高得点の演題 |
座長:森本 茂人(金沢医科大学) |
施設入所高齢者に対するアニマル・セラピー(AAT)の |
河村奈美子1),新山雅美2),新山春江3),金子正恵3) |
PB-01 |
【目的】近年アニマル・セラピー(AAT)が普及し,その心理・精神的効果について報告が増えている.我々の経験では,障害や生活環境の激変からうつ的傾向や行動上の問題をもつ高齢者に対し,個別の治療・援助の目標を設定し,対象者にあった犬と交流様式を選択し関わることで,自発性を高め,日々の精神活動に効果的な影響をもたらすように思われる.本研究では,こうした場が施設入所高齢者に及ぼす長期的な効果を明らかにする目的で調査した. 【方法】1.小型犬訪問活動:S市の特別養護老人ホーム1ヶ所を月に2回ボランティアが体重3 kg程の小型犬3-4匹と共に訪問する.施設職員と話し合い対象者の目標を設定し,それに沿ってボランティアが関わり,対象者が犬との交流(犬への命令・褒美を与える,犬を抱く,犬との遊び)をとおして犬と触れ合うよう誘導する. 2.研究対象者:研究対象施設に入居中で,研究開始後小型犬との交流に継続参加が可能で,研究に承諾が得られた男女10名. 3.データ収集・分析:研究対象施設において,2003年6月と2004年1月,7月,2005年1月の4回にわたりGBSスケール日本版(GBSS-J)及び,Mental Function Impairment Scale(MENFIS)からの評価を実施した.分析にはSPSS11.0Jを用いた. 【倫理的配慮】本研究は学内の倫理委員会の承認を得て開始した.研究協力の依頼は,研究趣旨書の説明を本人及び家族に行い,特に匿名と守秘の保証,参加拒否や中途拒否の権利について強調し承諾を得た. 【結果】GBSS-J による評価において,1.知的機能,2.自発性,3.感情機能,4.その他の精神症状,で10名の合計得点はAAT参加6ヵ月後に低下の傾向がみられ,6ヵ月から12ヶ月後ではやや増加する傾向があった.5.運動機能は参加期間に伴い得点の増加がみられた.細項目の検討をするとAAT参加6ヵ月後では,「空間見当識」「感情の不安定さ」の得点に有意な低下があった.また,12ヵ月後では,「覚醒度」「食事の摂取」の得点が有意に増加していた.AAT参加6ヵ月から12ヵ月後では,「覚醒度」「集中力」「抽象的思考」の得点の有意な増加がみられた.MENFISによる評価において,合計得点は6ヵ月後で低下し,6ヵ月から12ヵ月後では全体的にやや増加する傾向があった.C.感情機能障害は参加期間に伴い低下する傾向があった.細項目の比較では「感情表現の安定性の障害」「感情表現の適切性の障害」は参加期間に伴い低下し,AAT参加前と参加12ヵ月後との比較では有意に得点の低下があった. 【考察】GBSS-Jの項目においてAAT参加6ヵ月後では運動機能以外に改善の傾向がみられ,12ヵ月後では6ヵ月後よりやや増加した.MFNFISでは特に感情機能の項目において持続的な改善を認めた.犬との楽しい交流への能動的な参加は,対象者の感情に代表される周辺症状を改善させ,日常生活での意思疎通の向上,ケアの環境改善にも結びつくと考える.対象者の自発的な行動を施設職員が積極的に評価し,また目標の見直しや活動内容に変化を加えていく必要が示唆される. |
認知機能障害を持つ高齢者に対する |
山本則子1),松岡恵子2),石垣和子1),吉本照子1),藤井正子2) |
PB-02 |
【目的】近年,認知機能障害に対するリハビリテーション(以下「認知リハ」)の効果が注目され始めたが,日本では高齢者の認知リハ方法が確立普及していない現状にある.認知機能障害を持つ高齢者への認知リハは,機能回復を目指すとともにいかに望ましい状態で人生を過ごすことができるかという,個人と家族のQOLにも焦点をあてた方法が望まれる.今回は,認知機能障害を持つ高齢者に対する認知リハを開発し,その効果を実証的に評価することを目的として研究を実施した. 【方法】本研究の対象は,くも膜下出血・外傷性脳損傷(TBI)・軽度認知障害(MCI)に伴う認知機能障害をもつ高齢者とその家族員1名である.認知リハとしてはTBIリハビリ研究所の練習帳を用いた.これは認知機能の再建及び再組織化という機序に基づく注意力,記憶力,遂行機能の改善を目指したものである.練習帳は全17種の中から本人の認知障害の内容や社会背景・状況から決定し実施した.対象者は設問を読み,あるいは家族による設問の読みあげを聞き,解答して訓練を進める.人により簡単な話を録音したテープを聞きながら書き取る練習も行った.訓練は基本的に週5日間,1日30分から1時間実施した.練習帳の実施期間は8ヵ月とした.神経心理学的諸検査及び質問紙調査を介入前,開始4ヵ月後,開始8ヵ月後に実施して比較した. 【倫理的配慮】研究の概要とプライバシーの厳守,研究参加に関する自由意思について説明後,書面による承諾を得た.研究過程を通して参加者および家族の心身の負担を配慮しながら訓練を実施した. 【結果】9名の対象者のうち6名(くも膜下出血3名,TBI2名,MCI1名)で8ヵ月間の練習帳実施が可能であった.認知リハを継続できなかった3名の理由は「続けたくない(1名)」「原疾患の悪化等により入院(2名)」であった.MMSE,Rivermead行動記憶検査,BADS遂行機能検査では有意な変化がみられなかった.TEA注意力検査では4ヵ月後と8ヵ月後(76.7±38.7 vs. 82.2±38.2),開始前と8ヵ月後(72.7±32.8 vs. 82.2±38.2)間に有意な変化があり,注意力に改善がみられた(Wilcoxon検定,p<.05).個別に見ると,開始前と8ヵ月後では全例で得点が改善していた.質問紙調査においては,本人および家族の自覚する日常生活上の問題(European Brain Injury Questionnaire),家族の捉える日常生活動作(DAD痴呆障害評価),介護負担感(Zarit介護負担感尺度)には有意な変化がみられなかったが,介護の肯定的認識(Positive Appraisal of Care)は開始前と8ヵ月後で有意に低下していた(45.8±25.4 vs. 36.7±21.7;Wilcoxon検定,p<.05). 【考察】認知リハビリの注意力に対する効果は過去にも指摘があり,今回のリハビリ方法でくも膜下出血,TBI,MCIによる認知機能障害を有する高齢者に効果を期待できることが示唆された.今回の調査は例数が限られているため,今後例数を増やし対照群をおいた研究デザイン等を用いて追試すべきである.介護の肯定的認識が低下していた結果については,リハビリに対する家族の日々の協力が不可欠なことから,今後の認知リハ実施に際しこの点に配慮して検討を重ねる必要がある. |