- 14 : 15〜14 : 45 展示ホール
- 在宅介護・医療
- 座長: 宮永和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院)
- II-P-1 14:15〜14:25
- 家族支援により老老介護による在宅生活が可能となったアルツハイマー型認知症の一例
- 松岡美穂,佐藤早苗,渡邊朋之(医療法人社団以和貴会いわき病院)
- 【目的】 現在,我が国では認知症の要介護高齢者を高齢者が介護をする,いわゆる老老介護が問題となってきている.今回,我々は介護に疲弊した配偶者を支援することによって再び在宅生活が可能となったアルツハイマー型認知症の一例を経験したので報告する.
【方法】 症例は77 歳の女性.X−2 年,物忘れがみられるようになった.X 年3月,買い物に行っても同じものばかり購入するようになり,近医A内科医院を受診.アルツハイマー型認知症と診断され,塩酸ドネペジルが処方された.X 年8 月,夫に対する嫉妬妄想が出現し易怒性や徘徊もみられるようになり,対応に苦慮した夫がB 病院脳神経外科に妻を連れて受診.アルツハイマー型認知症とあらためて診断され,抑肝散の投与も開始されたが,徘徊はおさまらず,嫉妬妄想も増悪.X 年9 月,老夫婦だけの世帯での老老介護に疲弊した夫がB 病院精神科を受診し,そこでC 精神科病院を紹介され,同日入院となった.入院後,投薬により速やかに鎮静がはかられたが,経口摂取も困難となり寝たきり状態となった.面会に来た娘に,「介護放棄して精神病院に放り込んだ.」責められた夫は知人の勧めにより当院への転院を希望.X 年10 月転院時,目を固く閉じたままで,意味不明な独語がみられた.指示は全く入らず体動は著明で安全確保の為ベッド柵による抑制を必要とした.身長145 cm,体重31.5 kg,BMI 15.るいそう著明で脱水・肺炎も併発しており,身体的治療を優先した.肺炎が治癒し,脱水が改善されると日中は意思疎通がはかれるようになってきた.投薬調整により不穏状態も改善.嚥下機能訓練により経口から必要量摂取が可能となり,理学療法により歩行器歩行が可能となった入院1 ヶ月後頃,夫に退院に向けての説明を実施.妻の回復を喜んでいたはずの夫より「家には連れて帰れない.もう一度薬で眠らせてくれ.」という発言がみられた.そこで介護の苦労話を傾聴しながらもデイサービスやショートステイ,ヘルパーなどの社会資源についての紹介や困ったらいつでも再入院ができることなどを繰り返し説明した.不安感が強く自信を喪失していた夫だが理学療法士と精神保健福祉士,看護師による退院前訪問指導をきっかけに自ら率先してバリアフリー目的の家屋改築を行うようになった.また退院前のカンファレンスでは,患者本人やその介護者である夫も出席してサービスの調整も行った.週3 回は介護保険を使った自宅近くのデイサービスを利用して週1 回は当院の医療保険を使ったデイサービスを利用することで介護軽減をはかった.7 回の試験外泊中にも徘徊など問題行動はみられず転院後約2 ヶ月間の入院で在宅に戻ることができた.
【倫理的配慮】 症例報告に際して個人が特定されないように配慮した上で,介護者からの同意を書面で得た.
【結果】 介護者を支援することで老老介護でも在宅生活が可能となった.
【考察】 老老介護で相談する相手もなく疲弊した介護者に必要な情報や適切な役割を与え,共感的アプローチを施すことで再度介護に取り組むことができたと考えられた.患者本人の治療はもちろんのこと家族支援を行うことが在宅生活を継続する上で重要であると思われた. - BACK
- II-P-2 14:25〜14:35
- 行動障害の強い認知症に対する訪問診察
;14症例の追跡調査 - 平井茂夫(入間平井クリニック),田川悦子,林 智子,井上 悟(東京都立中部総合精神保健福祉センター),熊谷直樹(東京都立多摩総合精神保健福祉センター)
- 【目的】 精神科領域の一般的傾向として,重症の患者ほど医療につなげにくく,地域で孤立しやすい.演者は約10 年に渡って,保健所等の非常勤医師として認知症高齢者の訪問診察に従事したが,「その後どうなったか」を知るのは,事の性質上,殆ど不可能であった.このたびその一端を知る貴重な機会を得たので,報告する.
【方法】 演者はA 県B 精神保健福祉センターの非常勤医師として,X 年11月からX+4 年3月までの3年5ヶ月間に,B 精神保健福祉センターの管轄であるA県C市の認知症高齢者14 名を訪問診察した.A 県では昭和63 年より「高齢者精神医療相談班」として,市町村の窓口で対応しきれない認知症高齢者に対して,担当保健師からの依頼に応じて,医師と看護師ないし保健師からなる相談班が訪問診察し,専門病棟入院紹介を含む各種の助言・指導を行っている.X+4 年秋,演者は,A 県C 市の担当者より,職員対象の講習会の講師を勤めて欲しいとの依頼を受けた.職員研修の目的には,みずからが担当する地区の具体的な事例を挙げ,その長期予後も含めて説明するのが最適と考えた.C 市担当者の協力により,X+4 年9 月の時点における,全14症例の予後を知ることが出来た.
【倫理的配慮】 「医療機関における個人情報の保護」(平成17 年2 月,日本医師会)に準拠し,症例記載に関しては,一般人が見て特定の個人を識別できない程度の匿名化の措置を講じた.
【結果】 同時期に演者はA 県B 地区全体で合計143 名の訪問を行った.よって,C 市での14 名は,B 地区全体の約一割に該当した.症例の概要を以下に示す(数字=訪問時の年齢,M=男,F=女).
【考察】 平均2 年3 ヶ月,最長3 年9 ヶ月の経過観察にて,14 例中5 例が既に死亡していた.訪問後に在宅継続したのは4 例だが,家族の反対で入院不可の1 例は自宅で原因不明の死亡,残りの3 つも特殊な事情を持つ例で,典型的な「行動障害の強い認知症」での在宅継続成功例は皆無であった.特養に入居できたのは僅か2 例で,そのうち1 例は精神症状悪化のため再入院して亡くなった.その他は老健3 例,高齢者住宅・有料ホーム・療養型病院が各1 例であった. - BACK
- II-P-3 14:35〜14:45
- 生活場面における実行機能障害のアセスメント
;実行機能行動評価尺度(behavioral Assessment for Executive Function;BAEF)の再テスト信頼性と併存的妥当性の検討 - 紫藤恵美(翠会和光病院),松田 修(東京学芸大学教育心理講座臨床心理分野),斎藤正彦,西村敏樹(翠会和光病院)
- 【目的】 生活場面における実行機能障害を評価するために独自に作成した実行機能行動評価尺度(behavioral Assessment for Executive Function;以下,BAEF)の再検査信頼性と神経心理学的検査との基準関連妥当性の検討することである.
【方法】 老人性認知症専門病院に通院中で,アルツハイマー病と診断された患者(10 名)と患者の日常生活の様子を良く知る同居家族を対象とした.患者は,外来メモリートレーニングの効果評価時に神経心理学的検査(簡易前頭葉機能検査;FAB,改訂版長谷川式簡易知能スケール;HDSR)を施行し,それと同時,もしくは同時期(ほぼ2 週間以内)に同居家族にBAEF への回答を求めた.BAEF の再検査信頼性を検討するため,同居家族には,神経心理学的検査施行時のBAEFによる評価とは別に,その前後1 ヶ月以内にも,BAEF への回答を依頼し,計2 回のBAEF による実行機能障害の評価を行った.分析は,以下の手順で行った.BAEF の再検査信頼性を検討するために,2 回のBAEF 得点の相関を算出した.また,FAB 得点を外的基準とした基準関連妥当性を検討するために,FAB 得点と同時期に評価したBAEF 得点との相関を算出した.
【倫理的配慮】 本研究は,発表者の勤務する医療機関の倫理規定に基づき行われた.対象者には研究の趣旨を口頭で伝え,同意を得ている.得られた情報の取り扱いは同倫理規定に従うものとした.なお,個人情報の保護に留意し,個人が特定できるような情報は排除して行われた.
【結果】 現在,データが収集されたのは,予定対象者のうち6 名である.対象者の年齢は,(M=76.0,SD=7.83)歳,HDS-R 得点は(M=19.83,SD=4.22)だった.1 回目と2 回目のBAEF 得点の相関は,r=0.73 であった.FAB 得点とFAB 施行時のBAEF得点の相関は,r=0.63 であった.
【考察】 以上のことから,サンプル数は少ないものの,BAEF が,再検査信頼性と基準関連妥当性を有する可能性があることが示唆された.現在,データ数を増やしているところである.発表当日には,データ数を増やした結果を報告する予定である. - BACK
- 14 : 15〜14 : 45 展示ホール
- レビー小体病関連
- 座長: 大谷義夫(湘南さくら病院)
- II-P-4 14:15〜14:25
- 精神科病棟に入院したレビー小体型認知症患者の臨床的特徴
- 北村真希,北村 立,渋谷良子,稲葉政秀,西川 健,武島 稔,倉田孝一(石川県立高松病院)
- 【目的】 当院を初診し,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies : DLB)と診断された患者の臨床的特徴を報告し,外来で治療可能であった患者群(外来群)と入院となった患者群(入院群)の臨床的特徴を比較,検討すること.
【方法】 2006年4月1日から2008年12月31日の期間に当院を初診した患者のうちレビー小体型認知症改定臨床診断基準ガイドライン(2005)でprobable DLB の基準を満たすものをDLB と診断し,その臨床的特徴を報告する.次に外来群と初診後3 ヶ月以内の入院群(入院群)に分け,各群の性別,年齢,生活状況,精神症状の特徴,認知機能などをχ2 検定で比較検討した.なお,3ヶ月以降に入院した例は除外した.
【倫理的配慮】 集団としての臨床的特徴の検討であり,個々の症例は特定できないように処理した.また,本報告は当院の倫理委員会で承認を受けている.
【結果】 期間中に認知症と診断された患者555名中DLB と診断されたのは48 名(8.6% うち,男性12 名,女性34 名)で,平均年齢は81.3±6.2(67‐90)歳であった.症状はコア特徴である人物の幻視(36 名)が最も多く認められ,睡眠障害(32 名),被害妄想(27 名),実体的意識性(26名)と続き,もうひとつのコア特徴であるパーキンソンニズムは14 名であった.DLB 患者のうち,外来群は14 名(21.2%,男性5 名,女性9 名)入院群は32 名(DLB の66.7%,男性7 名,女性25 名)で,2 名(男性1 名,女性1 名)が除外された.外来群と比較し,入院群では介護認定を受けている,抗精神病薬を使用している患者が有意に多かった.一方,年齢,性別,独居か否か,介護認定の重症度,精神科受診歴,MMSE の得点(外来群:19.3±3.5,前期入院群:16.4±8.3),抗うつ薬や塩酸ドネペジル,抗パーキンソン病薬使用の有無は差がなかった.精神症候では外来群と比較し入院群で人物誤認,幻聴,被害妄想,易刺激性,興奮,実体的意識性,食欲低下を呈する患者が有意に多く,幻視の内容や体感幻覚,場所の誤認,不安,抑うつ,睡眠障害,一過性の意識消失,抗精神病薬の過敏性,パーキンソンニズムには差が認められなかった.
【考察】 当院を初診し,DLB と診断された患者のうち,半数以上が外来通院では症状が安定せず,3 ヶ月以内に入院となった.外来群に比べ入院群では,家族の介護負担が大きいためか介護認定を受けている割合が多く,抗精神病薬の使用も多かった.症状で差が認められたのは診断に必要な中心特徴やコア特徴ではなく,易刺激性,興奮といった精神病症状と食行動異常であった.当院は精神科単科で,老年期専門の病棟を有するため,施設や他科で対応困難な高齢者の受診が多い.今回の結果でも,DLB と診断された患者は精神症状が多彩な一方,パーキンソンニズムが少ない傾向にあり,精神症状の強い偏った患者群の検討である可能性がある.今後症例数や調査機関を増やしての検討を行う必要がある.また,外来群では診察者による症状評価のばらつきも考えられるため,今後は質問紙や半構造化面接を用いて,評価の標準化を図りたい. - BACK
- II-P-5 14:25〜14:35
- 初期のアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の鑑別に苦慮した1症例
- 亀井聖史,古川秋夫,石川一朗,檀上園子,樫本有香,篠原朝美,高橋正彦,新野秀人,中村 祐(香川大学医学部精神神経医学講座)
- 【はじめに】 認知症の臨床診断は時に困難な場合があり,初期のアルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies ; DLB)の鑑別には苦慮することある.今回我々は,初期のアルツハイマー型認知症を疑うも,レビー小体型認知症への移行や合併が考えられる症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】 本症例の報告にあたっては,個人が特定されないように配慮し,匿名化した発表において本人および家族に対して同意を得た.
【症例】 77 歳男性,右利き.X‐5 年頃から,睡眠中に大声を上げ,「夢の中で犬に襲われ抵抗しようとして手足をばたばたした」といった睡眠中の行動が認められた.X‐2 年よりもの忘れを自覚するようになり,家族もその異常に気付いた.電話の取次ぎ内容を忘れたり,普段行き慣れた場所で道に迷うことがあった.X 年1 月当科もの忘れ外来を初診となり,精査加療目的で,1 月16 日精神科任意入院となった.
【入院経過】 意識は清明で,血液検査所見,神経学的異常所見に明らかな異常は認めなかった.初診時HDS-R は26 点(遅延再生4 点),MMSEは27 点であった.COGNISTAT では記憶のみに中等度障害を認めた.脳MRI では左側頭葉優位の軽度萎縮を認め,脳血流SPECT では,後部帯状回の血流低下がみられた.夜間睡眠中の異常行動から,レム睡眠行動異常症を疑い終夜睡眠ポリグラフィ(polysomnography ; PSG)を施行し,筋活動の低下を伴わないレム睡眠(REM sleep without atonia ; RWA)を認めた.入院後の臨 床症状の観察から認知機能の変動や幻視体験,パーキンソニズムはみられなかったが,DLB との鑑別を考慮しMIBG 心筋シンチグラフィを行った.早期像,後期像共に心臓への集積は認めず,early H/M 比1.47,delayed H/M 比1.24,WR53% であった(H/M 比:heart to mediastinum ratio 心臓縦隔比).
【考察】 本症例では記憶障害を認め,脳MRI や脳血流SPECT の所見から初期のアルツハイマー型認知症と考えられた.しかしPSG によるRWAの所見とMIBG 心筋シンチグラフィによる心臓への集積低下から,現在古典的な3 徴候を呈していないがレビー小体型認知症の可能性や,またその合併も考慮する必要があると思われた.WMS-R 等の神経心理検査を施行し再検討を要すると考えられる.DLB の診断においては,古典的な3 徴候が病初期から明らかであれば診断は容易であると考えられるが,本症例のように明らかではない場合はDLB とAD を早期に鑑別することは困難であると思われる.一方,本症例ではRBD を認めこれがsynucleinopathy と総称されるPD,MSA,DLB の発症以前の前駆症状ないし初期症状と考えられるか検討を要するところである.RBD の嗅覚障害の有無がsynucleinopathyへの進展の目安になるという報告もなされている.本症例では明らかな嗅覚障害は認めなかった.今後,注意深い臨床経過の推移を観察する必要があると考えられる. - BACK
- II-P-6 14:35〜14:45
- 初期にうつ病を呈するレビー小体型認知症に対する,高炭酸換気応答検査の診断有用性
- 高橋 晶,水上勝義,安野史彦,根本清貴,朝田 隆(筑波大学附属病院精神神経科)
- 【目的】 レビー小体型認知症(DLB)は変性性認知症において,アルツハイマー病に次ぐ疾患である.抑うつ症状はDLB の臨床経過においてよく出現し,認知症状や運動症状に先行して現れることがある.我々は最近,DLB の診断に,自律神経機能を反映する高炭酸換気応答(hypercapnic ventilation response : HVR)の有用性について報告した.今回,認知障害が無い段階のうつ病患者に,HVR によって,DLB に進展していく例を推測することが可能であるか試みた.このため,5 年間の,うつ病入院患者の長期研究を行った.
【方法】 2005 年6 月から2009 年1 月までの間,筑波大学附属病院精神科病棟に入院した,50 歳以上のうつ病患者19 例を対象とした.(男性:n=3,年齢70±4.4 yrs,女性:n=16,67.8±9.5yrs).DSM-IV-TR を用いてうつ病の診断は行われた.患者群はエントリー時,認知障害が無く,錐体外路障害の無い患者であった.血液,生化学検査,MRI,SPECT 等の画像検査,神経精神的検査,そしてHVR を含む自律神経検査を施行した.
【倫理的配慮】 この研究は筑波大学倫理委員会に承認されており,またインフォームドコンセントを取得している.
【結果】 HVR で異常値を認めたうつ病患者12 例中5 例(42%)が,観察期間中に認知症に移行した.(平均3.1 年)そして全例でDLB と診断された.またHVR で正常値であった7 例中2 例は,認知症に移行し,それは2 例ともAlzheimer病であった.そして残りの5例は平均3 年の経過観察中,認知障害は伴わなかった.
【考察】 この研究でHVR で異常を来したうつ病患者は,HVR 正常のうつ病患者と比較して,DLBに進展しやすいのではないかと考えられた.DLB患者において,抑うつ症状は,認知障害や運動障害に先行することがあり,HVR はこのようなDLB 例の早期診断に有用なのではないかと考えた. - BACK
- 14 : 15〜14 : 55 展示ホール
- 検査関連
- 座長: 田渕 肇(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
- II-P-7 14:15〜14:25
- 沖縄における健康な高齢者のホモシステイン,ビタミンB 12 および葉酸
- 勝亦百合子(琉球大学医学部医学科衛生学・公衆衛生学分野),Dodge Hiroko(オレゴン州立大学公衆衛生学分野),東上里康司(琉球大学医学部附属病院),鄭 奎城,等々力英美(琉球大学医学部医学科衛生学・公衆衛生学分野),大屋祐輔(琉球大学医学部医学科循環系総合内科学分野),保良昌徳(沖縄国際大学総合文化学部人間福祉学科),青木一雄(琉球大学医学部医学科衛生学・公衆衛生学分野)
- 【目的】 沖縄県の健康長寿の要因を探るために,沖縄県宜野湾市在住の高齢者を対象とした調査を実施した.本発表は,その調査結果をもとに,認知機能が障害されていない高齢者の血漿ホモシステイン濃度,血清ビタミンB12 および葉酸濃度について報告する.
【方法】 2007 年11 月から2008 年2 月,沖縄県宜野湾市在住の比較的健康な大正,明治生まれの高齢者に対して,採血および認知機能に関する調査を行った.採血は,空腹時に13 ml の静脈血を採取した.認知機能に関する調査は,質問紙を用いた個別面接法によって実施した.
【倫理的配慮】 研究参加は対象者本人の自由意志により決定され,文書による同意が得られた場合,同意書に参加者あるいは代諾者に,日付の記入と署名をしてもらった.個人名や電話番号などの個人情報は,データ収集終了後,全て削除され,調査結果の解析は個人を特定できる内容を消去した状態で行った.
【結果】 参加者197 人のうち,臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating : CDR)が「0」であった人は139 人(男性:36 人,女性103 人)であり,平均年齢は84.7±3.1 歳(男性:84.8 歳,女性:84.7±3.0 歳)であった.本研究の対象者139 人および先行研究である,スイス,中国での認知機能が障害されていない高齢者における血漿ホモシステイン濃度,血清ビタミンB12 および葉酸濃度は表1 のとおりである.
【考察】 ホモシステイン濃度は,加齢と共に生成されやすくなるが,沖縄における認知機能が障害されていない高齢者は,他国での先行研究における高齢者より年齢が高いにも関わらず,血漿ホモシステイン濃度の値が低くかった.これは,ホモシステインの代謝に関与しているビタミンB12 と葉酸濃度が比較的高いことが寄与していると考えられる.ホモシステイン濃度が低いことが沖縄の健康長寿の要因の1 つとして考えられるので,今後,因果関係を含めた関連性を検討する. - BACK
- II-P-8 14:25〜14:35
- 老年期の情動関連事象関連電位のP 300 成分の特徴
- 浅海靖恵(久留米大学高次脳疾患研究所),森田喜一郎(久留米大学高次脳疾患研究所,久留米大学医学部精神神経科学教室),松岡稔昌(久留米大学医学部精神神経科学教室),小路純央(久留米大学高次脳疾患研究所,久留米大学医学部精神神経科学教室)
- 【目的】 事象関連電位のP 300 成分は,認知機能を反映する精神生理学的使用と報告されている.一般に,アルツハイマー型認知症患者様のP300潜時は延長すると報告されている.我々は,赤ん坊の「泣き」写真,「笑い」写真を標的刺激として,視覚誘発情動関連事象関連電位を研究してきた.今回,久留米大学もの忘れ外来に受診された方に,HDS-R,MMSE,CDR およびMRI の検査を実施しアルツハイマー型認知症患者様群の特性を検討したので報告する.
【対象】 久留米大学もの忘れ外来に受診された被験者18 名(74.05±5.36 歳)を対象とした.総ての被験者は,非認知症群(HDS-R が21 点以上,MMSE が24 点以上で,CDR が0 または0.5点:10 名),認知症群(HDS-R が20 点以下,MMSE が23 点以下で,CDR が1 点以上:8 名)であり,2 郡間には年齢に有意差は観察されなかった.総ての被験者は右ききで,脳梗塞,脳出血等の既往が無く,言語機能・聴覚機能にも障害はなかった.総ての被験者には,当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【方法】 日本光電NeuroFax を使用した.事象関連電位は,オドボール課題を用い,標的刺激(20%の出出現確率)として,赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を,非標的刺激(80% の出現確率)として,赤ん坊の「中性」写真を用いた.脳波は,国際10‐20 法に基づき,両耳朶を基準電極として18 チャンネル(F3,F4,C3,C4,P3,P4,O1,O2,F7,F8,T3,T4,T5,T6,Fz,Cz,Pz,Oz)から記録した.P300 成分は,Fz,Cz,Pz,Oz から最大振幅,潜時を解析した.眼球の動きは,日本光電の修正ソフトを使用し,さらに±50 μV 以上の振れは除外した.総ての被験者に,「赤ん坊の泣いている写真または笑ってい る写真が出たら直ぐ,ボタンを押し数える」ように教示した.「泣き」写真,「笑い」写真は,被験者ごと順序を変更した.P 300 振幅は,時間枠350‐600 ms の最大陽性電位とした.P 300 潜時は,P 300 最大振幅の時点とした.統計処理は,1 元分散分析およびピアソンの相関を使用,いずれも5% 以下を有意とした.
【結果】 P300 潜時は,非認知症群が,認知症群より有意に短い値であったが,両群共に「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった.P 300最大振幅は,Cz において非認知症群が,認知症群より有意に低い値であったが,両群共に「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった.「笑い」におけるP300 潜時とMMSE,HDSR,の間に有意な負の相関が,「笑い」「泣き」におけるP300 潜時とVSRAD のZ スコアーの間に有意な正の相関が観察された.「笑い」「泣き」 におけるP300 振幅とVSRAD のZ スコアーの間に有意な正の相関が観察された.
【考察】 情動関連視覚課題を用いた視覚誘発事象関連電位検査は,侵襲もほとんど無くいずれの場所でも検査が可能で認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる. - BACK
- II-P-9 14:35〜14:45
- 「しりとり」課題中の脳血流の老年者の変動
:多チャンネルNIRS を用いて - 松岡稔昌(久留米大学医学部精神神経科学教室),森田喜一郎(久留米大学医学部精神神経科学教室,久留米大学高次脳疾患研究所),山本 篤(久留米大学高次脳疾患研究所),小路純央(久留米大学医学部精神神経科学教室,久留米大学高次脳疾患研究所),内村直尚(久留米大学医学部精神神経科学教室)
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【目的】 「しりとり」課題は,日本特有であり,認知機能を反映すると報告してきた.今回,多チャンネルNIRS を用いて,課題中の脳血流変動を精神生理学的指標にして,老年健常群,軽度認知機能障害(MCI)群とアルツハイマー型認知症患者群を比較検討したので報告する.
【対象】 認知症検診およびもの忘れ外来にこられた被験者112 名(75.1±5.5 歳:平均±標準偏差)を対象とした.総ての被験者は,健常群33 名,MCI 61 名,認知症群14 名であり,3 郡間には年齢に有意差は観察されなかった.総ての被験者は右ききで,脳梗塞,脳出血等の既往が無く,言語機能・聴覚機能にも障害はなかった.総ての被験者には,当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【方法】 脳血流は,多チャンネルNIRS(日立EEG 4100)を使用し,「しりとり」課題を使用した. 脳血流は,前頭部,左右側頭部を含む46 部位法から酸化・還元ヘモグロビン値を記録した.総ての被験者に,「あいうえお」および「しりとり」の練習お行ない課題を理解された者のみ以下の検査を施行した.「あいうえお」発語時をレスト条件,「しりとり」発語時を課題条件とし,交互に30秒ずつ5 回施行した.データは,5 回の加算波形を用いて課題中(30 秒)酸化ヘモグロビンの積分値を求めた.ROI(region of interest)として,左記録部(チャネル3,8,9,11),右記録部(17.19.21.24),前左記録部(1,5,6,10),前左記録部(4,8,9,13)において解析した.検診において,54 名は久留米大学にてMRI を施行しVSRAD 解析をした.
【結果】 しりとり数は,認知症群(23.8±12.1 個),MCI(34.8±12.5 個)と健康老年群(46.5±13.8 個)で,3 郡間に有意差が観察された(認知症群>MCI>健常群).しりとり数と左3 チャネルに認知症群,MCI および健常群において有意な正の相関が観察された.HDS-R,MMSE と左3 チャネルの間に有意な正の相関が観察された.酸素ヘモグロビンの値は,左3 チャネルおよび右22 チャネルにおいて郡間に有意差が観察され,認知症群が有意に健常群より低下した.VSRAD 値は,3 郡間に有意差が観察された((認知症群>MCI>健常群).
【考察】 「しりとり」課題を用いた多チャンネルNIRS 検査は,無侵襲ですぐに被験者に画像として見せることが可能で評価もでき,認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる.
- BACK
- II-P-10 14:45〜14:55
- 海馬体積と大脳皮質下病変が認知機能に及ぼす影響
- 本間絢子,岡崎味音,中村悦子,富永桂一朗,橋本知明,野口美和,板谷光希子,塚原さち子,田所正典,穴井己理子,宇田川至,樋口 久,山口 登(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室)
- 【目的】 日常臨床上,アルツハイマー病と診断された患者において海馬萎縮性変化の他に,MRI のT 2 強調画像において高信号で示される,側脳室周囲病変(PVH)や大脳深部白室病変(DSWMH)が併存する症例が多く認められるが,各々が相加的に認知機能に影響を及ぼす可能性が推測されるが詳細不明である.そこで,MRI 画像上での海馬体積及び大脳皮質下病変と,認知機
能障害の関係について検討した.
【対象】 物忘れを主訴に外来受診し,頭部MRI 検査を施行した101 名(男性30 名,女性71,平均年齢76.6±7.3 歳,教育年数11.7±2.5),MMSE 総得点平均21.9±5.6 点である.
【方法】 (1)認知機能測定:MMSE 総得点・下位項目,及び聖マリアンナ医大式コンピュータ化記憶機能検査(STM-COMET)を施行した.STMCOMETは直後自由再生(IVR),遅延自由再生(DVR),遅延再認(DVRG),Memory scanning test(MST),emory filtering test(MFT)の5 項目からなる.(2)海馬体積の測定:volumetric MRI にて得られた画像より海馬体積(H),頭蓋内容積(C)を測定した.H,C はそれぞれAC-PC line に垂直なT 1 強調冠状断スライス及びAC-PC line に水平なT 2 強調水平断スライスにて手動測定した.(3)大脳白室病変:日本脳ドック学会ガイドライン2008 を用い,PVH・DSWMH をMRI のT 2・T 1・FLAIR 画像の水平断で,側脳室レベルの画像上で評価した.(4)統計処理:H/C・PVH・DSWMH と認知機能との関係をみるために,海馬体積には回帰分析を用い,PVH・DSWMH にはspearman の順位相関係数を用いた.また,認知機能低下をもたらす予測因子について検討するためH/C・PVH・DSWMH を独立変数とし,重回帰分析を施行した.
【倫理的配慮】 本研究は聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認を得ており,対象者においては,本研究の趣旨を文章及び口頭により説明し,同意を得た.
【結果】 (1)海馬体積は認知機能と強い相関が示され,特に見当識・言語記憶機能(再生機能と遅延再認機能)と関連する.(2)大脳皮質下病変のうち脳質周囲病変は言語記憶機能及び精神的敏捷性と関連する.しかし,いずれの関連性も海馬体積より低い.(3)大脳皮質下病変のうち大脳深部白質病変は認知機能と関連しない.
【結語】 海馬萎縮性変化が特徴的なアルツハイマー病では脳室周囲病変が併存することで,より記憶機能・認知機能低下は重症化しやすい事が推測される.
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- 14 : 15〜15 : 05 展示ホール
- MCI とスクリーニング
- 座長: 玉井 顯(医療法人敦賀温泉病院)
- II-P-11 14:15〜14:25
- MCI およびAD の早期鑑別に関する神経心理学的検査の有用性
- 加藤佑佳,小海宏之(藍野病院臨床心理科),岸川雄介,園田 薫,安藤悦子,石井 博(藍野病院老年心身医療センター)
- 【目的】 Alzheimer’s Disease(AD)の前駆状態として近年注目されているのが,記憶障害を主とするMild Cognitive Impairment(MCI)である.そこで,本研究では神経心理学的検査を用いてMCI とAD を対象に両者の認知機能障害の特徴を捉え,さらに,AD の指標となりうる検査項目を抽出して両者の鑑別にとって有用な神経心理学的検査について検討することを目的とする.
【対象と方法】 対象はMCI 群14 名(平均年齢73.6±7.2 歳),AD 群33 名(平均年齢77.7±7.7 歳)である.方法は対象者にWechsler Memory Scale-Revised(WMS-R),Mini-Mental State Examination(MMSE),Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive part(ADAS-cog.),Trail Making Test(TMT),Clock Drawing Test(CDT)を施行した.CDT はCommand とCopy を行い,一部修正したRoyall らのCLOX 法によって評定した.そして,WMS-R の5 つの各領域の合成得点及び13 下位検査の各得点,MMSE の総得点及び10 下位項目の各得点,ADAS-cog.の総失点及び11 下位項目の各失点,TMT のpart A 及びpart B の各エラー数,CDT の各総得点と「数字を書く順序」,「数字の欠落」の項目での各得点に関してMann-Whitney のU 検定によって両群間での比較を行った.また,WMS-R では遅延再生課題での完遂の可否と各指標における算出不能(指数50 未満)者の出現頻度,TMT では各パートの完遂の可否,CDT では上述した2 項目を除いた各18 下位項目での正誤の出現頻度に関してFisher の直接法によって両群間での比較を行った.TMT の各パートの平均所要時間についてはt 検定によって両群間での比較を行った.さらに,群を基準変数,WMS-R の各領域の合成得点,MMSE 総得点,ADAS-cog. 総失点,TMT 総得点,CDT の各総得点を説明変数として強制投入法による正準判別分析を行った.なお,TMT 総得点はpart A 通過を1 点,part B 通過を2 点 として算出した.
【倫理的配慮】 本研究を実施するにあたって,患者ないし家族に主旨説明がなされ了解を得た.
【結果】 両群間で有意差がみられたのは,WMSR では言語性記憶,視覚性記憶,一般的記憶,注意・集中力,遅延再生における各合成得点,情報と見当識,論理的記憶,視覚性対連合,言語性対連合,視覚性再生,視覚性記憶範囲,論理的記憶(遅延),視覚性対連合(遅延),言語性対連合(遅延),視覚性再生(遅延),MMSE では総得点,見当識,注意と計算,再生,口頭従命,文章構成,ADAS-cog. では総失点,単語再生,口頭命令,観念運動,見当識,TMT ではpart A のエラー数,part A とpart B の各平均所要時間であり,いずれもMCI 群に比してAD 群で成績が低かった.CDT ではCommand とCopy の各総得点,「数字を書く順序」の各得点,「時計のように見える」,「数字の間隔が正常である」,「数字の順番は正常である」,「針2 本が正位置にある」,「時針が11 と12 の間にある」,「分針が時針より長い」で,Command のみでは「数字の欠落」の得点,「外円がある」,「直径が2.5 cm 以上ある」,「全ての数字が円内にある」,「針先が矢印等で統一されている」,「10 を指す針がある」,「18〜20 の項目(10 を指す針がある,11 時10 分と書く,文字や単語・絵を描く)に当てはまらない」であり,MCI 群に比してAD 群で時計描写における構成の崩れが示唆された.また,WMS-R の遅延再生課題とTMT のpart B の完遂の可否では,MCI 群に比してAD 群で完遂できた被検者数が有意に低く,視覚性記憶指標ではAD 群で有意に指標の算出不能者が多かった.また,判別分析の結果,正準相関係数は0.78(p<.05)と高い相関がみられ,判別的中率は全体として96.0% と高い的中率が得られた.標準化された正準判別関数係数はCommand 総得点1.15,遅延再生0.70,ADAScog.総失点−0.59,視覚性記憶−0.42,言語性記憶−0.36,注意・集中力0.36,TMT 総得点−0.29,Copy 総得点−0.28,MMSE 総得点−0.11,一般的記憶0.00 となった.
【考察】 MCI 群に比してAD 群では,記憶の保持及び再生能力や視空間認知構成能力,遂行機能における低下,失見当識が示唆された.また,CLOX 法によるCommand CDT は両群の判別に最も高く寄与し,認知機能の脆弱性を早期に捉える検査として有用であると考えられる.今後は,VSRAD 解析の結果も含めて,本研究で得た知見に検証を加えていくことが課題である. - BACK
- II-P-12 14:25〜14:35
- HDS-R の信頼性,妥当性,カットオフ値の再検討
;CDR,ADAS-jcog を用いて - 川合嘉子,滑川瑞穂(鶴川サナトリウム病院),今井幸充(日本社会事業大学大学院),本間 昭(前・東京都老人総合研究所)
- 【目的】 長谷川式認知症スケール(HDS-R)は代表的な認知症スクリーニング検査であり,多くの臨床現場で活用されている.しかし開発時の対象者に高度認知症を含み,スクリーニング検査としてはデータの幅が広いことが指摘できる.また発表から18 年が経過し,軽度認知症診断のニーズがより高まっており,再検討の余地がある.本研究は,HDS-R の信頼性,妥当性,カットオフ値の再検討を目的とし,対象者を軽度認知症までに限定して分析を行う.
【対象と方法】 対象:A 病院外来患者104 名.アルツハイマー型認知症43 名,脳血管性認知症6 名の合計49 名を認知症群とし,認知症や他の精神疾患でない者55 名を対照群とした.
【方法】 評価尺度は,基本的属性,教育年数,DSM-,HDS-R,CDR,ADAS-jcog であり,医師及び臨床心理士が評価した.
【分析】 統計パッケージはエクセル統計2008 を使用し,各種統計的分析を行った.倫理的配慮として,データは匿名化し数量的に分析した.
【結果】 全体では,男性30 名,女性74 名,平均年齢77.13 歳,平均教育年数12.05 年,平均HDSR得点20.42 であった.対照群と認知症群間には,年齢,性別,教育年数に有意な差はみられなかった.
【信頼性】 クロンバックα 係数は0.79 であり,一定の内的整合性が確認された.対照群ではHDS-R 得点と年齢に有意な相関を認めたが(r=−0.37,p<0.01),認知症群にはみられなかった.両群とも教育年数との相関は認めなかった.
【妥当性】 HDS-R 得点とCDR 及びADAS-jcog との間には有意な相関がみられ(CDR rs=−0.74,p<0.01,ADAS-jcog r=−0.77,p<0.01),高い並存的妥当性が確認された.対照群は認知症群よりもHDS-R 得点が有意に高く(Z=5.38,p<0.01),重症度別に比較するとCDR 0,0.5,1 の各群間に有意な差がみられた(χ(2 2)=39.0,p< 0.01)
【カットオフ値】 感度・特異度・有効度を表に示した.カットオフ値20/21 がROC 曲線下の面積が最も大きくなったが(Az=0.73),スクリーニング検査としては感度が低い結果となった.
【考察】 HDS-R の信頼性と妥当性が確認された.対照群における年齢との相関はMMSE 等,他の認知症スクリーニング検査に比べると低く,安定性の高さを裏付けている.一方,カットオフ20/21 における感度の低下は近年の研究(Ijuin,2008)と一致し,今回は感度,特異度,有効度とも70% 以上を示すカットオフ値は算出できなかった.スクリーニング検査としてのHDS-R 得点解釈には注意が必要といえ,軽度認知症診断に用いる神経心理学検査はHDS-Rのみでは不十分であり,ADAS-jcog,COGNISTAT 等,より負荷が高く詳細なアセスメントツールが推奨される.本研究の限界は,性別,年齢にデータの偏りがあること,DSM-診断を重視しMCI 概念は反映させなかったことが挙げられ,今後データを集積し,更なる検討を行いたい. - BACK
- II-P-13 14:35〜14:45
- 認知機能検査データの解析による認知症スクリーニングの検討
- 児玉直樹(高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科),川瀬康裕(川瀬神経内科クリニック)
- 【目的】 現在,認知症疾患の診断にはさまざまな認知機能検査が使用されているが,これらは現在でも紙ベースで実施されており,統計処理や時系列解析を行うことが困難である.また,非薬物療法や薬物療法などの効果判定を行うためにも,これら検査結果の電子化が必要である.このため,我々はMMSE やCDR などの認知機能検査を電子化し,介入効果の判定可能な認知機能データベースを開発した.本研究では認知機能データベースに蓄積された認知機能検査データを解析し,認知症のスクリーニングが可能かどうか検討した.
【対象と方法】 本研究の対象は,物忘れを主訴として(医)川瀬神経内科クリニックを受診し,MMSE,かなひろいテスト,CDR,VSRAD の全てを実施し,認知機能データベースにデータ登録された1,647 名である.CDR ごとにMMSE,かなひろいテスト,VSRAD について評価した.統計学的検討はSPSS 12.0 にて行い,一元配置の分散分析により有意差が認められた場合には群間比較としてBonferroni の方法を用いた.有意水準は5% とした.
【倫理的配慮】 データベースに蓄積されたデータに対して連結不可能匿名化を行い,解析者等が個人を特定できないよう配慮した.
【結果】 MMSE はCDR 0 とCDR 0.5 との間で有意な差が認められなかったが,他の群間では全て有意な差が認められた.かなひろいテストは,CDR2 とCDR3 との間で有意な差が認められなかったが,他の群間では全て有意な差が認められた.VSRAD はCDR 0.5 とCDR 1 との間で有意な差が認められなかったが,他の群間では全て有意な差が認められた.さらに,MMSE の想起と計算,想起と時の見当識の組み合わせにおいては全ての群間で有意な差が認められた.
【まとめ】 VSRAD,MMSE の想起と計算,想起と時の見当識の組み合わせは認知症のスクリーニングに有用であることが示唆された.
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- II-P-14 14:45〜14:55
- The Montreal Cognitive Assessment の復唱課題
;MCI におけるMMSE の復唱課題の結果との比較に基づく検討 - 安永正史,鈴木宏幸,杉山美香,佐久間尚子,伊集院睦雄,稲垣宏樹,岩佐 一,宇良千秋,矢冨直美,大渕修一(東京都健康長寿医療センター研究所),本間 昭(前・東京都老人総合研究所),藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 【目的】 現在,軽度認知機能低下者(MCI)のスクリーニングテストthe Montreal CognitiveAssessment 1)(MoCA)の日本語版を作成中である.ここで使用する復唱課題の有効性の検討を行う.
【方法】 対象者:健常群(CDR=0)52 名(平均年齢74.6 歳),MCI 群(CDR=0.5)23 名(平均年齢77.6 歳),軽度認知症群(CDR=1)22 名(平均年齢77.8 歳).MCI 群と軽度認知症群は2008年5 月から2009 年2 月の期間に東京都老人医療センターのもの忘れ外来を受診した患者.健常群は研究のモニターボランティアであった.復唱課題:Nasreddine らに許可を取り日本語に翻訳して作成した.翻訳では英語版の統語的な複雑さの維持と平易な単語の使用に注意を払った.全2問中1 文が5 文節,もう1 文が9 文節構成であった.手続き:MMSE の復唱課題に続けて日本語版MoCA の復唱課題も実施した.教示では,検査者が読みあげた短い文を読んだとおりに正確に繰り返して言うように対象者に求めた.
【倫理的配慮】 調査結果のデータの使用について対象者全員の同意が得られた.
【結果と考察】 得点化:1 文全て一字一句正確に復唱できて正答とし1 点と数えた.Table 1 は,MMSE とMoCA の復唱課題の平均得点と標準偏差を示したものである.MMSE の復唱,MoCAの復唱(5 文節),MoCA の復唱(9 文節),MoCAの復唱合計のそれぞれにおいて,Kruskal Wallisの検定を用いて平均値の差の検定をおこなったところ全て有意であった.そこでライアン法を適用してMann−Whitney の検定をおこなった.その結果,MMSE の復唱においては健常群と軽度 認知症群の間に有意差が見られた.また,MoCAの復唱課題の結果については,いずれも健常群とMCI 群,健常群と軽度認知症群の間に有意な差が見られた. 以上の結果から,日本語版MoCA の復唱課題が健常者とMCI・軽度認知症群との判別に有効であることが示唆された.さらに,興味深い点としてとりあげたいのが,MCI 群が同じ5 文節構成のMMSE の復唱課題はできて,MoCA(5 文節)では得点を落としていたことである.誤りの傾向を見ると主格助詞の「が」を「は」と間違えて再生する例が多かった.したがって,MoCAの結果には,言われたことを注意深く聞き取る能力,すなわち注意機能が影響していた可能性が高く,MCI・軽度認知症群のこの機能の低下が点数の低下につながったと考えられる.
【文献】 1)Nasreddine ZS et al. J. Am. Geriatr.Soc, 53 : 695-699, (2005) - BACK
- II-P-15 14:55〜15:05
- The Montreal Cognitive Assessment における5単語遅延再生課題の有効性の検討
- 鈴木宏幸,安永正史,杉山美香,佐久間尚子,伊集院睦雄,稲垣宏樹,岩佐 一,宇良千秋,矢冨直美,大渕修一(東京都健康長寿医療センター研究所),本間 昭(前・東京都老人総合研究所),藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 【目的】 認知症のスクリーニング検査として使用されるMMSE やHDS-R では,記憶検査として3 単語の遅延再生課題が用いられている.しかし,軽度認知機能低下者(MCI)にとっては難易度が低いため,MCI をスクリーニングするためには,より記憶負荷の高い記憶課題が必要となる.Nasreddine ら(2005)1)はMCI スクリーニング検査としてThe Montreal Cognitive Assessment (MoCA)を開発し,高難度の記憶課題として5 単語の遅延再生課題を用いている.健常高齢者における単語の記憶スパンの平均が約4.5 語であることから(Bopp ら,2005)2),記銘単語を5 つにすることはMCI の早期発見に有効であると考えられる.そこでMoCA で用いられている5 単語の遅延再生課題の有効性について検討を行った.
【方法】 対象は,MCI 群(CDR=0.5)17 名(平均年齢76.2 歳),軽度認知症群(CDR=1)17 名(平均年齢78.0 歳),健常群(CDR=0)44 名(平均年齢74.1 歳)とした.MCI 群,軽度認知症群は2008 年5 月から2009 年2 月の期間に東京都老人医療センターのもの忘れ外来を受診した患者であり,健常群は研究のモニターボランティアであった.5 単語遅延再生課題:教示や手続きはNasreddine らに許可を取り,翻訳し使用した.記銘材料となる単語については彼らの使用した単語と同様のカテゴリーの中から,日本語の音節数と頻度を考慮した5 つの単語を選定した.手続き:5 つの単語を1 秒につき1 つ口頭で呈示し,直後に口頭にて全て再生するように求めた.そして再生の成否に関わらず,再び口頭で単語を呈示し,またその直後に再生するよう求めた.その後,干渉課題を5 分間行い,単語の再生を求めた.本研究では5 単語遅延再生課題の他に,MMSE,7-Minute Screen(Solomon,1998)3)を行った.それぞれの検査の記憶課題(3単語遅延再生,16項目のEnhanced Cued Recall : ECR)の成績と5単語遅延再生の成績を比較し分析を行った.
【倫理的配慮】 検査結果に関するデータの使用について,対象者全員に同意が得らえている.
【結果】 各課題の採点は,1 単語正答につき1 点とした.5 単語遅延再生課題の平均得点は,MCI 群で1.06 点,軽度認知症群で0.53 点,健常群で3.36 点であった.それぞれの記憶課題の成績には高い相関関係がみられた.また,軽度認知症群の検出にはいずれの課題も同様に高い感度・特異度であったのに対し,MCI 群の検出では5 単語遅延再生で感度91%,特異度71%(Cut Off=1/2),3 単語遅延再生では感度77%,特異度76%(Cut Off=2/3),ECR では感度79%,特異度71%(Cut Off =15/16)であった.
【考察】 5単語遅延再生課題はMCI の検出において高感度であったことから,簡便かつ有用な記憶課題であるといえる.特異度が低下する背景と合わせ,MCI がどのような記憶課題に敏感なのかを今後も引き続き検討する必要がある.
【文献】 1)Nasreddine ZS et al. J. Am. Geriatr. Soc,53 : 695-699, (2005)
2)Bopp KL. Verhaeghen P. J. Gerontol. B Psychol. Sci. Soc. Sci. 60 : P 223-P 233 (2005)
3)Solomon PR et al. Arch. Neurol, 55 : 349-355 (1998) - BACK