6月30日 スバル 5F ポスター発表

診療活動

座長 :  粟田主一 ( 仙台市立病院神経精神科 )

PA-1  16:00-16:10

島根大学医学部附属病院精神科神経科での「もの忘れ外来」の診療状況について

新野秀人1),稲垣卓司1),宮岡 剛1),宇谷悦子1)
川向哲也1),稲見康司1,2),堀口 淳1)

1) 島根大学医学部精神医学講座,2) 独立行政法人労働者健康福祉機構愛媛労災病院精神科
 
【目的】
島根大学医学部附属病院精神科神経科(以下,当科)では,認知症の疑いがある患者を対象として,2002年4月から「もの忘れ外来」を開設し,認知症の早期診断,治療,生活指導に取り組んできた.そして,保健・福祉サービスの利用方法などの情報提供もおこなってきた.今回我々は,当科での「もの忘れ外来」をより発展させ充実を図るために,(A)「もの忘れ外来」の診療状況を把握する,(B)「もの忘れ外来」受診患者において実施した知的機能スクリーニングテストの有用性を検証する,ことを目的として,「もの忘れ外来」受診患者を対象として診療録をもとに後方視的に調査した.
【方法】
2002年度から2004年度までの3年間に当科の「もの忘れ外来」を受診した102例を対象とした.対象症例において,以下の項目を調査した.1)性別,年齢,2)受診経路および診断後の診療状況,3)臨床的背景,4)知的機能スクリーニング検査[改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Mini-Mental State Examination (MMSE),物語復唱テスト],5)視空間認知能力・構成能力検査:時計描画テスト(CDT),6)Zung自己記入式うつ病評価スケール(SDS),7)精神医学的診断.
【倫理的配慮】
本研究では,診療録を後方視的に調査した.個人のプライバシーを侵害する調査は実施していない.データを収集した後の解析は,個人が特定されない様式で厳重に保管した.
【結果】
対象症例は102例(男性40例,女性62例)であり,平均年齢は76.5歳だった.年齢ごとの分布では,70歳代61人,80歳代26人,60歳代7人,90歳以上4人,50歳代3人,40歳代1人だった.精神医学的診断は,mild cognitive impairment (MCI)が40例,アルツハイマー型認知症(SDAT)が26例,脳血管性認知症と混合型認知症が7例ずつ,レビー小体病と神経症が2例ずつ,その他が4例,2例では精神医学的診断がなかった.各種検査を実施した後の診療状況としては,当科外来で加療したのが63例,紹介元に逆紹介が37例,終了が15例,中断が4例だった.<知的スクリーニング検査>HSD-Rは平均19.4点,MMSEは平均22.0点だった.物語復唱テスト(直後復唱)の得点は,非認知症群>MCI群>SDAT群の順に高かった.遅延復唱ではSDATで低下が顕著だった.CDTではMCIの88%において満点(10段階:0-9点)だった(平均8.8点)のに対して,SDATでは,満点は27%であった(平均6.0点).62%の症例においては,診断後も当科外来で医師による定期的な診察および投薬そして看護師による本人と家族を対象とした看護指導を実施した.
【考察】
対象全体のHDS-RとMMSEの平均値は,それぞれ19.4と22.0点であり,軽症の認知障害や発症から比較的早期の段階の症例が多く含まれていることが示唆された.当科の「もの忘れ外来」が脳ドックとして機能を示していることが考えられた.HDS-RやMMSEと視空間認知能力・構成能力検査やエピソード記憶の評価方法を併用することは,MCIと認知症の鑑別に有効だった.早期に診断や治療を行い,看護指導を実施していくことは,認知症の介護体制の確立や療養環境の調整に有用であると考えた.

PA-2  16:10-16:20

老年期精神障害に対する救急対応の現状 −精神科診療所の立場からー

岡本典雄1),野島秀哲1),星野良一2),井上 淳3)

1) 岡本クリニック,2) 紘仁病院精神科,3) 浜松医科大学精神科
 
【目的】
老年期精神障害の増加にともない,救急対応の必要な患者も増加しているが,まだその現状についての報告は少ない.そこで,当院の診療状況をもとにして,老年期精神障害の救急対応の現状を調査し,診療所の立場から問題点や今後の課題などについて検討した.
【方法】
当院を平成16年8月からの1年間に受診した65歳以上の高齢者に対して,救急対応の実態調査を行った.調査項目は,疾患,性別,年齢,介護保険利用状況,福祉施設入所状況とした.疾患は当院の老年期精神障害の診療の実態にもとづいて,(1)痴呆,(2)BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia),(3)せん妄,(4)うつ病,(5)統合失調症,(6)神経症,(7)その他に分類した.痴呆とは中核症状が主で,周辺症状(BPSD)を伴わないものとした.
【倫理的配慮】
報告にあたってはプライバシーを考慮し,個人情報が特定できないような配慮を行った.
【結果】
対象は533例(男性179例,女性354例)であった.このうち介護保険利用者は186例(35%),福祉施設入所者は53例(10%)であった.疾患別では,痴呆163例(31%),BPSD99例(19%),せん妄36例(7%),うつ病80例(15%),統合失調症54例(10%),神経症88例(17%)であった.全体の平均年齢は79.4歳であったが,疾患別の平均年齢では,痴呆(81.7歳),BPSD(83.7歳),せん妄(81.6歳)はいずれも80歳以上であり,うつ病(76.8歳),統合失調症(75.8歳),神経症(75.9歳)に比較して高齢であった.  救急対応については,入院が19例で全体の3.6%であった.うちわけは,うつ病12例,統合失調症6例,薬物依存1例であった.せん妄,BPSDでは入院に至った例はなかったが,せん妄とBPSDの救急対応はうつ病,統合失調症よりもずっと多かった.外来では連日何らかの救急対応がなされており,外来受診者は自宅で,施設入所者は施設での生活環境を変えないように配慮して,薬物療法,介護者への指導,環境調整などで対応されていた.
【考察】
老年期精神障害の救急対応について,うつ病,統合失調症では入院に至る例があったが,せん妄,BPSDでは症例数は多いにもかかわらず,外来治療が優先されていた.老年期精神障害では,高齢化に伴う疾患の特徴として,環境変化に対する脆弱性などが指摘されている.せん妄,BPSDは高齢化の特徴を多く持った疾患であり,現状の生活環境をできるだけ維持するなど高齢者の特徴を考慮した対応が必要と思われた. 対象には介護保険利用者が多かったことから,老年期精神障害を外来で維持するためには,介護者の負担軽減のために介護保険の利用が不可欠であると思われた.介護保険利用による生活支援は,生活が破綻して病状が悪化することを予防し,疾患の急性期化を防いでいることが推察された.また,福祉施設入所者にも治療対象となる精神疾患が多かったことから,老年期精神障害の対応においては介護保険施設との連携も重要な課題と思われた.

PA-3  16:20-16:30

老人性認知症病棟における救急合併症の現状について

鵜飼克行,水野 裕,尾崎公彦,関谷隆宏,富田顕旨,伊藤隆夫

一宮市立市民病院今伊勢分院
 
【目的】
一宮市立市民病院今伊勢分院は,愛知県尾張地方唯一の老人性認知症センター(県内2施設,豊川市民病院)と,やはり尾張地方唯一の老人性認知症治療病棟(県内2施設,医療法人明心会仁大病院)と重症老人性認知症デイケア(県内2施設,仁大病院)とを併有している,稀有な病院である.高齢社会における老人性認知症対策のため,厚生労働省の援助を受けて,平成2年4月老人性認知症治療病棟と重症老人性認知症デイケア施設を新増築した.さらに平成7年4月には,愛知県の指定を受け,老人性認知症センターと「物忘れ専門外来」が開設された.現在は,2名の日本老年精神医学会認定専門医(兼,指導医)が認知症診療専従で常勤しており,また日本老年精神医学会認定施設にも認定されている. 老人性認知症治療病棟は男女混合50床であるが,他の病院において対応困難であった激しい精神症状と重篤な身体合併症を持つ認知症患者も積極的に受け入れ,内科・整形外科等の身体科や一宮市立市民病院本院と連携し,心身両面からの診療をおこなっている.今回われわれは,当院の老人性認知症治療病棟における身体合併症診療の現状についてまとめ,考察を加えることにした.
【方法】
平成17年4月から平成18年1月までの10ヶ月間に当院老人性認知症治療病棟を退院(死亡退院も含む)した患者(58名)のうち,入院期間が1ヶ月未満であった12名(21%)を除いた46名を対象として,性別・退院時の年齢・認知症病名・入院期間・身体合併症等を調査した.身体合併症 については,(1)入院中に発生した生命に関わる重症救急合併症(2)入院中に発生した専門的な診療を要する救急合併症(3)より重大な疾患に繋がる可能性がある治療の必要な持病,に細分して調査した.
【倫理的配慮】
本報告においては,患者個人を特定できることの無いよう匿名性に配慮した.
【結果】
今回の調査対象となった46名のうち,男性は24名(52%),女性は22名(48%)であった.平均年齢は,78歳(男性74歳・女性84歳)であった.病名別では,アルツハイマー型認知症が33名(72%),脳血管性認知症が4名(9%),レビー小体型認知症が2名(4%),前頭側頭型認知症1名,脳挫傷による認知症1名,心停止後の認知症1名,その他4名,であった.平均入院期間は,8ヶ月であった.身体合併症については,(1)入院中に発生した生命に関わる重症救急合併症は12名(26%)に延べ20回発生しており,(2)入院中に発生した専門的な診療を要する救急合併症は16名(35%)に延べ21回発生していた.(3)より重大な疾患に繋がる可能性がある治療の必要な持病に罹患していたのは21名(46%)であった.(1)入院中に発生した生命に関わる重症救急合併症により死亡退院したのは5名(11%)であった.
【考察】
発表当日には,平成17年度(12ヶ月間)の症例を対象として調査しなおして検討し,さらに当院の今後の展望や社会情勢に照らしあわせて,認知症患者における身体合併症診療の問題点等の考察を加える予定である.

介護福祉

座長 :  江渡 江 ( 東京江東高齢者医療センター )

PA-4  16:30-16:40

四日市市在住の認知症高齢者に対する医療福祉サービス連携の実態;医師会調査から

今井幸充1),城戸裕子1),佐藤亜紀子1),東畠弘子2)
藤原庸隆3),西元幸雄4),原田重樹5)

1) 日本社会事業大学大学院社会福祉研究科,2) 日本社会事業大学社会福祉研究所
3) 四日市市医師会,4) 社会福祉法人青山里会,5) 常磐在宅介護支援センター
 
【目的】
四日市市在住高齢者の認知症予防,早期発見・早期治療,社会資源の有効利用のための地域包括支援システムを構築し,認知症予防と認知症高齢者が地域で安心して生活できる町づくりを目的に,四日市市医師会と在宅介護支援センター協議会(2006年3月現在)とが共同して四日市市認知症高齢者地域生活包括支援プロジェクト(以下四日市プロジェクト)を立ち上げた.そこで,平成17年度は,四日市医師会会員である医師に対して地域介護福祉サービスとの連携についての意識調査を行い,医療・福祉の連携の実態ついて調査した.
【方法】
1) 四日市医師会会員485名を対象に,認知症高齢者診療の実態について調査した.調査期間は、2005年11月から12月の約1ヶ月間で,調査方法は,質問紙を郵送で送り,調査目的ならびに調査協力依頼の文章を添え,同意が得られた会員が直接四日市医師会に返送する方法で行われた.
2) 質問紙は,医療福祉連携に関する先行研究を参考に質問紙を作成した.内容は,(1)医師と介護支援専門員との連携の実態について,(2)認知症診療の実態について,である.
【倫理的配慮】
本調査に当っては,四日市市医師会,三重県在宅介護支援センター協議会ならびに四日市市との協議をもとに行った.医師会調査は,医師会内で本調査に関する協議,決議を得て実施され,なおかつ調査同意に関する説明を文章で会員に明確に示した.そして本調査に賛同した会員のみが郵送にて返答した.
【結果と考察】
被調査者の内訳は,内科医62名,精神科医9名,その他57名の合計128名で回収率は26.4%であった.また男性は被調査者全体の84.4%で,また被調査者の年齢は50歳から60歳が全体の36%と最も多かった.  被調査者の43%は,介護支援専門員から患者に関する連絡が「ほとんどない」か,あるいは「全くな」と回答し「まれにある」まで含めると,約6割の医師が介護支援専門員と連絡が密にとられていない実態が明らかになった.また医師から介護支援専門員に連絡することは60.9%が「ない」と回答した.逆に「頻回に」あるいは「よく連絡がある」と回答した医師は11名(8.6%)であった.患者やその家族が介護保険サービスの利用を希望した場合に医師は,MSW(19.5%),行政(17.2%),在宅支援センター(13.3%)に連絡していて,52%の医師が医療・福祉サービスの協力体制の存在を認めていが,その46%がその機能が十分果たされていないと,認識していた.  認知症診療実態は,50%以上の医師が患者数の増加を認識していて,その家族の訴えで多いのが入院希望であり(22.7%),つぎに家族の介護負担の訴えであった.また家族が入院を決意するきっかけは患者の行動障害(26.6%)であった.
【考察】
四日市市医師会が実施した調査では,認知症高齢者の受診が増加しているにも関わらず,地域の医師と介護支援専門員との連絡が積極的行われていない現状が明らかになった.

PA-5  16:40-16:50

要支援高齢者における要介護度変化に影響する要因の縦断的研究

新名理恵1),本間 昭1),小山泰夫2)

1) 東京都老人総合研究所,2) 全国老人福祉施設協議会老施協総研
 
【目的】
介護保険制度における介護予防の目的の1つは,急増している要支援・要介護1の人数の増加を抑えることであり,そのために要支援1・2を対象とした予防給付が開始された.しかしながら,要支援から要介護になるリスク要因を理解したうえでの給付でなければ,効果的な介護予防とはなり得ないであろう.そこで,本研究は,要支援高齢者を対象に追跡調査を行い,心身機能や生活状況などの変化を調べ,要介護度の変化に影響するリスク要因を明らかにすることを目的とした.
【方法】
第1回調査は,2003年11月から2004年1月,要支援と認定された全国の在宅対象者のうち,調査に回答できる家族のいる第1号被保険者4700人の家族を対象として実施された.その結果,2638人の家族から有効回答を得ることができた.第2回調査は,2004年10月から11月,これら2638人の家族を対象として実施された.  各道府県の老人福祉施設協議会から依頼を受けた介護支援専門員が,心身機能・日常生活・社会生活などの質問を含む調査票を用いて,家族に対する訪問面接調査を実施した.第2回調査では,原則として,第1回調査の回答者と同じ家族に回答してもらうこととしたが,諸事情で無理な場合は,対象者の生活状況をよく知っており,かつ調査の趣旨を十分に理解できてスムーズに回答できる家族に協力を依頼した.  第2回調査時での対象者の状況を追跡するために,事業所の変更・対象者の転出や死亡・回答者の不在や調査協力拒否等の理由で面接調査が実施できない場合,介護支援専門員の所属する事業所が把握している範囲で,最新の認定要介護度・入院や入所の状況・死亡の状況などについて調査票に記入してもらった.
【倫理的配慮】
面接調査の実施に際しては,回答者の家族に調査の趣旨を説明し,書面による調査への同意を得た.第1回調査の際には,翌年の第2回調査への参加も含めた同意書を用いた.書面による同意が得られない場合には,面接調査を実施しないこととした.
【結果と考察】
第2回調査の対象者2638人中,2271人から調査票が回収され(回収率86.1%),有効回答者は2170人であった.その中の1949人(73.9%)の家族に面接調査を実施することができた.  要介護度の変化では,60.7%が要支援のまま不変であった.非該当への改善は 1.5%,要介護1への悪化は21.6%,要介護2以上の悪化は 4.9%であった.要介護度の悪化に関連する要因として,最近1年以内に発症した脳血管疾患の後遺症として認知症が認められること,認知症老人日常生活自立度判定基準で?以上であることが示された.また,外出する機会の多い要支援高齢者は,要介護度が高くなりにくい傾向も認められた.以上の結果より,要支援高齢者の社会的活動を促進する介護予防プログラムだけでなく,認知症の予防と進行遅延治療という医学的アプローチも介護予防にとって重要であることが示唆された.

PA-6  16:50-17:00

居宅介護施設の介護サービスに対する家族介護者の満足度ついて

江口洋子1,2),数井裕光2),原田和佳2,3),武田雅俊2)

1) 東京歯科大学市川総合病院精神神経科
2) 大阪大学大学院医学系研究科生態統合医学神経機能医学講座,3) 原田医院
 
【目的】
居宅介護支援施設の介護サービスに対する家族介護者の満足度を調べた.
【方法】
対象者:居宅介護支援施設8施設の利用者の主たる家族介護者合計104名(平均年齢64.0才,男性16名,女性88名).方法:今回の調査のために新たにアンケートを作成した.アンケートの内容は,施設職員の認知症およびその介護法の知識に関する項目が20問(職員知識項目)(例:アルツハイマー病や血管性認知症の症状の特徴やこれからどのように進行していくかなどの情報を主介護者様に教えてくれているかどうかという点について),グループホームの外部評価のために認知症介護研究・研修東京センターが作成,出版した「痴呆性高齢者グループホームサービス評価ガイド集2004年度版」の項目の中から,居宅介護支援施設においても特に重要と思われる項目を抜粋した45問(GH 外部評価項目)(例:職員の申し送りや情報伝達が確実に行われ,利用者様の介護上,重要な事項はすべての職員に伝わっているかどうかという点について)である.回答は「とても満足」,「だいたい満足」,「やや不満足」,「とても不満足」,「該当しない」,「わからない」から選択するよう指示した.教示は書面で与え,記入は自書式で行った.アンケートで未記入の項目がある場合は,電話にて再度教示していずれかの選択肢を選んでもらった.採点法は,「とても満足」または「だいたい満足」を選択した項目に対して1点を与えた.家族介護者ごとに職員知識項目の合計得点と,GH外部評価項目の合計得点を求めた後,それぞれの合計得点の設問数に対する割合を求め,前者を職員知識項目の満足度,後者をGH外部評価基準項目の満足度とした.解析:満足度を施設(8施設)と項目(職員知識項目とGH外部評価項目)の2元配置分散分析で比較した.また職員知識項目の満足度とGH外部評価項目の満足度との相関を検討した.有意水準は0.05とした.
【倫理的配慮】
対象者は本研究に対する書面による同意が得られたものに限った.
【結果】
全施設の職員知識項目の満足度は平均0.24,GH外部評価項目の満足度は平均0.65であった.二元配置分散分析の結果,施設の主効果,施設と項目の交互作用は有意でなかったが,項目の主効果は有意であった(F(1,94)=45.53,p<0.01).また両項目の満足度の間に有意な相関が見られた(r=0.46,p<0.01).
【考察】
本研究に参加した施設の間では,家族介護者の満足度に差が見られなかった.また,いずれの施設も職員知識項目の満足度がGH外部評価項目の満足度と比較して低かった.このことは介護サービス向上のための施設の取り組みが参加した施設間で差がなく家族介護者から評価されているが,外部評価項目と比較して職員知識項目に対しては家族介護者の満足度が低いことを示している.またGH外部評価項目の満足度が高い家族介護者ほど職員知識項目の満足度も高かったが,このことはGH外部評価項目に積極的に取り組んでいると評価された施設は,職員の認知症やその介護法の知識の獲得や家族介護者へ知識を提供することにも取り組みが見られると家族介護者が評価していることを示している.

PA-7  17:00-17:10

地域高齢者における主観的幸福感と家族とのコミニュケーションとの関連

 岡本和士

愛知県立看護大学
 
【目的】
地域に居住する高齢者の精神的活動性を高めることは,うつや認知症などの精神障害発生予防に必要不可欠である.そこで本研究では,地域に居住する高齢者の精神障害のうち抑うつ状態との関連が報告されている主観的幸福感に関連する要因を検討することにある.
【方法】
愛知県大都市近郊の一地域に居住する65歳以上の高齢者863名(男395名,女472名)に対し,主観的幸福感に関する質問項目や健康状態,生活習慣及び心理的要因を含む自記式のアンケ−ト調査を行った.主観的幸福感の評価に関し今回の調査が自記式,郵送法であるため内容が簡便で平易であることを目的として,日本循環器管理研究協議会の作成した主観的QOLの調査項目のうち,主観的幸福感に関する質問項目「現在,あなたは幸福だと思いますか」とその回答肢「1.はい 2.まあまあと思う 3.どちらでもない 4.思わない 5.不明」を用いた.この質問項目の妥当性を評価するために,対象者から無作為に10%の抽出で選んだ者に対し,調査票回収時に前田らが日本語に訳出したモラ−ルスケ−ルとの比較を行った.
【倫理的配慮】
アンケートはプライバシー保護のためすべて無記名にて行った.
【結果】
本検討で用いた指標(「幸福感あり」「幸福感なし」)とモラールスケール(「高い」「低い」)の一致状況を示すkappa統計量は0.81であった.「幸福と思う」者の割合は男71.4%,女76.4%と女に高い傾向は認められたが有意差はなく,年齢による差も認められなかった.主観的幸福感に対する各要因との関連の程度をロジスチィック重回帰分析にて要因間の影響を補正し検討した結果,「家族との会話」のオッズ比が2.60(95%信頼区間1.93-3.52)と最も高く,かつ有意であった.さらに,主観的幸福感と「家族との会話」の関連は前期高齢者群に比べ後期高齢者群で高かった.
【考察】
家族との会話が高齢者の主観的幸福感を高める可能性が認められた本成績は,主観的幸福感を含むQOLの維持・向上に対する会話すなわちコミニュケ−ションの必要性を示唆する知見と考えられた.家族との会話は,直接的に主観的幸福感と関連するというよりも,良好な精神的健康状態の構築を介し間接的に主観的幸福感を高める可能性が推測された.したがって,主観的幸福感は精神的健康度を反映することが報告されていることからも,この結果は今後の地域に居住する高齢者の精神障害の第一次予防対策策定に示唆を与える知見と考えられた.

検査心理I

座長 :  加藤元一郎 ( 慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 )

PA-8  17:10-17:20

在宅高齢者に対するチェックリストの有用性に関する調査

臼井樹子1),新名理恵1),石井徹郎2),本間 昭1)

1) 東京都老人総合研究所,2) 石井メンタルクリニック
 
【目的】
在宅高齢者の身体的状況や認知症に関する情報には,本人から得られるものとその情報提供者である介護者や介護サービス提供者から得られるものがある. しかし情報提供者ある介護者とサービス提供者の情報は必ずしも一致するものではなく,特に認知症に関する認識は,認知症の有無あるいはその程度などについて情報提供者の認知症一般に対する認識によって評価にばらつきが見られる.より簡易に施行が可能で情報提供者間のばらつきの少ないチェックリストによるスクリーニングが可能であれば,認知症の早期発見に有効であると考えられる. 今回の調査では,訪問看護を利用している在宅高齢者について,家族および担当している看護師に対して認知症の症状を評価するチェックリストを用いて調査を行い,さらに独立して行った精神科医による調査の結果と情報の内容について比較を行い,チェックリストの有用性を検討した.
【対象と方法】
対象は2002年4月から8月までの間に町田市内に在住で訪問看護ステーションからサービス提供を受けている高齢者92例,男性39例,女性53例である.家族に調査票として本研究のために作成した「家族のための痴呆を疑うチェックリスト」(DECO)をあらかじめ配布し記入してもらい,精神科医および看護師が居宅に訪問し,訪問看護師は障害老人の日常生活自立度判定基準,痴呆性老人の日常生活自立度判定基準,Observation List for early signs of Dementia (OLD)による評価を,精神科医は問診および障害老人の日常生活自立度判定基準,痴呆性老人の日常生活自立度判定基準認知機能評価,CDR,HDS-Rによる評価を行った.
【倫理的配慮】
対象者に本研究の目的及び内容について十分に説明を行い,参加の同意を得た.
【結果】
それぞれの調査結果について集計を行い分布を検討した.CDRの総合評価,HDS-Rと,DECO,OLDの合計点には相関が認められたが,看護士が評価したOLDにおける相関の方が高かった(r=.543,p<.01).DECO,OLDの得点分布をみるとCDRで軽度および中等度の認知症では得点のばらつきが大きい傾向が認められた.
【考察】
今回の結果から,在宅高齢者の認知症に対するチェックリストとしてサービス担当者などの医療福祉関係者によるOLDの使用は認知症の早期発見に関しての利点があるものと考えられるが,評価者間のばらつきを少なくするための評価者へのトレーニング等のより高い有用性が得られる実施方法が必要なものと考えられる.また,家族による評価の利用には多くの課題が残されていると考えられた.

PA-9  17:20-17:30

ATD患者の介護者へのSSD日本語版の信頼性と妥当性の検討

村田佳江1),仲秋秀太郎2,3),品川好広2),本郷 仁2),松井輝夫3)
佐藤順子2,4),辰巳 寛5),成田由佳6),古川壽亮2),早野順一郎7)

1) 名古屋市立大学医学部精神医学講座,2) 名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学
3) 厚生連海南病院精神科,4) 八事病院,5) 名古屋第二赤十字病院リハビリテーション科
6) 宇野病院,7) 名古屋市立大学病院こころの医療センター
 
【背景と目的】
アルツハイマー型認知症(ATD)患者の介護者は,うつや不安などの精神症状や,社会的活動の制限や経済的負担などの環境的な問題以外にも,慢性的ストレスの影響や疲労が身体症状にもあらわれると推測されている.Grasel(1995)は,家族介護者の身体症状の程度と主観的な介護負担は高い相関を示すと報告している.認知症患者の介護者の介護負担を評価する際に,介護者の身体的な症状を考慮することは重要である.しかし,本邦では,介護者の身体的な症状を評価する適切な評価尺度はまだ十分に確立していない.そこで,我々は認知症の介護者の身体症状に関する評価尺度としてScreener for Somatoform Disorders(SSD)の日本語版の信頼性と妥当性をATD患者の介護者を対象に検討した.
【対象】
名古屋市立大学病院こころの医療センターに2005年11月から2006年2月までに受診した軽度から中等度のATDの患者の介護者65名.
【方法】
Screener for Somatoform Disorders(SSD)は,身体表現性障害の評価尺度であるSomatoform Disorders Schedule(SDS)のためのスクリーニングを目的に,1994年G Tachini,A Janca,M Isaacら(日本語訳は浅井,大野)によって作成された.この質問紙を使用し,介護者に対し面接法による調査を行い,報告される身体症状とその数を評価した.この質問紙は,12の身体症状の有無を問うものである.外的信頼性を検討する目的で,test - retest(1ヶ月後の再施行)(N=35)をANOVA - ICCで評価し,内的信頼性は項目間相互の内的均質性を測るために,Cronbach’s alpha coefficientを算出した.妥当性の検討のために,併存妥当性として主治医によるClinical global impressionの得点との相関係数を求めた.さらに構成概念妥当性として,SSDの各項目をバリマックスの回転をして因子分析を行った.質問紙と併行して患者には,MMSEなどの認知機能の評価のほかに,家族介護者にIADL,Zarit Caregiver Burden Interview(ZBI)やBDI -IIなどの評価尺度も施行した.
【倫理面での配慮】
本研究は,名古屋市立大学の倫理委員会の承認を受け,すべての患者の家族から書面による同意を得て,評価されたデータが匿名で研究利用されることにも同意されている.
【結果と考察】
外的信頼性は,ANOVA - ICCが0.98,内的信頼性は,Cronbachのα係数が0.83と良好であった.併存妥当性は,Pearsonの相関係数が0.825と有意に高かった.因子分析の結果,3因子が抽出された.また,ZBI とも高い相関が示された.ATD患者介護者の身体症状を簡便に評価する方法として,Screener for Somatoform Disorders(SSD)の日本語版は信頼性と妥当性が高く臨床的に有用な尺度である.

PA-10  17:30-17:40

MMSEおよびADASの単純な下位項目分析がDLB臨床診断の感度を上げる可能性について

小田陽彦1),長岡研太郎2),山本泰司1),保田 稔1),大川慎吾3),前田 潔1)

1) 神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学分野,2) 仁明会病院
3) 兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室
 
【目的】
DLB international workshopの提唱する臨床診断基準(1996年版)は,特異度は十分高いが感度は低いことが以前から指摘されていた.2002年にAlaらはDLBとADの鑑別診断に,MMSEの下位項目の単純な分析が役に立つ可能性を示唆した.すなわちAla score(Attention - 5/3・Recall + 5・Construction)を計算し,5点以下をDLBと診断すると,感度82%,特異度81%となると報告した.2005年,本学会にて長岡らは本学認知症専門外来通院中の患者群においてAla scoreを用いた分析を行い,DLB群において有意にAla scoreが低く,5点をcut offとすると感度75%,特異度73%になるとした.今回我々はさらなる症例数の追加を行い同様の分析をした.さらにMMSEの各下位項目(Orientation in time,Orientation in place,Registration,Attention,Recall,Language,Construction)について統計処理を行い,DLB群とAD群との間での有意差の有無を調べた.そしてADASの11個の各項目についても同様に両群間の有意差の有無を調べた.
【方法】
2003年12月より2006年2月に本学認知症専門外来を受診した患者のうち,臨床的にDLBと診断されたDLB27例およびMMSE総得点をマッチさせたAD81例を対象とし,Ala scoreを計算しその分布を調べた.MMSE,ADASの下位項目の分布について調べた.さらに2004年1月より2004年12月に兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室に入院しかつMMSE10点以上の症例93例について同様の検討を行った.
【倫理的配慮】
本報告においては患者個人を同定できるような情報は除外し匿名性を確保した.本報告作成にあたり患者様への負担は一切ない.
【結果】
神戸大学の外来群のMMSEの下位項目においてAttention, Recall, Construction の三項目において二群間で有意な(p<0.01)差異を認めた.ADASの下位項目は有意な差異を認めなかった.Ala scoreが5点未満の場合をDLBとすると,感度78%,特異度70%であった. 姫路循環器病センターの入院群のMMSEにおいて,Ala scoreが5点未満の場合をDLBとすると,感度89%,特異度50%であった.
【考察】
臨床的DLBを診断する際の問題点は,診断基準の特異度は高いが感度が低い点である.従って臨床医がDLBを念頭において診療をすれば見落としは少なくなることが示唆される.しかしDLBはADよりも有病率が低く,なおかつ症状変動や軽いパーキンソン症状といったcore features を初診から的確に把握することは難しい.  Ala score 5点未満の場合をDLBとすると,特異度は低いもののかなりの高感度でDLBを検出することができる.すなわち日常診療でAla score が低い症例においてDLBを意識して診察することにより,DLB臨床診断が飛躍的に改善されることが期待される.  両施設において感度・特異度に差があるのは,MMSEのconstruction の項目で本学は二重五角形を採用しているのに対して姫路循環器病センターは立方体を採用している点に原因があると思われる.すなわち立方体の方が難易度が高いため,Ala scoreが全体的に押し下げられる傾向にあるものと思われる.

PA-11  17:40-17:50

学術用日本版ケンブリッジ神経心理学テストの開発

服部兼敏1),中村光男2),岡田倫代3)

1) 神戸市看護大学看護学部,2) 香川大学医学部精神科神経科,3) 香川大学医学部大学院博士課程
 ケンブリッジ神経心理学テスト(CANTAB: Cambridge Cognition Neuropsychological Test Automated Battery) Eclipse Ver.2.0は,神経心理学テストで,アルツハイマー,レビー小体,前頭葉型認知症,パーキンソン,ハンチントン,その他の神経変性症,脳損傷,薬理効果の測定,薬物およびアルコールの濫用,統合失調症,情動障害や,画像診断などに使用され多数のevidenceが報告されている.
 この検査は,神経心理機能をターゲットにした19個の検査によって構成されており,対象疾患に合わせてテストを選択,組み合わせることができる.例えば,PAL(Paired Associate Learning)テストには刺激図形の位置を同定する課題と図形の形状を同定する課題が含まれていることから,それぞれ頭頂と側頭における神経心理機能を測定することで初期のアルツハイマー型認知症の検知に効果がある.
 検査は,パソコンにインストールされたソフトウェアとタッチパネルモニターを用いるため,被検者の反応をミリ秒単位で正確に測定できる.またソフトウェア自体に統計関数が組み込まれていることから,これを利用して機能測定するとともにデータベースとして保存することが可能である.また表計算ソフトや統計処理ソフトに出力するためのドライバーも組み込まれているので,研究目的で使用する場合にも便利である.これまでのようなストップウォッチによる計測や筆記用具による観察記録に注意をはらう必要も無いので,検査者は行動観察に集中できるようになった. Cambridge Cognition Ltd. から必要情報の提供を受け,学術用日本版CANTABを開発した. この版では,検査に含まれるプロンプトとマニュアルを日本語訳し,図形表示の一部の日本文化への親和性を高める変更を行った.またVer.2.0より言語刺激をともなうテストが追加されたことから,刺激後について「NTTデータベース日本語の語彙特性」を用いて,英語版および米語版を用いて出現頻度,単語親密度,単語モーラ等が概ね等価になるものを選択し,現在,実験版を点検中である.研究機関向け日本版CANTAB Eclipse Ver.2.0の公開に向け準備中である.

検査心理II

座長 :  木村通宏 ( 順天堂東京江東高齢者医療センター )

PB-1  16:00-16:10

MMSE 24点以上のアルツハイマー病患者のスクリーニング検査において
立方体透視図模写課題が果たす役割について

古川はるこ1),津村麻紀1),阿部麟太郎1),青木公義1),伊藤達彦1)
橋爪敏彦1),加田博秀1),中西達郎1),笠原洋勇1),中山和彦2)

1) 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科,2) 東京慈恵会医科大学精神医学講座
 
【目的】
当院当科では平成3年より老人性認知症センターを担当しており,来所人数は年々増加傾向(平成15年では188名)にある.また,センター以外にも自主的に当科に来院する場合や,他院・当院他科からの紹介などもあり,受診の経緯は多岐に渡る.認知症には早期発見,早期治療が求められているが,かかりつけ医や他科では見逃されることも多い.そのため,総合病院の精神神経科にあっては,精神科受診につなげるまでの病院内での簡易なスクリーニング検査を整備することが必要である.また,プライマリケア医を育てるという大学病院の役割にあっても,より簡便で特異性のあるスクリーニング検査が求められている.立方体透視図模写課題は,認知症を含む脳器質性疾患において成績の低下が見られる課題であり,N式精神機能検査やADAS-Jcog,一部の日本語版MMSEなどにも含まれている.また,立方体透視図模写課題の成績低下が示唆するのは,主に頭頂葉の機能低下であり,その結果構成障害や視覚認知障害が生じるとされている.  今回,MMSE24点(Cut off point)以上の,検査上では正常値とされるアルツハイマー病患者の検査において,立方体透視図模写課題が果たす役割について,調査した.
【方法】
2004年4月より2005年3月に渡り,認知症の疑いで心理検査を施行したもののうち,MMSEの点数が24点以上で,医師による臨床診断がアルツハイマー型認知症であった,65歳以上の高齢者45名を対象とした.立方体透視図模写課題,MMSEの五角形模写課題,ベントン視覚記銘検査の正確数および誤謬数とMMSEの総得点および下位検査項目のPearsonの相関係数を算出した.
【倫理的配慮】
調査に際しては患者のプライバシーに関する内容は排除した.また,患者の権利に対して倫理的に十分に配慮した.
【結果】
ベントン視覚記銘検査の正確数および誤謬数とMMSE総得点に優位な相関が見られた(p<0.01).しかし,MMSE模写課題,立方体透視図模写課題の達成度は,他の検査との相関が見られなかった.
【考察】
立方体透視図模写課題はMMSEの模写課題や,MMSEの検査項目と異なった構成機能の障害を検出する可能性があることが推測された.当日はさらにデータを加え,立方体透視図模写課題とMMSEの模写課題の違いについても考察を加え,より詳細な形で報告したい.

PB-2  16:10-16:20

MMSE下位尺度とアルツハイマー病の臨床的重症度との関係

橋爪敏彦1),落合結介2),加田博秀1),古川はるこ1),津村麻紀1)
青木公義1),中西達郎1),笠原洋勇1),中山和彦3)

1) 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科,2) 高田西城病院,3) 東京慈恵会医科大学精神医学講座
 
【目的】
Mini-Mental State Examination(MMSE)の下位尺度(時間見当識,場所見当識,即時想起,遅延再生,言語,物品呼称,文の復唱,口頭指示,書面指示,自発書字,図形模写)各々と,アルツハイマー病(AD)の臨床的重症度との関係を検討する.
【方法】
痴呆の重症度を臨床的に評価する方法として,CDR(Clinical Dementia Rating)を使用し,正常(CDR 0)群,26例(男性6例,女性20例,平均年齢±標準偏差;70±8.3歳),痴呆疑い(CDR 0.5)群,33例(男性11例,女性22例,72.6±9.1歳),軽度AD(CDR 1)群,30例(男性9例,女性21例,77.0±6.3歳),中等度および高度AD(CDR 2&3)群は20例(男性4例,女性16例,74.6±8.6歳),計109例を対象としてそれぞれの群に対してMMSEを施行し,その下位尺度を4 群において比較検討した.統計学的検討は,因子抽出法による主成分分析を行った.
【倫理的配慮】
本人および家族に対し,上記の検査内容の説明を十分に行い同意を得た.
【結果】
MMSEの下位尺度における主成分分析では,「場所の見当識」「時間の見当識」「言語の逆唱」「遅延再生」の順に,総合点との親和性,相関性が高いこと,すなわち総合点を反映する要素であることが示された.さらに各CDRを反映する要素であることが示された.
【考察】
MMSEを施行するにあたり,ADの重症度を正しく把握できるか,その妥当性が考慮されるが,ADの臨床的重症度は,上記要素との関連において考慮されるべきものと思われた.

PB-3  16:20-16:30

幻の同居人妄想を呈する認知症患者のロールシャッハ反応

津村麻紀1),阿部麟太郎1),古川はるこ1),青木公義1)
伊藤達彦1),加田博秀1),橋爪敏彦1),笠原洋勇1),中山和彦2)

1) 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科,2) 東京慈恵会医科大学精神医学講座
 
【目的】
認知症においてはBPSDと言われる周辺症状が,家族と患者,あるいは介護する者とされる者の間の関係性に困難を与えている.特に認知機能の低下した者の心理過程を理解し対応することは難しく,このため外的な行動に対する評価に捉われがちになる.特に激しい精神症状は患者自身の負担や介護の阻害因子が考慮され早期の症状消失が求められる.しかし心理学的には,幻覚・妄想は患者が呈する感情メッセージであると考えられ,我々が患者理解を行うための手がかりとなり得る.一般的に幻覚・妄想には迫害的な不安や恐怖などの否定的感情が伴うことは容易に想像できるが,幻の同居人妄想(PBS: Phantom Boarder Symptom)においては必ずしも否定的感情が伴っているとは言いがたい内容もあり,この妄想が治療対象となり得るのかどうかということが問題となる.幻の同居人妄想とはRowan, E.L.(1984)の「人々が自分の家の中に住みついている」という老年女性の妄想の研究報告に端を発する,老年期の精神症状をさす.一部の研究者の間ではこの妄想に対する類型化の試みもなされているが,まだ研究の歴史は浅く,議論の余地がある.本研究では,この幻の同居人妄想がどのような認知機能の過程や心理過程によって発生しているのかを明らかにするために,投影法の心理検査を用い,数症例の検討を行った.
【方法】
外来通院を行う認知症患者で,認知機能検査およびロールシャッハテストの施行に同意した20名を対象とし,幻の同居人妄想を呈する認知症患者と幻覚妄想症状を呈していない認知症患者のRor.テストスコアとを比較した.
【倫理的配慮】
プライバシーにかかわる情報は削除した.
【結果および考察】
認知機能水準は,HDS-RおよびMMSEにおいて幻覚妄想症状のない認知症群よりも幻の同居人妄想群の方が2点程度低かった.Ror.テストのスコアにおいても幻の同居人妄想群の方がR+%とF+%が低いものの有意ではなかったが,W%やΣC,CRやDRにおいて高く,一部に有意な傾向が認められた.また一般に認知症患者のRor.テストではRejectionが多いとされているが,幻の同居人妄想群では有意に低い傾向が認められた.反応の内容においては,幻覚妄想症状のない認知症群では総じて反応が貧困であったのに対し,幻の同居人群では妄想的ではあるものの想像力あふれる豊かな反応が見られることが多く,「古代の衣装をまとってお祭りで行列している」のように細部にもよく反応して表現する者もいた.しかし「動物みたいな人間」「頭は鳥で魚の尻尾がある」などと反応が混交しやすく,情緒も明細化しにくい様子があった.Ror.テストにおいては認知症における現実適応の困難さを認めると同時に,幻の同居人妄想を呈する患者においては妄想がその人の欠損部分を補い自己愛を支える役割となっており,妄想が自我機能の一部としての建設的な意味を持つことが認められた.

PB-4  16:30-16:40

統合失調症高齢者と若年者の認知機能の比較

岩瀬真生1),高橋秀俊2),中鉢貴行1),関山隆史1),高橋清武1),石井良平1),栗本 龍1)
Leonides Canuet1),池澤浩二1),田伏 薫3),梶本修身4,5),志水 彰6),武田雅俊1)

1) 大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室,2) 第二けいさつ病院神経科・精神科
3) 浅香山病院,4) 大阪外国語大学保健管理センター,5) 総合医科学研究所,6) 関西福祉科学大学
 
【目的】
現在,全国で精神病院の入院患者は33万人おり,その大半は統合失調症である.1999年には65歳以上の統合失調症入院患者の割合は20%以上,50歳以上の患者は60%以上に達しており,長期入院患者の高齢化は深刻な状況を迎えている.入院患者33万人のうち7万人余りは社会的入院であり,受け入れ先が整えば退院可能といわれるが,入院患者の高齢化に伴う社会生活機能の低下が退院の妨げとなると予想される.そのため,長期入院患者の中から,退院可能な患者と退院困難な患者を鑑別する方法の開発は有用と考えられる.統合失調症の病態に加齢が与える影響について現在のところ一定の結論は得られていない.いくつかの研究により示唆されていることは,統合失調症の認知機能については,加齢と伴に認知障害は進行するものの,その程度は健常者と変わらないという意見が主のようである.近年,統合失調症の社会生活機能と認知機能との関連が重要視されるようになっている.今回,統合失調症の高齢患者と若年患者の認知機能を比較し,高齢統合失調症患者が持つ認知機能障害の性質を明らかにすることを目的として本研究を行った.
【方法】
高齢統合失調症患者6名(平均年齢58歳,男性2名,女性4名)と若年統合失調症患者6名(平均年齢21歳,男性3名,女性3名)に対し,WAIS-RとAdvanced Trail Making Test (ATMT)(図1)を行った.ATMTはTrail Making Testをコンピュータ化した課題であり,数字ボタンの位置が固定されたF課題と数字ボタンの位置がボタン押しごとに毎回ランダムに変化するR課題の二種類の課題により構成されている.ボタン押しの反応時間により認知作業速度を評価した.またF課題とR課題との成績比較により視空間作業記憶の評価を行った.
【倫理的配慮】
全例に文書により研究の主旨を説明し,文書による同意を得た.
【結果】
若年患者と高齢患者で教育歴,IQには差がみられなかったが,WAIS-Rの下位検査項目では,積木模様と符号において高齢患者で有意に成績が低下していた.また,ATMTではF課題,R課題とも高齢患者で有意に反応時間が延長していたが,視空間作業記憶には差がみられなかった.
【考察】
本研究はまだ予備的検討の段階であるが,高齢患者では主に認知作業速度に関連する課題で成績低下が最も顕著に見られた.先行研究でATMTの成績と社会生活機能のうちセルフケア能力,コミュニティースキル,ことばのわかりやすさとの関連が見出されており,高齢患者においてこれらの社会生活機能が障害されやすい可能性が示唆された.

SPECT

座長 :  篠崎和弘 ( 和歌山県立医科大学神経精神医学教室 )

PB-5  16:40-16:50

3DSRTを用いた99mTc-ECD Patlak Plot法による局所脳血流とFAB総得点との関連

吉田英統1),寺田整司1),久郷亜希1),大島悦子1),石原武士1)
阿多敏江1),石津秀樹2),佐藤修平3),黒田重利1)

1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学
2) 慈圭病院慈圭精神医学研究所,3) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医学
 

【目的】
frontal assessment battery(FAB)はDuboisらにより開発された,前頭葉機能の簡便なスクリーニング検査である.しかし実際に,テスト結果が脳のどの部位の機能を反映しているのかに関しての実証的な報告は少ない.本研究は,3DSRTを用いた99mTc-ECD Patlak Plot法による局所脳血流測定を用いて,FABの総得点に影響する部位を探索することを目的とした.
【方法】
2002年2月から2005年2月までに,岡山大学医学部・歯学部付属病院精神科神経科のものわすれ外来を受診した患者のうち,FABを施行し,ほぼ同時期(前後2週間以内)に99mTc-ECD Patlak Plot法による脳血流測定を行った症例65名を対象とし,後方視的に調査した.対象者は男性28名,女性37名であり,平均年齢は68.3才であった.脳血流SPECTは,トレーサーに99mTc-ECDを用い,自動ROI解析ソフトウェア(3DSRT)に導入し,標準化されたROIごとに局所脳血流をPatlak Plot法により求めた.局所脳血流とFAB総得点との相関を求め,さらにステップワイズ重回帰分析にてFABの総得点に影響する部位を検討した.
【倫理的配慮】
本人,介護者に対し研究の目的を説明し,書面にて同意を得た.また,個人情報が外部に漏れることのないよう細心の配慮をおこなった.
【結果】
左視床と左前頭葉への集積とFAB総得点の間に有意な正の相関がみられた.
【考察】
脳血流と心理検査の得点との関連については,SPECTの解像度が低く,明確な結論を得られないことが多い.今回の結果では,ROIはMRIを基に標準化されており,より信頼性が高いと考えられ,左視床と左前頭葉の血流低下とFAB総得点が相関している可能性が示された.

PB-6  16:50-17:00

3D-SSPによるアルツハイマ病のintrasubjectの再現性の検討;最大値参照法を用いて

石渡明子1),水村 直2),北村 伸3),片山泰朗1)

1 日本医科大学神経内科,2 日本医科大学放射線科,3 日本医科大学武蔵小杉病院内科
 

【目的】
アルツハイマー病に対するSPECTを用いた脳血流評価法として3D-SSP(three-dimensional stereotactic surface projection technique)などの統計学的画像評価法が広く用いられている.しかし,脳集積の標準化をするプロセスで参照領域が小さいために生じる集積のバラつきや,病期の進行に伴うびまん性血流低下によって得られる統計学的な結果は不安定になる.特に進行例では同程度の痴呆スケールであっても統計画像結果は一定しないことを経験され,より再現性のある評価方法がのぞまれる.
【方法】
我々は123I-IMP SPECTを施行したアルツハイマー病患者(n=18)を対象とし,MMSE (Mini Mental State Examination)により病期がほぼ同一と考えられる3群(A群;n = 6,MMSE = 23 +/−1,B群;n = 6,MMSE= 16 +/−1,C群;n = 6,MMSE= 10 +/−1)に分類した.各群において最大値参照法(max count reference method)と従来法のどちらが異常Z-scoreを持つ座標の広がりのばらつきが少ないかを検討した.最大値参照法とは,得られたSPECT画像に対し3D-SSPの脳表画像の全座標データの上限値を正常血流と仮定,解剖学的な部位によらない最大10%座標データ値を参照・標準化するアルゴリズムを用いた.また従来法では同データをもとに全脳(GLB),小脳(CLB),視床(THL)および橋(PNS)の集積の平均値を参照とした.個々の症例で,最大値参照法と従来法に於いてZ = 1.64以上のZ-score値を示したピクセルの大脳半球における占有率を算出し,各群でCV値を求めた.尚,対象者には本研究の目的及び内容について十分説明し,参加の同意を得た.
【結果】
それぞれのCV値はA群;最大値参照法0.27,従来法 0.38(GLB),0.36(CLB),0.39(THL),0.35(PNS),B群;最大値参照法 0.46,従来法0.63(GLB),0.59(CLB),0.48(THL),0.96(PNS),C群;最大値参照法0.18,従来法 0.22 (GLB),0.38(CLB),0.51(THL),0.34(PNS)であった.
【考察】
いずれの病期においても,最大値参照法は従来法と比較して病変部位の広がりのばらつきが少なく,これはintrasubjectの再現性の高さを示唆するものであった.またC群でmax count reference methodでのCV値が最小値を呈していたことは,アルツハイマー病の病期が進んだ症例では,従来法でreferenceとする部位の血流の低下の関与が予測され,max count reference methodはより病期の進行した症例での再現性に優れていると考えられた.

PB-7  17:00-17:10

アルツハイマー病患者の外来初診時における臨床症状、認知機能検査、SPECTの関連性

青木公義1),阿部麟太郎1),伊藤達彦1),橋爪敏彦1),加田博秀1)
中西達郎1),古川はるこ1),津村麻紀1),笠原洋勇1),中山和彦2)

1) 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科,2) 東京慈恵会医科大学精神医学講座

【はじめに】
当院では1991年11月1日に認知症センターが開設され,物忘れ診療を行っている.来院患者は毎年増加傾向にあり,中でもアルツハイマー病(Alzheimer’s Disease:AD)の増加が目立っている.ADの診断は認知機能障害の経過やその他の臨床症状についての詳細な問診とともに認知機能検査(Mini-Mental State Examination :MMSE,Alzheimer’s Disease Assessment Scale :ADAS-Jcogなど),脳画像検査(頭部CT,頭部MRI,Single Photon Emission Computed Tomography:SPECT),血液生化学検査などによって評価がなされている.今回我々は上述の診断に沿いADと判断された症例の初診時における臨床症状,認知機能検査,SPECTの関連性について検討した.
【対象と方法】
対象は62.6歳±9.5(平均±SD),男性4名,女性8名の計12名で,CDR(Clinical Dementia Rating),FAST(Functional Assessment Staging),MMSEの平均値はそれぞれ2.5±2.5,2.6±0.9,24.9±4.0であった.SPECT画像の統計処理には3DSRT ver3(three-dimensional stereotactic ROI template)を用いて各ROI(Region of Interest:関心領域)の局所脳血流量(regional cerebral blood flow :rCBF)を定量化した.さらに松田によって作成された99mTc-ECDパトラックプロット法による血管支配領域別脳血流正常値(3DSRT ver3)を参考にして各ROIのrCBFとの比を算出し,この数値を用いて解析を行った.認知機能検査および各ROIのrCBFとの関連性を検討するために各々の組み合わせに対してPearsonの相関係数を算出した.また初診時におけるうつ症状の有無により対象を「うつ症状有り群」(対象7名,66.6歳±9.1,男性3名,MMSE23.7±3.1)と「うつ症状なし群」(対象5名,57歳±7.5,男性1名,MMSE26.6±4.7)に分け,それぞれの認知機能検査と各ROIのrCBFの平均値の差を比較するためにStudentのt検定を用いた(SPSS 11.5).
【倫理的配慮】
本報告にあたっては患者の権利,プライバシーに対して倫理的に十分な配慮を遂行した.
【結果と考察】
認知機能検査および各ROIのrCBFとの関連性ではMMSE総得点と両側の脳梁辺縁,中心前,側頭,脳梁周囲において正の相関関係(p<0.01)が示された.うつ症状の有無で対象を2群に分け比較した結果は,両側脳梁周囲と左側中心,頭頂,角回で有意差(p<0.05)が認められた. 上記結果が示唆されたが,当日はさらに症例数を増やし検討を加える予定である.
 

PB-8  17:10-17:20

e-ZISによるアルツハイマー型認知症患者の前頭前野血流低下とうつ症状の関連についての検討

秋山尚徳1),橋本博史1),河邉譲治2),東山滋明3),甲斐利弘4)
片岡浩平1),井上幸紀1),塩見 進1),切池信夫1)

1) 大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学,2) 大阪市立大学大学院医学研究科核医学
3) 大阪市立大学大学院医学研究科放射線医学,4) 大阪市立総合医療センター精神神経科
 

【目的】
近年の神経画像研究により,うつ病者では前頭前野や前部帯状回における脳血流低下がみられることが報告されている.アルツハイマー型認知症(DAT)では,しばしばうつ状態を合併することが知られているが,認知障害のため,うつ症状の評価が困難になる場合も多い.DATのうつ状態の生物学的基盤は明らかではないが,客観的な指標があれば臨床上有用である.今回,DATと診断された症例に対し,SPECT検査およびNeuropsychiatric Inventory (NPI)を施行し,統計学的脳画像解析ソフト(easy z-score imaging system : e-ZIS)を用いて,前頭前野,前部帯状回の血流低下とうつ症状の関連について検討した.
【方法】
対象はDiagnostic and Statistical Manual of Mental disorder, Fourth Edition(DSM-?)にてDATと診断され,抗うつ薬を服用していない20例である.SPECT検査はTc-99m -ethyl cysteinate dimmer(Tc-99m-ECD)740 MBqを安静時に静注し,投与直後より大視野ガンマカメラにて2分間の経時的収集を行い,投与ほぼ30分後より3検出器型SPECT装置東芝社製GCA9300HGにて画像収集を行った.その後Patlak Prot法により大脳平均血流量を算出後,Lassenの補正式を用いて局所脳血流を示す定量画像を作成した.定量画像データをPCに転送し,3DSSPにて後部帯状回・楔前部における血流低下の存在を確認した.DAT患者のうつ症状の評価についてはNPIの不快/うつ項目を用いておこなった.NPIにより,うつ症状が合併するとされた群(D+群: n=10: 平均年齢71.0歳)とうつ症状の合併がないとされた群(D−群: n =10: 平均年齢74.8歳)の2群に分類した.DAT患者の脳血流低下の程度については,e-ZISによって解析した脳画像上の左・右前頭前野,左・右前部帯状回の4カ所のそれぞれにおいて,健常高齢者と比較してz値が5 SD以上の血流低下を示す部位を認める場合は2点,2〜5 SDの低下を示す場合は1点,2 SD未満の血流低下は0点とし,4カ所の点数の合計点を全例において求め,これを両群間で比較した.
【倫理的配慮】
本研究の内容については,本人および家族に十分に説明した上で,文書にて同意をえた.
【結果】
D+群の合計点は最小値0,最大値5,平均2.90点であり,D−群の最小値0,最大値4,平均1.30点と比較して有意に高値を示した(P<0.05) .(Mann-WhitneyのU検定)
【考察】
今回の結果から,DAT患者におけるうつ症状の発現に,前頭前野,前部帯状回の血流の低下が関連している可能性が示唆された.

画像検査

座長 :  一宮 厚 ( 九州大学健康科学センター )

PB-9  17:20-17:30

アルツハイマー型認知症診断前後の海馬萎縮と記憶機能障害の変化;3年間の縦断的研究

関野敬子,渡部廣行,宇田川至,荻野あずみ
田中絢子,阿藤昌則,岡崎味音,山口 登

聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
 

【目的】
アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s type dementia ; ATD)診断前後の海馬面積および記憶・認知機能の変化を明らかにし,ATDの予知および早期診断の可能性について検討する.
【方法】
対象は物忘れを主訴に聖マリアンナ医科大学病院神経精神科を受診した22名である.初回診察時の診断(DSM-?)による内訳は非認知症群11名,ATD群11名である.3年間の追跡により,非認知症群は,非認知症のまま経過した者を?群,ATDに移行した者を?群,また初回診察時よりATDであったATD群を?群と分類した. 初診時と3年後に,形態学的変化として頭部MRI冠状断像における海馬面積計測を行い,海馬萎縮の指標として左右の海馬面積の和{H(cm2)}を頭蓋内面積{C(cm2)}で除した値(H/C)を用いた. また,認知機能評価として改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)およびSt. Marianna University’s Computerized Memory Test(STM-COMET);下位項目 直後自由再生(IVR),遅延自由再生(DVR),遅延再認(DVRG),memory scanning test(MST):反応時間, memory filtering test(MFT)を行った.
【倫理的配慮】
本研究は聖マリアンナ医科大学病院生命倫理委員会承認の上,全ての対象者および家族に研究の主旨を説明し,書面で同意を得た.
【結果】
1)H/Cにおいて,初診時にII群はI群に対して既に有意に低値であり,II群とIII群間には有意差を認めなかった.3年後には3群とも減少し,II群とI群間の有意差はより顕著に認められた.
2)HDS-Rにおいて,初診時では,I群,II群,III群の順に高値であり,I群とIII群との間にのみ有意差を認めた.3年後には,II群,III群の得点は初診時に比較して低下しており,両群ともI群と比較して有意差を認めた.
3)STM-COMETにおいて,IVR・DVRは,初診時に,I群,II群,III群の順に高値であり,II群,III群はI群に対して既に有意に低値であった.II群とIII群の間に有意差は認めなかった.3年後にも同様の有意差を認めた.DVRGは,初診時では,I群,II群,III群の順に高値であり,I-III群間にのみ有意差を認めた.II群はI群との間に,初診時には有意差を認めなかったが,3年後には有意差を認めた.MST・MFTは,初診時いずれも有意差を認めなかったが,3年後には,MSTにおいて,II群およびIII群はI群に対して高値傾向(反応時間延長)が窺えた.
【結論】
以下のことが示唆された. 1)海馬萎縮と,直後自由再生,遅延自由再生はATDのpredictorとなる. 2)ATD診断前後で遅延再認は有意に低下し,MSTで反映される精神的敏捷性は低下傾向にあり,ATDの診断基準にある社会的または職業的機能の著しい障害の出現と関係する.

PB-10  17:30-17:40

精神病症状を呈しMIBG心筋シンチグラフィーで低集積を示した6症例

小林克治1),杉盛かおる1),島崎正夫2),中野博之3),越野好文1)

1) 金沢大学大学院脳情報病態学,2) 国立病院機構北陸病院神経精神科,3) 高岡市民病院神経精神科
 
【目的】
Meta-iodobenzylguanidine(MIBG)心筋シンチグラフィーは一次性レビー小体病の機能画像診断に有用であることが検証されてきた.神経症状を欠く一次性レビー小体病はpure psychiatric presentationと呼ばれ,神経症状の発現に先行して精神病症状呈するために機能性精神病との鑑別が重要である.今回,うつ状態,不安症状,幻聴,幻視などの精神症状を呈し,MIBGの低集積を示した6症例の臨床プロフィールを報告する.なお,対象者に本研究の目的及び内容について十分説明し,参加の同意を得た.
【方法】
精神病症状を呈し受診した74歳から81歳の男性2名,女性4名.
【結果】
6症例のパーキンソン症候は極めて軽度で,軽度の筋強剛が2症例に認められただけで姿勢反射障害,振戦はみられなかった.精神症状(のべ症例数)では幻視が5例,幻聴が1例,記憶障害3例,うつ病1例,不安障害が1例であった.全症例でMIBGの高度の集積低下がみられ,後期の心縦隔比(H/M比)は1.00から1.31であった.Mini-mental state examination(MMSE)による認知機能評価では20点から29点であった.Case 2では軽度の海馬萎縮がありアルツハイマー病が合併した可能性がある.Case 3では幻視がなくうつ状態に不安症状を呈した症例で,パーキンソン病発症前の精神症状である可能性がある.SPECT所見では2症例でレビー小体病としての定型的所見がみられたが,2症例で側頭葉に強い血流低下,1症例で血流分布異常はみられなかった.幻聴を呈した症例では側頭葉に強い血流低下がみられた.幻視を呈しても後頭葉の血流低下を示さなかった症例が3症例あった.
【考察】
パーキンソン病やレビー小体病の神経症状発症に先立ち精神症状を呈する症例において,MIBG心筋シンチグラフィーにより高齢で初発した精神病症状を持つ一次性レビー小体病の鑑別診断が容易である.SPECT所見は幻視,幻聴に対応した所見を呈していると考えられる.

PB-11  17:40-17:50

アルツハイマー型認知症早期診断におけるVSRADの臨床的有用性の検討

杉山恒之1),柳田 浩1),山口 登1),天本 宏2)

1) 聖マリアンナ医科大学神経精神科,2) 新天本病院
 
【緒言】
VSRAD(Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer’s Disease)はアルツハイマー型認知症(Alzheimer Type Dementia:ATD)早期診断を目的として松田らにより開発された頭部MRI画像処理・解析ソフトである.各個人の脳容積を標準脳に合うように変形することで個人差をなくし,健常高齢者の大脳灰白質容積のデータベース(D.B)と比較される.D.Bと比較した灰白質の容積低下の部位・程度を色分けし,表示することで評価者の主観によらない客観的評価が可能である.さらにATD患者において早期より萎縮を認める海馬傍回を関心領域として定めることで,その萎縮度を数値化(Z-score)することが可能である.
【目的】
アルツハイマー型認知症早期診断におけるVSRADの臨床的有用性の検討をする.
【方法】
対象は新天本病院もの忘れ外来を受診しATD以外の認知症性疾患および精神障害の合併および頭部MRI画像上明らかな脳梗塞の存在が除外された57名である.その内訳はDSM-?の診断基準によりATDと診断された47名(男性10名,女性37名,平均年齢80.0歳,改訂長谷川式簡易知能評価スケール : HDS-R平均得点18.4点)および非認知症者(Non-Dementia:ND)10名(男性2名,女性8名,平均年齢77.5歳,HDS-R平均得点25.8点)である.MRIは1.5 TesraのPhilips社製装置を用い,矢状断像における1.5mmスライスの全脳撮像を行う.撮像されたMRI画像をコンピューターに取り込み,画像解析ソフトウェアとしてVSRADを用いて自動解析を行った.
【倫理的配慮】
対象者および家族に研究の主旨を説明し文書にて同意を得た.
【結果】
(1)ATD群のZ-scoreは2.87±0.84でありND群のZ-score 2.0±0.8 に比べ有意に高値であった(p<0.05).
(2)対象者57名のHDS-R得点とZ-scoreの間に負の相関を認めた(p<0.05).
(3)Functional Assessment Staging(FAST)により重症度分類したところ,FAST 2とFAST 4の対象者の間および FAST 3とFAST 5の対象者の間でZ-scoreに有意差を認めた.
【考察】
Z-scoreはATDの早期診断補助として有用であることが示唆され,さらに認知機能障害の程度に相関があることが明らかになった.しかし,ND群の中にはZ-scoreが高値であるものも存在するため,今後縦断的な追跡評価およびNDとATDの間のカットオフ値を検討していく必要がある.

PB-12  17:50-18:00

著明な前頭葉血流低下を示したうつ病女性の一例

町田なな子,上田 諭,高橋正彦,小山恵子

東京都老人医療センター
 
【目的】
反復性うつ病の経過中に情緒交流性の乏しさ,常同傾向,考え無精,夜間に増悪する不安・焦燥,抗うつ薬による副作用の出現しやすさが出現し,脳血流シンチグラフィーで明らかな前頭葉の血流低下を呈した81歳の女性の一例の治療経過を報告し診断について検討した
【方法】
<症例>
N.S. 81歳女性
<現病歴> 
63歳時に子宮癌発症を契機にうつ病を初発し,2度のうつ病相はamoxapineの増量で軽快した.4年間の寛解期間後に3度目のうつ病相が再燃し,amoxapineが増量されたがアカシジアが出現,常同傾向や考え無精,夜間の不安・焦燥も出現したため当科を初診し,改善しないため入院した.
<入院後経過>
入院後数日間は夜間の不安・焦燥の増悪と激しいせん妄を示した.情緒交流性の乏しさや考え無精,常同傾向も顕著に認められた.milnacipranの増量により強い口腔内乾燥が出現したため薬物治療を続行できず電気療法に切り替えて計8回施行した.
【倫理的配慮】
匿名性の保護のために症例の本質と関わりのない箇所を一部改変した.
【結果】
電気療法の施行により抑うつ気分や不安・焦燥が著明に改善,消失した.一方で常同傾向,情緒交流の乏しさ,考え無精は改善しなかった.抑うつ症状が改善する前後における前頭葉血流低下所見に変化は全く認められなかった.
【考察】
高齢期にうつ病を初発した女性において,著明な前頭葉血流低下所見と前頭葉症状を呈し,電気治療によりうつ状態が改善した後も脳血流所見が不変であった一例を経験した.一連の経過から,反復性うつ病の経過中に,前頭側頭型認知症の初期病像が合併している可能性が考えられた.