前頭側頭型痴呆 |
催眠商法を楽しむ前頭葉痴呆の1例 |
山下元司 |
PB-25 |
【はじめに】集会所などにひとを集めて言葉巧みに演説をして不要な商品を買わせることがある.痴呆患者はこうした商法の犠牲になりがちと考えられるが,毎日これを楽しみ決して無駄な支出をしない痴呆の症例を経験した. 【症例提示】患者は70歳代後半の女性で,約2年前に良心市の品物をとったままお金を払わない,スーパーで品物をバッグに入れてしまうなどの異常行動に気づかれた.もともと上品であったが人柄が変わり言葉も荒くなった.1つのことを集中して行うことができなくなった. この患者の毎日の楽しみは催眠商法に参加することで,同じ弁士が毎日違う内容の話をするので聞いていて楽しいという.毎日その集会に出かけるが商品は一切買わず,被害にもあっていない.話を聞くのは楽しが,品物は買いませんと明白に述べる.改定式HDSRは1年前20点であったが,本年1月段階で14点である. 診察室では多弁であるが表面的で,内容は空疎である.礼節は保たれている.動悸などを訴えるので抗不安薬の投与を必要としている.頭部MRIでは白質病変は目立たず,皮質の萎縮もはっきりしない. 【倫理的配慮】概要発表の承諾を得た. 【考察】若いときの患者は建設作業員をしながら副業に品物を売り相当の利益を得てきたという.こうした経験があるため,催眠商法の集会に参加しても不要品を買わないと家族は想像している.またこの場所では老人が関心を持つ特定領域の商品だけを販売しており,患者はこうした品物には元来関心を持たないのかもしれない.催眠商法で老人などが被害に遭うことが多いと考えられているが,むしろこれを楽しみながら,一切これを買わない痴呆の症例を経験したので報告した. |
せん妄以外に神経学的所見を伴わない |
小松 桜,谷村 淳,川島立子,東 晋二,石塚卓也,八田耕太郎,新井平伊 |
PB-26 |
【はじめに】老年期には様々な要因でせん妄が出現するが,その診断・治療にしばしば困難を要することがある.当初,前頭側頭型痴呆(FTD)に伴うせん妄が疑われて入院となったが,入院後のMRI,CT検査により脳出血によるせん妄と診断された症例を経験したので報告する.臨床所見で片麻痺やけいれん発作,歩行障害などの神経麻痺は出現せず,せん妄のみが出現した. 【症例提示】75歳男性.既往に高血圧があり内服加療を行っている.(X−2)年頃より終日茫とした表情をすることが多くなり,失見当識も認められるようになったため,X年に当科を受診し,MRI,SPECTにてFTDの診断のもと外来通院を始めた.その7ヵ月後の某日,一人で外出して深夜帰宅したが,本人はどのように帰宅したかは覚えていなかった.翌日以降も夜間徘徊,つじつまの合わない言動が続いたため4日目に当科を受診してせん妄の診断にて入院となった.せん妄に対してペロスピロンを主剤に治療開始された.入院時に神経学的所見は認められなかったため,緊急の頭部CT検査は行わず,頭部MRIを予約した.ところが第4病日に撮影されたMRIにて右前側頭両域に頭蓋内占拠病変が発見され,CTにて脳出血の診断に至った.改めて神経学的検索を行ったが,片麻痺,けいれん発作,歩行障害なども含めて一切の神経症状は認められなかった.グリセオールの点滴など保存的治療を行い,血腫が吸収されるに伴い徐々にせん妄は改善した.最終的にペロスピロンは中止としたが,せん妄の再発は認められず活動性も改善したため退院となった. 【倫理的配慮】患者のプライバシー保護のため発表と直接関係のない部分の記載を一部変更した. 【考察】本例は,巨大出血巣を認めたにもかかわらず,せん妄以外に神経症状が認められない稀な病態を呈した.FTDによる大脳皮質の萎縮のために出血による頭蓋内占拠病変としての効果が出現しなかったと推察される.このように,必ずしも臨床所見と画像所見が一致しない場合もあるため,せん妄が認められた場合は,痴呆性疾患が確定されていても可及的速やかな画像診断の意義が小さくないことが示唆された.当日は脳出血とせん妄の関連性について若干の考察を加えて報告する. |
大うつ病性障害の再燃と考えられたが, |
西田圭一郎,笛木孝明,吉村匡史,吉田常孝,嶽北佳輝,織田裕行 |
PB-27 |
【はじめに】前頭側頭葉変性症(FTLD)は1994年Land-Manchester groupによって提唱された概念である.これは臨床的に3型に分けられているが,共通して認められる症状として,前頭葉機能の低下による脱抑制,常同症,被影響性の亢進,自発性の低下,食行動の異常などが挙げられる.今回我々は,既往に大うつ病性障害があり,自発性の低下など抑うつ様症状を認め,大うつ病性障害の再燃と診断されていたが,最終的にFTLDの診断に至った2症例を経験したので報告する. 【症例提示】症例1,60歳,男性.X−3年10月,抑うつ気分,希死念慮,食思不振が出現した為当科受診した.大うつ病性障害と診断され同日入院となった.薬物療法開始され症状改善をし,X−2年3月退院となった.その後外来通院となったが自己中断し,X−1年4月頃より再び,意欲低下強くなり,A病院に入院となった.しかし症状改善せず修正型電気けいれん療法(ECT)目的で同年7月に当院に転院となった.当科入院後,ECTは患者の強い拒否の為,施行せず経過観察していた.陰部を露出する,暴力行為などの脱抑制を示唆する行動や情意鈍麻がみられ,SPECTにて両側の側頭葉から前頭葉内側にかけて著明な血流の低下を認めた為,FTLDを疑った.SSRIの投与にて攻撃性の改善は認めたが,その他に大きな変化は認めず,同年9月に長期療養目的にてB病院に転院となった. 症例2,66歳,女性.X−10年,抑うつ気分,貧困妄想を主訴として当院通院開始となったが,X−9年希死念慮が強くなった為,同年2月に当科に約1年間入院した.その後外来にて安定していたが,X年6月頃より,食思不振,焦燥感が出現し,同年7月当科2度目の入院となった.入院後非常に拒否的で意欲は低下した状態であり,しばしば粗暴行為も認めた.抗うつ剤の効果に乏しかった為ECTを施行となった.ECT中より盗食などの脱抑制,常同行動が出現した.これらの症状は前頭葉症状と考えられ,食思不振は改善を認めた為,同年12月退院となった. 【倫理的配慮】患者のプライバシーの保護に配慮し,発表内容と直接関係のない点に関しては一部変更して報告する. 【考察】今回高齢者の難治性の大うつ病性障害の治療経過中に,前頭葉症状が前景となり,FTLDを疑わせる症例を経験した.このように初老期以降の大うつ病性障害と診断される症例において,器質性疾患も念頭において,注意深い観察を要すると考える. |
前頭側頭型痴呆とうつ病間でのZスコアを用いた |
塩崎一昌1),池田英二1),都甲 崇1),勝瀬大海2) |
PB-28 |
【目的】前頭側頭型痴呆(FTD)は,前頭側頭葉の脳萎縮と,無気力,常同行為,脱抑制などの症候を特徴とする.病初期では必ずしも脳萎縮が目立たないため,意欲低下をきたす初老期うつ病との鑑別を要することも多い.局所的脳血流は脳萎縮に先行して低下するため,脳血流SPECTが痴呆とうつ病の鑑別に役立つが,FTDではうつ病と同様に前・側頭葉の血流が低下するため鑑別が難しい.本研究は診断補助を目的にFTDに特異的な脳血流低下部位をうつ病との比較において検索した. 【方法】横浜市立大学附属病院における継続的な診療により診断が確定したFTD及びうつ病の症例について,脳血流SPECT検査結果を後方視的に調査した.FTDはMckharnnらのFTDの診断基準を満たし,2年以上の罹病期間のある5名(平均年齢70歳,男性2名,女性3名)を,うつ病はDSM-Wの大うつ病の診断基準を満たし,その後の経過で寛解が確認できた6名(平均年齢56.3歳,男性1名,女性5名)を対象とした.脳血流SPECTは,Tc-99m-ECDを用いミレニアムVG(GE)により施行した.データはeazy Z-score Imaging System(eZIS)を用い,年齢を合致させた正常データベースとの差をZスコア変換した後,自動ROI解析ソフトウェア(3DSRT ver.3)に導入し,標準化されたROIごとのZスコアをFTDとうつ病で比較し統計解析を行った. 【倫理的配慮】今回の研究は,横浜市立大学の倫理委員会の承認をうけており,匿名性に十分配慮した上で過去の脳血流SPECT検査の所見を後方視的に検討したもので,患者に不利益が及ぶことはない. 【結果】FTDではうつ病と比較して,右視床において有意な血流低下(p<0.05)がみられた.前頭葉から側頭葉にかけての血流低下(3DSRTの標準ROIとしては脳梁辺縁,中心前,側頭にあたる)は,FTDとうつ病の間で有意な差が検出できなかった. 【考察】FTDの視床における神経細胞の消失とアストログリアの増生が報告されており,脳血流の低下もこのような神経病理学的な変化を反映している可能性がある.今回の研究ではFTDとうつ病との鑑別指標として,右側視床の血流低下を評価することが有用である可能性が示された. |