会員専用ページ > 学術集会 > 第26回日本老年精神医学会 > 大会概要
※現在予定されているプログラムです.変更の可能性がございます.あらかじめご了承ください.
    
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階クリスタルルーム 9:30〜11:45
合同シンポジウム(日本老年社会科学会/日本老年精神医学会/日本老年看護学会)
テーマ:Successful agingのための多職種連携;老年社会学,老年精神医学,老年看護学,介護学が果たす役割
座長: 今井 幸充(日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科),加藤 伸司(東北福祉大学総合福祉学部)
老年精神医学が目指すSuccessful aging
繁田 雅弘(首都大学東京大学院人間健康科学研究科)
老年看護学が目指すSuccessful aging
山本 則子(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)
社会老年学からみたサクセスフルエイジング
杉澤 秀博(桜美林大学大学院老年学研究科)
介護学が目指すSuccessful aging;実践からの方法論
渡辺 裕美(東洋大学ライフデザイン学部)
 
    
6月16日(木) 京王プラザホテル南館5階エミネンス 14:40〜16:40
合同シンポジウム(日本老年精神医学会/日本老年医学会)
テーマ:地域の中の認知症医療
座長: 武田 章敬((独)国立長寿医療研究センター),野中 博((医・社)博腎会野中医院,日本医師会介護保険委員会委員長)
GS-1
地域連携の諸形態(大都会における試み)
櫻井 博文(東京医科大学老年病科)
当科は都西部地区医療圏にある三次医療機関内 で「もの忘れ外来」を1999 年より設置し,現在では病診連携からの紹介患者を含めて年間初診患 者700 名以上に対応している.特色として,
1)もの忘れの受診窓口を老年病科へ一本化して,必要時に精神科や脳外科と連携したこと
2)初診は予約なしで全診療日に来院可能なこと,また診断後に認知症の行動・心理症状(BPSD)などで困った場合は随時受診可能なこと
3)身体合併症に対する外来ならびに入院治療が随時可能であることである.
SPECT やMRI など脳画像診断を中心とした 早期診断技術の開発ならびに新たな認知症治療薬などの臨床治験への参加に加えて,地域の認知症 専門医療機関として近隣の医師会,保健所,住民からの信頼に応えるべく地域連携を構築してきた. 認知症患者を支えるネットワーク作りのため,2003 年から医師会,区の行政,福祉施設などと の協力による連携協議会を開催し,山積する課題を抽出して対応を協議してきた.その成果として, 
1)講演会を通しての地域住民への啓発・広報活動 
2)2005 年から区でもの忘れ相談を行って認知症専門医療機関への橋渡し 
3)2005 年から定例の認知症介護者教室を医療相談室・看護師との協力により開催し, 病気や経過の理解,認知症患者への対応の仕方,介護保険や成年後見の案内,在宅が 困難になった際の施設案内などの支援・指導を介護者に対して実践, 
4)かかりつけ医との頻繁な研修会を通しての診療連携の充実を図る, 
などを実践してきた. 
近年は新宿区の認知症相談医を中心とした紹介医,杉並区医師会との診療連携を強化して,地域 にかかりつけ医がない患者を逆紹介するようになってきている. 
一方,今後の課題として, 
1)身体合併症やBPSD で入院治療が必要な場合,地域の専門医療機関同士の連携が不十分なこと 
2)かかりつけ医の連携の中心である認知症相談医の数がまだ少ないこと 
3)介護スタッフとの連携・サポートが十分でないこと,が挙げられる. 
また,大都市での独居高齢者は地域との関係が希薄な場合も多いため,認知症の発症に気づきに くい問題点も指摘される.これまでの我々の取り組みと,現状での課題や問題点について報告する 
 
GS-2 
尾道市医師会方式DBC(Dementia balance check)シートの多角的活用による認知症治療の適正化
片山 壽(岡山大学医学部臨床教授,尾道市医師会会長)
 
 2003年尾道方式認知症早期診断プロジェクトスタート
 尾道市の高齢化率は1996 年には20% を超え,2010 年には30% を超えた高齢地域であるので, 認知症患者は高い比率で発生していた.厚労省の2004 年かかりつけ医診断技術向上モデル事業に 先立ち,尾道市医師会は,2003 年8 月にDD プ ロジェクト(尾道市医師会方式認知症早期診断プロジェクト:early diagnosis of dementia,以下 DD と略)を61 医療機関の参加で立ち上げた. このメンバーで熱心な内科開業医を中心に20 数名で委員会を編成し,2005 年1 月より早期診断 技術に取り組み,認知症早期診断マニュアル作成し,毎月の検証と議論は集学的で意義深いものと なった.
ここでは河野和彦先生のCDT(clock drawing test)に着目し,実際の高齢患者に委員が行った事例を集積し,600 例に及ぶ検討結果で認知症早 期診断マニュアルとして,医師以外のスタッフが容易に使えるものを作成した.医院スタッフ,民 生委員や保健推進員の研修も行い地域のマニュアルとして使えるように工夫した.NHK スペシャ ルで取り上げられたので,すぐに一式を尾道市医師会HP からフリーダウンロードできるようにした. 
 DBCシートと治療効果の検証とケアの総合化
尾道市医師会における認知症治療学の研修は12 回に及ぶ河野和彦先生,遠藤英俊先生の2 回の講義を行い,河野先生からDBC シートを学び, 後に尾道市医師会方式に改訂版を作成した. 
認知症治療の特徴とDLB(レビー小体病)治療の標準化  
認知症治療は類型のない疾病群であり,レビー小体病の誤診,医原性の悪化などの患者を多く診るようになってきているので,進行性で多様な変 化をとることの多い認知症においては,客観的評価を交えながらの継続的観察によるフォローアップが重要となる.
また,認知症の正しい診断,治療薬剤が適正に処方されているとは限らないので,変化を見逃さ ず,常に予測の範囲とし,治療経過中は家族やケアスタッフとも共通認識としておく必要がある. 確定診断後も徐々に変化していくことが少なくないのも,この疾病群の特徴である.家族からのエ ピソードの聴取や,脳外科医とのチーム医療による除外診断の情報提供は重要であり,薬剤の使用 量のスライドと処方術が大変多彩であることも特徴的である. 
認知症治療・ケア総合カンファレンス 
また,多くの場合,家族の理解と介護力,ケア 技術(環境)に大きく左右される実情が見受けられ,適切な時期に介護保険サービスの活用で治療 とケアの総合化が必要であるが,ここでは,認知症ケアに優れたスタッフを養成しておく必要がある. 
DBC シートの項目により,観察のポイントを 治療薬の効果検証と合わせて,生活機能の変化,改善,悪化のチェックを行うので,DBC は教育 効果が大きいのが特徴である. 
特にデイケア・ショートステイ中の様子などの DBC 評価は治療情報として有益であり,家族が体得して持参する場合も多いので,一定期間の中 での変化に安定を提供している処方であるかどうか確認できる.また,ケア関係者からの客観評価 から,DLB の場合,転倒や誤嚥の防止に向けての対策がタイムリーに行えるので,事故防止に繋 がる安全策である. 
 
GS-3 
地域連携の諸形態(地方都市における試み)
内海 久美子(砂川市立病院精神神経科)
 
過疎化が進む当地域の医療圏は,人口数千人か ら5 万人の小さな自治体7 市9 町にまたがっている.そのため広域的な認知症対策を各自治体が 主導して行うことは困難である.そこで当地域のセンター病院である当院では,H 16 年にもの忘 れ専門外来を開設すると同時に,“地域で認知症を支える会”を発足して行政単位を超えた広域で の認知症連携を構築してきた. 
具体的には(1)病診連携(医師会の枠を超えての 連携),(2)医療と介護・福祉との連携,(3)市民への啓発・広報活動,(4)ケアスタッフのための研修 会,(5)介護現場での座談会,(6)認知症ボランティアの組織化,(7)地域包括支援センターの連合化, (8)各認知症グループホームの組織化など,地域連 携の実践をおこなってきた.当日はその具体的内容について述べる. 
 
 
GS-4 
まちで,みんなで認知症をつつむ;大牟田市の取り組み
池田 武俊(大牟田市保健福祉部調整監/福祉事務所長)
 
1.大牟田市の概要
福岡県大牟田市は,熊本県との県境に位置する 旧産炭地である.全国各地の他の旧産炭地と同様,地域経済は今なお厳しい.平成23 年4 月現在の人口125,240 人,高齢化率29.7% と,全国でも 有数の高齢化率となっている. 
2.認知症を地域全体で支える仕組みづくり
大牟田市は,平成14 年度から「認知症ケアコ ミュニティ推進事業」を開始した.これは「認知 症の人への理解が深まり,地域全体で支える仕組みを作り,認知症になっても,誰もが,住み慣れ た家や地域で,安心して豊かに暮らし続ける,そんな願いを叶えるまちづくり」を基本コンセプト とした事業である. 
(1)認知症コーディネーターの養成
認知症コーディネーター養成研修事業は,平成 15 年度からスタートした.受講者は認知症介護の経験がある専門職で,施設長の推薦が必要とな っている.研修は毎月2 日を基本に2 年間で修了する.既に67 名が修了し,現在第8 期と第9 期の受講生を養成中. 
(2)もの忘れ予防相談検診と予防教室 
平成18 度からスタートした事業で,検診に訪 れた方にタッチパネルやカードを使って認知症スクリーニングを行う.テストの結果,認知症の疑 いがある場合などは二次検診に進んでいただく. 相談が介護のことや地域との関係,権利擁護などの場合は,地域包括支援センターがフォローする ことになる.二次検診の結果によっては,もの忘れ相談医の診察を受けるように勧めることになる. 
予防教室は,MCI(軽度認知障害)あるいは 軽い認知症の可能性がある方を対象とした週1回3 ヶ月のコースで,人生史を作る,読み書き, 音楽,俳句,舞踊といった多様なメニューとなっている. 
(3)教育現場と一体となった絵本教室 
絵本教室は福祉と教育が一体になったユニーク な取り組みで,認知症ケア研究会が,子供たちも一緒になって絵本作りに取り組んだ.絵本を使っ た教育は,小学校4 年生から中学校2 年生を対象に総合学習の時間を使って行われている. 
(4)徘徊模擬訓練と地域ネットワーク 
はやめ南人情ネットワークと徘徊模擬訓練ネッ トワークとして,認知症の高齢者が行方不明になったという想定で,実際にその役目を担った方が 行く先を誰にも告げずに地域を「徘徊」し,連絡を受けたネットワーク(警察・消防・中学校・タ クシー会社・コンビニや商店など)が,捜索に協力するというもの. 
(5)若年認知症本人ネットワーク支援 
主に50 歳代から認知症を発症された方を中心 に,毎月1 回の交流の機会をつくり,本人同士が語り合い社会とのつながりを継続できるよう支 援している.また,同時間帯には家族同士も交流できるようにプログラムも工夫している.会の名 称は「ぼやき・つぶやき・元気になる会」で発起人は本人である. 
3.ステージアプローチの要〜地域認知症サポートチーム 
平成21 年度からデンマークの「地域高齢者精 神医療班」を目指して,長年養成してきた認知症コーディネーターと専門医がチームとなり,認知 症の進行ステージに応じて適切な資源をコーディネートし,本人,家族さらには介護現場の支援者 等に対して助言を行うサポートチームを試行している.
10 年をかけて取り組んできた「地域認知症ケ アコミュニティ推進事業」であるが,いよいよ本格的なシステムとして新たな段階に入ってきたと ころである. 
 
GS-5 
厚生労働省の展望
千葉 登志雄(厚生労働省老健局)
 
近年,介護サービスのあり方を考える視角とし て,地域包括ケアシステムという概念が提起され ている.同システムは,生活上の安全・安心・健 康を確保するために,医療や介護,福祉サービス を含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場 (日常生活圏域)で適切に提供できるような,地 域での体制を意味する.こうしたシステムを構築 するためには,認知症の方などが出来る限り住み 慣れた地域で,在宅を基本とした生活を続けられ るよう支えなければならない.その上で,認知症 を有する高齢者の増加など要介護高齢者の状態像 の変化を踏まえつつ,サービスシステムの機能を 強化していく必要がある. 
認知症に関わる政策は,医療や介護,さらには 地域社会における啓発活動など多岐にわたるが, 地域包括ケアシステムを実現していくという観点 からは,医療の面では地域の日常生活圏域で認知 症に対応できる医師を増やしていくことが課題と して挙げられる.このために行っている事業が「認 知症地域医療支援事業」であり,都道府県等が国 立長寿医療研究センターに委託して,認知症に関 する地域医療体制構築の中核的な役割を担う「認 知症サポート医」を養成している.2005〜2009 年度で,1,273 名のサポート医を養成するに至っ た.サポート医は,都道府県医師会等と連携して 地域のかかりつけ医に対し,認知症に関する知 識・技術や,本人や家族支援のための地域資源と の連携等について研修を行っている.2006〜2009 年度で同研修を修了したかかりつけ医の数 は,26,024 人にのぼる. 
また,認知症の方について,住み慣れた生活圏 域を中心に医療から介護に継ぎ目なく繋いでいく 意義は大きい.このため,厚生労働省では「認知 症連携強化事業」を実施し,地域包括支援センタ ーに「認知症連携担当者」を配置して認知症疾患 医療センターとの連携を図ってきた.しかしなが ら,配置場所の制約等から事業実績が伸びなかっ たことなどを踏まえ,本年度からは「市町村認知 症施策総合推進事業」に再編することにした.「認 知症連携担当者」にかわり,新たに「認知症地域 支援推進員」が配置されるが,新しい事業の基軸 は医療と介護の連携強化に置かれており,この点 では従前の事業と変わりはない.ただし,推進員 の市町村本庁への配置も可能とするなど,市町村 がより裁量をもって事業を実施できることにした. 併せて推進員を中心として,医療と介護の連携を 行うことを前提に,認知症サポーターの養成など 市町村の実情に応じて地域のサポートを展開でき るようにした.推進員の役割としては,医療と介 護,さらには地域のサポートとの間を繋ぎ,もっ て認知症の方の住み慣れた地域での生活を支援し ていくことが期待されている.地域包括ケアシス テムの実現を図っていく観点からも,「市町村認 知症施策総合推進事業」を積極的に展開していき たいと考えている. 
 
【共催】エーザイ株式会社/ファイザー株式会社
 
    
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
企画講演I:今更人には聞けない認知症I-1
座長: 三村 將(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
K1-1 13:00〜14:00
見逃してはならない認知症特殊型(AIDS脳症、神経梅毒、Wernicke-Korsakoff症候群、Creutzfeldt-Jakob病など)
神田 隆(山口大学大学院医学系研究科神経内科学)
 
外来を訪れる認知症の患者さんの原因疾患は, アルツハイマー病,レビー小体型認知症,血管性 認知症以外にも多岐にわたります.個々の症例に 適切な臨床診断を下すことが認知症診療の第一歩 であることは今更述べるまでも無いことですが, 沢山の患者さんをこなさなければいけないのが 日々の臨床です.主徴である近時記憶障害や脳画 像をもとに“アルツハイマー病”あるいは“血管 性認知症”と診断していた患者さんに思わぬ原疾 患が隠れていた,というようなことは,多くの先 生方が経験されているものと思います.今日の講 演では,第一線で認知症診療にあたっておられる 先生方に,神経内科医の立場から“見逃して欲し くない”疾患について,自験例を中心にお話しし たいと考えています. 
1.脳の感染症で認知症がおこる 
脳の感染症は,細菌性,結核性,ウイルス性な どの原因を問わず,脳組織の破壊を通じて認知機 能の全般的な低下をきたします.多くの脳の感染 症は,急性・亜急性の進行を特徴としますが,中 にはあたかも変性疾患のようなゆっくりとした経 過をとって現れるものがあります.脳の感染症に は,正しい診断に基づく積極的な治療介入が臨床 症状の改善につながる症例が多く含まれ,臨床家 としては腕の見せ所です.本日の講演ではHIV 感染症,トレポネーマ感染症を中心にお話しいた します. 
2.栄養障害で認知症がおこる  
21 世紀の日本で栄養障害?と思われるかもしれません.しかし,ビタミン欠乏症,とくにビタ ミンB1 の欠乏は今なお重要な内科的課題です. Wernicke-Korsakoff 症候群の診断は,まずこの 疾患を“疑う”ことからスタートします.アルコ ール多飲者,athlete,ダイエット中の女性,い ずれもビタミンB1 欠乏の予備軍です. 
3.脳の自己免疫疾患で認知症がおこる 
海馬を中心とする大脳辺縁系に炎症をきたす疾 患を総称して辺縁系脳炎と呼びますが,この中に 自己免疫を主な病態とするものが多数含まれてい ることが最近話題になっています.積極的な抗免 疫・抗炎症療法で完治する場合がありますので, これも知っておきたい病気の一つです.抗LGI 1 抗体陽性脳炎についてお話しいたします. 
4.血管性認知症は脳血管障害のリスクファク ターを背景にしたものだけではない 
血管性認知症はMRI などの脳画像によって比 較的イージーに診断されてしまいがちです.しか し,降圧剤と抗血小板薬だけで治療してよいもの ばかりではありません.脳/全身の血管炎を背景 にした認知症について,簡単にご紹介します. 
5.Creutzfeldt-Jakob 病の知識は第一線の臨 床家にとって重要である 
100 万人に1 人という稀な病気ですが,ヒトー ヒトの感染がありうる疾患であるが故に早期の発 見は非常に大きな意味があります.本症の臨床経 過は必ずしも一様ではありませんが,Creutzfeldt- Jakob 病を疑うためのいくつかの臨床的ヒントに ついてお話ししたいと思います. 
 
【協賛】日本メジフィジックス株式会社
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
企画講演I:今更人には聞けない認知症I-2
座長: 寺田 整司(岡山大学病院精神科神経科)
K1-2 14:00〜15:00
前頭側頭葉変性症の最新分類法;A new classification of frontotemporal lobar degeneration
新井哲明,朝田隆(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻精神病態医学分野)
 
前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration : FTLD)は,前頭・側頭葉に限局 して進行性の変性を呈し,行動障害や言語障害を 主徴とする非アルツハイマー型変性性認知症の一 群を指す臨床概念である.FTLD は,臨床的, 遺伝的,病理学的に多様な疾患群であるが,初老 期に発症する変性性認知症性疾患の約20% を占 め,AD に次いで頻度が高い.臨床的には,前頭 側頭型認知症(frontotemporal dementia : FTD), 意味性認知症(semantic dementia : SD),進行性 非流暢性失語(progressive nonfluent aphasia : PA)の3 つのサブタイプに分類される.これら は,最初に冒される脳領域の違いに対応しており, FTD は前頭側頭葉,SD は側頭葉前方部,PA は 左シルビウス裂周辺に各々病変の主座がある. 
ほとんどのFTLD 例では,神経細胞あるいは グリア細胞内に,特定の蛋白質が凝集し,封入体 を形成する.その主要構成蛋白として,これまで タウ,TAR DNA-binding protein of 43 kD(TDP- 43),fused in sarcoma(FUS)が同定され,FTLDtau, FTLD-TDP,FTLD-FUS という3 つの主要 な病理グループを形成している.FTLD-TDP の 病理像は一様ではなく,大脳皮質におけるTDP- 43 陽性構造の出現パターンによって4 型に分類 される.すなわち,変性神経突起主体のType 1, 神経細胞質内封入体主体のType 2,両者が混在しかつ神経細胞核内封入体が出現するType 3,神 経細胞核内封入体主体のType 4 である.FTLDTDP およびFTLD-tau の一部においては,蓄積 した不溶性蛋白の断片を生化学的に解析すること により,病理像を予測することができる. 
FTLD の臨床サブタイプと病理サブタイプの 対応については,SD のほとんどはFTLD-TDP (Type 1),FTLD-MND の多くはFTLD-TDP (Type 2)であると言える.一方,FTD とPA の 背景病理は多様である.FTD では,FTLD-tau(ピ ック病)とFTLD-TDP(Type 3)が多いとされ るが,FTLD に含まれるすべての病理サブタイ プがFTD の臨床像を呈する可能性がある.PA については,FTLD-tau(ピック病)が多いとさ れるものの,アルツハイマー病などのFTLD の 枠組みを超えた疾患も原因となり得る. 
FTLD の臨床診断は,現時点では,FTD,SD, PA のようなサブタイプ診断をまず下し,経過と ともに各々の疾患に特徴的な臨床像が捉えられれ ば,その時点で病理疾患単位に基づく診断を「疑 い」としてつけておき,病理診断によって最終的 な確定診断を行うのがよいであろう.封入体の主 要構成蛋白の蓄積メカニズムの解明とそれを基に した診断マーカーおよび治療法の開発が今後の重 要な課題である. 
 
【協賛】日本メジフィジックス株式会社
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
企画講演I:今更人には聞けない認知症I-3
座長: 水上 勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学)
K1-3 15:00〜16:00
非Alzheimer 病変性型認知症の臨床診断
村山繁雄(東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク),齊藤祐子(国立精神・神経医療研究センター臨床検査部)
 
非Alzheimer 病(AD)変性型認知症として, 最も問題となるのは,レビー小体型認知症である. 薬物に敏感であり陽性症状(BSPD)を出しやす く,レビー小体は全身自律神経系に広汎に出現す るため内科的管理が必要となる点で,認知症診療 においてAD に比べ,臨床家により大きく予後が 左右される.レビー小体型認知症の責任病巣は, 死後脳検索よりは,辺縁系(扁桃核・海馬)・新 皮質と考えられるが,直接的に診断する方法の特 異度・感度は低い.形態画像はむしろ,AD に比 べ側頭葉内側面の萎縮が少ないことが特徴とされ る.また,機能画像における後頭葉の血流低下が 強調されているが,保険適応の脳血流シンチで, 剖検による確定診断に基づく特異度・感度の検討 はない.海外ではドーパミントランスポーターの SPECT がパーキンソン病診断に認められており, レビー小体型認知症コンセンサスガイドラインで も支持項目に入れられているが,これは黒質・線 条体病変に基づくパーキンソン症状の診断には有 用でも,認知症を直接診断しているわけではない. 本邦ではMIBG 心筋シンチグラフィーが重用さ れているが,治験レベルでのオールジャパンでの 検討はなく,これも末梢自律神経系を評価してい るのであり,認知症の責任病巣をみているわけで はない.髄液のバイオマーカーとして,AD 診断 においては,tau,リン酸化tau(ptau),アミロ イドβ 蛋白(Aβ)が米国ADNI 研究では最も鋭 敏な早期診断指標となることが主張されており, それに加えてドーパミン代謝産物であるHVA と セロトニン代謝産物である5HIAA を測定することにより,鑑別が可能ではないかと,我々は剖検 例と,ドーパミンPET(CFT とRaclpride)によ る検討で,提言している.末梢自律神経系にレビ ー小体病理が出現することから,レビー小体型認 知症の既往外科材料,あるいは手術を受ける時に はその臓器を検索することで,診断を確認する作 業も有用である. 
次に問題となるのは高齢者タウオパチーと我々 が総括している,嗜銀顆粒性認知症(DG),神 経原線維変化優位型老年期認知症(NFTD),進 行性核上性麻痺(PSP),皮質基底核変性症(CBD), (Pick 球を伴う)Pick 病である.Aβ 沈着を前提 とせず,ptau の沈着を一次的とする疾患群であ る.MRI における形態的萎縮・変性部位,機能 画像における血流・代謝低下部位の特徴に加え, 髄液においてAβ 低下,tau,ptau 上昇が,AD と比べないか軽い点で,診断は可能だが,アミロ イドPET でAD とは明らかに区別される. 
前頭側頭葉変性症は,高齢者タウオパチーと一 部かぶるが,TDP 43 沈着を伴う亜型(FTLDTDP 43)が最も問題となる.Pick 球病との臨床 的鑑別は不可能だが,semantic dementia の場 合はほぼこの病理型であると判断してよい.進行 性非流暢性失語の場合,AD の特徴的失語型とさ れるlogopenic aphasia との臨床的鑑別が有用と される.形態画像に加え,アミロイドPET が有 用であるが,behavioral variant の場合,我々の 経験ではCT 以外は入院・沈静下でしか行えてい ない. 
 
【共催】グラクソ・スミスクライン株式会社
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
企画講演I:今更人には聞けない認知症I-4
座長: 池田 研二(香川大学医学部炎症病理学)
K1-4 16:00〜17:00
アミロイド(Aβ)とタウ;どちらが重要なのか?
井原 康夫(同志社大学・生命医科学部・医生命システム学科)
 
アルツハイマー病の病態解明が現代的意味で開 始されたのは60 年代のRD Terry による電子顕 微鏡による神経原線維変化の微細構造解明からと いってよいだろう.M Kiddはこの異常構造物の 単位線維がpaired helical filament(PHF)であ ると同定したのである.当初はこの病理変化はア ルツハイマー病に特徴的なものと考えられており, PHF がAD を特徴づけたのである.しかし70 年 代に多くの変性疾患で神経原線維変化が見出され てきて,この病変はアルツハイマー病に特異なも のではなく,(病因はともあれ)変性神経細胞の 1 反応様式と考えられるようになった.80 年代の 病理変化のタンパク化学的解明が始まる前にはこ のような理解があったのである.これ以前に老人 斑が重要,または神経原線維変化がより重要,と いう論争は無かったわけではない.とくにアルツ ハイマー病のentity 確立の初期に老人斑の重要 性が強調されたことがあった.しかしそれは発症 の上での病変の分子的役割をわきまえてのもので なく診断上の問題として取り上げられたのである. 病変の生化学的解明がすすんだ頃,神経原線維変 化を解析していたグループと老人斑(アミロイド) を解析していたグループの2 つがあった.いつ とはなく,2 つの病変のどちらが発症の上で重要 なのか,という疑問が浮上した.とくにこの点に こだわったのはDS Selkoe であった.彼は付随 的要因には興味が無く,発症要因解明に集中すべ きという意見であった.これに決着を付けたのが,Aβの前駆体,APP が第21 染色体(AD 病変を必 ず伴うダウン症が関係しており,21 はマジック ナンバーであった)にコードされているという発 見であった.この発見を機に研究者がAPP/Aβ 研究にシフトしたのである.この発見を強くサポ ートしたのがダウン症症例の研究であった.ダウ ン症は中年をすぎるとAD 病理変化を呈すること が分かってきていた.DM Mann は各年齢のダウ ン症例を集め免疫染色で検討したのである.彼は, ダウン症ではAβの沈着が先でタウの沈着は約 10 年以上後に起こるということを見出した.こ の後変異APP を家族性AD 家系に発見したJ Hardy によって,AD はAβの沈着からはじまる, というアミロイドカスケード仮説が定式化された のである.おそらくこの仮説がただちに受け入れ がたい点は,Aβ沈着のみではヒトでは認知機能 の低下がみられないことであろう(この点は transgenic mice と異なる).AD の中核症状は認 知症であり,これこそがAD の診断の必須条件で ある.しかしそれはAβの沈着程度ではなく神経 原線維変化の密度と神経細胞の脱落程度に相関す る.最近になり,Aβワクチン投与者の剖検例の 報告(Holmes C, et al. Lancet 372 : 216-223, 2008)以降また同じ質問が繰り返されている. このようにAD の場合には発症要因と中核症状の 原因が同一ではないことを理解すれば,右往左往 することは無い.
 
【共催】ヤンセンファーマ株式会社
6月16日(木) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
企画講演I:今更人には聞けない認知症I-5
座長: 井関 栄三(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
K1-5 17:00〜18:00
アルツハイマー病の免疫療法とは
田平 武(順天堂大学大学院医学研究科認知症診断・予防・治療学)
 
近年アルツハイマー病(AD)の免疫療法(ワ クチン)の可能性が示された.ワクチンと言って もAD に特定の細菌やウイルスが関与しているの ではない.脳に蓄積するアミロイドやタウを病原 体になぞらえ,これらに対する免疫反応を利用し てこれらを除去しようというものである.ここで はアミロイドワクチンについて述べる. 
AD の免疫療法を最初に考え付いたのはKline & McMichael であるといわれ,1991 年に特許出 願がなされている(WO 91/16819, 1991).その 後Abeta に対するモノクローナル抗体により Abeta の凝集が抑えられることが見出された (Solomon B et al. PNAS 93, 452, 1996).1999 年Dale Schenk らはAPP トランスジェニックマ ウスをAbeta で免疫すると,老人斑の除去・予 防が可能であることをNature 誌に報告し世界的 な注目を引くようになった.2000 年にはAbeta 抗体の受け身移入により老人斑の形成が抑制され 認知機能障害の発症が予防されることが示された 為,同年4 月にはWyeth 社によりAN1792(合 成Abeta 1−42+QS21)の第相臨床試験が英 国において開始された.このワクチンの対照には アジュバントQS21 が接種された.6 ヵ月間に4 回の接種を受けた結果安全性は確認されたが抗体 のレスポンダーが20% と低かったので, polysorobate-80(Tween-80)を加えたものが第 I 相試験の延長スタディーに採用され,欧米で行 われた第II 相試験にも採用された.第相試験 の対照には生理食塩水が接種された. 
第相試験に入り1〜3 回ワクチンを接種した ところで副作用としての自己免疫性髄膜脳炎が多 発したためその治験は中止になった.しかしワク チン接種によりヒトでも老人斑が消え得ること, ミクログリアが活性化されて炎症反応が増強され ていること,老人斑周囲のdystrophic neurite は消失するが神経細胞内の神経原線維変化は対照 と同様に増強し続けること,血管アミロイドは一 時増強するが徐々に減少すること,Abeta オリゴ マーが残存していることなどが分かった.副作用 として起こった髄膜脳炎はT ヘルパー1(Th1) 細胞の活性化によるものであると考えられた.ま た,第相試験に参加した症例の6 年間の経過 観察では認知機能が対照と同様に低下し,重症 AD になる率,生存率に対照と差が見られなかっ た.そのうち6 例の剖検例では老人斑の除去に 成功していた.第相試験は早期に中止されたた めレスポンダーは20%と低かったとはいえ,認 知機能低下が有意に緩徐になることはなかった. 
以上の結果から老人斑アミロイドがAD の認知 機能低下を引き起こしているのではない,恐らく Abeta オリゴマーを除去できなかった可能性,炎 症反応を増強した可能性,より早期の接種が必要 である可能性などが考えられている.これらの経 験をふまえモノクローナル抗体/ポリクローナル 抗体による抗体療法,ペプチドワクチン,ミモト ープワクチン,DNA ワクチン,組換え微生物, 組換えウイルスベクター,組換え食品などが開発 されている. 
 
【協賛】MSD株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル南館5階エミネンス
企画講演II:ハイテク時代の介護力
座長: 池田 学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野(神経精神科))
K2 13:00〜14:00
介護・福祉ロボット「ロボットスーツHAL®」
山海 嘉之(筑波大学大学院システム情報工学研究科)
 
ロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb®) とは,体に装着することによって,身体機能を拡張したり, 増幅したりすることができる世界初のサイボーグ型ロボットです. 
人が筋肉を動かそうとしたとき,脳から運動ニューロンを介して筋肉に神経信号が伝 わり,筋骨格系が動作しますが,その際に,微弱な生体電位信号(意思を反映した信号) が皮膚表面に漏れ出してきます.HAL®は,装着者の皮膚 表面に貼り付けられたセンサでこの信号を読み取り,その信号を基にパワーユ ニットを制御して,装着者の筋肉の動きと一体的に関節を動かすことで,動作支援を可能にしています. 
HAL®は,生体電位信号を検出し,人間の思い 通りに動作する「サイバニック随意制御システム」だけではなく,人間のような動作を実現することができる「サイバニック自律制御システム」の二 つの制御系が混在したサイボーグ型ロボットです. さらに,コンピュータには基本的運動機能がデータベース化されており,信号だけに従って動くだ けではなく,各種センサからの情報を活かしてHAL®自体が自律的に動作する機能も有していま す.ロボットが独自の判断で動く自律的な部分と,人間の意思によって随意的に動く部分がハイブリ ッドな関係で動作しています. 
生体電位センサの他にも,関節角度を測定する 角度センサ,重心の位置を検出する床反力センサ等が取り付けられています.また,HAL®のフレ ームは床面に接地するような構造であるため,重量が装着者にかかることはありません.
HAL®の応用分野は幅広く,福祉・介護分野に おける身体機能に障害がある方への自立動作支援, 介護支援をはじめ,工場などでの重作業支援,災 害現場でのレスキュー活動支援,エンタテイメン トなど,幅広い分野での適用が期待されており, すでにHAL®福祉用は実用化され,日本全国の福 祉介護施設で活躍しています. 
 
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル南館5階エミネンス
企画講演III:新規の抗認知症薬
座長: 本間 昭(認知症介護研究・研修東京センター)
K3 14:00〜15:00
抗Alzheimer病薬の最新情報
中村 祐(香川大学医学部精神神経医学教室)
 
認知症の多くの部分を占めるのは,Alzheimer 病(アルツハイマー型認知症,以下AD)であり, の主因は「加齢」である.その為,高齢化の進ん でいる我が国ではAD が急増している.しかし, AD に対する治療薬は今まではドネペジル1 剤に 限定されてきた.しかし,2011 年に入って,メ マンチン,ガランタミン,リバスチグミンの3 剤が承認され,薬物治療の範囲は大きく変革して いる.ガランタミンは,アセチルコリンエステラ ーゼ阻害作用の他に,ニコチン性アセチルコリン 受容体へのAPL(Allosteric Potentiating Ligand)作用を有する.メマンチンは,NMDA受容体に対する非競合的アンタゴニストであり, コリンエステラーゼ阻害剤と全く異なる機序で神 経保護作用を発揮することから,コリンエステラ ーゼ阻害剤と併用投与が可能である.また,リバ スチグミンは貼付剤として開発され,アセチルコ リンエステラーゼ阻害作用の他に,ブチリルコリ ンエステラーゼ阻害作用を有する.これらの薬剤 の登場により,治療選択肢の幅ができ,患者毎に 合わせた治療が可能になると期待されている.し かし,根本的な治療薬の登場は危ぶまれており, 当面の治療を如何に行うかが課題となっている.
 
【協賛】第一三共株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
企画講演IV:毒ガス硫化水素の医療応用
座長: 繁田 雅弘(首都大学東京人間健康科学研究科)
K4 8:00〜9:00
毒ガス硫化水素の医療応用
木村英雄((独)国立精神・神経医療研究センター神経研究所神経薬理研究部)
  H2S は温泉や下水などで遭遇するあの卵の腐っ たにおいの主で,毒ガスとして悪名高い.1713 年, Ramazzini によって初めてその毒性が報告され て以来,H2S 毒性については多くの研究結果が発 表された.特に,H2S 中毒から生還した人には, 記憶障害が多く認められることから,脳への影響 については多くの報告がある.ところがこのよう に毒ガスとしてしか認識されないH2S が牛,人, ラットの脳に内在することが1989 年と1990 年 に報告された.これらの報告をきっかけに,私た ちは1996 年に,H2S 生産酵素cystathionine β- synthase(CBS)が脳に存在し,記憶のシナプ スモデルである海馬長期増強(LTP)を誘導促進 することから,neuromodulator としてのH2S を 提案した.翌年には,生産酵素cystathionine β- lyase(CSE)が,胸部大動脈,門脈,回腸など の平滑筋組織に存在し,H2S が弛緩作用を示すこ とから,平滑筋弛緩因子として報告した.一昨年 には,第3 の生産酵素3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3MST)を発表し,脳や血 管内皮における機能を提案した.
このようなシグナル分子としての働きに加え, H2S は細胞を保護する働きを持つ.私達はH2S がグルタミン酸による酸化ストレスから神経細胞 を保護することを2004 年に報告した.これを皮 きりに虚血再還流による心筋のダメージを軽減し,心筋を保護する働き等が他のグループによって 次々と見つかった.これらの結果に基づき,臨床 応用への試みが進んでいる.Ikaria Holdings で はH2S 製剤IK-1001 について2 件の臨床試験が 進行中である.そのうちの1 つは,冠動脈バイ パス手術中の患者にIK-1001 を静脈投与し,安 全性と有効性を評価する第2 相試験を行う.こ れ以外にも,Antibe Therapeutics では3 つの製 剤を研究開発中である.ATB-429 はH2S を放出 するmesalamine 製剤で,炎症性腸疾患への適 用を目指している.ATB-346 は急性及び慢性関 節炎治療に,ATB-284 は過敏性腸疾患治療に開 発が進んでいる.CTG Pharma は,H2S を徐々 に放出するsildenafil,aspirin,diclofenac を開 発中である.S-diclofenac は,虚血再還流による 心筋障害の治療への適用を目指している.これ以 外にも,泌尿器疾患,眼疾患,神経変性疾患,リ ュウマチなどに応用できる製剤を開発中である.
Ignarro によるNO 研究から,Erectile dysfunction 治療薬としてのバイアグラが世に出 たが,同じグループがH2S にも同様の作用があ ることを報告している.H2S にはそのほかにも, インスリンの分泌制御,抗炎症作用,疼痛への関 与など,その作用は多岐にわたっている.ここで は,最近のH2S 基礎研究の進展について概説す る.
 
【共賛】大塚製薬株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
企画講演V:今更人には聞けない認知症V-1
座長: 川勝 忍(山形大学医学部精神医学講座)
K5-1 9:00〜10:00
認知症における脳画像の読み方
松田博史(埼玉医科大学国際医療センター核医学科)
認知症における画像診断の種類としては,X 線CT,MRI,脳血流SPECT,18F-fluorodeoxyglucose (以下FDG)を用いたブドウ糖代謝PET,また,最近ではアミロイドPET がある.この中でX 線 CT は,冠状断が得にくいことや灰白質と白質のコントラストが不良なことから,MRI ほどの有 用性はない.FDG-PET は,ブドウ糖代謝がシナプスで活発であり,シナプス機能を鋭敏に反映す るとされることから世界中でアルツハイマー病の早期診断や鑑別診断に以前より広く用いられてき た.しかし,本邦ではFDG-PET は保険収載されておらず日常臨床には応用しがたい.これらの ことから,本邦においては,保険収載されているMRI と脳血流SPECT が認知症の画像診断とし て広く用いられている.MRI 装置は広く普及しており,放射線被ばくもなく,安価かつ容易に施 行可能であるが,その所見は非特異的なことが多く,所見の解釈が難しい.SPECT 装置はMRI ほど普及しておらず検査費用も高額であるが,認知症では比較的疾患に特異的な血流低下パターン がFDG-PET とほぼ同様に得られる.これらの画像診断の評価には,視覚評価を補うものとして, コンピュータを用いた画像統計解析手法が広く用いられるようになり,診断精度の向上が図られて いる.現時点で報告されている認知症の主な画像所見は以下のごとくである.
(1)アルツハイマー病では,後部帯状回から楔前部 および頭頂葉皮質の血流や代謝が早期発症例ほどめだつ.この部位での萎縮も早期発症例でめ だつが,血流・代謝の低下程度の方が強い.一方,内側側頭部では萎縮が早期からみられ,晩期発症例ほどめだつ.内側側頭部における血 流・代謝の低下程度は弱い.このことからアルツハイマー病では,機能と形態変化に乖離がみられることが特徴である.
(2)健忘型の軽度認知機能障害においては,アルツ ハイマー病のごとく頭頂葉の血流・代謝低下が目立つ例や,内側側頭部の萎縮が強い例ほど, アルツハイマー病への移行が早い.また,アミロイドPET での陽性例は高率にアルツハイマ ー病に移行する. 
(3)レビー小体型認知症では,アルツハイマー病の所見に加え,後頭葉の血流・代謝の低下が半数程度の例でみられる.後頭葉の中でも外側より も内側の血流低下が重要である.後頭葉の血流低下所見がみられない症例では,心筋交感神経 機能イメージングが有用である.アルツハイマー病に比較して内側側頭部の萎縮は弱い. 
(4)前頭側頭葉変性症では,脳の前方領域に血流・代謝低下が萎縮よりも強くみられる.ただし,アルツハイマー病のような機能と形態変化の乖 離は乏しい. 
(5)正常圧水頭症では,脳室拡大に加え内側側頭部とシルビウス裂周囲皮質の萎縮と血流低下,高位円蓋部のくも膜下腔狭小化に伴う相対的灰白 質濃度および血流増加がみられる. 
本講演では,以上のような種々の認知症におけるMRI と脳血流SPECT やFDG-PET,症例によってはアミロイドPET の所見を提示し,さら にうつ病やせん妄などとの画像による鑑別の可能性についても言及する. 
 
【協賛】富士フイルムRIファーマ株式会社
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
企画講演V:今更人には聞けない認知症V-2
座長: 米田 博(大阪医科大学神経精神医学教室)
K5-2 10:00〜11:00
遺伝子研究解釈の基本
佐野 輝(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野)
認知症における分子遺伝学的研究の基礎から先端に至るまでを,初心者にもわかりやすいように講演する予定である. 
65 歳以降に発症する晩発性Alzheimer 病では 病因に占める遺伝子の効果は比較的少なく,多くの遺伝性要素とともに多くの環境性要素が病因と して働く多因子性の疾患である.従って,晩発性Alzheimer 病では病因に関与する遺伝子は疾患感受性遺伝子と呼ばれ,発症と遺伝子の関係は一 対一ではなく,遺伝子の特定のタイプを持つと多種類の発症に対するリスクファクターの一つを持 っていると考えられる.このグループに入るのが,APOE( Apolipoprotein E),CLU( Clusterin , Apolipoprotein J),PICALM(Phosphatidylinosytolbinding clathrin assembly protein),SORL1 (Sortilin-related receptor)などの遺伝子群である. これに対して,65 歳未満の発症の若年性Alzheimer 病はAlzheimer 病全体の約10% を占 めるが,この若年性Alzheimer 病においては60% が家族性であるといわれる.これらにおい てはメンデル遺伝の法則に則る疾患の発症と病因遺伝子が一対一対応する単一遺伝子の障害によっ て引き起こされる病態(単一遺伝子病)が多い. 
若年性Alzheimer 病の病因遺伝子としては, Amyloid Precursor Protein 遺伝子(APP)およびPresenelin 1 & 2 遺伝子(PSEN1,PSEN2)の 三種の遺伝子が同定されている.これらの病因遺伝子とともに上記の疾患感受性遺伝子群はいずれ もAlzheimer 病の分子的病態に深く関わっており,それらを総合的に考える分子病態仮説が提唱 されている.さらに最近,前頭側頭型認知症に関する分子的理解が進んでいる.欧米白人では FTLD のうち25−40% が家族性を示すが,FTDP-17 の病因としてmicrotubule-associated protein tau 遺伝子(MAPT)が1998 年に発見された.タウ遺伝子変異例は全FTLD のうち 10% を占めることが明らかにされた.続いて2004 年には,Vasolin-containing protein 遺伝 子(VCP)変異,2005 年にはCharged multivesicular body protein 2B 遺伝子(CHMP2B) 変異,2006 年にはProgranulin 遺伝子(GRN)変異に基づくFTLD 家系症例が発見され,GRN 変異によるFTLD が全FTLD のうちやはり10%を占めることがわかったが,VCP とCHMP2B の変異例は極めてわずかであることが示されてきた. 
 
【協賛】大日本住友製薬株式会社
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
企画講演V:今更人には聞けない認知症V-3
座長: 遠藤 英俊((独)国立長寿医療研究センター)
K5-3 11:00〜12:00
認知症疫学調査報告の読み方
下方浩史(国立長寿医療研究センター予防開発部),安藤富士子(愛知淑徳大学健康医療科学部)
アルツハイマー病を中心とする認知症には,現在のところ根本的な治療法,予防法がなく,病状 は長期にわたって慢性に進行して重症に至ることが多い.このため介護や医療に対する費用負担が 大きい.認知症の出現頻度は高齢になるほど高くなるので,日本の社会の高齢化にともなって今後 急速に患者数が増大し,介護や医療のための費用負担が急騰することが予想される.認知症の有病 率や発生率に関しての疫学統計が,今後の医療費予測や高齢者の介護・福祉のあり方に関してきわ めて重要な意味を持つと思われる.そのため,これまでも地方自治体で認知症の有病率に関する調 査が多く行われてきた.有病率を求めるためには理想的には地域住民の全員を対象にした悉皆調査 を行うことが必要であるが,悉皆調査は費用などの制約から比較的小規模の自治体でしか行えない. 県全体の調査などでは無作為抽出や病院・施設を中心に解析する方法が行われる.認知症の疫学統 計調査を行う場合には,認知症という疾患の持つ特殊性により以下のような問題点がある. 
(1)認知症の有病率が,特に前期高齢者では低いので正確な統計データを得るためには対象人数を多くしなければならない.
(2)認知症の診断を行うためには専門的知識を持つ 医師の協力が不可欠であり,また病型別の確定診断が困難であることも多い.正確な診断のた めには場合によっては頭部MRI やPET などの検査や剖検が必要である.
(3)認知症患者やその家族は,世間体などにより調査に対して消極的なことが多い.
(4)認知症は高齢者に多いため,身体機能の低下を認める者が少なくなく,会場に集まっていただいての調査が難しく,訪問による調査などが必 要で,調査が思うようにいかないことも多い.
(5)認知症の有病率を調べる場合,調査地域の高齢者の年代分布によって有病率が異なる可能性がある. 
(6)地域在住者を調査しても,重症者や問題行動のある認知症患者は施設に入所しているために,有病率が低く出てしまうことが考えられる. 
(7)認知症の年間発症率を調べる際には,縦断的な追跡が必要であり,また追跡を行っても認知症 が発症したという理由で,調査対象者から認知症発症者が脱落してしまうというケースが少なくない. 
(8)経過が長期にわたるため,疾患の予後を明らかにするような統計が得られにくい. 
これらの問題点のうち,特に重要なのはやはり診断基準の設定であろう.特にアルツハイマー病 と血管性認知症の鑑別は難しいことが多く,例えば脳卒中の既往に関しても,家族や本人からの聞 き取りだけでははっきりしない場合が多い.CTやMRI で脳梗塞像が認められていても,それだ けでは認知症の原因と確定することはできない. また軽度の認知機能障害のどこまでを認知症に入れるのかなど,認知症の重症度に関しての基準も 調査によって一定せず,調査間の比較検討が難しい. 
上記のような調査上のさまざまな制約から,これまでの認知症の疫学調査には多くのバイアスが あり,報告によって結果が大きく異なっていた.認知症疫学調査報告はそれぞれの調査の方法をよく理解したうえで,評価,比較することが必要である.
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
企画講演V:今更人には聞けない認知症V-4
座長: 森村 安史((医)樹光会大村病院)
K5-4 14:00〜15:00
認知症診断に役立つ神経徴候と簡易な神経所見
浦上克哉(鳥取大学医学部生体制御学)
アルツハイマー型認知症治療薬は従来塩酸ドネぺジル1 剤であったが,本年に入り新薬3剤が 発売されるに至っている.これにより認知症診療の主役であるかかりつけ医の認知症診療への関心 が高まり,早期診断の機会も増えてくることが期待される.しかし,早期診断の早期診断は難しく, 専門医への診察依頼も増加することが予想される. MRI やSPECT などの画像診断は有用であるが,どこの医療機関でもこの機器を備えているわけで はなく,また予約待ちで早急に検査できない施設も多い.神経徴候や神経所見を的確に捉えること ができれば,認知症の早期診断に役だつ.そこで,本講演では認知症認知症診断に役立つ神経徴候と 簡易な神経所見のとり方を紹介する. 
早期診断においてアルツハイマー型認知症との 鑑別が難しい疾患として脳血管性認知症,レビー小体型認知症等のパーキンソン症状をきたす疾患 群があげられる.脳血管性認知症では感情失禁,幅広歩行,神経所見としてバレー徴候,バビンス キー反射などが参考になる.レビー小体型認知症などのパーキンソン症候を呈する疾患では,振戦, 動作緩慢,筋固縮などが重要である.振戦はレビー小体型認知症や特発性パーキンソン病ではほぼ必発であるが,その他のパーキンソン症候群はほ とんど見られない.筋固縮は外観からは分からず,神経学的診察が必要である.姿勢は前傾前屈で, 歩行は小刻み歩行となる.パーキンソン症候群の代表疾患の一つである進行性核上性麻痺では,眼 球運動障害(垂直性),首の後屈などの所見がみられる.進行性核上性麻痺との鑑別がむずかしい 大脳皮質基底核変性症では他人の手徴候や症候の左右差が特徴的である. 
 
 
 
【協賛】ノバルティスファーマ株式会社/小野薬品工業株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階ムーンライト
デモンストレーション
 
14:00〜16:00
PaPeRo/HALの実演デモンストレーション
協力企業:PaPeRo(日本電気株式会社(NEC)),HAL(CYBERDYNE株式会社)
 
 
 

※「プレナリーセッション」「ランチョンセミナー」「アフタヌーンセミナー」は昼食・軽食有(整理券配布: 8:00〜11:30)   
6月17日(金) 京王プラザホテル南館5階エミネンス
プレナリーセッション
座長: 斎藤 正彦((医・社)翠会和光病院)
PL-1 12:00〜13:00
災害時の病院避難大作戦;Hospital Evacuation in Disaster
徳野慎一(防衛医科大学校防衛医学講座),柳川洋一(順天堂大学医学部救急部)
 
 
 
 
 
 
6月16日(木) 京王プラザホテル南館5階エミネンス
ランチョンセミナーI
座長: 上島 国利(国際医療福祉大学医療福祉学部)
12:00〜13:00
手品にだまされる脳を科学する
松崎 朝樹(国立精神・神経医療研究センター)
【共催】エーザイ株式会社/ファイザー株式会社
 
    
6月16日(木) 京王プラザホテル本館43階スターライト
ランチョンセミナーII
座長: 千葉 茂(旭川医科大学医学部精神医学講座)
12:00〜13:00
画像で見る脳内体験
大槻 泰介(国立精神・神経医療研究センター病院脳神経外科診療部)
【共催】日本脳神経核医学研究会/富士フイルムRIファーマ株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階ムーンライト
ランチョンセミナーIII
座長: 丹羽 真一(福島県立医科大学医学部神経精神医学講座)
12:00〜13:00
総合失調症の高齢化について;精神医療に及ぼす影響を予測する
染矢 俊幸(新潟大学)
【共催】大塚製薬株式会社
 
    
6月17日(金) ハイアットリージェンシー東京B1階クリスタルルーム
ランチョンセミナーIV
座長: 堀口 淳(島根大学医学部精神医学講座)
12:00〜13:00
わが国の認知症の歴史
新村 拓(北里大学)
【共催】株式会社ツムラ
 
    
6月17日(金) ハイアットリージェンシー東京B1階平安
ランチョンセミナーV
座長: 宇野 正威(吉岡リハビリテーションクリニック)
12:00〜13:00
認知症における美術・音楽療法の実践;認知症における美術活動の実践
山田 修一(東北芸術工科大学)
認知症における美術・音楽療法の実践;音楽が引き出すエネルギー -上川病院シニアアンサンブル-
折山 もと子(合奏システム研究所)
【共催】エーザイ株式会社/ファイザー株式会社
 
    
6月17日(金) ハイアットリージェンシー東京B1階白鳳
ランチョンセミナーVI
座長: 征矢 英昭(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
12:00〜13:00
運動療法の実践
本山 輝幸(総合能力研究所)
加藤 守匡(山形県立米沢女子短期大学健康栄養学科)
【共催】第一三共株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル南館5階エミネンス
アフタヌーンセミナーI
座長: 小林 建太郎((医)万成病院)
15:00〜16:00
モノアミンで捉えるBPSD
有田 秀穂(東邦大学医学部統合生理学)
【共催】アステラス製薬株式会社
 
    
6月17日(金) 京王プラザホテル本館43階スターライト
アフタヌーンセミナーII
座長: 山田 光彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
15:00〜16:00
地域で高齢者の自殺を予防する
本橋 豊(秋田大学大学院医学系研究科)
【共催】旭化成ファーマ株式会社