- 15 : 30〜16 : 00 展示ホール
- 地域での試み
- 座長: 粟田主一(東京都健康長寿医療センター研究所自立促進と介護予防研究チーム)
- I-P-1 15:30〜15:40
- 街ぐるみ認知症相談センターにおけるタッチパネル式スクリーニング機器による認知症早期発見の試み
- 石井知香,根本留美(日本医科大学老人病研究所街ぐるみ認知症相談センター),若松直樹(桜美林大学加齢・発達研究所),野村俊明(日本医科大学基礎科学・心理学),北村 伸,宗像一雄(日本医科大学武蔵小杉病院内科),川並汪一(日本医科大学老人病研究所)
- 【目的】 我々は地域において,気軽に“もの忘れ”などの不安に対応することで,認知症の早期発見を意図した「認知症相談センター」を実践している(H 19 年文科省社会連携研究推進事業).ここでは,認知症専門医のほかに,相談者の「かかりつけ医」の存在を重視し,かかりつけ医による早期治療介入を意識している.今回は事業開始約1年を経過した状況を報告し考察を加える.
【方法】 対象は,平成19 年12 月から平成20 年12 月までに街ぐるみ認知症相談センターへ相談に訪れた495 名(平均年齢,男性74.6±9.0 歳,女性74.1±8.9 歳).相談者は問診の後,鳥取大学医学部浦上教授考案の「タッチパネル方式もの忘れチェックシステム(15 点満点,以下TP)」やその他の検査を実施した.また,臨床心理士が生活状況を聴取し,かかりつけ医に対する情報書を作成し,受診時に持参することを促した.かかりつけ医には治療方針の返信を依頼し,これらが円滑に展開されることで,認知症支援の地域ネットワークの確立を目指す.さらに,半年ごとに相談者へ連絡をとり,再検査とインタビューを継続している.
【倫理的配慮】 目的・方法・個人情報管理等,研究に関わる必要事項については,日本医科大学倫理委員会の承認を得た.
【結果】まず,全体でのTP の平均得点は11.6±3.8 点であった.TP 得点が12 点以下であった場合にはMini Mental Examination(MMSE)を実施したが(195 名),この群での平均TP 得点は8.6±3.1 点,平均MMSE 得点は24.3±4.3 点であり,Spearman の相関係数は.57(p<.01)であった.次に,半年後にTP を再検査できた69例全体でのTP 得点は,12.0±3.6 点から11.7±3.5 点へと有意な変化は認められなかった.なお,臨床心理士による情報書作成は184 件あり,うち,医療的介入が行なわれたものは96 件(52.2%)であった.そのうち,かかりつけ医によって治療が開始されたものは70 件(72.9%)であった.
【考察】 TP のカットオフ値とされる12 点を基準として,12 点以下群のMMSE 平均得点は,MMSE のカットオフ値とされる得点に概ね一致した.なお,中等度の相関を認めるもののやや脆弱であったが,これはTP の操作ミスや教示が聴き取れないことからTP 得点が低下する事例の存在によるとみられる.単独で検査を施行できるというTP の利点も過信できない面があり,実施上のサポートやプログラムの改良も必要と思われた.また,TP の経時的測定には半年以上の時間が必要と思われる.医療との連携では,かかりつけ医による認知症治療の開始もみられ,地域ネットワークの推進,確立へ第一歩を踏み出せたと考えている.
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- I-P-2 15:40〜15:50
- 一地域における公的認知症相談事業と民間精神科病院の連携について
- 近藤 等(医療法人朋心会旭山病院)
- 【目的】 地域における認知症の啓蒙・早期発見早期治療・医療機関への受診の促進は全国的に取り組まれている課題である.しかし地域によっては認知症に関する医療資源の乏しい中で困難に面している.演者の所属する地域も専門医・専門医療機関のいずれも少ない中で,公的認知症相談事業が行われ,相談医として相談を受けることと専門医療機関への紹介を求められる.実態の把握が今後の地域における認知症対策に重要と考える.
【方法】 演者が相談医として参加した公的認知症相談事業(2005 年度〜2008 年度)の人数・診断・紹介先医療機関等の統計をとる.
【倫理的配慮】 個人情報の保護等に十分配慮し報告する. 【結果】 2005 年度は県が市町村を指導する事業として1 地区(2 町)の相談事業にのみ参加した.相談は計8 回,24 人で大半が相談後,演者の勤務する当院外来受診となった.年度毎に県が指導する地域を移動し,それまで指導を受けた市町村が独自事業として行うことになるため,相談対象地域は年々増加する.2008 年度は県の指導地域が1 ヶ所(1 町),市町村の独自事業が4 ヶ所となり,計20 回,60 人となり,やはりその大半が相談後,当院外来受診となった.
【考察】 公的認知症相談事業で相談医として相談を受けた対象を,その後,自分の勤務する民間医療機関につなげることに当初,演者としては利益誘導と受け取られかねないのではないか,など抵抗感が強かった.しかし,他にとりあえず結び付けやすい医療機関がないことと,なにより行政側がそれでよしとしている姿勢があり,引き受けていくしかない.しかし今後も相談対象地区が増えていくと相談医としてもフォローアップ医療機関としても負担が増すばかりである.相談対象地区が増えることで当院からかなり遠方の地域もでてきたこと,当院は画像診断設備を持たないため,画像検査をしてもらえる医療機関にも負担をかけるなどの問題点もある.当地域が特殊な状況なのか,解決の妙案はないのか,実情を報告しながら考察を加える.
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- I-P-3 15:50〜16:00
- 健常及び軽度認知障害地域住民を対象としたリハビリ的方法による認知症予防前向き研究
;なかじまプロジェクト - 菅野圭子(佛教大学保健医療技術学部),横川正美(金沢大学医薬保健研究域保健学系),柚木颯偲,堂本千晶,吉田光宏,浜口 毅,柳瀬大亮,岩佐和夫(金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学),駒井清暢((独立行政法人)国立病院機構医王病院神経内科),山田正仁(金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学)
- 【目的】 本研究は,健常者および軽度認知障害者(MCI)に対して認知症予防を目的にリハビリ的方法を用いることが効果的かどうか検討することを目的とした.
【対象と方法】 予備研究:平成18 年度にN 地区で金沢大学大学院脳老化・神経病態学(神経内科学)により実施された脳健診受診者のうち,明らかな脳疾患を有する者,および臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating ; CDR)1 以上の者を除いた379 名に研究参加を募り,参加を希望され書面にて同意を得られた29 名(年齢72.2±7.1 歳)を対象者とした.対象者を無作為に認知プログラム(n=12)と運動プログラム(n=17)に振り分けた.認知プログラムは実行機能を重点的に高めるためのプログラム(地図・自助具作成)を,運動プログラムは有酸素運動を取り入れたプログラム((1)体調確認(2)準備運動(3)ウォーキング(4)柔軟体操)を毎週1 回約1 時間,合計14 回実施した.プログラムの前後に認知機能(ファイブ・コグ),身体機能,非認知機能の評価を実施し効果判定指標とした.
【本研究】 平成18 年度,19 年度の脳健診受診者のうち,明らかな脳疾患を有する者,およびCDR1以上の者を除いた838 名に研究参加を募り,参加を希望され書面にて同意を得られた37 名(年齢73.8±5.2 歳)を対象者とした.コントロールは,グループデイ(概ね65 歳以上で,週1回以上自主的に運営し活動するグループ)参加者に本研究趣旨を説明し協力を書面にて得られた13 名(年齢72.5±3.2 歳)とした.対象者を無作為に認知プログラム(n=21)と運動プログラム(n=16)に振り分け,毎週1 回約1 時間,合計8 回実施した.
【倫理的配慮】 予備研究および本研究は,金沢大学医学倫理委員会の承認を得た.
【結果】 予備研究:参加後認知機能の記憶(12.0→16.5,p<0.01)と言語流暢性(13.7→16.2,p<0.05)に有意な改善が認められた.プログラム間で比較すると,両プログラムで記憶の改善が認められた一方,認知プログラムでは言語流暢性にも改善が認められた.
【本研究】 コントロール群に参加後有意に改善した認知機能項目はなかったが,参加群には記憶(11.7→15.0,p<0.01)および視空間認知(5.8→6.5,p<0.05)に有意な改善が認められた.プログラム間で比較すると,両プログラムで記憶の改善が認められた一方,認知プログラムでは視空間認知にも改善が認められた.
【考察】 リハビリ的介入によりコントロール群では認められなかった記憶機能の改善が認められ,認知症予防におけるリハビリ的介入の有効性に関する一定の見解を提示できたと考える.プログラムの内容による学習効果(認知プログラム:実行機能・視空間認知,運動プログラム:身体機能)の違いがみられる一方で,両プログラム共に記憶の改善を認めており,記憶機能改善の機序を含め,今後さらに検討を進めていきたい.
【結論】 認知機能あるいは運動プログラムによるリハビリ的介入は健常あるいはMCI レベルの地域住民の記憶機能を改善させる.
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- 15 : 30〜16 : 00 展示ホール
- 告知関連
- 座長: 堀 宏治(昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター精神科)
- I-P-4 15:30〜15:40
- リハビリテーションによるターミナルがん患者の自尊感情の変化の検討
- 佐藤大介(神奈川県立保健福祉大学)
- 【背景】 がんの疾患やその治療から受ける心身の衝撃や不安は極めて大きく,患者は心身共に強いストレスを抱えていることが多い.特に日常生活に関して,それまでと同じような生活を送ることは難しくなり,必然的に生活の変更を迫られる.今までできていたことができなくなるという喪失感に加え,死が目前に迫りだすと患者の落胆と葛藤ははかりしれないものとなる.そのため,患者のケアとして,医学的治療や機能的改善を目指したリハビリテーションだけでなく,心理社会的支援が重要となる.こうした心理社会的支援に考慮すべきことして作業機能状態に関する自己認識やセルフエフィカシーが注目されており,こうした関わりを通して作業療法士が果たしていく役割は大きいものと思われる.
【目的】 緩和ケア病棟に入院している終末期がん患者の作業に関する自己評価とセルフエフィカシーが,作業療法士の関わりによりどのように変化するのかを検討する.
【方法】 対象者は,緩和ケア病棟に入院中でがんと診断され告知を受けている,面接調査に耐えうる体調である,認知障害・意識障害等による意思疎通に問題がない患者とした.医師の処方の基に個別作業療法を実施し,作業療法介入の前後に作業に関する自己評価と末期がん患者のセルフエフィカシー尺度を用いた調査を行った.また,必要に応じてカルテからの情報収集を行った.本研究の実施病院は1 施設であり,実施病院の倫理審査委員会の承認を得た後,対象者に文書に沿って内容を説明し,文書で同意の得られた対象者にのみ実施した.
【結果と考察】 全対象者97 名のうち,状態が重篤である,重度の認知障害や意識障害があるなどの理由による不適格者が32 名いた.適格条件を満たした者は65 名で,このうち45 名から研究協力の同意が得られた.その後,2 回目の調査時に状態悪化による脱落が5 名,死亡による脱落が4 名あったため,最終的に36 名からデータが得られ,最終的な分析対象者とした.調査の結果,作業に関する自己評価における環境の要素,末期がん患者のセルフエフィカシー尺度における日常 生活動作に対する効力感において改善が認められた.このことにより,環境面に配慮した作業遂行機能状態の認識や満足度,患者の情緒状態に対するセルフエフィカシーを支え,高めていくことが必要であり,その上で患者が日常生活を前向きに行えるよう支援していくことが,終末期がん患者の心理的な適応,QOL の向上に有効であることが示唆された.
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- I-P-5 15:40〜15:50
- 認知症の告知や治療に対する市民と医師の意識比較
- 北村由美子,高橋 恵,重田千紗子,肝付 洋,中島啓介,油谷元規,宮岡 等(北里大学東病院)
- 【目的】 わが国では急速な高齢化社会の進展と高騰する医療費の問題から,高齢者への医療提供の問題が議論されるようになってきた.なかでも認知症患者に対してどこまで高度医療を提供するかは現在議論のわかれる問題であろう.そこで一般市民と地域のかかりつけ医の認知症患者に対する医療への意識を比較する調査を実施した.
【方法】 2006 年から2007 年に演者らの実施した認知症に関する講演に来場した一般市民と医師向けの認知症に関する研修会に参加した地域のかかりつけ医に,認知症患者への病名告知,治療決定権,希望する(または実施する)治療内容に関するアンケート調査を行った.92 名の市民と83 名の医師からアンケートの回答が得られた.回答者の平均年齢は市民64.6 歳,医師52.8 歳で男女比(男性/女性/不明)は30/60/2,63/8/12 であった.告知,治療に関しては認知症の重症度別に賛否を尋ね,賛成した項目数を合計し,その差をU 検定で比較した.治療に関する意思尊重に関しては,本人の意思優先,家族の意思優先,両者を勘案の3 群にわけ,χ2 検定を実施した.
【倫理的配慮】 本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を得て実施された.またアンケートは匿名で実施された.
【結果】 告知に関しては医師が積極的(U=2,624,p<0.001)傾向にあった.治療に関する意思決定では医師が家族の意向を尊重する傾向が強いのに対して市民では両者の意見を勘案する傾向が強かった(χ2=20.3,p<0.001).悪性腫瘍,透析,骨折への手術,急変時の心肺蘇生に関しては医師がやや積極的な傾向があったが,有意差は認められなかった.延命治療をしないでほしいとの本人の意思が確認できた場合の延命治療に関しては認知症が軽症,中等症,重症ともに市民のほうが実施すべきと考える医療行為は有意に少なかった(U=1,774,p<0.001;U=1,975,p<0.001;U=2,068,p<0.001).
【考察】 今回の調査では告知や治療への認知症患者本人の参加に対する意識に医師と市民で意識の違いが認められた.また延命治療を希望していない場合の治療に関しては市民より医師が必要と考えている項目数が明らかに多かった.特に後者に関しては,延命治療を積極的にするという医療の使命に対して,延命治療をしないことに対する法律的な裏づけがないことも関係しているかもしれない.このような議論をタブー視することなく,多様な意見を聞きながらコンセンサスを得ていく作業が必要と考えられる.今回の調査は対象数が少なく,両群の年齢や性別に関する背景が異なるという限界はあるものの今後の議論の基礎資料としては意義あるものと考える.
【謝辞】 本調査にご協力いただいた皆様に深謝いたします.
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- I-P-6 15:50〜16:00
- 認知症の告知や治療に対する介護スタッフと医師の意識比較
- 重田千紗子,高橋 恵,北村由美子,大石 智(北里大学医学部精神科学),新井久稔(医療法人興生会相模台病院精神神経科),高井美智子(北里大学院医療系研究科),宮岡 等(北里大学医学部精神科学)
- 【目的】 わが国では急速な高齢化社会の進展と高騰する医療費の問題から,高齢者への医療提供の問題が議論されるようになってきた.なかでも認知症患者に対してどこまで高度医療を提供するかは現在議論のわかれる問題であろう.そこで介護施設スタッフと地域のかかりつけ医の認知症患者に対する医療への意識を比較する調査を実施した.
【方法】 2006 年から2007 年に演者らの実施した介護実践者研修に参加した介護施設スタッフと医師向けの認知症に関する研修会に参加した地域のかかりつけ医に,認知症患者への病名告知,治療決定権,実施すべきと考える治療内容に関するアンケート調査を行った.77 名の介護施設スタッフと83 名の医師からアンケートの回答が得られた.回答者の平均年齢は介護施設スタッフ42.7 歳,医師52.8 歳で男女比(男性/女性不明)は20/57/0,63/8/12 であった.告知,治療に関しては認知症の重症度別に賛否を尋ね,賛成した項目数を合計し,その差をU 検定で比較した.治療に関する意思尊重に関しては,本人の意思優先,家族の意思優先,両者を勘案の3 群にわけ,χ2 検定を実施した.
【倫理的配慮】 本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を得て実施された.またアンケートは匿名で実施された.
【結果】 告知に関しては医師,介護施設スタッフともに軽症または中等症まで積極的告知する傾向で両群に差を認めなかった.治療に関する意思決定では医師が家族の意向を尊重する傾向が強いのに対して介護施設スタッフでは両者の意見を勘案する傾向が強かったが,有意差は認めなかった.悪性腫瘍,透析,骨折への手術,急変時の心肺蘇生に関してはともに積極的な傾向があったが,骨折への手術や急変時の心肺蘇生に関しては介護施設スタッフのほうが優位に積極的に実施すべきと考えていた(U=2,471,p=0.02;U=2,448,p=0.02).延命治療をしないでほしいとの本人の意思が確認できた場合の延命治療に関しては認知症が軽症,中等症,重症と進行するに従い実施すべきと考える医療行為数は減少していったが,施設介護スタッフと医師の間で有意差は認められなかった.
【考察】 今回の調査では告知や治療への認知症患者本人の参加に対する意識に施設介護スタッフと医師で大きな意識の違いは認められなかった.また延命治療を希望していない場合の治療に関しては重症になるにつれ項目数は減少していった.現在,介護現場では,延命治療をどこまで行なうかに関するコンセンサスがなく個別に模索している状況である.このような議論をタブー視することなく,多様な意見を聞きながらコンセンサスを得ていく作業が必要と考えられる.今回の調査は対象数が少なく,両群の年齢や性別に関する背景が異なるという限界はあるものの今後の議論の基礎資料としては意義あるものと考える.
【謝辞】 本調査にご協力いただいた皆様に深謝いたします.
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- 15 : 30〜16 : 00 展示ホール
- 外来患者の動向
- 座長: 一瀬邦弘(東京都保健医療公社豊島病院)
- I-P-7 15:30〜15:40
- 平成19 年度の一地方精神科病院の初診患者の動向と認知症
- 河野次郎,二宮嘉正,川添伸一,山下賀生,戸松良孝,桑原五美,堀 徹也,堀 弥生,内田みつ江(医療法人向洋会協和病院),三山吉夫(社団法人八日会大悟病院老年期精神疾患センター)
- 【はじめに】 我々は当院の平成19 年度の初診患者全員について年齢,性別,主訴,主病名,認知症の有無,診療情報提供の有無など,一地方病院の精神科外来における認知症患者の動向を調査した.更に,知能検査や頭部画像検査を施行し得た例を対象に,脳の萎縮や脳血管障害の合併の有無を評価し,日常診療における認知症の診断について考察したので報告する.
【調査結果】 平成19 年度の初診患者数は476 人であり,そのうち65 歳以上の高齢者の割合は352 人(73.9%)であった.認知症の患者数は288人であり,全初診患者の60.5% を占め,65 歳以上の77.6% を占めた.認知症の鑑別ではアルツハイマー型が58.3%,脳血管型が33.3% であり,頭部画像検査で脳梗塞や硬膜下血腫などの認知症から独立した異常が認められたものは40.2% であった.認知症を疑われた平均年齢は78.6 歳,初診時の平均年齢は81.4 歳であった.認知症を疑われてから当院を初診するまでに平均2.8 年が経過していた.認知症の初診患者の31.3% は他の診療科からの紹介であり,その多くは内科であった.認知症の患者のうち130 例(45.1%)は介護保険未申請であった.
【結語】 認知症は近年急激に増加しており,精神科に限らず,様々な機関がその対応に迫られている.認知症疾患センターを持つ当院では,初診患者の7 割以上が高齢者となり,約6 割が認知症で,BPSD への対応に追われている.当院で可能な頭部画像検査はCT スキャンのみであるが,その有用性は限定的であることを再認識した.ここに示した結果は,今後地域へ還元し,認知症をめぐる地域連携の一助として役立てるようにしたい.
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- I-P-8 15:40〜15:50
- 診察医の専門科による認知症性疾患の診断傾向の差について
- 古田 光,細田益宏,秋元和美,中島さやか,山田健志(独立行政法人東京都健康長寿医療センター精神科)
- 【目的】 当院もの忘れ外来は精神科,神経内科,一般内科の医師が共同で運営しているが,各科で統一した診療を行うための指針はないのが問題点と考える.各科での診療態度の差を明らかにするため,専門科別に診断傾向に差異がないかを検討する.
【方法および対象】 平成20 年1 月1 日〜12 月31 日の1 年間に当院もの忘れ外来を初診した患者548 名(男性172 名,女性376 名,30〜96 歳,平均年齢79±8 歳)を初診医の専門科により分類し,診断名の傾向に差異がないかを検討した.
【倫理的配慮】 データ処理についてはプライバシーに配慮し,患者が特定できないようにした.
【結果および考察】 初診時の診断内訳(重複あり)では全体ではアルツハイマー型認知症(AD)が65.3% と過半数を占めており,正常とされたものが13.7%,軽度認知障害(MCI)が8.9%,血管性認知症が5.5% であった.初診医の専門科別では精神科群347 名(63.3%),神経内科群139 名(25.4%),内科群62 名(11.3%)であった.各群別での初診時診断内訳は精神科群AD 68.6%,VD 6.1%,MCI 6.3%,正常13.3%,神経内科群AD 56.1%,VD 6.5%,MCI 12.2%,正常13.7%,内科群AD 67.7%,VD 0%,MCI 16.1%,正常16.1% であった.神経内科群では他群と比べAD以外の変性疾患が多い傾向があった.またアルコール関連障害は精神科群でのみ指摘されていた.各群で年齢性別の構成は同等であり,また予約の際診察医の専門科の指定はできないため,初診時診断の差は診察医の専門科による部分が大きいと考えられた.またMCI については各科で一致した診断基準を持っていない可能性が示唆された.今回調査した診断名はあくまでも初診時の診断である点には注意が必要である.しかし診察医の専門科によって診断の傾向に差があり,均質な診療行われていない危惧があり,今後各科で診断・検査を含む診療内容について討議していく必要があると思われた.
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- I-P-9 15:50〜16:00
- 認知機能低下を主訴とした患者の鑑別診断
- 吉原育男,山本泰司,前田 潔(神戸大学大学院医学研究科精神神経科学分野)
- 【目的】 筆者は神戸大学医学部精神神経科のもの忘れ専門外来での診察に従事しているが,外来通院中の全症例のほとんどがDAT やDLB,あるいはFTLD といった進行性中枢神経変性疾患やVD である.一方,そのような代表的な認知症性疾患でない病態と思われる複数の症例があり,診断に苦慮した.これらをまとめて報告する.
【方法】 最初の症例は,50 歳代男性,主訴は記憶・注意障害,抗がん剤(gemcitabine)による治療の既往歴がある.次の症例は,30 歳代女性,主訴は記憶・注意障害,豆腐ばかりを数ヶ月間食べ続けるというダイエットを行った既往歴がある.最後の症例は,50 歳代男性,記憶・注意障害・意欲低下,糖尿病治療中に低血糖性昏睡と思われる既往歴がある.それぞれ,神経学的所見,神経心理学的検査,脳形態画像検査,脳機能画像検査を施行して,病態を総合的に判断した.
【倫理的配慮】 患者とその家族のプライバシーに配慮するため,個人が特定される情報を記載しないことで,本発表の同意を得た.
【考察】 各々のケースは主観的,客観的な認知機能低下を認めるが,認知症とは診断できない水準であった.脳形態画像では大脳萎縮はないが,脳血流スペクトで非特異的な血流低下を認めている.それぞれ長期的に外来でフォローアップしているが,認知機能に著変は認めない.診断については発表当日のポスターに記載したい.このようにDAT のような典型的な認知症性疾患でないケースであっても,注意深く診察し,神経心理学的検査や脳画像検査を参考に病態や疾患を鑑別することは患者の安心につながり,もの忘れ外来の役割のひとつと考える.
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- 15 : 30〜16 : 00 展示ホール
- 薬物療法
- 座長: 須貝佑一(浴風会病院精神科)
- I-P-10 15:30〜15:40
- アルツハイマー病に対する高用量塩酸ドネペジルの有効性
- 山縣 文,富岡 大,山本英樹,小林仁美,磯村順子,三村 將(昭和大学医学部精神医学教室)
- 【目的】 我々は先行研究において,インスリン様成長因子1(IGF-1)の血中レベルが認知機能と正の相関を有し,特に血中IGF-1 値≦140 ng/mL で認知障害が顕在化し,さらに≦110 ng/mL で認知症が顕在化すること,また塩酸ドネペジルの治療効果を血中IGF-1 値がある程度予測し得ることを報告した(Tei ら,2008).日本でも高度のアルツハイマー病(AD)患者に対し,塩酸ドネペジルが10 mg/日まで使用することが可能となり,その臨床的効果の報告も散見される.今回,AD の経過中比較的早期に塩酸ドネペジルを5 mg/日から10 mg/日へ増量し,認知機能の変化と血中IGF-1 値との関連について検討した.
【方法】 すでに塩酸ドネペジル5 mg/日で治療を継続中で,NINCDS-ADRDA のprobable AD の診断基準を満たす外来患者20 名(男性7 名,女性13 名,平均年齢79.5±7.4 歳,MMSE 23.1±3.8 点,ADAD-JCog 16.8±7.5)を対象とした.塩酸ドネペジルを10 mg/日に増量し,12 週間後に認知機能検査としてMMSE とADAS-JCog を実施した.試験前後(0 週・12 週)で血中IGF-1値を計測し,認知機能の変化と比較した.
【倫理的配慮】 本研究は昭和大学医の倫理委員会の承認を受けた.被験者には本研究について十分説明し,書面にて同意を得た.
【結果】 塩酸ドネペジル5 mg/日投与中の血中IGF-1 値とMMSE・ADAS-JCog の成績は有意な相関を示し,過去の報告を裏づける結果となった.血中IGF-1 値は98.5 ng/mL(0 週)→101.2 ng/mL(12 週)と改善傾向にあったが,有意な差には至らなかった.対象例全体では認知機能検査成績に有意な改善は認めなかったが,ADAS-JCog成績が改善した群を反応良好群,悪化した群を反応不良群として比較すると,反応良好群9 名では0 週の血中IGF 値が88.2 ng/mL で,反応不良群11 名の107.7 ng/mL よりもともと有意に低い結果であった(p<0.02).この結果はMMSEで検討しても同様であった.
【考察】 塩酸ドネペジル5 mg/日服用時のIGF-1 値が低いと,10 mg 増量への反応性が良いという結果となった.この結果より,もともと塩酸ドネペジル5 mg/日投与で反応の良好な患者は10 mg/日へ増量しても変化は乏しく,一方,5 mg/日で変化の乏しい患者では10 mg/日まで増量することで認知機能が多少とも改善する可能性が示唆された.
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- I-P-11 15:40〜15:50
- ドネペジルによる治療中に短期間に高度の認知症の進行を示した症例の臨床的検討
- 石田 渉(浜松医科大学精神神経科),星野良一(医療法人香流会鉱仁病院精神科),井上 淳(浜松医科大学精神神経科),野島秀哲,岡本典雄(岡本クリニック)
- 【目的】 われわれは第23 回本学会で,長期間にわたりドネペジルを使用した症例の治療効果と治療上の問題点を検討し,ドネペジルによる治療効果は,治療開始後3 年を経過した前後に分岐点があり,BPSD への対応を含めた治療方針の見直しが必要になることを報告した.この中でドネペジルによる治療中に高度の認知症の進行を示す症例がみられることに注目し,さらに詳細な調査を行った.この結果,これらの症例は,治療開始後2 年までの短期間に高度の認知症の進行を示す群と,治療開始後3 年を経過した後に高度の認知症の進行を示す群に大別できることを見出した.今回は,治療開始後2 年までの短期間に高度の認知症の進行を示した症例の臨床的特徴を検討した.
【方法】 対象は岡本クリニックで2 年以上のドネペジルによる治療を受けたアルツハイマー病の外来症例で,治療開始時点のClinical Dementia Ratings(CDR)が0.5 ないし1 であった86 例である.対象の性別は男性23 例,女性62 例で,治療前の平均年齢は76.6±6.9 歳(63 歳‐88 歳)であった.対象は治療前CDR,Mini Mental State Examination(MMSE),Rorschach testによる認知評価(RCI)による評価を受け,治療開始後4 か月ごとに同じ評価を受けた.
【倫理的配慮】 いずれの症例も家族に対してドネペジルによる治療の利益・不利益を説明し,本人と家族の同意を得た上で治療に導入した.
【結果・考察】 対象の85 症例のうち,41 例(48%)では最終評価時点(24‐84 月,平均42±14.2 月)までCDR が維持されており,24 例(28%)では一定期間(8‐96 月,平均30.3±19.5 月)はCDRが維持されていたが,その後の評価時(12‐100月,平均34.3±19.5 月)にCDR が1 段階低下しており,最終評価時までの18.3±16.5 月は1 段低下した段階を維持していた.これに対して,20 例は最終評価時までにCDR が2 段階以上低下しており,治療開始後2 年までの短期間に2 段階以上低下した症例は14 例(16%)で2 段階以上低下するまでの期間は22.3±3.0 月(16‐24 月)であった.これらの症例では,CDR が維持された群とCDR が1 段階低下してその後維持された群と比較して,治療開始時の平均年齢が有意に若く(p<.001),家族が物忘れ(p<.001)や遂行機能の障害(p<.001)に気づいてから受診までの期間が有意に長がく,治療開始後4 月時点のRCI 得点が有意に低かった(p<.001).また,この群ではCDR が1 段階以上低下した後に徘徊,多動,介護拒否などのBPSD が出現しやすく,ドネペジルによる治療の中止を余儀なくされることが多かった.
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- I-P-12 15:50〜16:00
- 初老期・老年期の心気的愁訴,妄想症状に対するパロキセチンの有効性の検討
- 井上 淳(浜松医科大学精神神経科),星野良一(医療法人香流会絋仁病院精神科),石田 渉(浜松医科大学精神神経科),野島秀哲,岡本典雄(岡本クリニック)
- 【目的】 初老期・老年期には執拗な心気的愁訴や嫉妬,物取られなどの妄想症状が日常臨床でしばしばみられる.これらの患者には抗精神病薬や抗不安薬などが投与されることが多いがあまり改善が認められず,精神療法を併用しても効果に乏しく対応に苦慮することが少なくない.今回われわれは,これらの妄想症状にパロキセチンが有効であった症例を複数経験したので,これらの症例の臨床的特徴と治療効果について検討した.
【方法】 対象は2002 年7 月から2007 年12 月までに岡本クリニックを受診した初老期・老年期の症例9 例(男性2 例,女性7 例)である.初診時の年齢は57 歳から86 歳で,平均年齢は72.9±9.4 歳であった.認知機能の把握のために心理検査を施行した.また,パロキセチンの治療効果については,投与後の本人の診察と家族の問診によって判断した.
【倫理的配慮】 いずれの症例も本人・家族に対してパロキセチンによる治療の利益・不利益を説明し,同意を得た上で治療に導入した.
【結果】 Rorschach test による認知評価(RCI)は,平均−2.5±1.9 点(−5−0 点)であった.RCI は,抽象的思考能力や類推能力が反映されるが,全例が正常範囲を下回っていた.Mini Mental State Examination(MMSE)は平均23.3±6.2 点(14−28 点)であった.Clinical Dementia Ratings(CDR)では,CDR =0 が3 例,CDR=0.5 が3 例,CDR=1 が2 例CDR=2 が1 例であった.妄想の認められていた症例の診断は認知症,うつ病,気分変調症,老年期妄想症などで,ドネペジルやチアプリドなどの投与を受けていたが,妄想に対しては効果が認められなかった.また内科医院からの紹介で受診した症例では前医でエチゾラムなどの投与を受けていた.パロキセチンの投与量は5〜10 mg で,ほとんどの症例で2 週間以内に速やかな効果が認められた.すなわち妄想へのこだわりや攻撃性が減少し,家族の観察では,情緒が安定し,機嫌がよくなった例が多かった.自覚的変化としては,「気分が楽になって,くよくよと考えなくなった」「ぐっすり眠れて楽になった」など早期の症状への関心の低下と睡眠障害の改善が認められた.
【考察】 今回の症例では心理検査の結果から,高度の認知障害を示す例は少ないものの,抽象的思考能力や類推能力の障害に伴う判断力や理解力の低下を示すものが多く,妄想症状の執拗な訴えに関連する可能性が示唆された.また,認知症,うつ病,老年期妄想症などのさまざまな病態にともなう妄想に対して,一様にパロキセチンが効果を認めたことから,妄想発現のメカニズムとパロキセチンの効果についての関連が示唆された. - BACK