第25回日本老年精神医学会
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- 各種講演
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- 6月25日(金) 第1・2会場
- 特別講演
- 座長:池田学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野)
- T-1 14 : 00〜15 : 00
- チンパンジーの社会生活;高齢者の役割に注目して
- 西田利貞((財)日本モンキーセンター)
- 野生チンパンジーは,20頭から150頭のメンバーからなる単位集団をなして生活している.メンバー構成は,大人の雄の数を10頭とすると,おおむね,大人の雌は30頭,未成熟個体(若者,子供,赤ん坊)の合計が40頭,総計は80頭となる.赤ん坊期(誕生から離乳まで)は0〜4歳,子供期(母親に追従するが自力歩行する)は5〜8歳,若者期(性的成熟から社会的成熟まで)は雌では9〜12歳,雄では9〜15歳,大人期(社会的成熟,雌では出産)は雌では13歳以上,雄では16歳以上,である.大人期のうち,35歳頃以降を老年期と呼ぶ.高齢者の外見上の特徴は,老眼になること,白内障,体毛が全般的に薄くなり白くなること,禿頭,背中が丸くなること,などが挙げられる.一方,行動上の特徴として,移動が遅くなる,行動範囲が狭くなる,などがある.
大人の雄の生存の目的は,最高の順位に就くことのように見える.大人雄の間には,序列があり,劣位の者は優位の者に挨拶しなければならない.高順位,とくに第一位雄は,排卵期の雌との交尾の優先権をもっているので,多くの子どもを作ることができる.高順位になる年齢は,通常10台終末から20台後半までである.30代を通じて雄は次第に順位を下げるが,例外もある.性行動はそれほど衰えが見られない.雄も雌も複数の異性と交尾するので,雄は自分の子どもを見分けられないし,子どもも父親を知ることができない.第一位雄が老齢雄を連合相手として重視するため,一見では老齢雄の社会的地位は下がったように見えない.1対1では若い大人の雄には負けても,第一位雄がいるところでは,彼の庇護を受けるので,高順位のように振舞える.子供との遊び時間は増える傾向がある.子供や孤児は老齢の雄につき従う傾向が強く,老雄も彼等を受け入れる.
雌の生存の目的は,子育てのように見える.雌は40歳を過ぎても出産する.45歳を超えると発情の兆候を示さなくなる個体が多い.女性は閉経後30〜40年生存するが,雌のチンパンジーの繁殖終了後の生存期間はせいぜい5〜6年である.それゆえ,ヒトの閉経に相当する現象は存在しない.一般に雌は11歳で出生集団を離脱し,近隣の別の集団に移籍するので,母親と娘,あるいは孫との絆は生じない.ただし,娘が集団に留まる場合は,孫への愛着が生まれる.雌は雄ほど順位上昇に関心を示さない.雌の順位は年齢が高まるにつれ上昇し,40歳を過ぎると下降する.
大人雄の間の連合関係は一時的・日和見的な傾向が強いが,大人雌の間の連合は強固で長続きする傾向がある.そこに,雄の方が精神的な「ぶれ」が大きい理由の一端がある.雄は老齢になっても政治の世界に引き出されることが多く波乱万丈の余生であることが多いが,雌は家族と平穏に暮らすことが多い.しかし,子供を失って孤独の中で死を迎える雌もいる.チンパンジー社会のような「伝統社会」では,年長者の存在意義は,食物の分布の詳細な知識の保持である.年によって果実の結実期や結実場所が変わるだけでなく,数年に一度しか結実しない種もある.食物が見つからない場合,若い世代は年長者に依存し,彼等の遊動につき従うことが多い.
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- 6月24日(金) 第1・2会場
- 特別企画I-1
- 座長:井関栄三(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)
- TK-I-1 16 : 15〜17 : 15
- 「レビー小体型認知症」と「石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病」の発見
- 小阪憲司(横浜ほうゆう病院)
- 演者は1976年以降の一連の報告でびまん性レビー小体病DLBDを発見・提唱し,それが基になり1996年に「レビー小体型認知症(DLB)」が命名された.また,1980年以来演者が提唱してきた「レビー小体病Lewy body disease」の概念が最近国際的に承認された.
一方,1974年に最初の症例報告をし,1994年に自験3症例に基づいて提唱したDNTCが国際的にも承認されている.
レビー小体型認知症DLBの発見
演者が1960年代後半に名古屋大学精神科で認知症の臨床と神経病理を勉強していた頃はわが国の高齢者人口がまだ5%以下で,認知症への関心はほとんどなく,アルツハイマー病(AD)ですらあまり知られていなかった.名古屋の精神科病院で,認知症と筋固縮が目立つ患者を受け持ち,その脳を鏡検した.AD病変に加えて脳幹にPD病変があり,さらに大脳皮質深層の小型神経細胞の胞体にエオジンにぼーっと染まる封入体がたくさんあることに気づいた.当時レビー小体は大脳皮質にはほとんど出現しないと考えられていた.同じころに主治医として診ていた高齢患者にも同様の所見を見つけた.それがLewy body diseaseやDLBDの提唱に発展することになった.
DNTCの発見
DLBDの最初の報告の少し前に,名古屋で主治医として診ていた患者が臨床的にADとPick病の両方の特徴を併せ持ち,診断に苦慮した症例を剖検し,肉眼的には側頭型Pick病と思ったが,神経原線維変化が無数に大脳皮質にあるものの老人斑はなく,さらに淡蒼球や歯状核に石灰沈着が目立つことから,1994年に分類困難な初老期認知症として報告した.その後,同様の2症例を経験し,それらに基づいて1994年にDNTCという名称を提唱した.
参考文献
1 )Kosaka K,et al : Presenile dentia with Alzheimer-, Pick- and Lewy body changes. Acta Neuropathol 1976
2 )Kosaka K : Lewy bodies in cerebral cortex ; report of three cases. Acta Neuropathol 1978
3 )Kosaka K, Mehraein P : Dementia-Parkinsonism syndrome with numerous Lewy bodies and senile plaques in cerebral cortex. Arch Psychiat Nervenkr 1979
4 )小阪憲司,他:Lewy 小体病の臨床病理学的研究.精神経誌1980
5 )Kosaka K, et al : Diffuse type of Lewy body disease. A progressive dementia with numerous cortical Lewy bodies and senile changes of various degree. A new disease? Clin Neuropathol 1984
6 )Kosaka K : Diffuse Lewy body disease in Japan. J Neurol 1990
7 )小阪憲司,他:分類困難な初老期痴呆症の一剖検例.精神神経誌1973
8 )Kosaka K : Diffuse neurofibrillary tangles with calcification : a new presenile dementia. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1994
9 )Kosaka K, Ikeda K : Diffuse neurofibrillary tangles with calcification in a nondemented woman. J Neurol Neurosug Psychiatry 1996
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- 6月24日(金) 第1・2会場
- 特別企画I-2
- 座長:池田研二(香川大学医学部炎症病理学)
- TK-I-2 17 : 15〜18 : 15
- 運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭型認知症
- 三山吉夫(社団法人八日会大悟病院老年期精神疾患センター)
- 前頭側頭型認知症(FTD,FTLD)の代表であるPick病は,長い経過の末期には四肢に筋萎縮や線維束性れん縮(fasciculation)がみられ,剖検で脊髄前角細胞の脱落をみることがある.このような症例では,運動ニューロン疾患(MND)が併発したとの報告はない.また,典型的な筋萎縮性側硬化症(ALS)の早期にFTDを伴うことの報告もなかった.認知症にMNDを伴う症例の報告は,わが国では,湯浅が1964年に「痴呆を伴うALS」として報告したのが最初である.演者は1965年に,「筋萎縮を伴う痴呆」の症例を報告した.演者がALSとしなかったのは,神経学的には脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)の臨床像であって,ALSではなかったからであった.湯浅はALSに認知症が併発したことに重点を置いたが,演者は認知症にMNDが併発した症例であることを強調した.その後,精神科以外の診療科からの報告が増えるにつれて,ALS with Dementia(ALS-D)の表現が広くもちいられるようになった.ややもすると,MND≒ALSかのような報告があり,上位・下位運動ニューロンの障害による神経学的所見が明確に記載されていないことがある.少なくとも典型的なALSにFTDが合併した報告は,見当たらないと演者は思っている.演者は,現在でも本疾患のMNDはFTD/FTLDの主病変に伴う神経症状であって,ALSに伴う認知症ではないとする立場をとっている.MNDがあってもFTDが明らかでなければ,本疾患ではない.本疾患の特徴として,(1)主として,初老期に言語障害(失語),意欲低下,無関心,行動調整の障害,多幸気分(ときに抑うつ)の前頭側頭葉症候群で発症,(2)発症して1〜2年以内にSPMA(ときにALS様)神経症状が併発,(3)錐体路・錐体外路症状は乏しい,(4)CT/MRI,SPECT/PETで前頭側頭葉の選択的な萎縮・機能低下をみる,(5)全経過は2〜5年,(6)家族性はみられない,(7)神経病理学的に,Pick嗜銀球をみることはない.前頭側頭葉,海馬歯状回顆粒細胞に神経細胞脱落,ユビキチン陽性・タオ陰性細胞,TDP-43陽性細胞の存在が特徴とされる.MNDの病変として,神経原性筋萎縮,延髄以下の運動神経核の脱落,脊髄前角細胞脱落とBunina小体がみられる.Bunina小体の存在をALSの病変として重視することが混乱の理由になっている,と考える.これらの臨床―病理所見は,Parkinson-Dementia ComplexやALS-Parkinson-Dementia Complexとも異なる.
今後の課題:ALS-Dではなく,FTD-MNDであることの検証を精神科医にお願いしたい.
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- 6月25日(金) 第1・2会場
- 特別企画II-1
- 座長:田中稔久(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- TK-II-1 15 : 00〜16 : 00
- アルツハイマー病治療薬開発の夢を追って
- 杉本八郎(京都大学大学院薬学研究科最先端創薬研究センター)
- コリン仮説
1976年代にD.M. Bowenらがアルツハイマー病(AD)患者の死後脳でのコリン作動性神経の異常を報告した.彼らはAD患者脳の大脳皮質において,記憶に関係している神経伝達物質アセチルコリン(ACh)の合成酵素,コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性が異常に低下していることを見出した.また1978年にE.K. PerryらはAD患者の認知機能をスコアかした後に死後脳のCAhT活性が相関することを報告した.これらの背景からAD患者の脳内ACh濃度を高めれば記憶を改善できるというコリン仮説が唱えられた.
コリン仮説からの創薬アプローチはAChの前駆物質の投与やCAhT活性を高める方法,AChの代わりに立体構造が似た化合物をACh受容体に結合させる方法,そしてAChを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)の働きを止めるAChE薬に基づく方法がある.塩酸ドネペジル(以下ドネペジル,商品名アリセプト)はAChE阻害作用に基づく考え方から生まれた.
ドネペジルの研究開発経緯
私たちの研究は従来から知られているAChE阻害薬タクリンの誘導体から着手したがこれらは強い副作用の為に断念した.そのとき他の目的で合成した化合物が偶然AChEを阻害する作用があることを発見した.これをシード化合物として合成展開したが初期のころは薬効に種差があることがわからずインビボの結果が得られなかった.その後酵素をすべてラット脳由来のものに変えてインビボの結果が出てきた.しかし世界でも最も強いAChE阻害薬を発見しながらイヌの生体利用率が低いために臨床導入直前でテーマは終結した.
その後,目標を体内動態の改善に絞りテーマ名も新たにプロジェクトは再開した.その後インダノン化合物を発見することにより極めて体内動態にすぐれた化合物ドネペジルを創製することに成功した.研究に着手してから4年の歳月が過ぎ1000化合物を合成していた.
ドネペジルは新規性の高い構造を有し強力で且つAChEに対して選択性の高い薬剤である.脳内移行性に優れ,用量依存的に脳内のAChEを阻害する.また良好な体内動態に裏打ちされい一日一回の投与を可能にした.ドネペジルは極めて完成度の高いAChE阻害薬といえる.
米国では1991年より臨床第一相試験が始まった.薬効の評価は記憶障害改善の指標としてADAS-cogを患者の日常動作改善の指標としてはCIBIC-plusが用いられた.この2試験はいずれも統計学的に極めて有意な改善効果が得られた.1996年11月に米国FDAはドネペジルをAD治療薬として承認した.申請から承認までわずか8ヶ月という極めて短期間で承認を得たことは異例なことであった.日本では米国の試験開始より2年前の1989年に臨床第一相試験が開始された.ドネペジルの米国に於ける臨床試験の用量は一日5mgと10mgであるのに対して日本では3mgと5mgであった.日本の臨床第一相試験の結果は米国の試験結果に優るとも劣らない良い結果が得られた.この国内の結果に基づいて1999年10月に厚生省により承認され11月より発売されている.米国の承認から遅れること3年であった.
今,アルツハイマー病の根本治療薬が強く求められている.その創薬研究のアプローチはベータアミロイド仮説とタウタンパク仮説によるのである.私たちの研究の一端を踏まえて当日お話させていただく予定である.
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- 6月25日(金) 第1・2会場
- 特別企画II-2
- 座長:高松淳一(国立病院機構菊池病院)
- TK-II-2 16 : 00〜17 : 00
- 健忘型認知症(アルツハイマー病など)のメンタルケアで認められた,処遇に意義ある臨床的事実について
- 室伏君士(国立病院機構菊池病院・名誉院長)
- この30数年来ライフワークとして,認知症高齢者への“理にかなったメンタルケア”に取り組んで,その臨床経験から得た理論的拠り所となる健忘型認知症の記憶障害を中心とした各種の現象について,その成因・意義・対応を述べる.健忘型認知症(de Boor, H)あるいは記憶型認知症(Gruhle, HW)は,アルツハイマー病などに典型的に認められ,また認知症性の健忘症状複合体(Liebaldt, GP & Scheller, H)と言われている.記憶は基本的な知的能力(思考,言語,認識,行為)の構造や形成に関係して(全般性認知症),それらの能力の合成・保持・表現(言動化)にも関与している(神経心理症状).この種の認知症疾患の後半期の生活障害に問題のある高齢者へのメンタルケアで着目される現象に,次のものがある.
1.誤見当:認知症が軽度の後半になると,記銘力障害をもとに周囲の雰囲気,意味,事情の変化や比較が分からなくなり,「現在の自分を,日時・場所・状況について,客観的(時計や暦,住所や名称,仕事や生活的)に把握(見当づけ)ができない」失見当が起る.
それが認知症が中等度になると逆向性生活史健忘が加わり,中等度の重めになると,「過去からの自分の現在が分からなくなったこと(生活史健忘)を,時・場・状況(対人関係を含む)について,自分なりに(自覚的に)誤認的に過去化して,(当惑作話性に),今ように現実化して把握する」誤検討が認められてくる.具体的には,年齢の若返り,昔への時代錯誤,頼りの拠りどころの場所や状況の過去化(古里や母親への回帰),なじみの人間関係の既知化,昔の生活や仕事を今もしているつもりの考えや行動化(仮想性現実化症候群)がある.これらへの対応のまとめが,メンタルケアの基本になっている.この誤見当の間違いは,重い認知症者がやっとできる生き方(人間的な錯誤現象)である.これは先ずはゆるし(forgiveness)の心理で許容する必要がある.
2.逆向性生活史健忘:生活史には,その人が生きてきた物語(エピソード記憶;回想法の基礎)があり,また社会や家族に尽くしてきた存在理由・価値(生きがい・生き方)の実績がある.さらにその人らしい人柄の持ち味や技の能力の培われてきた自己成長の歴史がある.特に昔からの自我の同一性,連続性,独自性などの自己存在(アイデンティティー)の自覚・自我意識がある.誤見当の過去化の矛盾の不在にも関係してくる.
3.個性的(その人らしさ)の技と人柄の持ち味:手続記憶的に得た独自の得意技(料理,園芸,歌・踊り,手遊び,ラジオ体操など)は,長年にわたり習得・体得してその人の身につくと,意識しなくても老齢期まで保持(記憶)されていたり,認知症化しても中等度の前半まではおおまかに保たれている.これはそれにふさわしい場や状況に出会うとか,それを設定してやると(リハ・レク),隠れた能力のように発揮される.人柄の持ち味(長所)は,長年の生活や仕事を通して特に人間関係の修練で身についた,その人なり好ましい態度や言動である.それにふさわしい対応や機械を与えていくとよい.
4.常同性習癖化療法(滞続症の手続き記憶的方法を利用した行動障害の解決の治療法)
◎これらを通して,日本人の文化的な風俗,習慣,人情,家族の絆,生き方,生きがいの理解や,時代変遷(仮想性の減退)をわきまえ,人間関係を重視した処遇を心がけてきた.
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- 6月24日(木) 第1・2会場
- シンポジウム血管性認知症再考
- 座長:松下正明(東京都健康長寿医療センター),池田学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野)
- 13 : 40〜16 : 10
- S-1
- 認知症の疫学調査:久山町研究
- 清原裕(九州大学大学院医学研究院環境医学分野)
- 近年わが国では,高齢人口の増加とともに認知症の高齢者が増え続けている.老年期認知症の予防,治療,介護を含めた総合的な対策を講じるには,疫学研究によって一般住民中の認知症の実態を把握し,その危険因子を明らかにすることが有用である.わが国では,国民の生活習慣が欧米化し,それに伴い肥満,糖尿病,脂質異常症など代謝性疾患が急速に増加している.これら代謝性疾患は高血圧を合併しやすく,脳動脈硬化をひき起こして脳卒中のみならず脳血管性認知症(VD)の原因になることが危惧されている.また近年,これら動脈硬化の危険因子は,アルツハイマー病(AD)の発症要因として注目されている.そこで本講演では,福岡県久山町における認知症の疫学調査より,病型別認知症の有病率の時代的変化を検証し,次いで動脈硬化の危険因子と認知症発症の関係を検討する.
久山町住民は,過去40年以上にわたり年齢・職業構成および栄養摂取状況が日本の平均レベルにあり,偏りがほとんどない典型的な日本人のサンプル集団である.この町では1985年に65歳以上の高齢住民を対象に認知症の有病率調査が行われ,その後1992年,1998年,2005年にも同様の調査が実施された.各調査の受診者はそれぞれ887名(受診率95%),1,189名(97%),1,437名(99%),1,566名(92%)であった.全ての年でほぼ同一の2段階方式の調査法がとられ,第1段階のスクリーニング調査では原則的に各対象者を医師が直接面接し,長谷川式簡易知能評価スケールなど神経心理テストを用いて知的レベルの低下者を抽出した.さらに認知症が疑われる者に対して2次調査を行い,家族・主治医からの病歴聴取と神経・理学的所見より,DSM-IIIあるいはDSM- III R,柄沢らの「老人ぼけの程度の臨床的判定基準」を用いて認知症の有無,重症度,病型を判定した.さらに,この有病率調査を受診した者を全員追跡し,非認知症例からの認知症発症率や危険因子,その時代的変化を検討しているが,追跡調査からの脱落例はほとんどいない.そして,認知症例の脳を頭部CT/MRIおよび剖検によって形態学的に調べ,その病型を再評価している.
わが国の地域住民における認知症有病率の時代的変化を把握するために,前述の久山町における4つの認知症有病率調査の成績を比較した.その結果,性・年齢調整後のVD有病率は1985年2.4%,1992年1.5%,1998年1.5%と減少傾向を示したが,2005年には2.5%と上昇傾向に転じた.一方,AD有病率はそれぞれ1.1%,1.3%,2.3%,3.8%と有意な上昇傾向を示した.VD/ADの有病率比をみると,1985年は2.1であったが,その後1992年1.2,1998年0.7,2005年0.7となり,時代とともにVD優位からAD優位に変化した.さらに,認知症の危険因子を明らかにするために,1985年に認知症がなかった高齢者826名をその後15年間追跡した.発症調査におけるVDとADの臨床診断には,それぞれNINDS-AIRENとNINCDS-ADRDAの診断基準を用いた.その結果,耐糖能異常はVDおよびAD発症の有意な危険因子となったが,高血圧はVD発症の有意な危険因子であったが,AD発症との関連は認められなかった.講演では,認知症有病率の時代的変化の要因を考察する.
- S-2
- 変性性認知症と血管病変との関連
- 橋本衛(熊本大学医学部附属病院神経精神科),池田学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野)
- MRIの普及により,認知症診療において微小脳梗塞などの血管病変の同定が容易となった.しかし,MRI画像上の血管病変が必ずしも認知症の直接的な原因となるわけではなく,血管病変と認知症との関連についてはいまだ不明な点が多い.健常高齢者では加齢とともにラクナ梗塞や大脳白質病変などの血管病変を有する頻度が増加することや,血管病変が高齢者におけるうつ病の危険因子であることなどが報告されている.これらの知見は,アルツハイマー病(AD)をはじめとする変性性認知症においても,血管病変の合併は症候学的にも無視できない問題である可能性を示唆している.そこで今回の発表では,変性性認知症における血管病変の合併と臨床症候との関連について,特に精神症状に注目し考察する.
表1,2は熊本大学医学部附属病院神経精神科の認知症専門外来を受診した60歳以上のprobable AD患者150名を対象に,血管病変の有無と臨床症候との関連を分析した結果である.MRI画像を用いて血管病変あり群(69名)となし群(81名)の2群に分類し(血管病変はFazekas grade 3の白質病変もしくはラクナ梗塞ありで定義),それぞれの認知機能(MMSE,FAB,語列挙,数唱),精神症状(NPI)を比較した.
結果は,血管病変あり群のほうが平均年齢は高く,高血圧,糖尿病などの血管障害の危険因子をもつ割合も有意に高かった(表1).2群間のMMSE得点に有意差はなかったが,語列挙課題,数唱は血管病変あり群で有意に低かった(表1).これらの結果は,全般的な認知機能が同程度であっても,ADに血管病変を伴うことにより実行機能や注意機能が低下する可能性を示している.精神症状については,血管病変あり群で幻覚,妄想のスコアが有意に高く(表2),ADにおいて血管病変は幻覚や妄想の危険因子である可能性が示された.
当日は,レビー小体型認知症と血管病変との関連についても考察する.
- 表1 demographic data と認知機能検査結果(平均±標準偏差)
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| 血管病変 あり群 | 血管病変 なし群 | p 値 |
年齢 | 77.8±5.6 | 74.5±7.4 | 0.002 |
男性/女性 | 29/40 | 23/58 | 0.08 |
危険因子あり(%) | 71.0 | 45.7 | 0.002 |
MMSE | 19.5±4.9 | 19.8±4.8 | 0.67 |
FAB | 10.9±3.7 | 11.8±2.9 | 0.16 |
語列挙(動物) | 8.3±3.7 | 10.1±3.6 | 0.004 |
語列挙(か) | 5.1±3.1 | 6.3±3.1 | 0.02 |
数唱 | 9.2±3.1 | 10.4±3.1 | 0.03 |
- 表2 NPI スコア(頻度×重症度)(平均±標準偏差)
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| 血管病変 あり群 | 血管病変 なし群 | p 値 |
妄想 | 1.5±3.1 | 0.57±2.0 | 0.025 |
幻覚 | 0.19±0.49 | 0.05±0.44 | 0.002 |
興奮 | 1.0±2.2 | 0.81±2.1 | 0.42 |
うつ | 1.0±2.4 | 1.1±2.3 | 0.95 |
不安 | 0.71±2.0 | 1.3±2.9 | 0.21 |
多幸 | 0.16±1.0 | 0.07±0.49 | 0.86 |
無為 | 4.1±3.9 | 3.7±3.5 | 0.73 |
脱抑制 | 0.51±1.6 | 0.53±2.0 | 0.43 |
易刺激性 | 1.2±2.4 | 0.74±1.9 | 0.30 |
異常行動 | 1.4±3.1 | 0.74±2.2 | 0.31 |
- S-3
- 脳卒中後うつと意欲低下
- 濱聖司(日比野病院リハビリテーション科(広島大学大学院医歯薬研究科脳神経外科研究員))
- うつ病は脳卒中後にしばしば見られ(脳卒中後うつ病,Post Stroke Depression:PSD),左前頭葉前部に病変を持つものが発症しやすい(左前頭葉障害仮説)とされている.PSDの臨床症状は大うつ病とほぼ同様と考えられているが,意欲低下(=Apathy)が多いとする報告がある.Apathyとは,普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心がわかない状態のことを言い,パーキンソン病など脳器質疾患患者で多いとされる.うつ病で認められる意欲障害とかなり重複する症状だが,Apathyという用語は精神医学領域では用いられることは少ない.我々はPSDの病態をApathyに注目して検討してきた.
【抑うつ気分とApathy】
リハビリ入院中の脳卒中患者では,抑うつ気分のみ,Apathyのみ,及びその両者合併例がそれぞれ存在し,いずれかの症状を呈する患者(PSD)が約半数にのぼった.
次に,脳卒中後のリハビリ入院中の患者の抑うつ気分とApathyをそれぞれ評価して機能障害の改善に及ぼす影響を検討したところ,Apathyが存在することが脳卒中後の機能回復に悪影響を及ぼしている一方で抑うつ気分は有意な影響を及ぼしていなかった.PSDにおけるApathyの存在はうつ病そのものの治療反応性だけでなく,脳卒中後の機能回復にも悪影響を与えるため,PSDの治療においてはApathyの存在に十分に注意を払う必要がある.
一方,病変部位との関係では,両側基底核病変はApathyが強く関連して抑うつ気分とは関連がなかったが,左側前頭葉病変は抑うつ気分と有意に関連してApathyとの関連はなかった.PSDが大うつ病と比較して治療抵抗性であるのは,PSD患者では,脳卒中の好発部位である基底核病変が多く,治療抵抗性の症状である意欲障害(Apathy)が比較的多く発症するからかもしれない.我々の研究結果からは抑うつ気分とApathyにはそれぞれ別の神経学的基盤が存在する可能性が示唆された.
【PSD患者への接し方】
リハビリ場面では,脳卒中患者には麻痺等の障害の予後を正確に伝え,障害を受容させ,代償手段を獲得させることが必要とされている.一方で障害受容の準備ができていない段階で脳卒中患者に病状を正確に伝えることは,患者の抑うつ症状をかえって強めてしまう危険性も考えられる.我々は脳卒中後の急性期リハビリテーションの時期において,失われた機能に固執して,医療者に対して訴えの多い患者の方が,障害受容が進んでいるように見える患者よりも,かえって機能回復が大きいことを報告した.患者は固執することによって告知による心のダメージを弱め,PSDを最小限にしている可能性があるため,患者の状態を見極め,段階的に告知をおこなっていく必要があると考えられた.
【ストレス対処と内分泌】
うつ病と内分泌の関係は多数報告されているが,ストレス対処と内分泌との関係を調べた報告は少ない.そこで,下垂体腺腫患者で内分泌とストレス対処を検討すると,甲状腺ホルモンがストレス対処に影響していることが示唆された.
【身体機能と抑うつ・意欲低下】
座位保持能力と機能障害改善との関連を,抑うつ症状・意欲低下への影響を含めて検討したところ,座位保持が困難な程,抑うつと意欲低下が強く,日常生活動作の改善にも支障を来す結果であった.脳卒中後は身体機能障害と気分障害が強く関連し合っているので,PSD患者では身体機能にも目を向けてリハビリを進めることも必要と思われる.
- S-4
- 血管血球系幹細胞を用いた脳血管性認知症の予防法および治療法の開発
- 田口明彦(国立循環器病センター研究所)
- 脳の血管を構成する内皮細胞の寿命は約3年であるが,近傍の血管内皮細胞の分裂とともに,末梢血中に存在する骨髄由来血管血球系幹細胞が血管内皮への分化および血管新生因子の放出を介して,その修復に寄与していることが明らかにされている.
我々は脳梗塞患者や脳血管性認知症患者,アルツハイマー型認知症患者などを対象に,末梢血管中の骨髄由来血管血球系幹細胞数(CD34陽性細胞数)と脳循環動態,認知機能の関連についての検討を行ってきた.その結果,(1)脳梗塞患者における末梢血中血管血球系幹細胞数の減少が脳循環動態の悪化と関連していること,(2)血管障害を合併しないアルツハイマー型認知症患者では血管血球系幹細胞数が保たれているものの,脳血管性認知症患者ではその減少がみられること,(3)脳血管性の認知症障害がより強い患者群においてはその減少がより顕著であること,(4)血管血球系幹細胞数の減少と,一年後の認知機能障害悪化が関連していることなどを明らかにしてきた.これらの知見は,末梢血中の血管血球系幹細胞が脳循環動態の恒常性の維持を介して認知機能にも大きな影響を与えていること,脳血管性認知症における骨髄幹細胞の枯渇あるいは老化が認知症の発症や進行に関連していること,さらに骨髄由来血管血球系幹細胞を用いた脳血管性認知症の予防法や治療法の可能性を示すものであると考えている.
骨髄由来血管血球系幹細胞を用いた細胞治療に関しては,慢性四肢虚血患者に対して微小血管再生・活性化を目的とした骨髄由来血管血球系幹細胞移植が,我々の施設を含む多くの病院において実施されその有効性が示されるとともに,急性期心筋梗塞患者に対しても欧州では既に二重盲検試験において,その有効性が示されている.また,急性期脳梗塞患者に対する細胞治療は国立循環器病センターで開始されており,腎疾患などさらに多くの疾患への適応拡大が示唆されている.
これらの知見を基に,我々は骨髄由来血管血球系幹細胞を用いた治療法を脳血管性認知症患者に応用するため,老齢高血圧脳梗塞自然発症ラットを用いた研究を行っている.現在までのところ,老齢ラットの骨髄細胞の一部を若齢ラット由来の細胞に置き換えることにより,微小循環動態が改善され,脳梗塞後の神経障害が軽減することなどが観察されているが,これらの結果は骨髄細胞の若返りあるいは適切なコントロールにより,高血圧・老化現象により障害された脳微小循環を改善し,脳神経機能を維持さらには向上させることも可能であることを示していると考えており,今後も具体的な臨床応用に向けた研究を精力的に行っていきたいと考えている.
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- 6月25日(金) 第3会場
- アジア若手シンポジウム各国の認知症医療の現状と課題
- 座長:武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- 15 : 00〜17 : 00
- AS-1
- The effects of head circumference and nutritional risk on cognitive decline.
- Chang Hyung Hong(Department of Psychiatry, Ajou University, School of Medicine, Suwon, Korea)
- Background:Head circumference is a good indicator of nutritional background and brain development and is the most sensitive anthropometric indicator of prolonged undernutrition during infancy, which becomes associated with cognitive impairment. The nutritional risk level of the elderly is associated with cognitive function.
Objective:The aim of this study was to examine the effects of head circumference and nutritional risk on cognitive decline.
Design:A longitudinal factorial design in which the Mini Mental State Examination (MMSE) score was the dependent variable, with head circumference as one factor and nutritional risk as another.
Results:Nutritional risk was associated with decreased general cognitive function only in individuals with small head circumference.
Conclusions:Our study suggested that nutritional risk may result in changes to one’s cognitive reserve.
- AS-2
- Brief Screening Tool for Mild Cognitive Impairment in Memory clinic : validation of the Taiwanese
Version of the Montreal Cognitive Assessment(MoCA)
- Christina, Chia-Fen Tsai, Jen-Ping Hwang(Taipei Veterans General Hospital, Taipei, Taiwan/
National Yang-Ming University, Taipei, Taiwan/Taiwan Society of Geriatric Psychiatry/
Taiwan Dementia Society), Jong-Ling Fuh(Taipei Veterans General Hospital, Taipei, Taiwan/
National Yang-Ming University, Taipei, Taiwan/Taiwan Dementia Society)
- Objective:The Montreal Cognitive Assessment (MoCA) is a brief cognitive screening instrument for screening the elderly with mild cognitive impairment (MCI). We examined the validity of the Taiwan version of the MoCA (MoCA-T) in older outpatients.
Methods:We recruited subjects from the outpatient memory clinic and neurological clinic of Taipei Veterans General Hospital from May 2009 to April 2010. The participants received MoCA-T, the Mini-Mental State Examination (MMSE), Clinical Dementia Rating (CDR) scale, and neuropsychological batteries were administered to 242 older subjects.). Diagnosis was according to the National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke-Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association ( NINCDSADRDA ) diagnostic criteria for probable AD and the criteria for MCI proposed by Petersen et al.
Results:During the study period, we recruited 242 elder participants (135 male) with the mean age of 75.3±10.0, mean years of education was 10.0±5.0. Among them, 97 subjects were diagnosed as mild to moderate Alzheimer’s disease (AD), 89 as mild cognitive impairment and 56 as normal controls. Their mean MMSE score was 23.5±5.7 and MoCA score 18.7±5.7. MoCA-T score was highly correlated with MMSE (r=0.90, P<0.001), and CDR (r=−0.67, P<0.001) scores. The areas under receiver-operator curves (AUC) for predicting MCI and AD groups by the MoCA-T were 0.87 (95% confidence interval [CI]=0.81 −0.93) and 0.98 (95% CI=0.98−1.00), respectively. The corresponding values for MMSE were 0.78 (95% CI=0.70−0.85) and 0.98 (95% CI=0.00−1.00). Using a cutoff score of 24/25, the MoCA-T had sensitivity of 83% and specificity of 79% for MCI.
Conclusion:The MoCA-T, but not the MMSE, has adequate psychometric properties as a screening instrument for the detection of mild cognitive impairment in an outpatient clinical setting.
- AS-3
- Neuropsychological profiles and short-term outcome in late-onset depression
- Neuropsychological profiles and short-term outcome in late-onset depression
William Wing-ho, Chui(Department of General Adult Psychiatry, Castle Peak Hospital, Hong
Kong)
- Background:Neuropsychological impairments are common in older persons with late-onset depression. Little is known about the aetiological and prognostic signficance of these impairments. This study examined the relationship between neuropsychological profiles and short-term outcome in late-onset depression.
Methods:A total of 54 non-demented Chinese elders presented with their first major depressive episode after 60 years of age participated in this study and were treated according to a standardised protocol. At entry, they were assessed on neurological signs (Parkinsonian features and neurological soft signs ) and neuropsychological measures ( executive functions , psychomotor-speed , attention and working memory, episodic memory, conceptualisation, construction and global cognitive function). The Hamilton Depression Rating Scale (HAM-D) was administered at baseline, the sixth and 12 th week of treatment.
Results:Abnormal first-edge-palm test, a sign reflecting impairment in motor sequencing, was more common in non-remitters (definded as HAM-D score above 7) at the 12 th week of treatment.
Limitations:The first-edge-palm test may be included in the clinical assessment for patients with late-onset depression to identify a susceptible group who may require more intensive treatment. Further research is warranted to ascertain the link between lateonset depression, neuropsychological deficits and prognosis.
- AS-4
- Working memory dysfunction in Alzheimer's dementia : an FMRI investigation
- Wang-Youn Won(Department of Psychiatry, The Catholic University of Korea, Seoul, Korea)
- Impaired working memory processing is one of the broad range of cognitive deficits in patients with Alzheimer’s disease (AD). We aimed to elucidate the differences in brain activities involved in the process of working memory between AD patients and healthy comparison subjects. Twelve patients with AD were recruited along with 12 healthy volunteers as a comparison group. Functional magnetic resonance imaging was employed to assess cortical activities during the performance of a 1-back working memory paradigm using the Korean alphabet as mnemonic content . Subsequently , the difference in neural activities between the 2 groups was analyzed. The AD group performed the tasks with reduced accuracy. Group comparison analysis revealed that the AD group showed decreased brain activity in the left frontal pole (Brodmann area, BA, 10), the left ventrolateral prefrontal cortex (BA47), the left insula (BA13) and the right premotor cortex (BA6) compared to the control group. The AD group showed increased activation in the left precuneus (BA7) compared to the control group. A decreased level of activation in the prefrontal cortex and an increased level of activation in the parietal neural networks from the patient group may document an altered verbal working memory process in the patients with AD.
- AS-5
- Optimal Doses of Antipsychotic Agents for Outpatients with Dementia-related Agitation and/or
Psychotic Symptoms
- Yi-Ting Lin(Department of Psychiatry, National Taiwan University Hospital)
- Objective:Patients with dementia-related behavioral and psychological symptoms are often treated with antipsychotic agents, despite the well-known adverse events associated with neuroleptics in these vulnerable patients. Based on an operational criteria, this study aimed to find optimal doses and associated prescription patterns from outpatient settings of a medical center in Taiwan.
Methods:Medical charts of outpatients who were prescribed with antipsychotic agents for agitation and / or psychosis related to Alzheimer’s disease, vascular dementia, or mixed dementia were reviewed. Their data were enrolled into final analysis if a stable state had been achieved during the treatment. Stable state was defined as an at-least-fourweek of time during which there had been more than one clinical visits and an antipsychotic agent was maintained in a constant dose throughout. The constant dose was defined as the optimal dose . Demographics , clinical correlates , and prescription patterns were also compared among patient groups with different antipsychotic agents.
Results:Of the 695 patients reviewed, stable state was achieved in 217 patients. Eighty of them had Alzheimer’s dementia, 117 vascular dementia, and 18 mixed dementia. Most patients (117 patients) took quetiapine with mean optimal dose 43.8 mg/day, 25 took risperidone with mean optimal dose 1.0 mg/ day, and 13 took sulpiride with mean optimal dose 126.9 mg/day. The mean observed duration of stable state was 373.6 days in all patients.
Conclusions:The demented outpatients who responded to quetiapine might need doses lower than those of other trials. Since many patients who had achieved stable state continued to take the same dose for more than a year, regular review of prescriptions and early trials of withdrawing treatments should be advocated.
- AS-6
- Pathway to psychogeriatric care in Hong Kong
- Chow Po Ling, Paulina(Department of Old Age Psychiatry, Castle Peak Hospital, Hong Kong)
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- Background:The Hong Kong population is ageings, which brings about an increased elderly mental health burden. Careful planning of service is essential to ensure adequate coverage and maximised utility. This required information about service utilisation may be provided by means of a pathways study. The current study is set out to describe the pathway to psychiatric care taken by local Chinese elderly.
Methodelogy:Information was collected by means of the Encounter Form by the World Health Organisation, adopted with permission. Cultural adaptation was applied by means of focus groups. A total of 302 Chinese elderly reaching the psychogeriatric service of the NTWC were interviewed in five calendar months from 1 st August 2007 to 31 st December 2007. Subjects’ accounts were cross-examined with computer records , referral documents , and extensive collateral interviws. Pathways were portrayed, and
data were analysed quantitatively, with emphasis on i) the sequence of cares cintacted along the pathway, ii) the duration or delay at differenct cares and iii) the referral pattern of different cares. Preliminary comparisons were made by means of the Mann-Whitney U tests and Kruskal Wallis tests on the delays. Stepwise regression analysis was employed to identify the predictors for the overall delay in the pathway.
Results:The help-seeking oathways of Chinese elders were usually initiated by their household care-givers , who were mostly relatives or institution workers. Only 25% of the elderly sought help proactively and initiated their pathways. Most subjects were attended by two cares before arriving at the psychogeriatric service, usually one household care-giver followed by one medical practitioner. Role of gate-keeper by general practitioners was shared by other medical practitioners, including the Hospital Authority non -psychiatrist specialists, which constituted the largest proportion (32%) of all referrals to the psychogeriatric service followed by the primary care doctors and the generic consultation-liaison psychiatrists. Most subjects (88%) received at least one type of treatment along the pathway, but few received psychological treatment . Onset of psychiatric symptoms were attended by the first cares promptly (median delay = 0 weeks), while the main delay in the pathway rested in the period after the contact with the first carer (median delay = 52 weekks). Regression revealed predictors for a longer delay included a more advanced age, having no household care-giver and receiving more treatment along the pathway. Subjects who were being attended to by their relatives or friends anywhere along the help-seeking pathway, who were exclusive-dialect speakers, who had a higher Cumulative Illness Rating Scale for Geriatrics total score and who eventually reached psychogeriatric consultation-liaison service predicted a shorter delay.
Conclusion:Current findings pointed to a unique pathway taken by the local elderly, which could be resulted from the distinctive characteristics of elders in Hong Kong and the local health care system. Results provided insight to the pattern of service utilisation and areas for service improvement. Suggestions include mental health education, carer training, strengthening of the primary care system, enhancing collaboration with other health professional bodies and ring-fencing the funding for sustainability of psychogeriatric service.
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- 6月24日(木) 第4会場
- 生涯教育講座I
- 座長:千葉茂(旭川医科大学医学部精神医学講座)
- SK-1 17 : 30〜18 : 30
- 老年期の睡眠障害
- 清水徹男(秋田大学大学院医学系研究科)
- 人口の高齢化とともに,睡眠の問題に苦しむものが増加する.ことにその傾向は女性で顕著であり,65 才以上の女性ではその約半数のものが睡眠の問題を抱えていると報告されている1.最も頻度の高い睡眠障害である不眠はQOL に大きな影響を与える.さらに,慢性化した不眠は高齢者においてはうつ病発症の危険因子であることが最近のメタ解析によっても実証されている.このことは,慢性の不眠は決して見逃されても良い病態ではないことを示している.高齢者の不眠に対しては,まず,非薬物療法とりわけ睡眠衛生の指導が重要である.そのうちの多くの部分は認知症患者の不眠にも適応可能である.次いで薬物療法であるが,そのエッセンスについても解説する.
高齢者では約4 割という極めて高い頻度で睡眠時無呼吸症候群がみられる.若年者の場合とは異なり,肥満やいびきが目立たないことが多い.さらに,高齢者ではその有病率に男女差がほとんど見られないことも特徴的である.睡眠時無呼吸症候群が高齢者においても若年者と同様に生命予後や心・循環器系の危険因子になるかという点は重要な問題であるが,不明な点が多い.
高齢になってから明瞭な寝言をしゃべるようになる,あるいは,夢見の時に体を動かしてしまう人がいる.そのような人はREM 睡眠行動障害の患者である可能性が高い.この病態は,夢見る睡眠であるREM 睡眠の時期に生理的には働く骨格筋活動の抑制機序が働かないために夢見に伴う言動が表出されるようになるというものである.激しい場合には起きあがって転倒したり,家具などにぶつかる,夢の中の襲撃者と闘っているつもりで傍らに眠る配偶者を傷つけたり,振り回した腕を壁などにぶつけて自らを傷つける危険がある.ところで,REM 睡眠行動障害のみを呈し他には何らの身体疾患や精神神経疾患のない正常な患者が後にパーキンソン病やレビー小体病を高い頻度で発症することが明らかになっている.
このように高齢者に高い頻度で見られる睡眠障害はQOL に大きな影響を与えるばかりではなく,様々な疾患や病態の発症にも影響するものである.ここでは高齢者の不眠,うつ病と不眠の関係,高齢者の睡眠時無呼吸症候群,REM 睡眠行動障害に焦点を当てて解説を加える.
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- 6月25日(金) 第4会場
- 生涯教育講座II
- 座長:本間昭(認知症介護研究・研修東京センター)
- SK-2 15 : 00〜16 : 00
- 高齢者診療に必要な諸検査
- 前田潔(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)
- 高齢者の診療をする際に必要な検査について説明をする.対象が高齢者ということで注意する必要のある点がいくつかある.まず加齢が検査結果に影響することがあるということである.基準値,正常値が若年者と異なってくることがある.つぎに高齢者は精神疾患,認知症などのほかに,ときには複数の身体疾患を合併していることが多いため,異常値を呈することが多く,解釈が難しいことも多い.また高齢者には侵襲性の高い検査は行いにくいという点もある.病歴聴取,身体診察を綿密に行うことで必要性の少ない検査を省き,診断に必要な最小限の検査を行うよう考えるべきである.特に検査の侵襲性を常に考慮する必要がある.
ここでは病歴を聞き,身体診察が終了し,その後に行われる検査について話をすることとする.高齢者の精神疾患・認知症を診断するうえで必要な検査は,血液・尿検査,ECG,身体各部位のX線検査,脳脊髄液検査,脳波検査,認知機能その他の心理検査,脳画像検査などがあるが,心理検査については他に譲ることとする.また高齢者の精神疾患・認知症に特異的な検査に限って話をすることとする.
血液検査に関しては通常の血液学的検査,血液生化学検査,内分泌検査,ビタミン濃度,血液ガス検査,梅毒やAIDSなど感染症に関する検査などがある.また血液から検査するものとして遺伝子検査がある.脳脊髄液検査では通常の細胞数,蛋白,糖などのほかに感染症に関する検査,Aβ蛋白,タウ蛋白など特殊な物質の測定などがある.
脳の画像検査は進歩の早い領域であり,診断に重要な意味を持つことも多い.CT,MRIの形態画像でも海馬の萎縮を数値化し,健常者と比較してZscoreを算出したりすることもルチーンで行われている.形態画像のほかにSPECT,PETの機能画像,またそれらの統計画像の利用,PETにおけるさまざまなトレーサーの開発などが行われている.
当日はこれらの検査を実際の症例を提示して話をしたいと考えている.
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- 6月25日(金) 第4会場
- 生涯教育講座III
- 座長:守田嘉男(梅花女子大学看護学部)
- SK-3 16 : 00〜17 : 00
- 「せん妄」を巡って
- 一瀬邦弘(聖美会多摩中央病院)
- 20世紀の意識障害を巡る概念の混乱をまとめあげる契機となったのはLipowski, Z.J.の著作である.精神科病院の脳波室で暗くなってから電極をつけ始め,昼間入院したてのアルコール依存症患者の終夜睡眠脳波記録をとりながら読んだのが,1980年に書かれたDeliriumの大著であった.このころ目的は振戦せん妄における発症前,発症中,発症後の終夜睡眠ポリグラフィーの記録だった.周波数分析のために,記録はアナログデータを磁気記録したが,当時の記録レコーダーは15分おきにテープ交換が必要なカセットデータレコーダーで徹夜の仕事であった.翌朝の常磐線での帰京と翌日病院勤務はまさに消耗戦であった.それから10年経って翻訳読み合わせのコピーが散逸したころ,すこし薄くなってDelirium改定版が出版された.その10年の間に副題は急性脳機能不全症(Acute brain function failure)から,急性錯乱状態(Acute Confusional States)へと変化した.その中では,もうろう状態,幻覚症,アメンチア,夢幻様体験など歴史的記述から集大成し,全体を急性の脳機能不全として一括されている.そして10年後に,せん妄概念はより広範化し,狭義の精神症状を伴う意識変容状態は全てせん妄として一括して定義された.その経過はDSM-II,DSM-III-R,DSM-IV,DSM-IV-TMの変遷へ影響し,そしてICD-10のF.精神および行動の障害へも強く関与した.歴史的には,1910年のBonhoefferによる急性外因反応の提唱,1916年Bleulerによる精神器質症候群のまとめから,1956のWieckによる通過症候群の論議を経て,Lipowski, Z.J.による集大成が行われたと言って良い.またこの間にポリソモノグラフィの普及に伴って,睡眠学が急速な発達を示し,せん妄症状群の中からSchenck CによってREM睡眠関連異常行動がとりだされたほか,アルコール離脱期のせん妄など,さまざまなREM睡眠機構の解離現象がみいだされた.また1960年,わが国の原田のよる最軽度の意識混濁についての臨床症候学的な提唱は,今もベッドサイドでの指針と言えよう.