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 ポスター発表
 
6月21日(木) 14:00〜15:00 ポスター会場第2・3展示場
薬物療法
座長:植木昭紀(うえき老年メンタル・認知症クリニック)
P-D-1
ドネペジルで治療中のアルツハイマー病のアパシーに対するメマンチン追加投与の有効性
原暁生,大森博之(医療法人春水会山鹿中央病院神経内科)
【目的】アルツハイマー病(以下AD と略す)において高率に認められるアパシーは,日常生活動作の障害に関与する重要な行動心理学的症候である.AD のアパシーにはドネペジルが有効だが,その効果には限界がある.そこで,ドネペジルで治療中の中等度から高度AD のアパシーに対するメマンチン追加投与の有効性を検討した.
【対象と方法】2011 年6 月から7 月に当院物忘れ外来を受診した患者で,次の全ての条件を満たす連続11 例(男性5 例,女性6 例,平均年齢76.4±4.5 歳,MMSE 15.3±4.1,ドネペジル投与量5.9±2.0 mg/日,投与期間28.6±28.7 ヵ月)を対象とした.(1)NINCDS-ADRDA 診断基準のprobable AD,(2)FAST 5 以上,(3)アパシーの診断基準(Eur Psychiatry, 24 : 98-104, 2009)を満たす,(4)ドネペジルが投与されており,過去6 ヵ月間に用量変更がない,(5)ドネペジル以外の向精神薬の併用がない,(6)信頼できる介護者と同居している.メマンチンを5 mg/日より開始し,1 週間に5 mg ずつ増量,20 mg/日を維持量とした.投与前,投与12 週後および24 週後の認知機能,日常生活動作,アパシーを含めた行動心理学的症候,介護負担度をMMSE,PSMS,Vitality Index(以下VI),NPI,ZBI を用いて評価し,後方視的に検討した.統計学的解析にはWilcoxon signed-rank test を用いた.
【倫理的配慮】患者あるいは家族に対して口頭による説明を行い,同意を得た.個人情報保護等に十分配慮し報告する.
【結果】VI は治療前6.7±2.1,12 週後7.8±1.6,24 週後8.1±1.3 と,12 週後,24 週後のいずれにおいても有意に改善した(p<0.05).NPI 合計得点も治療前26.0±15.2,12 週後19.2±6.4,24週後18.0±7.6 と有意に改善した(p<0.05).NPIおよびVI 下位項目の解析では,12 週後のアパシーと24 週後の排泄に有意な改善がみられた(p<0.05).有意差はみられなかったが,ZBI は改善傾向を示した.MMSE,PSMS に有意な変化はみられなかった.
【考察】ドネペジルで治療中の中等度から高度ADのアパシーに対して,メマンチン追加投与は有効であると考えられた.メマンチンの併用によって排泄にも改善がみられ,日常生活動作を改善する可能性が示唆された.
中等度親和性,膜電位依存性NMDA 受容体拮抗剤であるメマンチンは,神経細胞保護作用および認知機能改善作用を有する.さらにメマンチンは単独で,あるいはドネペジルとの併用で,脳内ドパミン濃度やアセチルコリン濃度を上昇させる.これらの作用によってアパシーが改善したのかもしれない.
メマンチン単独療法と併用療法との有効性の相違等を明らかにするために,今後さらなる検討が必要である.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-2
Galantamine の臨床使用経験;投与後3 ヶ月間,43 症例の観察研究から
石塚卓也,藤田雅也(医療法人社団碧水会長谷川病院精神科)
【目的】Galantamine はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に分類されているものの,ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対するallosteric potentiating ligand(APL)作用を併せ持つことを最大の特徴とし,これら2 つの薬理作用によりコリン機能を賦活化し,認知症状が進行するのを抑制するとされている.一方,前シナプスのnAChR に対するAPL 作用により,AChをはじめ様々な神経伝達物質の放出を促進するとされている.海外論文ではこれらの作用により,臨床的には他のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に比べてより長期的な認知機能維持効果が期待でき,その上でAD のBPSD にも効果を示す可能性が示唆されている.そこで我々は日本のAD 患者に対するgalantamine の有効性と安全性を臨床下で検討した.本研究では投与後短期間におけるBPSD の改善や忍容性を中心に評価を行った.
【方法】2011 年3 月から2011 年8 月の間に,新たにgalantamine による薬物治療を開始したAD 患者のうち,研究への参加に本人または家族(介護者)から文書にて同意が得られた全症例について,AD の中核症状である認知機能,AD に伴うBPSD の改善度,服薬継続率,中止理由などを3 ヶ月間前向きに検討した.評価指標として,認知機能はMMSE,BPSD はNPI を用いた.診断にはNICDS-ADRDA によるProbable ADおよびDSM- による操作的診断にてAD と診断された症例を用い,統計解析の有意水準は両側5% とした.
【倫理的配慮】症例の提示にあたっては,特定されないようにした.なお,本研究の実施にあたっては,長谷川病院倫理委員会の承認を得た.
【結果】AD 患者で3 ヶ月間の観察期間をフォローアップできた43 例を本研究の対象症例とした.男性15 例,女性28 例で,平均年齢は77.9 歳,ベースラインにおけるMMSE の平均値は16.2±3.3 点,NPI の平均値は12.2±5.3 であった.3ヶ月間galantamine を継続した症例は35/43 例(81.4%)であった.観察期間中,43 例中18 例に抗精神病薬,気分安定薬,抑肝散等が併用投与された.また観察期間を通じて,MMSE は16.2±3.3 から17.7±1.53 へと改善を示したが,ベースラインとの統計学的な有意差はみとめられなかった.一方,主要評価指標であるNPI スコアは12.2±5.3 から3.65±0.75 へと大きく,かつ統計学的に有意に改善した.さらにNPI の下位項目(10 項目)をみると,妄想,異常行動の2 項目が,ベースラインと比べて有意に改善した.
【考察】NPI スコアの大幅な改善は,galantamine自体の薬理学的作用も無視できないものの,抗精神病薬や気分安定薬の併用によるところが大きいと考えられた.一方,ベースラインNPI 重症度が比較的軽度であった切替患者群(前治療薬のあった患者群)においてもNPI スコアは有意に改善し,さらにはベースラインNPI スコアがごく軽度であった「外来患者群」においてもNPI スコアは改善傾向を示した.これらの群における抗精神病薬や気分安定薬の併用は,それぞれ9 例/30例,5 例/27 例中に過ぎず,BPSD の改善は併用薬によるものとは考えにくいため,galantamine自身が持つ周辺症状の改善効果によるものと考えられた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-3
若年性認知症に対するドネペジルの治療効果;高齢者との比較
横田有紀子(岡本クリニック),井上淳(浜松医科大学精神神経科),星野良一(紘仁病院精神科),野島秀哲,岡本典雄(岡本クリニック)
【目的】ドネペジルは,アルツハイマー型認知症患者の認知機能障害の改善に有効性を有する薬剤であるが,若年性認知症に対する治療効果の研究は少なく,十分な検討が行われていない.そこで今回は,アルツハイマー型認知症の診断を受けた若年群と高齢群とに対するドネペジルの治療効果を比較し,若年性のアルツハイマー型認知症に対するドネペジルの治療効果の検討を行った.
【方法】発症時の年齢が65 歳未満の若年群と80歳以上の高齢群の2 群で初診時のCDR 得点が0.5〜1 かつ,28 ヶ月の治療の継続ができた患者を対象とした.発症時65 歳未満の群は9 名(男性4 名,女性5 名),平均年齢61.8±1.7 歳,80歳以上の群は31 名(男性11 名,20 名),平均年齢82.6±2.4 歳であった.治療前および治療開始後4 か月ごとに,CDR,Mini Mental StateExamination(MMSE)を行い,2 群間の比較を行った.
【倫理的配慮】認知症の診断と予想される経過,ドネペジルによる利益・不利益を全ての症例と介護者に説明し,口頭での治療への同意と評価結果の研究への使用の同意を得た後に治療を開始した.本研究は岡本クリニックの倫理委員会の承認のもとに行われた.
【結果】治療前のCDR は若年群で平均0.9±0.2,高齢群で平均0.9±0.2 であった.2 群間で,治療前,4 ヵ月後,8 ヵ月後,12 ヵ月後では有意差は認められなかったが,16 ヶ月目以降,若年群が高齢群と比較して有意に得点が悪化しており(p<.01),また,若年群内において,治療前と比較して16 ヶ月以降,有意な得点の悪化(p<.05)が認められた.一方で,高齢群では,28 ヶ月以内では,治療前の得点からの有意な変化は認められなかった.治療前のMMSE は,若年群で平均20.3±2.5,高齢群で平均21.3±2.1 であった.2群間で,治療前,4 ヵ月後,8 ヵ月後,12 ヵ月後では有意差は認められなかったが,12 ヶ月目以降,若年群が高齢群と比較して有意に得点が悪化しており(p<.05),また,若年群内において,治療前と比較して20 ヶ月以降,有意な得点の悪化(p<.05)が認められた.一方で,高齢群では,28 ヶ月以内では,治療前の得点からの有意な変化は認められなかった.
【考察】若年群と高齢群を比較すると,ドネペジル使用後12 ヶ月〜16 ヶ月の間でCDR およびMMSE 得点に有意差が生じ,若年群では,16〜20 ヶ月以降,治療前と比較して,認知機能に悪化が認められた.このことから,高齢群では,28ヶ月間はドネペジルによる認知機能の維持効果が認められる一方,若年群では,高齢群と比較して,ドネペジル使用開始から,1 年程度で認知機能の悪化が認められ,治療効果に差が生じることが示唆された.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-4
認知症の糖尿病高齢患者のDPP-4 阻害薬の利用とQOL の改善について;DPP-4 阻害薬の導入による糖尿病管理の有効性について
阿部庸子,豊島堅志,泉本典彦,山内麻里衣,下門顕太郎(東京医科歯科大学老年病内科)
【目的】糖尿病患者が高齢化し認知機能が低下すると同時に血糖コントロールが増悪する例が認められる.糖尿病の治療の基本は,食事,運動,薬物の3 本であるが,そのうち高齢者は運動療法が困難である場合が多く,また食事管理も高齢者夫婦や独居等の条件では理想的なものを用意するのは難しい.そこで薬物療法が重要な鍵となるが,高齢患者の自立度が低下すると,インスリン自己注射が出来なくなったり,経口薬物が適切に内服できなくなって,急激に血糖値が高値を示したり重篤な低血糖を起こすことがある.そのような危険を避けるため家族の服薬管理が重要になるが,それは家族の負担を増すことになり,大きな課題となっている.今回,我々の病棟で受け持った高齢の糖尿病患者のうち,経口剤であるDPP-4 阻害薬と呼ばれる新薬を用いてインスリン注射やスルホニルウレア剤のを使用量を減量または離脱させた患者を,安全な糖尿病コントロールが実現できるかを検討した.
【方法】外来にかかりつけの患者で,糖尿病のコントロールが不良であるために予定で教育入院した糖尿病患者のうち,高齢かつ認知機能等の理由によりDPP-4 阻害薬を導入された高齢患者の経過を追った.入院後,インスリンの自己分泌能を評価し,インスリンの自己分泌能が失われていないと確認できた患者に対し,DPP-4 阻害薬を使用し,それまで使用してきたインスリン注射または強力はスルホニルウレア剤を減量または中止した.その後の血糖コントロールを追うとともに,キーパーソンとなる家族の介護負担を外来での問診内容から確認した.
【倫理的配慮】高齢の糖尿病患者のうち,使用している薬剤や合併症,内分泌的機能について評価し,DPP-4 阻害薬が適切であると考えられた患者にのみ,投薬変更を行った.
【結果】平成22 年8 月20 日〜平成24 年2 月11日の期間に糖尿病で予定入院した患者120 名のうち,該当した高齢糖尿病患者は13 名であった.13 名の平均年齢は81.5 歳で,平均MMSE が20.2 点/30 点と認知機能の低下を認めた.その後もDPP-4 阻害薬を継続して,食事療法がある程度管理された患者は,インスリン療法をやめて内服管理にすることが出来た.症例によっては血糖コントロールが不十分ながらインスリン抗体の減少を認めた.また内服療法に切り替えることで,その後,入居施設を探す時に弊害とならずに済んだケースもあった.
【考察】糖尿病の高齢者は今後も増え続けることが予想されている.いずれの疾患においても,高齢者の服薬管理は単純かつ明快な状態であることが望ましいが,あらかじめ安全性を確認することが大切である.今回,我々はDPP-4 阻害薬を利用することで,認知機能の低下を認める高齢の糖尿病患者の服薬管理について管理上の有効性を認めたため,ここに報告する.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-5
前頭側頭型認知症のBPSD にメマンチンが有効であった一臨症例
西田佳晃,前嶋仁,内海雄思,手塚直人,鈴木利人,新井平伊(順天堂大学医学部精神医学教室)
【目的】NMDA 受容体拮抗アルツハイマー型認知症治療剤であるメマンチンは,アルツハイマー型認知症の攻撃性や異常行動などを改善することが示されている.今回我々は,前頭側頭型認知症の脱抑制,易刺激性,異常行動にメマンチンが有効であった症例を経験したので若干の考察を加え報告する.
【症例】63歳男性
【生活歴/家族歴】生育に特記すべき事なし.大学卒業後より公務員として勤務.X−34 年に結婚,1 子をもうけた.X−3 年の定年後より派遣業務に従事したがまもなく退職.認知症および精神神経疾患に関する負因は否定.
【既往歴】X−13 年副鼻腔炎手術
【現病歴】X−3 年,不安や焦燥,確認行為が出現した.X−−2 年より不安焦燥の増悪に伴い家族に対して易刺激的となったため,同年8 月にA病院精神科を初診したが,家族の希望で数か所の精神科へ転医をくりかえし状態も改善を認めなかった.X−1 年3 月頃には物忘れも目立ち始め,当時通院していたB 病院で施行された長谷川式簡易知能検査は21 点であった.X 年7 月頃より意欲低下や周囲への無関心,疎通不良がみられるようになり,時に些細なことで衝動的に家族に対して暴力的となり,脱抑制も認めた.その為,B病院にてオランザピン10 mg/日が投与されたところ,呂律不良となりX 年10 月頃より経口摂取困難となったため,精査加療目的にC 大学病院に入院となった.
【倫理的配慮】本症例の報告にあたり,個人が特定されないよう倫理的な配慮を行った.匿名化した発表において本人および家族の同意を得た.
【検査所見】入院時,易刺激性,不安・焦燥,意欲低下とともに,仮面様顔貌,固縮,嚥下不良,小刻み歩行等のパーキンソン症状を認めた.長谷川式簡易知能検査は20 点で,頭部CT では前頭葉,側頭葉に重度の萎縮を認めた.
【経過】入院当初は易刺激性,不安・焦燥,脱抑制が著しく身体拘束を要した.また薬剤性パーキンソン症状を疑いオランザピンを漸減・中止し,レボメプロマジン10 mg/日の投与を行ったが精神症状やパーキンソン症状は改善を認めなかった.その為レボメプロマジンを中止し,メマンチン5mg/日を投与した.パーキンソン症状は速やかに消失し,メマンチンを10 mg/日に増量後より易刺激性や焦燥の改善を認め,漸次身体拘束が解除可能となった.NPI に関しても無関心,脱抑制,易刺激性,異常行動等の項目において大きな改善が認められ,その後メマンチンは20 mg/日投与し精神症状の増悪は認めていない.
【考察】メマンチンは,アルツハイマー型認知症の攻撃性,異常行動などを改善することが示されているが,アルツハイマー型認知症以外の認知症に伴うBPSD にも有効であることが示唆された.今後,BPSD に対して抗精神病薬に代わる薬剤としても期待されると思われた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-6
塩酸ドネぺジルで5 年間follow した早期AD 患者8 症例の検討
岩本倫,内海久美子(砂川市立病院精神神経科),館農勝,小林清樹,畠山茂樹(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)
【目的】本邦ではアルツハイマー型認知症(AD)の薬物療法は1999 年12 月から塩酸ドネぺジルが上市され約11 年が経過している.2011 年には新たな抗AD 薬が3 剤発売されて薬物療法の新たな展開が始まった.これらの薬剤はAD の進行を遅らせる効果と謳われているが,5 年間という長期間にわたる結果を検証することが必要である.そこで比較的早期より投与開始されたAD 患者について検証する.
【方法】対象:早期AD 8 症例(男性2例女性6 例)
診断は神経学的所見の評価,神経心理学的検査,頭部MRI 検査,脳血流SPECT 検査(統計解析ソフトeZIS を用いて評価)によって行った.
平均年齢:75.4 歳(64 歳〜81 歳)
投与までの罹病期間:平均2.1 年(0.5〜4 年)
方法:調査項目として投与前と5 年後のHDS-R,MMSE,要介護度,CDR,FAST,N-ADL,Behave-AD について検討した.
【倫理的配慮】本研究に関する統計データのみを後方視的に解析し,個人情報の保護に最大限配慮した.
【結果】HDS-R は投与前の平均20 点(16〜24点)から5 年後で16.3 点(12〜20 点)と5 年間で−3.7 点(0〜−7 点)であった.
MMSE では投与前の平均23.9 点(19〜26 点)から5 年後で21 点(18〜23 点)と5 年間で−2.9点(+1〜−7 点)であった.
CDR では投与前の平均0.875 点(0.5〜1 点)から5 年後で平均1.75 点(1〜2 点)であった.
N-ADL では投与前の平均50 点から5 年後で46.8 点であった.
Behave-AD では投与前の平均0.475 点(0〜2点)から5 年後で平均1 点(0〜4 点)であった.
【考察】未治療の認知症ではMMSE が年に−3点と言われているが今回の解析では年−0.58 点であり認知機能を保つのに有効あった.認知機能だけではなくADL はよく保たれておりBPSD の出現も少なかった.これらにより塩酸ドネぺジルを早期から内服することは,認知症の進行を遅らせていると考える.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月21日(木) 15:00〜15:40 ポスター会場第2・3展示場
地域医療(1)
座長:川室 優((医)高田西城会高田西城病院)
P-D-7
郵送による生活機能調査未返送の高齢者を対象とした訪問調査;大都市における試み
井藤佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所,東京医科歯科大学医歯学総合研究科血流制御内科), 稲垣宏樹,杉山美香,宮前史子,宇良千秋,佐久間尚子,伊集院睦雄(東京都健康長寿医療センター 研究所),岡村毅(東京都健康長寿医療センター精神科),森倉三男,三崎真理(千代田区保健福祉 部高齢介護課),下門顯太郎(東京医科歯科大学医歯学総合研究科血流制御内科),粟田主一(東京都 健康長寿医療センター研究所)
【目的】介護予防二次予防事業対象者把握事業は,多くの自治体で,郵送によるアンケート調査によって行われるようになってきている.しかし,この方法による生活機能調査は,回答未返送者の中の,認知症を含むハイリスク高齢者の把握を課題として残す.そこで今回我々は,郵送調査票回答未返送者を対象とした,訪問による健康調査を行った.
【方法】東京都A 区在住の65 歳以上の全高齢者の中で,10 月から3 月生まれ,要介護要支援未認定の4439 人を対象に,郵送によるアンケート調査を行った.郵送調査の回答が未返送だった1344 人(未回収率30.4%)のうち,75 歳以上の女性327 人を訪問調査の対象とした.訪問調査では,A 区内の訪問看護ステーションに在職する看護師の聞き取りによるアンケート調査と,精神科医または心理士によるMMSE,CDR の評価を行った.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所の倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果】調査対象者327 人に調査協力依頼文を送付し,116 人から回答を得た(回収率35.4%.内訳:協力可42,協力不可74).調査協力可の回答を得られた42 人に対して電話連絡を行い,訪問日程を調整できた31 人に対して訪問調査を行った.
訪問調査対象者(以下,訪問群)と,郵送調査票の回答を返送した後期高齢女性(以下,返送群)の年齢は,訪問群で有意に高かった(82.10±3.73vs. 80.34±4.48,t=2.15,p=0.32).
ハイリスク高齢者の検出を目的として施行されている基本チェックリスト6 領域のうちIADL,認知機能と,20 項目合計得点を,年齢を補正して比較すると,いずれにおいても,訪問群は,返送群に比べて,得点が有意に高かった(いずれもp<0.001,得点が高い方がハイリスクとされる).
訪問群のMMSE の平均±SD=25.41±4.24,中央値26 だった.CDR は,0 が23 人,0.5 が4人,1 が3 人,2 が1 人だった.訪問群のうち,地域包括支援センターが二次予防事業対象者等として把握している13 人と,未把握の者18 人との比較では,MMSE の得点に有意な差は認められなかった(25.38±4.29 vs. 25.43±4.35,t=−0.33,p=0.974).
【考察】郵送調査票回答未返送の要介護要支援未認定の後期高齢女性の約1 割に対して訪問調査を実施した.明らかな認知症の出現頻度は12.9%,認知症疑いを含めるとその出現頻度は25.8% であった.今回は,調査協力に対して同意を得られた者を対象とした訪問調査であり,認知症の出現頻度は過小評価されている可能性がある.
現在,A 区では65 歳以上人口の約2 割が要介護要支援認定を受けており,そのうち約半数が認知症と診断されているが,今回の調査は,要介護要支援未認定の後期高齢者のうち,郵送調査票回答未返送の者の中に,生活機能,認知機能低下のハイリスク群が,高い頻度で含まれることを示唆するものである.よって,このような郵送調査票回答未返送者を対象とした訪問調査は,地域に潜在する,要介護要支援未認定の認知症高齢者の検出に有用な事業となる可能性がある.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-8
介護施設へのアウトリーチについての一考察;介護施設での向精神薬使用状況調査を通じて
福田耕嗣,服部英幸(独立行政法人国立長寿医療研究センター行動心理療法部),榊原全雄(医療法人共生会南知多病院)
【目的】精神症状・行動異常(BPSD)を合併する認知症患者に関しては,アウトリーチを包含した医療機関と介護施設の連携が求められている.演者らは愛知県知多半島地域で『医療介護ネットワーク研究会』を定期的に開催しているが,さらなる連携強化を目的に介護施設における向精神薬使用の実態調査を行った.
【方法】調査対象は,知多地域において事前のアンケートにて本研究の内容を理解しかつ訪問を了承していただいた入所設備を備える介護施設9施設である.医療機関側から介護施設を訪問し,直接聞き取り調査を行った.介護老人福祉施設およびグループホームについては医療機関から処方されている向精神薬の頻度(以下,処方薬)を,老人保健施設については採用している向精神薬(以下,採用薬)を,それぞれ調査した.調査対象とした向精神薬は,抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬・抗不安薬であり,抑肝散およびチアプライドは抗精神病薬に含めた.処方薬と採用薬を比較することで,医療機関と介護施設間での向精神薬に対する差異の有無を検討した.また今回得られた結果を,共同演者が行ったアンケートによる全国での採用薬調査とも比較した.
【倫理的配慮】本研究は診療・保健事業に付随する調査であるため,倫理審査の対象に相当しないと考える.
【結果】事前アンケートを行った27 施設のうち13 施設から回答が得られた.このうち訪問調査の承諾が得られたのは,介護老人福祉施設1 件,グループホーム5 件,老人保健施設3 件であった.介護老人福祉施設とグループホームの入所者総数は106 例であった.抗精神病薬の処方薬頻度は抑肝散6 例,リスペリドン3 例,チアプライド3 例の順であった.採用状況は,チアプライドとクエチアピンが3 施設,リスペリドンは2施設で採用されていたが,抑肝散を採用している施設はなかった.全国調査で過半数の施設が採用している薬剤を頻度順に示すと,チアプライド,リスペリドン,ハロペリドール,クエチアピンであった.抗うつ薬の処方薬頻度はミアンセリン4例,クロミプラミン2 例の順に多く,他に複数例に処方されているものは無かった.一方採用状況は,トラゾドンが2 施設で採用されている以外は,複数施設で採用されているものはなかった.全国調査で過半数の施設が採用している薬剤はパロキセチンのみであった.
【考察】調査した老人保健施設に共通した薬剤採用基準は「入所後も医療機関で受けた治療を継続可能すること」であった.上記に示した抗精神病薬のように処方薬と採用薬の間に差異が少ないことは,介護施設側が積極的に医療機関から発信される情報を収集しているとも考えられよう.一方で抗うつ薬のように差異が大きい薬剤の存在は,それ関する情報共有不足を示唆しているのかもしれない.不足しているのであれば,医療機関側から介護施設へと積極的にアプローチすることが必要となろう.その意味でも,医療機関側からの介護施設へのより緊密な連携構築にアウトリーチは有用であると思われた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-9
地域住民を対象とした認知症の早期発見と予防の取り組み
井上仁(鳥取大学総合メディア基盤センター),谷口美也子,安田絵里,藤森巧,岡崎舞,岡 崎亮太,阪田幸範(鳥取大学医学部保健学科生体制御学),圓山千嘉子,清水知加子,藤原静香(鳥 取県琴浦町),浦上克哉(鳥取大学医学部保健学科生体制御学)
【目的】認知症の対策は,早期に発見して早期に適切な対応を行うことが重要である.そこで,認知症を早期に発見するために,地域住民への認知症の正しい知識の啓発活動と地域における早期発見プログラムの重要性が認識され,各地で色々な試みが行われている.鳥取県琴浦町においても認知症予防対策事業として,65 歳以上の町民に対して認知症の早期発見のためのスクリーニング検査と,ハイリスク者に対する介入プログラムを行ってきたので,その取り組みと成果について報告する.
【対象と方法】鳥取県琴浦町の65 歳以上の町民に対して認知症予防のための講演会および検診の参加案内を行った.まず認知症に対する正しい理解のための啓発講演を行い,その後でスクリーニング検査を実施した.平成23 年内に延べ13 日間開催して合計301 名に対してスクリーニング検査を行った.被験者の内訳は,男性が83 名で平均年齢は76.5 歳であり,女性は218 名で平均年齢は77.2 歳である.スクリーニング検査はタッチパネル式コンピュータを用いて行った.タッチパネル式コンピュータはもの忘れスクリーニング検査と2 次検診用としてのTDAS 検査の2 種類から成っている.もの忘れスクリーニング検査は遅延再生,日時の見当識,図形認識の3 つの検査項目からなり,所要時間は約4 分で15 点満点である.13 点以下の方へは2 次検診としてTDAS の受診案内を行った.TDAS 検査は全問正解の場合が0 点で間違いが増えると点数も増加する.TDAS 検査では7 点以上をハイリスク者として選別して認知症予防教室へ勧誘した.認知症予防教室は,ゲームや参加者との語らいを通して運動や知的活動を促進するもので,2 週に1回6 ヶ月間行った.予防教室の前後でTDAS 検査を行って介入効果を評価した.
【倫理的配慮】スクリーニング受診者には,その目的を説明し,同意の上で検査を行った.
【結果】検査の結果で認知症が強く疑われた25名については別途専門医への紹介を行った.そのうち,現時点では4 名がアルツハイマー病,5 名が軽度認知障害と診断された.また,43 名をハイリスク者として選別して予防教室への参加を勧誘したが,実際に参加したのは22 名であった.23 年度の予防教室対象者は,以前からの継続参加者を含めて192 名であり,4 つの事業所に業務を委託して行った.予防教室前後でのTDAS 検査を行い介入の効果を評価したところ,1 回目の点数が悪い参加者ほど改善の傾向が見られた.
【考察】認知症の早期発見と予防教室の効果判定をタッチパネル式コンピュータを用いて行った.タッチパネル式コンピュータを用いた方法は,簡単・迅速かつ高い精度で検査が行えることから,住民健診のような多数を対象とした検査に有効であると思われる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-10
当院における老人性認知症疾患療養病棟の現状
佐久本昇(北中城若松病院精神科)
【目的】老人性認知症疾患療養病棟(以下,療養病棟)は周辺症状をもった認知症の高齢者で,自宅や他の施設で療養が困難な人に対して,長期的に精神科的医療ケアーを提供する施設とされていたが,介護療養病床削減の波の中,療養病棟は医療の必要性が低いものとみなされ,平成29 年度末までに廃止される予定となった.しかし認知症の方の多くは高齢者であり,身体疾患を合併している認知症患者の増加が予測されることから,ある一定程度の医療を行える施設が必要とされている.当院は,療養病棟48 床を有し,他の病院や施設において対応困難であった精神症状や身体合併症を持つ認知症患者に対しても受け入れており,病棟担当の内科医と連携しながら心身両面からの診療を行っている.そこで,当院入院新患を対象に,地域社会における当院の療養病棟の現状について検討することにした.
【方法】平成22 年4 月から平成23 年9 月までに当院療養病棟へ入院した新規認知症患者56 名のカルテ調査(後方視研究)を行った.調査項目は,診断,年齢,性別,新規入院患者の紹介先,入院理由,長谷川式認知症スケール(HDS-R),Behavioral and Psychological Symptoms ofdementia(BPSD),N 式老年者用日常生活動作能力評価尺(N-ADL),Clinical Dementia Rating(CDR),介護度,身体合併症の内訳とその重症度,転帰とした.
【倫理的配慮】本研究では,診療録を後方視的に調査した.報告にあたってはプライバシーを考慮し,個人情報が特定されないような配慮を行った.
【結果】新規入院患者は56 例(男性22 例,女性34 例,平均年齢83.50±8.23 歳)であった.認知症の原疾患の内訳ではアルツハイマー型認知症30 例,血管性認知症20 例,レビー小体型認知症5 例,正常圧水頭症1 例であった.入院経路においては,一般病院からの転院20/56 例(35.7%)が最も多く,次いで単科精神科病院からの転院13/56 例(23.2%)であった.入院理由の6 割はBPSD に対する治療で,次に身体治療18/56 例(32.1%)であった.認知機能及びADL,重症度については,HDS-R,N-ADL,CDR を用い,それぞれの平均点は7.20±6.04 点,24.0±14.0 点,2.73±0.45 点で,平均要介護は3.79±0.89 であった.また入院時のBPSD の出現率に関しては,不眠と易怒性(73.2%)が最も多く,次いで異常行動(48.2%)であった.すべての症例において入院時何らかの身体合併症を併発し,入院患者の36/56 例(64.2%)は合併症を2 つ以上抱え,18/56 例(32.1%)は中等度から重度で,内科医などの専門医との連携が必要であった.入院後の転帰においては,他科への転棟,転院が23/56 例(41.1%)と最も多く,自宅に戻った症例は8 例/56 例(14.3%)であった.
【考察】当病棟に新規入院した患者の認知機能は重度で,介護負担も高く,身体合併症を併発していた.また他施設に入院していた患者が当院へ転院するケースが多くみられた.今後は,さらなる充実した医療及び介護の必要性が予想され,長期的に医療や介護を提供できるような老人性認知症疾患療養病棟の存続が望まれる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月21日(木) 15:40〜16:20 ポスター会場第2・3展示場
地域医療(2)
座長:橋本 衛(熊本大学医学部神経精神科)
P-D-11
地域における認知症の人のための医療・介護と法律関係者との連携に関する調査報告
河野禎之(筑波大学人間系障害科学域),木之下徹,谷口真理子,本多智子,戸谷修二(医療法人社団こだま会こだまクリニック),武田章敬(国立長寿医療研究センター脳機能診療部)
【目的】近年,社会的問題として挙げられている悪質商法等の経済被害の増加や成年後見制度の利用の増加等を背景として,地域において認知症の人が安心して生活を送るためには,医療と介護の連携に加えて,弁護士や司法書士,行政書士等の法律職および法律関係者との連携が極めて重要である.本研究では,地域における医療・介護との連携に法律関係者が現状においてどのように連携を図っているのか,連携においてどのような課題があるのかを明らかにすることを目的とし,予備的に調査を実施した.
【方法】対象:都内A 地区における認知症ケアに関わる多職種連絡会に参加した法律関係者12 名を対象とした.手続き:自由記述方式による直接および郵送,電子メールによる質問紙調査を実施した.調査項目:回答者の年齢,性別,職業,保有資格,勤務年数等の基本的属性の他に,以下の項目について調査した. 認知症と関わるきっかけ, 現状での法律家としての認知症との関わり方,役割, 現状での医療や介護との連携(良い点)(課題点), 今後どのような役割が担えるか(どう法律家として役立ちたいか), 今後医療や介護とどのような連携が必要か, そのために必要なものは何か(資源,制度,工夫等).
【倫理的配慮】調査への参加は自由であること,調査に参加しない場合でも不利益のないこと,個人や地域,団体等の特定情報は削除して扱うこと,回答に際して守秘義務を厳守すること等の倫理的配慮について口頭および文書にて説明し,質問紙への回答をもって同意を得た.
【結果と考察】調査の結果,法律関係者は,地域で生活する認知症の人の権利をより専門的な立場から擁護するために重要な役割を果たしている現状が示された.特に,認知症に関わるきっかけとしても多く示された成年後見制度を基本として,虐待や財産問題等の深刻な問題について,医療や介護では対応しきれない範囲を担っている現状が示された.一方で,医療行為への同意の問題や,本人の自己決定権の担保の問題等,現状では法律関係者としても対応に限界があることを課題として指摘する意見も示された.連携においては,医療・介護側とお互いの専門性を尊重してスムーズに図れている例も示されたが,特に医療側に成年後見制度や法律的な観点への理解が乏しい現状も指摘されており,連携が図りにくい場面もあるとの声が聞かれた.また,法律関係者側も,認知症に関わる医療・介護の知識や経験をより研鑽する必要があるとの声も聞かれた.くわえて,医療・介護とより一層の連携を深めるために,医療・介護・法律の三者が意見や考えを共有できるよう,連絡形式を整える,地域ごとに研修や討議の場を設ける等の工夫や,成年後見制度をはじめとした法律,制度の一層の充実を図る必要性が示された.今後,多くの対象者について調査を実施し,より具体的に地域において認知症の人が安心して生活できるための連携の指針を得たい.
なお,本研究は平成23 年度長寿医療研究開発費(課題番号22-7)「認知症地域連携マップの作成」(主任研究者武田章敬)により行われた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-12
上越地域における認知症医療と介護の連携体制の構築;認知症疾患医療センターの相談内容と介護保険における主治医意見書閲覧調査より
川室優(医療法人高田西城会高田西城病院),森橋恵子(医療法人高田西城会高田西城病院認知症 疾患医療センター),湯浅悟(医療法人高田西城会高田西城病院,医療法人高田西城会高田西城病 院認知症疾患医療センター),俵木一志(医療法人高田西城会高田西城病院),新潟県上越市(新潟県上越市)
【目的】高田西城病院認知症疾患医療センターは,上越地域における認知症医療に関する連携の中核的な機能を目指し活動している.当センターの平成22 年度の電話相談および面談件数は230 件であり,医療・介護機関からの相談が全体の75%を占めていた.多彩な精神症状や行動障害のある重症化した認知症高齢者の相談が多く,家族の疲弊とともに専門医療の支援が求められ,専門医との連携を望む声が多かった.さらに平成22 年度に行われた『認知症の実態把握に向けた総合的研究』(総括代表者朝田隆)の全国認知症有病率調査では,上越市の認知症有病率は約20.2% であり,認知症対策が急務とも言える.
そこで本研究では,高田西城病院認知症疾患医療センターに寄せられた相談内容と全国認知症有病率調査および介護保険の主治医意見書閲覧調査(研究分担者川室優)結果から,人口205,331人,高齢化率26.06%(平成23 年10 月末)の上越市における認知症高齢者の実状および同地域における医療と介護の連携体制の構築状況について検討する.
【方法】平成22 年度からの電話相談および面談内容を検討し,さらに上越市における介護保険の主治医意見書閲覧調査と結果を比較した.
【倫理的配慮】本研究は高田西城病院の倫理委員会から,個人情報の閲覧は上越市情報公開・個人情報保護制度等審議会からそれぞれ承認を得た.
【結果】当センターの平成22 年度電話相談および面談件数は230 件で,平成23 年4 月から12月末までの相談件数は343 件であった.相談内容では,認知症専門医療への受診・入院希望が
80% を占めた.これらを分析してみると,認知症高齢者とかかわっている地域包括支援センター,介護支援専門員,または家族等が専門医療につなぎたい,あるいはつなぐ必要があると考える事例が多く,専門医との連携が課題であることが浮き彫りにされた.すなわち「多彩な行動障害があるにもかかわらず,必ずしも専門医への受診に至っていない」ことを裏付けることができるといえる.
上越市における介護保険の主治医意見書閲覧調査の結果によれば,主治医意見書の作成医は,約6 割が内科医であり,精神科・心療内科医は6.8%であった.さらに多彩な精神症状・行動障害が認められているにもかかわらず,精神科・心療内科医の関与は限られていた.
また,閲覧調査で明らかになった「36 人が認知症診断を受けながら,介護保険未申請であった」という結果を裏付けるように,センター相談の中でも重症化に移行しつつあるにもかかわらず,介護申請がなされていない事例も認められた.
【考察】以上の結果より,認知症対策には,日頃からの早期発見や重症化の予防を目的とした医療と介護が密に連携するネットワークが必要であると考える.すでに上越市では,医師会を中心に認知症に対する上越認知症地域連携パスが運用されている.今後,引き続きパスの活用を促進し,早期の段階から確実に専門医が関与できる地域の医療・介護体制の構築の充実が重要と考えられる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-13
東京都健康長寿医療センターもの忘れ外来受診患者動向における専門医療相談室設置の効果;東京都認知症疾患医療センター運営事業の開始に向けて
古田光(東京都健康長寿医療センター病院精神科,東京医科歯科大学精神科),扇澤史子,磯谷一 枝,今村陽子,大浪里枝,磯野沙月(東京都健康長寿医療センター病院精神科),田中修,菊地幸 子(東京都健康長寿医療センター病院精神科,東京医科歯科大学精神科),岡村毅(東京都健康長 寿医療センター病院精神科,東京都健康長寿医療センター研究所,東京大学精神科),井藤佳恵,粟 田主一(東京都健康長寿医療センター研究所),松下正明(東京都健康長寿医療センター病院精神科, 東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】東京都では2011 年度に東京都認知症疾患医療センター運営事業を開始し,当面二次保健医療圏域にひとつの認知症疾患医療センターの設置を目指している.一方,当院では全国に先駆け,1989 年に精神科に「痴呆外来」を開設し認知症の専門外来を開始した.また,2000 年には早期の認知症診断をめざし,「もの忘れ外来」に名称を変更した.2005 年からはもの忘れ外来を診療科として独立させ,現在,精神科・神経内科・併設研究所医師が合同で認知症の初期診療を行っている.認知症診療のニーズの高まりとともに受診希望者が増え,一時は新規患者の予約待機期間が8 か月を超える状況となった.そこで,予約待機時間短縮と地域連携強化のため,東京都認知症疾患医療センター運営事業実施要綱に準拠して,2011 年7 月1 日に精神保健福祉士,臨床心理士,認知症認定看護師を配置した専門医療相談室を院内に設置し,もの忘れ外来受診のシステムの変更を行った.本研究の目的は,専門医療相談室の設置がもの忘れ外来新患受診患者の動向に及ぼす効果を検証することにある.
【方法】当院の属する二次保健医療圏域(板橋区,北区,豊島区,練馬区)に在住し,もの忘れ外来を新規受診した患者のうち,2011 年1 月1 日以降,専門医療相談室が関わらずに受診し,かつ精神科医師が診察した連続100 例(以下,「旧システム群」)と,2011 年7 月1 日以降,専門医療相談室が関わって受診し,かつ精神科医師が診察した連続100 例(以下「新システム群」)について,年齢,性別,居住地域,他医療機関からの紹介の有無,予約待機日数,初診時診断,認知症重症度(CDR),認知機能(HDS-R,MMS を含む)などについて比較した.
【倫理的配慮】臨床データは個人情報に配慮し,匿名化して処理した.
【結果】新システム群では紹介患者の割合が増え,予約待機期間も約半年間から2 か月間以内に短縮した.新システム群の方が旧システム群に比べて,認知症重症度が高く,認知機能が低い傾向にあった.
当日は詳細な分析結果を考察に加えて報告する.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-D-14
うつリスクを有する地域高齢者のうつ状態のリスク要因
兪 今(公益財団ダイヤ高齢社会研究財団)
【目的】地域高齢者において,うつリスク者が多いにも関わらず,その対策が遅れている.本研究は,うつ予防・支援のあり方の対策を考える上で重要であると思われる高齢者特有な要因が抑うつ状態にどのように寄与しているのかを明らかにすることを目的とし,地域高齢者を対象に検討を行った.
【方法】新潟県N 市(高齢化率25.2%)において,65 歳以上の基本チェックリスト参加者でうつリスク該当者(うつ項目の5 項目中,2 項目以上該当者)2,916 人を抽出し(基本チェックリスト認知機能低下該当者,要介護認定者,転出,死亡,調査不能者を除く)自記式調査表を用い,郵送法による調査を平成22 年9 月〜11 月に実施した.有効回答を得られた2,404 人を本研究の分析対象者とした.その内訳は男性37.9%,女性62.1%,75 歳未満33.2%,75 歳以上66.8% であった.
調査内容は抑うつ状態(GDS),不眠(AIS),自覚症状および病気の有無,社会活動参加,老研式活動能力(TMIG),主観的幸福感,役割の有無と基本属性からなるものである.
分析は男女別,年齢層別のうつ状態の疑いの有無を従属変数,各要因を独立変数とした,二項ロジスティックモデルを用いた.
【倫理的配慮】本研究に関連して取り扱われる個人情報について,個人情報保護条例に沿ったうえで,あらかじめ文書により交付し,本人の同意署名を得たうえで行った.なお,データの解析,公表時においても問題がないかを公益財団ダイヤ高齢社会研究財団の倫理委員会の審査を受け,承認を得た.
【結果】うつ状態の疑いのある者の割合が50.1%を占めた.
ロジスティック回帰モデルにおいては,性×年齢層別の4 群とも共通して不眠,幸福感が低い,社会活動参加が低いことがうつ状態の主なリスク要因であったが(p<0.01〜p<0.001),それに加え,男性の75 歳以上年齢層では配偶者がいない,活動能力が低いことがリスク要因であった(p<0.05,p<0.001).女性の75 歳未満年齢層では活動能力が低いこと,病気がリスク要因であり(p<0.05),女性の75 歳以上年齢層では活動能力が低いこと,病気,さらに経済状況が厳しいことがうつ状態のリスク要因であった(p<0.05〜p<0.001).
【考察】本研究結果では高齢者のうつ状態のリスク要因として,不眠,低い幸福感,社会活動の不活発が共通要因として示された.さらに男女,年齢層の違いがみられたが,男性の75 歳以上では配偶者がいないことと活動能力が低いことがリスク要因に加わる.女性では身体的健康度もリスク要因であると同時に,女性の75 歳以上年齢層では経済状況がうつ状態のリスク要因であることが明らかになった.地域高齢者のうつ予防・支援を考える上で不眠の改善や社会活動参加を促進するとともに,男性では配偶者が後期高齢者,女性では身体的健康面と経済的な面を考慮したうつ予防・支援策を考えていくことが望まれる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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