第25回日本老年精神医学会

 
大会長
池田 学(熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野)
会 場
KKRホテル熊本  〒860-0001 熊本市千葉城町3−31
Tel:096-355-0121 Fax:096-355-7955 
URL:http://www.kkr-hotel-kumamoto.com/
大会概要
タイムテーブル
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プログラム
6月24日(木) 第3会場
 
疫学(1)
座長:宮永和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院)
I-3-1  9 : 00〜9 : 12
介護施設入所中の高齢統合失調症患者に関する検討
城甲泰亮(信州大学医学部精神医学講座,医療法人蜻蛉会南信病院),荻原朋美,萩原徹也,天野直二(信州大学医学部精神医学講座)
【目的】特別養護老人ホームなどの介護施設では,認知症の周辺症状やうつ病など精神疾患を抱える利用者がおり,精神科の受診を要することも多い.その中には,老後の生活の場として介護施設を利用する統合失調症患者もみられる.精神科病院入院中や外来通院中には,精神症状が悪化することなく過ごしてきた患者が,入所後の生活の変化に適応できずに症状が再燃し,スタッフが対応に苦慮する例が散見される.今回私達は介護施設に入所中の統合失調症患者の臨床的な特徴について検討したので報告する.
【方法】対象は平成16年4月から平成22年1月までに,精神科病院が併設されていない特別養護老人ホームなど5施設に入所し,6カ月以上施 設を利用していた統合失調症22名である.いずれも入所前に精神科医より統合失調症の診断を受け,長期に入院や外来加療を行ってきた患者である.生活史などから統合失調症の既往が疑われるものの,入所前の診断がなく,未治療で経過している症例は除外した.これらの患者について後方視的に診療録を調査して,性別,入所時年齢,施設利用期間,精神症状の変遷,経過についてまとめ施設全体の状況とも比較した.
【倫理的配慮】全ての情報は通常の診療行為の過程で得られたものであり,今回の報告にあたっては個人情報の流出防止,匿名性の保持に関して十分に配慮している.
【結果】対象事例22名の内訳は男性11名,女性11 名,入所時の平均年齢は71.1 歳±7.85(52歳〜86 歳)であり,入所期間は平均8.58年であった.22名のうち15名が20歳代に発症,5名が30歳代に発症して治療が開始され,2名が発症時期ははっきりとしなかったものの40歳代に治療が開始されていた.22名のうち11名で,入所後に幻覚妄想など陽性症状の増悪がみられ,定期往診以外に往診や当院外来受診を要した.11名のうち4名が施設での対応が困難となり精神科病院への再入院が必要であった.いずれも3カ月以内に症状は軽快し,施設の再利用が可能であった.4名のうち3名は紹介元病院に入院し,県外から紹介された1 名は当院に入院した.22名のうち3名が身体疾患のために死亡し,2名が身体疾患のため一般病院に入院した.この期間,対象者の自殺はみられなかった.
【考察】介護施設で生活する統合失調症患者についてまとめた.精神科病院に入院中は症状が落ち着いており退院可能といわれている高齢統合失調症患者や,外来では安定して過ごしている患者も,施設入所後には陰性症状に伴う社会生活機能の低下よりも,陽性症状が問題となることが多く,施設入所後も精神科が関わることが必要なことが示唆された.また統合失調症に慣れていない介護スタッフとの関わりや,入所に伴う環境の大きな変化他の施設利用者との触れ合いも増悪の一因と推察された.介護施設においては,スタッフに対する統合失調症に関する疾病教育や,通院や往診などによる治療の継続が必要であると考えられた.
 
I-3-2  9 : 12〜9 : 24
海辺の杜ホスピタル認知症治療病棟における1年間の動向並びに考察;入院治療の有効性,入院遷延化要因について検討
谷口将吾,成本 迅,柴田敬祐,松岡照之,岡村愛子(京都府立医科大学大学院精神機能病態学),清水 博(医療法人精華園海辺の杜ホスピタル),福居顯二(京都府立医科大学大学院精神機能病態学)
【目的】当院認知症治療病棟では,Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)の入院治療を行い,短期間での退院を目指している.本研究では,過去1年間の入退院の動向の報告し,入院治療の有効性,抗精神病薬使用と身体合併症との関連性,入院遷延化の要因などの検討を行った.
【方法】平成20年6月から平成21年5月までに当院認知症病棟へ入院した認知症患者124名のカルテ調査(後方視研究)を行った.調査項目は,診断,年齢,性別,認知症の重症度Clinical Dementia Rating(CDR),ADL の評価PhysicalSelf-Maintenance Scale(PSMS),BPSD の評価Neuropsychiatric Inventory(NPI),転帰とした.また,平成22年1月時点で転出(退院,転院,転棟など)した114名を対象に,抗精神病薬内服の有無,Chlorpromazine(CP)換算量,入院期間を調査し,対応のあるWilcoxon の符号付き順位検定を用いて入院時と退院時のNPI,CDR,PSMS を比較した.次に,対象を精神症状が改善または不変群(自宅や施設へ退院,一般病院へ退院,療養病棟へ転棟)と,身体合併症による転棟・転院群に分けて,上記変数についてttest,Wilcoxon の符号付き順位検定,χ 二乗検定を用いて比較した.また,前者のうちで,自宅退院群とそれ以外の群との比較,短期入院群と長期入院群との比較も同様に行った.P<0.05 を統計学的有意とした.
【倫理的配慮】当院の倫理規定に従い,個人情報の管理には十分な配慮を行った.
【結果】診断はアルツハイマー病が77名(62%)で最も多かった.年齢は81.27±6.93 歳,男性65名(52.4%),女性59名(47.6%)であった.転帰は,改善または不変で転出(自宅や施設へ退院,一般病院へ退院,療養病棟へ転棟)が64名,身体合併症による転出が41名,精神症状悪化で転出が9名,入院継続中10名であった.転出した114名の入院期間は74.5±70.9日であった.CDR は入院時2.43±0.76 から退院時2.37±0.80へ(p=0.07),PSMS は入院時0.96±1.03 から退院時1.22±1.17 へ(p=0.001),NPI は入院時11.22±9.63 から退院時7.38±8.92 へ(p=0.000)変化した.改善または不変群と,身体合併症群との比較では,後者で男性の割合(p=0.015),入院時NPI(p=0.047),入院時CDR(p=0.009)が有意に高かったが,抗精神病薬内服の有無(p=0.740),CP 換算量(p=0.674)では有意差がなかった.改善または不変群の,自宅退院群とそれ以外の群では入院期間(p=0.227)などで有意差は認められず,短期入院群と長期入院群との比較では,後者において年齢(p=0.049)が有意に低かった.
【考察】入院治療により,BPSD のみならず,ADLも改善していた.精神症状や認知機能障害の重症度と男性であることが,身体合併症による転院と関連していた.また,年齢が低いことが入院の長期化と関連することが示唆された. 
 
I-3-3  9 : 24〜9 : 36
BPSD治療目的で精神科救急を受診する認知症患者の実態調査
清水芳郎(医療法人北斗会さわ病院),
数井裕光,杉山博通,武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学),
澤  温(医療法人北斗会さわ病院)
【目的】認知症患者がBPSD のために夜間休日に精神科救急医療をどのように利用しているかの実態調査をした. 【方法】日本精神科病院協会に所属している精神科病院の中で平成21年4月1日現在において,救急入院料病棟,急性期治療病棟,認知症疾患医療センター,重度認知症デイケアのいずれかひとつでも認可を受けているすべての病院,合計360病院にアンケート調査をおこなった.調査対象者は65歳以上でBPSD 様症状を主訴として夜間休日時間帯に精神科受診をした全症例(なお,BPSD様症状と表現するのは,患者の呈する症状がBPSD なのか精神病の症状なのか区別がつかないことがあるためで,BPSD を疑った場合は対象とするよう依頼した)とした.調査期間は平成21年10月1日から11月30日までの2カ月間とした. 【倫理面への配慮】本研究は医療関係者に対する調査であり,患者のプライバシーに関わるものではない.またアンケートは無記名で情報は匿名化され処理されるので,回答者の不利益は生じない. 【結果】143 病院から回答を得た.調査期間に1人でも夜間休日帯に患者が受診したのは102 病院であった.そのうち,BPSD 様症状を主訴に受診した患者がいた病院は31 病院で,調査対象患者は合計67例であった.一方これら102 病院の2カ月間における夜間休日帯の受診患者総数は3527例であった.67例の内訳は男性33例,女性34例,平均年齢79.3 歳(68 歳〜93 歳).対応は入院46例,通院16例,施設入所4例,無回答1例であった.原因となる認知症疾患ではアルツハイマー病29例,血管性認知症8例,レビー小体型認知症4例,前頭側頭型認知症1例,その他の認知症5例であった.BPSDと高齢者の精神病は鑑別が難しく,精神病圏の患者も9例含まれた.それ以外にせん妄2例,無回答1例,診断未確定8例であった.受診動機となったBPSD はNPIの項目で評価した(複数回答可)が,全体では興奮39例,異常行動31例,妄想23例の順であった.アルツハイマー病(29例)では興奮17例,異常行動15例,易怒性11例の順であった.血管性認知症(8例)では興奮7例,易怒性5例,脱抑制2例の順であった.レビー小体型認知症(4例)では幻覚と妄想がそれぞれ3例,興奮と睡眠障害が2例ずつの順であった.
【考察】アルツハイマー病の受診者数が最も多かったが,これはアルツハイマー病の頻度が最も多いことを反映していると考えられた.しかし診断基準を満たさないレビー小体病患者がこの中に含まれている可能性もあると考えた.全体では興奮,易怒性が受診動機の上位を占めたが,アルツハイマー病では興奮の次が異常行動であった.血管性認知症では,興奮の割合がアルツハイマー病のそれよりも高く,幻覚と妄想は少なかった.血管性認知症はアルツハイマー病と比較して,幻覚や妄想よりも興奮などが出現しやすく,今回の結果は日常の臨床と一致している.今回の調査でもうひとつ明らかになったことは,夜間休日帯において65 歳以上でBPSD を主訴に受診する患者は全体の2% 程度に留まったということである.この数字は日常臨床の実感からすると,あまりにも少ない印象である.よって,夜間休日帯にBPSD様の症状が発生しても適切な対応を享受できていないのではないかという仮説を立てるにいたった. 
 
I-3-4  9 : 36〜9 : 48
東京都の精神科救急システムにおける高齢者の現況;ハード救急に搬送される高齢統合失調症者
湯本洋介,河上 緒,新里和弘,大島健一(東京都立松沢病院),
新井哲明(東京都精神医学総合研究所),岡崎祐士(東京都立松沢病院)
【目的】高齢化社会の到来に伴い,いわゆるハード救急といわれる警察官通報を主体とした夜間・休祭日の精神科救急の現場にも高齢者が運ばれることが増えてきた.都立松沢病院は,東京都内西部,新宿区,世田谷区,品川区などの第3 ブロックを担当し,年間700例近い精神科救急入院ケースを扱っている.今回の検討では,それらのケースのうちから,高齢者(60 歳以上)のケースを選定し,その診断や社会的背景を調べ,都市圏の精神科高齢者の臨床特徴を抽出し,今後の高齢者緊急診療システム構築の一助に寄与すべく検討を行った.
【方法】平成19年1月1日から,平成20年12月31日までの2年間に東京都の夜間・休祭日精神科救急システムで当院に入院となった患者は男性857人,女性467人の計1324人であった.そのうち,60 歳以上のケースは,男84人,女性47人であり(平均年齢65.8 歳),その内訳は,60歳代93人,70歳代26人,80歳以上が12人で あった.これら131人を対象とし,診断,入院理由,入院形態,家族構成,24 条通報の有無,経済的基盤,身体合併症,転帰などについてretrospective に調査を行った.尚,調査において個人データを守秘し,プライバシー保護を確実に行い,対象者に負担苦痛がなされないよう倫理的に配慮した.
【結果】診断に関しては,統合失調症が44例(34%)ともっとも多く,次いで気分障害圏27例(21%),認知症圏16例(12%),妄想性障害10例(8%),物質関連障害9例(7%),器質性精神障害7例(5%)の順であった.ICD-10 のF 2 圏が,54例(41%)と高率を占めることが明らかとなった.入院形態は医療保護入院が82例(64%),措置入院が45例(35%),応急入院が2例(1%)であり,24 条通報となった例は66例(51%)であった.入院の直接の理由は,暴 力38例(29%),幻覚妄想状態29例(22%),迷惑行為14例(11%),自殺企図・念慮13例(10%),躁状態11例(8%),昏迷状態7例(5%)であった.同居家族は,無しが58例(44%),配偶者のみが30例(23%),親or 兄弟が17例(13%),配偶者+子が17例(13%)であった.統合失調症ついてみると,単身者が23/44=52%を占めており他疾患より単身者率が高かった.入院時に合併症を持っていた例は64例(49%)であり,代表的な合併症としては高血圧,糖尿病,下肢静脈血栓がみられた.
【考察】今回の研究の結果から,統合失調症で救急搬送される統合失調症者が少なくないことが示された.多くは単身(52%)で,世代交代によりサポートする家族も高齢であり,怠薬等による幻覚妄想や他害行為で救急搬送される高齢統合失調症者の姿が浮き彫りとなった.我々は,平成11年1月1日から3年間においても同様な調査を行っている.その結果との比較検討も加え,特に高齢の統合失調症の入院状況を中心に考察を行いたい. 
   
 
疫学(2)
座長:斎藤正彦((医・社)翠会和光病院)
I-3-5  9 : 48〜10 : 00
わが国の認知症専門医における医療サービスの実態
野瀬真由美,池嶋千秋,木田次朗,高橋 晶(筑波大学大学院人間総合科学研究科),
朝田 隆(筑波大学臨床医学系精神医学)
【目的】わが国においては,今日の認知症の疫学的概要を明らかにできる資料が存在しない.また認知症の医療を支える医療・介護サービス資源に関する大規模な実態調査もこれまでには存在しない.そこで,全国の認知症専門医における医療サービスの実態を明らかにすることを目的に,診療の基本機能,高度な診断能力,高度な臨床実践について調査を行なった.
【方法】認知症関連2 学会の会員を対象とし,所在地のエリアは特定できるようにした上でアンケート調査を行い,診療の基本機能,高度な診断能力,高度な臨床実践について専門性レベルを評価した.評価においては,基本機能,診断,BPSD対応,往診・訪問診療による医療,入院・救急への備え,家族ケアと非薬物療法および行政・普及啓発の7 つの要素に注目した.
【倫理的配慮】本研究は筑波大学倫理委員会の承認を得て行なわれた.
【結果】認知症に対応する医療機関調査(認知症関連2 学会の会員)は,55% という比較的高い回答率を得た.基本機能では,実施しているものとして最多が抗認知症薬(アリセプト等)の投薬,次いで主治医意見書の記載,合併する一般身体疾患(生活習慣病など)に対する通院治療であり,いずれも90% を超えていた.これに対して,高齢者総合機能評価は66% 程度と低く,認知症専門医療機関への紹介が低いのは調査対象の特性からして当然かもしれない.診断では,多くが高い割合で実施されていた.SPECT またはPET による神経画像診断,臨床心理士の雇用についてはしてないものが30% 以上と例外的に多かった. しかしながらこの数字は,平均的なところから見ると専門家集団だけに極めて高いものと考えられる.BPSD 対応では,BPSD に特化した入院治療,救急医療(時間外入院を含む)は,それぞれ70%,60% 程度と比較的低かったが,臨床現場の感覚としては極めて高い実施率と考えられる.往診・訪問診療による医療では,これらについて実施していないところが60−70% と過半数を占めており,一般医と著しい相違をなしているのかもしれない.入院・救急への備えでは,合併する一般身体疾患に対する入院治療,専門領域の身体疾患に対する入院治療,心理行動症状(BPSD)と身体疾患の併存例に対する入院治療については,70% 程度が実施していたが,他の項目については過半数が実施していなかった.家族ケアと非薬物療法では,医療や介護に関する相談の応需は殆どが実施していたが,他の項目についての実施率は概して低く,とくに認知リハビリテーションは低かった.行政・普及啓発では,概してまずまずというべき実施率だが,虐待事例のケースワーク,認知症予防教室の開催などはあまり高くなかった.
【考察】本研究の結果,注目した7 つの要素については,いずれも高い実施率であることがわかった.認知症関連2 学会の会員においては質の高い医療を提供しているものと考えられる.発表当日はさらに詳細な結果を報告する予定である. 
 
I-3-6  10 : 00〜10 : 12
認知症に対応する医療・福祉機関の機能実態
池嶋千秋,野瀬真由美(筑波大学大学院人間総合科学研究科),木田次朗(筑波大学大学院人間総合科学研究科,土浦厚生病院),鏡 千稲(筑波大学大学院人間総合科学研究科),高橋 晶(筑波大学大学院人間総合科学研究科,筑波メディカルセンター病院),水上勝義,朝田 隆(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
【目的】わが国においては,認知症の医療を支える医療・介護サービス資源に関する大規模な実態調査もこれまでには存在しない.そこで認知症に対応する医療・福祉機関の機能実態を明らかにすることを目的に以下の調査を計画した.具体的には(1)機能,(2)サービス提供,(3)情報公開,(4)関連機関との連携実態,その他を明らかにする.
【方法】日本病院会,日本医療法人協会,日本精神科病院協会,全日本院協会(以下,4 病協)に登録された医療機関に対して,施設概要,認知症対応の基本的事項を質問した.また,対象施設における個々の患者について,介護保険の主事意見書に準拠して作成した評価表により,認知機能,日常生活動作や精神症状・行動異常(BPSD)について回答を得た.さらに,対象施設と関連機関や介護保険関連機関との連携や,特別の退院支援の現状等について詳細を尋ねた.調査対象は4 病協,日本慢性期医療協会の会員施設の中から無作為抽出した2000施設であり,各施設に調査票を送付した.本研究は平成21年度厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究「認知症の実態把握に向けた総合的研究」として実施された.
【倫理的配慮】本研究は筑波大学倫理員会の承認を得て行われた.調査の実施に当たっては個人情報の保護を厳守した.
【結果】平成22年2月20日時点での回答数は206 であり,回収率は10% に留まっている.以下に結果概要をまとめる.4 病協と日本慢性期医療協会の会員病院調査の回答率は10% と低い.中規模,亜急性から慢性期の患者が主体の病院が,主たる回答元であると考えられる.全入院患者数に対する認知症患者数は約1 割強であった.全体(含む認知症患者)の平均年齢は68.3 歳だが,認知症患者の平均年齢は80.2 歳であり,有意に認知症患者の方が高齢であった.在院日数では,全体(含む認知症患者)の在院日数は平均で337 日,認知症患者の在院日数は375 日だから,認知症患者は1 割強長い.自宅から入院した認知症患者が31.5 名と最大だが,次は他の医療機関から転院28.1 名である.これは医療機関間でかなりの人数が循環していることを示していると考えられる.退院者数は平均で63.0 名,死亡退院者数は12.6 名,死亡以外の退院(含む他施設への移動)は47.9 名である.転帰は,自宅退院が18.4 名と最多であった.退院した認知症患者のうち,退院支援を要した者が全体の1/3 強という事実から,退院が容易でない例も少なくないことが推察される.退院支援を受けた結果,大多数(99%)は他施設に受け入れられている.受け入れ施設を種別にみると,精神科病院が最少であった.退院支援に関して,「密接な連携のある精神科病院がある」としたものは25.3% と少なく,こうした背景が要因と考えられる.なお,介護保険系施設による受け入れについては,対応の比較的難しい身体症状の合併が大きく関与していると考えられる.発表当日はさらなる回答結果を加え考察する予定である.
 
I-3-7  10 : 12〜10 : 24
認知症疾患医療センターと地域包括支援センター連携による地域セーフティーネット構築;介護破綻(高齢者虐待)への早期介入と早期支援の試み
大野篤志(特定医療法人薫会烏山台病院,栃木県指定認知症疾患医療センタ−精神神経科),河野絵美子,静野智隆,江尻功司,佐藤純世,高瀬美明(医療相談部),佐藤智子(ほっとからすやまケアサポートセンター),網野 榮,野崎真理子,大橋弘代(那須烏山市地域包括支援センター),秋元千代子,益子利枝(那珂川町地域包括支援センター),奥平智之(医療法人山口病院(川越)神経精神科),深津 亮(埼玉医科大学総合医療センタ−神経精神科)
【目的】当院は栃木県東部の人口約3 万人の那須烏山市に立地している.当院の主医療圏は那須烏山市と那珂川町であり,高齢化率は,それぞれ27.0%(2009年4月),と28.0%(2008年4月)であり,2009年4月の全国の高齢化率23.1% を大きく上回っている.崩壊の危機に瀕する当院医療圏での認知症患者,患者家族のセーフティーネットを構築するために,地域包括支援センターを中心とした我々が取り組んでいる多職種との連携協力の実態を示し,地域社会での認知症セーフティーネットの必要性と有効性について発表する.
【方法】当院が平成21年4月に栃木県から認知症疾患医療センターに指定されたのに伴い,我々は地域社会で認知症患者,患者家族のセーフティーネット維持の為,多職種によるネットワークの構築を強力に推し進めている.その中でも地域包括支援センターとの連携強化は特に重要である.地域包括支援センターは,潜在的な認知症者の発見,受診援助,家族への支援,地域ごとの社会資源情報の提供等の役割を担い,福祉事務所や介護保険課や高齢福祉課等の行政の中心となって各課を調整しており,認知症疾患医療センターとなった当院と地域包括支援センターの連携強化により,地域に潜在する介護破綻例への介入と支援が可能 になってきている.
【倫理的配慮】介護破綻症例への連携介入支援は,全患者家族の同意,個人情報保護法の厳正な遵守の元,行っている.
【結果】当院が認知症疾患医療センターに指定される以前の平成20年度には,当院と地域包括支援センターの連携症例は0 であった.しかし,当院が認知症疾患医療センターに指定され,それまで実質的に機能していなかった地域包括支援センターが機能するようになって,認知症の介護破綻への介入と支援が可能になった.その数は平成21年4月から平成22年1月末現在までに,7 市町村35 症例となっている.尚,同時期の当院での認知症初診患者は13 市町村147 症例である.当院と地域包括支援センターが連携した全35症例は介護破綻への介入,支援症例であるので,認知症での当院初診患者の23.8%(35 症例/147症例)が介護破綻状態での受診であったことになる.当院は認知症疾患医療センターであり,高度の認知機能障害あるいは重症のBPSD が出現後に受診する患者が多い傾向がある.この介護破綻状態に至る要因は多様であるが,地域ネットを活用した介入によって改善に導かれたケースが多かった.
【考察】当院認知症疾患医療センターと地域包括支援センターは栃木県東部での介護破綻(高齢者虐待)防止の最後の砦として機能している.今後さらに高齢化が進めば当院での初診患者数,地域包括支援センターとの協働での介護破綻例への早期介入,支援数は増大することが予想される.当院が認知症疾患医療センターに指定されてから1年足らずで,当院認知症疾患医療センターと地域包括支援センターは飽和状態になりつつある.我々は,認知症に関するさらなる啓発活動,及び関連多職種とのより緊密な連携による地域社会での認知症患者と患者家族のセーフティーネットの構築を緊急かつ強力に推し進めて行かねばならないと考えている. 
 
I-3-8  10 : 24〜10 : 36
大学病院における認知症クリニカルパスの有用性
小林清樹,館農 勝,齋藤 諭,佐々木竜二(札幌医科大学神経精神医学講座),
内海久美子(砂川市立病院精神神経科),
中野倫仁(北海道医療大学心理科学部臨床心理学科),
橋本恵理,齋藤利和(札幌医科大学神経精神医学講座)
クリニカルパスがアメリカで議論され始めたのは1980年代であり,わが国ではその後に身体的疾患・病態への導入が検討されてきたところで,神経変性疾患への適用はまだほとんどされていなかった.しかし,最近では精神科領域でもクリニカルパスが導入されつつある.その中で,認知症の診断目的に照準を合わせたパスは少ない.なおかつ病床数の少なさなどの様々な制約がある大学病院であるが,もの忘れ専門外来,パス入院のシステムが整いつつありその概要を紹介する.高齢社会のなかで認知症高齢者の増加はますます大きな社会問題になっている.適切な薬物療法には正確な診断が必要であり,それが出来るシステムを整えることも重要である.札幌医科大学附属病院の専門外来は毎週水曜日,新患は午前中に2名を診察している.新患予約は,現在は約3 ヶ月待ちの状態である.昨年7月からは2 泊3日のパス入院を勧め,正確な診断に努めている.クリニカルパスに沿って,1日目は脳波・血液検査・心電図・胸部Xp など入院時一般検査,2日目はリバミード行動記憶検査とFrontal Assessment Battery(FAB)を施行し必要であれば髄液検査(Aβ 40/42,リン酸化タウ)も施行.3日目は頭部MRI と脳血流SPECT を施行し退院としている.入院数は,昨年7月から抄録作成時点(2010年2月)で27名であった.その間,脳血流SPECT の99mTc-ECD トレーサーの供給が滞っていた時期があり,予定通り検査入院がすすまないこともあった.退院後は,検査結果の説明をする.画像検査の結果も,正常例・異常例のサンプル資料を見てもらいながら解り易い説明に努めている.認知症であった場合,介護保険制度の説明を行い,アルツハイマー型認知症であれば,アリセプトの進行抑制効果・副作用(吐気・易怒性)の説明も行っている.この説明の際には,教育的な見地から予診をとった前期研修医と病棟医の後期研修医も同席してもらっている.また,診断後のフォローについては,患者さんの利便と認知症専門外来とかかりつけ医の役割分担を重視し,経過・検査結果など詳細な情報提供書を書きアリセプトの処方等その後の経過観察をかかりつけ医にお願いしている.但し併存症があり,複数科が係わらなければならないケース,また認知症に伴う行動心理症状(BPSD)が見られるケースなどは大学で経過を診るようにしている.パス入院の導入より,標準化による医療の質の向上,チーム医療・スタッフ連携の推進,在院日数の適正化,無駄のない入院期間の確保,教育や普及活動に応用可能などが,臨床に直接的および間接的に影響を及ぼすものとして列挙できると思われた.課題は山積だが,認知症の治療の発展を目指して努力を重ねて行きたい.当日は,さらに詳細なデータを提示しながら,発表を行う予定である.
   
 
非薬物療法
座長:山口晴保(群馬大学)
I-3-9  10 : 36〜10 : 48
MMSE得点による回想法の効果;認知症高齢者の日常生活への広がり
奥村由美子(川崎医療福祉大学医療福祉学部),谷向 知(愛媛大学大学院医学系研究科),
朝田 隆(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
【目的】回想法は,感情に焦点をあてたアプローチとしてわが国の認知症高齢者への治療やケアの現場で積極的に導入されている.しかし,エビデンスは少なく推奨度は低いとされ,実施や効果評価のための具体的な示唆が求められているのが現状である.我々は5回という短期間での回想法を実施し,語想起課題における語彙数の変化によりその効果を検討したところ,語彙数が増加することを認めた.さらに本研究では,回想法による効果をMMSE 得点の違いにより検討した.
【方法】対象は,病院とグループホームで回想法に参加したアルツハイマー型認知症の13名である.性別は男性1名,女性12名,平均年齢(SD)は84.0(4.0)歳であった.いずれも,5 回実施のクローズドグループ形式での回想法に全回参加した.回想法実施による効果評価として,毎回終了後に4 つの語想起課題(動物の名前,「あ」で始まる語,他の語頭音で始まる語,その日のテーマに関する語)を実施し,あわせて感想(心地よさ,楽しさ)を尋ねた.また,参加時の様子は東大式観察評価スケール(TORS)により確認し,日常生活の様子は,開始前と終了後に聖マリアンナ医大式痴呆性老人デイケア評価表(デイケア評価表)により評価した.これらの評価結果をMini-Mental State(MMSE)得点による2 群間で比較した.
【倫理的配慮】本研究は,回想法を実施した各機関の倫理委員会にて承認され,各機関の承認された方法に則って実施した.
【結果】回想法の初回後と最終回後に実施した語想起課題の語彙数合計は,MMSE 15 点未満の群では3.3 から10.0,15 点以上の群では14.0 から18.6 といずれも増加していた.2 元配置分散分析により比較したところ,MMSE による2 群間(F(1,11)=6.904,p=.024)と前後(初回評価と最終評価)の語彙数合計(F(1,11)=15.11,p=.003)には差が認められた.しかし,2 群間と前後の語彙数合計との間には交互作用はなく(F(1,11)=.53,p=.484),語彙数の変化のパターンにはMMSE による差がないことが認められた.各評価結果の変化量を用いてt 検定により比較したところ,回想法実施前後の日常生活の様子を評価したデイケア評価表(評点が低い方が肯定的)では2 群間で有意な差が認められ,MMSE 15 点 以上の群の方が評点の変化が大きい可能性が示された(表1). 
<< 表1 >>
評価スケール
(変化量)
MMSEt 値
15点未満15点以上
語想起課題 6.674.570.725
心地よさ0.830.570.732
楽しさ1.001.14−0.325
TORS4.172.710.783
デイケア評価表−1.42−5.002.929*
*p<.05
【考察】本研究では,回想法実施による語想起課題での語彙数や感想,回想法実施場面での参加の様子についての評点の変化はMMSE の得点によらないが,日常生活で効果が観察されるかどうかは,MMSE の得点により異なる可能性が示された.MMSE 得点を指標に回想法の効果の違いがみられたことは,対象となる認知症高齢者に回想法を導入する目的をより明確にできるとともに,効果の確認を行いやすくできるのではないかと考えられた. 
 
I-3-10  10 : 48〜11 : 00
慢性期重度失語の血管性認知症患者に対する音楽療法の試みII
山口 智(大崎市民病院田尻診療所),
赤沼恭子,佐藤正之,目黒謙一(東北大学大学院医学系研究科高齢者高次脳医学寄附講座)
【目的】慢性期重度失語症患者は,意思疎通が困難なため言語療法や認知リハビリの対象になりにくい.我々は過去に重度失語症患者に歌唱練習を行ない,自発歌唱及び歌詞再生が可能となった症例(’03 第27 回日本神経心理学会山口ら),新しい歌詞を記銘し,再生が可能となった症例(’08第23 回日本老年精神医学会山口ら)をそれぞれ報告した.今回さらに歌唱練習を行うことで,言葉を有意味語として記銘し,状況に即した表出,及び意味を理解した使用が可能になるかどうか検討した.
【方法】84 歳,女性,右利き,全失語の患者に以下の2 つの課題を施行した.
[課題I]状況に即して挨拶語を表出する.
(練習法)歌い出しcue で自発歌唱可能な曲の中で「こんにちは」の歌詞が入った曲(どんぐりころころ)を用い,「こんにちは」の歌詞と同時に検査者がお辞儀をしながら,直前の歌詞「どじょうがでてきて」をcue として「こんにちは」を自発歌唱させる練習を施行.「さようなら」の歌詞が入った曲(砂山)を用い,「さようなら」の歌詞と同時に検査者がバイバイをしながら,直前の歌詞「海よ」をcue として「さようなら」を自発歌唱させる練習を施行.その後,双方とも旋律をはずしたcue で歌詞再生練習を行う.最後に,言語訓練室入室時に検査者のお辞儀で,退出時にバイバイでそれぞれ挨拶語の表出を促す練習を行った.
[課題II]身体部位の呼称(練習法)できるだけ簡単でわかり易い2音の身体部位「耳」「肩」「足」を選択し,本人の各々の身体部位を触り,リズムをとりながら同時復唱練習を行い,その後触覚とリズムのみで呼称を促す練習を行った.練習は言語聴覚士と音楽療法士の2名で,最初に患者の自発歌唱可能曲を10分間歌唱練習した後,課題I,IIを続けて20分間,毎週及び隔週で10ヶ月間,計35回施行.
【倫理的配慮】本研究は治療の一環として行われ,治療の結果を匿名で学会発表する旨を説明,個人が特定されないことを条件にご家族の同意を得た.
【結果】[課題I]言語訓練室入室時に「こんにちは」,退出時に「さようなら」の挨拶語が表出された.
[課題II]身体部位「足」と「耳」を呼称した.さらに,自発語の増加や意欲の向上,情動面の安定も認められた.
【考察】慢性期重度失語症でありながら,自発歌唱可能な曲の歌詞を挨拶語として認識,記銘し,2種類の状況に即した表出が可能となり,また,触覚とリズムを用いることで2 種類の身体部位の呼称が可能になったのは,長期に及ぶ歌唱による発語練習により,僅かに残存する意味理解にアクセスし,有意味の言語表出に繋がったものと考えられる.患者が楽しく意欲的に歌唱練習を継続できたことも,効果を高める一因になったと思われる.慢性期であっても歌唱による音楽療法の言語リハビリは有効であることが示唆される.
 
I-3-11  11 : 00〜11 : 12
幻視に対して心理的介入が有効だったレビー小体型認知症の事例検討
太田一実,井関栄三,村山憲男,藤城弘樹,佐藤潔(順天堂東京江東高齢者医療センターPET・CT 認知症研究センター)
【目的】幻視はレビー小体型認知症(DLB)の中核症状だが,その発生には脳の器質的要因だけでなく,心理・環境的要因も関係していると考えられる.また,DLB は抗精神病薬への過敏性があり,副作用も生じやすい.そのため,DLBの幻視には心理的介入も重要だと考えられるが,今のところ,これに関する報告はほとんどない.本研究では,明らかな幻視が生じているDLB 患者に対して心理的介入を行ない,その有効性を検討した.
【方法】順天堂東京江東高齢者医療センターの外来を受診し,明らかな幻視を有するprobableDLB の患者を対象とした.全ての患者へ画像検査および心理検査を実施した.また,患者および家族に対して,認知症を専門にする精神科医と臨床心理士による幻視に対する心理的介入を行なった.
【倫理的配慮】本研究は当院の倫理委員会の承認を得た研究の一部である.患者および家族介護者には,文章による同意を得た.
【結果】事例1は73歳の男性で,心理検査はMMSE が24 点であり,Bender Gestalt Test(BGT)や時計・立方体描画では全体的に構成の不良さが認められた.病前性格は短気,神経質,心配症だった.患者は痔核手術の恐怖心から幻視が発症したと考え,その不安感から当院受診前に心療内科に受診した.自宅の玄関に足のない見知らぬ人が見える,30 m ほど離れた所からはビニール袋が猫に見えるなどの幻視を怖がっていた.当院外来においてこれらの体験を受容的に聴かれ,幻視は視覚認知障害と関係することを説明された結果,不安や恐怖は軽減し,幻視は持続しているものの自己統制できるようになった.事例2 は86 歳の女性で,心理検査はMMSEが18 点で遅延再生をはじめ全体的に失点していた.BGT,時計・立方体描画では全体的に構成の不良さが認められた.テレビの画面や冷蔵庫の表面に人が映って見える,見知らぬ老人が手招きしているなどの幻視が出現した.最初は霊かと思っていたが,後に「向かいの建物から女性がカメラで写している」などの妄想に発展した.また,幻視の出現を予防するために家の中に新聞を貼る,警察を呼ぼうとするなどの行動も認められた.受診前には家族は幻視に関する患者の訴えや行動を受け入れられなかったが,幻視は多くのDLB 患者が経験すると説明されたことで受容することができた.また,それによって本人も精神的に安定するようになった. 【考察】幻視の出現には,病前性格,思考様式などの心理的要因や環境的要因が関与していると考えられる.事例1 のように認知機能が比較的保持されている患者は,幻視は持続するものの,適切な心理的介入によって不安や恐怖が軽減し,幻視を自己統制できるようになることが示唆された.また,事例2 のように認知機能が比較的低下している患者に対しては,家族へ心理的介入によって,本人や家族の精神的安定につながると考えられた.[本研究は平成21 年度厚生労働科学研究費補助金「認知症の行動心理症状に対する原因疾患別マニュアルと連携クリニカルパス作成に関する研究」においてなされた成果である.]
 
I-3-12  11 : 12〜11 : 24
電気けいれん療法における発作閾値とその影響因子;年齢が発作閾値へ与える影響度の加齢による変化
安田和幸,布村明彦,田中宏一,玉置寿男,山口雅靖,藤井友和,北原裕一,
外岡雄二,松下 裕,小林 薫,本橋伸高
(山梨大学大学院医学工学総合研究部精神神経医学・臨床倫理学講座)
【目的】電気けいれん療法(ECT)は気分障害,統合失調症などに対する優れた治療法である.現在ECT で用いられている短パルス矩形波治療器は刺激量の幅広い調節が可能であり,発作誘発に最低限必要な刺激量(発作閾値)を考慮して治療者が刺激量を決定する.発作閾値は初回ECT 時に滴定法で測定するか,あるいはhalf-age 法を用いて患者の年齢から推定することが多い.本研究では初回ECT で滴定法により発作閾値を測定し,患者年齢のほか,性,内服薬剤などの因子が発作閾値に影響を与えるかどうかを知るために統計学的手法を用いて解析を行った.さらに患者を若年・初老・老年期の3 群に分けて解析し,患者年齢が発作閾値に与える影響度が加齢によりどのように変化するか検討を加えた.
【方法】山梨大学医学部附属病院でECT を受けた患者を対象とし,ECT 開始時の年齢,性別,BMI(Body Mass Index),過去のECT 施行歴,向精神薬内服の有無(ベンゾジアゼピン・抗うつ薬・抗精神病薬・抗けいれん薬・リチウム)について調査した.ECT は国内ガイドラインの標準的な手順に従っており,短パルス矩形波治療器サイマトロン(最大出力504 mC=100%)を用いた両側性ECT で,初回ECT 時に硫酸アトロピン0.2−0.5 mg,サイアミラールナトリウム2−4 mg/kg,スキサメトニウム0.5−1.0 mg/kg を静脈内投与した後,滴定法で刺激量10%,20%,40%,80% の順に発作が起こるまで刺激量を増やして通電した. 発作閾値の影響因子の解析のため,発作閾値を従属変数,各調査項目を独立変数とした重回帰分析を行った.さらに対象患者を44 歳以下(若年期),45−64 歳(初老期),65 歳以上(老年期)に分けて,年代ごとに発作閾値を従属変数,年齢を独立変数とした回帰係数を求めて比較した.【倫理的配慮】本研究は山梨大学医学部倫理委員会で承認されている.全ての患者または家族からECT 前に本研究の同意を得た上で調査を開始した.
【結果】対象患者54 名(男性23 名,女性31 名)は年齢58±15 歳(平均±SD),BMI 22±3.5,過去にECT を行ったことがある患者は12名(22%),向精神薬内服者はベンゾジアゼピン45名(83%),抗精神病薬41 名(76%),抗うつ薬41 名(76%),抗けいれん薬6 名(11%),リチウム5 名(9%)であった.発作閾値は26.7±14.5% であった.影響因子の解析では,年齢(p<0.01),ベンゾジアゼピン内服(p<0.05),性別(p<0.05)が発作閾値に影響していた.各年代の年齢と発作閾値との関連については,若年期患者の回帰係数は0.67,初老期患者は0.15,老年期患者は0.017であった.
【考察】ECT の発作閾値研究はこれまでに諸外国では行われていたが,わが国では本研究が初めてである.本研究の発作閾値は先行研究と概ね一致しており,発作閾値の影響因子としては年齢,性別,ベンゾジアゼピン内服が有意に影響を与えていた.過去の研究でも年齢が最も強い影響因子であり,性別,内服薬剤も影響する結果を示した研究があった.年代ごとに比較した年齢の発作閾値への影響度の結果では,加齢により発作閾値は年齢の影響を受けにくくなることが示された.老年期患者では発作閾値は年齢に依存して上昇せず,half-age 法では過剰刺激やそれに伴う認知障害などの危険性が高まることが示唆された.
 
I-3-13  11 : 24〜11 : 36
再燃を繰り返す口腔内セネストパチーに対しm-ECT が有効であった1症例
森川文淑,田端一基,猪俣光孝,直江寿一郎(医療法人社団旭川圭泉会病院)
【目的・方法】セネストパチーとは,身体局所の異常感覚を奇妙な表現で訴えながらも,それを支持する客観的な身体所見を欠く状態であり,様々な機能性あるいは器質性精神疾患の部分症状として生じることが多い.背景に存在する精神疾患が明らかな場合,その治療を行うことで異常感覚が軽減した報告も散見されるが,治療が困難なケースも少なくない.今回我々は,背景にレビー小体型認知症が存在すると疑われたが,薬物療法が無効であり,再燃を繰り返す口腔内セネストパチーに対しm-ECT が有効であった1症例を経験したので若干の考察をまじえ報告する.
【倫理的配慮】本報告の主旨について説明し,患者およびその家族から十分な同意を得た.
【症例】72歳女性.右利き.教育歴8 年.既往歴に特記すべきことなし.精神神経疾患の遺伝負因はなし.60歳頃より口腔内の違和感が出現し,総合病院内科や歯科口腔外科を受診したが,器質的な異常はなく,62歳頃には近医メンタルクリニックを受診し薬物療法が開始されたが,症状の改善は認められなかった.70歳頃より急激に口腔内違和感が増悪し,「口の中から粘々した七色の液体や玉が溢れる」との奇妙な訴えがみられ食事摂取も困難となり当院へ入院(1回目)した.入院時のMMSE 20点,HDS-R 24点であり,脳MRI,脳血流SPECT(IMP),MIBG 心筋シンチグラフィでは特定の認知症を疑わせる所見は乏しかった.入院後,抑うつ気分が強く認められたため大うつ病が背景に存在する口腔内セネストパチーと考え,抗うつ薬を中心とする薬物療法を行ったが症状の改善なく身体的衰弱も目立ったため本人,家族の了解を得た上でm-ECT を施行したところ,症状の著明な消失を認めたため自宅へ退院とした.71歳時にも同様の症状の再燃が認められたため当院に入院(2回目)しm-ECT を行った.72歳時,外来にて経過観察中,パーキンソンニズムおよび鮮明な幻視の出現を認めたためレビー小体型認知症を強く疑い,ドネペジル,抑肝散,クエチアピンを中心とした処方に変更したところ一時的に症状は改善したが,その後に口腔内セネストパチーおよびパーキンソンニズムの再燃を認めたため,当院に入院(3回目)しm-ECTを施行したところ症状は著明に改善した.
【考察】本症例は当初,大うつ病が背景に存在する症候性セネストパチーが疑われたが,臨床経過よりレビー小体型認知症が背景に存在する症候性セネストパチーと考えられた.高齢者のセネストパチーはその背景に様々な疾患が存在する可能性を有しており,慎重に診断・治療を行う必要があると考えられた.また本症例では,薬物療法は有効性に乏しくm-ECT のみが(症状の再燃は認められるが)有効であった.口腔内セネストパチーは薬物療法に対ししばしば抵抗性を有し,また特に高齢者では副作用のため十分量の向精神薬が使用できず,治療に難渋するケースが少なくないため,m-ECT は治療方法の有力な選択枝になりうると考えられた.