第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) G610

うつ病 1

座長:越野 好文(金沢大学)

 

都市部高齢者の抑うつに対する
ソーシャル・サポートの効果
― 痛みによる影響について ―

小泉弥生1),粟田主一1),関   徹1),大森  芳2),
栗山進一2),寶澤  篤2),松岡洋夫1),辻  一郎2)

1) 東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野,
2) 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野

UG6-20

【目的】前年本学会で,都市部の高齢者において,ソーシャル・サポートの欠如は,抑うつ状態に陥るリスク要因であることを公表した.また,痛みがうつ病のリスク因子であるという先行研究報告もある.しかし,ソーシャル・サポート欠如が抑うつ状態のリスクであることに対する,痛みの影響については未だ報告がない.そこで,今回我々は同研究対象者にて,抑うつ症状リスク要因としてのソーシャル・サポートに対する痛みの影響について検討した.

【方法】T地区在住の70歳以上に対し総合機能評価を平成14,15年に行った.平成14年1178人に聞き取り調査を行った.ソーシャル・サポートに関する質問は,1)困ったときの相談相手,2)体の具合の悪いときの相談相手,3)日常生活を援助してくれる人,4)具合の悪いとき病院に連れて行ってくれる人,5)寝込んだとき身の回りの世話をしてくれる人の有無である.痛みに関する質問は,この4週間で,1)痛みが無い 2)ごく弱い痛みがある 3)弱い痛みがある 4)中等度の痛みがある 5)強い痛みがあるの5項目中1つ選択するものである.抑うつ症状評価はGeriatric Depression Scale(GDS)30項目を用い,GDS 10点以下を非抑うつ群,11点以上または抗うつ剤服用者を抑うつ群とした.

【倫理的配慮】本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得ている.対象者に対し書面と口頭により調査目的を説明し書面による同意を得た.総合機能評価は各個人に対し書面で結果通知した.

【結果】平成14年時評価で非抑うつ群でGDSと痛みとソーシャル・サポートの質問項目に回答し認知機能障害のない736人のうち,平成15年評価で研究に関する同意を得た解析対象者は,458人であった.サポート欠如による抑うつ状態に陥るリスクを,多変量補正ロジスティク回帰分析によるオッズ比(95%信頼区間)で求めた.ソーシャル・サポート質問1)と5)のソーシャル・サポート欠如により抑うつ状態に対するオッズ比(95%信頼区間)は,質問項目1)2.9(1.4-6.1),5)2.6(1.3-5.5)であり,有意なリスク上昇が認められた.これらの項目に関し,痛みの質問1)2)を痛みなし,3)から5)を痛みありと定義し,痛みの有無で層別化解析した.各々のオッズ比(95%信頼区間)は,質問項目1)について,痛みがない場合2.5(0.8-7.7),痛みがある場合4.1(1.4-12.5)であり,5)について,痛みがない場合1.7(0.5-5.7),痛みがある場合6.5(2.0-21.2)であった.

【考察】都市在住高齢者のソーシャル・サポートの欠如は抑うつ状態へ陥るリスク要因である.さらに,痛みに関する層別化解析結果から,ソーシャル・サポートが欠如し,かつ痛みを有していることは,抑うつ状態に陥るリスクを特に高めることがわかった.今後,都市在住の高齢者の地域介入していく際に,ソーシャル・サポートが欠如し,かつ痛みを有する高齢者は,抑うつ状態に陥るハイリスク群であり,早期介入対象として考慮していく必要がある.

 

地域在住の65歳以上高齢者における
生存率を予測する要因の分析

宮本美佐1),山下典生1),木之下徹2),日高  真3),佐々木恵美1),朝田  隆1)

1) 筑波大学臨床医学系精神医学,2) 医療法人社団こだま会こだまクリニック.
3) 国立霞ヶ浦病院

UG6-21

【目的】高齢者を対象としたこれまでの生存分析研究の多くは,予測要因として疾患やADLに注目してきた.しかし認知機能や気分障害に注目した研究報告はいまだ限られたものである.我々は2001年から地域において痴呆予防活動を継続してきた.そこで対象高齢者の生存率について,ADL以外に認知機能や気分障害に着目して検討した.

【方法】茨城県利根町に居住する2001年5月1日の時点で65歳以上の住民で,初回調査の参加者となった約1900人を対象とした.町の協力の下,3年後の時点における生存の有無を確認した.生存率に寄与する候補要因として,初回調査時のADL,認知機能,うつに注目した.測定尺度としてADLはNADL,認知機能はファイブコグ(注意・記憶・視空間認知・言語・類推の5領域)を用いた.各尺度の標準化した合成総得点を算出し,平均値より1SD以下か否かで二分した.うつはGeriatric Depression Scale(GDS)短縮版を用いて,6点以上をカットオフポイントに二分した.解析は比例ハザード性を確認し,Cox比例ハザードモデルを用いて性と年齢で調整して分析した.

【倫理的配慮】初回調査時に本研究の参加に関して,書面によるインフォームドコンセントを得た.個人を特定するデータは全てコード化して分析を行う等個人情報の保護に関して厳重に配慮して万全を期した.

【結果】検討した3要因は,その全てが生存率に関して有意な寄与を示した.その中で,最も寄与の度合いが高かったのはADLであった.次いで認知機能,うつの存在という順であった.このような結果は,性と年齢で調整後も再現された.

【考察】今回の結果から,高齢者の生存率に寄与する要因として,ADL,認知機能,うつが指摘された.ADLについてはこれまでも多くの報告があるが,今回それ以外に,認知機能や主観的な気分障害が将来の生存率へ影響していることが示唆された.

 

都市に在住する抑うつ状態高齢者のための
包括的な地域介入プログラムの効果

粟田主一1),小泉弥生1),関   徹1),佐藤宗一郎2),寶澤  篤3)
大森  芳3),栗山進一3),辻  一郎3),松岡洋夫1)

1) 東北大学大学院医学系研究科精神神経学
2) こだまホスピタル,3) 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学

UG6-22

【目的】高齢化が進行する都市部の大規模住宅地域において,高齢者の抑うつ状態の改善と自殺予防を目的とする包括的な地域介入プログラムを策定し,その効果を検証した.

【方法】2002年と2003年の7月〜8月に仙台市宮城野区T地区に在住する70歳以上の高齢者を対象に抑うつ症状(GDS),自殺念慮(CIDI),ソーシャルサポートの評価を含む総合機能評価(CGA)を実施し,2002年〜2003年に,一般住民を対象とする健康教育(EP),うつ病スクリーニング(SP),健康相談(CP)を,2003年〜2004年に,上記に加えて,大うつ病または小うつ病エピソードの基準を満足するハイリスク高齢者に対して,うつ病ケアマネジメント(DCM),訓練を受けた看護師による訪問ケア(OP)を実施した.さらに,2004年8月〜9月に,2002年または2003年のスクリーニング実施時点でのハイリスク高齢者を対象に,抑うつ症状,全般的精神健康度(WHO-5),自殺念慮の評価を含む転帰調査を実施して,介入効果を解析した.統計学的解析にはpaired t-testとMcNemar testを用いた.

【倫理的配慮】本研究は東北大学大学院医学系研究科および東北大学病院倫理委員会の承認を得て実施した.すべての調査および介入は,本人に説明の上,書面による同意を得て実施した.

【結果】CGAに連続参加し,抑うつ症状と自殺念慮に欠損データのない一般高齢者群(N=665)において,2002年から2003年の間にソーシャルサポートの割合は有意に増大し(p<0.05),抑うつ症状は有意に改善したが(p<0.05),自殺念慮の割合には変化を認めなかった.2004年の転帰調査に協力が得られたハイリスク高齢者群内において,2002年のハイリスク高齢者(N=23)では,2003年の時点では抑うつ症状の有意な改善は見られず,自殺念慮の割合も変化しなかったが,2003年のハイリスク高齢者(N=37)では,2004年の時点で全般的精神健康度の有意な改善(p<0.05)と,自殺念慮の割合の有意な減少(p<0.05)が見られ,抑うつ症状は改善傾向(p<0.1)を示した.

【考察】CGA,EP,SP,CPなどのポピュレーション戦略は高齢者一般集団のソーシャルサポートを高め,抑うつ症状の軽減に寄与する可能性があるが,ハイリスク高齢者の抑うつ症状や自殺念慮に対する効果は乏しい.DCM,OPによるハイリスク戦略は,ハイリスク高齢者の全般的精神健康度を高め,自殺念慮を軽減する.都市在住高齢者の抑うつ状態改善と自殺予防を目的とする地域介入プログラムにはCGA,EP,SP,CP,DCM,OPなどを含む包括的政策パッケージが有用かと思われる.