6月5日(水) 12:00〜13:00 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
大会長講演
本間 昭 (認知症介護研究・研修東京センター)
TA-1
高齢者における精神疾患の薬物治療戦略
中村 祐 ( 香川大学医学部精神神経医学講座 )
共催:エーザイ株式会社/第一三共株式会社/日本イーライリリー株式会社
/ノバルティスファーマ株式会社/ヤンセンファーマ株式会社
高齢者において見られる精神疾患は多様であるが,身体的な脆弱性が背景にあることから,薬物治療による対処は従来困難であった.しかし,約10 年の間に,多くの安全性の高い薬剤が使用できるようになり,高齢者における精神疾患の薬物治療の幅が大変広くなった.まず,認知症に関し ては,ドネペジルが1999 年に発売され,それまでには明確な薬物的治療法が無かった認知症において薬物治療が行えるようになった.その後は, 開発に難渋する時期があったが,2011 年には新しく3 剤(ガランタミン,リバスチグミン貼付剤,メマンチン)が発売され,これらの薬剤を組み合わせることなどにより,広く認知症の治療が行え るようになった.また,従来は,三環系抗うつ剤などの抗うつ剤は様々な副作用が強く,高齢者での使用が困難であった.しかし,1999 年にフルボキサミン,2000 年にパロキセチン,2006 年に セルトラリン,近年ではエスシタロプラムなどの高齢者においても使いやすいSSRI が登場し,高齢者の「うつ病」治療を行いやすくなった.また,SNRI であるデュロキセチンやNaSSA であるミ ルタザピンも近年発売され,SSRI と使い分けや併用することにより,治療の幅が大変広くなった.睡眠導入剤に関しても,従来はベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤では多くの問題があったが,非ベ ンゾジアゼピン系のゾピクロン,ゾルピデム,近年ではエスゾピクロンが発売され,治療を行いやすくなった.メラトニン作動薬であるラメルテオンも近年加わり,併用することにより治療の幅がより広がったといえる.また,高齢者で最も治療 が難しい妄想性障害においても,ペロスピロン,リスペリドン,オランザピン,アリピプラゾール,ブロナンセリンなどの非定型抗精神病薬を使用で きるようになり,従来の定型抗精神病薬に比べて遙かに安全に治療が可能となった.
現在,高齢者における精神疾患の大きな問題点は,BPSD の薬物治療である.現在のところ,適応をもつ薬剤はないが,抑肝散(不眠,神経症 に適応)や非定型抗精神病薬(適応外)が用いられている現状がある.特に,非定型抗精神病薬に 関しては日本老年精神医学会主導で死亡率調査(J-CATIA)が現在進行中であり,これらの調査結果を受けて将来の適正使用や適応取得が検討されるものと期待される.

一覧へ戻る

6月5日(水) 13:15〜14:15 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
特別講演T
中村 祐 (香川大学医学部精神神経医学講座)
TK-1
病態解明に基づくアルツハイマー病新規治療法の研究開発;基礎研究から大学発ベンチャーでの創薬へ
星 美奈子 ( 京都大学大学院医学研究科・生態構造医学講座形態形成機構学分野・アルツハイマー病創薬基盤プロジェクト )
アルツハイマー病(AD)は認知症の約6割を占め,2050 年には有病率が世界の85 人に1人に達するとされているが,治療薬としては今のところ症状緩和剤があるのみである.発症のメカニズムは殆どブラックボックスのままであるが,患 者脳内に蓄積するアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドが発症の引き金を引くことは間違いが無く,これまではAβを作らせない,あるいは除去する方向で治療方法が開発されてきた.しかしながら,従来の抗Aβ治療薬は,残念なことに安全面で問題があることが治験で次々と明らかにな っており,開発の見直しが必要となっている状況である.
これを解決するためには,初心に返り,そもそもどういう発症メカニズムで病が生じているのか という病態解明が重要であると考えた.そこで,我々は認知症の原因となる神経の機能低下と細胞死に着目して,その原因となる物質を探した結果, 直径10-15 nm 程度の球状の物質,amylospheroid(ASPD),が強い神経毒性を持つことを見出し,これを患者脳から実際に単離す ることに成功した(Noguchi et al, JBC 2009).
ASPD は,実はAβが約30 個集まることで,元々のAβとは異なる三次元構造を獲得したものであることが判った.タンパク質の機能は三次元構造により決まるため,ASPD は言わば元々のAβとは異なる新たなタンパク質に生まれ変わったようなものであると考えられた.実際,ASPDに対する抗体は,ASPD の三次元構造を選択的に認識し,Aβにはほとんど反応しない.このことから,まず,ASPD 抗体を用いた治療法開発 の可能性が拓けた.そして,次に,実はASPDそのものを用いた能動ワクチン療法の開発へのステップアップが可能であることがわかってきた. さらに,ASPD を手掛かりに神経細胞死が起きる分子メカニズムがわかってきたため,それに基 づく治療法の開発への展開も出来るようになりつつある(下図).これらの基礎研究により得られたシーズの臨床応用研究を加速させるために,現 在,京都大学発ベンチャーを設立し,これが関西において民間としては初めて医療特区の認定を受 けるに至った.
本講演では,研究の展開を中心にお話しするとともに,ベンチャー設立の経緯についてもお話したい.

一覧へ戻る

6月5日(水) 14:15〜15:15 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
特別講演U
武田 雅俊 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
TK-2
アルツハイマー病;分子病態研究から超早期治療の実現に向けて
岩坪 威 ( 東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野 )
本邦の認知症患者数は既に300 万人を越え, 高齢化社会の進展とともにさらに増加することが 確実視されている.高齢者認知症の主因たるアル ツハイマー病(AD)の病態研究は過去四半世紀 に爆発的に進展し,Aβをはじめとする病因分子 や遺伝性リスク因子が同定され,病因分子・過程 を標的とする根本的治療法(疾患修飾療法, disease-modifying therapy ; DMT)が本格的に 開発されはじめているが,いまだ有効性の実証さ れたものはないのが現状である.
AD 脳の病理学的変化は,神経細胞の脱落,老 人斑などの形態をとるβアミロイド蓄積,タウタンパク質よりなる神経原線維変化の出現を3 主徴とする.AD の病因・病態に関する研究は,これら病理蓄積物の生化学的分析と,病因遺伝子の同定・機能解析を両輪として発展した.とくにAD に特異性が高いβアミロイドについては,凝集性の高いAβ42 分子種の蓄積がAD 脳に最初期に生じる病変であること(Iwatsubo et al.1994),家族性AD の病因遺伝子APP 及びプレ セニリン(PS)の変異によりAβ42 の産生が亢進すること(Tomita et al. 1997)などの実証に基づき,βアミロイドをAD の病因分子と考える アミロイド仮説が幅広く支持され,DMT の治療 標的として有力視されてきた.Aβ産生を担うγセクレターゼの構造・機能の分子レベルでの解明 (Takasugi et al. 2003)などの基礎研究の成果に基づき,β,γセクレターゼ阻害薬によるAβ の産生抑制,抗体によるAβクリアランス(除去) 促進などの治療法が開発され,臨床試験も開始さ れている.
アミロイドの蓄積は,認知機能障害の発症に15 年以上先行して生じることを考えると,AD の病因過程に作用するDMT は,AD の症状が顕在化する以前の軽度認知症害(MCI)期,それに先行するpreclinical AD 期(病理変化陽性だが無 症候の時期)に使用を開始するのが理想的と考えられる.このためには,画像・バイオマーカーを含めたAD の客観評価法の確立が重要である.脳 内のβアミロイドをPET スキャンで検出するアミロイドイメージング,MRI による脳容積評価や体液生化学マーカーなどを指標に取り入れ,AD 進行過程のモニター・発症予測法の確立を目指そうとする大規模臨床観察研究AD Neuroimaging Initiative(ADNI)が米国から展開され,本邦でも2007 年よりJ-ADNI 研究が進捗している. 本講演においては,AD の分子病態解明に基づくDMT の実用化を指向する研究開発の現況とその 将来について概観したい.

一覧へ戻る

6月5日(水) 15:15〜16:15 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
特別講演V
新井 平伊 (順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学)
TK-3
今後の認知症施策について
新美 芳樹 ( 厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 )
未曾有の高齢化社会に伴い増加する認知症高齢 者のための施策整備は焦眉の急である. 厚生労働省は平成24 年6 月18 日,報告書「今 後の認知症施策の方向性について」をとりまとめ,同9 月5 日,「認知症施策推進5 か年計画(オレ ンジプラン)」を発表した. その背景や成立過程を振り返りつつ,今後の認 知症施策の方向性を概観する.

一覧へ戻る

6月5日(水) 9:00〜11:30 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
シンポジウム1 : 認知症の人の暮らしを支える精神科医療と地域包括ケアシステム
粟田 主一 (東京都健康長寿医療センター研究所)
中西 亜紀 (大阪市立弘済院附属病院精神科・神経内科)
S1-1
わが国における地域包括ケアシステムの動向と認知症ケア
筒井 孝子 (国立保健医療科学院)
わが国では,団塊の世代が75 歳以上となり 2025 年に高齢社会のピークを迎えるため,これ に備えた医療・介護・福祉の在り方を検討するた め,政府では,「安心と希望の介護ビジョン」1)の 取りまとめや,「社会保障国民会議」2)での議論を 通し,この対策について検討を重ねてきたが,こ れらの中で今後の社会保障の在り方は,地域包括 ケアシステムが基盤になることが示されている. この地域包括ケアシステムの方向性については, 平成20,21 年度の2 カ年にわたり,有識者をメ ンバーとした「地域包括ケア研究会」が組織され, この中で,地域圏域単位での医療・介護・福祉の 一体的提供の実現に向けての論点が整理されてき た.この成果は,「地域包括ケア研究会報告書」3,4) として発表されている.また,平成24 年度にお いても地域包括ケアシステムの新たな方向性を記 した「地域包括ケア報告書」が発表された. この報告の中では,地域包括ケアシステムで, 今後,扱わなければならない課題として「認知症」 や「看取り」があり,これについては,早急に開 業医向け教育研修等の実施が必要であること等が 示されている.このように,これから社会保障制 度が地域包括ケアシステムを基盤にしていくため には,医療や看護や介護サービスの提供主体は地 域圏域内で連携しなければならず,さらに,これ に保険者がcommitment するといった体制が求 められていることを意味している. 本発表では,まず,地域包括ケアシステムが日 本で必要とされるに至った背景について国際的な文脈を踏まえて説明する.これは,今日,日本で 言われている地域包括ケアシステムは,国際的な 文脈からすると,コミュニティベースドケア (Community based care)とインテグレティド ケア(integrated care)の二つの独立したコンセ プトを包含したものであり,すでに多くの先進諸 国で,その対策が急務とされている慢性疾患患者, とりわけ認知症高齢者の増加に伴う医療全体の在 り方の転換に際して,考えられてきたコンセプト であることを説明するものとなる. 次に,英国をはじめとして,フランスやオース トラリア等においても「国家認知症戦略 (National Dementia Strategy)」と呼ばれる認 知症ケアに関わる政策やサービスの抜本的な改革 ビジョンが示されている.わが国においても同様 の文脈で,平成24 年9 月5 日に発表された,「認 知症施策推進5 か年計画(オレンジプラン)」の 基本目標『「ケアの流れ」を変える』ために,こ ういった施策が展開されている.この展開に際し ても,その基本が「地域包括ケアシステム」の構 築であることを説明する. さらに,認知症施策の国内外の直近の施策動向 等を踏まえながら,日本の地域包括ケアシステム において認知症の方々,ご家族に対する支援を実 施する際には,保険者の役割が重要である.そこ で,この保険者機能について,すでに開発されて いる評価指標5)を紹介しながら,現状の保険者の 実態を示し,今後,保険者が実施すべき認知症施 策の方法について言及する.
S1-2
認知症の人の暮らしを支える訪問診療
上野 秀樹 ((福)ロザリオの聖母会海上寮療養所,桜新町アーバンクリニック,静岡大学創造技術大学院)
私は平成4 年に大学を卒業し,精神科医師と して21 年間働いてきた.認知症の人の精神科医 療に携わるようになったのは,平成16 年に東京 都立松沢病院の認知症精神科専門病棟を担当して からである.都立松沢病院時代には,激しい精神 症状のある認知症の人,民間精神科病院では扱え ないような身体合併症と精神症状のある認知症の 人などがたくさん来院した.「精神科病棟に入院 させなければ,問題が解決できないのではないか」 と思われる認知症の人がたくさん来院し,「なる べく早く入院させてあげたい」と考えて仕事して いたことを記憶している.東京都では,3 カ所の 精神保健福祉センターに高齢者精神医療相談班 (以下,老人班)という精神科医と保健師のチー ムが設置されている.地域で認知症が疑われる精 神症状や行動障害で困っているが,その精神症状 のために医療機関受診が困難なケースに,地域保 健センター保健師の依頼で訪問し,診断と専門病 棟での入院加療を含めた処遇相談を行う制度であ る.残念ながら,この老人班には診療機能はなか った.多くの老人班関与ケースを入院加療する中 で,精神症状が激しく,対応困難なケースほど本 人に病識がなく,通常の医療機関受診が困難であ るという現状を身をもって体験した.そして,認 知症病棟の新設を検討していた海上寮療養所(千 葉県旭市)へ転職した.この頃の私は,重い精神 症状のある認知症の人には精神科入院医療が不可 欠であると思っていたので,「病棟の設計から関 与して,認知症の人のために最高の精神科医療を 提供したい」と思ったのがきっかけであった.し かし,もの忘れ外来を開設すると,すべての病棟 が開放病棟である当院では,徘徊が問題となるこ とが多い認知症の人の入院加療は出来なかった. そこで,いろいろと診療方法を工夫したところ, いままで私が,精神科に入院させるしか対処方法 がないと信じ込んでいた,重い精神症状のある認 知症の人でも,工夫次第で地域での生活を支える ことが出来ることがわかったのである. その工夫の一つが,「認知症の人のための精神 科医療の宅配」であった.当院で,東京都の老人 班に診療機能をプラスするような形で,精神科医 の訪問診療をはじめたのである.これは,2 つの サービスからなりたっている. ・精神症状や行動障害のために精神科外来を受診 することができない認知症の人のところへ精神 科医師が往診するサービス ・精神科のない医療機関,介護保険施設等へ精神 科医師が往診するサービス この3 年間で800 名を越える精神症状,行動 障害のある認知症の人を診療したが,精神科病院 に入院が必要だったのは,うつ病で希死念慮が強 かったり,妄想性障害,アルコール関連障害など の精神疾患が関与していたりするケースなどを中 心に30 例程度であった. 施設への精神科医の訪問診療では,以前嘱託医 に頼んでいた行動・心理症状の治療を専門家が行 うことで,施設全体の精神科薬の使用量が激減し たという効果も得られた.認知症の人の精神科入 院は,実はそれほど必要がないということがわか ったため,当院の認知症病棟新設計画は中止とな った.シンポジウムでは当院の精神科訪問診療の 実際をお話ししようと考えている.
S1-3
施設から地域へ,医療から介護へのパラダイムシフト;精神科診療所を併設した複合型多機能施設の試み
大澤 誠 (医療法人あづま会大井戸診療所)
現在,群馬県には10 か所の認知症疾患医療セ ンターがある.その一つで,精神科病院を母体と する某認知症疾患医療センターは,当診療所から 非常に近く,直線距離なら約5 km,車だと15 分 足らずのところにある.しかし,メモリー外来機 能を持つ当診療所において,少なくとも診断と入 院を含めた治療において支援を受けたケースは, この2 年間はなかった. ところで,平成24 年6 月18 日,厚生労働省 は『新たな認知症と医療とケアの方向性』を公表 した.その中で,「認知症初期集中支援チームの 設置」「身近型認知症疾患医療センターの整備」の 項目は目を引いた.それらに共通のキーワードは 『アウトリーチ』である.少なくとも群馬県内で, この『アウトリーチ』機能を充分に発揮している 認知症疾患医療センターは,私の知る限りにおい ては多くない.受診を拒否する認知症の人,受診 したくても交通手段等様々な理由で受診できない 認知症の人は少なくない.『アウトリーチ』がそ れらの人を救うための一助となるのは間違いない. そして精神科病院に対する敷居の高さも問題とな る.それらの理由で,フットワークの軽い診療所 が,身近型や初期集中支援チームの一翼を担うの は理に適っている. 当診療所では,主に火曜日の午後の2 時間を 使って,初診の認知症の人の,メモリー外来を開 いている.もちろん,それ以外の時間帯にも緊急 性のある人は受け入れている.そして,平成23 年,24 年とも認知症及び認知症が疑われる人の 数はそれぞれ120 名を超えた.出来る限り往診 にも応じようとしているが,午前中は外来もあり, 月に120 名を超える訪問診療の対象の人たち(認 知症の人だけでなく,人工呼吸器をつけたALS の人や癌の末期の人もいる)を診ているので,医 師一人で期待に応えるのは難しい.それを補って いるのが,当法人が運営する2 つの居宅介護支 援事業所の10 人のケアマネである.彼らのフッ トワークが当法人の財産とも言える.また当診療 所にはMRI はもちろんのことCT すらない.し かし,医師会立の病院の放射線科は利便性も高く, CT ならその日のうちに,MRI でもほぼ1 週間以 内の撮影が可能である.そしてSPECT も,市民 病院において,これもほぼ1 週間以内の検査が 可能となっている.身体合併症への対応も,肺炎 程度なら,法人内の通所リハビリ等を利用して治 療している.最近も,認知症疾患医療センターで FTD と診断された女性が肺炎に罹患したが,内 科的な疾患は困るとのことで,そこへの入院を断 られた.困った小規模多機能型居宅介護事業所が 当診療所に相談を求め,そこでの抗生物質の点滴 で治療した.BPSD に関しても,当法人の通所 リハビリ,通所介護,グループホーム等の場を利 用しての非薬物的アプローチ及び薬物的アプロー チで何とかなるケースが多い.訪問看護師が動く こともある. シンポジウム当日は,当法人の様な介護保険の 在宅サービスを複合したメモリー外来を持つ診療 所が,「認知症初期集中支援チーム」や「身近型 認知症疾患医療センター」として機能する可能性 についてお話しできたらと思っている.
S1-4
総合病院型認知症疾患医療センターにおける院内連携と地域連携
古田 光 (東京都健康長寿医療センター精神科)
演者の勤務する東京都健康長寿医療センターは, 東京都区西北部二次保健医療圏(総人口約185 万人,高齢者人口約38 万人)に位置する急性期 総合病院で,平成24 年4 月東京都の認知症疾患 医療センター全12 病院のひとつに指定された. 平成23 年度新入院患者の平均年齢は78.0 歳,65 歳以上の高齢者が90% 以上を占め,超高齢社会 を迎えた我が国の総合病院のあり方のモデルとな りうる.当院の取り組みや現状を紹介し,一般病 院・総合病院での認知症患者診療の課題について 論じる. ○認知症専門医療相談室 平成23 年7 月一般の医療相談室と別に,認知 症専門医療相談室(以下専門相談室)を開設し, 精神保健福祉士2 名,臨床心理士2 名,認知症 看護認定看護師(以下認知症認定看護師)1 名を 配置し,認知症の鑑別診断外来であるもの忘れ外 来の受療前相談を開始した.平成25 年4 月の認 知症疾患医療センター指定後は,一般の認知症電 話相談を開始するとともに,認知症入院・外来患 者に対する相談業務を開始し,認知症関連患者の 院内・院外連携の中心となっている.H 24 年度 の専門相談は約3,000 件であった.H 25 年度は アウトリーチ活動も予定している. ○認知症認定看護師と精神科リエゾンチーム 平成19 年から認知症認定看護師が,病棟看護 師の依頼で,認知症・せん妄などの問題を抱える 入院患者の診察・評価・対応のアドバイスをして きた.平成24 年4 月精神科リエゾンチーム活動 が保険収載されたのを機に,認知症認定看護師を 中心とした精神科リエゾンチームを結成し,平成 24 年6 月から正式に活動を開始した.チームメ ンバーとして,専門相談室および精神科医師以外 に,神経内科医師も加わった.身体科病棟におけ る認知症入院患者医療・看護サポートの要となる ことが期待されている. ○院内・院外研修活動 認知症認定看護師が中心となって看護師対象に 認知症に関する教育・研修を行うとともに,精神 科医師・認知症認定看護師を中心に多職種のスタ ッフに対する認知症やせん妄に関した教育・研修 を行っている.また,医師,認知症認定看護師, 精神保健福祉士,臨床心理士など多職種のスタッ フを,医師会や自治体等の要請により各種研修会 に講師として派遣している. ○認知症医療介護連携協議会 地域4 医師会および行政の代表者・包括支援 センターによる連携協議会を平成24 年度から開 始した.すでに各区医師会および行政で認知症に 関する連携協議会が立ち上がる予定があったため, 後方支援の形で各地域のサポートをしていく方針 である. 認知症の診療において,現場の声として入院医 療,救急医療,身体合併症に対応できる医療資源 が不足しているとの報告がある(粟田2010).未 曽有の超高齢社会を迎える我が国で,精神科を有 する総合病院以外の一般病院でも,認知症患者に 対応したケアとBPSD 対応,処遇の検討などを 行える体制が必要である.その方策として,院内 連携としては認知症認定看護師などを中心とした リエゾンチームが,院外連携としては認知症疾患 に必要な対応が十分にできる専門相談室設置が有 効と考える.精神科医師による一般病院への往診 も診療報酬上十分に評価されるべきである.
S1-5
精神科病院認知症治療病棟と地域連携
前田 潔(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)
【目的】わが国の認知症医療の大部分は精神科医, 精神科病院によって担われてきた.認知症医療に おける精神科病院の課題の一端を明らかにするこ とを本発表の目的とした. 【方法】認知症治療病棟は激しい周辺症状や逸脱 行動を示す認知症患者を治療するために整備され た病棟であり,以下の要件を満たすものとされて いる. (イ)医師の指導監督の下で,作業療法士,看護 師,精神保健福祉士により,精神症状等の軽快及 び生活機能の回復を目的に看護並びに生活機能回 復のための訓練及び指導を集中的に行う. (ロ)医師の診療に基づき心理検査の結果等を踏 まえて作成した患者ごとの治療計画に基づき,看 護並びに生活機能回復のための訓練及び指導を集 中的に行うとともに,計画的な治療を行う. (ハ)生活機能回復のための訓練及び指導を,生 活機能回復訓練室等において患者1 人当たり1 日4 時間,週5 回行う. 全国の認知症治療病棟を有する精神科病院405 病院に調査票を送付し,郵送で回答を得る方法で 調査を行った. 【結果】本調査では105 病院(25.9%),108 病棟 から回答を得た. 認知症治療病棟での平均在院日数は722 日で, 平均在院日数が360 日以下の病棟は35% にすぎ ず,180 日以下は6% でしかなかった.入院患者 のBPSD についての調査結果では,もっとも頻 度の高いBPSD は徘徊で,次いで医療・介護へ の抵抗であった.最も管理困難なBPSD は暴力 行為ついで医療・介護への抵抗,異食行為であっ た.在院日数に関係なく,退院できない理由とし て,BPSD のため,家族の受け入れ拒否,施設 入所待ちの3 つで77〜85% を占めていた.また 退院を阻害する要因を平均在院日数が1 年以上 の病院と1 年未満の病院を比較すると,施設入 所待ちにより退院できない割合は平均在院日数が 1 年未満の病棟で28%,1 年以上の病棟では20% と差を認めた.また1 年未満の病棟では入院患 者のADL の低下のため退院できない割合が6% であったが1 年以上の病棟では11% とほぼ2 倍 になっていた. 【考察】認知症治療病棟での在院日数が長期化し ていることが確認された.在院日数を短くするた めには認知症治療病棟に入院している患者を受け 入れる施設の整備の必要があると考えられた.退 院を困難としている要因としてADL の低下があ ったが,入院期間が長くなると精神科病院では十 分なリハビリが行えない.そのため入院患者の ADL が低下する.ADL が低下し,介護に手間が かかると施設ではひき受けてくれないことも多い. 管理困難なBPSD として頻度は高くないが暴力 が挙げられている.頻度も高く管理も困難な BPSD に医療・介護への抵抗があった.対応困 難で入院依頼を検討するBPSD に共通してみら れる特徴は,他の入所・入居者に影響があるもの であるという. 【結論】認知症治療病棟では在院日数が長期化し ており,退院を阻害する3 つの要因への対応が 必要であると考えられた.

一覧へ戻る

6月6日(木) 9:00〜11:30 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
シンポジウム2 : BPSDの発現機序の解明と治療法・対応法;Up to date
池田 学 (熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野)
数井 裕光 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
S2-1
レビー小体型認知症,パーキンソン病における幻視と錯視
西尾 慶之 (東北大学高次機能障害学)
レビー小体型認知症(DLB),パーキンソン病 (PD)は,幻視の原因疾患として最も頻度が高い ものである.これらの疾患における幻視は,重要 な治療の標的であるというだけでなく,幻視一般 の病態や健常な意識的知覚のメカニズムの解明の ための有用なモデルになると考えられる.これま での幻視研究では,幻視を客観的かつ定量的に測 定する方法がなかったことが重大な研究の障碍と なっていた.最近筆者とその共同研究者らは,パ レイドリアと呼ばれる幻視に類似した錯視を誘発 するテストを開発し,DLB やPD の幻覚の病態 についての研究を行っている.われわれの研究結 果から,(1)パレイドリアは視知覚障害と幻覚 の中間的な病態であること,(2)実体意識性と 呼ばれる幻覚がパレイドリアや幻視の病態と関連 している可能性があること,(3)アセチルコリ ン系の変性と側頭頭頂皮質の変性がパレイドリア や幻視の発現と密接に関連していること,などが 明らかになりつつある.
S2-2
認知症に伴う嫉妬妄想の臨床特徴とその対応法
橋本 衛 (熊本大学医学部附属病院神経精神科)
【背景】妄想は,「病的に作られた誤った思考内容 あるいは判断で,根拠が薄弱なのに強く確信され, 論理的に説得しても訂正不可能なもの」と定義さ れ,認知症患者にみられるBPSD の中でも代表 的な症候の一つである.認知症患者ではさまざま な妄想が認められるが,その中でも,物盗られ妄 想,迫害妄想,嫉妬妄想,誤認妄想の頻度が高い. 認知症患者の妄想の発現には器質的病変の関与の みならず,記憶障害や判断力低下などの認知機能 障害,さらには心理社会的要因など複数の要因が 関わっているため,治療にはさまざまなアプロー チが必要となる.「配偶者が不貞を働いている」と 確信する嫉妬妄想はあらゆる精神疾患で認められ る妄想であるが,器質的病変との関連性が高く, 認知症患者の2.3−15.8% に伴うことが報告され ている.嫉妬妄想は介護者のストレスを著しく増 大させるだけではなく,しばしば暴力行為にも発 展するため早急な介入が必要となるにもかかわら ず,認知症患者に伴う嫉妬妄想の病態については 未だ不明な点が多い.そこで本シンポジウムでは, 嫉妬妄想の臨床特徴とその対応法について考察す る. 【対象と方法】2011 年9 月からの1 年間に演者の 認知症専門外来を受診した認知症患者連続328 例の中から,配偶者を持つ210 例を選択し研究 対象とした.嫉妬妄想のため何らかの治療的介入 が必要であった患者を「嫉妬妄想あり群」と定義 し,嫉妬妄想を認めなかった患者群との間で,年 齢,性別,教育歴,多量飲酒歴,MMSE 得点, 原因疾患,配偶者以外の同居者の有無を比較した. さらに嫉妬妄想あり群のみを対象として,嫉妬妄 想の誘因となった事象,暴力行為の有無,嫉妬妄 想以外の精神症状,嫉妬妄想の経過について調査 した. 【結果】210 例中21 例(男性9 例,女性12 例)に 嫉妬妄想を認め,通院認知症患者における嫉妬妄 想の有症率は10% であった.嫉妬妄想あり群の 平均年齢は76.8 歳で,平均MMSE 得点は19.1 点であった.原因疾患はアルツハイマー型認知症 (AD)9 例,レビー小体型認知症(DLB)10 例, その他の認知症2 例であった.年齢,性別,教 育歴,多量飲酒歴,MMSE 得点,配偶者以外の 同居者の有無のいずれの項目においても,嫉妬妄 想あり群となし群の間で有意差を認めなかった. しかし原因疾患については,DLB ではAD より も有意に嫉妬妄想を伴う率が高かった(36% vs 7.6%,p<0.01).嫉妬妄想の誘因となった事象 として,重度の身体合併症が10 例,配偶者の頻 回の外出が6 例,配偶者の浮気の既往が2 例, 夫婦の年齢差が2 例,患者の役割喪失体験が2 例で認められた.嫉妬妄想以外の精神症状として は,11 例で配偶者への暴力を認め,7 例に幻視, 4 例にうつが認められた.治療介入により17 例 で1 年以内に嫉妬妄想は軽快もしくは消失した. 【考察】DLB であること,夫婦間の健康度に差が あること(重度の身体合併症,配偶者の頻回の外 出,夫婦の年齢差が大きい)が認知症患者におけ る嫉妬妄想のリスクとなることが示された.認知 症患者に伴う嫉妬妄想は,高い頻度で暴力行為に 発展する一方で,治療により比較的良好な経過が 得られることから,可能な限り早期の発見,治療 的介入が望まれる.当日は症例を提示しながら, 具体的な対応方法について考察を加えたい.
S2-3
側頭葉型Pick病の常同行動・食行動異常発生のメカニズムとその対応
小森 憲治郎 (財団新居浜病院臨床心理科)
側頭葉型Pick 病は,緩徐進行性の選択的な意 味記憶障害である意味性認知症(semantic dementia : SD)として広く知られている.SD を 通じて意味記憶障害の神経基盤が解明されつつあ る一方で,Pick 病特有の常同行動を中核とする 行動異常・精神症状(BPSD)や,進行期のADL 低下に関する実証的な報告は未だ少なく(Bozeat ら,2000 ; Ikeda ら,2002 ; Shinagawa ら,2006 ; Kashibayashi ら,2011),その発生機序に関し てはおおよそ推測の域を出ない.65 歳未満で発 症することの多いPick 病例の「わが道を行く」 (田邉,2000)BPSD は,現行の介護保険制度が 十分活用できない年齢層で生じていることもあり, 介護環境において多大な負担をもたらしている. またBPSD の発生には,対人関係など複数の要 因が関わるため,原発性の巣症状(脱落症状)と して捉えることはできない. Pick 病では系統発生学的に新しい脳領域が限 局的に萎縮することから,特定の機能系が選択的 に侵襲されるsystem degeneration という仮説 (Onari, Spatz, 1926)が有力である.田邉(2000) はMcLean(1973)の提唱した脳幹・大脳基底 核/大脳辺縁系/大脳皮質の三層構造からなる脳 の三位一体説を援用し,Pick 病にみられる常同 行動の出現を,脳幹・基底核といういわば爬虫類 の行動を司る脳に対する,前方連合野の抑制が外 れた状態と捉え,周囲を気にしない「わが道を行 く」行動は,前方連合野から旧哺乳類の脳である 大脳辺縁系への抑制が外れた症状と捉えた.また 環境への被影響性亢進は,後方連合野の機能の解 放現象と見なした.こうした仮説から,Pick 病 で保存される脳の後方連合野が関与する道具的機 能を利用し,さらに亢進した被影響性や常同行動 などの特性を活かして,新たな生活習慣を形成す るルーティン化療法を提唱した(Tanabe ら, 1999).池田ら(1995,1996)も,同様の観点か ら保たれた手続記憶を利用した作業療法や短期入 院を提唱し,Pick 病のBPSD への対策を推奨し ている(酉川ら,1999;繁信ら,2001). 今回,側頭葉型Pick 病のBPSD への対策とし て,(1)認知機能低下とともに常同行動や「我 が道を行く」行動が目立つSD 例への単語・パズ ル・数独などドリルの応用,(2)進行期にみら れる危険な食行動異常に対する食事場面への介入 について報告する. Pick 病患者の介護抵抗や暴力などのBPSD は 興奮と見なされ,しばしば薬物療法や抑制的処遇 の対象となる.しかしPick 病患者の興奮は,固 執する常同行動を阻んだ結果として生じる場合が 多い.単語ドリルやジグソーパズル,数独などの ドリル学習を習慣づけることができると,常同行 動が顕著となった段階でも課題に安心して集中で きるため,デイサービス等の新たな環境への導入 時に生じる抵抗や立ち去り行動などの制止困難な BPSD を軽減することができる.また認知症病 棟入院中に出現した異食・盗食などの食行動に関 するBPSD 出現時においても,盗食を誘発する 環境因を遠ざけ,配食手順を工夫することで,新 たな適応的食事行動の習慣化が可能となる(原ら, in submission).
S2-4
認知症における睡眠障害
橋 裕哉 (秋田大学大学院医学系研究科病態制御医学系精神科学講座)
認知症高齢者において睡眠障害は高率に認めら れ,患者本人のQOL を低下させるだけではなく 介護負担を増大させる.近年マウスを用いた研究 ではあるが,断眠によってAβの脳内濃度が上昇 すること,また概日リズムを保つために重要なメ ラトニンがAβの神経毒性から脳細胞に保護的に 働いている可能性が報告されていることは興味深 い.なぜなら睡眠障害の存在自体がAD 病理を悪 化させている可能性が考えられるからである.こ のように,睡眠障害の適切なマネジメントは重要 性を増している. 睡眠障害の原因は多岐にわたるが,特に日没現 象(sundowning syndrome)と呼ばれるような 夜間の不眠と興奮・徘徊・粗暴な言動,昼夜逆転 などは著しい介護困難をもたらし,患者の施設入 所に至る大きな要因になっている.その背景には 概日リズム障害の存在が指摘されている. AD 患者では視交叉上核の神経細胞数の著明な 減少,網膜及び視神経の変性による受光量の減少 といった器質的な変化に加え,光暴露量の低下, 社会的機能の低下などの環境要因が重なることで 生体リズムの障害が生じるものと推測される.事 実,高度認知症患者では夜間睡眠の分断化ととも に日中に頻回の睡眠がみられ睡眠・覚醒の昼夜の リズムが失われており,体温やメラトニンリズム は不規則化あるいは平坦化していることが多い. これらの所見は夜間の不眠や不穏は単に夜間の問 題として起こるのではなく,概日リズムの障害が 背景に存在する事を示唆している. 一方DLB ではAD よりも更に睡眠障害が問題 になりやすい.DLB における睡眠障害をAD と 比較すると,DLB では日中の眠気,睡眠時の下 肢運動,覚醒時の混乱,悪夢の頻度が一層に多く なり介護負担を増大させやすい.また周知のよう にDLB 患者ではREM 睡眠行動障害が高率に認 められ,転倒などの重大な事故にも至りやすい. 認知症患者の睡眠障害に対して現在行われてい る主な治療法を以下に挙げるが,残念ながら治療 法が十分確立しているとは言い難い.個々の治療 法を組み合わせるなどの工夫により日中の覚醒度 を高め休息−活動リズムの安定性を保たせていく ことが重要となる. 睡眠衛生の指導:昼間に散歩を通じて光照射を 増やしたり,長い昼寝を避け,運動や入浴を通じ 深部体温を高めるなどの指導を行う.また睡眠障 害の原因となる嗜好品に対する指導も重要である. 高照度光療法:高照度の光照射には概日リズム 同調作用があるほか,覚醒度を高める作用,日中 照射の場合には夜間のメラトニン分泌を増強する 作用がある.夜間せん妄や日没症候群を示す認知 症患者に対し有効であるとの報告がある. メラトニン:認知症患者の概日リズム障害に対 する有効性についても多くの報告がなされてきた が,全米の多施設共同のプラセボ対照二重盲検試 験の結果ではその有効性は実証されていない.し かし,高照度光療法を併用することで夜間の活動 量と昼寝の減少,昼間の活動量の増加がもたらさ れたとの報告もある. また現実的には薬物療法として鎮静作用を持つ 睡眠薬,抗不安薬,抗精神病薬が夜間処方される ことが多いが,高齢者では薬物の代謝・排泄能が 低下しており,副作用が現れやすく効果は限定的 である.常にリスクとベネフィットを考慮する必 要がある.
S2-5
軽度認知障害(MCI)の不安,うつ,アパシーについて
吉山 顕次 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
認知症患者のBPSD における,不安,うつ, アパシーについて,不安やうつは,一般的に認知 症の発症の前期に見られ,アパシーは認知症のい ろいろな時期に見られる.また,抑うつが認知症 の初発症状である例がしばしばみられる.さらに, 抑うつが認知症のリスクを増大させる可能性が指 摘されている.これらの症状が,認知症の前段階 である軽度認知障害(MCI)の時点ですでに見 られるという報告もあるが,認知症に進行してど のように変化するのかという点はあまり明らかに されていない.また,MCI と診断されても認知 症に進行しない患者も存在するが,認知症に進行 するMCI 患者とで,不安,うつ,アパシーに差 があるかどうかもあまり明らかにされていない. そのため,MCI と診断された患者の不安,うつ, アパシーがどのように変化するかを検討した. 大阪大学医学部附属病院神経科精神科外来に受 診しているMCI 患者で,認知症に進行した患者 群(converter 群)と進行しなかった患者群(nonconverter 群)における,不安,うつ,アパシー を,NPI を用いて評価し,その変化を比較検討 した. Converter 群の認知進行前後のNPI における 不安,うつの得点は有意な変化が見られなかった が,アパシーにおいて,有意に得点の上昇がみら れた.Non-converter 群の経年変化については, NPI における不安,うつ,アパシーの各得点で 有意な差は見られなかった. Converter 群とnon-converter 群において,一 年目のMCI の時点でのNPI における不安,うつ, アパシーの各得点に有意差は見られなかったが, その後の認知症進行後のconverter 群と経年変化 後のnon-converter 群において,NPI におけるア パシーの得点がconverter 群において,有意に高 かった. Converter 群内の各患者における認知症に進行 することでの変化について,NPI におけるうつ の得点が減少した人数の方が増加した人数より多 く,アパシーの得点は増加した人数の方が減少し た人数よりも多かった.また,うつの得点の変化 と不安の得点の変化,うつの得点の変化とアパシ ーの得点の変化,不安の得点の変化とアパシーの 得点の変化は,それぞれ有意に相関していた. Converter 群が認知症に進行する前とnonconverter 群では,不安,うつ,アパシーは差が 見られなかったため,今回の結果からはうつが認 知症のリスクになるとは言えないが,MCI のリ スクになる可能性はあるかもしれない.また,認 知症に進行することで不安やうつは有意に悪化せ ず,アパシーのみ有意に悪化していたが,患者に よっては,認知症になることでうつが軽減する患 者もある程度みられた.患者ごとに検討すると不 安,うつ,アパシーの悪化はそれぞれ有意に相関 しており,いずれかを治療対象とすることで,こ れらの症状は改善する可能性が示唆される.

一覧へ戻る

6月6日(木) 9:00〜11:00 老年精神第4会場 1202会議室(12F)<大阪国際会議場>
シンポジウム3 : 大震災で学んだこと;高齢者と認知症を守るには
大塚 耕太郎 (岩手医科大学医学部災害・地域精神医学講座)
田子 久夫 (磐城済世会舞子浜病院)
S3-1
ボランティア活動と連携した支援
関合 征子 (NPO法人サロンたぐきり)
 はじめに 岩手県久慈地域は,岩手県の北部沿岸に位置し, 1 市1 町2 村(久慈市,洋野町,野田村,普代村) からなり,人口約61,000 人,産業は農林漁業な ど一次産業が主な地域である.地元で働く場所は 少なく,人口の約1 割は関東やその他の地域に 出稼ぎをし,70 歳を過ぎても建築現場の作業等 で体を酷使しているのが現状である.家族が離れ て生活することで生じる問題もあり,さらには交 通の不便さや,どんどん進む高齢化のなかで,受 診も思うようにならない老老介護をする人も少な くなく,このような中で,妻が自死をしてしまい, 残された夫はうつ症状で入院となる事例が私の周 りで続いた.私たちにできることは何かを考え, 「高齢者に寄り添ってお話を聴くこと」のみと, ボランティア活動をはじめた.  事業の流れ 1 .平成15 年5 月,社会福祉協議会主催の「一 人暮らし高齢者」を対象とした「ほのぼの給食会」 (サロン活動)での健康相談,傾聴活動を一人活 動を始める. 2 .平成17 年,久慈保健所主催の傾聴ボランテ ィア養成講座が開催され,スタッフとして従事す る. 3 .平成18 年6 月,傾聴ボランティア養成講座 修了生とボランティア活動経験のある有志によっ てボランティアルームサロン「たぐきり」を開所 し,サロン活動を始める. 「こころの健康」と「語らい」を大事にし,一 人暮らし,家族と同居,三世代同居,年代,地域 にかかわらず誰でも利用できる「語りの場」とし て開所した. 4 .平成23 年3 月11 日の東日本大震災津波後, 野田村と久慈保健所,岩手県立久慈病院,岩手医 科大学こころのケアチームが連携して開所した 「野田村こころの健康相談センター」にて傾聴活 動に従事する.待ち時間に何気ない会話,お茶の 提供,セラピュウテックケアなどで癒しの空間づ くりを行ってきた. 5 .平成23 年6 月,野田村仮設住宅の集会所で の「サロンたんぽぽ」へ技術支援を行う.野田村 のたんぽぽ研修会を終了した地域のボランティア と一緒にサロン運営へ参加し,今まで培ってきた サロンのノウハウをもとに支援を行った. 6 .平成23 年8 月,ボランティアルームサロン 「たぐきり」が特定非営利活動法人の認定を受け, 『NPO 法人サロンたぐきり』となり,再出発をす る.サロンへの参加の他,個別相談も行い,いつ でも自由に利用できるサロン活動を行っている. 7 .他地域でのサロン活動の支援や研修会等も行 っている.  東日本大震災津波後に関わる活動 1 .ボランティアが徒歩あるいは自転車で行ける 久慈市内の避難所での傾聴活動を行う. 2 .岩手医科大学こころのケアチームの指導のも と,野田村の仮設集会所におけるサロン活動の体 制の整備と,「サロンたんぽぽ」の活動の支援を 行う. 3 .久慈市の地域被災者サロン11 会場に運営支 援を行う.うち1 会場は他の市町村より久慈市 へ避難をしている方を対象としたサロンであり, 避難している被災者への活動も行っている. 4 .地域被災者サロンやデイサービスを利用しな がらサロンたぐきりを利用されたり,個別対応相 談に足を運ばれる被災者の利用もある.  まとめ 民間ボランティアの立場でこれまでの活動の継 続するためにはスーパーバイザーの存在も重要で ある.久慈モデルの原型とされる久慈地域メンタ ルサポートネットワーク連絡会の構成員として, 寄り添った丁寧な傾聴を行い,相談を受けた時に それぞれの関係機関に繋いでいける連携のシステ ム,そしてボランティアのフォローアップ研修が 続けられている.介護保険の認定外の方や施設利 用まで踏み切れないでいる人がいるとき,サロン を利用しながら介護予防,認知症予防,転倒予防 の活動内容を取り入れ,いつでも誰でも利用でき る,地域に開放されたサロンを目指したい.
S3-2
長引く仮設住宅での高齢者の生活の現状
佐藤 宗一郎 (有恒会こだまホスピタル)
東日本大震災により宮城県沿岸部は,震度6 強の激しい揺れと大津波により甚大な被害を受け た.太平洋に面した宮城県第2 の都市である石 巻市は,当時の人口162,822 人に対し死者行方 不明者3,943 人,全家屋数128,000 戸のうち, 44,000 戸が全壊,34,000 戸が床上・床下浸水と いう被害を受けた.現在でも6,946 世帯,16,305 人が仮設住宅での生活を余儀なくされている.当 地域は高齢化率が26.8% であり,宮城県の高齢 化率22.5% からみても特に高齢化が進んでいる. 単身あるいは夫婦単位で生活を送る高齢者の割合 も多く,以前より地域の高齢化と過疎化が問題と なっている.震災からの復興が進む中で,長引く 仮設住宅での高齢者の生活について報告する.  居住環境 当地域の仮設住宅は間取り1 K〜3 K,占有面 積は約20〜40 m2 である.震災前では庭付き, 駐車場付き,田畑付きの一戸建ての住宅で,生活 を営んでいた方が大半であった.近隣家屋との間 には数m〜数10 m の距離があり,地域内での絆 を保ちながらも,その心理的距離は適切にとられ ていた.仮設住宅での生活はその状況を一変させ ている.これまで無縁であった隣家の生活音に基 づく問題が頻発している.当地域の高齢者は,寒 さや不便さなどには耐えられるが,対人関係の葛 藤に対し脆いという特徴がある.もともと相互援 助機能(絆)が残る同地域内で,他者との和を求 める力が非常に強く働くことは,当然なのかもし れない.仮設住宅での生活に出口が見えない現在, 高齢者の“和に対するとらわれ”は,思いのほか 大きい.  家庭環境 仮設住宅での生活は家庭環境も一変させている. 高齢者が,突然,子ども夫婦,孫との同居をせま られるケースがある.一見,望ましいようにみら れる高齢者のみの生活から大人数の生活への家族 形態の変化も,家族間の葛藤を生じさせる.ここ でも距離が近すぎるが故の遠慮や,役割や仕事を 家族に奪われるといった形での喪失体験が出現し ている.また家庭内での介護度が高い方には多く のサポートが入るが,低い方にはなかなかサポー トが入りにくいという現状もある.仮設住宅での 生活が長期化するにつれ介護度の急速な増加や, 精神的問題の出現が認められる.  社会環境 被害範囲が広大である今回の震災では,仮設住 宅を設置する場所にも制限があり,その規模,交 通の利便性,商業施設へのアクセス,訪れる支援 者の数と頻度などに様々な格差が生じている.そ のため,活気あふれる所とそうではない所が混在 している.当然,後者の方に問題が多い.また, 場所により被害を間逃れた住宅地の目前に仮設住 宅があり,震災前の住宅に住む方と仮設住宅に住 む方の双方に心理的負担がのしかかる. もともと当地域の高齢者の大半は漁業・水産加 工業・農業等に従事し,生産者で在り続けた.地 域の冠婚葬祭も高齢者の協力と指導の下に行われ, 発信者・指導者の役割も担っていた.そのため, 消費サービスの受け手としての役割しか担えず, 自己評価の低下を来している方も多い.長引く仮 設住宅での生活の中,継続的な援助を行いながら, どのようにして生活の主体性を維持して頂くのか が,今後の支援の課題であると考える.
S3-3
東日本大震災の,耐え難い喪失の痛みと高齢者
堀 有伸 (福島県立医科大学災害医療支援講座,雲雀ヶ丘病院)
福島県南相馬市は,太平洋に面した浜通り地方 で,平成18 年に旧小高町・原町市・鹿島町が合 併して成立した.福島第一原子力発電所以北にあ り,20 km 圏内が小高町,20〜30 km 圏が原町 市,30 km 圏外が鹿島町にほぼ一致していた. 平成23 年3 月12 日に20 km 圏内の住民には 避難指示,3 月15 日には20〜30 km 圏の住民に 屋内退避の指示が行われた.この時期に,多くの 市職員や医療・介護施設のスタッフも同時に自身 が被災者であった.交通手段も確保されておらず, 自衛隊や警察の協力によってトラックやヘリコプ ターによる移動が行われた.県内外の病院や施 設・避難所等への避難を行ったものの,受け入れ 体制が整っていなかったために,さらに別の医療 機関への移動が必要となるケースも数多くあった. 4 月22 日から9 月30 日まで20〜30 km 圏は緊 急時避難準備区域に指定され,非常時に自力で避 難を行うことができない病人や高齢者は原則とし てその地域に残れないこととなった. 平成24 年9 月末までに震災関連死と認定され たのは2303 人であるが,その中で市町村別では 南相馬市が336 人で最多である.この中には, 寝たきり状態で本来は安静が必要である高齢者が, 長時間の移動が必要となったために死期を早めた 事例も多数含まれている. その後,仮設住宅等の建設が進み,避難を余儀 なくされた市民が地元や地元近隣に戻る動きが見 られるようになった.震災時の南相馬市の人口が 約71500 人であったのが,一時は1 万人以下に 減少し,平成25 年3 月の居住者数は5 万人弱と されている.しかし,子どもを持つ若い世代で県 内外への避難を継続している割合が高く,地域の 高齢者率は上昇した. 高齢者は,農作業などの習慣や長年の人間関係 によって生活全般が土地と結びつき,強い愛着を 形作っていることが少なくない.そのような高齢 者が仮設住宅等への入居を行った場合に,意欲を 失って自宅に引きこもる例も認められる.その場 合には,運動能力の低下や高血圧等の慢性疾患の 悪化が生じてしまっている.自治体や民間団体が 支援のための訪問活動やサロン等の運営を行って 成果を上げているが,やはり男性を中心にそのよ うな活動が届かない住民層も存在し,孤立化の傾 向が懸念されている.震災前には1 世帯に5〜6 人の家族がいることが普通だったのが,高齢者夫 婦あるいは単身での生活に変化した場合もある. 地域の交通網が整備されているとは言い難く,自 動車を利用できない高齢者では買い物や通院にも 多大な困難が生じてしまっている. 認知症を悪化させる事例も増加して,市内の高 齢者向けの施設には数多くの待機者がいるが,職 員が確保できないために受けいれ数を増やすこと ができていない.市内の高齢者を支える世代も減 少し,残っている人々も疲弊している. 地域で再開している唯一の精神科病院である雲 雀ヶ丘病院では,認知症のBPSD に対する入院 の受け入れが増加している.高齢者が自らの体験 を雄弁に語ることはないが,失われた自宅に制止 されても向かおうとして警察介入にいたるなど, 痛ましい印象を与える行動化が認められることが ある. *南相馬市のHP 等から適宜引用を行った.
S3-4
避難のストレスと定住の効果
田子 久夫 (磐城済世会舞子浜病院)
福島県における今回の大震災は,かつて経験し たことのない強さと規模であり,地震直後は茫然 としながらも後片付けに追われていた.しかし, 沿岸部ではまもなく大きな津波が押し寄せ,低地 にあった住宅は居住者もろとも流されてしまい, かろうじて逃れることのできたものが,着の身着 のままで避難所に身を寄せることとなる.不安と 恐怖と寒さに耐えている最中に,地震の翌日,原 子力発電所(以後原発)が爆発事故を起こしたの である.混乱を防ぐためか,避難誘導などの報道 は限定的かつ遅れがちになり,避難指示も20 キ ロ圏のみであり,これ以外の人々は漠然とした放 射能への不安を抱いたままでいたのである.しか し,次々と原発が事故を起こしたことで,充分な 情報や指示もないまま,一部で自主的な避難が始 まった. 避難をするにしても,安全な場所が不明である ため,方法も行き場所も定まらないことから,と りあえず,頼れる施設や人をめざして移動するこ とになる.その結果,自家用車などの移動手段や 行き先がある者は県外などの遠方に移動し,残り の多くは県内内陸部である中通りや会津地区の避 難所に移動している. 避難所で過ごす場合は床の上に寝るため,高齢 者は低温にさらされる.トイレが不便,食事が体 に合わないなどの問題も多い.避難所での共同生 活になじめず,親戚や知人を頼ることになりがち である.しかし,子供や孫でさえ気苦労が多く, なじみの薄い場合はさらに強くなり心理的ストレ スは大きい.このため1 週間から10 日程度の短 期間で,再び移動することになり,これを繰り返 す人も多い. 移動での疲労とストレスで体調を崩す高齢者も おり,認知症の場合は行動心理症状が出現しやす くなる.結局,避難指示区域でない場合は,大部 分が自宅やその近辺の居住地に戻ってきている. 原発事故の避難指示区域からの避難の場合は,仮 設住宅ができるまで賃貸アパートや借り上げ住宅 を探して居住している.自宅に戻ったり,借家や アパートにおさまることで,ある程度落ち着くこ とができたのである. 高齢者の避難生活は心理的にも肉体的にも過酷 であり,長期の滞在は困難である.住宅での他人 との同居は10 日程度で限界に近づく.忍耐を強 いられる場面が重なり,持病を悪化させたりして いる.多くは1 ヶ月以内になんらかの形で定住 に至っており,これ以上の場合はさまざまなリス クが予想される.避難所を準備する場合は,高齢 者の存在を充分に考慮する必要がある.1 ヶ月以 上の長期にわたる場合は,プライバシーの保全な ど共同生活を進める上での新たな工夫が必要とな るだろう.

一覧へ戻る

6月6日(木) 13:15〜16:45 老年精神第4会場 1202会議室(12F)<大阪国際会議場>
シンポジウム4 : わが国における認知症施策
今井 幸充 (医療法人社団翠会和光病院)
前田 潔 (神戸学院大学総合リハビリテーション学部)
S4-1
認知症施策推進5か年計画;多職種協働チームと人材育成の重要性
鷲見 幸彦 (国立長寿医療研究センター脳機能診療部)
平成24 年9 月に厚生労働省から出された,認 知症施策推進5 か年計画(オレンジプラン)は, 今後の認知症の医療,介護の目指す指標として, 重要であり注目されている.このなかで2.早 期診断・早期対応,3.地域での生活を支える医 療サービスの構築,6.若年性認知症施策の強化, 7.医療・介護サービスを担う人材の育成が医療 と直接関連している項目である.繰り返し強調さ れている点は,増大する認知症の人を支えるため の,医療―介護の連携と,それを構成するメンバ ーの能力向上である.本シンポジウムでは,オレ ンジプランの概要を示すとともに,今回新たに登 場した多職種協働チームのモデルである,認知症 初期集中支援チームと医師に対する認知症研修に 関する試み(サポート医研修,一般病院勤務の医 療従事者に対する認知症対応力向上研修)をとり あげ概説する. 認知症初期集中支援チームとは認知症の人や家 族に関わり,アセスメント,家族支援などの初期 支援を包括的,集中的に行い,自立生活のサポー トを行う複数の専門職から編成されるチームをい う.認知症初期集中支援チームの初期という言葉 の意味は,認知症の発症後のステージとしての 初期認知症の人へ関わりの初期(ファースト タッチ)の2 つの意味を有してしている.チー ムが活動してしばらくはの事例が多く,地域に 定着してくるとの事例が増えてくるものと考え られる.平成25 年度には全国10 か所でモデル 事業を実施する予定である. 医師に対する認知症研修はかかりつけ医認知症 対応力向上研修と認知症サポート医養成研修とし て平成17 年から進められてきた.研修をうける ことによって,診療所の認知症に対する機能が明 らかに向上することが示されており,さらに発展 拡大させる必要がある.医師の中で認知症を学習 する機会に乏しいのが,直接認知症に係わらない 診療科の病院勤務医である.昨年度から始めてい る病院勤務医に対する研修を紹介する.認知症の 人を支えるための多職種連携の重要性はこれまで もさまざまな場面で強調されているが,実際には, 医師はケアの実際には関心が薄く,ケアスタッフ には医学的な背景がないため,ともに学ぶことを 困難にしてきた.認知症の人を支えるための多職 種チームの重要性とそこではたす医師の役割の重 要性を強調したい.
S4-2
世界各国における認知症対策から学ぶこと
松下 正明 (東京都健康長寿医療センター)
現在,世界各国,とりわけ欧米先進諸国では, 社会の高齢化現象が進行し,それに伴った認知症 者の激増に対応した認知症対策が医療における最 大の課題となり,認知症施策に関する国家ビジョ ンが示され,認知症医療改革が急速に進められて いる状況にある.しかし,日本は男女とも,平均 寿命においては世界でも5 指に入り,高齢社会 としては一,二を争うほどになっているにもかか わらず,認知症施策に関していえば,欧米先進諸 国と比べてかなり遅れをとっているように思われ る. 周知のように,日本では,厚労省は,2012 年 6 月に,「今後の認知症施策の方向性について」と いう認知症施策の基本的な姿勢が報告され,それ に基づいて,同年9 月に,平成25 年度からの施 策として,「認知症施策推進5 か年計画(オレン ジプラン)」が提出された. ときを同じくして,平成25 年度より,精神疾 患が5 疾病5 事業のひとつとなることが決定さ れ,25 年度の精神疾患対策の医療計画のなかに 認知症対策,つまりオレンジプランが具体化され ることになった.各自治体で,このオレンジプラ ンがどのように取り上げられていくのかは,まだ 不分明であるが,そのような流れのなかで,欧米 先進諸国における認知症対策・施策を学ぶことは きわめて時宜をえたことだと思われる.各国にお ける社会・歴史的背景,一般医療や精神科医療に おける特異性等があって,それら各国の施策をそ のまま日本に導入すればよいというものではない が,それらの施策のあり方や問題点を学ぶことは 日本における認知症対策を考えるうえで,きわめ て大事なことである. 本シンポジウムで紹介する各国とは,英国,フ ランス,オランダ,デンマーク,オーストラリア である.紹介のなかでの中核となるのは,英国で は,認知症国家戦略(2009 年)で,そこにおけ る理念,9 つのアウトカム,5 つの重点課題,メ モリークリニック,フランスでは国家計画(プラ ン・アルツハイマー,2008−2012)における3 つの主要目標と11 の目的,44 の対策である.ま た,オランダでは,全国認知症プログラム(2005 −2008),認知症統合ケアプログラム(2008− 2011),全国認知症ケア基準(2011−2013)の実 情と成果について紹介する. なお,欧米先進諸国では,認知症者の精神科に おける治療や抗精神病薬の使用に対する抵抗が根 強く,現在では,精神科における治療等は否定さ れているが,その実情について,デンマークとオ ーストラリアを中心として,述べてみたい. なお,平成25 年1 月29 日,東京都医学総合 研究所主催,厚生労働省・東京都などの後援で, 「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」 が開催された.私は,その準備段階で,また当日 の座長として,このシンポジウムに関わったとい うこともあり,本シンポジウムでの講演の多くは 当日の議論に負うとことが大きい.
S4-3
認知症専門病院の実践,そして今後
今井 幸充 (医療法人社団翠会和光病院)
和光病院は,2002 年に開設されたわが国でも 数少ない認知症専門病院である.2012 年の我が 国の認知症者総数が320 万人ともいわれ,本院 の認知症医療における役割はまずます重要になる と同時に専門病院としての地域の期待も大きい. 本シンポジウムでは,和光病院の実践を紹介し, その課題と将来への事業展開のあり方について述 べる. 下記に2013 年度から3 年間の和光病院事業目 標を示す.この事業目標は,これからの中期事業 計画を作成するための指針となるもので,この目 標を達成するための当院の実践を紹介する. 【和光病院事業目標】 .先駆的な認知症医療,ケア,社会福祉サービ スに関連する情報の修得に努力し,最新の医療な らびにケアを提供する .「ケアも治療」をモットーに良質な医療と認 知症患者の尊厳を支えるケアを提供する.同時に 入院患者が病棟で心地よい生活ができるような居 住空間を提供する .在宅生活に困難が生じた認知症患者のスムー ズな入院受け入れと,入院加療の中で生活能力の 改善,在宅復帰を可能にする環境調整,家族介護 支援に重点を置いた医療とケアを提供する .地域認知症患者の早期発見とその進行を遅延 させる外来治療の強化を図る.また,家族の介護 相談や介護支援専門員との連携を強化することで 認知症患者の早期発見に努める .和光市をはじめ周辺4 市の行政,医師会な らびに介護福祉サービス関連の社会資源と連携を 図り,認知症患者が住み慣れた地域で安心して生 活が継続できる医療を提供する.そして地域の保 健・福祉サービスに貢献する. .認知症に関する研究活動,情報収集,スタッ フ教育を強化する. .コンプライアンスを重視した病院経営はもと より,社会貢献を至上にした経営を行う.翠会ヘ ルスグループの一員として,認知症医療の中心的 役割を果たす.
S4-4
東京都における認知症対策について
繁田 雅弘 (首都大学東京)
東京都は平成18 年に,認知症についての正し い理解の促進と当事者を地域で支える機運づくり に向けて『認知症高齢者を地域で支える東京会議』 を開催し,従来行ってきた支援を組織的・体系的 に行うことを宣言した.そして中長期的な認知症 対策の進行管理と多面的な検証のために平成19 年より『東京都認知症対策推進会議』を立ち上げ た.この会議のもとに様々の部会が時限的に設置 され特定の課題に取り組んできた.例えば,地域 資源の活用による面的な仕組みづくりの具体化の ための『仕組み部会』(平成19〜21 年度),若年 認知症に特有の課題に配慮した支援策の検討のた めの『若年認知症部会』(平成20〜21 年度)など である.今回は医療支援に関する4 つの部会の 活動を紹介する. 『医療支援部会』(平成19〜20 年度)では,認 知症症状と身体疾患の双方に応じた切れ目のない 医療支援体制の構築を目標に,認知症の各進行段 階に応じた医療の課題についての検討がなされた. MCI や軽度認知症について,迅速な診断の必要 性が認識されていないこと,相談先・受診先が不 案内であることなど,中等度について,身体合併 症の治療に対して一般病院が消極的なこと,激し い周辺症状の症例では入院の受け入れが難しいこ と,高度については,本人が望むにも関わらず暮 らしの場での療養や看とりが実現できていないこ とについて整理し,医療に求められる役割につい て検討した. 『認知症疾患医療センターあり方検討部会』(平 成22 年度)では,東京都における認知症疾患医 療センターの機能と役割を検討した.『老人性痴 呆疾患センター』を存在意義と機能を必ずしも認 めていなかった(と演者は推測している)東京都 が,あらためて認知症疾患医療センターを開始す るにあたっては十分な議論を必要とした.指定す る医療機関には,国が示す機能を果たすことが求 められるが,そのためにはセンター内の各診療科 が十分な協力体制にあること,あるいは近隣の病 院との連携があること,その体制は院長や理事長 といったトップによるリーダーシップに支えられ ていること,地域のかかりつけ医との連携・信頼 が一定のレベルにあること,などが機能を発揮す るために重要であることも議論された. 『認知症ケアパス部会』(平成23 年度)では, 当初,情報共有のための標準的なツールを示すべ きとする意見もあったが,すでに医療・保健・福 祉の連携のもとツールを開発して普及に努めてい る地域もあることから,この会議では情報共有の 考え方の整理を行った.すなわち,医療機関同士 が使っている診療情報提供書のイメージに近い, いわゆる“お手紙方式”の情報共有の仕方と,患 者や家族が所持する健康手帳のイメージに近く, 検査結果や紹介状などを追加していく,いわゆる “ファイル方式”の情報共有の仕方があり,各地 域での既存の取り組みを発展させながら最終的に は両者の併用を目指すことが望ましいとの議論が なされた. 『認知症医療部会』(平成24 年度)においては, 昨年の6 月に国によって示された今後の認知症 施策の方向性に盛り込まれている,身近型認知症 疾患医療センターや初期集中支援チームをにらみ ながら,東京都にあった認知症医療のあり方につ いての議論が開始された.
S4-5
認知症疾患医療センターの活動状況調査
粟田 主一 (東京都健康長寿医療センター研究所)
1989 年に創設された老人性認知症疾患センタ ー事業は,2005 年度に実施された「老人性認知 症疾患センター活動状況調査」において全体的な 機能水準が低いことが強調され,2006 年度をも って国庫補助金による委託料が廃止になった.し かし,一般医療機関における認知症医療の現状, 地域包括支援センターの意識調査の結果等から, 認知症に係る専門的な医療相談,鑑別診断と初期 対応,身体合併症やBPSD への対応,地域連携 等の機能を担う医療資源の必要性が改めて問われ ることとなり,2008 年度に「認知症疾患医療セン ター運営事業」が新たに創設された.また,2012 年度に公表された「今後の認知症施策の方向性に ついて」では,認知症疾患医療センターが「早期 診断・早期対応」のための具体的な施策の一つに 掲げられ,「認知症施策推進5 カ年計画」では, 2017 年度までに認知症の早期診断等を担う医療 機関を全国に約500 か所設置することが目標と された. このような動きの中で,2012 年度の厚生労働 科学研究において「認知症疾患医療センター活動 状況調査」が行われた.対象は,2012 年8 月7 日現在で認知症疾患医療センターに指定されてい る医療機関172 施設(基幹型8,地域型164),方 法は郵送法による質問紙調査,期間は2012 年10 月1 日〜2012 年12 月31 日である.調査期間中 に118 施設より回答が得られ(回収率68.6%), このうち2012 年3 月31 日までに認知症疾患医 療センターの指定を受けている117 施設を解析 対象とした.その結果,43% が一般病院,57% が精神科病院,87% が精神病床を保有,45% が身体合併症に対応できる一般病床を保有, 92% は精神科,77% は内科,50% は神経内科を 標榜,97% が医療相談室を設置,82% が常 勤専従の精神保健福祉士,17% が常勤専従の臨 床心理技術者を配置,総相談件数は年平均1035 件,認知症関連疾患の鑑別診断数は年平均266, このうち他医療機関からの紹介数は年平均160, 逆紹介数は年平均91, 入院後60 日以内に退院 する認知症患者の割合は45%(一般病院71%, 精神科病院31%), 31% は一般救急医療機関 の指定を受けており,33% は夜間・休日の空床 確保を行い, 44% は医療相談室のチームで身 体合併症のために救急受診する認知症患者を支援, 44% は一般病床に入院する認知症患者を支援, 9% は精神科リエゾンチーム加算を算定(一般病 院20%,精神科病院0%), 90% は地域連携協 議会を開催, 92% が地域包括支援センター等 とケース会議を開催,24% は医療相談室のス タッフが自宅訪問を行うことがあり,73% が かかりつけ医を対象とする研修会,67% が地域 包括支援センター職員を対象とする研修会を実施 している. 2005 年当時の老人性認知症疾患センターと比 較すると,2012 年の認知症疾患医療センターの 全体的な機能水準は明らかに高い.しかし,施設 間格差は大きく,偏在しており,精神科病院の入 院期間は長期化する傾向がある.認知症疾患の診 断,BPSD の治療,地域連携の拠点となる医療 資源の適正配置とともに,認知症の人の生活を支 えることができる地域包括ケアシステムの構築を 地域の認知症戦略として推進していく必要がある.
S4-6
認知症患者への訪問診療・訪問看護の経験から
北村 立 (石川県立高松病院精神科)
超高齢社会を迎えたわが国では認知症対策は喫 緊の課題であり,認知症の早期発見の重要性が叫 ばれている.確かに画像診断法などの目覚しい進 歩により,いまやアルツハイマー型認知症は発症 前からの診断さえ可能となった.しかしほとんど の認知症性疾患には根本的な治療薬や絶対的な予 防方法・リハビリ方法がなく,実臨床においては 認知症という疾患の早期発見にどれだけの意味が あるか疑問である.むしろ認知症の介護を困難な ものにしている最大の原因はBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の 存在であるから,BPSD の予防や早期対応のた めのシステム構築を図るべきである.BPSD は 環境への不適応から生じるといわれており,早期 から適切な対応をとれば,BPSD は軽症に留ま る可能性がある.この視点から考えると,認知症 に対しては,薬物治療と同等かそれ以上に,本人 や家族に対する疾病教育や生活支援などの非薬物 療法が肝心である.また,専門スタッフが居らず, 認知症の診療経験も少ない,かかりつけ医だけで 認知症をみていくことは難しく,専門医療機関と の連携が必須なことも理解できる.そしてこの場 合の専門医療機関は,単に診断ができるだけでは 不十分であることは言うまでもない. 演者の勤務する石川県立高松病院(当院)は400 床の単科精神科病院であり,石川県認知症疾患医 療センターを併設している.我々は認知症医療に おける精神科医療の果たすべき役割をBPSD に 対する救急・急性期治療と考え,臨床を積み重ね てきた.緊急時にいつでも受入れ可能な空床を確 保するため,入院期間の短縮に努めてきたところ, 認知症の年間新規入院患者200 人程度のうち, 半数以上が2 ヶ月余りで退院し,退院者の半数 は自宅へ退院することが可能となった.入院後の 薬物治療やリハビリテーションにおける工夫もあ るが,外来診療の場で,患者や家族,ケアマネジ ャら介護関係者と信頼関係を築いてきた結果だと 考える. 認知症は本人及び家族の生活全般に支障を来た す疾患である.だから認知症に対しては生物学的 な評価だけでは不十分であり,本人の家庭環境や 生き様を含む生活面全体の評価を早くから行い, 生活障害の視点から認知症をマネジメントしてい くことがBPSD の予防につながる.また認知症 医療の一つの目標として「家族に後悔を残さない」 ことがある.認知症を発症してもできるだけ長く 在宅生活を続けてもらうためには,本人・家族を 知ること,本人の意見を尊重すること,介護する 家族を労うことなどが必要で,それには作業療法 士や精神保健福祉士を含む多職種チームでの訪問 看護や訪問診療が重要な手法となる.当日は,当 院での乏しい経験から,認知症患者に対する訪問 診療や訪問看護の有用性を論じてみたい.訪問診 療や訪問看護がこれからの認知症施策を考える上 でのキーワードの一つであることを確信している.

一覧へ戻る

6月6日(木) 13:30〜16:30 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
パネルディスカッション(日本老年医学会合同プログラム) : 高齢者医療とうつ
武田 雅俊 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
鳥羽 研二 (国立長寿医療研究センター)
PN-1
高齢者医療とうつ;ナショナルセンターの共同プロジェクト
伊藤 弘人 (国立精神・神経医療研究センター)
高齢者は慢性疾患に罹患する割合が高く,うつ も例外ではない.慢性疾患とうつが併発すると予 後が悪化するため注意が必要である.一方,うつ 対策により生活の質や服薬アドヒアランスの改善 が期待できる.このような背景から,発表者の所 属センターを含む6 つの国立高度専門医療研究 センターでは,身体疾患患者のメンタルケアモデ ル開発に関するナショナルプロジェクトを開始し た.医療計画上に位置づけられている,がん,急 性心筋梗塞・脳卒中,糖尿病,認知症を有する患 者の「うつ」を切り口に,研修・認定・臨床研究 基盤整備を進めている(小児は炎症性腸疾患とう つ).国立長寿医療研究センターでは「認知症と うつ」に関する研修を開始するとともに,認知症 サポートチームに精神科医が関与するモデルを開 発している.アメリカ医学研究所の報告書(2012 年)の趣旨とも合致する本プロジェクトは,高齢 者医療におけるうつ対策の新たな可能性を示して いる.
PN-2
糖尿病とうつ
峯山 智佳 (国立国際医療研究センター国府台病院内科糖尿病・内分泌外来)
わが国の糖尿病を含む耐糖能異常の有病率は 40 歳を過ぎる頃から急速に増加し,60〜70 代に おいては約40% にのぼるとされる.近年,糖尿 病患者ではうつ病有病率が糖尿病のない集団と比 較して約2 倍高くなることが報告されており, うつ病併存糖尿病患者ではインスリン作用の低下 や,糖尿病療養行動へのアドヒアランス低下のた めに良好な血糖管理の維持が困難な場合が多いこ と,糖尿病合併症が進展しやすく心血管疾患死や 総死亡のリスクが上昇したり,認知症の発症リス クも上昇すること,医療費が増加することなどの 問題が指摘されている.糖尿病治療の目標である 「健康な人と変わらない日常生活の質の維持,寿 命の確保」の達成を困難にするうつ病併存症例に 対し,今後必要とされる取り組みを考えるための 問題提起として,本セッションではうつ病併存糖 尿病に関する近年の知見を紹介したのち,糖尿病 診療現場が抱える問題点をお示ししたい.
PN-3
心不全患者におけるうつを考える
横山 広行 (国立循環器病研究センター心臓血管内科)
身体疾患を有すると高率に精神疾患を合併し, 循環器疾患とうつ病に関するエビデンスが1990 年代から報告されている.冠動脈疾患者における 大うつ病の有病率は15〜23%,心筋梗塞後や冠 動脈バイパス術後にうつ病を発症すると生存率が 不良になること,うっ血性心不全や不安定狭心症 とうつ病を併発合併すると予後は不良になること, うつ合併併存患者において身体疾患の予後が悪い ことがメタ・アナリシスにおいても示され,抗う つ薬により脳卒中の予後改善効果があることが報 告されている.しかし,身体疾患に精神疾患を合 併した患者に関する国内での研究は十分ではない. 循環器専門医の関心が低いことが一因として考え られる.うつ病と循環器救急疾患の関係を検討し たわが国のデータはきわめて少ないため,我々は 多施設共同発症登録調査において集積されたデー タセットを用いて,循環器救急疾患とうつ病治療 の関係を,退院時情報の抗うつ薬投与率により検 討した.
PN-4
パーキンソン病とうつ
村田 美穂 (国立精神・神経医療研究センター病院神経内科)
パーキンソン病(PD)ではしばしばうつが合 併し,その重症度はQOL の低下と良く相関する. 運動症状発症に先行するうつ,疾患の受容に伴う 反応性のうつ,進行期の薬効不安定(wearing-off) に伴いoff に対する予期不安を中心としたうつ, などPD の様々な時期にうつが合併しうることが 知られている.真性のうつに比較すると,重症な ものは少なく,自己避難,罪悪感,挫折感,自殺 念慮が少ないとされている.PD においてうつは, うつ自体が問題であると同時にうつにより見かけ 上パーキンソニズムの悪化が起こりやすく,リハ ビリテーションなどへの意欲も低下しやすいので, PD 治療上の大きな妨げになっている.治療とし ては,最近長時間作用薬を中心としたドパミン系 薬剤でのPD に伴ううつの改善効果も報告されて おり,ドパミン系薬剤,抗うつ薬,抗不安薬など のほか,認知行動療法の効果も期待できる.
PN-5
COPDとうつ
千田 一嘉 (国立長寿医療研究センター)
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease ; 慢性閉塞性肺疾患)はタバコ煙等の長 期吸入曝露による炎症性疾患で,2001 年に70 歳以上日本人の有病率は17.4% と報告されたが, 未診断例も多く,注意が必要である.労作時呼吸 困難や慢性の咳・痰をきたすのみでなく,慢性全 身性炎症による併存症が問題となる.COPD 患 者のうつの病態には身体活動性障害による社会的 孤立や炎症の波及等,複数の要因の相互作用が列 挙され,頻度は約20−40% 程度と報告により差 がある.うつをきたしたCOPD 患者は急性増悪 が多く,医療機関利用度が高く,健康関連(Hr) QOL が不良で,死亡率が高いとする報告もある. 多職種協働の呼吸リハビリテーションが,運動能 力を改善し,うつ症状を軽減し,医療機関利用度 を減じ,HrQOL を向上させた報告がある.治療 可能なうつ症状とCOPD 自体の症状との鑑別は 容易ではない.積極的に高齢COPD 患者のうつ を診断し,多職種協働による包括的なチーム・ケ アでセルフ・マネージメントを可能にする体制の 構築が必要である.
PN-6
認知症とうつ
服部 英幸 (国立長寿医療研究センター)
高齢者の精神疾患として高頻度に認められるも のが,認知症とうつである.この2 疾患の関係 は複雑であり,さまざまな観点から論じられてき た.今回のパネルディスカッションにおいては, 最近注目されている「虚弱高齢者の精神症状」と しての認知機能低下とうつ状態その他といった, やや違った観点から話をすすめたい.虚弱高齢者 はサルコぺニアや老年症候群などの概念とともに, 内科ないし栄養学的な立場から論じられることが 多いが,精神症状を伴なっていることが多い.こ れは心身相関が高齢者においては他の年代よりも より明確に発現しやすいことと関係があるだろう. 精神症状を有する虚弱高齢者は臨床場面において 頻繁に遭遇するようになっているにもかかわらず, 精神症状に関しての研究は発展段階である.意欲 低下をきたす例がおおいことから「うつ病」であ ると診断されて漫然と薬物治療を継続されている 例は多い.しかしながら虚弱高齢者で認められる 精神症状は単純でない.先行研究と自験例からそ の特徴について論ずる.

一覧へ戻る

6月5日(水) 9:00〜11:45 老年精神第4会場 1202会議室(12F)<大阪国際会議場>
アジア若手シンポジウム
田中 稔久 (大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
本間 昭 (認知症介護研究・研修東京センター)
AS-1
Relationships between symptoms of Hwa-byung and distress in late middle-age and elderly Korean women patients at a cancer center of one university.
Hee-Yeon Choi ( Department of Psychiatry, School of Medicine, Ewha Womans University )
Purpose : In Korea, the survival rates of cancer patients as well as the annual incidences of cancer are increasing rapidly. Therefore, considering the quality of life of cancer patients has become more important. However, the mental wellbeing of cancer patients has not received enough attention as compared to the physical treatment of cancer, even though psychological symptoms are adding the suffering of the cancer patients. Hwa-byung is the unique Korean culturerelated anger syndrome and compromises various psychological and somatic symptoms. In this study, we examined relationships of three categories of Hwa-byung symptoms and distress in late middle-aged and elderly women patients who are under treatment at a cancer center. Methods : The subjects of this study were 100 women outpatients who visited the Ewha Womans University Cancer Center in Korea. Most were diagnosed breast cancer and cervical cancer. Participants completed selfreport questionnaires on sociodemographic characteristics , clinical status , financial burden , familial support , Hwa-byung symptoms, distress and the problem list. The symptoms of Hwa-byung were assessed using the Hwa-byung scale , consisting of three categories : six Hwa-byung specific symptoms (subjective anger, feeling of unfairness, expressed anger, heat sensation, hostility, “Haan”) ; eight Hwa-byung related somatic or behavioral symptoms (pushing-up in the chest, epigastric mass, respiratory stuffiness, palpitation, dry mouth, sighing, many thoughts, much pleading) ; and seven other Hwa-byung related symptoms (sad mood /tearing, anxiety/agitation, guilt feeling, sleep disturbance, headache/bodily pain, anorexia, easily frightening). Distress was assessed using the distress thermometer and life problems were assessed using problem list. The problem list consisted of five categories : practical, emotional, physical, religious and family problems. Statistical analyses were used chi-square analysis, t-test, and logistic regression analysis at the P<0.05 significance level. Results : The types and stages of cancer did not affect significantly on Hwa-byung symptoms, distress and problem list. Patients with recurring cancer showed more family problems as compared to first onset patients. In addition, patients who had family members complaining more interference with their daily life due to cancer treatment reported practical and family problems. Distress group (higher than four points on the distress thermometer) showed significant Hwa-byung symptoms thannon distress group. The patients who complaint more somatic or behavioral Hwa-byung symptom categories showed a strong positive correlation with emotional problems (r=0.639) and physical problems (r=0.602) on the problem list. Other Hwa-byung related symptom categories showed a strong positive correlation with emotional problems (r=0.645). Hwa-byung specific symptom categories showed moderate positive correlation with distress (r=0.418), emotional (r=0.564), physical (r=0.469), and practical problems (r=0.356). Other Hwabyung related symptom categories showed moderate correlation with distress (r=0.447) and physical problems (r=0.532). Conclusions : Assessing the diverse psychological symptoms including distress and proper emotional interventions across phases of cancer treatment is very important. Hwabyung, i.e. culture-specific syndrome, showed very strong association with distress and life problems among late middle-aged and elderly Korean women cancer patients. Hwa-byung scale might be one of the proper early psychological screening tools and help provide interventions especially for Korean elderly women cancer patients. References : [1] SK Min. Clinical correlates of hwa-byung and aproposal for a new anger disorder. Psychiatry Investig. 2008 ; 5 : 125-141 [2] Holland JC, Andersen B, Breitbart WS, Compas B, Dudley MM, Fleishman S, et al. Distress management. J Natl Compr Canc Netw 2010 ; 8 : 448-485
AS-2
Apathy in mild cognitive impairment to dementia is a predictor of incipient dementia
Chih-Lin Chang ( Department of Psychiatry, Shen Kong Wu Ho-Su Memorial Hospital,Graduate school, College of Public Health, National Taiwan University )
Background : Depression or apathy in patients with mild cognitive impairment (MCI) has been suggested to be a predictor for future conversion to dementia. However, these results are not consistently replicated and evidence is still conflicting. Objective : To determine whether apathy, depression or both could predict dementia in patients with MCI. Material and method : A total of 247 participants (166 MCI, 92 normal controls) were recruited from memory clinics between October 2007 and March 2011. Participants were followed up for 2 years. Mini-mental status examination ( MMSE ) and neuropsychiatric inventory (NPI-10) were assessed at baseline and every 6 months to evaluate cognitive status and neuropsychiatric symptoms. Logistic regression was used to examine the association between baseline symptoms and subsequent risk of dementia, adjusted for baselines clinical variables. Results : A subset of 119 participants (74 MCI, 45 normal controls) had completed the 2-year follow-up. No controls progressed to dementia, while 20 (27%) participants with MCI progressed to dementia during the study period. In MCI participants, 20.6% had apathy alone, 8.2% had depression alone, 5.5% had both depression and apathy, and 65.8% had neither apathy nor depression. In MCI participants with apathy alone, the 2-year conversion rate was 60%, which was higher than the conversion rates of MCI participants with both apathy and depression (25%), depression alone (17%) and no depression/ apathy (19%). The unadjusted odds ratio of apathy alone compared with no depression/ apathy was 6.50 (95% confidence interval : 1.84−22.96, p=0.004). After adjusting for age, sex and baseline MMSE, the results were still significant (adjusted odds ratio : 7.45, 95% confidence interval : 1.43−38.72, p=0.017). In contrast, neither apathy in the presence of depression nor depression alone was associated with progression to dementia. Conclusions : Our study supports the differential role of apathy and depression in the conversion process to dementia and suggests that apathy without depression in MCI predicts future conversion to dementia.
AS-3
Common use of antipsychotic polypharmacy in older Asian patients with schizophrenia (2001-2009)
Yu-Tao Xiang ( Department of Psychiatry, Chinese University of Hong Kong,Beijing Anding Hospital, Capital Medical University )
Objective : The aim of this study was to survey the use of antipsychotic polypharmacy (APP) in older Asian patients with schizophrenia and examine its demographic and clinical correlates. Method : Information on hospitalized patients with schizophrenia aged 55 or older was extracted from the database of the Research on Asian Psychotropic Prescription Patterns (REAP) study. Data on 1,439 patients in six Asian countries and territories including China, Hong Kong, Japan, Korea, Singapore and Taiwan were analyzed. Results : Altogether, 31 psychiatric institutions were involved in 2001, 25 in 2004, and 50 in 2009. A total of 6,761 patients participated in the three arms of the REAP study : 2,399, 2,136 and 2,226 patients in 2001, 2004 and 2009, respectively. Of them, 1,439 patients satisfied the study criteria and were included in this study ; 490 in 2001, 446 in 2004 and 503 in 2009. A total of 742 patients of the 1,439 received APP (51.7%) in the three REAP surveys : 286 in 2001 (58.4%), 218 in 2004 (48.9%) and 238 in 2009 (47.3%). There was a significant difference among the three surveys in use of APP (χ2=14.0, df=2, p= 0.001). Table 1 presents the socio-demographic and clinical characteristics of the whole sample and separately for patients by study site. Table 2 displays the prescribing patterns of antipsychotic drugs prescribed in the three surveys. The combination of FGAs decreased, while the combinations of second-generation antipsychotics (SGAs) and those of FGAs and second-generation antipsychotics ( SGAs ) increased over time . Multiple logistic regression analysis revealed that patients on APP had a higher dose of antipsychotics, and were more likely to receive FGAs than those prescribed antipsychotic monotherapy. Conclusions : Use of APP was common in older Asian patients with schizophrenia. Given the limited evidence supporting its efficacy, the potentially severe side effects and high costs, APP should be used with caution in this population. The reasons for and outcomes of the use of APP in this patient population merit further exploration.
AS-4
The effects of Minocycline on microglial cells in the dentate gyrus of Gunn rat: A possible animal model of schizophrenia
Liaury Kristian ( Department of Psychiatry, Shimane University School of Medicine )
Schizophrenia is a chronic and devastating illness with the etiology that remains unclear. Our previous study indicating that Gunn rat might be used as a possible model of schizophrenia. Moreover, the evidence of microglial activation in the dentate gyrus of Gunn rat showed that neuroinflammation may play important role in the patophysiology of schizophrenia (Liaury et al, J Neuroinflamm., 9 : 56, 2012). Recent studies indicate that minocycline, a second generation tetracycline, has potent anti-inflammatory and neuroprotective effects in various animal model of neuropsychiatric disease. Therefore, in the present study, we aimed to investigate the effect of minocycline on microglial activation in the dentate gyrus of Gunn rats . After the intraperitoneal administrations of either saline or minocycline (40 mg/kg) once a day for 14 consecutive days in Gunn rats and Wistar rats as normal control, we performed behavior test (Prepulse Inhibition Test, PPI and Novel Object Recognition Test, NORT). Later, we examined the CD11b expression area in the ionized calcium binding adaptor molecule 1 (Iba-1)- labeled microglial cells in the dentate gyrus using immunohistochemical technique. As a result, we found that Gunn rats treated with minocycline showed improvement in behavior test (NORT) compared to Gunn rats treated with saline. Moreover, microglial cells in Gunn rat treated minocycline group showed less expression of CD11b compared to saline group and control. These results suggest that minocycline attenuated microglial activation in the dentate gyrus of Gunn rats. These results also support the therapeutic strategy of schizophrenia through the inhibition of microglial activation.
AS-5
Comparison of regional gray matter atrophy, white matter alteration, and glucose metabolism as a predictor of the conversion to Alzheimer’s disease in mild cognitive impairment
Bo Kyung Sohn ( Department of Neuropsychiatry, Seoul National University Hospital )
This study compares the predictive ability of the three popular neuroimaging tools including [18F] fluorodeoxyglucose positron emission tomography (FDG-PET), structural MRI, and diffusion tensor imaging (DTI) and determine the most cost-effective, non-invasive Alzheimer‘s disease (AD) prediction model in mild cognitive impairment (MCI) individuals. Thirty two elderly subjects with amnestic MCI were evaluated at baseline with FDG-PET, MRI, and DTI, together with neuropsychological tests. After a 2-year follow up period, 12 MCI subjects converted to AD (MCIc) and 20 did not (MCInc). The voxel-based statistical comparisons of baseline neuroimaging data were performed between the MCIc and the MCInc groups. The MCIc showed reduced cerebral glucose metabolism (CMgl) and gray matter (GM) density in the middle frontal region and multiple parietal regions, and lower Mini-Mental State Examination (MMSE) score, whereas regional fractional anisotropy derived from DTI were not significantly different between the two groups. Through a series of model selection steps, the regional GM density plus MMSE score model was selected as a final model (classification accuracy 87.5%), while the addition of CMgl did not improve the prediction ability of the model. In conclusion, the findings of this study indicate that the combination of regional GM measurement based on brain MRI and global cognitive assessment with MMSE is probably the most cost-effective, non-invasive method to predict AD dementia in amnestic MCI individuals after a two-year follow-up period.
AS-6
The clinical features identifying coronary heart disease in older patients with bipolar disorder
Pao-Huan Chen ( Department of Psychiatry and Psychiatric Research Center , Taipei Medical University Hospital )
Background : Coronary heart disease (CHD) remains one of the principal causes leading to excessive natural deaths in bipolar patients. The mortality rate for bipolar patients in late life has been even higher. However, the clinical characteristics associated with CHDs in elderly bipolar patients remain limited. Therefore, we attempted to find out the clinical features potentially characterizing older bipolar patients comorbid with CHDs in this study. Methods :We recruited bipolar I patients (DSM-IV) who were more than 60 years old and had at least one psychiatric admission to either Taipei Medical University Hospital or Taipei City Psychiatric Center (assigned as a center for the Northern Taiwan catchment region with 7 million people). Subjects were divided into two groups based on the presence or absence of CHD defined by having (1) positive history of angina pectoris or acute myocardial infarction or (2) ischemic ECG findings including any Minnesota Code 1, 4, 5 or 7-1-1 when entry into the study. All clinical data including the results of laboratory tests of the last hospitalization were obtained by a combination of reviewing medical records and interviewing patients and family members. The clinical data were compared between two patient groups. Results : There were 80 elderly bipolar patients enrolled in this study and 20 of them were found to have concurrent CHD. The mean age at the time of entry into study was 67.6±5.5 years old in the bipolar patient group with CHD and 66.8±6.8 years old in that without CHD. The mean age at the last acute hospitalization was 59.5±8.0 years old in the CHD group and 62.1±5.8 years old in the non-CHD group. Significantly more firstdegree family members with a history of bipolar disorder (45% v.s. 20%, p<0.05) and higher mean levels of serum sodium (144.5± 3.0 mEq/L v.s. 142.0±3.4 mEq/L, p<0.005) and thyroxine (8.7±1.9μg/dL v.s. 7.4±2.5μg/ dL, p<0.05) during the index hospitalization were found in bipolar patients with CHDs. Patient with CHDs were also more likely to fulfill the definition of clinical hypernatremia (sodium levels>148 mEq/L) than those without CHDs (15% v.s. 3.3%, p=0.06). Conclusions : A steady portion, about one fourth, of elderly bipolar patients had prevalent CHD in both Asian and Western populations. The elevation of serum sodium and thyroxine levels in the acute affective episode and positive first-degree family history of bipolar disorder might potentially identify the bipolar patients concurrent with CHD in late life.
AS-7
Relationship of neurological soft signs in patients with cognitive impairment
M.T. Ng ( Department of Physiotherapy, United Christian Hospital )
Objective : Neurological deficits reflect the cerebral degeneration in patients with dementia, however the relationship between cognitive impairment and neurological soft signs (NSS) has not yet established. Normal aging, mild cognitive impairment (MCI) and dementia represent a continuum of cognitive level. This study aimed to investigate the correlation between the emergence of NSS and the degree of cognitive impairment, and the implication of NSS being an alternative screening tool for cognitive impairment. Patients : Thirty patients (aged>65) from three categories (A) normal subjects without cognitive impairment (n=10) ; (B) MCI (n= 10) ; and (C) early stage of dementia (n=12) were recruited from the cognitive and memory clinic in a local general hospital in Hong Kong. Methods : Subset of Cambridge Neurological Inventory (CNI) which includes (1) motor coordination, (2) sensory integration, (3) failure to suppression and (4) primitive reflexes was used to evaluate the level of NSS. The data collected was analyzed by SPSS. Results : The total score of the subset of CNI including motor coordination , sensory integration and failure of suppression were statistically significant (p<0.001) between the three groups. In the multi-factorial analysis, only the mini mental state examination (MMSE) could form a significant association with the total score of of NSS (p<0.001). The total score of the subset of CNI shows a positive and linear correlation to the decline in cognitive level (p<0.001). A significantly higher incidence of neurological soft signs was found in clients with a poorer cognitive level. Conclusion : Increase of neurological soft signs such as motor coordination and sensory integration and failure of supression were highly associated with cognitive decline. The significance of change in NSS may imply for progression of disease in cognitive impairment.
AS-8
Two-way anomia in semantic dementia and its neural correlates
野村 慶子 ( Department of Psychiatry, Osaka University Graduate School of Medicine )
Objectives : Patients with semantic dementia (SD) gradually lose word meaning and experience difficulty of naming and comprehending words. The phenomenon is called “two-way anomia” and is regarded as a precursor to semantic memory impairment. Semantic memory impairment in mild SD was category-specific with better perseveration of fruits and vegetables (Merck et al., 2013). Atrophy of left anterior temporal lobe plays an important role in the semantic memory impairment. However, category-specificity and neural correlates of two-way anomia have not been investigated. Therefore, the aims of this study were to investigate category-specificity and neural correlates of two-way anomia in SD. Methods : Eleven right-handed patients (men =six) with SD participated in this study. Three patients among the eleven were assessed two times annually. Since including those data, we assessed the fourteen data in total. The mean age at evaluation was 70.2± 9.3. Two-way anomia was assessed with high frequent 100 nouns in the test of lexical processing aphasia . Those nouns were semantically divided into ten categories : “indoor facilities”, “buildings”, “vehicles”, “tools”, “processed food”, “vegetables/fruits”, “plants”, “animals”, “body parts”, and “colors”. The stimuli were arranged with black-andwhite line drawings of each object and each color. In the naming task, the patients were asked to name each aloud . In the comprehension task, the patients were given each and asked to select the line drawing from among semantically relevant confounders. First, we counted the number of two-way anomia and evaluated which semantic categories were highly affected. Second, among the fourteen data, twelve MRI data were available. Using voxel-based morphometry, we investigated the relationships between their two-way anomia and brain atrophy with multiple regression analysis . The total intracranial volume of each patient was used as a global covariate. The analysis were performed with thresholds of uncorrected p< 0.001, and the extend threshold was set at more than 50 voxels. Results : Two-way anomia was frequently seen in “plants”, “processed food”, “vegetables/fruits”, and “animals”. In contrast, “body parts” and “color” were relatively preserved. Two-way anomia was negatively correlated with brain volumes in the left middle and inferior temporal gyri and left fusiform gyrus. No brain regions were positively correlated with two-way anomia. Conclusions : Two-way anomia in SD were category-specific. Living entities such as “plants”, “vegetables/fruits”, and animals” were especially affected. Two-way anomia was associated with brain atrophy in the left middle and inferior temporal gyri and fusiform gyrus that are closely related to semantic memory.

一覧へ戻る

6月5日(水) 16:15〜17:30 老年精神第3会場 特別会議場(12F)<大阪国際会議場>
J-CATIA速報
J-1
J-CATIA速報
新井 平伊 ( 順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学 )
抗精神病薬服用中のアルツハイマー病患者にお ける死亡率を調査する大規模前方視的コホート研 究Japan Consortium for Antipsychotics Treatment in Alzheimer’s Disease(J-CATIA)は, 日本老年精神医学会と日本精神科病院協会を主た る活動母体として2012 年10 月にスタートした 共同研究である.この課題に関しては,疫学的前 方視的研究として国内外でも類を見ない大規模研 究であり,対象症例約10,000 例に上り,調査開 始10 週後と6 ヶ月後の予後が評価される. 2013 年5 月末時点では全対象の10 週後死亡 率が集計される段階となる.そこで,本セッショ ンでは,これまでの協力施設・参加医師へのお礼 を兼ねて,これまでの中間集計を速報として報告 し,さらに最終的な6 ヶ月後のデータ収集の臨 床的意義を確認する場としたい.

一覧へ戻る