症例報告(1)
座長 : 小林克治 ( 金沢大学大学院医学系研究科脳情報病態学 )
PC-1 10:00-10:10
一過性の運動障害を呈しprobable DLBと診断した2症例
嶋田兼一1),寺島 明1),石井一成2),吉原育男1),大川慎吾1)
1) 兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室,2) 兵庫県立姫路循環器病センター放射線科
【はじめに】
レビー小体型認知症(DLB)は,変動する認知機能障害,詳細で具体的な内容の幻視,特発性パーキンソニズムを中核症状とした進行性認知機能障害を示す疾患である.DLBでは支持項目として,失神・繰り返す意識消失発作・自律神経障害・抑鬱・体系的な妄想などが報告されている.今回我々は,一過性の運動障害を呈し,臨床経過・画像検査からprobable DLBと診断した2症例を報告した.一過性の運動障害を示す疾患として,DLBの鑑別が必要であると考えられた.
【症例】
症例1
82歳男性 81歳頃より物忘れが出現した.82歳頃より,一過性の両ないし単下肢不随意運動・構音障害・歩行障害が繰り返し出現するようになった.急性期頭部MRI・脳波は著明な異常なかった.MMSE24・ADAS19.3,頭部MRIにて両側海馬萎縮あり,IMP-SPECTにて後頭葉を含む瀰漫性大脳血流低下がみられた.MIBG-SPECTでは心臓/縦隔比の低下を認めなかった.精査入院中,認知機能の変動・幻視・錐体外路症状を認め,probable DLBと診断した.
症例2
73歳男性 72歳時に24時間で消失する一過性の突進歩行が出現,近医受診にて多発性脳梗塞・パーキンソン症候群との診断を受けた.発作性歩行障害から3週間後,数日にて軽快する異常行動が出現し,当科受診した.MMSE28・ADAS6.3,頭部MRIにて右頭頂葉皮質・皮質下に出血性脳梗塞,多発性ラクナ梗塞・瀰漫性大脳萎縮を認めた.MRAでは右内頚動脈に50%の狭窄性変化を認め,脳波は著見なかった.IMP-SPECTにて後頭葉を含む瀰漫性大脳血流低下,MIBG-SPECTでは心臓/縦隔比の低下を認めた.脳血管障害として外来加療中,一過性の異常行動を繰り返した.変動する認知機能障害・パーキンソニズムを呈することからprobable DLBと診断,アリセプト投与開始,異常行動は消失した.
【考察】
症例1は一過性・再発性の歩行障害・構音障害を呈しており,当初脳血管障害・癲癇が疑われた.初診時病歴では,認知機能の変動・幻視・パーキンソニズムは明らかでなかったが,いずれも経過中に出現した.IMP-SPECTは,後頭葉を含む広範な大脳血流低下を示しており,DLBが示唆された.
症例2は一過性の突進歩行で発症,急性期の頭部画像所見は多発性ラクナ梗塞を認めるのみであった.異常行動出現後に撮像した頭部MRIは右頭頂葉に梗塞巣を認め,脳血管障害・遅発性癲癇が疑われた.アリセプト投与後,異常行動は消失した.IMP-SPECT・MIBG-SPECTはいずれも,DLBを示唆する所見であった.DLBは持続性進行性のパーキンソニズムを示すが,一過性ないし再発性の運動障害を示した報告はみられない.発作性の運動障害を呈する疾患として,DLBを鑑別する必要があると考えられた.
PC-2 10:10-10:20
レビー小体型認知症が疑われ、薬剤性頸部ジストニア(antecollis)がみられていた2症例
大原一幸,高長明律,西井理恵,西川慎一郎,守田嘉男
兵庫医科大学精神科神経科
【はじめに】
レビー小体型認知症(DLB)の診断基準の示唆症状の中に,抗精神病薬への過過敏性が挙げられている.抗精神病薬による過過敏性は幻覚妄想状態の悪化や悪性症候群様症状の出現をさす.今回我々は,DLBと考えられる症例に対して非定型抗精神病薬が投与され一過性に頸部ジストニア(antecollis)を呈していた症例を経験した.若干の考察を加え報告する(なお本症例報告は,個人情報に留意し,一部改変を行なった).
【症例1】
年齢は70歳代後半 女性 右利き.はっきりとした人間の幻覚が出現し,夜間せん妄状態となるため近所の私立病院に入院.クエチアピン(25mg)2錠が投与されたが幻覚症状は改善しなかった.約1ヶ月後,頸部が前屈し始め,次第に顕著となった.そのため当院初診となった.受診時,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は14点.著しい時間の失見当識,健忘,構成障害がみられ,「孫がいる」「座布団を被っている」と幻視を訴えた.神経学的には軽度の筋固縮がみられたのみ.頭部MRIでは硬膜下水腫がみられたが,そのほかには内側側頭葉の萎縮も顕著ではなかった.脳血流シンチでは,頭頂-側頭-後頭葉に血流低下がみられた.2ヶ月後施設入所となったが,入所後クエチアピンが中断され,幻覚の訴えはみられるものの首下がりは無くなったと家族から報告された.
【症例2】
年齢は70歳代前半 女性 右利き.受
診の2年前より記銘力障害が出現.次第に,娘を誤認したり,人物(お爺さん)の幻覚がはっきりと出現するようになった.そのため近くの精神科病院を受診.DLBを疑われ,夜間の興奮に対してリスペリドン1mgが処方された.その後次第に頸部の首下がりが出現したため,当院受診となった.受診時HDS-Rは18点であり,構成障害,注意障害が顕著であった.意識障害は明らかではなかったが,眼の前の娘を認識できなかったり,人物や動物の幻視を訴えた.ドネペジルを投与するも症状は改善せず,夜間せん妄状態となるため約3ヶ月間当院入院.夜間せん妄のない昼間でも覚醒・注意の変動があった.頭部MRIでは軽度のび漫性萎縮がみられ,脳血流シンチでは頭頂-側頭-後頭葉に血流低下がみられた.入院後,せん妄に対して極少量のリスペリドンから使用開始し,次第に首下がりは消失した.
【考察】
本2症例は,McKeith らによる改訂されたDLBの診断基準の中核病像を2つ以上有しており,probableDLBと診断しうる.診断の示唆症状として抗精神病薬への過過敏性が記載されているが,首下がりなどのジストニア症状として抗精神病薬の過敏性が出現する可能性があるものと考えた.
PC-3 10:20-10:30
若年発症のFTD(Pick type)と考えられた一例
吉原育男1,2),山根有美子2),青木信生2),田淵実治郎2)
山本泰司2),保田 稔2),前田 潔2)
1) 兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室,2) 神戸大学医学部附属病院精神科神経科
【はじめに】
今回われわれは,26歳発症という極めて早い発症のFTD(pick type)の一例を経験したのでここに報告する.
【倫理的配慮】
本人,家族に症例報告の同意を得,匿名性に配慮した.
【症例】
28歳,男性,JRの運転士
【診断】
FTD(pick type)
【家族歴】
娘はダウン症,父方従弟がうつで自殺
【生活歴】
地元の公立小,中学校を卒業.小学校では少年野球チーム,中学高校では軟式野球部に所属し活発であった.高卒後,JRに就職.3年後,運転士に昇格した.22歳で結婚し,翌年第1子出生.真面目で優しく,子供の面倒もよくみていた.
【現病歴】
平成X−2年(26歳時)より職場で他人の弁当を勝手に食べることがあり,“変わった奴”と噂になる.同年秋,友人が不審に思い本人を呼び出して咎めたが,本気にもせずすぐにその場を立ち去った.家庭では何度も手洗いする,水道やガス栓の確認を頻回にするようになった.次第に子供の面倒をみなくなった.平成X−1年から運転士の定期試験に受からず,内勤に異動.
妻の判断で大学病院精神科受診し神経症を疑われた.別のクリニックでは統合失調感情障害と診断され,抗精神病薬を処方された.同時期,日に何度も入浴したりハンバーガーを何度も買いに行くことが続いた.
X年,家族から禁止されていたにも関わらず一人で車で出かけ追突事故を起こしそのまま逃走.妻と警察に出頭したが,ダンスを踊り反省する様子は全くなかった.行動の抑制がきかず,退行的言動が著しいため精神科病院に入院となった.約半年の入院治療も症状の改善認めず,精査目的で当科に転院となった.
【治療経過】
MMSE28点.MRIでは前頭葉皮質の萎縮を認め,IMP-SPECTでは前頭葉から前部側頭葉にかけて血流低下著明.神経学的異常所見は認めず.また,家族の同意を得て遺伝子検査も施行した.
突然駆け出す,奇声を発しながらベッドの上で飛び跳ねる,女性看護師に抱きつくなどの逸脱行為のため隔離・身体拘束を余儀なくされた.一貫して多幸的で処遇に対する不満も無い様子.会話は表層的で,毎回全く同じ内容の話を繰り返す.分単位までこだわる時刻表的生活も認めた.
脱抑制・異常行動に対し,入院5週目よりfluvoxamineの投与を開始.150mg/dayまで増量したところ,入院10週目までNPIによる評価で明らかな改善を認めた.しかし,その後の症状は治療前と大きな差異なく,長期的治療のためX+1年,他院に転院となった.
【考察】
FTDの診断的特徴を全て満たすことと画像所見から,FTD(pick type)と診断した.潜行性の性格変化は26歳から始まったと考えられる.
FTDの脱抑制・異常行動に対しfluvoxamineが有効であるという報告があるが,本症例においても一時的な改善を認めた.
尚,発表当日は当科で経験した別の若年発症のFTDの一例についても言及しながら,若年FTDの特徴について述べる.
PC-4 10:30-10:40
フルボキサミンとクエチアピンが多動性に有効であった若年発症前頭側頭型認知症の1例
勝瀬大海2),古川良子2),網野賀一郎3),平安良雄2)
1) 横浜市立大学附属市民総合医療センター精神医療センター
2) 横浜市立大学医学部精神医学教室,3) 精神医学研究所附属東京武蔵野病院精神神経科
29歳時発症の前頭側頭型認知症(FTD)例の治療経験を報告する.多動性および長時間反復する常同行為が在宅での主たる介護負担となっており,薬物療法を開始した.フルボキサミン(FLVX)が多動性・常同行為に対して部分的な効果を示したものの,消化器症状により減量を余儀なくされた.その後,クエチアピン(QTP)の追加投与により,多動性の改善とともに常同行為の時間は減少し,介護上の負担は減少した.FTDにみられる行動・精神症状(BPSD)に対しては,セロトニン再取り込み阻害薬が有効であるとする知見が集積されつつある.
本症例においても,多動性・常同行為に対してFLVXが部分的に有効であったが,QTPを併用することにより,さらに行動面における改善が確認された.QTPはFTDにみられるBPSDに対して有用である可能性が示唆された. 倫理的配慮;本症例報告は,個人情報に留意し,一部改変を行い,書面にて患者家族の同意を得て行った.
【参考文献】
小田原俊成ほか:フルボキサミンとクエチアピンが多動性と常同行為に有効であった若年発症前頭側頭型認知症の1例.老年精神医学雑誌16:1403-1408,2005