第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) ホールB5(2)

治療

座長:遠藤 英俊(国立長寿医療センター包括診療部)

 

回想法観察評価尺度作成の試み
― 基準関連妥当性について ―

小海宏之1),岸川雄介2)

1) 藍野病院臨床心理科,2) 藍野病院加齢医学精神医療センター

UG6-11

【目的】痴呆性高齢者に対する回想法における継続的な評価を行う際には,具体的な程度の変化を捉えるための観察評価尺度が適していると考えられる.しかし,わが国にはこのような評価法があまりみあたらない.本研究では,コ・メディカルスタッフが簡便に評価できる回想法観察評価尺度(RORS;Reminiscence Observational Rating Scale)の作成を試みた.別報にてRORSは概ね一定の評定者間信頼性を有すると考えられ,今回は基準関連妥当性について検討したので報告する.

【方法】対象は老人性痴呆疾患治療病棟に入院中の患者38名(男性11名,女性27名,平均年齢80.8±7.4歳)である.方法は従来の集団精神療法のセッションにおける観察評価尺度を参考に新たにRORSを作成した.RORSの作成にあたっては,回想法のセッションにおける参加者の認知面(記憶,場の注意),言語面(言語の自由度,言語の明確度),情緒面(参加意欲,楽しみ,表情),対人関係面(協調性)の4領域8項目について評価できるように下位尺度を構成した.そして,回想法のセッション終了後に臨床心理士がRORSと東大式観察評価尺度(TORS;Todai-shiki Observational Rating Scale)を用いて対象者を評価した.結果の分析にあたって両評価尺度の総得点における相関係数を算出し,さらに,両評価尺度の総得点におけるGP分析を行うことによって,RORSとTORSとの関連性を検討した.

【倫理的配慮】本研究を実施するにあたっては,患者ないし家族に趣旨の説明がなされ了解を得た.

【結果】統計分析の結果,RORSの総得点とTORSの総得点との順位相関係数は0.77(p<0.01)で強い相関が認められた.また,RORSの総得点およびTORSの総得点を基に上位25%および下位25%を対象者から抽出したGP分析によるχ2値は12.44(p<0.01)であった.つまり,RORSの総得点の高い患者はTORSの総得点も高く,RORSの総得点の低い患者はTORSの総得点も低いことが明らかとなった.

【考察】痴呆性高齢者に対する回想法における観察評価尺度としてコ・メディカルスタッフが簡便に評価できるRORSの作成を試み,今回は基準関連妥当性について検討した.その結果,RORSの総得点とTORSの総得点には強い相関が認められた.また,この相関関係には統計的な有意差が認められた.したがって,RORSにはTORSとの基準関連妥当性が認められ,RORSは回想法における評価尺度として概ね有用であると考えられた.

 

血管性痴呆へのグループ回想法の特異的効果
― Randomized Controlled Trial(予備的検討)―

伊藤朋子1),赤沼恭子2),目黒謙一1),糟谷昌志3),李  恩朱1),
橋本竜作1),森  悦朗1)

1) 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学,2) 介護老人保健施設なかだ,
3) 宮城大学

UG6-12

【目的】薬物療法においては二重盲検RCT法にもとづき,薬物群・プラセボ群・コントロール群の3群間の比較研究が多くある.しかし心理社会的介入においてはRCTによる研究は少ない.特に回想法に関してはLaiらの報告しかなく.原因疾患を同定してのRCT研究は無い.血管性痴呆患者に対する先行研究では,対照群との2群比較でMMSE得点・対人関係の向上が報告されている.本研究では,3群のRCTにてVD患者に対する回想法の有用性を検討する.

【方法】対象:介護老人保健施設に1ヶ月以上入所し, ADDTCによる血管性痴呆の診断があり,かつMMSEが10〜24点の24名.介入方法:週に1回1時間を3ヵ月間,計12回行われた.被験者は,回想群,非特異的介入として最近の様子を中心とした日常会話群,日常ケアのみのコントロール群の3群に8名ずつ無作為に割り当てられた.介入期間中の薬物の変更は行わないこととした.アウトカム変数:認知機能は全般性認知機能としてMMSE・CASI,前頭葉機能検査としてTMT-A・Word Fluency・Digit Span,情動面はGDS・主観的QOL尺度,行動観察はBEHAVE- AD-FW・MOSES・CSDD・AESが,介入に参加せずかつ被験者のグループ割当を知らない心理士・看護師・介護士によって評価された.

【倫理的配慮】発表については家族に説明を行い同意を得た.

【結果】3群の臨床的特徴:被検者の年齢は67〜97歳(平均年齢82歳),教育年数6〜11年(平均7.6年).男女比に有意差は無かった.参加率:回想法群77%,日常会話群84%.他施設入所や入院のため3名が介入途中に退所した.アウトカム変数:介入前に3群間に有意差は無かった.介入後の比較では,介入群がコントロール群に比較してCASI総得点の上昇がみられ,特に回想法群のほうが日常会話群より上昇が大きかった.情動面に関しては回想法群が他の2群に比べてMOSES得点の低下が見られた.MOSESの下位項目では特に,回想法群の引きこもり得点が低下し,対人関係の向上がみられた.日常会話群はコントロール群同様そのような変化は見られなかった.そのほかのアウトカムに関しては3群間に有意な差は無かった.

【考察】本研究は,血管性痴呆患者に対する初の3群によるRCT研究を行い,回想法が引きこもりを改善させるという結果を得た.血管性痴呆患者は抑うつ傾向によって引きこもる傾向が強いゆえに,血管性痴呆患者で,特に引きこもりの傾向を認める患者は回想法のよい適応である可能性が示唆された.

 

症状評価にもとづいた初期アルツハイマー病の
認知リハビリテーションの試み

服部英幸,吉山顕次,三浦利奈

国立長寿医療センター精神科

UG6-13

【目的】アルツハイマー型痴呆は早期治療が重要である.その中で非薬物療法である認知リハビリテーションに関しては効果が期待されるものの検証が不十分であり今後の研究が必要である.本研究では神経心理学的評価に基づいた個々の症例の障害に即して,認知リハビリテーションを実施し,アルツハイマー型痴呆における早期認知リハビリテーションの効果と有用性について検討した.

【方法】NINCDS-ADRDAの診断基準に基づいて診断したprobable ADのうち,80歳以下,CDR 0.5から1,MMSEで22から26点の症例についてWechsler Memory Scale revised,リバーミード行動記憶検査にて個々の症例の認知記憶障害を評価した.Zarit介護負担度,DBD,GDSを用いて介護負担,行動異常,精神症状の評価も行った.各症例の評価に基づいて障害パターンを決定し,それによってリハビリテーションの内容を決定した.近時記憶と失見当識を主とする症例には記憶訓練としてPQRST法を実施し,遂行機能障害を主とする症例には日常生活機能回復を主眼とする訓練を行った.言語障害を主とする症例には線画呼称,指示などによる言語訓練を実施した.週1回1クール12週間のリハビリテーションを施行した後,再評価した.

【倫理的配慮】リハビリテーションの対象となる患者およびその家族に対し研究の目的を説明し,同意を得た.個人情報が外部に漏洩することのないよう細心の配慮をおこなった.

【結果】症例は9症例(男性2例,女性7例,平均年齢74歳,平均MMSE 24.3点)である.この内,7症例が近時記憶と失見当識を主とする症例であり,遂行機能障害を主とする例1例,言語障害を主とする例1例であった.すべての症例についてリハビリテーション前後でMMSEとADASを評価したところ有意な改善は得られなかった.DBDは不変であり,Zarit,GDSでは軽度の改善傾向がみられた.近時記憶障害を呈する群とそれ以外を比較すると,近時記憶障害群では有意ではないが改善傾向が認められたが,遂行機能障害や言語障害では改善はみられず,認知機能その他の悪化傾向が認められた.

【考察】初期アルツハイマー病患者の個々の精神機能障害の状態に即した認知リハビリテーションを施行したところ,高頻度に認められる近時記憶障害型ではごくわずかながら改善傾向を認めた.他の遂行機能障害,言語障害型症例では病気進行を食い止めることができず,経過のままに悪化した.症例の状態に即し,効果の得られやすい群とそうでない群とにわけて認知リハビリテーションを行うことは,価値はあると思われるが,訓練方法などで工夫が必要であると考えられた.