6月27日(金) 口頭発表
6月27日(金) 第3会場(401+402)
画像検査
浦上克哉(鳥取大学)
- I-3-1 9 : 15〜9 : 30
- 老年期うつ病の症状からみた脳機能画像の比較
- 川崎 洋介(山梨県特定医療法人南山会峡西病院),大瀧純一(杏林大学保健学部精神保健学教室),古賀良彦(杏林大学医学部精神神経科学教室)
- 【目的】うつ病の脳機能画像研究において,現在のところ様々な脳血流異常が報告されているが完全には統一された見解に至っていない.その原因
として,うつ病の臨床症状の多様性や,年齢による病態の異種性などが関係するものと考えられる.
今回,我々は大うつ病性障害と診断された60 歳以上の患者を,Mini-Mental State Examination(MMSE),Hamilton Depression Rating Scale
(HDRS)から,認知障害型,意欲低下型および不安焦燥型に分類し99mTc-ECD SPECT を施行し,脳血流画像を各分類で解析し比較,検討した.
【方法】杏林大学医学部付属病院精神神経科の外来および入院患者の中で,60 歳以上の大うつ病性障害患者を対象とし99mTc-ECD SPECT を施行した.対象者をMMSE 24 点以下で認知障害型,MMSE 25 点以上でHDRS の下位項目から意欲低下型と不安焦燥型に分類した.SPECT 脳血流画像の解析は,Statistical Parametric Mapping
2(SPM 2)ソフトウェアを使用した.
【倫理的配慮】本研究は杏林大学医学部「医の倫理委員会」の承認を得て,倫理的配慮のもとに行った.
- 【結果】意欲低下型では,両側の前頭前野背外側部(DLPFC)での血流低下が認められた.認知障害型では,左側優位にDLPFC での血流低下が みられ,前帯状回,前頭前野腹側部(VPFC)における血流低下が特徴的所見であった.不安焦燥型では,右側優位にDLPFC
での血流低下がみられ,前帯状回,前頭前野腹側部(VPFC)における血流低下が特徴的所見であった.
【考察】DLPFC における血流低下は,3 型に共通した所見であったことから,老年期うつ病における特徴的な所見と考えられた.DLPFC の血流低下の程度を症状別に比較すると,左側DLPFCの血流低下が認知障害型で強く,認知機能との関
連性があり,右側DLPFC の血流低下が不安焦燥型で強く,感情のコントロール機能に関連性があるものと推測された.また前帯状回およびVPFCの血流低下は認知障害型・不安焦燥型に共通した所見であり感情コントロールや認知機能に関連した働きがあるものと推測された.
- I-3-2 9 : 30〜9 : 45
- 健常高齢者における加齢による脳血流変化;茨城県利根町における地域疫学研究より
- 根本清貴(池田病院精神科),山下典生(筑波大学臨床医学系精神医学),松田博史(埼玉医科大学国際医療センター核医学),朝田隆(筑波大学臨床医学系精神医学)
- 【目的】認知症患者の脳血流異常を評価する上で,理的老化に伴う脳血流低下について知ることは不可欠である.従来,生理的な血流低下を示す脳領域としてシルビウス裂付近の側頭葉,島回,帯状回前部が指摘されてきた.
しかし,これらの研究の多くでは,脳萎縮を考慮した部分容積効果補正を行っていない.また,生理的変化による血流低下も年代ごとに異なる可能性がある.そこで,本研究では,部分容積効果補正を行った脳血流PECT 画像を,70 歳未満,70 歳‐74 歳,75 歳以上の3 群に分けたうえで,
加齢によりどのように脳血流が変化するかを検討した.
【方法】対象は茨城県利根町における健常高齢者76 名(男性32 名,女性44 名,平均年齢72±4.3歳)である.対象者の研究参加時のMMSE 平均は28.4±1.7 であり,3 年後のMMSE 平均は29.2±1.5 であった.参加者は全員,MMSE の
他に神経心理バッテリー“5-cog”を行った. 5-cogは注意,記憶,言語流暢性,視空間認知,推論の5 項目について評価できるバッテリーである.利根町に住む65 歳以上の高齢者約1700 名にこのバッテリーを行い,各年代における平均値および標準偏差がすでに算出されている.今回の健常高
齢者78 名は,3 年間,この5-cog においてその点数が平均±1 SDにとどまっている.対象者は全員3 年の間隔をおいて,3 次元T 1 強調MRI画像およびTc-99 m ECD 脳血流SPECT 画像の撮影を2 回行った. 3 次元MRI 画像はSPM 5を用いて灰白質・白質・脳脊髄液を分離した.こ
れらの画像を用いて,脳血流SPECT 画像に対して3 コンパートメント法による部分容積効果補正を行った.得られた部分容積補正SPECT 像を,65‐69 歳(29 名),70‐74 歳(26 名),75 歳以上(21 名)の3 群にわけて,SPM を用いて群間比較を行い,初回撮影時と比較して3 年後に脳血
流が変化している部位を検討した.
【倫理的配慮】本研究への参加者からは,書面によるインフォームド・コンセントを得ている.また,本研究は筑波大学医の倫理委員会にて承認されている.
【結果】部分容積効果補正後のSPECT において,65‐69 歳の群では,両側眼窩前頭葉皮質,帯状回後部皮質,右下側頭回皮質にて加齢による血流低下を認めた.一方,70‐74 歳,および75 歳以上の群では,統計学的に有意な局所脳血流低下部位を認めなかった.
【考察】65‐69 歳で認められた両側眼窩前頭葉皮質,帯状回後部皮質,右下側頭回皮質での血流低下は今までにも報告されている領域であり,これらの領域は,脳萎縮の影響を排除しても,単位容積あたりの脳血流が低下していることが考えられた.また,70‐74 歳および75 歳以上の群におい
ては3 年間の間に明らかな血流低下が認められず,単位容積あたりの血流が保たれていた.これらの結果から,脳の単位容積あたりの血流低下は70 歳以前で起こり,70 歳以降では,脳機能の低下は血流低下よりも脳萎縮の影響が大きいことが
示唆された.
- I-3-3 9 : 45〜10 : 00
- 特発性正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症の鑑別における脳血流SPECT の有用性
- 小林清樹(札幌医科大学神経精神科),内海久美子(砂川市立病院精神神経科),館農勝(札幌医科大学神経精神科),古川美盛,白坂知彦,成田学(砂川市立病院精神神経科),高橋明(砂川市立病院脳神経センター),安村修一(上砂川町立診療所),森井秀俊,藤井一輝(砂川市立病院放射線科),畠山佳久,齋藤諭,中野倫仁,齋藤利和(札幌医科大学神経精神科)
- 【目的】特発性正常圧水頭症(idiopathic normalpressure hydrocephalus, iNPH)は,20 数年前,治療可能な認知症(treatable dementia)として注目されたが,良い診断法が確立せず,シャント有効例を適切に選び出すことができず,本症は次
第に顧みられなくなった.しかし,2004 年に診療ガイドラインが発刊され,シャント術に反応する例が高い確率で予測可能となったため,今再び注目を集めている.iNPH は脳室の拡大が特徴の一つであるが,AD も同様な所見を呈することが
あり,鑑別が難しい例をしばしば経験する.診療ガイドラインには記載がないが,NPH の診断・AD との鑑別をさらに向上させるために,脳血流SPECT の所見に注目し,特徴的な所見が得られたので報告する.
【方法】対象は,NINCDS-ADRDA の診断基準で,probable AD と診断された16 例(79.1±4.6 歳,男:女7:9,MMSE 18.8±6.3 点).iNPH 診療ガイドラインの診断基準で,possibleNPH と診断された11 例(80.0±3.8 歳,男:女3:8,MMSE 20.5±5.4 点).2 群間の年齢,MMSE 平均得点に有意差はない.また,脳血流に影響を及
ぼす可能性があるため塩酸ドネペジルの服用者は除外した.脳血流SPECT は,定性解析ソフトeasy Zscoreimaging system(e-ZIS)を使用し,two tailview で血流低下域及び上昇域を判定した.
【倫理的配慮】患者またはその家族に,本研究の趣旨を十分に説明し,書面で同意を得た.
【結果】eZIS(two tail view)解析で,iNPH 群はいずれも正中矢状断像で脳室周囲は血流低下,さらにその外側は血流亢進と明らかな2 層構造を示したのに対し,AD 群ではこのような2 層構造を示さなかった.
【考察】iNPH 群で,eZIS(two tail view)正中矢状断像で脳室周囲の血流低下を示したのは,側脳室の拡大が著しく解剖学的標準化しきれなかったための偽陽性所見,また血流低下域のさらに外側が血流亢進を示したのは,皮質が圧排され単位
体積当たりのカウントが増加する見かけ上の上昇域(部分容積効果)によると考えられ,特徴的な所見である.AD とiNPH の鑑別は,しばしば判断に迷うケースも出てくるが,eZIS(two tail view)で両者の異なる特徴が描出され,大変有用である.明ら
かな2 層構造を示した場合は,iNPH を疑い,積極的にさらなる精査(tap test など)を行うべきである.診療ガイドラインには記載がないが,脳血流SPECT の所見も診断する上で,特にAD との鑑別において大変重要であると思われた.
- I-3-4 10 : 00〜10 : 15
- MRI における大脳白質信号領域と認知機能との関係;地域住民の脳画像研究
- 太田深秀,根本清貴(筑波大学付属病院精神神経科),山下典生,朝田隆(筑波大学臨床医学系精神医学)
- 【目的】Magnetic Resonance Imaging(MRI)の普及に伴い,認知症の患者のみならず高齢健常人でも大脳皮質下や脳質周囲の白質に高頻度で異常信号領域が存在することが広く知られるようになった.これまでにWhite matter hyperintensity
(WMH)と,記憶や情報処理速度といった認知機能障害との関連を研究した報告は多数報告されてきた.またWMH の定性,定量的評価の手段を検討した研究が多数報告されている.しかし現在のところその結果に関する一定の見解は得られていない.そこで我々は高齢健常人と,アルツハ
イマー型認知症(AD)の前駆症状と考えられているmild cognitive impairment(MCI)に対して画像検査,認知機能検査を行い,WMH の程度およびその主要分布領域と認知機能との関連を検討した.
【方法】利根プロジェクトは65 歳以上の町民,約2700 人を対象に行われてきた研究で,その目的は縦断的な認知機能及び脳の機能的及び器質的変化を検討するところにある.その一部としての本研究は2002 年から2007 年にかけてT 1,T 2
強調MRI 検査,認知機能検査を全てうけた65歳から90 歳の284 名を対象にした.認知機能検査としてMini mental State Examination(MMSE)と,記憶,注意,言語,思考,視空間認知の5 つの認知機能を測定する5-Cog test を
行なった.認知機能検査の結果を横断的に評価し,対象群を健常群,記憶障害のみ認め他に認知機能障害を有さないamnestic MCI と,その他の認知機能障害を有する群の3 群に分けた.WMHの評価として,これまでに高い信頼性が報告されているFazekas の視認法をもちいた.評価はT 2
強調画像を用いて行い,大脳白質領域,基底核領域における変化をそれぞれ0−3 の4 段階に分類した.明らかな梗塞巣を有するものは対象者から除外した.結果,健常高齢者173 人,(男性78名,女性95 名.平均73.0±4.4 歳),amnestic
MCI 25 人(男性10 名,女性15 名.平均71.2±4.6 歳)を対象に統計解析を行った.
【倫理的配慮】対象者には検査に関する説明を行い,文書にて同意を得た.なお,本研究は筑波大学「医の倫理」特別委員会の承認を得て実施した.
【結果】前頭葉,基底核領域におけるWMH と見当識障害,注意障害の間等に関連があることが明らかとなった.
【考察】WMH と認知機能障害との関連が今回の研究で明らかとなった.これまでの研究でWMHと認知機能障害との間に関連はないとする報告もある.しかし仔細に見ると,認知機能障害を有する群に進行したAD 例もしくはAD と血管性認知
症(VaD)の合併例を含んでいるものもある.またWMH 評価に際して,全脳を一括に評価しているだけで関心領域の設定が不十分である報告も散見される.こうしたことが結果に影響を与えていたと推測される.当日はWMH が認知機能にもたらす影響を変数に用いて,VaD の群と,
AD にVaD を伴った群との鑑別も検討する.
6月27日(金) 第3会場(401+402)
精神障害(1)
福居顯二(京都府立医科大学)
- I-3-5 10 : 15〜10 : 30
- 高齢統合失調症の精神症状に対する抑肝散の効果
- 奥平智之,青木浩義,安芸竜彦,久保光正,佐久間将之,根本安人,室村絵里香,深津亮(山口病院(川越))
- 【目的】近年,精神科病院等に入院または外来通院している統合失調症慢性期の患者の高齢化が進んできている.そのため,高齢者の治療の際に,向精神薬による薬物療法に伴う副作用が問題とな
るケースが今後ますます増えてくることが予想される.すなわち,抗精神病薬による振戦や筋固縮や動作緩慢等の錐体外路症状,嚥下反射の低下,
易転倒性,過鎮静による活動性の低下,抗パーキンソン病薬の併用も含め抗コリン作用等に伴う認知機能の低下,便秘,イレウスなどである.慢性期の統合失調症の精神症状をコントロールしつつ,その中で少しでもQOL,ADL の向上をはかりたいと考えている.その一つの手段として,当院で
は,向精神薬を必要最低限に抑え,それに伴う弊害を最小限するために,抗精神病薬に漢方薬を併用することを試みている.抑肝散を併用することでの易怒性などの精神症状をコントロールできた
統合失調症を何例か経験しており,現在検討中である.今回,抑肝散を併用することで易怒性,聴覚過敏等の精神症状をコントロールできた統合失調症の代表的な例を提示し,若干の考察を加えて報告する.
【方法】当院の通院または入院中の易怒性,攻撃性,不眠などの精神症状のある統合失調症の患者に対して証を勘案して抑肝散を投与した.
【倫理的配慮】報告に際して個人が特定できない様に配慮の上,本人および家族に症例報告の同意を得た.発表に直接関係ない部分は省略した.
【症例提示】易怒性,攻撃性,聴覚過敏,不眠を主訴とする68 歳の統合失調症
【結果】T 社抑肝散エキス顆粒7.5 g 分3/日を併用したところ,服薬して2 週間程で易怒性,攻撃性,聴覚過敏,不眠が消失した.精神症状は安定し,錐体外路症状,認知機能の低下などの有害事象なく経過している.
【考察】漢方での「肝」は精神活動,骨格筋トーヌスを保つ機能を持ち,病的に亢進すると,易怒性・多動性を呈し,抑肝散は古来より小児の夜鳴き・疳の虫に使用されてきた.抑肝散は中国明代の『保嬰撮要・急驚風門』が原典で「肝経ノ虚熱,ヲ発シ,或ハ発熱咬牙,或ハ驚悸寒熱.或ハ木土ニ乗ジテ嘔吐洙,腹張食少ナクナク,睡臥不安
ナルヲ治ス」とあり,「肝陽亢進」(肝気のたかぶり),肝気があがって興奮するものを抑える方剤である.本症例は,上記の症状・所見から抑肝散を選択した.服薬して早期に精神症状が軽快に至ったこと,また中止して再度同様の効果を示した
ことから,抑肝散が有効であったと考えられた.統合失調症の患者の中でも高齢になるにつれ,抗精神病薬にて錐体外路症状やふらつきが出現しやすくなったり,抗パーキンソン病薬等の抗コリン作用にて認知機能の低下が起こる可能性が高くなる.また,benzodiazepine 系の抗不安薬・睡眠
導入剤等による筋弛緩作用でふらつき・転倒・骨折,認知機能の低下などのリスクも高くなる.本症例のような比較的高齢,または向精神薬にて副作用の出やすい統合失調症に対して,抗精神病薬
と抑肝散の併用治療は,有力な選択肢の一つになることが示唆された.
- I-3-6 10 : 30〜10 : 45
- 当院認知症治療病棟に入院したアルコール関連障害のある高齢者について
- 北村真希,北村立,木谷知一,小坂一登,武島稔,倉田孝一(石川県立高松病院)
- 【目的】当院認知症治療病棟に入院した高齢者のうち,アルコール関連障害を有する患者の頻度,その臨床的特徴を報告すること.
【方法】2005 年5 月1 日から2007 年11 月30 日の期間に当院認知症治療病棟に入院した患者の診療録を後方視的に検討した.今回は入院時にDSM‐IVTR でアルコール関連障害を満たすもの
をアルコール関連障害ありとし,乱用などの既往があるだけの患者は除いた.対象者の性別,年齢,入院経路,並存する精神疾患の有無,アルコール以外の薬物乱用の有無,転帰,認知機能などを調査した.
【倫理的配慮】集団としての臨床的特徴の検討であり,個々の症例は特定できないように処理した.また,本報告は当院の倫理委員会で承認を受けている.
【結果】期間中の入院患者353 名中アルコール関連障害を有したのは19 名(入院患者の5.3% うち,男性16 名,女性3 名)で,平均年齢は73.8±8.3(61‐85)歳であった.入院経路は自宅が13 名(68%)で,他病院からの転院が6 名(32%)で
あった.16 名(男性15 名,女性1 名)が並存する精神疾患を有し,最終診断はアルツハイマー型認知症7 名,血管性認知症3 名,前頭側頭型認知症2 名,アルコールによる認知症2 名,双極性障害1 名,頭部外傷後後遺症1 名であった.薬物乱用は1 名で睡眠導入剤の乱用が存在した.
転機は自宅退院が6 名と最も多く,以下入院継続5 名,施設入所5 名,転院2 名,死亡1 名であった.入院時の平均のMMSE は12.4±5.8,CDR は平均2.2±0.8 であり,退院時または入院3 ヶ月時点でのMMSE は17.4±8.5,CDR は平均1.9±0.9 であった.個々の検討では死亡例を除く18 名中12 名が認知機能の改善を認めた.
【考察】欧米では一般・精神科入院中の高齢者におけるアルコール関連障害が20〜50% であると報告されているが,本邦では認知症治療病棟でのアルコール関連障害の頻度はこれまでに報告されていない.今回の報告では認知症治療病棟に入院
時にアルコール関連障害を有する患者の割合は5.3% であり,決して稀ではないことがわかる.このため,日常の診察場面ではアルコールの問題の有無を慎重に評価する必要がある.また,アルコール関連障害を有する患者では初診時に認知症
の有無が評価困難な場合が多い.本報告でも,いずれの症例も認知症と診断を受け(あるいはその存在を強く疑われ)て,認知症治療病棟に入院となったが,最終的に4 名が認知症なしと診断されており,十分な経過観察と詳細な症状把握が重
要であると考えられた.
- I-3-7 10 : 45〜11 : 00
- 医療観察法病棟入院中の高齢対象者の治療をめぐる課題,問題点
- 藤井龍一,石崎有希,若林幸久,高野みつ子,中根潤,冨永格(独立行政法人国立病院機構下総精神医療センター)
- 独立行政法人国立病院機構下総精神医療センターでは,平成18 年10 月,医療観察法に基づく病棟(以下,当病棟)が開棟した.この間に年齢が60 歳以上である対象者を7 名,経験した.高
齢対象者の治療を行う上で当病棟が直面した課題・問題点として,下記のようなものがあった.(1)統合失調症の慢性期であり,薬物治療に対する反応が乏しく,病識も欠如している,(2)糖尿病,高血圧,白内障など身体的疾患を合併している,
(3)体力が低下しているため参加できる治療プログラムが限られる,(4)記憶力・理解力の低下,認知機能の低下があるため,心理療法,作業療法が十分に行えない,(5)気力の低下が強く,社会復帰を果たす意欲がない,(6)身寄りがなく退院後に帰る
場所がない,(7)家族や地域が受け入れを強く拒否している,(8)指定通院医療機関が近くにない.これらの問題点のため,薬物治療,心理療法,作業療法,日常の生活指導に支障を来し,治療効果を十分にあげられない.また,社会復帰を果たすた
めに退院後の居住地や生活環境の調整を行わなければならないが,退院後の生活としてアパートで一人暮らしとするのか,それとも施設入所とするのか,または精神保健福祉法に基づく入院を選択するのか判断に苦慮している.
学会当日は当病棟入院中の高齢対象者について事例をあげ,具体的な対応を紹介しつつ,高齢対象者の社会復帰とはどうあるべきか,考察を加えたい.
6月27日(金) 第3会場(401+402)
精神障害(2)
阪井一雄(姫路獨協大学)
- I-3-8 11 : 00〜11 : 15
- 抑肝散の追加投与により幻視が消失したシャルル・ボネ症候群の1症例
- 長濱道治,河野公範,宇谷悦子,川向哲也,安田英彰,岡崎四方,宮岡剛,西田朗,稲垣卓司,堀口淳(島根大学医学部精神医学講座)
- 【はじめに】シャルル・ボネ症侯群とは,主に視力障害のある高齢者が意識清明時に,人の顔や動物などの幻視を体験し,この幻視に対する批判力
を有するものをいう.今回我々はシャルル・ボネ症候群に抑肝散を追加投与し,幻視が消失した1症例を経験したので報告する.
【症例】73 歳,女性.白内障を有するが,手術歴はない.X‐2 年頃より,顔のようなものが,畑の小屋のトイレの窓ガラスに見えるようになった.やがて,顔のようなものが笠をかぶった男の人の
顔に変わってみえるようになり,さらに男の顔の背後にたくさんの笠をかぶった家来が見えるようになった.その男達の行列は家の外にでるとみえていたが,やがて中でもみられるようになった.
X 年7 月精査目的で当科入院となった.入院後「ドア越しに男の人の顔が見える.ドアに丸顔で口がパクパク開くものが見える.歯が金色で,喋ると唇が赤になります.」など幻視を認め不眠と
なった.SPECT,MRI では脳虚血性病変と後頭葉血流の低下が著しいため,入院12 日目よりイフェンプロジルの投与を開始するも症状改善を認めないため入院18 日目より抑肝散7.5 g/日の投
与を開始した.投与開始7 日目から徐々に幻視がみえなくなり,投与11 日目には完全に幻視は消失したため入院46 日目に退院となった.
【考察】本症例の幻視は,現時点で広く用いられているTeunisse らが提唱したシャルル・ボネ症候群の診断基準を満たしており,シャルル・ボネ症候群としての幻視と考えられた.シャルル・ボネ症候群に関連する中枢病変のひとつとして,以
前より認知症との関連が指摘されており,特に病初期に幻視を生じやすいレビー小体型認知症の前駆症状として出現する可能性が推測される.シャルル・ボネ症候群に対する確立した治療法はないが,抗てんかん薬,非定型抗精神病薬,ドネペジ
ルなどの有効性が報告されているが,レビー小体型認知症における幻視に対して抑肝散が著効した症例が報告されていることからも,抑肝散も選択肢の一つになり得ると考えられた.
- I-3-9 11 : 15〜11 : 30
- 高齢統合失調症患者における塩酸ペロスピロンの血中濃度
- 城甲泰亮(信州大学医学部精神医学教室,南信病院),横山伸(信州大学医学部精神医学教室),井上義政(田辺三菱製薬福岡研究所),天野直二(信州大学医学部精神医学教室)
- 【目的】統合失調症患者が高齢化する際には,認知症等の精神疾患の併発のみならず,抗精神病薬の副作用を含む身体疾患の合併が,看過できない問題である.抗精神病薬による錐体外路症状や,抗コリン薬の併用に伴う認知機能障害,自律神経
機能障害を避ける目的から,老年期患者の治療の第一選択としては新規抗精神病薬の単剤使用が推奨されている.しかしながらその一方で,老年期患者一般の精神症状に関しては,新規抗精神病薬の使用による死亡率増加が警告されている.また,
メタボリック・シンドロームの基礎的病態である耐糖能異常に対しても,新規抗精神病薬の多くは使用にあたって十分な注意が必要である.そうした中ではあるが,セロトニン・ドーパミン拮抗薬の1 つであるperospirone(PER)は,低力価で
あることや,一般的に報告されている半減期の短さから,老年期患者に対して安全に使用できる薬物の1 つと考えられる.我々は既に,老年期患者の夜間せん妄に対するPER の有効性を報告した(Ushijima et al, Psychogeriatrics 2008).今回は,PER およびその有効代謝産物の半減期が,
老年期患者においても十分に安全な範囲であるか
否か検討した.
【対象と方法】ICD-10 の診断基準で統合失調症と診断されている患者12 名(18 歳−73 歳)を対象とした.患者の一日あたりのPER 内服量は12−32 mg であった.いずれの患者も,症状に応じて他の向精神薬を併用していた.PER の半
減期測定に当たっては,解析を可能とする目的で,薬物を1 日1 回就寝前の投与にした.内服直前から内服12 時間後までの間に複数回採血して得た血清を,column-switching HPLC にて分析し,PER およびその有効代謝産物ID-15036(ID)の
血中濃度を算出した.これらの血中濃度の変化から薬物の半減期およびクリアランスを算出して,患者の年齢との相関を検討した.なお,本研究は信州大学医学部医倫理委員会の承認を得ており,採血およびデータの使用は被験者に対して研究の目的と内容を説明し文書による
同意を得た上で行った.
【結果と考察】血中濃度の時間経過から計算された実際の患者におけるPER およびID の生物学的半減期は,それぞれ188 分(SD 53 分)および177 分(SD 72 分)であった.PER の半減期は,健常者を対象として測定されたものと差がなかっ
た.ほとんどの患者において,服薬12 時間後のPER 血中濃度は服薬前と同様(ほぼ閾値下)であった.そしてPER およびID いずれの半減期も,年齢との相関関係は認められなかった.同様に,PER およびID のクリアランスも,年齢に
よる低下は認められなかった.Ushijima らの報告では,老年期患者の夜間せん妄に対して使用する際に,PER は同じセロトニン・ドーパミン拮抗薬であるリスペリドンに比べて,過鎮静を生じず,睡眠覚醒リズムの改善効果があるとされている.今回の結果は,老年期患
者でもPER の半減期がほとんど延長しないことを示している.この知見は老年期の精神疾患患者に対する安全な薬物療法を考える上で有用と考えられる.
- I-3-10 11 : 30〜11 : 45
- パーキンソン病の治療経過中に出現した薬剤性精神症状に対する治療;Aripiprazole による治療がパーキンソン症状を悪化させることなく奏功した一例
- 大下隆司(東京女子医科大学医学部精神医学教室),清水優子(東京女子医科大学医学部神経内科学教室),石郷岡純(東京女子医科大学医学部精神医学教室)
- 【目的及び方法】ドパミン作動薬や抗コリン薬などの抗パーキンソン薬を用いたパーキンソン病の治療では,約30% の患者で長期投与による幻視などの幻覚や妄想などの精神症状が出現することが知られている.このような症状を軽減する目的
で服薬中の抗パーキンソン薬の減量,中止,変更,さらに抗精神病薬の投与が試みられるが,抗精神病薬のドパミン受容体遮断作用によりパーキンソン症状の増悪や過鎮静などの副作用を引き起こすことが多く,その治療には限界がある.近年使用
されるようになった非定型抗精神病薬は錐体外路症状の惹起が少ないことがいわれており,最近はこのような患者に用いられることが多い.しかし,非定型抗精神病薬もドパミン受容体遮断作用があるため,有用性は限定的である.2006 年6 月わ
が国に上市されたaripiprazole はドパミンD 2受容体の部分作動作用を有した今までの抗精神病薬と作用機序の異なった薬剤であり,その薬理学的特性からこのような患者に対する有用性が期待される薬剤である.今回,パーキンソン病の治療
経過中に出現した抗パーキンソン薬によって誘発された幻覚妄想に対してaripiprazole による治療がパーキンソン症状を悪化させることなく奏功した一例を経験したので報告する.
【倫理的配慮】本人,家族に症例報告の同意を得,匿名性に配慮した.
【結果】<症例>74 歳,男性,X‐6 年にパーキンソン病と診断され,当院神経内科でcabergoline,levodopa/benserazide 合剤などによる薬物療法が行われていた.X‐1 年6 月頃より「人が立っている感じ」がするようになり,次第に幻視が顕
著になってきた.X 年10 月から人に加え,蛇や虫がはっきり見えるようになり恐怖から大声を出すようになったため,quetiapine 25 mg を約1ヶ月投与したが効果なく,10 月30 日に精神科併診となった(パーキンソン病のステージ:Yahr
III).抗パーキンソン薬を減量し,1 週間中止したが,幻覚や妄想は改善しなかった.パーキンソン症状が増悪(Yahr IV)してきたため抗パーキンソン薬再開し,11 月29 日よりaripiprazole 6mg 投与開始した.1 週間後には,幻視が軽減し,
幻覚から妄想に発展することがなくなっていた.3 mg ずつ増量し,12 月13 日からはaripiprazole12 mg とした.X+1 年1 月10 日には幻視などの幻覚は消失した.その後もaripiprazole 12 mgで1 年以上維持しているが精神症状の再燃はな
く,またパーキンソン症状の悪化は認められていない(Yahr III).
【考察】Aripiprazole はドパミンD 2 受容体の部分作動作用を有し,ドパミン神経系活動が過剰な状態ではそれ自身の固有活性レベルまで抑制し,一方ドパミンが低下した状態ではそれ自身の固有活性レベルまで安定化させるという特徴がある.
Aripiprazole のこの作用機序がパーキンソン病患者における精神症状を抑制し,一方でパーキンソニズムを悪化させないことが考えられる.海外において,パーキンソン病患者における薬剤性精神症状に対するaripiprazole の効果については,
有効である報告と悪化した報告があり,評価は一貫していない.しかしながら,本症例のように,aripiprazole が薬剤性による精神症状を伴ったパーキンソンン病患者に対し,パーキンソニズムを悪化させることなく,精神症状を改善したことか
ら,治療方法の一つとして考慮する価値はあると考える.
6月27日(金) 第4会場(501)
リエゾン
一宮洋介(順天堂大学医学部附属順天堂東京高齢者医療センター)
- I-4-1 9 : 15〜9 : 30
- 横浜市認知症高齢者緊急一時入院事業における認知症高齢者の特徴;介護保険導入の影響に関しての検討
- 須田彩子,横田修,内門大丈(横浜舞岡病院),塩崎一昌,勝瀬大海,都甲崇(横浜市立大学医学部精神医学教室),日野博昭(ほうゆう病院),加瀬昭彦(横浜舞岡病院),平安良雄(横浜市立大学医学部精神医学教室)
- 【目的】横浜市では,増加する認知症高齢者の在宅介護を支援する目的で,平成8 年6 月1 日から,認知症高齢者の緊急一時入院制度という独自の制度が運用されており,今年で12 年目を迎える.横浜市内の病院に計6 床の病床が確保され
ており,横浜舞岡病院はそのうち2 床を運用している.この制度による当院への入院患者数は年間約30 人で,一向に減少する気配はない.一方,平成12 年4 月1 日に介護保険が開始され,認知症高齢者に自立した生活ができるように様々なサ
ービスを提供する仕組みが確立された.現在まで約8 年が経過し,家族の負担を軽くし,介護を社会全体で支えるという当初の目的に関して制度運営は順調に推移していると考えられる.緊急一時入院は介護保険制度導入前より運用されている
が,在宅での介護サポートシステムの充実化という側面の強い介護保険の導入が,緊急一時入院となる事例に少なからず影響を与えている可能性が予測される.今回我々は,緊急一時入院により入院になった事例を調査し,介護保険導入により,
入院事例がどのように変化したかを検討した.
【方法】平成8 年6 月から,平成19 年3 月までに横浜舞岡病院に緊急一時入院となった376 例に関して後方視的に診療録を調査した.調査項目は,1)性別,年齢,2)入院時臨床診断,3)介護者の有無,4)合併症の有無,5)せん妄の有無,6)入院前の医療機関の受診の有無,7)HDS-R を挙
げ,それぞれについて介護保険導入前後で比較した.
【倫理的配慮】調査にあたって,対象事例のプライバシー保護に十分留意し,倫理的配慮を行った.
【結果】対象事例は介護保険導入前113 例(男性66 例,女性47 例),導入後263 例(男性154 例,女性109 例)で,平均年齢はそれぞれ76.9 歳,78.7 歳であり,統計学的に有意差はなかった.入院時診断は,アルツハイマー型認知症が最も多
く,(59.3%,60.8%)続いて脳血管性認知症(18.6%,15.6%),混合型認知症(2.7%,6.1%)の順で,それぞれ有意差はなかった.合併症の有無に関しては,合併症を有する症例が72.3% から84.3% に増加し,有意差(χ2=6.998,P=0.008)
を認めた.有意差は認めないものの増加傾向にあった項目として,せん妄の合併率(48.7% から54.6%),医療機関の受診の有無(無い症例が15.9% から23.0%)があった.その他の項目では有意差は認めなかった.
【考察】介護保険導入後の緊急一時入院の現場において,身体合併症を有する認知症高齢者の割合が有意に増加していた(当日は身体合併症の具体的内容を提示する).介護保険導入により,合併症のない認知症高齢者は,在宅・ショートステイ
などで在宅介護の継続が可能となり,事業の対象となる事例が減少した可能性が考えられた.しかし,認知症の治療と併行して身体合併症の治療を要する症例には緊急入院加療を要する場合が多く,横浜市に限らずどの地域においても同様の現象が
起こっていることも推測された.今回の調査により,改めて緊急一時入院事業の意義が確認されたとともに,介護保険により緊急一時入院事業が何らかの影響を受けている可能性が示唆された点は
興味深いと考えられる.
- I-4-2 9 : 30〜9 : 45
- 急性期病院の栄養サポートチーム(NST)活動;精神科医が関与した65歳以上を対象にして
- 高宮静男,磯部昌憲(西神戸医療センター精神科),藤澤利恵(西神戸医療センター精神科,神戸松蔭女子大学大学院心理学専攻),佐藤倫明(西神戸医療センター精神科),井谷智尚(西神戸医療センター消化器科),佐々木美穂(西神戸医療センター栄養管理部)
- 【目的】全国的に普及してきた栄養サポートチーム(NST)活動の意義は急性期総合病院においても大である.NST 活動において,患者の栄養状態の改善に努め,「心身栄養学」の観点からチームで取り組んでいくことは重要である.今回は,
精神科医が参加する当院NST 活動の実際とNST活動の過程で精神科紹介となった65 歳以上の患者の背景を検討することを通して,NST の心理・社会的意義を報告する.
【心身栄養学Psychosomatic nutrition】心身栄養学は心身の両方に眼を向けた栄養学で,心身医学的手法(患者の心理・性格・行動パターンや環境要因まで含む広い視野からアプローチする手法.心身相簡易基づく.)を用いて患者の栄養状
態を心理・社会的にサポートするものである.
【方法】H 18 年4 月1 日から9 月30 日までにNST が介入した268 例の中で,正式に精神科医へ紹介受診となった57 例の内,65 歳以上の42例において,(1)紹介元,(2)限疾患,(3)紹介理由,(4)精神科診断名,(5)援助の仕方,(6)転帰などにつ
いて検討した.
【倫理的配慮】今回の発表において,個人が特定されることのないように統計学的観点からの検討にとどめ,匿名性に充分な配慮を実施した.
【結果】65 歳以上の対象患者42 例の内訳は男性23 例,女性19 例で平均年齢は76.1 歳(65 歳〜90 歳)であった.(1)紹介元は呼吸器19 例,整形外科6 例,免疫血内科5 例,一般外科,呼吸器外科,神経内科,消化器内科それぞれ2 例,その他4 例であった.(2)原疾患は悪性疾患10 例(うち肺がん6 例),結核5 例,骨折4 例,その他脳出血や肺炎など23 例であった.(3)紹介理由は不眠13 例(31.0%)不穏11 例(26.2%)が多く
(重複あり),NST 介入によって始めて気づかれることもあった.(4)精神科診断はせん妄が24 例(57.1%)うつ状態が13 例(31.0%)が見られた(重複あり).(5)介入として,精神科医による治療とNST における心理・社会的援助が同時並行し
て行われた.(6)転帰は治療終結が17 例(40.4%),死亡例が14 例(33.3%),転院らによる中断例が11 例(26.2%)であった.
【考察】NST に精神科医が参加することによって,メンバーが「心身栄養学」の視点を共有し,心理・社会的問題の早期発見につながった.また,精神科医がNST 回診にも参加することによって,心理・社会的問題に対する早期発見と介入が可能に
なった.とくに,65 歳以上には,せん妄・うつ状態が多く,急性期の栄養回復のためにせん妄・うつ状態の治療が必要であり精神科医の参加が必須と思われた.
- I-4-3 9 : 45〜10 : 00
- 精神科医と老人看護専門看護師のコラボレーション;第1報
- 磯部昌憲(西神戸医療センター精神神経科),岩鶴早苗(西神戸医療センター老人看護専門看護師),高宮静男,佐藤倫明(西神戸医療センター精神神経科)
- 【目的】西神戸医療センター(以後,当院)が2次医療圏として抱える神戸市西区においても高齢者人口は増加する一方であり,受診患者に占める65 歳以上の方の割合も上昇傾向にある.特に入院加療においては,高齢患者は入院の長期化や,
使用薬剤の副作用,病気自体のストレスにより心理社会的な問題を生じやすく,せん妄等の精神障害を合併するリスクは非常に高い.受診される高齢患者によりよいサポートを実施していくために当院で実施している,老人看護専門看護師と精神
科医の連携システムを紹介することを目的とした.
【方法】(1)当院における老人看護専門看護師と精神科医の連携システムについて紹介する.(2)実際に連携を実施した例において,紹介元や原疾患などについて報告する.
【倫理的配慮】今回の発表において,個人が特定されることないように統計学的観点からの検討にとどめ,匿名性に充分な配慮を実施した.
【結果】(1)当院では老人看護専門看護師と精神科医の連携体制として,1.定期的な合同回診(週1 回),2.定期的な情報交換,3.外来での共診(精神神経科外来受診時),4.ベッドサイドでの共診,5.必要時の緊密な連携,をシステム化して実施している.また上記に加え必要時には,病棟看護
師や主治医とともにカンファレンスを実施し,情報の共有・方針の検討を行っている.このシステムに従って,高齢患者を巡るさまざまな問題に対して協同診療体制を取り,より迅速でより適切な医療の提供を目指している.平成19 年4 月から
システムに則った連携を開始しており,平成20年2 月末までの11 ヶ月間に,演者のもとに他科より当科に紹介となった97 例のうち,35 例において老人看護専門看護師との連携を実施している.現在連携率・症例数ともに増加傾向にある.
(2)演者の元に紹介となった症例97 例は76.1±6.9 歳(男性60 例,女性37 例)で,そのうち連携を実施した症例は78±6.2 歳(男性21 例,女性14 例)であった.連携症例35 例の紹介元は呼吸器内科9 例,循環器内科7 例,整形外科5
例,泌尿器科と外科3 例ずつ,その他8 例であった.原疾患は悪性腫瘍10 例,感染症(肺炎・尿路感染など)10 例,循環器疾患7 例,その他8 例であった.また連携介入実施後の診断名(重複あり)はせん妄16 例,適応障害8 例,認知症
とうつ病5 例ずつ,不安障害2 例,その他2 例であった.
【考察】老人看護専門看護師と精神科医が連携体制をとることにより,患者の現状に対する理解の深みが増し,より広い視野に立った援助が可能になると考えられる.またこのように緊密な連携によってその他のスタッフ間の疎通性も向上し,精
神状態の把握や今後の方針についての情報共有が容易となり,問題発生時の早期発見や早期介入を可能となっている.この連携体制を継続していくことで,スタッフの高齢患者に対する状態理解が深まり,種々の問題の早期対応につながり,外来
受診・入院診療のアウトカムを向上することが期待される.
- I-4-4 10 : 00〜10 : 15
- 精神科医と老人看護専門看護師のコラボレーション;第2報
- 岩鶴早苗,磯部昌憲,高宮静男,佐藤倫明(西神戸医療センター)
- 【目的】ここでは,第1 報で紹介した連携システムの具体例をもとに,精神科医と老人看護専門看護師(以下GCNS)の協診体制について振り返り,コラボレーションの有効性を検討する.
【事例紹介】A 氏70 代後半男性
- <診断名>急性硬膜下血腫
- <既往歴>脳梗塞(運動性失語)
- <家族構成>妻と娘家族との5 人暮らし
- <経過>自宅で転倒し,急性硬膜下血腫で緊急手術となった.手術後トラブルなく経過していたが,徐々に自発性が乏しくなっていた.
【倫理的配慮】A 氏の家族に,今回の学会の趣旨と内容を説明し,発表するにあたって個人が特定されないようにすること,不利益が生じないように配慮すること,了承後も協力の拒否ができることを説明し,同意を得た.
【事例経過】自発性の低下に対し,病棟看護師よりGCNS へコンサルテーションがあり,自発性の向上を目的とした介入が開始となった.A 氏には見当識障害(場所,時間)と注意力低下(集中持続低下と転導性)があり,傾眠傾向が
強く,認知機能に動揺性が確認できた.これらから低活動型せん妄もしくは既往である脳梗塞と原疾患によるうつ状態が考えられた.この情報を精神科医と共有し,同様の意見からミアンセリンとロラゼパムが処方された.また,GCNS は病棟
看護師と『本人の認知機能状態を考慮した看護を実践すること』やそのための具体的な看護計画を共有した.A 氏への対応が家族間で異なっていたり,またA 氏に対して現状にそぐわない過度な要求がみられたりしたため,家族それぞれ思いや考えを明ら
かにしていった.その結果,家族それぞれが,A氏の疾患や現状認識,今後の見通しについて異なる考えを持っていた.それに対し,精神科医や主治医からの病状と今後の見通しについて説明する場の調整を行い,説明後のフォローを病棟看護師
と協力しながら行った.その結果,今後の見通しをふまえた対応へと変化していった.
【精神科医とGCNS のコラボレーション内容】事例への介入期間中(約1 ヶ月間),週1 回の割合での合同回診の場で,A 氏や家族の状態や看護実践について情報共有しながら方針についてディスカッションしたり,またそれ以外でも連携をとっ
たりしていた.
【考察】当センターの入院患者の高齢化率は50〜60%(小児科,周産期病棟を除く)であり,せん妄や認知症,うつといった高齢者に多い健康問題により,看護に苦慮することも多い.そのような現状において,精神科医とGCNS とがコラボ
レーションし,患者に関わっていくことで,患者と家族にタイムリーな働きかけができる.また,精神科医,GCNS それぞれの視点を共有し,ディスカッションをしていくことで,一人の人やその家族を多角的に捉えることができ,より深まり
のあるケアを展開できる.今後,このようなコラボレーションシステムを定着させ,よりよい診療と看護を展開していきたい.
6月27日(金) 第4会場(501)
もの忘れ外来
宇野正威(吉岡リハビリテーションクリニック)
- I-4-5 10 : 15〜10 : 30
- 物忘れドックで見出されたDLB とFTLD のMCI
- 山本涼子,井関栄三,村山憲男,一宮洋介,鈴木賢,田久保秀樹,饗庭三代治,津田裕士,佐藤潔(順天堂東京江東高齢者医療センター),新井平伊(順天堂大学精神医学)
- 【目的】認知症の根本的な治療法がない現在,早期発見が重要である.しかし,認知症の啓蒙が十分でないことや,精神科などへの受診は消極的になりがちなことから,認知症の発見が遅れる場合が少なくない.特に,アルツハイマー病(AD)以
外の変性性認知症の診断は専門医でないと困難な場合があり,発見の遅れにつながりやすい.現在,認知症の早期発見に対して,いわゆる物忘れドックの果たす役割が注目を集めている.今回,順天堂東京江東高齢者医療センターの物忘れドックで見出されたレビー小体型認知症(DLB)および
前頭側頭葉変性症(FTLD)の前駆状態(MCI)に相当する症例を1 例ずつ提示し,認知症の早期発見における物忘れドックの有用性について検討した.
【倫理的配慮】守秘義務を遵守したうえで学会報告することについて,本人と家族から同意を得た.
【症例1】68 歳,男性,右利き.ドック受診の数年前より,夜間に大声をあげベッドから落下するなど,睡眠時の行動異常が出現した.ドックで軽い物忘れの訴えはあったが,幻視や錯視などの視覚認知障害は認められなかった.ドックで行ったMMSE は25 点であったが,WAIS-III はFIQ が69,VIQ が75,PIQ が69,WMS-R は一般的記
憶が73,言語性記憶が77,視覚性記憶が75 と,いずれも正常と障害の境界域であった.また,WAIS-III の「積木模様」で構成障害が疑われた.ベンダーゲシュタルトテストでは,合計点が106であり明らかな障害が認められた.頭部MRI で
は前頭葉に強調される軽度の大脳萎縮が認められた.18F-FDG PET-CT では,後頭葉にほぼ限局した糖代謝の低下が認められた.これらの結果から,本例はDLB の前駆状態である可能性が示唆された.
【症例2】72 歳,男性,右利き.ドック受診の2年前に,妻によって言葉が出にくいことに気づかれるが,本人は自覚がなかった.ドックで行なったMMSE は28 点であり,WAIS-III はFIQ が86,VIQ が81,PIQ が95,WMS-R は一般的記憶が91,言語性記憶が81,視覚性記憶が114 と,
いずれも正常ないし正常下限域であった.しかし,WAIS-III の「類似」,「知識」,「理解」など,言語や概念に関する課題で障害が認められ,両検査ともに言語性は動作性・視覚性より低い得点だった.WAB 失語症検査ではAQ が95.1 であり,「呼
称」が9.2 と良好な得点であったが,答えがすぐに出ないことが多く健忘失語が疑われた.前頭葉機能検査では明らかな障害は認められなかった.頭部MRI では左優位の側頭葉前方部を中心とした軽度の大脳萎縮が認められた.18F-FDG PET
-CT では,左優位の側頭葉前方部次いで前頭葉に糖代謝の低下が認められた.これらの結果から,本例はFTLD の前駆状態である可能性が示唆された.
【考察】当院の物忘れドックでは,認知症が専門の精神科医による診察と臨床心理士による心理査定に加え,頭部MRI,18F-FDG PET-CT を実施している.本研究では,明らかな臨床症状がみられないものの,ドックによってDLB やFTLD の
前駆状態であることが見出された2 症例を報告した.診察や心理査定,脳の形態画像,機能画像などの情報を総合的に検討することで,見落とされがちな非AD 型変性性認知症の前駆状態を発見することが可能であり,物忘れドックは認知症の早期発見に有用であると考えられた.
- I-4-6 10 : 30〜10 : 45
- 順天堂東京江東高齢者医療センターにおける精神科病棟入院患者の現状について;開院当初と比較して
- 熊谷亮,榛沢亮,内海雄思,小松弘幸,野澤宗央,山本涼子,松原洋一郎,杉山秀樹,村山憲男,井関栄三,一宮洋介(順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック)
- 【目的】順天堂東京江東高齢者医療センターは平成14 年に開設された急性期疾患を対象とした高齢者専門病院である.開院当初は精神科が担当する病棟は認知症疾患治療病棟(80
床)であったが,社会的なニーズに応え現在では認知症治療病 棟(40 床)と身体合併症治療病棟(80 床)を担当するようになっている.今回我々は開設当初の精神科病棟入院患者と平成19
年の入院患者を比較検討し,過去5 年間における高齢者医療の移り変わりを考察した.
- 【方法】平成19 年の精神科病棟入院患者を,平成14 年6 月から8 月に入院した患者26 名と比較検討し,病名,入院目的などについて考察を行った.
【倫理的配慮】氏名などで個人が特定されないよう配慮を行った.
【結果】平成19 年に入院した患者総数は390 名,平均年齢は77 歳であった.入院患者の原疾患は全体の74% を認知症疾患が占めており,他9%が気分・感情障害,3% が統合失調症であった.また入院目的は全体の50% がBPSD を含めた精
神症状治療目的であったが,45% は身体合併症治療目的であった.
【考察】平成14 年の入院患者と比較すると,認知症疾患以外の原疾患を有する患者が増加しており,その背後には精神病患者の加齢に伴う様々な問題(精神症状の難治性,介護者の不在,入所施設の確保の難しさなど)が覗われた.また,医療
スタッフは各種の精神疾患に対し様々な対応を要求されるようになってきており,特に看護師の負担が増加していた.一方で,入院目的として身体合併症の治療が急増しており,合併症に因るADLの低下に伴い退院先の確保が難しくなる,精神科スタッフにも身体的知識が求められるなどの問題
が生じるようになってきていた.特に軽症の身体疾患や積極的治療が行うことができない状態に対しては精神科医が対応することが多く,その負担が増加していた.各身体科や各施設との連携などの身体合併症対策の確立が急務と思われる.
- I-4-7 10 : 45〜11 : 00
- 総合病院型認知症疾患センターに求められている機能について
- 粟田主一(仙台市立病院神経科精神科・認知症疾患センター),赤羽隆樹(公立置賜病院精神科),印部亮助(兵庫県立淡路病院認知症疾患センター),鵜飼克行(一宮市立市民病院今伊勢分院老年精神科),川勝忍(山形大学医学部附属病院精神神経科),橘高一(竹田総合病院精神科),木村正之(篠田総合病院精神心療科),佐藤茂樹(成田赤十字病院精神科),納富昭人(遠賀中間医師会おかがき病院認知症疾患センター),水野裕(一宮市立市民病院今伊勢分院老年精神科)
- 【目的】地域の中で総合病院型認知症疾患センターに求められている機能を明らかにするために,平成19 年度厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神科救急医療,特に身体疾
患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(主任研究者黒澤尚)において,総合病院型認知症疾患センターの実態を調査した.
【方法】平成18 年度厚生労働科学研究「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」の中で実施された認知症疾患センター実態調査に基づいて,専門医療相談,鑑別診断,BPSD 対応,身体合併症対応,救急対応,地域連携に関して機能水準が相対的に高いと考えられた医療機関
(大学病院を除く)を抽出し,各医療機関の認知症医療担当者に文書で実態調査の協力を求めた.協力の同意が得られた7 都道府県8 医療施設の担当者に,(1)施設調査票,(2)外来新患受診者個別調査票,(3)新規入院患者個別調査票,(4)
新規入院患者フォローアップ調査票を郵送して回答を得た.
【倫理的配慮】本研究の実施にあたっては仙台市立病院倫理委員会の承認を得た.個別調査の実施にあたっては本人または家族から書面による同意を得た.
【結果】(1)調査対象医療機関はすべて救急告示病院の指定を受けており,頭部X 線CT を含む神経画像装置を備え,2 人以上の常勤精神科医師,2 人以上の常勤ソーシャルワーカーを配置している.平成18 年度の実績で,診療科の年間外来新
患数は平均765 人,このうち46% が65 歳以上高齢者で,年平均401 件の電話相談と223 件の面接相談に応需している.(2)平成19 年11 月に新患受診した65 歳以上認知症高齢者(MCI を含む)173 人のうち,一般医療機関からの紹介37%,
紹介なし35%,自院の他診療科からの紹介11%,地域包括支援センターからの紹介2%.診断別では,アルツハイマー型認知症(AD)58%,MCI21%,脳血管性認知症(VD)8%,レビー小体
型認知症2%,前頭側頭葉変性症1%.重症度ではCDR 1 レベル(34%)が最も多い.BPSD は63%,身体合併症は87% に認められ,鑑別診断後51% は自院の当該診療科,25% は一般医療機関で継続医療が行われている.(3)新規入院した65 歳以上認知症高齢者21 人のうち,入院経路は
自宅からが57%,施設からが24%.入院理由は95% がBPSD の対応困難,14% が身体状態悪化.3% は即日入院が求められ,そのうちの89% でこれに対応している.診断別では,AD とVD が同頻度で最も多く,CDR 2 以上の認知症が70%
以上を占める.BPSD は徘徊,妄想,脱抑制,せん妄が多く,91% に身体合併症が認められた.
【考察】地域の中で,総合病院型認知症疾患センターには,1)専門医療相談機能,2)鑑別診断機能,3)BPSD と身体合併症に対する急性期医療,4)地域連携機能が求められている.平成20 年度より,上記の機能が施設基準の根幹となる「認知
症疾患医療センター事業」が新たにスタートすることになったが,事業の継続を可能にするには,適正な財政基盤と人員の確保,適正な配置,地域
における医療・介護の役割分担と連携体制の整備,人材の育成が必要である.
6月27日(金) 第4会場(501)
介護・治療
小林敏子(社会福祉法人平成福祉会特別養護老人ホーム平成新高苑)
- I-4-8 11 : 00〜11 : 15
- 認知症ケアの治療的アプローチとして「思い出深い音楽」を動機づけとした語りの有用性
- 【目的】認知症ケアとして筆者は複数のグループホームにおいて音楽療法を実践している.その中で,重度認知症高齢者の「唇が少し動いて歌っている」「音色の方へ顔が向いて覚醒に繋がった」などの微細な変容と音楽を動機づけとした自己語り
の表出を職員と共有することが多い.そこで,自立生活者の大正時代生まれ(以下,大正コホート)の高齢者へ人生との関係性が深いと考えられる「思い出深い音楽」を動機づけとしたインタビューによる語りを分析に繋ぎ,治療的アプローチの
一つとして音楽回想(音楽を介して回想する)の有用性を考える.
【方法】自立生活者の大正コホートの高齢者5 名(異なった3 地域の男性2 名,女性3 名)へ,自己選択による「思い出深い音楽」をインタビュガイドとして半構造化インタビューを実施する.語りの内容を逐語録化した後,音楽回想関連項目
(発達期,分野,類型)とライフレビュー関連項目(山口,2004)を質的分析する.
【倫理的配慮】口頭で研究依頼を承諾された高齢者に,研究依頼書を提示し,正式な承諾を得た後,本人の希望日時と場所において実施した.本稿の発表に関して匿名性を配慮し,了解を得た.
【結果】5 名が選択した15 曲に関する音楽回想関連項目の発達期分析は,学童期からに20 歳代までの思い出に関係性があるのは73%,音楽類型分析は歌唱するなどの音楽活動型は53% と最も多く,音楽分野分析は軍歌,戦前歌謡曲,戦後歌
謡曲がそれぞれに27% づつ示し,3 分野で全体の81% であった.次に,語りの内容に関するライフレビュー関連項目の分析は「重要な家族や他者」「自己の特徴」が100%,「自発的に語られた他者の死」「自発的に語られた戦争の話」はそれ
ぞれ80% であった.さらに特徴的な内容として「文化伝承の役割(法界屋,覗き箱)」「音楽アイ
デンティティを示す音楽嗜好」があった.「昔から音痴だと言われ,人の前では歌わない」という女性は,歌唱を伴いながら語った.他に「懐かしいなぁ.こうみえてもいろいろなことがあった」今のことは忘れてばかりだけど,昔のことはいくらでも出てくるから不思議だ.」とそれぞれに
感想を述べた.
【考察】日常生活において特別音楽に造詣が深くない5 名は「歌は世につれ,世は歌につれだ」と語りながら,満足度の高い感想を述べた.改めて多様で個別性の高い音楽が人生に寄り添ってきたことがうかがえた.心理的な安定を伴う場の環境
設定とインタビューとの相互性と共に,「思い出深い音楽」の動機づけが語りを容易にしたと考える.発達期分析による結果は認知科学研究の先行知見であるレミニセンス・バンプと一致しており,60 歳以上にこの傾向はみられると述べている.
語られた「法界屋」「覗き箱」などは潜在的な能力(マンパワー)として文化的伝承の役割をしている.ネガティブな感情を持ちながらも受容に繋がる語りをした1 人以外は,人生に関して肯定的な評価を伴う統合の試みであった.藤沢,佐々
木は「パーソン・センタード・ケアの提唱をし,認知症の人の自分史,人生歴をケアの中心において,その人らしさを尊重するということは,その人の生活を大切にするということである.(2008)」と述べている.人生に寄り添ってきた
「思い出深い音楽」を動機づけとした語りは様々な振り返りと共に人生の統合に繋がり,その人らしさを支える治療的アプローチの一つとして音楽回想の有用性を示唆できたと考える.個別性の高い,尊厳のあるケアが求められている現在,一人
ひとりの認知症高齢者へ還元できる研究に繋いでいきたい.
- I-4-9 11 : 15〜11 : 30
- 慢性期重度失語の血管性認知症患者に対する音楽療法の試み
- 山口智(大崎市民病院田尻診療所),赤沼恭子,目黒謙一(東北大學大学院医学系研究科高齢者高次脳医学寄附講座),大寺雅子(杜のホスピタルあおば)
- 【目的】慢性期重度失語の血管性認知症患者に対する音楽療法の効果を検討する.
【方法】患者に未知の歌謡曲を同時歌唱で練習を行い,開始時と歌唱可能になった時点とで言語,心理,機能画像検査での比較を行う.
【倫理的配慮】患者家族に治療の一環として行うこと,評価のために画像検査等を行うこと,治療の結果を匿名で学会発表させて頂くこと等を説明し承諾書を作成した.
【結果】言語,心理検査上や脳血流には顕著な変化はなかったが,新しい曲の同時歌唱及び自発歌唱が可能となった.
【考察】全失語であっても歌唱による歌詞表出が可能であったのは,歌唱に対する本人の興味や意欲から歌詞の記憶が可能となったもの考えられ,本人の学習意欲が高揚し,通常の言語訓練では得られない右半球が関与した言語能力が発揮された
ものと考える.音楽療法の効果として注目される.
- I-4-10 11 : 30〜11 : 45
- 若年性認知症患者を介護する主介護者の負担に関する検討
- 野瀬真由美,池嶋千秋(筑波大学大学院人間総合科学研究科),奥村由美子(川崎医療福祉大学医療福祉学部),児玉千稲,増田元香(筑波大学大学院人間総合科学研究科),朝田隆(筑波大学臨床医学系精神医学)
- 【目的】本研究では在宅で生活している若年性認知症患者とその主介護者を対象に調査を行い,主介護者の介護負担に影響を与える要因について検討する.
【対象と方法】2007 年9 月から12 月の間に4 つの若年性認知症の家族会を通じ,65 歳未満で発症したと推測される認知症患者の家族および介護者に対し調査票を配布した.3 家族会については会場で配布その場で回収,1 家族会のみ配布・回
収ともに郵送とした.主介護者より得られた回答48 例のうち有効回答と判断された41 例を対象に分析を行った.若年性認知症患者に対する調査項目は患者の性別,年齢,疾患名とした.ADL の評価にはPSMS を,BPSD の評価にはNPI-Q を
用いた.主介護者に対する調査項目としては主介護者の性別と年齢,患者との続柄,副介護者の有無,患者以外の要介護者の有無についての調査票を作成した.主介護者の介護負担の評価にはJZBIを,抑うつ度の評価にはCES-D を,経済的負担の評価にはCCI の中から経済に関する4 項
目のみ抜粋した尺度を用いた.J-ZBI の得点により低負担群と高負担群の2 群に分けた場合の患者側の要因(PSMS,NPI-Q)や主介護者の介護状況要因(患者との続柄,副介護者の有無,患者以外の要介護者の有無,CES-D,経済的負担尺
度)の差異を検討した.統計的分析にはχ2 検定とt 検定を用いた.
【倫理的配慮】本研究は,筑波大学倫理委員会の承諾を得て行なった.データ管理はID を使用するなど個人情報の保護に留意した.
【結果と考察】患者41 名は男性30 名(現年齢60.4±4.4),女性11 名(現年齢61.4±3.3)であった.患者の疾患名は,「アルツハイマー病(AD)」29名(70.7%),「前頭側頭葉変性症(FTD)」10 名(24.4%),「感染症」1 名(2.4%),「不明」1 名
(2.4%)であった.主介護者41 名は男性11 名(現年齢64.6±4.3),女性30 名(現年齢56.9±7.5)であった.主介護者の続柄は「妻」29 名(70.7%),「夫」10 名(24.4%),「娘」1 名(2.4%),「親戚」1 名(2.4%)であった.J-ZBI の平均得
点(47.8±18.3 点)にて,主介護者を低負担群(n=21)と高負担群(n=20)の2 群に分け,分析した結果,副介護者の有無(χ2=7.9,df=2,p<0.0195),CES-D(t=−3.9,df=39,p<0.0004)および経済的負担尺度(t=−4.6,df=
39,p<0.0001)において有意差がみられた.副介護者のいる主介護者の介護負担はいない主介護者と比較して有意に低かった.抑うつ度の高い主介護者の介護負担は低い主介護者と比較して有意に高かった.対象者の抑うつの者(CES-D≧16)
の割合は29 名(70.7%),高負担群(n=20)では19 名(95.0%)であった.経済的負担の高い主介護者の介護負担は低い主介護者と比較して有意に高かった.家族会に所属し心理的サポートや情報提供が行われている介護者であっても,抑う
つの割合は高いことが認められた.また若年性認知症のための経済的支援策の必要性が示唆された.
6月27日(金) 第5会場(502)
MCI
谷向知(愛媛大学)
- I-5-1 9 : 15〜9 : 30
- 松戸市小金原地区における軽度認知障害および運動機能低下者の早期発見と介入の試み
- 篠遠仁,溝渕敬子,畠山治子,辻央生,島田斉(旭神経内科リハビリテーション病院),朝比奈正人(千葉大学大学院神経内科学),旭俊臣(旭神経内科リハビリテーション病院),服部孝道(千葉大学大学院神経内科学)
- 【目的】地域の高齢者を対象として健康度測定調査を行って,軽度認知障害者(MCI)および運動機能低下者を検出し,定期的な認知および身体機能訓練を行い,早期に介入することで機能を改善できるか否かを明らかにする.
【方法】千葉県松戸市小金原地区(人口約30,000人)に居住する65 歳以上の住民(約6,200 人)を対象として参加者を募り,健康度測定[一次健診(ファイブコグ,運動機能テストなど)]を行う.二次健診検出された軽度認知障害者,運動機
能低下者を対象として診察,CDR,MMSE,Frontal assessment battery,WMS-R の論理的記憶IおよびII,頭部CT,血液検査を行う.一部の参加者ではMRI のVBM 解析,[11C]PIBPET を行う.一次健診および二次健診参加者の
一部を対象として定期的な認知および運動機能訓練(健康増進プログラム)を行う.介入プログラム終了後に第1 回目に参加した者全員を対象として,第2 回目の健康度測定を行い,介入効果を調べる.反復測定の分散分析を行い,p<0.05
を有意とした.
【倫理的配慮】調査の実施にあたり調査の対象者全員から同意書を得た.PET 検査に当たっては各被験者および家族の同意を書面にて得た.
【結果】325 人(年齢74±6 歳)が健康度測定に参加した.ファイブ・コグの各認知機能において年齢を考慮した健常人の平均値から1 標準偏差以上の低下がみられた者は98
人であった.体力測定では,57 人に体力低下があると判定された. この中94 人が二次検診を受けた.軽度認知障害と診断された者は8 人,転倒の危険度が高いと判断された者は24
人であった.二次検診参加者のうち10 名(軽度認知障害の5 名,健常者5 名)が放射線医学総合研究所において,[11C]PIB PET とMRI
検査を受けた.軽度認知障害者4 名と健常者1 名において脳内にアミロイド沈着が認められ,アルツハイマー病の前駆状態である可能性が示唆された.MRI
では軽度認知障害の4 名において海馬傍回領域の萎縮がみられた. 軽度認知障害軽度認知障害者の,この中4 名が健康増進プログラムに参加した.この他運動能力低下者の中から9
名,健康と判断された46 名が健康増進プログラムへ参加した.健康増進プログラムは平成19 年3 月下旬から11 月まで,10 人1 グループとして6
グループに分けて毎週3時間のプログラムを実施した.平成18 年11 月から12 月にかけて健康度測定に参加した者全員に呼びかけ,平成19 年11
月に178 名(年齢75±6 歳)を対象として第2 回目の健康度測定会を行った.介入群(n=59)と 非介入群(n=128)の1 年間隔の2
回のファイブコグの結果を比べると,視空間認知機能と言語流暢性において介入による有意な改善効果を認めた.運動機能では開眼片足立ち,落下棒テスト,Timed
up & go test において介入による有意な改善効果を認めた.
【考察および結論】一般高齢住民をスクリーニング検査することによってアルツハイマー病の前駆状態を早期に検出できることが示された.高齢者に認知および運動機能訓練を定期的に実施することによって認知および運動機能を向上さ
れることが示された.認知および運動機能訓練が認知症の発症を遅らせ,また高齢者の転倒骨折を予防することがある可能性がある.
- I-5-2 9 : 30〜9 : 45
- 軽度記憶障害検査Mild Memory Impairment Screen(MMIS)の開発;MCI および軽度アルツハイマー病の早期検出のために
- 高山豊,植田恵(国際医療福祉大学三田病院精神科),小山美恵(県立広島大学保健福祉学部コミュニケーション障害学科)
- 【目的】記憶検査の遅延再生成績が,アルツハイマー病(AD)の早期検出に有効な指標であることは,多くの先行研究により報告されている.しかし,その記憶検査では直後再生と遅延再生の間に20 分程度の干渉課題を必要とし,時間がかかるため日常の診療では常用しづらい.そこで,初
期の軽度認知機能障害(MCI)や軽度AD 検出のための簡易な記憶検査の開発を試みた.
【方法】対象は,MCI 群16 名(平均年齢70.1 歳,HDS-R 平均26.6 点),AD 軽度群20 名(平均年齢71.7 歳,HDS-R 平均22.4 点),健常範囲群18名(平均年齢70.3 歳,HDS-R 平均28.8 点).いずれも精神科もの忘れ外来を受診した患者で,病
歴・身体合併症を確認し,脳画像検査,神経心理学的検査を実施して臨床診断が確定している.なお,今回は60 歳代,70 歳代のみを分析の対象とした.作成した軽度記憶障害検査:Mild MemoryImpairment Screen(MMIS)は,Solomon ら
(1998),Buschke ら(1999)のenhanced cuedrecall 課題を参考にしたものであり,これは典型性,語想起の出現頻度を統制した,乗り物,動物,野菜,道具の4 カテゴリー16 語からなる.手続き:(1)各カテゴリー1 語ずつ4 語からなる線画と文字による刺激を提示し,
カテゴリーを読み上げ,該当する線画を指示,音読させる.(2)(1)の終了後,線画を伏せてカテゴリーを音声提示し,該当する語を想起させる.(3)再度線画を提示し,一枚ずつ音読しながら確認させる.(4)(1)〜(3)を16語について実施した後,干渉課題として所要時間
2〜3 分のstroop 課題を実施.(5)その直後に順不同で16 語を想起させる(free recall).(6)freerecall で想起できなかった語についてはカテゴリーヒントを与え,想起を促す(cued recall).(1)〜(6)までの所要時間は7 分程度である.採点:
(1)free recall 再生語数(0‐16 点).(2)重付得点free recall*2+cued recall*1(0‐32 点).MMISの結果を,HDS-R,「10 単語記銘検査」,「物語再生検査」,Rey の複雑図形の各神経心理検査の成績と比較した.
【倫理的配慮】個人が特定されない形での検査データの使用について本人および家族の同意を得ている.
【結果】(1)MMIS の結果は,「10 単語記銘検査」,「物語再生検査」,Rey の複雑図形の各検査の遅延再生成績の結果との相関が非常に高かった.(2)軽度AD 群と健常範囲群との分離は,HDS-R でもMMIS でも同様に可能であった.他方,(3)MCI
群と健常範囲群間の分離は,HDS-R では極めて困難であったが,MMIS では80% 程度可能であった.
【考察】(1)MMIS の成績は,既存の遅延再生検査との成績との相関が非常に高く,簡易版の遅延再生検査として有用であると考えられた.また,(2)MMIS は,非専門医が短時間で実施し,AD の疑いの有無について検出するのに有用であることが
示唆された.(3)MMIS の結果において,MCI と健常高齢者の重なる部分が少数存在することが示された.この結果は,MCI には病因や病期の異なる多様な患者が含まれているためと考えられる.(4)MCI の場合,カテゴリーcue が有効であった
者については,適切な指導をすることで,リハビリテーションの可能性もあると考えられた.今後,症例数を増やしてMMIS の有用性についての検討をさらに進めたい.またインターネット上で実施可能な検査として提供することも検討
していく.
【文献】
Solomon, PR et al. : Arch.Neurol , 55 : 349-355
(1998)
Buschke, H et al. : Neurology, 52 : 231-238
(1999)
- I-5-3 9 : 45〜10 : 00
- MCI(軽度認知障害)の探索的眼球運動計測における視覚認知機能の特徴
- 中島洋子,森田喜一郎,小路純央,松岡稔昌(久留米大学高次脳疾患研究所),古村美津代,木室知子(久留米大学医学部看護学科),内村直尚(久留米大学医学部精神神経科)
- 【目的】人間の認知機能を調べる生物学的ツールとして,課題を与えての眼球運動はよく研究されている.探索的眼球運動は,日本で開発され,小島らにより詳細に調べられた.この研究は,小島
らより許可を得て行ったものである.MCI(軽度認知障害)対象者の認知機能は,MMSE,HDSR,CDR およびW-MSR の心理学的検査を用いて研究されてきた.しかし,MCI
対象者の機能障害の特徴は明らかにされていない. そこで,今回の研究は,MCI 対象者(以下MCI群という)と年齢を一致させたアルツハイマー病患者(以下患者群という)と健常者群を対象に,横S
字図形の3 パターンの図における探索的眼球運動の結果を比較するために実施した.今回のMCI の診断基準は,MMSE 24〜28 点,HDS-R
21〜28 点で,CDR は0.5 とした.
- 【研究方法】今回の研究は,30 名のMCI 群,年齢を一致させた患者群30 名,健常者群30 名を対象に,探索的眼球運動の横S 字図形の3 つパターン図の結果を比較する.眼球運動は,東京(日本)のNac
社のEMR 8 を用いて,記録する.そ の動きは,1 度より大きい動きで,0.1 秒以上の注視持続である眼の動きをスコア化した.探索的眼球運動は,3
つの変数で分析した.注視している点との移動距離:総移動距離(TESL),総運動数(TNGP),反応的探索スコア(RSS)である. 【分析方法】各測定における分析には,分散分析,多重比較法(Post-hoc
比較)には,フィッシャーテストを用いて行った.統計学的有意水準は,P<0.05 とした.
【検査方法】EMR-8 を用い,すべての対象者に尋ねる.前にある図をよく見て下さい.そしてそれを記録する.なぜなら,それをあとですぐに尋ねていくからである.セッション1.すべての人に,今の図は初めの図と比較してどこか違いがあるか
と尋ねる.セッション2 および3 でも,すべての人に同様に尋ねる.図2,図3 は,図1 とどこか違いがあるか.すべての対象者に違いについて答えてもらった後,さらに尋ねる.再度比較して,図2 または図3,そして現在の図との間に違いは
他にないか,さらに尋ねる.それらを3 つの変数で記録する.尚,今回の研究では,右眼を用いて行った.
【倫理的配慮】この研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て行った.すべての対象者には事前に書面にて説明を行い,同意を得た.
【結果および考察】健常者群のTESL(総移動距離)とMCI 群の両者は患者群より有意に長かった.しかし,すべての図において,健常者群のTESL はMCI 群とよく似ていた.健常者群とMCI 群のTNGP(総運動数)は,患者群と有意
差があり多かった.しかし,すべての図においてMCI 群に似ていた.健常者群の反応的探索スコア(RSS)は,すべての図において患者群より有意に大きかった.健常者群のRSS は,図2 においてのみMCI 群より有意に高かった.3 つのグ
ループ間で図2 において有意差があった.これらの所見は,MCI における視覚認知機能の障害の特徴を示唆できるといえる.
【まとめ】1.健常者群の総移動距離(TESL)もMCI 群も患者群より有意に長かった.しかし,健常者群のTESL は,すべての図においてMCI群に似ていた.2.総運動数(TNGP)は,健常者群もMCI 群も患者群より有意に長かった.しかし,健常者群の
TNGP は,MCI 群とすべての図で似ていた.3.反応的探索スコア(RSS)は,健常者群は患者群よりすべての図において患者群より有意に高かった.健常者群のRSS は,図2 のみでMCI群より有意に高かった.
4.図2 の反応的探索スコアは,MCI 対象者を診断するために有用である.よって,探索的眼球運動検査は,侵襲の少ないMCI 評価の有効な方法である.
- I-5-4 10 : 00〜10 : 15
- MCI のconverter とnon-converter におけるリバーミード行動記憶検査
- 阪井一雄(姫路獨協大学医療保健学部作業療法学科),大川慎吾,嶋田兼一(姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室),石井一成(姫路循環器病センター放射線科),大山明美(姫路循環器病センターリハビリテーション科),前田潔(神戸大学大学院医学系研究科精神医学分野)
- 【目的】リバーミード行動記憶検査は(TheRivermead Behavioral Memory Test;以下RBMT)は,他の記憶検査に比べて,検査結果が患者の日常生活での障害によく対応すること,その検査に前向性記憶(prospective memory)の
要素を持つことで近年注目されている.前向記憶はアルツハイマー病において早期に障害されている.また,軽度認知障害(mild cognitive impairmentMCI)の診断にもRBMT が有効であるという報告がある.今回我々はMCI において,ア
ルツハイマー病を発症するものと(converter)と発症しないもの(non-converter)をRBMT あるいは前向記憶を用いて予測できないかと考え,MCI のconverter とnon-converter のRBMT の各スコアを比較した.
【方法】MCI の定義には,J-COSMIC に用いられている,AAN Quality Standard Subcommittee2001 を改変した基準を用いた.姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室において,2003年4 月以降にRBMT をおこなったものうち,WMS-R のlogical Memory が13 以下であり,
MMSE が24 以上であったことが確認できた者は33 名いた.このうちRBMT 施行時すでに,11名がアルツハイマー病,夫々1 名が,皮質基底核変性症,レビー小体型認知症,脳血管認知症,特定不能の認知症,精神発達遅滞と診断されてい
た.残りの17 名はCDR 0.5 であった.このうち1 名は妄想性障害が前景に立っており,1 名は経過観察1 年目に脳梗塞を起して血管性認知症となった.また,6 名は2 年以上経過を観察できなかった.2 年以上経過を観察できた9 名のうち,
その後アルツハイマー病を発症したものは3 名であった.converter の平均年齢は77.3 歳,nonconverterの平均年齢は72.8 歳であった.MMSEの得点平均は夫々,25.6 点,27.5 点,ADAS の失点はそれぞれ9.7 点,6.3 点であった.
【倫理的配慮】この研究は,診断治療目的でなされた検査を用いた,後方研究である.また発表にあたっては,個人が特定できないよう配慮した.
【結果】converter のprofile score の平均は11,non-converter の平均は16.3 であった.screeningscore の平均はそれぞれ,6.8 と3.0 であった.しかし,RBMT のprofile score,screening score,何れのraw scoreでも,converterとnon-converter
の間に有意差は認められなかった.
【考察】今回,converter とnon-converter の間に有意差は認められなかったが,症例数の少なさが原因である可能性は否定出来ない.今後症例数を増やし,脱落例を減らすデザインで研究を行うことが必要であると思われた.
6月27日(金) 第5会場(502)
DLB
田中稔久(大阪大学)
- I-5-5 10 : 15〜10 : 30
- レビー小体型認知症の臨床診断におけるMIBG 心筋シンチの有用性について
- 館農勝,小林清樹,白坂知彦(札幌医科大学・神経精神医学講座),古川美盛(砂川市立病院・精神神経科),藤井一輝,森井秀俊(砂川市立病院・放射線科),内海久美子(砂川市立病院・精神神経科),齋藤利和(札幌医科大学・神経精神医学講座)
- 【目的】レビー小体型認知症(dementia withLewy bodies : DLB)は,アルツハイマー型認知症(AD)に次いで頻度の高い認知症であり,病理診断による発症頻度は認知症全体の15〜25%程度と報告されている.最初のDLB 臨床診断基
準は,特異度は高いものの感度が低い事が報告され,第3 回DLB/PDD 国際ワークショップでの議論を経て改訂された現行の診断基準は,各種画像検査の所見を示唆的症状(suggestive features),支持的症状(supportive features)として取り入
れることとなった.近年,123I-MIBG 心筋シンチグラフィー(MIBG シンチ)の有用性が報告されているが,MIBG の取り込み低下とDLB に特徴的な症状との相関を検討した報告は少ない.今回我々は,Probable DLB と診断した36 例に
MIBG シンチを施行し,重症度や中核症状の有無によるH/M 比低下の相違について検討を行ったので報告する.
【方法】対象は,改訂版臨床診断基準でProbableDLB と診断した36 例.平均年齢は77.9±6.0 歳で,男性は16 例.123I-metaiodobenzyl guanidine(MIBG)111 MBq を経静脈投与し,20 分後に早期像を3 時間後に後期像を撮像し,心臓縦隔比(Heart to mediastinum ratio : H/M 比)を求
めた.また,半減期補正を行いwashout rate(WR)を算出した.データ収集には,2 検出器型デジタルガンマカメラである東芝社製E. CAMsignature を用いた.今回,健常対照群を設ける事が困難であったためH/M 比の閾値は,Yoshita
らの報告(Yoshita et al., Neurology ; 66 : 1850-4,2006)に基づき,早期像(eH/M)1.93,後期像(dH/M)1.81,WR 22.7% とした.
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者およびその家族に事前に十分な説明を行い,書面で同意を得たうえで行った.また,個人が特定できないよう配慮の上,データ解析を行った.
【結果】全36 症例のMIBG シンチの結果の平均は,eH/M 1.55±0.29,dH/M 1.42±0.30,WR23.5±5.87% であった.Clinical DementiaRating(CDR)で重症度分類し各群のMIBG シンチの結果を比較したところ,各群間に有意差は
なかったが,重症度が増すにつれH/M 比は低下する傾向を認めた.対象患者における中核症状3症状の発現頻度は,認知機能の変動性33/36 例(91.7%),幻視29/36 例(80.6%),パーキンソニズム26/36 例(72.2%)であった.幻視とパー
キンソニズムで,有意差は無いものの症状を有する群はH/M 比がより低かった.抗精神病薬の使用歴のある20 例の中で,示唆的症状とされる薬剤過敏性を認めたものは7 例(35%),起立試験が施行可能であった28 例のうち,起立後に収縮
期圧20 mmHg 以上,拡張期圧10 mmHg 以上の低下を認めた者は7 例(25%)であった.起立性低血圧を認めた群では有意にeH/M,dH/M が低下していた.また,パーキンソン症状が認められなかった10 症例のうち8 症例において,eH/M,dH/M が閾値を下回る低値を示した.
【考察】今回の検討ではH/M 比の低下と認知症状の重症度との間に有意な相関は認められなかった.各症状の有無による群間比較では,起立性低血圧のみで有意差を認めた.起立性低血圧は,DLB の診断基準において支持的症状とされる重
度の自律神経障害に起因する症状である.臨床症状として観察される程の自律神経障害を有する症例では,MIBG シンチでも有意にH/M 比が低下していることが示された.DLB の臨床診断を困難なものとさせる大きな要因は,パーキンソン症
状が顕著ではないDLB やパーキンソン症状を有するAD の存在である.パーキンソン症状が認められなかったDLB 10 症例のうち8 症例において,H/M 比の低下を認めたことは,MIBG シン
チの診断補助ツールとしての有用性を示す所見であると考えられた.
- I-5-6 10 : 30〜10 : 45
- ドネペジルによりPisa 症候群を呈したレビー小体型認知症の1 症例
- 荻原朋美,小林美雪,山下功一(信州大学医学部精神医学教室),埴原秋児(信州大学医学部保健学科),天野直二(信州大学医学部精神医学教室)
- 【背景】Pisa 症候群は1972 年にEkbom らによって初めて報告され,主に抗精神病薬によって惹起される姿勢異常を中心とするジストニアである.軽度後方回旋を伴った強直性・持続性の側方屈曲を呈する体幹姿勢異常が特徴である.定型抗精神
病薬が原因薬剤となることが一般的であるが,非定型抗精神病薬,抗うつ薬などでもPisa 症候群が発症することが報告されている.今回我々は,ドネペジルによりPisa 症候群を呈したレビー小体型認知症(DLB)の1 症例を経験したので報
告する.
【症例】67 歳女性.X 年3 月,ネズミやサルなどの幻視を訴えて近医精神科を受診した.受診時のHDS-R は28 点.頭部MRI では脳室周囲の高信号領域と慢性虚血性変化を認めた.幻視に対してクエチアピン25 mg が投与され,効果を認めていた.X 年8 月に当科初診.MMSE 27点,ADASJcog4.7 点.パーキンソニズムは認めなかったが,
視知覚認知障害,幻視,レム睡眠行動障害,からDLB と診断された.ドネペジル3 mg の投与が開始され,副作用を認めなかったため,2 週間後に5 mg に増量された.幻視に対する不安も訴えなくなったため,X+1 年1 月にクエチアピンを
中止し,トラゾドン25 mg が開始された.不眠傾向も改善したため,X+1 年5 月にはトラゾドンを中止した.トラゾドン中止から,30 週間後(ドネペジル開始から57 週間後)のX+1 年,歩行時に増悪する体幹の右方への変移と屈曲,体幹
の固縮を呈しPisa 症候群を呈した.血液学的検査ではCK 125 IU/L と正常値であり,他の異常値も認めなかった.ドネペジルによるPisa 症候群と考えドネペジルを中止,3 週間後には姿勢異常は消失した.
【考察】コリンエステラーゼ阻害薬によるPisa 症候群は,我々が知る限りではこれまでに14 例の報告がある.薬剤性Pisa 症候群の発症機序は明らかではないが,ドーパミンとコリンの不均衡が
主な誘因と考えられている.コリンエステラーゼ阻害薬による中枢性のアセチルコリン過剰によりPisa 症候群が惹起されると考えられる.コリンエステラーゼ阻害薬投与下において,Pisa 症候群を発症したDLB の報告は,我々の知
る限りでは他には認めない.DLB の支持的診断基準に薬剤への過敏性があげられている.コリンエステラーゼ阻害薬においても錐体外路性の副作用が生じる可能性があり,使用に際して細心の注意が必要である.
【倫理的配慮】コリンエステラーゼ阻害薬の適応外使用と,匿名化しての発表には本人および家族の同意を得ている.
- I-5-7 10 : 45〜11 : 00
- レビー小体型認知症患者における摂食・嚥下の特徴
- 品川俊一郎(東京慈恵会医科大学精神医学講座),足立浩祥(大阪大学保健センター),豊田泰孝,森崇明,福原竜治(愛媛大学大学院医学系研究科脳とこころの医学分野),池田学(熊本大学大学院医学薬学研究部脳機能病態学分野)
- 【目的】認知症患者では認知症の進行に伴い摂食の問題が出現し,パーキンソン病においても約50% の患者に何らかの摂食障害が出現する.レビー小体型認知症(DLB)においては意識の変動,精神症状,パーキンソニズムなどに伴い嚥下
や摂食の問題が起こりやすいと考えられるが,現在までDLB における嚥下や摂食に関する系統的な研究はない.DLB における嚥下や摂食の問題の出現頻度とその特徴,他の症状との関連について調べるのが本研究の目的である.
【方法】愛媛大学医学部附属病院神経科精神科外来を受診した患者連続例のうち,国際ワーキンググループの診断基準に基づいてDLB と診断された29 例が対象となった.対照群として年齢,教育歴,MMSE を統制したAD33 例が選ばれた.
両群の年齢,性別,教育歴,MMSE,CDR,NPI,UPDRS,症状の動揺性を調べ,抗精神病薬の使用と抗パーキンソン病薬の使用についても聴取した.嚥下と摂食の問題を調べるため,42 項目からなる包括的な食行動調査票を使用して介護者か
ら摂食状況を聴取し,AD 群とDLB 群で各項目の得点を比較した.
【倫理的配慮】対象患者および家族に対しては口頭および書面で研究目的について説明し書面による同意を得た.データの管理には最大限の配慮を行なった.
【結果】食物の嚥下困難,水分の嚥下困難,咳やむせこみ,嚥下に長時間,痰がらみ,食欲低下,援助・見守りの必要性の各項目で,DLB 群はAD群に比べて有意に高い得点を示した.重回帰分析の結果,食物の嚥下困難にはUPDRS が,水分
の嚥下困難にはUPDRS とNPI が,嚥下に長時間かかることにはURDRS が,食欲低下にはNPIが,援助,見守りの必要性にはURDRS が各々有意に影響を与えていた.咳やむせ込み,痰がらみ,便秘に影響を与えている有意な独立変数はなかった.
【考察】DLB においては,AD に比べて嚥下や摂食の問題DLB においては,AD に比べて嚥下や摂食の問題が生じやすかったが,各々その原因は多様であり,認知症の重症度やパーキンソニズムのみに起因するものではないことが明らかとなった.
126
6月27日(金) 第5会場(502)
BPSD
田子久夫(財団法人磐城済世会舞子浜病院)
- I-5-8 11 : 00〜11 : 15
- 非定型抗精神病薬による認知症周辺症状の加療について;その縦断的加療経過について
- 【目的】認知症周辺症状の中でも,入院加療に至ることが多い「激しい幻覚妄想状態の縦断的加療経過」について発表し,認知症周辺症状の加療に携わる方々の一助になれば幸いと考えている.
【方法】筆者の勤務する烏山台病院は,栃木県指定老人性認知症センターを兼ねている.また,人口が減少し高齢化の著しい栃木県東部の那須烏山市に位置している.その為,初診患者,新入院患者の半数以上が,認知症周辺症状の加療目的とな
っている.
筆者は,2 年間烏山台病院に勤務し,精神科医として,認知症周辺症状の加療に取り組んできた.その日々の臨床の中で,特に入院加療に至ることの多い「激しい幻覚妄想状態の縦断的加療経過」にはあるパターンがあることがわかってきた.そ
れは,統合失調症の急性期の縦断的加療経過に非常によく似ているパターンである.それを以下に示す.
(1)急性期幻覚妄想状態,精神運動興奮が強く出現している状態である.場合によっては,隔離・拘束の必要な状態である.非定型坑精神病薬を使用し,副作用の出現しない量まで,速やかに非定型坑精神病薬を増量していく.この時期には
非定型抗精神病薬の副作用があまり出現しない印象がある.
(2)精神症状改善期幻覚妄想状態が消退してくる時期である.非定型抗精神病薬の副作用,ADL の低下に十分注意する.
(3)副作用出現期さらに幻覚妄想状態が改善してくると,眠気,パーキンソン症状等の副作用が急に強く出現する時期が来る.副作用が出現して来たら,速やかに抗精神病薬を副作用の出現しない量まで減量し,維持量とする.薬物の減量が
遅れると,誤嚥性肺炎や転倒の危険性等が強くなる為,注意深い観察が必要である.
(4)退院準備期患者,御家族,担当ケアマネージャーに対して強力に認知症の疾病教育を行っていく.試験外泊を繰り返しながら,ケアプランの策定をして頂き,ケアプランが整い次第,退院となる.入院前の急性期における症状の激しさ故
に家族が受け入れに難色を示される場合も多いが,この時期にしっかりとした疾病教育を行い,改善した患者の状態を家族に外泊を通して把握して頂くことで,その問題は解消される.非定型抗精神病薬は維持量を投与し外来につなげる.
【倫理的配慮】認知症周辺症状の内,激しい幻覚妄想状態で入院となる場合においては,ほぼ全例が医療保護入院となる.その為,御家族に対し非定型抗精神病薬の効果と同時にその使用が保険外適用である旨の説明,アメリカ食品医薬品局の警告を含めた副作用の説明を十分に行い,同意を得
る.
【結果】現在,筆者は「激しい幻覚妄想状態の縦断的加療経過」を念頭に置き,日々,認知症周辺症状の加療に取り組んでいる.まだまだ課題は多いが,さらに多くの症例の加療に注意深く取り組み,縦断的加療経過をよりよいものにし,加療の指針となるようなものにして行きたいと考えてい
る.
【考察】国際老年精神医学会の認知症周辺症状の症状分類は,横断的症状分類で,その縦断的加療経過の指針を示してくれるものではない.我々精神科医は統合失調症の加療においては縦断的加療経過を念頭に置き加療に取り組んでいる.認知症周辺症状においても,その縦断的加療指針が示さ
れれば,患者,家族,介護者,医療者,認知症の介護・加療に携わる皆にとって大きなメリットがあると考えている.
- I-5-9 11 : 15〜11 : 30
- 認知症高齢者に生じた慢性アカシジアについて
- 【目的】認知症高齢者の増加に伴い,一般科医師もBPSD に対し抗精神病薬を使用する機会が増えている.抗精神病薬には薬剤誘発性運動障害があり,中でもアカシジアは精神科以外の医師には不慣れな病態だが,認知症高齢者の臨床でも決して稀ではない.特に慢性アカシジアは診断,治療
が難しい.そこで最近経験した慢性アカシジアを生じたアルツハイマー型認知症の3 例を提示し,注意を促したい.
【倫理的配慮】当院倫理委員会の承認を得ており,個人を特定する情報の漏出はない.
【症例1】80 歳,女性:X 年3 月に易怒性などに対し,かかりつけ医よりrisperidone 2 mg が処方され,パーキンソニズムのため1 mg に減量.しかし著しい多動と不眠を認め,X 年6 月に当院へ入院.MMSE は14 点.座っておられずに終日
徘徊し,食事や睡眠も不良.risperidone を中止しquetiapine を使用したところ,「歩いていると気が楽です」,「足の裏がムズムズします」と訴えるようになった.アカシジアを考えpropranorol30 mg とlorazepam を追加.アカシジアは漸次
軽減し2 ヶ月で消失した(Barns scale は14 点→0 点).
【症例2】78 歳,女性:X−3 年にグループホームへ入居.X−1 年に介護抵抗に対し,嘱託医よりhaloperidol などが開始.過鎮静となりX 年1月に当院へ入院.抗精神病薬は使用しなかったが,徐々に多動となり,終日の徘徊を認めた.MMSE
は2 点.X+1 年,座位では足をふり,横臥時でも絶えず両下肢をこすり合わせていることからアカシジアを疑いpropranorol 40 mg を使用.2 ヵ月後には下肢の動きは軽減し,徘徊も減った.
【症例3】78 歳,女性:X−3 年より老健へ入所.徘徊,易怒性に対し,X−1 年8月よりhaloperidol1.5 mg を使用.しかし多動で何度も転倒するため,X 年8 月に当院へ入院.MMSE は0 点.座位では足踏み,足をふる,数秒おきに立ち上がる
など両下肢を動かし続けるため,アカシジアを考えた.biperiden やclonazepam は効果があったが副作用のため継続できず,propranorol 30 mgを使用.徐々に下肢の運動は軽減し,約4 ヶ月でほぼ消失した.
【考察】症例1 は特有の不快感を表明できたが,症例2,3 は認知症が高度で,本人からの訴えはなかった.アカシジアでは主観的な不快感が診断上特に重要であるが,このように言語能力の衰え
た認知症高齢者では難しく,通常の焦燥性興奮とアカシジアの鑑別が困難である.したがって抗精神病薬投与中も落ち着きのなさが顕著な場合は,アカシジアを除外する必要がある.さらに低用量の新規抗精神病薬でも生じること,propranorol
はいつ開始しても一定の効果が期待できることを報告した.
- I-5-10 11 : 30〜11 : 45
- 認知症BPSD の病診連携へ向けての試み;知多半島地域におけるアンケート調査
- 服部英幸(国立長寿医療センター),榎本和(共和病院)
- 【目的】認知症BPSD 例の介護診療上の問題点として,担当すべき医療機関,施設が適切に選択できるかが重要になる.目的に沿って総合病院,単科精神病院,老人保健施設などがニーズの合った形で有機的に連携できることが望ましいが,その
ための情報が決定的に不足している.本研究では愛知県知多半島地域において精神科診療を行っている医療機関を対象として認知症BPSD の診療の現況をアンケートにより調査を行い,その結果に基づいて地域連携を構築することを目指す.
【方法】国立長寿医療センターが位置する愛知県知多半島地域および近隣の単科精神科病院,総合病院精神科,精神科クリニックにアンケート質問表を郵送しその回答を解析した.対象となる医療機関の内訳は単科精神科病院(調査数7 件,回
収済み7 件).クリニック,総合病院(調査数17件回収済み14 件)である.質問は入院可能施設と外来診療のみの施設とに分けた.認知症BPSD 入院治療可能施設への質問は,認知症患者専用病棟,重度認知症患者デイケアの有無,重
度認知症患者の直近1 ヶ月の紹介患者受け入れ数,受け入れた認知症患者の主要な精神症状・行動異常.認知症患者の平均入院期間,退院先,他病院へ紹介した重度認知症患者数とその理由,治療困難な重度認知症の症状,重度認知症患者の診
療ネットワークづくりにおいてもっとも必要と思われることは何かである.外来診療のみの施設への質問は,認知症の外来患者数,他院あるいは施設からの認知症紹介患者受け入れ数,紹介元,他院あるいは施設へ紹介した認知症患者数および種
類,外来レベルで管理できないと判断した認知症の症状,介護意見書作成時に認知症日常生活自立度判定基準のランクM と記載した人数,認知症患者の紹介を受け入れ方針,重度認知症患者の診療ネットワークづくりにおいてもっとも必要と思
われることは何かである.
【倫理的配慮】精神症状,行動異常の治療は本人の日常生活動作能力の向上,QOL の向上を目指すものであり,社会からの排除を目的とするものではない.治療施設の選択や紹介に当たってもこの点を十分に配慮する質問内容を心がけた.
【結果】入院可能施設のまとめは以下の通り.認知症専門病棟のある病院は少ない,デイケアも少ない.入院の理由となった症状はBPSD そのものである.在院日数は3 ヶ月以上が多い.退院先は介護施設が最も多い.他院への紹介理由は合
併身体症状が圧倒的に多い.治療困難な認知症症状は精神症状より神経症状である.認知症患者を積極的に受け入れる精神病院は少ない.医療機関の情報公開が熱望されている.外来診療のみの施設のまとめは以下の通り.多くの認知症患者を診
療している.外来で管理できない症状は過活動型BPSD である.ランクM の認知は進んでいない.積極的に診療しようとされている施設が多い.医療機関の情報公開が熱望されている.
【考察】重度の認知症や精神症状を有する例のサポート体制確立はいまだ不十分である.今回の結果から患者の状態評価方法の作成,地域における認知症治療可能施設のリスト作成,医療,介護,福祉,行政を包含する研究会の立ち上げ,地域の
医師会との連携などが考えられる.地域におけるネットワーク作りによって認知症患者サポートがより充実したものになることが期待できる.