日本老年精神医学会

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大会概要プログラムタイムテーブル



　: 6月16日　京王プラザホテル本館43階ムーンライト　14:30～15:15; 老年精神薬理②; 座長：妹尾　晴夫（松江青葉病院）; P-D-6　; 認知症患者のせん妄に対するラメルテオンの効果; 関口　裕孝（（医）静心会桶狭間病院藤田こころケアセンター，名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野）; 【目的】認知症高齢者がせん妄を呈する場面はしばしば遭遇する．治療の基本戦略は①器質的要因の精査，②誘発因子除外，③対処療法的薬物治療であるが，向精神薬の投与は転倒転落／傾眠などのリスクがあるため適切な睡眠－覚醒リズムの確保等，非薬物療法による最適な身体環境を確保するための介入が望まれる．ラメルテオン（ロゼレム#Q9362;）はメラトニン受容体アゴニスト作用を有する新しいメカニズムの睡眠薬であり，神経遮断薬に伴う過鎮静がなく，その安全性から高齢者の睡眠治療に期待がもたれている．我々は入院中の認知症患者のせん妄に対してラメルテオンが有効であった症例を経験したので報告する．; 【倫理的配慮】本発表に際し匿名性に配慮し，院内倫理委員会の承認を得ている．; 【症例1】77歳男性，レビー小体型認知症．75歳時に記憶障害で発症．その後，幻視，物盗られ妄想を認め近医受診．易怒的で家族と口論し包丁を持ち出したため当院入院した．入院時，幻視とカプグラ症候群を認めた．夕方から夜間にかけて興奮状態になることが多く，易転倒性が目立った．薬物療法により一時BPSDは軽減したが入院第10病日より誤嚥性肺炎を併発．抗生剤投与を試みるも治療協力が得られないためやむを得ず身体拘束をしたが，「警察に電話，殺される！」「救急車を呼んでください．昨夜電車に乗って転倒しました」と不穏となり点滴抜去，暴力行為がみられた．心理検査時は協力的だが傾眠傾向で混乱する場面がみられるなど経過中に症状の変動を認めた．26病日よりラメルテオン開始．28日病日頃には不穏が軽減，穏やかに会話できる時間が増え睡眠も確保されるようになった．; 【症例2】87歳男性．アルツハイマー型認知症．86歳時に記憶障害，物盗られ妄想，着衣失行を認めた．徘徊，放尿，易怒性のため施設入所するも夜間窓ガラスに話しかけては怒り額を叩きつけ，「虫がいる」と幻視を訴えた．向精神薬が数種類投与されたがふらつきのため中止せざるをえず当院入院となった．入院時よりせん妄が認められラメルテオンの投与を開始した．数日間は食事を促しても疎通がとれず，「ごめんなさい，いやいや．もうすぐ○○（患者の姓）に行きますから．」など意味不明の言動，夜間徘徊，放便を認めた．しかし第5病日から平穏となり昼夜のリズムも整い，介護になじむようになった．; 【考察】上記症例はラメルテオンが薬理効果を示す7日以内に症状の改善が認められた．本薬剤が睡眠リズム障害の改善を介してせん妄症状を緩和したことが示唆された．ラメルテオンは睡眠－覚醒リズムに働きかけ睡眠リズムを安定させる一方でふらつきや記憶への影響がないことから，高齢者せん妄治療の選択肢になりうると考えられた．; P-D-7　; ドネペジル使用後4-5年時点の治療効果と治療上の問題点; 井上　淳（浜松医科大学精神神経科）; 【目的】われわれは長期間ドネペジルを使用した症例の治療効果と治療上の問題点を継続的に調査し，第23回本学会でドネペジルによる治療効果は治療後3年を経過した前後に分岐点があり，BPSDへの対応を含めた治療方針の見直しが必要になることを報告した．今回はさらに長期間での治療効果をみるため，使用後4－5年時点での治療効果と治療上の問題点を検討した．; 【方法】対象は岡本クリニックで3年以上ドネペジル（5mg/day）による治療を受けたアルツハイマー病の外来症例84例である．対象の性別は男性19例，女性65例で，治療前の平均年齢は76.9±6.5歳（60歳－88歳）であった．対象は治療前CDR，Mini Mental State Examination（MMSE），Rorschach testによる認知評価（RCI）による評価を受け，治療開始後4か月ごとに同じ評価を受けた．; 【倫理的配慮】認知症の診断と予想される経過，ドネペジルによる利益・不利益を全ての症例と介護者に説明し，口頭での治療への同意と評価結果の研究への使用の同意を得た後に治療を開始した．本研究は岡本クリニックの倫理委員会の承認のもとに行われた．; 【結果】対象の84例のうち，65例（77％）は使用後4年時点で治療を継続し，19例（23％）は使用後4年未満で治療を終了しいていた．治療終了群の平均治療期間は41.7±2.6月（36－45月）であった．治療継続群の5％，治療終了群の26％で使用後3年以後にBehavioral and psychological symptoms of dementia（BPSD）が発現し，治療終了群では認知症の進行に伴う徘徊・多動・易怒性などのために治療終了した例がみられた．また，4年以上治療を継続した65例のうち，59例（91％）は治療を継続しており，その内42例（65％）は使用後5年時点で治療を継続しており，6例（9％）は使用後5年未満で治療を終了していた．治療終了群の治療期間は52.2±2.5月（48－54月）であった．使用後4年時点で治療を継続していた群のCDRは，使用前（1.2±0.4）と比較して，使用後3年時点（1.3±0.6）では有意な差異はみられなかったが，使用後4年時点（1.4±0.7）で有意に高かった（p＜.01）．使用後4年時点までに治療を終了した群のCDRは使用前（1.2±0.5）と比較して，使用後3年時点（1.6±0.6），終了前（1.8±0.7）に有意に高かった（p＜.01）．また，使用後4年時点で治療を継続していた群の71％は使用前のCDRを維持していたが，26％で1段階，3％で2段階以上のCDRの悪化がみられた．使用後5年時点で治療を継続していた群のCDRは1.5±0.6で，使用前の1.1±0.4より有意に高かった（p＜.001）．5年時点での治療継続群の42例中22例（52％）は使用前のCDRを維持していたが，20例（48％）で1段階CDRの悪化がみられた．; 【考察】今回の結果から，ドネペジル（5mg/day）の治療効果は使用後3年と4年では大差はないが，使用後5年ではそれまでの高い治療効果が維持されにくくなることが示唆された．; P-D-8　; BPSDの薬物治療におけるアカシジアの重要性; 北村　真希（石川県立高松病院）; 【目的】近年，介護施設や一般科でも　BPSDの治療に抗精神病薬が使用されている．副作用のうち，過鎮静や錐体外路症状は容易に発見されるが，アカシジアは多動，焦燥，内的不穏が主症状であるため，BPSDの悪化と混同されやすいと思われる．特に認知症患者ではアカシジアに必須の主観的な訴えが乏しく，アカシジアが看過されている可能性があると考える．しかし，認知症高齢者に生じたアカシジアについては，我々の症例報告以外はなく，今回，BPSDの薬物治療におけるアカシジアの重要性を指摘したい．; 【方法】平成22年1月1日から12月31日の間に当院急性期病棟に入院した患者のカルテレビューを行った．; 【倫理的配慮】集団としての臨床的特徴の検討であり，個人は特定できない．また，症例呈示の際には要旨に支障がない部分は変更した．本報告は当院の倫理委員会で承認を受けている．; 【結果】期間中の入院患者数は197名（男性84名，女性113名）で，入院時にアカシジア様症状を認めた患者は21名（男性10名，女性11名），入院中に症状が出現した患者は5名（男性2名，女性3名）であった．アカシジア様症状とは抗精神病薬使用で悪化した多動，焦燥で，客観的に運動亢進，特に下肢の運動亢進が見られるものとした．入院時に症状を有した患者は，14名が精神科，5名が一般科，2名が介護施設より抗精神病薬の処方を受けていた．; 【症例1】72歳男性，易怒的で，ささいなことにこだわるため，X－1年8月近医初診．複数の抗精神病薬が使用されたが，多動，脱抑制，易怒性が悪化し，X年2月当院初診．眠気と多動が目立ち，制止すると爆発的に怒り，座位保持も不十分で，流涎，パーキンソニズムを認め，入院となった．疎通不良だが，アカシジアを考え，抗精神病薬は減量した．3月には落ち着いて過ごすようになり，4月自宅へ退院した．（血管性認知症）; 【症例2】78歳，女性，近医や施設嘱託医により抗精神病薬が使用されるも，多動かつ暴力的でX年8月当院初診するも，不穏で診察もできず，入院となる．抗精神病薬は漸減，中止した．疎通困難で，睡眠時間以外は足踏みを続けたり，自分の大腿を叩いたりを繰り返した．9月中旬より〝脚がむずむずするか？〟とたずねると「はい」，「つらい」と自覚症状が明らかとなった．抗精神病薬は使用せずに6ヶ月が経過しても，興奮や不穏の悪化はない．しかし，足踏みは続き，太ももを激しく叩き「びりびりする」と話す．（レビー小体型認知症）; 【考察】入院時に約10％の患者でアカシジア様症状を認め，BPSD治療においてアカシジアの存在は常に考慮するべきであろう．　しかし，認知症患者や意識障害を伴う患者ではアカシジア特有の自覚症状を表出困難な場合があり，症例1のような病態がアカシジアかは議論がある．結果的に抗精神病薬の減量・変更で症状は改善しており，臨床的にはアカシジアとして治療する意義がある．このため，高齢者ではアカシジア症状のうち，客観的症状からアカシジアを推測する必要がある．抗精神病薬使用では，一定量を使用しても期待した効果が得られなければ減量，中止を考え，むやみな増量は避けることが望ましいのであろう．; P-D-9　; レビー小体型認知症・パーキンソン病に伴う幻覚妄想に対するアリピプラゾールの有用性；連続16例に対する低用量投与の経験; 高橋　淳（南草津けやきクリニック，水口病院精神科）; 【目的】レビー小体型認知症（DLB）およびパーキンソン病（PD）に伴う精神病症状に対して抗精神病薬を投与する場合，運動機能の悪化をはじめとする有害事象が惹起される危険が大きいため注意が必要である．現在，効果と安全性の面から，クロザピン，次いでクエチアピンが推奨されているが，クロザピンは顆粒球減少症，クエチアピンは血糖値の上昇・体重増加などの副作用のため，その使用が制限される場合も多い．　アリピプラゾール（APZ）については，いくつかの報告があるが，著効とするものもあれば，副作用の大きさを強調するものもあり，一定の見解は得られていない．しかし有害事象が大きかった例では，比較的高用量のAPZが投与されていたように思われる．今回われわれは，DLBおよびPDに伴う精神症状と行動障害に対し，低用量のAPZを用いて治療を行い，有用性の検討を行った．; 【倫理的配慮】患者ないし家族に研究の趣旨を説明し，書面にて同意を得た．また連結可能匿名化をした上で解析を行った．; 【対象と方法】精神病症状・行動障害に，コリンエステラーゼ阻害薬が奏功しなかったDLBおよびPD患者連続16例に対し，低用量のAPZによる治療を実施した．主要アウトカムは，治療開始時と8週目のNPI‐NHスコアの変化率とし，ベースラインから25％以上の減少を認めた場合，有効と判定した．APZは1～3mgで開始し，最大6mgまでとして，原則1週間単位での増減を行った．; 【結果】参加者は，DLB患者9名（女性6名）とPD患者7名（女性4名），平均年齢76.9±6.8歳であった．エントリー時のHDSRは15.7±6.3，PD患者は全例レボドパによる治療を受けていた．　APZの初回投与量は1.8±0.6mg，観察期間中の最大投与量は3.6±1.9mgであった．16例中4例で，投与開始後2週間以内に眠気，過鎮静，肺炎が生じ，APZの投与を中断した．それ以外の症例では，8週目の時点で，身体機能の悪化やADLの低下は認めなかった．　有効と判定されたのは，16例中10例であった．ベースラインの情報を比較すると，有効群では，平均年齢が低い（有効群76.1±4.9歳，無効群78.0±8.3歳），HDSR高得点（有効群17.9±5.3，無効群10.0±4.0），NPI‐NH低得点（有効群62.4±18.8，無効群66.0±23.0），などの傾向があった．またPD患者に対しては7例中6例が有効であり，DLB患者では9例中4例が有効であった．副作用により中断した4例は全てDLBで，うち2例が脳梗塞の既往を有していた．; 【結論と考察】今回の結果からは，低用量のAPZは，PDに伴う精神病状態に対して有用である可能性が示唆された．DLBに対しては，効果もあるが，有害事象が出現しやすい傾向があり，他の抗精神病薬と比較して特に有用性が高いとは言えないようであった．しかし，年齢，罹病期間，認知症の重症度，精神症状の重症度が交絡因子となっている可能性や，脳血管障害の併発などの要因が結果に影響している可能性を考慮しなければならないため，PDとDLBで有用性が本当に異なるのか，今後さらに検討が必要である．; P-D-10　; 認知症の嚥下障害に対するシロスタゾールの有効性の検討; 中原　正雄（昭和大学医学部精神医学教室）; 【目的】認知症においては，進行とともに高頻度に嚥下障害がみられ，誤嚥性肺炎の合併は生命予後にも影響する．誤嚥性肺炎の管理と予防は認知症の臨床において重要な問題である．先行研究では，脳梗塞の再発を抑止するために広く用いられているシロスタゾールが脳梗塞患者の肺炎の発症を抑制するという報告があり，その機序として，シロスタゾールが嚥下反射の調節に関与するSubstance Pを産生することで嚥下反射の改善につながる可能性が示唆されている．嚥下障害と血清Substance P値との間に有意な相関を認めたとする報告もある．本研究では，認知症入院患者における嚥下機能の客観的な評価と血清Substance P値の計測とを経時的に行いながら，シロスタゾールにより嚥下機能が改善するかを検討した．; 【方法】対象は昭和大学附属烏山病院の認知症治療専門病棟に入院した認知症患者10名（男性1名，女性9名，平均年齢78.9歳，平均MMSE14.6点）．診断内訳はアルツハイマー病6名，レビー小体型認知症3名，血管性認知症1名．原疾患に対する標準的治療に加え，シロスタゾール50mg／日を7日間投与し，以後100mg／日を5週間投与する群（シロスタゾール群）と，原疾患に対しての標準的治療とプラセボ投与による治療を6週間行う群（対照群）に封筒法を用いて割り付け，シロスタゾールの嚥下障害に対する有効性を比較した．投与前後で嚥下機能検査，心理検査とともに血清Substance Pの測定を行い，変化を比較した．嚥下機能検査と心理検査は割り付けにそれぞれblindな歯科医師と心理士が実施した．嚥下機能は口腔反復唾液嚥下検査と改訂水飲み検査，簡易嚥下誘発試験で評価し，心理検査はMMSEと標準意欲評価法（CAS）で評価した．; 【倫理的配慮】本研究は昭和大学医学部・医の倫理委員会において承認され，保護者から文書による同意を得た．; 【結果】シロスタゾール群，対照群ともに嚥下機能検査や心理認検査の成績，血清Substance P値に関して，投与前後で有意な変化はみられなかった．しかし，投与前後における簡易嚥下誘発試験の成績の変化と，血清Substance P値の変化との間に有意な負の相関を認めた（R＝－0.77，p＜0.01）．; 【考察】現時点では，エントリ症例数が少ないこともあり，プラセボ群と比較して，シロスタゾールの投与が嚥下機能の改善や血清Substance P値の増加につながる効果を確認することはできなかった．シロスタゾールの服用が認知症における嚥下障害や誤嚥性肺炎の発症を軽減し得るか否かについては，疾患の差異や認知症の重症度，他の服薬状況などを考慮し，さらに検討する必要があると思われた．しかしながら，血清Substance P値の変化は簡易嚥下誘発試験の結果と有意な相関がみられ，血清Substance Pは臨床的に嚥下機能の指標として有用である可能性が示唆された．

　　: 6月16日　京王プラザホテル本館43階ムーンライト　15:15～16:00; 症例報告①; 座長：小山　恵子（東京医科歯科大学保健管理センター）; P-D-11　; 躁状態による措置入院後に神経梅毒の存在が明らかとなった１例の治療経過；Penicillin大量療法に伴う心理検査所見の変化; 宗岡　克政（学而会木村病院）; 【目的】進行麻痺は今日，新たにみられる病状としてはまれなものになっている．今回，躁状態による措置入院を契機に，未治療の神経梅毒の存在が明らかとなり，Penicillin大量療法により精神症状の改善をみた症例を経験したので，治療経過における心理検査変化を血液・髄液所見とともの呈示する．; 【方法・結果】臨床経過およびPenicillin療法前後の心理学的検査．; 【倫理的配慮】発表に関しては，本人の同意を得るとともに個人が特定されないよう配慮した．; 【症例】65歳，男性．生活歴：中学卒後，商店に勤め，その後，60歳前半までタクシー運転手として勤務．未婚．既往歴：特記事項なし．現病歴：X－1年末，親戚の者に「会社を興す」などと話している．X年2月深夜，長距離をタクシーに乗ったが，料金のことで苦情を言い運転手とトラブルとなり暴力行為に至ったため警察に保護された．しかし，取調中，話の内容が誇大で辻つまが合わないため，鑑定後に基幹病院に措置入院となった．向精神薬投与による加療を受け，5日後に当院へ入院となった．向精神薬の投与を継続したが，周期的に興奮を示すとともに，失見当識や過去の記憶の錯誤がみられた．血清梅毒反応が陽性（ガラス板法128倍，TPLA10000u）であったため髄液検査行ったところ，細胞数増加，タンパク増加，Nonne‐Apelt反応およびPandy反応の陽性所見がみられ，梅毒抗体価検査においてRPR法2倍，TPHA5120倍であった．神経梅毒と判断し経静脈的にPenicillin大量療法（2400万単位を14週間）を行った．その結果，興奮，誇大的内容の話は減少し，おだやかな対応ができるようになった．一方，事件当時の記憶はあいまいなままであった．Penicillin治療後の髄液所見において，細胞数およびタンパクの低下，Nonne‐Apelt反応の陰性化がみられた．; 【心理学的検査所見の変化】Penicillin治療前では，HD‐R：19/30，MMSE：16/30，COGNISTATにて構成が重度障害，計算が軽度障害であった．Penicillin治療後は，HDS‐R：25/30，MMSE：21/30，COGNISTATでは見当識，言語理解および復唱が重度障害であった．また，Bender Gestalt検査においては，Penicillin治療後に図形描写の配列が整頓されたものに変化した．; 【考察】今回，65歳で発見された未治療の神経梅毒（進行麻痺）症例に対し，Penicillin大量療法を行った．治療により髄液の炎症所見は改善したが梅毒抗体価は不変であった．誇大な内容の思考や興奮は改善したが過去の記憶の欠落がみられ，治療前のせん妄など軽度意識障害の存在が疑われた．心理検査では，Penicillin治療後のHDS‐RやMMSEにおいて成績の改善がみられたが，COGNISTATにおいては構成能力が改善する一方，見当識や言語記憶の低下がみられるなど，治療経過にそって多彩な認知機能障害がみられた．その中で，治療前の活動期の視覚認知の障害とその改善が特徴的と思われた．; P-D-12　; Aripiprazoleが認知機能の改善に有効であった高齢者統合失調症の一例; 清水　義雄（（特医）万成病院）; 【はじめに】近年，統合失調症の転帰に関して，陽性症状や陰性症状よりも認知機能の障害がより強い影響力をもっていると指摘されており，統合失調症においても認知機能の評価が重要視されている．また高齢者統合失調症の診療においては，その認知機能障害が治療可能なものか，認知症の合併によるものかなどを鑑別する必要がある．今回我々はAripiprazoleが認知機能の改善に有効であった高齢者統合失調症の一例を経験したので報告する．なお，個人を特定できないように配慮し，病歴の一部に変更を加えた．また薬剤処方に関しては本人および家族に対し作用・副作用について十分な説明を行い，理解・同意を得ている．; 【症例】79歳女性．大学卒業後，中学校教員として定年まで勤務した．25歳で結婚したが子どもはおらず，夫と2人暮らしであった．72歳時に被害妄想，幻聴，自傷行為がありA病院にて統合失調症と診断され，74歳時までに3回の入院歴がある．その後グループホームに入所や療養型病院に入院したが自宅に帰りたがり，夫が面倒をみながら近医で投薬をうけていた．平成X年1月に夫が急死．子供はおらず遠い親戚が世話をしようとしたが，「財産を盗られる．殺される．」と訴え，近所に助けを求めたり救急車を呼んだりするようになり，自宅で単身生活を送れなくなり当院に入院した．長谷川式スケールは23点．Olanzapine15mgの内服を始めたがその訴えは変らなかった．2月に施行したWAIS‐Ⅲは，言語性（VIQ）98，動作性（PIQ）68，全検査（FIQ）83，群指数は言語理解（VC）102，知覚統合（PO）66，作動記憶（WM）90，処理速度（PS）84であった．3月自宅に外出し何も盗まれていないことを確認したが，その後も精神状態は改善せず「金庫はあったけど中身のお金は盗まれていた．」「先生にあんたになんか紹介できる施設はないと言われた．」と訴えるなど被害妄想が続いた．6月Olanzapineを10mgに減量しAripiprazole3mgの内服を開始．9月には気分に波があるものの病棟での作業療法に参加ができるようになり，10月には退院を目標に施設見学が出来るようになった．11月に施行したWAIS‐Ⅲは，VIQ101，PIQ87，FIQ95，群指数はVC104，PO89，WM92，PS97と改善していた．親戚に対する妄想発言もなくなり一緒に外出することも可能となった．; 【考察】統合失調症の認知障害に対する薬物療法については，非定型精神病薬が定型精神病薬よりも有効であるという報告と同等の効果とする報告がある．AripiprazoleについてはOlanzapineと同等の効果がみられたとの報告はあるが，それ以上の研究はなされていない．本症例では少量のAripiprazoleが認知機能，特に知覚統合の改善に有効であることが示唆された．本症例をとおして高齢者の統合失調症では認知機能の改善がありえること，評価スケールにWAIS‐Ⅲを使用することで群指数別の分析が可能であることを指摘したい．; P-D-13　; 数年来にわたるせん妄症状が前駆したDLBの一症例; 梅田　健太郎（名古屋大学医学部附属病院精神科）; 【目的】老年期の幻視妄想を呈する疾患としては，DLB等の認知症に伴うものや，シャルル・ボネ症候群，せん妄など種々の病態が考えられる．今回，我々は，緑内障により重度の視覚障害があり，腎臓疾患でステロイド内服中にせん妄症状を間欠的に数年来呈し，その後，幻視症状が前景となり，心筋シンチ等の精査の結果DLBと臨床診断した症例を経験したので報告する．; 【症例】69歳男性; 【生活歴／家族歴】生育に特記すべき事なし．大学卒業後食品製造業に就職し，60歳で定年退職．血縁者に認知症，精神科受診歴なし．; 【既往歴】30歳頃，右被殻出血（左不全麻痺）．40歳より，緑内障（当科受診時左眼：失明　右眼：光覚弁）．; 【現病歴】X－3年5月，A大学病院腎臓内科に入院しネフローゼ症候群と診断される．ステロイドパルス療法施行中，幻覚妄想状態となり内科より精神科へ治療依頼された．ステロイド誘発性のせん妄が疑われ，抗精神病薬投与開始．リスペリドン4mgまで増量されたが，動揺性の意識障害が遷延し，腎臓内科退院後2か月間精神科外来へ通院し一旦は寛解した．X－2年，再び同病院腎臓内科入院中に幻覚妄想を呈するせん妄状態となり精神科へ依頼された．各種非定型抗精神病薬を試みられたが最終的にクロルプロマジン25mgで改善した．X年3月頃から「小動物や小さい子供が部屋に入ってくる」と言うようになり，話しかけたりするようになった．X年6月A大学病院精神科に精査加療目的で入院した．; 【倫理的配慮】本症例の報告にあたっては，個人が特定されないよう倫理的な配慮を行った．匿名化した発表において本人および家族の同意を得た．; 【検査所見】入院後，意識レベルの動揺，幻視，ごく軽度のパーキンソニズム，夜間の驚愕を認めた．MMSE，HDS‐Rにて近時記憶の軽度低下を認めた．MRIでは両側海馬の軽度萎縮を認め，SPECTでは後頭葉の血流低下，MIBG心筋シンチでH/M比の低下を認めた．以上よりprobable DLBと診断した．; 【経過】幻覚妄想に抑肝散（5.0g／1日）が著効したが，腎臓内科からの利尿剤と併用で低カリウム血症となった．塩酸ドネペジルを開始したが，易怒的となるため中止．カリウム補充しながら抑肝散を続行とした．現在は自宅介護下で安定した生活を送っている．; 【考察】本症例はステロイドパルス療法中に幻覚妄想状態が出現し，当初はせん妄あるいはステロイド誘発性精神病が疑われた．その後3年の経過の後に幻視が出現，精査の結果DLBと診断された．病態として，DLBの脳変性を基盤に，視覚障害，ステロイド投与などの要素が影響したと考えられる症例である．経過の長い治療困難なせん妄の病態の背景には，DLBも含まれていることが示唆された．; P-D-14　; 老年期に嫉妬妄想を呈した2女性例; 紋川　友美（金沢医科大学精神神経科学教室）; 【目的・方法】老年期に嫉妬妄想を呈した2女性例を報告する．2例を比較検討することで，嫉妬妄想の背景を考察する．; 【倫理的配慮】報告に際しては患者および家族に口頭で同意を得た．また，匿名性の維持のため，報告の趣旨に触れない範囲で患者背景などに修正を加えた．; 【症例1】82歳女性．既往歴：80歳時に胃癌・大腸癌で手術．81歳時にペースメーカー植え込み．生活歴：尋常小学校卒業．卒業後は工員として勤務し，70歳まで続けていた．18歳のときに姉が死亡し，その夫と結婚．子供が独立した後は，夫と二人暮らしであった．現病歴：81歳のペースメーカー植え込み後，夫がうまく調理をこなすのを見て，「誰か女性に教えてもらったのだ」と確信するようになった．また，金銭の紛失も「夫が女に貢いだ」と信じ込んだ．このため夫婦間で喧嘩が絶えなくなり，当科に入院となった．入院経過：リスペリドン1－2.5mg／日の投与により1ヶ月程度で妄想は消失した．検査所見：頭部CTで両側放線冠・基底核にラクナ梗塞．SPECTでは両側前頭葉のびまん性の血流低下．HDS‐Rは23点．WAIS‐RではFIQ68（PIQ67，VIQ73）．また前頭葉機能の低下を認めた．; 【症例2】75歳．既往歴：65歳よりパーキンソン病で加療．生活歴：大学卒業．58歳まで公務員として勤務．第2子の出産後，体が弱いので性交を控えるように医師に言われたという．子供が独立した後は夫と二人暮らしであった．元来が姿勢の良い人であるが，数年前から背中が曲がりだしたのを気にしていた．現病歴：74歳になって，壁に幾何学模様が見えるなどの幻視があった．同時期に夫が同年代の知人女性に優しくしているところを見て浮気していると確信し，別の同年代の独身女性がその相手であると信じ込んだ．その後より，家の中で女性の嬌声が聴こえるようになった．このため，相手の家に電話して脅迫的な言辞を弄するなどしたため，他院神経内科に入院．抗パーキンソン薬の減量やクエチアピンの投与などの加療を施されたが，症状改善せず当科に紹介，入院となった．入院経過：腎硬化症に加えて薬剤性と思われる腎機能障害のため，クエチアピンの増量も困難で100mg／日から50mg／日に漸減．妄想は不変だが，「もう終ったことだ」と受け入れるようになった．検査所見：頭部MRIでは脳室周囲に軽度の血管性変化を認めた．前医でのSPECTでは両側前頭葉・頭頂葉の血流低下．HDS‐Rは29点．WAIS‐3ではFIQ91（PIQ76，VIQ111）だが，思考の柔軟性の欠如を認めた．; 【考察】症例1はMCIレベルで記憶障害が妄想の背景にあると思われる．症例2はパーキンソン病の経過中に出現した嫉妬妄想で，幻覚をともなっていた．2例とも前頭葉機能の低下を示唆する所見を認める点で共通していた．また，夫と二人暮らしである点，身体の衰えが背景にあると思われる点，結婚生活に屈託した思いを抱いていたと考えられる点などが共通していた．; P-D-15　; 発達障害の特性を備えた老年期適応障害の一例; 荻原　朋美（信州大学医学部精神医学講座）; 【背景】発達障害の概念が定着し，小児の症例にとどまらず近年では成人でも注目を集めている．「難治例」「治療抵抗性」と考えられていた症例に対して，発達障害の概念を用いることで，その病態が紐解けることは少なからず経験される．現在は，成人期の発達障害に関する議論も活発になってきているが，彼らが老年期を迎えたときにどのように老年期の心性と向き合っていくのか，どのような問題が生じうるのかを論じている文献は少ない．今回，発達障害の特性を備えた老年期女性の症例を経験した．症例の経過について報告し考察を加える．; 【倫理的配慮】患者の匿名性に配慮し，個人情報については一部改変を加え，発表について本人および家族の同意を得た．; 【症例】82歳女性．若い頃から気持ちの浮き沈みがあった．子供の結婚や両親の他界などを契機に抑うつ状態が続いたこともあった．10年前に両側大腿骨頭置換術を受けて以来，「歩けなくなって，何もできなくなった」とふさぎ込むようになった．夫が他界して数年経ってから，不安焦燥が悪化し，自宅で叫び声を上げる，杖で家の中を叩いて回るなどの逸脱行為があったため，当科紹介．認知機能には問題が無く，うつ病と診断し，抗うつ薬が投与された．家庭内の些細な変化で不安焦燥が悪化することを繰り返し，同居の家族が共稼ぎであるため，デイサービスの利用などで不安を軽減しようとしたが，「家に居たい」と利用を拒否した．しかし，自宅では不安焦燥と興奮を繰り返し，当科入退院を繰り返した．入院後の病歴聴取で，成年期における以下のような行動特性が判明した．①非常に頑固で，事務員の仕事をしたときに頑固すぎて解雇された．②友人は誰一人おらず，親戚づきあいができない．家族が付き合いを肩代わりし，夫が亡くなってからは病院以外には自宅から出たことがない．③予定通りに事が運ばないと気が済まない．④何かを言うと字義通りに受け取ってしまう．⑤同じ店にしか行かない，同じ道しか通らない，同じ物しか注文しない，など．加齢のために身体的な変調を来たし，日中一人での留守番の最中には強い不安を感じるのだが，こだわりのためにデイサービスなど自宅外の活動に参加するのにも，非常に強い不安を感じ，その二つの不安のせめぎ合いから，パニックを起こし，自宅で叫び声を上げるなどの行動に至っているものと推測された．; 【考察】近年，成年期に診断される発達障害の症例も増えているが，高齢者の場合には，若年期の情報を知る者も少なく，発達障害であると確定診断するのは極めて困難である．しかし，現実には，加齢性の「偏屈さ」「頑固さ」などと思われて，その特性を見過ごされていた症例は少なからずいるものと思われる．本例でも，病態の診立てが当初は困難であったが，中年期から現在に至るまでの行動特性の情報を得る事ができ，発達障害の視点から再度検討しなおすことで病態の理解に繋がった．老年期においては，発達障害であるとの確定診断をつけることにこだわりすぎず，症例の理解や特性を踏まえた対応に繋げるために，発達障害の視点をもって症例を考える事も有用であると考える．

　　: 6月16日　京王プラザホテル本館43階ムーンライト　16:00～16:45; 症例報告②; 座長：新井　哲明（筑波大学大学院人間総合科学研究科）; P-D-16　; 有棘赤血球を伴う舞踏病の1例; 小林　清樹（札幌医科大学神経精神医学講座）; 【目的】有棘赤血球を伴う舞踏病は，成人発症で，口周囲の不随意運動および頭部四肢の舞踏病様不随意運動，深部腱反射の低下あるいは消失，咬唇・咬舌などの自傷行為を臨床的特徴とする原因不明の神経変性疾患である．有病率は，100万に1人と推定される極めて稀な疾患である．発症年齢は，16－50歳と報告されており社会生活が困難となる．一般に，経過は10年以上と言われており，少しでも早期発見し，特定難病としてのケアをすることが肝要である．このような見地から，貴重な症例を経験したので，若干の考察を交えて報告する．; 【倫理的配慮】本報告については家族に研究の主旨・内容を説明して書面にて同意を得た．; 【症例】現在50歳男性．同胞3人の第2子．遺伝負因に関しては，認知症の母親がいたが既に他界しており詳細不明．短大を卒業後，A市にて42歳まで工場に勤務していたが，解雇となり（詳細不明），無職．X－3年（42歳）頃より，ときどき体がゆれる・首が動くなどの症状が出現．地元の精神科を受診したが，特に異常は指摘されていなかった．X年（45歳），実家を訪れた際に，当院精神神経科（以下当科）を初診．主訴は同様の不随意運動であったが，診察時は判然としなかったため経過観察とした．しかし，同時期くらいより，不随意運動の他に，自分本位の行動や交通違反を繰り返し免許取消になるなどのエピソードがあった．X＋1年頃より，お金を持っているのに万引きをするという行動も出現．執行猶予がついていたにも関わらず，罪の意識もなく繰り返すため，X＋4年に実刑を受けた．出所後のX＋5年，てんかん重積を起こし，砂川市立病院（以下，当院）脳外科に入院．痙攣の原因となるような脳腫瘍や脳卒中等は認められなかった．多動・脱抑制的な行動で脳外科では管理困難となり，抗てんかん薬の調整後，当科へ転科．入院時，神経学的に，口唇のジスキネジアのため，咬唇・咬舌あり，歩行時の膝の屈曲・発話時の頭の振りなどの不随意運動（chorea）があった．深部腱反射低下．ややwide basedで前傾歩行．構音障害があるものの失語はない．収集行為などの前頭葉症状が顕著であった．心理検査では，MMSE21点，HDS‐R14点．頭部MRIでは，大脳皮質・尾状核の萎縮が著明．脳血流SPECTでは，後頭頭頂葉の血流低下．鏡検では，有棘赤血球が認められた．; 【考察】有棘赤血球を伴う舞踏病の多くは，①有棘赤血球舞踏病（Chorea acanthocytosis），②McLeod症候群で占められ，少数例として③Huntington Disease‐like2，④パントテン酸キナーゼ関連神経変性（PKAN）もこの群に含まれる．本症例は，発症年齢・人種等を考慮すると，①か②と考えられる．臨床症状としては，不随意運動が初発症状であることが多いが，前頭葉機能障害も認められることが多く，その他，抑うつ・不安・統合失調症様の症状などを伴うこともある．また，精神症状が初発の例も報告されており，精神科医にとっては，常に留意する必要がある．当日は，さらに詳細な検査データ等も加えて報告する．; P-D-17　; NaSSAとSNRIの増強療法が遷延化した重症のうつ状態に奏効した老年期うつ病の1例; 岩崎　真三（（医・社）浅ノ川桜ヶ丘病院）; 【はじめに】顕著なうつ状態が遷延化した老年期のうつ病性障害にミルタザピン（NaSSA）とデュロキセチン（SNRI）の増強療法（augmentation）が奏効した1例を経験したので報告する．なお，倫理面においては，当学会での発表に際してその目的を患者本人および保護者に十分に説明したうえで，書面による同意を得た．; 【症例】症例は83歳の男性，開業医．元来より几帳面で勤勉，責任感の強い性格である．躁状態の既往はなく，姉が自殺した家族歴がある．X－6年に医療トラブルによる3ヵ月の医療停止処分を受けたことが心的ダメージとなり，その後から顕著なうつ状態（著しい抑うつ気分，意欲発動性減退，活動性低下，興味・関心の欠如，会話量の減少，罪業感，食欲低下，不眠，など）を呈するようになり，全く外出もせず自閉的な生活を送るようになった．A病院精神科に半年間入院の後，B病院精神科に6年もの長期間外来通院を継続したが，うつ状態の改善が全く得られないうえ，一日中臥床状態で過ごすなどADLの低下や軽度認知機能低下も認められるようになったため，確定診断および入院加療目的で，X年11月12日に当院に任意入院した．入院時，HAM‐Dは24点で重度のうつ状態を呈しており，看護師の援助による食事と排泄以外は一日中ベッド上で臥床して過ごした．特に，活動性低下を主に抑うつ気分，意欲低下，会話量の減少，罪業感などが目立ったが，疎通は保たれていた．頭部CTでは両側前頭葉皮質の軽度脳萎縮とごく軽度のラクーナのみが認められた以外，検査所見に異常はなかった．入院後はNaSSAとSNRIの増強後併用療法を念頭に，まずミルタザピン（MIR）を15mg／日より投与開始し，1週毎に15mg／日ずつ増量し，入院後2週で45mg／日の最高用量まで急速増量した．この状況で2週間経過観察の後，うつ状態に大きな改善が認められなかったため，入院後4週よりデュロキセチン（DLX）を20mg／日より追加投与し，その1週後より40mg／日に増量する抗うつ薬の増強療法を試みた．入院後7週，MIR：45mg＋DLX：40mg／日の増強療法開始2週後より，徐々にうつ状態は改善し始め，作業療法にも積極的に参加するようになった．また，明らかに会話量も増え，家族やTV・新聞の話題にも興味関心を示し，HAM‐D：12点まで回復した．なお，抗うつ剤併用による副作用はなく，この時点でのHDS‐R：25点で，認知症は除外された．その後も，MIR＋DLXの併用療法を継続しているが，予後は良好である．; 【考察】治療抵抗性の単極性うつ病性障害に対する2つの抗うつ剤の併用療法に関する文献の中でも最強の抗うつ効果が期待できるのが，Stahlらの提唱する『カリフォルニアロケット燃料』理論に基づくNaSSAであるMIRとSNRIの高用量の併用療法である．本邦ではMIRとDLXの併用療法がこれに相当するが，今回はMIRにDLXの増強療法を施行した後に併用を継続することで，遷延性うつ病の著明な改善をみた．難治性の単極性うつ病には，この増強・併用療法が第一選択になり得る可能性を示唆した．; P-D-18　; 行動障害が目立った認知症の2剖検例; 井上　輝彦（八日会大悟病院老年期精神疾患センター）; 　抑制を欠いた行動障害のため入院を余儀なくされた認知症の2剖検例を経験したので報告する．症例発表に関して家族の承諾を得ており，発表においては本人の同定が出来ない様配慮した．; 【症例1】75歳，男性．大卒，教員．性格：頑固，短気．既往歴：狭心症（59歳，64歳）．現病歴：X－2年（71歳），言ったことを忘れる・日時を間違える・複雑なことを億劫がる・意欲低下・無関心を認め認知症に気づかれた．X－1年8月（72歳），車の接触事故．本人はその事実を否認，悪びれる様子もなかった．9月，妻に内緒で女性に洋服を贈ったり，食事に誘ったりした．それに対し女性が礼を言わないこと，贈った洋服を返してきたことに立腹，暴力をふるい，警察が介入．その時も，事実否認．X年1月，女性の家の鍵を壊し，警察が介入．X年1月31日（73歳），当院初診，警察介入について質問，「教え子に電話したら注意されただけ，暴力事件は起こしていない．」と否認．MMSE24．入院拒否．2月5日，息子の説得で入院．インスリン自己管理にこだわり，低血糖でもインスリンを打った．入院中，しばしば退院要求．脳虚血発作・誤嚥性肺炎・低血糖・高血糖を繰り返し，徐々に意欲・ADL低下．X＋1年4月10日（74歳），他の患者が部屋に入ってきたことに立腹し喧嘩になった．翌日，「言ってわからない人には直接注意せずに職員に言います．」と言った．8月19日，MMSE23．12月2日（75歳），「私が一寸教え子にいたずらをした．返せと言ったら，警察に届けた．その人には，まだ，返してもらいたいと思う．」と言う．X＋2年8月27日，一過性呼吸停止，挿管．X＋2年10月2日，死亡（75歳11カ月）．入院時検査：MRIで側頭葉萎縮．SPECTで前頭側頭葉血流低下．臨床診断：前頭側頭型認知症（FTD），糖尿病．神経病理所見：脳重量1130g．側頭葉萎縮．TDP‐43封入体を伴う前頭側頭葉変性症，左被殻陳旧性梗塞，頭頂後頭葉皮質層状壊死．; 【症例2】81歳男性．高等小卒．仕事はすし桶作り．就職するがけんかが絶えず長続きしなかった．性格：頑固，短気，気性が激しい．現病歴：X－1年10月（80歳），日付を何回も尋ねるようになった．年金が入ると1 2日で使い果たした．通帳や印鑑の紛失が目立った．11月，脳梗塞で入院．回復とともに行動障害出現．他人の物を盗ったり，他人のベッドで寝たりした．注意しても悪びれた様子はなかった．異食，放尿，徘徊，著明な健忘を認めた．X年2月，当院初診入院．MMSE15点．暴力を注意すると「していません．」としらばくれた．物を盗っても，「私の物を盗られたから取り上げただけ．」と言い訳をした．立ち去り行動はなく，人懐っこい雰囲気があった．医者の前では弱々しく振舞うが，自分よりも弱い患者に暴力を振るった．X＋1年6月，急死（81歳8カ月）．臨床診断：FTD疑，嗜銀顆粒病（AGD）疑，脳梗塞後遺症，糖尿病，高血圧．神経病理所見：脳重量1150g．アルツハイマー病理（Braak NFT stage V, amyloid C）．右頭頂葉陳旧性脳梗塞．AGD（迂回回・扁桃核）．; 【考察】いずれも行動障害が顕著な認知症であるが，背景病理は異なっていた．診断には，機能画像も役に立つが，行動障害の質的な違いを十分検討することが重要と思われた．; P-D-19　; レビー小体型認知症と心気症の鑑別を要した2症例；もの忘れと幻覚妄想が主訴の症例; 長谷川　典子（神戸大学大学院医学研究科精神医学分野）; 【目的】レビー小体型認知症（DLB）の発症初期は認知機能の低下は著明でなく，うつ状態，幻覚妄想が前景となっている症例が多く報告されている．DLBの症例では，これらの症状にドネペジルが奏功する例も多いため，DLBとうつ病，妄想性障害，心気症との鑑別が重要となる．今回，自覚的にもの忘れを訴え，幻覚妄想症状を認めた症例を経験したので報告する．; 【倫理的配慮】学会発表に関しては同意を得たうえで，個人が特定されないよう配慮した．; 【症例1】76歳，女性，右利き．高校卒．「孫が風邪を引いたので私もうつって重症と思って，こちらを紹介してもらいました．もの忘れも気になっています」と，心気妄想，自覚的もの忘れで初診し，MMSE 29/30であった．「実は，死んだはずの人と散歩しました．見えるんです．そんな能力がでてきたんです」と幻視も認められた．猪突現象あり，段差でつまづいて転倒を繰り返しており，パーキンソニズムが観察された．立ちくらみ，便秘といった自律神経症状も認められた．MMSEは再検すると21/30で認知機能の変動が観察され，GDS 18/30であった．ADAS‐j.cog. 11.3，FAB 15/18，WMS‐R言語28（79），視覚31（68），一般59（73），注意44（81），遅延10（56）であった．頭部MRI上，海馬を含めた大脳の萎縮は著明でなかったが，IMP‐SPECTにおいては，両側頭頂連合野から後頭葉にかけて血流の低下が認められた．MIBG心筋シンチでは，H/M比は早期相1.87，遅延相1.68，Washout Rate 44％であった．これらの所見から，DLBと診断し，アリセプト5mgと抑肝散5gを処方し，症状は安定した．; 【症例2】75歳，女性，右利き．高等小学校卒．「人の気配がします．人には聞こえない呼び声がきこえるのが気になります．もの忘れもひどくて心配です」と幻聴，自覚的もの忘れで初診，MMSE 28/30であった．難聴で右は補聴器を使用しており，「呼び声はお経をあげるときこえなくなる」，こむらがえり，たちくらみ，便秘で困っていることも表出した．GDS13/30であった．ADAS‐j.cog. 4.7，FAB16/18，WMS‐R言語95（136），視覚55（110），一般150（132），注意50（89），遅延94（128）であった．頭部MRI上，海馬を含めた大脳の萎縮は著明でなく，IMP‐SPECTにおいても，有意な血流低下部位は認められなかった．MIBG心筋シンチでは，H/M比は早期相2.78，遅延相3.13で異常所見は認めなかった．認知症ではないことを説明すると，こむらがえりが治らないことを執拗に訴えるようになった．これらの所見から心気症と考え，芍薬甘草湯5gを処方し，症状は安定した．; 【考察】上記の2症例は，ともに自覚的なもの忘れと幻覚妄想が受診の契機であった．MMSEとGDSの得点では，DLBと心気症の鑑別は不可能であった．IMP‐SPECTとMIBG心筋シンチは鑑別に有用であったが，詳細な診察所見も必須であり，WMS‐R，ADAS‐j.cog.などの神経心理検査も併せて総合的に診断する必要があると考えられる．; P-D-20　; 石灰化を伴うびまん性神経原線維型認知症（DNTC）が疑われる長期臨床経過報告; 羽渕　知可子（名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野，愛知県立城山病院）; 【目的・方法】石灰化をともなうびまん性神経原線維変化病（以下DNTC）は，臨床的にはアルツハイマー病に類似した認知機能障害と，前頭側頭葉変性症に類似した行動障害を主とした精神症状を示し，また神経病理学的には，前頭・側頭葉の葉状萎縮，微視的にはびまん性の神経原線維変化と基底核および小脳の石灰化を伴いアミロイド沈着を欠く比較的まれな認知症で，現在までに40例程度の報告があり，そのほとんどが本邦からのものである．近年，画像診断技術の進歩により，臨床的および画像診断的にDNTCの臨床診断が可能となってきている．今回我々は，いわゆる破瓜型の統合失調症として20歳代から50年の長期にわたる入院加療を受けていたが，経過中に基底核・小脳の石灰化と前頭側頭葉の萎縮が明らかとなり，臨床症状とあわせてDNTCと診断されうる症例を経験したので，カルテ上の臨床長期経過と画像所見の推移を合わせて報告する．; 【倫理的配慮】発表にあたり個人が同定されないよう倫理的配慮をおこない，書面にて保護者の同意を得た．; 【症例】70歳代後半の女性　出生時特記すべきことなし．2歳時髄膜炎に罹患後，知的障害となる．小学6年で肺Tb罹患．高等小学校2年通学後，約1年間紡績工場に就労し退職後独語・幻聴が生じた．当初は無為自閉，臥床傾向であったが，妹との喧嘩をきっかけに粗暴となり，自宅にある調味料や酒を全部飲み，食物を生で全部たべてしまう，など行動面での障害が顕著となった．このため28歳時に当院初診し，破瓜型統合失調症（接枝分裂病）と診断され，現在まで50年間当院に入院中である．基本的ににこにこと多幸的で接触性もよいが，無為自閉で臥床傾向であり，他患の所有物を勝手にあさり，しかられても全く気にならない様子で立ち去るなどの行動が現在まで続いている．独語はあるが妄想の存在は不明である．; 【検査所見】長谷川式スケールやWAIS等の認知機能検査は本人の協力がえられないため施行せず．言語症状，パーキンソン症状はとくになし．血液所見では，白血球減少症（WBC2000台）が持続しているが，その他特記すべき所見はなし．頭部CTでは58歳時両側基底核（被核，淡蒼球）と右視床に石灰化を認め，一年後左の視床にも出現．その後石灰化は66歳時右小脳半球，75歳頃から両側小脳半球に広がっている．一方脳萎縮に関しては，62歳ころより軽度の前頭・側頭葉萎縮が生じ66歳頃より急速に側頭葉（左優位）の萎縮が進行，70歳ころから前頭側頭葉の萎縮がさらに顕著となっているが，その後は目立った変化はない．; 【考察】本症例は知的な遅れとともに独語や奇異な行動などから，知的障害に合併した破瓜型統合失調症と診断された．発病初期より立ち去り行動などの注意維持困難や無為・無関心などの意欲情動の障害，他人の食物を勝手に口にいれるなどのいわゆるgoing my way behaviorが顕著であった．その一方多幸的で接触性は保たれていた．経過中に，頭部CT上基底核・小脳の石灰化および前頭・側頭葉の萎縮が出現したが，臨床症状の変化との関係は認めなかった．本症例は臨床経過・検査所見から統合失調症にDNTCが併存した可能性が考えられるが，若年に発症したDNTCである可能性やFahr病との異同も含め，今後も注意深く経過を見て行く予定である．また，幼児期の脳炎の後遺症としての要素も存在する．近年，精神科領域でも，神経画像検査が日常的に行われるようになり，脳内石灰化のある精神科患者が比較的多く見いだされる様になった．日常臨床で，こういった病因病態に留意する必要があると考えられる．

　　: 6月16日　京王プラザホテル本館43階ムーンライト　P-D-21　16:45～17:30; 症例報告③; 座長：木村　通宏（木場メンタルクリニック）; P-D-21　; 地域で暮らし仲間とスポーツをおこなっている認知症の疑われる高齢者についての検討；クロリティー選手権大会に出場した高齢者からの考察; 木村　典子（愛知学泉短期大学）; 【背景】筆者らが2009年A県高齢者スポーツ大会に参加した高齢者を対象に行った調査では，一人も，認知症の疑われる人はいなかった．このスポーツ大会に参加する高齢者は日ごろから運動をしている人たちであった．そして，運動習慣は友人との交流，地域活動への参加状況と相関していた．運動をすること，運動を通しての人との交流が高齢者の認知機能に良い影響を与えていると考察した．また，Eric B. Larsonらは運動量が多いとが加齢による海馬組織の減少が少ないことと，週3回以上定期的に運動する人ではそうでない人に比べ，アルツハイマー病の発症リスクが約3割有意に減少すると言っている．認知症予防に役立つ，運動内容を検討するため，A県クロリティー選手権大会に出席した高齢者に調査を行ったところ，認知症の疑われる人が参加者中，46.4％であった．筆者らが地域の高齢者を対象におこなった調査よりはるかに高かった．そこで，地域で暮らし，スポーツをおなっている認知症の疑われる人の運動習慣，社会交流，健康状態について検討したので，ここに報告をする．; 【研究目的】地域で暮らし，仲間とスポーツをおこなっている認知症の疑われる高齢者の運動習慣，社会交流，健康状態について検討する．; 【対象】A県クロリティー選手権大会に参加した高齢者のうち認知症の疑われた人　; 【調査日】2010年6月; 【方法】大会開催時に本研究の主旨と手続きを説明した後，質問紙を配布し，大会終了後，質問紙の回収と身体計測として血管老化度の計測を行った．; 【質問項目】時計描画検査，健康状態，運動習慣，社会交流．認知症の有無の評価として，時計描画検査を用いた．; 【倫理的配慮】本研究の主旨は，書面と口頭にて説明し，結果は本研究以外には用いないことと，回答の有無によって不利益が生じない旨，個人情報については連絡可能な匿名化を明記した上で依頼し，回答・計測の参加をもって同意を得た．; 【結果：対象】対象者13名，男性11名　女性2名平均年齢　77.3歳±10.0歳; 【時計描画検査の結果】「8.5点」2名，「8点」2名，「6点」1名，「4点」1名，「3点」6名，「2点」1名であった．「数字の欠損」7名，「円の大きさ異常」2名，「10時」2名，「針の短長あいまい」1名．; 【健康状態，運動習慣，社会交流について】GDS5 0.6±0.9，ソーシャルネットワーク尺度11.3±1.1，記憶の自己効力感65.3±10.0，物忘れの自覚については「するようになった」11名，「昔と変わらない」2名．運動習慣については「週2回以上」12名，「運動習慣なし」1名．; 【考察】仲間と一緒にスポーツを行っていることが，いい影響を与えていると思われた．認知症の疑いのない今大会に出席した高齢者と比較しても，運動習慣，ソーシャルネットワーク，日常生活場面における記憶の自己効力感において差は認められなかった．この対象の運動習慣は一般高齢者より高い．クロリティーはいつでも，どこでも，だれとでも，楽しく安全に行えるスポーツとして開発したスポーツ輪投げであるため，認知症があっても，参加しやすいスポーツであることが考える．また，今回の対象者は地域で仲間と一緒にスポーツをすることで，認知症があっても，それほど進行せずに地域生活を継続しているかもしれことが考えられた．; P-D-22　; 発症時に遅発性統合失調症が疑われたが，レビー小体型認知症を考慮すべき1例; 大槻　正孝（山梨大学医学部精神科）; 【はじめに】初老期に被害関係妄想や亜昏迷様状態などの統合失調症様症状が出現したが，抗精神病薬に対する顕著な感受性や画像所見からレビー小体型認知症（DLB）を考慮すべき症例を経験したので報告する．; 【倫理的配慮】症例提示にあたり，匿名性に配慮して若干の修正を加え本人並びに家族の同意を得た．; 【症例】61歳女性．高校卒．既婚．工場などに勤務したが56歳以後は主婦．精神科受診歴なし．（現病歴）X年11月肺腺癌，同年12月初旬十二指腸穿孔，腹膜炎のため当院外科で手術施行．術後経過良好も，12月下旬から不眠が出現し，当科初診．「看護師が，（坐剤を）お尻にわざとらしく入れた」「あの人は仕様がないと言われた」「廊下から皆に見られて笑われている」と妄想の表出があり，X＋1年1月当科へ転科した．当時「携帯の使い方もわからなくなった」という訴えもあった．リスペリドン2～6mgの投与を開始したところ，筋強剛が出現すると同時に亜昏迷状態を呈した．精神症状の悪化と考えてハロペリドールの静注を施行したが改善されず，ECTを施行した．計8回のECT施行により亜昏迷は改善され，妄想も消失した．その後アリピプラゾール9mgにビペリデン3mgを併用し（筋強剛，嚥下困難のため），X＋1年8月退院．外来通院継続中の同年12月，高度の筋強剛と亜昏迷を呈して当科に再入院．発熱とCKの軽度上昇も認められ，悪性症候群が疑われたため，アリピプラゾールを中止した．ビペリデン5mg継続中に，「ペンギンが殺されて袋詰めにされて吊るされている」「子供が部屋の外にいるが，雪の中で居眠りをしてしまっている」と幻視体験が認められた．ビペリデンと異常体験の関連を疑ってビペリデンを中止したところ，幻視体験は出現しなくなった．抗精神病薬中止後，パ－キンソニズムは徐々に軽快したが，1か月以上後にも軽度の筋強剛は残存し，歯車現象を伴っていた．（検査所見）脳MRI：軽度の大脳萎縮．脳血流SPECT：後頭葉を含む血流低下．MIBG心筋シンチグラフィ：著明な集積低下（H/M比：早期像1.47，後期像1.16）．MMSE（抗精神病薬・抗パーキンソン病薬中止後に3回施行）：20点（見当識，連続減算，逆唱，遅延再生，文章作成，図形模写で減点），29点（見当識で減点），28点（遅延再生で減点）．WMS‐R論理的記憶Ⅰ：8点，同Ⅱ：6点．錯綜図によって明らかになる視覚認知障害あり．; 【考察】本症例は，当初遅発性統合失調症と考えられ，抗精神病薬やECTによる治療が行われたが，経過中に抗精神病薬に対する顕著な感受性からDLBが疑われた症例である．DLB臨床診断基準（2005）の各項目では，必須項目である認知機能障害の進行性，中核症状である幻視の反復性およびパーキンソニズムの本態性については今後さらに確認を要するが，中核症状である認知機能の動揺性ならびに示唆症状である抗精神病薬に対する感受性が存在し，脳血流SPECTと心筋シンチグラフィ所見からDLBの診断が支持された．今後の治療上，ドネペジル使用を慎重に検討する方針である．高齢初発の精神病症状に遭遇した際にはDLBの可能性を念頭に置くべきである．; P-D-23　; 老年期の治療抵抗性統合失調症患者に対しクロザリルが奏功した３症例；何十年と続いた幻覚・妄想への奏功と副作用（無顆粒球症）; 鈴木　竜世（桶狭間病院藤田こころケアセンター）; 【目的】抗精神病薬の治療を何十年と受けてきたが，幻聴・妄想が持続する統合失調症の患者は少なからず存在する．老年期になると，加齢による身体機能が低下するために，日常生活のサポートの必要性が増えるが，陽性症状のためにケアに難渋する．高齢者においては，陽性症状が軽減して不穏状態が減ることが，日常生活のサポートを円滑する上で重要と考える．そこで，今回，65歳以上の老年期になっても活発な陽性症状が持続する治療抵抗性の統合失調症に対して，クロザリルの効果があるのか，ならびに，老年期ということで副作用が出やすくなるものかを確認したいと考えた．; 【方法】対象はクロザリル開始時年齢が65歳以上で，これまでにCP換算600mg以上かつ2種類以上の抗精神病薬を投与しても効果がなく，30年以上の罹病期間があり，最近5年間は幻聴・妄想が持続している統合失調症の患者とした．治療薬をクロザリルに変更し，PANSSで治療効果の判定をした．薬剤の副作用はDIEPSSと白血球減少の有無で評価した．; 【倫理的配慮】3症例それぞれに症例報告についての説明を行い，同意を得た．; 【結果】治療開始時のPANSSと比較して，1カ月後のPANSSは10－20％の低下傾向がみられた．患者の言動から病識が出現する患者が3名中2名に見られた．副作用としては，DIEPSSでは，流涎以外のものはほぼ見られなかった．白血球減少（無顆粒球症）は3名中に1名認め，やむなく投与中止となった．無顆粒球症になった患者は血液内科で無菌室を用いた専門治療を受けて，とくに感染症に罹患することもなく，白血球減少は完全に回復した．なお，この患者はその後クロザリルからリスパダールに薬剤を変更して1カ月ほどで，幻覚・妄想に支配される状態に戻った．; 【考察】効果の面では，3名の65歳以上の老年期の統合失調症患者に対しても，クロザリルは有効であった．特に，これまで他の薬では見られなかった病識が芽生え，薬剤内服に対するアドヒアランスも上がった．幻聴・被害妄想が減ることで，看護師が実施するケアを，笑顔で受けられるようになり，日々の生活が円滑にできるようになった．3症例でしかないが，何十年と幻覚・妄想が持続する老年期の統合失調症患者に対しても，クロザリルは有用な治療になる可能性を実感した．副作用については，錐体外路症状は，老年期の患者においてもほとんど問題なかった．無顆粒球症になった症例が1名あるものの，感染症や他の重篤な身体疾患を併発することはなく，問題なく回復しており，老年期に無顆粒球症をおこしても，無菌室での対応ができれば問題は少ないと考えられた．; P-D-24　; 4年の経過で正常圧水頭症の画像を呈したアルツハイマー型認知症の1例; 瀬野　隆太（正光会今治病院）; 【はじめに】認知症の啓発活動がすすみ，専門医だけでなくかかりつけ医にも認知症についての診療を求められることが多くなっている．認知症診療では，生理的な老化と考えてよいのか，認知症なのかの判断だけでなく，認知症であるならばその鑑別が求められる．　正常圧水頭症は，認知機能障害，歩行障害，尿失禁を主徴とする治療可能な認知症に位置づけられるが，高齢発症の場合アルツハイマー型認知症との合併例も少なくない．このような症例は，認知症が疑われ画像検査が行われた時点で，脳室の著明な拡大，シルビウス裂の開大，高位円蓋部クモ膜下腔の狭小化などの所見で診断されることが多い．　今回われわれは，臨床症状，画像所見からアルツハイマー型認知症と診断し治療を行っていたが，4年の経過で軽い歩行障害が出現．この時点のMRIで，正常圧水頭症の画像所見がみられるようになった症例を経験したので報告する．　なお，発表に際しては，倫理的観点から個人が同定されないように配慮する．; 【症例】79歳，女性（右利き）
　X－5年，物の置き忘れや同じことを何度も繰り返し尋ねるといったもの忘れが出現．次第にもの忘れが進行したため，X－3年6月，近医脳神経外科でMRI，MRAを施行され，前交通動脈の動脈瘤を指摘されたが，他に異常は指摘されず経過観察となった．しかし，料理のメニューが少なくなるといった症状が加わたったため，同年7月当院紹介となった．　初診時，MMSE22/30（時－2，場所－2，serial7－1，再生－3），ADAS16.4/70（再生6.7，観念運動2，見当識3，再認4.7）と記憶・見当識障害を認めた．神経学的には特記すべき所見はみられなかったが，持参した頭部MRIでは，側脳室下角の拡大（右に優位）と両側頭頂葉皮質を中心にび慢性の萎縮を認め，アルツハイマー型認知症の診断で塩酸ドネぺジルを投与し，外来フォローしていた．　X－1年7月，に行ったMMSEの得点に変化はなかったが，Short‐Memory Questionnaire（SMQ）は，12/46（初診時24/46）と低下がみられ，火の不始末などADLの低下が顕在化するようになった．同年11月，初めて杖を持参して受診．家人からは，「服を着ようとしても途中で忘れてしまっていることがある．最近認知症が進んだ気がする．」との訴えがあったが，歩行障害については語られなかった．12月にも杖を持参．姿勢反射障害はみられなかったが，同日施行した頭部MRIでは，脳室の著明拡大と高位円蓋部クモ膜下腔の狭小化がみられ水頭症の併発が疑われた．　本学会では，本症例がどのような臨床症候するかを画像検査も含め検討を加えて発表する．; P-D-25　; 作業療法の少人数グループにて抑うつ軽減が見られたアルツハイマー型認知症の一例；おしゃれやハンドマッサージを活用; 赤木　祐太郎（桶狭間病院藤田こころケアセンター）; 【はじめに】アルツハイマー型認知症にはかなりの頻度で抑うつが発現するので，抑うつはアルツハイマー型認知症に対する治療戦略の中でもっとも考慮されなければならない精神症状の一つと言われている．今回，抑うつ状態のアルツハイマー型認知症患者に対し，作業療法にておしゃれやハンドマッサージを主活動とする少人数グループを展開したところ，抑うつ軽減が見られたので報告する．なお，本グループは，自己認識を高め自律と適応を促すことを主目的とした，週1回，2時間，全12回で構成されるクローズドグループであり，第1～4回まではおしゃれ活動（整髪，眉セット，スーツへの着替え等），第5～8回はハンドマッサージ（自分自身や他者に対して行う），第9～12回は健康調理（野菜と果物のミックスジュースなど）が主活動となる．; 【倫理的配慮】本症例の発表に際して，本人に研究の主旨を説明し同意を得た．また匿名性の保持，個人情報の流出防止について十分配慮した．; 【症例】80歳代前半，男性，アルツハイマー型認知症．
　20代で結婚．庶務や営業などで29年間働いた後，独立するも，事業が失敗し財産がなくなり離婚．将来に対する不安等が増強した．認知症のために当院にて入院加療するも，グループホームとの間で入退院を繰り返し，徐々に抑うつ状態となった．; 【経過】第1～4回では，初めは消極的，受動的であるも，整髪や眉をセットした後に鏡で多角度から自身を見つめる様子が観察された．またスーツへの着替えでは，自らスーツ，ネクタイを自己選択し，慣れた手つきで着替えた．スーツ姿を写真撮影すると，自ら2枚目の撮影を希望されるなど意欲も見られた．第5～8回では，隣席の他メンバーとペアとなりハンドマッサージを行った際，力加減を尋ねつつ取り組むなど配慮ある言動みられた．またペアから「気持ちいい」「ありがとう」等と称賛を受け笑顔となる様子や，世間話などで談笑する様子も見られるようになった．第8回終了時頃より，歩行能力低下や失禁頻度増加が見られるも，第9～10回の活動でも，他者との交流や役割遂行に積極的であった．退院の為，第10回で終了．　本グループの開始時及び終了時に実施したGDS‐15は10点（抑うつ状態）から4点に改善，MMSEは22点から23点に改善，N‐ADLは43点から34点に低下，NMスケールは28点で変化なしであった．; 【考察】自己認識を高めるおしゃれ活動やハンドマッサージでの愛他的体験の経験が自尊心回復に繋がったと考えられる．また身体接触要素を含む作業活動を媒介とすることで他者との言語的及び非言語的交流を促進できたことが短期間でのなじみの関係構築を促し，抑うつ軽減に繋がったと考えられる．本症例では，身体状態悪化により歩行能力低下や失禁頻度増加が見られたにも関わらず，抑うつ軽減が見られた．このことは，本グループ活動が，認知機能だけではなく身体機能も低下する可能性が十分に懸念されるアルツハイマー型認知症患者に対し，抑うつ軽減を目的とした介入として有効である可能性があることが示唆される．