- 9 : 15〜10 : 15 第2会場
- 画像検査関連
- 座長: 浦上克哉(鳥取大学大学院医学系研究科保健学専攻・病態解析学分野)
- II-2-1 9:15〜9:30
- 「超早期」特発性正常圧水頭症の脳血流
;脳血流動態からの特発性正常圧水頭症の病態解明 - 高屋雅彦,木藤友実子,徳永博正(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室),下瀬川恵久,畑澤 順(大阪大学大学院医学系研究科核医学教室),数井裕光,武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- 【目的】 特発性正常圧水頭症(iNPH)は認知機能障害,歩行障害,排尿障害を3 徴とし,外科的処置によって症状の改善が可能な認知症である.iNPH の診療ガイドラインによれば,(1)60 歳以降に発症,(2)3 徴のうち1 つ以上を認める,(3)脳室の拡大を認める,(4)髄液圧が正常で,髄液の性状が正常,(5)何らかの髄液短絡術で3 徴が改善する,(6)脳室拡大を来す明らかな先行疾患がないか不明,(7)他の疾患によって臨床症状の全てを説明できない,の全てを満たす時,Probable iNPH と診断する.加えて,頭部MRIにおける高位円蓋部の脳溝・クモ膜下腔の狭小化も,iNPH の診断において重要な所見であることが知られるようになっている.さらに近年の疫学研究によりiNPH の3 徴のいずれも認めないが,頭部MRI においては側脳室の拡大と高位円蓋部の狭小化を認める症例(Asymptpmatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus : AVIM)が存在することが明らかになった.今回,我々はAVIM の局所脳血流を,Probable iNPH,および健常者のそれと比較した.
【方法】 2007 年4 月1 日より2008 年12 月31 日まで大阪大学医学部付属病院精神科を受診し,頭部MRI において脳室拡大及び高位円蓋部の狭小化を認めiNPH が疑われた症例14 例全てに,局所脳血流の簡易定量的測定法であるIMP-SPECT Autoradiography(ARG)法にて脳血流を測定した.そしてこれらの症例を前述の診断基準に従い,(1)AVIM7 例と(2)Probable iNPH7例の2群に分けた.それに加えて(3)健常高齢者7 例を対照群とした.Probable iNPH7 例のうち4 例については後にシャント術を施行したが,シャント術6 ヵ月後に4 例全てに症状改善を認めたため,この4 例はDefinite iNPH であることが確認されている.(1),(2),(3)の平均年齢(s.d.)(歳)は,それぞれ72.5(5.7),73.6(3.6),74(4.6),男/女比は6/1,3/4,4/3 であった.(1)と(2)の平均罹病期間(s.d.)(年)は3.2(2.9),2.9(1.3)年であった.SPECT データはROI 法で比較した.各患者SPECT 画像上おいて,前頭葉,側頭葉,後頭葉,視床,高位円蓋部,後部帯状回・楔前部,小脳,橋それぞれに複数のROI をおき,局所的脳血流量を求めた.3 群間の比較には前述した領域ごとにROI の脳血流量を平均化した値を用いた.
【倫理的配慮】 本研究においては,ヘルシンキ宣言に基づいた倫理規定を順守している.
【結果】 対象となった全ての領域に於いて(1)と(2)の群は(3)のコントロール群よりも有意に血流が低下していた.しかし,(1)と(2)の間には有意な差を認めなかった.
【考察】 無症候性のiNPH 症例でも,症候が明らかな症例と同程度の脳血流低下を既に呈していることが明らかになった. - BACK
- II-2-2 9:30〜9:45
- アルツハイマー病における妄想の重症度と脳血流との相関
;SPECT研究 - 松岡照之,成本 迅,柴田敬祐,岡村愛子(京都府立医科大学大学院精神機能病態学),中村佳永子(京都府精神保健福祉総合センター),福居顯二(京都府立医科大学大学院精神機能病態学)
- 【目的】 認知症の患者は,幻覚,妄想などの精神症状を認めることが多く,それにより患者や介護者の苦痛や負担が増大し,在宅生活が困難となることも少なくない.わが国においては塩酸ドネペジルしか抗認知症薬の保険適応がなく,精神症状が顕著となり治療困難となる症例にも度々遭遇する.また老年期患者に対する抗精神病薬の使用による死亡率の増加などの重大な副作用の報告もあり,その有効性についても議論されている.そのため精神症状発現の神経基盤を解明し,治療に役立てることが重要であると考えられる.本研究では,アルツハイマー病(AD)における妄想の重症度と脳血流との関係を調べることを目的とした.
【方法】 対象は京都府立医科大学附属病院に通院中のNINCDS-ADRDA のprobable AD の診断基準を満たし,Neuropsychiatric Inventory(NPI)の妄想の得点が1 点以上の患者14 名(男性2 名,女性12 名,平均年齢76.5±6.0).対象に123I-IMP SPECT を施行した.SPECT 画像の解析は,SPM5 を用いてmultiple regression を行い,共変数としてNPI 各項目,MMSE を用いて,NPIの妄想の得点と脳血流との相関を調べた.
【倫理的配慮】 本研究について,患者,家族に説明し同意を得た.また発表にあたり匿名性に配慮した.
【結果】 NPI の妄想の得点と右島の脳血流との間に負の相関を認めた(図1;p<0.01,uncorrected,k=60).
【考察】 島は情動,内臓感覚などの身体状態の情報処理などに関与している.右島の機能低下により情動の障害が生じることで,妄想が重症化する可能性が示唆される. - BACK
- II-2-3 9:45〜10:00
- 高齢者うつ病と軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症の鑑別診断
;海馬の拡散強調画像による検討 - 林 博史,川勝 忍,渋谷 譲,大谷浩一(山形大学医学部精神科)
- 【目的】 高齢者うつ病では,記憶障害,意欲低下,思考力低下など,いわゆる仮性認知症を伴うことがしばしばみられる.一方,軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症(AD)でも,意欲低下や抑うつ気分,不安などの精神症状を伴い,うつ病との鑑別が困難なことも多い.本研究の目的は,海馬の内部構造が描出されるMRI 拡散強調画像が,高齢者うつ病,軽度認知障害(MCI)およびAD の鑑別に有用であるか否かを検討することである.
【対象と方法】 対象は2006 年12 月〜2008 年12月の約2年間に,山形大学附属病院に通院または入院中で,本研究の参加に同意が得られた65歳以上の高齢者で,(1)DSM‐IVにおけるうつ病の診断基準を満たしたうつ病症例18 名,(2)Petersen らの診断基準を満たし,CDR 0.5,MMSE 得点が24 点以上(うち遅延再生1 点以下),WMS-R のlogical memory が13 点以下のMCI 症例12 名,NINCDS-ADRDA の診断基準を満たし,CDR1 のAD 症例10 名である.MRI拡散強調画像で描出された海馬の内部構造のうち左右の海馬支脚,CA1 の幅を測定し,3 群間で比較検討した.統計処理は,主に一元配置分散分析を用いた.
【倫理的配慮】 本学倫理委員会の承認を受け,すべての対象者に対し,十分に研究内容を説明した上,書面にて同意を得た.
【結果】 うつ病,MCI,AD 各群の平均年齢,MMSE得点は表1 に示す.年齢は3 群間で有意差は認めなかった.左右の海馬支脚,CA1 の測定値は表2 に示す.いずれも,3 群間で有意差を認めた.多重比較の結果,両側海馬支脚ではうつ病とAD,右CA1 ではうつ病とMCI,左CA1 ではうつ病とAD,MCI とAD との間に有意差を認めた.
【考察】 Adachi ら(2003)は,本方法が,健常高齢者とMCI およびAD の鑑別に有用であることを報告している.うつ病でも海馬の萎縮が報告されているが,本研究では,右CA1 において,うつ病とMCI 間で差が見られた.以上より,本方法は,高齢者うつ病とMCI およびAD の鑑別にも有用である可能性が示唆された. - BACK
- II-2-4 10:00〜10:15
- 大脳皮質の分類と機能の関連整理からみたBPSD軽減への取り組み
;キョーメーション バランスシート - 井戸和宏,野口 代,宮田真由美(横浜福祉研究所認知症高齢者研究室),加藤京一(昭和大学藤が丘病院放射線部),羽田野政治(横浜福祉研究所認知症高齢者研究室),岩田 誠(東京女子医科大学),小阪憲司(横浜ほうゆう病院)
- 【目的】医療,看護,介護の視点や知識を統合する利用者本位のケアプランモデルを追求する上で共通言語,共通の観察項目の理解が求められる.専門職が共通して器質的変化を捉えるために,細胞構造分類と大脳皮質の整理を行い,照合シート(以下KBS《Kyomation Balance Sheet》という)の作成に至った.KBSを活用しニューロイメージング手段で確認される病変とスクリーニングによる生活機能を比較することで,認知症疾患に対しての行動観察と適切な診断を用いた残存能力の活用の可能性を検討した.
【倫理的配慮】本研究において,事前に本人・家族に趣旨を伝え書面にて了解を得ている.
【開発経過】ニューロイメージングの所見をもとにケア介入を試みるため認知症対応型共同生活介護事業所グループホーム入居者中32名のAD疾患者に対して以下の調査を行なった.
(1) エコノモ(Economo)とコスキナス(Koskinas)の細胞構築分類とブロードマン(Brodmann)による大脳皮質の機能地図を照合,比較し,皮質の分類と機能との関連について整理した.
(2) 脳機能検査としてのニューロイメージング手段として,MRI,SPECT画像を終脳の回,溝,葉と照合,比較し,萎縮部の深度並びに程度を考察した.MRIでは,構造上の変化と,脳萎縮状態を検出し,冠状断のイメージより正常者と比べ萎縮程度を検出し照合,比較.SPECTでは,CBFイメージから皮質での脳循環代謝量の低下を検出し照合,比較.
(3) (1)と(2)より皮質の分類と機能との関連を整理.
(4) 臨床より,学習,記憶,知覚などの複雑な機能の状態をHDS-R,MENFIS,WAIS-R及びアセスメント情報(MDS2.1)によりBPSDの発生状態を把握,比較検討を行なった.
(5) (3)と(4)を整理し残存機能の把握,考察を暫定的に行い,KBSを作成した.
以上のことから,発症するBPSDを予見し残存能力を用いて,精神面,身体面を刺激する手段を考察,医療,看護,介護を統合したケアプランモデルを開発した.また,損傷部位により考えられる機能の障害と実際の生活に表れる症状との比較を入居時より実施したWAIS-R,HDS-R,MENFISの結果とMDS2.1にて経過観察し領域検討を行なった.
【結果・考察】実際の行動観察と,機能とが一致する可能性の可否でなく,BPSD発症を予見することで,介護上での対人援助がスムーズとなり残存機能の賦活法としての可能性が示唆できた. - BACK
- 10 : 15〜11 : 30 第2会場
- 検査関連
- 座長: 千葉 茂(旭川医科大学医学部精神医学講座)
- II-2-5 10:15〜10:30
- 認知症診断における脳波検査の臨床的意義
;類型別の比較を中心にして - 伊藤ますみ,越前谷則子(医療法人母恋天使病院精神神経科),根本大輔,加瀬まさよ(医療法人母恋天使病院臨床心理部)
- 【はじめに】 認知症の早期診断は治療や見通しを知るうえで重要である.我々は前回の本学会において脳波所見が認知症類型により異なり,アルツハイマー型認知症(AD)の多くは正常所見を示すこと,さらにてんかん性異常波を持ち抗てんかん薬が奏効した例を報告した.今回は症例をふやし,脳波の臨床的意義を検討した.
【対象と方法】 対象は物忘れを主訴に当科を受診した130例(男性38例,女性92例),年齢55‐90(平均78)歳,罹病期間0‐15(2.4)年とした.診断は病歴,MRI,SPECT,神経心理検査より総合的に決定した.脳波検査は開閉眼,光刺激,過呼吸賦活,睡眠賦活を行い,視察的に判定した.脳波所見は基礎活動,突発性活動の有無を検討した.基礎活動は,正常:9Hz以上の基礎波および少量の4‐8Hz徐波混入,境界:9Hz以上の基礎波および散在性4‐8Hz徐波混入,軽度異常:(1)9Hz未満あるいは非対称性の基礎波(2)中等量の4‐8Hz徐波混入,中等度異常:(1)9Hz未満あるいは非対称の基礎波(2)多量の4‐8Hz徐波または4Hz未満の徐波混入,と分類した.突発性活動は背景活動より突出した高振幅徐波およびてんかん性異常波(棘波,鋭波)とした.脳波所見と認知症類型,年齢,発症年齢,罹病期間,MMSEとの関連を調べた.
【倫理的配慮】 検査に際し,患者あるいは家族に説明の上同意を得て施行した.発表にあたり個人は特定できないよう配慮した.
【結果】 対象の診断類型はAD59例,軽度認知障害(MCI)17例,レヴィ小体型(DLB)14例,脳血管性(VD)9例,正常脳圧水頭症(NPH)9例,混合型7例,前頭側頭型5例,分類困難10例であった.MMSEは6‐30(21)点であった.脳波異常の程度は正常53例(41%),境界35例(27%),軽度26例(20%),中等度16例(12%)であった.脳波異常の程度と年齢,発症年齢,罹病期間とに相関は認められなかったが,MMSE得点とに相関が認められた.類型別ではAD,MCI,VDで正常および境界が78‐94%を占めたが,他類型では11‐61%にとどまった.また突発性活動の混入はAD,MCI,VD,混合型では0‐14%であったのに対し,DLB,NPH,分類困難例では44‐70%と高率であった.
【考察】 脳波の基礎活動異常は認知障害の程度と相関があった.また,認知症類型ごとに基礎活動異常および突発性活動の出現率が異なっていた.以上より脳波検査は認知症診断に有用と思われた. - BACK
- II-2-6 10:30〜10:45
- 老年期の探索眼球運動の特徴
;認知症の早期診断の可能性 - 中島洋子,森田喜一郎(久留米大学高次脳疾患研究所),松岡稔昌(久留米大学医学部精神神経科),小路純央(久留米大学高次脳疾患研究所),内村直尚(久留米大学医学部精神神経科)
- 【目的】 我々は,地域で老年検診を年に5回行なっている.検診ではHDS-R,MMSE,CDR等の検査に加えて探索眼球運動検査を行ない検討してきた.S字を用いた探索眼球運動検査は,小島らが開発し,日本特有の検査であり認知機能を反映すると報告されている.今回,検診における被験者にS字探索眼球運動検査装置を用いて,反応探索スコアー(以下RSSという)を精神生理学的指標にして,健常群,中間群と認知症群を比較検討したので報告する.
【対象】 認知症検診およびもの忘れ外来にこられた被験者265名(平均年齢74.7±6.1歳)を対象とした.被験者を健常群(HDS-R,MMSEが28点以上で,CDRが0点:82名),中間群(HDS-Rが21点以上,MMSEが24点以上で,CDRが0.5点:126名),認知症群(HDS-Rが20点まで,MMSEが23点までで,CDRが1点以上:57名)に区分し,3群間には年齢に有意差はなかった.
【方法】 探索眼球運動は,ナック社のEMR-8を使用し,S字の3つのパターン(原型S・S1・S2)を見せRSSを計測した.被験者で注視が可能な者のみ検査を施行した.検診および診察後162名にMRIを施行しVSRAD解析を行なった.
【倫理的配慮】 すべての被験者には,当研究を書面で説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【結果】 被験者のRSSは,S字のS1およびS2で,健常群が有意に中間群,認知症群より大きい値であった.S1およびS2において,中間群が,認知症より有意に大きい値であった.S1でRSSとHDS-RおよびMMSEの間に有意な正の相関が観察された.MRIのVSRADのZスコアーは,認知症群と中間群には有意差はなく,いずれの群も健常群より有意に高い値であった.中間群をS1のRSSが3点以上(lowリスク中間群:L中間群)と3点未満(highリスク中間群:H中間群)で分けた.L中間群のRSSは,S1およびS2においてH中間群より有意に高い値であり,いずれの値も健常群との間に有意差は観察されなかった.L中間群のRSSが,S1およびS2において,いずれの値も認知症群との間に有意差は観察されなかった.HDS-RおよびMMSEは,H中間群とL中間群の間に有意差はなかった.MRIのVSRADのZスコアーは,認知症群が最も低く健常群が最大であった.認知症群とH中間群およびL中間群とは有意差は無かった.H中間群は健常群より有意に高い値であったが,中間群と健常群の間に有意差は観察されなかった.探索眼球運動のS2のRSSは,認知症群およびH中間群が健常群より有意に低い値であった.探索眼球運動のRSSとHDS-R得点とVSRADのZスコアーから,リスク指標を計算した.リスク指標は,H中間群と認知症群には有意差が観察されなかった.H中間群と認知症群は,いずれもL中間群と健常群との間に明確な有意差が観察された.
【考察】 以上のことから,探索眼球運動のRSS解析は,簡単でいずれの場所でも検査可能であり,侵襲も無く認知症の精神生理学的指標として早期診断に有用と考える. - BACK
- II-2-7 10:45〜11:00
- NIRS による園芸療法の基礎研究
;園芸がアルツハイマー型認知症者の前頭連合野に与える影響 - 豊田正博(兵庫県立大学自然・環境科学研究所),天野玉記(社会福祉法人清章福祉会清住園),柿木達也(兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター),杉原式穂(兵庫県立大学自然・環境科学研究所)
- 【目的】 我々は,昨年,健常者にNIRS(近赤外分光法)を用いて園芸活動中の前頭連合野におけるoxyHb量を測定し,左右の前頭連合野背外側部(下前頭回)が賦活することを示した.今回,アルツハイマー型認知症者に対しても同様の賦活が得られるか否かを確認するため,アルツハイマー型認知症高齢者に昨年の研究と同じ園芸課題を行い,課題遂行時の前頭連合野背外側部の賦活を一般高齢者と比較した.
【方法】 2008年9月実施.対象はアルツハイマー型認知症高齢者(以下AD群.MMSE23点以下,平均15.1点.全25名.平均87.4歳)とアルツハイマー型認知症が認められない高齢者(以下NC群.MMSE25点以上,平均28.7点.全20名.平均77.7歳)で全員右利き.課題は,1)arm課題:左右の腕を体の前で弧を描く(10秒),2)mix課題:2種の土を混ぜる(10秒),3)fill課題:鉢に土を入れる(15秒),4)plant課題:プラ鉢に花苗を植える(20秒)の4課題.52チャンネル光トポグラフィを使用し,脳血流中酸素化ヘモグロビン量(以下oxyHb量)を測定.各課題は課題内容とレスト(安静)を3回繰り返した.所要時間は1人約20分.【倫理的配慮】被験者全員に(アルツハイマー型認知症者は家族へも)事前説明を行い,文書にて実験協力・発表の同意を得た.
【結果】 被験者は全員課題を遂行できた.左脳(優位半球)の前頭連合野背外側部(下前頭回,中前頭回)に注目した.NC群は1)〜4),AD群は2)〜4)課題で,課題遂行時に前頭連合野背外側部(下前頭回,中前頭回)でoxyHb量が増加.NC群では課題間にoxyHb量の差はなし(p<5%).しかし,AD群では課題遂行時のoxyHb量は2)mix課題>3)fill課題>4)plant課題>1)arm課題となる傾向があり,特に下前頭回付近では2)mix課題と1)arm課題,3)fill課題と1)arm課題に明らかな差が認められた(p<5%).
【考察】 土を混ぜる,鉢に土を入れる,鉢に花を症の人も遂行でき,優位半球の前頭連合野背外側部(下前頭回)を賦活させる可能性が高いことが示された.ただし,AD群では課題により賦活に差がみられたことから,アルツハイマー型認知症者に対する園芸療法では,興味,能力,作業量,作業時間などを考慮して適度な負荷のある作業を選ぶことが前頭連合野の活性化に有効であろう.
- BACK
- II-2-8 11:00〜11:15
- 晩発性アルツハイマー型認知症における脳血管性障害と動脈硬化の関連
- 新井久稔(相模台病院),高橋 恵,中島啓介,大石 智(北里大学医学部精神科学),江村 大(常盤病院),肝付 洋,浦久保安輝子,宮岡 等(北里大学医学部精神科学)
- 【目的】 アルツハイマー型認知症に大脳の虚血性病変が合併すると認知機能がさらに悪くなることが知られている.そこで今回,脈波検査により動脈硬化度を調査し,晩発性アルツハイマー型認知症の脳血管障害の程度との関連や血管障害の危険因子との関連を調査した.
【方法】 対象は北里大学東病院精神神経科認知症鑑別外来(以下鑑別外来)を,2004年4月から2008年1月までに受診し,研究協力の得られた65歳以上の晩発性アルツハイマー型認知症との臨床診断がなされた64例.動脈硬化度は脈派検査におけるPulse Wave Velosity(PWV;脈波伝搬速度)を指標とした.脳血管障害のあり群(40例)となし群(24例)でPWV,年齢,Body Mass Index(BMI),血管性障害関連合併症(高血圧,糖尿病,脂質異常,虚血性疾患,不整脈等)数をt検定により比較した.次に動脈硬化度と年齢,BMI,血圧,血管性障害関連合併症数との相関を調べた.本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】 動脈硬化度は脳血管障害あり群で1917.6±343.4,なし群で1712.2±266.3で有意差を認めた(t=2.16,p=0.036).その他の因子については,あり群では血管障害関連合併症数が有意に多く(t=2.17,p=0.034),年齢が高く(t=2.88,P=0.006),BMIが高い傾向(t=1.83,p=0.07)を認めた.動脈硬化度とは,収縮期血圧が中等度の正の相関(r=0.46),拡張期血圧(r=0.33)と年齢(r=0.33)が弱い正の相関を示した.収縮期血圧は拡張期血圧と強い正の相関(r=0.73),BMIと中等度の正の相関(r=0.41),血管障害関連合併症数と弱い正の相関(r=0.32)を示した.合併症の有病率は高血圧30%,糖尿病6%,不整脈6%,心筋梗塞などの血管イベントが6%,高脂血症3%,腎障害4%であった.
【考察】 動脈硬化は脳血管障害あり群でより進行しており,これは収縮期・拡張期血圧,年齢と関連していた.また収縮期血圧は肥満や血管障害関連合併症数と相関を認めた.動脈硬化度の測定は,脈派検査によって非侵襲的に比較的簡易な方法で行え,医療費も安く抑えることができる.高血圧症の合併はアルツハイマー型認知症でも多かったが,血管性因子に対しての予防や治療的介入は可能なことから,客観的評価として動脈硬化度を臨床応用に活用する事も,認知機能の低下防止において一つの有効な手段と思われる. - BACK
- II-2-9 11:15〜11:30
- 特発性正常圧水頭症におけるタップテスト後の症状変化に関する検討
- 木藤友実子(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室),久保嘉彦(関西労災病院精神科),吉田哲彦(国立医療センター大阪病院精神科),高屋雅彦,上甲統子,和田民樹,野村慶子,徳永博正,数井裕光(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室),三宅裕治(西宮協立脳外科病院),石川正恒(洛和会音羽病院脳神経外科),武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- 【はじめに】 特発性正常圧水頭症(iNPH)の診断には,腰椎穿刺による髄液排除前後の症状変化をみる髄液排除試験が,簡便かつ低侵襲にシャント術の効果予測を行うことができるという点で有用である.しかし,排除後の症状評価をいつ行うべきであるかは明らかにされていない.そこで本研究では髄液排除後の歩行および認知機能の経時変化について検討した.
【対象】 日本正常圧水頭症研究会作成の診療ガイドラインのprobableiNPHの診断基準:(1)60歳以降に発症,(2)歩行障害・認知機能障害・尿失禁の一つ以上を認める,(3)脳室の拡大を認める,(4)髄液圧が正常,(5)他の疾患で臨床症状や脳室拡大が説明できない,(6)髄液排除試験で症状の改善を認める,を満たした41例(男/女:25/16,平均年齢74.2±6.0歳)
【方法】 髄液排除前,排除1日後,1週間後の3時点において,認知機能検査・歩行検査を施行した.認知機能検査はMMSE(Mini Mental StateExamination),FAB(Frontal Assessment Battery)を用いた.歩行検査は,椅子に着席している状態から起立し,3mの往復歩行の後,再び着席するまでに要する時間を計測するTimed Up and Go Test(TUG)と10m往復歩行試験を用いた.それぞれの検査ごとに,反復測定一元配置分散分析を用いて解析を行った.有意差のあった場合にはFisherのLSD検定を用いてpost hoc testを行った.有意水準はp<0.05に設定した.
【結果】 MMSEでは排除1日後では成績の変化を認めなかったが,1週間後に変化を認めた.一方,FABやTUG・10m往復歩行試験の時間は1日後に成績の改善を認めたが,1日後と1週間後の成績には有意差を認めなかった.
【考察】 歩行機能は髄液排除後早期からの改善を認めたが,認知機能は早期から改善するものと遅れて改善するものがあり,髄液排除試験の適切な評価判定時期は評価法により異なると考えた.また,改善時期が異なることから,iNPHの症状には異なる複数の脳内基盤が存在する可能性が考えられた. - BACK
- 9 : 15〜10 : 30 第3会場
- レビー小体病関連
- 座長: 池田研二((財)慈圭会慈圭病院)
- II-3-1 9:15〜9:30
- 仮性うつ病を呈しSSRI の投与により幻視が増悪したレビー小体型認知症の1例
;仮性うつ病を呈したレビー小体型認知症 - 奥平智之,安藝竜彦,青木浩義,岩原千絵,大野篤志,佐久間将之,芝恵美子,芹澤秀和,高井良昌,竹野良平,根本安人,宮坂亜希子,室村絵里香,山壁功典,若槻晶子,深津 亮(医療法人山口病院(川越))
- 【諸言】 仮性うつ病を呈しSSRI に対する薬剤過敏性により幻視が増悪したレビー小体型認知症(DLB)の1 例を呈示する.
【倫理的配慮】 本人及び家族の同意を得て匿名性を十分に配慮し報告する.
【症例】 80 歳代前半,男性
[主訴]虫が見える.憂うつ感.
[家族歴・既往歴・飲酒歴]特記なし.
[生活歴]会社員を70 歳で退職し,妻と長男夫 婦と同居.
[現病歴]半年前より,不眠,全身倦怠感,抑うつ気分が目立つようになり,3 ヶ月前に近医内科にてうつ病と診断されFluvoxamine50 mg を投与されたが,内服開始後「壁や天井を舞う赤や白やピンク色の虫がいっぱい見える」といった幻視の訴えとそれに伴う不安感が強くなり2 週間後に中止.その後,近医心療内科を受診し,再度うつ病と診断されSertraline 25 mgが投与されるも同様に幻視の出現のため中止.2ヶ月前より不眠に対してZolpidem 5 mg を服用.転居のため当院に紹介受診となった.
[初診時所見]身長157 cm,体重58 kg.血圧138/72 mmHg.脈拍64 回/分.血算,血液生化学,甲状腺機能,脳波検査で異常なし.頭部CT 検査:両側前頭部〜側頭部優位の大脳皮質の全般性委縮以外特記なし.HDS-R:22/30 点.SDS(うつ病自己評価尺度):50 点.神経学的には静止時手指振戦,前傾姿勢,やや動作緩慢あり,Hoehn-YahrI度のパ ーキンソニズムを認めた.表情は重く小声で話す.幻視が異常体験であるという認識が認められるが,幻視に対する不安感あり.不眠,抑うつ気分,意欲低下,全身倦怠感あり.食欲良好.
[経過]Donepezil 3 mg を投与したところ翌日より嘔気,食欲低下,腹痛,軟便が出現.本人と家族が心配して投与3 日後に再度来院.漢方医学的所見では,脈は沈弱で,舌は湿潤し厚白苔を被り,腹力は軟で,心下痞鞭・心下部振水音・臍上悸・両側の腹直筋の緊張.軽度の臍下不仁を認め,冷え,腹鳴,口渇は認めず.小半夏加茯苓湯エキス(クラシエ)6 g と桂枝加芍薬湯エキス(ツムラ)7.5 g を処方.漢方服用の翌日より嘔気の軽減が自覚され,服用2 日後に嘔気消失.腹痛,軟便は漢方服用3 日目より頻度が軽減し,5 日目に消失.Donepezil 服用14 日目に5 mg 増量するも有害事象は認めず,onepezil 服用21 日目に幻視は消失.服用28 日目にSDS は35 点.以後,Donepezil 5 mg とZolpidem 5 mg のみ継続し,抑うつ気分,不安,全身倦怠感は目立たなくなった.
[考察]本症例は,初期には抑うつ症状が前景にあり,うつ病と診断された仮性うつ病の病像を示していた.SSRI を投与されたところ幻視が著しく増悪を示した.DLB の特徴の1 つに薬剤過敏性があり,Donepezil に対しても消化器症状を認 め服薬継続は困難と思われたが,漢方治療を併用することで服用継続が可能となり,幻視が改善しそれに伴い抑うつ状態も軽快した.幻視はSSRIの投与後,更に活発となり顕在化した.DLB の必須症状である進行性の認知機能障害,中核症状である現実的で詳細な内容で繰り返し現れる幻視,パーキンソニズムの出現,支持症状では抑うつ状態が該当し,probable DLB と診断した.
【結語】 老年期において抑うつ状態の患者においては常にDLB の可能性を視野に入れ,神経学的診察を行い,薬剤過敏性を十分に考慮して治療にあたることが改めて重要と思われ,示唆に富む症例であった. - BACK
- II-3-2 9:30〜9:45
- 総合病院精神科ではDLB 患者を診察する機会が増えている?
- 下田健吾,舘野 周,木村真人,大久保善朗(日本医科大学精神医学教室)
- 【目的】 当院では神経内科や老人科などが物忘れ外来を設立しており,精神科では,純粋に物忘れの精査目的で受診する患者は少ない.しかし幻覚や妄想,睡眠時の異常行動などを伴う患者のコンサルトや,そのような精神症状のため家族同伴で直接外来受診するケースはしばしばみられるように思われる.そしてそのほとんどの症例がレビー小体型認知症(以下DLB)と最終的に診断されている.初診時の診断は様々であり,中核症状の一つであるパーキンソン症状がみられないか,評価に苦慮することが大半であり,器質性精神障害,せん妄,妄想性障害,そしてレム睡眠行動障害(RBD)とされることが多い.このような経緯から,変性性認知症で2 番目に多いとされるDLB の患者は,特有の精神症状から精神科を受診するケースが意外と多いのではないかと推察されるが,その実態はわかっていない.今回われわれはレトロスペクティブにDLB患者の割合を調査し,今後老年精神科医がどのような点に留意すべきか検討することにした.
【方法】 2008 年1 月から2008 年12 月までの(院内精神科コンサルテーションを除く)外来初診患者892 人のうち,老年精神科医である演者が初診した127 名の中で後にDLB と診断された症例をレトロスペクティブに調査した.
【倫理的配慮】 データベースの取り扱いには十分注意し,個人情報に関わる部分はすべて匿名化して再構築した.
【結果】 127 人中42 人が65 歳以上の高齢者であり,その中で後にDLB と診断された症例は9 例(21%)であり,ATD のBPSD と診断された4例を上回った.9 人の初診時診断は器質性精神障害(DLB の疑い)が4 名,RBD が3 名,せん妄が1 名,器質性妄想性障害が1 名であった.初診時の主症状は幻視が7 例と最も多く,妄想2名,睡眠時行動異常2 名,せん妄様エピソード3名,意識消失発作1 名であった.9 例の中で目立ったパーキンソン症状を認めた症例は1 例もいなかった.物忘れ外来のシステムが構築される以前の2003 年は,DLB と最終的に診断したケースは2 例のみであり,認知症の中で最も多いのはATD 16 例(抑うつ12 例,BPSD 4 例であった). 【考察】 今回の限られた症例検討では,一概に結論づけられないが,物忘れ外来の普及により総合病院精神科医がATD の診断・加療を行う機会は減っているかもしれない.一般的に物忘れ外来に占めるDLB の割合は5‐10% であり,われわれ老年精神科医は,その特異な精神症状からDLB患者を診察する機会が増えている可能性があり,幻視や妄想,睡眠時の異常行動を主訴に来院する高齢者については,パーキンソン症状に関わらずDLB を積極的に疑う必要があると思われた. - BACK
- II-3-3 9:45〜10:00
- 塩酸ドネペジルによる治療で著明に改善したレビー小体型認知症の3症例
- 田端一基,森川文淑,猪俣光孝,直江寿一郎(医療法人社団旭川圭泉会病院)
- 【はじめに】 レビー小体型認知症(DLB)患者は自律神経障害による身体的予備能力の低下から合併症を併発し易く予後はあまり良好でないことが知られている.しかし我々は塩酸ドネペジルの使用で著名に改善したprobable DLB 3 症例を経験したので報告する.報告に際して匿名性の保持,個人情報の流出には配慮した.
【症例提示】 症例1 73歳,女性.X‐2 年69 歳時にアパシーで発症,X 年71 歳時入院.認知症,Hoehn&YahrI度のパーキンソニズム,活発な幻視を認めMIBG 心筋シンチグラフィでMIBG集積低下を認めprobable DLB と診断.薬物療法抵抗性のアパシーは電気けいれん療法で改善した.X 年12 月に合併症を発症,3 ヶ月ほど治療に要した.合併症治癒後のX 年4 月から塩酸ドネペジルを投与したところ幻視,アパシーも消失X年7 月老人保健施設に退院さらに自宅に退院した.73 歳時の神経心理検査はMMSE 24 点と入院時より改善を認めた.
症例2 79歳,男性.X‐1 年,77 歳時に物忘れで発症.アルツハイマー型認知症と他院で診断されたがせん妄で対応困難となりX 年7 月78 歳時当院に紹介入院.入院後認知症に加え,Hoehn&YahrI度のパーキンソニズム,「部屋が燃えている」などありありとした幻視を認め,前医でせん妄と考えられていた症状は幻視と考えられた.MIBG 心筋シンチグラフィでMIBG 集積低下を認めた.誤嚥が著しく入院後すぐに誤嚥性肺炎を発症,重症化し敗血症に発展,一時重篤な身体状況になり合併症の治療に2 ヶ月ほど要した.その間疎通はとれなくなり,ADL は寝たきりとなった.合併症が治癒したX 年8 月から塩酸ドネペジルを投与,疎通性が回復,嚥下訓練も併用し経口摂取可能となり,身体リハビリも併用しADLは補助具使用下で歩行可能となった.認知症状も改善しX 年12 月の神経心理検査ではMMSE 29点と当院入院時より著明に改善し,介護もほぼ必要なくなった.現在はグループホームの空き待ちである.
症例3 87歳,男性.X‐3 年,84 歳頃物忘れで発症,X‐1 年86 歳時に幻視が出現,認知機能の変動も認めた.X 年9 月,87 歳時に当院を受診,認知症,Hoehn &YahrIII〜IV度のパーキンソニズム,幻視を認めMIBG 心筋シンチグラフィでMIBG 集積低下を認めprobable DLB と診断された.パーキンソニズムの悪化,で摂食も不可能,1日中ぼんやりしているためX 年10 月87 歳時入院.塩酸ドネペジルを投与したところぼんやりしていることが減り,身体リハビリでパーキンソニズムも若干改善した.神経心理検査の結果は改善していないが介護度は減ったためX+1 年現在退院先を検討中である.
【まとめ】 塩酸ドネペジルで改善したと考えられるDLB 3 症例を報告した.症例1,症例2 はDLB の心理行動特徴(BPSD)が,症例3 はDLBの認知機能の変動が改善した.DLB 患者は一般に身体的予備能力の低下より合併症を併発しやすい,パーキンソニズムの悪化で予後は不良と一般的に考えられているが,まだ短い期間の観察ではあるが適宜治療的介入を行うことでDLB の症状を改善することは可能であることが示唆された. - BACK
- II-3-4 10:00〜10:15
- レビー小体型認知症に対するAripiprazole の治療経験
;認知症心理行動症状(BPSD)への効果につ いて - 西山 聡(医療福祉センター倉吉病院)
- 【目的および方法】 レビー小体型認知症(DLB)は,アルツハイマー型認知症についで頻度の高い老年期認知症性疾患とされ,幻視や認知機能の変動性といった特徴的臨床症状を有し,錐体外路症状(EPS)を呈するものも多い.DLB の心理行動症状(BPSD)に関しては抗精神病薬を使用せざるを得ない場合も多く,その場合EPS の悪化をきたし薬物治療は困難を極める場合も少なくない.BPSD に対して非定型抗精神病薬などによる加療で充分な効果を認めなかった,もしくは有害事象のためその使用が困難であったDLB 症例に対してAripiprazole(ARP)による加療を行い,NPI,UPDRS PartIIIで症状評価したところ,EPS の悪化を認めずBPSD の改善が可能であった症例を経験した.
【倫理的配慮】 非定型抗精神病薬の使用に当たっては,効果と同時にその使用が保険外適用である旨の説明,アメリカ食品医薬品局の警告を含めた副作用の説明を十分に行い同意を得た.
【結果】 症例は5 例であり,男性3 例,女性2 例であった.平均年齢69(60〜75).EPS を有するものは4 例であった.全例Donepezil を使用したがBPSD の改善効果は認めなかった.BPSDの内容としては,全例で明瞭な幻視を認め,3 例は被害妄想も伴っていた.3 例がQuetiapine,2例(糖尿病合併例)がRisperidone を前治療薬として使用していたが,4 例でEPS の悪化,2 例で起立性低血圧の悪化を認め継続困難となった.ARP は平均12 mg(6〜18 mg)使用した.ARPでの加療前のNPI は45.4±16.0 であり,加療によるNPI 得点の減少は31.2±10.7 であった.UPDRS PartIIIは加療前が34.2±9.3 であり,加療後の得点減少は5.6±2.5 であった.ARP により臨床的に効果を認めるまでの期間は,開始1週以内が2 例であり,全例4 週間以内であった.糖代謝や脂質代謝の悪化,高プロラクチン血症などの有害事象は全例で認めなかった.
【考察】ARP によるDLB の精神症状に対する効果については,有効であるという報告の一方効果に乏しいという報告があるなど一定した見解がない.全例ともBPSD に対して効果を認め,EPSを悪化させなかった.DLB に対してもARP は効果的である可能性があり,治療選択肢の一つと考えても良いとは思われた.比較的年齢が若いこと,ARP の効果が比較的速やかに認められたことが本例の共通する特徴であるが,今後はどのような特徴を持った症例に効果が期待できるのかを検討する必要があると考えられた. - BACK
- II-3-5 10:15〜10:30
- 長期Donepezil 投与中に姿勢異常を呈したprobable DLB の一例
- 長谷川典子,嶋田兼一(兵庫県立姫路循環器病センター・高齢者脳機能治療室),山本泰司,前田 潔(神戸大学大学院医学研究科精神医学分野)
- 【はじめに】 レビー小体型認知症(DLB)は,アルツハイマー型認知症(AD)に次いで,頻度が高い認知症であり,臨床診断基準も作成されているが,現実の臨床現場において,鑑別は容易ではない.今回,AD の診断にて加療中,姿勢異常の出現により介護困難となり,入院精査にてprobable DLB と臨床診断を変更し,donepezil投与中止後,在宅療養が可能となった1 症例を経験したので,報告する.
【倫理的配慮】 検査結果,写真を用いた匿名下での症例発表は,本人及び家族から同意を得た.
【症例】 76 歳女性,X‐3 年(73 歳),物忘れ(同じことをきく,冷蔵庫が同じ商品であふれる,物を置いた場所が思い出せない等)が著明となり,X‐1 年(75 歳)3 月,当科外来初診された.幻視,パーキンソニズム,症状変動は認められず,MMSE 21/30(見当識‐4,注意‐2,想起‐3),ADAS 14.3,頭部MRI 上,大脳のびまん性萎縮及び海馬萎縮を認め,IMP-SPECT 上,後頭葉の血流低下もわずかに認められたが,両側側頭頭頂連合野・後部帯状回の血流低下が著明に認められたため,AD と診断され,donepezil 5 mg が開始された.近医でフォローされていたが,X 年(76歳)9 月,姿勢異常(頸部前屈)が出現し,家族(夫,統合失調症の長男と3 人暮らし)が介護困難を訴え,当科を再紹介され,10 月,精査加療及び在宅での介護構築目的に入院となった.MMSE 16/30(見当識‐6,注意‐4,想起‐3,構成‐1)と認知機能低下が進行し,頸部MRI 上では頸髄圧迫所見は認められなかった.家族陳述及び行動観察から,幻視,認知機能の変動が確認され,両上肢歯車様筋固縮,突進現象が認められた.頭部MRI 上,大脳及び海馬の萎縮は前回と比較して著変なかったが,IMP-SPECT 上,後頭葉の血流が著明に低下していた.MIBG 心筋シンチでは自律神経障害が示唆された.心理検査においては,WAIS-でVIQ 77,PIQ 59 と,動作性IQの低下を認めた.これらから,臨床診断をprobable DLB とし,donepezil 投与を中止したところ,2 週後に頸部を正常位に保っている頻度が高くなり,3 週後には,姿勢異常は改善した.30 病日後,自宅へと退院し,当科外来フォローとなった.
【考察】 本症例は,IMP-SPECT 上,後頭葉の軽度血流低下といったDLB の支持的特徴を呈していたものの,中核的特徴を認めず,AD と診断され,18 か月間,donepezil 5 mg 投与中,姿勢異常を呈した.精査の結果,probable DLB と診断を変更し,donepezil を中止したところ,姿勢異常が改善し,在宅療養が可能となった.donepezil投与中止後,比較的早期に姿勢異常が消失したことから,アセチルコリン神経系の関与が推測された. - BACK
- 10 : 30〜11 : 45 第3会場
- FTLD 関連
- 座長: 朝田 隆(筑波大学臨床医学系精神医学)
- II-3-6 10:30〜10:45
- 前頭側頭型認知症の心理行動症状に対する塩酸ドネペジルの影響
- 木村武実,高松淳一(国立病院機構菊池病院臨床研究部),林田秀樹,宮内大介(くまもと悠心病院)
- 【目的】 前頭側頭型認知症(FTD)では,易怒・攻撃性,脱抑制,常同行為,食行動異常,意欲低下・無関心などの深刻な心理行動症状(BPSD)が出現する.これらの症状のために,FTD 患者の介護負担はアルツハイマー型認知症(AD)や脳血管性認知症(VD)などの患者と比較して極めて高い.一方,FTD はAD よりも認知症における頻度が少なく,診断が困難なため,しばしばAD と診断される.わが国では,塩酸ドネペジル(DON)はAD の進行を抑制する唯一の薬剤であるため,AD と診断されたFTD 患者にもDONが処方されることがある.臨床的には,DON によりFTD 患者の易怒性が助長され,介護負担が高まることをしばしば経験する.そこで,我々はこれを検証するために,FTD 患者に投与されていたDON を中止してBPSD の変化を評価する前向きオープンラベル研究を行った.
【方法】 当院外来のFTD 患者のなかで,他の医療機関によりAD と診断されDON を投与されていた18 名(67〜86 歳,男性9名)を対象とした.FTD の診断はConsensus guidelines of FTD(Neurology 1998 ; 51 : 1546-1554)によって行った.DON 中止前後の患者のBPSD と介護負担を包括的で精度の高い評価尺度であるthe Neuropsychiatric Inventory ( NPI ), Zarit Burden Interview(ZBI)によりそれぞれ評価し,NPI,ZBI の時間的変化をthe Wilcoxon signedrank test によって解析した.
【倫理的配慮】 本研究は当院倫理審査委員会により承認された.対象者と家族に本研究の趣旨を説明して書面で同意を得た.
【結果】 DON 中止により,NPI の得点が有意に減少した(中止前;40.8±10.1 点,中止後;30.7±8.2 点,p=0.0003).NPI の下位項目では,特にAgitation/aggression(p=0.0004),Irritability/lability(p=0.0004),Aberrant behavior(p=0.039)で有意な減少がみられた.また,ZBI も有意に減少した(53.1±10.9 点,46.6±10.0 点,p=0.0004).一方,DON 中止による有害事象はなく,日常生活上,認知機能に変化は認められなかった.
【考察】 DON の中止により,FTD 患者のBPSD(特に易怒・攻撃性,イライラ,逸脱行為)と介護負担が軽減されたことをNPI,ZBI により確認できた.このことから,DON がFTD のBPSDを増悪させ,介護負担をさらに悪化させていることが示唆される.治療薬として投与されたDONがFTD 患者と介護者を苦悶・疲弊させているということは重大な問題といえる.わが国におけるかかりつけ医の認知症早期診断のための研修では,AD やVD の診断に重点が置かれ,FTD の診断に言及することは少ない.現在,FTD の診断は主としてConsensus guidelinesof FTD によって行われているが,この基準には“decline in social interpersonal contact”,“impairment in regulation of personal contact”などの難解な症状が出てくるため,まだ専門医以外は使いづらい.また,FTD の診断には臨床症状の詳細な聴取および把握が必要であり,短時間の診察では診断は困難といえる.これらの背景により,わが国ではFTD 患者がAD と診断され,安易にDON が投与されるという問題が起きている.これを回避するには,FTD 診断の重要性とFTD 患者におけるDON のリスクの周知が必須であり,今後は,認知症診断のための研修やFTDの臨床診断基準の見直し,診療報酬上のFTD 診断加算の検討なども視野に入れるべきと考える. - BACK
- II-3-7 10:45〜11:00
- レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症の軽度認知障害をどのように診断するか?
- 山本涼子,井関栄三(順天堂東京江東高齢者医療センター,順天堂大学精神医学),村山憲男(順天堂東京江東高齢者医療センター),藤城弘樹(順天堂東京江東高齢者医療センター,順天堂大学精神医学),笠貫浩史(順天堂大学精神医学),一宮洋介(順天堂東京江東高齢者医療センター,順天堂大学精神医学),佐藤 潔(順天堂東京江東高齢者医療センター),新井平伊(順天堂大学精神医学)
- 【目的】 認知症の早期発見は,アルツハイマー病だけでなくレビー小体型認知症(DLB)や前頭側頭葉変性症(FTLD)においても重要である.しかし,これらの疾患が軽度認知障害(MCI)の時点でどのような特徴を示しやすいか,まだ十分には明らかにされていない.順天堂東京江東高齢者医療センターでは,認知症の早期発見を目的として物忘れドックを実施している.本研究では,物忘れドックでDLB ないしFTLD のMCI と考えられた対象者の検査結果を提示し,臨床的特徴を検討した.
【方法】 平成19 年4 月から平成20 年12 月までに,順天堂東京江東高齢者医療センターのもの忘れドックでDLB のMCI と考えられた12 名(DLB-MCI 群),FTLD のMCI と考えられた7名(FTLD-MCI 群)を対象者とした.すべての対象者に,頭部MRI,脳18FFDG PETの画像検査のほか,心理検査としてMMSE,ADAS-J.cog,WMS-R,WAIS-III を実施した.また,追加検査としてDLB-MCI 群にはBenderGestalt Test(BGT)を,FTLD-MCI 群にはWAB失語症検査とFrontal Assessment Battery(FAB)を実施した.
【結果】 DLB-MCI 群では,DLB の中核症状のうち,パーキンソニズムが3 名にみられたが,幻視や認知の動揺は明らかでなかった.また,REM睡眠行動障害が8 名にみられた.頭部MRI では,年齢相応〜軽度の脳萎縮が認められた.脳18FFDGPET では,大半の対象者に後頭葉の糖代謝量低下が認められた.MMSE 得点は26.3±3.0点,ADAS-J.cog 得点は5.2±3.2 点であった.WMS-R の一般的記憶は95.9±14.7,WAIS-IIIのIQ が105.5±13.8,知覚統合が96.8±11.9,処理速度が96.1±8.0 であった.BGT はascal-Suttell 法で採点した結果,71.4±30.1 であり,全体としてはDLB が疑われる得点(98 点以上)ではなかった.しかし,いずれの心理検査も結果は対象者ごとに多様であり,明らかな記憶障害や視覚認知障害を示した対象者もいた.FTLD-MCI 群では,頭部MRI の結果,多くの対象者で前頭葉や側頭葉前方部の萎縮がみられたが,脳萎縮の目立たない対象者もいた.脳18FFDGPET では,大半の対象者に前頭葉や側頭葉前方部の糖代謝量低下が認められた.MMSE 得点は26.8±2.8 点,ADAS-J.cog 得点は9.4±4.7 点であった.WMS-R の一般的記憶は83.0±22.4,WAIS-III のIQ が96.7±19.0 であった.しかし,いずれの心理検査も結果は症例ごとに多様であり,WAB やFAB などにおいて言語障害や実行機能障害を示した対象者もみられた.
【考察】 DLB ないしFTLD のMCI と考えられた対象者の検査結果を検討した結果,示された特徴は多様であり,これらを早期に発見するためには詳細で包括的な検査を実施することが必要であると考えられた.また,今後はこれらの対象者を縦断的に検査し,どのような特徴を示した対象者がDLB ないしFTLD に進展するかを検討することが重要であると考えられた. - BACK
- II-3-8 11:00〜11:15
- 当科におけるSemantic Dementia の連続例からみた臨床症状の推移
- 樫林哲雄(愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学),品川俊一郎(東京慈恵会医科大学精神医学講座),石川智久,清水秀明,森 崇明,福原竜治,上野修一(愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学),池田 学(熊本大学大学院医学薬学研究部脳神経病態学分野),谷向 知(愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学)
- 【はじめに】 意味性認知症(Semantic Dementia :SD)は側頭葉前方部の葉性萎縮に伴い進行性の意味記憶障害を呈する疾患である.言語における意味記憶障害は語義失語とよばれ,SD における最も特徴的な症状であるが,進行に伴い脱抑制,無為,固執,常同行動,食行動異常などピック病特有の人格・行動面における障害を呈することが知られている.しかしSD の臨床症状を多数例で長期間追跡した報告は少なく,エビデンスに基づく臨床病期分類はない.我々はSD の多数例での長期にわたる臨床観察から,臨床病期分類の作成を念頭に置き精神症状や日常生活動作の臨床経過に関する研究を行った.
【方法】 対象は平成8 年1 月から平成19 年5 月までに当科を受診した連続例1,045 例のうち,SDの診断基準を満たし,1 年以上経過を観察し得た19 例とした.本研究はすべての患者と家族に対して同意を得て行われた.初診時に患者およびその家族から初発症状の出現時期を確認し,その後カルテの記載から精神症状,神経心理学的症状,ADL 上の障害の全24 項目について症状の有無と初発症状から換算した各症状の出現までの期間を確認し平均値と標準偏差を算出した.
【結果】 初発症状から換算した平均観察期間は平均7.1 年(最小:1.8 年,最大:11.2 年)だった.失名辞,語理解の障害,錯語,読み書き障害を含むいずれかの言語症状は約3 年までに全症例に認められた.常同行動,脱抑制,固執,易刺激性・攻撃性,無為などの精神症状は約3 年から5 年の間に多く認められた.食行動に関しては,食事の偏りが平均3.6 年(±1.5)19 症例すべてに,過食・体重増加が平均5.1 年(±1.5)で13 症例に出現した.4 症例が初発症状から平均6.6 年で食事介助を要した.着衣の障害は6 症例,平均7.1年で確認し,臥床傾向は8 症例,平均7.4 年で確認した.
【考察】 今回我々は多数例のSD を長期間観察し,各臨床症状の出現時期を明らかにできた.本研究からSD の臨床経過は大きくStageI(選択的な意味記憶障害に特徴づけられる時期),StageII(精神症状の出現により特徴づけられる時期),StageIII(ADL の障害により特徴づけられる時期)の3 期に分けることが可能と考えられた.
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- II-3-9 11:15〜11:30
- 前頭側頭型認知症患者の入院後の歩行パターンの形成
;ICタグモニタリングシステムを用いた連続モニタリング - 山川みやえ(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻),繁信和恵(財団法人浅香山病院),手嶌大喜,牧本清子,瀬川七重,三好瑠美子(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻),田伏 薫(財団法人浅香山病院)
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【目的】 前頭側頭型認知症(FTD)患者の症状には,脱抑制や常同行動など特徴的なものが報告されている.短期入院により,在宅介護で問題となっている常同行動をより適応的な常同行動に変化させるといったケアの方法も試みられている(Ikeda,2006).本研究では,無銭飲食などの脱抑制が常同的に見られていたFTD 患者の入院後の歩行についてIC タグモニタリングシステムを用いて,連続してモニタリングした.その際に入院直後から一定の歩行パターンが形成されたことが分かったので報告する.
【方法】 大阪府下にある総合病院の老人性認知症専門治療病棟(約60 床,閉鎖病棟,回廊型の病棟で1 周約90 m である).[データ収集]本研究は2008年9月から約6 ヶ月間の予定(2009 年1月現在)で実施中のIC タグモニタリングシステムのよる研究プロジェクトの1 つである.[データ収集項目]年齢,性別,認知症歴,服薬状況,MMSE,CDR,行動心理学的症状(NPI-NH),IC タグモニタリングシステムによる歩行状況(歩行距離,歩行場所・時間).[IC タグモニタリングシステム(Matrix 社製)]病棟内の天井裏にICタグを受信するためのアンテナを設置し(30 箇所),患者の衣服にIC タグを装着した.IC タグを装着した患者が,アンテナの下を通ると,その時間と場所の情報が自動的にコンピューターに蓄積される.このシステムにより患者の時間別歩行距離や歩行場所が連続してモニタリングできた.[症例]69 歳,女性,FTD(Pick type)の診断を3 年前に受ける.罹病歴は4 年.入院前の生活は,毎朝8 時45 分に外出し,9 時30 分に百貨店に着き,百貨店の開店と同時に,決まった店で決まったサンドイッチを購入して,11 時30 分に家に帰っていた.昼には,再び決まった時間に決まった店に昼食に出かけていた,といった時刻表のような生活を送っていた.その際に,無賃乗車や無銭飲食という脱抑制的な行動がみられ,夫が制止すると興奮し,攻撃性が高まったため,医療保護入院となった.入院時MMSE スコアは4,CDR スコア1 であった.
【倫理的配慮】 本研究は大阪大学及び当該病院の医学倫理委員会の承認を得て実施した.研究参加要請時は,患者の意思決定代理人が,研究内容についての説明を受け同意書に署名した上で参加した.
【結果】 入院1週間の1日の総歩行距離の平均は,6,234±704 m であった.歩行時間も8時−23時以外にはほとんどなく,特定の時間帯(12 時,15時,16 時)に特に歩行距離が長かった.下図は入院直後からの1 時間毎の歩行距離を7 日間連続してプロットしたものである.入院直後から歩行時間帯がほぼ一定時間であることが分かった.歩行場所は,回廊型の病棟内を何周かして,途中の食道でテレビを見て,その後,また何周かして自室に戻る,という一定のパターンが見られた.入院前のNPI-NH では,興奮,多幸感,脱抑制,異常行動,睡眠,食行動で頻度,重症度が高かったが,入院後約1週間では多幸感,脱抑制,異常行動のみで頻度,重症度が高かった.
【考察】 IC タグモニタリングシステムにより,入院直後からのFTD 患者の歩行が客観的に連続して示すことが出来た.本研究の症例であるFTD患者は,入院直後から歩行パターンが形成され,歩行時間,歩行場所ともに一定のパターンがあることが分かった.本症例では,入院前から脱抑制が常同的になり,入院後も脱抑制行為が見られた.FTD患者の歩行の常同性を早期に把握できると,脱抑制などの迷惑行為が起こりやすい時間帯が分かり,他患者とのトラブルなどの予防に利用できると考えられる. - BACK
- II-3-10 11:30〜11:45
- semantic dementia の病識
;前頭側頭型認知症,アルツハイマー病との比較 - 矢田部裕介,橋本 衛,兼田桂一郎,本田和揮,小川雄右,一美奈緒子,勝屋朗子,池田 学(熊本大学医学部附属病院神経精神科)
- 【目的】 semantic dementia(SD)は前頭側頭葉変性症(以下FTLD)のひとつで,従来の側頭葉優位型Pick 病に相当し,意味記憶障害に加えて,多彩な行動障害・性格変化を特徴とする.FTLDでは早期より病識が欠如するとされているが,SD患者では自らの機能障害を積極的に訴え,一見病識が保たれているようにみえるケースがしばしばある.そのためFTLD の範疇外の疾患と誤診されていることも多い.そこで,我々はSD の病識を有する頻度や内容について検討し,それを前頭側頭型認知症(以下FTD)ならびにAD と比較した.
【方法】 対象は,2007 年4 月から2009 年1 月にかけて熊本大学附属病院神経精神科外来を初診した連続例のうち,軽症から中等症(MMSE≧10点)のSD 9 例(男性4 例,女性5 例,平均年齢73.1 歳,平均MMSE 15.2 点),FTD 5 例(男性3 例,女性2 例,年齢67.2 歳,MMSE 22.2 点),AD 93 例(男性30 例,女性63 例,年齢74.4 歳,MMSE 20.7 点)である.SD とFTD の診断は1998 年のNeary らの診断基準を用い,AD の診断はNINCDS-ADRDA のprobable AD の診断基準を用いた.対象の診療録を調査し,加齢変化の範囲を越えた機能低下の訴えがある場合に病識有りとし,病識の有無および訴えの内容について分析した.
【倫理的配慮】 患者またはその家族に,本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.
【結果】 SD 群の8 例(89%),AD 群の27 例(29%)に病識を認め,FTD 群では全例病識が欠如していた.病識の表現パターンとして,SD 群では「脳が悪くなっている」や「バカになった」と訴えがきかれ,2 例(22%)は単独で来院していた.一方,AD 群では「たまに物忘れするが年齢相応」や「家族に勧められて来ただけ」という表現が多 く,単独受診は1 例(1%)のみであった.
【考察】 SD 群では89% に少なくとも表面的なレベルで病識があり,AD 群やFTD 群よりも高率であった.これはSD では,FTD のような行動障害だけでなく意味記憶障害を呈し,なおかつAD のようにエピソード記憶障害がないため,意味記憶障害を背景とした自己の変化についての自覚が得られやすいと考えられた.今回の知見より,自己の機能低下を自発的に訴え,単独で受診する様なケースでは,病識が保たれていると考えてFTLD を否定するのではなく,むしろSD を積極的に疑うべきであると考えた. - BACK