6月5日(水) 9:00〜10:15 老年精神第1会場 山楽の間(2F)<リーガロイヤルホテル>
共催企画講演T : 高齢者うつ病の基礎と臨床のクロストーク
新井 平伊 (順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学)
K-1-1
基礎研究から考える,高齢者うつの白質病変
楯林 義孝 ( 公益財団法人東京都医学総合研究所統合失調症・うつ病プロジェクトうつ病研究室 )
高齢者うつの脳画像研究では,高頻度で(深部 白質病変を含む)無症候性脳梗塞が発見される. その多くが白質のラクナ梗塞で,また,その実態 は,ほとんどが虚血性変化であることが神経病理 学的にも証明されている(Thimas et al., 2002, Arch Gen Psychiatry, 59 ; 785).また,同研究 では,それら病変は,高齢者うつの背副側前頭前 野(Brodmann Area[BA]9)白質に有意に多 く存在するとも報告されている.それら白質病変 は何らかの形で高齢者うつの発症に関わると考え られているが,その意義,病態機序,症状との関 連などについては,ほとんどわかっていない. われわれは,現在まで,主に死後脳を用いて, うつ病を含む気分障害の病態研究を行なってきた. 米国スタンレー脳バンクより,平均年齢が40 歳 代後半(コントロール48 歳,大うつ病48 歳,双 極性障害42 歳,統合失調症45 歳)の未固定凍 結死後脳(前頭極[BA10],下方側頭葉[BA20]) の提供を受け,フローサイトメーターを用いた独 自の細胞数計測法(Hayashi et al., 2011, Mol Psychiatry, 16 ; 1156)や新規統計法を用いた全 脂肪酸分析(Tatebayashi et al., Transl Psychiatry, 2 ; e 204)などを行った. その結果,気分障害前頭極(BA10)において, ミエリン形成に重要な働きをするオリゴデンドロ サイト系譜細胞数の異常が存在することや,ミエ リン量依存的に蓄積したり,減少している脂肪酸 が存在することを突き止めた.これらの結果は, 気分障害の病態に前頭葉のミエリン形成異常が含 まれることを示唆する.白質はその大部分が軸索 を中心とする神経線維とミエリンで構成されるこ とから,高齢者うつで認められる白質病変も,原 因は異なれ,同様の神経機能障害を生じ,うつ症 状発症の原因となっている可能性が考えられた.
K-1-2
老年期うつ病の臨床
水上 勝義 ( 筑波大学大学院人間総合科学研究科 )
老年期は,脳や身体の老化という生物学的な変 化に加えて,さまざまな喪失体験にさらされるな ど心理社会的要因からうつ状態を呈しやすい.年 齢別の自殺率をも老年期に高く,その多くが気分 障害に罹患していることが報告されている.老年 期のうつ病は,ほかの世代のうつ病と同様,抑う つ気分,興味の喪失などの基本症状は一致するが, 悲哀感がめだたない,身体的不調(痛み,しびれ, 食欲不振など)の訴えが多い,物忘れや思考力の 低下を訴えたり実際に低下しやすい,不安や焦燥 がめだち落ち着かなさがめだつことがある,身体 機能の低下や生活機能の低下を来しやすい,など 幾つかの特徴がある.特に認知機能の低下や身体 的愁訴が前景の場合はうつ病に気づかれない場合 も少なくない. 鑑別に注意を要する状態として,アパシーと仮 性認知症があげられる.アパシーは認知症をはじ めとする器質性疾患にしばしば認め,感情の表出 が乏しくなり,周囲の状況に興味や関心を示さず, 極端に自発性や意欲が低下した状態である.本人 の苦痛に乏しいことが多い.また仮性認知症は認 知症を疑わせるほど認知機能が低下したうつ病の ことを言うが,うつ病の治療を行うことでうつ状 態と認知機能が回復する.しかしながら,仮性認 知症はその後認知症に進行することが少なくない. なお仮性認知症ではなくても,うつ病の既往が認 知症のリスクを高めることが報告されている. 老年期うつ病のもう一つの特徴は,脳の器質的 変化との関連である.血管障害性病変や,アミロ イド,タウの蓄積とうつ状態との関連について報 告されている.老年期うつ病と最も鑑別すべき疾 患はレビー小体型認知症(DLB)であろう.DLB の初期には注意障害が目立つが,記銘は比較的保 たれることが多く,うつ病の認知機能障害と類似 した面がある.DLB 患者はしばしば動作や思考 が緩慢となるが,これらも老年期うつ病にしばし ばみられる.我々の検討では,DLB と診断され る前におよそ半数の患者がうつ病と診断されてい た.老年期のうつ状態の診断に際してはDLB の 可能性を念頭に置き,認知機能の変動や視空間認 知障害などのDLB に特徴的な認知機能障害,レ ム睡眠行動障害の存在,起立性低血圧や失神など の自律神経症状の存在などDLB を示唆する所見 の有無を確認する必要がある.SPECT が可能な 施設であれば,後頭葉の血流低下の所見はDLB の診断に有用である. 老年期うつ病の治療に際しては安全性への配慮 が最も大切である.SSRI,SNRI などの抗コリ ン作用が軽く心血管系への影響も少ない薬剤を少 量から用いる.ただし代謝酵素を抑制する薬剤が あるので,併用薬剤との相互作用に注意が必要で ある.またSNRI は排尿困難などの副作用に注 意を要する.幻覚/妄想などの精神病像をともな う難治性のうつ病の場合,電気痙攣療法が必要な 場合がある.一方比較的軽いうつ状態の場合,非 薬物療法もしばしば有用である.
共催:グラクソ・スミスクライン株式会社/大日本住友製薬株式会社

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6月5日(水) 10:30〜11:45 老年精神第1会場 山楽の間(2F)<リーガロイヤルホテル>
共催企画講演U
白川 治 (近畿大学医学部精神神経科学教室)
K-2
老年精神医学における器質性病変の重要性;α synuclein depressionとargyrophilic grain psychosisの提唱
寺田 整司 ( 岡山大学大学院精神神経病態学 )
老年精神医学における器質性病変の重要性は今 までにも重ねて指摘されてきたことであるが,近 年における研究の進展により,器質性病変の影響 は予測以上に大きいことが明らかとなりつつある. 将来的には,老年期の精神疾患に関する疾患分類 においても,器質性病変の影響を加味した変革が 起こる可能性が高い. 老年期は,さまざまな神経変性疾患が多発する 時期である.生化学的および神経病理学的な研究 の進歩により,多数の新たな疾患概念が最近,提 唱されてきた.具体的にはαsynucleinopathy・ TDP-43 proteinopathy・FUS proteinopathy と いった蓄積蛋白に基づいた疾患概念や, argyrophilic grain disease ・tangle only dementia といった神経病理学的な所見に基づく ものなどが挙げられる.こうした疾患が老年期の 精神障害に如何なる影響を与えているのかは未解 明の課題である. 例えば,うつ病における血管性病変の影響につ いては,既にvascular depression という単語も あるように,頭部MRI などを用いた臨床的な研 究では,血管性病変とうつ病との間に強い関連を 認めることが報告されている.ところが,剖検脳 を用いた神経病理学的な研究では,血管性病変と 生前のうつ病既往との間に有意な関連は,認めら れていない.こうしたギャップをどう考えるべき であろうか. 高齢者のうつ病において,α-synuclein が重要 な役割を果たしていることは既に報告されており, α-synuclein depression とでも呼ぶべき一群が 存在する可能性が高い.日本における精神疾患を 対象とした病理学的な研究からも同様な一群が存 在することが示されている. また,高齢者における統合失調症の問題も重要 である.古くから,若年で発症する統合失調症と 高齢発症の幻覚妄想状態との異同は,論争の的で あった.late Paraphrenie という言葉を懐かし く思い出される先生方も少なくないであろう.老 年期に精神病症状を呈する患者群においても,器 質性病変の影響が大きいことが最新の神経病理学 的な検討から示されつつある.精神病性の症候を 呈する場合には,α-synuclein 病理以外に, argyrophilic grain disease の影響が大きく, argyrophilic grain psyhosisi と呼ぶべき一群が 存在する可能性がある.
共催:塩野義製薬株式会社

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6月5日(水) 13:15〜14:30 老年精神第1会場 山楽の間(2F)<リーガロイヤルホテル>
共催企画講演V
田子 久夫 (磐城済世会舞子浜病院)
K-3
器質性うつ病の診かたと治療
三村 將 ( 慶應義塾大学医学部精神神経科 )
さまざまな器質疾患に伴って抑うつ気分や意欲 低下を生じる場合があることはよく知られている. これらの器質性のうつ状態(以下,器質性うつ病) として臨床的に目にする頻度が高いものは,アル ツハイマー病やレビー小体型認知症,パーキンソ ン病,脳血管障害があるが,他に頭部外傷,脱髄 性疾患,感染性疾患など,ほとんどすべての病因 が含まれる.器質性うつ病の有病率は多くの調査 があるが,報告によってかなりの差がある.この ような差が生じる背景として,ひとつには対象と なる母集団の違いがある.また,うつ病と診断す る方法によっても有病率は大きく変わってくる. われわれが操作的診断基準を用いて,回復期リハ ビリテーション病棟に入院中の脳血管障害患者を 対象とした調査では,大うつ病エピソードの診断 基準を満たす患者は16.7%,その基準は満たさ ない適応障害レベルの患者は6.9% であり,入院 リハビリテーション患者の1/4−1/5 程度が広義 のうつ状態を呈していると考えられた.器質性う つ病を正しく診断していくには,当然のことでは あるが,その存在を見逃さないことが最も重要で ある. 器質性うつ病の臨床像においては,内因性うつ 病に比べて抑うつ気分が軽度で,一方,意欲低下 (アパシー)が前景となることが多い.また,罪 業感が少ないことや精神病の病像を伴わないこと が多いが,最大の臨床的特徴は,認知障害が目立 つ点である.認知障害の様態は脳病変の部位や拡 がりにより多様であるが,主に注意や記憶,遂行 機能(前頭葉機能)の領域に焦点がある.このよ うな認知障害が生じる背景としては,うつ病自体 の影響,皮質下白質病変に伴う前頭葉−皮質下ネ ットワークの機能異常,加齢による低下など,複 合的要因の関与が挙げられる. 器質性うつ病では一般に,治療がより難渋する 印象がある.この原因としては,身体合併症の存 在や併用薬により,抗うつ薬使用が制限される状 況も関与する.また,抑うつ気分が目立たず,ア パシーが前景に立つケースでは抗うつ薬の効果が 期待しにくい点も考えられる.しかし,特に抑う つ気分や不安が目立つ症例については,早期から 抗うつ薬治療を開始する必要がある.薬物療法に 関しては,第一選択薬である選択的セロトニン再 取り込み阻害薬(SSRI)や選択的セロトニンノ ルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)など をまず使用することは通常のアルゴリズムと同じ である.脳卒中ガイドラインにおいても,脳卒中 後うつ病においてはこれら新規抗うつ薬の投与が 推奨されており,薬物療法によって症状の改善が 期待できる病態である.器質性アパシーには疾患 横断的に十分な効果を示すといえる薬剤はなく, それぞれの病因に対して適応を有する薬剤がアパ シーにも効果があるとする報告がほとんどである. アパシーに対しては,むしろ何らかの形で体を動 かしていくリハビリテーションをより積極的に考 えていく.器質性うつ病の発症機転を器質性要因 のみで理解するのは不自然である.脳器質性−内 因性−社会心理的な諸因子が複合的に関与した病 態であり,神経内科,脳神経外科,リハビリテー ション科など,他科との連携・協力のもとに,多 方面からのアプローチを試みていく.
共催:ファイザー株式会社

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6月5日(水) 14:45〜16:00 老年精神第1会場 山楽の間(2F)<リーガロイヤルホテル>
共催企画講演W : 高齢者うつ病薬物治療再考
木下 利彦 (関西医科大学精神神経科学教室)
K-4
ミルタザピンを再解剖する
渡邊 衡一郎 ( 杏林大学医学部精神神経科学教室 )
2009 年,ノルアドレナリン作動性・特異的セ ロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)というカテ ゴリーで称されるミルタザピンが本邦に導入され た.その後も抗うつ薬の選択肢は増えたが,未だ に本剤はユニークな立場にあり続けている. まずは,ほとんどのSSRI,SNRI が不眠/焦燥 を副作用とし,「非鎮静系抗うつ薬」と称される のに対し,本剤は鎮静を副作用とする「鎮静系抗 うつ薬」である.高齢者のうつ病例では不安/焦 燥,そして不眠を訴えることが多く,本剤の鎮静 効果は有効となりうる.また本剤は眠気が支障と なる者には適さないかもしれないが,不眠を訴え る例には,睡眠薬を用いることなく本剤1 剤の 処方で用が足りることが多い. 高齢者のうつ病例は自殺を呈することも多い. 自殺予防の観点から,米国精神医学会(APA)や ヨーロッパ精神医学会(EPA)による自殺予防 ガイドラインでは,自殺念慮を認める際に抗うつ 薬を投与するならば,本剤など「鎮静系抗うつ薬」 を使用することを推奨している.さらに中等度へ 重度のうつ病で休養を要する例,入院例などにも 鎮静が有効となりうるのではないかと考える. SSRI,SNRI はセロトニン5-HT3 受容体刺激 作用により胃腸障害を来たすが,本剤は逆に同受 容体を遮断するため,胃腸症状を訴え食思不振や 消化器症状を訴え,身体的に衰弱傾向にある例に も有効となりうる. 他にも高齢者には身体疾患を合併する例が多い が例えば心疾患を持つ例に対しては,本剤は心電 図上のQT 間隔への影響も少ない.さらにSSRI においてはジコキシン,ワルファリン,脂質代謝 改善薬等との相互作用が問題となりうるが,本剤 は肝のチトクロームP450 における酵素阻害が少 ないことから,カナダCANMAT ガイドライン においても併用薬を気にせず処方できる薬剤とし て使用が推奨されている. そして何よりも効果の強さである.新規抗うつ 薬間の比較試験のメタ解析であるMANGA Study においても効果は12 剤の内最も強いと評 されている.当日は改めて他剤と比較しての本剤 のユニークさをメカニズムやエビデンスをもとに 紹介していきたい.
共催:Meiji Seikaファルマ株式会社

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6月5日(水) 16:15〜17:30 老年精神第1会場 山楽の間(2F)<リーガロイヤルホテル>
共催企画講演X : 高齢者のうつ
岸本 年史 (奈良県立医科大学精神医学講座)
K-5
高齢者うつ病の病態と治療
木村 真人 ( 日本医科大学千葉北総病院・メンタルヘルス科 )
わが国における高齢者うつ病は,超高齢化社会 が進展するなかで有病率が高く今後も増加の一途 をたどると思われる.また60 歳以上の自殺者は 1 万人を超え自殺者全体の3 分の1 を占めており, 高齢者のうつ病対策は自殺対策と言っても過言で はない.したがって,高齢者うつ病を見逃さずに 適切な診断と治療をしなければならないが,高齢 者のうつ状態は単なる老化による当然な状態とし て過小診断されることが少なくない. 高齢者うつ病の特徴としては,精神症状が目立 たず,心気的な身体症状が優勢となる仮面うつ病 が多いこと.妄想的な訴えや認知障害を伴いやす く,慢性化や再発傾向が高いことが指摘されてい る.また高齢者は様々な身体疾患に罹患すること が多く,その治療薬剤や身体疾患によるうつ病も 多く,注意が必要である. とくに,高齢発症のうつ病では脳血管障害を基 盤とした症例が多く,血管性うつ病という概念が 提唱され,高齢者うつ病の一つの病態として注目 されているが,その中には心筋梗塞後や脳卒中後 のうつ病も含まれている. さらに,高齢者うつ病と密接に関連している病 態としてアパシーや認知症があるが,それぞれの 鑑別や関係性についても十分な理解と対応が必要 である. 抗うつ薬治療においては,高齢で副作用が惹起 されやすいため,忍容性の優れたSSRI,SNRI, NaSSA などが第一選択薬となるが,どの薬剤も 低用量から開始し,増量も緩徐に行うことが望ま しい.また,身体疾患にうつ病が合併すると,基 礎疾患の病態悪化,再発率や死亡率の増加,回復 の遅延などが示されており,うつ病を見逃さずに 適切な治療を行うことが重要である.例えば脳卒 中後うつ病に対する最近の知見では,SSRI であ るエスシタロプラムを脳卒中後に投与することで うつ病発症を予防できることや,認知機能の改善 作用に加え,BDNF(脳由来神経栄養因子)の増 加に基づく神経新生,神経保護作用などが明らか にされており,生存率の改善にも寄与することが 示唆されている. 高齢者うつ病の場合には,治療抵抗性の場合も 多く工夫が必要であるが,難治例では,修正型電 気けいれん療法(m-ECT)も有用である. また,高齢者はストレスの多い生活上の出来事 や人生上の役割の変化,対人関係に問題を抱えて いる場合や,社会的に孤立していることも多く, 心理社会的療法や地域支援も重要と思われる. 当日は,精神科治療で唯一の先進医療として承 認されている光トポグラフィー検査についても紹 介する予定である.
共催:持田製薬株式会社/吉富薬品株式会社

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6月6日(木) 9:00〜10:45 老年精神第5会場 イベントホールE(3F)<大阪国際会議場>
共催企画講演Y : アルツハイマー病治療の意義とエンドポイント,そして評価方法
中野 倫仁 (北海道医療大学心理科学部臨床心理学科)
片山 禎夫 (川崎医科大学神経内科学,認知症疾患医療センター)
K-6-1
治療意義を本人の視点から再考する
木之下 徹 ( 医療法人社団こだま会こだまクリニック )
1.はじめに 「認知症」とはなにか.説明される物事には, 説明する側の視点が潜在的に設定されている.さ らにその潜在的な視点は医学技術の進展と社会事 情によって変化する.「認知症」の捉え方におい て,早期発見技術の発展などの医学技術の進展, 認知症が社会世相の一部になっている超高齢化社 会の事情により変化し,近年特筆すべきことであ るが,認知症の人自身の言葉が散見されるように なったことも大きな影響をしている.つまり,よ り合理的説明を求める視点と,ノーマライゼーシ ョンを目指すベクトルを持った「人」として見る 視点が交錯しながら,いまの「認知症」を語るこ とができる.この二つの視点について触れて,「認 知症を知る」素材を提供したい.以下に,その見 出しと簡単な説明を示す. 2.認知症とは 認知症とは「症状の集まりで,原因疾患にはア ルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前 頭側頭葉変性症,血管性認知症などがある」とい う説明(説明A とする)がある.そういう視点を 持てば,医師ならば誰でも眼前の人に対して,ま ず「この人は何の疾患だろうか」という思いが生 じる.一方,「脳に後戻りのない変化がおき,そ の機能が今まで通りに働かなくなり,そのせいで 日常生活や社会生活が困難になる状態」という説 明(説明B とする)もある.そのとき,医師は「こ の人が困っていることはなんだろうか」という思 いがまず生じる.どちらに力点をおくかで我々の 行為が変わり,結果が変わる.さらにたとえば, 「『覚えていますか』という質問は私をパニックに させる」といった認知症の状態をその本人が語る 言葉もある.そういった認知症の状態を教えてく れる本人の言葉に,我々は心を動かされ,認知症 の状態を「わかる」感覚を呼び起こしてくれる. 認知症と生きる姿に接する我々は,「認知症と は」について今一度立ち止まり考える時期にある. 3.認知症の診断 上述した説明A の場合,認知症の原因疾患の 診断(以下,認知症診断とする)は欠かせない. しかし,認知症診断には,死後の剖検から得られ る「確定診断」と,いま眼前の人に対する「臨床 診断」がある.前者は病理の結果から症候学を集 積する過程が積み上がって成立する.後者は臨床 症状から病理を推定し行われる.それぞれ別の論 理構造(病理症候)を有する.このことは「疾 患別対応」に関する危うさを抱え込んでいること に留意しなくてはならない. 4.BPSD(周辺症状)は誤り 周辺症状とは中核症状以外の症状である.つま り,原因疾患に依存する概念である.BPSD (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは認知機能低下以外の症状であり, 原因疾患とは独立な概念である.従って両者は異 なる概念である.脳の変化が伴う症状は,医療あ るいはこれからの医学のテーマでもある. 5.「中核症状は認知機能低下」は矛盾 症状とは「顕在化したphenotype」としても違 和感がない.そこで,たとえば,もの忘れとは, 脳の機能低下の結果である.つまりそれ自体が症 状ではない.これらは外からはみえない.つまり, 認知症の苦悩の根源(認知機能低下)が内在化し て見えない.だからこそ,医療者はこの部分まで 分け入り,根源の苦悩にアクセスする必要がある. 6.認知症という症状の構成要素 故トムキットウッド氏の提唱した公式がある. D=P+B+H+NI+SP なるものである.それぞ れが,左から,認知症と生きる姿(故小沢勳氏訳) は,Personality パーソナリティ,Biography 生 活史,Health status 健康状態,Neurological Impairment 脳や神経の変性,SocioPsychology 社会心理で構成されると言う.いまある症状が単 純に脳の変化に帰着できない,という意識である. 一方,「認知症だから」というラベル化によって 脳のせいであるとしてしまう文化を「古い文化」 であると同氏は指摘する.そういった文脈におい ては,たとえば,脳の変化に直結しない「周辺症 状」という言葉自体が,ここで説明した,それを 構成する要素を矮小化させ短絡的に「症状」と括 ってしまうことを考えると,それがstigmatic term であることにも気づかされる.
K-6-2
治療目標と評価を当事者と共有するために
繁田 雅弘 ( 首都大学東京 )
アルツハイマー病の治療やリハビリテーション の効果は様々に異なった側面に現れる.記憶や会 話など認知機能の改善がみられる場合もあれば, 掃除や食事の準備など家事(手続き的ADL)に おける改善や,入浴や着換えなどの基本的ADL の改善もある.あるいは焦燥感や興奮などの BPSD の改善もあれば,表情が本来のその人に 近づくというBPSD とはまた異なった精神・心 理面での改善もある.そうした違いは治療薬によ る違いだけでなく,同じ治療薬でもリハビリテー ションや日課,心身の個体差,環境因や状況因に よって異なった効果として現れているものと考え られる.換言すれば,臨床上の効果は,薬理学的 な効果と,リハビリ,個体差,環境・状況因など の要因が相互に影響を及ぼし合った結果として現 れていると考えられる. したがって,QOL をより高める治療を行おう とすれば,まず第1 段階として家族・介護者と 治療の目標を共有することが必須ではないだろう か.訪問診療でない限り介入の結果が生活の中で もつ意味を医療機関にいては理解できないからで ある.例えば,落ち着かなくても積極的にいろい ろな活動に取り組むことがふさわしい人もいれば, その逆もある.あるいは静かな空間でゆったりと 過ごすことがその人にふさわしい場合もある(実 際には,認知症になった人の多くは,こうした過 ごし方は許されず,本人らしさとは関係なくデイ ケアなどに駆り出されるが).まずは,治寮や介 入の目指すところを家族と医療・福祉職が共有で きれば,より望ましい治療・介入を選択すること ができるのではないだろうか.今回は,そのため の家族や介護者に向けた説明の例を紹介したい. 治療目標が決まっていれば,治寮や介入によっ てどれだけその目標に近づいたかを家族とともに 評価する.実際には,すべての症状(認知機能, 基本的ADL,手続き的ADL,BPSD)が一様に 改善することはなく,一部の症状が改善した結果, 新たな症状のバランスや病像のプロフィールが出 現する.例えば,意欲が改善するが認知機能や ADL が変わらなければ失敗の数が増えることに なる.あるいは情緒的に変化しなくとも,理解力 が改善することにより,周囲の状況への理解が進 んで混乱が軽減し情緒的に落ち着くこともある. そうした新たな状態を家族・介護者とともに見守 りつつ治療・介入内容を調整してゆく.具体的な 手順としては,その治療や介入が,まず有意な効 果をもたらしているか否か(第1 段階),そして, その効果が生活の中でどのような意味を持つか (第2 段階)を,家族・介護者との共同作業とし て判断する.治療薬であれ,リハビリ・プログラ ムやレクレーション活動であれ,QOL をふまえ た介入を行おうとすれば,治療目標とその達成度 を,家族(場合によっては本人と)や介護者と共 有することが必須であることを強調したい.
共催:エーザイ株式会社

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6月6日(木) 11:00〜12:45 老年精神第5会場 イベントホールE(3F)<大阪国際会議場>
共催企画講演Z : 認知症治療のゴールとは?;薬物療法の意義
粟田 主一 (東京都健康長寿医療センター研究所)
北村 伸 (日本医科大学武蔵小杉病院内科(神経内科))
K-7-1
長期的視点から認知症治療薬の有効性を考える
下濱 俊 ( 札幌医科大学医学部神経内科学講座 )
認知症の症状には記憶障害や実行機能の障害と いった中核症状と,behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)に分けられ, BPSD が患者の機能を低下させ本人を苦しめる ばかりでなく,中核症状よりむしろBPSD が, 介護者にとって精神的ストレスなど大きな負担と なっている.また,BPSD は薬物療法あるいは 非薬物療法的な介入に反応し,適切な対応で症状 が消退する可能性があり,放置すると入院や入所 が早まり,介護による経済的負担も増大させるこ とが提示されてきた.一方で,AD 治療は長期間 におよび,AD が進行性の疾患であることから認 知症治療薬の認知症症状進行抑制効果が発揮され ていても,その効果は実感しにくい.認知症治療 薬のアンケート調査でも「薬効がはっきりしない」 と回答する医師や,認知症治療に対する満足度や 薬剤の貢献度を低いと考える医師が多いことにも 現れている.しかしながら,一見変化がみられな いからといって,効果がないわけではない.AD 治療薬に対しては,ともすれば患者本人,家族, かかりつけ医からの大きな期待があり,適正な評 価が行れる前に治療が中断されてしまうというケ ースもあることから,認知症治療には長期的な視 点が欠かせない. 本邦でも世界的にアルツハイマー型認知症 (AD)に対する治療薬として承認されているドネ ペジル等のコリンエステラーゼ阻害薬(ChE 阻 害薬)3 剤とNMDA 受容体拮抗薬であるメマン チンが使用できるようになって2 年が経過した. これらの薬剤は症状を軽減させるSymptmatic treatment としての作用だけでなく,病態の進行 を抑制するDisease modifier としての作用も期 待されている.また,アミロイドカスケード仮説 に基づき,さまざまな機序のAD 治療薬が開発中 であるが,最終的な目的は,神経細胞死を防ぐこ と,すなわち神経細胞保護にある.AD における 神経細胞数脱落は認知機能低下に直接関与するこ とが認められており,神経原線維変化の数は神経 細胞数脱落の程度に相関するが,老人斑の数は神 経細胞数脱落の程度には相関しない.また,神経 原線維変化の数が神経細胞数脱落の程度と相関す るものの,その程度は認知機能低下との相関に対 して7 分の1 以下である.AD では脳内の細胞外 Glu 濃度が上昇し,NMDA 受容体が過剰に活性 化され,神経細胞の機能障害や細胞傷害が引き起 こされていると考えられる.これがグルタミン酸 神経毒仮説であり,この仮説に基づき開発された のがNMDA 受容体拮抗薬メマンチンである.メ マンチンはNMDA 受容体に結合し,Ca2+の細 胞内への過剰流入を防ぐことで,シナプティック ノイズの増大抑制による記憶・学習機能障害の抑 制だけでなく,神経細胞保護による病態修飾作用 が期待できる.その作用はin vitro およびラット を用いたin vivo 実験において認められ,また, 学習機能障害抑制作用も証明されている.講演で は作用機序に加えて,メマンチンの臨床データな どから,長期的視点での有効性について考察する.
K-7-2
介護負担軽減に根ざした認知症診療;メマンチン投与の意義と有効性
吉岩 あおい ( 大分大学医学部総合内科・総合診療科 )
当科では,11 年前から「もの忘れ外来」を行っ ており,これまでの受診者は2500 人余りである. 受診の動機として「認知症かどうかの診断をつけ てほしい」「易怒性,物盗られ妄想,徘徊などの BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)で 困っている」などとともに「進行を抑えてほしい」 という家族の思いもある. 認知症診療は,薬物療法や非薬物療法とともに, 家族や介護者のサポートを総合的に行うことによ り,その効果を最大限に引き出すことができる. 認知機能障害の進行抑制やBPSD の出現を防ぐ ためには,早期発見・早期治療が重要であること は言うまでもないが,認知症の人と介護者に向き 合い,介護負担軽減に根ざした適切な治療とケア を行うことも大切である.当診療科のメマンチン による認知症の精神症状全般的重症度(NPI)と 介護者負担度(ZBI)を用いた解析結果を検討す るとともに,その有効性と投与の意義を考えたい. メマンチンは,見当識障害があり記憶があやふ や,服装が季節にそぐわない,鍋をよく焦がす, 同じ物を買ってくる,服薬の管理ができなくなっ た,いらいらしているなど日常生活に支障がある 中等度からが適応である.コリンエステラーゼ阻 害薬(ChE-I)とは作用機序が異なるため,併用 が可能であることは大きな特徴であるが,ChE-I で興奮などの副作用が出現した場合や心疾患があ る症例(QTc 延長,徐脈など),消化性潰瘍,気 管支喘息,錐体外路障害(パーキンソン症候群を 有する患者には第一選択薬となり得る. 国内第III 相試験では,中核症状として「注意」 「実行」「視空間能力」「言語」でプラセボ群に対 して有意な改善効果を認め,介護者負担感に対す る影響が大きいBPSD に関しては「暴言」「威嚇」 「暴力」「不隠」「徘徊」などで有効性が示されて いる.抗精神病薬投与による死亡率増加のFDA (米国食品医薬品局)警告があるが,メマンチン 治療により抗精神病薬の必要性を少なくすること ができるという報告もある. 併用療法はChE-I によるシグナル増強とメマ ンチンのノイズ軽減により,単剤よりも神経伝達 が改善すると考えられており,メマンチンとドネ ペジル併用で,ラット海馬のアセチルコリン濃度 を相乗的に高めることが報告されている.臨床試 験などで,ドネペジルへのメマンチン追加投与に より「興奮・攻撃性」,「易刺激性」,「食欲・食行 動変化」の改善,併用療法がChE-I 単独療法よ りも介護施設の入所率を6 年で約30% 低下させ たことなどが報告されている. メマンチンの副作用としては,浮動性めまい (4.7%),便秘(3.1%),体重減少(2.2%),頭 痛(2.2%)があり,服薬時間を朝から夕方に変 更することや腎機能をチェック(血清Cr,年齢, 体重で換算Ccr30 mL/min 未満なら10 mg/日を 維持量)することで,日中傾眠などの副作用を防 ぐことができる.
共催:第一三共株式会社

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6月6日(木) 13:00〜14:45 老年精神第5会場 イベントホールE(3F)<大阪国際会議場>
共催企画講演[ : 認知症患者の生活機能維持とリバスチグミン
遠藤 英俊 (独立行政法人国立長寿医療研究センター内科総合診療部)
真田 順子 (医療法人鳴子会菜の花診療所)
K-8-1
アルツハイマー型認知症におけるリバスチグミン貼付薬の位置付けとその期待
植木 昭紀 ( うえき老年メンタル・認知症クリニック )
はじめに リバスチグミンはアルツハイマー型認知症 (AD)の治療薬の中で唯一の貼付薬であり,本邦 では軽度および中等度のAD における認知症症状 の進行抑制の効能・効果で2011 年7 月に上市さ れた.1997 年欧州,2001 年米国で承認された酒 石酸塩を用いた経口薬(本邦未承認)の副作用を 軽減させるために世界で初めてこの貼付薬が開発, 2007 年に欧米では承認された. 1.薬理学的特徴 コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬の中でも リバスチグミンはアセチルコリンエステラーゼ (AChE)だけではなくブチリルコリンエステラ ーゼ(BuChE)も選択的,可逆的に阻害する. BuChE は基質特異性が低くブチリルコリンだけ でなくアセチルコリン(ACh)も分解する.正 常脳ではChE の多くをAChE が占める.しかし AD の病態の進行に伴い神経細胞が脱落すると AChE 活性は低下するがグリア細胞の増生のた めにBuChE 活性は逆に高まり,ACh は寧ろ BuChE によって分解されることからBuChE 阻 害作用を有するリバスチグミンには他のChE 阻 害薬とは異なる臨床効果が期待できる. 2.薬物動態 リバスチグミンの貼付薬は経口薬(本邦未承認) と比べ最高血中濃度に達する時間が長く,最高血 中濃度が低くなる.そのため貼付薬では血漿中の 薬物濃度の継時的変動が抑えられ,治療域内で維 持されることから悪心や嘔吐といった副作用が出 現し難いと考えられる.食物摂取や消化管機能の 影響も受けない.また,剥がすことによって体内 への吸収が止まり,副作用が出現した場合でも安 全性が高いと言える.リバスチグミンは他のChE 阻害薬とは異なり主に腎排泄型の代謝を受け,肝 チトクロームP450(CYP)による代謝はわずか である.さらに蛋白結合能が低くCYP を阻害す る薬物や肝臓において代謝される薬剤をはじめ他 の薬剤と併用しても薬物動態は影響されにくく相 互作用は少ない. 3.臨床効果 臨床効果は他のChE 阻害薬と同様のAD にお ける認知症症状の進行抑制だけではない.本邦で 実施された軽度および中等度のAD を対象とした 1301 試験で,日常生活動作(ADL)を総合的に とらえる行動評価尺度であるDisability Assessment for Dementia の評価においてリバスチグ ミンの用量に依存した悪化の抑制作用がみられた. その作用は衛生,摂食,電話,外出,服用の下位 項目において顕著であった.基本的ADL,コミ ュニケーション機能,精神症状,生活の質(QOL) を介護者が患者の印象から評価する改訂クリクト ン尺度でも悪化の抑制がみられた.記憶だけでな く複数の認知機能の障害によって障害される ADL や介護者とのコミュニケーションにおいて 効果があり介護の負担軽減という点で便益性がみ られた.海外で行われた貼付薬と経口薬(本邦未 承認)を比較したIDEAL 試験やリバスチグミン 経口薬(本邦未承認)とドネペジルを比較した EXCEED 試験からは1301 試験と同様の結果に 加え,やや高度の,進行が速い,幻覚を伴う,75 歳未満の,レビー小体型認知症との鑑別が難しい AD には効果が一層期待できるとの知見が得られ ている. おわりに リバスチグミン貼付薬は他の薬剤との相互作用, 肝機能,消化器系への影響が危惧される場合に有 用である.副作用が少なく視覚的に貼付状態を確 認できることから介護者が投薬管理しやすく治療 効果の最大化につながる.他のChE 阻害薬で効 果不十分や忍容性不良の場合でもリバスチグミン の有効性が確認されている.リバスチグミンは認 知機能障害の進行を遅らせるだけではなく,介護 者が実感しやすいADL の障害を改善し,患者お よび介護者のQOL の向上に大きな役割を果たす ことが期待される.
K-8-2
認知症の早期診断,早期治療;生活機能維持の重要性
羽生 春夫 ( 東京医科大学老年病科 )
現在,認知症患者は300 万人を突破し,その過 半数がアルツハイマー病(AD)である.特に後 期高齢者の増加する2025 年までには急速な患者 数の増加が予想されている.昨年,厚労省は“健 康日本21(第二次)”の中で国民の健康の増進を 図るための基本的な方針として健康寿命の延伸を 推進すると発表した.この実現には介護を要する 疾患,特に認知症への対策が最も重要な課題であ ると考えられる. AD の治療薬としては,現在3 つのコリンエス テラーゼ阻害薬(ドネペジル,ガランタミン,リ バスチグミン)と1 つのNMDA 受容体拮抗薬(メ マンチン)がある.これらは症候改善薬として位 置づけられ,疾患の病理,病態像に修飾を加える ものではないが,早期から治療を開始することに よって,認知機能障害の進行を有意に遅らせるこ とができる.したがって,認知症診療で最も重要 なことはいかに早期に正確に診断できるかである. この点に関しては,画像検査や髄液検査を加える ことによって診断能の向上が期待できるようにな り,実際AD を背景とする軽度認知障害や発症前 診断も可能となっている. AD の多くは記憶障害から始まり,その後健忘 性失語,構成失行,着衣失行,視空間失認などの 大脳高次機能障害が加わり進行していくが,一般 に認知機能障害と生活障害(ADL の障害)は, 疾患の経過に伴い平行して悪化していく.患者, 介護者が求める医療とは,実際には生活機能の一 日でも長い維持である.介護者のアンケート調査 によれば,日常の見守り,服薬管理,外出,排泄, 入浴介助に負担を感じていたとの成績が示されて いる.したがって,患者,家族は「桜,ネコ,電 車が答えられる」とか,「100−7 の計算ができる ようになった」よりも,「一人で買い物へ行ける」, 「服薬管理ができる」,「食事の用意ができる」と いった生活機能の改善または維持を望んでいるの が実情である.現在のAD 治療においては,BPSD の緩和や家族の介護負担の軽減とともに生活機能 の維持が求められるべき医療目標と考える. 3 つのコリンエステラーゼ阻害薬は,薬理学的 作用において若干の相違がみられ,用法や用量も 異なることから,使い分けも期待されている.本 邦では,新たな治療薬についてまだ2 年前後の 使用経験しかないが,早期からの治療開始による 著効例や切り替えによる効果が経験されることは 少なくない.治療薬の使い分けが可能となった現 在,早期治療に加えて治療薬の選択も考慮に入れ た診療が専門医には求められている.
ノバルティスファーマ株式会社/小野薬品工業株式会社

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6月6日(木) 15:00〜16:45 老年精神第5会場 イベントホールE(3F)<大阪国際会議場>
共催企画講演\ : 認知症における早期診断の重要性とそのポイント
一宮 洋介 (順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
田北 昌史 (田北メモリーメンタルクリニック)
K-9-1
認知症診断におけるピットフォール
内海 久美子 ( 砂川市立病院認知症疾患医療センター )
認知症診断のファーストステップは,生理的老 化なのか病的な認知機能障害なのかの見極め,セ カンドステップは病的なものであれば各認知症疾 患の鑑別である.しかし早期診断では,専門医で さえも迷うことがある.特に若年発症の変性疾患 では,早期鑑別診断が非常に難しく,しばしば誤 診されている.そこで自験例をもとに,以下の各 認知症診断で陥りやすいピットフォールについて 解説する. アルツハイマー型認知症(AD)では発症前期 にはMCI の段階があり,この時点で初診になっ た場合,病前の知的レベルからどれくらい低下し たかがキーポイントである.しかし若年性アルツ ハイマー病では,うつ病と誤診される場合が少な くない.なぜならば若年発症や元来知的に高い高 齢者では,スクリーニングテストでは容易にカッ トオフ値をクリアできるためであり,より詳細な 記憶テストが必要になる.さらにはMRI や SPECT などの画像診断も欠かせない. レビー小体型認知症(DLB)では,精神科では うつ状態や幻覚妄想状態を呈して初診になるケー スがあり,パーキンソン症状が目立たない場合, 内因性の精神疾患として誤診されることがある. 向精神病薬への過敏性のためにより悪化してしま う危険性が潜んでいる.この場合,心筋ミオ MIBG やSPECT の画像検査が有用である.また DLB のパーキンソン症状では振戦は目立たず, 手関節の固縮がわずかにみられるなど典型的なパ ーキンソン病とは異なるため詳細な神経学的所見 をしっかりとることが必要である. 若年発症が多い前頭側頭型認知症(FTD)の ピック病や運動ニューロン型では,初期には認知 機能障害は目立たず行動変化や人格の変化などが 現われるため,気分障害などと誤診されやすい. 後者では神経症状を伴うためきちんと神経所見を とり,MRI とSPECT 画像検査が欠かせない. Treatable Dementia の代表格である特発性正 常圧水頭症(iNPH)で診断を見誤ることは責任 重大である.しかし精神科ではもの忘れを主訴に 初診になる場合が多く,歩行障害が軽微である時, 見逃してしまう.MRI 所見で,高位円蓋部脳溝 の狭小化を見逃して側脳室拡大を海馬の委縮と判 断してAD と誤診してしまう可能性がある. SPECT のeZIS 解析two tail view では,iNPH に特徴的な所見が得られ見落とし防止のスクリー ニングとしては有用である.
K-9-2
うつ病から認知症への移行は予防できるか?;生物学的背景から考えた治療的介入
馬場 元 ( 順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学,順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院 )
高齢うつ病患者がその臨床経過中に認知症に移 行することはめずらしくなく,また認知症患者に 随伴症状としての抑うつやうつ病の合併も多く経 験するものである.そして多くの疫学的調査から もうつ病が認知症の危険因子であることが示され ている.特に高齢うつ病では「うつ病性仮性認知 症」を伴うことが多く,この仮性認知症が高率に 認知症へ移行することが知られている.また神経 心理学的研究において,高齢うつ病患者でみられ た認知機能や記憶機能の障害はうつ病が寛解した 後でも一部残存することが報告されている.この ため特に仮性認知症を伴う高齢うつ病は認知症と のひと続きのスペクトラムであり,この時のうつ 病は認知症の前駆症状であると考えられていた. しかし近年の疫学的調査において,うつ病発症か ら認知症発症までの期間と認知症発症の危険度に 正の相関があることや,うつ病のエピソード回数 が多いほど認知症に移行しやすいこと,若年発症 のうつ病の方が高齢発症のうつ病より将来の認知 症発症のリスクが高いことなどが相次いで報告さ れた.さらにうつ病の既往のあるアルツハイマー 病(AD)ではその既往のないAD と比べて海馬 でのアミロイド沈着が有意に多いことなども報告 され,うつ病は認知症の前駆症状というよりもう つ病の既往がAD の病態に影響をあたえる(狭義 のリスクファクターである)可能性が示唆されて いる.うつ病が認知症の前駆症状であれば認知症 への移行を回避することは困難であるが,リスク ファクターであればその機序の解明により認知症 への移行を予防するための介入ができる可能性が ある. 高齢発症のうつ病では無症候性の脳血管病変が 多く存在し,この病変がうつ病の病態や認知機能 障害に関連することが指摘されることから,この 脳血管病変がうつ病から認知症への移行の生物学 的背景である可能性が示唆されている.また最近 高齢うつ病の一部ではアミロイドβタンパク (Aβ)の異常がみられることが示され,こうし たAβの異常をもつ高齢うつ病のサブタイプは AD の前駆状態あるという可能性も報告された. 我々の研究では血中のAβは高齢うつ病だけでな く,中年期や若年期のうつ病患者でも変化してい ることが示された.そしてうつ病の発症年齢が高 いほど血管病変が多く,発症年齢が低いほどAβ の変化が強いことも見出された.これらを合わせ て考えると,うつ病がAD に移行する背景には, 高齢発症であればより脳血管病変が影響し,若年 発症であればうつ病によるアミロイドの代謝変化 がより強く影響している可能性が示唆される. 本セミナーではうつ病から認知症への移行に対 して,こうした生物学的背景から考えられる治療 的介入を紹介する.
共催:ヤンセンファーマ株式会社

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6月5日(水) 12:00〜13:00 老年精神第4会場 1202(12F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー1
西川 隆 (大阪府立大学総合リハビリテーション学部)
前頭側頭葉変性症のサブタイプとその臨床・画像・病理のポイント
川勝 忍 ( 山形大学医学部精神科 )
共催:富士フイルムRIファーマ株式会社/日本脳神経核医学研究会

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6月5日(水) 12:00〜13:00 老年精神1009会場 1009(10F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー2
米田 博 (大阪医科大学総合医学講座神経精神医学講座)
高齢者の統合失調症患者の身体リスクについて;再発予防や身体合併症との関係
内村 直尚 ( 久留米大学医学部神経精神医学講座 )
共催:大塚製薬株式会社

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6月5日(水) 12:00〜13:00 老年精神1008会場 1008(10F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー3
服部 英幸 (独立行政法人国立長寿医療研究センター行動・心理療法部)
高齢者の不眠とその治療
清水 徹男 ( 秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 )
共催:武田薬品工業株式会社

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6月6日(木) 12:00〜13:00 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー4
深津 亮 (埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック)
高齢者の食欲不振と悪液質
乾 明夫 ( 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野 )
共催:株式会社ツムラ

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6月6日(木) 12:00〜13:00 老年精神第4会場 1202(12F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー5
篠崎 和弘 (和歌山県立医科大学医学部神経精神医学教室)
老年期の幻覚と妄想性障害;脳器質的背景から
池田 研二 ( 香川大学医学部炎症病理学 )
共催:アステラス製薬株式会社

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6月6日(木) 12:00〜13:00 老年精神イベントA会場 イベントホールA(3F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー6
田平 武 (順天堂大学大学院医学研究科認知症診断・予防・治療学講座)
高齢者にやさしいBPSDへの対応
木村 武実 ( 国立病院機構菊池病院 )
共催:株式会社グロービア

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6月6日(木) 12:00〜13:00 老年精神1008会場 1008(10F)<大阪国際会議場>
ランチョンセミナー7
池田 学 (熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野神経精神科)
知っておきたいiNPH診療のコツと最近の話題
数井 裕光 ( 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室 )
共催:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社

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