認知症診断におけるSPECTの有用性 |
井上輝彦,三山吉夫,藤元登四郎 |
UB2-29 |
【目的】認知症診断において脳の器質的変化を捉えるためにCT,MRI,SPECT等が広く用いられている.さらに解析方法の進歩とともに3次元での解析が可能となり,アルツハイマー型認知症(AD)においては側頭頭頂葉・後部帯状回・楔前部における血流低下の所見と臨床症状の組み合わせにより診断を下している.今回我々は,認知症鑑別におけるSPECTの有用性について考察したので報告する. 【方法】当院外来および入院症例で,症候学的に明らかに後方型症候を示す群(健忘・失行等を主たる症状とする群)9例と明らかに前方型症候を示す群(行動障害・言語障害・口唇傾向等を主たる症状とする症例)5例を抽出しそれぞれSPECTにおける血流低下パターン特にアルツハイマー型の血流低下パターン(側頭頭頂葉and/or後部帯状回and/or楔前部)(AD型血流低下)の有無について検討した.また,MCI(amnestic)3例・幻覚妄想症2例・Binswanger型認知症3例・物忘れの自覚のみの症例1例についてもSPECTにおける血流低下パターンを検討した.SPECTは3D-SSP画像にて検討した.ただし,臨床診断は症候・MRI画像・SPECTその他神経心理学的検査を総合的に判断したものである. 【倫理的配慮】本検討は,症候・画像・診断名のみの検討であり,これらから個人の同定は不可能であり,個人情報が漏洩することはない. 【結果】臨床的に後方型症候を示す群9例全例はAD型血流低下の特徴を示し,これら9例はADと考えられた.この群には前頭葉の眼窩面・内側面の血流低下も伴っていた.前方型症候を示す群の2例は前頭側頭葉に限局した血流低下を示し,前頭側頭型認知症(FTD)に合致する所見と考えられたが,5例中3例はAD型血流低下を示した.この3例は,FTDとすべきか,前方型症候が顕著なADとすべきかが問題となると考えられた.MCI 3例は後方型症候を示す群とほぼ同様の血流低下パターンを示しており,いずれADに移行する可能性が高い症例と考えられた.Binswanger型認知症3例もAD型血流低下の特徴を示した.この3例は症候もADと類似したところがあり,症候と血流低下部位との関連が示唆された.幻覚妄想症2例・自覚的に物忘れを訴えるが客観的な健忘所見が明らかでなかった1症例もAD型血流低下を示していた.これら3例に関しては,今後経過中にADが発症するかどうかが興味をもたれると考えられた. 【考察】側頭頭頂葉・後部帯状回・楔前部に血流低下を認めることがアルツハイマー型認知症の診断根拠とされるが,実際には,他の疾患(前方型認知症・Binswanger型認知症・幻覚妄想症等)においてもこの部位で血流低下を認めることがある.これらはアルツハイマー型認知症と関連した所見(合併あるいはいずれ発症することを示唆する所見)と考えてよいか,今後の経過観察と剖検による診断確定が必要と考えている. |
[99mTc]ECD-SPECTを用いた早発性および晩発性 |
大塚太郎1),黄田常嘉2),木村通宏1),水村 直3),松田博史4),根本清貴5) |
UB2-30 |
【目的】順天堂医院メンタルクリニックで若年性アルツハイマー病(AD)専門外来を開設して6年になるが,日々の診療を行う中,ADの臨床的多様性を実感する場面がしばしばである.そこで今回,そうしたADの多様性を解明する端緒の一つとして発症年齢に着目し,早発性AD(EOAD)と晩発性AD(LOAD)の局所脳血流(rCBF)の低下パターンの差異について比較検討を加えた. 【方法】順天堂医院メンタルクリニック,国立精神・神経センター武蔵病院もの忘れ外来および都立荏原病院神経内科外来を受診した,NINCDS-ADRDAの診断基準を満たすADについて,65歳以上で発症したLOAD 40例と,65歳未満で発症したEOAD 20例とを,MMSEの得点がほぼ同様となるように2群に区分した.両群を対象に[99mTc]ECD-SPECTを撮像し,両群の局所脳血流の相違についてSPM for Windows 95を用いて空間的標準化を施しピクセルレベルでの画像統計解析による比較検討を試みた. 【倫理的配慮】今回の研究では,日常臨床で診断精査目的に施行されたSPECTデータを後方視的に抽出し,対象とした.症例の取り扱いについては匿名性を保ち個人情報の保護に配慮した. 【結果】EOADはLOADに対して両側の側頭頭頂連合野の広範な部位に加え,後部帯状回,楔部において有意な血流低下が認められた(hight p<0.001,extent p<0.05,p corrected).これに対して,LOADはEOADに対して,前部帯状回吻腹側部と後頭皮質において有意な血流低下が示された(hight p<0.001,extent p<0.05,p corrected). 【考察】認知障害が同程度であっても,EOADはLOADに比して側頭頭頂連合野の広範囲にrCBF低下が認められ,EOADに失行・失認などの巣症状が多いこととの関連が示唆された.又,LOADに認められた前部帯状回吻腹側部におけるrCBFの低下は同群に早期から認められる情動障害との関連が窺われた. ADの病態が単純に65歳を境界として明確に2つのサブグループに分類されるとは考え難いが,今回確認されたような発症年齢に基づく局所脳血流所見の差異はADの多様性の一証左であると考えられる. |
早期アルツハイマー病患者における |
岡村信行1),田代 学2),船木善仁2),加藤元久1) |
UB2-31 |
【目的】塩酸ドネペジルを代表とするアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は,アルツハイマー病(AD)における認知機能の改善を目的に広く使用されている.早期AD患者における脳内コリン神経系機能の障害の程度を把握することは,治療導入のタイミングを考慮する上で重要である.そこで本研究では,新規トレーサーである[11C] Donepezilを用いたPETにより,早期AD患者における脳内AChE濃度の定量化を行った. 【方法】9名の健常者(高齢者6名,若年者3名)および5名の早期AD患者(平均年齢72歳,MMSEスコア25.2点)を対象とした.PET撮像にはSET-2400W(島津)を使用した.Donepezilの11C 標識体を5〜9 mCi静注し,その直後から計29フレームのダイナミック撮像を施行し,同時に連続採血を実施した.各個人のMRI画像を参照して線条体,視床,小脳,前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉,前帯状回,後帯状回,海馬に関心領域(ROI)を設定し,各領域の平均カウントを算出した.小脳白質を参照領域とし,採血データまたは参照領域のROIを入力関数としてLoganらのgraphical解析を行い,AChE濃度の指標となるBinding potential(BP)を算出した. 【倫理的配慮】本研究は東北大学医学部倫理委員会の承認をうけ,ヘルシンキ宣言に従って,個人の人権に配慮して実施した. 【結果】健常者における脳内AChEのBPは,線条体,視床,小脳で高く,海馬,後帯状回がこれに次ぎ,前頭葉・側頭葉・頭頂葉などの大脳皮質では相対的に低値を示した.加齢に伴う有意なBPの変化はみられなかったが,頭頂葉領域では加齢に伴いBPが低下する傾向を認めた.健常高齢者に比べてAD患者では,ほぼ全領域において有意なBPの低下がみられ,特に大脳皮質,海馬領域で顕著な低下を認めた.健常高齢者を基準としたAD患者のBPの低下率は,前頭葉,前帯状回,海馬で約60%,後部帯状回で約55%,側頭葉・後頭葉で約50%,頭頂葉で約45%,視床で約40%,線条体で約30%であった.また参照領域ROIを入力関数として算出したBP値は,採血データを使用した場合のBP値とよく相関していた. 【考察】[11C]Donepezilによって計測されたAChEの脳内分布は,病理脳組織を調べた過去の報告と一致しており,[11C]MP4A-PETによりAChE活性を測定した結果とも矛盾しないものであった.AD患者では早期段階から脳内AChE濃度が著明に低下しており,これは前脳基底部から投射するコリン神経系の機能低下を反映していると考えられた.本所見から,AD患者では早期からAChE阻害薬を積極的に使用すべきであると考えられた. |