6月27日(金) ポスター会場(403)
BPSD
藤川徳美(独立行政法人国立病院機構賀茂精神医療センター)
- I-P-1 16 : 00〜16 : 10
- 認知症の短期精神療法の試み;週1 回1 時間の面接をつづけて
- 精神科医が認知症の周辺症状の問題に対峙する場合,抗精神病薬が有用な手段のひとつであることは否定できない.これは通常の成人や小児の問題行動に対して薬物療法を選択することと同じである.一方,成人や小児のように精神療法の有用
性の恩恵を認知症の老人が受けているかどうかは疑問である.今回,はいかいや暴力のある認知症老人に週1回1 時間の枠組みで支持的,表現的精神療法のシリーズ(10 回)を施行しその有用性について考えてみた.
対象は84 歳の男性で,長谷川式認知症スケール13 点,退職後の職場に出向き迷子になり保護,近所へ会社へ電話してくれと駆け込むなどの問題行動を主訴に来院した.精神科通院歴はない.抗精神病薬の投与と介護保険申請デイケア利用を指
示し,同時に約2 ヶ月の毎週精神療法を行うことを提案し本人,家族に了解を得た.また途中で終始しても薬物療法は継続する予定であることを説明した.
第1 回身体愁訴のくりかえし「戦争での弾丸の破片が体中を移動している」「どの医者もこの弾丸を取ってくれなかった」
<リスペリドン1 mg,週に3,4 回の興奮>
第2 回身体愁訴の繰り返し「戦争での弾丸のせいで仕事が十分できなかった」「弾丸が外から見えないから他人からわからない」<迎えが遅かったと興奮しデイケアいけず>第3 回身体愁訴の繰り返し「我慢の殿堂」と笑う
第4 回我慢の自慢話「傷痍軍人の金をもらった人もいたが自分は申請しなかった」「努力して難しい試験に通った.」
<リスペリドン3 mg,週2,3 回の興奮>
第5 回シベリア抑留でのがんばり話
第6 回シベリア抑留でのがんばり話「集団でのまとめ役としてロシア人工場長にねぎらわれた」「将校たちに気を使った」「自分の技術はロシアより進んでいた」
第7 回ほめられてもうれしくない「先週中国へ行ってきて疲れた」(事実はシベリア抑留された人たちの慰労会で賞状とお金を授与された)「お金なんかもらっても折り合わん」「中国で機関手として徴用されたがいいことなんかなかった」
第8 回子供時代の苦労話「兄弟も両親も働きづめ,その前の代で散財しすぎ没落したのを盛り返すために躍起になって」
第9 回シベリア仕事でのやりがい(仕事に今でも行こうとしてしまうことがあるんですって?)の質問に「勘違いする」「歯磨きしたら(それが)わかる」と笑う.
<リスペリドン0.5 mg,週に一度の軽い興奮>
第10 回戦後の仕事で心残りなこと
以上のように毎回1 時間の着席会話ができる一方,夜間早朝仕事への外出要求が激しく,その興奮のために近隣から入院させろといわれたほどで家族も入院を考えながらの2 ヶ月であったが現在は在宅介護を続けていく予定である.
認知症の老人においては,認知症の中核症状から来る社会との適応失敗に起因した心的外傷状態というだけでなく,あたかも過去の外傷体験を現在に体験しているようにみえ,精神療法の中でも支持的精神療法や洞察,訓練法は難しいが,表現
法が有用な可能性があると考えられる.
- I-P-2 16 : 10〜16 : 20
- 小集団活動が中等度認知症を有する高齢者のBPSD に及ぼす影響
- 長倉寿子(関西総合リハビリテーション専門学校),登恵美(介護老人保健施設津名白寿苑),時政昭次(関西総合リハビリテーション専門学校),関啓子(神戸大学医学部保健学科)
- 【目的】軽度認知症に対するリハビリテーションの効果は報告されているものの,より重度な認知症について明らかな報告例は少ない.この背景には中等度以上では,廃用性の身体機能低下に加え,言語的・非言語的なコミュニケーション障害が進
行し,さらに不安などの周辺症状(Behavioraland Psychological Symptoms of Dementia,以下BPSD)が加わるために対人交流が一層困難となっていることが考えられる.したがって,より重度な認知症への介入には,言語を媒介とせず,
本人へのストレスが少ない活動を選択し,少人数で実施する必要があると思われる.そこで,本研究では中等度認知症者に対して,グランドゴルフ(パターゴルフ)を用いた小集団による身体的活動を行い,介入前後の認知機能およびBPSD の
変化を分析して,介入効果を検討することを目的とした.
【対象と方法】介護老人保健施設の認知症病棟に入所している認知症高齢者の内,(1)認知症状を伴う,(2)80 歳以上,(3)立ち去り行動,帰宅願望などのBPSD
があり,集団生活における対人交流が乏しく支援が必要,(4)発症から6 ヶ月以上経 過している,(5)歩行可能(介助歩行含む)の5つの条件を満たす施設入所者を対象とした.対象者は10
名(男性3 名,女性7 名),平均年齢は,86.6 歳±5.1 歳Clinical Dementia Rating Scale(CDR)は2〜3
であった.グランドゴルフを用 いた小集団活動(GW)を週2 回の頻度で9 回〜10 回実施し,観戦中の参加者の様子をビデオで撮影して,自発言語・非言語や参加者間の交流などの観点から分析した.対象は2
グループで,1グループの人数は5 名で実施した.打者は,1 ホ ールごとに交代し,1 人がゴールするまで実施した.対象者の認知機能,行動・精神症状,運動機能の評価として,Mini
Mental StateExamination(MMSE),Trail Making TestPartA(TMT-A)日本語NeuropsychiatricInventory(NPI),Timed
UP& Go(TUG)を 用いた.各評価の介入前後の得点変化については,Wilcoxon 符号順位和検定を,行動の変化については,活動待機時の参加者間の交流頻度や言語的・非言語的コミュニケーションの反応数,また離席や他に注意逸脱の回数などを事象記録法によ
り測定し,分析した.
【倫理的配慮】本研究の目的および内容については,本人,家族に十分に説明し書面にて同意を得た.
【結果】GW 介入前後の得点は,MMSE で4 名,TMT-A で6 名,TUG で5 名に成績の改善がみられたが,全体として有意差はみとめられなかった.NPI では,9 名に有意差(p<0.01)がみられた.NPI 下位項目では7 名中6 名が「不安」の
得点に改善を示した.また活動待機時の交流や参加では,介入後期で増加する傾向がみられた.
【考察】GW を用いた介入の結果,認知機能自体に変化はなかったが,不安などのBPSD が改善し,参加者間の交流や参加の頻度が増加した.施設ケアにおけるBPSD は,症状の進行や施設生活における周囲との摩擦,集団生活における引き
こもりなどを増大させる要因になる.特に長期のケアを必要とする中等度以上の認知症高齢者では,BPSD に対する介入が必要と考えられる.本研究の結果から,中等度以上の認知症が小集団活動によってBPSD が改善することが示唆された.
- I-P-3 16 : 20〜16 : 30
- 昼夜逆転のアルツハイマー病患者の入院後の経過;IC タグモニタリングシステムによる客観的評価
- 瀬川七重(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻看護実践開発科学講座),繁信和恵(浅香山病院),山川みやえ,牧本清子,三好瑠美子,朱燦群(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻看護実践開発科学講座),田伏薫(浅香山病院)
- 【目的】認知症患者の入院理由は,昼夜逆転や夜間徘徊など対応困難なものが多い.BPSD が著しい急性期の認知症患者は,入院することで症状が軽減し治療の過程で生活リズムが形成されて落ち着いてくるが,入院後の行動や症状の変化を客
観的に示した研究はほとんどない.本研究では,IC タグモニタリングシステムを用いて昼夜逆転および夜間徘徊,物盗られ妄想が原因で在宅より入院したアルツハイマー病患者の入院後の活動性レベルを客観的に示し,活動性の
変化について考察した.
【方法】浅香山病院の老人性認知症専門治療病棟(60 床,閉鎖病棟).データ収集:本研究は2006 年11 月から約4 ヶ月間実施されたIC タグモニタリングシステムによる研究プロジェクトの1 つである.データ収集項目は以下のとおりである.年齢,性別,認知
症歴,服薬状況,認知機能レベル(MMSE),行動心理学的症状(NPI-NH),IC タグモニタリングシステムによる歩行状況.IC タグモニタリングシステム(Matrix 社製):予め,病棟内の天井裏にIC タグを受信するためのアンテナを設置し(15 箇所),患者の衣服にICタグ(13.7 g)を装着した.IC タグを装着した
患者が,アンテナの下を通ると,その時間と場所の情報が自動的にコンピューターに蓄積される.このシステムにより患者の時間別歩行距離や歩行場所が連続してモニタリングできた.対象者:入院前昼夜逆転および夜間徘徊,物盗られ妄想のあるアルツハイマー病患者80 歳,女性.
罹病期間8 年.2007 年1 月に入院.入院時MMSE 12/30,CDR 2.
【倫理的配慮】本研究は浅香山病院及び大阪大学の医学倫理委員会の承認を得て実施した.研究参加要請時は,患者の意思決定代理人が,研究内容についての説明を受け同意書に署名した上で参加した.
【結果】対象者は入院後1 ヶ月で症状改善入院時問題となっていた症状は改善したため入院後4週目までの活動について分析した.表は,時間帯(日中:6
: 00−21 : 00,夜:21 : 00−0 : 00,深夜:0 : 00−6 : 00)ごとの歩行割合 と歩行距離を入院経過週数ごとに示す.治療は入院直後から午前午後のレクリエーション活動に参加を促した.物盗られ妄想に対してはリスペリドン0.5
mg の治療を行った.入院1 週目では,時間帯ごとの歩行割合と歩行距離は昼夜とも多くみ られたが,入院4 週間で昼夜逆転はほぼ改善し,物盗られ妄想も改善した.
【考察】昼夜逆転していた患者の入院後の活動状況の変化を,歩行距離として把握できた.したがって,本研究では,IC タグモニタリングシステムを用いたことで,NPI のようなスタッフの主観的判断による指標のほかに,客観的なものでも
検証できるようになった.
-
6月27日(金) ポスター会場(403)
介護・治療 (1)
荒井由美子(国立長寿医療センター研究所)
- I-P-4 16 : 30〜16 : 40
- 認知症高齢者に対するアニマル・セラピーの効果に関する縦断的研究
- 河村奈美子(札幌市立大学看護学部),新山雅美(酪農学園大学),中村絵莉(高台病院)
- 【研究目的】近年アニマル・セラピー(AAT)が普及し,その心理的・精神的効果について報告が増えている.研究者はAAT 活動への参加が,施設入所高齢者の精神機能へ及ぼす影響について調査し,2 週間に1 度の犬の訪問活動であっても,
感情機能に良い影響をもたらすことを示した.しかし,対象者を増やし,効果や影響について研究を進めることが課題となっていた.本研究は,認知症病棟に入院している患者に及ぼすAnimal-assisted therapy の長期的な影響を
客観的に評価する目的で実施した.
【方法】研究対象者:研究対象施設に入院中でAAT に継続参加が可能で,研究に同意の得られた男女8 名とした.AAT 活動:研究対象施設のレクレーションプログラムの一つとして,2 週に1 度実施した.2 箇所に設定したテーブルに小型犬を1 匹ずつ配置
した.一つのテーブルは4 名の対象者とし,10分程度の会話,30〜40 分程度の犬との交流,10分程度の会話という内容で実施した.1 クール6回とし,2 クールのセッションを実施した.2 クール目は,職員との意見交換を踏まえ犬との直接
交流の時間,形式に変更を加え,実施した.評価・分析方法:研究期間内に計3 回職員による客観評価を実施した.GBS スケール日本語版および,Mental Function Impairment Scale(MENFIS)を用い,解析には統計ソフトSPSS
15.0 J を使用した.
【倫理的配慮】本研究は学内の倫理委員会の承認を得て開始した.研究協力の依頼は,研究趣旨書の説明を本人及び家族に行い,特に匿名と守秘の保証,参加拒否や中途拒否の権利について強調し承諾を得た.
【結果】GBS の運動機能に関しては,6 回後,12回後を通して,時間の経過と共に得点が増加し,機能の衰退が伺えた.知的機能,感情機能,認知症に共通なその他の症状の合計得点は6 回後にやや得点の低下が見られ,12 回後には,得点が
増加し精神機能の衰退が伺えたが,有意な差は認められなかった.下位項目では「摂食行動の障害」「感情の抑うつ」において有意な差をもって6 回後,12 回後に得点の増加があり,機能の衰退もしくは低下が示された.「注意力散漫」に関して
は,6 回後,12 回後共に得点が減少した.MENFIS については,認知機能障害,動機づけ機能障害,感情機能障害のすべての得点の合計点および下位項目について比較したところ有意な差は認められなかった.しかし,6 回後には得点
が低下し,12 回後には得点が増加する傾向にあることが伺えた.
【考察】結果から,AAT 活動による運動機能の得点増加に対して知的機能や感情機能の得点は6回後に得点低下は見受けられるが,効果といえる影響は認められなかった.先行研究と尺度の構成,AAT スタイル,対象者の認知症レベルの違いの
影響,さらにAAT の実施頻度による影響の限界も考えられる.同時に,AAT は日常の雰囲気とは異なる動的な場であることから,高齢者−動物間の交流の質的な分析による対象者の微妙な参加状況の分析が課題と考える.
- I-P-5 16 : 40〜16 : 50
- 認知症高齢者におけるアートセラピー;グループホームにおける実践事例を通して周辺症状が軽減した事例―
- 今井真理(四天王寺大学),遠藤英俊(国立長寿医療センター)
- 【目的】早期発見,早期治療などとの言葉が先行して認知症に対応すべく,さまざまな体制が整いつつあるものの,2025(平37)年には300 万人に到達されると予測されている.認知症高齢者の増加がこのような数値にて予測されているにも関
わらず,認知症に関する決定的な治療法は今だ明らかになっていないのが実情であろう.薬物療法とは異なる非薬物療法として音楽療法,回想法,アロマテラピー,バリデーション療法などさまざまな種類の療法がさかんに行われるよう
になってきた.そして,それらのエビデンスも少しずつではあるが,その効果が報告されるようになってきた.今後ますます必要とされるであろう非薬物療法の中でも,筆者は芸術療法に焦点を当てて報告することにする.
芸術療法においては高江洲(2004)1)や石崎(2001)2)などのコラージュを用いた研究を含め,さまざまな研究報告がされている.筆者は1999 年より介護老人保健施設などにおいて芸術療法の実践研究に携わっており,HDSR
が0 点の周辺症状が多々見られ,コミュニケーションがほとんど成立しない入所者において自発性や創造性に有用性が確認された3).本研究は芸術療法が認知症高齢者の周辺症状や情緒的変化に対してどのような有用性が見られた
のか,グループホームに入所中のA さんについて実践事例に基づいて述べることにする.
【方法】A 県B 施設,C グループホームに入所中の利用者より無作為に37 名(男性7 名,女性30名;平均年齢83.5 歳)を選出した.対象者の基礎疾患は老年医学が専門の入所時の医師の診断を基にしている.疾患としてはアルツハイマー病,
脳血管性認知症である.対象者はHDS-R の点数にて軽度,中等度,重度と認知症程度別に分け芸術療法を実施した.15 名程度のクローズド・グループにて週一回,認知症の程度別に約2 時間程度行い,筆者の他に作業療法士,看護師,介護福祉士等の施設職員
が毎セッションごとに参加し,活動としては描画中心にて,描画材料は市販のものを参加者で共同利用した.本研究は参加者を認知症の程度別に分けて芸術療法を実施した,その中でもC グループホームに入所中のA さんの様子について実践
事例をもとに述べることにする.
【倫理的配慮】倫理的配慮としてご家族の同意書を得ているが,本人の人権に配慮し本人が特定できないよう考察に差し障りない範囲で細部を変更して報告する.
【結果】芸術療法のセッションに参加し回を重ねるごとにA さんの周辺症状が軽減するという結果が見られたが,その詳細は当日発表することにする.
【考察】本発表はグループホームに入所中のA さんについて周辺症状が軽減された事例を発表したものであるが,今後は更に研究を進め,本研究の長期的効果について,そして,認知機能の面においても客観的な数値を提示した研究を実施すべき
であり,また今回発表していない他の参加者について認知症の程度別傾向についても更なる研究を邁進すべきであろう.
【参考文献】
1)高江洲義英(2004)絵画療法の展開と実践,臨床精神医学,増刊号,pp.43-46.
2)石崎淳一(2001)痴呆のコラージュ療法―アルツハイマー病患者とコラージュ表現,芸術療法と表現病理.臨床精神医学,増刊号,pp.103-109.
3)遠藤英俊,今井真理(2007)『高齢者の芸術療法―認知症介護予防プログラム』弘文堂.
- I-P-6 16 : 50〜17 : 00
- 施設高齢者を対象とした非薬物療法の介入別効果;園芸療法と音楽療法の比較
- 杉原式穂(兵庫県立大学自然・環境科学研究所),浅野雅子,青山宏(西九州大学リハビリテーション学部)
- 【目的】高齢者を対象とした非薬物療法による実践活動は,生活の質を高める活動として,更には認知症予防としても期待されている.園芸や音楽は,高齢者にとってなじみ深く,活動のしやすさから,施設で頻繁に行われるようになってきた.
そこで本研究では,園芸療法と音楽療法を施設高齢者に施行し,各療法群と通常の生活のみを対照とし,3 群を比較検討したので報告する.
【方法】施設内で活動性が低下している養護老人ホーム入居者37 名を,施設スタッフが選出し,各療法群,対照群の3 群に分けた.その内訳は,園芸群は14 名,音楽群13 名,対照群は10 名で,最終的に,それぞれ10 名(男4 名女6 名,平均
年齢78.10±5.9 歳),8 名(男2 名女6 名,平均年齢82.00±5.8 歳),8 名(男2 名女6 名,平均年齢86.3±4.8 歳)となった.評価項目は,PGCモラールスケール(PGC),日本版GeneralHealth Questionnaire(GHQ 28),感情指標
Mood Check List-Short Form 1(MCL-S.1),改訂長谷川式簡易知能評価尺度(HDS-R),前頭葉機能検査(FAB)を行った.
【倫理的配慮】対象者全員に,本研究について十分な説明を行い,研究協力に関する承諾を書面にて得た.また,対照群に関しては,希望者に対して研究後にHT の機会を設けた.
【結果】心理面では,対照群はすべてにおいて変化しなかったが,園芸群でPGC,GHQ 28,音楽群で,GHQ 28 のみに有意差が見られた.GHQ28 の下位項目別では,園芸群で社会的活動障害とうつ傾向に,音楽群で,不安と不眠に改善が見
られた.各療法中の気分調査では,両群とも快感情において有意な改善が見られ,園芸群では,リラックス感も有意に上昇した.認知面では,園芸群においてのみHDS-R,FAB 共に有意な平均得点の増加が見られ,FAB の下位項目では,F 4(反
応選択課題)が有意に上昇した.
【考察】園芸群の心理面に関する改善は,植物の生長リズムに合わせたゆっくりと行う活動が,心地よい安心感となり,リラックスして作業に取り組むことができたものと思われる.そして,生長を期待して待つ感覚が,施設生活で無関心であっ
た高齢者に変化をもたらし,やる気や自信につながったと考えられる.一方,音楽群の改善では,音楽が直接人の情動に働きかけ,気分転換を促し,普段の施設生活では言語化しにくい情動や欲求が,音楽活動,特に歌唱によって発散されたと考えら
れる.こうした発散が,身体的症状に変化をもたらし,不安・不眠の改善につながったものと考えられる.園芸群の認知面に関する結果は,園芸作業の一連の栽培プロセスが,前頭連合野に影響
(FAB 得点の上昇)を与え,それが認知機能全般(HDS-R 得点の上昇)に影響を及ぼしたものと推察される.
6月27日(金) ポスター会場(403)
介護・治療(2)
粟田主一(仙台市立病院)
- I-P-7 17 : 00〜17 : 10
- 介護者の認知症患者への対応に関する意識調査
- 北村由美子,高橋恵,中島啓介,油谷基樹,大石智,宮岡等(北里大学医学部精神科)
- 【目的】近年の高齢者の増加にともない,認知症患者も増加している.そこで厚生労働省が認知症関連の啓蒙にも力を入れるようになり,各地で実務者に向けた研修会が開かれるようになった.一方,医療経済の視点からは,高齢者に対する不必
要な医療への批判もある.そこで今回我々は,認知症研修会に参加した介護者の意識調査をおこなった.
【方法】筆者らが講演した認知症関連の研修会に参加した介護者に,調査の趣旨を説明し,同意が得られた介護者に対して,病名告知,治療の際の意思尊重,各種積極的治療の導入,延命処置への導入に関する無記名のアンケート形式の意識調査を実施した.有効解析対象として77 名の介護者
の参加が得られた.
【倫理的配慮】無記名のアンケート形式とした.
【結果】病名告知は,認知症疑い・軽症の患者には70% 以上で実施するが,認知症の重症度が上がるに連れて告知する割合は減少した.本人の意思を治療で優先する場合は,疑い・軽症では70%以上であったが,中等症で30%,
重症では20%と減少した.逆に家族の意思を尊重する割合が増加していた.悪性疾患の積極的治療,血液透析導入,骨折の観血的治療,急変時の心肺蘇生は,認知症疑い・軽症では85‐90% で実施,重症では約45‐55% 程度の実施率であった.積極的延命
治療拒否の意思表示があっても,経管栄養,中心静脈栄養は70%(軽症から重症にいくに従い減少傾向)程度,心臓マッサージやマスク換気は40‐20% で実施するとの回答であった.
【考察】終末期医療に対する考えはまだ国民的コンセンサスが得られていないが,介護者の中でも意見が多様であることが今回の調査を通して確認できた.今後はこのような議論を広く重ね,コンセンサスを形成することが大事であるが,やはり
一人一人の意思は多様であり,患者,家族と医師で充分なコミュニケーションをはかり,必要があれば第三者もまじえて意見を集約して個別の治療にはあたるべきであろう.また今後は多業種に意識調査を行い,比較検討していく予定である.
- I-P-8 17 : 10〜17 : 20
- 認知症の介護者が癌に罹患した事例
- 【目的】認知症の臨床において常に問題となるのが,介護者の健康状態である.我が国の現状では配偶者が主介護者である場合が多く,加齢に伴う疾患の発症が不可避である.ことに介護者が癌に罹患した場合,在宅介護の継続が不可能となるの
がほとんどであった.これを逆に考えて,介護者の癌を早期発見することにより,認知症患者の在宅介護期間を延長することが可能ならば,介護者と認知症患者双方のQOL 向上,さらには介護コストの軽減にも,大きな意味があるものと考える.
【方法】筆者が自ら経験した,アルツハイマー型認知症患者の主介護者である配偶者に癌が発症した事例を対象とした.事例の性質上,認知症本人・介護者ともに既に連絡を取れない場合が多く,現在も通院を続けている事例においてさえ,研究
目的の長時間面接は(本人・介護者の両者に対して)過度に侵襲的であると考えた.このため,主にカルテ調査にて必要な情報を収集した.
【倫理的配慮】「医療機関における個人情報の保護」(平成17 年2 月,日本医師会)に準拠し,症例記載に関しては,一般人が見て特定の個人を識別できない程度の匿名化の措置を講じ,また可能な限り患者ないし介護者から同意を得るように
つとめた.
【結果】筆者が経験した6 事例について,患者が何歳にアルツハイマー型認知症を発症し,その何年後に配偶者が如何なる癌に罹患し,どういう処置を受けたかを表に示す.なお事例A・B・C・D にて,配偶者の癌発症後に,患者は施設に入
所している.
【考察】配偶者の癌が発見された時点で,患者はアルツハイマー発症後概ね数年を経過しており,すべての事例で日常生活に介助を要するレベルの,高度認知症に至っていた.特記すべきは事例Eである.若年に発症した患者の認知症を早期に診
断し,比較的若い配偶者に対して自らの健康への注意を喚起していた結果,検診にて早期乳癌が発見された.この事例の経過は未だ予断を許さない.しかし将来的に,介護者の身体疾患を可及的早期に発見・治療し,彼らの健康状態をより良く維持
することによって,認知症患者の施設入所を極力遅らせることが組織的に可能になれば,それは患者と介護者のQOL を保ちつつ,施設に係るコスト増加を抑えることに結びつくのではないか.
- I-P-9 17 : 20〜17 : 30
- 緩和ケア病棟の終末期がん患者に対する個別作業療法の有用性の検討
- 【目的】緩和ケア病棟に入院している終末期がん患者の自尊心の,個別作業療法による変化をセルフエフィカシーの面から検討する.また,終末期がん患者に対する個別作業療法介入の可能性を検討する.
【方法】対象者は,緩和ケア病棟に入院中でがんと診断され告知を受けている,面接調査に耐えうる体調である,認知障害・意識障害等による意思疎通に問題がない患者とした.医師の処方に応じ,作業に関する自己評価に基づいた個別作業療法を
実施し,作業療法介入の前後に末期がん患者のセルフエフィカシー尺度を用いた自尊心の調査,及び,作業に関する自己評価を用いた調査を行った.また,必要に応じてカルテからの情報収集を行った.作業療法へ不参加の対象者には,不参加の理
由を面接で調査を行った.介入は,作業に関する自己評価で明らかにした目標に応じて週1 回60 分,10 回の個別作業療法を行った.
【倫理的配慮】本研究は,実施病院の倫理審査委員会の承認を得た.目的,方法,個別作業療法の内容,本研究をいつでも拒否できること,また拒否したことで治療上の差別を受けないこと,プライバシーは保護されることについて,説明書の内
容に従って対象者本人に説明し,文書で研究参加の同意を得られた対象者にのみ実施した.対象者の身体的負担,心理的負担に常に留意し,必要な際には,主治医・担当看護師へ早急に連絡がとれる体制のもとで調査を実施した.
【結果】全対象者97 名のうち,状態が重篤である,重度の認知障害や意識障害があるなどの理由による不適格者が32 名いた.適格条件を満たした者は65 名で,このうち45 名(69.6±8.3 歳,男性21 名,女性24 名)から研究協力の同意が
得られた.その後,2 回目の調査時に状態悪化による脱落が5 名,死亡による脱落が4 名あったため,最終的に36 名からデータが得られ,最終的な分析対象者とした.
調査の結果,末期がん患者のセルフエフィカシー尺度における日常生活動作に対する効力感,及び,作業に関する自己評価における環境の要素において改善が認められた.
【考察】環境面に配慮した作業遂行機能状態の認識や満足度,患者の情緒状態に対する自尊心を支え,高めていくことが必要であり,その上で患者が日常生活を前向きに行えるよう支援していくことが,進行がん患者の心理的な適応に有効である
ことが示唆された.
6月27日(金) ポスター会場(403)
介護・治療 (3)
黒田重利(岡山大学)
- I-P-10 17 : 30〜17 : 40
- 認知症介護者に対する集団精神療法の試み
- "杉山秀樹,山縣真由美,榛沢亮,一宮洋介(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)"
- 【はじめに】認知症介護者は,その介護疲労から不眠や抑うつ等の精神症状を呈しやすいと言われている.また,介護体験を共有して話せる人が少なく,介護の苦労や認知症に対する理解も得られにくいため,介護者が孤立するケースも多い.そ
のため,認知症介護者へのケアの必要性が指摘されているが,今日のサポート体制は十分に整っていない.そこで当院では,日々の介護体験を振り返り,整理することによって,精神・心理状態の安定を
図ることを目的として,認知症介護者のための集団精神療法を開始した.この新たな試みを報告するとともに,今後の課題を検討した.
【対象と方法】当院外来を受診中の認知症介護者を対象に募集を行い,参加を希望した7 名のうち,参加に同意が得られた6 名(すべて女性,平均年齢62.17±11.41)を対象とした.参加者には集団精神療法の開始前と終了時に心理検査を
実施し,各回終了後には感想の記入を依頼した.心理検査はProfile of Mood States(POMS),Self-rating Depression Scale(SDS),Zarit 介護負担尺度(ZBI)を実施した.集団精神療法は第1・3・5 週の金曜日に60 分,
参加者が入れ替わらないクローズドグループの形式で合計10 回行った.スタッフは医師,看護師,臨床心理士が参加し,参加者が日々の介護体験や悩みを自由に語るディスカッション形式で実施した.
【倫理的配慮】医師の診察時に集団精神療法の内容,プライバシーの配慮等について説明を行い,文書で同意が得られた方を対象とした.なお,当院では治療への抵抗や偏見を考慮し,グループ療法という名称で募集,実施した.
【結果】体調不良のため初回のみで参加が終了した1 名を除く5 名の出席率は90% を超え,参加に意欲的であった.スタッフからも介護体験を直接聞けたのは貴重な経験になったとの感想が多く,スタッフに対する教育的効果もあった.
心理検査の得点を開始前と終了時で比較すると,5 名中4 名にPOMS の緊張と不安感(T-A),怒りと他者への敵意(A-H),当惑と思考力低下(C)の得点低下およびZBI の得点低下が見られたが,Wilcoxon の符号付順位検定ではT-A,C のみに
有意傾向が見られた(p<0.10).
【考察】スタッフは参加者の介護体験,介護をめぐる否定的な感情も共感的,中立性を保ちながら傾聴した.参加者は自分の語りが受容される経験を通じ,次第に集団精神療法を精神的な支え,居場所として捉えるようになり,グループ内にも仲
間意識が芽生えはじめた.集団精神療法の参加によって生じた様々な心理的変化が介護における孤立感を軽減させ,感情の安定につながり,心理検査の得点低下にも表れたのではないかと考えられる.このように,新たな試みである認知症介護者への集団精神療法は一定の治療効果が示唆されたが,今後は治療機序,効果について更に検討を重ねるとともに,介護環境や症状,ニーズをより反映したプログラムに変更していく必要があるだろう.
- I-P-11 17 : 40〜17 : 50
- 老老介護者の精神心理学的特徴に関する検討
- 【目的】我が国における人口構造の高齢化により脳血管疾患や認知症を有する要介護高齢者の増加し,加えてその介護力の中心も高齢者であることから,老老介護など社会的問題となってきた.近年,我が国において介護環境に関連する要因が検
討されてきた.しかしその多くは介護者全体に関する報告で,高齢の介護者を対象とした研究は極めて少ない.そこで本研究の目的は,60 歳以上の高齢の介護者の介護負担感,心理的・精神的要因や家族環境の実態を明らかにすることにある.
【対象と方法】2006 年6 月に研究協力が得られたA 県内通所介護施設を利用している250 名の主たる介護者のうち195 名を対象に自記式質問紙を用いて実施した.質問紙の配布は施設スタッフが通所サービスの際,介護者に直接手渡しにて,回収は調査用紙の直接施設
への郵送にて行われた.質問紙の回収数は152 名(回収率77.9%)であった.このうち,欠損値のなかった122 名を今回の解析対象とした.倫理的配慮として,配布時に施設スタッフから返送時に封筒に差出人の住所と氏名を記載しない
旨を,口頭で説明するように依頼し,さらに説明文書に太字で注意を喚起した.調査用紙に関しても性と年齢以外の個人を特定できうる情報は用いなかった.施設に対しても,調査用紙が返送された際に,開封しないように依頼した.
調査項目として,介護負担感の測定には,荒井らの作成したZarit 介護負担尺度日本語版(JZBI)の8 項目を用い,23 点以上を高負担群とした.介護者の精神・心理的状態および家族における
支援状況についてたずね,精神・心理的状態のうち,抑うつ状態の有無についてはCES-D を用い16 点以上を抑うつ症状ありとした.介護形態に関しては,家族介護者なし(以下,老老介護群)群と家族介護者あり群に分類した.統計学的検定
では,連続量の比較にt 検定を離散量の比較にχ2検定を用いた.
【結果】老老介護群は家族介護者あり群に比べ,有意差は認められなかったが,負担の低い者,健康状態の良好な者,いきがい感のある者の割合は高かったが,気分が落ち込みやすい者,前向きに考えられない者,困難なとき考え方を変えるおよ
び誰かに相談する者の割合は低かった.
【考察】本研究から老老介護群は家族介護者あり群に比べて,気分が落ち込みやすいや思考の転換が困難,他人との接触を好まない状況にあるにもかかわらず,健康状態,生きがい感とも高く負担感も低かった.これらの結果を考え合わせると,
老老介護群では外観と内面は必ずしも一致しておらず,いわゆる「微笑みうつ病」的な状況にある可能性は否定できない.したがって,本研究結果は,老老介護群の心理的・精神的な特徴を明らかにできたことから,今後のサポートの方法やその内容の策定に資する知
見と考えられた.
- I-P-12 17 : 50〜18 : 00
- 関西医科大学精神神経科における認知症家族に対する取り組み
- 坂井志帆,田近亜蘭,上野千穂,分野正貴,阿部尚,鈴木美佐,吉田常孝,吉村匡史,西田圭一郎,木下利彦(関西医科大学精神神経科)
- 【はじめに】関西医科大学精神神経科ではアルツハイマー型認知症の家族支援のために平成18 年に当事者と家族の会(栞の会)を設立した.活動内容は,患者,家族,認知症専門外来担当スタッフらを含めた交流の場を設けたり,疾患及びその
ケアに関しての心理教育を行ったりしている.その活動の一環として外部講師を招き講演会を開催した.その際に,介護者の負担に関してのアンケート調査を行った.
【方法】講演会に出席した認知症患者を抱える介護者31 名に対して,講演会の前に調査の趣旨を口頭で説明し,同意を得られた介護者に調査票を配布し,無記名で回答してもらった.質問項目は,「介護期間」「主たる介護者」「副介護者の有無」「介
護者の睡眠状況・外出状況」「患者の病状の安定性」「介護認定を受けているかどうか」「要介護度」「介護サービスの利用状況」に加えて,介護者の介護負担を知るために,Zarit 介護負担尺度,K6 質問票日本語版を用いた.Zarit 介護負担尺度
は介護者の負担を定量的に評価する尺度で,全22問から構成され,身体的負担,心理的負担,経済的負担を総合的に評価できる.点数が高いほど介護負担が大きいことを意味する.また,Zarit 介護負担尺度は,介護そのものによって生じる負担
感を示すPersonal strain 尺度と,今までの生活ができなくなったことから生じる負担感を示すRole strain 尺度の2 つの下位尺度に分かれる.K 6 質問票は気分障害・不安障害のスクリーニング調査票として使用され,カットオフポイントは
4/5 点である.
【結果】回答者は21 名,回収率は67.7% であった.回答者はほとんどが女性であり,平均年齢62.5±12.6 歳であった.またその9 割以上が主介護者であった.被介護者は,男性15 名,女性6 名,平均年齢は72.5±8.9 歳であった.介護期
間は1 年未満14.3%,1〜2 年19.0%,2〜3 年33.3%,4〜5 年9.5%,5 年以上23.8% であった.介護者が自由に外出できる時間が1 時間未満のケースが約半数であった.Zarit 介護負担尺度では,「頼りにされていると思う」「将来の不安があ
る」の項目について「いつも思う」「よく思う」と回答した人の割合が高くなっていた.K 6 質問票の総得点では,85.7% が5 点以上の高得点群であった.Zarit 介護負担評価尺度の2 つの下位尺度とK 6 の総得点との相関をそれぞれ比較した
ところ,Personal strain 尺度とK 6 総得点間には相関はなかったが,Role strain 尺度は有意確率0.006 で正の相関が見られた.
【考察】家族に介護というストレスがかかった場合,介護そのものから生じる負担は避けられないかもしれないが,今までの生活ができなくなったことから生じる負担感を減らすことで,不安や抑うつ気分を改善することはできる可能性がある.
そのためには周囲の手助けにより介護者が自分の時間を確保できるようにすることが必要である.栞の会では家族自身が自分の生活を楽しむことができるようなアドバイスを行っていきたい.今後
はさらに調査対象者を増やし,より信頼性の高い分析をしていきたい.
6月27日(金) ポスター会場(403)
疫学・ケア
目黒謙一(東北大学)
- I-P-13 18 : 00〜18 : 10
- 血圧脈波と認知症(アルツハイマー型認知症とMCI)の相関について
- 新井久稔(興生会相模台病院精神神経科),高橋恵,大石智,中島啓介,宮岡等(北里大学医学部精神科学)
- 【目的】血圧脈波検査により動脈硬化度とアルツハイマー型認知症・MCI との関係について調査検討する.
【方法】北里大学東病院精神神経科認知症鑑別外来(以下鑑別外来)を2004 年4 月から2008 年1 月まで受診した症例の中で,晩発性アルツハイマー型認知症例(以下SDAT),MCI の診断がついた症例に関して調査した.精神科診断に関して
は臨床経過,一般検査(採血,尿検査,心電図,胸部X−P),MMSE,頭部MRI,脳波検査,脳血流検査等を用いて診断を行った.今回の調査項目として,性別,検査時年齢,身長,体重,BMI,既往歴,採血,心電図等の検査所見,内服薬につ
いて調査し,血圧・ABI(血管の詰まり)・PWV(血管の硬さ)を選択した.尚,本研究は北里大学医学部倫理委員会の承認を受け,検査実施に関しては,利用者のプライバシーに十分配慮し,個人情報の取り扱いについて利用者へ十分な説明を
行うと共に文書による同意を得た.
【結果】上記期間内の当院認知症鑑別外来受診者は171 症例(163 人)で,そのうちSDAT が62例(男性19 人,女性43 人.平均年齢それぞれ77.0歳,74.9 歳),MCI が27 例(男性6 人,女性21人.平均年齢それぞれ73.7 歳,70.0 歳)であっ
た.SDAT は高血圧の既往がある症例が多く,またPWV は平均より高値の傾向を示した.
【考察】血圧脈派検査は非侵襲的に比較的簡易な方法で加齢に伴う血管病変をとらえられ,またMRI に比較して医療費も安く抑えることができる検査法である.今回,我々は血圧脈派検査で測定した動脈硬化度,血管障害に関連する既往歴と
晩発性アルツハイマー型認知症,MCI との相関について調査したところ,SDAT の症例に関しては,高血圧の既往歴がある症例が多く,またPWV は平均より高値を示す傾向を認めた.動脈硬化はアルツハイマー型認知症発症のリスクファ
クターであるとの考えもあり,その管理がアルツハイマー型認知症・MCI の発症予防に有用な可能性もある.また,血管性因子に対しての予防や治療的介入は可能であることから,客観的評価として,動脈硬化度を臨床応用に活用する事も認知
症予防において一つの有効な手段となる可能性がある.
- I-P-14 18 : 10〜18 : 20
- 沖縄の高齢者における血球計数,血清脂質と認知機能との関連
- "勝亦百合子(琉球大学医学部医学科環境生態医学分野),ダッヂヒロコ(オレゴン州立大学公衆衛生学分野),東上里康司(琉球大学医学部附属病院検査部),鄭奎城(琉球大学医学部医学科環境生態医学分野),稲福さゆり(鹿児島大学大学院連合農学研究科),比嘉大輔(沖縄国際大学地域文化研究科社会福祉学領域),ウィルコックスクレイグ(沖縄国際大学総合文化学部人間福祉学科),大屋祐輔(琉球大学医学部医学科循環系総合内科学分野),保良昌徳(沖縄国際大学総合文化学部人間福
祉学科),等々力英美(琉球大学医学部医学科環境生態医学分野)"
- 【目的】沖縄県は健康長寿県として世界的に有名であり,高齢者の身体的機能や認知機能が比較的高いことが報告されている.沖縄県の健康長寿の要因を探るために,「快適な加齢(オプティマルエイジング)」の要因となる認知機能に焦点をあ
て,沖縄県宜野湾市在住の高齢者を対象とした調査を実施した.本発表は,その調査結果をもとに,生活習慣,血球計数(CBC),血清脂質と認知機能との関連を報告する.
【方法】2007 年11 月から2008 年2 月,沖縄県宜野湾市在住の比較的健康な大正,明治生まれの高齢者197 人に対して,採血および生活習慣と認知機能に関する調査を行った.採血は,空腹時に13 ml の静脈血を採取した.生活習慣と認知
機能に関する調査は,質問紙を用いた個別面接法によって実施した.
【倫理的配慮】研究参加は対象者本人の自由意志により決定され,文書による同意が得られた場合,同意書に参加者あるいは代諾者に,日付の記入と署名をしてもらった.個人名や電話番号などの個人情報は,データ収集終了後,全て削除され,調
査結果の解析は個人を特定できる内容を消去した状態で行った.
【結果】参加者197 人のうち,採血および面接調査の両方参加した人は男性51 人,女性143 人の計194 人,平均年齢は85.1±3.2 であった.対象者の基本属性は表1 のとおりである.年齢,BMI,教育年数,高齢者抑うつ尺度(GDS)スコア,
血清脂質,CBC と認知機能(MMSE)スコアとの関連を表2 に示す.
【考察】近年報告されている血清脂質と認知機との関連は今回の対象者においては見られなかったが,白血球数と認知機能とに有意な関連があった.この関連性は性,年齢,教育年数で調整した多変量解析でもみられた.炎症マーカーである白
血球数が認知機能のマーカーとなりうるか,さらなる検討が必要である.
-
- I-P-15 18 : 20〜18 : 30
- 通所サービスにおける高齢者のうつ状態と介入の効果
- 森明子,小長谷陽子,相原喜子,鈴木亮子(認知症介護研究・研修大府センター),服部英幸(国立長寿医療センター),菊池利衣子,井上豊子(介護老人保健施設ルミナス大府),川村陽一(社会福祉法人青山里会)
- 【目的】うつ病は高齢者にみられるさまざまな身体疾患に合併しやすい.ADL が低下し,QOL の悪化をもたらし,認知機能の障害を起こす要因にもなる.うつ病の高齢者に対しては従来の医療的アプローチだけでなく,身体特性や生活の質を考
慮した包括的な評価方法とケアの開発が必要である.ケアの1 つとして介護保険で実施されている通所サービスがある.今回,通所サービスのうつ病(進行)予防の有効性を明らかにすることを目的に前方視調査を行なった.
【方法】通所サービスを利用している高齢者を対象とし,うつ状態,認知機能,心理状態についてベースライン期と1 か月後,6 か月後の3 回評価した.調査項目はうつ病診断基準(うつの有無),Geriatric depression Scale(GDS 15),Mini-
Mental Status Examination(MMSE),やる気スコア(Apathy Scale 島根医科大学第3 内科版),MADRS-J(Montgomery Asberg DepressionRating Scale)日本語版であった.
【倫理的配慮】対象者にはすべて書面を用いて調査の目的,内容等を詳細に説明し,書面によって同意を得られた人のみに調査を施行した.
【結果】対象者は,女性16 名(59.3%),男性11名(40.7%)合計27 名であった.平均年齢は77.8歳,SD=9.4 歳,通所回数は平均2.3 回(1‐4 回/週),主疾患の内訳は,脳血管障害が15 名(55.6%),腰椎圧迫骨折など整形疾患が6 名
(22.2%),その他で神経症性抑うつは1 名であった.GDS 15 の5 点以上をうつありとしたところ,うつありは15 名,うつなしは12 名であった.うつの有無で平均年齢(うつあり群79.4±9.8 歳,うつなし群77.4±9.2 歳),通所回数(うつあり
群2.4±0.8 回,うつなし群2.3±0.5 回)において有意差は認められなかった.うつの有無による各指標における差をMann-Whitney 検定で検討したところ,GDS 15 とMADRS-J で有意な差があったが,MMSE とやる気スコアでは有意差は
みられなかった.うつの有無による各指標の変化は,Friedman 検定を用いてベースライン期,1か月後,6 か月後を比較したところ,GDS 15,MMSE,やる気スコアでは有意差はみられなかったが,MADRS-J のうつあり群の1 か月後と6
か月後で,Wilcoxon の符号付き順位検定で有意差(z=−2.102,p=0.036)がみとめられた.
【考察】うつ病の診断がなされている対象者は1名のみであったが,GDS 15 という高齢者に適したうつ評価スケールを用いたところ,対象者の半数以上(55%)がうつ状態と把握された.ゆえに高齢者に適したうつスケールによる正しい評価
をし,うつ状態を把握した上でケアしていくことが重要であると考える.また経過分析から,通所サービスがうつ状態,認知機能,心理状態の維持・改善に効果があると考える.特にうつあり群でMADRS-J
により6 か月後に改善していたことか ら,通所サービスの継続はうつ状態の改善に寄与したといえよう.うつ病と診断されていなくても要介護高齢者では高頻度に「うつ状態」が認められることをふまえ,評価システムの確立と,メンタルヘルスに貢献するプログラムの実践が望まれ
る.通所サービスの利用を継続することでうつ(進行)予防が可能となることが示唆されたことから,要介護者に対し通所サービス利用を検討するケアマネジメントが期待される.本研究の限界として,対象者数が少ない,コントロール群と比
較ができていない,プログラム別の分析ができていない点が挙げられた.
- なお本研究は長寿医療研究委託費(18 公−8)によって行われた.ご協力頂いた方々に深謝致します.
6月28日(土) ポスター会場(403)
画像検査(1)
川又敏男(神戸大学)
- II-P-1 13 : 00〜13 : 10
- アルツハイマー型認知症における実行機能障害と脳血流SPECT との関連
- 仲秋秀太郎,品川好広,本郷仁,村田佳江(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),佐藤順子(八事病院),辰巳寛(名古屋第二赤十字病院),古川壽亮(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学),三村將(昭和大学医学部精神医学教室)
- 【目的】軽度のアルツハイマー型認知症においても,約半数近くの患者に実行機能の障害が出現する.実行機能障害の症状(dysexecutivesymptoms)は前頭葉機能と関連するので,認知機能のみならず,多様な精神行動異常とも密接な
関係がある.したがって,アルツハイマー型認知症における実行機能障害の症状の定量的評価は,臨床上意義があろう.われわれは,実行機能障害の症状を,定量的に評価するDysexecutiveQuestionnaire(DEX)の日本語版の信頼性と妥
当性をすでに報告した1).今回の研究では,DEXにより評価した実行機能障害症状の要因と脳血流SPECT 画像との相関を求め,アルツハイマー型認知症における実行機能障害症状の生物学的な基盤を検討した.
【方法】名古屋市立大学病院こころの医療センターを受診した軽度・中程度のアルツハイマー型認知症58 名の患者を対象とした.対象者には,DEXと脳血流SPECT(99 mTc-ECD)を同時期に施行した.DEX の日本語版は,3 因子により構成
される1).第1 因子はアパシー(apathy)に関係する項目,第2 因子は実行機能(計画・意図)(planning and monitoring)の障害に関係した項目,第3 因子は脱抑制(hyperactivity)に関係する項目と想定された.したがって,3 因子そ
れぞれと脳血流SPECT との相関を,画像解析ソフトSPM 2 を用いて検討した.Voxel ごとの解析の有意水準はp<0.01 とし,the falsediscovery rate(FDR)approach による多重補正の方法をとった.
【倫理的配慮】この研究は,名古屋市立大学医学部倫理委員会において承認を得て,すべての対象者に目的と方法を説明したうえで同意を得ている.
【結果】画像の解析所見では,第1 因子(アパシー)の成績は,両側前頭葉内側面を中心に,背外側部と底部の血流低下と相関した.第2 因子(実行機能:計画・意図)の成績は,両側前頭葉内側面と背外側面との血流低下と相関した.第3 因
子(脱抑制)は,前頭葉底部と側頭葉外側面の一部の血流低下との相関を認めた.
【考察】DEX(日本語版)を構成する3 因子は,脳血流画像においても,異なった部位に相応することが示された.DEX によるアルツハイマー型認知症の評価は,認知機能のみならず,精神行動異常も評価でき,これらの生物学的基盤は異なる
可能性がある.実行機能障害のDEX による評価の妥当性を,この研究の結果は示唆した.
【文献】
1)Shinagawa, Y., et al. : Reliability andvalidity of the Japanese version of theDysexecutive Questionnaire (DEX) inAlzheimer’s disease ; validation of abehavioral rating scale to assessdysexecutive symptoms in Japanese
patients with Alzheimer’s disease. Int. J.Geriatr. Psychiatry, 22 : 951-956 (2007).
- II-P-2 13 : 10〜13 : 20
- DLB 患者における後部帯状束の拡散テンソルトラクトグラフィーを用いた検討
- 木内邦明,森川将行(奈良県立医科大学精神科),田岡俊昭(奈良県立医科大学放射線科),井上眞(奈良県立医科大学精神科),中川康司(奈良文化女子短期大学),井上雄一朗,小坂淳,永嶌朋久(奈良県立医科大学精神科),吉川公彦(奈良県立医科大学放射線科),岸本年史(奈良県立医科大学精神科)
- 【目的】近年拡散テンソル画像(DTI)を用いた認知症の研究において,白質における拡散異方性の低下が指摘されている.我々は現在までにアルツハイマー型認知症(AD)において,認知機能に関係するとされる連合線維の鈎状束が認知機能の
低下に伴って拡散異方性が低下し,拡散能が上昇することを報告している.今回,我々は後部帯状束をレビー小体型認知症(DLB)患者群と健常者群においてtractography を用いて描出し,パラメータとして拡散異方性はFA(fractional anisotrophy),
拡散能はADC(apparent diffusioncoefficient)を測定し,両群間で比較検討した.
【方法】対象は奈良県立医科大学附属病院精神科外来通院中で,2005.12〜2007.12 の期間中にMRI を撮影したDLB 患者群14 名と健常対照者群16 名で患者群の平均年齢72.9 歳,対照群の平均年齢71.9 歳.患者群では男性4 名女性10
名,対照群では男性8 名女性8 名であり,患者群のMMSE は平均18.1 点,ADAS-J cog.は平均20.98 点,対照群ではMMSE 27.4 点,ADAS-Jcog. 7.36 点であった.患者の撮像には1.5 テスラ臨床用MR 装置,Magnetom Sonata,Siemens
社製を用いた.tractography の作成には,東京大学医学部附属病院放射線科,画像情報処理・解析研究室の増谷らが開発した解析ソフトウェア「dTV」を用いて帯状束を描出した.
【倫理的配慮】撮像に際して書面にて同意取得した.
【結果】結果は両側後部帯状束,右後部帯状束,左後部帯状束いずれのFA 値においても患者群と健常群を比較した結果,有意な差を認めなかった.また,ADC 値については両側後部帯状束(t=‐3.17,p<0.01),右後部帯状束(t=‐3.21,p<
0.01),左後部帯状束(t=‐2.74,p<0.05)と患者が健常対照群と比べて有意に高くなっていた.
【考察】DLB に関しては脳血流SPECT 検査においてAD と同様に後部帯状回の血流低下が指摘されており,今回,同部位をDTI を用いて測定した結果,ADC 値が高くなっており,同部位での神経組織の変化が示唆され,SPECT 検査での結
果と一致するものと考えられる.また,SPECT検査においてはこの他にも後頭葉,側頭葉内側,頭頂葉においても血流低下が示唆されており,今後他の部位での検討も必要であると考えられる.
- II-P-3 13 : 20〜13 : 30
- 拡散テンソルMRI を用いた認知障害を伴う老年期うつ病の検討
- 下田健吾,木村真人,大久保善朗(日本医科大学精神神経医学教室)
- 【目的】MRI の撮影法が進歩し,脳内のランダムな水分子の動きである拡散現象を非侵襲的な方法で捉えることが可能となった.拡散テンソル画像は大脳白質繊維の拡散異方性を示し,白質変化を定量的解析によって評価できるため,近年精神疾
患に対する研究が始められている.老年期うつ病はしばしば認知障害を伴いその予後は不良であるとされ非可逆的な認知症に移行する症例もみられる.しかしながら軽度認知障害(MCI)とアルツハイマー病(AD)の関連性を調べた画像研究
は多いが,このような認知障害をともなう老年期うつ病症例の白質変化に注目し認知症との関連を検討した報告は少ない.そのため今回われわれは拡散テンソル画像を用いて,認知障害を伴う老年期うつ病の白質変化について,MCI およびAD
との比較を試みその類似性および相違について検討した.
【方法】研究の主旨に同意の得られた認知障害を伴う老年期うつ病10 例,年齢をコントロールしたAD(NINCDS-ADRDA criteria)10 例,MCI(Peterson のamnestic MCI)6 例にMRI を施行した.MRI はGE-YMS 社製SignaInfinity with
Excite Vr.10 を使用し,テンソル画像はsingleshotspin-echo type EPI にて行い.撮像条件はTE=92-98 msec,matrix=128×128,FOV=24 cm,スライス枚数17 枚,スライス厚6 mm,スライスギャップ2 mm,加算回数5 回,MPG
パルスはb=0 sec/mm2 とb=1000 sec/mm2 の2種類とし,装置付属のワークステーションadvantage window にてFA の作成を行った.定量的評価は脳梁前部,後部,前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉に関心領域(ROI)を設定し拡散異
方値(FA)を測定した.得られたFA 値について群間比較検定を行った.
【倫理的配慮】拡散テンソル画像は通常のMRIの検査内で行うことができる手法であるが,研究の趣旨およびプライバシーの配慮について口頭で説明し同意を得た.またデータ解析には個人情報に漏れがないように十分に配慮し匿名化した上で
保存,処理した.
【結果】AD およびうつ病群のFA 値はMCI 群に比して脳梁前・後部においてMCI 群より有意に低値を示した.また左前頭葉のFA 値は他の群と比較して有意にうつ病群において低下していた.
【結論】認知障害を伴ううつ病は,後方領域ではMCI よりAD に類似した白質変化がみられる可能性が示唆された.また前頭葉の白質変化はADより顕著でありこれは老年期うつ病に特有の変化である可能性が示唆された.
6月28日(土) ポスター会場(403)
画像検査 (2)
川勝忍(山形大学)
- II-P-4 13 : 30〜13 : 40
- VSRAD と神経心理検査を用いた認知症の早期診断と経過観察
- 川瀬康裕(川瀬神経内科クリニック),児玉直樹(高崎健康福祉大学)
- 【目的】本研究では1.0 T のMRI 装置を用いてVSRAD を測定するとともに,神経心理検査を実施し,認知症患者の早期診断と経過観察のための有用性について検討した.
【対象および方法】本研究の対象は,物忘れを主訴として(医)川瀬神経内科クリニックを受診し,VSRAD,CDR,MMSE,かなひろいテストを実施することのできた47 名である.なお,CDR 0.5が21 名,CDR 1 が12 名,CDR 2 が14 名であ
った.すべての対象者に対してVSRAD,CDR,MMSE,かなひろいテストを1 年前と1 年後に実施しており,1 年間におけるそれぞれの変化について検討した.
なお,統計学的検討にはSPSS 12.0 for Winを用いて行い,CDR の各群間における検定には一元配置の分散分析を行い,有意差が認められた場合にはScheffe の方法により群間比較を行った.また,1 年前後における平均値の差の検定には
Paired-t 検定を用いた.有意水準は5% とし,結果については平均値±標準偏差で示した.
【倫理的配慮】すべての対象者に対して書面によるインフォームドコンセントを得ており,データはすべて匿名化されている.また,院内の倫理委員会においても承認を得ている.
【結果】各CDR におけるVSRAD,MMSE,かなひろテスト正答数の結果を表1 に示す.また,1 年経過後におけるVSRAD,MMSE,かなひろテスト正答数の結果を表2 に示す.CDR の各群間において有意な差が認められたのはVSRAD およびかなひろいテスト正答数に
おいてはCDR 0.5 とCDR 2 の間であった.MMSE においてはCDR 0.5 とCDR 1 および2の間で有意な差が認められた.また,1 年前後において有意な差が認められたのはVSRAD ではCDR 0.5 およびCDR 1 の群であり,MMSE で
はCDR 2 の群であった.かなひろいテスト正答数では有意な差が認められなかった.
【考察】認知症の早期診断にVSRAD は使用できるのではないかと考えられたが,今回の結果からは有効ではないものと推察される.また,前頭葉機能検査であるかなひろいテストについても同様の結果であった.しかし,今回はCDR 0 と比較してないことは今後の課題である.なお,認知症
の経過観察にはVSRAD は有効であると考えられる.今後さらに長期にわたって追跡し,報告していきたい.
- II-P-5 13 : 40〜13 : 50
- VSRAD による前頭葉萎縮の評価が有用であった2症例
- 金子智喜,百瀬充浩,角谷眞澄(信州大学医学部画像医学講座),荻原朋美,犬塚伸,天野直二(信州大学医学部精神医学講座)
- 【症例】(症例1)60 歳女性.5 年前より意欲低下,不眠,食欲不振が出現.4 年前より不穏などの精神症状が出現.昨年より脱抑制,会話不成立,かみつくなどの異常行動が見られたため入院した.MRI:年齢に比し大脳の脳溝に拡大を認めたが,前頭葉
の萎縮を有意と判断するにいたらなかった.VSRAD(voxel-based Specific Regional analysissystem for Alzheimer’s Disease)を行ったところ,前頭葉内側から下面に強い萎縮が示された.99mTc-ECD 脳血流シンチ:e-ZIS 解析では前頭葉
前面から下面に血流の低下が認められた.人格変化,常同行為などの症状と,MRI,脳血流シンチグラフィの所見から,Pick 型FTD(frontotemporaldementia)と臨床的に診断された.(症例2)68 歳女性.12 年前より身体不定愁訴
が出現した.5 年前よりセネストパチーが出現.3 年前より認知機能低下が認められた.MRI:症例1 と比較して,大脳の萎縮が認められるが,前頭葉の萎縮を有意と判断するにはいたらない.VSRAD では前頭葉内側から下面に強い萎縮を認
めた.99mTc-ECD 脳血流シンチ:e-ZIS 解析上,前頭葉前面から下面に血流の低下を認めた.画像所見は症例1 と類似しFTD を疑ったが,臨床的にはセネストパチーが主体で,現在も経過観察中である.
【考察】VSRAD は,SPM(spatial parametricmapping)を用いたVBM(voxel-basedmorphometry)の煩雑な処理過程を全自動行えることから,広く日常臨床で用いられるようになった.FTD についてVBM を用いた検討では,健常者と比較して前頭葉/側頭葉前部の萎縮がより強いと報告されている.症例1 では,肉眼的
に萎縮の判断は難しかったが,VSRAD を用いることで前頭葉,側頭葉前部の萎縮が明らかとなり,臨床診断の決め手の一つとなった.症例2 では多幸感が強く,前頭葉眼窩回の障害を疑うが,セネストパチーと前頭葉障害の関連は明らかにされ
ていない.VSRAD は萎縮の部位を判定するのに有用であったが,異なる症例でも同様な結果を呈することがあるため,臨床所見も加味した総合的な判断が必要と考えられた.
- II-P-6 13 : 50〜14 : 00
- 認知機能と海馬容積及び大脳皮質下病変との関係
- 田中絢子,中村悦子,富永桂一郎,岡崎味音,橋本知明,関野敬子,宇田川至,杉山恒之(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室),柳田浩(天翁会新天本病院),塚原さち子,田所正典,山口登(聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室)
- 【目的】認知機能と頭部MRI 上での海馬体積及び大脳皮質下病変との関係性を検討する.
【対象】物忘れを主訴として受診した外来患者97名(男性20 名,女性77 名,平均年齢77.3±7.8歳,教育年数11.7±2.3,長谷川式認知症スケール[HDS-R]の平均点19.0±7.0 点).
【方法】(1)認知機能評価:HDS-R 及び聖マリアンナ医大式コンピューター化記憶機能検査(STM-COMET)を施行.COMET は直後自由再生(IVR),遅延自由再生(DVR),遅延再認(DVRG),Memory
scaning test(MST),Memory filtering test(MFT)の5 つの下位項目から成る.(2)海馬体積の測定:volumetric MRI の画像より,海馬の体積(H),頭蓋内容積C を測定し,補正海馬容積(H/C)を算出した.(3)大脳皮質下病変の評価:日本脳ドック学会ガイドラインのMRI 診 断(Shinohara ら,2003)を用い,T 2 強調・FLAIR 画像の水平断で高信号域を呈した側脳室周囲病変(PVH:Grade
0〜IV の5 段階)及び深部皮質下白質病変(DSWMH:Grade 0〜4 の5 段階)を用いたH/C,PVH 及びDSWMH と, 認知機能検査値との関連を統計処理(回帰分析・重回帰分析)した.
【倫理的配慮】本研究は聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認を得,対象者には本研究の趣旨を文章及び口頭により説明し同意を得た.
【結果】HDS-R[単回帰分析]1)H/C は総得点・見当識・遅延言語再生・物品再生・言語流暢性において有意な相関(p<0.0001)を認め,逆唱でも相関(p=0.0018)を認めた.即時再生・計算は相関を認めなかった.2)PVH
は総得点(p= 0.0028)・見当識障害(p=0.0039)・逆唱(p=0.03)・遅延言語再生(p=0.0128)・物品再生(p=0.01)に相関を認めた.3)DSWMH
は全てに相関を認めなかった.COMET[単回帰分析]1)H/C はIVR・DVR・DVRG(ρ<0.0001)・MST(ρ=0.0012)・MFT (ρ=0.0008)で相関を認めた.2)PVH
はIVR(ρ=0.0068)・DVR(ρ<0.0001)・DVRG(ρ=0.0033)・MST(ρ=0.0040)に相関を認めた.3)DSWMH
は相関を認めなかった.HDS-R[重回帰分析]1)H/C は総得点及び下位項目で関連を強く認めた.2)PVH は逆唱・ 遅延再生で,H/C より弱いが関連を認めた.3)DSWMH は関連を認めなかった.COMET[重回帰分析]1)H/C は全項目と関連を認めた.2)PVH はIVR・DVR・DVRG で,H/C より弱い関連を認めた.3)DSWMH は関連は認めなかった.
【結語】次の事が示唆された.1)H/C は認知機能と強く相関し,特に言語記憶機能のIVR・DVRで表される再生機能とDVRG で表される遅延再認と関連する.また,MST で反映される精神的敏捷性,MFT で反映される注意持続性及び,見
当識や言語流調性なども関連する.2)PVH は言語記憶機能と関連する.3)DSWMH は認知機能と関連しない.
6月28日(土) ポスター会場(403)
検査
高山豊(国際医療福祉大学三田病院)
- II-P-7 14 : 00〜14 : 10
- 認知機能評価スケールとVSRAD 解析結果との相関研究()
- 塩崎一昌,浅見剛,早野富美,小林勇太,佐伯隆史,酒井智弘,島津綾子,庄司容子,松本香織,平安良雄(横浜市立大学・医学部・精神医学)
- 【目的】認知症の診断には,MRI やCT などの頭部画像診断は欠かせないものになっており,特にアルツハイマー型認知症の診断に当たっては海馬領域の萎縮の評価が診断のための重要な情報である.だが早期や軽症例においては,海馬の萎縮の
視覚的な評価は困難であり,評価者間で一致した評価が得られないことがある.Voxel-Based Specific Regional AnalysisSystem for Alzheimer’s Disease(VSRAD)は,アルツハイマー型認知症の早期診断を支援するた
めに松田らによって開発され提供されている画像統計解析用のソフトウェアで,MRI の検査結果を解析して,海馬傍回の萎縮を数値化するものである.解析結果としては,(1)海馬傍回の萎縮の程度,(2)脳全体の中で萎縮している領域の割合,
(3)海馬傍回の中で萎縮している領域の割合,(4)海馬傍回の萎縮と脳全体の萎縮との比較,が数値で評価される.横浜市立大学の老人クリニックでは,平成19年5 月以降の新患のほぼ全例(明らかな血管性認知症を除く)に対して,VSRAD による解析を行い診断の参考としている.
今回は初診時に得られた臨床情報と,VSRAD の(1)〜(4)のどの評価がよく相関するのか後方視的な調査研究を行なった.
【方法】平成19 年5 月〜12 月の間の外来新患90名を対象に,年齢,性別,HDS-R,MMSE,合併症やBPSD の有無などを調べた.診断の内訳は,アルツハイマー型認知症(46 名),混合型認知症(5 名),血管性認知症(3 名),MCI(4 名),
その他の認知症(5 名),うつ病と神経症(13 名),診断なし(2 名),診断未定・その他(12 名)であった.Siemens 社製1.5 T のMRI より得られた矢状断1.5 mm 幅128 枚/脳のT 1 強調画像を用いてVSRAD 解析を行った.対象データは必
要に応じ3D-slicer により冠状断画像を作成し,海馬の萎縮を視覚的に確認した.
【倫理的配慮】本研究は横浜市立大学の倫理委員会の承認を受けており,学会や医学論文で報告・検討されることについて患者より書面で同意を得ている.
【結果】HDS-R とMMSE は1% 水準で高い相関(相関係数0.867)を示した.VSRAD の4 つの指標の間で高い相関を示したのは,「(1)海馬傍回の萎縮の程度」と「(3)海馬傍回の中で萎縮している領域の割合」が相関係数=0.964 を示し(1% 水準),「(3)海馬傍回の中で萎
縮している領域の割合」と「(4)海馬傍回の萎縮と脳全体の萎縮との比較」が相関係数=0.741(1%水準)を示した.「(1)海馬傍回の萎縮の程度」と「(4)海馬傍回の萎縮と脳全体の萎縮との比較」は相関係数=0.662(1% 水準)を示した.
HDS-R 得点と1% 水準で有意に相関したのは「(2)の脳全体の中で萎縮している割合(相関係数−0.472)」と「(1)海馬傍回の萎縮の程度(相関係数−0.292)」であった.MMSE 得点と「(2)脳全体の中で萎縮している割合(相関係数−0.301)」は1% 水準で有意に
相関があった.
【考察】HDS-R とMMSE の総得点は高い相関が見られた.VSRAD の海馬の萎縮に関する指標(1)と(3)と(4)の間には高い相関が見られた.今回の結果では,HDS-R やMMSE の総得点と最もよく相関していたVSRAD の指標は,(2)脳全体の中で萎縮している割合であった.
HDS-R とMMSE の総得点は,海馬の萎縮よりも,脳全体の広範な萎縮をより強く反映していると考えられた.
- II-P-8 14 : 10〜14 : 20
- 多チャンネルNIRS を用いた老年期の認知機能の特徴;認知症患者様との比較検討
- 森田喜一郎,小路純央,山本篤(久留米大学高次脳疾患研究所),松岡稔昌,内村直尚(久留米大学医学部精神神経科)
- 【目的】これまで我々は,探索眼球運動・事象関連電位などの精神生理学的な指標や機能的MRIを用いて認知症の精神生理学的特性を報告してきた.多チャンネルNIRS は,近赤外線の散乱光を用いて脳表面の血管のヘモグロビン濃度を非侵
襲的に測定することができ,装置は比較的小型で可搬性に優れており,簡便に計測することができる.さらに,データを二次元画像化することによって脳機能の変化を即時に被験者も視覚的に知ることができるという特性がある.今回この多チャ
ンネルNIRS(光トポグラフィー)を用い,認知機能を反映する日本独特の「しりとり」課題中の脳血流変動を精神生理学的指標にして,老年健常群,軽度認知機能障害(MCI)群とアルツハイマー型認知症患者様群を比較検討したので報告す
る.
【対象】当院に通院中で2 名の精神科医によりICD 10 に基づきアルツハイマー型認知症と診断された12 名と通院中および認知症検診時においてMCI と診断されたMCI 群14 名(HDS-R が21 から28 点,MMSE が24 から28 点でCDR
が0.5 点)および年齢をマッチさせた健常群14名(HDS-R が28 点以上,MMSE が28 点以上でCDR が0 点)である.総ての被験者は右ききで,脳梗塞,脳出血等の既往が無く,言語機能・聴覚機能にも障害はなかった.総ての被験者には,
当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した.尚,当研究は,久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている.
【方法】脳血流は,多チャンネルNIRS(日立ETG-4000)を使用して測定し,「しりとり」課題を用いた.脳血流は,前頭部,左右側頭部を含む46部位法から酸化・還元ヘモグロビン値を記録した.総ての被験者に,「あいうえお」および「しりと
り」の練習を行ない,課題を理解された方のみ以下の検査を施行した.「あいうえお」発語時を無課題条件,「しりとり」発語時を課題条件とし,交互に30 秒ずつ5 回施行した.データは,5 回の加算波形を用いた.総ての被験者において同日,
血流測定に携わらない訓練された検査者により,脳血流計測前にHDS-R,MMSE およびCDR を施行し認知機能を評価した.
【結果】健康老年群では,酸素化ヘモグロビンの値は,前頭葉にて「しりとり」課題中に増大した.特に,左外側前頭前野で明瞭であった.MCI 群では,左外側前頭前野の酸素化ヘモグロビンの値は健常老年群より減少したが,「しりとり」課題
で,左外側前頭前野と右外側前頭前野が酸素化ヘモグロビンの値が増大した.認知症群では,左外側前頭前野における酸素化ヘモグロビンの値の増加は観察されず,右外側前頭前野が酸素化ヘモグロビンの値が増大した.「しりとり」の数は,健
常群がMCI 群より有意に大きい値で,MCI 群は認知症群より有意に大きい値であった.HDS-RおよびMMSE と「しりとり」数の間に有意な正の相関が観察された.
【考察】認知症患者様は,左外側前頭前野の機能が低下していることが観察され,「しりとり」課題を用いた多チャンネルNIRS 検査は,無侵襲ですぐに被験者に画像として見せることが可能で
評価もでき,認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる.
- II-P-9 14 : 20〜14 : 30
- 認知症の全経過の中での現在の位置の診断法(SED 法)の提案;その概要と信頼性について
- 清原龍夫(医療法人長寿会清原龍内科),清原龍彦(長崎大学付属病院),清原龍士(帝京大学医学部),藤本進(放射線科藤本クリニック)
- 【目的】一人の認知症の人が,現在,認知症という病気に罹患してから亡くなるまでの病悩期間,のどの時点にいるのか,を知るために,それを点数化して,簡単に知る方法(SED テスト)を考案し,(第13 回国際老年精神医学会発表),その
信頼性について検討したので報告する.
【方法】認知症の現在の時点を示す指標(StageEstimation of Dementia : SED テスト)を用いて,アルツハイマー型認知症の方50 人,血管性認知症の方20 人について,SED テストから求めたテスト施行時までの病悩期間と,家族から聴取
した発症時期とを比較した.次に,12 人の認知症の方の筆頭演者(精神科医)が算出したSED点数と,共同演者の一人(放射線科医)が,全く独立して別個に算出したSED 点数とを比較した.
【倫理的配慮】本研究は,認知症患者本人および家族の方への倫理的配慮に基づき執り行われた.
【結果】1.アルツハイマー型認知症の方50 人,について求めたSED 値X/1500,から求められた現時点までの病悩期間,から逆算した発症時期Y年前と,患者家族から聴取した発症時期Z 年前のY とZ の一致率は95% 以上であった.2. 12
人の認知症の方の,精神科医が算出したSED 点数から求めた病悩期間A 年と,全く独立して同じ患者に別個に放射線科医が算出したSED 点数から求めた病悩期間B 年との相違率は平均3.6%であった.
【考察】ある認知症の患者が,その自然歴もしくは全体の病悩期間の中で現在どのあたりにいるのかについて点数のような数値で知りうる方法はこれまで報告がなかった.我々の考案したSED テストが,これを満たすものであるのか否かは,本
法の妥当性については比較すべき他法がないので検討できない.信頼性については,結果1.より,SED 値より推定した発症時期と,患者家族より聞き取った発症時期との間に95% 以上の高い一致率をみた.
再現性は,独立した2 人の,標榜科の違う,したがって認知症についての知識背景も違う医師の出したSED 値から算出した病悩期間の相違率は平均3.6% と非常に低く,十分再現性がある事が示唆された.未だ改善点はあると思われるが,本
法は認知症のステージや予後を知るために有用な方法であると考えられる.
- II-P-10 14 : 30〜14 : 40
- 認知症高齢者における日本語版NOSGER の信頼性と妥当性の検討
- 梅本充子(名古屋女子大学),遠藤英俊,三浦久幸(国立長寿医療センター)
- 【目的】認知症高齢者は,認知機能にとどまることはなく,運動,行動,情動,対人関係などあらゆる側面に障害をもたらす.Nurses ObservationScale for Geriatric Patient(NOSGER)は,行動評価のために作成され1991 年にSpiegel らに
より報告された.本尺度は,入院患者や施設入所者・在宅患者に適応可能,使用に際し訓練を要さず,医療従事者のみならず一般の人にも評価可能,生活日常行動で評価できるという利点があるにもかかわらず,調査した限りではわが国ではほとん
ど使用されていないのが現状である.本研究は,認知症高齢者に対する行動観察評価NOSGER 尺度の信頼性と妥当性の検討を目的に行った.
【方法】研究参加者は,1 回目調査2002 年8 月〜9 月,愛知県T 市老人保健施設,グループホーム入所者,デイケアに通う在宅高齢者の計59 名,2 回目調査2004 年8 月〜9 月では,同じく愛知県T 市,グループホーム入所者,デイケアに通
う在宅高齢者の計27 名を調査対象とした.NOSGER は,記憶,道具を用いる日常行動,セルフケア(日常行動),感情,社会的活動,行動障害の6 つの下位尺度ごとに5 項目を設定し,全体で30 項目の包括的行動評価である.評価は,
5 段階からなる.本研究では,新井による日本語訳のものを使用した.信頼性の検討は,再テスト法(2 週間後再施行)では,Spearman 相関係数,Cronbach’s α 係数および各項目の一致率を検討した.評価者間の信頼性は,看護師と介護者で検
討し,Spearman 相関係数,α 係数,κ 係数および一致率を検討した.妥当性の検討は,併存的妥当性では,HDS-R,MMSE,NM スケール,Behave-AD のそれぞれ同じような領域を判定する尺度または下位尺度の得点との相関係数を求め
た.さらに構成概念妥当性としてNOSGER の各項目をプロマックス回転し,因子分析を行った.
【倫理的配慮】調査にあたっては,研究の趣旨と目的,回答は,自由意志であること,また自由意志の判断が難しい認知症の場合は,家族に文書で説明し同意が得られた場合に依頼をお願いした.
【結果】再現性および評価者間の検討には,27 名を分析対象に行った.結果,看護師による再テストでは,NOSGER 下位尺度間においてSpearman 相関係数は,r=0.72〜0.88.完全一致率は66%〜85%,不一致率は,社会的活動の
3% を除き0% であり,いずれも高い一致が示された.評価者間の検討では,看護師と介護者による検討を行い,Spearman 相関係数r=0.59〜0.88.完全一致率55%〜85%,不一致率,いずれも0% であった.κ 指数は,0.33〜0.77 とばら
つきがみられ「行動障害」が0.33 でもっとも低く,「記憶」の項目が0.77 最も高い信頼性を示した.α 係数は,行動障害が最も低く0.68 であり他の下位尺度は,0.85〜0.94 と高い内的整合性を示した.妥当性の検討は,59 名を対象に分析
を行った.併存的妥当性では,「記憶」の得点とHDS-R,MMSE の得点相関係数は,−0.66,−0.61 であり,「道具を用いる日常行動」とN-ADLとの相関は−0.57.「セルフケア」とN-ADL との相関は−0.77.「行動障害」とBehave-AD と
相関は0.70.NOSGER 総得点とNM スケールとの相関は,−0.66 といずれもそれぞれ同じような領域を判定する尺度または下位尺度間に有意な高い相関認めた.さらに因子分析の結果,NOSGER 英語版と尺度構成の項目数にばらつき
はあったものの6 因子が抽出された.
【考察】NOSGER(日本語翻訳版)の信頼性と妥当性について検討した結果,尺度全体としての信頼性と妥当性がともにあり,認知症の特異的,包括的尺度として今後の認知症高齢者の評価指標として有用なことが示唆された.
6月28日(土) ポスター会場(403)
もの忘れ外来
九鬼克俊(加古川市民病院)
- II-P-11 14 : 40〜14 : 50
- 認知症高齢者における喫煙状況およびドネペジル服用との関連
- 吉田英統(岡山療護センター精神神経科),藤川顕吾,辻拓司,藤沢嘉勝,佐々木健(きのこエスポアール院),和気洋介,寺田整司,本田肇,大島悦子,石原武士,黒田重利(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学)
- 【目的】最近我々はドネペジル服用後に喫煙欲求が軽減した認知症患者を数例経験した.一方Galantamine および選択的ニコチン性アセチルコリン受容体部分アゴニストであるVareniclineはプラセボ対照二重盲検比較試験にて禁煙効果が
認められている.そこで我々は認知症高齢者における喫煙状況を調査するとともにドネペジル服用との関連を検討した.
【方法】対象は,きのこエスポアール病院(認知症専門病院)および岡山大学病院精神神経科もの忘れ外来に通院中の認知症患者325 名.2007 年9 月〜11 月の期間に,患者本人および介護者にアンケート調査を行い,記載内容が不十分な場合
には聞き取り調査を行った.有意水準5% として統計解析を行った.
【倫理的配慮】本人・介護者にたいして研究の目的を説明し,書面にて同意を得た.また,個人情報保護に配慮した.
【結果】285 名から有効回答を得た(回答率87.7%).男性85 名,女性200 名,平均年齢79.7歳(50〜96 歳),HDS-R は平均15.8 点.生活状況は在宅90%,施設入所9%,その他(入院中など)1% であった.喫煙経験のある人は74 名
(26%)で,喫煙経験のない群(211 名,74%)と比較すると,男女比(喫煙群:男61/女13,非喫煙群:男24/女187)に明らかな差がある以外は,年齢,HDS-R,生活状況に関して有意な差はなかった.
喫煙経験のある群の臨床診断は,アルツハイマー型認知症56 名(76%),脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症6 名(8%),脳血管性認知症5 名(7%),前頭側頭型認知症2 名(3%)その他5 名であった.喫煙量はおおむね一日20
本で35 年間,Brinkman Index は580 であった(いずれも中央値).初診時にすでに禁煙していた人(54 名/74)は,半数以上が50〜60 歳代に禁煙していた(50 歳代に14 名,60 歳代に17 名が禁煙.中央値60
歳).その際に禁煙補助薬(ニコチン製剤)を使った人は少数(5 名)だった.禁煙した理由(複数回答可)は,健康のため自分から止めた(40名)が最も多く,健康のため家族がやめさせた(13名)特に理由なし(8 名)タバコが欲しく無くな
った(7 名)火の始末が心配で家族がやめさせた(6 名)が続いた.認知機能低下による直接的な理由は少数(タバコ,ライターを紛失する(3 名)など)だった.喫煙している時期にドネペジル服用を開始した人(18 名)のうち,8 名で喫煙量が減少,9 名で
不変,1 名で増加していた.喫煙本数は服用後に有意に減少していたが,患者・介護者の印象として「減少とドネペジル服用が関連している」と回答したのは2 名のみであった.現在も喫煙している人(18 名)は,ほとんど
(15 名/18)が自分でタバコの管理を行い,半数(9 名/18)は自分でタバコを購入していた.介護者は,身体的な悪影響(13 名)と火の不始末(16名)を心配しており認知症への悪影響(5 名)を懸念する人もいた(複数回答可).
【考察】ドネペジル服用と喫煙量減少との関連が示唆されたが,調査対象数,回答の信頼性などの点で限界がある.より詳細な検討のためには前方視的研究が必要と考えられる.
- II-P-12 14 : 50〜15 : 00
- 認知症治療病棟へのクリニカルパスの導入
- 園田薫(藍野病院加齢医学精神医療センター),首藤賢,小海宏之(藍野病院臨床心理科),石井博,岸川雄介(藍野病院加齢医学精神医療センター)
- 【目的】認知症治療病棟にクリニカルパスを導入することで,患者の情報の共有化(患者,家族,スタッフ),入院期間の短縮化などを目指した.
【方法】物忘れ外来から主にBPSD 治療のため認知症治療病棟に入院した患者に対して,入院前からクリニカルパスに導入し,主治医・担当看護師が中心となりCP,OT,PSW が各病期毎にそれぞれ課題をつくりそれを患者が達成することで次
の段階に進むようなパスを作成した.また各病期毎に共通の目標も作った.
【倫理的配慮】本研究を実施するに当たり患者と家族に主旨の説明がなされ了解を得た.
【結果】パス導入前に比べて,入院期間の短縮が可能であった.また,患者や家族に今パスの中のどの段階でどういう課題がありどういう問題点があるのかをどのスタッフも統一して説明することができ情報の共有化にもつながった.
【考察】クリニカルパスは外科領域では一般に普及しているが精神科ではまだ一般的ではない.その原因の一つは,外科の場合患者の共通部分が個別性に勝るからであり,精神科では逆に個人差が大きいためであると言われている.確かに入院期
間はさまざまであり,横軸に時間軸を使用すれば無理が生じてくる.そのため,時間軸の代わりに課題達成型にすることにした.治る時間はさまざまだが,治り方にはだいたいの似通った部分があ
るからである.敢えて標準のコースを作ることで個別性もより明確になる.共通部分はパスに乗せ,個別部分をカンファレンスで話し合うことにした.当日はパスの他,退院後に地域と連携するためにセンター方式のシートを使った情報の共有化の試
みもはじめているのでそのことにも触れたいと思う.
- II-P-13 15 : 00〜15 : 10
- 済生会横浜市東部病院における新規開業1 年後の高齢者精神医療の現状
- 横山正宗,福田真道,田中聡美,中澤秀明,鎌田彩,沼倉孝利,吉邨善孝(済生会横浜市東部病院)
- 【目的】済生会横浜市東部病院は平成19 年4 月に開院した総病床数554 床の総合病院である.その後同年5 月には心のケアセンターとして外来診療を開始,6 月には精神科病棟も開設し,横浜市の精神科救急医療システムの基幹病院の一つ
として重症度の高い精神症状や身体合併症をもつ精神疾患患者を受け入れ治療にあたっている.また,当院は急性期治療を中心とした地域の基幹病院としての役割も大きく,そうした総合病院内での精神科として同院でのコンサルテーション・リ
エゾンも行っており,精神科専門施設と総合病院精神科の特徴を併せもっているといえる.高齢者の入院も多いが,精神症状や身体合併症の問題などにより,その後の家族の受け入れや転院先の検討などに苦慮することも度々である.今回われわ
れは,当院精神科入院患者および他科併診患者について調査し,当院での高齢者精神医療の現状に関して検討を行った.
【方法】開院時からの当院精神科病棟入院患者を65 歳以上,65 歳未満の2 群に分け,在院日数,精神科既往歴,身体合併症の有無など関して両群間の比較を行った.またコンサルテーション・リエゾン依頼のあった他科入院患者に関しても同様
に調査を行った.
【倫理的配慮】患者のプライバシーの保護を厳守し,その上で統計資料作成に診療情報を用いることに関して当院入院時に患者および家族に同意を得た.
【結果】65 歳以上の精神科病棟入院患者は65 歳未満患者に比較し在院日数が長期化する傾向を認めた.また,身体合併症を有する場合はさらに長期化していた.他病棟併診患者における特徴として65 歳未満患者に比較し65 歳以上の高齢者で
は,自殺企図の割合が少なく,また過去に精神科受診歴のない初発患者がほとんどであった.せん妄など不穏状態を呈する患者も多くをしめていたが,精神科病棟への転棟を要した患者は極めて少なかった.
【考察】高齢者における在院日数の長期化の要因としては,身体合併症と精神症状のどちらにも対応可能な療養機関の不足などの問題も大きく影響している可能性が示唆された.また,病棟併診患者においては,精神科治療歴がなく身体科入院を
契機に軽度認知障害や認知症が疑われ精神科受診となった症例も認めた.入院環境では家族以外の第三者により症状が指摘されやすく,そのような機会を逃さず治療的介入を行っていくことが重要と考えられた.
6月28日(土) ポスター会場(403)
症例報告
森村安史(医療法人樹光会大村病院)
- II-P-14 15 : 10〜15 : 20
- Ganser 症候群を呈したアルツハイマー型認知症の1 例
- 正山勝,山本眞弘,辻富基美,鵜飼聡,篠崎和弘(和歌山県立医科大学神経精神医学教室)
- 【目的】Ganser 症候群は仮性認知症の得意な一病型として知られる稀な疾患であり,アルツハイマー型認知症との鑑別,病態生理の検討は十分になされていない.今回,我々は仮性認知症(Ganser症候群)を呈したアルツハイマー型認知症を経験
し,脳血流所見の縦断的な検討を行った.
【方法】(症例)65 歳,女性.主婦.X‐4 年(60歳)から口渇,動悸などの心気的な不定愁訴が出現し,X‐2 年,パロキセチン30 mg の投与などを行い改善した.X 年2 月,心気的な不安,抑うつ症状の悪化で入院した.入院後,心気的な不安
が増したためパロキセチンを減量,中止した.X年6 月から見当識や夫のあに訴え,旧姓を名乗るなど的外れな応答が目立つようになった(MMSE 8 点).経過中,昏迷や「夫と自分の写真が天井に貼ってある」という幻視を認め,興奮,
的外れ応答が持続した.家庭環境と心気的な不安を背景としたヒステリー性反応(Ganser 症候群)と診断した.X 年8 月から塩酸ドネペジル5 mg/日,10 月からパロキセチン20 mg を開始した.入院9 ヶ月目で退院した.その後,ヒステリー
的な印象は残るものの,失行,記銘力障害,見当識障害などが前景化していき,アルツハイマー型認知症と診断した.(SPECT 撮影,解析)X 年6 月,11 月,X+2 年10 月に99 mTc-ECD を用いた脳血流シンチグラムを施行した.3 DSRT による定量評価,easy Z
-score Imaging System(eZIS ver 3)による定性評価,疾患特異領域解析(初期アルツハイマー型認知診断支援)を行い(1)〜(3)を求めた.(1)severity:疾患特異領域(後帯状回,楔前部,頭頂)の血流低下程度(閾値1.19 以下)
(2)extent(%):疾患特異領域の血流低下領域の割合(閾値14.2% 以下)(3)ratio(倍):疾患特異領域と全脳の血流低下領域の割合の比較(閾値2.22 以下)
【倫理的配慮】SPECT 撮影は患者,家族にインフォームドコンセントを行い,書面による同意を得た.個人情報保護が特定できる情報は除外した.
【結果】3 DSRT による定量的な評価では,X 年6 月に比べ,X 年11 月,X+2 年で全般的に脳血流が増加した.eZIS(ver.3)による疾患特異領域(後帯状回,楔前部,頭頂)のSeverity,extent(%),ratio(倍)はそれぞれ,X 年6 月2.11,
44.97%,3.10 倍,X 年11 月1.17,32.81%,2.37倍,X+2 年11 月0.92,5.68%,0.92 倍であり,X 年6 月,11 月において閾値上を示した.
【考察】うつ病性仮性認知症では,アルツハイマー病への移行例の存在から両者を二分法的に鑑別するのではなく,連続体として捉える縦断的な議論もなされている.さらに脳血流,MRI などで,うつ病性仮性認知症がアルツハイマー型認知症と同じ病態基盤を有する結果が示されている.
本症例の疾患特異領域解析の結果は,仮性認知症(Ganser 症候群)とアルツハイマー病の連続性を示唆する所見と考えられた.
- II-P-15 15 : 20〜15 : 30
- 意味性認知症の側頭葉萎縮はいつから始まっているのか?;発症前と発症後画像の経時的比較から
- 川勝忍(山形大学医学部発達生体防御学講座発達精神医学分野),佐々木哲也,小林良太(公立置賜総合病院精神科),渋谷譲,林博史(山形大学医学部発達生体防御学講座発達精神医学分野),鈴木春芳,赤羽隆樹(公立置賜総合病院精神科),大谷浩一(山形大学医学部発達生体防御学講座発達精神医学分野)
- 【はじめに】意味性認知症(SD)では通常,初診時には軽症であっても,すでに著しい側頭葉前部,底部の限局性萎縮がみられので,大分前から萎縮が始まっている可能性があるが,これまで検討がない.今回,他の理由で,偶然発症前から画像が
撮影されていたSD を2 例経験したので貴重な知見と考え報告する.
【症例1】61 歳右利き女性 右SD
- X‐2 年2 月,頭痛,めまいでA 脳外科受診,頭部CT で極軽度の右側頭葉萎縮,X 年12 月,頭重感でA 脳外科再診,頭部CT で同部の脳萎縮の進行あり,X+1
年4 月,当科紹介.HDS-R23 点,MMSE 22 点.見当識は良好だが,一方 的で同じ話の繰り返しが多い.類音的錯読なし.1 人暮らしで,仕事もしている.MRI
では同部の脳萎縮,SPECT でも血流低下.X+2 年8 月より,反応が遅いのが目立ち,常同的食生活.X+2 年1 月,HDS-R 15 点,MMSE
19 点,発語 流暢性も低下,吃りあり.VPTA の有名人の相貌認知で呼称,指示とも全く不能.同8 月,自動車運転中止.X+4 年4 月,MRI
では右側頭萎縮はより著明.自発語減少.HDS-R 3,MMSE7 点と進行.
【症例2】57 歳右利き女性 左SD
- X‐13 年,くも膜下出血,X‐8 年,再手術,以後,脳外科で経過観察,X‐3 年11 月のCT では,萎縮性変化なし,X‐1 年9 月のMRI
で左側脳室下角拡大,X 年9 月,左側頭葉の高度萎縮,この 頃から,単語が分からない,X+1 年11 月,脳外科より紹介初診,HDS-R 16
点,MMSE 17 点だが,仕事は継続し自動車運転もしている.語義失語,滞続言語.WAB でAQ 57.5(呼称2.7).この時点での,MRI
では側頭葉萎縮はやや進行.
【倫理的配慮】患者個人を特定できることのないよう匿名性に配慮した.
- 【まとめ】SD における脳萎縮は,臨床的な症状に気づかれるせいぜい1‐2 年前から始まり,少なくとも3 年前までは正常と推察される.症状に気づかれる1‐2 年前というのは厳密には既に発症しているも可能性もあるので,SD は発症直 後から急速に脳萎縮が進行するのが特徴と思われる.これは,その後の末期までの進行の急速さと同等と思われる.
- II-P-16 15 : 30〜15 : 40
- 長期にわたり多様な精神症状がみられ後に認知症状態となった脳腱黄色腫症の一例
- 庄司容子,勝瀬大海,古野拓,藤原晶子,佐伯隆史,松本香織,内門大丈,都甲崇(横浜市立大学医学部精神医学教室),波木井靖人(横浜市立大学医学部神経内科),平安良雄(横浜市立大学医学部精神医学教室)
- 【目的】脳腱黄色腫症(cerebrotendeinousxanthomatosis : CTX)とは,常染色体劣性遺伝を呈し,コレステロールの代謝異常をきたす,稀な疾患である.臨床症状の特徴は学童期から緩徐進行性の知能低下,小脳症状などの神経症状,ア
キレス腱肥厚,若年性白内障などである.CTXに伴う精神症状についての報告は少なく不明な点が多い.今回我々は,長期間にわたり多様な精神症状がみられ,統合失調症などの精神疾患が疑われ,その後に小脳失調が出現し,CTX と診断さ
れた症例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】本報告は,患者の匿名性に配慮し,個人が同定できるような情報は排除して行なわれた.
【症例】43 歳,男性.
【遺伝負因】聴取した範囲でCTX と診断された血縁者はなし.
【生活歴】幼児期より難治性下痢がみられたが,その後の発達には明らかな異常はなかった.大学卒業後は5 年間米国に留学し,帰国後は英語教師などアルバイトを転々とし,34 歳からは無職となった.
【現病歴・経過】X‐25 年(18 歳)頃より心気症状で近医精神科通院を数回行った.X‐11 年から当院に通院し,その後は抑うつや気分高揚になるといった気分変動が目立った.また,一時的に被害妄想の出現を認め,統合失調症も疑われた.X‐
3 年頃から見当識障害,短期記憶障害などの認知機能障害が顕著となり,さらに失調性歩行,斜頚,錐体路症状といった神経症状が認められ,神経変性疾患が疑われ当院に入院となり精査を行った.身体所見としてアキレス腱肥厚が認められ,頭部
MRI 検査では大脳,小脳のび慢性の軽度な脳委縮,大脳白質と小脳歯状核周囲にT 1 で低信号,T 2 で高信号を呈する領域がみられた.また,血中コレスタノール値が12.6 μg/ml と高値であったことからCTX と診断が確定した.ケノデオキ
シコール酸+HMG−CoA 還元酵素阻害剤の内服を開始し,外来加療を継続している.
【考察】CTX は稀な疾患であるが,本症例のように精神症状が病初期に目立ち,後に認知機能障害や神経症状を呈することが比較的多い.CTX はケノデオキシコール酸+HMG−CoA 還元酵素阻害剤による治療により改善する可能性があること
から,精神科医もこの疾患の特徴を理解することが早期診断・加療につながると考えられた.
6 月28日(土) ポスター会場(403)
ECT
一瀬邦弘(東京都立豊島病院)
- II-P-17 15 : 40〜15 : 50
- 下肢静脈血栓症を合併した緊張病性昏迷のうつ病にECT を施行した一例
- 高野毅久(東北大学大学院精神神経学),鈴木一正(東北大学病院精神科),松岡洋夫(東北大学大学院精神神経学)
- 【目的】緊張病性昏迷による不動化や脱水は,下肢静脈血栓塞栓症のリスク要因のひとつであり,治療が長期化するほどリスクが上昇することから,早期のECT が重要な治療選択肢となる.しかし,ECT 施行時の循環変動から血栓が飛んで肺梗塞
へと発展した報告もあり,ECT 施行前の予防措置が必要とされる.今回,ECT 前の検査で下肢静脈血栓症を指摘された患者に安全にECT を施行した一例を経験したので報告する.
【症例】66 歳女性.診断はうつ病.初発は15 年前で,今回が3 回目のエピソードで,初回入院である.X 年夏から抑うつ状態となり,次第に貧困妄想,希死念慮を生じ,遺書を何通も書いたり,首を絞めようとするため,A 病院に医療保護入院
となった.「私のせいで珍事件に巻き込んでしまい,世界がとんでもないことになっている.」「大ばか者がいるって言ってました.」など幻覚妄想を伴っていた.入院後は,拒絶,無言,筋強剛,昏迷に加えて発熱,発汗,頻脈といった自律神経
症状を呈し,悪性緊張病の所見だった.薬物療法は,アナフラニール50 mg/日の点滴+セロクエル200 m まで増量したが無効だった.1 週間後,ベットから落ちようとする自傷行為のため身体拘束となり,弾性ストッキングを着用した.その6
週間後,電気けいれん療法(ECT)目的で当院転院となった.転院後,ECT 施行前検査で下肢エコーを施行したところ,右膝窩静脈に径3‐4mm の半ば器質化した血栓を指摘されたため,当院血管外科紹介となった.診察の結果,当該血栓は陳旧性であり,他に明らかな浮遊血栓はない
ので,現状の血栓が飛散して肺塞栓になるリスクは高くないが,弾性ストッキング着用による新鮮血栓形成予防と1 週間ごとのエコーの評価が必要との診断だった.実際に弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置を装着すると嫌がって脱いでし
まい,制止すると抵抗し多量の発汗を生じること,及び右小伏在静脈に新たに新鮮血栓を生じたことから,経口でワーファリンを開始し,PT-INR1.5-2.0 の範囲で用量を調節した.家族にはECT施行により,下肢静脈血栓が飛散して肺塞栓等の
致死的リスクが存在すること,しかし,治療が長期化してもそのリスクは存在することを説明し,同意に基づいて急性期ECT を施行した.ECT 5回目終了後から車椅子を押しながら歩行するようになり,7 回目後からは独歩でトイレまで行くよ
うになった.9 回目後,エコー上,右膝窩静脈の血栓は消失していた.精神症状も寛解し,弾性ストッキング着用の必要性を理解できるようになったため,ワーファリンは中止となった.ECT は安全に施行でき,10 回で終了となった.
【考察】昏迷状態が静脈血栓塞栓の危険因子であることは既に指摘されている.これに対してリスクとベネフィットを考慮した上でのECT が治療選択肢のひとつと考えられるが,その前提として,入院時のエコー,他科コンサルト,新鮮血栓形成予防,
抗凝固療法が重要と考えられた.
- II-P-18 15 : 50〜16 : 00
- 電気けいれん療法が安全に施行できたペースメーカーを埋め込まれた老年期うつ病の一例;ペーシングの変更は必要か?
- 鈴木一正(東北大学病院精神科),高松幸生,高野毅久(東北大学大学院医学系研究科精神神経学),田邊陽一郎(東北大学病院精神科),松岡洋夫(東北大学大学院医学系研究科精神神経学)
- 【はじめに】ペースメーカーを使用している精神疾患の患者へ安全にECT が施行できたという報告は多い.以前は,ECT の際に,電磁障害を考慮しデマンドペーシングから固定ペーシングへの変更が推奨されていた.しかし,最近では,ペー
シングの変更は必ずしも必要ではないと考えられるようになってきている.今回我々はペースメーカーを埋め込まれた老年期うつ病の患者にデマンドペーシングのままで安全にm-ECT(以下,ECT)を施行した症例を経験し,ECT 時のペー
シング変更について考察した.本人の同意を得て匿名化して発表する.
【症例】症例は72 歳女性.47 歳から意欲の低下,抑うつ気分を呈していたが,薬物治療で軽快していた.63 歳時に緊張病性昏迷を呈してECT が著効していた.その後も,2 回のうつ病の再発を繰り返し,いずれもECT にて寛解していた.72 歳
時に,不安・焦燥感,心気症状を伴ううつ病が再発し,当科へ入院した.焦燥感が強く,臥床しながら一日中うなっている状態であり,以前の治療反応性よりECT が選択され,本人の同意の下に施行された.急性期ECT(19 回)によりうつ病
は寛解し,再発予防のために6 ヶ月間の継続ECTが施行されていた.その期間中に脈拍が,30 台になることが頻繁にみられ,循環器科へコンサルトし洞不全症候群の診断の下にペースメーカーの植え込み術が行われた(VVI ペーシング,基本
レート60).自脈は全脈拍の9‐48% みられていた.易再燃性による継続ECT の必要性とペースメーカー埋め込み時のECT のリスクを本人,家族と伴に考量し,その結果,ECT は継続されることになった.ペースメーカーはVVI ペーシン
グから変更しないで,突然の故障やECT 前後のチエックのために毎回技術員立会いのもとに,ECT が施行された.ECT は安全に施行され,電気刺激時や発作時の電磁障害による心静止,徐脈はみられず,治療中は100% 自脈が観察された.
継続ECT 終了4 ヶ月後にうつ病が再発した.再び急性期ECT(9 回)と6 ヶ月間の継続ECT が同様に安全に施行され,現在まで9 ヶ月間寛解を維持している.
【結語】本症例では,デマンドペーシング(VVI)からの変更なしで,安全にECT が施行できた.この症例と今までの報告から,自脈があるVVIペーシングの症例にECT を施行する場合は,固定モードであるVOO ペーシングには変更しない
方が安全であると考えた.その理由は,VOO ペーシングに変更すると自脈によるR on Tから心室細動になるリスクがあることと以前VVI ペーシングに影響していたけいれんの筋収縮による電磁障害は筋弛緩薬の使用により影響しなくなった
からである.本症例は,症状や経過からはカタトニアとFTDの鑑別がつかなかったが,ECT が著効したことより,カタトニアと考えられた.前頭葉機能不全症状を示し,様々な検査でカタトニアとFTD の鑑別が困難である場合は,カタトニアを見落とし
てしまうリスクを考慮すると,カタトニアに効果的なECT を保護者の同意のもとに試みることに意義があると考えられた.