高齢者専門病院の精神科コンサルテーションにおける |
小山恵子,佐藤克彦,上田 諭,高橋正彦 |
UG6-23 |
【目的】東京都老人医療センターは,ベッド数662床の高齢者専門病院である.精神科の初診患者数は2000年度の629名から2003年度の779名と年々増加しており,そのうちの約20%は他科入院患者についてのコンサルテーションが占めている.今回われわれは,これらの依頼患者のうちうつ病と診断されたものに関して,その特徴を明らかにし今後の他科との連携のあり方について検討するために,当科コンサルテーション依頼に至る経過,転帰等について調査した. 【方法】2003年度の精神科コンサルテーション依頼患者のうち,うつ病と診断されたものの割合を調べ,それらの依頼科,依頼理由,転帰等について検討した. 【倫理的配慮】調査に際しては,患者のプライバシーに関する内容は除外した. 【結果】2003年度の当科コンサルテーション依頼患者数は148名であった.その精神医学的診断は,器質性精神障害が過半数を占め,うつ病はこれに次いで21名(14.2%)であった.これらの依頼科は神経内科,消化器科など多様であった.合併身体疾患は脳梗塞,悪性腫瘍など様々であり,約半数は2疾患以上の合併症を有していた.コンサルテーション依頼に至る経過については,約3割が全身倦怠,動悸などを主訴に入院したが精査の結果異常が認められず,当科への診療依頼がなされていた.転帰については,約3割が精神科での継続的治療を要した.当科入院を要したものは,自殺企図例や亜昏迷状態を呈したもの計4例であった.在院日数が40日以上と長期化した例は,うつ病が重症で当科入院治療を要したものや複数疾患を合併しADLの低下をきたしたものであった.一方在院日数が14日未満のものでは,退院直前にコンサルテーション依頼がなされたり,治療効果を十分評価できなかったりなど,治療の継続性に問題のある例が認められた. 【考察】当科にコンサルテーション依頼のあったうつ病患者のうち少なからぬものは,うつ病そのものによる身体症状を主訴に入院となっている.病院全体の在院日数が短縮する中で専門的治療の導入,継続を図るためには,高齢者のうつ病についての啓発活動を強化するとともに,一般病棟定期回診も含めてより早期に介入する必要があると考えられた. |
痴呆症の前駆状態診断に関する問題点 |
谷向 知1),日高 真2),佐々木恵美1),宮本美佐1),山下典生3) |
UG6-24 |
【目的】痴呆症の早期診断は重要な課題であり,Mild Cognitive Impairment(MCI)など痴呆の前駆状態が注目されている.PetersenのMCIの概念などは,専門外来における診断基準であり,地域で行う疫学などには適したものではない.また,うつ状態は認知機能に影響を与える可能性が強く,痴呆の前駆状態を診断する上で,うつ症状に留意することが必要である.そこで我々は,うつ症状と認知機能に注目した疫学調査を行い,痴呆症前駆状態とうつとの関係について検討したので報告する. 【方法】2001年5月1日の時点で茨城県利根町に在住する65歳以上の町民2728名のうち,同意が得られた1916名(70.2%)を対象とした.対象者には基本的属性,認知機能,気分状態,ADL,治療中の疾患などを調査した.1次は集団スクリーニング(うつは自記式のGeriatric Depression Scale:GDS,認知機能はファイブコグ,Clinical Dementia Rating:CDR),2次は個人面接 (Psychogeriatric Assessment Scaleなど),3次はMRI,SPECTの画像検査を行った.これらから痴呆,痴呆の前駆状態(CDR 0.5),うつ病(DSM-W:major,minor depression)を診断した.その上で,@前駆状態,痴呆におけるうつの合併率,Aうつ病と診断される者の認知機能障害の特徴を検討した. 【倫理的配慮】原則悉皆の調査であったが,本研究の目的と方法の説明を行い,本人により文書による同意が得られたものを対象とした. 【結果】痴呆の有病率は10%,痴呆の前駆状態にあるものは33%であった.うつ状態(GDS≧6)のものは15.9%でみられたが,精神科医による構造化面接によりうつ病と診断されたものは4.2%(major depression 1.2%,minor depression 3%)であった.うつ病の有病率は,痴呆の前駆状態にあるものの5.6%で,認知機能に異常を認めないものの2倍以上であった.また痴呆と診断されたものの21%は抑うつ状態を有していた. Major depressionと診断された群では健常群と比較し,ファイブコグの遅延再生と注意の課題において有意に成績の低下がみられた.一方,minor depressionと診断された群では,健常群と比べて有意な認知機能の低下を示す項目はなかった. 【考察】うつ状態にあり認知機能の低下を認めるものは高率に痴呆へと進展する痴呆の前駆状態にあるという報告がある.今後,痴呆の前駆状態とうつ病や抑うつ状態を合併するもの,あるいは認知機能の低下はなく抑うつ状態だけが認められるものが,今後どのような経過をたどるのかを経時的に観察していくことで,痴呆に進展する要因が明らかになると考えられる. |
脳血流シンチが診断に有効であった |
宮内 茂1),柏瀬宏隆1),河村代志也2),藤田安彦2) |
UG6-25 |
【はじめに】めざましい発達を遂げている脳の画像診断において,SPECTも新しい解析法の開発によって広く施行されるようになった.精神疾患の分野においてもSPECTは病態の解析のため有用な検査として注目を集めている1).われわれは脳血流シンチ(定量解析)が治療方針の決定に有効であった薬剤抵抗性うつ病の1例を経験したので文献的考察とあわせて報告する. 【症例提示】症例は69歳女性 主訴は食欲不振,全身倦怠感,不眠.平成11年11月ごろより不眠,食欲不振が始まり,平成12年になり夫が胃潰瘍で入院となってからはさらに不眠,食欲不振が強くなりほとんど食事をとれず動けない状態になり,精神科入院となる.入院後はうつ病の診断に対して抗うつ剤投与を開始したが被害妄想,心気妄想,貧困妄想など妄想的訴えが出現し,抗精神病薬を使用すると副作用でふらつきが出現し,治療に苦慮した.食欲不振,体重減少を認めたため経管栄養を開始した.抑うつ状態の背後にありえる脳血流低下の影響を調べるため,脳血流シンチを施行したところ定量解析において脳全体に著明な血流低下を認めた.脳血流低下をベースとしたうつ状態(vascular depression)と考え,抗うつ薬を中心とした処方から脳血流代謝改善剤を中心とした処方へ変更したところ,抑うつ状態の改善,食欲の改善がみられ経菅栄養を離脱した.また被害妄想的訴えも消失した.症状改善後に施行した脳血流シンチでは脳血流の改善を認めた. 【倫理的配慮】本症例報告においてはプライバシーの保護等について配慮し入院治療を行った病院,日時等により個人が特定できないように十分配慮をした. 【考察】 1.本症例ではvascular depressionに基づく薬剤抵抗性うつ病の治療において脳血流シンチ(定量解析)が治療方針の決定に有用であった. 2.脳循環改善薬nicergorineの使用後,脳血流および臨床症状の改善がみられた. 3.高齢者の薬剤抵抗性うつ病ではvascular depressionを疑い,脳血流シンチを施行するべきである. |