シンポジウムI  :アルツハイマー病100年の回顧とこれからの課題

座長 :松下正明 (都立松沢病院/東京都精神医学総合研究所)
 武田雅俊(大阪大学大学院医学系研究科精神医学)

S1-1

アルツハイマーの悩み、クレペリンの悔い −アルツハイマー病の源流を尋ねて

松下正明 (都立松沢病院/東京都精神医学総合研究所)

1906年11月,チュービンゲンでの南西ドイツ精神医学会で,A. Alzheimerによって,のちにアルツハイマー病と命名されることになる最初の症例,アウグステ・Dの臨床病理報告がなされた.今年はその学会報告後100年にあたる.
本シンポジウムはそれを記念しての企画であるが,演者はそれを機会にアルツハイマー病概念の形成と受容の過程を,Alzheimerと彼の師であるE. Kraepelinとの関わりを中心にして論じてみたい.もちろん,疾患概念形成の背景にある彼らの時代と社会が主役であることは言うまでもない.
ここで論じることは,

1) アルツハイマー病という疾患概念形成はどのようになされたのか,
2) 疾患概念成立にあたって,Alzheimerは何を考えていたのか,
3) 疾患概念成立にあたって,Kraepelinは何を考えていたのか,
4) アルツハイマー病疾患概念はどのようにして受容されたのか,
5) 受容の過程で,どのような問題点が生じてきたのか,
6) 長い論争のもとに,アルツハイマー病の臨床と病理が確立してきたが,現在のアルツハイマー病理解において,その歴史的経緯が活かされてきているのか,

などが主なテーマとなる.
また,演者は,アルツハイマー病の病態が詳細に判明し,いまや分子遺伝学の立場からの研究が相次いでいる現状においても,アルツハイマー病の臨床や古典的な意味での神経病理学はなおすべて解明されているとは考えていない.とくに,アルツハイマー病と診断されている症例にみるheterogeneityの問題はなお解決されていない.そのような臨床的,神経病理的問題についても,問題提起として触れることになるであろう.

S1-2

神経病理の100年

山口晴保

群馬大学医学部保健学科
筆者がアルツハイマー病の神経病理研究に携わるようになって25年になる. この体験を踏まえ,アルツハイマー病(AD)100年の流れを病理の視点から時代ごとに示したい.
Alois Alzheimerは,老年痴呆とは異なり初老期に発症する症状の激しい亜系を見いだし,第1例(51歳で発症)を100年前の1906年に医学会で報告した.さらに1911年,2例目(54歳で発症)の組織像を詳細に記載した.以来,大脳皮質に老人斑(Druse)と神経原線維変化が多量に出現していることがADの2大病変とされてきた.

光学顕微鏡の時代:
凍結切片を用いた高感度な嗜銀染色で病変を検出していた.しかし,パラフィン包埋切片を用いたBodian染色が主流になると,アミロイド量が多くて腫大神経突起がある老人斑(neuritic plaque)は検出されるが,瀰漫性老人斑が見過ごされた.FischerやPerusini,日本人では植松七九郎の仕事に触れたい.

電子顕微鏡の時代:
老人斑アミロイドも神経原線維変化も共にCongo red染色でbirefringenceを示すのでアミロイド沈着と考えられていたが,1960〜70年代にかけての電顕検索で,細胞外に沈着する老人斑アミロイド線維の構造や,神経細胞内の神経原線維変化を構成するpaired helical filament(PHF)の超微形態が明らかにされた.

分子病理の時代:
1980年代,脳アミロイドからβタンパクが抽出され,そのアミノ酸組成が明らかにされた.これをきっかけに,老人斑をβタンパク免疫染色で示す時代となった.すると,非認知症の脳でも多量の老人斑がみつかり,老人斑は認知症を引き起こさないという誤った考え方が生まれた.一方,神経原線維変化からはタウが同定された.そして,各種認知症疾患で神経原線維変化が出現することが明らかにされ,高齢者タウオパチーとして分類されるに至っている.90年代には家族性アルツハイマー病の遺伝子変異がβタンパク産生に関与することが示され,βタンパク沈着がアルツハイマー病を引き起こす元の病変であることが認識されるに至った.ようやく,βアミロイド沈着が長引くうちに神経原線維変化が出来て認知症に至るという考えが定着するようになった.早い方では40代で脳βアミロイド沈着が始まり60〜70代でアルツハイマー病を発症するのである.この一方,90代になっても脳βアミロイドを欠く例もある.このような発病年齢のばらつきに最も大きな影響を与えるのはApoEの遺伝子型である.アルツハイマー病は脳老化の究極の姿と言えよう.

今後:
脳βアミロイド沈着が可逆的な変化であることが示された.βタンパク免疫療法により,一度形成された老人斑が消失するのである.また,豊かな飼育環境(楽しく運動できる)や食餌(高DHA,クルクミン,低カロリー)が脳βアミロイド沈着を減らすことが動物実験で示された.さらにβアミロイドの重合阻害薬が開発中で,βアミロイド沈着を防いでアルツハイマー病を予防・根治することが夢ではない時代になりかけている.

S1-3

アルツハイマー病の神経化学分野での研究の歴史と今後の展望

工藤 喬

大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室
1984年にGlennerらが,1985年にMastersらが,老人斑の構成物であるアミロイド蛋白のアミノ酸配列を決定し,β蛋白(Aβ)またはA4蛋白として発表したことで,それまで神経病理学的検討のみの対象とされてきたアルツハイマー病(AD)の病態解明に生化学的検討の道が開かれた.1987年には,Kangらによりアミロイド前駆体蛋白(APP)が見いだされ,AβはAPPから切り出されることが示された.ADのもう一つのホールマークである神経原線維変化はTerryらの電顕の検討からその構成単位はpaired helical filament (PHF)とされていたが,1986年,IqbalらとIharaらがPHFは微小管結合蛋白の1つであるtauによって構成され,しかもこの場合高度にリン酸化を受けていることを示し,この分野での生化学的研究の端緒となった.
1990年代に入り,家族性ADの分子遺伝学的検討が精力的になされるようになった結果,スウェーデンやロンドンの家系からAPPのミスセンス変異が見いだされた.1995年,St George-Hyslopらは早期発症の家系からプレセニリン1(PS1)の変異を見いだし,続いてプレセニリン2(PS2)の変異の報告がなされた.これらの変異は共通して凝集性の高いAβ42を増加することから,Aβの脳内での増加がADの病理過程のクリチカルな過程であるとする「アミロイドカスケード仮説」が提唱されるに至った.2000年になり,APPからAβを切り出す酵素としてN端側をBACE(βセクレターゼ)が,C端側をPS1を中心としNicastrin,APH-1,PEN-2などによる複合体(γセクレターゼ)が切断することが示された.
Tauのリン酸化に関しては様々なリン酸化酵素や脱リン酸化酵素の検討がなされたが,アミロイド仮説の元ではアミロイド病理の下位に位置づけられてきた.しかし,2000年以降,前頭側頭葉型痴呆(FTDP-17)の検索からtau自身のミスセンス変異が見いだされ,tauの異常でも認知症を起こすことが示され,再びtauの生化学的変化が注目されるに至った.

以上のように,ここ15,6年間のADに関する生化学的知見は爆発的に増大した.次の段階は,これらの知見を診断,治療に如何に反映させていくかである.各種β/γセクレターゼ阻害薬の探索,アミロイドワクチンの開発,NSAIDsの応用など,ADの根治療法の開発は既に始まっている.

S1-4

アルツハイマー病における神経心理学的障害について

加藤元一郎

慶應義塾大学医学部精神神経科学教室
アルツハイマー病(AD)では,その経過の中で,知性・人格(知情意)の全般的解体が出現する.しかし,その初期ないしは中期までは,ADの認知障害を機能的局在論的立場から,道具機能障害として神経心理学的に検討することができる.このような意味で,歴史的に注目されてきた認知障害は,記憶障害(海馬・内嗅野を含む側頭葉内側部障害),空間認知・操作障害(頭頂葉外側部障害),思考・判断障害(前頭葉障害)であろう.
記憶障害に関しては,認知神経心理学的研究に伴い,その症状の中核はエピソード記憶であることが明らかになってきている(責任病巣は,海馬・海馬傍回に求められることが多いが,前脳基底部の障害を重要視する見解もある).これに対して,意味記憶の障害は別タイプの変性症の特徴と考えられている.しかし,AD,特に中等度以後のADに意味記憶障害が存在するという見解もある.また,健忘に伴う作話や記憶錯誤については,以前はコルサコフ型痴呆とされてきたが,現在では前頭葉機能障害の重畳が重要視されている.歴史的にも重要視されてきた失行,失認,構成障害(手指構成や模倣障害を含む)に代表される空間認知・操作障害は,最近では頭頂葉障害による視覚運動統合プロセスの障害として神経科学的に追求されている.
また,思考・判断障害については,古典的には前頭葉背外側部ないしは眼窩脳との関連で考えられてきたが,現在では遂行機能障害(目標の設定,実行計画とその実行)の枠組みで捉えられることが多い.しかし,ADのおけるこの障害については検討が少ない.近年,ADのpredictorとして,エピソード記憶の障害以外に,注意分配障害,ワーキングメモリおよび遂行機能障害が挙げられていることは興味深い.
近年,SPECTおよびPET研究により,ADにおいて後部帯状回およびprecuneusを含む頭頂葉内側部の機能低下が指摘されてきた.この所見は,まず以前から知られている脳梁膨大後部健忘(retrosplenial amnesia,間脳ないしは前頭皮質と海馬領域との経路が離断された結果による健忘症候)として,ADの記憶障害,特にエピソード記憶の想起障害を説明する可能性がある.一方,頭頂葉内側部は自他の区別に強く関与する社会的認知のキー領域であることが徐々に明らかにされており,ADの持つ自己病態失認や自己鏡像認知障害に関連を持つかもしれない.
以上について,自験を含む症例を検討しながら概説したい.

S1-5

アルツハイマー病の画像診断の進歩

松田博史

埼玉医科大学国際医療センター核医学/埼玉医科大学病院核医学診療科
1982年より133名の健常ボランティア老人に協力をいただき,10年間に一次,二次,三次,四次の4回の研究調査を実施した.対象者は脳血管障害,頭部外傷,認知症に罹患しておらず,日常生活に支障のない60歳以上の老人として選択された方々である.研究の目的は健常老人脳の正常の限界,CTやMRIにみられる脳萎縮の変化,無症候性梗塞,Lacunar infarction,periventricular lucency(PVL),periventricular hyperintensity(PVH)の出現頻度とその意義を検討し,これらの所見の生存と死亡,認知症と非認知症の判別を検討した.
研究対象者のうち10年間に認知症となったもの19名(14.3%),死亡34名(25.6%)であった.認知症に関する臨床的指標を判別分析を用いて一定水準以上の4項目を取り出したところ,年齢,性,ベントン視覚記銘テストの誤謬数,MWTV(第3脳室最大径)だった.死亡に関する臨床指標として取り出された4項目は無症候性梗塞,年齢,ベントン視覚記銘テストの正確数,皮質の萎縮であった.これらの指標の一部はリスクファクター研究とも一致しており,臨床的に有用性のある結果であった.
また1999年より新たな健常老人300名の10年間のMRIを用いた追跡研究を実施中であるが,被験者306名であり,男性100名,女性206名であった.調査開始時の年齢平均は68.3±4.4歳である.初回調査時69歳以下群と70歳以上群の2群に分け,1次,2次,3次のベントン視覚記銘テストの正確数は7.06,7.24,7.18であり,誤謬数は3.98,3.88,3.96と安定した経過を示したのに対し,70歳以上群では,正確数が7.04,6.64,6.92,誤謬数は4.29,4.96,4.96と特に誤謬数の増加がみられた.Enhanced cued recall(ECR)テストの自由再生の結果は,69歳以下群では13.5,13.6,13.9と安定したやや得点の上昇もみられるが,70歳以上群では12.7,12.4,11.9と年次に伴い低下した.
MRI所見の判定結果ではT2 HSIは基底核に高い出現率を認め,側頭葉における出現が続いていた.また側脳室の拡大,第3脳室の拡大,側頭葉の萎縮は加齢に伴う増加傾向がはっきり認められた項目であり,健常老人でも経年により脳室系の拡大と側頭葉の萎縮が一定の割合で増えていることが示された.
MRI所見と認知テストの関係をみると,視床のT2 HSIはベントン視覚記銘テストの正確数の低下と相関をみ,視床のT1強調画像の低信号とT2強調画像の高信号が,同部位にみられた例ではECRの自由再生と合計数で有意な相関が見られた.シルビウス裂の拡大はベントン視覚記銘テストの正確数と誤謬数およびECRの自由再生合計数とも有意な相関が示された.頭頂葉のT2 HSI,最高血圧,ベントン視覚記銘テストの正確数,誤謬数に相関が認められた.
年齢,高血圧などのリスクファクターはきわめて重要であり,従来から指摘されている結果が得られた.平均的な健康の背景には,臨床的なレベルに至らない様々な所見があることが示された.

会長講演

KC-1

健常老人脳の画像追跡研究

笠原洋勇

東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科
1982年より133名の健常ボランティア老人に協力をいただき,10年間に一次,二次,三次,四次の4回の研究調査を実施した.対象者は脳血管障害,頭部外傷,認知症に罹患しておらず,日常生活に支障のない60歳以上の老人として選択された方々である.研究の目的は健常老人脳の正常の限界,CTやMRIにみられる脳萎縮の変化,無症候性梗塞,Lacunar infarction,periventricular lucency(PVL),periventricular hyperintensity(PVH)の出現頻度とその意義を検討し,これらの所見の生存と死亡,認知症と非認知症の判別を検討した.
研究対象者のうち10年間に認知症となったもの19名(14.3%),死亡34名(25.6%)であった.認知症に関する臨床的指標を判別分析を用いて一定水準以上の4項目を取り出したところ,年齢,性,ベントン視覚記銘テストの誤謬数,MWTV(第3脳室最大径)だった.死亡に関する臨床指標として取り出された4項目は無症候性梗塞,年齢,ベントン視覚記銘テストの正確数,皮質の萎縮であった.これらの指標の一部はリスクファクター研究とも一致しており,臨床的に有用性のある結果であった.
また1999年より新たな健常老人300名の10年間のMRIを用いた追跡研究を実施中であるが,被験者306名であり,男性100名,女性206名であった.調査開始時の年齢平均は68.3±4.4歳である.初回調査時69歳以下群と70歳以上群の2群に分け,1次,2次,3次のベントン視覚記銘テストの正確数は7.06,7.24,7.18であり,誤謬数は3.98,3.88,3.96と安定した経過を示したのに対し,70歳以上群では,正確数が7.04,6.64,6.92,誤謬数は4.29,4.96,4.96と特に誤謬数の増加がみられた.Enhanced cued recall(ECR)テストの自由再生の結果は,69歳以下群では13.5,13.6,13.9と安定したやや得点の上昇もみられるが,70歳以上群では12.7,12.4,11.9と年次に伴い低下した.
MRI所見の判定結果ではT2 HSIは基底核に高い出現率を認め,側頭葉における出現が続いていた.また側脳室の拡大,第3脳室の拡大,側頭葉の萎縮は加齢に伴う増加傾向がはっきり認められた項目であり,健常老人でも経年により脳室系の拡大と側頭葉の萎縮が一定の割合で増えていることが示された.
MRI所見と認知テストの関係をみると,視床のT2 HSIはベントン視覚記銘テストの正確数の低下と相関をみ,視床のT1強調画像の低信号とT2強調画像の高信号が,同部位にみられた例ではECRの自由再生と合計数で有意な相関が見られた.シルビウス裂の拡大はベントン視覚記銘テストの正確数と誤謬数およびECRの自由再生合計数とも有意な相関が示された.頭頂葉のT2 HSI,最高血圧,ベントン視覚記銘テストの正確数,誤謬数に相関が認められた.
年齢,高血圧などのリスクファクターはきわめて重要であり,従来から指摘されている結果が得られた.平均的な健康の背景には,臨床的なレベルに至らない様々な所見があることが示された.

特別講演I

T-1

Mild Cognitive Impairment: Update 2006

Ronald C. Petersen, Ph.D.,M.D.

Professor of Neurology, Mayo Clinic College of Medicine Director, Mayo Alzheimer's Disease Research Center
Overview
Mild cognitive impairment (MCI) has become a very active area of research in the field of aging and dementia. Originally, it was described as a precursor state to Alzheimer’s disease (AD) but more recently, it has been broadened to include any type of cognitive impairment prior to the diagnosis of dementia. As such, the concept of MCI has spawned much interest in clinical nosology, epidemiology, neuropsychology, neuroimaging, neuropathology, mechanism of disease, and therapeutics. There are several unresolved issues with respect to MCI and these will be discussed.

Conceptual framework
In virtually all degenerative diseases, almost by definition, there must be a stage of partial impairment. Presumably, most degen-
erative diseases begin very gradually and insidiously and progress over years, perhaps decades. It seems most reasonable then that there ought to be a period during which a person is partially symptomatic. For example, in AD, a memory impairment is usually the sentinel event and thus likely develops years before other cognitive functions become impaired and similarly before functional impairments appear. The latter two features are necessary for the diagnosis of dementia. Mild cognitive impairment is meant to capture the stage at which the disease is at its earliest presentation before the diagnosis of dementia can be made.

Clinical characteristics
From a clinical perspective, the criteria for the diagnosis are designed to capture these early features. As mentioned, the original criteria were defined to predict AD, and, consequently focused on memory. Essentially, these criteria pertained to individuals who were forgetful, but their other cognitive functions were relatively preserved and there was no meaningful functional impairment. Importantly, these individuals did not meet criteria for dementia.
Since the original publication in 1999, the criteria have been expanded to include any type of cognitive dysfunction including memory, language, executive function, and visuospatial skills, but of insufficient severity to compromise daily function. These criteria were adopted at an international meeting of experts in Stockholm in 2003. In addition, the clinical criteria have subtyped MCI into amnestic and non-amnestic categories and each of these has been further subdivided into single or multiple domains. Finally, to enhance the specificity of the clinical syndromes with respect to predicting outcome, the dimension of etiology has been added. Therefore, in the current set of criteria, the clinical phenotype of the subtype of MCI is established by existing criteria and then the best explanation for the cause of that syndrome is established. This is done in a fashion that is very similar to making other clinical diagnoses such as dementia and then subsequently subclassifying the type of dementia into a particular disorder. This approach to the diagnosis of MCI has been adopted by the National Institute on Aging Alzheimer’s Disease Centers Program and by the Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative.

Outcome
When these criteria are applied prospectively to subjects and the subjects are followed longitudinally, the amnestic MCI subtype of a presumed degenerative etiology tends to progress to AD at a rate of 10-15% per year. It is important to note that when the clinical phenotype is combined with putative etiology, the specificity of the outcome is greatly enhanced. That is, when amnestic MCI is combined with the presumed etiology in the diagnostic process, then the likely outcome is AD. However, if the same clinical phenotype is presumed to be of psychiatric etiology, e.g., depression, then the subject might actually improve over time as the depression is treated. Consequently, when some epidemiologic studies report a variable outcome of MCI, they usually have not subtyped the MCI individuals by etiology and have combined subjects with the same clinical syndrome of multiple causes into one group, hence, the variability. We are learning about the other subtypes such as non-amnestic MCI but at this point can be less specific about the outcome.

Predictors
While the general rate of progression of amnestic MCI is 10-15% per year, there are certain factors that predict a more rapid progression. Among these are Apolipoprotein E4 carrier status, certain qualitative features of memory performance, and atrophic hippocampal volumes as measured on MRI. Since Apolipoprotein E4 carrier status is a major risk factor for AD, then it is not surprising that this status also predicts a more rapid progression from MCI to AD. This has also been found in clinical trials.
There has been a great deal of interest in MCI with respect to neuroimaging. Most notably, the work by Dr. Clifford R. Jack, Jr., and colleagues have observed that atrophic hippocampi and rate of change of hippocampal formation volumes predict progression to AD. He and others have also observed that additional features such as entorhinal cortex volume, total brain volume, and the volume of the ventricles also predict a more rapid progression. Imaging studies have now expanded into the areas of fMRI, MR spectroscopy, and FDG-PET.
Currently, the Alzheimer’s Disease Neuro-imaging Initiative is evaluating the role of structural features of MRI using 1.5T and 3T scanners as well as FDG-PET, cerebrospinal fluid, blood and urine biomarkers, for their ability to predict the progression from MCI to AD. In this study, 200 normal subjects, 400 subjects with amnestic MCI, and 200 mild AD subjects will be recruited and followed for up to three years.

Neuropathology
Recently, there have been several public- cations on the neuropathology of MCI. Some groups contend that MCI subjects have the neuropathologic features of AD at the time of their clinical diagnosis of MCI. However, two recent papers from the Mayo Clinic indicate that at the time MCI is diagnosed, these individuals do not have the neuropathologic features of AD. Rather, most subjects appear to be transitional between the neuropathologic changes of aging and the earliest features of AD. It appears that these differences reflect various stages of MCI as diagnosed clinically. In addition, when subjects who were once diagnosed with MCI are then followed to autopsy, their neuropathologic findings indicate that most often the subject developed AD, but not all. In fact, over 20% of the subjects with amnestic MCI went on to develop another dementing disorder other than AD, e.g., frontotemporal dementia, progressive supra- nuclear palsy, or hippocampal sclerosis. These are not common, but nevertheless, raise the serious question about labeling people as having AD at the stage when they have MCI. These data would argue that it is preferable to describe them as having MCI and provide them with information regarding the likelihood of the outcome.

Clinical trial
In the past few years several clinical trials on MCI have been completed. Virtually all of the compounds under study for the treatment of AD have been evaluated for MCI. All of the U.S. Food and Drug Administration approved acetylcholinesterase inhibitors have been studied, some with disappointing results. The most successful trial involved the Alzheimer’s Disease Cooperative Study Trial on donepezil and vitamin E versus placebo and was co-sponsored by Pfizer, Inc., and Eisai, Inc., along with DMS Nutritional Products. This study, published in 2005, evaluated 769 amnestic MCI subjects over the course of three years on randomized treatment to either donepezil, vitamin E, or placebo. The overall subject group was comprised of 55% Apolipoprotein E4 carrier subjects. The entire cohort consisted of amnestic MCI subjects of degenerative etiology and the primary endpoint in the study was the clinical diagnosis of probable AD. Over the course of the three-year study, there were no differences among the three groups with respect to the likelihood of developing AD from MCI. However, the survival curves used to evaluate the data were not parallel over the course of the study which necessitated an evaluation of the differences between the groups at each of the six month evaluation points. In so doing, analyses revealed that donepezil produced a reduced risk of developing AD for the first 12 months of the study. When the treatment groups were subdivided into the Apolipoprotein carriers and non-carriers, it was determined that the donepezil subjects had a reduced risk of developing AD for up to 24 months. The secondary cognitive measures essentially supported the primary outcomes. There were no unexpected adverse events. The other clinical trials with acetylcholinesterase inhibitors, e.g., rivastigmine and galantamine, were not successful nor was the COX-2 inhibitor rofecoxib, but there were significant methodological issues with each of the studies which will be discussed. In all likelihood, MCI subjects would be an excellent target for disease modifying agents and some of these trials are being considered.

Future direction
Certainly from a research perspective, MCI has major implications for evaluating degen- erative disease processes. In the case of AD, the amnestic form of MCI of a presumed etiology has high sensitivity and specificity with respect to predicting clinical AD. Yet, the prediction accuracy is not sufficiently high to warrant the labeling subjects as having AD at the MCI stage. Rather, it is argued that MCI is a syndromic diagnosis and subjects can be informed of the probability of their progressing to one form of a dementia or another over the ensuing years. Interactions with numerous clinicians have indicated that MCI is a useful topic and a useful construct to be used with patients and can be informative with regard to counseling subjects with regard to eventual outcomes. At the same time, labeling a subject prematurely with AD can have disastrous effect on them from a psychological perspective. Therefore, work on MCI is continuing with respect to refinement of criteria, definition of outcome, and the ability to predict who is going to develop dementia.

シンポジウムII:わが国のフィールドスタディにおけるMCI

座長 :本間 昭 (東京都老人総合研究所認知症介入研究グループ)
守田嘉男(兵庫医科大学精神科神経科学教室)

S2-1

大崎−田尻プロジェクトにおけるMCI

目黒謙一

東北大学大学院医学系研究科高齢者高次脳医学
MCIの概念
認知障害があり,そのために社会生活に支障を来たした状態が認知症,認知障害があるものの,生活に支障を来たすほどではない状態をMCI(広義)という.従って,認知の評価だけでなく,日常生活の観察が重要である.MCIは病名ではなく,また臨床症候群を実証するKendell基準を満たすかどうかも疑問である.即ち,様々な病気の最軽度状態としてのMCI状態であることに注意する必要がある.これは認知症状態の原因疾患に様々な病気があるのと同じである.

臨床疫学
1998年施行の大規模有病率調査(n=1654)の結果,広義のMCI(観察法CDRによるCDR 0.5状態)は,65歳以上の高齢者の30%,狭義のMCI(健忘型MCI)は,4.9%を占め,前者は高齢ほど高い有症率を示すが,後者はほぼ一定であった.無作為抽出した497名にはMRIを施行し,脳萎縮や血管病変を評価した.広義のMCI高齢者に対し,見当識訓練と回想グループワークからなる心理社会的介入を試行した結果,対照群に比較してMMSEの維持,前頭葉機能の上昇を来たした.また,5年ないし7年後の2003年および2005年には発症率調査を施行し,認知症への移行を検討した.認知症への移行率と危険因子について報告する.

神経心理学的検討
MCI高齢者の神経心理学的検討を行う場合,容易にサンプリングバイアスの影響を受けるが,疫学とリンクしているためバイアスの少ない検討が可能なのが,大崎−田尻プロジェクトの特徴である.プロジェクトでは,広義のMCIの言語性記憶,非言語性記憶,視空間探索,言語機能,視覚弁別,視覚構成などの機能を検討してきたが,認知機能の特徴として,認知ドメインそのものの障害よりも,基盤にある注意力・遂行機能・実行機能の障害が認められた.

保健医療福祉の包括システムの構築
大崎−田尻プロジェクトによる検討の結果に基づき,どのような集団をどのようにフォローすべきか,地域においてどのような包括システムを構築すべきなのかについて提案したい.

S2-2

認知症疾患の介入予防に関する研究:利根プロジェクト

朝田 隆

筑波大学臨床医学系精神医学
【目的】
1)認知症前駆状態から認知症への移行率算出.2)認知症の予防法の開発と効果判定.3)精度の高い認知症最初期診断法の確立.

【対象と方法】
1)65歳以上の住民に原則的に悉皆スクリーニングを行い,認知症・その前駆状態の判定データを作成.2)前駆期の者を主たる対象にMRI,SPECTを継続撮像.3)前駆期の個人を中心に運動,栄養,睡眠からなる予防介入の実践.4)介入群と非介入群の間で3年後の認知機能変化を比較検討し,予防介入の効果を検討.5)初回調査時のうつ気分に注目し,その存在による認知症発症への寄与を検討.

【結果】
1.
介入群は非介入群に比較して認知症移行率が低い.研究開始から3年後の機能評価は,1052名の住民の参加を得て行った.新たにアルツハイマー病などの認知症に進展したと判断される者が,介入群では3.1%,非介入群では4.3%であった.また5つの認知領域のテストで介入群では有意な得点上昇が認められた.
2.
認知症ならびに前駆状態(CDR 0.5)の発症率を算出した.初回評価で認知症状態にないと判断された965名(知的正常665名,前駆状態(CDR 0.5)300名)の中から,3年後には37名(3.8%)が新たに認知症状態にあると診断された.個別には知的正常665名から4名(0.6%),前駆状態(CDR 0.5)300名のうち33名(11%)が認知症状態にあると診断された.初回評価の知的正常665名から54名(8.1%)が前駆状態(CDR 0.5)へと進行した.したがって1年間当りの前駆状態発症率は2.7%と算出される.
3.
最も優れた前駆状態の定義とは何かを検討した.Petersenの改定案に基づいてAmnestic MCI,Multiple domains slightly impaired MCI,Single non-memory domain MCIに分類し,本来は1.5SDとされるCut off値を1SD,1.5SD,2SDの3種類設定した.さらに本人の主観的もの忘れの訴え(SMC)の有無も考慮した.よって3×3×2=18通りの前駆状態各々の感度・特異度を検討した.その結果,どの定義も概して特異度は良いが,感度は低かった.18種の中ではSingle MCI, SMC(±), 1SDが感度31%,特異度82%で最良だが,18種類全てを包括するAll MCI, SMC(±), 1SDは感度69%,特異度64%で最高と考えられた.
4.
認知症発症について主観的うつ気分は危険因子である.初回調査でのGeriatric Depression Scale(GDS)のcut-off値を6点としたとき,今回の参加者中113名がこの値以上であった.初回に知的正常と診断されていても6点以上の者では,上記18種類のどのMCIの定義に拠っても,認知症発症率は2−3倍高かった.また知的正常と判定されGDS<6の群と比較し,MCIかつGDS≧6での発症率は7倍にも達した.
5.
地域在住認知症患者の最初期の画像所見を明らかにしつつある.初回に知的正常と判断されても後に前駆状態へと進行する人々の所見に注目した.初回のSPECT撮像所見として帯状回前部の,前駆状態では海馬傍回の血流低下を認めた.

S2-3

地域におけるMCIの診断方法と検出後の介入に関する問題点について

池田 学

愛媛大学医学部神経精神医学教室
認知症の前駆状態を高頻度に含んでいると考えられているMild cognitive impairment (MCI)の疫学研究も多くはないが,その大部分が病院,クリニックの受診者を対象にしたもので,地域における一般高齢者を対象にした疫学研究はきわめて少ない.しかし,認知症の発症予防や早期介入の観点からは,MCIの有症率,認知症への移行率を明らかにし,さらに地域の保健・医療活動においても実施可能なMCIの診断のための検査方法を確立することは,きわめて重要である.我々は,第19回の本学会シンポジウムにおいて,愛媛県伊予市中山地区(旧中山町)における縦断的な疫学研究における,MCIから認知症への移行について検討した.本シンポジウムでは,地域におけるMCIの診断方法と検出後の介入に関する問題点について論じてみたい.

本研究では,この第1回中山調査の参加者で,1)MMSEの総得点が24/30点以上であり,2)MMSEの下位検査項目のうち3単語遅延再生が0/3または1/3正答であり,3)DSM?VRの診断基準を用いて,認知症がないと診断され,4)基本的なADLに障害のない,対象者を抽出し,5年後に追跡調査を実施した.
今回われわれは,MMSEの3単語遅延再生項目以外に,標準化された記憶検査を用いていない.したがって,厳密な定義によるMCI群を抽出できたとは言いがたいが,今回の基準で抽出したMCI群は,認知症がないにもかかわらず,明らかに何らかの記憶障害を認める群である.MCIと正常老化とは単純な検査によっては区別がむずかしいという報告があるが,今回われわれの算出したMCIから認知症への転換率と,地域レベルで厳密にMCIの定義を満たした群から算出した転換率とは,ほとんど違いがなかった.また,MCIの診断根拠のひとつとされている主観的な記憶障害の訴えの有無については,今回の解析の対象にはしていないが,MCIの診断には必ずしも主観的な記憶障害の訴えは必要でないという報告もあり,一定の見解はでていない.家族らからの客観的な情報として日常生活上の記憶障害の有無を聴取することが,MCI診断に有用であるとの報告もあるが,独居世帯の多い農村部においては,日常生活上の情報を客観的に得ることは困難である.

認知症に移行する前のハイリスク群を早期に同定し,治療的介入へ導入するためには,地域レベルで認知症のハイリスク群を,的確にスクリーニングしなくてはならない.同時に,地域においてこのような認知症のハイリスク群を抽出する場合,グループの人数規模や最大限のコストパフォーマンスのバランスを鑑みて,適切にグループを設定することが重要である.その場合,本研究で用いた方法は,予防的介入を試みる対象として妥当なMCI群を抽出するモデルになると考えられる.
一方,世界的にみても,MCIやごく早期認知症を対象としたリハビリテーションの検討はほとんどなく,今後地域で認知症の早期発見の試みがさかんになれば,その受け皿作りが大きな課題となるであろう.また,これまでの研究同様,中山町研究の結果でも,MCIと診断された者の相当数が2度目の評価では正常な認知機能を示しているので,この段階での病名告知や薬物療法の開始時期なども重要な課題である.

S2-4

専門外来としてのもの忘れ外来におけるMCI

田子久夫

福島県立医科大学医学部神経精神医学講座
認知症専門外来としてのもの忘れ外来は,近年その名称とともに位置づけも次第に定着してきている感がある.ニーズも多様化し,さまざまな役割が考え出されてきている.

最近,老年精神医学雑誌でも特集が組まれ,もの忘れ外来の現況がまとめられた.専門外来の性格上,フィールドに出て疫学的な検討をすることは困難であるが,捕捉されている医療圏内での認知症診療の動向が確かめられることから,その臨床データは今後の対策を立案する上で有益である.そこでは,これまで認知症の前駆状態にも例えられ病名ではなかったMCIが,病名(状態像)分類のなかに組み込まれることが多くなってきている.

先の特集によれば,MCIの受診頻度は各医療機関の位置する地域や性質によって3%から22.6%までの開きがあった.大学病院などのHospital basedのものと市中のクリニックのようなCommunity basedのものでは,都会にあるHospital basedのほうが高くなり,地方のクリニックになるほど低い.その比率は役割や専門性,捕捉する対象の幅などで左右されることになると思われる.ここで考慮されるのは,今後発症数が増加すると予想されている認知症を,より効果的に治療し介護していくためには,早期の発見が必要であるということである.疾病は通常重症になるほど実数が減少することを考えれば,アルツハイマー型認知症の前駆ともいわれるMCIは,その後のどのステージのアルツハイマー型認知症よりも多いはずである.しかし,医療機関を訪れることはまだまだ稀であり,早期発見のための検診の必要性が唱えられる所以でもある.認知症に対する意識が高まることで,今後このようなケースが受診する機会が増えることも予想されるが,その場合,現在の専門外来だけでは応じきれないことも予想される.実際,我々の外来でも長期の予約待ちの状態になっているのが現実である.

今後は,簡単なスクリーニング機能も含め,MCIや初期の認知症の診療を行い,その後専門医療機関に紹介するような機能を一般のかかりつけ医に期待されるようになっていくと考えられている.そのための意識の啓発が大切であることは言うまでもない.限りある医療介護資源を効率的に活用するためにも,当病院が位置する福島県では,かかりつけ医の協力に大きな期待を寄せており,医師会などを通じて連携を強めているところである.専門外来には日常の臨床を通した知識や情報の提供ならびにかかりつけ医への指導を行うことが求められている.

S2-5

MCI研究の今後 -フィールドスタディへの期待−

守田嘉男

兵庫医科大学精神科神経科学教室
ここではMCIについて先の4地域におけるフィールドスタディによる結果をふまえさらなる展開のための期待を述べたい.

軽度認知障害MCIは認知症と非認知症との間に存在するグレイゾーンであり臨床的および神経病理学的根拠と意義はほぼ確定されようとしている.
臨床的意義は認知症とくにADの初期ADに妥当することであり,ついで神経病理学的意義としては同時期の大脳病理にADの所見が認められることである.

今日のMCI研究への関心の高まりはこれが認知症の早期診断と治療や予後予測に的確に使用可能となることにつきるであろう.臨床の疾病診断基準が出来上がるためには多数の対象症例について横断的そして縦断的研究と病理所見との臨床・病理関連検討が必要とされる.大規模研究とともに小規模のフィールドスタディを欠かすことができない.

東北大・目黒らによる田尻町研究は本邦での最初の試みであり研究結果はすぐれた論文として報告されている.筑波大・朝田らの利根町研究や愛媛大・池田らの中山町研究報告が続いており,本シンポジウムでは福島医大・田子らによる知見が加わることになる.
演者らも1990年からほぼ15年間老年期痴呆性疾患そして認知症の疫学的調査と研究を継続している.そして約800症例の構造化された鑑別診断を実施しそれらのデータを蓄積しているが,2000年までの10年間での診断分類とそれ以後のammestic MCIが周知され始めてからの5年間でADやVaD以外のMCIを疑う診断例が少しずつ増加している.方法とプロトコールの違いのため先の演者らのフィールドスタディと比較は出来ないのが残念である.

MCIは確実に存在し本邦の高齢者は今後当分の間は増加する.そのためフィールドでのMCI診断は比較的短時間で施行でき信頼性の高い検査法が求められる.とくに朝田らのいう日常生活機能の中での複雑な行動の障害の有無やバイオマーカーとしての血液と尿からの試料を使用する方法が有望である.また現時点ではMCIと診断すること自体が痴呆性疾患の早期診断では必ずしもない(東北大・森)としても,MCI診断の精度を高めるためにフィールドスタディの重要性はゆるがないと考えられる.