第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木)〜17日(金) ポスター展示ホール

ポスター発表

(日本老年精神医学会)

 

アルツハイマー病

認知症(痴呆症)後期の特徴
― 誤嚥性肺炎の経過について ―

清原龍夫

清原龍内科

PB-21

【目的】認知症の方達を数多く永年にわたって診療していると,認知症は型を問わず一定の経過をとる事に気付く.その中で最も顕著な点は,認知症の方の大半は,誤嚥性肺炎を繰り返しながら死に至る,という事である.アルツハイマー型認知症で言えば3期,私は後期と呼んでいるが,この後期の誤嚥性肺炎の経過についてその特徴を検討したので発表する.

【方法】脳血管性認知症,アルツハイマー型認知症等について,誤嚥性肺炎の初回罹患からを後期と定義して,この段階の発症時期,誤嚥性肺炎治癒後次回の罹患までの期間,肺炎罹患時の血液生化学データについて検討した.

【倫理的配慮】本報告にあたっては患者の権利に対して倫理的に十分な配慮を遂行した.

【結果】アルツハイマー型認知症の誤嚥性肺炎は,発症約7〜8年で初回罹患していた.脳血管性認知症の場合は3〜5年,レビー小体型認知症の1例では5年であった.2回目以降の誤嚥性肺炎の罹患は,認知症発症後4年で初回の肺炎に罹った89歳の男性の場合,2回目は5ヵ月後で,3回目は2回目治癒後3ヵ月後,4回目は3回目の誤嚥性肺炎治癒後2ヵ月後であった.

【考察】認知症後期の誤嚥性肺炎は,初回の肺炎が治癒した後,繰り返して罹患する傾向と,2回目以降,罹患間隔が短くなる傾向が認められた.また,誤嚥性肺炎の発症と治癒の判定には,通常の肺炎のように胸写・CRPなどでは不充分であると考えられた.

 

ドネペジル使用1年後の認知機能改善効果に関する研究

星野良一1),岡本典雄2),野島秀哲2)

1) 紘仁病院精神科,2) 岡本クリニック

PB-22

【目的】ドネペジルはアルツハイマー型痴呆(Alzheimer- type dementia:ATD)の認知機能障害の改善に有効な薬剤であるが,ドネペジルの短期的な認知機能改善効果を,それぞれの症例のリハビリテーションにどのように活用するかが治療上重要である.今回は,1年以上ドネペジルによる治療を受け,継時的に認知機能の評価をできたATD症例を対象に,ドネペジルの認知機能に対する短期的改善効果と長期的改善効果の関連性を検討した.

【方法】対象は痴呆専門外来を開設している静岡県内のAクリニックでATDと診断され,ドネペジルによる治療を受け,継時的に認知機能の評価をできた外来症例94例(男性18例,女性76例)である.評価にはClinical Dementia Ratings(CDR),Mini Mental State Examination(MMSE),ロールシャッハ・テストを用いた認知機能評価(RCT)を用いて,治療前,16週後,32週後,52週後に行った.対象はCDRの治療前と52週後の推移から,CDRの評価が維持された群(有効群;56例,男性11例,女性45例,平均年齢77.6±5.8歳)とCDRの評価が1段階以上低下した群(無効群;38例,男性8例,女性30例,平均年齢76.2±7.0歳)に分類した.

【倫理的配慮】倫理的配慮に関しては,治療前にドネペジルによる治療による利益・不利益と継時的に認知機能の評価をすることを説明し,本人と家族の同意を得た上で治療を行った.

【結果】ドネペジル使用前のCDRは有効群1.2±0.4,無効群1.2±0.5,MMSEは有効群18.1±3.7,無効群18.3±3.9,RCTは有効群−2.5±2.5,無効群−2.2±2.5で差異は認められなかった.有効群のMMSEは16週20.0±3.4,32週19.8±3.6,52週19.9±3.3で,使用前より有意に高得点であった(p<.001).無効群では16週17.7±3.0,32週16.6±4.0,52週13.8±3.8で,32週,52週は使用前より有意に低得点であった(p<.001).有効群のRCTは16週−1.5±2.3,32週−1.5±2.7,52週−2.1±2.9で,16週(p<.01),32週(p<.001)は使用前より有意に高得点であった.無効群では16週−3.1±3.1,32週−3.5±2.9,52週−4.5±3.3で,16週(p<.05),32週(p<.01),52週(p<.001)とも使用前より有意に低得点であった.

【考察】結果では,治療前のCDRや認知機能の水準から,長期的な認知機能改善効果を予測することは困難であることが示された.これに対して使用後16週の評価で,有効群ではMMSEとRCTの改善が示されており,無効群ではRCTの低下で認知機能の衰退が示されていた.このことから,ドネペジルによる長期的な認知機能改善効果は,短期的な効果の程度から予測しうること,認知機能の衰退はより早期にRCTの低下によって評価しうることが示唆された.

 

アルツハイマー型痴呆に対する計算介入の効果
― 無作為割り付け比較試験 ―

水野  裕1),渡辺智之2)

1) 一宮市立市民病院今伊勢分院,2) 高齢者認知症介護研究・研修大府センター

PB-23

【目的】認知症高齢者に対する,非薬物介入の試みは多いが,無作為割り付け比較試験を初めとする質の高い方法による効果の検証に基づくエビデンスは乏しい.そこで,国際診断基準に基づいた診断,薬物服用の有無,文書同意などの倫理的配慮,乱数表を用いた無作為割り付け,国際的評価尺度使用,評価者・統計処理者への情報隠蔽等,質の高い研究手法に基づき,アルツハイマー型痴呆に対する,計算介入および手作業介入の効果を明らかにすることを目的とした.

【方法】平成16年7月1日から9月末日までにI病院物忘れ外来を受診した全患者112名を対象とし,アルツハイマー型痴呆(NINCDS-ADRDA),塩酸ドネペジル5 mg服用中,在宅で研究協力が得られる同居者がいる者,文書同意,MMSE 5以上の条件に合致した31名が研究に参加した.乱数表により2群に割り付け,計算介入群・手作業介入群(対照)とし,1回30分,週6日,3ヶ月間の介入を同居家族とともに行った.計算は,公文痴呆用計算ツールを用い,手作業は,折り紙を行った.評価は,MMSE,HDS-R,高齢者用多元観察尺度(MOSES),DBD,FAB(A frontal assessment battery at bedsides. Neurology 55:1621-1626,2000)を用い,評価者には情報を隠蔽した.

【倫理的配慮】研究内容の詳細を,倫理委員会で検討し,承認後,本人および同居家族に説明文を渡し,説明した上で,文書による同意書を得られたもののみを,研究参加者とした.

【結果】選考基準を満たした,31人は,計算介入群15名,手作業介入群16名に乱数表を用いて割り付けられた.脱落,アンケートの記載もれなどを除いた最終的な分析対象は,それぞれ,12名(女8,男4,76.3±9.0歳),9名(女5,男4,75.1±7.8歳)であり,年齢に有意な差はなかった.介入前のCDR(p=0.54)DBD(p=0.19)HDS-R(p=0.10)MMSE(p=0.43)は,両群で有意差はなかった.両群の3ヵ月後の変化量を比較した結果は以下の通りである.DBD変化量(p=0.75),HDS-R変化量(p=0.64),MMSE変化量(p=0.24),FAB変化量(p=0.25),MOSES T(セルフケア)変化量(p=0.78),MOSESU(失見当)変化量(p=0.46),MOSESV(抑うつ)変化量(p=0.85)であり,いずれにおいても,有意な差は認められなかった.各群それぞれの各評価尺度の前後を比較したところ,いずれも有意な差を認めなかった.

【考察】アルツハイマー型痴呆を対象に,無作為に2群に割り付け,計算介入および手作業(折り紙)による介入を行い,認知(MMSE,HDS-R),情動(MOSES),行動障害(DBD),前頭葉機能(FAB)を評価し,両群それぞれの前後の差,および両群の変化量の差を比較した.その結果,両群の変化に有意な差は認められなかった.理由としては,家族教育は行ったが,在宅で行ったため,不十分な介入であった可能性があること,症例数が少なかったことなどが考えられた.

 

NIRSを用いたアルツハイマー病および
軽度認知障害における脳血流動態の定量的測定

宮川晃一1),高野真喜1),黄田常嘉1),浅香裕一2),川口常昭2),新井平伊1)

1) 順天堂大学医学部精神医学教室,2) 日立メディコ

PB-24

【目的】近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いた脳血流の酸素化ヘモグロビンの測定は,臨床的には非定量的なものに限られているのが現状である.今回我々は,NIRSを用いた定量的測定法を開発し,アルツハイマー病(AD)や,軽度認知障害(MCI)患者における脳血流の酸素化ヘモグロビンの変化を測定することに応用した.

【方法】健常対照者群32名とAD患者群15名,MCI患者群15名に対してverbal fluency task(語流暢課題)を施行し,全脳対応型多チャンネルNIRS装置を用いて前頭葉,左右の頭頂葉および後頭葉領域における酸素化ヘモグロビンの変化を測定した.課題施行中における酸素化ヘモグロビン波形の振幅の変化をactivation index(A-index)として表現し,signal processing法によって解析した.

【倫理的配慮】本研究は,順天堂大学医学部倫理委員会の承認を受けている.対象者は研究の主旨と内容について十分な説明を受け,全症例書面にて同意が得られている.

【結果】A-indexの平均値を健常対照者群と比較すると,AD患者群は有意に前頭および両側頭頂葉領域にて低値を示したのに対し,MCI患者群では右頭頂部領域に限定して有意に低値を示した.右頭頂葉領域のA-indexを用いたADに対する診断感度は71%,特異度は94%であった.

【考察】NIRSの費用対効果や検査の簡便性を勘案すると,今回我々が行ったNIRSを用いた定量的測定法は,アルツハイマー病の臨床的スクリーニング手法として有用であることが示唆された.