第25回日本老年精神医学会

 
大会長
池田 学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野)
会 場
KKRホテル熊本  〒860-0001 熊本市千葉城町3−31
Tel:096-355-0121 Fax:096-355-7955 
URL:http://www.kkr-hotel-kumamoto.com/
大会概要
タイムテーブル
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プログラム
6月25日(金) 第3会場
 
高齢者のうつ関連
座長:水上勝義(筑波大学)
II-3-1  9 : 00〜9 : 12
認知症におけるうつとアパシーの検討;4 大認知症(AD, DLB, FTLD, VaD)を対象として
遊亀誠二,橋本 衛,矢田部裕介,小川雄右,本田和揮,兼田桂一郎,一美奈緒子,勝屋朗子,谷所敦史,小嶋誠志郎,池田 学(熊本大学医学部附属病院神経精神科)
【目的】認知症の精神症状として‘うつ’と‘アパシー’が高率に認められることが報告されてきた.しかし‘うつ’と‘アパシー’は意欲や興味・関心の低下など似通う部分も多く,これらを明確に区別していない報告も多い.本研究ではアルツハイマー病(AD),血管性認知症(VaD),レビー小体型認知症(DLB),前頭側頭葉変性症(FTLD)患者のうつとアパシーについて検討した.
【対象】熊本大学医学部附属病院神経精神科の認知症専門外来では,認知症を疑われた初診患者へ神経精神医学的診察,神経心理学的検査,神経精神医学的検査,頭部MRI またはCT,脳血流SPECT を前向性に施行し,熊本大学における認知症の縦断研究への参加の同意を書面で得た全例に対して病歴,診察所見,検査所見,転帰などを一定の基準でデータベースに登録している.本研究では2007年4月から2009年12月に当科外来を初診したAD,VaD,DLB,FTLD 患者のう ち,初診時点のCDR が1 で,信頼できる介護者からNPI が聴取できた全ての例を対象とした.
【方法】NPI のうつ・不快の下位項目で1 点以上のものを‘うつ’を伴う例,無為・無関心の下位項目で1 点以上のものを‘アパシー’を伴う例とし,各疾患における‘うつ’‘アパシー’の有症率を調査した.さらに,疾患ごとにうつ・不快,無為・無関心の下位項目の陽性率を調べ,‘うつ’と‘アパシー’の特徴を検討した.
【結果】対象症例は総計135例で疾患別の内訳はAD 78例,VaD 18例,DLB 26例,FTLD 13例であった.そのうち‘うつ’は47例(35%),‘アパシー’は88例(65%)に認められた.疾患別の‘うつ’の有症率はAD 33%,VaD 39%,DLB42%,FTLD 23% で,‘アパシー’の有症率は,AD 67%,VaD 67%,DLB 50%,FTLD 85%であった.‘うつ’の下位項目の検討では,DLBでは悲哀感を訴える「悲しかったり元気がない言動がある」が他の疾患よりも頻度が高く,FTLDでは「自己を卑下する発言」の頻度が高いという特徴が見られた.‘アパシー’では,すべての疾患に共通して「自発性,活発さの低下」「家事への貢献の低下」「今までの興味の減退」の頻度が高いパターンが認められた.
【考察】DLB で‘うつ’が多く,FTLD では‘うつ’は少ないが‘アパシー’が高率に認められるという今回の結果は,既存の報告と一致していた.FTLD では過去の報告よりもうつの頻度が高かったが,これは意味性認知症患者に特徴的な「頭がおかしくなった」「バカになった」などの訴え が,自己を卑下する発言と捉えられていることによるものと考えられた. 
 
II-3-2  9 : 12〜9 : 24
地域高齢者の認知機能とアパシー,抑うつの関係
古田伸夫,吉田亮一(浴風会病院),須貝佑一(浴風会病院,認知症介護研究・研修東京センター)
【目的】地域高齢者の認知機能とアパシー,抑うつの関係について検討する.
【方法】当センターでは“頭の検診”を施行している.浴風会病院にて高齢者検診を受診したうち希望者を対象に生活習慣調査,頭部CT,認知機能検査を施行し,認知機能低下の発症リスクを探るべくコホート研究として7年継続している.その研究においてアパシー(Apathy scale),抑うつ(GDS)についても調査を行い,MMSE との関係を検討する.
【結果】“頭の検診”受診者のうちMMSE・Apathyscale・GDS において回答が得られたものは246名で男性91名,女性155名であり,平均年齢は79.5±5.0歳であった.MMSE の平均得点は28.3±2.6 点,Apathy scale の平均は12.4±6.6 点,GDS の平均は4.7±2.9 点であった.これらの調査項目に男女差は認めなかった.MMSE との関連では年齢とApathy scale が有意に相関していたが,GDS とMMSE の間には相関を認めなかった.
【考察】地域高齢者の調査においてMMSE 得点と年齢・アパシーが関連していた.本年で3年目の調査となるが例年同様の結果である.認知機能低下とアパシーとの関連については他の報告にもあり,今回の結果からアパシーがMCI・認知症の初期症状である可能性が示唆された.3年の調査項目の推移についても解析を行い,認知機能の推移との関連についても検討する.
【倫理的配慮】“頭の検診”を受診するにあたり,研究の内容を文書にて説明し同意を得ている. 
 
II-3-3  9 : 24〜9 : 36
体力低下は大うつ病性障害ではなく小うつ病性障害の関連要因である;地域高齢者における疫学的検討
井原一成(東邦大学医学部公衆衛生学分野),吉田英世(東京都老人総合研究所),飯田浩毅(NTT東日本伊豆病院),石島英樹(武蔵台病院),鈴木隆雄(国立長寿医療センター研究所)
【目的】地域高齢者の疫学的調査を行い,小うつ病性障害と体力との関連を明らかにする.
【方法】東京都板橋区で行われた高齢者を対象とする健康診査(お達者健診)の2007年と2008年の参加者2,942 人が本研究の対象である.健診会場において,訓練を受けた調査員がうつ尺度による測定を行い,尺度陽性者に精神科医による精密検診受診を勧奨した.用いたうつ尺度は,2007年がMini International NeuropsychiatricInterview の大うつ病性障害のモジュールの最初の2 項目(抑うつ気分,興味・関心の低下)であり,2008年には上記に介護予防の基本チェックリストのうつの5 項目が加えられた.精神科医による精密検診では,Structured ClinicalInterview Schedule for DSM-のモジュールAとJ が用いられた.体力は,握力,通常歩行速度,最大歩行速度及び,開眼片足立ち時間からなり,お達者健診時に測定された.本研究は,東京都老人総合研究所の倫理委員会の承認を得て行われた.オッズ比の分析には,多重ロジスティック回帰分析を用いた.
【結果】精神科医による診断面接により,大うつ病性障害と小うつ病性障害の者がそれぞれ15人(0.5%)と44 人(1.5%)同定された.この他に,20 人(0.7%)の気分変調性障害の者が認められたが以後の分析からは除外した.非うつ,小うつ病性障害,大うつ病性障害の各測定値は,握力が20.2±6.1,17.0±4.3,21.1±7.6 で,通常歩行速度が1.2±0.3,1.1±0.2,1.2±0.2,最大歩行速度が1.8±0.4,1.6±0.4,1.7±0.3,開眼片足立ち時間が29.7±23.2,28.9±24.3,40.6±22.1 であった.各体力測定値の小うつ病性障害に対する性と年齢をコントロールした場合のオッズ比(95%C.I.)は,非うつ群のオッズ比を1.0 とした場合,握力が1.1(1.0−1.2),通常歩行速度が6.6(2.2−19.8),4.4(1.9−10.1),開眼片足立ち時間が1.0(1.0−1.0)で,開眼片足立ち時間を除き,いずれも統計学的に有意であった(それぞれp=0.002,p=0.0007,p=0.0004,p=0.4752).大うつ病性障害に対する対応するオッズ比(95%C.I.)は,それぞれ1.0(0.9−1.1),1.7(0.2−12.6),2.3(0.5−9.9),1.0(1.0−1.0)で,いずれも統計学的に有意ではなかった.
【考察】高齢者における小うつ病性障害は,体力低下という関連要因を持っていた.これらは,大うつ病性障害の関連要因ではなかった.本研究は断面調査であるので,因果関係に言及できないが,小うつ病性障害は大うつ病性障害とは異なり,体力低下という危険因子をもっていることが示唆さ れた.高齢者における小うつ病性障害は,大うつ病性障害の単純な軽症型ではない可能性がある. 
 
II-3-4  9 : 36〜9 : 48
双極II型障害による高齢発症うつ病を予測する因子;気質に関する予備的検討
武島稔,倉田孝一(石川県立高松病院)
【目的】若年気分障害の分野では,双極II型障害を代表とするsoft bipolarity に由来するうつ病の頻度が従来考えられてきたよりもはるかに高いことが知られつつあり,大きな議論となっている.高齢者うつ病においてはこの種の研究は少ないが,我々は,60歳以上の高齢者うつ病の約30% が双極II型障害に由来し,(1)抑うつ性混合状態と(2)初発うつ病エピソードが若い時期にあることが高齢者双極性うつ病を予測する有意な予測因子であることを既に報告している.しかし,60歳以上で初発したうつ病エピソードでは(2)は予測因子とはならない.今回我々は,発病前の気質が双極性うつ病を予測する因子とならないかと考え,予備的な検討を行った.
【方法】対象は2000年から2008年の9年間に大うつ病エピソード(DSM-)にて当院精神科救急病棟に入院ないし,筆頭演者が外来にて診療した60歳以上の症例で,かつ60歳以前に明らかな大うつ病エピソードや精神科受診歴のない例.診療録をレヴューし,発病前の気質を診療録の性格欄の記載をもとにAkiskal らの提唱する cyclothymic temperament, hyperthymic temperament,その他に分類し,最終診断との関連を検討した.
【倫理的配慮】本研究は,日常診療で得られた情報をもとにした後方視的なもので,治療的介入を伴わないため,同意の取得は不要である旨当院倫理委員会にて承諾を得た.
【結果】対象は65 症例で,男性23例,女性42例.年齢中央値は71歳(60−88歳),発病年齢中央値は67歳(60−85歳).最終診断は双極II型障害15例(23.1%),大うつ病性障害50例(76.9%)であった.このうち,性格欄に記載がなかった16例(双極型障害2例,大うつ病性障害14例)を除外し,49例について検討した.双極II型障害13例中8例(61.5%)がcyclothymicないしhyperthymic temperament に該当したのに対して,大うつ病性障害では,6例(16.7%)が該当したにすぎず,Fischer の直接確立法において両側検定においてp=0.0041 と高い有意差を両者間に認めた.
【考察】Akiskal らは,双極性障害の病前気質としてhyperthymic およびcyclothymic temperamentを挙げている.今回の予備的研究において,これらの気が高齢者うつ病においても双極II型障害を予測する有用な因子であることが示唆された.最近,認知症高齢者のBPSD の本態についても病前気質やsoft bipolarity との関連が論じられている.今後,より客観的な気質評価尺度を使用した前向き研究によって,これらの所見を確認していく予定である. 
 
II-3-5  9 : 48〜10 : 00
当院に入院した老年期の自殺未遂症例について
宮軒 将,森 美佳,木村勲生(医療法人実風会新生病院),前田 潔(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)
【目的】わが国の年間の自殺者数は2009年度の警察庁の発表によると全国で3 万2573 人と報告され,12年連続で3 万人を超える状態が続いており,深刻な社会問題である.年代別では30歳代,50歳代が多いが60歳以上も増加している.自殺者既遂3 万人の背後にはその10 倍といわれる自殺未遂者がおり,これらの患者の多くがうつ病をはじめ精神疾患に罹患している.今回我々の施設に入院した60歳以上の症例について検討した.
【方法】平成17年2月から平成22年2月までの6年間に当院に入院した60歳以上の患者のうち自殺未遂をした患者について調査した.
【倫理的配慮】調査にあたっては,対象症例の匿名性が保持されるように十分に配慮した.
【結果】対象は20例,平均年齢74歳であった.疾患別にみると気分障害圏は10名,統合失調症圏が8名,認知症1名,アルコール,器質性精 神障害1名であった.また自殺企図の手段を見ると刃物による自傷が9名,大量服薬が4名,転落外傷が3名,縊頚2名,インスリン自己注射による低血糖,入水自殺未遂がそれぞれ1名であった.多くが救急救命センターに入院が要する身体的に重篤な症例であった.
【考察】我々が経験した老年期の自殺未遂症例はうつ病をはじめとした気分障害圏が多く,なかでも罪業,貧困妄想に加え,心気的な訴えが強いことなど自殺衝動が高まる要素が多い症例が目立った.これらの症例なかには認知機能の低下が思考障害や情緒障害を一層の悪化をもたらし,衝動的な希死念慮から自殺未遂に至ったと推測される症例が散見された.また治療においては不穏,興奮,幻覚妄想などを呈する症例も多く抗精神病薬を使用せざるを得ないが高齢者では誤嚥性肺炎,転倒,骨折などの重篤な副作用の発生を考慮した薬物療法と症例によっては早期よりECT を選択すべきであると思われた. 
   
 
高齢者の幻覚妄想関連
座長:西川 隆(大阪府立大学)
II-3-6  10 : 00〜10 : 12
クエチアピンが有効であった寄生虫妄想の2例
紋川友美,紋川明和,清水 聰,渡辺健一郎,窪田 孝(金沢医科大学精神神経科学教室)
寄生虫妄想は体内に寄生虫がいるという妄想であり,高齢者に多いとされる.従来は定型抗精神病薬で加療されていたが,近年では非定型抗精神病薬の有効性が報告されている.今回,われわれも寄生虫妄想にクエチアピンが有効であった症例を2例経験したので報告する.
【症例1】83歳,女性.(既往歴)67歳で両側鼠頸ヘルニアの手術を受けたが,数年前より再発. 現病歴:81歳で夫と死別し,息子と二人暮らし.82歳時に「爪から菌が出ている」と訴えるようになった.訴えは徐々に「腸内に虫がいる」「家中に菌や虫のようなものが見える」と拡大し,83歳時に自殺念慮を認めるようになったため,当科を受診した.入院時所見:寄生虫の存在は腸内に限定されていた.黒いものが虫に見えるなどの錯覚に加え,妄想による二次的な抑うつ症状を認めた.身体的には低栄養状態であった.検査所見:頭部MRI では全般性の脳萎縮と脳室周囲の血管性変化を認めた.FIQ 97.入院経過:低栄養状態の改善の後,クエチアピンを25 mg/日から投与し,1 週間ごとに25 mg/日の増量とした.クエチアピン150 mg/日でほとんど症状を訴えなくなったが,食欲の亢進と手指の振戦が出現したため,クエチアピンを100 mg/日に減量し,ペロスピロン16 mg/日を追加した.しかし,臥床傾向が強くなり,クエチアピン100 mg/日のみで維持することにした.入院後5ヶ月でリハビリのため,転院となった.この時点で症状は消失していた.
【症例2】65歳,女性.既往歴:50歳,狭心症.52歳,子宮筋腫.現病歴:26歳時に幻聴・関係被害妄想が出現し,統合失調症と診断された.他院精神科に通院し投薬を受けていたが,内服は不規則であった.その間,主婦としての能力は保たれていた.65歳になってめまいを訴え,他院精神科に通院していたが,5ヶ月ほどして「外陰部や腋の皮膚の下に虫がいる」と言うようになり,当院に紹介された.入院時所見:皮膚寄生虫妄想に加え,幻聴や関係被害妄想を認めた.検査所見:頭部CT では全般性の軽度の脳萎縮を認めた.SPECT では両側前頭葉の血流低下を認めた.FIQ 98.入院経過:クエチアピンを50 mg/日から投与し,1−2 週間ごとに25 ないし50 mg/日の増量とした.クエチアピン250 mg/日で皮膚寄生虫妄想は軽減したが,幻聴・関係被害妄想は持続していた.眠気などのため内服を拒否する可能性があったので,クエチアピンを徐々にペロスピロンに変更したが48 mg/日になっても,幻聴・関係被害妄想は持続した.このためペロスピロンを40 mg/日にしてリスペリドン3 mg/日を追加したところ,幻聴・関係被害妄想も軽減し,入院後5ヶ月で退院となった.
【考察】症例1 では寄生虫妄想は腸内に限定され,症例2 では統合失調症の経過中に皮膚寄生虫妄想が出現している点で非典型的である.しかし,腸内寄生虫妄想の症候学的意味づけは皮膚寄生虫妄想と変わらないとされ,症例2 の訴えは比較的典型的な皮膚寄生虫妄想であった.症例1 ではクエチアピンが有効であった.症例2 でもクエチアピンが有効であったが,眠気などのため他剤への変更を要した.
【倫理的配慮】報告に際しては,本人・家族の了解を得た. 
 
II-3-7  10 : 12〜10 : 24
高齢者の幻覚妄想状態に対する治療検討;アリピプラゾールの治療経験をふまえて
鈴木美穂,入谷修司,尾崎紀夫(名古屋大学附属病院精神科)
【目的】高齢期における幻覚妄想については,従来からその病因病態,疾病概念,治療戦略など多くの議論がなされているが,治療戦略的には十分に検討されていない.その一つの要因として,高齢者は,加齢による身体疾患の増加,喪失体験による生活環境変化など様々な影響を受けており,個別性が高いことが考えられる.今回,当院で2年間に経験した高齢期初発の幻覚妄想状態の12症例を基に,高齢期の病態の特徴,治療経過につき診療録から後方視的に調査し,若干の文献的考察をふまえ報告する.
【方法】平成20年から21年までに当院精神科を受診,治療を行った高齢期に幻覚妄想状態を呈した12 症例について比較検討をした.
【結果】対象:症例は12例,男性1例,女性11例,当院受診時の平均年齢は69.5歳(58〜78歳),症状発現時の年齢は60歳(42〜77歳)であった.症状:幻覚・妄想出現以前に抑うつを呈したものは3/12例,その他は幻覚・妄想で精神症状を発症していた.幻覚については,幻聴6/12例,体感幻覚2/12例,幻臭3/12例,幻視1/12例であった.妄想については,近隣からの被害妄想3/12例,盗害妄想2/12例,恋愛妄想1/12例,被毒妄想1/12例,幻覚と妄想の両者を呈したものは3/12例であった.検査:頭部MRI 検査は10/12例で施行され,ほとんどの症例で軽度萎縮やラクナ梗塞が認められた.SPECT 検査は10/12例で施行し,6 割の症例で若干の血流低下を認めた.心筋シンチは3例で施行し,いずれも異常は認めなかった.MMSE 検査は9/12例で施行,20 点以下は1/9例,21〜25 点は3/9例,26〜30 点5/9例と明らかな認知機能低下は1/9例のみであった.薬物療法:薬物療法は10/12例で施行,Aripiprazole(以下ARP),Risperidone(以下RIS)を使用した.ARP は8/10例で使用,低容量ARP(12 mg 以下)5/8例,高容量ARP(12〜30 mg)3/8例,うちARP 無効中止は3/8例であった.RIS 使用3/10例,うちRIS 中断2/3例,持続性デポ剤使用1/3例であった.副作用はARPによるアカシジア1/12例のみであり,減量により副作用は軽快した.生活環境:独居2/12例,家族との同居10/12例と独居例は少なかった.経過:薬物療法を施行し症状が軽快したものは8/10例,口臭妄想1例,恋愛妄想1例は薬物療法に無効だった.
【考察】今回経験した12 症例では従来言われているように1)女性に多く,2)社会機能は保たれ,3)人格も保持され,4)何らかの脳器質病変を有していたが,脳画像で何らかの器質因が示唆されるものの,5)粗大な認知機能低下は認めず,6)難聴はなく,7)独居老人は少なかった.治療的にはAPR が幻覚妄想に対し高率に有効で,その背景としては副作用の少なさが良好なコンプライアンスを維持したと考えられた. 
 
II-3-8  10 : 24〜10 : 36
幻聴による拒食・拒薬症状にECTおよび持続性デポ剤が有効であった高齢者の一症例;高齢者の幻覚妄想に対する治療的アプローチ
長沼成子,入谷修司,尾崎紀夫(名古屋大学医学部付属病院精神科)
【はじめに】高齢期にみられる幻覚妄想は,若年者の統合失調症などにおけるそれと違い,内容が現実的で具体的であることが多く,背景に加齢の問題が潜んでいる可能性が指摘されている.また,一般的に薬物治療抵抗性であり,統合失調症に準じた治療が行われるが,十分な治療戦略は確立されておらず,老年期精神障害の心理的背景の特徴,高齢者の身体的特性を十分考慮する必要がある.今回我々は,幻聴に操作された拒食拒薬を認め,薬物治療に抵抗性で,修正型電気痙攣療法(以下mECT)および持続性デポ剤(risperidone longactinginjectable;以下RLAI)を導入し,在宅療養可能となった症例を経験したので報告する.
【症例】68歳女性.
【生活歴・家族歴】特記すべき既往歴なし.精神科受診歴なし.24歳時結婚,挙児三人.十数年来,夫と2 人暮らし.
【現病歴】X−5年6月頃より抑うつ,食欲不振が出現.X−4年7月に近医メンタルクリニックで抗うつ薬を処方されしばらく通院する.(詳細不明).X年3月に長男夫婦が離婚し本人は悩んでいたという.同年6月より,主に家族の幻声が聞こえるようになる.幻聴に操られて遠方まで徘徊し警察に保護されたり,「死なないといけない」と言って包丁を持ち出したりするため,X年8月に当院第1 回目の入院となる.入院時,頭部MRI では特記すべき所見はなく,認知症を疑わせる生活歴や短期の記名力障害を認めなかった.クエチアピン300 mg/日の投与で幻聴は軽減し,入院3 週目で自宅退院となる.退院後,服薬遵守にもかかわらずX年10月頃に幻聴に操られ拒食拒薬が出現し,夫も疲弊してきたため,X年11月,再入院となる.入院後も被毒妄想による拒食拒薬は持続し,水分も眼前で容器を開封したものしか摂取しなかった.入院時クエチアピン300mg/日,ロラゼパム1 mg/日で治療開始するも拒食拒薬がつづき,種々の非定形抗精神病薬に変更したが安定した服薬状況が確立できず,脱水症状も出現したため入院第24日目より隔日でmECTを計6 回施行した.施行後,表情が柔和になり,食事や薬剤を,薦めで抵抗なく摂取可能となる.しかし,幻聴は残存し,まれに拒薬症状があり,自らの病的体験については病識病感がなく服薬の必要性も十分理解できない状態であった.介護に疲弊し在宅介護に強い不安を示す夫と相談し,在宅にあたりRLAI を導入し,入院第42日目に自宅退院となる.
【結語】mECT は有痙攣のものと比べて健忘や骨折などの副作用が少なく,高齢者でも安全に施行できるとされている.本症例では,拒食による脱水症状など早急に改善が必要であったため,mECT を導入し,拒食症状が著明改善した.また,拒薬症状に対しては,高齢者で体重30 kg 程度と小柄であったためRLAI を通常推奨用量の半量で,2 週間隔で維持使用し,現在外来follow up中である.高齢者に対するRLAI 使用の報告は少なく,今後副作用等の出現に注意を要すると考える.今回拒食拒薬を認めた症例で,mECT およびデポ剤が高齢者の幻覚妄想,とくに治療拒否的な病態に対し有効に適用できることが示唆された.今回の発表に関して,本人および家族の同意を得なおかつ,個人を同定できないよう配慮した. 
 
II-3-9  10 : 36〜10 : 48
H2 ブロッカーlafutidine による術後せん妄
上田 諭,肥田道彦,舘野 周,大久保善朗(日本医科大学精神医学教室)
【はじめに】せん妄の原因としてヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2 ブロッカー)はよく知られている.しかし身体科では注意を払われにくく,コンサルテーションリエゾン活動(以下,リエゾン)で高齢者を中心に遭遇することが多い.比較的新しいH2ブロッカーlafutidine(プロテカジン(R))は,調べ得た限りいまだせん妄の報告がないが,その関与が強く疑われた術後せん妄の3 症例を提示し,症状の特徴についても考察した.
【倫理的配慮】症例呈示にあたっては個人情報保護の点から,匿名性に配慮した.また学会発表につき,いずれも本人から同意を得た.
【症例】3 症例とも精神科既往および精神科的遺伝負因はなく,術前は生活がほぼ自立し,認知の問題は認められていなかった.1.61歳女性.S状結腸癌のため腹腔鏡下切除術を施行.当日夜は問題なく経過したが,2日目夜から「殺される」「毒を入れられている」と被害妄想から興奮し,看護師を突き飛ばすなど暴力的になった.鎮静にflunitrazepam 8 mg のちmidazolam 10 mg の点滴静注を要した.2日後にも興奮,haloperidol 5mg のちflunitrazepam 4 mg の点滴静注でも眠れず,日中も見当識障害があり,術後4日目にリエゾン介入.2日目夕よりlafutidine 10 mg が投与されており,中止としquetiapine 100 mg を投与したところ,睡眠は良好となった.Quetiapine は漸減,中止が可能であった.2.72歳女性.肝細胞癌のため肝切除術施行後,2日目夜に不眠となり,3日目の午後から4日目日中も多動と見当識障害が顕著で,夜には「帰らなきゃいけない」「何を企んでいる」とCV ラインを噛み切ろうとした.Haloperidol 5 mg 点滴静注は無効であった.リエゾンが介入し,2日目から開始されていたlafutidine 20 mg を中止,quetiapine 75 mg 投与としたところ,5日目から良好な睡眠となり日中の多動や認知低下も消失し,50 mg に減量した.3.80歳男性.肝細胞癌のため肝切除術施行後,3日目までは問題なく,夜間も点滴やドレーンを気遣いながら行動できていたが,4日目夜,ドレーンを切断し見当識も混乱した.5日目日中もいらついた様子で夜には興奮がみられた.6日目にリエゾン介入.4日目夕から開始されたlafutidine 中止とquetiapine 25mg 投与で夜間,日中とも穏やかとなった.Quetiapine は漸減,中止した.
【考察】いずれも術前に認知に問題はなく,術後1〜3日は問題なく経過し順調に回復していたところで,lafutidine 投与日から急性に見当識障害,被害妄想に伴う行動異常,興奮をきたした.中止により速やかに精神症状は消失している.特徴として,夜間だけでなく日中にも情動と認知の問題がみられたこと,夜間の状態に完全な健忘を残さずかなりの記憶が残っていたことが挙げられ,通常のせん妄と異なる点である.H2 ブロッカーによる高齢者のせん妄は,いまだ報告のないlafutidine についても十分な注意が必要であると思われる. 
 
II-3-10  10 : 48〜11 : 00
若年性アルツハイマー型認知症との鑑別を必要とした統合失調症の一例
松山賢一,山本泰司,福田朋子,笹田 徹,前田 潔(神戸大学医学部精神科神経科)
認知機能低下が目立ち,当初は若年性アルツハイマー型認知症を疑ったが,精査の結果統合失調症と診断した一例を経験したので報告する.
【症例】49歳男性.同胞2 人中第1子.
【現病歴】小さい頃から偏屈な性格であった.大学を卒業後30歳頃までは繊維会社等で働いていた.その後,父親のジーンズショップを手伝っていたがX−10年(39歳)に閉店し,以後定職には就いていない.同年,脱水症で路上に倒れているところを発見され,救急病院に搬送された.回復後,精神科のM 病院を紹介受診し,統合失調症を疑われ入院治療が開始された.無気力状態であったが,病的体験は認めなかった.問題行動も認めず,外来治療に移行し,X−8年終診となった.X−3年(44歳)頃より自傷行為を繰り返すようになり,自傷行為をやめたいとX−2年4月,当科を受診し,以後中断もあったが定期通院した.無気力状態で,1 人で自閉的生活をおくり,近くに住む母親が食事等の世話をしていた.脳波は異常を認めなかった.MMSE は27 点であったが,論理記憶力は著明な低下を認めた.頭部MRI で海馬の萎縮を認め,脳血流SPECT で前頭葉下部・内側,側頭葉前部・内側の血流低下を認めたため,若年性アルツハイマー型認知症を疑った. 同年10月に母親が肺癌で入院したため世話をする人がいないため,X年1月末までM 病院に再入院となった.この間,母親が脳出血を発症し老人ホームに入居したため,退院後も世話をする人がいなかった.金銭管理はいとこが行っており,キャッシュカードを本人に渡していたが自ら使うことはなかった.同年4月末,自宅にて脱水状態で発見され,当院に救急搬送された.
【入院後経過】脱水から回復した後も感情の起伏が乏しく,無気力・無関心な状態が続いた.歩行障害や尿失禁を認め,頭部MRI では側脳室の拡大が目立ったため正常圧水頭症(iNPH)を疑った.しかし,その後の精査の結果,髄液タップテストは陰性であり臨床症状からもiNPH は否定的であった.MMSE は18 点であり1年前に比べ認知機能低下の進行を認めた.記憶力障害を主とする認知機能低下と著名な海馬の萎縮から若年性アルツハイマー型認知症の可能性は否定できなかった.しかし,その他の臨床症状(若年時からの病歴や陰性症状が目立つ点)は統合失調症の可能性を示唆した.髄液中のリン酸化タウとアミロイドβ42 を測定したところ,前者の若干高値であること以外は正常範囲内であり,アルツハイマー型認知症は否定的であった.以上の経過から最終的に統合失調症と診断し,約5ヶ月の当科入院精査の後,抗精神病薬による治療を行うため他院に転院となった.
【考察】本症例は当科受診時の多彩な臨床症状から診断に苦慮した.しかし,病歴・臨床症状などの診療情報および神経心理検査,頭部画像検査,さらに髄液検査など種々の検査を用いることにより,正しい鑑別診断を行うことが重要であると考えた.なお,個人情報保護の目的で,患者情報の一部を発表に影響のない範囲で変更した. 
   
 
認知症の危険因子
座長:目黒謙一(東北大学)
II-3-11  11 : 00〜11 : 12
アルツハイマー病患者におけるVARAD を用いた海馬萎縮への危険因子の検討;Z スコアへ影響する因子の検討
永田智行,青木亮,頴原禎人,忽滑谷和孝,笠原洋勇(東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科),品川俊一郎,中山和彦(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
【背景】Voxel-Based Specific RegionalAnalysisSystem for Alzheimer’s Disease(VSRAD)は,海馬傍回,嗅内野皮質を中心とする両側内側側頭部の萎縮度を,正常群との比較から測定されたZスコアとして示すソフトウェアシステムである.健常者を含め,海馬萎縮の原因の危険因子として,女性であることやインスリン抵抗性や2 型糖尿病,内臓脂肪の蓄積などの報告が散見される .
【目的】今回,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease ; AD)におけるZ スコアに有意に影響しうる危険因子を,外来受診連続例から検討した.
【方法】2006年4月1日から2010年3月31日までの4年間に東京慈恵会医科大学附属病院および附属柏病院を受診した患者の中で,AD と診断されたのち初診時頭部MRI を施行した59−86歳のAD 120 人(年齢:76.3±5.9,MMSEスコア:22.5±5.1,CDR:0.5/1/2=51/59/10)を対象とした.なおAD の診断にはNINCDS/ADRDA を用いた.頭部MRI の撮影画像をVSRAD ソフトウェア上で解析し,両側海馬傍回の委縮度をZ スコアとして算出した.これらのZスコアを従属変数とし,年齢(年数),性別(男・女),罹患期間(月数),教育年数と生活習慣病(高血圧,高脂血症,心房細動,糖尿病,虚血性心疾患)の有無を独立変数とし,重回帰分析を行い有意にZ スコアに影響する因子を調べた.
【結果】各独立変数の中で,年齢(P<0.001,R2=0.211,t=4.228)が有意にZ スコアとの関連性が示された.また,そのた生活習慣病の有無との有意な関連性は示されなかった.
【結語】本研究において,高齢発症のAD 患者が若年発症に比べ,海馬を含む両側側頭葉内側部の萎縮に影響を受けやすいことが示唆された.同時に,先行研究で報告されていた,性別や糖尿病の有無による有意な海馬萎縮への影響は認められなかった.
【倫理的配慮・利益相反】本研究は当大学倫理委員会の審査を受け,承認得た後に施行されている.個人情報が特定されうる患者の個人情報は扱っていない.また,本研究はいかなる企業・団体との研究費の授受ななく,利益相反は生じない. 
 
II-3-12  11 : 12〜11 : 24
晩発性アルツハイマー型認知症における脳血管性障害と動脈硬化・生活習慣の関連
新井久稔(相模台病院精神神経科),高橋恵,中島啓介,大石智,浦久保安輝子,宮岡等(北里大学医学部精神科学),江村大(常盤病院),
【目的】アルツハイマー型認知症に大脳の虚血性病変が合併すると認知機能がさらに悪くなることが知られている.今回,脈波検査により動脈硬化度を調査し,晩発性アルツハイマー型認知症の脳血管障害の程度との関連や血管障害の危険因子,生活習慣や食習慣との関連を調査した.
【方法】対象は北里大学東病院精神神経科認知症鑑別外来(以下鑑別外来)を,2004年4月から2009年7月までに受診し,研究協力の得られた65歳以上の晩発性アルツハイマー型認知症との臨床診断がなされた95例.動脈硬化度は脈派検査におけるPulse Wave Velosity(PWV;脈波伝搬速度)を指標とした.脳血管障害のあり群(55例)となし群(40例)でPWV,年齢,性別,MMSE,Body Mass Index(BMI),血管性障害関連合併症(高血圧,糖尿病,脂質異常,虚血性疾患,不整脈等)数,生活習慣(飲酒・喫煙・運動・睡眠)や食習慣(食生活,魚・果物・野菜の摂取頻度)をt 検定により比較した.次に動脈硬化度と年齢,BMI,血圧,血管性障害関連合併症数,生活習慣や食習慣との相関を調べた.本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】脳血管障害がある群となし群において,年齢,MMSE,平均bapwp(Brachial-Ankle PulseWave Pressure),食事習慣の規則性,運動において有意差を認めた.また,平均bapwp は年齢,収縮期血圧,拡張期血圧,高血圧と強い正の相関を示した(bapwp と血圧の相関).平均ABI(Ankle-Brachial Pressure Index)は,性別により差があり,収縮期血圧,BMI,運動と弱い負の相関を認めた(ABI の増加と収縮期血圧の低下の相関,BMI の増加とABI の低下の相関,運動不足とABI 低下の相関を認めた).BMI は,収縮期血圧,高血圧,高脂血症,血管障害関連合併症数と強い正の相関を認めた.食生活においては,果物の摂取頻度と糖尿病,野菜の接取頻度と性別との間に関連が認められ,魚の摂取頻度がMMSE と弱い負の相関を示した.喫煙は高脂血症と強い相関を示した.運動頻度は脳血管障害と弱い負の相関を示した(運動不足と脳血管障害の増加との相関).睡眠は脳血管障害と高脂血症と弱い正の相関を示した(睡眠障害と脳血管障害・高脂血症の増加との相関).
【考察】今回の調査により,脳血管障害は,動脈硬化や食事習慣,喫煙や運動などの生活習慣との 関係が示唆された.動脈硬化度は血圧との関係が示唆され,またBMI などの評価も高血圧や高脂血症などの相関を認めた.晩発性アルツハイマー型認知症において脳血管障害リスク群に注意していくことは,予防や治療においても重要である.動脈硬化度の測定は,脈派検査によって非侵襲的に比較的簡易な方法で行え,医療費も安く抑えることができる.高血圧症の合併はアルツハイマー型認知症でも多かったが,血管性因子に対しての予防や治療的介入は可能なことから,客観的評価として動脈硬化度を臨床応用に活用する事は,認知機能の早期発見の簡易指標として有効な手段ともいえる. 
 
II-3-13  11 : 24〜11 : 36
アパシーの予測因子としての動脈硬化指標
菅原典夫,佐藤靖(弘前愛成会病院精神科),古郡規雄,金田絢子,兼子直(弘前大学大学院神経精神医学講座),梅田孝,高橋一平,松坂方士,壇上和真,中路重之(弘前大学大学院社会医学講座)
【目的】アパシーは感情,情動,興味,関心および行動に対する動機づけの欠如を特徴とし,脳血管障害後にしばしば認められる徴候の一つある.これまで動脈硬化性疾患とアパシーに関する報告は散見されるが,その全てが疾病罹患後の報告であり,機能障害による続発的な抑うつ状態の影響を受けているものである.アパシーと動脈硬化度の関係を検討するためには,機能障害による抑うつ状態の影響を受けない一般健康住民における調査が必要である.本研究では,アパシーの予測因子としての動脈硬化指標を一般健康住民において検討する.
【方法】対象者として,岩木健康増進プロジェクト2008 に参加した一般健康住民860名(男性315名,女性545名)を用いた.form PWV/ABI(COLIN)により収縮期血圧,Ankle brachialpressure index(ABI)を測定した.アパシーの評価にはStarkstein’s apathy scale(AS),抑うつ状態の評価にはCenter for EpidemiologicStudies Depression(CES-D)scale を共に日本版で使用した.自記式アンケートにて(年齢,性別,教育年数,アルコール摂取,喫煙歴)を,身長,体重の測定,採血による生化学データ(LDL-cholesterol,Triglyceride,HbA1c)も併せ実施した.参加者をAS 15 点以下(正常群)と16 点以上(アパシー群)との2 群に分けて,連続量変数は対応のないt 検定,二値変数は階二乗検定で群間の比較を行った.また,ABI とCES-D またはASの関係については,年齢,性別,教育年数,喫煙・飲酒習慣,BMI,LDL-cholesterol,triglyceride,HbA 1 c,収縮期血圧を共変数として重回帰分析を実施した.なお,有意水準はp<0.05 に設定し た.
【倫理的配慮】本研究の実施に先立ち,弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の承認を得た.
【結果】性別(β=−0.131,P<0.05)およびLDL-cholesterol(β=−0.077,P<0.05)とCES-Dとの間に関連性を認めたが,ABI とCES-D には同様の傾向はみられなかった.一方,教育年数(β=−0.108,P<0.05)とABI(β=−0.071,P<0.05)はともにAS と関連性を認めた.
【考察】一般健康住民において,動脈硬化指標であるABI の低値は,AS の高値と関連を認めたが,CES-D ではそうした関連はみられず,アパシーと抑うつで病因が異なる可能性が示唆された. 
 
II-3-14  11 : 36〜11 : 48
双極性障害の病歴を有しその後アルツハイマー型認知症を発症した3症例;双極性障害はアルツハイマー型認知症の危険因子か
長谷川典子,山本泰司(神戸大学大学院医学研究科精神医学分野),嶋田兼一,石井智久,小田陽彦(兵庫県立姫路循環器病センター),前田潔(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)
気分障害は認知症発症の危険因子として認識されつつある.今回,双極性障害の病歴を有するアルツハイマー型認知症(DAT)と考えられた3 症例を経験したので報告する.
【症例1】76歳女性.長男出産後に「躁うつ病」で入院加療歴あり.X−9年他院で「うつ病」の診断のもとparoxetine 30 mg 投与開始されたが,最近では軽躁とうつエピソードが約3 カ月おきに繰り返されていた.X−2年もの忘れを訴えて当科を初診,MMSE 25/30 であった.徐々にもの忘れが進行し,料理や洋服の整理ができなくなり,X年入院精査となった.MMSE 24/30,ADAS11.0,頭部MRI 上は海馬の萎縮は軽度であったが,IMP-SPECT 上,前頭葉から両側側頭頭頂連合野の血流低下が認められた.
【症例2】70歳女性.家族歴に,祖母がDAT,弟がうつ病で自殺.20 代から,自営業で働きすぎる時期もあれば3 カ月間ほど寝込むこともあった.6年前(64歳時)に「田舎で定食屋をしたい」と,突然単身で開業するも2年で破綻し,以後一日中臥床しがちで過ごしていた.家族は精神科受診を勧めていたが,本人の拒否で受診とならず,X年夫が脳梗塞で入院したことをきっかけに,うつ状態ともの忘れで当科初診となった.検査入院時には「私はなんでもできる」と易怒性高く,軽躁状態となっていた.MMSE 22/30,ADAS11.7,頭部MRI では海馬の萎縮は軽度であったが,IMP-SPECT 上,前頭連合野,両側側頭頭頂連合野,後部帯状回の血流低下が認められた.
【症例3】80歳女性,18歳で結婚し主婦.20 代から,不安と気分の変調が強く,家事に大変熱心な時期と,寝込みがちな時期が交互に認められていた.13年前(67歳時)夫が死去してからうつ状態となり,抗うつ薬が投与されたが,焦燥と動悸を訴え,頻回に救急搬送されたが身体的には異常所見はなかった.X−1年うつ状態ともの忘れで当科紹介受診,MMSE 23/30,ADAS 7.3,画像所見上は異常所見なく,軽度認知機能障害として経過観察,気分安定薬を導入し抗うつ薬を漸減中止すると焦燥は消失した.しかし,認知機能は徐々に低下し,X年頭部MRI にて海馬が軽度萎縮,IMP-SPECT 上,両側側頭頭頂連合野・後部帯状回の血流低下が認められた.いずれの症例もsodium valproate で気分は安定したが,認知機能の改善は認められず,donepezil を導入した.
【考察】症例1 および3 はうつ病として治療を受けていたが,症例2 を含めこれら3 症例とも詳細に病歴を聴取すると軽躁病エピソードが認められた.近年,うつ病がDAT の危険因子と考えられているが,双極性障害もDAT の危険因子の一つである可能性が示唆される.当日は,経過と文献的考察を加えて,症例の匿名性に十分配慮して報告する.