.9±2.1 年,MMSE 18.0 ±7.3 点)について,1.5 T-MRI(Siemens,Philips, GE のいずれか)にて矢状断T1 強調画像を撮影 し,VSRAD advance に実装されている54〜86 歳の正常データベースを用いて,関心領域内の Z スコアの平均(海馬・海馬傍回の萎縮度), 同左右差の絶対値,全脳灰白質萎縮率,全脳 白質萎縮率を算出した. 【倫理的配慮】研究について十分に説明した上で, 患者または保護者より書面により同意を得た.本 研究は山形大学医学部および各関連病院の倫理委 員会の承認を得た. 【結果】SD,AD 両群間で年齢,罹病期間,MMSE に有意差は無かった.VSRAD の各指標について は,海馬・海馬傍回の萎縮度は,SD 3.99±0.99, AD 2.09±0.98 で,SD で有意に萎縮し(p< 0.001),左右差の絶対値では,SD 2.33±1.19, AD 0.73±0.61 で,SD で有意に左右差が強く(p <0.001),全脳灰白質萎縮率は,SD 13.36± 3.20%,AD 6.97±3.66% で,SD で有意に萎縮 (p<0.001),大脳白質萎縮率は,SD 6.11± 2.26%,AD 3.50±1.98% で,SD で有意に萎縮 (p<0.001)していた.また,海馬・海馬傍回の Z スコア3.2 をカットオフ値とした場合,SD は 15/17 例,AD は4/49 例が陽性で,感度88%, 特異度92% であった. 【考察】早期発症型SD では,早期発症型AD に 比べて,海馬・海馬傍回の萎縮がより高度で,左 右差があり,全脳灰白質萎縮および全脳白質萎縮 もより高度であることが示された.とくに海馬・ 海馬傍回の萎縮は,すでに報告したように早期発 症型AD では比較的軽度であることもあり,ほぼ 重なりがなく早期発症型SD と区別できた. VSRAD advance は,SD の見逃しを避けるのに 有力な補助診断となると結論された. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 10:00〜11:00 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 検査・診断A
座長: 井関 栄三(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
T-6
認知機能障害では早期に治療を開始するほど成績が良い;SED点数によって分類した3段階における比較検討
清原 龍夫 (医療法人長寿会清原龍内科)
【目的】認知機能障害の方の治療結果を,治療開 始時の認知症進行度に分類してレトロスペクティ ブに解析し,どの段階で治療介入した方が効果的 であるかを検証した. 【方法】医療法人長寿会清原龍内科に通院してい る軽度認知障害(MCI)69 名,アルツハイマー 型認知症151 名を対象とした.Stage Estimation of Dementia(SED,第13 回国際老年精神医学 会で発表;認知症の全過程の中での現在の位置の 診断法:0 点から死亡に至る1500 点までを点数 で表示し,60 点までを前期,750 点までを中期, 1500 点までを後期とする)により,対象者を 1〜32/1500 点のMCI 段階,33〜60/1500 点の 認知症前期,61〜375/1500 点の認知症中期前 半の3 群に分類した. 治療として,最初の2 週間はドネペジル塩酸 塩0.75 mg/日,当帰芍薬散2.5 g/日を投与し, 以後はドネペジル塩酸塩を1.25 mg/日に増量し, これらの薬剤にメマンチン1.25 mg/日を付加し た.対象者の状況に応じて,メマンチンを1.25 mg/日から5 mg/日まで増量した. 対象者の認知機能をMini-mental State Examination(MMSE),Delayed Recall and Time Orientation Tool(DRTOTO,第18 回本 学会で発表;0〜11/20 点が認知症レベル,12〜 15/20 点がMCI レベル,16〜20/20 点が健常者 レベル)などにより評価し,DRTOTO で16/20 点以上を改善,DRTOTO かMMSE の得点がベ ースラインと比較して±2 点以内の変化を不変, DRTOTO かMMSE のどちらか一方の3 点以上 の低下を悪化,とみなした. 【倫理的配慮】全ての情報は通常の診療行為の過 程で得られたものであり,今回の報告にあたって は個人情報の流失防止,匿名性の保持に関して十 分に配慮している. 【結果】各群の治療への反応結果を表に示した. 【考察】本研究結果は,早期の認知機能障害にお けるスクリーニングにSED,DRTOTO が有用で あり,またこの段階での少量のドネペジル塩酸塩, 当帰芍薬散,メマンチンなどの治療的介入が有効 であることを示唆している.ただし,MCI 群へ の治療的介入でも13% が悪化したことはこのよ うな薬物療法に抵抗性のグループの存在も示唆す ると思われる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-7
一般住民に対する山口キツネ・ハト模倣テストと認知機能検査結果の関連性について
石岡 雅道 (弘前大学大学院神経精神医学講座)
【目的】認知症を外来でスクリーニングする手段と して,本邦ではMini-Mental State Examination (MMSE)や,長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)が挙げられる.しかし,両者とも,そ の施行に10 分程度を要するため,より簡便に実 施できるテストの開発が望まれている.手の模倣 課題を用いた山口キツネ・ハト模倣テスト (YFPIT)は,より短時間での実施が可能であり, 記憶に加えて視空間認知機能の障害が出現するア ルツハイマー型認知症のスクリーニングツールと して期待される.本研究では,一般住民において 実施したYFPIT とMMSE の関連性を検討した. 【方法】岩木健康増進プロジェクト2011 に参加 した60 歳以上の合計400 名(男性141 名女性 259 名)を対象にYFPIT とMMSE を施行し,両 者の関連性を検討した.YFPIT は片手を用いた ジェスチャー(キツネ)の次に,両手を用いたジ ェスチャー(ハト)の模倣の成否で評価するテス トであり,(1)一分以内に施行が可能である.(2) ゲームのようであり心理的負担を感じさせないこ とを特長とする.MMSE については,23 点以下 を認知機能低下群,24 点以上を認知機能の正常 群とした.連続量変数は対応のないt 検定で,カ テゴリカル変数についてはカイ二乗検定あるいは フィッシャーの正確確率検定にて,群間の比較を 行った.なお,有意水準はp<0.05 に設定し,平 均値±標準偏差でデータを示した. 【倫理的配慮】本研究は弘前大学大学院医学研究 科倫理委員会の承認を得たうえで,参加者には研 究の内容と匿名性の厳守を説明し,書面での同意 を得ている. 【結果】全体のキツネ模倣テストの誤答率は3.2% (男性:5.0%,女性:2.3%),ハト模倣テストの 誤答率は25.0%(男性:30.5%,女性:21.8%) であった.キツネ模倣テストのMMSE の平均点 では有意差を認めなかったが,ハト成功例では 28.4±2.16 点,失敗例では27.5±2.54 点で有意 差を認めた.女性におけるハト模倣テストの誤答 率について,認知機能低下群では55.6% である 一方,正常群では20.8% であった.全体では有 意差は認めなかったが,性別を女性のみに絞った 群では有意差を認めた. 【考察】先行研究では認知症と診断された患者へ のYFPIT の研究報告はあるが,健康住民に対し て行った研究はない.本研究では健康住民におけ る認知機能低下群とYFPIT の成否について一部 関連性を認めた.当日は追加データを加えた解析 結果を報告して,それについて考察を付け加えた い. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-8
電子カルテから抽出したデータにより,他の年代と比べた老年期うつ病の特徴に関する検討;特徴的な単語とその近接語の分析
松村 義人 (香川大学医学部附属病院精神神経科)
【目的】テキストマイニングにより,電子カルテ に記載された病歴や所見などの自然文からうつ病 でよく使われる単語を抽出するとともに,その単 語に近接して出現する単語を調べ,老年期うつ病 を特徴づける方法を検討した. 【方法】香川大学医学部附属病院精神科では,多 くの場合,本診察の前に予診が行われ,主訴,既 往歴,家族歴,現病歴などを記録している.2006 年から2012 年の予診4350 件のうち,うつ病(25 歳未満,25 歳〜64 歳,65 歳以上)274 件の現病 歴データを利用し,上記区分の年代別にうつ病に 特徴的な単語を調べ,その単語から5 文節以内 に頻出する単語を調べた. 分析には計量テキスト分析ソフト「kh corder」 を利用して,各患者ごとに現病歴を文節に分け, 疾患ごとに全体のデータと比べて高い確率で出現 する語(Jaccard 係数の高い語)を抽出した.ま た,上位の語について,前後5 文節以内に頻出 する単語を抽出した. 抽出にあたっては,個人が特定される単語,感 動詞,否定助詞や数字などを除外した. 【倫理的配慮】サーバーからカルテデータを取り 出す際,個人名を含まずに患者ID と予診データ のみを取り出すこととした.また,抽出された語 によって個人の情報が特定されるような語は除外 した. 【結果】65 歳以上のうつ病では,「受診」「不安」 「夫」といった言葉が特徴語として上位に現れた. 「夫」の前後5 文節以内に現れる頻度の高い語は 「転勤」「死亡」「世話」「他界」といった語であっ た. 25 歳〜64 歳では,「受診」「仕事」「症状」とい った語が上位となった.「仕事」の近くには「行 く」「内容」「休む」「忙しい」「ストレス」といっ た語が多く現れていることが分かった. 25 歳未満では,「大学」「就職」「勉強」といっ た言葉が特徴語として上位に現れた.「大学」の 近くには「教員」「行く」「入学」といった語が多 く見られることが分かった. 【考察】65 歳以上では,他の年代と比較すると自 分の進路や仕事によるエピソードでうつ病になる 可能性は低く,家族の転勤や死亡など,身内の変 化が大きく影響している可能性が高いと示唆され ると考える. 今回の分析では,特徴語の周辺に高頻度で存在 する語を抽出し,特に重要であると考えられるエ ピソードを推定した. 今後は,キーワードを利用した診断の一助とな るようなシステムの開発ができればと考える. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-9
レビー小体型認知症におけるMIBG心筋シンチグラフィーの有用性の検討;当院の88症例(DLB群44例)を後方視的に研究
岩本  倫 (砂川市立病院精神科)
【目的】画像診断がDLB と他の認知症を鑑別す るのに有用であり,最新のDLB 診断基準にある 支持症状「MIBG 心筋シンチでの取り込み低下」 に注目し,支持症状から示唆症状にレベルアップ すべきという動きがあり多くの臨床報告が必要で ある.そのため当院にてMIBG 心筋シンチグラ フィーを施行した症例を検証する. 【方法】対象:2008 年5 月から2013 年1 月で当 院にてMIBG 心筋シンチグラフィーを施行した 88 症例(DLB 44 例,AD 30 例,VaD 2 例,PSP 2 例,CBD 1 例,FTD 1 例,MCI 1 例,正常7 例) 方法:earlyH/M,delayedH/M,%Washout に おいて各疾患と正常例との比較検討.earlyH/M, delayedH/M,%Washout におけるDLB の診断 感度と特異度.SPECT(eZIS,3D-SRT,fSRT) のDLB の診断感度とDLB 群におけるMIBG 心 筋シンチグラフィーとSPECT(eZIS,3D-SRT, fSRT)の併用による感度. 【倫理的配慮】本研究に関する統計データのみを 後方視的に解析し,個人情報の保護に最大限配慮 した. 【結果】earlyH/M,delayedH/M,%Washout は 平均値±標準偏差とするとDLB 3.49±0.11/2.95 ±1.07/31.54±15.21,AD 5.84±1.63/5.72±2.65/ 17.44±11.36,VaD 5.17/±0.80/5.34±1.61/20.67 ±6.73,PSP 4.61±1.33/4.88±1.95/16.74±2.05, CBD 5.8/5.17/5.53,FTD 4.86/4.73/21.63,MCI 5.63/5.14/23.46,正常例5.87±0.09/5.62±1.68/ 17.91±16.25 であった.各疾患と正常例の比較 検討ではDLB でearlyH/M,delayedH/M,% Washout においてt 検定で有意に(p<0.01)低 値,AD,VaD,PSP では有意差を認めなかった. earlyH/M,delayedH/M,%Washout のcut off 値をROC 曲線から4.79/3.97/28.0% とすると DLB 診断感度は81.8%/70.5%/68.2% であり特 異度は72.7%/88.6%/90.9% であった.いずれか 一つでもcutoff 値以上である場合の診断感度は 93.2% であった.probableDLB 群とのpossible DLB 群の比較検討ではdelayedH/M,%Washout においてt 検定で有意に(p<0.05)低値であり, probableDLB 群は診断感度83.9%/80.6%/74.2% でいずれか陽性の場合93.5%,possibleDLB 群 は診断感度76.9%/46.2%/53.8% でいずれか陽性 の場合は92.3% であった.SPECT(eZIS,3DSRT, fSRT いずれか陽性)のDLB の診断感度は 72.7% でMIBG 心筋シンチグラフィー(earlyH/ M,delayedH/M,%Washout いずれか陽性)と SPECT(eZIS,3D-SRT,fSRT いずれかで陽性) の併用による感度は100% であった. 【考察】DLB では心臓のMIBG の集積が低下し, MIBG 心筋シンチグラフィーはDLB 診断感度, 特異度で他の認知症との鑑別に有効であることが 考えられた.またSPECT との併用により感度が 上昇した. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-10
小動物用MRIを用いたアルツハイマー病モデルマウスの検討;血液脳関門及び脳内酸化還元状態の時空間的検討
檀上 園子 (香川大学医学部精神神経医学講座)
【目的】血液脳関門(BBB)は脳内恒常性を維持 するために血液中の分子の脳内移行を厳密に制御 している.アルツハイマー病(AD)をはじめ, 様々な中枢神経疾患の病態生理にBBB が関与し ていることが報告されている.最近のBBB に関 する研究で興味深いことは,脳神経疾患の初期段 階においてBBB 機能不全が生じている可能性が あるという点である.AD 発症とBBB との関連 を調べるためには,AD のBBB 変化を長期的に 観察する方法を開発し,認知障害発症以前の脳内 状態捉えることが必要である.一方,活性酸素種 の増加や抗酸化防御機構の低下もAD などの中枢 神経疾患に関与していることが知られている. AD は加齢に伴う疾患であるため,その初期変化 を捉え,その後の変化を時空間的に検討すること が不可欠である.BBB 変化や脳内での酸化還元 (Redox)状態を非侵襲下で可視化するため小動 物用MRI を用いて検討した. 【方法】AD モデルマウスは,APP/PS2 Tg マウス または3×Tg(PS1/APP/tau)マウスを使用した. BBB 透過性検討のため,BBB 不透過性MRI 用 造影剤Gd-HP-DO3A を6 か月齢のAPP/PS2 Tg マウスに投与後,1.5T MRmini SR によりT1 強 調画像(T1WI)を撮像し,6 か月齢AD モデルマ ウスのBBB を時空間的に解析することを試みた. さらに,脳内Redox 状態を検討するために,ニ トロキシド分子の一つである3-hydroxylmethyl (HM)-PROXYL を2 か月齢および18 か月齢の 3×Tg マウスに投与しT1WI を撮像した. 【倫理的配慮】徳島文理大学・動物実験施設倫理 委員会の承認の下,「徳島文理大学香川薬学部に おける動物実験の指針」に基づき行った. 【結果】6 か月齢wild type マウスでは,脳実質内 におけるGd-HP-DO3A の漏出は認められなかっ た一方,学習障害が認められていない6 か月齢 のAPP/PS2 Tg マウスの海馬実質内においてGd -HP-DO 3 A の高信号が認められた.この結果は, 学習障害が認められる以前に海馬周辺でBBB 破 綻が起きていることを示唆した. 次に18 か月齢wild type マウスに比べ空間認 知機能が著しく障害されている同月齢の3×Tg マウスの脳内Redox 状態を検討した.wild type マウスでは脳実質全体で高信号を示している一方 で,3×Tg マウスでは3HM-PROXYL による信 号変化はほとんど観察されなかった.次に空間認 知機能障害がまだ発症していない2 か月齢3× Tg マウスの脳内Redox 状態を検討したところ, 2 か月齢3×Tg マウスでは,18 か月齢wild type マウスと同様に脳内全体で高信号を認めた.これ らの結果より,3×Tg マウスは加齢により脳内酸 化が進行するが,wild type マウスの脳内Redox 状態は加齢により変化が認められないことを示し た. 【考察】本研究よりAD モデルマウスの認知機能 低下が生じる以前に,BBB 透過性亢進を示唆さ れた.またAD モデルマウスは加齢により脳内酸 化が進行する可能性が認められた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 11:00〜11:48 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 症候学
座長: 山本 泰司(神戸大学医学部精神神経科)
T-11
レビー小体病のパーキンソン症候と認知障害の関連について;meta-iodobenzylguanidine(MIBG)心筋シンチで取り込み低下を示した50症例の解析から
小林 克治 (粟津神経サナトリウム,金沢大学大学院脳情報病態学)
【目的】パーキンソン病(PD),パーキンソン病 認知症(PDD)とレビー小体型認知症(DLB)は レビー小体病(LBD)として包括され,α‐シヌ クレインの沈着により生じる.定型・非定型パー キンソン症状に加え,うつ病,幻視,精神病性障 害などがみられる.認知症はこれらの基盤の上に 発症する.特にDLB は変性疾患としてはアルツ ハイマー病についで多く,その病理学的背景は多 様である.今回,MIBG 心筋シンチで陽性所見 のある症例を用いどのような臨床特徴が認知障害 と関連するのかを解析した. 【方法】対象は51 歳から95 歳までの男性28 名, 女性22 名で,MIBG のH/M 比が初期相で1.78 以下または後期相で1.68 以下の症例を選んだ. 非認知障害は,うつ病群(22 例,男/女=13/9), 幻視群(12 例,男/女=8/4),精神病群(16 例, 男/女=7/9)の3 群に分けた.MMSE とUnified Parkinson disease rating scale(UPDRS)を用 いて症状評価を行い,PDD は運動症状が認知障 害に1 年以上先行するものを選んだ.DLB は McKeith の診断基準に従い,認知障害がないも のはPD と暫定的に診断した.統計解析はJMP8 (SAS Institute Inc, USA)を用いた. 【倫理的配慮】発表に先立ち各被験者から文書に より同意をいただいた.院内倫理委員会でも審査 され承認を受けた. 【結果】男女比とH/M 比の初期相と後期相では3 群間で有意な違いはなかった.幻視群は高齢で, MMSE 平均得点ではうつ病群が27.9 で幻視群の 22.5,精神病群の21.0 よりも有意に高かった. パーキンソン症候の有無では,有/無=33/17 例 で平均MMSE 得点=20.4/26.4 で,何らかのパ ーキンソン症候があれば認知障害が強かった(p =0.0001).個々のパーキンソン症候で3 群の MMSE 得点を比較すると,振戦(p=0.1553)以 外のパーキンソン症状で認知機能に違いがみられ, 寡動(p=0.0005),筋強剛(p=0.0121),姿勢保 持障害(p<0.0001)であった.寡動,筋強剛, 姿勢保持障害の程度との関連では,下図に示すよ うにUPDRS 障害段階3 と認知機能障害が非線 形的に関連していた. 【考察】幻視や精神病の発症に加え,姿勢保持障 害や筋強剛が認知症の発症に深く関与し,PD や DLB の運動障害亜型と認知障害の関連とほぼ一 致し,非線形の関連が得られた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-12
激しい幻覚・せん妄が環境変化により著減し,脳病理所見は軽度であった認知症の一例;多発微小梗塞・アミロイドアンギオパチーと認知機能障害の検討
仲  紘嗣 (社福法特養かりぷ・あつべつ内科)
【目的】数年間断続的に続いた幻覚・せん妄が環 境変化により消失・著減し,脳病理所見が軽度で あった超高齢者認知症例を提示し,多発微小梗 塞・アミロイドアンギオパチーが認知機能障害を 惹起するかどうか検討する. 【症例】死亡時(2010 年7 月)106 歳女性T.K. 既往歴:66 歳時急性腎盂腎炎・軽症糖尿病.96 歳および103 歳時に右・左の大腿骨骨折(夫々手 術).他に96 歳以降8 年間に転倒40 回(内10 回は中等度).家族歴:父56 歳胃癌死.子ども2 人特発性心筋症で突然死.経過:91 歳(夫死亡 時)から「財布盗られた」などがあったが96 歳 まで一人暮し出来ていた.96 歳時の骨折から車 いすと病院・施設での生活が主となる.97 歳時 の入院先の病院では夜間せん妄がしばしばあり, その場合は介護士の指示が入らずとの指摘があっ た.98 歳時に老健に移り,そこでのHDS-R は16 点であった.100 歳時から時々不穏状態があった. 102 歳時のHDS-R は8 点(記銘力0 点). 102〜3 歳時には,「雨・水・子ども」「馬・虫・ ネズミ・かぼちゃ」が見える,「赤ん坊の泣き声・ お経唱える声」が聞こえるなどが頻回にみられ, 「東本願寺問題が始まると大混乱」と介護記録に記 されていた.背景として,持続した帰宅願望があ り,老健では他の入居者が自室を覗きに来ること が実際しばしばありその不安もあった.104 歳9 ケ月目から気管支炎を契機に衰弱が強くなり,看 取りを想定し自宅介護とした.帰宅後徐々に回復 し,食事も自力で経口摂取可能となった.帰宅3 ケ月後から演者の勤務する特養での生活を始めた. 帰宅後および特養での一年間では幻覚・せん妄 が著減した.死亡8 ケ月前から尿路感染をくり 返した.最後まで当意即妙なユーモアある会話が 出来ていた.解剖結果:脳重量975 g,萎縮は軽 度.ミクロの主要所見は,後頭葉主体の2,3 ミリ メートルの多発微小梗塞とアミロイドアンギオパ チーであった.海馬の大きさや顆粒細胞層はほぼ 正常に保たれていた.直接死因は敗血症・右腎臓 周囲膿瘍で2,3 センチメートル大の膿瘍が2 個み られた.その他,4 センチメートルの腹部大動脈 瘤. 【倫理的配慮】本症例は演者の実母であり,血縁 関係の了解を得ています. 【考察】本症例では,臨床的にはレビー小体型認 知症を疑っていたが,当施設の病理医および他の 専門家により,作成した標本ではレビー小体は認 めなかった.脳アミロイドアンギオパチーでの認 知症は従来の報告では粗大な脳梗塞を伴っている 場合が多く,本症例のような多発微小梗塞程度の 病理変化の場合でも認知機能障害が生じるのか興 味ある症例と思われた.認知機能にアルツハイマ ーとしての関与がどの程度加わっていたかは検討 中である.高齢者のせん妄の誘発因子として入院 等の環境変化が指摘されている.本症例では自分 にとって安心出来る環境に変わってせん妄の回 数・程度が著減したことは,誘発因子が重要と思 われた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-13
物忘れスピード問診票の開発
唐澤 秀治 (船橋市立医療センター脳神経外科)
【目的】従来の認知症に関する問診票は症状の有 無を評価するものであり,物忘れの原因疾患その もののスクリーニングを目的とした問診票に関す る論文・研究は見当たらない.本発表の目的は, 著者らが開発した,物忘れの主な原因疾患を迅速 にスクリーニングすることができる画期的な問診 票について報告することである.尚,本研究では 患者の尊厳を守るべく倫理面での配慮を行うとと もに情報管理には特に留意した. 【方法】我々は,2009 年から2011 年までの3 年 間に,メモリークリニックを受診した患者785 人 に対して問診・神経心理検査・画像検査(MRI, SPECT)から最終的な原因診断を行ってきた. この診療から患者・付き添い者に対する問診票を 工夫し,問診票の症状チェックと進行パターンチ ェックを行うことにより,物忘れの原因をスクリ ーニングすることができる問診票の開発を行った. また,2012 年1 月から8 月までに受診した患者 249 人に対して,後ろ向きに問診票のパターン判 定を行い,その信頼性と妥当性の検討を行った. 【倫理的配慮】本研究では患者の尊厳を守るべく 倫理面での配慮を行うとともに情報管理には特に 留意した. 【結果】症状の重症度・広がり・進行をパターン 認識することにより,物忘れの主な原因疾患のス クリーニングが可能となる画期的な問診票「物忘 れスピード問診票」を作成した.また,8 種類の 代表疾患の鑑別がパターン認識できる「物忘れス ピード鑑別表」も作成した.問診票と鑑別表の評 定者間信頼性と基準関連妥当性が確認された.ま た,284 人のうち,患者のみが単独でメモリーク リニックを受診し,本人のみが物忘れスピード問 診票を記載した群(P 群)は85 人,患者が付き 添い者とともに受診し,両者が物忘れスピード問 診票を記載した群(PF 群)は,119 人,患者が 付き添い者とともに受診し,両者に物忘れスピー ド問診票を渡したが,患者本人が記載不可能であ り,付き添い者のみが記載した群(F 群)は,80 人であった.各群別のパターン判定と最終判定の 一致率を検討すると,P 群の患者問診票,PF 群 の患者問診票,PF 群の付き添い者問診票,F 群 の付き添い者問診票と最終診断の一致率は,それ ぞれ69.5%,45.0%,71.6%,69.0% であった. 【考察】物忘れスピード問診票およびスピード鑑 別表は,最終診断との一致率が約7 割あり,か かりつけ医の診療だけでなく介護関係者の業務活 動においても大いに役にたつと考えられる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-14
認知症との鑑別が必要となったTransient epileptic amnesiaの症例
本岡 大道 (久留米大学病院精神科,城ヶ崎病院)
【目的】認知症と見なされ,てんかんと診断され た症例は以前より報告されていたが,2012 年2 月,テレビ番組で取り上げられ,一般にも周知さ れるようになった.今回,もの忘れを主訴として 受診し,認知症との鑑別が必要となったてんかん 症例(transient epileptic amnesia : TEA)につ いて報告する. 【方法】症例を以下に呈示する. 症例1:70 代半ば男性.60 代初め,出先で『こ こはどこ』など言い出し,道に迷うことがあった. 同症状は1 時間ほどで回復した.経過中,むか むかする前兆も認められた.70 代で他医受診し たが,異常は指摘されなかった.70 代半ば,当 科初診.アルツハイマー病が疑われ,ドネペジル が投与開始.経過中,ぼーっとなるエピソードが 観察されていた.1 年後,てんかん専門医へ主治 医交替となり,臨床症状および経過から,てんか んが疑われた.脳波を施行したところ,両側側頭 前部から独立して出現するてんかん波を認めた. ラモトリギン開始後,上記エピソードは減少した. 症例2:70 代前半男性.50 代前半,エピソード 記憶が欠落するようになった.50 代半ば,飲酒 の翌朝,大発作が出現.複数の医療機関で精査さ れたが,そのまま放置.当時,もの忘れを主訴と して近医受診.一過性の健忘症として特に加療さ れなかった.しかし,その後もエピソード記憶の 欠落が頻繁に認められ,さらに2 回目のけいれん 発作が出現したが,TIA,アルコール離脱による けいれんと診断され,断酒が指示されたのみだっ た.その後,家族は意識が途切れて徘徊するエピ ソードを複数回観察していた.番組視聴後,当科 外来を受診.脳波上,両側側頭前部から独立性に 出現するてんかん波を認めた.カルバマゼピン開 始後,以後上記エピソードは抑制された. 症例3:60 代前半女性.50 代初め,睡眠中に身 体を硬直,右手を震わせるエピソードが出現.近 医受診し,精査を受けたが,異常なかった.その 後も月単位で同様のエピソードが出現していたが, 本人は物忘れを自覚するのみだった.60 代初め, 自宅で無目的に徘徊するエピソードが週単位で観 察された.番組視聴後,当科外来を受診.脳波上, 両側側頭前部からてんかん波が独立性に出現して いた.カルバマゼピン開始後,上記エピソードは 抑制された. 【倫理的配慮】症例が特定されないよう経過や症 状について一部改変している. 【結果】TEA は,中年〜老年期の30 分に満たな い一過性の健忘,多くは覚醒期に出現.健忘の加 速,まばらだが過去の記憶喪失を特徴とする. Zeman らによる診断基準によると,観察さ れた反復して出現する一過性健忘エピソード 典型的なエピソード中の認知機能は正常てん かんと診断できる証拠の3 つが診断項目になる. 今回の症例中,症例1,2 はTEA の診断基準を 満たし,前医で認知症あるいはその疑いありと診 断されていた. 【考察】高齢者において,一過性の健忘を認め, その他の認知機能が保たれている場合,安易に認 知症と診断するのではなく,TEA の可能性も念 頭に置き,少なくとも脳波検査は行う必要がある と考えられた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 13:15〜14:15 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : ケア・地域医療
座長: 水野 裕((社医)杏嶺会いまいせ心療センター・認知症センター)
T-15
認知症治療病棟における前向き研究;入院治療の有効性と,介護者負担度調査
谷口 将吾 (京都府立医科大学精神機能病態学)
【目的】わが国は超高齢化社会に突入しており, 認知症患者数も年々増加の一途を辿っている.認 知症の診断や周辺症状の治療を行う認知症治療病 棟の役割は重要であり,また,核家族化,少子化 も進み,認知症患者の介護者の介護負担も早急に 対応すべき課題となっている.そこで本研究は, 複数の認知症治療病棟においてその実態,有効性, 介護負担につき前向き調査を行った.今回はその 中間報告を行う. 【方法】認知症治療病棟を有する宇治おうばく病 院と海辺の杜ホスピタルで前向き調査を行った. 各病院で2011 年5 月1 日〜2012 年4 月30 日, 2011 年6 月1 日〜2012 年5 月31 日までに当病 棟に入院,転院または転棟し,半年のfollow up 期間内に退院,転院,転棟した患者を対象とした. 入院時に患者の基本情報(診断,年齢,性別,発 症年齢など),社会状況(入院前住居,要介護度), 家族情報(配偶者の有無,主な介護者,同居人数, Zarit 介護負担度),認知症重症度(CDR,MMSE), 身体的ADL(PSMS),周辺症状(NPI-NH), 向精神薬使用状況,退院時に転帰,退院先,在棟 日数,向精神薬使用状況を調査した.また, Wilcoxon 符号付き順位検定により入院時と退院 時のCDR,PSMS,NPI-NH の比較を,Zarit を 従属変数として年齢,入院時CDR,PSMS,NPINH を独立変数としてstepwise 重回帰分析も行 った.p<0.05 を統計学的有意とした. 【倫理的配慮】本研究は宇治おうばく病院,海辺 の杜ホスピタルの倫理委員会で承認され,患者ま たは家族へのインフォームド・コンセントを実施 し口頭並びに書面で研究内容・参加につき説明し, 了解され書面で同意を得ている. 【結果】67 名が対象となった.AD が36 名で過 半数を占め,VD は11 名,DLB は6 名,混合型 認知症は8 名で特定不能型認知症が6 名であっ た.入院時の平均年齢は83.6 歳,平均罹患歴は 3.8 年,入院時平均MMSE は9.1(54 名),身内 の介護者は配偶者16 名,娘19 名,息子12 名, 嫁4 名,孫4 名であった.主介護者の平均年齢 は64.1 歳(51 名),平均同居人数は2.5 人(51 家族),主介護者のZarit 介護負担度は平均49.4 (50 名)であった.平均在棟日数は87.7 日,軽 快は58 名で身体合併症発症は9 名であった.自 宅からの入院は41 名であったが,自宅への退院 は14 名で,施設からの入院は16 名で施設への 退院は39 名であった.過半数で抗精神病薬を入 退院時共に処方されていた.入院時と退院時の比 較では,CDR とPSMS は著変無く,total NPI score は有意に改善していた.重回帰分析では入 院時PSMS のみがZarit の予測因子として抽出 された. 【考察】認知症治療病棟への入院患者で高齢化を 認め,重度の認知症,ADL の低さが顕著であっ た.入院治療によりADL を低下させること無く 周辺症状は改善しており入院治療は有効であった. その一方で,自宅への退院は減っており,介護者 の負担度にはADL の低さが有意に関与していた. 認知症治療病棟では周辺症状の治療だけではなく, 並行して社会的サポートやADL 向上に対する対 策が必要であると考えられる.(なお,発表当日 は対象者数が若干増える予定である.) 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-16
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症における社会的予後と生命予後の検討;急性期病棟に初回入院した患者による比較
眞舘 周平 (石川県立高松病院)
【目的】レビー小体型認知症(DLB)はアルツハ イマー型認知症(AD)に次いで頻度の高い認知 症変性疾患である.DLB はAD に比し幻覚やう つが多いことやコリンエステラーゼ阻害薬が有効 であるなど症状論的・治療論的な報告は多い.一 方で治療による社会的予後と生命予後への影響を 検討したものは少ない.そこで本研究は,患者の 社会的背景や臨床症状を考慮してAD 群とDLB 群と比較し,治療後の社会的予後と生命予後を検 討した. 【方法】2008 年1 月から2011 年12 月の間,老 人急性期病棟に初回入院し,学会専門医が診断し たAD 患者224 名とDLB 患者106 名を対象にし た.患者の社会的背景,MMSE,入院理由,BPSD, ADL,入院期間,退院先等をそれぞれAD 群と DLB 群で比較した.退院先は自宅や施設を望ま しい退院先とし,死亡や病院転院を望ましくない 退院先として社会的予後について比較した.また 投薬内容,死亡数,入院日から死亡するまでの生 存日数もそれぞれ比較した. 【倫理的配慮】個人情報の保護・管理は十分に注 意し,個人情報は全て匿名化して個人が特定され ないように配慮した. 【結果】AD 群は男性71 名,女性153 名,平均年 齢82.7±6.5 歳だった.DLB 群は男性34 名,女 性72 名,平均年齢83.0±5.9 歳だった.両群に 性差や年齢で有意差はなかった.また両群におけ る入院前居所,同居者,介護者などの社会的背景 やADL も差はなかった.一方,AD 群では平均 MMSE 得点11.6±7.3 点,DLB 群では平均 MMSE 得点13.5±7.5 点と,AD 群が有意に低 かった(P=0.020).入院理由では,AD 群は攻 撃性(P=0.000),DLB 群は多動が有意に多く認 められた(P=0.165).BPSD ではDLB 群では幻 覚が多かった(P=0.000).入院期間は,AD 群 123.1±163.9 日,DLB 群121.6±178.8 日と差は なく,退院先も差はなかった.認知症治療薬は DLB 群でドネペジルをより多く使用していたが (P=0.000),投与量はAD 群5.6±4.9 mg,DLB 群5.1±1.4 mg で差はなかった.抗精神病薬は AD 群でより多く使用していたが(P=0.030), CPZ 換算した投与量はAD 群155.7±314.7 mg, DLB 群122.1±141.5 mg で差はなかった.観察 期間中の死亡者の割合はAD 群33%,DLB 群 34% と両群で有意差は認められなかった. 【考察】入院時における患者のADL や社会的背 景に差はなかったが,DLB 群がAD 群より入院 時における平均MMSE 得点が高く,BPSD では 幻覚で有意に差が見られており,AD に比べ MMSE が比較的保たれている場合であっても幻 覚症状が介護者にとって大きな負担となることが 示された.また適切に治療を受けた場合はAD 患 者とDLB 患者は社会的予後および生命予後に差 がないことが示唆された.以上から適切な介入は, 患者のQOL 向上や介護者の負担軽減に大きく寄 与しうるものと考えられた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-17
MRI画像とKyomation Balance Sheet を用いた認知症介護支援への基礎的検討
高橋 俊行 (昭和大学大学院保健医療学研究科診療放射線領域)
【目的】Kyomation Balance Sheet(以下KBS) は認知症の行動症状・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia 以下 BPSD)とエコノモ(Economo)とコスキナス (Koskinas)の細胞構築分類とブロードマン (Brrodmann)による大脳皮質の機能地図を関連 させ,作成された認知症アセスメントに有用なシ ートである.今回は,MRI 画像上での経時的変 化が,KBS とどのように関連性があるのか基礎 的な検討を行い,認知症の介護において発症する BPSD を予見し有効な支援と成り得るかを検証 した. 【方法】1.臨床で撮像されたMRI 画像(FLAIR 像)を用いて,脳に萎縮部位ならびに損傷部位を 判断した. 2.症例は認知症70 歳代女性1 名の画像を用い て検討を行った.比較画像は認知症が比較的進行 していない3 年間の画像と認知症が進行した現 在の画像の比較を行った. 3.BPSD の評価尺度としてInter-Rai によるア セスメント情報及びHDS-R,MENFIS,WAISR を用いてBPSD の発生状態を把握した.画像 判定には研究に携わった3 名の協議によって判 定を行った. 【倫理的配慮】今回の研究におけるKBS に関し ては,事前に対象患者の家族に趣旨を伝え同意書 にて了承を得ている. 【結果】今回の症例では,画像判定より頭頂葉領 域と側頭葉領域での萎縮が見られ,KBS シート を用いることで,複数のBPSD の発生が予見出 来ることが示唆された. 【考察】今回は1 例報告であるが,大きな症状と の画像の一致は確認できた.しかし,画像による 萎縮判定は視覚評価のみで行っており,実際の行 動観察と比較したものが,委縮画像と一致する可 能性の可否ではなくBPSD 発症を予見すること で,介護上の支援がスムーズとなり,残存能力の 賦活性としての可能性を示唆することを優先した. しかし,画像の関する判定方法は今後の課題であ ると考えられた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-18
「思い出深い音楽」語りによるBPSD治療の有用性について;非認知症時と認知症有病時の縦断的研究から
西村 仁美 (音楽療法士事務所音縁)
【目的】筆者は第23 回日本老年精神医学会(2008 年)の一般演題において,自立生活者の大正コホ ート高齢者5 名による「思い出深い音楽」語り に関する治療的アプローチの有用性を述べた.そ の後,語り手の一人であるA さんが2009 年にア ルツハイマー病の診断を受け,妄想及び攻撃的行 動などのBPSD が頻出していた2011 年に,「思 い出深い音楽」語りの再インタビューを実施して 非認知症時からの縦断的研究を通してBPSD 治 療の有用性を考える. 【方法】再インタビューを実施した2011 年時, 大正コホート高齢者A さんは認知症自立度4, 介護度2 でドネペジル塩酸塩錠(10 mg/日)を 服用.自己選択による「思い出深い音楽」をイン タビューガイドとして半構造化インタビューを実 施.語りの内容を逐語録化した後,音楽回想関連 項目である発達期,音楽類型(西村,2006)とラ イフレビュー関連項目(山口,2004)において分 析した. 【倫理的配慮】A さんの家族に研究依頼書を提示 し,匿名性に配慮して学会発表する同意を得た. 【結果】2006 年の第1 回目のインタビュー時にA さんが選択したのは「大磯心中の歌」「婦人従軍 歌」「かあさんの歌」の3 曲であった.インタビ ュー開始時には8 曲を選択したが,最終的には 第1 回目と同様の3 曲を選択した.8 曲の発達期 分析は,青年期から20 歳代が6 曲,30 歳代が2 曲であった.音楽類型分析は歌唱するなどの音楽 活動型が7 曲,インパクト型が1 曲であり,ラ イフレビュー関連項目の「重要な家族や他者」「自 己の特徴」「自発的に語られた他者の死」「自発的 に語られた戦争の話」は全て含まれた.様々なエ ピソードを語る中でさらに10 曲の歌が加わり, 「上手く歌えないけど」と言いながら大半の歌を 口ずさんだ.「若い頃は何も考えず楽しかった」 「昔のことはいくらでも出てくる」と感想を述べ た. 【考察】非認知症時のインタビュー第1 回目時よ り多い8 曲をメモに書き,生き生きとした表情 で語るA さんから認知症を思わせる姿は無い. ライフレビューの語りを口述ネットワークにする と個別性の高い人生が浮き彫りになるとともに, 文化的及び社会的伝承の役割を担っている意識が 垣間見えた.音楽類型分析からは,「かあさんの 歌」の歌詞やメロディの音楽要素を含まない独自 な活動を語るなど,元来能動的な性格であったこ とがうかがえた.発達期分析からは,A さんの遠 隔記憶といえる青年期がライフイベントの多さと 新奇性の高さを示す時期であるとともに,認知科 学研究のレミニセンス・バンプと一致している記 憶であることから,日常生活においてBPSD が 頻出するアルツハイマー病を患っているA さん に生かされている潜在的能力といえる.その能力 と「瞬時に懐かしい時空間へ導く」音楽の特有性 が攻撃性の雰囲気を転換し,穏やかなひと時に繋 がることを筆者は多くの臨床から得ており,広く 認知症に関するBPSD 治療としても有用性は高 いと考える.一人ひとりの人生に寄り添ってきた 「思い出深い音楽」が心豊かな「時間と居場所」を 提供するパーソンセンタード・ケアとして取り入 れられることを望みながら,認知症研究と臨床を 継続して本人と家族を支えていきたい. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-19
茨城県内2地域における認知症疫学調査の比較
池嶋 千秋 (筑波大学医学医療系臨床医学域災害精神支援学)
【目的】近年,人口構成の変化とともに,既存の 統計データでは認知症の疫学的概要が十分に説明 され得なくなりつつある.そこで茨城県内の2 地域における認知症高齢者について,有病率,症 状別分布,所在などを推計するための調査を実施 した. 【方法】茨城県北相馬郡利根町とつくば市を対象 地域とした.対象は住民基本台帳より65 歳以上 の者を地域ごとに無作為抽出した.調査期間は利 根町が平成21 年10 月1 日から平成22 年9 月 30 日,つくば市が平成23 年10 月1 日から平成 24 年9 月30 日であり,調査員の訪問による予備 的調査と家族からの聞き取り,心理士と医師によ る面接調査等を実施した.本研究は平成24 年度 厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究 事業)「都市部における認知症有病率と認知症の 生活機能障害への対応」として行われた. 【倫理的配慮】本研究は筑波大学医の倫理委員会 の承認を得て行われた. 【結果】利根町では無作為抽出にて899 名が抽出 された.このうち調査期間中に42 名が死亡し, 対象者は857 名となった.面接調査への参加者 は612 名であり,参加率は71.4% であった.つ くば市では無作為抽出にて899 名が抽出され, 調査期間中に56 名が死亡し,調査対象者は857 名となった.面接調査への参加者は555 名であ り,参加率は65.8% であった.両地域における 参加率には統計学的に有意な差が認められた(カ イ2 乗検定p=0.018).対象者の平均年齢は利根 町で79.5±8.9 歳,つくば市で79.8±8.9 歳,参 加者の平均年齢は利根町で79.1±8.8 歳(年齢範 囲65−102 歳),つくば市で79.2±9.2 歳(年齢 範囲65−103 歳)であり,地域による差は認め られなかった.参加者の平均教育年数は利根町で は10.3±2.9 年,つくば市では11.3±3.4 年であ り統計学的に有意な差が認められた(p<0.001). また,両地域とも不参加者の平均年齢は参加者の 平均年齢より有意に高かった.標本抽出率および 参加率で補正した65 歳以上人口に対する認知症 の有病率は,利根町が13.6%,つくば市が14.4% であった.認知症の発症に対し年齢,性別,教育 年数,地域を説明変数としてロジスティック回帰 分析を行ったところ,地域をのぞく全ての変数で 高い関連が認められた. 【考察】本調査における認知症の有病率は,従来 わが国で推定されてきた認知症の有病率と比べて 高値である.今回,同一県内の都市部と農村部に おいて同一手法で調査を行い比較した結果は,参 加率と教育年数において差が認められた.認知症 の発症に関しては,従来の研究と同様に年齢,性 別,教育年数の関連が強いことが示唆された.今 後はより多くの地域を対象として同様の解析を行 っていく予定である. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 14:15〜15:15 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 心理学・神経心理@
座長: 池尻 義隆((財)住友病院メンタルヘルス科)
T-20
男性軽度認知症患者に対する個別回想による集団療法プログラムの検討
竹田 伸也 (鳥取大学大学院医学系研究科)
【目的】認知症は,病初期では生活障害の程度が 軽いため,重度の患者と比べ地域在住者が多い. 認知症の根本的治療がまだ難しい現在,非薬物療 法の期待が高まっており,地域で様々な非薬物療 法による支援が展開されている.しかし,病初期 の認知症の人を対象とした集団活動では,男性の 参加率が低く,男性に特化したサービスの展開が 求められる.本研究では,竹田ら(2010)が提唱 した参加者が個別に語りたいテーマを扱った“個 別回想”を中心とした集団療法プログラムを男性 軽度認知症患者に実施し,その効果を検討した. 【方法】対象は,鳥取県内一般病院精神科を受診 している男性軽度認知症患者6 名であった.事 前に個別面接を行い,生活歴等の聴取と会の趣旨 説明を行った後,自らの人生についてどのような ことを語りたいか尋ねた.プログラムは,はじ めの挨拶(参加への謝意と個別回想の当番の確認), 個別回想(毎回1 人の参加者が,事前に決めた テーマに基づいて回想し,参加者同士で感じたこ とを自由に述べあう),感想(回想内容につい ての感想を紙に書き,それを順番に発表する), おわりの挨拶(個別回想の振返りと次回の個別 回想者の選定)の流れで実施した.感想の書かれ た用紙は,会の終了後に回想した人に贈られた. プログラムは,隔週同曜日同時間帯(1 時間),計 7 回実施した.プログラムの結果評価には,改訂 PGC モラールスケール(Lawton, 1975 ; PGC)と 高齢者抑うつ尺度(Schreiner et al., 2003 ; GDS) を用い,プログラム実施前と終了後の計2 回実 施した.また,プログラムの影響評価にはプログ ラムへの毎回の参加率を算出した. 【倫理的配慮】対象者に本研究の趣旨を説明し, 協力への同意を得た. 【結果】Wilcoxon の符合付順位和検定を用いてプ ログラム前後の各尺度の差を検討したところ, PGC 及びGDS 双方において前後で有意差を認 めなかった(PGC:z=−0.4,n.s.;GDS:z= −0.7,n.s.).一方,対象者のプログラムへの参 加率は,毎回100% であった.個別回想のテー マは,6 名中5 名が仕事に関することで,残る1 名が家族(父親)に関することであった.参加者 は回想者の話を傾聴し,共感的に応じたり,同時 代を生きた苦労を共有したりする場面が多くみら れた.感想は,どの参加者も個別回想を行った対 象者の話を聴いて感じたことを表現することがで きていた. 【考察】本プログラムが対象者の主観的幸福感や 抑うつに与えた効果について,尺度の結果からは 認められなかった.一方,プログラムへの参加率 は毎回100% を示しており,本プログラムは男 性軽度認知症患者にとって参加しやすく,実施し やすいプログラムであることが示唆された.毎回 の会の様子と各自の作成した感想から,個別回想 が語り手だけでなく聴き手にも充実した時間とし て体験されたことがうかがえた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-21
脳糖代謝量に左右差がある軽度認知障害と初期アルツハイマー病の記憶機能の特徴
村山 憲男 (北里大学医療衛生学部,順天堂東京江東高齢者医療センター)
【目的】Alzheimer’s disease(AD)やamnestic mild cognitive impairment(aMCI)は,後部帯 状回や頭頂側頭連合野などを中心に脳機能がびま ん性に低下するのが特徴であり,これまで脳機能 低下の左右差については注目されてこなかった. しかし,実際には,脳機能低下に左右差が認めら れる例も存在する.本研究では,aMCI および初 期AD を対象に,脳糖代謝量の左右差によって記 憶機能にどのような特徴がみられるか検討した. 【方法】順天堂東京江東高齢者医療センターの物 忘れドックでaMCI ないし初期AD と診断され た高齢者に対し,脳18 F-FDG PET を実施し, 3D-SSP を用いた画像統計解析を行った.楔前部, 後部帯状回,頭頂側頭連合野における糖代謝量低 下の分布(対象部位に占める低下領域の割合)と 重症度について左右差を算出し,左右に有意な低 下がみられた上位25%,および,有意な左右差 がみられなかった25% を,それぞれ,左優位群, 右優位群,左右差なし群とした.各群は,年齢, 教育年数,脳全体の糖代謝低下の分布と重症度が, いずれも,ほぼ等しくなるように選択された.各 群の最終的な対象者数は,いずれも12 名であっ た.また,すべての対象者に対してMMSE と WMS-R を実施した. 【倫理的配慮】本研究は,順天堂東京江東高齢者 医療センター倫理委員会の承認を受けた研究の一 部である. 【結果】3 群間の心理検査得点の差を検討するた め,ANOVA およびTukey 法による多重比較を 行った. その結果,MMSE 得点には,3 群間に有意差 がみられなかった. 一方,WMS-R の言語性記憶,一般的記憶,遅 延再生では,いずれも有意差がみられた(p<.05). 言語性記憶は,左優位群が73.3,右優位群が85.3, 左右差なし群が87.1 であり,左優位群は他群よ りも有意に低得点であった(p<.05).一般的記 憶は,左優位群が70.3,右優位群が83.1,左右 差なし群が85.6 であり,左優位群と左右差なし 群の間に有意差がみられた(p<.05).遅延再生 は,左優位群が59.3,右優位群が76.1,左右差 なし群が74.8 であり,左優位群は他群よりも有 意に低得点であった(p<.05). また,3 群間のaMCI と初期AD の分布につい てχ2 検定を行った結果,aMCI と初期AD の人 数(%)は,左優位群が5 名(41.7%)と7 名 (58.3%),右優位群は9 名(75.0%)と3 名 (25.0%),左右差なし群は10 名(83.3%)と2 名(16.7%)であり,左優位群は初期AD と診断 された人数と割合が,有意傾向ながら他群よりも 多かった(p<.10). 【考察】脳糖代謝量に左右差があるaMCI や初期 AD のうち,左優位に低下がある例は,右優位に 低下がある例や左右差がない例に比べて,言語性 記憶や一般的記憶,遅延再生の得点が低く,初期 AD と診断される割合も多かった.一方,視覚性 記憶は,脳糖代謝量の左右差による影響が少なか った. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-22
認知症高齢者の心理査定におけるWAIS-III短縮版の有用性;MCI,AD,DLBを対象にした検討
太田 一実 (順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT認知症研究センター)
【目的】Whecsler Adult Intelligence Scale-Third Edition(WAIS-)は,成人を対象に多く使用 されている認知機能検査であり,すべての下位項 目を実施するには長時間を要する.そのため,特 に認知症高齢者は負担が大きく,臨床的には短縮 版が使用されることも多い.WAIS の短縮版はこ れまでに多く提案されているが,Brooks(2005) は,認知症が疑われる高齢者43 名を対象に複数 の短縮版の有用性について検討し,Ward(1999) による短縮版(Ward 法)が最も有用であると報 告した.しかし,軽度認知障害(MCI)やレビー 小体型認知症(DLB)に対する有用性は,これ まで明らかにされていない.本研究では,アルツ ハイマー病(AD)やMCI,DLB を対象に,Ward 法の有用性について検討した. 【方法】対象者は,順天堂東京江東高齢者医療セ ンターの物忘れドックを受診した高齢者である. 当ドックでは,頭部MRI や脳18 F-FDG PET の ほか,心理検査としてWAIS-やWMS-R, MMSE などを実施している.ドックの結果から, amnestic MCI と診断された138 名(aMCI 群), Non aMCI と診断された33 名(Non aMCI 群), AD と診断された84 名(AD 群),DLB と診断さ れた33 名(DLB 群),健常と診断された84 名(健 常群)を対象とした.各群の年齢は統制した. 短縮版の妥当性を検討するため,WAIS-の 言語性IQ(VIQ),動作性IQ(PIQ),全検査IQ (FIQ)と,短縮版によるVIQ-S,PIQ-S,FIQS の,それぞれの相関係数を算出した.また,AD 群−DLB 群間の各得点差をt 検討によって検討 した. 【倫理的配慮】本研究は順天堂東京江東高齢者医 療センター倫理委員会の承認を受けた. 【結果】VIQ,PIQ,FIQ と各短縮版との相関係 数は,すべての群で0.9 を超えていた.また,t 検定の結果,VIQ はAD 群−DLB 群間に有意差 はみられなかったが,PIQ ではDLB 群はAD 群 に比べて有意に低得点であった(p<.05)(表1). 【考察】VIQ,PIQ,FIQ とVIQ-S,PIQ-S,FIQS のそれぞれの相関係数はいずれの群でも高く, 健常やAD だけでなく,MCI やDLB においても Ward 法の妥当性が高いことが示唆された. また,AD 群−DLB 群間の得点差を検討した 結果,DLB 群はAD 群に比べてPIQ が有意に低 かった.DLB にはパーキンソニズムや視覚認知 障害が認められるため,積木模様や符号などが含 まれるPIQ が低得点になりやすいと考えられる. WAIS には今回検討したWard 法以外の短縮 版もあるが,FIQ の算出だけを目的にしたもの が多い.本研究では,Ward 法以外の短縮版は検 討しなかったが,DLB を対象にした心理査定で は,FIQ-S に加えてVIQ-S とPIQ-S も算出でき るWard 法の有用性が高いと考えられる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-23
抑うつ症状の改善数ヶ月後に認知機能障害が改善した一症例
松岡 照之 (京都府立医科大学精神機能病態学)
【目的】高齢者うつ病による注意障害から物忘れ の訴えが前景となる仮性認知症では,認知症と誤 診されるケースも少なくない.一方で認知症初期 に周辺症状として抑うつ症状が出現することも多 く,臨床上,うつ病と認知症の鑑別に苦慮するこ とが少なくない. 高齢者うつ病患者では視空間認知,精神運動速 度,遂行機能などの認知機能が障害されると報告 されている.抑うつ状態時に認めていた認知機能 障害が治療により改善したという報告がある一方 で,抑うつ状態が改善した後でも遂行機能障害が 残存していたという報告もある.このように,高 齢者のうつ病における認知機能障害がうつ病によ り生じているのか,元々存在しているものなのか, 議論が続いている. 今回,我々は,抑うつ症状改善数ヶ月後に認知 機能障害が改善した一症例を報告する. 【倫理的配慮】今回症例報告にあたり,人物が特 定されないようデータの扱いには匿名性に十分注 意した. 【症例】78 歳男性.うつ病疑いの姉がいる.X− 4 年頃に抑うつ気分,意欲低下,体重減少などの 抑うつ症状出現.X−3 年3 月に希死念慮も認め るようになり,当院当科初診.「死んだ母がいる 気がする」などの誤認や排便へのこだわりも出現 し,X−3 年6 月〜8 月まで当院当科入院.フル ボキサミン150 mg にて抑うつ症状,誤認,排便 へのこだわりは改善.頭部MRI では両側側脳室 下角開大認めたが,MMSE は21→30 点に改善 しており,認知症は否定的と考えられた. 退院後,精神状態安定しており,日常生活も普 通に行っていたが,X 年1 月頃から仕事が忙しく なり,意欲低下,全身倦怠感,罪責感が出現.妻 のことを姉と言う,「自宅に他の誰かが住んでい る」などの誤認も出現.そのため,X 年5 月に当 院当科入院となった.入院後フルボキサミン150 mg からデュロキセチン60 mg に変薬することで, 抑うつ症状は徐々に改善した.しかし,主治医を 職場の所長と間違えたりする誤認や質問の内容を 取り違えて会話がかみ合わないことがあった. MMSE は24→27 点と改善していたが,ADAS は12.7→15 点と悪化.入院前のSPECT で右側 頭〜頭頂で血流低下を認めており,アルツハイマ ー型認知症も合併していると考えてドネペジルを 開始し,6 月に退院となった. 退院後,抑うつ症状や誤認は目立たなくなり, 週2 回仕事をし,日常生活で支障をきたすこと もなくなった.X 年10 月,ADAS は5 点と改善 していた. 【考察】抑うつ症状改善後も誤認や認知機能障害 が残存しており,認知症も合併していると考えた が,抑うつ症状改善4 ヶ月後には認知機能障害 は目立たなくなり,うつ病による認知機能障害で あったと考えられる.うつ病と認知症との鑑別は 困難であることが多いが,うつ病改善後も認知機 能障害の変化を継続して評価していくことが重要 であると思われる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-24
アンケートによる高齢断酒者の臨床精神医学的特徴について
奥田 正英 (八事病院精神科)
【目的】演者らは,アルコール依存症(以下,ア 症)の心理機制に関する30 項目からなるアンケ ートを新たに作成してア症の精神医学的な検討を してきた.今回はアンケートの対象を高齢断酒者 とそれより若い断酒者を比較して,高齢断酒者の 心理機制について検討を加えた. 【方法】対象は,ア症者で当院を含めて精神科治 療を過去に受けあるいは現在受けているか,また は断酒会に参加している酒害者であり,アンケー トの主旨を文書で説明して協力が得られた65 歳 以上の高齢断酒者51 名(高齢群:平均年齢69.5 ±3.7 歳,男女比=40:11)とそれより若い断酒 者120 名(若年群:平均年齢49.7±10.0 歳,男 女比=55:65)の合計171 名である.この両群 について,断酒期間,多重嗜癖のアルコール以外 の物質依存,行為依存,関係依存,それから重複 精神障害の有無について基本情報を得た.アルコ ール依存症の心理機制に関係する30 項目のアン ケートを各項目5 段階評価で行った.さらに総 合指標としてアンケート合計,抑うつ指標,嗜癖 指標,共依存指標,それに陽性指標などを加えた 各項目について両群を統計学的にt 検定で比較し た. 【倫理的配慮】調査対象は本研究の主旨を文書で 説明して,アンケートに同意をされ協力が得られ た方々である.また個人情報の取り扱いには充分 な注意を払った. 【結果】高齢群は若年群と比較して基本情報の項 目の断酒期間は5−10 年と有意に長く,アルコ ール以外の物質嗜癖,行為嗜癖,関係嗜癖,重複 精神障害は共に有意に低い割合であった.アンケ ート項目では,#2 私は物事をあまり先読みや深 読みをせずくよくよと考えない,#5 私は相手の 意見や長所を素直に受けいれられる,#6 私は自 分の健康に注意をはらい無理をしない生活をして いる,などで有意に高かった.他方,#3 私はさ さいな失敗で自分をせめる,#7 私はいつも不 安・イライラ・抑うつ感があり心が暗くなる,# 17 私は何かをしたい強い欲求や衝動にかられ抑 えられない,などで有意に低かった.総合指標で は高齢群は有意に嗜癖指標で低く,陽性指標で高 かった. 【考察】高齢群は,若年群と比較して多重嗜癖, 行為嗜癖,関係嗜癖,さらに重複精神障害の割合 が少なく,アンケートで有意差を認めた各項目, さらに総合指標の嗜癖指標が低く,陽性指標が有 意に高かった.これらのことから,断酒を継続す ることにより,嗜癖から解放され,自由でポジテ ィブな人生をより送りやすくなったことが示唆さ れた.すなわち,断酒継続が長くなれば,自助グ ループの断酒会等に参加することで内省をする機 会などが多くなり,エリクソンの老年期までを含 めた発達課題と心理的危機をうまく乗り越えて人 生経験を積むことができたと考えられる.また嗜 癖指標,陽性指標などの総合指標を取り入れたの で治療の動機付けにも有用である可能性も指摘で きる.しかし,今回の対象では高齢群の女性例が 少なく,今後症例数を増やすなど男女差の検討も 必要であると考えられる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 15:15〜16:15 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 心理学・神経心理A
座長: 西川 隆(大阪府立大学総合リハビリテーション学部)
T-25
均一な神経病理をもつとされる意味性認知症の脳萎縮パターンの検討
野村 慶子 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
【背景】意味性認知症(SD)の神経病理学的背景 は均一で,Whitwell et al.(2010)の報告による と,全SD 患者でTAR DNA-binding protein of 43 kDa のtype 2 であった.均一な神経病理をも つとされるSD であるが,SD の脳形態変化を voxel-based morphometry を用いて検討した先 行研究では,統計的に有意な萎縮が認められる部 位を抽出するのみで,個々のSD 患者の脳形態変 化のばらつきの程度については検討していなかっ た.さらにSD は側頭葉前方部(ATL)を中心と した萎縮が特徴的であり(Neary et al., 1998), 頭頂葉や後頭葉の萎縮は認められないとされる (Rosen et al., 2002 ;Whitwell et al., 2010).前 頭葉については,これまで萎縮なしの報告 (Whitwell et al., 2010)と萎縮ありの報告(Rosen et al., 2002)がある. 【目的】個々のSD 患者の脳形態変化のばらつき に着目し検討するとともに,ATL 以外の脳部位 でATL と同様の萎縮があるのかを検討した. 【方法】対象は2005 年11 月から2012 年6 月ま での間に大阪大学医学部附属病院神経科精神科神 経心理外来を初診した患者で,Neary et al. (1998)のSD の臨床診断基準を満たした12 例 (左SD:右SD=5:7,男性:女性=7:5,初診 時平均年齢=70.7±9.9,罹病期間=2〜6 年, MMSE=施行不可〜26 点).診断時,脳画像所 見は参考にしていない.VSRAD advance を用い て,各患者の灰白質容積低下の程度をz-score マ ップで示し,視覚的に検討した.MRI は各患者 における直近のものを用いた. 【倫理的配慮】得られた個人情報は全て匿名化し, 個人が特定されないよう,十分配慮した. 【結果】全例における脳萎縮部位は共通しており, 萎縮中心はATL と前帯状皮質であった.なかで もATL の萎縮は顕著で,z-score は5 から8 の 間であった.そのほかに萎縮は島,腹内側前頭皮 質後方,眼窩前頭皮質内側後方に限局していた. 左SD 患者では左半球の萎縮が,右SD 患者では 右半球の萎縮が優位で,萎縮は対側にも及んでい た.背外側前頭前皮質,そして頭頂葉と後頭葉で 萎縮を認めたのは12 例中,8 例,5 例,2 例で, いずれもz-score は2〜3 程度の軽度萎縮で,範 囲もごく僅かであった. 【考察】SD 患者における脳形態変化のばらつき は小さく,神経病理の均一さとの関連が考えられ た.SD では,ATL の萎縮だけでなく,島や前帯 状皮質,腹内側前頭皮質後方,眼窩前頭皮質内側 後方の萎縮も認められた.本研究で認められた前 頭葉内側下面領域の萎縮はRosen et al(. 2002)の 結果と同様であった.背外側前頭前皮質の萎縮は 軽度にとどまり,前頭側頭型認知症の脳形態変化 とは異なることが考えられた.頭頂葉と後頭葉の 萎縮も全例には認められず,SD に特異的な脳形 態変化とは考えられなかった. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-26
若年性アルツハイマー病患者における精神行動症状と認知症重症度との関連
田中  響 (熊本大学大学院医学教育部神経精神科学分野)
【目的】若年性アルツハイマー病の精神行動症状 を認知症重症度別に比較し,各精神行動症状の出 現時期,進行による変化を検討した. 【方法】2007 年2 月から2012 年6 月までの間に 熊本大学認知症専門外来を初診したアルツハイマ ー病患者のうち,受診時に65 才未満であった55 名(すべて在宅)と,2008 年度に熊本県で行わ れた若年性認知症全県調査においてアルツハイマ ー病と診断され,調査時65 才未満であった29 名(うち入院7 名,入所4 名)の計84 名を対象 とした.そのうちCDR 0.5 であった18 名を最軽 度群,CDR 1 の30 名を軽度群,CDR 2 の16 名 を中等度群,CDR 3 かつMMSE>0 の5 名を重 度群,CDR 3 かつMMSE=0 の15 名を最重度群 とし,NPI 下位項目のスコアを比較した. 【倫理的配慮】本人あるいは家族から書面にて研 究参加に対する同意を得,匿名性に十分配慮した. 【結果】重症度群別のNPI 下位項目スコアを図1 に示す.うつ,不安,無為は最軽度より出現して おり,無為のみが最重度にむけてスコアは増大し 続けた.興奮,易刺激性,異常行動は軽度より出 現し,重度で急速に増大した.妄想,幻覚は中等 度より,また脱抑制,多幸は重度よりの出現が目 立った.無為,多幸を除き,精神症状は中等度か ら重度でピークを迎え,ADL 低下が著しくなる 最重度では軽減する傾向があった. 【考察】本研究では横断的に重症度別の精神行動 症状を比較しており,本来であれば縦断的に経過 を追うのが望ましいが,外来ベースで最重度まで 経過を追えるケースは極めて少ない.そのため今 回のような手法をもって最軽度から最重度までの 精神行動症状の出現時期,ピークの傾向を捉えら れたのは意義深い.重症度により出現,悪化しや すい,もしくは軽減しやすい精神行動症状を把握 することは,それに応じた薬物療法,ケアの計画, 家族への心理教育の一助となると考える.発表当 日は統計学的解析を加えて報告する. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-27
認知症スクリーニングテストとしての情景画テストの有用性
洞野 綾子 (砂川市立病院地域医療連携室)
【目的】アルツハイマー病(以下AD)などの認知 症では,早期診断,治療が重要である.しかし, 長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R), Mini-Mental State(以下MMSE)といったスク リーニングテストのみでは初期では見逃されるこ とも少なくない.また,HDS-R,MMSE は,高 齢の患者にはやや負担であり,計算,文章作成, 描画などの課題は拒否されることも多い.そこで, 高齢者にとってより負担の少ない,簡便なスクリ ーニングテストとしての,情景画叙述課題につい ての検討を行った. 【方法】2011 年4 月より2012 年11 月までの当 院精神科初診のの受診者中AD と診断された151 名に買い物場面が描かれた情景画の内容を詳述さ せ,叙述内容を分類,得点化した.情景画の内容 について,買い物であることを自発的に叙述でき, 加えて登場人物の役割を正確に叙述できた場合は 5 点,買い物情景画であることを自発的に叙述で きたが,登場人物の役割が正確に叙述できない場 合が4 点,買い物情景であることを検査者の質 問・誘導で叙述した場合が3 点,二名の登場人 物の物品の受け渡しについて叙述した場合が2 点,画中の物体名辞のみ叙述した場合が1 点と して,認知症の感度,特異度について検討を行っ た.また,情景画の得点とHDS-R,MMSE,時 計描画テスト(以下CDT)の得点について比較, 分析を行った. 【倫理的配慮】情景画の叙述は分類,得点化し, 統計的処理を行って,個人のデータが特定できな いよう配慮を行った.また,HDS-R,MMSE, CDT についても得点を統計的に分析し,個人が 特定されないよう処理を行った. 【結果】情景画テストのカットオフ得点を5/4 と した場合,HDS-R,MMSE,CDT と同程度の感 度が得られた.特異度は情景画テストにおいて, HDS-R,MMSE,CDT とほぼ変わらない高い値 であった.認知症と診断された患者の中に,HDS -R,MMSE ではカットオフ値を超えているにも 関わらず,情景画テストではカットオフ値を下回 っている例があり,HDS-R,MMSE では鑑別さ れなかった認知症を情景画テストによって鑑別で きることが示された. 【考察】情景画テストの感度,特異度より,自発 的に情景画の正確な詳述ができない場合,認知症 である確率が非常に高いことが示された.また, HDS-R,MMSE のカットオフ値をクリアした者 でも,情景画を正確に詳述できない場合は,認知 症である可能性が高いことが示された. 以上より,HDS-R,MMSE,CDT に組み合わ せて情景画テストを行うことは,早期の認知症を 見逃す危険性を軽減すると考えられる.また,他 のスクリーニングテストではまれに拒否されるこ とがあるが,情景画テストは高齢者に負担をかけ ない簡便で有用なスクリーニングテストである. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-28
発症後10年を経過した進行性非流暢性失語の一例
北村伊津美 (愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学講座)
進行性非流暢性失語(以下PNFA)は,非流暢 性の言語表出障害が初期から見られ,認知機能な どの側面は比較的保たれる一群とされている.し かし,実際には,言語症候学的にも病理学的にも 不均一なものであると考えられるようになってき た(大槻ら2008,2010).今回,我々は,言語症 状としてアナルトリーが前景に現れ,明らかな認 知機能低下を示さないまま発症後10 年を経過し た症例を経験したので報告する. 【倫理的配慮】今回の発表にあたり,本人から同 意を得た.個人情報は匿名化し,個人が特定でき ないように配慮した. 【症例】76 歳,右利き女性主婦 【現病歴】X 年,話しにくいことを自覚するよう になった.X+3 年に近医受診し緩徐進行性失語 と診断されフォローされていた.X+7 年,話し にくさが徐々に進行するとともに抑うつ感を強く 感じ,本人希望により当科紹介受診となった. 【画像所見】MRI:左島周辺の軽度萎縮および全 般的なびまん性萎縮,散在性に虚血性病変がみら れた. 【生理学的検査】筋電図検査:異常を認めない 【神経心理学的検査】(X+7 年)MMSE 30/30, RCPM 36/36,WAIS- PIQ=136,FAB=16/18 (X+9 年)MMSE 30/30,RCPM 35/36,WAIS-  PIQ=135,FAB=13/18 発話は,音の歪みが 強くなり発話明瞭度が低下.それに伴い文の長さ は短くなり,まれに助詞の脱落がみられるように なった.また,音韻性錯書が頻繁になり,自己修 正を試みるも目標語に至らないことが多くみられ るようになった. 【ADL】現在も初診時と変わりなくADL は自立. 一人で電車に乗って通院し,買い物,料理,編み 物なども続けている.趣味の絵画,映画鑑賞は継 続しているが,人に会うことは避けている. 【まとめ】本症例は,やや前頭葉機能の低下がみ られるものの,大槻らの提唱するPNFA の3 分 類のうち,アナルトリー群に属するものと考えら える.臨床的にPNFA は全体的な認知機能や ADL の低下が速く感じられることが多く,本例 のように10 年を経ても言語以外に明らかな変化 がない例は特異的だと考えられる. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-29
多彩な高次脳機能障害を呈した硬膜動静脈瘻の1症例
橋本 洋一 (苫小牧東病院)
【目的】今回,硬膜動静脈瘻の術後に右片麻痺, 失名詞失語,記憶障害,注意障害,構成障害,遂 行機能障害,病識低下を呈した症例を経験したの で報告する. 【症例】76 歳,女性,右利き. 既往歴:71 歳2 型糖尿病,72 歳頸椎症(手術) 家族歴:特記することなし 現病歴:平成24 年4 月はじめに言葉が出にくく なり,脳梗塞疑いH 脳神経外科病院にて入院. 頭部MRI で腫瘍性病変を疑われ,精査目的でS 大学病院脳神経外科に入院し,左側頭葉硬膜静脈 瘻と診断され,6 月5 日,経動脈的流入血管塞栓 術,11 日,経静脈的流出欠陥塞栓術を施行施行 される.術後に右片麻痺,失名詞失語,記憶障害, 注意障害,構成障害,遂行機能障害,病識低下を 呈し,リハビリ目的に7 月20 日,当院に転院と なる. 入院時所見:(神経学的陽性所見)右不全片麻痺 (Br.stage 上肢・手指・下肢)(神経心理 学的陽性所見)失名詞失語,記憶障害,注意障害, 構成障害,遂行機能障害,病識低下 入院後経過:入院当初は右不全片麻痺にて歩行器 歩行見守りレベル.ナ−スコ−ルなく,体動コ− ルを使用.日常会話の理解は可能だが,複雑分レ ベルは低下し,発話は指示代名詞や迂回表現が多 く聞き手の配慮が必要.自発書字・書き取り共に 仮名であれば錯書・脱落あるも単文レベルでみら れるが,漢字の想起は困難.日付・場所の見当識 低下,時折話者に注意が向きにくい場面がみられ, 家族からは病前に比べて複数のことがこなせてい ないとの訴えがあった.以上の症状を呈しながら も「困ったことはない」と病識低下を思わせる発 言あり.その後,歩行訓練,ADL 訓練,見当識 確認,新聞を用いたフリ−ト−ク,呼称訓練,書 字訓練等のリハビリ施行し,身体機能向上し, ADL は終日杖歩行で自立となる.日常会話のや り取りは可能.換語能力は向上し,指示代名詞の 減少と文レベルの発話が多くなった.書字は仮名 の錯書・脱落は残存するが向上し,簡単な漢字の 想起が可能となる.病棟生活では著明な問題なく 服薬管理が可能となり,外泊では家族の付き添い で家事動作もこなされるようになり,自宅退院と なる. 【倫理的配慮】本研究は苫小牧東病院倫理委員会 の承認を受け,患者及び家族から同意を得ている. 【結果】入院時と退院時の比較で MMSE:17/30→20/30 コ−ス立方体組み合わせテスト:IQ 47.9→65.1 RCPM:23/36→26/36 RBMT:スクリ−ニング点1/12 標準ポロフィ −ル得点6/16→8/16 【考察】多彩な高次脳機能障害の改善経過につい て考察し,静脈系の循環動態の異常が多彩な高次 機能障害の出現と関係すると考えられた. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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6月5日(水) 16:15〜17:03 老年精神第2会場 楓(2F)<リーガロイヤルホテル>
口頭発表 : 神経病理・神経生理
座長: 池田 研二(香川大学医学部炎症病理学)
T-30
タウオパチーモデルマウスにおける細胞小器官の変化;細胞内小器官の変化は神経細胞死に先行するか?
吉山 容正 (国立病院機構千葉東病院神経内科,臨床研究センター神経変性疾患研究室)
【目的】タウの異常蓄積を病理学的特徴とする神 経変性疾患群をタウオパチーとよぶ.この中には アルツハイマー病や進行性核上性麻痺,Pick 病 などが含まれる.タウオパチーにおいて神経内の タウの蓄積自体が神経症状や神経変性を生じてい るのか最近疑問がもたれるようになった.われわ れの開発したP301 S 変異タウ遺伝子導入マウス の検討から,シナプスの障害が,タウの細胞内蓄 積以前に生じることを報告した(Yoshiyama et al. 2007 Neuron).神経変性と細胞内小器官異常 に関してはさまざまな報告がされ,神経変性を誘 導する,重要な所見である可能性が示唆されてい る.そこで,今回,細胞小器官の形態的変化が初 期に生じているか注目して検討した. 【方法】P301 S 変異1N4R tau 遺伝子導入マウス (PS19)を月齢別に免疫染色を主に用いて,ER, Mitochondria,Golgi を観察した. 【倫理的配慮】当院,実験動物管理規定に準じて 研究を行った. 【結果】このマウスはすでに発表したように生後 6 か月ごろからタウの異常蓄積を認め,8 カ月ご ろから神経細胞の減少,脳萎縮を認める(Fig 1, 2).しかし,神経症状は6 か月以前に出現し, シナプス障害が示唆されている.神経細胞は8 か月から12 ヶ月間に急速に減少する. 1 .ER の認識にKDEL,Grp94,Bip 抗体を用 い検討した.12 か月PS19 では全体にER の染 色性が低下(Fig. 3C)するがタウ陰性細胞のER には大きな変化が見られない.しかし,神経突起 のEr の染色性はすでに早期(3−4 か月)の時期 から観察される. 2 .Golgi の断片化は観察されるが,タウ陽性細 胞であって,タウ陰性細胞や初期には観察されな い. 3 .ミトコンドリアも12 か月では全体に減少し ているように見えるが,基本的にその変化はタウ 陽性細胞である. 【考察】タウ異常蓄積が細胞内小器官に異常を生 じることは確認できたが,早期の病変としての役 割は確認できなかった.このことから,タウの神 経細胞内蓄積の最終段階として,細胞内ホメオス ターシスの崩壊が生じ,細胞内小器官に変化が起 きたと考えられる.今回の検討はあくまでも形態 学的検討であり,それぞれの細胞器官の機能の変 化を見たものではない.ごく早期にこれら細胞小 器官に機能的変化が生じ,細胞機能を障害してい る可能性は否定できない.事実,われわれが行っ た培養アストロサイトのタウ発現実験では,凝集 性のタウが細胞内になくても,微小管に結合しな いタウが増加することで,Golgi の断片化が観察 された.今後,これら小器官の機能的側面からの 変化の検討が必要である. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-31
妄想性障害,うつ病治療中に当院紹介となりレビー小体型認知症が疑われた3例
江西 孝仁 (徳島県立中央病院精神神経科)
【はじめに】当院は大学病院を除いては県下唯一 の精神科病床を有する総合病院であり,三次救急 病院として多数の精神科救急症例,合併症例の受 け入れを行っている.今回は他院で妄想性障害, うつ病として治療中,幻覚,意識消失,薬剤過敏 性といった精神症状,身体症状の急激な出現を契 機に,当院へ急遽紹介となり入院となった症例の 内,当院入院中にレビー小体型認知症が疑われた 疾患3 例について提示し,当日は若干の文献的 考察を加え発表する. 【症例】症例1 .61 歳男性,X−6 年頃からA ク リニックに統合失調症の診断で通院中,X 年9 月 頃から幻視が出現,自宅療養が困難となり,X 年 10 月当院紹介.同日入院となった.来院時「天 井から粉が降ってくる」といった幻視があり,両 上肢の震戦が顕著であった.HDSR は19 点,X 年10 月30 日から塩酸ドネペジル3 mg 開始し, 幻視の症状は消失,前医で処方の抗精神病薬につ いては減量して継続した. 症例2 .69 歳女性,幻視を主訴に当院初診X 年3 月B クリニック初診.妄想性障害と診断さ れ,抗精神病薬開始されたが,尿閉や便秘が出現, 下血も出現したため,X 年4 月当院救急外来受診, 同日入院.HDSR は18 点,当初は幻覚妄想に対 してオランザピンを投与したが,改善に乏しかっ た.塩酸ドネペジル3 mg 開始し,幻覚症状は消 失した.抗精神病薬については中止した. 症例3 .うつ病の診断でC クリニック通院中, 当院紹介1 週間前から不眠,幻視,幻聴の症状 が急激に増悪し,X 年6 月当院紹介となり同日入 院.「まわりに花が咲いている」といった幻視が あった.脳血流シンチ,心筋シンチを施行したと ころ,後頭葉の血流低下,アセチルコリンの取り 込み低下がそれぞれみられ,レビー小体型認知症 と診断した.塩酸ドネペジル3 mg を開始したと ころ幻視は消失した.抗うつ剤については中止し た. 【考察】レビー小体型認知症は幻視を呈すること が多く,また前駆症状として抑うつ状態がみられ ることも多い.幻覚妄想状態,抑うつ状態に対し 妄想性障害,うつ病として抗精神病薬で治療を開 始する前に,レビー小体型認知症をはじめとする 認知症疾患を念頭に置いて治療するということは 非常に重要なことと考えられる. 【倫理的配慮】今回の発表については本人,家族 に同意を得た.また第三者に患者が特定されない よう配慮を行った. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-32
もの忘れ検診における多チャンネルNIRSを用いた認知症早期診断の試み
小路 純央 (久留米大学高次脳疾患研究所,久留米大学医学部神経精神医学講座)
【目的】我々は,地域における認知症の早期発見 と関与を目的にもの忘れ検診を平成18 年から行 なってきた..検診場所は,当大学病院を中心に, 地域包括センターの支援にて6 カ所で行った. 検診では,改訂長谷川式テスト(HDS-R),MMSE, 10 単語想起テスト,バウムテスト等の検査に加 え,探索眼球運動,多チャンネル近赤外線スペク トロスコピー(以下NIRS)を行い,認知症およ び認知症のリスクのある検診者に,本人の同意の もと大学病院を受診してもらい,MRI 等の検査 を行った.今回,多チャンネルNIRS を用いて, 単一「しりとり」課題中の脳酸素化ヘモグロビン 濃度の変動を検討したので報告する. 【方法】平成23,24 年のもの忘れ検診の受診者, 236 名(女性173 名,男性63 名)を対象とした. 受診者を,認知症群(HDS-R が20 点以下か MMSE が23 点以下)と健常群(HDS-R および MMSE が28 点以上),およびその他の中間群と した.中間群をさらに,高リスク群(HDS-R が 21 から24 点)と低リスク群(HDS-R が25〜27 点)と分類した.脳血流は,多チャンネルNIRS (日立ETG-4000)を使用して測定し,単一「し りとり」課題を用いた.脳血流は,左右各々22 部位から酸素化・還元ヘモグロビン値を記録した. 前方のディスプレイに映る1 単語に続き,「でき るだけ早く,1 語のしりとりをしてください」と 指示した.交互に12 秒間隔で20 回施行した. データは,20 回の加算波形を作成し近似面積値 を用いた. 【倫理的配慮】総ての被験者には,当研究を書面 にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究 は久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている. 【結果】総受診者236 名において,認知症者は, 51 名(21.6%),高リスク群(39 名),低リスク 群(80 名)および健常群(66 名)であった.酸 素化ヘモグロビン変動は,左右の22 全記録部で は,認知症群と高リスク群の間には有意差は無く, 認知症群および高リスク群と低リスク群および健 常群の間に有意差が観察された.前頭極領域と考 えられる,左19 記録部および右22 記録部にお いては,認知症群と高リスク群の間には有意差は 無く,認知症群および高リスク群と低リスク群お よび健常群の間に有意差が観察された.中前頭領 域(Brodmann Area46)と考えられる,左11 記 録部においては,認知症群と高リスク群の間には 有意差は無く,認知症群および高リスク群と低リ スク群および健常群の間に有意差が観察された. 左11 記録部の酸素化ヘモグロビン変動量と HDS-R,MMSE に有意な正の相関が観察された. VSRD のZ スコアーと左11 記録部,左19 記録 部および右12 記録部の酸素化ヘモグロビン変動 量に有意な負の相関が観察された. 【考察】日本人に馴染みの深い,単一「しりとり」 課題を用いた多チャンネルNIRS 検査は,非侵 襲的であり脳機能を画像化し評価することが可能 であり,また被験者にも画像として見せることが 可能であり,認知症の早期発見に有用な精神生理 学的指標となることが示唆された. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.
T-33
レビー小体型認知症における脳血流と精神症状の関係
吉田  卓 (愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学分野)
【背景と目的】レビー小体型認知症(DLB)は, 認知機能の変動,幻視,パーキンソニズムを主症 状とする変性性疾患のひとつである.DLB は幻 視以外にも,妄想,興奮,抑うつなど多彩な精神 症状を呈し,患者と介護者にとって大きな苦痛を 伴う事が多い.DLB でみられる精神症状の脳機 能画像における研究では,幻視と後頭葉の血流低 下や糖代謝低下との関係を示す報告が多数あるが, 幻視以外の精神症状と脳画像の関連を比較検討し たものは少ない.今回我々は,DLB における種々 の精神症状に着目し脳画像との関連について検討 を行った. 【方法】愛媛大学医学部附属病院精神科の外来を 受診し,DLB の臨床診断ガイドライン改訂版 (2005 年版)でprobable DLB を満たす24 名を 対象とした.対象者に対しMMSE, Neuropsychiatric Inventory(NPI)を施行し,脳 機能画像検査として99mTc-hexamethylpropy leneamine oxine(99mTc-HMPAO)を用いて SPECT を施行した.精神症状と脳血流との関連 について比較検討を行うため,NPI の各下位項 目を症状なし群(score 0)と症状あり群(score 1-12)の2 群に分け,SPM8 を用いて両群間の 局所脳血流量を比較した.性別,年齢,罹病期間, MMSE の総得点,パーキンソニズムの有無,認 知機能変動の有無を共変量として共変量分析を 行った.各々の項目についてはBonferroni 法に よる補正を適用した. 【倫理的配慮】患者の個人情報に関する取扱いに は十分に配慮した. 【結果】対象24 名は,男:女=13:11,年齢77.4 ±5.7 歳,罹病期間1.8±1.6 年,教育年数8.7± 3.0 年,MMSE の総得点17.2±5.6,NPI の総得 点28.5±19.6,CDR(0.5:1:2:3)=8:11: 4:1 であった.NPI の下位項目については,DLB の診断基準にも含まれることから幻覚を認める者 が22 名と最も多く,次いで妄想(19 名),無為・ 無関心(14 名)と続いていた.一方,多幸を認 める者はいなかった.SPM8 を用いて,NPI の多 幸を除く下位9 項目と脳血流について解析を行 った結果,妄想や興奮等の項目で有意差を認めた. 【考察】本研究により,DLB でみられる精神症状 は脳の各部位の機能不全を背景とした一次的な症 状である可能性が示唆された.DLB において, 脳機能との関連が明らかでない精神症状は多く, 今後は症例数を増やし検討を行う予定である.ま た,今回の結果が他の認知症疾患や精神疾患と比 べ,DLB に特異的な所見と言えるかどうかは, 今後の検討課題と考えている. 本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利 益相反委員会の承認を受けた.

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