第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木)〜17日(金) ポスター展示ホール

ポスター発表

(日本老年精神医学会)

 

疫学・ケア

神戸大学医学部附属病院専門外来
「メモリークリニック」の現況とその考察

山本泰司1),長岡研太郎1),保田  稔1),川又敏男2),前田  潔1)

1) 神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学講座,
2) 神戸大学医学部保健学科作業療法学専攻

PB-11

【目的】当院精神神経科に専門外来「メモリークリニック」が開設されてから4年以上が経過し,患者の受診状況も定常化しつつある.この専門外来の開設当初の目的の1つは,2000年より我が国で最初の抗痴呆薬である塩酸ドネペジルが使用可能となったことによってDATがtreatableな疾患となり,DATを早期に診断する意義が高まったことにあった.そこで,今回われわれは専門外来「メモリークリニック」における現況についてまとめたうえで,考察を加えることにした.

【方法】現在,当院の「メモリークリニック」は担当医師5名が週5日(月曜から金曜日)の診療をおこなっている.完全予約制をとっていることもあって,最近では受診患者総数および新患患者数も定常状態となってきている.そこで,今回われわれは平成15年12月〜平成16年10月までの11ヶ月間における,当院精神神経科専門外来「メモリークリニック」の新規受診者(計364名)の実態に関して調査結果をまとめた.具体的には,初診時年齢および発症年齢,確定診断病名(および精神科の合併症診断病名),前医からの紹介の有無,受診目的の内訳,確定診断後の治療方針(ドネペジル投薬の有無など),初回のミニメンタルテスト(MMSE)およびADASの得点数,頭部画像検査(主としてMRIおよびSPECT)の結果などを比較した.

【倫理的配慮】「臨床研究に関する倫理指針」(平成15年7月30日,厚生労働省発令)にしたがって,今回の調査を行った.

【結果】今回の調査対象となった364名のうち,女性は70%(254名),男性は30%(110名)であった.調査対象者全体の43%(156名)が前医からの紹介患者であった.
メモリー外来での診察の結果,受診者全体の86%(313名)がなんらかの痴呆疾患を疑われた.痴呆疾患の確定診断病名が付いた患者の内訳は,DATが全対象者の54%(195名,うち19名は若年型)であった.その他の痴呆疾患として主なものは,レビー小体型痴呆が4.4%(16名),血管性痴呆が2.7%(10名),前頭側頭型痴呆および皮質基底核変性症が各2名であった.痴呆ではないけれども,その前段階とも考えられる軽度認知障害(MCI)は6.0%(22名),さらに加齢関連性記憶障害(AAMI)は6.3%(23名)であった.その他の精神疾患としては,うつ病またはうつ状態が7%(27名,うち単独診断が10名)で最多であり,その他に妄想性障害が7名,神経症圏4名,統合失調症2名などであった.

【考察】発表当日には,平成15年に行った同様の調査結果とも比較検討して,具体的考察を加える予定である.

 

老人性痴呆疾患治療病棟における生活療法と
個別ケア導入後の変化について

藤沢嘉勝,中田謙二,高橋  淳,佐藤和司,勝田真澄,佐々木健

きのこエスポアール病院

PB-12

【目的】我々は,数年前から痴呆患者を対象とした介護療養型医療施設に生活療法を導入し,個別ケアに取り組んできた.その結果,徘徊や大声,暴力,不眠,意欲低下等の行動障害や精神症状が顕著な痴呆患者にこそ,良い生活環境と個人に焦点を当てたケアが必要との考えに至った.そこで平成14年1月から,最も生活感のない空間であった老人性痴呆疾患治療病棟(60床)に生活療法と個別ケアを導入したところ,いくつかの変化が見られたので報告する.

【方法】<環境調整>(1) 4ユニットに分けた.1)比較的安定している14名.2)夕方症候群や夜間せん妄が時折みられる19名.3)精神症状や行動障害が顕著な19名.4)1:1に近いケアが必要な最重度の8名.スタッフはそれぞれ5名,8名,9名,5名と均一ではなくユニット別に増減した.(2) 生活感のある空間づくり:広いホールや回廊式の廊下を仕切り,台所やリビングを作り,生活用品を揃えた.各病室にはトイレを設置,タンスやソファーを置き個人の空間を作った.<職員の意識改革と個人に焦点をあてた生活療法>集団ケアから個別ケアへ:業務中心の流れ作業的なケアから,利用者1人1人の個別性を,重視したケアへ転換するよう職員の意識を改革した.食事やお茶を共にし,歌や散歩だけでなく,洗濯たたみ,畑仕事,味噌汁やおやつ作りなど当たり前の生活を取り入れた.

【倫理的配慮】きのこエスポアール病院倫理委員会の承認を得て行った.

【結果】(1) 病室やホールが家庭的な生活感のある雰囲気となり,患者とスタッフがソファーでくつろいで会話を楽しめるような空間ができ,徘徊が減少した.(2) スタッフと一緒におやつ作りをしたり,編み物をしたり,中庭で畑仕事をするなど,残存能力を引き出しその人の得意な分野で作業を行なうことが可能になり,日中ぼんやりと過ごす患者が減少した.(3) スタッフができるだけそばにいることで,トイレ誘導が頻回できるようになり,オシメの使用者が減少した(日中18.3人→6.1人,夜間14.3人→10.9人).(4) 大腿骨頸部骨折患者が減少した(25人/3年→18人/3年).(5) 平均在院日数が234.1→218.1に減少し,病床回転率が1.5→1.7に上昇した.

【考察】痴呆性高齢者の示す行動障害や精神症状は,環境に起因していることが多いと考えられる.そこで,治療病棟においても,特殊な治療法以前に本人が安心して生活できるような環境の整備と個別性を尊重する生活療法が重要であると考えられる.

 

認知症高齢者の在宅服薬管理と
介護負担との関連

今井幸充

日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科

PB-13

【目的】アルツハイマー病患者の家族に対する適切な服薬指導は日常診療で欠かせないが,服薬指導の必要なアルツハイマー病患者の在宅での服薬に関する介護負担の実態について明らかにした調査は少ない.そこで本研究では,認知症高齢者を抱える家族が日常介護のなかで患者の服薬に関する介護負担の実態を明らかにし,その負担軽減に役立てる方略を明らかにするものである.

【方法】介護者の服薬管理の実態を明らかにするために,医療情報サービスを提供するためにインターネット上で公開している「わたしの病院」(http://www. my-hospitals.net)に登録している者の中で,本調査に同意した認知症高齢者の家族介護者に対し服薬管理に関する質問の回答を求めた.質問内容は,@介護者の背景,A要介護者の特性:診断,年齢,痴呆と診断されてからの期間,介護保険要介護度,B介護行為に対する介護負担:排便介助,入浴介助,要介護者の問題行動への対応,など17項目の介護行為に対して「負担を感じない」から「非常に負担を感じる」を7段階に分けた介護負担感,C服薬介助:介助の状況,服薬回数,薬剤,服薬方法,服薬時の介護負担感,であった.実施期間は2004年5月28日から6月15日までの19日間であった.

【倫理的配慮】本調査は(株)日本LCAのインターネット「わたしの病院」の中でアンケート調査のための会員登録者に調査表を示し,調査に同意した認知症介護者がネットを通して回答した.

【結果】認知症高齢者の介護に内在する問題点を明らかにする目的で,在宅介護における介護家族の負担感および服薬コンプライアンス,望まれる薬剤などに関し介護家族を対象として調査し,以下の結果を得た.
1)介護行為である「経口与薬の実施・確認」の負担度は,「体位を変換する」や「衣類の着脱」などと同程度であった.
2)服薬困難時や薬の種類が複数ある時には負担感が増大した.
3)痴呆患者が服薬を拒否する主な理由の一つは薬の飲み難さであった.
4)服薬させやすい剤形として「口腔内崩壊錠」に対する期待度が高かった.
以上の結果より,在宅介護では口腔内崩壊錠を利用することで介護家族の負担が軽減する可能性が示唆された.

【考察】本調査結果から,認知症高齢者の在宅介護で,服薬介助は介護負担感をもたらすことからそれらの軽減のために剤形の工夫が必要であることが明らかになった.中でも口腔内崩壊錠は,その便宜性が注目されている.本調査でも口腔内崩壊錠がアルツハイマー病をはじめとする認知症高齢者を介護する家族にとって介護負担軽減に役立つことが期待できる剤形であることが示唆された.