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 ポスター発表
 
6月21日(木) 9:40〜10:30 ポスター会場第2・3展示場
症例報告・症候学(1)
座長:數井裕光(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
P-A-1
ラモトリギン投与後に発症し軽症に経過した老人の皮膚障害の1 例
宗岡克政,今勝志,河邉昌春,飯村東太,三浦大地,宇井るい,木村章(学而会木村病院)
【目的】ラモトリギンは抗てんかん剤として,さらに近年,双極性障害治療薬として使用されている薬剤である.副作用としては皮膚障害が比較的高率であることが報告されいる.発現は投与後8週間以内,バルプロ酸ナトリウムと併用した時,小児において高いとされている(市販後調査報告,2009).さらに皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)および中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)が重篤な皮膚障害として警告されている(薬剤添付書).双極性障害治療薬としての臨床試験では,副作用として発疹,頭痛,胃腸障害,傾眠の順で多く,発疹は7%(215 例中15 例)と報告されている(小山ら,2011).一方で個々の皮膚障害発症例の経過を追った報告は少ないので,今回,症例呈示を行う.
【方法】老人で発症したラモトリギン投与の発疹について症例呈示し,その経過を示す.
【倫理的配慮】記述および撮影に際し個人が特定できないよう配慮した.
【結果】症例:76 歳,女性.診断:双極性障害 型.既往歴:虫垂炎,子宮筋腫,帯状疱疹,バルプロ酸,ペロスピロン使用時に横紋筋融解症,高アンモニア血症,錐体外路症状および意識障害出現.大腿骨骨折.麻痺性イレウス.家族歴:精神疾患なし.現病歴:60 歳で双極性障害発症.65,68,71 歳時に幻覚妄想を伴う躁状態のために入院している.74 歳時に再び幻聴,幻視,妄想を伴う躁状態となり,独語,興奮,易怒性が顕著のため当院に入院.入院後,幻覚妄想を伴う躁状態と拒絶の強いうつ状態を繰り返した.76 歳時,麻痺性イレウス後,うつ状態となった際,ラモトリギンを1 日量25 mg で開始.向精神薬の併用はフルニトラゼパム1 mg のみであった.10 日後に50 mg,24 日後に100 mg,38 日後に125 mgと増量したが,投与42 日目に発疹が出現したため投与中止とした.中止後,徐々に皮膚症状は軽減した.経過を通して,発熱,眼充血,顔面腫脹,口唇・口腔粘膜病変などStevens-Johnson 症候群を疑う所見はみられなかった.血液検査では好酸球数の一時的低下がみられた以外,その他の急性変化はみられなかった.
【考察】本症例で,ラモトリギン投与6 週目に紅斑および丘疹が出現した.投与中止により重症化することなく軽快した.発症時期として,多くが8 週間以内に出現していることと合致していた.一方,発症しやすい要因として挙げられている小児への投与,バルプロ酸ナトリウムの併用は当てはまらなかった.今回の経験より,老人への投与においてもラモトリギン投与開始後8 週間の皮膚変化に留意が必要と思われた.
また,中止により自然軽快が期待できると考えられた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-2
ラメルテオンがせん妄に奏功した老年入院患者の1 例
津田顕洋(東京厚生年金病院精神科・心療内科,東京女子医科大学病院神経精神科),河野美帆,河野仁彦(東京女子医科大学病院神経精神科),大橋優子(東京厚生年金病院精神科・心療内科,東京女子医科大学病院神経精神科),佐野奈々,渡邉壮一郎(東京厚生年金病院精神科・心療内科),大坪 天平(東京厚生年金病院精神科・心療内科,東京女子医科大学病院神経精神科),石郷岡純(東京女子医科大学病院神経精神科)
【目的】せん妄は老年入院患者の14〜56% に発症するといわれ,身体疾患の予後を悪くする要因の一つとなる.抗精神病薬は広くせん妄に使用されている一方で,過鎮静やQT 延長などの副作用を有し,身体疾患に悪影響を及ぼすことから,高齢者で投与困難な症例が少なくない.ラメルテオンはメラトニン受容体アゴニストとして睡眠覚醒リズムを整える作用を有し,過鎮静などの副作用が少ない眠剤として使用されている.われわれは老年入院患者のせん妄にラメルテオンが奏功した症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】匿名性の維持のため,報告の趣旨に触れない範囲で変更を加えた.ラメルテオンの適応外使用に関しては本人と家族に十分な説明を行い,口頭での同意を得たため,その旨をカルテに記載した.
【症例】100 歳男性,誤嚥性肺炎にて当院内科入院.抗生剤投与にて第3 病日には白血球増多は改善傾向にあった.第5 病日に部屋移動したことを契機に夜間中途覚醒を繰り返し,「ここは監獄.ドアを開けてくれ.」との発言が聞かれるようになり,医療スタッフを叩こうとするなど易怒性,興奮が認められ治療協力が得られなくなった.リスペリドン0.5−1 mg/日頓用で対応し不穏改善傾向ながら日中は傾眠が認められていた.第9病日に再び部屋移動したことを契機にほぼ全不眠となり,「渋谷で話し合いがある.助けてくれー.」と天井に向かって話しかけ,指をさす動作が認められるようになった.第11 病日よりラメルテオン8 mg/日を開始した.第13 病日には昼夜の睡眠リズムが保たれ,対応穏やかとなり,失見当識の改善が認められ治療協力が得られるようになった.ラメルテオン8 mg/日の内服を継続しながら第16 病日に再び部屋移動が行われたが,睡眠リズムの乱れ,不穏は認められず,見当識は保たれたままであった.
【考察】ラメルテオン8 mg/日が高齢者のせん妄に有効であった症例を示した.また,ラメルテオン8 mg/日服用下においては,せん妄の誘発因子と考えられた部屋移動を経ても,せん妄の発症はみられなかった.これより,ラメルテオンがせん妄の予防にも有効である可能性が示唆された.しかしながら,せん妄の自然回復過程での事象であったことも否定できない.今後,症例を増やし,高齢者せん妄に対するラメルテオンの有用性を引き続き評価していく予定である.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-3
双極性障害の治療経過中に逸脱行為が出現し躁症状と前頭葉症状の鑑別を要した前頭側頭型認知症の1 例;症状観察の重要性を含めて
武井史朗,田中真二郎,高畑紳一(県立広島病院精神神経科)
【目的】双極性障害の治療経過中に浪費や場当たり的行動が顕著となり,一度は躁転を疑われたがその後の詳細な症状観察と脳画像検査により前頭側頭型認知症の診断に至った1例を経験したので報告する.
【方法】前頭側頭型認知症患者の症例報告
【倫理的配慮】患者個人を特定できるような情報は用いず,一部病歴は改変し,プライバシーの保全に留意した.
【結果】患者:右利き,教育年数12 年の男性.X−12 年(56 歳)に消費者金融で多額の借金をするといった躁病エピソードで双極性障害を発症し,X−11 年(57 歳)にうつ病相となり自殺企図を図ったため精神科で薬物療法が開始された.炭酸リチウムとバルプロ酸の併用内服治療により数年に一度,軽躁状態や軽度うつ状態を呈する事はあったがおおむね安定して経過していた.X−1 年(67歳)頃から物忘れを自覚するようになったため長谷川式簡易認知症スケールを施行するも27/30 点であったため慎重な経過観察とした.X 年3 月(68 歳)頃から自動車を規定の駐車場に以外に駐車するしたり,不要にもかかわらず同じものを買ってくるといった行動が出現するようになったため長谷川式簡易認知症スケールを施行したところ23/30 点と前認知症状態であった.X 年8 月に糖尿病の教育入院目的で当院内分泌内科に入院となったが入院中に禁煙である病室での喫煙,思いつきでの外出,渡された金銭を同日に全て使い果たすといった行動がみられるようになった.当科に転入院し症状観察したところ,軽度の焦燥感を伴った逸脱行為を認めた.双極性障害の治療経過中でもあったため躁転の可能性も疑い気分安定薬の増量とリスペリドンの投与を開始したが焦燥感の改善のみで逸脱行為は減少せずに続いた.逸脱行為は欲動に乏しく,感情平板化や被影響性も認め,長谷川式簡易認知症スケール18/30 点であったため前頭側頭型認知症を疑い頭部MRI・SPECT 検査施行したところ前頭葉有意に委縮および血流低下を認めた.このことから前頭側頭型認知症と診断した.倦怠感訴えが出現したため気分安定薬を増量前の量に減量したが躁転することなく経過した.
【考察】本例の主症状であった浪費行為や禁煙場所での喫煙といった逸脱行為は双極性障害の躁病相でも出現する可能性のある行動パターンであり,焦燥感を伴った場合はより診断に苦慮する場合がある.しかし欲動の乏しさや認知機能低下さらに脳画像検査から前頭側頭型認知症であると考えられた.MRI やSPECT といった脳画像検査は診断に有用であるが検査施行までに時間を要したり検査が施行できない施設も少なくないため,症状の特徴を十分観察するといった基本が重要である.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-4
抑肝散投与により低カリウム血症を来した,糖尿病を合併した認知症病棟入院患者4 例
佐藤隆郎(秋田県立リハビリテーション精神医療センター)
【目的】抑肝散は認知症患者の周辺症状に幅広く使用されているが,頻度の高い副作用として低カリウム血症がある.糖尿病を有する認知症入院患者に抑肝散を投与し,4 例で低カリウム血症が起こったので,低カリウム血症に関連した因子の発見を目的として患者背景を調査した.
【方法】平成21 年4 月1 日から平成23 年3 月31日までの間に当センター認知症病棟に入院した自験例を対象として,診療録で糖尿病を有する認知症患者で抑肝散投与した患者を抽出した.血清カリウム値が3.5 mmol/l 未満に低下した場合を,低カリウム血症を来した,と定義した.
【倫理的配慮】病歴の一部を改変して,個人が特定できないようにした.
【結果】実際の症例
症例1:79 歳男性アルツハイマー型認知症.糖尿病,高血圧,気管支喘息,肺炎,白内障あり.徘徊と大声に抑肝散投与したが無効.K3.2 で抑肝散中止.周辺症状は改善しないまま約6 ヶ月の入院後施設入所.
症例2:76 歳女性前頭側頭型認知症.糖尿病,胃潰瘍あり.暴力,徘徊,収集癖に抑肝散投与して暴力のみやや軽減.K2.9 で抑肝散中止.その後左大腿骨骨折受傷して総合病院に転院,手術に際して強化インスリン療法施行.当センターに再入院後暴力はなくなったが滞続言語,過干渉あり.計約1 年間の入院後単科精神病院に転院.
症例3:87 歳男性アルツハイマー型認知症.
糖尿病,脂質異常症,高血圧症,狭心症,心房細動あり.徘徊,つきまといに抑肝散投与して無効.K3.3 で抑肝散中止.約1 ヶ月の入院期間後に施設入所.
症例4:89 歳男性前頭側頭型認知症.糖尿病,発作性心房細動,肺炎,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群あり.大声と暴力に抑肝散投与して無効.K3.3 で抑肝散中止.約6 ヶ月の入院期間後に肺炎で呼吸不全になり,総合病院に転院後死亡.4 例のまとめ:4 例中2 例で抑肝散投与前後にHbA1c を測定していて,1 例は改善,1 例は悪化していた.糖尿病治療薬はαグルコシダーゼ阻害剤,ピグアナイド類,グリニド,SU 類,チアゾリジン誘導体がそれぞれ1 例に使用されていて,一定の傾向はなかった.抑肝散開始から低カリウム血症発現までの期間は平均42 日だった.糖尿病以外の身体疾患も多く合併していて,共通性はなかった.
【考察】自験例4 例からは,抑肝散投与により低カリウム血症を来した糖尿病を合併した認知症患者に共通性は見いだせなかった.しかし,糖尿病を合併した認知症患者への抑肝散投与は低カリウム血症を介して糖尿病を悪化させる可能性があり,慎重にするべきと考えた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-5
抑うつに対してスルピリド投与により錐体外路症状とせん妄を呈した老年期うつ病の一例
小倉亜矢,出口靖之,川嶋英奈,山本誉麿,渡邊治夫,澤温(医療法人北斗会さわ病院)
【はじめに】スルピリドは消化器症状や抑うつへの効果が期待され幅広く使用されている.しかし今回,スルピリドの投与により錐体外路症状が出現し,うつ状態の更なる悪化を認めたため,スルピリドを中止し,ミルタザピンを開始したところ症状が改善した症例を経験したので報告する.症例発表に関しては同意を得たうえで,個人が特定されないよう配慮した.
【症例】70 歳女性.X−1 年,夫が腹部大動脈瘤のため入院したことをきっかけに,不眠,食欲不振がみられた.X−1 年7 月近医内科を受診し,スルピリドの投薬が開始された.しかし症状は改善せず,足のふらつき,手のふるえも出現し,徐々に悪化し,抑うつ気分も増悪した.食事はほとんど摂取できず体重は20 kg 減少,ほぼ寝たきりで訪問看護を利用し,週2 回点滴を施行されていた.自宅での対応が困難となったためX 年3 月当院を受診,入院となった.
入院時,筋固縮,振戦,流涎が著明で,上半身は自力で動かせるものの,下半身は動かせない状態で,仙骨部には褥瘡を認めた.質問の意味を理解せず,全く無関係な回答をし,見当識障害も認めた.スルピリド300 mg/日が処方されていたため,これによる錐体外路症状を疑い,漸減中止し,ミルタザピンを開始したところ,徐々にせん妄,錐体外路症状は改善し,食事もほぼ全量摂取できるようになった.自立歩行も可能となり,抑うつ気分も消失した.
【考察】スルピリドの投与により錐体外路症状が出現していたが,うつ状態の悪化と判断され増量されており,症状は悪化し,当院受診時には,ほぼ寝たきりで褥瘡も認める状態となっていた.原因薬剤の中止により錐体外路症状は速やかに消失した.スルピリドは内科領域でも食欲低下や軽症うつ病によく用いられる薬剤であるため,錐体外路症状の出現の可能性を常に念頭において,慎重に治療を行うことが大切であると考えられた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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6月21日(木) 10:30〜11:20 ポスター会場第2・3展示場
症例報告・症候学(2)
座長:角 徳文(東京慈恵会医科大学医学部精神科)
P-A-6
レビー小体型認知症患者の内側側頭葉萎縮と認知機能障害の関連について
田川亮,橋本博史(大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学),中西亜紀(大阪市立弘済院附 属病院神経内科,大阪市立弘済院附属病院精神科),河原田洋次郎,村松知拡(大阪市立弘済院附属病院精神科),片岡浩平(大阪市立総合医療センター精神神経科),島田藍子(大阪市立大学大学院医 学研究科神経精神医学),吉田敦史,東山滋明,河邉讓治(大阪市立大学大学院医学研究科核医学),甲斐利弘(大阪市立総合医療センター精神神経科),井上幸紀(大阪市立大学大学院医学研究科神経 精神医学),塩見進(大阪市立大学大学院医学研究科核医学),切池信夫(大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学)
【目的】MRI 画像解析ソフトであるVoxel-BasedSpecific Regional Analysis System forAlzheimer’s Disease(VSRAD)は,海馬傍回の萎縮度(Z スコア)を定量化することが可能であり,アルツハイマー型認知症(DAT)の臨床診断を行う上で有用である.一方,レビー小体型認知症(DLB)ではMRI 画像において内側側頭葉が比較的保たれることが知られているが,Z スコアが高値を示す場合も少なくない.DLB 患者における海馬傍回の萎縮と認知機能の間に何らかの関連性があれば,DLB 患者におけるVSRAD の有用性が高まり,臨床上有用であると考えられる.今回,我々はVSRAD を用いてDLB 患者におけるZ スコアを測定し,神経心理学検査結果や患者背景因子との関連性について検討した.
【方法】対象は大阪市立弘済院附属病院に通院している患者で,第3 回国際ワークショップにおけるCDLB ガイドライン改訂版においてprobable DLB と診断された患者33 例(男性8人,女性25 人)である.対象者の平均年齢は80.6±6.2 歳,平均罹病期間は3.2±3.0 年であった.全例において頭部MRI 検査を施行後,VSRADを用いて海馬傍回の萎縮度(Z スコア)を求め,年齢,発症年齢,罹病期間,教育年数やHDS-R,MMSE,FAB,物語記憶検査,10 単語記憶検査の結果との相関について調べた.頭部MRI は大阪市立弘済院附属病院MRI 検査室にて1.5 T のPHILIPS 社製のGyroscan intera R8 を用い,水平断,冠状断,および矢状断画像による全脳撮像を行った.統計学的検討はSpearman の相関係数を用いた.
【倫理的配慮】本研究は大阪市立弘済院附属病院および大阪市立大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を受けた.
【結果】Z スコアとHDS-R,その下位項目である3 単語遅延再生,MMSE,物語記憶即時再生,物語記憶遅延再生,10 単語記憶遅延再生の得点の間に有意な逆相関の関係が認められた(p<0.05).一方,Z スコアと年齢,発症年齢,罹病期間,教育年数,FAB の得点の間に有意な相関関係は認められなかった.
【考察】DLB 患者において内側側頭葉の萎縮と認知機能障害が関連していることが示唆された.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-7
水頭症術後にBPSD が改善した若年性レビー小体型認知症の1 例
岡村泰,小田原俊成,内村放,山本恭平,西尾友子,近藤大三,野本宗孝,天貝徹,佐藤玲子, 山田朋樹(横浜市立大学附属市民総合医療センター精神医療センター),中村大志,川崎隆(横浜市立大学附属市民総合医療センター脳神経外科),平安良雄(横浜市立大学附属市民総合医療センター精神医療センター)
水頭症術後にBPSD が改善した若年性レビー小体型認知症(以下,若年性DLB)1 例の症例報告を行う.
【倫理的配慮】本発表について本人,家族に説明を行い同意を得た.患者個人のプライバシーが確保されるよう十分配慮した.
若年性DLB に水頭症が合併した症例や,DLBのBPSD が水頭症術後に改善した例は報告が抄猟しえた限り無い.若年性DLB に水頭症が合併し,水頭症術後にBPSD が改善したという点で,本症例は極めて稀な症例と考えられ,診断,病態等について考察を行う.
【臨床経過】症例は40 歳女性.X−11 年より状況依存的な抑うつ気分,不安,意識消失発作,転倒,X−4 年より歩行障害が出現し,X−3 年より気分変調症,若年性パーキンソン病の診断となり,X−2 年2 月当科初診.薬物調整で抑うつ気分やパーキンソニズムは一部改善したが,11 月頃より心気的な訴えが増悪.X 年4 月よりパーキンソニズムのため転倒による頭部打撲が頻回となった.情動不安定,家族への暴力,希思念慮,錯視,複視がみられ6 月Y 日当科医療保護入院.痩せ形の中年女性で,体をくねくねよじらせたり落ち着きがない.神経学的には固縮,振戦,仮面様顔貌,小刻み歩行等のパーキンソニズムを認める.入院時より幻覚,妄想が著明な為身体拘束を要した.症状には日内変動があり,X 年6 月頃より見当識障害,滅裂な言動が目立つようになった.HDSR24 点,MMSE 24 点(見当識や遅延再生,視覚記憶,計算等で失点),MRI では硬膜下水腫,外水頭症を認めた.脳波では突発性異常波は認めなかった.不穏は続き薬物調整で改善せず.X 年7月MRI で内水頭症を認めるようになった.認知機能の動揺性,幻視,妄想性誤認は持続し若年性DLB とそれに伴うBPSD と診断し塩酸ドネペジルを開始した.画像上水頭症は進行し,脳外科で髄液排除試験を施行した.髄液排除により一定期間,認知機能や妄想性誤認は改善し,排除後1週間程度でそれらの症状の悪化を認めたことより,水頭症に対して手術を施行することとした.10月Z 日VP シャント術を施行した.術後,幻視,妄想性誤認はほとんど見られず認知機能は徐々に改善した.若年性DLB,若年性パーキンソン病の症例で,水頭症術後にBPSD が著明に改善した症例を報告する.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-8
認知機能低下や自殺企図など多彩な精神症状がみられた続発性下垂体機能低下症の一例
犬塚伸,田中章,荻原朋美(信州大学医学部精神医学講座),武井真大(信州大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科),天野直二(信州大学医学部精神医学講座)
【はじめに】自己免疫性とみられる視床下部炎に続発した汎下垂体機能低下症に,多彩な精神症状を伴った60 代男性患者を経験した.認知機能低下,抑うつ状態,人格変化,意識障害など様々な精神症状が出現し,行動面でも食行動の異常,家族に対する攻撃性,自殺企図などがみられた.その症例を報告し,考察を加えることとした.
【倫理的配慮】患者の匿名性に配慮し,個人情報については一部改変を加え,発表について本人および家族の同意を得た.
【症例】63 歳男性.A 県出身で関西地方の有名私立大学を卒業した.運送会社に就職し,異動により関東地方で勤務していたX−22 年頃に元気がなくなり,A 県の実家近くにあるB 病院を受診した.うつ病と診断され,以後通院が続いた.X−12 年勤務していた会社を退職し,A 県に戻り別会社に勤務したが,X−6 年に退職した.退職後は就労することなく,自宅で自閉的生活をおくった.X−2 年11 月,ふらつきが出現したため,近医受診したところ著しい低ナトリウム血症を指摘され,C 大学病院内分泌内科に入院となった.各種ホルモン値が低値であったこと,頭部MRI検査で視床下部の炎症がみられたことから続発性下垂体機能低下症と診断された.ホルモン補充療法開始されたが,以後,低体温,電解質異常,高血糖などのため内分泌内科入退院を繰り返した.精神的には次第に衝動性や気分異変が目立つようになった.家族は易怒的な本人への対応に苦慮し,距離をとるようになったため家庭内で孤立していった.また直前の会話内容を覚えていないなどの記憶障害や睡眠覚醒リズム障害もみられた.1 年間で30−40 kg 増加するなど体重増加が著しかった.冬季になると33℃ 度に至るような低体温症があり,時に「自分は死ぬのではないか」と不安を述べた.1 日摂取カロリー1800 kcal と指導され,配送された食材を自ら調理して一人で食事していた.X 年夏,食事をとらない一方で,アイスクリーム30 本,あめ玉数袋を3 週間連日食べるという食行動異常がみられた.家族の注意すると暴力行為が繰り返された.X 年8 月11 日カッターナイフで橈骨動脈切断に至るリストカットした.出血性ショックでC 大学病院高度救命救急センターに搬送され入院となり,8 月14 日精神科転科となった.衝動性に対してバルプロ酸開始するとともに,各種検査を実施した.MMSE 19点,HDS-R 13 点と認知機能低下がみられた.精神科病棟では深刻味なく上機嫌で入院生活をおくった.8 月27 日退院とし,以後精神科および内分泌内科外来通院が続いている.
【考察】「うつ病」と診断され精神科長期通院中の患者に,食行動異常,意欲・発動性の低下,自殺企図に至るような激しい衝動性が出現した.内分泌疾患による症状性精神病に,多要因が加わったものと推測した.体温調節障害,食行動の異常,睡眠覚醒リズム障害などは視床下部症候群の症状であるが,これらも精神面へ大きく影響していると考えられた.衝動性に対してはバルプロ酸が効果的であり,現在は家族関係も幾分改善し,家庭での生活は順調になっている.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-9
アルツハイマー型認知症におけるBPSD とbipolarity の関係
田中宏明(昭和大学藤が丘病院精神神経科),堀宏治(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセン ター),尾鷲登志美,田村利之(昭和大学藤が丘病院精神神経科),秋田亮(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター),峯岸玄心(昭和大学藤が丘病院精神神経科),富岡大(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター),谷将之(昭和大学附属烏山病院),蜂須貢(昭和大学薬学部臨 床精神薬学講座),小西公子,工藤行夫(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター)
【背景】アルツハイマー型認知症Alzheimer’sdisease(AD)は認知症のなかで最多であり,加齢を最大のリスクファクターとする.記銘力低下などの中核症状のほかに,興奮,易怒性亢進,暴力,暴言,昼夜逆転,徘徊など周辺症状behavioraland psychological symptoms of dementia(BPSD)が認められる.BPSD により自宅や施設での介護が困難となり,入院,さらには身体拘束や隔離などの行動制限を余儀なくされることがしばしばある.現在,BPSD の治療は抗精神病薬による薬物療法が主体であるが,高齢者は低用量で使用しても錐体外路症状などの副作用が出現しやすい.また,米国の食品医薬品局からの勧告に示されるごとく,抗精神病薬の使用が,誤嚥による肺炎,転倒による骨折,心循環不全などを引き起こし,AD 患者の生命予後にも影響する可能性が指摘されている.また,身体合併症も多いため内服可能な薬物も限られる.一方,全てのAD患者にBPSD が認められるわけではない.Akiskal らは,BPSD は認知症と未診断の双極スペクトラム障害の両方が影響している,あるいは潜在する双極性素因bipolarity によるものであると提唱し,気分安定薬による治療を推奨している.今回我々は,加齢や脳萎縮の進行よりむしろ,bipolarity がBPSD のリスクファクターであるという仮説を立てて検証した.
【方法】昭和大学藤が丘病院精神神経科に通院中のAD 患者を対象とし,診療録から後方視的に調査した.性別,年齢,Mini-Mental State Examination(MMSE),早期アルツハイマー型認知症診断支援システムVoxel-based Spesific Regionalanalysis system for Alzheimer’s Disease(VSRAD),BPSD の有無,bipolarity の有無を調べた.双極性障害の家族歴,発揚気質,循環気質,季節関連性のいずれかが現在までに存在した場合をbipolarity 有りとした.また,調査にあたっては個人が特定されないように匿名化を行い,本研究は昭和大学藤が丘病院臨床試験審査委員会の承認を得て行われた.
【結果】対象は21 名(男性6 名,女性15 名,平均年齢78.8±7.3 歳,平均MMSE スコア:19.8±5.2 点)であった.9 名にBPSD が認められ,8 名にbipolarity が認められた(P=0.002).7 名にBPSD かつbipolarity が認められた.また,Bipolarity を認めない13 名において,年齢とVSRAD に正の相関(P=0.005)が認められた.
【考察】今回の結果から,bipolarity がBPSD のリスクファクターであるということが示唆された.また,bipolarity を認めた患者は年齢に比して脳萎縮の進行が早いことが予測された.今後はより大規模での検証が必要であり,前方視的調査も必要であると考えられた.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.
P-A-10
グループホームに居住する認知症高齢男性のwandering 関連行動と季節の検討
青木萩子,成澤幸子,齋藤君枝(新潟大学医学部保健学科)
【目的】認知症高齢者のwandering は,前頭側頭葉変性症にみられるroaming と異なりアルツハイマー病を主とした疾患による判断力障害,地誌的定位錯誤,それらによる対処行動として発現すると説明されている.積雪量の多い地域の在宅認知症高齢者のwandering の発現状況を調査した結果では,冬季が他の季節に比較して少なかった(p=0.003).本研究はwandering に関連する行動が季節によって異なるかを検討する.
【方法】対象は地域のグループホームに居住し,wandering がみられる認知症高齢男性2 名.施設職員による高齢者のwandering 関連行動を直接観察法による観察記録をデータとした.期間は平成22 年11 月から平成23 年8 月までの秋季,冬季,春季,夏季に各2 週間.wandering 関連行動は1 回以上見られたら「有」と判定した.
【倫理的配慮】協力施設から承認書を得た上で,対象および対象の家族に研究協力の説明を行い,家族の同意署名を得て行った.新潟大学医学部倫理審査委員会の承認を受けた.
【結果】対象はA 氏(90 歳),B 氏(87 歳)で診断名は両氏ともアルツハイマー病,体型は両氏ともやせ型.意思の伝達は両氏とも可能,日課の理解ではA 氏は不可であることが時々あり,B 氏は可能である.ADL ランクではA 氏は ,B 氏は a,介護保険ではA 氏は要介護4,B 氏要介護3 であった.両氏とも抗認知症薬の服用はない.居住地は異なるが,ともに最深積雪約100 cm,夏季の最高気温は調査時A 氏居住地で34.7℃,B 氏居住地は31.2℃ であった.Dewing(2005)によるwandering スクリーニング(9 項目)は,調査前ではA 氏は2 項目,B 氏は7 項目が該当し,春季には両氏とも4 項目であった.A 氏のwandering 関連行動は夏季に多く,「あてどなく歩く」「歩いている最中に障害物にぶつかる」「家の中で迷子になる」「家を出ようとする」「同じ場所に何度も行く」「スタッフの後について行く」「気が,あるいは関心が変わる」,また「ここは自分の家でないという念慮」「不穏」等が調査日のほぼ全日にみられた.4 季全てにみられた行動は「朝食と昼食の間(午前中)に歩いた」と「目の前の人の動き(行為)と同じように行動する」であった.一方,B 氏は「特定の人を探す」,「不穏」が秋季にみられ,次の時期以降にはこれらの行動が減少した.
【考察】対象2 名は,疾患名,体型,ADL 状況がほぼ類似しているが,A 氏はB 氏より要介護状態であるもののwandering に関連した活動性が高い.B 氏の当初のwandering 関連行動は季節による影響ではなく環境に対する不安から生じた可能性がある.A 氏の「あてどなく」歩く行動は常同行動を,また家の中での迷子や体が障害物にぶつかる現象は空間的失見当および定位障害を,目の前の人と同じ動作をするのはimitationbehavior と推測されるが,これらの行動が夏季に多くみられる背景は未だ説明できない.本研究は,平成22 年度科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究「気象情報を活用したwandering高齢者の安全な生活実現」(研究代表者:青木萩子)の研究成果の一部である.
本研究は一般社団法人日本老年精神医学会の利益相反委員会の承認を受けた.

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