第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木)〜17日(金) ポスター展示ホール

ポスター発表

(日本老年精神医学会)

 

検  査

日本語版Frontal Assessment Batteryの
信頼性と妥当性の検討

久郷亜希1),寺田整司1),阿多敏江1),井戸由美子1),加戸陽子2)
中島良彦3),引地  充4),藤沢嘉勝5),佐々木健5),黒田重利1)

1) 岡山大学大学院医歯学総合研究科精神神経病態学教室,
2) 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科
3) 山陽病院,4) 希望ヶ丘ホスピタル,5) きのこエスポアール病院

PB-29

【目的】Frontal Assessment Battery(FAB)はDuboisらにより開発された前頭葉機能の簡便なスクリーニング検査である.今回我々はアルツハイマー型痴呆(AD)と血管性痴呆(VaD)の患者における遂行機能障害を調べるために,日本語版FABの信頼性と妥当性を評価した.

【方法】我々は21人の正常対照群と,岡山大学医学部附属病院の記憶外来にかかっているAD 38人,VaD 18人について調べた.各群の患者間において,年齢,教育年数,罹病年数に関して有意差は認めなかった.全ての患者に対して,FAB,Mini Mental State Examionation(MMSE),仮名ひろいテスト,Wisconsin Card Sorting Test(Keio version:KWCST)を施行した.

【倫理的配慮】本研究においては,患者および家族に研究の目的,方法について十分に説明し同意を得た.

【結果】ADとVaDの患者は正常対照群と比較して,FAB,MMSE,KWCSTにおいて明らかに悪い成績であった.ADとVaDの患者においては,FABは他の検査と高い相関を認めた:KWCSTの達成カテゴリー数(r=0.617,p<0.001),保続エラー数(r=−0.536,p<0.001),仮名ひろいテスト(r=0.412,p<0.001).MMSEとは中等度の相関を示した(r=0.405,p<0.001).ADとVaDの患者間では,各検査の結果で有意な差は認められなかった.評価者間信頼性(r=0.972,p<0.001),再試験信頼性(r=0.769,p<0.001),内的一貫性(Cronbach’s coefficient alpha=0.719)と信頼性,妥当性ともに高かった.

【考察】FABは痴呆性疾患の患者の遂行機能障害を評価する上で,有効なスクリーニング検査であると考えられる.また今回の結果から,ADの患者においてもVaDの患者と同様に,病初期から遂行機能障害が認められることが示唆された.

 

もの忘れ外来を自発的に受診するアルツハイマー病患者の
認知機能と自覚症状の特徴

鈴木絵里子1),小村江里2),小野賢二郎1),柳瀬大亮1)
吉田光宏1),岩佐和夫1),沖野惣一1),駒井清暢1),山田正仁1)

1) 金沢大学大学院医学系研究科脳医科学専攻脳病態医学講座脳老化
・神経病態学(神経内科)
2) 金沢大学大学院自然科学研究科医療薬学専攻病院薬学研究室

PB-30

【目的】アルツハイマー病(以下,AD)患者の自己の病態の認識については,認知機能の低下にともなう病態失認の観点から研究されてきたが,患者本人の自覚症状やその訴えを診断や臨床心理学的サポートに生かす観点での研究はほとんどない.そこで,もの忘れ外来を自発的に受診するAD患者の自覚症状や認知機能の特徴を明らかにすることを目的に,もの忘れ外来受診患者および地域ボランティア群について検討した.

【方法】対象は2002年4月〜2003年8月に当科もの忘れ外来を受診した170名と,脳老化研究・地域ボランティア190名.検査終了時の診断がADか,認知機能が正常範囲である者を選び,受診者については自発的な受診であるか否かの観点で分類したところ,以下の4群になった(年齢をマッチさせた人数):自発受診AD群(34),非自発受診AD群(31),自発受診正常群(13),ボランティア正常群(26).これら4群について基本属性とMMSEを,ボランティア正常群以外の3群について,認知機能としてWAIS-RとWMS-Rの各IQ(指標)と各下位検査評価点を比較した.さらに初診時のアンケートで尋ねた4項目(もの忘れ症状,もの忘れ以外の症状,基本的ADL障害,手段的ADL障害)の自覚の有無と自由記述内容を,非自発受診AD群以外の3群について検討した.

【倫理的配慮】対象者には,担当医師が各検査結果を研究に用いることについての詳細な説明を行い,書面による同意を得た.

【結果】基本属性は,4群で性別,教育歴に有意な差はなかった.MMSEの得点は自発受診AD群で21.9±3.6点,非自発受診AD群で20.3±4.9点で有意な差はなかった.認知機能は,WMS-Rの見当識,視覚性再生(直後)下位検査の粗点で有意差があり,非自発受診AD群<自発受診AD群<自発受診正常群の順であった(p<0.01).アンケート回答は,もの忘れの自覚「あり」とする回答が,ボランティア正常群より自発受診群(AD +正常)の方が多かった(p<0.05).もの忘れの自覚ありと回答した者の具体的症状として,「最近のできごとを忘れてしまう」項目で自覚「あり」とする回答は,自発受診AD群と自発受診正常群の間,自発受診正常群とボランティア正常群の間に差はなかったが,ボランティア正常群より自発受診AD群に多かった(p<0.01).もの忘れ以外の症状では「今日の日付を思い出せない」項目で自覚「あり」とする回答は,自発受診正常群より自発受診AD群が,ボランティア正常群より自発受診AD群の方が多かった(p<0.01).

【考察】もの忘れ外来を自発的に受診するAD患者は,そうでないAD患者よりも,見当識と視覚性記憶の直後再生力がよく保たれている.また,自発的に受診するAD患者では,「今日の日付を思い出せない」という見当識の低下についての症状の自覚が多いことと比較し,もの忘れ外来を自発的に受診する健常者や健常ボランティアでは少なく,この自覚症状に注目することが,自覚症状による診断スクリーニングに有用であると考えられる.

 

レビー小体型痴呆とアルツハイマー型痴呆の鑑別に
おけるMMSE下位項目の有用性について

長岡研太郎1),山本泰司1),河内  崇2),植月  静1),
保田  稔1),川又敏男3),前田  潔1)

1) 神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学分野,2) 先端医療センター,
3) 神戸大学医学部保健学科

PB-31

【目的】レビー小体型痴呆(DLB)とアルツハイマー型痴呆(DAT)の鑑別は臨床的に重要であるが,実際の臨床では鑑別が困難であることが少なくない.2002年にT.A. Alaらは,Mini-Mental State Examination (MMSE)の下位項目(注意・記憶・構成)の分析が両者の鑑別に有用である可能性を指摘しており,今回,我々はその有用性についての検討を試みた.

【方法】2003年12月より2004年10月までの11ヶ月間に,当院メモリークリニック(痴呆専門外来)を受診し,臨床的にDLBまたはDATと診断され,かつ初回のMMSEが13点以上の症例125例を対象とした.Alaらは,MMSEの下位項目を用い,注意−5/3・記憶(想起)+5・構成という計算式によって導かれた数字(Ala scores)は,DLB群がDAT群よりも低く,特に5点未満である場合はDLBの可能性が高いと報告している.我々は対象となった125例の患者の初回MMSEを用いて同様の計算を行い,その分布について調べた.

【倫理的配慮】本報告においては患者個人を特定できるような情報は用いず,匿名性に配慮した.また,本報告作成のための追加検査など,患者にとっての新たな負担は生じていない.

【結果】全125例のうちDLBと診断されたものは12例,DATと診断されたものは113例である.全125例のうちAla scoresが5点未満であったものは40例であり,その40例中9例がDLBであった.すなわち,12例のDLBの中で,Ala scoresが5点未満であったものは9例であった.

【考察】DLBは注意障害や視空間機能の障害が目立つ一方,特にDATと比べ病初期には記憶障害が目立たないことがあるといわれている.Alaらの報告はこの特徴をより鋭敏に捉えようとする試みである.Alaらの報告は病理学的診断に基づいている一方で,我々の報告は臨床診断基準に基づいているという相違はあるものの,今回の結果は,すでに日常臨床で広く用いられているMMSEの下位項目(注意・記憶・構成)に注目することが,DLBとDATの鑑別に有用である可能性を示唆するものと思われた.

 

タッチパネルパソコンを用いた神経心理学検査
CANTABの我が国での標準化の試み

服部兼敏1),中村光夫2)

1) 香川大学教育学部,2) 香川大学医学部精神神経科

PB-32

【目的】CAambridge Neuropsychological Test Automated Battery(以下CANTAB)はRobbinsとSahakianらによって開発された,コンピューター画面上の刺激図形に対してタッチスクリーンパネルを通して反応を入力する認知・神経心理学検査である.アルツハイマー型痴呆の早期診断に本検査を用いるための標準化検査を施行し,有用性を検討した.

【方法】健常高齢者群26名(男11名,女15名,年齢65.7±4.8歳)およびAD患者群8名(男3名,女5名,年齢66.0±8.5歳)に対して対連合学習(PAL)の課題を実施した.
被検者は,画面周辺部に配置された箱の中にランダムに表示される刺激図形を記憶する.全ての図形が表示された後,画面中央部に同一の刺激図形が表示されたとき,記憶しているその図形が表示された位置(図形は隠されている)を指で触れて回答する.検査は8レベルからなるが,各レベルを完全に正答するまで次のレベルに進むことは出来ない.徐々に複雑化するレベルごとの指による接触回数の分布を探索的データ解析によって解析するとともに健常高齢者群とAD患者群を比較した.

【倫理的配慮】健常高齢者は,標準化データの収集であることを説明し同意を得られたボランティアである.AD患者は検査の意義を説明し,同意を得た.

【結果】健康な高齢者群と認知患者群の接触回数の分布を箱ひげ図を用いて探索を行ったところどちらの群もL5から散布度が大きくなった.ただしNの括弧内は欠損値を示す.
レベル L1 L2 L3 L4 L5 L6 L7 L8
健常群N 26(0) 24(2) 26(0) 26(0) 26(0) 26(0) 25(1) 19(7)
中央値 1 1 2 2 3 4.5 12 24
四分位偏差 0 0 0 0 1.5 1.5 8 12
AD患者群N 8(0) 8(0) 8(0) 8(0) 8(0) 7(1) 7(1) 6(2)
中央値 1 1 2 2 6 12 24 32
四分位偏差 0 0 0.75 1 2.625 4.5 18 17

【考察】両群の平均の差を検定したところ,L5およびL6で1%水準,L7で5%水準の有意差が見られた.L8で有意差が見られなかったのは欠損値が影響していると推察された.また健康群の中にも記憶になんらかの問題がある参加者がいることも考えられた.