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- 6月6日(木) 9:00〜9:50 イベントホール(3F)<大阪国際会議場>
- ポスター発表 : 薬物療法@
- 座長: 森川 将行(堺市こころの健康センター)
- P-B-1
- 7年以上の長期間ドネペジルによる治療を継続した症例の治療効果と臨床的特徴
- 井上 淳 ( 浜松医科大学精神科神経科 )
- 【目的】われわれは,ドネペジルの治療効果の持
続期間は当初の1 年程度から3 年近くまで延長
できることを過去に報告した.その要因として,
認知症に対する精神衛生活動により早期に受診す
る症例が増加した事,経過の予測を説明した上で
の治療への導入や動機付けを高める心理教育を行
った事などが考えられる.一方で,ドネペジルに
よる長期間の治療効果の報告はいまだ少ない.そ
こで,今回は認知症専門外来で7 年以上治療を
継続し,定期的に認知機能の評価を継続できた症
例を後方視的に調査し,臨床的特徴,治療効果,
長期間の治療継続に寄与した要因を検討した.
【方法】対象は1999 年12 月〜2005 年8 月に岡
本クリニックを受診し,アルツハイマー型認知症
と診断され,ドネペジルによる治療を7 年以上
受けた外来症例20 例(男性4 例,女性16 例)で
ある.治療導入前から4 ヶ月ごとにClinical
Dementia Rating(CDR),Mini-Mental State
Examination(MMSE),ロールシャッハ・テス
トを用いた評価(Rorchach Cognitive Index :
RCI)を施行した.
【倫理的配慮】認知症の診断と予想される経過,
ドネペジルによる利益・不利益を全ての症例と介
護者に説明した.治療への同意とドネペジルを使
用している期間中に得た数量データを個人を特定
されない形で治療効果検討のための研究へ使用す
ることについて治療開始時に同意を得ている.
【結果】治療開始時の平均年齢は,76.8±5.9 歳,
治療開始時のCDR は0.5 が1 例,1 が17 例,2
が2 例であり,平均1.1±0.3 であった.家族に
聴取した発症推定時点から治療開始までの期間は,
1.7±1.4 年であった.CDR では,治療前1.07±
0.33 であり,72 月後1.48±0.60 と有意に悪化し
ていた.MMSE では,治療前21.00±2.83 で,60
月後18.10±3.04 と有意に悪化していた.RCI で
は,治療前−0.95±2.16 で60 月後−2.70±3.77
と有意に悪化していた.治療開始7 年の時点で
治療前のCDR を維持できていたのは10 例
(50%)であり,5 例(25%)が1 段階低下,5 例
(25%)が2 段階以上低下していた.治療開始後
にBPSD が出現したのは8 例で,抑うつ・意欲
低下5 例,徘徊・多動1 例,幻視1 例,夜間せ
ん妄1 例であった.今回の対象では,家族関係
に問題がなく,介護者の認知症への理解度が高く,
介護者の健康度も良好であった.いずれの対象も
在宅のまま治療を継続し,家庭内で一定の役割を
果たすことでリハビリテーションに結びつけるこ
とが可能であった.
【考察】治療開始時の重症度は大多数が軽症例で
あった.家族に聴取した発症推定時期から治療開
始までの期間は相対的に短期間であり,半数では
日常生活上の困難や物忘れが目立つようになって
から1 年以内に受診していた.治療中に発現し
たBPSD は抑うつ・意欲低下が多く,治療後短
期間でBPSD が発現した例はいなかった.加え
て,長期の治療継続を可能したのは,家族の認知
症の理解度と介護者の健康状態が寄与していた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-2
- ドネぺジルからガランタミンに切り替え後の治療効果に関する脳画像による検討;MRI,SPECT,NIRSなどによる検討
- 岡 瑞紀 ( 慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 )
- 【目的】本邦では2011 年から軽度と中等度のアル
ツハイマー病には,コリンエステラーゼ阻害薬は
3 種類から選択可能となった.ドネぺジルは3 分
の1 の患者では十分な反応が得られないと報告
されている.従って,ドネぺジルから経口服薬の
ガランタミンへ切り替えるケースが増えると予測
されるが,切り替え後のガタンタミン作用の脳基
盤は不明である.そこで,ドネぺジルに効果不十分
とみなされた軽度から中等度のアルツハイマー病
患者を対象にガランタミンに切り替え投与を行い,
その治療効果及び反応性予測を多種類の脳画像
(MRI,SPECT 及びnear-infrared spectroscopy :
NIRS)を用いて複合的な観点から検討する.
【方法】慶應義塾大学病院精神神経科外来にて,
NINCDS-ADRDA の診断基準で,probable ア
ルツハイマー病と診断され,Clinical Dementia
Rating(CDR)にて0.5,1 および2家族
に主介護者がいるMini-Mental State
Examination(MMSE)が10 点以上ドネペ
ジルが過去半年間以上投与されており,MMSE
あるいは日本語版Alzheimer’s Disease
Assessment Scale -Cognition(ADAS-J cog)に
て十分な反応を認めない,以上の条件を満たす患
者をドネペジルへの治療に効果不十分のアルツハ
イマー病患者と判定し,ガランタミンへの切り替
え48 週間のオープン臨床試験を20 例目標に行
う.ベースライン時,介入期間中及び終了時に脳
画像検査(MRI,SPECT,NIRS),認知機能検
査及び精神症状などの各種評価尺度を施行し,介
入前後の検査成績,反応者と非反応者の検査成績
とを比較検討する.MRI の画像解析では形態画
像はVoxel-Based Morphometry(VBM)を用い,
拡散テンソル画像によりFractional Anisotropy
(FA)などの拡散指数の異常の有無等も検討する.
【倫理的配慮】この研究は,慶應義塾大学医学部
倫理委員会において承認を得て,以下の方法で目
的と方法を説明した上で同意を得ている.
1 )患者の同意能力があると判断される場合は,
患者本人と代諾者(配偶者,子供など)の双方の
2 )患者の同意能力が無いと判断された場合は,
代諾者のみの同意説明文書による同意を得た.
【結果】現時点では3 例がエントリーしており,
ベースラインのNIRS やSPECT での前頭葉機能
低下が顕著でない症例では,ガランタミンへの切
り替えに反応した.
【考察】コリン作動性の神経回路は脳内に広く分
布しているが,ことに前頭葉機能と密接な関係が
あると言われている.現時点では症例数は少ない
が,別のコリンエステラーゼ阻害薬への切り替え
の場合でも,前頭葉機能がその反応や治療効果に
関与すると想定される.学会当日は,各種脳画像
及び前頭葉機能に関連した認知機能や精神症状等
における,ガランタミンへの切り替え後の変化等
に関して目標症例数を報告予定である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-3
- Ramelteonが幻視に有効であったレビー小体型認知症の4例
- 笠貫 浩史 ( 順天堂大学精神医学教室,順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック )
- 【目的】メラトニンアゴニストであるramelteon
がレビー小体型認知症(dementia with Lewy
bodies : DLB)のBPSD に有効であるかどうか
検討する.
【方法】症例報告.対象はMcKeith(2005)の診
断基準を満たしたprobable DLB 患者4 名(年
齢:71 歳から80 歳,性別:男女各2 名).幻視
を含む行動心理症状はNeuropsychiatric
inventory(NPI)で評価をした.レム睡眠行動
異常,日中の過度の眠気,認知機能,パーキンソ
ニズム,日常生活機能,介護負担度評価はそれぞ
れ睡眠障害国際分類(第2 版),Epworth
Sleepiness Scale とPittsburgh Sleep Quality
Index , Mini-Mental State Examination ,
Unified Parkinson’s Disease Rating Scale
(motor score),Barthel Index, Zarit Caregiver
Burden Interview を用いた.他剤投与が幻視に
無効であることを確認したのちにRamelteon を
追加投与した.
【倫理的配慮】当施設の倫理委員会にて承認を得
たうえで,患者と家族へ説明と同意を得た.
【結果】4 例中全例が具体的で反復する幻視を有
し,また日中の過度の眠気を示した.2 例でレム
睡眠行動障害が認められた.Ramelteon を投与
後幻視は2 週間以内に消失し,NPI 総スコアも
改善をした.日中の眠気とレム睡眠行動異常も8
週間で改善をした.
【考察】DLB では視覚情報処理および覚醒睡眠調
節機能に関与する神経伝達物質(アセチルコリン,
メラトニン,ヒポクレチン)の不均衡が想定され
ており,ramelteon がそのバランス調整を図るこ
とによって幻視が改善した可能性が推察された.
DLB のBPSD に対するramelteon 使用の有効性
と安全性の検討については,今後対照群をおいた
大規模比較研究が必要である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-4
- ドネペジルとメマンチン併用療法におけるBPSDと介護負担の変化および脳血流との関連
- 荒木 智子 ( 島根大学医学部精神医学講座 )
- 【目的】メマンチンは主にアルツハイマー型認知
症(AD)患者の興奮や攻撃性などの行動・心理
状況(BPSD)を改善することが知られているが,
注意・遂行機能などの前頭葉機能が改善する症例
も経験する.そこで今回,認知機能,BPSD,介
護負担の他に,前頭葉の脳血流を簡便に測定する
ことができるNear-Infrared Spectroscopy(以下
NIRS)を用い,メマンチンの効果と脳血流との
関連について検討を行った.
【対象と方法】対象は,ドネペジルによる治療を
6 ヶ月以上行っている中等度から高度AD 患者
37 名であり,ドネペジル投与メマンチン併用群
(=投与群,n=19,77.9±9.8 歳,HDS-R 10.5±
3.5 点)とドネペジル投与メマンチン非投与群(=
対照群,n=18,79.8±4.6 歳,HDS-R 12.3±3.0
点)の2 群において,投与後0 週,4 週,12 週,
24 週にCGI-I,MMSE,CDT,NPI,J-ZBI,NIRS
を行い,メマンチン投与の影響について評価を行
った.またNIRS を用いた測定は,前頭部を中
心とする22CH の,前頭葉賦活課題である言語
流暢性課題を遂行中の変化量のデータ測定を目的
とした.
【倫理的配慮】本研究は島根大学医学部倫理委員
会の審査を受け承認が得られており,被験者及び
代諾者に対して本人または代諾者から参加の同意
を文書で得ている.
【結果】投与群は対照群と比較すると,CGI-I で
は4 週から,CDT/NPI/J-ZBI では12 週から,
MMSE では24 週において有意な改善ないし維
持効果を認めた.NIRS では12 週から,投与群
のCH5(右中前頭回)とCH8(上前頭回)のOxy-
Hb 積分値が対照群と比較し増加していたが,有
意な差は認められなかった.NPI の項目別スコ
アについては,投与24 週後の時点では,妄想/
興奮/うつ・不快/不安/無為・無関心/易刺激
性・不安定性/異常行動において,対照群と比較
して有意な改善ないし維持効果が認められた.各
試験の関連を調べたところ,MMSE とCDT,NPI
とZBI のスコアの間で,正の相関がみられた.
また,NIRS の言語流暢性課題遂行時に発語され
た単語数と,MMSE およびCDT のスコアにお
いても,正の相関がみられた.
【考察】中等度から重度AD 患者にメマンチンを
投与することにより,総合的な臨床症状,認知機
能,BPSD の改善が得られ,介護負担も軽減さ
せることが示唆された.メマンチンは,AD 患者
の妄想,興奮,易刺激性の症状発現を抑制する効
果が報告されており,本研究の結果はこれらの報
告を支持するものとなった.NPI とZBI の間で
相関がみられたことは,BPSD の低減は介護負
担の軽減と関連があることを示している.また,
NIRS 測定時の単語数が認知機能に関連している
ことが観察されたが,NIRS の積分値については
投与群と対照群との間には有意な差はみられなか
った.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-5
- アルツハイマー型認知症患者の認知機能及び日常生活活動に及ぼす塩酸ドネぺジル5mgと10mgの効果の検討(第1報)
- 齋藤 香織 ( 聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室 )
- 【目的】塩酸ドネぺジル5 mg 服用患者と,10 mg
服用患者を比較し,その認知機能,日常生活活動
(ADL)への効果と内容を明らかにする.
【方法】対象は聖マリアンナ医科大学病院神経精
神科に通院し,DSM-にてアルツハイマー型認
知症と診断され,塩酸ドネぺジル5 mg を投与さ
れている患者36 名(男15,女21,平均年齢76.4
±6.3)である.方法は,5 mg(継続)群と10 mg
(変更)群の無作為化二群比較試験である.認知
機能評価には,長谷川式認知症評価スケール
(HDS-R),Mini Mental State Examination
(MMSE),そしてADL 評価にはDisability
Assessment for Dementia(DAD),改定crichton
尺度を用い,3 ケ月ごとに12 か月まで調査した.
統計解析にはSPSS を用い,二元配置分散分析
を行った.
【倫理的配慮】当院生命倫理委員会での承認を受
け,研究の趣旨を書面を用いて患者及び患者家族
に説明し文章で同意を得た.
【結果】5 mg 群は17 例(男8,女9),平均年
齢74.9±7.1,観察開始時HDS-R 平均13.4±5.0
点,観察開始時MMSE 平均18.0±5.0 点であっ
た.10 mg 群は19 例(男7,女12),平均年齢
77.7±5.3,観察開始時HDS-R 平均14.2±7.5 点,
観察開始時MMSE 平均16.6±6.7 点であった.
いずれの項目においても2 群間で有意差を認め
なかった.
HDS-R,MMSE 及びForestein 分類下位項目
では5 mg 群と10 mg 群で有意な変化は認めなか
った.
DAD 下位項目では,「余暇と家事」において2
群間では10 mg に比べ5 mg では有意な得点の低
下(機能の低下)が認められた(p<0.05).
改定crichton 尺度では,観察開始時HDS-R 10
点以下の患者において,項目4(落着き)におい
て10 mg 群に比べ5 mg では時間経過とともに得
点の増加(悪化)が認められた(P=0.06).一
方,観察開始時HDS-R 11 点以上の患者では5
mg 群,10 mg 群で有意な変化は認められなかっ
た.
【考察】HDS-R およびMMSE 得点で明らかにさ
れる認知機能においては2 群間での臨床効果に
おける差異は認められない.5 mg 群に比べ10
mg 群の方が,DAD で明らかにされる「余暇と
家事」の実行機能の維持効果が認められた.改定
crichton 尺度で明らかにされる落ちつきに関し,
観察開始時HDS-R 得点10 点未満の被験者にお
いて10 mg 群の方が機能維持が認められた.
【結論】塩酸ドネぺジル10 mg 投与は5 mg に比
べて認知機能への効果は確認されないが,一部の
ADL 機能において,特にHDS-R 10 点未満の場
合には症状の悪化を抑制する可能性があることが
示唆された.
今回の解析の問題点は被験者数が少ないことで
あり,今後症例数を増やし,更なる研究を進める
ことが望まれる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- 6月6日(木) 9:50〜10:40 イベントホール(3F)<大阪国際会議場>
- ポスター発表 : 薬物療法A
- 座長: 工藤 喬(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- P-B-6
- Paroxetine内服中にSIADHを来たした老年期うつ病患者;症例報告
- 諏訪 梓 ( 関西医科大学精神神経科 )
- 【Introduction】Paroxetine はうつ病治療に広く
使われているselective serotonin reuptake
inhibiter(SSRI)である.今回うつ病治療に際
しparoxetine による治療中に低Na 血症を来し
Syndrome of inappropriate secretion of Anti-
Diuretic Hormone(SIADH)と診断された高齢
者の症例を報告する.
【Case Report】64 歳男性老年期うつ病X
−1 年10 月頃より誘因なく意欲低下・身体的愁
訴を訴えるようになった.X 年3 月頃より抑うつ
気分・食欲低下を認め,4 月11 日に当科を初診
しうつ病と診断されmilnacipran による薬物療
法が開始されたが,食事の摂取が不能となり5
月9 日に医療保護入院となった.
入院後milnacipran を150 mg まで漸増したが,
抑うつ症状は増悪したため,milnacipran を漸
減・中止し,第36 病日からparoxetine 20 mg に
よる薬物療法を開始した.抑うつ症状が重篤であ
ったため第39 病日には40 mg に増量したところ,
第41 病日から全身の脱力感を認めた.身体診
察・頭部CT 検査で異常所見を認めなかった.ま
た血液検査でNa 127 mEq/L,血漿浸透圧260
mOsm/L で,血中cortisol 値・腎機能・甲状腺機
能・副腎機能に異常はなかった.以上よりSIADH
と診断した.またこの時の血漿paroxetine 濃度
は145.38 ng/ml であった.経過よりparoxetine
によるSIADH と考え,paroxetine の内服を漸
減・中止し水分制限・塩分負荷を開始した.第54
病日には症状・血液・尿検査結果は改善した.う
つ病に対しては,amoxapine の投与を開始・漸
増したところ100 mg/日で抑うつ症状は軽快し
入第146 病日に退院となった.
【Discussion】今回の症例ではparoxetine 投与
を20 mg から開始し40 mg への急激な増量後に
SIADH を来した.SIADH には多くの原因があ
るが,今回の症例では諸検査からparoxetine に
よるSIADH と考えた.発症時の血漿paroxetine
濃度は145.38 ng/ml と,既報のparoxetine 40
mg/日の血中濃度平均120.4±98.7 ng /ml,177.5
±123.6 ng/ml などと同等であった.また既報の
paroxetine によるSIADH91 例での平均投与量
は17.0 mg と治療範囲内の投与量だった.
以上よりparoxetine によるSIADH は
paroxetine の投与量・血中濃度に依存して発症
するのではなく,急激な血中濃度上昇により引き
起こされる可能性があると考えた.SSRI による
SIADH 発症の高リスク群の把握や早期発見・早
期治療は重要であり,SIADH の早期発見の為に
はparoxetine 投与開始後は定期的な血清電解質
の測定が不可欠であると考える.また特に高リス
ク群では増量の際に十分な注意が必要である.
なお倫理的配慮から本症例の報告についてはご
本人とご家族から同意を得ており,さらに個人が
同定できないように内容の記述に配慮した.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-7
- 統合失調症に発症したアルツハイマー型認知症に対するメマンチンの使用経験;抗精神病薬の減量が可能であった2例
- 花田 一志 ( 近畿大学医学部精神神経科学教室,白鷺サナトリューム )
- 【目的・方法】統合失調症患者も高齢になるとア
ルツハイマー型認知症を発症することがある.今
回,幻覚妄想のコントロールに苦慮していたアル
ツハイマー型認知症を伴った統合失調症に対して,
メマンチンを使用した2 例を報告する.
【倫理的配慮】報告に際しては患者および家族に
書面で同意を得た.また,報告の趣旨に触れない
範囲で患者背景などに修正を加えた.
【症例1】76 歳,男性.6 人同胞の第4 子,長兄
が統合失調症.大学を卒業後就職したが,20 歳
代後半に人間関係のストレスを契機に被害関係妄
想で発症し,その後精神科病院に入退院を繰り返
している.51 歳の症状再燃時に7 回目の入院加
療を開始したが,52 歳時に母親が亡くなってか
らは,頻回の長期入院を余儀なくされている.60
歳の症状安定時のMMSE は24 点であったが,
65 歳時には20 点,71 歳時には16 点と認知機能
の低下が認められた.クエチアピン400〜600 mg,
リスペリドン2〜4 mg でコントロールしていた
が,74 歳頃から「食事にペニスを入れられてい
る」との被害関係妄想と,それに伴う暴力行為が
頻回に起こるようになった.抗精神病薬の増量,
バルプロ酸の追加などを行ったが改善は軽度にと
どまった.妄想から発展する行動化には認知機能
低下も関係があると考え,メマンチンを追加した
ところ,数ヶ月後には行動化はおさまり,徐々に
抗精神病薬を減量したところ,現在はクエチアピ
ン300 mg,リスペリドン2 mg で妄想は時折再
燃するものの行動化は見られず症状安定している.
【症例2】78 歳,男性.妻と二人暮らし.4 人同
胞の第4 子.家族歴は特記すべきことなし.高
校卒業後に公務員として働いていたが,22 歳の
時に被害的幻聴,考想伝播で発症し,その後近医
精神科病院に3 回の入院歴がある.33 歳で結婚
してから症状は安定し,外来通院を行いながら60
歳の定年まで仕事を続けた.定年後はそれまでで
きていた規則正しい生活が守れなくなり,内服も
不規則になった.そのため「自分はAIDS にな
ったのでもう死んでしまう」と心気妄想,被害関
係妄想から希死念慮に発展したため2 回の入院
治療を行った.64 歳時に転居に伴い当院に転医
してからは外来診療が中心になったが,数年に一
度は症状再燃し入院治療が必要になった.68 歳
時のMMSE は20 点であったが,75 歳時には16
点と認知機能の低下がみられた.76 歳からは「痰
が出たから自分は結核だ」などと心気妄想が強く
なり,検査の結果に納得せずに頻回に受診した.
内服していたオランザピン10 mg を増量したが
心気妄想は改善しなかった.症状に認知機能低下
が関係していると考えメマンチンを追加したとこ
ろ問題行動は徐々に減少し,オランザピンを5 mg
に減量しても症状の再燃は認められなかった.
【考察】これら2 症例ともにメマンチンの投与に
より抗精神病薬の減量が可能となった.高齢の統
合失調症の症状悪化に認知機能低下の関与が疑わ
れる場合,メマンチンの追加を試みることも治療
選択肢の一つとして考えられた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-8
- 秋津鴻池病院における老年期疾患の予後調査
- 井上 慶一 ( 医療法人鴻池会秋津鴻池病院 )
- 2005 年4 月アメリカ食品医薬品局(FDA)は
非定型抗精神病薬(オランザピン,アリピプラゾ
ール,リスペリドン,クエチアピン)について,
高齢の認知症患者における行動障害を対象とした
17 件のプラセボ対象比較試験の5106 例を解析
し,その結果,非定型抗精神病薬使用による死亡
率がプラセボと比較して約1.6〜1.7 倍高いと結
論が得られたと報告した.しかしながら実際の臨
床においては,認知症患者の焦燥性興奮や精神病
症状に対して薬物療法以外の対応が困難であるこ
とが多く,薬物療法を開始せざるを得ないことが
多い.また実際には非定型抗精神病薬の投与に関
して安全上の懸念があるが,非定型抗精神病薬が
使用されていることが少なくない.
今回我々は,平成18 年4 月1 日〜平成19 年3
月31 日までに秋津鴻池病院に入院した65 歳以
上の認知症患者対する非定形抗精神病薬の使用調
査とその後の予後調査を行い,また,最近の認知
症患者対する薬剤の使用傾向について調べること
とした.
【結果】平成18 年4 月1 日〜平成19 年3 月31
日の期間に非定形抗精神病薬を使用した入219
人の転帰は在宅が41 人,老人保健施設入所が71
人,死亡31 人,転院17 人,入院継続が52 人と
なっていた.また,入院一年以内の死亡が14%
と高い割合になっており死亡した31 人について
死亡診断名を見ると,肺炎が19 人と半数以上を
占め,心不全,慢性腎不全が多くなっていた.学
会当日には,調査の経過の詳細と考察を含めて発
表を行う予定である.
【倫理的配慮】報告に対しては人物が特定されな
いよう,データの扱いには匿名性の保持や個人情
報の流出に充分配慮した.
学会当日はそれらの結果報告と考察について行
うこととする.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-9
- 高プロラクチン血症を伴う躁状態にブロモクリプチンが有効であった高齢者男性の一例
- 山本 誉麿 ( 医療法人北斗会さわ病院 )
- 【はじめに】ブロモクリプチンは高プロラクチン
血症の治療に用いられる薬剤である.これまでに
高プロラクチン血症を伴う周期性精神病にブロモ
クリプチンが効果的であったという報告がいくつ
かなされている.今回,高プロラクチン血症を伴
う躁状態の男性に対してブロモクリプチンの投与
が効果的であった症例を経験したので報告する.
なお,症例発表に関しては本人と家族から同意を
得たうえで,個人情報保護の点から匿名性に配慮
をした.
【症例】70 代男性.会社を立ち上げ社長職に就き,
X−11 年には長男に社長職を譲り,会長となっ
た.もともと気性が荒い性格ではあったが,これ
まで浪費や職場でのトラブルはなかった.X−3
年より妻への暴力が頻回となった.また,毎日の
ようにパチンコに行き,月数十万の浪費をするよ
うになった.X 年に入ると次第に「馬鹿にされて
いる」「自分を追い出そうとしている」と被害的
な発言が目立つようになり,会社に行っては社長
である長男や社員とトラブルを起こすことが繰り
返されるようになった.妻が保健所に相談し,X
年5 月に当院を初診となった.
診察時,不機嫌で尊大な態度.診察医からの質
問に対しては答えようとはするものの,徐々にテ
ーマが逸れ,一方的に自身の生い立ちや考え方に
ついて持論を冗長に話し続けるなど多弁及び観念
奔逸を認めた.神経学的には明らかな異常なく,
頭部MRI ではempty sella を認めたが,脳血管
障害や病的な脳萎縮などの異常所見は認めなかっ
た.以上より,当院初診時は躁状態と考え,薬物
治療を開始した.
当初はスペリドンやゾテピンなどの抗精神病薬
を投与したものの精神症状に改善を認めず,過鎮
静のため中止となった.そこでバルプロ酸ナトリ
ウムの投与を開始した.当初は服薬拒否があり服
薬が不規則であったため治療効果発現に長期間を
要したが,X 年10 月からは浪費はなくなり,尊
大な態度は消失し,職場でのトラブルもなくなっ
た.服薬は規則的であったが,X+1 年8 月頃よ
り再びパチンコでの浪費や妻に対する粗暴行為と
いった躁状態が再燃した.躁状態に対しアリピプ
ラゾールの追加やバルプロ酸ナトリウムの増量で
は改善に乏しく,上記の報告を参考にブロモクリ
プチンを追加したところ,躁状態及び高プロラク
チン血症が改善した.
当日は上記の症例を報告し,文献的知見を加え
て考察する予定である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-10
- 前頭側頭型認知症の問題行動にメマンチンが有効であった二症例
- 上利 由美 ( 医療法人社団更生会草津病院精神科 )
- 【目的】前頭側頭型認知症(以下,FTD)は,脱
抑制,常同行動,反社会的行動などが問題となり,
しばしば精神科的な治療を必要とするが,特別な
治療薬が存在しない認知症のひとつである.今回,
我々は,FTD の問題行動がメマンチンにより改
善した二症例を経験したので,若干の考察を加え
報告する.
【方法】盗食・収集癖・異食など問題行動のある
FTD 二例にメマンチンを用い加療し経過を観察
した.
【倫理的配慮】各症例の報告にあたり,個人が特
定されないよう現病歴の一部を改変し倫理的な配
慮を行った.匿名化した発表について本人および
家族から口頭で同意を得た.
【各症例の経過】[症例1]66 歳男性.既往歴・家
族歴に特記なし.大学卒業後より公務員として勤
務.40 歳頃離婚し独居.X 年1 月(66 歳),無銭
飲食をして通報されたが,発語なく身元不詳のま
まA 精神科病院に入院.窓から飛び降りようと
する行為あり,塩酸ドネペジル10 mg,クエチ
アピン最大200 mg で加療され落ち着いたが,過
鎮静・パーキンソニズムのためクエチアピンを
25 mg に減量され,同年4 月,施設に退院した.
その後,B 総合病院神経内科にてMRI,SPECT
のを受け,前頭葉〜側頭葉の萎縮および血流低下
を認めFTD と診断された.6 月より盗食,クレヨ
ンを食べる異食,焦燥感が強まり窓を開けて出よ
うとする行為,大便を壁に塗る不潔行為がみられ
るようになり,7 月に当院初診となった.初診時,
発語なく内的焦燥感をみとめた.塩酸ドネペジル
を中止し,メマンチンを5 mg より開始したとこ
ろ焦燥感は軽減し危険行為がなくなった.20 mg
まで増量すると,盗食・異食・不潔行為も軽減し
た.話しかけるとうなずいたり,視線が合ったり
するなど疎通性も改善した.現在まで病状の悪化
はない.
[症例2]68 歳男性.既往歴として糖尿病あり.
家族歴に特記なし.高校卒業後,左官業に従事.
X−9 年(59 歳)時,うつ状態となりC 総合病院
精神科に通院.フルボキサミン,バルプロ酸によ
り加療され安定していた.X 年7 月,近所のスー
パーから帰宅できず警察に保護された.10 月(68
歳)より浪費が目立ち,フルボキサミンを中止,
バルプロ酸を1200 mg に増量されたが,その後
も食事をせず菓子ばかり食べるなどして糖尿病が
悪化し,同院内科に入院.入院後,盗食,病室で
の喫煙,女性部屋に入る行為がみられた.高アン
モニア血症のためバルプロ酸を中止されたが,病
状に変化はなかった.MMSE 15 点,頭部CT・
SPECT にて前頭葉〜側頭葉の皮質萎縮と血流低
下を認めFTD と診断され,同年12 月,当院へ
転入院となった.当院入院後,収集癖や盗食がみ
られ,リスペリドンを2 mg まで処方したが,嚥
下障害などパーキンソニズムが出現し中止した.
その後,メマンチンを開始し,20 mg まで増量
したところ,収集癖・盗食行為は軽減しX+1 年
6 月,施設へ退院となった.現在も施設内で適応
できている.
【考察】メマンチンはFTD における盗食・異食・
収集癖などの問題行動に対する治療薬として選択
肢の一つとなり,特に,抗精神病薬で副作用が出
現する例には有用であると考えられた.また,焦
燥感の軽減,疎通性の改善など情動面での効果が
期待できる例もあると思われた.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- 6月6日(木) 10:40〜11:40 イベントホール(3F)<大阪国際会議場>
- ポスター発表 : 福祉・家族支援
- 座長: 荒井 由美子((独)国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
- P-B-11
- もの忘れ外来初診時における介護家族の受診満足度;認知症専門医療相談室の受診援助における役割および課題についての考察
- 磯谷 一枝 ( 東京都健康長寿医療センター )
- 【目的】もの忘れ外来を初めて受診する家族は,
患者の症状について不安や戸惑い等様々な思いを
抱えて受診日を迎える.当院もの忘れ外来では,
従来,初診予約後は,受診日まではもの忘れ外来
で関わることなく患者・家族に待機してもらった
(以下,旧システム).2011 年7 月以降は認知症
専門医療相談室を立ち上げ(以下,相談室),初
診予約後は相談室で受診状況の簡単な聴取とトリ
アージ,受診説明,問診票の発送と問診票の詳し
い聴取等を行ってきた.問診票もより詳細な情報
を得られるものに改定し,問診票聴取の際は相談
員が家族から相談を受けることもある(以下,新
システム).このように,受診前から相談室がよ
り丁寧に患者・家族に関り,受診前の不安軽減に
も努めてきた.そこで本研究ではこうした関わり
が初診時に家族にどのように影響をするのか,受
診の満足度という視点から検討することを目的と
した.
【方法】2012 年1 月〜2012 年2 月に当院もの忘
れ外来初診受診者の家族96 名に,受診前の対応
と診察時の対応との2 つの満足度についての質
問紙を配布し,初診時に回答を求めた.質問紙は
受診以前に行われた相談室とのやり取りについて,
受診直前に尋ねた受診前満足度(予約時対応,事
前連絡,来院時の説明,問診票記載,不安につい
ての相談)と受診時の満足度について受診後に尋
ねた受診後満足度(医師への相談,今後について
の相談)の2 つに分けて行い,いずれの項目も5
件法で行った.質問紙の回収は76 名であったが,
欠損値の無い64 名分(旧システム15 名,新シス
テム49 名)を分析対象とした.分析では,両シ
ステムの各満足度の項目についてt 検定を行った.
【倫理的配慮】本研究では,病院として診療デー
タの使用について予め告知しており,さらに患者
または家族に文書にて研究の同意を得た.また,
データは数量的に処理し,個人が特定されないよ
う配慮した.
【結果】満足度の各項目について,予約時対応(旧
vs 新=4.06 vs 4.18,t=−.449,n.s),事前連絡
(旧vs 新=3.93 vs 4.16,t=−.838,n.s),来院時
の説明(旧vs 新=4.00 vs 4.14,t=−.539,n.s),
不安についての相談(旧vs 新=3.46 vs 3.46,t=
−.539,n.s),医師への相談(旧vs 新=4.66 vs
4.59,t=−.456,n.s),今後についての相談(旧
vs 新=4.00 vs 4.22,t=−1.05,n.s)では有意差
は見られず,問診票記載(旧vs 新=3.86 vs 3.30,
t=−1.839,p<.10)のみ新システムで旧システ
ムより満足度が低い傾向が見られた.
【考察】新システムにおいては,当相談室であら
かじめ受診前で患者・家族にサポートを行ってき
たが,本質問紙では有意な差が見られなかった.
理由の一つとしては,受診前でのやり取りが1
度のみの場合が多いこと,そのため診察までに患
者の症状に対する不安が再度高まり,受診時に旧
システムとほぼ変わらない満足度で受診すること
などがあげられる.また,問診票の負担が新シス
テムにおいてやや高いことがうかがわれた.より
詳細な情報をあらかじめ聴取する必要がありやむ
を得ないが,家族に負担を軽減できる方法も検討
していく必要がある.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-12
- 都市部高齢者専門病院の物忘れ外来初診患者の家族介護者における介護負担感とその要因;地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントによる検討
- 扇澤 史子 ( 東京都健康長寿医療センター )
- 【目的】地域包括ケアシステムにおける認知症ア
セスメント(以下DASC)は,記憶,見当識,判
断,家庭外IADL,家庭内IADL,身体的ADL
から成り,認知症疾患に起因する認知機能障害と
生活機能障害を網羅的かつ簡便にアセスメントす
るツールとして開発された(粟田,2012).認知
症介護者の負担感が,認知機能や生活機能のどの
ような障害に起因するのかを知ることで,早期の
適切な支援が可能になると考えられるため本研究
ではDASC を用いて負担感の要因を検討するこ
とを目的とした.
【方法】2011 年8 月〜2012 年11 月にA センタ
ー物忘れ外来で初診時,家族介護者に自己記入式
質問紙を配布し,有効回答の233 名(58.9±12.5
歳,25〜86 歳,夫24,妻44,娘110,息子44,
嫁6,その他5,同居:独居=144:89)を分析
の対象とした.質問紙では,患者の年齢と性別,
家族の年齢と続柄,同居の有無,DASC を尋ね
た.患者にはHDS-R,MMSE を施行した.
【倫理的配慮】本研究では,病院として診療デー
タの使用について予め告知しており,さらに患者
または家族に文書にて研究の同意を得た.また,
データは数量的に処理し,個人が特定されないよ
う配慮した.
【結果】J-ZBI_8(8.81±7.65 点)(荒井ら,2003)
の2 因子「Role strain(介護を始めたために生ず
る負担)(6.61±5.26 点)」と「Personal strain(介
護そのものによって生ずる負担)(2.21±3.00
点)」を目的変数,上述の患者と家族の属性,同
居の有無,DASC 下位尺度を説明変数とした重
回帰分析の結果,Role strain には「家庭内IADL」
「記憶」「判断」が,Personal strain には「家庭
内IADL」「家庭外IADL」が有意に関連した.
これらについて共分散構造分析を行った結果,図
1 のモデルが構築された(χ(2 3)=3.198,p=.362,
GFI=.955,AGFI=.968,RMSEA=.017).患
者の認知機能はMMSE が18.4±5.5 点(dr 0.7
±1.0 点),HDS-R は17.6±6.5 点(dr 2.1±2.0
点)であった.
【考察】以上より,初診時の家族介護者の負担感
には,認知症初期に障害され始める認知機能や生
活機能の障害が関連していた.これは,初診時の
段階では,家族は認知症の知識に乏しく,本人が
何ができなくなり,どのような支援の必要がある
のか理解ができず,対応に難渋しているためと考
えられる.従って,診断後間もない時期に,認知
症の知識やケア・サポートについて,今後の見通
しを示すような心理教育が重要と考えられる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-13
- 軽度認知症高齢者による相乗り・乗り合い交通の利用可能性に係る地方自治体の見解
- 水野 洋子 ( 独立行政法人国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部 )
- 【目的】認知症等により,運転免許の返納を余儀
なくされる高齢者に対しては,地域での自立した
生活を維持するためにも,代替移動手段の確保が
重要となる.そこで本研究は,代替移動手段の確
保に際し,重要な役割を有すると思われる地方自
治体に着目し,特に,交通空白地域において重要
視されている相乗り・乗り合い交通への軽度認知
症高齢者の利用可能性について,自治体の見解を
把握することを目的とした.
【方法】平成20 年10 月から同年12 月の間に,
全国の全1,809 市区町村の高齢福祉課もしくは,
それに該当する課を対象として,郵送法による自
記式質問票を用いて調査を実施した.1,027 の市
区町村から回答が得られ(回収率:56.8%),そ
れら全てを解析対象とした.解析に用いた調査項
目は,1)一般高齢者に対する相乗り・乗り合い
交通による外出・移動支援事業の実施の有無,2)
当該支援事業への軽度認知症高齢者の利用可能性
の是非,3)軽度認知症高齢者による利用が可能
でない理由であり,3)については,IBM SPSS
Text Analytics for Surveys 4.0.1 による解析を
実施した.なお,「各カテゴリの構成要素」及び
「未使用キーワードの採用」については,共同研
究者間で確認・修正作業を繰り返し,カテゴリ化
までの全プロセスについて合意を形成した.
【倫理的配慮】本調査は,国立長寿医療センター
(現,独立行政法人国立長寿医療研究センター)
の倫理委員会の承認を得て実施した.なお,調査
に際しては,質問票において,研究の意義及びデ
ータの管理,使途について明記した上で実施した.
【結果】1)一般高齢者に対する相乗り・乗り合
い交通による外出・移動支援事業の実施の有無:
回答が得られた1,027 市区町村のうち,「一般高
齢者に対する,相乗り・乗り合い交通による外
出・移動支援事業を実施している」自治体は,189
市区町村(18.4%)であった.
2)当該支援事業への軽度認知症高齢者の利用可
能性の是非:当該支援事業を実施している自治体
のうち,169 市区町村(89.4%)が,当該支援事
業について,「軽度認知症高齢者による利用が可
能である」と回答していた.一方,20 の市区町
村(10.6%)については,「軽度認知症高齢者に
よる利用は,困難である」と回答していた.
3)軽度認知症高齢者による利用が可能でない理
由:利用が困難であると回答していた20 の自治
体に対して,その理由を自由記述形式で尋ねたと
ころ,17 の市区町村から回答を得られた.解析
の結果,「意思表示が困難」,「介助が出来ない」,
「記憶保持が難しい」といったカテゴリが抽出さ
れた.
【考察】本調査の結果,軽度認知症高齢者の外出・
移動手段の確保において,一般高齢者に対する支
援事業を活用し得ることが示唆された.一方で,
軽度認知症高齢者による利用を困難だとする理由
についても留意し,検討していく必要があること
が示された.なお,軽度認知症高齢者に対する状
態像の認識については,自治体によって異なる可
能性がある.従って,今後は,この点に留意した
上で,支援事業の実現に向けた課題の検討を進め
る必要があろう.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-14
- 高齢者の家族介護者を対象とした介入方法に関する文献学的検討
- 小野 健一 ( 川崎医療福祉大学医療技術学部,吉備国際大学大学院保健科学研究科博士後期課程 )
- 【目的】高齢者の家族介護者を対象とした研究は
多く行われているが,介入方法の違いを具体的に
検討した報告はみられない.本研究の目的は,
2002 年から2012 年の10 年間で,高齢者の家族
介護者を対象とした介入研究に関する国内外の文
献をシステマティックにレビューし,介護者への
介入方法の違いを分析することである.
【方法】文献検索は,海外雑誌にはPubMed を
2012 年6 月28 日18 時30 分に,国内雑誌には
医学中央雑誌Webver.5 を2012 年7 月2 日20
時に利用した.検索期間は2002 年から2012 年
の10 年間とした.PubMed では,英文を対象と
し,MeSH Terms 検索により“caregiver”
“intervention”を含み“elderly”“geriatric”
“gerontology”を一語以上含む文献を抽出した.
医中誌では,統制語検索により,「家族介護者」
「介入」「高齢者」の全ての語を含む文献を抽出し
た.検索対象の範囲は原著論文のみとした.介入
方法の分析は,介入プログラムの特徴と形態,そ
の効果について整理した.
【結果】PubMed では84 件,医中誌では179 件
が検索された.得られた文献のうち,介護者へ介
入しているが被介護者への効果のみを検討してい
る研究,介護士・看護師への介入研究,質的研究
や症例報告,抄録などを除外した.その結果,条
件に当てはまる文献は,海外で18 件,国内で4
件の計22 件であった.介入方法は,施設グルー
プセッション(5 文献)として,介護に必要とな
る知識,技術,ストレスマジメントなどへの教育
と,グループ内でのピアカウンセリングが行われ,
施設個別セッション(2 文献)として,介護者へ
の有酸素運動の指導や集中的な退院指導が行われ
ていた.また,在宅個別セッション(8 文献)と
して,介護教育に加え心理療法,支持的介入が行
われ,施設‐在宅複合セッション(5 文献)とし
て,施設グループセッションと在宅個別セッショ
ンが継続し実施されていた.更に,その他(2 文
献)として,介護者が外出先から独居となる被介
護者をモニタリングできるシステムの導入や,被
介護者に対する運動介入に分けることができた.
介入の指標は特徴別に介護負担感,うつや不安,
ストレス,ストレスコーピング,健康や主観的幸
福感,その他に分類できた.全ての形態で介護負
担感の軽減はみられ,形態ごとの効果が異なるこ
とがわかった.目標とする介入効果に対して,適
切な介入期間と頻度は不明であった.
【考察】今回,形態の特徴として,グループセッ
ションでは支持的ネットワークが形成され,個別
セッションでは介護者個人の問題に特化した個別
性の高いプログラムが可能となることわかった.
また,施設や病院で行う介入では,被介護者から
一時的な距離をとり,他介護者との接触が生じる
こと,在宅では個別性の高い介入を行いやすく,
介護者自身のペースで実施できることが考えられ
る.今後,さらなる介入研究を行い,効果的な介
入回数と実施期間を検討する必要が示唆される.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-15
- グループホームに居住する認知症高齢者のwandering関連行動と気象の検討
- 青木 萩子 ( 新潟大学医学部保健学科 )
- 【目的】アルツハイマー病等の認知症高齢者は地
誌的定位錯誤,判断力障害,それらによる対処行
動としてwandering を呈すると説明されている.
20 世紀に顕著になった地球温暖化による異常気
象下で屋外でのwandeing は危険をはらむ.本研
究では地域で暮らす認知症高齢者のwandering
関連行動と気象との関連を明らかにする.
【方法】対象は地域のグループホームに居住し,
wandering がみられる認知症高齢者11 名.施設
職員による高齢者のwandering 関連行動(行動)
を直接観察法による観察記録をデータとした.期
間は平成22 年11 月から平成23 年8 月までの四
季に各2 週間.行動は1 回以上見られたら「有」
と判定した.気象データは対象の居住地最寄りの
観測所データを用い,行動と気象データとの関連
はspearman の順位相関係数を求め,有意差の
あった行動を目的変数に,気象データを説明変数
とし判別分析(ステップワイズ法)で影響要因を
検討した.有意水準は5% 未満とした.
【倫理的配慮】新潟大学医学部倫理審査委員会の
承認を得た.協力施設の承認書,対象への研究協
力の説明は対象と対象の家族に行い,家族の同意
署名を得た上で実施した.
【結果】対象は,女性9 名,男性2 名,平均年齢
84.6±6.6 歳(73−93 歳),入居時の診断名はア
ルツハイマー病認知症(AD)9 名でそのうち塩
酸ドネぺジル服用7 名,脳血管性認知症(VaD)
は2 名であった.認知症高齢者ADL 判定基準は
大半が(−)であり,身体的影響要因とな
る便秘傾向の者には適宜下剤が処方されていた.
AD の行動データ(n=420)とVaD データ(n
=70)に分け,気象との関連を見た結果,AD で
は「持続固執歩き」「目印を置く」「スタッフを確
認」が平均気温と弱い相関を,また平均風速,日
照時間と弱い負の相関を示した.判別分析の結果,
影響力が小さいものの「持続固執歩き」の行動に
平均気温(標準化された正準判別関数係数0.89)
と,平均風速は負の相関(−0.51)を示した(判
別的中率:90.8%).VaD においては,「家で迷
子」「同じ場所に何度も」「朝食と昼食の間(に
wandering)」と気圧,降雪量が弱い相関を,ま
た,平均気温とは負の弱い相関を示した.判別分
析の結果,「家で迷子」には平均気温(0.89)と,
降雪量(−0.36)が弱い相関を,但しグループ重
心の値が−1.73 と負値を示し,高気温で行動は
発現しないが降雪量に影響を受けると判別された
(判別的中率:82.1%).
【考察】AD とVaD のwanderig に関連する行動
は,それぞれ異なる行動様式を示した.気象条件
のうち弱いながらも関連がみられたのは平均気温
であり,AD では気温上昇に伴い屋内外にて固執
的な行動を誘発する可能性を,一方VaD では冬
季の低気温で降雪のみられる時に,屋内にて
wandering に関連した行動の発現に留意する必
要性を示唆する結果が得られた.
本研究は,平成22 年度科学研究費補助金(挑
戦的萌芽研究「気象情報を活用したwandering
高齢者の安全な生活実現」(研究代表者:青木萩
子)の研究成果の一部である.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.
- P-B-16
- 高齢者のうつ状態の変化及びリスク要因
- 兪 今 ( 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 )
- 【目的】地域高齢者において,うつリスク者が多
いにも関わらず,その対策が遅れている.本研究
は,うつ予防・支援のあり方の対策を考える上で
重要であると思われる高齢者特有な要因が抑うつ
状態の変化にどのように影響しているのかを明ら
かにすることを目的とし,2 年間の縦断研究を行
った.
【方法】新潟県N 市(高齢化率25.2%)において,
65 歳以上の基本チェックリスト参加者の中から
うつリスク該当者(うつ項目の5 項目中,2 項目
以上該当者)2,916 人を抽出し(基本チェックリ
スト認知機能低下該当者,要介護認定者,転出,
死亡,調査不能者を除く)自記式調査表を用い,
郵送法によるベースライン調査を平成22 年に実
施した.さらに有効回答が得られた者を対象に1
年後に追跡調査を行い,有効回答が得られた
1,908 人を本研究の分析対象者とした.その内訳
は男性37.7%,女性62.3%,平均年齢は77.29
(±5.76)歳であった.
評価指標は抑うつ状態(GDS),関連指標は不
眠(AIS),不安(STAI)老研式活動能力(TMIG),
主観的幸福感(FEQ)と基本属性からなるもの
である.分析は追跡時抑うつ状態の疑いの有無群
別のGDS 得点と各指標の偏相関関係を見た(制
御変数:ベースライン時のGDS 得点,性,年齢,
教育年数,暮らし向き).
【倫理的配慮】本研究に関連して取り扱われる個
人情報について,個人情報保護条例に沿ったうえ
で,あらかじめ文書により交付し,本人の同意署
名を得たうえで行った.なお,調査,データの解
析,公表時において問題がないかを公益財団法人
ダイヤ高齢社会研究財団の倫理委員会の審査を受
け,承認を得た.
【結果】うつ状態の疑いのある者の割合はベース
ライン時48.7%,追跡時48.9% を占めるが,追
跡時にうつ状態の悪化と改善がそれぞれ24.5%
と23.2% であった(p<0.001).
ベースライン時のGDS 得点,性,年齢,教育
年数,暮らし向きを制御後,追跡時のGDS 得点
とAIS,SAI,TAI,TMIG,FEQ との偏相関係
数を求めた結果,追跡時のうつ状態の疑いのなし
群では,TAI とは正の偏相関関係(r=0.075,p<
0.05),FEQ とは負の偏相関関係が有意であった
(r=0.085,p<0.05).うつ状態疑いあるグルー
プでは,AIS,SAI とは正の偏相関関係(r=0.096,
p<0.05,r=0.076,p<0.05),TMIG,FEQ と
は負の偏相関関係が有意であった(r=−0.098,
p<0.01,r=−0.083,p<0.05).
【考察】1 年間うつ状態を低く保つことあるいは
改善には幸福感の高さと特性不安の低さが影響す
ることが示された.また,うつ状態が依然高く保
つことあるいは悪化には睡眠状態の不良や状態不
安の高さが影響することが示された.従来の研究
で多く検討されていない,心理的幸福感が両群共
通してうつ状態の変化に関連している知見が得ら
れた.以上の結果から,地域高齢者のうつ予防・
支援を考える上で不眠,不安の改善とともに心理
的幸福感の構築に有益な支援策を考えていくこと
が望まれる.
本研究は公益社団法人日本老年精神医学会の利
益相反委員会の承認を受けた.