第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月15日(水)〜17日(金) ポスター展示ホール

合同ポスター発表

(6学会合同)

 

認知症(痴呆)等の演題

座長:本間  昭(東京都老人総合研究所)
    井関 栄三(順天堂東京江東高齢者医療センター)

早期アルツハイマー病における脳代謝低下部位の
広がりと統計画像診断

石渡明子1),北村  伸2),片山泰朗1),クロス ダナ3),蓑島  聡3)

1) 日本医科大学付属病院神経内科,2) 日本医科大学付属第二病院神経内科,
3) ワシントン大学放射線科

PB-03

【目的】この研究はアルツハイマー病(AD)の脳機能統計画像を用いた早期診断を行う際の,病態生理を反映したより客観性・再現性の高い診断方法を確立することを目的とした.Mild Cognitive Impairment(MCI)の患者を対象として,ADのごく初期に脳血流代謝が低下することが報告されている部位において,(1) 病変の重症度による評価(Peak-based analysis)と (2) 病変の広がりによる評価(Area-based analysis)のどちらがより高い精度でADへの進展を予測し得るかを検討した.

【方法】MCIの患者に対して施行した[F18]FDG-PETに対し,三次元定位脳表面投射法(Three- dimensional stereotactic surface projections ; 3D-SSP)を用いて統計画像解析を行った.ADの初期に脳代謝が低下することが報告されている後部帯状回と前頭側頭頭頂連合野に注目し,その領域内におけるPeak-based analysis(統計指標―Z-scoreの最大値で評価)とArea-based analysis(設定した閾値以上の異常Z-scoreを持つ総ピクセル数で評価)のどちらがより高い精度でADへの進展を予測し得るかを検討した.解析にあたっては,ROC解析におけるAUC(area under the curve)の面積をより正確な解析法を示す指標として採用することで,比較的容易にvariationにとんだ条件下での評価を可能とした.

【倫理的配慮】被検者に対しては,十分なインフォームドコンセントを行い同意を得て参加いただいた.
【結果】ROC解析の結果では,Area-based analysisの方がPeak-based analysisに比して有意にADへの進行の弁別能が高かった.MCIの個々の症例においてZ-scoreの上位5つの座標を求めたところ,連合野内でびまん性の広がりを示した.

【考察】MCIにおいて進行例を弁別する上で,連合野における軽度から中等度の糖代謝異常の病変の広がりが,病変の重症度と比較してより精度良く弁別可能であった.これは,局所的な糖代謝異常よりもむしろびまん性の糖代謝異常が,ごく初期のADの病態を反映し診断的価値が高いと考えられた.

 

MMSEの総得点と局所脳血流の関連
― eZISと3DSRTを用いた検討 ―

池田英二1),塩崎一昌1),都甲  崇1),勝瀬大海2),日野博昭3)

1) 横浜市立大学医学部精神医学教室,2) 横浜舞岡病院,3) ほうゆう病院

PB-04

【目的】Mini-Mental State Examination(MMSE)はその簡便性から認知症のスクリーニングによく用いられている.しかし,テスト結果が脳のどの部位の機能を反映しているのかに関しての報告は少ない.本研究は局所脳血流のZスコア画像を用いてMMSEの総得点に影響する部位を探索することを目的とした.

【方法】横浜市立大学医学部附属病院を物忘れを主訴に受診した患者のうち,MMSEと脳血流検査を2ヶ月以内に受けた20名を対象とし,後方視的に調査した.対象者の内訳は男性5名,女性15名であり,全員右利きで,平均年齢は70.7歳だった.脳血流SPECTは,トレーサーにTc-99m-ECDを用い,データ収集にはGE社製Millennium VGを用いた.eazy Z-score Imaging System(eZIS)にて年齢を合致させた正常データベースに対するZスコアを算出後,自動ROI解析ソフトウェア(3DSRT ver.3)に導入し,標準化されたROIごとのZスコアを求めた.ステップワイズ重回帰分析にてMMSEの総得点に影響する部位を検討した.

【倫理的配慮】今回の研究は,横浜市立大学医学部倫理委員会の承認を受けており,匿名性に配慮した上で過去の脳血流SPECT検査の所見を後方視的に検討したものであり,患者に不利益が及ぶことはない.

【結果】左海馬への集積とMMSEの総得点の間に有意な正の相関が見られた(r=0.68,p<0.001).右海馬や他の側頭葉の領域では有意な相関はなかった.

【考察】海馬の萎縮がMMSEの総得点の低下に関連していることは従来から報告されているが,海馬の血流に関してはSPECTの解像度が低く明確な結論は得られていない.今回の結果ではROIはMRIを元に標準化されており,部位決定の確度が高いと考えられ,左海馬の血流低下とMMSEの総得点が相関している可能性が示された.

 

アルツハイマー型痴呆の重症度と海馬の萎縮
および左右差との関係

森岡悦子1),柳田  浩1),田中  晋2),関野敬子1),荻野あずみ1),富永桂一朗1)
石関  圭1),渡部廣行1),山口  登1),平安良雄3),青葉安里1)

1) 聖マリアンナ医科大学精神神経科,2) 杏林大学精神神経科,
3) 横浜市立大学精神医学教室

PB-05

【目的】アルツハイマー型痴呆(ADT)における,Functional Assessment Staging(FAST)の重症度と海馬容積の変化及び海馬容積の左右差との関係について検討する.

【方法】聖マリアンナ医科大学病院メモリークリニックを受診した51名[男性14名,女性37名,FAST2(非痴呆)9名,FAST3(境界状態)9名,FAST4(軽度AD)18名,FAST5(中等度AD)15名,平均年齢76.2±9.7歳]に対し,volumetric MRIにて得られた画像より,海馬容積(H),頭蓋内容積(C)を測定した.H,CはそれぞれAC-PC lineに垂直なT1強調冠状断スライス及びAC-PC lineに水平なT2強調水平断スライスにて手動測定した.画像解析ソフトウェアとして3D-Slicer ver.1.3を用い頭蓋内容積(C)にて補正した海馬容積(H)を補正海馬容積(H/C)とした.FASTの評価及び海馬容積測定はブラインド条件下で行った.

【倫理的配慮】対象者には外来受診時に本研究の主旨を説明し,文書にて同意を得た.

【結果】1.H/Cについて1)FAST 2,3,4,5の順に高値であった.2)左H/C:FAST 3,4,5群はFAST 2群に比べ有意に(p<0.01)低値であり,FAST 2群とFAST 3群との差異が顕著であった.FAST 3,4,5群間ではそれぞれ有意差は認められなかった.3)右H/C:FAST 5群はFAST 4群に比べ有意に(p<0.01)低値であり,この両群間での差異が顕著であった.2.左右差について1)各群において左H/Cが右H/Cより低値であった.2)FAST 3群とFAST 4群において左右H/Cに有意差(p<0.05,p=0.0001)を認めた.一方,FAST 2群とFAST 5群において左右H/Cに統計学的な有意差は認められなかった.

【考察】1.FASTの重症度の進行とともにH/Cは左右とも低下する.2.H/Cは右側に比べて左側で小さい.3.左H/Cは認知機能低下の初期(FAST 2群から3群)に著明に低下する.4.右H/CはAD発症後中期にかけて著明に低下する.5.その結果,H/Cの左右差はADの初期に顕著となり,中期には消失する.