会員専用ページ > 学術集会 > 第26回日本老年精神医学会 > 大会概要
 
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 14:30〜15:22
疫学施設A
座長: 工藤 喬(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
P-B-6 
アウトリーチ活動により入院に至る認知症高齢者の特徴について
須田 潔子(東京都立中部総合精神保健福祉センター)
【目的】東京都では,地域の高齢者担当相談窓口からの依頼に応じて認知症高齢者の家庭を訪問し,家族や関係者への相談指導,介護指導,入院相談等にあたる高齢者精神医療相談班(以下,相談班)が3つの精神保健福祉センターに設置されており,それぞれの担当地区における対象事例へのアウトリーチ活動を行っている.訪問は,医師と看護師が地域の担当者と共にケースの自宅を訪れ,面接によって状態を把握する.可能な場合はHDS−R等の簡単な検査も施行するが,血液生化学検査や画像検査の手段は無い.訪問終了後,家族・関係者間で処遇や対応について検討し,入院の必要な場合には東京都の整備している高齢者認知症専門病棟のいずれかに入院予約を行う.訪問対象は重篤な周辺症状を呈する認知症高齢者が中心であるが,訪問の結果,精神病圏と診断される層も一定の割合を占める.東京都においてこの訪問相談事業は,精神科への自発的受療が困難な高齢者を医療に結びつけるための貴重なルートであり,訪問事例は精神症状以外にもキーパーソンの不在などの様々な問題が複合した,いわゆる困難事例が多い.自発的受療が困難なために訪問を要し,入院適応があったケースの特徴を明らかにすることを目的として調査を行った.
【方法】東京都の3精神保健福祉センターのうち23区西部の10区(人口約430万人)を担当する都立中部総合精神保健福祉センターの訪問班がH22年4月より12月までの間に訪問を行った33名のうち,入院治療の方針となった28名について,訪問記録,関係者間会議の記録,かかりつけ医による紹介状,訪問班が作成した紹介状等の資料による調査と検討を行った.
【倫理的配慮】データは匿名化して記号による処理を行い,個人が特定されないよう配慮した.
【結果】診断は23名(男性10名,女性13名)が認知症圏,5名が精神病圏であり,精神病圏は全例が女性であった.平均年齢は男性79.7歳,女性80.0歳(認知症圏81.8歳,精神病圏75.2歳)であり,後期高齢者が全体の78.6%を占めた.認知症圏男性は10名中7名(70%)が配偶者と同居していた.また,ネグレクトの1名を除く9名が認知症の存在を医療機関に把握されて何らかの向精神薬または抗認知症薬,あるいはその両方の処方を過去3ヶ月以内に受けていたものの,全例が興奮・攻撃・暴力の問題を呈して介護が極めて困難な状態となり,通院加療の継続もままならなくなって訪問要請に至っていた.認知症圏女性は配偶者同居や子・孫の同居に比して単居が多く13名中6名(46%)であり,そのうちの5名が介護者の不在または医療拒否のため認知症の治療を訪問時までに受けていなかった.
【考察】当センターによる訪問を要し入院に至る認知症高齢者の状態像は男女で異なる傾向があり,周辺症状に対する加療の問題と医療拒否の問題がそれぞれ大きな背景要因として考えられた.当日は,平成23年3月までの1年間のデータを呈示し検討を行う予定である.
P-B-7 
高齢者の身だしなみ障害について
奥田 正英(八事病院精神科)
【目的】身だしなみは,身体を周囲の環境へ総合的に適応させる行動である.著者らは見だしなみに関するいくつかの項目を選び,認知機能や日常生活動作(ADL)との関連性を調べる目的で,施設ケアと在宅ケアを受けている高齢者を対象に臨床精神医学的な検討をして本学会で一部を報告した.今回は施設ケアと在宅ケアを受けている高齢者の身だしなみについて比較を行い,また身だしなみに関する各項目間の相関性について検討を行った.
【対象と方法】対象は,A市内にある特別養護老人ホームを利用している高齢者であり,同施設へ入所している高齢者40名(平均年齢は80.4±7.0歳,男女比は9:31)を入所群とし,同施設のデイ・サービスに通所をしている高齢者43名(平均年齢は82.7±7.6歳,男女比は,11:32)を通所群とした.身だしなみは,1)整髪,2)洗面,3)口腔ケア,4)更衣,5)靴下,6)上履き(あるいは下履き),7)鏡の使用,8)寒暖の認知,1)−8)の総計を9)合計として9項目について検討した.認知機能や日常生活動作(ADL)は,改訂長谷川式簡易認知症検査(HDS‐R)とBarthel Index(BI)でそれぞれ評価した.
【倫理的配慮】調査対象へは本研究の主旨を文書で説明し,本人あるいは家族から承諾の署名を受けた.また個人情報の取り扱いには充分な注意を払った.
【結果】身だしなみの各項目について,入所群と通所群の比較検討を行った結果,通所群は各項目で有意に高い得点を示し,合計点も約2.2倍高い得点となった.HDS‐Rの下位項目については,年齢,時,場所,計算,逆唱,遅延再生,即時再生,語流暢の各項目で通所群が有意に高く,合計点でも約1.6倍であった.BIの項目では,身辺処理指標の下位項目では着衣は入所群が有意に高かったものの整容では通所群が有意に高かった.運動指標の下位項目では通所群では浴槽への出入りが有意に高かった.  次に入所群と通所群を合計した全症例を対象として身だしなみの各項目間,HDS‐RおよびBIの下位項目間の相関を求めた.その結果,身だしなみは整髪を除いて良い相関を認めた.身だしなみ各項目とHDS‐R各項目の相関では,整髪,口腔ケア,上履きの使用と比較的良い相関を示す項目が多かった.またBIの各項目では整髪はBIの身辺処理指標や移動指標のどの項目とも良い相関を示した.鏡の使用と相関を示した項目はなく,寒暖の認知は整容,着席・起立と負の相関を示した.  さらに年齢,性別,寝たきり度,認知症自立度を加えた36項目について因子分析を行うと2つの因子が抽出され,整髪を除いて身だしなみ各項目の近接性は高かった.整髪はHDS‐Rの各項目と近接していた.BIの運動指標に関連した項目は互いに近接していた.
【考察】通所群は,生活の場が自宅であり一部でケアを受けているものの生活能力は高く,ADLや認知機能は入所群よりも良く予想通りの結果であった.身だしなみに関連する項目は,日常生活能力や認知機能能力の関連群とは異なる一連の身だしなみ関連群を成すことが分かり,身だしなみは臨床症状論的な意味をもち,社会適応能力を示す指標になることが示唆された.また身だしなみには「気付き」や「高次の意識」も必要であり,外界と内界との橋渡しをする多面的な展望記憶も関与すると推測された.  今後更に身だしなみに関する精神医学的な進展が期待される.
P-B-8 
認知症患者の未治療期間とBPSDの関連性の検討
上村 直人(高知大学医学部精神科)
 認知症の早期発見・早期治療が重要であるのは言うまでもない.また,記憶障害や行動障害など認知症特有の初発症状が出現してからできるだけ早期に専門医療機関を受診し臨床診断が下され,認知症の背景疾患ごとにその対策が講じられなければならない.これまで認知症の発病から臨床診断を受けるまでの期間(以下未治療期間)について検討されたものは少ない.そこで,今回我々は認知症の未治療期間とBPSDとの関連性を検討したので報告する.
【目的と方法】研究は高知大学認知症疾患データベースの情報をもとにして行った.対象は,(1)2001年1月1日〜2010年12月27日までに高知大学医学部附属病院神経科精神科,もの忘れ外来を初診患者.(2)評価内容:年齢,性別,発病年齢,初診時年齢,初診時MMSE,NPI,IADL,PSMS,ZBI,CDR,CDR下位項目,未治療期間(認知症発症から初診まっでの期間),発病年齢,MMSE,NPI,ZBI.臨床診断名と診断日(3)臨床診断では,DAT,VaD,DLB,FTLD,MCI,高次脳機能障害,その他の認知症(DSM‐V‐Rの診断基準を満たすもの),その他の精神科疾患に分類し,選択基準を満たした161名中144名の実態について分析を行った.
【倫理的配慮】本アンケート調査施行に当たっては高知大学倫理委員会での承認を得て行なった.
【研究結果】対象者144名の平均MMSE20.0±5.5,平均発病年齢は73.4±9.2歳.初診時年齢は75.6±9.9であった.未治療期間は1.7±1.5年で,平均初診時NPIは9.7±12.2点,平均ZBI得点は20.9±15.1であった.背景疾患別では未治療期間は非認知症者が最も短く(0.53ヵ月),DAT群が最も長かった(2・46年)であった.ZBIとBPSDの関連性の検討では,FTLD群,VaD群の初診時NPI得点が高く,前者は未治療期間が長くなると改善傾向であった.一方で後者は血管性知症でNPI得点が高く,未治療期間が長くなるとZBI得点は悪化していた.
【考察とまとめ】認知症の臨床診断までの期間と初診時のBPSDの関連性について考察した.背景疾患のBPSDの影響のみではなく,未治療期間によっても,BPSDに関連していることが判明した.
P-B-9 
認知症診断外来受診者の病名告知に関する患者本人と家族の意識;2001年時の調査と2009年時の調査の比較
板谷 光希子(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室,聖マリアンナ医科大学病院認知症(老年精神疾患)治療研究センター)
【背景】現在わが国には200万超もの認知症患者の存在が推定され,今後も老年人口の増加とともに認知症患者は増加すると予想される.しかし認知症の場合,認知機能低下により患者さんの理解に限界が生じ,説明を受け入れての治療が困難となる症例もある.更に第一の原因疾患であるアルツハイマー型認知症(Alzheimer's type dementia;以下AD)は現時点で根本的な治療法が存在せず,病名を伝えることが『不治の病』の宣告であるというニュアンスも強い.一方で,ADの症状進行抑制可能な薬剤があること,施設利用や介護保険制度導入にあたって,認知症患者本人の同意と協力が基本となることなどから,病名告知の必要性が高まっており,時代の変化と共に患者意識の変化が予想される.
【目的】2001年に本院で行われた高橋らによるADの病名告知に関する報告がある.この報告を参考に,近年,認知症の病名告知に関する意識がどのように変化したのかを調査した.
【方法】2009年に物忘れを主訴に当科認知症専門外来を受診した患者とその家族を対象に病名告知に関するアンケート調査を行い,その結果を2001年の高橋らの調査と比較した.
【アンケート内容】
<患者本人に対して>
1.自分自身への病名告知を希望しますか? 
2.その理由は?
<家族に対して>
1.家族への病名告知を希望しますか? 
2.患者自身への病名告知を希望しますか?
【倫理的配慮】本調査研究は,病院倫理委員会で承認されており,患者さんやご家族に口頭及び文書での説明と同意を行っている.また個人情報の匿名化を行い,アンケートは本人及び家族の自由参加とした.
【結果】  1.2001年に比べ2009年では受診者の平均年齢は高齢であった.  2.病名告知の希望者の割合は2001年(91.5%)と2009年(90%)に有意差は認められなかった.  3.98%の家族が家族への病名告知を望んでいる一方で,家族が患者本人へ告知を希望する割合は75%にすぎなかった.  4.2009年の病名告知希望する者は,希望しない者と比較し,HDSR得点でより軽症であった.
【考察】告知希望者の割合は2001年と2009年では有意差は認められない.より軽症な患者が自分に病名告知を希望する場合が多く,早期に自らの病名を知り,自らの治療法を選択したいという意識の高まりがあることが推察される.一方で家族と本人の告知に関する意識の割合には解離があり,告知の方法は標準化できず,個別に対応していく必要があると考えられる.
【結論】  1.2001年時と2009年時で受診者自身が病名告知希望の割合はともに90%超であり,ほぼ同等であった.  2.患者への病名告知は,本人及び家族の意向を考慮し,個別化する必要がある.
P-B-10 
認知症治療病棟への入院の原因となったBPSDの検討
坂根 真弓(愛媛大学大学院医学研究科脳とこころの医学,財団新居浜病院精神科)
【はじめに】認知症に伴う精神症状や行動障害(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)は,患者本人や介護者に苦痛をもたらし,自宅や施設における介護破綻の主な原因となる.BPSDへの介入手段として,しばしば認知症治療病棟を有する精神科病院への入院治療が求められる.今回我々は,14年間の認知症治療病棟の入院状況を調査し,入院の原因となったBPSDの特徴について疾患別に比較検討を試みたので報告する.
【対象と方法】平成9年7月1日から平成22年12月31日までに財団新居浜病院の認知症治療病棟に入院となったのべ860人を対象に,性別,疾患,入院に至ったBPSDについて調査した.BPSDについては,入院時に介護者より直接聴取し,日本語版Neuropsychiatric Inventory in Nursing Home Version(NPI‐NH)(繁信ら,2008)の各12項目に準じて分類し,解析を行った.
【倫理的配慮】調査にあたっては,患者や家族に調査の説明を行ったうえで,聴取した情報を調査に使用する同意を得た.また,収集した情報は個人情報保護に十分配慮し,患者個人が特定されないよう暗号化してから今回の報告のために使用し,報告に際しては個人情報の流出に十分配慮した.
【結果】全調査期間の入院は860人で,男性347人(40.3%),女性513人(59.7%)であった.疾患は全期間でAD 357人(41.5%),VaD 182人(21.2%),FTLD 76人(8.8%),DLB 24人(2.8%)の順であった.入院の原因となったBPSDで最も多かったものは『興奮(76.3%)』,次いで『異常行動(61.9%)』,『脱抑制(25.3%)』,『睡眠あるいは夜間帯の行動(20.5%)』,『無為(17.3%)』,『妄想(10.2%)』,『食欲あるいは食行動異常(9.1%)』,の順であった.一方『不安』,『多幸』などの症状はごく稀かにか,殆ど見られなかった.『興奮』に含まれる症状の中では,「介護拒否(40.5%)」,「他者への暴力(31.2%)」が入院の原因として多かった.『異常行動』に含まれる症状の中では,「明らかな目的もなく家の周辺を歩いたりする.(55.4%)」が過半数を占めた.入院の原因となったBPSDを疾患別で比較したところ,各症状の占める割合に明らかな差はみられなかったが,FTLDでは『脱抑制(51.3%)』,『異常行動(73.7%)』の割合が他の認知症疾患に比較して高かった.また,『食行動異常』では,他の疾患ではそのほとんどが食欲低下であったのに対して,FTLDでは異食や過食の割合が高いという結果であった.
【考察】興奮にもとづく介護拒否や他者への暴力,徘徊や周徊などの異常行動が,疾患に因らず認知症者の自宅や施設での生活を困難にし,専門医療機関での入院治療を必要とする主な要因となっていることが明らかとなった.認知症者や介護者のQOL向上という観点から,『興奮』や『異常行動』に対しては早期からの介入や治療が必要である.また,疾患によっては脱抑制や異食などさらに隔離が必要なBPSDが入院の主な原因となっている場合も少なからず存在しており,疾患の特徴を理解した上で,入院の枠組みを利用した適切な治療手段の開発が必要であると考えられる.
P-B-11 
県立宮崎病院精神医療センターにおける老年精神医学のニーズ
河野 次郎(県立宮崎病院精神医療センター)
【目的】社会全体の高齢化が進む中で,精神科,身体科両方の対応が必要な患者が増加することが予想されるため,総合病院に併設された当科には身体合併症への対応が可能な精神科病床としての働きが期待されている.単科精神科病院や診療所からの紹介に加え,院内外の他科からの精神症状対応を目的に紹介されることも想定して2009年4月に開設された.そこで,当科の入院治療のニーズを特に高齢者について検証することを目的に当科開設から1年間の高齢者の入院状況を調べた.
【方法】2009年4月から2010年3月までの県立宮崎病院精神医療センターを受診した患者について,年齢,性別,入院理由などを調査した.
【倫理的配慮】調査結果から個人を特定出来ないよう配慮した.
【結果】当科開設から1年間に初診した患者数は1032人であり,うち65歳以上の高齢者は171(16.6%)人であった.このうち138人はコンサルテーションによる他科からの依頼であり,110人は他科入院中の患者であった.コンサルテーション元の科としては内科が28%,次いで整形外科が20%と多かった.コンサルテーション依頼理由として最も多かったのはせん妄への対応であり,全体の17%を占めた.  一方,同じ1年間に精神科病棟に入院した患者数は293人であり,そのうち65歳以上の高齢者は55人(約19%)であった.このうち院内他科からの依頼による転科転棟は15人(27%)であり,院外からの依頼も含めて37人(67%)が他科からの紹介であった.がん患者が11人(20%)あった.認知症は入院した55人中18人(約33%)あり,内訳はアルツハイマー型が3人,血管性が5人,混合性が5人,鑑別困難例が5人であった.認知症の殆どはBPSDへの対応が困難で精神科へ入院となったものであった.一方,認知症のない高齢者についてはうつ状態が6人,希死念慮・自殺企図が6人と抑うつが目立った.転帰は55人のうち自宅への退院が29人(53%)であり,精神科への転院が10人,他科への転院が4人,施設入所が8人,院内他科への転科転棟が3人であった.精神科疾患としてはうつ病と統合失調症圏がそれぞれ11人,せん妄が7人,双極性障害が3人であった.身体合併症のない患者は14人であった.
【考察】開設後1年間に受診した患者を調査し,老年精神医学分野における我々の役割を検討すると,コンサルテーションではせん妄,抑うつ状態の治療,精神科入院ではさまざまな身体合併症をもつ精神障害者,認知症のBPSDへの対応といったものが主なものであった.宮崎県内の単科精神科病院の患者の高齢化に比べると,当院の精神科における高齢者の割合はそれほど高くなかった.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 15:22〜16:14
検査法@
座長: 布村 明彦(山梨大学大学院医学工学総合研究部精神神経医学講座)
P-B-12 
多チャンネルNIRSを用いた老年期の認知機能の特徴;認知症患者との比較検討
藤木 僚(久留米大学医学部精神神経科学教室,久留米大学高次脳疾患研究所)
【目的】当施設では高齢者を対象とした「もの忘れ検診」を行っている.検診では認知症を中心とした健康講話の後,理解・同意を得た方に改訂長谷川式認知機能評価スケール(以下HDS‐R)や近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)などの検査を行っている.昨今,言われているように,認知症の早期発見,早期治療は重要であり,我々は,もの忘れの自覚,全般的認知機能,記憶障害の程度から健常群,低リスク中間群,高リスク中間群,認知症群に分類し,それらを調査・検討している.一方,NIRSは近赤外線の散乱光を用いて脳表面の血管のヘモグロビン濃度を非侵襲的に測定することができる装置で,データを二次元画像化し視覚的に知ることができるという特性がある.今回,我々は多チャンネルNIRSを用いて,認知機能を反映する「しりとり」課題中の酸化ヘモグロビン(oxy‐Hb)濃度変動を計測し,興味ある結果が得られたので報告する.
【対象】右利きの「もの忘れ検診」参加者250名を対象とした.検診の結果,認知症と判断された43名(77.6±7.0歳),高リスク中間群と判断された41名(75.6±5.4歳),低リスク中間群と判断された88名(74.3±6.3歳),健常群と判断された78名(71.7±5.8歳)に分類し研究を行った.認知症群のHDS‐Rは19.5±3.7,高リスク中間群は23.3±1.5,低リスク中間群は26.5±1.4,健常群は28.9±0.9であった.尚,本研究に先立ち,総ての被験者に本研究の趣旨を書面にて説明し同意を得た.本研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て行われている.
【方法】脳血流は多チャンネルNIRS(日立ETG 4000)を使用し,左右記録部44部位法からoxy‐Hb変動値を記録した.レスト条件として50秒間「あいうえお」と言ってもらい,課題条件として30秒間「しりとり」を連続して行うように教示した.これらを交互に行い課題を5回施行した.データは5回の加算波形を用い,レスト条件からのoxy‐Hb変動を100msごとに数量化して課題施行中の近時面積値(δ oxy‐Hb)を計算し,変動指標とした.また注意遂行機能を反映すると考えられる領域(左ch11)をROI(region of interest)とした.1セッションで得られた単語数の合計を「しりとり数」とした.統計処理は分散分析を使用した.
【結果】しりとり数は,認知症群が26.1±12.5個,高リスク中間群が31.8±10.7個,低リスク中間群が38.5±12.3個,健常群が41.3±12.8個であり,健常群と低リスク群は認知症群と比べると有意に大きい値を示していた.また,左ch11の δ oxy‐Hbと「しりとり」数に正の相関を認めた(r=0.289,P<0.0001).HDS‐Rの得点と左ch11のδ oxy‐Hbにおいても有意な相関が観察された(r=0.231,P=0.0003).
【まとめ】多チャンネルNIRSを用いた「しりとり」課題による評価は被験者に対する侵襲が少なく認知症の診断・早期発見に有効な検査と考える.当日は,他のデータも加え考察する予定である.
P-B-13 
拡散テンソル画像における前頭側頭型認知症とアルツハイマー型認知症の拡散異方性の比較
奥村 匡敏(和歌山県立医科大学神経精神科)
【目的】Catani & Mesulam(2008)は前頭側頭型認知症(FTD)の鈎状束,脳梁前部と下縦束に,アルツハイマー型認知症(AD)の帯状束後部と脳弓の軸索に変性があるとした脳機能的結合の仮説に基づく,神経認知モデルを提唱した.拡散テンソル画像研究によって,これらの連絡線維の障害が健常者との比較によって報告されている.FTDとADを直接比較した拡散テンソル画像研究は3篇(Zhang 2009,Chen 2009,Avants 2010)あるが,その論文では上記の線維束について,結果が一定していない.今回,我々はFTDとADに対して,Catani & Mesulam(2008)が示した鈎状束,下縦束,脳梁,脳弓,帯状束での拡散異方性(FA)を比較した.
【方法】FTDは,61歳女性で,Nearyらの診断基準を満たした症例である.ADは,58歳男性(症例1)と86歳女性(症例2)の2例で,NINCDS−ADRDAの診断基準を満たした.撮像には3テスラMR装置,Philips社製Achieva3.0TXを用いた.tractographyの作成には,装置付属のワークステーションExtended MR Workspace R2.6.3.1を用いて,鈎状束,下縦束,帯状束についてはT1強調画像上にカラーマップを構築し,脳梁,脳弓については関心領域のみを設定してFA値を測定した.
【倫理的配慮】対象者とその家族に対して,十分なインフォームドコンセントを行い,匿名性の保持に配慮した.
【結果】FTDのFA値はADに比べて,鈎状束と脳梁前部で小さく,帯状束後部で大きかった(表1).
【考察】我々の結果では,FTDの鈎状束と脳梁前部の,ADの帯状束後部のFA値が低下したことは,Catani & Mesulam(2008)のモデルと一致しているが,下縦束と脳弓に関しては一致しなかった(表2).Zhanら(2009)の報告で,Catani & Mesulam(2008)が示した部位で計測されていたのは,鈎状束と脳梁前部で,我々の結果と一致したが,帯状束後部での,FTDとADの間でのは認めなかった(表2).Chenら(2009)らの報告では,Catani & Mesulam(2008)のモデルと一致して計測している部位は脳梁前部のみで,群間差はなかった(表2).Avantsら(2010)はADのFA値がFTDに比べて小さかったのは,下頭頂葉領域のみで,Catani & Mesulam(2008)が示した部位での有意差は認めていない(表2).拡散テンソル画像解析により,FTDとADそれぞれの脳機能的結合の障害として示される,白質線維の変性の部位に特徴があることが,鑑別診断に役立つのではないかと考えた.
P-B-14 
DLBとADにおける拡散異方性の比較;Tract_based methodによる検討
木内 邦明(公立大学法人奈良県立医科大学精神科)
【目的】レビー小体型認知症(DLB)とアルツハイマー型認知症(AD)は異なったタイプの認知症であるが,臨床症状はオーバーラップし,鑑別診断が困難な場合もある.一方で,DLBとADを比較した様々な画像研究では,一致した結果が得られていない.今回の研究では,tract_based methodを用いて,DLBとADの大脳白質の差異を検討することとした.それらの結果により,白質接続の異常や違いが鑑別診断,病態や症状の理解に役立つのではないかと考えた.
【方法】年齢・性別・認知機能を一致させたDLB,ADの患者各26名を研究に含めた.また,健常対照群(NC)として年齢と性別を一致させた26名を含めた.各群はDT‐MRI検査及び認知機能検査を施行した.拡散テンソル画像(DTI)の解析には東京大学の増谷らが開発した「dTVU」を用い,パラメータは拡散異方性(FA)に注目した.解析対象部位は記憶,感情過程,視覚過程を含む連合線維束として鈎状束(UNC),下縦束(ILF),下前頭後頭束(IOFF)を対象として選んだ.
【倫理的配慮】施設内倫理委員会承認のもと,対象者に対して書面にて同意を得た.また,個人情報に配慮し,データは匿名化したうえで解析を行った.
【結果】MMSEの平均スコアはDLB 19.1点,AD 19.7点,NC28.5点であった.DLB・ADともNCに比して有意に両側UNCのFAが低下していた.DLBでは両側IOFFの有意なFAの低下がみられたが,ADでは差が見られなかった.左ILFではDLB群において有意にFAが低下していた.
【考察】UNCは記憶に関係していると考えられるが,DLB・ADともに傷害されていることが示唆された.IOFFやILFではDLBのみでコントロールに比して低下しており,これらの領域が恐らく視覚過程や感情過程と関係していることを考えれば,DLBで一般的に見られる幻視やうつなどの症状との関連があるのではないかと考えた.通常ADではIFLやIOFFのある側頭葉の変化がみられるが,今回の症例は認知機能低下が比較的軽度であったため,NCと差が見られなかったものと考えられた.
P-B-15 
早期発症型と晩期発症型アルツハイマー病のVSRAD所見の比較検討
渋谷 譲(山形大学医学部精神科)
【目的】アルツハイマー病(AD)のサブタイプである早期発症型AD(early‐onset AD;EOAD)と晩期発症型AD(late‐onset AD;LOAD)では,遺伝的要因,臨床症状および病理所見の相違が指摘されているにもかかわらず,MRIの画像診断において両者の違いを検討した研究は非常に少ない.今回,ADの初発病変である側頭葉内側部とくに海馬傍回の脳容積を定量的に評価する画像統計解析ソフトであるVoxel‐based Specific Regional analysis system for Alzheimer's Disease(VSRAD)を用いて,両者の所見を比較検討した.
【方法】EOAD20例(平均年齢62.5±4.6歳,MMSE19.1±6.7点),LOAD180例(平均年齢80.8±5.7歳,MMSE18.0±4.8点)について,Siemens1.5TまたはPhilips1.5T‐MRIを用いて矢状断T1強調画像を撮影し,VSRADを用いて,実装されている54〜86歳の正常データベースとの比較し,@関心領域内の萎縮の程度(海馬傍回の萎縮度),A脳全体の中で萎縮している領域の割合(全脳萎縮度),B関心領域の中で萎縮している領域の割合(海馬傍回萎縮度),C関心領域の萎縮と脳全体の萎縮との比較(海馬傍回萎縮特異性)を指標とした.各指標のEOADとLOADとの群間比較とともに,海馬傍回の萎縮度がZスコアの平均が2未満(萎縮がみられない〜ややみられる),2以上(萎縮がかなりみられる〜強い)の2群に分けて,EOADとLOADの違いを比較した.
【倫理的配慮】研究について十分に説明した上で,患者または保護者より書面により同意を得た.本研究は山形大学医学部および篠田総合病院の倫理委員会の承認を得た.
【結果】VSRADの各指標については,@海馬傍回萎縮度は,EOAD1.87±0.86,LOAD2.89±1.38で,EOADでより軽度,A全脳萎縮度は,EOAD8.63±4.18%,LOAD9.22±5.18%で差はなく,B海馬傍回萎縮度は,EOAD38.8±27.9%,LOAD63.9±31.6%で,EOADで軽度,C海馬傍回萎縮特異度は,EOAD4.69±3.27倍,LOAD8.32±5.38倍で,LOADで海馬により特異的な萎縮がみられた.また,海馬傍回の萎縮度が2未満は,EOADで11例(55%),LOADで50例(28%),2以上は同9例(45%)と130例(72%)で,LOADと比べてEOADでは海馬傍回の萎縮が軽い例が有意に多かった.
【考察】今回の結果から,EOADでは,LOADと比べて海馬傍回の萎縮が軽度であるため,海馬傍回の萎縮を診断指標とした場合,EOADが見逃される危険性があることに注意する必要がある.
P-B-16 
老年期の探索眼球運動の特徴より認知症の早期診断の可能性を探る
村岡 明美(久留米大学高次脳疾患研究所,医療福祉専門学校緑生館)
【はじめに】現在,認知症患者は急増しており,認知症の早期発見と早期診断,さらに加療は非常に重要なことである.今回,もの忘れ検診及び当院のもの忘れ外来の対象者において,精神生理学的指標としてNac社の探索眼球運動装置を用いて探索眼球運動を測定した.対象者をHDS‐R又はMMSEをもとに老年健常群,認知症患者群及び中間群に分類し,比較検討したのでここに報告する.
【対象】平成21年4月〜平成22年6月までに検診及びもの忘れ外来を受診された被験者230名(女性:165名,男性:65名)で,年齢は74.3±7.2歳を対象とした.対象者は右利きで,脳梗塞,脳出血等の既往が無く,言語機能・運動感覚機能にも障害は無かった.対象をHDS‐R・MMSEから,認知症群(HDS‐R20点以下か,またはMMSE23点以下:52名),中間群(HDS‐R21点以上か,またはMMSE24点以上:97名),健常群(HDS‐R及びMMSEが28点以上:81名)に分類した.3群間において年齢に有意差は認められなかった.当研究では,中間群をさらに総合反応探索スコア(以下,総合RSS:14点満点)が6点未満を低値群,6点以上を高値群の2群に分けた.さらに,もの忘れ検診後75名に大学病院のもの忘れ外来を受診してもらい,MRIを施行しVSRAD解析を行なった.総ての対象者には,当研究を口頭・書面にて説明し,それに基づく同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て実施した.
【方法】探索眼球運動はNac社製のEMR‐8を使用し,横S字型図形(以下,S字)を見せ,小島らの手法にて総移動距離及び反応的探索スコア(以下,RSS)を計測した.セッション1(S1)ではS字の標的図を呈示し,セッション2(S2)及びセッション3(S3)では標的図と一部異なる図を一枚ずつ呈示して比較・照合課題を施行した.また,検査後にS字絵を1個以上正確に描けた者のみデータとした.一人当たりの検査時間は4〜5分程度で可能であった.
【結果及び考察】総移動距離および総合RSSは,高値群が低値群より有意に大きく,低値群と認知症群の間に有意差は無かった.S字描画点数は,認知症群が有意に高値群及び健常群より小さい値であった.認知症群と低値群及び高値群と健常群の間に有意差は無かった.VSRADのZスコアと総合RSSに有意な負の相関が観察された.さらに認知症指標では,認知症群・低値群が高値群・健常群より有意に少ない値であった.  探索眼球運動は,認知症の早期発見・早期診断において生物学的検査として有用であり,一般的に用いられているHDS−RやMMSEとの認知症検査に加えて重要な精神生理学的な検査と考えられる.
P-B-17 
最新の脳電位データベースを基準に用いたNAT解析による高齢うつ病患者の経過観察;新しいEEG解析方法によるうつ病と認知症疾患の鑑別を目指して
田中 美枝子((株)脳機能研究所)
【目的】脳機能研究所はアルツハイマー病(AD)等の脳疾患に関する鑑別診断用補助技術として,頭皮上脳電位のパワーゆらぎから皮質ニューロン活動性を推定する技術NAT(Neuronal Activity Topography)を開発した.その推定精度向上には,最新診断基準によって判定された健常者(ノーマルコントロール:NLC)群や各種脳疾患群のEEGデータベースが必要である.そこで,茨城県利根町の65歳以上の住民約900名を対象とした2009〜2010年の認知症有病率疫学調査の際に脳電位測定を実施し,EEGデータベースを得た.本研究では,得られた最新データをシステム基準に用いたNAT解析により,一般クリニックの高齢うつ病患者の経過を観察した例を報告する.
【方法】(1)NAT解析とは:頭皮上脳電位の部位ごとの規格化パワーバリアンスの大きさを,NLC群の平均値を基準としたZスコアで表現し,標準脳上に画像表示する.脳疾患ごとに患者群のZスコアの集団平均をとったものをその疾患の「テンプレート」と呼ぶ.各被験者について,テンプレートとの相関係数を計算して得たその疾患らしさを「類似度」という指標で示す.(2)被験者:NLCとADテンプレート用のデータ収集対象の被験者は,茨城県利根町の疫学調査時に脳波検査を実施した65〜96歳の住民402名(男216名,女186名)である.うつ病のテンプレート用のデータ収集及び経過観察対象の被験者は,くどうちあき脳神経外科クリニック(以下,くどうクリニック)にて初診時にうつ病と診断された通院患者である.(3)脳電位記録:座位にて覚醒時安静閉眼の脳電位を5分間,国際10−20法に従った21電極で測定した.
【倫理的配慮】疫学調査は筑波大学の倫理委員会で承認された.疫学調査の際の脳波検査は同意が得られた希望者に対して実施した.くどうクリニックの被験者からはデータを研究に用いることの同意を得た.
【結果】(a)疫学調査時に得たEEGデータベースは,認知機能正常が264名,軽度認知障害(MCI)が87名,ADが20名,軽度うつ病が2名であった.(b)認知機能正常者のうち,MRI所見と脳波の視察による判読結果の両方の正常者52名(精神作用薬未服薬状態)をNAT解析システムのNLCとした.(c)ADテンプレートによる類似度では,MCI群とNLC群の感度・特異度が80%以上であった.(d)中度うつ病テンプレートによる類似度では,くどうクリニックの軽度うつ病患者群とNLC群の感度・特異度が80%以上であった.(e)うつ病症状と認知症症状が交互に増悪したくどうクリニック通院患者の1年半の経過を,その間に4回取得した脳電位データのADと中度うつ病の類似度で確認したところ,それらの経時的な類似度の変化はカルテの内容とよく符合した.
【考察】各類似度の感度・特異度特性より,今回得られたNLCは非常に良質な健常者データであると言える.また,くどうクリニック通院患者の経過観察の事例より,NAT解析はうつ病と認知症の判別に対しても有効であることが示唆されたので,今後は精度のよいうつ病テンプレートデータの収集を実現したいと考えている.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 16:14〜16:59
検査法A
座長: 安野 史彦(国立循環器病研究センター)
P-B-18 
高齢者のうつ状態の予見因子としての唾液中ノルアドレナリン代謝産物濃度(MHPG);伊万里市黒川町における老化に関する長期縦断疫学研究
堤 あき子(佐賀大学医学部精神医学講座)
【目的】うつ病は高齢者メンタルヘルスに重要な要因となっており,将来のうつ状態の予見因子を同定することができれば予防にも有用であると思われる.そこで,心理的ストレスの指標といわれる唾液中の3‐methoxy‐4‐hydroxyphenylglychol(sMHPG)がその後のうつ状態のバイオマーカーとなるかを検討した.
【方法】2004年から2006年にかけて(Time A)伊万里市黒川町在住の65歳以上の高齢者400名に認知症予防検診の案内を出し,225名が参加した.検診はMMSE,FAB,Beck Depression Inventory(BDI)を行い,唾液の採取と頭部MRIを撮影した.2007年から2009年にかけて(Time B),Time Aの参加者全員に追跡調査の依頼を行い,応募した144名(男性44名,女性100名)には同様にMMSE,FAB,BDIを行った.Time Aで採取した唾液中のMHPG濃度はGC‐MSで測定した.  sMHPG濃度とTime A及びTime BのBDI得点の関連を調べるためにPearson相関係数を求めた.  またTime A及びTime BにおいてBDI得点9/10をcut off pointとしてうつ状態群と非うつ状態群に分けそれぞれのsMHPG濃度をstudent's t‐testで比較した.P<0.05を有意とした.  参加者には文書で研究参加の同意を得た.本研究は佐賀大学医学部倫理委員会の承認を得ている.
【結果】男性においてTime AのsMHPGはTime BのBDI得点と有意な正の相関が認められたが(r=0.4,P=0.007),Time AのBDI得点とは相関は認められなかった.一方女性では有意な相関はなかった.またTime AでBDI得点が10点以上のうつ状態群のsMHPGは13.1±3.7ng/mlであり9点以下の非うつ状態群(13.1±5.0ng/ml)と有意な差はなかった.しかしTime BのBDI得点で分けた場合,10点以上にうつ状態群のsMHPGは14.3±5.0ng/mlであり,非うつ状態群(11.7±3.7ng/ml)に比べ有意に高値を示した(t=−3.5,P=0.006).
【考察】体液中のMHPG濃度はこれまでうつ病では高いという報告や低いという報告があり,一定していない.これはうつ病の型による違いと思われるが,特に遺伝負因がないこと,kobasa Hardiness Questionnaireで無力感得点が高い患者で血漿中MHPGが高いことが報告されている.今回Time Aの時点でsMHPGが高い参加者は3年後のBDI得点が高くなることが示され,特に男性でこの傾向が強かった.すなわちsMHPGが高い高齢男性は将来うつ状態となり易いことを示唆している.
P-B-19 
アルツハイマー型認知症における松果体体積の検討
松岡 照之(京都府立医科大学大学院精神機能病態学)
【目的】アルツハイマー型認知症(AD)では,睡眠障害がしばしば認められるが,その原因の一つとしてメラトニンが関与していると考えられている.メラトニンは松果体で産生され,その体積とメラトニン分泌量は相関し,また,AD患者では健常者や軽度認知機能障害(MCI)患者よりも松果体の体積が減少しているという報告がある.メラトニン分泌量は加齢とともに低下し,ADではさらに低下すると考えられているが,これはADにおいて松果体体積が減少していることによるのかもしれない.また,睡眠障害を認めるAD患者は松果体体積が減少してメラトニン分泌量が少ないのかもしれない.そこで本研究では頭部MRIを用いて,松果体体積を測定し,AD患者とMCI患者との比較を行うとともに,ADにおいて睡眠障害の有無による体積の比較をすることを目的とした.また,松果体体積に影響を与える因子も調べた.
【方法】対象は京都府立医科大学附属病院に通院中のAD患者18名(男性7名,女性11名,平均年齢 80.4±4.4歳)とMCI患者9名(男性3名,女性6名,平均年齢72.3±7.3歳)とした.対象者は全員donepezilや向精神薬は内服していない患者とした.Neuropsychiatric Inventory(NPI)の睡眠障害の得点が1点以上の患者を睡眠障害有りと定義したところ睡眠障害を認めたAD患者は4名,認めなかったAD患者は14名であった.MCI患者は全員睡眠障害を認めていなかった.対象者全員に頭部MRI(3T,MPRAGE)を施行し,松果体体積はMRIcroを用いて用手的に測定した.統計解析はSPSSを用いて行い,一変量の分散分析により,年齢,全脳体積を共変量に用いて,AD群(n=18)とMCI群(n=9)の松果体の体積を比較した.同様に睡眠障害を認めたAD群(n=4)と認めなかったAD群(n=14)の比較も行った.また,松果体体積を従属変数とし,独立変数に診断,年齢,性別,MMSE,全脳体積,NPIの睡眠障害の得点とし,ステップワイズ重回帰分析も行った.いずれの解析においてもp<0.05を統計学的有意とした.
【倫理的配慮】本研究は当大学医学倫理審査委員会の承認を受けており,患者,家族に説明し同意を得た.また発表にあたり匿名性に配慮した.
【結果】松果体体積はAD群69.9±20.3mm3(睡眠障害を認めた群62.9±3.9mm3,睡眠障害を認めなかったAD群71.9±22.8mm3),MCI群114.2±33.1mm3であった.AD群とMCI群の比較において診断による主効果を認めた(p=0.003)が,睡眠障害を認めたAD群と認めなかったAD群との比較では認めなかった(p=0.745).重回帰分析においては,診断(B=51.222,t=4.305,p<0.001)のみが,松果体体積の予測因子として抽出された.
【考察】先行研究と一致してAD患者ではMCI患者より松果体体積が有意に減少していた.AD患者における睡眠障害の有無では松果体体積の差は認めなかった.また,重回帰分析でも睡眠障害は松果体体積に関与しておらず,診断だけが関与していた.この事からADの睡眠障害に対して松果体は関与していない可能性があるが,本研究の対象者は少ないため,今後対象者数を増やして検討する必要性がある.当日は対象者数を増やして発表する予定である.
P-B-20 
99mTc-ECDを用いた脳血流画像での早期像と後期像の分布に関する研究;健常者データベースを使用しない認知症の検出の試み
河上 一公(島根大学医学部精神医学講座)
【目的】日常臨床における99mTc‐ECDによる脳血流画像は一般的に投与後10後程度から撮像される.これは脳内分布が安定しているからであるが,3時間以降では分布の変化があるという報告も存在する.今回,我々はこの3時間以降の脳血流画像の変化に意味があるのかを確認すべく,Mild Cognitive Impairment(MCI)および認知症群において,早期像と後期像とを比較・検討する.
【方法】対象はMCIおよび認知症の患者23名(男:女14:9,平均年齢68.2±14.7歳)とした. 99mTc‐ECDを投与後,10分程度で撮像された脳血流SPECT画像を早期像,その後3時間以降に撮像された脳血流SPECT画像を後期像とした.実際の後期像撮像までの間隔は3時間58分±44分となった.  収集処理条件は島津社製PRISM IRIXを用いて,コリメータLEHR,マトリクス128*128,収集角度5°,収集時間30sec/view,前処理フィルターButterworth Filter 0.25cycle/pixel,Order 8,減弱補正Chang法 μ=0.09cm−1にて処理を行った.  解析にはMATLABおよびSPM8を用いて,早期像および後期像の脳血流SPECT画像をPaired t‐testによる統計解析を行った.Uncorrected,Cluster 50voxel以上,p<0.001を有意とした.
【倫理的配慮】本研究においては島根大学医学部倫理委員会の審査を受けて,承認が得られている.
【結果】後期像−早期像解析において,認知症での血流低下が報告されている後部帯状回や楔前部等が示された.
【考察】本研究の結果で示された部位は99mTc‐ECDが早期像では取込みが正常部位より低く,後期像では洗い出しの速度が遅いと考える.後期像が脳細胞による代謝の影響を受けているとすると,代謝が遅い(細胞の活動性が低い)ということが考えられる.早期像および後期像を用いることで,通常は健常者データベースと比較しないと得られない血流低下部位を疾患データのみで検出できる可能性が示唆された.
P-B-21 
各認知症疾患における,睡眠障害の傾向
羽田野 政治(認知症高齢者研究所)
【目的】認知症高齢者は,その症状によって日常生活に支障をきたしてしまうため,生活リズムが崩れやすい.その結果,夜間の不眠・不穏・精神混乱などのBPSDを引き起こすと考えられている.更に,環境変化への適応性も低下しているため,生活パターンを整えていくことが重要である.個々の生活リズムに合った適切な時間の排泄誘導や水分摂取,安定した日課活動により,夜間中途覚醒,昼夜逆転といった生活リズムの乱れを改善・予防するといったことが期待できる.認知症疾患別に睡眠障害の傾向をとらえることで,ケアを行う上での基準・指針を得ることができる.
【方法】研究の協力が得られた認知症高齢者共同生活介護施設(Aグループホーム)および高齢者専用賃貸住宅(Bナーシングホーム)にて,以下の通り測定・分析を行った.  @睡眠測定器を用いて2週間の睡眠状態の把握を行った.(5台をローテーションして行い,82名の測定実施)  A認知症疾患別に分類し,傾向を検証した.  測定した80名の各疾患の割合は以下の通りである.  ATD:41名,VD:10名,DLB:5名,混合型:9名,FTD:2名,その他13名(未診断者含む)  分類は日本睡眠学会による睡眠障害の定義をもとに一定の基準を設けて行った.
【倫理的配慮】個人情報の利用に関しては,学会での発表のために必要な範囲に限定され,個人が特定されることはないこと,また,研究への参加は自由意志であり,いつでも取り消すことができることを事前に本人および家族に書面で伝え,承諾を得た.
【結果】ATD患者で,脳血管性認知症を併発していない者.また,睡眠に影響のある認知症以外の疾病(うつ病など)を併発していない者.14日のうち7日以上データのある37名の分析結果は表の通りである.
【考察】今回,睡眠障害の傾向を認知症疾患別に捉えたことで,疾患ごとに異なる進行の経過に合わせたケアの基準・指針を得ることができ,予見可能性を高めたケア方法を共有することが可能になると考えられる.これらが可能になることで,認知症高齢者のBPSDの発生頻度を抑え,QOLの向上につながるとともに,介護負担が軽減されることが期待できる.  しかしながら,対象者個々のADLや認知症以外の疾患により,睡眠の状態が変化してくるため,今後さらに多くの対象者における睡眠状態の測定・分析を行い,傾向を捉えていく必要がある.
【協力】パラマウントベッド(株),(株)横浜福祉研究所
P-B-22 
近赤外分光法を用いた囲碁中の脳血流量変化の基礎検討;順唱,計算ドリルとの比較
奥山 惠理子(聖隷クリストファー大学大学院保健科学研究科)
【目的】前頭前野の血流を増加させるタスクはある種の認知症の症状を改善するあるいは認知症予防に繋がるという仮説に基づき,囲碁実施中の前頭前野の血流を近赤外分光法を用いて検討する.
【方法】検討は,数字の順唱,認知症予防用として普及している計算ドリルと比較して行った.用いた測定機器は日立メディコ社製光トポグラフィ装置ETG7100であり,前頭前野領域にプローブをあて,酸素化ヘモグロビン量を測定して用いた.実験中はその実施状況をビデオで同期させて収録した.また,対象(被検者)は全て男性で右利きであり,A:71歳(棋力3級),B:67歳(棋力3段),C:71歳(棋力初段)である.
【倫理的配慮】本実験の被検者には事前にインフォームドコンセントを行い,個人情報保護等について説明し同意をいただいた.尚,本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会にて承認を受け実施した.
【結果】各タスク時の結果を表1に示す.
【考察】全体的に,囲碁が計算ドリルより脳血流が増加している様子が伺え,脳リハビリに有効であることが示唆された.また,あまり考えずドンドン石をおいてしまうCの血流量変化が他被検者と違うトレンドを示した点も注目すべきである.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 16:59〜17:51
認知症ケア研究
座長: 玉井 顯(敦賀温泉病院)
P-B-23 
要介護高齢者の在宅生活維持に必要な要因;TDASによる認知機能低下の早期発見
福田 敏秀((社福)こうほうえん,鳥取大学医学部保健学科生体制御学)
【はじめに】わが国の高齢化は急激に進み要介護高齢者も増加の一途を辿っている.認知症高齢者は65歳以上の10人に1人の頻度でみられると考えられ,認知機能低下により在宅生活ができなくなる者も少なくない.一方,在宅高齢者の認知機能調査は容易でなく検討の困難性が伺える.そこで今回,簡易に認知機能を評価できるタッチパネル式認知機能評価法(Touch Panel Type Dementia Assessment Scale;TDAS)を用いて検討した.本研究の目的は,高齢者の認知機能と在宅生活の関連要因を明かにし,支援に対する示唆を得ることである.
【対象および方法】対象は2008年5−6月の間,Y市S地域包括支援センター管轄内において,要支援判定の在宅高齢者31人である(以下,要支援者という).彼らに対しTDASによる認知機能評価と要介護認定調査2006(基本調査)の2から5群を用いたADL評価を行った.TDASは世界的に有効性が認知されているADAS(Alzheimer's disease assessment scale)をタッチパネル式コンピューターを用いて簡単に施行できる.また,同居家族に対して一部改訂したZarit介護負担感尺度日本語版(J‐ZBI)による調査を行った.本調査は同一対象者に6ヶ月間隔で行う追跡調査であり,第1回調査を2008.5−6月に開始し,第5回調査を2010.5−6月に行った.分析については,要介護状態へ移行した者と非要介護者に2値化し,これを目的変数としたロジスティック回帰分析を行った.また,Zarit介護負担感尺度で得られた値(悪化/維持・改善)を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った.いずれも説明変数は,性別,年齢,家族人数,主介護者,TDAS得点,ADLとした.
【倫理的配慮】対象者に調査説明,協力依頼し同意書による承諾を得た.また,本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】要支援者のうち要介護状態となった者は8人あった.要介護者は非要介護者に比してTDAS得点の有意な悪化がみられ,オッズ比16.67(95%信頼区間;1.14−244.45,p=0.040)であった.要支援者の介護負担感については,年齢に対し有意な関連がみられ,オッズ比1.25(95%信頼区間;1.01−1.56,p=0.045)であり,また,主たる介護者のうち配偶者に有意な関連がみられ,オッズ比48.47(95%信頼区間;1.27−1848.94,p=0.037)であった.
【考察】要支援者を経時的にみたところ,要介護状態へ移行する危険因子として認知機能低下があげられた.彼らに対しては,認知症予防を目的とした早期介入の必要があり,その際,介護支援専門員等の専門職者は,認知機能レベルを正確に捉えなければならない.TDASは簡便に行える認知症の評価法であり,認知機能アセスメントにおいて有用である.また,高齢の要支援者を介護する配偶者の介護負担感が検出され,家族介護者のうち配偶者に対する支援の重要性が示された.専門職者には,高齢者の認知機能が正常レベルの段階から家族を含めた長期的な介入が求められる.
P-B-24 
医療福祉系大学生の講義受講による高齢者イメージの変化;加齢や高齢者と認知症の知識の違いによる検討
奥村 由美子(川崎医療福祉大学)
【目的】高齢社会において高齢者への理解を深める機会をもつことが必要である.医療福祉系の専門職が専門業務をより円滑に進めていくためには,高齢者への理解を深める必要性は非常に高い.今後専門職を目指す学生にとって大学での講義が高齢者の様々な側面を詳細に知ることができる重要な機会である.そこで本研究では老人心理学を受講する学生の,加齢や高齢者と認知症の知識の違いによる高齢者イメージの変化について検討した.
【方法】調査対象と方法:対象は,大学で老人心理学を受講する学生135名(男性43名,女性92名),平均年齢は20.10±3.16歳であった.2009年度の講義初回と最終回に質問紙調査を集団で実施した.調査項目:@対象者の基本属性と高齢者とのかかわり,A認知症に関する知識,BパルモアのFacts on Aging Quiz(FAQ)に手を加えた加齢や高齢者についての知識を測定する項目の一部(faq),C先行研究の検討と予備調査による3種類(SD法,認知症高齢者イメージ,認知症の認識)の高齢者イメージ,を尋ねる項目を用いた.
【倫理的配慮】調査について説明を行ない,同意する場合には質問紙に回答してもらった.個人を特定しないために,調査は無記名により実施した.講義前後の高齢者イメージについて同一者間での比較を行なうために,一定期間経ても学生にとって想起が可能で,かつ研究者にはその個人が特定できない番号として,学生各自で誕生の日と携帯電話番号の一部を組み合わせたものを記入してもらった.なお,番号の重複する者はいなかった.
【結果】@イメージ項目については因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,講義受講前後の高齢者に対するイメージに共通する項目を因子負荷量の高いものから選択した.「SD法」については「統合・柔軟性」と「能動性」,「認知症高齢者イメージ」については「円熟性」と「積極性」,「認知症の認識」については「否定性」と「実現・親和性」という計6因子を抽出し,各因子得点を用いて分析をすすめた.A認知症の知識とfaqのそれぞれの得点の高低により設定した4群間で,講義前後の高齢者イメージの変化について分散分析および多重比較により検討した.その結果,「能動性」のイメージは認知症の知識得点が低くfaq得点が高い場合に,認知症の知識得点が高くfaq得点が低い場合よりも肯定的に変化していた(F(3,115)=2.970,p<.05).また,faq得点の高低に関わらず,認知症の知識得点が高い群では低い群にくらべて,「実現・親和性」のイメージが肯定的に変化していた(F(3,118)=2.790,p<.05).
【考察】本研究では加齢や高齢者,および認知症に関する知識得点により講義によって変化しやすい高齢者イメージが異なっていた.加齢や高齢者に関する知識を多く有することで高齢者の能動的側面の理解が深まるが,「無関係ではなく,誰にでも起こりうる」という側面への理解には認知症に関する知識をより多く有することと関連していた.より具体的に,現実的な高齢期のあり方を考えていける人材養成には,認知症への理解を高める内容を積極的に導入する必要性があると考えられた.
 <謝辞>本研究は,平成21年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)「加齢および高齢者に関する知識とイメージを測定するテストの開発(研究代表者:奥村由美子)」の助成を受けて行いました.記して深謝します.
P-B-25 
認知症者のBPSDの出現と症状ごとの介護負担に関する研究;Neuropsychiatric Inventory(NPI)を用いて
大西 久男(大阪府立大学総合リハビリテーション学部)
【目的】認知症者に出現するBPSDが,介護者にさまざまな負担を与えることについては,これまでにも明らかにされてきている.これまでの認知症者の介護者の介護負担は,Zarit介護負担尺度を用いたものが多い.しかしながら,専門職として介入を行う際には,個々の症状の負担感そのものを把握しておく必要があろう.そのため,今回は,BPSDの症状別に負担感を測定可能なNPIを用い,BPSDの種類による介護者の負担感の軽重を検討することである.
【方法】老人保健施設2施設と回復期リハビリテーションを専門とする病院において,入所者・入院者のBPSDに関する以下の調査を行った.過去1ヶ月にみられたBPSDの発生頻度とその種類・重症度・介護負担度,ならびに認知症尺度・認知機能を調査した.BPSDに関してはNPI‐Q,ADLは兵庫脳研式ADLスケールを用いた.また,認知症の重症度にはCDR,認知機能の評価にはMMSE,HDS‐Rの直近の成績を収集した.  入院患者の主たる介護・看護職員に配布し,対象者の1ヶ月間にみられた症状・状態の評価を依頼した.  なお,対象者総数は210名であった.
【倫理的配慮】認知症患者の臨床データを扱うため,個人情報について厳重に管理するとともに,データの解析は匿名化して行った.
【結果と考察】BPSDの出現率は「無為・無関心」,「易怒性」,「興奮」,「睡眠」がそれぞれ45%,42%,41%,34%と高い出現を認め,一方,「食事」と「幻覚」は3%,6%と低い出現率であった.負担感も出現率に対応した結果が得られている.しかし,「睡眠」は出現頻度比べ,負担感が高くない結果も得ている.  同じBPSDであっても,負担を感じる程度が異なることは,認知症者の行動全体に対する介護負担感には,ある特定の症状に対する負担感が大きく影響している可能性を示唆するものであろう.
P-B-26 
疼痛行動評価尺度日本語版DOLOPLUS2妥当性の検討
安藤 千晶((社福)浴風会浴風会病院,聖路加看護大学)
【目的】日本語版DOLOPLUS2が認知症高齢者の疼痛を特異的に測定するか証明することを目的とした.
【研究施設】高齢者専門病院の急性期病棟1病棟.
【研究対象】1.日本語版DOLOPLUS2尺度,日本語版Neuropsychiatric Inventor尺度(以下NPIと省略)被験者は,認知症によりコミュニケーション障害を持ち,原疾患に関係なく,本人又は代諾者により同意が得られた65歳以上の者(既に麻薬使用している者,検査入院の者は除外).2.日本語版DOLOPLUS2の測定者(看護師)は,研究に同意し,測定前に行う事前説明会に参加し,かつ測定前に実際に1回以上測定を行い尺度を理解したと研究者に判断された者.
【研究方法】DOLOPLUS2測定の基準は,入院時の病歴聴取時に患者をよく知る看護師等から得られる情報から『患者のいつもの状態』を把握,これを測定基準とし2週間測定を実施した.点数化は,測定者(日勤看護師)が夜勤者からの申し送り内容と,一日の患者の状態を観察した結果,勤務終了時に行った.NPI測定は,入院後1週間経過した時点で研究者が測定者に質問を行い実施した.被験者の認知機能重症度評価Mini‐Mental State Examination(以下MMSEと省略)は,臨床心理士によって行われた.
【倫理的配慮】1.被験者は判断・同意が困難であるため,代諾者に説明を行い,同意書による同意とサインをもって研究参加の意思とみなした.2.測定者には,自主参加による事前説明会にて研究参加は自由であることを伝え,同意書を提出した後に研究対象者とした.本研究は聖路加看護大学研究倫理審査委員会より承認された.
【結果】被験者数27名,年齢88.0歳(SD±8.2),MMSE4.4点(SD±5.8)であった.測定者は12名,看護師歴15.4年(SD±10.0),認知症患者へのケア4.4年(SD±3.3)であった.2週間の測定期間内でDOLOPLUS2トータルスコアが一日でもカットオフとされる5点以上であった被験者は13名,5点未満は14名であった.トータルスコア5点以上の被験者は全てNPI得点が1点以上であり,5点未満の被験者はNPI 0点が10名,1点以上が4名であった.またトータルスコア5点以上の被験者の主な疾患名は胆のう炎,大腿骨頚部骨折,褥瘡V度等であった.トータルスコア5点未満の被験者の主な疾患名は肺炎,尿路感染症等であった.又DOLOPLUS2はNPIの項目内容を含んでいる可能性があること,NPIとDOLOPLUS2は異なる事柄を測定しているということが明らかとなった.
【考察】本尺度が疼痛だけを測定するかどうかについて,中等度以上の認知症高齢者が疼痛を感じているかどうかを測定するためには,本尺度スコアや疾患の種類だけでの判断だけでは不十分であり,鎮痛薬を使用した前後でのスコアの経過を比較しなければ結論が出せない.今後カットオフ5点以上の患者に対し鎮痛薬を使用し検討する必要がある.またDOLOPLUS2使用時には,疼痛行動を明確にするために,NPIを併用する必要があることが示唆された.
P-B-27 
高齢者における移動歩行能力と認知機能・QOL;single task,dual task条件下における検討
橋本 学(国立病院機構肥前精神医療センター)
【はじめに】近年,高齢者における運動と認知機能との関係が取り上げられ,なかでも歩行と認知機能に関しての研究が注目されている.我々は,自立した生活をしている地域在住高齢者における移動歩行能力と認知機能,Quality of Life(QOL),との関係について検討を行なった.
【対象】実用歩行(独歩および1本杖歩行)が可能な60歳以上の地域在住高齢者46名(男性17名,女性29名,年齢70.9±7.9歳).
【方法】[移動歩行能力]3m Up and Go testを行った.以下の2条件についてそれぞれ行なった.a)歩行のみを行なう条件(single task),b)1から始めて3を加算していったものを数唱する(1,4,7,10,13,16,19…)課題を行いながら歩行する条件(dual task).
[認知機能]Mini Mental State Examination(MMSE),Frontal Assessment Battery(FAB),modified Stroop test(1&3),Rivermead行動記憶検査(RBMT)を行った.
[QOL]「日常生活満足度(SDL)(産医大リハ版)」用いて主観的QOLを評価した.  これらについて,年齢が60−74歳の群と75歳以上の2群に分けた.それぞれの年齢群において,3m Up and Go testの所要時間の中央値で区切り,移動歩行の速い群(A群)と遅い群(B群)の2群に分類した.
[統計]Mann‐Whitney U testによって2群間の比較を行なった(p<0.05).
【倫理的配慮】被験者全員から研究参加に関する同意を文書で得た.
【結果】60−74歳の群では,3m Up and Go testの所要時間の中央値は7.25秒であった.75歳以上の群では8.90秒であった.各年齢群とも,中央値より速い群をA群,中央値より遅い群をB群とした.
 75歳以上の群では,A群(8例)はB群(7例)より有意に年齢が低かった(78.9±3.5歳vs82.1±2.9歳).一方,60−74歳ではA群(16例)とB群(15例)の間には年齢差はなかった(66.3±3.7歳vs66.2±5.5歳).この年齢層では,single task条件下での歩行では,A群はB群に比べて,Stroop partTの結果が有意に上回っていた(15.9±2.6秒vs19.4±6.4秒,p=.025).また,A群はB群に比べてSDLの「身辺のことが自分でできること」(4.9±0.3点vs4.4±0.7,p=.032)「家族との良い関係」(4.9±0.5点vs4.1±0.7点,p=.001)の2項目で有意に得点が高かった.Dual task条件下での歩行においては,A群はB群よりもStroop partT(15.9±2.6秒vs19.4±6.4秒,p=.025)とStroop partV(36.1±23.0秒vs39.8±11.5秒,p=.042)の結果が上回っていた.この条件下では,SDL得点には両群で有意差はなかった.
【考察】今回の我々の検討では,後期高齢者と年齢が重なる75歳以上の群においては,移動歩行能力の高いA群は,B群に比して有意に年齢が若かった.したがって,この年齢層において歩行能力と認知機能・QOLがどのように関係しているかについては今回の方法では年齢の要因を排除できず,今後被験者数を増やしての検討が必要と考えられた.一方,前期高齢者と一部年齢の重なる60−74歳の群ではA群とB群の間に年齢差はみられなかった.したがって,この年齢層においては,移動歩行能力が高いほどQOLが高い可能性が示唆された.また,認知機能との関係では,移動歩行能力が高い方が情報処理速度や遂行機能が高い可能性があることが示唆された.移動歩行能力は,記憶などの大脳の後部脳機能よりも情報処理速度や遂行機能といった前部脳機能と関係が深いことが考えられた.この傾向はより認知機能の関与が強くなると推測されるdual task条件下での歩行においてより顕著であった.
P-B-28 
レビー小体型認知症の認知機能,精神症状,介護負担の経時的変化;アルツハイマー型認知症との比較
露口 敦子(熊本大学医学部附属病院神経精神科)
【目的】レビー小体型認知症(DLB)の長期経過については,いまだ確実な知見は得られていない.今回われわれは,認知症データベースを用いてDLBの認知機能と精神症状ならびに介護負担の経時的変化を調べ,ADと比較した.
【対象】熊本大学医学部附属病院神経精神科認知症専門外来では,診断,治療,介護指導などの初期介入が終了後は原則としてかかりつけ医に日常の診療を依頼している.同時に当院では,認知症縦断研究への参加の同意が得られた患者に対してのみ1年ごとに定期検査を実施し,それらの結果を一定の基準でデータベースに登録している.  本研究では初診時点の年齢が65歳以上のprobable DLB患者とprobable AD患者を上記データベースから抽出し対象とした.なお,possible DLB患者ならびに初診時にせん妄を合併する患者は本研究から除外した.
【方法】全般的な認知機能をMMSE,精神症状をNPI,介護負担度をZBIを用いて評価し,1年間の変化量(1年後の検査値−初診時の検査値)を,DLB群とAD群の2群間でstudent t testを用いて比較した.
【倫理的配慮】本研究では認知症縦断研究(当院倫理委員会に承認済み)への同意が得られた者のみを対象とした.
【結果】DLB24名(男性13名,女性11名,平均年齢80.3±5.3歳),AD69名(男性21名,女性48名,平均年齢79.1±5.6歳)において1年間の経時変化の評価が可能であった.  MMSEの初診時平均得点はDLB群18.6±5.6点,AD群21.0±4.0点でDLB群の方が有意に低かった(p=0.03).MMSEの1年間の変化量はDLB群−2.5±4.4点,AD群−1.4±3.1点で2群間に有意差は認めなかった(p=0.28).NPIの初診時の合計得点は,DLB群14.5±10.4点,AD群7.5±7.8点で,DLB群の方が有意に高かったが(p=0.001),1年間の変化量はDLB群−2.5±12.9点,AD群1.2±8.6点で2群間に有意差は認めなかった(p=0.12).ZBIは,初診時DLB群30.4±16.7点,AD群21.3±14.9点でDLB群の方が有意に高く(p=0.02),1年間の変化量はDLB群−3.0±13.5点,AD群0.2±9.8点で2群間に有意差は認めなかった(p=0.30).
【考察】今回の結果から,初診の時点ではDLBの方がADよりも認知機能障害,精神症状が強く,介護負担度が高かったにもかかわらず,経時変化には差がない事が示された.今回の結果については,DLBとADの薬物治療への反応性の差なども関連していると考えられ,それらの影響も考慮し当日はDLBの長期経過について考察する.