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6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 9:00〜9:52
疫学地域@
座長: 橋本 衛(熊本大学医学部附属病院神経精神科)
P-A-1 
一般住民における聴力低下と認知機能低下の関係について
菅原 典夫(弘前愛成会病院精神科,弘前大学大学院神経精神医学講座)
【目的】年齢の上昇とともに聴覚障害の罹患率が増加することが知られている.聴覚障害と認知機能低下や抑うつ状態との関連性を指摘する報告がある一方で,抑うつ状態に関しては関連性を否定するものも存在するのが現状である.聴覚障害に伴う抑うつ状態は,認知機能低下の前段階として,情動および行動に対する動機づけの欠如を特徴とするアパシーの混在が考えられるが,こうした視点に立った研究は皆無である.本研究では,聴覚障害と認知機能および抑うつ,アパシーの関連を一般健康住民において検討する.
【方法】2008年から2009年にかけて岩木健康増進プロジェクトに参加した50歳以上の一般健康住民846名(男性310名,女性536名)より研究参加の同意を得て,対象者とした.オージオメーターAA‐73A(RION)により500,1,000,2,000Hzの気導聴力を測定し,その平均値を聴力とした.認知機能の評価にはMini‐Mental State Examination(MMSE),アパシーの評価にはStarkstein's apathy scale(AS),抑うつ状態の評価にはCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES‐D)scaleを共に日本版で使用した.また,健康関連QOLを測定するために,Short‐Form 36 Health Survey Version 2.0(SF‐36v2)を使用した.年齢,性別,教育年数に関する情報は,自記式アンケートより得た.  参加者を聴力により25dB未満を聴力障害なし群,25dB以上から40dB未満を軽度難聴群,40dB以上を中度以上難聴群と3群に分け,連続量変数は対応のないt検定で群間の比較を行った.  また,聴力とMMSE,CES‐D,ASまたはSF‐36の下位項目との関係については,年齢,性別,教育年数を共変数として重回帰分析を実施した.なお,有意水準はp<0.05に設定した.
【倫理的配慮】本研究の実施に先立ち,弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を得た.
【結果】MMSE得点と聴力との間に関連性(β=−0.141,t=−4.177,P<0.001)を認める一方,CES‐Dとの間には同様の傾向はみられなかった.ASと聴力の間には関連性(β=0.094,t=2.434,P<0.05)を認めた.また,聴力低下はSF‐36の下位項目である社会生活機能(β=−0.084,t=−2.165,P<0.05)や日常役割機能(精神)(β=−0.089,t=−2.332,P<0.05)とも関連性が認められた.
【考察】一般健康住民において聴力低下は,MMSEの低値やASの高値と関連を認めたが,CES‐Dではそうした関連はみられなかった.
P-A-2 
都市在住高齢者の自覚的なもの忘れの分布と関連要因及び客観的な認知機能低下との関連
井藤 佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所)
【目的】都市在住高齢者を対象に,自覚的なもの忘れの分布と関連要因,および自覚的なもの忘れと客観的な認知機能との関連について分析した.
【方法】東京都A区在住の65歳以上の全高齢者のうち,4月から9月生まれで,高齢者施設に入所中の者を除く3827人を対象に,郵送法による自記式アンケート調査を実施した.アンケートは人口統計学的要因,社会的要因,健康関連要因に関する質問項目で構成される.アンケート回答者のうち95人を対象に,精神科医による面接と認知機能検査を施行した.面接でCDRを評価し,認知機能検査は,MMSE,AQT,WMS‐Rの論理的記憶,ADAS Cogの10単語再生,WAIS Vの類似と符号,TMT A,TMT Bを施行した.統計解析にはt検定,ロジスティック回帰分析,重回帰分析を用いた.
【倫理的配慮】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所の倫理委員会の承認を得て行われた.
【結果1:自覚的なもの忘れの分布と関連要因】 2431人から有効票を回収した(回収率63.5%).自覚的なもの忘れは,もの忘れの不安(「あなたは現在,もの忘れに対する不安はありますか」)と,もの忘れが増えた自覚(「あなたは,半年前に比べて,もの忘れが増えたと感じますか」)の2項目で評価した.解析は,それぞれの質問項目に欠損値のない1508人,1096人を対象とした.出現頻度は,もの忘れの不安が67.5%,もの忘れが増えた自覚は49.1%だった.単変量解析では,もの忘れの不安は,女性であること,年齢が高いこと,就労していないこと,ソーシャルネットワークが小さいこと,主観的健康観の不良,心疾患の既往,疼痛,精神的健康度の不良,抑うつ,日中の眠気,IADLの低下と関連した.もの忘れが増えた自覚には,年齢が高いこと,教育年数が低いこと,独居,就労していないこと,ソーシャルネットワークが小さいこと,主観的健康観の不良,がんの既往,心疾患の既往,精神的健康度の不良,抑うつ,日中の眠気と関連した.多重共線性を考慮して単変量解析で有意な関連を認めた要因を説明変数投入した多変量ロジスティック回帰分析を行った.もの忘れの不安には,女性であること,精神的健康度の不良,日中の眠気,IADLの低下が,それぞれ独立に関連した.もの忘れが増えた自覚には,年齢が高いこと,疼痛,精神的健康度の不良,日中の眠気,IADLの低下が,それぞれ独立に関連した.
【結果2:自覚的なもの忘れと認知機能との関連】 対象者95人のMMSEの平均点±標準偏差は28.23±1.63であった.CDR=0(n=78)群とCDR=0.5以上(n=17)群のMMSEの平均±標準偏差はそれぞれ28.58±1.33,26.65±1.97で,CDR=0.5群で有意に低かった(t=4.930,p<0.001).しかしCDRと自覚的なもの忘れの訴えは関連しなかった.年齢,教育年数,および多変量解析で有意な関連を認めた要因を共変量に投入した重回帰分析において,いずれの認知課題も,自覚的なもの忘れと有意な関連を認めなかった.
【結論】都市在住高齢者において,自覚的なもの忘れは,精神的健康度の不良,日中の眠気,IADLの低下と独立に関連するが,客観的な認知機能低下とは関連しない.
P-A-3 
一般生活者における認知症罹患に対する不安とその関連要因
熊本 圭吾((独)国立長寿医療研究センター長寿政策科学研究部)
【目的】「超高齢化社会」を迎えるとされるわが国において,一般の生活者の多くが,高齢になり認知症などになることへの不安を抱えている.そこで本研究では,一般生活者において,自身が認知症に罹患することへの不安をどの程度抱いているか,および認知症罹患の不安に関連する要因について明らかにすることを目的とする.
【対象と方法】対象:一般生活者パネルから抽出し,調査協力の意志を表明した20歳以上の2,500名を対象に,自記式質問票による郵送調査を2006年に実施し,2,161名の有効回答を分析対象とした.回答は匿名とし個人が特定できる情報は取得していない.分析対象者の性別は,男性が1,101名,女性が1,149名,不明が1名であった.年齢は,20〜39歳が755名,40〜64歳が806名,65歳以上が600名であった. 方法:(1)認知症罹患に対する不安の有無:「将来認知症になることについてどの程度不安に感じているか」について,「1:よく不安を感じることがある」から「4:全く不安を感じることはない」までの4件法で回答を求め,「1,2」を「不安あり=1」「3,4」を「不安なし=0」の2値に変換した.(2)認知症の知識:認知症に関する11項目から正しい内容の項目の選択を求め,正答数を点数とした.(3)介護保険および医療制度に対する満足度:それぞれについて「1:非常に満足できる」から「4:全く満足できない」までの4件法で回答を求めた.(4)認知症との関わり,および最近1年間の受診:それぞれについて有無を尋ねた(「関わったことがある」「受診した」=1)).
【結果】対象者の62.1%(1335名)が,自身の認知症罹患に対して不安がある,と回答していた.性別では女性において,また,年齢層が上であるほど,認知症罹患に対する不安がある者の割合が高かった(Mantel‐Haenszel検定にてp<0.0001).  認知症罹患に対する不安の有無を従属変数とし,認知症の知識,介護保険に対する満足度,医療制度に対する満足度,認知症との関わりの有無,最近1年間の受診の有無,を独立変数として,ロジスティック回帰分析を行った.独立変数を強制投入し,性と年齢で調整した結果,5%水準にて有意な関連が認められた変数は以下の通りであった(括弧内は,オッズ比:オッズ比の95%信頼区間).介護保険に対する満足度が低い(1.350:1.069−1.706),認知症と関わったことがある(1.791:1.379−2.143),最近1年間に受診したことがある(1.757:1.373−2.248).
【考察】本研究の結果,認知症罹患に対する不安は,認知症の知識や医療制度の満足度とは有意な関連が認められなかったが,病院を受診していた者において不安が高かった.この結果から,認知症罹患についての不安は,病気全般に対する罹患への不安に近く,疾患としての認知症の知識や,医療への期待感は,不安の低減にあまり結びついていないことが示唆された.一方,認知症と関わった経験がある者,介護保険制度に満足感を持っていない者において有意に不安が高く,認知症罹患に対する不安は,主に自身が要介護状態になることに対する不安として捉えられていると考えられた.
P-A-4 
認知症高齢者が施設入所や医療機関入院を選択する背景要因;在宅生活の継続を困難にさせる要因についてのアンケートによる検討
若松 直樹(日本医科大学老人病研究所街ぐるみ認知症相談センター)
【はじめに】我々は文部科学省社会連携研究推進事業としての「街ぐるみ認知症相談センター」を運営している.相談臨床を継続するなかで,特に疾病が中等度以上と思われる事例において,当初は在宅生活をしていたものの,高齢者福祉施設や精神神経科病床,またはその他療養型病床へ異動する事例が散見される.認知症ケアでは,疾病の早期診断・早期治療とともに,在宅ケアの継続に影響する要因の検討も重要であろう.今回我々は,日常的に協同活動することの多い地域包括支援センターや居宅介護支援事業所の協力を得て,認知症高齢者が在宅ケアから施設入所や医療機関入院によるケアに移行する際の要因について,アンケートにより検討を加えたので報告する.
【方法】在宅によるケア継続を困難にさせると思われる原因を,あらかじめ大要因として@中核症状,A行動障害,B全身状態増悪,C介護者疲労・負担感増大,D介護者意欲低下,E介護者不足,F地域生活上の摩擦,G権利擁護・保護,H家屋の物理的理由,I経済的理由と定義し,さらに細分化した40の小要因を挙げた調査票を作成した.これを地域包括支援センターや居宅介護支援事業所のケアマネージャーや社会福祉士,看護師などに配布し,自らが担当した認知症高齢者事例において,在宅生活の継続を困難にさせた要因を複数回答することとしたうえで,そのうち最大の理由とみられる要因をひとつだけ選択することとした.
【倫理的配慮】調査にあたっては,調査票依頼先の匿名性をはじめとして,対象となる高齢者の匿名性や情報の秘匿管理には最大限留意した.
【結果】〈調査について〉現時点において対象は62例(居宅介護支援事業所54例,地域包括支援センター8例)である.回答者はケアマネージャー55例.社会福祉士5例.看護師2例であった.対象認知症高齢者は男性23例(平均年齢84.8歳),女性39例(平気年齢83.9歳).診断名は男女それぞれ,アルツハイマー病(7例,17例),脳血管性認知症(11例,15例),その他(4例,7例),不明(1例,0例)であった.最高最多介護度は男性で要介護3が8例,女性で要介護4が13例.発症から入所・入院に至る期間がある程度明らかな38例全体で,その平均期間は4.0年であった.異動先は男性で自宅から介護付き(有料)老人ホーム6例,女性で特別養護老人ホーム17例がもっとも多かった. 〈背景要因について〉認知症高齢者が在宅生活を継続することが困難となる一般的要因(複数回答)としては,@中核症状29.6%,C介護者疲労・負担感増大28.4%,A行動障害15.8%が多数を占めていた(その他は10%未満).それに対して,最大要因(単数回答)としては,C介護者疲労・負担感増大33.3%,B全身状態増悪28.1%,E介護者不足10.5%が多数を占めていた(その他は10%未満).
【考察】複数回答として挙げられた要因は,日々対応に苦慮する課題として考えることができるであろう.健忘を主とする中核症状は,家族にいつも同じ事柄への対応を強いる結果となる.これが家族の心理的疲弊による適切ではないケアの元となり,認知症高齢者の行動障害を増幅させる悪循環となることは既に指摘されている.そうした中で,在宅生活を最終的に困難にするものは,家族の心身疲弊と高齢者本人の全身状態の増悪である.この段階においては,労力が家族に偏在したケアでは,介護福祉的にも医学的にも在宅生活の継続は困難であろう.早期発見・早期治療にはじまる認知症ケアには,在宅生活の支援とともに,その先においても認知症高齢者と家族に安全と安心を確保できる,在宅外での専門的ケア(入所・入院)の充足が必要であろう.
P-A-5 
認知症のための医療サービスの現状を把握するための評価尺度(MSD-50)の開発
粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所,仙台市立病院認知症疾患医療センター)
【目的】本研究の目的は,認知症のための医療サービスの現状を把握するための評価尺度(Medical Serivices for Dementia‐50items, MSD‐50)を開発することにある.
【方法】認知症の医療・保健・福祉に従事する医師,保健師,看護師,精神保健福祉士,臨床心理技術者で構成される作業グループ(WG)で,認知症の医療に求められる機能を可能な限り抽出し,内容を吟味した上で30項目の質問票(MSD‐30)を作成した.本質問票を用いて仙台市医師会登録医療機関750施設を対象に郵送法・自記式アンケート調査を行ったところ,275の医療機関から回答を得(回収率36.7%),探索的因子分析の結果7つの潜在因子が抽出された.この結果を踏まえ,WGにおいて認知症の医療に求められる機能についてさらなる検討を重ね,少なくとも8つの機能を評価することを想定した50項目の質問票(MSD‐50)を作成し,東京都(板橋区,豊島区,北区)医師会登録医療機関931施設と東京都医療機関案内サービスで「認知症の診療を行っている病院」として登録されている255施設を対象に郵送法・自記式アンケート調査を実施,因子的妥当性を検討するとともに,因子スコアのレーダー・チャートを作成して,尺度の有用性を検討した.尚,本研究は東京都健康長寿医療センター研究所倫理委員会の承認を得て実施した.調査および分析の対象は施設であり,個人情報は取り扱っていない.
【結果】東京都医師会登録医療機関280施設(回収率30.1%)と「認知症の診療を行っている病院」92施設(回収率36.1%)から回答を得た.回収された質問票のうち,MSD‐50に欠損値がなく,かつ東京都医師会登録医療機関で「認知症の診療を行っている」と回答した診療所178施設と東京都医療機関案内サービス登録医療機関で「認知症の診療を行っている」と申告している病院92施設のデータを併せた合計270の下位サンプルを作成し,主因子法による因子分析を行って8因子を抽出した.因子負荷量の高い質問項目から各因子は以下のように命名された.第1因子:鑑別診断機能,第2因子:地域連携機能,第3因子:身体合併症入院対応機能,第4因子:周辺症状入院対応機能,第5因子:周辺症状外来対応機能,第6因子:主治医機能,第7因子:在宅医療機能,第8因子:重度認知症長期療養機能.医療機関種別に因子スコア平均点のレーダー・チャートを作成して医療サービスのプロフィルを比較したところ,「認知症の診療を行っている病院」は第1,2,3,4,5,8因子で得点が相対的に高く,「認知症の診療を行っている診療所」は第6,7因子で得点が相対的に高い.かかりつけ医認知症対応力向上研修に「参加している」診療所と「参加していない」診療所を比較したところ,参加している診療所は第1,2,5,6,7因子で得点が高い.もの忘れ外来をもつ総合病院は第1,2,3,5因子で得点が高く,認知症治療病棟をもつ単科精神科病院は第4因子で得点が高く,療養病棟をもつ病院では第8因子で得点が高い.
【結論】MSD‐50の因子的妥当性が確認された.MSD‐50は認知症のための医療サービスの現状評価に有用である.認知症疾患医療センターは第1〜5因子のすべてにおいて卓越した機能をもつことが期待される.
P-A-6 
地域在住高齢者の抑うつ状態へのメタボリック症候群の影響;藤原京スタディ
森川 将行(堺市こころの健康センター,奈良県立医科大学精神医学講座)
【目的】高齢者の抑うつ状態には,心理社会的な影響のみならず身体疾患の影響も受けることが知られているが,今回,メタボリック症候群(以下Mets)の抑うつ状態に与える影響について検討した.
【対象】独歩可能な65歳以上の地域在住高齢者のQOLと生活機能に関するコホート研究(藤原京スタディ)のベースライン健診(2007−2008年)参加者4,427人のうち,欠損値を除いた3,796人(男性1,911人,女性1,885人)を解析対象とした.
【方法】抑うつ状態の把握にはGeriatric Depression Scale短縮版(GDS15)を用いた.その他,自記式調査票,身体計測,認知機能(MMSE),歯科検診そして血液検査などを実施した.Metsの判定には国際糖尿病連盟(IDF,2005)の基準を用いた.想定した関連因子各々について年齢,性差,Metsの有無で補正したロジスティック回帰分析を行い,P値が0.05未満のものを抽出,最終的に16の因子【年齢,性別,教育,睡眠障害,飲酒習慣,過去6か月のストレス(配偶者や子どもとの死別,親戚関係,収入,住居周辺環境),認知機能,社会的サポート(配偶者,その他の家族,友人),視力障害,聴力障害,1日の歩行時間(30分以上の有無)】に絞り込み,それらの調整済みオッズ比を多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)で求めた.なお,従属変数はGDS15で6点以上を抑うつ状態として2群に分けた.
【倫理的配慮】奈良県立医科大学医の倫理委員会の承認を受けた.
【結果】抑うつ状態はGDS15で14.8%(男性13.8%,女性15.8%)に認め,Metsは16.6%(男性14.6%,女性18.7%)であった.Metsの抑うつ状態に対しての調整済みオッズ比は1.32(95%CI:1.03−1.68)と有意な上昇を認めた.他の有意な調整済み危険因子は,睡眠障害(2.22:1.83−2.70),視覚障害(2.42:1.49−3.95),聴覚障害(1.81:1.37−2.40),親戚関係のトラブル(1.95:1.41−2.70),収入減少(1.67:1.37−2.04),そして住居周辺環境の悪化(1.67:1.16−2.40)であった.防御因子では,高教育歴(0.78:0.64−0.97),飲酒習慣【週2日以内(0.66:0.51−0.86),週3日以上(0.61:0.48−0.79)】,良好な社会的サポート【配偶者(0.69:0.55−0.87),その他の家族(0.61:0.50−0.75),友人(0.53:0.43−0.65)】,そして1日の歩行時間が30分以上(0.58:0.43−0.79)であった.なお,現在喫煙,認知機能,残存歯数,死別,年齢,そして性差による影響は認めなかった.多重ロジスティック回帰分析式による分類の正答率は85.2%であった.
【考察】今回の解析は横断調査のため限界があるが,独歩で調査参加が可能な高齢者において,心臓血管系疾患の危険因子とされるMetsは,多因子による解析でも,抑うつ状態への影響をもたらす可能性が示された.今後,縦断研究でこれらを確認したい.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 9:52〜10:44
疫学地域A
座長: 宮永 和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院)
P-A-7 
成年後見用診断書の様式に関する全国調査
成本 迅(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
【目的】成年後見制度が開始されて10年が経過し,様々な制度上の問題が指摘されるようになっている.中でも成年後見申立ての際に提出が必要な成年後見用診断書については,水野1)の指摘にあるように,本来法律的判断であるべき類型を,事実上診断書作成者に判断を求めるような項目が最高裁判所作成の様式に含まれており,問題が指摘されている.また,各家庭裁判所で様式に変更が加えられ,地域間で手続きにばらつきを生じていることも問題となっている.このため,今回われわれはより良い診断書作成の基礎資料とすることを目的として,現在全国の家庭裁判所で用いられている成年後見用診断書を比較検討した.
【方法】平成22年に全国31か所の主要家庭裁判所に依頼し,うち29か所から診断書の提供を受け記載項目の集計を行った.
【倫理的配慮】本調査は通常配布されている診断書様式の検討であることから倫理的問題は生じない.
【結果】29か所すべての家庭裁判所で最高裁判所作成の診断書様式にない項目を独自に付け加えていた.その内訳としては,1)JCSなど意識障害の有無に関する情報,2)MRIやCTの所見など客観的検査所見,3)改訂版長谷川式簡易知能検査やMMSEなどの知能検査,4)計算力,理解力,記憶などの認知機能,5)移動,食事,排泄などの生活機能,6)回復可能性などに関する項目であった.付け加えられている頻度が高かった項目は,「改訂版長谷川式簡易知能検査」26か所,「他人との意思疎通」26か所,「知能検査(IQ)」23か所,「(遷延性)植物状態」20か所,「見当識障害」19か所,「記憶障害」17か所,「回復の可能性」16か所,「計算力」15か所であった.
【考察】各家庭裁判所が様々な項目を独自に付け加えていることが明らかとなった.このような項目追加に至った経緯は不明であるが,診断書から得られる情報にこれだけのばらつきがあれば,結果として類型の判断に違いが生じることも予想され,本来全国一律の基準に則って進めるべき成年後見制度の趣旨からすれば,問題があるといわざるを得ない.また,一部の診断書には,「認知の歪み」「空想癖・虚言癖」「非社交性」などの意思能力判定と関連の薄い項目が付け加えられている例もあり,専門医の側からの提言が必要と考えられた.  申立ての際に,必ずしもこの様式を用いる必要はないとされているが,専門医以外が記載する場合は,この診断書を用い,診断書の項目に沿って患者の診察,情報収集を進めることが多いと考えられる.このため必要な情報に絞って,非専門医でも記載できるわかりやすい様式を用意することで,より円滑で正確な成年後見制度の運用が可能になると考えられる.今後は,法律家と専門医の協働のもと,1)それぞれの家庭裁判所が加えた変更とその妥当性を再検討し,2)申立て頻度の高い疾患の症状で判断能力に関連するものを抽出する作業を進め,全国一律の診断書様式を作成することが必要と考えられた.
【参考文献】1)水野 裕.成年後見に関する精神鑑定,現状と課題.老年精神医学雑誌21:747‐755,2010.
P-A-8 
アポリポ蛋白E遺伝子4アレルとうつとの関係における検討
野瀬 真由美(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
【目的】高齢者の精神疾患の中で重要な課題として挙げられるのは,うつ病とアルツハイマー病(AD)をはじめとする認知症である.ADの危険因子のひとつとして確立しているのがアポリポ蛋白E遺伝子4アレル(ApoE4)である.この ApoE4 が高齢者のうつ病とも関連するか否かについて10余年間にわたり検討されてきたが,賛否両論があって結論が得られていない.そこで本研究では,茨城県利根町の住民を対象に調査を実施して,ApoE4とうつ病との関連を検討した.
【方法】対象は2001年5月1日時点の茨城県利根町の65歳以上の住民3083名である.調査は2段階で実施した.1次調査は2001年12月から2002年4月の間に実施した.調査項目は基本属性として年齢,性別,教育年数,現在の健康状態およびアポリポ蛋白E遺伝子型の検査を行なった.うつ気分の評価にGDSを用いた.主観的なもの忘れの自覚の評価にDECOを用いた.ADLの評価にN‐ADLを用いた.認知機能の評価に「ファイブコグ」と命名した集団スクリーニングテストバッテリーを開発し用いて知的正常,MCI,認知症の診断を行なった.最終的なうつ気分の評価のために2002年4月から7月の間に2次調査を実施した.PASという高齢者の認知症,うつ病および脳卒中を診断できる構造化面接のスケールを用いた.最終的には精神科医師がDSM‐V‐Rの診断基準にのっとったMajor Depressive Episode(MDE)か否か診断した.参加者の中で,GDSでは6点以上であったが,PASにてMDEではないと判定された者にはDepressive symptoms cases(DSC)と命名した診断を行なった.
【倫理的配慮】本研究は筑波大学倫理委員会の承認を得て行なわれており,対象者には口頭と文書による説明を行ない,同意を取得した.データ管理はIDを使用するなど個人情報の保護に留意した.
【結果】茨城県利根町の対象集団3,083名のうち,最終的には1619名が1次調査に参加した.認知症でなく,ApoE遺伝子型検査を受け,欠損値のない1次調査参加者は738名であった.2次調査参加者738名においてχ2検定とt検定を用いてApoE4との関連を検討した結果,MCI(χ2=7.25,df=1,p=0.009)において有意差がみられた.ApoE4は,うつ気分(気分正常,DSC,MDE)との間に関連がみられなかったが,MCIとの間で関連がみられた.ロジスティック回帰分析の結果,DSCと関連した項目は,性別(OR=2.53,95%CI:1.33−4.79),教育年数(OR=0.87,95%CI:0.79−0.95),N‐ADL合計点数(OR=0.75,95%CI:0.63−0.89)およびMCI(OR=1.95,95%CI:1.21−3.14)であった.MDEと関連する項目はなかった.よってApoE4は,DSCとMDEの両方と関連しなかった.
【考察】本研究ではApoE4がうつ(DSC,MDE)の危険因子ではなかった.従来の関連ありという研究結果との相違は,近年注目されているMCIの診断を行ない,既存の研究より認知機能(知的正常,MCI,認知症)とうつ気分(気分正常,DSC,MDE)を厳密に診断して検討したためではないかと考えられる.今回,解析に加えたMCIはApoE4,DSCと関連がみられた.今後,このMCIがApoE4とうつ(DSC)との間に,どのような影響を及ぼしていたのか明らかにしたい.
P-A-9 
高齢者における死生観とその関連因子について
渡邉 至(佐賀大学医学部精神医学講座)
【目的】宗教,哲学,あるいは死の準備教育では,死と正面から向き合うことが,よりよく生きることに繋がるという考えが根底にある.高齢者が,どのように死を意識し,それをどのように生に反映させているのかを知ることは重要である.寿命の観点から,高齢者における健康の維持と死の受容は表裏一体の問題と考えるからである.本研究では,高齢者の死生観を調べ,それが性や年齢,生きがいや知的能力とどのような関係にあるのかを探索的に調べる.
【倫理的配慮】佐賀大学の倫理委員会で承認を受け,参加者からは文書による同意を得た.
【方法】調査対象者:もの忘れ健診(認知症有病率調査)に参加した伊万里市黒川町在住の高齢者で,男性150名,女性249名,平均年齢は76±6.7歳.調査票:6項目を4件法で回答する死生観質問紙は,著者が中村・井上(2001)を基に作成したもので,死後存続と生の執着の2因子で構成されていた.死と関連する経験(以下,死経験)は5項目を2件法で回答した.生きがい満足度質問紙(原岡,2004)は10項目を4件法で回答するもので,安定満足と積極満足の2因子で成っていた.この他にも,MMSEをはじめとする数種類の心理検査や教育年数や病歴等の聴取,診察が行われた.手続き:調査は2009年8月から翌年10月の間に週1ないし2回ずつ,町内各居住区の公民館で行われた.参加者は予定された時間に来館し,各々,記入法の説明を受けた後,質問に回答した.
【結果と考察】回答に欠損値のない373名を分析対象とした.年齢(75歳以上/未満)と性別で各変数に対して分散分析を行った.死後存続では性別に,死経験では年齢に各々主効果が認められた.安定満足では性別および交互作用が有意であった.積極満足では性別と年齢がともに有意であった.これらは,(1)女性の方があの世を肯定的に捉えていること,(2)男性の方が生活での満足感が高く,また,高年齢でより高くなっているのに対し,女性は高年齢で低くなっていること,(3)周囲に認められているという感覚や積極性における満足感は,男性が高く,また高年齢でより高くなる,の3点を示している.延命治療の是非や植物状態の捉え方を問う生の執着では,年齢や性による違いはなかった.次に,独立変数となる因子を,その平均値で高低群に分け,年齢と性別を要因に加えた上で分析を行った.(4)死後存続の高低において,生の執着で有意差が出たが,安定満足と積極満足では有意差がなかった.つまり,あの世の肯定の強さは,生へのこだわりへの強さと連なることを意味するが,生活の満足感や積極性とは直接には関係しなかった.(5)死経験の高低では,死後存続に有意差が出た.これは,他者の死を経験するほど,あの世に肯定的になることを示唆している.なお,教育年数およびMMSEと死生観因子との間には何も見いだせなかった.  今後は,死生観と日常に感じる不安や恐怖との関係を検討する必要があると思われる.以前に行われた同町の生きがい満足度の研究では,女性の方が得点は高かった.これはサンプル数や居住地区の違いが影響しているのかもしれない.
P-A-10 
自動車運転免許更新時の高齢者の認知機能と運転状況
藤田 佳男(目白大学保健医療学部,慶應義塾大学医学部精神・精神科学教室,筑波大学大学院人間総合科学研究科)
【目的】自動車運転免許を保有する高齢者の増加に伴い,高齢者の運転による事故が増加している.その対策の一環として,2009年6月から従来の高齢者講習に加え,講習予備検査(認知機能検査)が実施されている.これにより認知機能が顕著に低下している者は一定の条件で免許を更新できないこととなり,開始後1年で取り消し処分を受けた者は28名であった.この対策は他国に例をみない政策であり,一定の効果が期待されるが,実際に多少とも認知機能の低下を認める高齢者がどのような運転状況にあるのかは明らかではない.そこで本研究では,運転免許の更新時に75歳以上である高齢者に,運転状況等に関するアンケートを実施し,認知機能や年齢により運転状況に差異を認めるかを調査した.
【方法】調査場所は24都府県の警察本部が指定した自動車教習所である.本研究は2009年11月 に実施された警察庁交通局による「運転状況に関するアンケート」を通じて得られたデータを許可を得て解析したものである.
【倫理的配慮】本研究は講習予備検査を受験した者のうち,アンケート調査について協力の同意が得られた者を対象として,講習終了後にアンケートを配布し,回答を自己記入してもらった.
【結果】4299人(男性3401人,女性890人)から回答を得た.講習予備検査の結果(自己回答)は第1分類(記憶力,判断力が低下している者)338人,第2分類(記憶力,判断力が少し低くなっている者)1216人,第3分類(記憶力,判断力に心配のない者)2409人であった.第1分類になった者は各年齢層に同じように分散していたが,第2分類になった者は年齢層が高いほど増加する傾向にあった.一方,第3分類は年齢層が高いほど減少傾向にあった.また,分類によって運転状況に差があるかをクロス集計で検討したところ,1)運転頻度と分類には明らかな関係はなかった.2)運転に対する自信と分類にも明らかな関係はなかった.3)運転していて危ないと思ったことと分類との間には関係が認められた.さらに,自分の運転能力については,自信があると回答した者と普通の高齢者と同じくらいであると回答した者は合計で97%にのぼった.
【考察】自身の運転能力については,分類にかかわらず相応の自信を持っている高齢者が多いことが明らかとなった.また,運転頻度と分類にも関係がなかったことから,認知機能が低下しても自身の運転能力を高く見積もり,運転を継続している高齢者がいることが予測された.この点については,認知機能の低下によりセルフモニタリング機能が十分でない場合があることも考えられた.今後,高齢免許保有者はさらに増加することが予測され,高齢免許保有者のさらなる実態調査と,安全性向上への対応が必要と考えられる.
P-A-11 
介護施設における認知症医療と地域連携
吉村 敦子(放送大学大学院)
【目的】未曾有の少子高齢化社会のわが国において認知症患者は急増の一途を辿り,認知症に対応した医療・介護サービスの拡充,既存資源の有効活用,地域における連携強化は喫緊の課題である.課題達成に向け有効策を講じるには,現状把握が急務であるため,認知症に関わる医療・介護施設を対象に全国規模の横断調査を実施し,実態把握を試みた.
【方法】6,071の病院と20,000の介護施設から無作為抽出した2,200病院と5,000施設に調査票を送付し,平成21年9月時点の施設概況と平成20年度の認知症患者の実態を尋ねた.回収と入力・集計作業後,施設種毎の患者特性,入所経路,医療と介護の連携状況等について分析した.調査票のうち,臨床個人票では,年齢,ADL,認知症自立度,BPSD等を,全体票では,入院・入所日数などの他,ケアの工夫や困り事などに関する自由記載の設問を設けた.今回は,介護施設における認知症医療や地域との連携状況を中心に報告する.
【倫理的配慮】本調査は筑波大学倫理委員会の承認を得て行われた.調査の実施に当たっては個人情報の保護を厳守し,情報の取り扱いには細心の注意を払った.
【結果】2010年12月までに,662病院と1,516介護施設からの回答が集まり,医療・介護施設ともに回収率は30%に達した.個人票は医療施設からは3,800人分,介護施設からは2,622人分が集まった.以下,介護事業所からの回答結果の概要を報告する.まず,介護施設入所者の認知症の自立度である.認知症の重度(認知症自立度WとM)の方が占める割合は,特別養護老人施設(特養),老人保健施設(老健),グループホーム(GH)において,それぞれ39%,26%,22%であり,中等度以上(認知症自立度Va以上)の入所者が占める割合は,それぞれ,85%,81%,64%であった.次に介護事業所と認知症医療機関との連携である.「認知症医療の対応で困っている」と回答した介護施設は74%にのぼるが,相談できる認知症専門医の有無が「ある」と回答した施設は22%にとどまった.また,地域の多職種間の会合が「ある」と回答した施設は58%で,「定期的にある」との回答は18%であった.入所経路をみると,他の介護施設からの入所者が,特養,老健,GHでそれぞれ40%,14%,26%を占め,そのうち6%,8%,10%が同種の施設からの入所であった.
【考察】認知症専門医療機関との連携を有する施設は約2割であり,認知症専門医療へのアクセスが難しい状況が示唆されている.また,認知症高齢者にとって環境の変化は望ましくないと思われるものの,介護施設間における転所の実態も示唆された.自由回答の中でも「認知症に特化し,フルステージに対応できる施設を作る」という提言があったが,認知症高齢者の特性とニーズを踏まえた居場所の創設は今後の重要な課題となるだろう.また,地域連携支援により在宅復帰に成功した事例も報告されており,今後は認知症専門医療の供給増が望まれると共に,認知症の人を地域全体で支える社会の実現に向けた方策の拡充が望まれる.
P-A-12 
認知症全国有病率調査研究に参加して見えてきたこと;上越市ものわすれ予防健康調査より(第一報)
川室 優((医)高田西城会高田西城病院,(医)常心会川室記念病院)
【目的】わが国の超高齢社会における認知症対策は国民的課題である.私共研究プロジエクトは上越市と共同で「H22年度全国有病率調査研究−総括代表者朝田隆」に参加し上越市人口204,193人,高齢者人口53,171人(H 21年10月1日現在)の中から980人を対象に統一した方式で有病率調査を実施した.同時に介護保険の主治医意見書の情報開示を得て調査分析を行い,上越市の認知症者数と関係諸機関の連携による医療・福祉サービス提供を検討する.
【方法】対象者はH21年10月1日現在,上越市在籍65歳以上の53,171名(男性21,802名/女性31,369名)の住民基本台帳から無作為選出した.内訳は7階級(65〜69歳,以降94歳まで5歳ごとに区分,95歳以上)とし,対象者は各階級から140名(男女各70名)合計980名である.対象者には協力依頼書と同意書により同意の上面接・訪問による一次調査,二次調査を実施した.一次調査は上越地域包括支援センター職員(事前研修終了)が実施した.判定基準はCDR0.5以上,またはMMSE26点以下を「認知症の疑い」とし,その対象者から再度同意を得て二次調査を実施した.そして精神科医師の専門的診察並びに@老年期うつ尺度(短縮日本版)−GDS−S‐JA老年期精神障害評価スケール(PAS)B論理記憶T(WMSR理論A)を施行し,同意の上血液生化学検査とMRI検査を行った.また全対象者の介護保険有認定者に,全国調査項目@介護度A日常生活自立度B診断名と,認知症を有するが介護保険未利用者についてC主治医の専門科と他科との関連D認知症の中核・周辺症状,他の精神・神経症状,身体状態E生活機能とサービス並びに医療・福祉サービスへの意見と内容等を閲覧調査した.
【倫理的配慮】本研究は高田西城病院の倫理委員会から,個人情報の閲覧は上越市情報公開・個人情報保護制度等審議会からそれぞれ承認を得た.
【結果】対象者数はH22年1月までに57名が死亡・転出し最終的に932名である.そのうち516名(男性262名,女性254名,平均年齢81.1歳)が一次調査を終了し371名が二次調査の対象となった.このうち234名(男性121名,女性113名,平均年齢83.4歳)が医師の診察を受け,その確定診断の結果(軽度認知機能障害63名,アルツハイマー型認知症68名,血管性認知症45名,レビー小体型認知症2名)は全国有病率調査研究に集計された.  本研究から見えてきたことは@認知症機能障害を有するが介護保険未利用者36名A既存サービス以外の因子(農作業,配偶者,地域の支えと見守りなど)の重要性B専門医診察よりも身体科医師の治療ケアが主となっているC認知症の訪問ケアニーズは身体疾患に比べて少ない.
【考察】本研究で明らかになった平均年齢80歳以上の認知症超高齢者は身体機能の低下も伴い,地域ケアの為には十分な介護保険利用下で上越市の多様な地域特性を検討し関係諸機関が連携した質の高い医療福祉サービス提供が必要である.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 16:59〜17:51
神経心理@
座長: 西川 隆(大阪府立大学総合リハビリテーション学部)
P-A-13 
軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への進行予測に有用な神経心理学的検査の検討
加藤 佑佳(京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)
【目的】Mild Cognitive Impairment(MCI)の中でもとくにAlzheimer's Disease(AD)への移行率が高いとされるのがamnestic MCI(aMCI)である.そこで,本研究では複数の神経心理学的検査を用い,aMCIの検出に有効な指標,及びaMCIからADへの移行を予測するのに鋭敏な指標を検討することを目的とする.
【方法】対象はControl群24名と,藍野病院もの忘れ外来を受診しaMCIと診断された患者のうち約2年間の追跡調査が可能であった29名である.aMCI29名の内訳は,追跡期間中にaMCIの診断基準にとどまったMCI/MCI群12名とprobable ADの診断基準に至ったMCI/AD群17名である.方法は,対象者全員にMMSE,ADAS‐cog,CDT(CLOX法),TMTを個別に施行し,MCI/MCI群とMCI/AD群にはリバーミード行動記憶検査も加えて実施した.分析は,MCI/MCI群とMCI/AD群の2群間における塩酸ドネペジル投与となった症例数の比率についてχ2検定を行った.また,aMCIの中でも認知機能の低下が記憶のみか複数領域に渡るかでその後のADへの進展に差があるか否かを検討するため,aMCI single domain(aMCIs)とaMCI multiple domain(aMCIm)の比率についてもχ2検定を行った.次いでControl群とMCI/MCI群,MCI/MCI群とMCI/AD群を比較対象として,各神経心理学的検査の総得点と下位検査得点を説明変数,診断を目的変数とし,重回帰分析を適用して有効な説明変数をステップワイズ法により選択した.なお,MCI/MCI群とMCI/AD群については,いずれも初診時の神経心理学的検査の成績を分析に用いた.
【倫理的配慮】本研究は藍野病院倫理委員会の承認を受け,患者ないし家族には研究の主旨と中断の自由,及び匿名性の確保などについて説明の上同意を得た.
【結果】χ2検定の結果,MCI/MCI群とMCI/AD群の2群間で追跡期間中に塩酸ドネペジル投与となった症例数は有意にMCI/AD群で多かった(χ2(1)=7.13,p<.01).一方,aMCIsとaMCImの比率に有意差はみられなかった(χ2(1)=0.55,ns).また,Control群とMCI/MCI群を対象に重回帰分析を行った結果,両群の判別に有効な指標としてADAS‐cogの単語再生と観念運動,MMSEのSerial 7'sと再生,ADAS‐cog構成行為,TMT part B誤反応数が順に採択され,寄与率は81.7%であった(表1).MCI/MCI群とMCI/AD群を対象とした重回帰分析結果では,MMSE再生,リバーミード行動記憶検査 道順(遅延)が順に採択され,寄与率は45.9%であった(表2).
【考察】Control群とaMCI群の比較では,聴覚的言語記銘力,ワーキングメモリー,遂行機能,視空間認知構成能力などを反映する課題が両者の判別に有効であり,総合的な認知機能を評価することが重要であると考えられる.また,aMCIの中でもADに移行する可能性がある場合,aMCIの時点で単語や道順の遅延再生課題の成績が判別に有用なことが示され,先行研究とも一致する結果となった.今後,さらに追跡調査を継続して行い,健常からaMCI,ADへの移行をより正確に予測できるテスト・バッテリーを検討することが課題である.
P-A-14 
開業医におけるADAS-J cogの導入;新規抗認知症薬の使い分けに備えて
平井 茂夫(入間平井クリニック)
【目的】ようやく我が国でも複数の抗認知症薬が使えるようになった.これらを一体どうやって使い分けたらよいのだろうか? 抗認知症薬の効果判定の難しさは,以前から問題になっていた.現世代の抗認知症薬の多くは,その開発の主要エンドポイントをADAS cog(日本ではADAS‐J cog)で測定している.認知機能の変化を鋭敏にとらえることが可能であるとの理由で,米国食品医薬品局(FDA)が抗認知症薬治験における使用を推奨したためである.このADAS‐J cogが,ネットワークコンピューターを用いることにより,開業医レベルでも測定可能となったので,紹介する.
【方法】測定の手順自体は従来のADAS‐J cogと同一なので,完全なデータの互換性が確保されている.使用するネットワークコンピューターはタッチパネル方式で,予備知識の少ない方でも入力が出来るように工夫されている.煩雑であった採点作業が自動化されたことにより,開業医レベルでの運用が十分に可能となった.
【倫理的配慮】「医療機関における個人情報の保護」(平成17年2月,日本医師会)に準拠した.
【結果】演者の施設において,これまでのところは,主観的に記憶障害を訴えるが,通常のHDS‐Rなどではカットオフ値を大幅に超えてしまう方を対象に,約半年の間隔で測定し,病的レベルの進行性記憶障害の有無を確認する形で運用してきた.  ADAS‐J cogの原版であるADAS cogは,アルツハイマー病のみならず健常対照群のデータも豊富に公開されている.それらと比較しながら,検査結果を本人・家族に説明することが,彼らの不安を軽減するのに有効であると感じられた.
【考察】今後は,抗認知症薬の投与開始時と24週(約半年)後にADAS‐J cogを測定し,その結果を各薬剤の治験論文と直接比較する予定である.  当局が審査の段階で期待した効果が,実際に発現しているかどうかは,本人・家族にとって,非常に切実な問題である.その確認が,ようやく開業医レベルで,ある程度まで出来るようになった.こうした経験と情報の集積が,複数の抗認知症薬を本当に使いこなすために,必要ではないかと考えている.  今回供覧したシステムは,データをサーバーで一括管理している.演者が試用したバージョンはADAS‐J cogのみを搭載していたが,さらにHDS‐ RとBEHAVE‐ADを追加したバージョンが既に完成している.こうしたシステムが広く普及し,安定した運用が行われたならば,「どの薬が,どのステージの認知症に,どのように効いているか」が,少なくとも現在より正確に,把握可能となるであろう.BPSDやADLの情報も並行して集積し,それらを本人・家族の現状に即して抽出し,彼ら自身に理解可能な形で提供できるようになれば,認知症に対して「実態以上の恐怖」を抱かずに済み,より積極的な人生設計が可能となるのではないか.
P-A-15 
有意な記憶障害を示さない早期amnestic MCI;物忘れドックによる検出
村山 憲男(北里大学医療衛生学部,順天堂東京江東高齢者医療センター)
【目的】記憶障害を主体とする軽度認知障害(amnestic mild cognitive impairment;aMCI)の診断には,客観的に測定された記憶機能の有意な低下が必要である.これまでの多くの研究では,得点が同じ年齢群の平均よりも1.0SDないし1.5SD以下であった対象者をaMCIとしている.しかし,年齢相応からaMCIまでの過程は漸進的・連続的であり,これを基準にすると早期のaMCIは検出されない場合がある.本研究では,物忘れドックで検出された早期の事例を対象に,aMCIの早期発見について検討した.
【方法】順天堂東京江東高齢者医療センターの物忘れドックを受診した結果,aMCIの診断基準は満たさないものの,早期のaMCIが疑われた8名をEarly MCI群(E群),典型的なaMCIと診断されE群と年齢・教育年数が同程度の10名をMCI群(M群)とした.また,年齢・教育年数が同程度で,MCIを含め精神・神経疾患が認められない高齢者6名をNormal群(N群)とした.  この物忘れドックでは,精神神経学的診察のほか,検査として頭部MRIや脳18F‐FDG PET,詳細な神経心理検査を行なっている.本研究では,これらの検査結果を3群間で比較した.
【倫理的配慮】本研究は当センターの倫理委員会の承認を受けた研究の一部であり,対象者には書面による研究協力の同意を得た.
【結果】頭部MRIでは,N群は年齢相応の脳萎縮が,M群は海馬領域を中心とした軽度の脳萎縮が認められた.E群の脳萎縮は事例により異なったが,全体的には年齢相応からごく軽度にみられる程度であった.脳18F‐FDG PETでは,E群は後部帯状回や側頭頭頂連合野の一部に有意な糖代謝低下がみられ,M群は低下の程度が強く範囲も広かった.  神経心理検査では,N群,E群,M群のMMSE得点は,それぞれ,29.2±1.6,28.6±1.5,26.4±1.6であった.また,WMS‐Rの一般的記憶は,それぞれ,109.2±12.9,103.4±8.1,77.5±10.1であった.分散分析および多重比較の結果,両検査ともN群とE群には有意差はなく,M群は両群よりも有意に低得点だった(p<.05).一方,WAIS‐Vの全検査IQは,それぞれ,112.2±10.5,126.5±7.1,111.4±10.5であった.分散分析および多重比較の結果,N群とM群には有意差はなく,E群は両群よりも有意に高得点であった(p<.05).
【考察】記憶機能の低下を評価するためには,本来,病前の機能が評価されている必要がある.しかし,臨床的には,そのように病前の機能が評価されている例は稀であり,縦断的評価は困難な場合が多い.  本研究では,N群とE群のWMS‐R得点は同程度であったが,WAIS‐V得点はE群が他群よりも高かった.つまりE群は,記憶を含め病前の認知機能が他群よりも高かった可能性がある.記憶機能とそれ以外の認知機能を比較することで,年齢相応の記憶機能を示すような早期のaMCIでも検出できる可能性が示唆された.また,早期のaMCIを対象にした心理査定では,記憶障害と記憶低下は的確に使い分ける必要性があると考えられた.  さらに脳18F‐FDG PETでは,E群のような早期のaMCIでも後部帯状回や側頭頭頂連合野に有意な糖代謝低下がみられ,この検査の有用性も示唆された.
P-A-16 
Addenbrooke’s Cognitive Examination Revised(ACE-R)日本語版の作成
吉田 英統(南岡山医療センター神経内科,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学)
【目的】認知症の日常診療においては,簡便に施行でき,しかも軽度の認知機能低下に対して感度,特異度の高い認知機能評価法が求められている.今回我々はAddenbrooke's Cognitive Examination Revised(ACE‐R, Mioshi et al. 2006)の日本語版を作成し,その信頼性・妥当性の検討,および軽度認知障害と認知症の検出における感度,特異度の検証を行った.
【方法】ACE‐Rは注意/見当識(18点),記憶(26点),流暢性(14点),言語(26点),視空間認知(16点)の5つの下位項目からなる認知機能検査である(総得点100点).日本語版作成にあたっては日本人高齢者に適応するように一部を改変した.岡山大学病院精神神経科もの忘れ外来を受診した認知症患者130名(アルツハイマー型認知症106名,血管障害を伴うアルツハイマー型認知症7名,血管性認知症3名,前頭側頭型認知症8名,レビー小体型認知症6名)と軽度認知障害(MCI)39名,および正常高齢者73名を対象として,認知症の診断・評価に必要な検査に加え日本語版ACE‐Rを施行した.
【倫理的配慮】検査の実施にあたって検査データの研究利用に関する本人および家族の同意を得た.また個人情報保護に配慮した.
【結果】ROC解析にもとづくACE‐Rの至適カットオフ値は,MCI群/正常群で88/89点(感度0.87,特異度0.92),認知症群/正常群で82/83点(感度0.99,特異度0.99)であった.同時に施行したMMSEと比較すると,MCIの検出においてはACE‐Rの方が優れていた(ROC曲線下面積がACE‐Rは0.952,MMSEは0.868で有意差あり)が,認知症の検出においては差がなかった(ROC曲線下面積がACE‐Rは0.999,MMSEは0.993).検査者間信頼性(ICC=0.999),再試験信頼性(ICC=0.883)および内的整合性(Cronbach's alpha=0.903)は良好であった.ACE‐R総得点とClinical Dementia Rating(CDR)得点およびCDR sum of boxes得点は高い相関(Spearman's rho=−0.851および=−0.895)を示した.
【考察】日本語版ACE‐Rは信頼性,妥当性ともに高く,軽度認知障害および認知症を正確に検出することができた.ACE‐Rは比較的簡便なテストのため15〜20分で施行・採点が可能であり,日常診療でのスクリーニング検査として使用可能と思われる.なお日本語版ACE‐Rのテスト用紙および施行・採点の手引きは,原著者のウェブサイト<http://www.ftdrg.org/>から入手できる.
P-A-17 
Agitation Behavior in Dementia Scale (ABID)の標準化の検討
鳥井 勝義(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学,八事病院)
【目的】認知症の焦燥・攻撃性は,患者自身と介護者のQOLに影響を与える.そのため,認知症の焦燥・攻撃性や介護者の負担を正確に評価することは適切な治療やケアをする上で必要不可欠である.しかし本邦では,認知症の焦燥・攻撃性と介護負担を同時に評価する標準化された尺度はまだ考案されていない.そこで我々はLogsdonらにより創案された認知症の焦燥や攻撃性の評価尺度であるAgitation Behavior in Dementia Scale(ABID)の日本語版の信頼性と妥当性を検討した.
【方法】名古屋市立大学こころの医療センター外来を2003年9月から2004年8月までに受診したアルツハイマー病の患者149名を対象とした.患者と介護者の背景情報を収集し,対象者にMini mental state examination(MMSE)を行い,主介護者に対しては日本語版Agitation Behavior in Dementia Scale(ABID)の評価に加え,Cohen‐Mansfield Agitation Inventory(CMAI)とZarit Caregiver Burden Interview(ZBI)も施行した.  内的信頼性の検討のために,Cronbach's alpha coefficientを計算し,外的信頼性は,70名に対してtest‐retest(1ヶ月後の再施行)をANOVA‐ICCで評価した.並存妥当性の評価として,ABIDの頻度の項目とCMAIとの相関を,ABIDの介護者の反応とZBIとの相関を求めた.さらに構成概念妥当性の確認のため,ABIDの頻度の各項目をバリマックス回転して因子分析をおこなった.
【倫理的配慮】この研究は,名古屋市立大学医学部倫理委員会において承認を得て,すべての対象者に目的と方法を説明したうえで同意を得ている.
【結果】日本語版ABIDの頻度評価のCronbach's α=0.89および反応評価のCronbach's α=0.92であり優れた内的信頼性を示した.test‐retestでもABIDの頻度評価(ANOVA ICC=0.85)と反応評価(ANOVA ICC=0.89)ともに優れた外的信頼性を示した.ABIDの頻度評価とCMAIは有意な相関があり,ABIDの反応評価とZBIとも有意な相関を示し,妥当性は良好であった.加えて,因子分析は,身体的な焦燥感のある行動,言語的な焦燥感のある行動,精神症状の3因子から構成されていることがわかった.
【考察】日本語版ABIDの信頼性と妥当性は良好であり,本邦でもこの尺度の使用は可能である.  アルツハイマー病の焦燥感の3因子による構成も明らかになった.今後,臨床的介入のアウトカムの測定として有用な尺度のひとつとなると思われる.
P-A-18 
アルツハイマー病患者に認められる興奮の神経基盤の検討
野村 慶子(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
【目的】アルツハイマー病(AD)患者に認められる興奮を分類し,それぞれに対応する神経基盤の検討をする.
【方法】対象は,2004年1月から2009年2月の間に大阪大学医学部附属病院神経科精神科神経心理外来を受診した患者で,NINCDS‐ADRDAのprobable ADの診断基準を満たし,初診時60歳以上,信頼のおける主介護者から聴取したNeuropsychiatric Inventory(NPI)で興奮が認められ,123I‐IMP SPECTが施行されている36例(平均年齢=75.1±6.4,男性:女性=11:25,MMSE平均得点=19.0±5.0).NPI興奮の7つの下位質問(介護への拒否,頑固,非協力的,扱いにくい態度,叫ぶ・悪態をつく,物にあたる,人を傷つける)について,あり・なし(1・0)で評価した.下位質問のうち,5例以上で認められたものについて因子分析を行った.各観測変数について因子負荷量が0.5以上のものを有意と判定した.各因子について算出される因子得点と脳血流変化との関連を検討するため,SPM5を用い,患者の年齢,MMSEの得点を共変量に入れ,重回帰分析を行った(uncorrected p<0.01).
【倫理的配慮】得られた個人情報は全て匿名化し,個人が特定されないように配慮した.
【結果】対象のNPI興奮の平均得点(頻度と重症度の積)は,3.6±2.4であった.もっとも多く認められたのは,頑固(27例)で,叫ぶ・悪態をつく(20例),非協力的(15例),介護への拒否(13例),物にあたる(13例),扱いにくい態度(3例),人を傷つける(3例)と続いた.5例以上で認められた5つの下位質問について因子分析を行った結果,2つの因子に分類された.因子1に分類されたのは非協力的,介護への拒否,頑固で,それぞれの因子負荷量は0.823,0.774,0.606であった.因子2に分類されたのは叫ぶ・悪態をつく,物にあたるで,それぞれの因子負荷量は0.744と0.643であった.因子1と正の相関を示した脳血流変化部位は左上前頭領域内側,左下頭頂小葉,左下前頭回外側であった.因子1と負の相関を示した脳血流変化部位は両側尾状核周辺,右島であった.因子2と正の相関を示した脳血流変化部位は背側後帯状皮質と左側頭―頭頂―後頭領域であった.因子2と負の相関を示した脳血流変化部位は両側前頭葉内側,両側前頭葉眼窩面領域,両側側頭―頭頂領域であった.
【考察】ADの興奮は2因子に分類できた.因子1は非協力的,介護への拒否,頑固が分類され,「抵抗」と考えられた.因子1に関連する神経基盤は左前頭領域内側の相対的亢進と両側尾状核,右島の低下であった.発動性が亢進し,報酬系やフィードバック機構の破綻により,対人関係に支障をきたす中で,抵抗が表出されると考えられた.因子2は叫ぶ・悪態をつく,物にあたるが分類され,「暴力」と考えられた.因子2に関連する神経基盤は背側後部帯状皮質の相対的亢進と両側前頭葉内側と前頭葉眼窩領域の低下であった.情動機能の亢進で環境や人間関係などに敏感になる一方,行動の抑制が困難になることが暴力行為に繋がると考えられた.
   
6月16日 京王プラザホテル本館43階スターライト 13:45〜14:30
疫学施設@
座長: 中嶋 義文(三井記念病院)
P-B-1 
認知症専門外来を受診する患者の初診時同居者・同伴者に関する検討;都心部と地方都市における家族介護基盤の地域比較
品川 俊一郎(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
【背景】認知症専門外来が各地で開設され,早期診断・早期治療に関する啓発も進み,受診患者数も増え,軽度認知障害水準を含めた様々な対象が受診するようになった.認知症の診断においては行動観察による生活状況の把握が重要であり,治療やケアにおいても家族介護者を中心としたキーパーソンの協力が不可欠だが,家族構造の変化から,専門外来に単身で受診する高齢者も増加している.このような認知症患者を取り巻く家族介護基盤の実態は大都市圏と地方都市では異なると考えられる.
【目的】都心部と地方都市の大学附属病院認知症専門外来を受診する認知症患者の居住形態,初診時同居者・同伴者を調べることで,家族介護基盤に関する現状把握と地域差比較を行う.
【倫理的配慮】本検討は研究参加の同意を得た連続例を対象としている.匿名性の保持及び個人情報の流出には十分に配慮した.
【方法】2008年4月から2009年3月までに東京慈恵会医科大学附属病院精神神経科(都心部)および熊本大学医学部附属病院神経精神科(地方都市)の認知症専門外来を受診した患者連続例を対象とした.都心部では,期間中総受診者142例のうち認知症患者は99例であり,地方都市では総受診者260例のうち,認知症患者は172例であった.対象の初診時年齢,性別,臨床診断,罹病期間,教育年数,MMSE得点,CDR重症度,居住形態,初診時同居者,初診時同伴者を双方の施設で比較した.
【結果】二群間の性別,初診時年齢,罹病期間,CDR重症度で有意差は認めなかったが,都心部患者群では地方都市患者群に比べて教育年数とMMSEスコアが有意に高かった.また,都心部患者群では地方都市患者群よりアルツハイマー病が多く含まれていた(69% vs 55%).居住形態(在宅/施設入所)は二群間で有意差は認めなかったが,居住形態(在宅/施設入所)は二群間で有意差を認めなかった.居住形態(在宅/施設入所)は二群間で有意差を認めなかった.都心部患者群の同居者は,配偶者のみ(34%)が最も多く,次いで独居(22%),子供のみ(13%)が多かったのに対し,地方都市患者群では配偶者のみ(39%),配偶者及び子供世帯(23%),独居(14%)の順に多かった.初診時の同伴者は,都心部患者群において配偶者以外の家族(49%),配偶者(27%),単身(7%)の順に多かったのに対し,地方都市患者群では配偶者以外の家族(40%),配偶者(35%)に次いで,配偶者および他の家族(18%)が多く,単独受診は稀(1%)であった.
【考察】都心部の認知症患者は,地方都市と比較して独居や単独受診例が多く,家族数名で受診する例が少なかった.地域によって介護基盤が異なることを示唆し,大都市圏では主介護者となり得るキーパーソンの選定が困難な状況が想定された.家族介護者の不在や介護者の孤立は,早期の在宅介護破綻につながるため,大都市圏の認知症診療においてはキーパーソンの選定に特に留意する必要があると考えられた.
P-B-2 
認知症患者の胃瘻造設に対する後方視的検討
熊谷 亮(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
【目的】1980年に経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が報告され,以来胃瘻の造設は簡便な術式として普及するようになった.本邦では高齢化や在宅介護の導入もあり,欧米に比べ高齢者への施行が多くなっている.その一方,近年認知症患者に対する胃瘻造設を見直すべきという意見が認められるようになってきた.今回我々は認知症患者に対する胃瘻造設の現状を確認するため,2002年6月の開院から2010年12月までを調査期間とし,期間中に当院でPEGが行われた177名の患者のうち,認知症患者151名を対象に後方視的検討を行った.
【方法】PEGが行われた認知症患者の性差・年齢・精神科的診断名・造設理由・入院元・退院先・生存率について調査した.また確認できた症例については,術前および6ヶ月後のアルブミン値・誤嚥性肺炎の有無を比較した.
【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会における後方視的研究の基本方針に従って行われた.また,個人の特定ができないよう表記等に対し配慮した.
【結果】平均年齢は79.1歳,男性:女性=85:66だった.診断名はADが50名(33.1%),VDが59名(39.1%),ADとVDの混合型認知症が7名(4.6%),FTDが2名(1.3%),PDD・DLBが18名(11.9%),PSPが7名(4.6%),CBDが2名(1.3%),その他が6名(4.0%)だった.造設理由は嚥下障害が125名(82.8%),食事量低下が24名(15.9%),通過障害・開口障害がそれぞれ1名(0.7%)だった.入院元は自宅が80名(53.0%),老健が11名(7.3%),有料老人ホームが13名(8.6%),特養が21名(13.9%),他病院が24名(15.9%),その他2名(1.3%)だったのに対し,退院先は自宅が32名(21.2%),老健が4名(2.6%),ホームが16名(10.6%),特養が20名(13.2%),他病院が51名(33.8%),死亡が26名(17.2%),その他2名(1.3%)だった.生存率は1年累積生存率が72.3%,2年累積生存率が65.7%,3年累積生存率が56.7%だった.術前および6ヶ月後のアルブミン値が確認できた症例は38名で,平均値は術前・6ヶ月後とも2.9g/dlであった.誤嚥性肺炎の有無を確認できた症例は96名で,術前に誤嚥性肺炎を合併していた64名のうち,33名が術後6ヶ月までに誤嚥性肺炎を再発していた.一方,術前に誤嚥性肺炎を合併していなかった32名では,術後6ヶ月までに誤嚥性肺炎を発症した患者は3名であった.
【考察】認知症患者の診断名はADとVDが多くを占めていた.PEGの普及には在宅医療の推進も関係しているが,自宅への退院は施設入所・転院を下回っていた.術前・術後のアルブミン値からは,認知症患者への胃瘻造設は栄養状態の維持には有効だが,大幅な改善は見込めないことが覗われた.また誤嚥の誘発因子にはならないが,既に嚥下機能に問題を生じている患者に対しては,誤嚥性肺炎の予防効果は薄いと思われた.  当日は同期間に経鼻経管栄養が行われた認知症患者群についての調査結果についても述べ,比較検討する.
P-B-3 
専門病院に入院に至るBPSDの前向き多施設共同調査
杉山 博通(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
【目的】患者が入院に至るBPSDとその程度を明らかにする.
【方法】対象は,浅香山病院,大阪大学医学部附属病院神経科・精神科,ためなが温泉病院,東加古川病院に,BPSD治療目的で入院した連続例.調査期間はそれぞれの病院ごとに異なるが,全体では2009年5月11日から2010年11月30日.入院時に家族に対しNPIを施行した.同時に医師は,NPI12項目のうち,どの項目により患者が入院に至ったか選択(複数選択可)した.解析は,主治医が入院に至ったと判断したNPIの項目のうち,頻度の高い上位4つの項目において,その項目により入院となった患者群と,そうではない患者群との,当該NPIの比較を行った(例えば,妄想により入院に至った患者N名と,妄想は入院の原因ではない患者M名との,NPIの妄想の積の比較を行った).
【倫理的配慮】個人を特定せず,解析では匿名化に配慮した.
【結果】全施設で176名がBPSD治療目的で入院した.17名は身体疾患の治療のために転院,または死亡により中止,さらに19名は2010年11月30日時点で入院継続しており,経過観察中であるため今回の解析からは除外した.解析の対象となったのは140名であった.  NPIの項目のうち,主治医が,患者が入院に至ったと判断した項目は,興奮,妄想,異常行動,睡眠の順に多く,述べ人数はそれぞれ,96人,62人,60人,58人であった.  妄想が入院の原因になった患者62名のNPI妄想の積は7.7±3.9で,原因になっていない患者78名では3.4±4.3であった.入院に至る程度を明らかにするため,感度と特異度が共に高くなるよう設定すると,NPIの妄想の積のカットオフは6(感度0.69,特異度0.71)となった.同様に,興奮が入院の原因となった患者96名では7.7±3.8,原因になっていない患者44名では5.0±4.0で,カットオフは8(感度0.65,特異度0.66),異常行動が入院の原因となった患者60名では8.0±4.2,原因になっていない患者80名では5.4±4.9で,カットオフは8(感度0.68,特異度0.6),睡眠が入院の原因となった患者58名では8.2±3.5,原因になっていない患者82名では5.0±4.6で,カットオフは6(感度0.81,特異度0.54)となった.
【考察】患者を入院に至らしめるBPSDのうち頻度の高い症状は,興奮,妄想,異常行動,睡眠障害であることが明らかとなった.また主治医がそれぞれの症状により入院が必要と判断する程度も明らかとなった.今後,認知症患者数は増加するが,BPSDを治療するための病床数には限りがある.今回の調査結果が,入院の必要性や優先度を判断する目安になると考える.また,頻度の高い症状のうち,睡眠障害は治療効果が得やすい症状であり,入院患者数を減少させるためには,まず外来診療において睡眠障害の治療を十分に行う必要があると思われる.  本研究は,厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「認知症の行動心理症状に対する原因疾患別の治療マニュアルと連携クリニカルパス作成に関する研究」の一環で行われた.
P-B-4 
血液透析患者における認知機能低下に関する横断的研究
小田桐 元(弘前大学大学院神経精神医学講座)
【目的】透析技術の進歩や透析導入年齢の上昇による透析患者の急速な高齢化が指摘されている.透析患者における認知機能低下の報告は散見されるものの,一般健康住民との比較を行った研究はほとんどみられないのが現状である.本研究では,透析患者における認知機能低下とそれに関わる要因を検討するほか,一般健康住民との比較により透析患者の認知機能低下のリスクについて評価することを目的とする.
【方法】A県にある病院で透析中の患者154名と2008年に岩木健康増進プロジェクトへ参加した30歳以上の一般健康住民863名(男性317名,女性546名)より研究参加の同意を得て,対象者とした.患者群の調査は2009年9月より2010年1月までの期間に実施した.  認知機能の評価にはMini‐Mental State Examination(MMSE)の日本版を使用した.年齢,性別,教育年数,透析年数に関する情報は,自記式アンケートより得た.既往歴や採血による生化学データは診療録より取得した.なお,MMSEについては,23点以下を認知機能低下とするカットオフ値を採用した.  患者群においてMMSE得点に影響を与える因子について,年齢,性別,教育年数,透析年数,赤血球数,Alb,Na,K,UA,クレアチニン,尿素窒素,透析後体重,透析量(Kt/V)を独立変数として重回帰分析を実施した.更に,一般健康住民との比較では,年齢,性別,教育年数を共変数とした,ロジスティック回帰分析を行った.なお,いずれも有意水準はp<0.05に設定し,平均値±標準偏差でデータを示した.
【倫理的配慮】本研究の実施に先立ち,弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を得た.
【結果】患者群は年齢65.1±13.3歳で,教育年数は10.7±2.5年,透析年数は7.8±6.4,また,MMSE得点は26.6±3.9点であった.  患者群における重回帰分析で,MMSE得点と年齢(β=−0.205,t=−2.088,P<0.05),教育年数(β=−0.289,t=3.554,P<0.01),血中Na(β=0.173,t=2.286,p<0.05),脳血管疾患の既往(β=−0.225,t=−3.069,p<0.01)との間に関連性を認めた.更に,ロジスティック回帰分析にて,健患者群が健常群に比して,MMSE23点以下を取るオッズ比が2.28(95% C.I.;1.33−3.94,p<0.01)であることも示された.
【考察】患者群においては血中Na以外の採血項目でMMSEとの関連性を認めなかったものの,健常群と比べ,認知機能低下を生じるオッズ比は2倍以上であった.認知機能低下を生じる,ハイリスク集団として透析患者の診療を行う必要性があると考えられた.
P-B-5 
総合病院精神科病棟における高齢入院患者の在院日数に影響を及ぼす要因の検討(その2)
野本 宗孝(横浜市立大学附属市民総合医療センター精神医療センター,横浜市立大学精神医学教室)
【目的】総合病院精神科病床における高齢入院患者は,身体合併症や環境調整など種々の要因によって在院日数が長期化することが報告されている.高齢入院患者の在院日数に影響を及ぼす要因を明らかにするため,当センターに入院した60歳以上の患者診療録を前方視的に調査した.2年前の報告から症例のさらなる集積が得られたため,その結果を加えて報告する.
【対象と方法】当センターは精神科救急基幹病院であり,病棟は50床(開放28床,閉鎖22床,うち隔離室7床)の精神科病床で構成されている.平成20年12月から平成23年1月の間に当センターに入院した60歳以上の患者30症例について,在院日数,精神医学的診断(DSM‐W),同居者の有無,入院形態,入院前の住環境,身体合併症の有無,入院中の輸液・経管栄養・尿道カテーテルの施行の有無,隔離・身体拘束の施行の有無,家族のサポート態勢のほか,診断によって入院時と退院時のハミルトンうつ病評価尺度(HAM‐D),Mini‐Mental State Examination(MMSE),Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS),Barthel indexを調べ,線形回帰分析,ウィルコクソン検定などの統計学的手法により在院日数に影響する因子の検討を行った.
【倫理的配慮】初診時,臨床研究に関する包括同意書をとっており,いずれの評価項目についても患者の治療に際して侵襲的に働くことはなく,結果の解析については匿名性が保たれるよう十分な配慮をおこなった.
【結果】平均在院日数は31.5日であり,最短日数は7日,最長日数は96日であった.身体合併症を有する症例および認知機能低下症例で在院日数が長くなる傾向がみられた.また,精神科的診断別の在院日数では,認知症症例が在院日数が長い傾向が認められた.
【考察】総合病院精神科病棟において高齢入院患者の在院日数に影響を及ぼす要因の検討をおこなった.今日,在院日数の短縮は精神科診療においても避けて通れない課題の一つである.治療そのものに要する時間以外にも,ケースワークに要する時間が長期にわたるケースが多く認められている.入院時に各症例についてアセスメントを行い,より早期に入院治療から在宅治療への移行をすすめることが求められる.当日はさらに症例数を増やし,在院日数に影響を及ぼす要因について明らかにするとともに,入院日数短縮の方策と問題点について報告したい.