第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) G610

うつ病 3

座長:朝田 隆(筑波大学)

 

自己評価スケールで抑うつ状態が疑われた
高齢アルコール依存症者の臨床特徴

奥田正英,吉田伸一,田中雅博,三和啓二,大草英文,水谷浩明

八事病院精神科

UG6-26

【目的】アルコール依存症に抑うつ状態が合併することは良く知られているが,一次性うつ病なのか,それとも二次性うつ病なのかは臨床的に横断面の病像だけから明らかでないことが多い.また高齢者の抑うつ状態には喪失体験をはじめとする心因や老化に伴う身体因など多因子が関与すると言われている.今回私たちはアルコール依存症の治療で入院した高齢者の中から,うつ病の自己評価スケールで抑うつ状態の疑いがあるとされた症例を選び,その臨床特徴について検討したので報告する.

【方法】対象はアルコール治療のために平成15年4月から平成16年3月まで当院へ入院した60歳以上のアルコール依存症患者で,断酒後少なくとも1週間以上経過した時点で実施されたうつ病の自己評価スケールである東邦大学方式のSelf-Rating Questionaire for Depression(SRQ-D)が11点以上の6症例(全例男性;平均年齢64.7±3.9歳)を抑うつ群として,SRQ-Dが10点以下の15症例(男:女=14:1,平均年齢67.1±5.5歳)を対照群とした.この両群について断酒後の日数,家族背景の相違,うつ病の既往歴や身体症状の有無などの精神医学的な要因について統計学的にt検定を行い比較検討した.

【倫理的配慮】本研究は当院の個人情報の取り扱いに関する倫理委員会の承諾をえた.

【結果】先ずSRQ-Dは対照群が7.1±2.3点で抑うつ群が18.7±8.8点(p<0.05)であり,断酒から

 

地域在住高齢者の脳血管障害危険因子と抑うつ症状との関連
― 前向きコホート研究 ―

関   徹1),粟田主一1),小泉弥生1),寳澤  篤2),大森  芳2)
栗山進一2),荒井啓行3),松岡洋夫1),辻  一郎2)

1) 東北大学大学院医学系研究科精神神経学,
2) 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学
3) 東北大学大学院医学系研究科先進漢方治療医学

UG6-27

【目的】個々の脳血管障害危険因子(以下VRF)の存在が,種々の交絡因子を考慮した上でも1年後の抑うつ症状(以下DS)の危険因子となるかどうかについて,地域在住の高齢者において検証する.

【方法】仙台市T地区在住の70歳以上の高齢者を対象に,2002年7-8月と2003年7-8月に総合機能評価を実施した.聞き取りによる調査項目には,Geriatric Depression Scale(GDS),Mini Mental State Examination(MMS),19項目の身体疾患の既往歴(VRFとして脳血管障害,高血圧,虚血性心疾患,糖尿病,高脂血症の5項目を含む),老研式活動能力指標,主観的健康感,教育年数などを含む.GDS 11点以上をDS(+)と定義し,2002年のDS(−)群のうち2003年にDS(+)の者をincident DS(+)とした.2002年時のVRFが2003年時のincident DSに及ぼす効果について多重ロジスティック回帰モデルで解析した.p<0.05を統計学的有意水準とした.

【倫理的配慮】本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した.また,対象者からは,研究目的のデータ利用について説明の上で同意を得た.

【結果】総合機能評価に2年連続して参加し,かつ充分なデータの得られた665人のうち2002年時のDS(+)群は183人,DS(−)群は482人であり,後者を解析対象とした.このうち55人がincident DS(+),427人がincident DS(−)に相当し,両群間で年齢,性別,認知機能,主観的健康感に有意差はないが,教育年数,IADL,疾病数に有意差を認めた.2002年時のDS(−)群において,年齢,性別,教育年数,MMS,IADL,主観的健康感,VRF以外の疾病数を共変量とした多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,脳血管障害(OR;2.3,95%CI;1.0-5.3),高脂血症(OR;1.9,95%CI;1.0-3.7)とincident DSの間に有意な関連が認められた.だが,他のVRFではそれを認めなかった.

【考察】年齢,性別,教育レベル,認知機能,IADL,主観的健康感,VRF以外の疾患の併存といった交絡因子を考慮しても,脳血管障害と高脂血症の既往は新たな抑うつ症状の発生の危険因子である.

 

パーキンソン病におけるanhedonic depression

丸山哲弘1),千葉  恭2)

1) 飯田市立病院総合診療科,2) 飯田病院内科

UG6-28

【目的】パーキンソン病では約40%にうつdepressionが認められている.しかし,その本態については,大うつの合併,反応性うつ(心理社会的),パーキンソン病由来のうつ,などが複雑に絡み合っており,確固たる定説は未だ存在しない.われわれは,パーキンソン病のうつについて大うつや関節リウマチとの比較から検討してきた結果,身体症状(食欲低下,性欲低下,体重減少)が強い以外に,無快楽感が強い印象をもった.今回,パーキンソン病の無快楽感について検討した.

【方法】対象は,パーキンソン病患者(PD)14例(男性6例,女性8例,平均69.8±5.8歳),大うつ患者(MD)10例(男性4例,女性6例,平均54.5±3.7歳),健常者(NC)10例(男性4例,女性6例,平均62.4±8.4歳).大うつの診断は精神科専門医による構造化面接により診断.MDは抗うつ薬による治療中であった.対象に,Hamilton Scale for Depression 17(HAM-D17),Snaith-Hamilton Depression Scale(SHDS),Physical Anhedonia Scale(PAS),Social Anhedonia Scale(SAS)を施行した.HAM-D17によるパーキンソン病のうつ診断基準はcut-off値17点以上,anhedoniaはSHDSでcut-off値3点以上とした.PAS(61項目,244点)およびSAS(40項目,160点)はChapmanらにより作成された質問票であり,川口と高橋により邦訳されたものを用いた(内的一貫性α係数0.92).

【倫理的配慮】全ての被験者に調査目的を説明し,個人情報に関して特定されないように配慮することを約束し,全員からインフォームド・コンセントを得た.

【結果】うつに関して,HAM-D17によりうつと診断されたPDは4例であった.NCの3.5±2.4に比較し,PDは11.4±5.3と有意に高かった.MDは14.2±4.2であった.下位項目では,PDは身体症状と心気症でMDよりも高い傾向にあった.一方,anhedoniaは,PDで8例,MDで4例,NCで0例で,PDで有意に高かった.PASは,PDで78.5±24.2,MDで94±21.5,NCで114.4±18.8,SASは,PDで66.1±13.5,MDで55.4±20.2,NCで96.1±22.5であった.PDとMDはNCに比べて有意にPASもSASも低いが,PDとMDの比較では,PDがPASで低い傾向に,MDはSASで低い傾向が示された.PDの運動機能UPDRSとPASやSASとの相関はみられなかった.また,HAM-D17でうつ基準を満たした4例は,他の10例よりも有意にPASやSASが低かった.

【考察】今回の少数例の検討では,パーキンソン病ではanhedoniaの頻度が高いことが示された.また,身体的anhedoniaと社会的anhedoniaは健常者に比べていずれもhedonic toneが低いが,身体的anhedoniaのほうが強い傾向が認められた.anhedoniaは従来ドパミンとの関連が指摘されており,パーキンソン病では中脳皮質ドパミン系が障害されることから,anhedoniaを呈しやすいかもしれない.パーキンソン病に特有のうつはanhedonic depressionと呼べるものかもしれない.