アルツハイマー病とBACEの遺伝子多型の関連性 |
渡邊朋子,柴田展人,大沼 徹,新井平伊 |
UB2-32 |
【目的】アルツハイマー病(AD)の代表的な病理所見としてamyloid beta peptide(Aβ)の沈着が認められる.BACE(β-site APP cleaving enzyme)はAβの前駆体であるβ-amyloid precursor protein(APP)からAβを切り出し,分泌する際に関与する膜結合型アスパラギン酸プロテアーゼであり,AD発症に関与している可能性が報告されており,BACEがその遺伝子レベルで何らかの障害を有している可能性も考えられる.そこで今回我々はBACEの遺伝子多型を検索しADとの関連を検討した. 【方法】BACEの遺伝子多型のうちアミノ酸変化のない2つのSNP(rs638405,rs522843)をPCR-RFLP法にて検索した.対象群はNINCDS-ADRDAに基づきADと診断された孤発性患者群196例と年齢をマッチさせ認知障害がないとされた健常対照群97例(CDS 0)である.それぞれの遺伝子多型における対立遺伝子の頻度,遺伝子型の頻度をAD群と健常対照群で統計学的に比較検討し,本遺伝子多型が孤発性ADの遺伝的危険因子となりうるかどうかを検討した. 【倫理的配慮】本研究は順天堂大学医学部倫理委員会の承認を受けている.対象者は研究の主旨と内容について十分な説明を受け,全症例書面にて同意が得られている. 【結果】今回我々は日本人の孤発性AD症例についてBACE遺伝子の2つの遺伝子型,対立遺伝子共にAD群と健常対照群の間の統計学的有意差を検討した.その結果有意差は認められず,今回の研究においては,ADとBACE遺伝子多型の間に遺伝学的な関連は認められなかった. 【考察】今回検索したBACE遺伝子多型(rs638405,rs522843)は,全てアミノ酸変化のないSNPであり未知のBACE遺伝子多型の与える影響が完全に否定されたわけではない.今後更に新たな変異を検索し,症例数を増やし遺伝学的な関連性を追求していく必要があると思われる. |
アルツハイマー病とCETP遺伝子多型の |
北島明佳,柴田展人,大沼 徹,新井平伊 |
UB2-33 |
【目的】脂質代謝はアルツハイマー病(AD)の発症に関連する重要な因子の1つとして注目されてきた.CETPは血清中のHDLコレステロール値の調節を担っており,コレステロールの代謝に密接に関係している.今回我々は,CETP遺伝子多型が孤発性ADの発症に関与しているかどうか血清中のコレステロール値との関連を含めて検討した. 【方法】CETP遺伝子多型の2つのSNP(rs5882,rs2303790)をPCR-RFLP法にて検索した.対象群はNINCDS-ADRDAに基づきADと診断された孤発性AD患者群188例と,年齢をマッチさせ認知障害のないとされた健常対照群86例である.それぞれ,遺伝子多型における遺伝子型の頻度,対立遺伝子の頻度を孤発性AD群と健常対照群で統計学的に比較検討し,本遺伝子多型が孤発性ADの遺伝的危険因子となりうるか検討した.また2つの遺伝子多型それぞれにおいて,糖尿病や心疾患の既往のない孤発性AD群80例の血清中のコレステロール値を比較検討した. 【倫理的配慮】本研究は順天堂大学医学部倫理委員会の承認を受けている.対象者は研究の主旨と内容について十分な説明を受け,全症例書面にて同意が得られている. 【結果】今回我々はCETP遺伝子の2つの遺伝子型,対立遺伝子について,日本人の孤発性AD症例と健常対照者群の間の統計学的有意差を検討した.その結果,有意差は認められず,今回の研究においては孤発性ADとCETP遺伝子多型の間に遺伝学的な関連は認められなかった.また,血清コレステロールとCETP遺伝子多型との間にも有意差は認められなかった. 【考察】今回,我々が調査した2つのCETP遺伝子多型はコレステロールの代謝機能に影響するSNPであり,これらは孤発性ADの危険因子として関連性が認められなかった.しかし,我々の調査では日本人の孤発性AD群のみであり,症例数も少ないため,今後症例数を増やし遺伝学的な関連性を追及していく必要があると思われる. |
遺伝子発現解析と遺伝子関連解析を用いた |
秦 龍二1),田口敬子2),山縣英久3),紙野晃人4),田原康玄3),赤津裕康5) |
UB2-34 |
【目的】近年遺伝子工学の進歩に伴い,大量のサンプルを効率良く処理することが可能となり,様々な疾患感受性遺伝子の同定法が開発されてきた.しかしながら,これらの手法を組み合わせて検討した報告はあまりなされていない.そこで本研究では孤発性アルツハイマー病(AD)感受性遺伝子の検索・同定を目的として,マイクロアレイによる遺伝子発現解析と遺伝子多型(SNP)による関連解析を組み合わせて検討し,その有用性を評価した. 【方法】AD初期(Braak stage V)と病理診断された剖検脳の海馬及び頭頂皮質組織よりRNAを抽出し,microarrayにより遺伝子発現変化を検討した.そしてAD初期脳の海馬で有意に発現が亢進又は低下していた遺伝子のうち,海馬で最も発現亢進していた遺伝子16個と最も発現低下していた遺伝子17個,合計33個選び出しAD関連遺伝子とした.次いでAD患者群376例と年齢を一致させた健常群376例を対象とし,33個のAD関連遺伝子のSNPを選択し,TaqManPCR法を用いて遺伝子関連解析を行った. 【倫理的配慮】基本的な承諾は患者死亡後に遺族より書面にて了解を得ている.研究実施にあたって,愛媛大学医学部倫理委員会に本研究計画の実施申請を行い,承認を得ている. 【結果】χ2検定の結果,解析した33個のSNPのうちgenotypeで9個,またalleleでは5個で5%以下の危険率で有意差を認めた.これらのうちPOU2F1(POU domain,class 2,transcription factor 1)で最も強い関連が見られた(p<0.0007).いずれもAPOE4に匹敵する程の危険因子ではなかったが,明らかに高頻度で有意差を認めた. 【考察】遺伝子発現解析により見出された疾患候補遺伝子は従来強制発現系を用いての機能解析が行われてきた.しかしながら強制発現系を用いた方法では候補遺伝子が実際にヒトの疾患に関連しているかどうかは不明であった.そこで,これらの候補遺伝子が実際にヒトの疾患に関連しているかどうかを遺伝子多型による関連解析にて検討した.その結果高頻度で有意差が検出され,両者を組み合わせるのは疾患感受性遺伝子の検索・同定に有用な方法であると考えられた. |