トップページ > 学術集会 > 第27回日本老年精神医学会 > プログラム
大会概要
プログラム
タイムテーブル
アンケート
ポスター発表
6月21日(木) 15:00〜15:50 ポスター会場第2・3展示場
ケア(1)
座長:吉岡 充((医・社)充会上川病院)
P-C-7
認知症高齢者の外出・移動支援事業に係る聞き取り調査;支援事業を実施している地方自治体の見解に着目して
水野洋子,荒井由美子(独立行政法人国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
【目的】認知症を含む,加齢又は加齢に伴う疾病等により,自動車の運転免許証を返納せざるを得ない高齢者に対しては,代替となる移動手段の確保が重要となる.しかし,本人又は家族介護者を中心とした自助による努力には限界があることから(Mizuno et al., 2008),今後は,地域での取り組みが重要となると思われる.
そこで本研究は,代替移動手段の確保に際し,重要な役割を有すると思われる地方自治体に着目し,支援事業を実施している自治体の見解を把握することにより,実効性のある支援の実現に向けた知見を得ることを目的とした.
【方法】平成20 年に実施した全国市区町村調査において回答が得られた1,027 市区町村のうち,「認知症高齢者を対象とした外出・移動支援事業を実施している」と回答した全120 市区町村に対し,事業内容の把握を目的とした更なる郵送調査を実施した(回答数n=73).これらのうち,「介護保険法,障害者自立支援法に基づくサービス,道路運送法に基づく有償運送以外に,認知症高齢者・高齢者全体・住民全体を対象に外出・移動支援事業を自ら実施している,あるいは実施している外部団体等を支援している」と回答した44市区町村の中で,同意が得られた20 市区町村に対して聞き取り調査を実施した.
解析に使用した調査項目は,1)実施している支援事業の概要,2)望ましい支援事業の実施形態であり,2)については,IBM SPSS TextAnalytics for Surveys 3.0.1 によるキーワードの出現頻度によるカテゴリ化を実施した.なお,「各カテゴリの構成要素」及び「未使用キーワードの採用」については,共同研究者間で確認・修正作業を繰り返し,カテゴリ化までの全プロセスについて合意を形成した.
【倫理的配慮】研究の意義及びデータの管理,使途について事前に説明した上で実施した.
【結果】1)支援事業の概要:調査対象である20市区町村における支援事業は,以下の3 つの形態に分類された(確固内は,事業内容). 認知症高齢者に特化した事業=5 市区町村(福祉・介護バス/タクシー,外出時の付添い). 高齢者全体を対象とした事業=14 市区町村(福祉・介護バス/タクシー,公共交通機関の利用助成,外出時の付添い,福祉車両の貸出し). 住民全体を対象とした支援=1 市区町村(デマンド交通).2)望ましい実施形態:当該質問項目は,認知症高齢者を対象にした外出・移動支援事業を行う場合,現在の状況に限らず,「望ましいと思われる実施形態」について回答を求めた.得られたテキスト・データをキーワードの出現頻度により解析した結果,「生活全般に関わる包括的支援」,「地域全体での見守り」等の支援事業の「拡充」を示すカテゴリが抽出された.
【考察】本研究における調査対象は,何れも介護保険給付等に基づくサービス以外において,認知症高齢者の外出・移動支援事業を実施している自治体であるが,現行の支援事業を以てしても,充分であるとは捉えていないことが明らかとなった.この結果から,当該分野における,更なる支援の拡充が求められているものと示唆された.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-8
認知症発症予防にペットは活用できるのか;コホート研究による検討
山崎由花(順天堂大学医学部公衆衛生学教室),古田伸夫,須貝祐一(浴風会病院),稲葉裕(実践女子大学),吉田亮一(浴風会病院),丸井英二(順天堂大学医学部公衆衛生学教室)
【目的】我が国は超高齢化社会を迎え,認知症患者も増加している.また,ペットブームの影響で犬や猫の飼育数は子供の数に迫る勢いで増加している.欧米諸国では,ペットは高齢者のストレスを緩和し,健康増進に寄与すると考えられ,多くの研究が重ねられてきた.しかし,先行研究の殆どが横断研究で結果に一貫性がない.また,認知症とペットの関連を調べた研究に関しては,認知症患者に動物介在療法を行なった研究が,いくつか存在し,MMSE の改善や,GBS スケールの改善を認めているものの,生活を伴にするコンパニオンアニマルと認知症発症の関連を探った研究はみあたらない.本研究では,福祉法人浴風会・浴風会病院の外来受診者と付添家族を対象に生活習慣とペット飼育を把握する質問票調査を行い,その後,ペット飼育とMMSE,GDS,SF8,POMSの関係を平成23 年から26 年まで前向きに追跡する.そして,ペット飼育が高齢者の認知症予防,健康維持につながるか,その可能性を縦断的に検討する.現在は対象者のリクルート中であり,今回はその途中経過を報告する.
【方法】平成23 年9 月から浴風会病院の全科の外来で同意の得られた65 歳以上の患者・付添家族を対象に生活習慣病とペット飼育に関する質問票調査を行っている(質問内容:性,年齢,婚姻状況,同居家族の有無,既往歴,喫煙,飲酒歴,ペットに関係ない運動時間と頻度,1 ヶ月のお小遣い,ペット飼育状況(何を何匹),主な飼育者,ペットとの散歩時間と頻度).なお,認知症罹患者は予め対象から除外した.その後,さらに同意の得られた対象者のMMSE,GDS,SF8,POMSを評価している.統計分析はHALBAU 7.2 を用いχ
2
検定,Wilcoxon 検定を行った.今後,平成26 年まで上記4 検査を行い,前向きに追跡する.なお,MMSE<23 で認知症発症とする.【倫理的配慮】順天堂大学医学部倫理委員会と浴風会病院倫理委員会の承認を受けた.【結果】53 名が質問票調査に回答し,5 名が心理検査を拒否(3 名はMMSE のみ行った),1 名が翌年度以降の検査を拒否した.よって47 名が追跡可能となった.質問票に回答した53 名の平均年齢は77.2±7.1 歳で,男性24 名,女性29 名であった.また,ペット飼育者は11 名(21%)で,喫煙者が多い傾向を認めたものの,MMSE や各心理尺度は非飼育者と比べ有意差は認められなかった.
【考察】現在は対象者のリクルート中であるが,多忙な外来中のリクルートは難しく,十分な人数が集められない.サンプル数不足のためペット飼育と各要因に関連を認めない可能性が高い.前提条件(MMSE の効果量=5 点,標準偏差=8.3,α値=0.05,β値=0.20)でサンプル数を見積もるとペット飼育群27 人,ペット非飼育群108 人で,脱落者を見込むと両群で155 人のサンプル数が必要である.仮説として,ペットは飼育者に生活リズムをつけ,ストレスを緩和させ,社会的な媒体になることで,飼育者の認知症発症率,抑うつがを抑え,身体的・精神的QOL を上昇させることを期待している.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-9
認知症の精神症状に対する行動的介入療法の検証;認知症3 例に関する予備的な報告
佐藤順子(聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部言語聴覚学科,八事病院),仲秋秀太郎 (名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学,慶應義塾大学医学部精神神経科学教室), 鳥井勝義(八事病院),阪野公一,根木惇(聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部言語 聴覚学科),宮裕昭(市立福知山市民病院精神神経科),成本迅(京都府立医科大学大学院医学研 究科精神機能病態学),山中克夫(筑波大学人間総合科学研究科障害科学専攻),辰巳寛(愛知学院 大学心身科学部),三村將(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
【目的】認知症の妄想,幻覚,焦燥感や攻撃性などは患者および介護者に強いストレスを与える.従来は,薬物療法が認知症の精神症状への治療の主体であった.しかし,2005 年の米国食品医薬品局による勧告後,薬物療法の使用が限定されている.そこで欧米において高い有効性が実証されている行動的介入療法を開発し,精神症状が顕著な3 症例に行動的介入療法を実施し効果を検証する.
【方法】認知症の精神症状の出現に先行する原因を同定し,行動を記述し,行動随伴性の行動分析を行った.この行動分析に基づく行動分析的介入を施行した.評価としては,NeuropsychiatryInventory(NPI)と日本語版Agitation Behaviorin Dementia Scale(ABID)により焦燥感も評価した.いずれの症例も抗精神病薬は使用していない.
【倫理的配慮】この研究は,八事病院倫理委員会において承認を得て,以下の方法で目的と方法を説明したうえで同意を得ている.本研究の3 症例は,患者の同意能力がないと判断されたため,代諾者(配偶者)のみの同意説明文書による同意を得た.なお,発表に関しては患者の匿名性に配慮した.
【症例1】67 歳男性.意味性認知症.X−2 年に名前の想起が困難となる.X−1 年常同行為が出現し,寺のお賽銭を盗む行動が頻発し,X 年にA病院に入院した.入院後から盗食が多くなり,糖尿病が悪化した.おやつの時間に特定の席に座り,周囲の患者からの盗食が目立ったので,消去,タイムアウトなどの技法を用い,患者の周囲に座る他の患者の配置を変更して,盗食しないときにおやつを渡す分化強化などの行動的介入を施行した.その結果盗食は減少した.
【症例2】73 歳男性.レビー小体型認知症.X−4年からREM 睡眠紹介が出現した.X−2 年から幻視が出現し,X−1 年からは人物誤認が生じてX 年にA 病院を受診した.妻を自分の妻ではないと怒り,暴力をふるうことが多かった.そこで,人物誤認が生じたときには,弁別刺激をなくし(近所の患者の妹)をよび,非両立行動分化強化として散歩につれていった.以上のような弁別刺激を操作する行動的介入療法にて焦燥感が改善し,NPI とABID の興奮も減少した.
【症例3】79 歳男性.アルツハイマー病.X−5年頃から物忘れが出現し,X−3 年頃から被害妄想が顕著になった.その後,失語などの症状も出現し認知症が悪化,X 年からA 病院に入院した.入院後,昼夜を問わず大声をあげ,食堂で大声をあげると他患者も興奮した.大声の生じる状況など検討し,看護スタッフの関わりを変更したが,大声は変化なく,行動的介入の効果がなかった.
【考察】認知症の精神症状による問題行動は,介護者の不適切な対応により生じる場合が多い.症例3 では,行動評価やスタッフの行動的介入療法の経験が未熟だった点が背後にあると推測される.今後,行動の評価や技法の改善,介護者への教育などを検討していきたい.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-10
認知症患者が身体疾患で入院を要した際の介護者家族の負担調査
鈴木美佐(関西医科大学精神神経科学教室),西田圭一郎(関西医科大学精神神経科学教室,Bern 大学精神科神経生理学部門),諏訪梓,嶽北佳輝,田近亜蘭,松田郷美,吉村匡史,木下利彦(関西医科大学精神神経科学教室)
【目的】超高齢社会において,認知症高齢者が身体疾患の急性期治療を要した際の医療資源の整備と在宅療養への連携が求められている.その際に,認知症に伴う問題行動のため,受け入れ先が限られるという問題があり,介護者にとって,入院可能な病院を探しだす作業,付き添いの依頼,やむをえない休職,といった負担が発生する原因となっている.そのため介護家族の負担を調査し,若干の考察を踏まえ報告する.
【方法】平成23 年に関西医科大学附属滝井病院精神神経科もの忘れ外来を受診した患者家族のうち,アンケート調査に協力を得た43 例を対象とした.アンケートは家族による自記式で行った.内容は,介護者に関しての精神的,身体的,経済的負担の3 項目に関して質問を行った.
【倫理的配慮】当施設倫理委員会の承認を得たうえで行った.データは,匿名化した研究発表であることを家族,本人に説明し調査協力の文書同意を得た.
【結果】43 例のうち,実際に身体疾患で入院治療を受けたことのある症例は18 例であった.18 例の内訳は,主介護者の性別は男性6 名,女性11名(不明1 名),平均年齢は64.3±10.7 歳であった.一方,認知症高齢者の性別は男性7 名,女性11 名であり平均年齢は77.3±5.7 歳であった.18 名中11 名が1 回のみの入院であった.入院した診療科目は,多い順に,整形外科,消化器内科,循環器内科,呼吸器内科,皮膚科となった.
精神的的な負担に関しては,「要介護状態の両親をひとりで介護しているので,また入院することになった時が不安」などの漠然とした将来への不安が自由記載されていた.身体的負担では,退院後のADL 低下に伴う直接的身体介護量の増加があった.経済的負担では,入院時の室料差額負担があげられた.
【考察】調査票の回答としては,精神的,身体的,経済的にいずれも負担はなかったという回答が7例あった.しかし,7 例に関しても,具体的な質問項目として設けた 入院中の付き添いの要請 室料差額の請求については応じている場合もあり,「負担できないほどではなかった」場合にも回答としては「負担はなかった」と記入したと考えられる.また,現在当院への通院に同行する家族と,過去の入院中に直接関わった家族が異なる場合もあり,「入院当時に直接自分が負担した訳ではない」から「負担はなかった」と回答している場合も考えられる.
長期に及ぶ在宅介護のなかで,患者とその家族が安心して身体治療を受けることのできる医療と介護の連携について今後の検討課題としたい.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-11
高齢の透析患者における自覚的有用感と精神的健康状態との関連
岡本和士(愛知県立大学看護学部疫学),岡山ミサ子(新生会第一病院看護部)
【目的】近年,腎不全の患者の中でも透析導入される患者は増加の一途をたどり,わが国の透析患者は約29 万人に及び,そのうち65 歳以上が約60% を占める.透析患者の場合,透析による時間的制約や身体的苦痛を伴うため,QOL は低下傾向にあることが報告されてきた.しかしこれらは若年者も含まれているため,現在透析患者の多くを占める高齢者のQOL の実態の解明は十分とは言えない.そこで,本研究では,高齢の透析患者の「自覚的有用感」をQOL の指標として用い,精神的健康状態との関連について検討を行った.
【方法】平成23 年10 月から11 月に愛知県内の透析を専門とする8 施設の全通院患者1054 名を対象に,身体的および精神的健康状態,透析による負担感,ソーシャルサポート等に関する自記式のアンケート調査を行った.本研究では回答の得られた者(642 名:回収率61%)のうち,65 歳以上の322 名を解析対象とした.本調査で「自覚的有用感」(以下,有用感)については,「家族の中で役立っている」の有無を尋ね,「はい」を「有用感あり」,「なし」を「有用感なし」とした.精神的健康状態として「主観的健康状態」「睡眠薬の利用」「物忘れの有無」「易怒性」「落ち込み感の有無」「主観的幸福感の有無」を用いた.
【倫理的配慮】アンケート用紙の回収時に本人の特定を防ぐため,氏名の記載を行わせず,性・年齢のみとし,調査用紙を封筒に入れ,厳封にて提出するよう求めた.
【結果】「有用感」ありの割合は糖尿病ありの群で有意に低かったが,男女間,同居の有無,仕事の有無および透析期間で有意差は認められなかった.精神的健康状態との関連では「主観的健康状態」「睡眠薬の利用なし」「物忘れのなし」「落ち込み感なし」「主観的幸福感あり」での「有用感」ありの割合はいずれも「そうでない」群に比べ有意に高かった.
【考察】高齢の透析患者を対象とした本研究にて「有用感あり」の者は精神的健康状態も良好であるとする結果を得た.その関連は透析期間,糖尿病の有無を補正した後も同様に認められた.これまで,若年者を含めてQOL に関連する要因は報告されていたが,高齢の透析患者のQOL に関する報告は私の知る限り皆無といえる.そこで本研究から.今後高齢の透析患者の健康管理を行う上で,有用感を高めることが精神的健康を含めた包括的な健康状態の維持・向上に良好な影響をもたらす可能性が示唆する知見が得られた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
6月21日(木) 15:50〜16:30 ポスター会場第2・3展示場
ケア(2)
座長:玉井 顯(敦賀温泉病院)
P-C-12
認知症家族介護者の家族機能による介護役割分担および介護についての話し合いの有無;家族機能尺度の高低別の検討
扇澤史子,古田光,磯谷一枝,白取絹恵,今村陽子(東京都健康長寿医療センター),井藤佳恵(東 京都健康長寿医療センター研究所),中島さやか,菊地幸子,岡村毅,田中修(東京都健康長寿 医療センター),細田益弘(東京都立多摩総合医療センター精神科),藤原佳典(東京都健康長寿医療 センター研究所),大浪里枝,磯野沙月(東京都健康長寿医療センター),粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】認知症の家族介護者支援においては,介護者を支える家族全体の機能も視野に入れることが重要である.本研究では,家族機能の高低による介護役割分担の特徴や介護についての話し合いの有無について検討し,家族支援の方法について考察することとした.
【方法】2009 年8 月1 日〜2011 年3 月31 日に高齢者専門病院に認知症で通院中の患者の介護者のうち,同意を得た256 名に家族機能および介護の役割分担と家族との話し合いの有無を尋ねる自己記入式質問紙を配布した.記入のあった108名(回収率42.2%)のうち不同意の1 名,回答に不備のあった11 名を除く96 名(61.5±11.5 歳,39〜89 歳,娘32,夫17,妻17,息子17,嫁13,介護期間39.1±40.9 カ月)を分析の対象とした.家族機能については,先行研究や過去の介護者教室で,介護者が介護状況における他家族成員との関係性について述べた発言を元に,臨床心理士3名が評価項目を選定し,4 件法で回答を求めた.
【倫理的配慮】本研究は,病院倫理委員会の承認を受け,対象者には研究の主旨と途中の同意撤回の自由を説明し,文書にて同意を得た.
【結果】家族機能に関する項目は,尺度構成の手続きの後,因子分析によって1 因子8 項目が抽出され,これを家族機能尺度として分析することとした(Table.1 参照).またCronbach のα係数は.915 であり内的整合性が確認された.家族機能尺度得点を昇順に並べ,2 群(各48 名)に分け,それぞれ高群(27.6±2.6 点),低群(17.7±3.5 点)とした.介護について事前の話し合いは,高群が低群に比して,“度々行った”割合が大きく(p<.05),診断時の話し合いも高群のほうが低群に比して,“十分に行った”割合が大きかった(p<.05).役割分担は,低群は“主介護者だけで介護している”割合が大きい傾向があり(p<.10),高群は“主介護者中心で他の家族が補助的な役割”という割合が,低群より大きい傾向があった(p<.10).
【考察】以上より,家族機能が低い群の介護者は,認知症の診断前および診断時に,介護体制について十分に話し合わず,他家族成員の協力も乏しいまま,介護に携わっている傾向が窺えた.従って認知症家族介護者支援では,診断後,できるだけ早い段階で,ひとりの介護者だけに負担が集中しないよう,長期的な視点を持って,家族が相互にサポートし合いながら介護に取り組める体制を築く心理教育が重要と思われる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-13
高齢者の在宅継続を促す支援の検討;TDAS による在宅高齢者の認知機能追跡調査から
福田敏秀(社会福祉法人こうほうえん),浦上克哉(鳥取大学医学部保健学科生体制御学)
【目的】現在,認知症高齢者の行動障害は相当重度になるまで医療やケアにつながらず,在宅生活の限界を待って医療機関が介入することも少なくない.このことから在宅高齢者に対する支援を検討する必要がある.しかし,在宅高齢者の認知機能調査は容易でなく実態把握の難しさは,認知症高齢者支援を導く上で障壁となっている.そこで今回,タッチパネル式認知機能評価法(TouchPanel Type Dementia Assessment Scale ;TDAS)を用いて在宅高齢者について検討した.本研究の目的は,在宅における高齢者の実態から,彼らの在宅継続に対する支援に示唆を得ることである.
【方法】2008 年5−6 月の間Y 市S 地域包括支援センター管轄内において介護保険認定上,要支援1,2 の在宅高齢者31 人(男性8 人25.8%,女性23 人74.2%)に対して,TDAS による認知機能評価と要介護認定調査2006(基本調査)の2 から5群を用いたADL 評価を行った.TDAS は世界的に有効性が認知されているADAS(Alzheimer’sdisease assessment scale)をタッチパネル式コンピューターを用いて簡単に施行できる.本調査は同一対象者に対して6 ヶ月〜1 年間隔でおこなう追跡調査であり,第1 回調査2008.5 月に開始し第6 回調査2011.8 月に終えている.今回,第1 回調査と第5 回(2 年後)および第6 回調査(3年後)の比較を通して分析した.検定は,要介護状態へ移行した者と非要介護者に2 値化し,これを目的変数としたロジスティック回帰分析を行った.説明変数は,性別,年齢,家族人数,主介護者,TDAS 得点,ADL とした.
【倫理的配慮】対象者に調査説明し,協力依頼すると共に承諾書による同意を得た.
【結果】要介護者は,非要介護者に比して第5 回調査においてはTDAS 得点の有意な悪化がみられ,オッズ比16.67(95% 信頼区間;1.14−244.45,p=0.040)であった.第6 回調査では,主介護者が子である者が有意に多く,オッズ比21.53(95%信頼区間;1.01−457.53,p=0.049)であった.
【考察】要支援高齢者を経時的にみたところ,要介護状態へ移行する危険因子に変化がみられた.調査開始から2 年後には認知機能の低下,3 年後には主介護者が子という特徴があげられた.要支援高齢者は,介護保険上,介護予防サービス対象者である.彼らに対し特に認知機能低下防止プログラムの重要性が示された.また,在宅で子が介護する場合,介護方法等につて専門職者の介入が必要と思われる.要介護者は在宅生活の困難性が増すことから,これらの点を考慮したアプローチは,彼らの在宅生活継続を促すと考えられる.本調査において,認知機能レベルの把握の際,TDASは有用であった.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-14
認知症高齢者における通所介護(デイサービス)利用の有無が認知機能へ及ぼす影響;もの忘れ外来患者を対象とした縦断的検討
長沼亨,鈴木宏幸,安永正史(東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム), 扇澤史子,今村陽子,磯谷一枝,磯野沙月,井藤佳恵,古田光(東京都健康長寿医療センター精神 科),藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム)
【目的】在宅生活を送る認知症高齢者とその家族を支えるサービスの中で,通所介護(以下,デイサービス)は,日常生活支援と閉じこもり予防・社会参加活動を促進することによる心身の活性化を目的としている.しかし,デイサービスに関する研究については認知機能への影響について,統制群をおいた前向き研究が少ない.そこで本研究では,当センターもの忘れ外来に通院する認知症患者を対象にデイサービス利用の有無を調査し,認知機能の2 年間の継時的変化から,デイサービス利用が認知機能へ及ぼす影響を検討した.
【方法】対象:東京都健康長寿医療センターもの忘れ外来の受診者で認知症の診断を受けた25 名.そのうち,デイサービスの利用を開始した群は15名,デイサービス非利用群(以降,利用群と非利用群)は10 名であった.評価方法:日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用いた.総得点(30 点)に加え,下位項目ごとに得点を集計した(記憶5 点,視空間認知機能4点,実行機能4 点,注意機能6 点,言語機能6点,見当識6 点).
【倫理的配慮】研究の遂行にあたり,東京都健康長寿医療センターの倫理委員会の承認を得て,患者,患者家族に対して研究の説明を書面及び口頭にて説明後,同意を得た上で調査を行った.
【結果】観察開始時における両群の性,年齢,教育年数,各認知検査得点において利用群と非利用群の間に有意な差は認められなかった.デイサービス利用の有無が認知機能へ及ぼす影響を検討するため,群(利用群vs. 非利用群)と検査時期(観察開始時vs. 約1 年後vs. 約2 年後)を要因とする二元配置共分散分析(年齢,教育年数を共変量)を行った.MoCA-J の得点において交互作用が有意であった(p.<05).非利用群において,観察開始時より約2 年後と,約1 年後より約2 年後で有意な成績低下がみられた(p<.05).認知機能の下位項目の中では,見当識において群と検査時期の交互作用が有意であった(p<.01).下位検定の結果,非利用群は観察開始時より約2年後と,約1 年後より約2 年後で有意な成績低下がみられた(p<.05).また,注意機能において群と検査時期の交互作用が有意傾向であった(p<.10)下位検定の結果,非利用群は観察開始時から約2 年後において成績低下が有意であった(p<.05).一方,記憶,実行機能では有意差はみられなかった.言語機能の得点においては,検査時期の主効果が有意であった(p<.01).下位検定では有意差はみられなかった.
【考察】在宅認知症高齢者においてデイサービスの利用は,認知機能の低下を抑制する可能性が示唆された.その機序については本研究では明らかにできないが,デイサービス利用による定期的な外出の促進や,集団行動・作業といった社会参加の促進が影響したとも考えられる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-C-15
精神科病床への転院を余儀なくされた症例の検討
加子哲治,野倉一也,山本琢也,水野幸(藤田保健衛生大学坂文種報徳会病院神経内科)
【目的】神経内科における入院加療は一般病床であり,精神疾患を有する患者では看護困難が生じ,入院加療継続が困難となることがしばしばある.近年は精神科病床を持たない総合病院が増加しているため,そうした患者では精神科病院への転院・転科が必要となるが実際には様々な困難が伴う.
精神科病床への転院を余儀なくされた症例につき,その原因や経過を調査し考察する.
【方法】平成18 年2 月から平成24 年2 月までに神経内科に入院していた患者が精神科病床に転院転科した症例を抽出し,経過を考察する.
【倫理的配慮】調査と発表に関してはプライバシーに関する守秘義務を遵守し,匿名性の保持に十分な配慮をすることとする.
【結果】上記方法にて調査した結果,6 症例が該当し,それぞれ下記のような理由で転院となった.
症例1:認知症に伴うせん妄,抑うつの増悪.入院前に精神科通院歴あり.
症例2:脳梗塞によりWerniche 失語を来し,無断離院を繰り返し加療困難.
症例3:Parkinson 病に伴う精神症状の悪化.
症例4:側頭葉てんかんにて自動症を来し,無断離院や暴力行為がみられた.
症例5:アルコール依存症.離断症状にて不安,妄想が増悪.
症例6:痙攣発作で入院したが入院前より強い嫉妬妄想あり.入院後に悪化し自宅退院が困難.
【考察】精神科病院への転院は医療ソーシャルワーカーの力量に委ねられるが,実際には交渉を重ねても丁重に断られる経験もあった.精神科の常勤医師がいない病院では神経内科は精神疾患の合併や精神症状を有する患者の診察依頼が多いばかりか,純粋に精神科疾患の患者であっても類縁の診療科として診療依頼がある.入院加療において入院生活が破綻を来すかどうかの予測がつかないが,1 度失敗するとそれ以後入院の判断に二の足を踏むようになるだろう.
現実には,一旦退院した後精神科外来を受診し入院の適否を判断することとなるため,患者家族や医療機関側としては, 自宅での受け入れ困難が予測されるにもかかわらず精神科に入院できないことになると患者の行き場が無くなるという強い不安が生じる.当院の地域では他の診療科から精神科へスムーズに入院・転院ができるようなシステムがなく,今後の診療のために他の精神科病院との連携の強化のみならず何らかのシステムの構築が望まれる.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.