第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) G610

ECT

座長:一瀬 邦弘(東京都立豊島病院)

 

継続ECT中に再燃した中高齢期緊張型統合失調症に
対する高頻度維持ECTの効果

鈴木一正1),粟田主一2),高野毅久2),海老名幸雄1),岩崎  斉2),松岡洋夫2)

1) 東北大学病院精神科,2) 東北大学大学院医学系研究科精神神経学

UG6-08

【はじめに】我々はすでに中高齢期の難治性緊張型統合失調症には,1)急性期修正型電気けいれん療法(ECT)の短期的効果が高いこと,2)急性期ECT後の再燃率が高い事,3)易再燃性の症例には6ヶ月間の継続ECTが寛解維持に有効である事をすでに発表した.今回は6ヶ月間の継続ECT中に再燃してしまい,より高頻度の維持ECTにより寛解を維持している3症例を経験したので発表する.

【症例提示】症例1 49歳時に興奮,拒絶症,衒気症,注察妄想が出現.HPD 4.5 mg+LP 200 mgにて寛解.52,57歳時にも再発するが抗精神病薬にて寛解.61歳時に再発したが薬物治療抵抗性であり急性期ECTにて寛解.HPD1.5 mg+LP 60 mg投与するも20日後に再燃.2度目の急性期ECT後にLP 50 mg+継続ECT施行中に93日で再燃.3度目の急性期ECT後に高頻度で1年間の維持ECTとRPD1 mg+OZP 10 mgにより,現在まで4.5年間寛解維持中.
症例2 42歳時に被害関係妄想,考想伝播,滅裂思考にて発症.HPD 3mg+CPZ 100 mgにて寛解.63,65歳時にも再発するが抗精神病薬にて寛解.67,68歳時に幻聴,被害関係妄想,昏迷,興奮にて再発したが,HPD 2.5 mg + LP 15 mg + DZP 10 mgにて部分寛解.74歳時に昏迷を呈して,急性期ECTにて寛解.HPD 2.25 mg + sulpiride 200 mgにて135日後に再燃.2度目の急性期ECT後にRPD 6mg + 継続 ECT 施行中に140日で再燃.3度目の急性期 ECT 後に高頻度で2年3ヶ月間の維持ECTをOZP 20 mg併用で施行し,2年9ヶ月間寛解維持し再発.現在4度目の急性期ECT施行中.
症例3 43歳時に被害関係妄想,追跡妄想,自閉にて発症.44歳時に興奮,情動不安定,拒絶症,不眠が出現してHPD 15 mgにて部分寛解.48歳時に興奮,情動不安定,被害・誇大妄想にて再発.入院後昏迷に移行し,急性期ECTを施行し寛解.HPD 9 mgにて24日で再燃.2度目の急性期ECT施行しOZP 20 mg +継続 ECT 施行中の90日で再燃.3回目の急性期ECTを施行しRPD 12 mg + LP 200 mgを併用した高頻度の維持 ECT 施行中228日で再発.4回目の急性期ECT後にLi 600 mg + paroxetine 40 mgを併用した高頻度の維持ECTにて現在まで10.5ヶ月間寛解維持中.
本研究では継続ECTは順に,1週毎のECTを4回,2週毎のECTを4回,4週毎のECTを3回の6ヶ月間施行プロトコールを決めて実施された.全例にECTによる明らかな有害事象は見られなかった.

【倫理的配慮】本研究は,東北大学病院倫理委員会で承認されている.ECTは,すべて修正型ECTで施行された.急性期ECTは本人または保護者の,継続ECT及び維持ECTは本人の同意のもとに施行された.

【考察】継続ECT中に再燃した中高齢期の緊張型統合失調症3例に対してより高頻度の維持ECTは再発予防効果を認めた.継続ECTで再燃した場合でも,より高頻度の維持ECTで寛解維持できる可能性がある.今後は,維持ECTの寛解維持効果についてコントロールされた多数例での研究が要請される.

 

初老期以降の難治性うつ病に対する急性期パルス波ECTの
短期的治療効果と6ヶ月再燃率

高野毅久1),鈴木一正2),粟田主一1),海老名幸雄2),岩崎  斉1),松岡洋夫1)

1) 東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野,2) 東北大学病院精神科

UG6-09

【目的】初老期以降のうつ病は,身体的衰弱をきたす場合が多く,特に薬物治療困難例では治療に難渋する.ECTは薬物治療困難なうつ病に対する有効な治療法として認められているが,本邦ではパルス波治療器を用いたECTの治療効果についての多数例研究はない.今回我々は,急性期ECTを初めてパルス波治療器により施行した50歳以上の大うつ病性障害を対象として,急性期ECTの短期的治療効果と6ヶ月再燃率を研究した.

【方法】2001年1月から2005年1月まで,当科にて急性期ECTを初めてパルス波治療器により施行された50歳以上のDSM-W大うつ病性障害の診断基準を満たす連続症例において,採用基準として患者または家族から同意を得られていること,かつ,除外基準として痴呆,物質関連障害の既往または併存,以上すべてを満たした症例を対象とした.17項目Hamilton Rating Scale for Depression (HAM-D)を評価尺度とした.急性期ECTの最終回から2日以内のHAM-Dが,ECT前の50%以下に減少し,かつ,12点以下が最低1週間持続することを急性期ECT反応の基準とした.治療転帰はHAM-Dで6ヶ月間または再燃するまで追跡し,18点以上が2週間以上持続した場合を再燃とした.継続治療は,継続ECT+薬物か薬物治療のみか症例毎に考慮し施行された.

【倫理的配慮】本研究は,東北大学病院倫理委員会で承認されている.ECTは,すべて修正型ECTで施行された.急性期ECTは本人または保護者の,継続ECTは本人の同意のもとに施行された.

【結果】10症例(男性2例,女性8例)が対象となり,全例が急性期ECTの反応基準を満たし,反応率は100%だった.その後の継続治療は,継続ECT+継続薬物療法によるものが3症例,継続薬物療法のみによるものが7症例であり,前者においては2症例,後者においては2症例が再燃した.全体として10例中4例が再燃し,6ヶ月再燃率は40%だった.

【考察】初老期以降の薬物難治性大うつ病性障害に対するパルス波治療器によるECTの短期的治療効果は,上記の基準を採用する限りでは100%と高い反応率を示した.しかし,6ヶ月再燃率は40%と高く,急性期ECT反応後の継続治療の必要性が強調される結果となった.ECT後の継続治療については,2つの治療群間での症例の割り振りがコントロールされておらず,今後コントロールされた多数例研究により再燃予防の方法が検討される必要があると考える.

 

初老期発症の錯乱躁病に対し
急性期ECTが奏効した一症例

新藤  剛,鈴木一正,高野毅久,海老名幸雄,岩崎  斉,粟田主一,松岡洋夫

東北大学病院精神科

UG6-10

【はじめに】躁病に対する治療は,通常気分安定薬や抗精神病薬を中心とした薬物治療である.しかし一部に薬物治療困難な躁病があり,その症状が著しい場合に処遇に難渋する.このような躁病に対してはECTの使用が報告されているが躁病のなかでも滅裂思考,失見当識,健忘などある種の意識障害を呈するタイプのものがあり錯乱躁病やせん妄躁病と呼ばれている.今回我々は初老期発症の錯乱躁病に対して急性期修正型電気痙攣療法(m-ECT)が奏効した1例を経験したのでここに報告する.

【症例提示】症例は当科初診時55歳の女性.36歳時第一子出生したがその頃より,家の中に閉じこもり,人前に出てこないという暮らしが3ヶ月続いたという.その後は目立った症状も特になく,約20年間寛解を維持していた.母が病気の後は家で母親の介助をしていた.X年夏(55歳)より早朝覚醒し,派手な服装を着用するようになり,家での仕事をやりすぎるといった行為促迫,目標志向性の過活動が認められ,X年10月より夜に出歩き人に悪口を言うといった行為促迫がエスカレートし,多弁,滅裂となり,注意散漫,不眠といった躁状態が急性に1週間以上続き,X年10月A病院に入院した.Li 600 mgまで使用するも効果なく中止.X+1年6月Perospirone最大20 mgまで使用したが発熱,嘔吐,血圧低下,筋緊張の副作用が出現したため,中止した状態であった.A病院入院中は会話は滅裂,多弁,多動,衝動行為,興奮のため身体拘束されていた.X+1年10月ECT目的に当科転院.入院時,爽快気分,衝動行為,多動,滅裂,失見当識が認められた.頭部MRI,EEGや身体所見では異常は認められず,初老期発症の錯乱躁病と考えられ,急性期m-ECT(計23回)が施行された.ECTは有効であったが軽度思路の障害,自発性の低下,困惑感,が残遺した.急性期ECT後バルプロ酸500 mgを使用していたが,ECT終了後2週間後には脱抑制,滅裂思考,注意散漫,衝動的行為,失見当識が再燃した.薬物療法併用(risperidone10 mg,levomepromazine 100 mg)のもとに再度急性期m-ECTを11回施行途上であるが,軽度の思考障害を残して軽快している.ECTによりせん妄以外の明らかな有害事象は認められなかった.

【倫理的配慮】尚,本症例のECTは保護者の同意を得て施行された.

【考察】本例は経過から考えて,C.Wernickeにより提唱された錯乱躁病に包括されると考えられた.薬物治療難治性であったが,急性期ECTは有効であった.錯乱躁病においては,著しい思路の障害や衝動行為が起こる.それにより多くの身体的合併症(低栄養,転倒,誤嚥など)を起こす可能性が高く,適切な時期にECTを選択する必要がある.