6月27日(金) 第1会場(メインホール)
会長講演
小阪憲司(横浜ほうゆう病院)
- KC-1 14 : 25〜15 : 05
- わが国の老年精神医学をめぐる2, 3 の問題
- 老年精神医学をめぐって喫緊の課題は,
(1)増加の一途をたどる認知症
(2)自殺に結びつきやすい高齢者の気分障害
があると考えられる.その他にも高齢者虐待,自動車運転の適否,高齢者の終末期・緩和ケアのあり方,高齢者の妄想性障害など精神病性障害,高齢者のパーソナリティ障害,高齢を迎えた統合失調症入院患者への対応,高齢者精神科救急体制の
整備,介護保険の見直し,施設における介護とケアなどが考えられる.倫理的には治験などにおける代諾・意思決定の問題,身体拘束の問題,
(1)の認知症についても,MCI を含め早期診断の確立,Alzheimer’s Disease の根本療法,激しいBPSD などによる認知症高齢者の介護負担,後期・重度認知症患者への対応などがある.
(2)については高齢化の中でやはり増加している.また若年期,中年期の気分障害よりも重症,劇症であることが多く,家族の負担も重い.とくに自殺に結びつくと悲劇性は大きくなる.
これらのうち本学術総会では高齢者の幻覚妄想状態についてはシンポジウムで,また高齢者の自殺については国際シンポジウムでも取り上げられる.
老年精神医学そのものについては若い精神科医が積極的には関心を持たないという現象が指摘されてきた.専門医制度発足に伴って過渡的処置による専門医は増加したが,その後の専門医試験受験者が極めて少数にとどまっている.この現象は詳細に検討しなければならない重大な問題である.本抄録を書いているときに後期高齢者医療制度
が始まり,その評判の悪さから首相は長寿医療制度と名称の変更を提唱し,制度のイメージチェンジを志向した.また老人という言葉が行政用語から除かれて20 年近くが経過している.本学会は老年精神医学会という名称であるが,老年という
語も決してよいイメージではない.それに代わるものとしてたとえば高齢者精神医学というのも悪くはないかなと考えている.それによって若い精神科医がこの領域に悪くないイメージを持ち,関心を示してもらえればありがたいことである.
会長講演としてわが国の老年精神医学をめぐる課題を指摘・整理する試みを報告したい.
6月27日(金) 第1会場(メインホール)
特別講演I
長谷川和夫(認知症介護研究・研修東京センター)
- T-1 15 : 05〜16 : 05
- Dementia Network Services for Elderly Dementia in South Korea
- Byoung Hoon Oh(Department of Psychiatry, Yonsei University, College of Medicine, Seoul,Korea),Chang Hyung Hong(Department of Psychiatry, Ajou University School of Medicine,Suwon, Korea)
- South Korea is one of the most rapidly ageing country. The total population
is 49 million, with 9.0% of the population over 65 years of age in 2007.
We already reached ‘aging society’ in 2000 and in 2019 it will be reaching
“aged society”. Thus, elderly people may suffer from a variety of serious
mental disorders such as dementia, depression, delirium and alcoholism.
Dementia is one of the typical disabling
neuropsychiatric disorder in elderly population.
The prevalence of elderly dementia in South
Korea ranged from 8-12%. Alzheimer’s disease
is 6-8% and vascular dementia is 2-4%.
Dementia is a big problems in South Korea
because of rapid growing of elderly populations.
About 900,000 people, equivalent to 25% of
Korean elderly, needed long-term care in 2007.
In South Korea, there are five main
medico-social service programs for the elderly :
income support, job placement, housing,
leisure activity and long-term care programs.
The Department of Elderly Welfare Services of
the Ministry of Welfare Public Health Services
began a “Ten Year Plan for Senile Dementia”
during 1996-2005. This plan focused on
increasing special hospitals and facilities
specializing in the treatment of dementia,
encouraging dementia screening center. From
July 2008, the Korean government is just
starting to adapt long-term care service.
Dementia service system suggests the two
developing modes. First, national policy model
is based on “long-term care system”. Second,
community model is focused on early detection
and diagnosis of dementia. The general
principle of dementia management
emphasized on early diagnosis, medical care
and individualized treatment. It needs to be
accessible , responsive , multi-disciplinary ,
accountable and systemic. Dementia services
consist of comprehensive rehabilitation
program emphasized the joining family
members with promoting longevity and
prevention educating programs. I would like to
introduce community based out-reach
dementia service model-Gwangju one stop
total dementia services.
Key Words : Dementia Service System, Gwangju one stop total dementia services, South Kore
6月28日(土) 第1会場(メインホール)
特別講演II
三山 夫(八日会大悟病院老年期精神疾患センター)
- T-2 13 : 00〜14 : 00
- 若年発症の認知症について
- 最近,我が国では,「若年性認知症」という用語がしばしば用いられる.これは,65 歳以前に発症した認知症に対して用いられているもので,もちろん疾患名ではないし,単一の病態でもない.しかし,働き盛りで発症するのであるから,社会
的に大きな問題となることも多く,また,高齢者の認知症と比べると公的サービスの整備が遅れているところもあって,本人,家族に対する著しい負担が加わることになる.
平成18 年度の日本精神科病院協会の統計,年齢別精神科病院在院患者数によれば,症状性を含む器質性精神障害の患者34,765 名のうち,アルツハイマー病の認知症12,398 名(そのうち65歳未満の発症6.31%),血管性認知症10,899 名
(そのうち65 歳未満の発症7.36%),その他の器質性障害11,468 名(そのうち65 歳未満の発症25.71%)となっている.
認知症は,大脳の広範な領域の障害による認知機能の障害である.その原因としては,神経変性疾患(アルツハイマー病,前頭側頭葉変性症,レビー小体病,ハンチントン病など)のみでなく,循環障害,外傷,脳炎,代謝障害,栄養障害,中
毒,低酸素症,正常圧水頭症などもあげられる.そのうち,初老期発症の認知症として頻度の高いのは,アルツハイマー型認知症の早期発症型,前頭側頭型認知症,血管性認知症などである.
アルツハイマー病では,発症年齢を早める要因として,アポリポタンパクE 4 の関わりが知られているものの,早期発症型と晩期発症型との間に病理所見,臨床症状において,本質的な差異があるとは見なされていない.ただ,若年発症のあ
るものでは,家族性で,遺伝子異常がみられ,かつ臨床症状においても神経症状(とくに錐体路症状)や,神経心理症状が目立つことがあり,アルツハイマー病における多様な発症要因の存在を思わせる.また,超高齢者のアルツハイマー型認知
症に比べると早期発症のアルツハイマー病では,日常生活能力の低下が急速であることが少なくない.
ここでは,早期発症の認知症の原因となるいくつかの疾患の病態,臨床的な特徴について述べ,その概念について検討してみたい。
6月27日(金) 第2会場(国際会議室)
教育講演I
守田嘉男(兵庫医科大学)
- K-1 16 : 00〜17 : 00
- 高齢者の気分障害;診断と治療のポイント
- 高齢者における気分障害の診断と治療(特に,薬物療法)のポイントについて述べる.老年期は,身体的な衰えが目立つようになり,配偶者や友人などを喪ったり,役割,地位,仕事などを失う機会が多い「喪失の時代」である.うつ病では,こ
うした身体的,環境的要因の変化を背景にした好発時期でもあるが,加齢に伴う不可避の現象であると周囲からは見なされることも稀ではない.高齢者におけるうつ,躁の症候学的特徴を述べ,脳器質因,身体因検索の重要性を踏まえて,うつで
は,認知症との鑑別ないしは併存を念頭においた診断,初発の躁では,二次性躁病として原因疾患の検索が求められる点を強調したい.薬物療法については,肝・腎機能をはじめとする身体機能の低下による薬物代謝・排泄能力の低下に加え,多
少とも脳の器質性変化が高齢者では存在することから,重篤な副作用の回避を重視した薬物選択・投与を行う必要がある.抗うつ薬,気分安定薬を中心に薬物の具体的な選択法・投与法について述べる.
6月27日(金) 第2会場(国際会議室)
教育講演II
篠崎和弘(和歌山県立医科大学)
- K-2 17 : 00〜18 : 00
- 認知症の抗精神病薬療法;精神病症状,攻撃性に対して
- 認知症には記憶障害をはじめとする中核症状以外に多彩な精神症状,行動異常がしばしばみられる.これらは中核症状以上に介護者に大きな負担感を抱かせ,介護者の生活の質や介護の質を損なう原因や入院や施設入所の時期を早める大きな要
因となる.とくに精神病症状や攻撃性は介護者を悩ます最も厄介な対処が難しい症状であり,それらを治療することは臨床医にとって最も重要な課題であるといってよい.中核症状に対しては今のところ根本的に治療することはできないが認知症
の精神症状,行動異常に対する治療は対症療法ではあるものの効果が期待できる.また国際的にも認知症の行動心理症状と総称され,認知症治療の対象として重視されている.認知症の精神症状,行動異常が生じる背景には患者の社会心理的,生
物学的要因が存在する.認知症の精神症状,行動異常に対して介入する場合,身体疾患の治療,投与されている薬剤の見直し,患者の置かれている環境や心理状態に沿った非薬物的な対応(ケア)から始めるのが適当である.それらの効果が乏し
い場合には薬物療法,さらには入院治療を検討せざるを得ない.薬物療法に際しては,認知症を惹起している疾患や病期によって精神症状や行動異常の内容に差異があり,治療の標的とする疾患や症状を明確にして薬物を選択する必要がある.ア
ルツハイマー型認知症ではコリンエステラーゼ阻害薬,前頭側頭型認知症では選択的セロトニン再取り込み阻害薬の有効性が示唆されている.認知症における幻覚,妄想といった精神病症状,攻撃性を含めたagitation に対して抗精神病薬を用い
るが,安全上の懸念と保険適応外使用という問題がある.安全上の最大の問題としてはアメリカ食品医薬品局からの警告にもあるように心不全や突然死などの心臓障害,肺炎などの感染症,脳血管障害などの発生により死亡率が高くなることであ
る.一方では抗精神病薬の中で,以前はハロペリドールといった定型抗精神病薬が少量使用されていたが,最近の無作為比較試験やメタ解析の結果から安全上の問題を考慮すると非定型抗精神病薬をこえて推奨できる薬剤はない.アメリカ食品医
薬品局の警告の後も抗精神病薬が使用されているという実態がある.投与に先立ち身体状態を精査し患者や家族に十分に説明し同意を得た上で低用量から投与を開始するべきである.最大限の注意をはらいながら可能な限り単剤にとどめ,漫然と
長期間投与することを避け,3 ヵ月ごとに効果と副作用の両面について評価を行い,症状が軽減,消退すれば,減量,中止するべきである.抗精神病薬が副作用などで使用できない場合は気分安定作用を有する抗けいれん薬であるカルバマゼピン
や選択的セロトニン再取り込み阻害薬や塩酸トラゾドンといった抗うつ薬を考慮してもよい.認知症の精神症状,行動異常に対して劇的に奏功する薬剤がないことを前提に精神症状や行動異常を呈している認知症患者に真に薬物療法が必要である
か総合的に判断する慎重な態度が必要である.
6月28日(土) 第2会場(国際会議室)
教育講演III
岸本年史(奈良県立医科大学)
- K-3 14 : 00〜15 : 00
- 認知症における記憶障害について
- 記憶障害は,短期記憶の障害と長期記憶の障害に分けられる.臨床的な長期記憶の障害は,大きくエピソード記憶の障害と意味記憶の障害に分けられる.認知神経心理学的研究に伴い,アルツハイマー病では,その症状の中核はエピソード記憶
であることが明らかになってきている(責任病巣は,海馬・海馬傍回に求められることが多いが,前脳基底部の障害を重要視する見解もある).これに対して,意味記憶障害ないしは様式特異的な失認は,前頭側頭型認知症で認められる.本席で
は,まずこれらの障害を特異的にもつ認知症例について紹介する.
また,エピソード記憶の障害に関連して,近年SEPCT およびPET 研究により指摘されているアルツハイマー病における後部帯状回およびprecuneus を含む頭頂葉内側部の機能低下の持つ意義について若干の言及を行いたい.この頭頂葉
内側部の所見は,まず以前から知られている脳梁膨大後部健忘(retrosplenial amnesia,間脳ないしは前頭皮質と海馬領域との経路が離断された結果による健忘症候)として,アルツハイマー病の記憶障害,特にエピソード記憶の想起障害を説
明する可能性がある.一方,近年の脳腑勝研究により,頭頂葉内側部は自他の区別に強く関与する社会的認知のキー領域であり,自己に関する内省などの機能に強く関与していることが徐々に明らかにされている.アルツハイマー病では,その経
過の中で,知性・人格(知情意)の全般的解体が出現する.かつて,Scheller(1965,1971)は,痴呆の本質として,自己に問いを発すること,自分自身に関わること,人格である自由と可能性を持つことの障害を指摘した.アルツハイマー病に
おける頭頂葉内側部の機能低下は,健忘を説明するだけでなく,認知症でみられる自己関連機能の低下に関与している可能性がある.
次に,認知症でしばしば認められる,健忘に伴う記憶錯誤(パラムネジア)の出現メカニズムについて,若干の検討を紹介したい.記憶錯誤とは,記憶想起の質的な障害であり,誤った記憶を想起する現象である.実際には体験しなかったことや
生じなかった出来事を誤って想起する現象であり,また,記憶錯誤を広く捉える場合には,人や場所や物を誤って再認(認識)する現象もこれに含まれる.記憶錯誤に含まれるカプグラ症候群は,情動的価値が非常に高い人物に対する「唯一無二」
の情動の生起障害から発展すると考えられる.一方,類似した症候である重複記憶錯誤は,新しい場所(たとえば病院)への親密感や実感の欠如が,二重見当識を引き起こし,これが場所の同一性の崩壊を引き起こすと考えることができるかもしれ
ない.両者ともに,人や場所に関する知覚,記憶,情動の統合に歪曲が起こることが核になって生じる現象であると考えることが可能であろう.
6月28日(土) 第2会場(国際会議室)
教育講演IV
池田研二(財団法人慈圭会慈圭病院)
- K-4 15 : 00〜16 : 00
- 認知症の神経病理;変性認知症とくにアルツハイマー型認知症のシグナル伝達
- 川又敏男(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域(脳機能・精神障害学分野))
- 近年,神経画像検査技術の進歩や神経心理学的検査の普及等に伴って臨床的な認知症診断率は確実に向上している.しかし典型的な症例は別として,さまざまな症状の背景にある,神経心理学的検査で明らかになる機能障害を生じた脳領域の局
在や広がりには症例毎にかなりの相違があり,最終的な確定診断は病理解剖の結果を待たねばならない場合も多い.認知症の神経病理診断では,生前の症状に相当する病変(神経細胞の変性・消失とグリア細胞の活性化)の程度・分布を確認する
と共に,神経細胞内外の特徴的病理所見の有無についても質的・量的にその程度・分布を詳細に検討し,診断が確定される.
本講演では,認知症とくに変性認知症のうち患者数が現在最も多く今後も社会の高齢化に伴って急増すると予想されているアルツハイマー型認知症を中心に,レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症(ピック病,ユビキチン陽性封入体を伴うも
の等を含む)・嗜銀顆粒性認知症・神経原線維変化型認知症・皮質基底核変性症・進行性核上性麻痺など他の非アルツハイマー型認知症も交えながら,(1)典型的な神経病理像の概要とくに病変分布について,あるいは(2)アミロイド病変・タ
ウ病変・シヌクレイン病変などニューロンやグリアの細胞内外に,異常蛋白質が老人斑・神経原線維変化・レビー小体・グリア細胞内封入体等の特異な形態を示しながら蓄積する特徴病理像について説明する.また(2)のうち,アミロイド病変と
タウ病変に関連するアルツハイマー病の病態メカニズムについて,近年明らかになってきた知見をもとに提唱されている仮説を紹介する.
以上,(1)のように高次脳機能障害や精神・神経症状つまり臨床症状そのものと密接な関係を示し,症状進行の理解やリハビリテーションなど非薬物療法の適用を考慮する際に有用な情報として,また(2)のように認知症病態の分子生物学的理解
や今後の根治的薬物療法開発の可能性につながるものとして,認知症の神経病理像を概説したい.
6月27日(金) 第1会場(メインホール)
シンポジウム : 高齢者における幻覚,妄想状態
松下正明(東京大学名誉教授),池田学(熊本大学)
- S-1 16 : 05〜16 : 25
- 加齢変化の観点から
- 近年,高齢人口の増加に伴って精神科を受診する高齢者が増えている.これらの受診者にみられる精神症状には,抑うつ症状,不安症状,心気症状,不眠など,さまざまな種類のものが認められるが,一部の患者においては,著しい幻覚および
妄想状態を呈する患者も存在する.
幻覚および妄想状態のみならず,高齢者における精神障害に関しては,現在までに多くの疾患分類や考察がなされてきたものの,現在もなお十分に解明されたとは言い難い.
幻覚および妄想状態は,若年から高齢者まで幅広い年齢層で認められる精神症状である.このうち,高齢者における幻覚および妄想状態の病態について考察する際には,特に個々の症例の「多様性」という要因を重要視する必要がある.
この多様性のなかには,生物学的な老化現象(神経病理学的ならびに生理学的要因など),心理学的な側面(個々のパーソナリティ,抑うつ症状の有無など),神経心理学的要因(認知機能の低下など),社会的要因(生活環境,経済的状況など)
が含まれる.臨床の場面においては,これら複数の要因が相加・相乗的に作用して種々の精神症状を惹起しているものと推測できることも多い.
高齢患者においては若年患者と比較して,これらの多様性のなかでも特に「加齢変化」(この加齢変化の程度には幅広いバリエーションが存在するが)という要因が精神症状の発症に大きく関与していると考えられる.
以上のことをふまえて,高齢者において幻覚・妄想状態を呈した複数の自験例を提示したうえで,神経心理学的検査および頭部画像検査(MRI,SPECT)などを用いた鑑別診断を中心に考察を行う.
- S-2 16 : 25〜16 : 45
- レビー小体型認知症に見られるうつ病とその身体療法
- 高橋晶(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻精神病態医学分野)
- 高齢者のうつ病は,日常診療において,高い頻度で遭遇する疾患の一つである.その中には,様々な治療法に抵抗性を示し,大学病院など専門医療施設の精神科に紹介せざるを得ないケースも少なくない.
こうしたケースにありがちな要因として,身体合併症の多さ,これに伴う使用可能な向精神病薬の制限などが挙げられる.また基本的だが,せん妄との鑑別が困難であったり,うつ症状と認知症
の鑑別が困難だったりする診断上の問題もある.
このような高齢者の難治性うつ病患者として当院に紹介されるケースの中に,うつ病としての治療中の精査で,あるいはうつ病症状が軽快した後に,認知症の存在が明らかになることがある.
また近年高齢者のうつ病が注目される中で,認知症の危険因子としてのうつ病,うつ病から認知症に移行する例,さらに認知症のcomorbidity としてのうつ状態が注目されている.
こうした背景に鑑みて,我々は難治性うつ病として当院の精神科病棟に紹介され,入院した高齢者のうつ病患者において,認知症との関係を検討した.各種認知症疾患の中でもとくにレビー小体型認知症(以下DLB)に注目した.対象は2002年
12 月から2007 年9 月までの期間に入院した50 歳以上で,入院時診断がうつ病であった167名の連続臨床例である.神経心理検査,MRI,SPECT,MIBG,精神医学的評価,一般検査などにより評価した.DLB の診断基準に基づいて,
まずprobable DLB,possible DLB の診断を診断した.さらに診断基準の一部を満たす症例を,suspected DLB with supportive features と定義した.このタイプの特徴は,DLB に特徴的な症状を複数認めるものの認知症とは言えない
(MMSE で24 点以上)認知機能状態を保っているところにある.まず以上の3 群について,それぞれが対象においてどれくらいの率で認められるかを検討した.また,ここで得られたDLB 3群全体と,それ以外のDLB ではないと判断され
た一般的なうつ病群との間で,HamiltonDepression Scale によるうつ病の症状について比較検討した.
結果として,probable DLB,possible DLB,suspected DLB with supportive features はそれぞれ2.4%,6.0%,5.4% であった(合計13.8%).次にうつ病の症状については,DLB 3 群では一般のうつ病に比べて,アパシーとまとめられる各
種の症状と精神病症状が有意に高頻度であった.この結果は,DLB のうつには両者が並存するのではなく,これら2 タイプのいずれかが多いことを意味する.
これらのDLB のうつ患者の多くも難治性であり,抗うつ薬では効果に乏しいばかりか強い副作用が出現しやすい.そこでわれわれは電気けいれん療法(Electroconvulsive therapy : ECT)や経頭蓋磁気刺激療法(Transcranial Magnetic
Stimulation : TMS)などの身体療法により治療してきた.このような治療経験の中から多少とも効果を得つつある.当日は従来の治療成績を整理して,系統的に発表する.
- S-3 16 : 45〜17 : 05
- シャルル・ボネ症候群の脳機能画像
- 数井裕光(大阪大学大学院医学系研究科内科系臨床医学専攻情報統合医学講座精神医学分野)
- シャルル・ボネ症候群(Charles BonnetSyndrome : CBS)とは,視力低下などの視覚障害をきたした高齢者に持続的,反復的な幻視が出現する病態である.ただし,幻視以外の幻覚は認めず,明らかな精神疾患や知的障害,意識障害も
伴わない.さらに幻視に対する病識も保持されている.幻視は人物,動物,風景などの複合幻視であることが多く,それらが鮮やかな色彩や現実感に富み活発な動きを呈することが多い.CBS は幻視の発現機序を知る上で興味深い病態であるた
め,以前から注目されてきた.さらに近年広く知られるようになってきたレビー小体型認知症において,病初期に幻視のみが明らかになることがあるためCBS との異同が問題となり再び注目されるようになってきている.本シンポジウムでは,
我々が経験したCBS 2 例に対して脳機能画像を行った結果を通して,CBS の幻視出現の機序を考察したい.
症例1 は76 歳,右利き女性.糖尿病性網膜症にて両眼手術歴あり.矯正視力は,0.02(右),0.4(左).主たる幻視は自宅の部屋で動く数匹の猫.MMSE 26/30,ADAS 7.0/70.症例2 は65 歳,右利き女性.両眼水晶体除去術の既往あり.矯正
視力は,0.06(右),0.04(左).幻視は森林,山,海岸,野原,花畑などの風景.MMSE 30/30,ADAS 3/70.両例ともに日常記憶およびADL に問題なし,パーキンソニズム認めず,てんかんの既往なし,脳波検査でもてんかん性の異常波認め
ず,頭部MRI にて特記すべき所見なし.脳血流をIMP-SPECT で測定し,その画像をiSSP で解析,Stereo-tactic extraction estimation(SEE)にて部位の同定を行った.その結果,両例ともで右半球のブロードマン17 野(BA 17)とBA 18
の血流低下を認めたが,他の視覚関連領域の低下は認めなかった.この結果は低次の視覚野の障害とこれよりは高次の視覚野の保存を示唆するものと考えられた.さらに症例1 では脳磁図検査中の開眼時において,一時的に幻視を呈したため幻
視出現時と消失時の所見が得られた.Syntheticaperture magnetometry(SAM)法で解析したところ,幻視出現時に右側視覚連合野周辺の電流源密度の低下が認められた.これを右側視覚連合野の過活動を反映する結果と考え,今回の結果を
総合すると,CBS の幻視は右半球の低次の視覚野の障害を前提として,より高次の視覚連合野が過活動した際に認められる,すなわち今回の結果はCBS の幻視は解放性幻視の機序によるとの仮説を支持するものと考えられた.
- S-4 17 : 05〜17 : 25
- 認知症における幻覚・妄想の神経基盤の検討;画像解析を用いて
- 福原竜治(愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻脳とこころの医学)
- 認知症においては,さまざまな幻覚や妄想が生じ行動異常を伴う.これらは近年Behavioral andpsychological symptoms of dementia(BPSD)と呼ばれるなど注目されている.BPSD の発現には,生物学的な基盤に加えて,患者の置かれて
いる社会的・心理的状況,あるいは元来の性格などの因子が影響していることが考えられ,その発現機序に関する研究は進んでいない.われわれは,可能な限り後者の様々な因子を排除し,画像解析の手法を用いてその生物学的な発現機構を理解し
ようと試みている.
精神症状の画像解析には,その症状だけを有する群とその症状を呈さない群の2 群の比較を行うことを考えた.まず,愛媛大学医学部附属病院の高次脳機能外来の連続例において調査を行い,112 名のアルツハイマー病(AD)患者のうち53
名(47.3%)が何らかの妄想を呈し,その53 名のうち75.5% が物盗られ妄想を呈していることを示した.そこで最も頻度の高い物盗られ妄想について解析するため,認知症の精神症状の尺度であるNeuropsychiaric Inventory を用いて,外来
連続例334 名の中から妄想内容として物盗られ妄想だけを有する9 例と全く妄想を呈さない9例を抽出した.この2 群の脳SPECT 画像をStaistical parametric mapping(SPM)により比較したところ前者において右後部頭頂葉内側領
域(楔前部)の血流低下を認めた.なお,妄想群で局所脳血流量が増加している部位はなかった.楔前部は,エピソード記憶の取り出しの際の視覚性の心像に関与しているといわれている部位である.また,楔前部は,出典記憶に必要な文脈的関
連を想い出す際に活性化されるという報告もある.それ故,楔前部の機能不全をきたした患者は,自分が持ち物を置いた場所を想起するのが困難である,または持ち物と置いた場所との関連が想起できないのではないかと考えられる.あるいは,あ
る場所に自分が置いた(という運動の)記憶が障害されている可能性もある.
次に,同一症例群における治療前後の精神症状の変化に着目し,治療前後の画像を比較することを考えた.レビー小体型認知症(DLB)では両側後頭葉領域の血流低下を認める報告があり,幻視との関連が示唆されている.われわれはDLB
の幻視がドネペジル投与により改善されることから,幻視を有するDLB 患者20 例のドネペジル投与前後の脳SPECT を用いたSPM による画像解析を行った.その結果,ドネペジル投与後には幻視の改善に伴い両側後頭葉の血流増加を認めた.
これによりDLB における幻視は後頭葉の機能低下と関連があり,この機能低下が可逆性であることが示された.
脳器質性疾患である認知症における幻覚・妄想を理解するうえで,画像解析は精神症状と関連する脳部位を検討する一つの方法であると思われる.今回,われわれは,統計画像解析を用いた多数例における2 つのアプローチの方法を紹介する.
- S-5 17 : 25〜17 : 45
- 脳器質疾患と統合失調症の幻覚(妄想)の発現機序と症候学
- 幻覚,特に幻視の発現機序は不明であろうが,器質性幻視症は以下の2 つが主な背景要因として取り上げられよう.
1)中脳網様体から発する覚醒系arousal system(上行性網様賦活系ascending reticularactivating system)や視床下部後部の覚醒機構など,あるいは視床内網様体から発する広汎投射系diffuse projection system や脳幹下部(橋,
延髄)網様体などの抑制系や睡眠誘発系などの傷害が基盤となるもの
2)視覚情報の入力経路(網膜→視神経→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉皮質)の傷害による視野や視力障害が基盤となるもの
おそらく誰しもが各々に相当する障害として,
1)は脳脚幻覚症(Lhermitte,J. : 1922 年)を,また2)はChales Bonnet 症候群を思い浮かべるであろう.
一方,最近,精力的に統合失調症の脳障害研究が重ねられているが,統合失調症の幻覚の特徴やその発現様式は脳器質疾患のそれらとは異なっている.当日はこれらについて,症候学を中心に論じたい.
6月27日(金) 第1会場(メインホール)
国際シンポジウムI : Perspective of Psychogeriatrics in East Asia
Masatoshi Takeda(Department of Psychiatry, OsakaUniversity Graduate School of Medicine,Osaka, Japan)Ryo Fukatsu(Department of Neuropsychiatry, Saitama Medical Center, Saitama Medical University,Saitama, Japan)
- IS-1-1 9 : 15〜9 : 45
- Psychogeriatric Services : Current Trends in Hong Kong
- Wai-Chi Chan(Castle Peak Hospital, Hong Kong, China)
- In line with the global trend, the
population in Hong Kong has been ageing
rapidly. At present, more than 12% of the local
population is aged 65 or above. It is estimated
that by 2036, older adults will constitute 26%
of the total population. With a sharp rise in
the number of older people, the demands for
mental health services tailor-made for this age
group have become enormous.
Subsequent to the establishment of the
first specialised psychogeriatric service at the
Department of Psychiatry of Chinese
University of Hong Kong in 1991,
psychogeriatric teams have been set up across
the territory. A Psychogeriatric Working
Group has also been formed to coordinate
development of public psychogeriatric services
under Hospital Authority. In addition, the
Hong Kong Psychogeriatric Association was
established to promote old age psychiatry, and
improve the mental health care for older
adults.
There are now seven psychogeriatric
teams providing comprehensive assessment
and management services for older adults with
mental health problems. These teams typically
comprise psychiatrists, psychiatric nurses,
community psychiatric nurses, occupational
therapists , physiotherapists , clinical
psychologists and social workers. In general,
each team serves a catchment area with
60,000-70,000 elders.
One key feature that distinguishes psychogeriatric services from traditional
hospital-based services is its community oriented multidisciplinary approach
following the British service model. Outpatient service has emerged as
the cornerstone of psychogeriatric care. Besides, there are outreach programmes
offering services to residents of residential facilities. Such services
are well received according to the results of a survey conducted on eleven
residential homes, which reported a reduction in outpatient and Accident
& Emergency Department attendance, and travel time for patients and
escorts. Carers’ satisfaction ratings were high, with increased morale,
improved communication with medical staff and better knowledge on management
of patients. However, domiciliary visits to elders living at home are provided
only selectively, and day hospital service is not available in all clusters
due to the constraints of resources.
In the past decade, multidisciplinary
memory clinics providing specialist services for
older persons with cognitive impairment have
been established in different clusters. The past
few years have also seen the introduction of
an innovative elderly suicide prevention
programme in response to the relatively high
elderly suicide rate in Hong Kong. Members of
psychogeriatric teams have also been working
closely with partners from the health sector
( in particularly geriatricians and their
colleagues) as well as the social sector, aiming
at providing holistic care for older persons in
Hong Kong.
- IS-1-2 9 : 45〜10 : 15
- Psychogeriatric Services in China
- Huali Wang(Clinical Research Division, Peking University Institute of Mental Health, Beijing,China)
- Aging population is challenging mental
health services in China as the number of
afflicted elderly with mental health problems
are increasing . In recent decade ,
psychogeriatric service in China has been well
developed, though in its infancy. While there
remains shortage of health professionals in
geriatric psychiatry, the integration of clinicand
community-based mental health services
has been commenced. In this talk, the
prevalence of mental disorders in the elderly
will be presented. Based on a 3-year follow-up,
the trend of development of psychogeriatric
services infrastructure and personnel
resources in China will be explored. Additional,
the talk will take geriatric depression and
dementia as examples to illustrate the mental
health services in China. Then, from the point
of geriatric psychiatrist, the prospect of
psychogeriatric services in China will be
discussed.
- IS-1-3 10 : 15〜10 : 45
- Psychogeriatric Service Delivery in Korea
- "Hyun-Kook Lim(Department of Psychiatry, Kangnam St. Mary’s Hospital, The Catholic
University of Korea, The College of Medicine, Seoul, Korea)"
- Korea is one of the most rapidly aging
societies in the world. The proportion of
elderly people which were over 7% in 2000 is
predicted to exceed 14% in 2018. The rapid
aging of the population results in the increase
of the mental illness of the elderly such as
depression, and dementia. It is only in last
decade that more systemic development of
psychogeriatric services has begun under the
pressure of rapidly ageing population.
Korean ministry of health and welfare and
Seoul metropolitan city government have
established several mental health service
project such as “Nationwide Project for Early
Detection of Dementia” and “Seoul Dementia
Management Project” since 2006.
This presentation will include several
psychogeriatric service programs in Korea.
- IS-1-4 10 : 45〜11 : 15
- Perspectives of Psychogeriatrics in Taiwan : From Past to the Future
- Yung-Jen Yang(Department of Adult Psychiatry, Tsao-Tun Psychiatric Center, Nan-Tou,Taiwan)
- Taiwan is an island one-tenth the size of
Japan and a population around 23 millions,
which is about one fifth of Japan. Thanks to
improvement in public health and economic
prosperousness, the percentage of old age
population raised rapidly from 2.5% in 1947,
7.1% in 1993 to 10.0% in 2006. Also as the
result of decreased birth rate, the aging index
increased amazingly in the 15 years, from 28.2
in 1993 to 55.2 in 2006. The related issues,
concerns, and problems of the elder population,
including geriatric mental health, attract more
and more attention.
The importance of geriatric mental health
has been long obscured and the geriatric
psychiatric problems were not well managed
systemically. Although some pioneers had
done some outstanding researches in the field
of geriatric psychiatry, the development of
geriatric psychiatry fully bloomed until 2001
when an initiative group was formed to deal
with the specialized tasks of geriatric mental
health. After hard work and promotion in the
following 4 years, Taiwanese Society of
Geriatric Psychiatry ( TSGP ) finally
established.
Since 2005, TSGP took the lead of the
development of geriatric mental health in
Taiwan from four main approaches. First,
from academic approaches, regular seasonal
continued medical education program were
launched following the well-organized themes
and programs. Distinguished scholars were
invited regularly in our annual meetings. In
addition, a task force was formed to set up
treatment guideline for clinical practice of
geriatric psychiatry through evidence-based
approaches. In 2008, a definite training and
examination program was formed
standardization of specialist. Second, form the
service delivery, by collaboration with the
related peer group, the service for dementia,
geriatric depression and other late life
psychotic disorders were promoted and
adequate caring and treatment modalities
were arranged and studied. Caregiver issues,
long-term care, community service of geriatric
psychiatry were also main focuses for service.
Third, from the policy approaches, TSGP are
planning to urge and promote the government
and the health insurance system take more
funds and other incentive steps to attract
more attention from the public and the
professionals. Moreover, with the help from
the government , integration of the
technological advantages and progresses in
Taiwan will made the quality of service and
quality of life at higher standards. Finally,
from international cooperation, TSGP has had
close relationships with IPA and vigorously
attended to the academic activities in the
world. Through international collaboration,
the standard of psychogeriatric service could
be enhanced and updated real-time.
In summary, the development of geriatric
psychiatry in Taiwan will be blooming in the
foreseeable future . Standardizing and
propagating the level of the geriatric
psychiatry in Taiwan as well as promoting
international cooperation will provide better
mental health for older people in Taiwan.
- IS-1-5 11 : 15〜11 : 45
- Novel Therapeutic Strategies for Neurodegenerative Disease
- "Hitoshi Tanimukai(Psychiatry, Department of Clinical Neuroscience, Osaka University
Graduate School of Medicine, Osaka, Japan)"
- In recent years, there has been a rapid
increase of the elderly population in the world
and consequently the number of demented
patients has also increased. At present there
are about one million and seven hundred
thousand of demented patients and it will be
two million and five hundred thousand, three
million demented patients in 2015 and 2025 in
Japan, respectively. Thus the aging society is
one of the most important issues from not only
social but also psychogeriatric medical point of
view.
Alzheimer’s disease (AD) is a major
neurodegenerative disease among the variety
of dementia and the pathological mechanisms
are intently investigated all over the world.
AD is characterized by progressive
neurodegeneration and two types of abnormal
deposits are pathologically observed in AD
brain ; neurofibrillary tangles (NFT) and
extracellualr amyloid plaques, composed of
hyperphosphorylated tau forming paired
helical filament (PHF) and amyloid β peptide
(Aβ), respectively. Mainstream of therapeutic
target is currently Aβ and several therapeutic
approaches, such as β/γ secretase inhibitor (s)/
modulator (s) or Aβ vaccines etc, have been
gradually developed. However alternative or
supplemental therapies should be also
required. We have focused on the pathology of
tau observed in AD. We have previously
reported that the expression of endogeneous
protein phosphatase 2 A (PP2A) inhibitors,
called I1PP2A and I2PP2A, was increased in
AD brain . As PP2A regulates the
dephosphrylation of protein including tau, the
increase of these PP2A inhibitors expression
should be involved in the regulation of
hyperphosphorylation of tau through the
reduction of the PP2A activity.
Overviewing these points , novel
therapeutic strategy will be discussed at the
symposium.
6月28日(土) 第1会場(メインホール)
国際シンポジウムII : Suicide of the Elderly
Heii Arai(Department of Psychiatry, Juntendo University School of Medicine, Tokyo, Japan)Masahiko Saito(Wako Hospital, Saitama, Japan)
- IS-2-1 9 : 00〜9 : 30
- Elderly Suicide Prevention Programme in Hong Kong
- Wing-Cheong Victor Lui(Department of Psychiatry, Tai Po Hospital, Hong Kong, China)
- Elderly suicide is an important health
problem in Hong Kong. Various risk factors,
including depression, poor physical health,
past history of suicidal attempt have been
studied in local population. The Elderly
Suicide Prevention Programme was launched
by the Hospital Authority, Hong Kong in
October 2002. The programme aims at
enhancing early detection and treatment of
elderly depression and providing support for
elders with suicidal risks. The organization
and utilization of this service will be presented
and discussed.
- IS-2-2 9 : 30〜10 : 00
- Suicide among the Elderly in China
- Xia Li(Geriapsychiatry (psychogeriatric) Department, Shanghai Mental Health entre,Jiaotong University, Shanghai, China)
- Once called the “Sleeping Giant,” China
now faces a different kind of growth : its aging
population. More than 10% of its 1.3 billion
citizens are over the age of 60 years. Due to
Chinese rising economy and fiercer
competitions, with the well-known one-child
policy, the elderly as well as the other adults
are put under the unfamiliar challenge. They
meet with a lot of problems such as
adjustment disorder of retirement or of the
changed culture, suffering from the “empty
nest” and uncertain health care policy. Anxiety
disorder, depression and suicide are not
uncommon among them. In this talk, the
profile about the elderly suicide in China will
be delineated, including the prevalence,
characters, underlying reasons and the
measures to prevent it.
- IS-2-3 10 : 00〜10 : 30
- Late-Life Depression and Suicide
- Hyeran Kim, Doh Kwan Kim(Department of Psychiatry, Samsung Medical Center,Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Korea)
- Suicide among the elderly is an increasing
public health problem due to the quickly
expanding population of elderly in Korea. In
later life, the most common diagnosis in those
who attempt or complete suicide is depression.
Late-life depression is one of the leading
causes of morbidity and mortality in the
elderly, but it is often under-diagnosed and
under-treated, partly due to differences from
depression in younger adults. Major depressive
disorder according to the DMS criteria is not
frequent in the elderly population, whereas
minor or symptomatic depression is common.
Geriatric depression is more somatic and less
ideational than depression in other age group,
thus frequently comorbid with medical
illnesses and often expressed by somatic
complaints. Suicide and suicide attempts occur
frequently in the depressed elderly. Treatment
of depression in elderly individuals reduces
the rate of suicide in the elderly. Therefore,
early detection and treatment of late-life
depression is required to prevent suicide in
the elderly. We are now conducting a cohort
study of late-life depression with the support
of national grant by Korean government. The
ultimate goal of our study is to better treat
late-life depression and prevent suicide in the
elderly population.
- IS-2-4 10 : 30〜11 : 00
- Suicidal Thoughts among Elderly Taiwanese Aboriginal Women
- Cheng-Sheng Chen(Department of Psychiatry, Kaohsiung Medical University Hospital,Kaohsiung, Taiwan)
- Objectives : The aims of this study were to investigate prevalence of suicidal thoughts
among a population of elderly aboriginal women in Taiwan over a one-month
period and to examine the risk factors for suicidal thinking in terms of
individual (self-perceived health, disability and financial difficulty),
family (marital discord) and social (medical accessibility) aspects. The
mediating effects of depression on the above risk factors were also investigated.
Furthermore, we examined the buffer effect on suicidal ideation of emotional
social support for dealing with marital discord.
Methods : 1347 elderly Taiwanese aboriginal women were enrolled. Suicide thoughts within the past month, demographic data, adverse life events , emotional social support and depressive state were assessed. The one-month prevalence of suicide thoughts was calculated. The risks of suicide thought based on individual, family and community aspects were estimated.
Results : The one-month prevalence of suicidal thoughts among the community-dwelling
aboriginal elderly women was 17.8%. Those subjects with poorer self-perceived
health, difficulty in accessing medical resources, or experiencing marital
discord were at higher risk of having suicidal thoughts. After controlling
for depression, the odds ratio of self -perceived health and marital discord
remained statistically significant. The odds ratio of interaction of marital
discord and emotional social support was 0.41.
Conclusion : Suicidal thoughts are common among the community-dwelling aboriginal elderly
women in Taiwan. Risk factors for suicidal thoughts comprise individual
(depression and physical condition), family (marital discord) and community
(medical resources) aspects. Better emotional social support can effectively
buffer the effect of marital discord.
- IS-2-5 11 : 00〜11 : 30
- The Intervention for the Depressed Elderly for Suicidal Prevention in Japan
- Naoki Nishiguchi(Department of Psychiatry, Kobe University Graduate School of Medicine,Kobe, Japan)
- More than 30,000 people per year have
been dying by suicide since 1998, and suicidal
prevention has been one of the most important
social tasks in Japan. It was found that the
elderly showed higher incidence of suicide and
most of suicide victims were suffered from
psychiatric disorders especially depression.
Based on these findings, several numbers of
interventions in depressed elderly people have
been conducted for suicidal prevention in
Japan. We also tried an intervention in a local
residential area in Kobe. In 1995, a lot of
people suffered great damage from a huge
earthquake including over 6,000 lives loss in
Kobe area. Some of them had severe damage
on their houses, and then, moved to revival
houses. Many of the residents in the revival
houses are currently elderly and/or live alone,
and their mental health including suicidal
problem has been concerned. We assessed
their mental status with a depression related
questionnaire in this revival local area. This
assessment was conducted by “Kobe mental
health committee” organized by Kobe City
government. The results of the assessment
will be reported, and clinical implication of
interventions in local areas for suicidal
prevention will be discussed with comparison
to the other interventions in Japan.
6月28日(土) 第1会場(メインホール)
若手ミニシンポジウム
:日本の老年精神医療の未来を考える―若手に伝えるべき事―
小阪憲司(横浜ほうゆう病院),館農勝(札幌医科大学)
- MS-1 14 : 00〜14 : 25
- 臨床と研究;砂川市立病院・もの忘れ専門外来での経験を通して
- 小林清樹(札幌医科大学神経精神医学講座(現),砂川市立病院精神神経科(旧)),館農勝(札幌医科大学神経精神医学講座),内海久美子(砂川市立病院精神神経科),畠山佳久,齋藤諭,中野倫仁,齋藤利和(札幌医科大学神経精神医学講座)
- 近年の高齢化に伴い,認知症患者は増え続けており,各地域における支援体制の拡充が重要な課題である.中空知は,北海道のほぼ真ん中に位置する旧産炭地を中心とした地域で,急速に高齢化が進んでいる.砂川市立病院(以下当院)では,
平成16 年1 月,精神科を中心とした3 科及びコメディカル共同でもの忘れ専門外来を立ち上げた.当院は,精神科卒後研修病院でもあるため,若い精神科医も上級医の指導の下,日々認知症の診察にあたっている.
この専門外来の主な特徴は2 点ある. 1 点目は「中空知・地域で認知症を支える会」を発足し,空知医師会にも働きかけ,かかりつけ医である近隣の開業医や直接介護に携わるスタッフと地域連携をはかりながら支援を行うことである.もう一
つの特徴は,総合病院の特性を生かし他科に協力を働きかけ,精神科・脳外科・神経内科でチームを構成し,それぞれの専門性を生かしながら協力して診察を行い,毎週定期的にカンファレンスを開催し,診断精度の向上と患者のニーズにあった
治療方針の決定を行うというシステムにある.また,「中空知・地域で認知症を支える会」の主催で,地域の高齢者及びその家族を対象に「市民健康フォーラム」を開催し,認知症の早期発見や介護の方法についての啓蒙活動を行うほか,ケアマネージャーやグループホーム等の介護スタッフを
対象に「空知ケアスタッフ研修会」を定期的に開催し,日頃の苦労を分かち合い,問題解決のための話し合いの場を提供し,介護の質向上のための取り組みを行っている.
最近は,新聞やテレビ等マスコミからの取材を受ける機会も多くなり,その結果,外来受診者数は増加の一途をたどっている.それに伴い,各種検査所見や脳画像検査などの貴重なデータも蓄積された.認知症を診断する上で,最も重要なのは
問診であるが,近年目覚しい発展を遂げているMRI 等の脳形態画像やRI 検査などの脳機能画像が認知症診療に果たす役割は大きい.当院のもの忘れ専門外来のカンファレンスには,放射線科スタッフも参加している.画像統計解析ソフトであ
る3 DSRT やeZIS を用いて脳血流SPECT の結果を詳細に検討するほか,VSRAD を用いた脳形態変化の解析,MIBG 心筋シンチグラフィーなどの画像検査を行い,日常の臨床診療に役立てると同時に,学会発表や論文発表を通じこれまでに得られた貴重な所見を報告し,認知症医療の発展
に貢献してきた.
当院は中空知地域の中核病院であり,多数の患者を受け入れており,他院で対応が困難となった重症例の紹介も多い.精神科へのコンサルテーションは多く,認知症患者を中心とした患者数の増加に伴い日々臨床に追われているのが現状である.
しかし,臨床診療を最優先しつつも,多忙な臨床業務の合間に学会発表や論文作成を行うと,自分が行ってきた診療を振り返ることができる.また,学会発表・論文執筆により知識が深まり,より良い臨床に結びつくと考えている.臨床と研究,ど
ちらか一方に専念するのではなく,どちらも大事にすることに意義があることを若手医師に伝えたい.当日は,脳画像所見等実際の症例を提示しながら発表したいと考えている.
演者は,2008 年4 月,砂川市立病院から札幌医科大学神経精神科に勤務異動となり,同大学附属病院・もの忘れ専門外来を担当している.臨床を大事にしつつ,引き続き認知症の臨床研究も行っていきたい.
- MS-2 14 : 25〜14 : 50
- probable DLB とprobable AD の神経心理的鑑別
- レビー小体型認知症(DLB)をアルツハイマー型認知症(AD)と早期鑑別することは適切な早期治療につながる.DLB の古典的な3 徴である幻視,症状変動,パーキンソン徴候の全てが病初期から明らかであれば診断は容易だが,そうで
ない事例の場合DLB とAD を早期に鑑別することは困難なことが多い.
Alzheimer Disease Assessment Scale(ADAS)は認知症患者の認知機能評価にもっとも広く使われている神経心理検査のひとつであるが,注意や遅延再生は評価しない.一方でDLBの認知機能障害の特徴として注意や視空間認知が特に強く障害され,記憶障害は比較的軽微であることが知られている.
ウェクスラー成人知能検査(WAIS-R)とウェクスラー記憶検査(WMS-R)は施行に時間がかかる神経心理検査でありADAS と比較すると認知症患者の評価にはあまり使用されていないが,その下位検査は注意や遅延再生を評価するものも
含まれる.
ゆえにWAIS-R とWMS-R を用いればprobable DLB とprobable AD の神経心理上の相違点をよりはっきりと描出できる可能性がある.
そこで,兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室に認知症検査目的で入院しprobable DLB と診断された26 例とprobableAD と診断された78 例において,事前にMiniMental State Examination の総得点をマッチさせたうえで,WAIS-R とWMS-R の各下位検査
によって両者の鑑別がどの程度可能であるかが検討された.
DLB 群とAD 群の間で検査成績を比較したところ,WAIS-R の動作性IQ と全IQ ではDLB群が有意に低い成績を示した一方で,WMS-R の言語性記憶と遅延再生でDLB 群が有意に高い成績を示し注意/集中力ではDLB 群が有意に低い
成績を示した.
全ての下位検査のうちもっとも鋭敏にDLB 群とAD 群を鑑別する下位検査を探す目的で,ステップワイズ回帰分析が施行された.変数増加法が用いられたところ,WAIS-R の「絵画配列」とWMS-R の「論理的記憶」が有意な変数として
選択された.
ロジスティック回帰分析の結果を利用してこの2 つの下位検査の重み付け得点を計算したところ,高感度・高特異度でprobable DLB とprobable AD を鑑別できるモデルが見出された.
WAIS-R やWMS-R といった神経心理検査は,probable DLB とprobable AD の鑑別診断の補助となりうる可能性が示唆された.
- MS-3 14 : 50〜15 : 15
- 抑肝散の薬理学的作用機序について
- 内田直樹(福岡大学医学部精神医学教室),江頭伸昭(九州大学病院薬剤部,福岡大学薬学部臨床疾患薬理学教室),石橋歩美,岩崎克典,藤原道弘(福岡大学薬学部臨床疾患薬理学教室),西村良二(福岡大学医学部精神医学教室)
- 抑肝散は,神経症や不眠症に使用される漢方方剤である.漢方医学では,肝のたかぶりは怒りや興奮などの精神症状をもたらすと考えられ,それらを抑えることから抑肝散と名づけられたとされている.近年,この抑肝散が認知症における心理
行動学的症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下,BPSD)に有効であるとの報告が主に臨床の現場からみられるようになってきている.観察者盲検ランダム化比較試験でも抑肝散のBPSD に対する効果が示され臨床において徐々にエビデンスが蓄積されている一方で,その作用機序はいまだ不明であり更なる
研究が望まれている.
今回の研究では,抑肝散の薬理学的作用機序の一端を明らかとすることを目的として,マウスを用いて2,5-dimethoxy-4-iodoamphetamine(以下,DOI)によるhead-twitch 行動に対する抑肝散の効果について検討を行った.抑肝散の単回投与
(100,300 mg/kg,p.o.)ではDOI によるheadtwitch行動に影響を及ぼさなかったが,抑肝散の2 週間連続投与(100,300 mg/kg,p.o.)にてDOI によるhead-twitch 行動を有意に抑制した.また,抑肝散の単回および連続投与はマウスの自発運動量,協調運動,カタレプシーに影響を及ぼさなかった.さらに,抑肝散の2 週間連続
投与(300 mg/kg,p.o.)によって,前頭前野におけるセロトニン2 A 受容体の発現量が減少していた.このことから,前頭前野におけるセロトニン2 A 受容体の発現量の減少がDOI による
head-twitch 行動を抑制する抑肝散の薬理学的作用機序であることが示唆された.
- MS-4 15 : 15〜15 : 40
- 認知症臨床診断の難しさ;神経病理の立場から特にDLB とFTLD について
- 横田修(東京都精神医学総合研究所老年期精神疾患研究チーム)
- 認知症の臨床診断とは,ていねいな病歴聴取によってアルツハイマー病などの下位分類の見当を付け,日常生活エピソードが神経学的,神経心理学的,放射線学的所見から説明できるかを評価する作業である.同時にこれは,患者の臨床的異常
の病理学的な裏づけを推定する作業でもあるべきである.病理診断との一致という点では,代表的な下位分類の操作的診断基準を用いれば一定の信頼性が確保されるが,その特異度と感度は世界的な臨床研究機関でも通常75−90% 程度である.
すなわち,臨床診断の精度は画像研究や治療効果研究などの結果の信頼性に関わる重要な問題だが,現時点では臨床と病理の診断の乖離(誤診)は無視できない頻度で起こると言える.最近の定量的
画像解析は診断精度を高める試みであるが,得られた所見が標的とする病理学的疾患単位に特異的なものか確認されていないことを考えると,疾患診断的な意義を強調することには慎重であるべきと感じる.例えば海馬はAD だけでなく,神経原
線維変化優位型認知症や(NFT-predominant dementia.本邦ではLNTD やSD-NFT とよく呼ばれる),DLB,更にグレイン型認知症など多様な疾患で様々な程度に萎縮する.
我々は剖検例を検鏡するたびに,臨床診断の不確実さには謙虚であるべきだと感じている.臨床と病理の不一致の代表的な原因は,一人の患者が稀ならず二つの変性疾患の所見を持つことである.例えば病理学的に診断されたAD のうちpure
AD は約40% のみであり,残りの約60% は何らかのシヌクレイン病変を有し,約25% には移行型か瀰漫型のDLB が合併する.この事実が症候や画像にどのような影響を与えているのかはほとんど不明であり,現時点で合併を臨床的に診断するすべはない.病理学的には別の疾患単位が,し
ばしば類似の臨床表現をとるということも,診断不一致の一因となる.これはCBD とPSP の臨床的鑑別は難しいといった,やや稀な疾患についての問題だけではなく,AD などありふれた疾患であってもLNTD やグレイン型認知症とは区別
できない.臨床的FTD 患者も,例えば病理がピック病(神経病理領域ではピック球を持つものを指す),ユビキチン陽性病変を持つFTLD,CBD,あるいはグレイン型認知症のいずれであるのかを横断的臨床所見から特定することは難しい.臨床
診断の当面の目標は,あり得る複数の病理学的疾患単位を挙げて,それぞれの確率を言えるようになる事だろうと考えている.
今回の発表では,比較的ポピュラーな疾患について臨床診断と病理が乖離した症例を呈示し,背景の問題を紹介する.予定症例(1)SD で16 年経過後FTLD-MND となった死亡時74 才男性,(2)FTD を疑われた死亡時61 才DLB+AD,(3)AD
を疑われた死亡時56 才DLB+AD,(4)FTD 合併を疑われた死亡時70 才統合失調症.