6月30日 オリオン 5F 一般口演発表

シンポジウム関連演題・疫学I

座長 :  須貝佑一 ( 認知症介護研究・研修東京センター )

I3-1 9:00-9:15

新潟県糸魚川市におけるCDR0.5の高齢者についての7年後の追跡調査結果

中村紫織1),繁田雅弘2),岩元 誠3),角 徳文1),杉村共英3)
中山和彦1),川室 優4),新名理恵5),本間 昭5)

1) 東京慈恵会医科大学精神医学講座,2) 首都大学東京健康福祉学部,3) 清川遠寿病院
4) 高田西城病院,5) 東京都老人総合研究所認知症介入研究グループ
 
【目的】
軽度認知障害(MCI)は正常と認知症の境界状態であるとされるが,その診断基準はまだ十分なコンセンサスを得ていない.一方,Clinical Dementia Rating(CDR)における0.5との判定は,MCIとともに極初期の認知症を含むものの,MCIの判定基準よりも再現性が高いとされている.我々は1997年に新潟県糸魚川市で,在宅高齢者における認知症の有病率を調査した.その際にCDR0.5に該当した高齢者について,その後の経過を検討する目的で,今回追跡調査を行った.
【方法】
1997年の糸魚川市での認知症の有病率調査は,地域住民33,120人のうち,65歳以上の在宅高齢者7,847人を対象とした悉皆調査であった.一次調査では6,394人から有効回答を得て,914人が認知症を疑われた.認知症を疑われなかった5,480人の中から無作為に抽出された200人を加え,合計1,114人に二次調査を実施した.829人から有効回答を得て,271人が認知症と診断された.認知症の有病率は6.2%で,アルツハイマー型認知症(AD)では4.0%,血管性認知症(VaD)では1.2%であった.
この調査において,252人の高齢者がCDR0.5に該当したが,認知症の診断基準は満たさなかった.これらCDR0.5群を,本人・家族・介護者・保健師等の情報から,その1年前の本人との比較で進行性の認知機能低下が認められた群(“progressive group”)と,1年前との比較では特に変化は認めないと判断された群(“stable group”)に分類した.その結果,100人がprogressive groupに,152人はstable groupに分類された.今回はこの252人を対象に前回と同様の調査を実施した.なお調査医師は対象者がどちらの群に該当するかは知らされていなかった.
【倫理的配慮】
本研究は,東京慈恵会医科大学の倫理委員会に承認を得て行った.人権・プライバシー保護には十分に配慮し,対象者の情報,調査結果は匿名化され,研究目的以外に利用されることはないことを本人及び家族に説明の上,同意を得て実施した.
【結果】
2004年9月1日を調査基準日としたところ,1997年の調査でCDR0.5に該当した高齢者252人のうち,79人は死亡していた.173人の生存者のうち,111人(64.2%)から有効回答を得た.そのうちprogressive group の39人(35.1%)においては,34人(87.2%)が認知症と診断され,そのうちAD14人(41.2%),VaD14人(41.2%)であった.一方,stable groupの72人(64.9%)においては,44人(61.1%)が認知症と診断され,AD29人(65.9%),VaD9人(20.5%)であった.
【考察】
7年前にCDR0.5と判断された対象者111人のうち,78人(70.3%)が認知症と診断された.この78人を1年間での進行性の認知機能低下の有無によってprogressive groupとstable groupに分けて検討した結果,前者では後者よりも認知症に進行している割合が高かった.CDR0.5に該当するというだけではなく,短期間における進行性の変化の有無を検討することは,認知症への進行を予測する上で有効ではないかと考えられた.
 

I3-2 9:15-9:30

若年性認知症の疫学的研究

谷向 知1),水上勝義1),朝田 隆1),宇野正威2)
山下典生2),木村通宏3),中野正剛4)

1) 筑波大学臨床医学系精神医学,2) 国立精神・神経センター
3) 順天堂東京江東高齢者医療センター,4) 福岡大学第五内科
【背景と目的】
若年性認知症は高齢発症の認知症に比べて,心理的側面や経済面など本人および家族にあたえる影響は大きい.しかし,わが国におけるアルツハイマー病(AD)をはじめ若年性認知症の疫学的データは乏しい.われわれは,若年性認知症(初診時年齢が65歳未満と定義)の疫学を明らかにする目的で,1)若年性認知症の基礎疾患の頻度,2)若年発症のADにおけるアポリポ蛋白E遺伝子(APOE)多型の頻度,3)家族負因(両親がどの程度の割合で認知症であったか),について検討した.
【対象と方法】
国立精神・神経センター武蔵病院もの忘れ外来(武蔵)を1995年9月から2001年3月の間に,筑波大学附属病院もの忘れ外来(筑波)を2001年8月から2005年1月までの間に受診し,診察の結果認知症と診断された受診時65歳未満の全患者を対象とした.
1)問診,神経心理学的検査,MRIとSPECTを含む脳画像検査の結果に基づき認知症の鑑別を行い基礎疾患を確認する.
2)インフォームドコンセントが得られた対象者からは採血を行い,APOE多型の解析を行った.
3)危険因子等に関する調査を行い,遺伝歴,ことに両親における認知症の発症の有無と発症の年齢について回答を求めた.
なお,これらについては無作為に抽出した対象においてテスト・再テストを施行して回答の信頼性を確認した.
【倫理的配慮】
本研究は武蔵,筑波それぞれの倫理委員会で承認され,遺伝子解析については書面によるインフォームドコンセントを得て実施した.
【結果】
対象となる若年性認知症患者は322名(武蔵216名,筑波106名).母集団となる武蔵のサンプリング総数は何らかの認知症患者1002名,正常者651名の計1653名である.筑波大学では認知症患者439名,正常者155名の計594名である.若年性認知症322名の初診時年齢は59.2±4.6歳,推定発症年齢は55.9±4.7歳であった.
1)認知症の基礎疾患としてはAD 73%(236名),その他の変性々認知症22%(71名),脳血管性認知症4%(12名),混合型認知症1%(3名)であった.
2)文書による同意の得られたAD患者228名において,APOE多型は2/3が8名,2/4が1名,3/3が122名,3/4が62名,4/4が35名であった.ε4アレルを有していた対象者は43%であり,従来わが国で発表された晩発性孤発性AD患者の頻度と同程度であった.
3)AD患者の遺伝的負荷:親に限った遺伝歴は28%の対象でみられた.これらの25%では親の認知症発症年齢が65歳以下と推定された.なお正常対照群では,親に限った遺伝歴は16%であった.
【結論】
若年性認知症の3/4はADと診断されていた.若年性AD患者のAPOEε4の出現頻度は決して高いものではなかった.親が若年性認知症で若年性ADを呈したものは7%であった.ADにおける家族内集積は10−20%といわれているが,若年発症するAD患者では親の発症年齢にかかわらず28%と強い遺伝負因の存在が想定された.
 

I3-3 9:30-9:45

老年期女性の自殺について−長野県と全国調査の比較検討から−

清水裕美1),天野直二2)

1) 国立病院機構小諸高原病院,2) 信州大学医学部精神医学教室
 
 自殺者数の増加が社会問題として取上げられるようになってから久しい.警察庁の報告1) では,自殺者数は平成10年にはじめて総数3万人を超えた.以降,3万人前後を推移し,平成16年には32,325人となった1).厚生労働省は,この増加から自殺問題を深刻に捉え,平成12年に策定された「21世紀における国民健康づくり(健康日本21)2)」のなかで,平成22年までに自殺者数を2万2,000人以下に減らすことを目標とした.しかし,この健康日本21では,目標値の実現に関する具体的な対策は示されておらず,その推進のために,都道府県に対して地域の実情に応じた取り組みを要請するものとなっている.策定後5年を経て,都道府県の地方計画において,自殺予防対策の取り組み状況は地域によって差異があるのが現状である3).
今回われわれは長野県警察本部が行った県内における自殺の調査をもとに,高齢者の自殺者数,自殺率,自殺と各年齢階級別の配偶状況との関係について検討した.なかでも老年期の女性の自殺について注目し,長野県と日本全国の比較検討を加えた.
その結果として,
(1)長野県,全国ともに中高年男性を除くと,高齢者に自殺が多い.
(2)特に高齢者の女性で増加する.
(3)単身者に自殺が多い.配偶関係については,男性と女性で差異が認められる.
という3点の特徴があげられた.老年期女性の自殺者数と自殺率は,長野県も全国と同様に,加齢とともに増加する傾向を認めた.また長野県警の調査により,60歳以降における5歳階級・配偶関係別の自殺者数が明らかになった.高齢者において,5歳階級別に100歳までその関係を調べた報告は,筆者の知る限りこれまでにはない.配偶状況と自殺者数の関係は男女,各年齢階級で差異が生じた.男性は有配偶者に自殺が多いが,女性は夫の死別者に自殺が多く,その傾向は高齢になるにつれて顕著となった.
以上から夫との死別が同居,独居に関わらず,深刻な孤立感や孤独感をもたらし,うつ状態を増悪させ,自殺に追い込むと考えた.なお,自殺者の生活環境や,夫と死別した時期の調査は行っておらず,今後の課題である.

1)警察庁生活安全局地域課:平成16年中における自殺の概要資料.警察庁(2005).
2)厚生労働省:21世紀における国民健康づくり(健康日本21).厚生労働省(2000).
3) 総務省行政評価局:自殺予防に対する調査 結果報告書.総務省(2005).
 

I3-4 9:45-10:00

わが国の一般生活者における認知症の病名告知に対する希望に関する探索的検討

安部幸志,荒井由美子

国立長寿医療センター研究所長寿政策科学研究部
 
【目的】
近年,認知症の早期診断,早期治療の重要性に対する認識はますます高まっているが,治療の前提となる病名告知に関しては,未だ多くの問題が残されている.多くの患者は告知を希望することが報告されているが,病名告知が患者に及ぼす不安や混乱などの心理的影響については,ほとんど知られていない.そこで,本研究では,一般生活者を対象に,認知症の病名告知の希望および予想される告知後の心理的状態を明らかにすることを目的として調査を行ったため,報告する.
【方法】
社会情報サービス(SSRI)が管理する一般生活者パネルより割付法を用いて抽出した2,224名を対象に自記式質問紙調査を行った.本研究では有効であった2,012名の回答をもとに分析を行った.
【倫理的配慮】
本研究では対象者となった者に対して,研究及び調査に関するインフォームドコンセントを行った.その結果,すべての対象者から自筆による同意書を得た.また,質問紙調査はすべて無記名で行い,個人が同定されないよう配慮した.
【結果】
認知症の病名告知について,自分に「認知症であること」を知らせてほしいと回答した者は81%,知らせてほしくないと回答した者は19%であった.また,「認知症であること」を知らせてほしいと回答した者のうち,医師から説明を受けたいと回答した者は83%,家族から説明を受けたいと回答した者は17%であった.
告知後の心理的状態に関する回答を表に示す.
認知症の病名告知後に予想される気持ちとして,もっとも多かったのは「夫・妻や子どもに,自分の介護で負担をかけるのがつらい」であった.また,同じく「夫・妻や子どもに精神的な不安を感じさせるのがつらい」や「夫・妻や子どもに,経済的な面で負担をかけるのがつらい」といった家族に不安や負担をかけることに関して,予想されるとの回答が多かった.χ2検定の結果,認知症の病名告知との関連が認められた項目は上記の項目に加え,「とてもショックで,何も考えられない」,「家族の今後の生活のことが心配になる」,「周囲の人から認知症患者として扱われるのが嫌」の3項目であった.
【考察】
認知症の病名告知に関して,一般生活者の8割以上が告知を希望しているが,一方で家族の迷惑になることに不安を感じていることが明らかとなった.今後,病名告知を進めていくためには,告知後のサポートを含めた社会的資源のさらなる充実が必要となると考えられる.
 

シンポジウム関連演題・疫学II

座長 :  木下利彦 ( 関西医科大学精神神経科教室 )

I3-5 10:05-10:20

2年間の介入がMCIの記憶能力へ及ぼす影響について―利根町研究―

加藤守匡1),坂巻裕史2),本山輝幸2),朝田 隆3),征矢英昭2)

1) 山形県立米沢女子短期大学健康栄養学科,2) 筑波大学大学院人間総合科学研究科運動生化学研究室
3) 筑波大学臨床医学系精神医学
 
【目的】
MCIはADへの移行段階であり,近年ではこの状態の治療の試みがAD移行への抑制及び遅延に効果を有するかの検討が様々に加えられている.我々は,MCI群と健常者群の運動能力及びストレスホルモンを比較した結果,MCI群では加速度計を用いて測定した身体活動量に低下が認められた.これは,加速度計用いた身体活動量の測定が,運動能力から見たMCIの特徴を表す指標に成りえることを示唆している.本研究では茨城県利根町において実施された介入調査の中で,運動及び栄養介入に参加したMCIを対象に介入による記憶能力改善の有無,記憶能力の変化に関連する運動能力及び個人特性について検討した.
【方法】
利根プロジェクトの対象者である2001年5月1日現在で利根町に在住している高齢者で介入参加の同意が得られた327名うちMCI16名(男性7名,女性9名)を最終的な対象とした.介入期間は2003年6月から2005年5月までの2年間であり月に2回ずつ計6回,1回1時間の運動集会と家庭での軽運動を実施した.認知機能はファイブコグテストを用いて評価し,介入1年前,介入直前,介入1年後,介入2年後の4回の測定を実施した.運動能力は,脚筋力,有酸素性能力,反応時間を測定し,個人特性として身体活動量,尿中コルチゾール値,形態として身長,体重,BMIを評価した.身体活動量は,加速度センサー付き歩数計(Calorie Counter e-style,スズケン)を1週間装着し4秒毎に算出される数値から1週間分の平均身体活動量を求めた.また,家庭での軽運動実施量と,月に6回行われる運動集会への参加回数も評価項目とした.
【倫理的配慮】
本研究は筑波大学倫理委員会の承諾を得ており,実施に際しては書面により同意を得た後に実施した.
【結果】
記憶スコアは介入により有意な増加が認められた(介入1年前8.8±1.2,介入直前5.3±1.1,介入1年後9.3±1.9,介入2年後11.7±1.7).介入前後の比較では,身体活動量の有意な増大(介入直前1571.5±197.5kcal,介入2年後1720.8±216.3kcal),尿中コルチゾール濃度(介入直前48.2±8.8mg/gCr,介入2年後21.4±6.6 mg/gCr)及びGDSスコア(介入直前3.2±2.3,介入2年後2.3±3.2)の有意な低下が認められた.介入による記憶スコアの変化量は,選択反応時間及び身体活動量の変化量と関連が認められた.
【考察】
本調査の結果から,MCIの記憶能力は介入により改善しうる可能性が示唆された.さらに,この記憶能力の変化は,身体活動量と関係が認められたことから日常の身体活動を高めることがMCIの記憶能力の改善に貢献することが推察された.過去,横断的調査からもMCIの身体活動量は健常者に比較して低値を示すことを確認しており,身体活動量の測定は,運動能力面から見たMCIの状態評価に有用であると推察された.
 

I3-6 10:20-10:35

軽度アルツハイマー型認知症への認知リハビリテーションの効果判定

森 朋子1),中野倫仁1),吉田 拓2),畠山佳久2),齋藤利和2)

1) 北海道医療大学大学院心理科学研究科,2) 札幌医科大学医学部神経精神医学講座
 
【目的】
軽度アルツハイマー型認知症(ATD)の認知機能と日常生活動作(ADL)の改善を図るために,塩酸ドネペジル未投与,または投与12週以降の患者に,間隔伸長法と構成課題を用いた認知リハビリテーション(以下認知リハ)を組み合わせて実施することによって,認知機能の維持・改善とADLの改善を得る可能性と効果を検証することを目的とする.
【方法】
ATD患者のうち,MMSEで16から22,45歳以上,主たる介護者による症状評価可能な方に,認知リハとプラセボの両方を割り当てる被験者内実験計画を行った.介入は各5セッション週1回1時間とし,実験前,5セッション終了時,実験後に認知機能検査(MMSEとADAS -J.cog.)を行った.効果判定への影響を回避するために認知リハの課題と認知機能検査との重複を避けた.また,主介護者によるZarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI_8)とDADの評価を行い,介護負担感とADLについても評価した.認知リハの内容は,ATDの初期症状に焦点を当てて,間隔伸張法(顔-名前連想)と構成課題(磁石積木,形と色の組み合わせ紐通しなどのモンテッソーリ教具を用いる)を採用した.プラセボ介入としては,認知機能への影響が軽微な非構造的な会話としたが,会話内容の統制を図るために,「テレビ回想法」のビデオを適宜用いて,同一内容にするように配慮した.
【倫理的配慮】
本研究は,北海道医療大学心理科学部倫理委員会,および札幌医科大学倫理委員会の承認を得ている.実施に際しては,対象の患者,介護者に対して口頭および書面で研究目的・内容・個人情報の取り扱い等の説明をし,自由意志に基づく書面での同意を得た.
【結果】
エントリー基準を満たした対象者7名(男4,女3,平均年齢78.6歳,平均MMSE18.3点)は,認知リハとプラセボ介入の両方を受け,介入前後にMMSEとADAS-J.cog.の検査を受けた.介護者7名(妻3,夫2,嫁1,娘1,平均年齢70.0歳)は,介入前後にJ-ZBI_8,DADの評価をした.認知リハ群とプラセボ介入群で各々の介入前後の得点変化量を比較した.どの検査項目においても認知リハ群の方がプラセボ介入群よりも改善傾向を示し,特にADAS-J.cog.での効果が大きかった.また,J-ZBI_8では否定的な感情が高得点だった介護者で改善傾向が認められる例が存在した.MMSEとDADでの変化量は小さく,介入の効果は乏しかった.
【考察】
ATDへの介入で,間隔伸長法と構成課題訓練の2つを組み合わせ,5週間の短期介入を行ったところ,認知機能の改善が図られる可能性が示唆された.評価は塩酸ドネペジルなどの薬物療法の評価法に準じて行ったが,非薬物療法においても認知機能の維持・改善が期待できると思われる.今後は,症例を増やし,介入内容の改善,介入期間の延長などを行って,効果の検証を行っていく必要があると思われる.
 

I3-7 10:35-10:50

地域におけるMCI住民へ対する非薬物的認知症予防介入;安心院プロジェクト 第2報

杉村美佳1),中野正剛1),木之下徹2),山田達夫1)

1) 福岡大学医学部第五内科,2) こだまクリニック
 
【目的】
我々は,大分県安心院町に居住する65歳以上高齢者のうちMCIと判定された住民を対象に認知症予防活動を実施しその効果を検討し,昨年の本学会にて介入一年後の経過を報告した.今回は2年後の介入結果について報告する.
【方法】
本研究は,2004年末までに1582名への一次調査が完了している.対象者のうち,1996年のPetersenの定義に基づくMCIは,64名(4.0%)であった.対象者となるMCI住民は,1996年のPetersenの定義に基づいて抽出した.認知機能の変化について,予防介入前後にファイブ・コグを行い検討した.MCI住民32名が介入研究に参加した.参加者を介入群と非介入群に分け,介入群(18名)には,話し合いにより,参加者自らが企画,遂行していく作業活動,栄養士による食事指導および有酸素運動の一つであるステップ台を使用し行う運動療法を行った.非介入群(14名)には,従来通りの生活を送っていただいた.
【倫理的配慮】
本研究は福岡大学倫理委員会にて承認を受けた.対象へは文章による説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】
介入群のファイブ・コグは,2年経過しても5つの認知機能すべてにおいて悪化はみられなかった.さらに,記憶と言語の項目の素点で1年後の介入で改善が認められ,2年後ではさらに改善していた.非介入群では,3名が認知症へ移行した.
【考察】
本研究の特色は,皆で集まって話しあうといった社会交流や,行動の計画を立てて実行し結果を出すといった自主運営,さらに有酸素運動を組み合わせたことである.介入後2年が経過しても介入群の認知機能は不変ないし改善しており,非介入群では認知症へ移行する住民が出現していることから,MCIの状態の地域住民に対する,こうした予防介入は有効であると考えられた.
 

I3-8 10:50-11:05

MCIの抽出に用いられる記憶検査と局所脳血流の関係−安心院プロジェクト−

中野正剛,杉村美佳,山田達夫

福岡大学医学部第五内科
 
【目的】
Mild Cognitive Impairment(MCI)の定義には,「年齢,教育年数に比して記憶力が低下している(健常平均−1.5SD程度)」という基準があるものの,具体的な検査の指定はない.研究によって用いられる記憶検査はまちまちであり,同一研究内でも検査が異なるとMCIと判定される対象者が異なることが,利根町研究のデータとして昨年の老年精神医学会において報告された.こうした背景から,記憶検査と局所脳血流(rCBF)の関係について検討した.
【方法】
大分県安心院町に居住し,安心院プロジェクトに参加した1251名の65歳高齢者のうち,WMS-R論理再生Iと32単語カテゴリーヒント後再生の記憶検査を受け,さらに脳血流SPECT検査を受けた32名を対象とした.SPM99を用い,各々の記憶検査の素点と相関するrCBFを解析した.
【倫理的配慮】
対象者から書面によるインフォームドコンセントを得た.また,本研究は福岡大学倫理委員会の承認を受けて行った.
【結果】
WMS-R論理再生Iは,左側前頭前野および前部帯状回と相関していた.32単語カテゴリーヒント後再生は,両側海馬傍回,側頭葉,左側頭頂葉および帯状回後部と相関していた.
【考察】
記憶検査によって相関する脳領域は異なることが明らかとなった.MCIの抽出に際しては,用いる記憶検査に注意を払う必要があると考えられる.
 

専門外来

座長 :  延原健二 ( 関西医科大学精神神経科 )

I3-9 11:10-11:25

もの忘れ外来における新規患者の受診状況;平成11年度と16年度を比較して

翁 朋子,長濱康弘,鈴木則夫,平川圭子,松田 実

滋賀県立成人病センター第3内科(老年神経内科)
 
【目的】
介護保険の導入は,認知症患者の介護と,人々の認知症に対する意識を変えたと思われる.そこで,介護保険導入前年の平成11年度(H11)と導入後5年目の平成16年度(H16)に当科を受診した患者の状況を比較検討し,この5年間での変化について考察する.
【対象と方法】
当科もの忘れ外来の新規受診者はH11が155名,H16が498名であった.この両群について,1)年齢,2)性別,3)自己受診率,4)紹介元,5)生活環境,6)受診理由,7)MMSE,8)診断,の各項目を比較検討した.
【結果】
1)2)新規患者の平均年齢と性別比に差はなかった.
3)自己受診率はH11が12.3%,H16が17.9%で若干増加した.
4)紹介元は,〈自分・家族が調べて〉が両年とも最も多かった.〈診療所などからの紹介〉が16.8%から32.6%に増加した.
6)受診理由は両年とも〈もの忘れ〉が過半数を占めたが,H16では〈行動障害〉〈妄想〉〈ADL障害〉が減少し,〈精査目的〉やふらつき・動きが鈍い・居眠りなどの〈その他〉が有意に増加した.
7)MMSEの平均点はH11が19.2点,H16が21.3点でH16の点数が有意に高かった.自ら受診した群の年齢はH11では71.2才,H16では63.9才と有意に若くなり,MMSEの点数も25.8点から27.7点に有意に上昇した.
8)診断については,H11ではアルツハイマー病(AD)61%,次いで軽度認知障害(MCI)9.7%,脳血管性認知症(VD)8.4%の順になった.H16ではAD37.5%,MCI9.4%,正常8.8%,レビー小体病(DLB)8.2%と続いた.主要な一次性認知症ではADが71.8%から58.9%に減少し,DLBが0.7%から12.9%に増加した.またH16ではその他の認知症患者数が増加し,原因疾患も多様化していた.
 診断別に見ると,ADはH11ではMMSEの平均が17.4点で,平均年齢が76.4才,H16では18.8点で79.5才となり,それぞれ有意に高くなった.MCIはH11ではMMSEの平均が25.3点で,平均年齢が74.4才,H16では25.8点で74才となり,どちらにも差は認められなかった.MCIとADの自己受診率はH11がそれぞれ53.3%,3.2%,H16では48.9%,2.7%で両年に差はなかった.
【考察】
新規患者数が約3.2倍に増加したことから,認知症に対する関心が高まり「病気」として広く認識されていることがうかがえる.自己受診率も増加し,認知症が「自分の問題」であると捉えられてきていると言えよう.紹介率が上昇したことから,認知症の診断や治療の必要性を認識している医師が増えたことがわかる.H16では〈ADL障害〉〈妄想〉〈行動障害〉など比較的病期が進んだ時点で現れる症状が受診理由となることは少なく,また,MMSEの平均点が有意に上昇していることからも,比較的早期の受診が増えていると考えられる.診断については,平成11年にガイドラインが改訂されDLBの診断の感度が上がったこと,また実際にDLB患者の受診率が高くなったことで,H16ではDLBの割合が増加したものと思われる.診断が多様化したのは「認知症=病気」という認識が高まり,〈もの忘れ〉以外の症状でも当科を受診する患者が増えたためであろう.MCIにおいてはH11もH16も,家族の付き添いがあっての受診数と患者自らの受診数がほぼ1対1であり,両群に質的な違いがあるかどうかの検討は今後の課題である.
 

I3-10 11:25-11:40

専門外来連続例における初老期発症認知症の頻度と臨床的特徴

品川俊一郎1,2),豊田泰孝1),松本光央1),松本直美1),森 崇明1),石川智久1)
兵頭隆幸1),福原竜治1),小森憲治郎1),鉾石和彦1),池田 学1),田辺敬貴1)

1) 愛媛大学医学部神経精神医学講座,2) 東京慈恵会医科大学精神医学講座
 
【目的】
初老期発症の認知症は,患者が働き盛りの時期に発症するため,老年期発症の認知症に比べて患者や介護者の心理的・経済的な負担が大きい.しかし,初老期発症の認知症の頻度,疾患割合,臨床的特徴について知られていることは少ない.初老期発症の認知症の頻度と臨床的特徴について検討するのが目的である.
【方法】
1997年1月から2005年9月までに,愛媛大学医学部附属病院精神科神経科の高次脳機能外来を受診した連続例861名のうち,1回しか受診していないなど確定診断に至らなかった33名と,認知症がないと診断された160名を除く668名を,今回の検討の対象とした.対象を初老期発症群(発症年齢<65)と高齢発症群(発症年齢≧65)に分け,両群で診断,性別,初診時の認知症の重症度(CDR),初診時の認知機能(MMSE),発症から受診までの期間を比較した.
アルツハイマー病(AD)の診断はNINCDS- ADRDA基準に,脳血管性認知症(VaD)の診断はNINDS-AIREN基準に,レビー小体型認知症(DLB)の診断は国際ワークショップの臨床診断基準に,前頭側頭葉変性症(FTLD)の診断は国際ワーキンググループの臨床診断基準にそれぞれ基づいてなされ,他の原因の認知症に対しては標準的な診断基準が用いられた.年齢,教育歴,発症から受診までの期間,MMSE得点に関してT検定を用い,性別,CDR,疾患比率に関しては,カイ二乗検定とFisherの正確検定を用いた.
【倫理的配慮】
諸検査に関しては,全て患者もしくは家族の同意を得た上で施行している.データ管理の際には,匿名性の保持および個人情報の流出には最大限の配慮を行った.
【結果】
初老期発症群は185名で,全認知症患者の28%を占めた.受診時年齢は58.3±11.0歳であり,高齢発症群に比べて女性が少なく,男女比はほぼ1:1であった.教育歴は高齢発症群に比べ有意に高かった.初診時のMMSEとCDRは高齢発症群と有意差はなかったが,発症から受診までの期間は高齢発症群より有意に長かった.
疾患の割合ではADが38%と最も多く,次いでFTLDの21%,VaDの12%の順であった.初老期発症群は高齢発症群に比べてADやDLBの割合が少なく,FTLDや頭部外傷後遺症,その他の疾患の割合が多かった.
【考察】
初老期発症の認知症は少なくとも専門外来においてはまれな病態ではない.初老期発症の認知症はFTLDや頭部外傷後遺症などの割合が高齢発症の認知症に比べて高く,これらの疾患に特徴的な病歴や臨床症状を念頭において診断を行う必要がある.また,初老期発症の認知症は発症から受診までに時間がかかっており,さらなる啓発活動が必要である.
 

I3-11 11:40-11:55

横浜市総合保健医療センター認知症診断外来におけるMRI画像診断の活用

古川良子1),中村慎一1),齊藤 惇1),平安良雄2)

1) 横浜市総合保健医療センター,2) 横浜市立大学医学部精神医学教室
 
【はじめに】
横浜市総合保健医療センターでは,1992年10月より認知症診断外来を開始し,2006年1月までにのべ4,400名以上の受診者につき,認知症診断を行っている.同外来の検査では,脳MRIまたはCT,脳波の他,血液検査・尿検査,心電図,胸部X線写真,諸心理検査などを行い,必要時脳SPECT検査も施行している.受診者の特徴については,本学会2005年大会において報告し,老年精神医学雑誌に報告済みである(老年精神医学雑誌17,2006 in press).これらのうち,2005年5月MRI機器更新に伴い,MRI画像の統計解析を簡易に行うことが可能となった.今回は,2005年5月以降の受診者のMRI画像の特徴と傾向につき報告する.
【方法】
当施設認知症診断外来受診者の頭部MRI画像と,HDS-R・MMSその他諸検査の結果・診断につき比較検討を行った.MRI撮影は,当施設に設置されている1.5T MRI (Magnetom Symphony Advanced, Siemens)を用い,冠状断にてT1強調画像の撮像を行った.条件はTR=2010ms,TE=3.93ms,Flip angle 15deg,Field of view 200-225mm,Matrix 208×256,Slice thickness 1.5mm,Gapless とした.得られた画像はanalyze画像水平断に変換した後,SPM2とVSRAD1)にて解析を行った.灰白質抽出,解剖学的標準化,平滑化処理を行った画像について,VSRADにて供給されている健常群(男性40名,女性40名,年齢54歳-86歳(70.2±7.3)MMS28.7±1.5)およびアルツハイマー型認知症群(男性32名,女性29名,年齢48歳-87歳(70.6±8.4)初診時MMS26.0±1.6)との比較を行った.この結果と臨床・心理検査結果につき,SPSS for WINDOWS 11.0Jにより統計解析を行った.有意水準5%以下を有意とした.本研究は,当施設研究倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
正常受診者,脳血管障害を認めないMCI患者,アルツハイマー型認知症患者のHDS-R・MMS得点と,標準脳と比較した脳全体および海馬傍回の萎縮程度は,統計学的に有意な負の相関を示した.ピック病など非アルツハイマー型認知症脳では,灰白質容積マップ上特徴的な萎縮パターンが認められた.
【考察】
当施設では,同一条件で測定した認知症,MCI,正常受診者の脳MRI画像につき,既に500症例以上精査している.多症例の脳画像につき検討を行う場合には,特定の関心領域の体積測定を行うROI(Region of interest)法に比し,簡便に体積評価を行うことができる画像統計解析の利用は実用的であり,診断補助として有効であると考えられた.今後は既に利用可能となっているSPM5の導入,当施設独自の標準脳の作成の上,認知症関連疾患につき更に検討を行っていく予定である.

1) 松田博史:早期AD診断支援システムVSRAD Ver.2.0 (2005).