第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) ホールB5(2)

専門外来

座長:宇野 正威(吉岡リハビリテーションクリニック)
 

 

認知症鑑別診断外来
― 12年間の実績 ―

古川良子,竹田礼子,斉藤  惇

横浜市総合保健医療センター

TB1-01

【目的】当施設では1992年10月より,痴呆鑑別診断外来を行っている.2004年9月までの12年間に当該外来を受診した患者は,のべ3656名であった.今回はこの患者群の特性や変遷などにつき検討した結果を報告する.

【方法】1992年10月より2004年9月までの間に,当施設痴呆鑑別診断外来を受診した患者につき,診療録および鑑別抄録その他の記録より,その特性を後ろ向きに検討した.当該外来では,第1診察日に問診,血液・尿検査,脳MRIまたはCT,脳波,胸部X線,心電図等の検査を施行している.また必要に応じ脳SPECT,MRAなどを施行している.第2診察日には,心理専門職によるHDS-R,MMSその他患者本人の特性に応じた心理検査を行うとともに,本人・家族に対する結果説明,地域主治医に対する情報提供などを行っている.

【倫理的配慮】本研究に際し各データは,個人が特定できないよう配慮の上処理された.

【結果】当該期間に鑑別診断外来を受診した患者は,のべ3656名,男性1135名,女性2521名であった.患者数は毎年漸増し,初年度半年間に51名であったのに対し2004年度上半期には214名を数えた.初診時年齢は48歳から95歳におよび,平均77.9±7.7歳(平均±標準偏差)であった.75歳から84歳の患者が,全体の51.7%を占めた.診断はアルツハイマー型痴呆が最も多く,全期間の統計では,全体の64.1%を占めた.同疾患は1992―93年度には51.3%,2003-04年度には66.1%であり,全期間にわたり漸増する傾向が認められた.脳血管性痴呆は1992―93年度には11.4%であったが,2003-04年度には2.8%であり,顕著な減少を示した.

【考察】当施設では福祉保健センター,地域主治医,地域ケア施設等の要請,また本人家族の希望により,鑑別診断を施行してきた.この間一般の痴呆に対する認識の変化,介護保険導入,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤導入等を背景として,受診希望者数は増加している.年齢層は40歳代から90歳代まで広範にわたったが,70歳代後半から80歳代前半の患者数が最多であった.診断ではアルツハイマー型痴呆の割合が漸増し,脳血管性痴呆の割合が漸減する傾向が認められた.

 

初診患者の高齢化
― 大学病院・総合病院での10年前との比較 ―

小林聡幸1),利谷健治1),大沢卓郎1),加藤  敏1),山家邦章2),衛藤進吉2)

1) 自治医科大学精神医学教室,2) 上都賀総合病院精神神経科

TB1-02

【目的】精神科初診患者(first contact)の人口統計的データと診断を,大学病院と総合病院精神科において10年前と比較し,その変化を検討する.

【方法】対象は自治医科大学附属病院精神科(以下,大学病院)および上都賀総合病院精神神経科(以下,総合病院)に,それぞれ1993年12月〜1994年11月(以下,10年前),2003年12月〜2004年11月(以下,今回)に初診した全患者である.この場合の初診はいわゆるfirst contactで,他の精神科の受診歴のない患者である.ただし,精神科クリニックなどに初診し,すぐに大学病院や総合病院に紹介される症例が少なからずあることから,大学病院・総合病院の初診前1ヶ月以内の他の精神科受診例も初診に含めた.診断はICD-10の大項目で分類した.10年前の症例群と今回の症例群とで性差,年齢,さらに診断を比較した.統計解析はχ2検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた.

【倫理的配慮】データはコード化しプライバシーを侵さないよう配慮した.

【結果】大学病院では10年前の初診患者は398名,今回が958名であり,総合病院ではそれぞれ166名と407名であった.10年前と今回と両群に性差はなかったが,大学病院で3.5歳(36.9→40.4歳),総合病院で9.8歳(46.2→56.0歳)高齢化しており,いずれも統計学的に有意だった.大学病院では相対的に増加している疾患はF3(気分障害)であった.総合病院ではF0(器質性精神病害)とF3であった.

【考察】1994年と2004年の栃木県民の平均年齢を比べると,男性が3.6歳(37.6→41.2歳),女性が3.9歳(39.9→43.8歳)高齢化しており,大学病院でのこの10年の初診患者の高齢化は,一般人口の高齢化とぼほ平行していると思われる.他方,総合病院の診療圏の大部分は鹿沼市であるが,この地域が格別に県平均より高齢化しているとは考えにくい.総合病院でのF0の増加をみると,痴呆患者の受診,せん妄患者のコンサルトがふえた可能性がある.

 

医療・保健・福祉職が同席して行う
「佐賀市ものわすれ相談室」

橋本和人1),宮良淑子1),井本誠司2),杠  岳文3)

1) 医療法人清友会清友病院,2) 佐賀中部保健所,
3) 国立病院機構肥前精神医療センター

TB1-03

【目的】2003年5月より佐賀市では,医療・保健・福祉職が同席して行う「ものわすれ相談室」を佐賀市の保健福祉会館にて開設した.この方式をとったのは,痴呆症の性質上,医療的ばかりでなく生活支援も必要であり,また家族や関係者だけでなく本人自らが気軽に相談に行ける場となると考えられたからである.ここに佐賀市「ものわすれ相談室」の約1年半の実績から,この方式の有用性を報告する.

【方法】「佐賀市ものわすれ相談室」は,毎週(木曜日午後)1回3時間開催し,在宅支援センターや施設の福祉職員,市役所保健師に加え,痴呆症の看護,医療に携る看護師,作業療法士,精神科医が同席して相談に応じている.今回,2003年5月から2004年11月までの間に本相談室に相談のあった対象者239件の内,初回相談の201件を検討した.家族や関係者のみの相談では,相談内容によって各職種のアドバイスを行い,対象者本人が訪問した場合は,もの忘れに関する質問や必要に応じてMMSEを実施し,最終的には精神科医が評価を行い,アドバイスを行った.

【倫理的配慮】報告に当たってはプライバシーの厳守に十分配慮した.

【結果】初回相談の内,本人のみの相談は60件,家族や関係者のみの相談は74件であった.「良性もの忘れ」と判定された46件に対しては,生活指導や希望があれば専門医療機関を紹介した.「軽度認知障害」ないし「痴呆症初期疑い」,「軽度から中等症の痴呆症」と判定された69件に対しては,かかりつけ医への相談を促したり専門医療機関へ紹介し精密検査・治療へと結び付けた.家族や関係者のみの相談75件の内では,もの忘れや妄想様の症状が病気なのかどうかの相談や医療機関へ受診を拒否したり,介護保険サービスの運用がうまく行かず混乱しているケースなどの相談が多くあった.医療や介護サービスの拒否に対しては市保健師の訪問や担当在宅支援センター職員との連携が計られ,受診やサービスへ繋ぐことができた.

【考察】医療・保健・福祉職が同席して行う「佐賀市ものわすれ相談室」事業は,地域の痴呆性高齢者に対する有用な支援法の一つである.

 

診療所における介護保険被保険者専門外来
(シルバー外来)の現況について

若栄徳彦1),河内  祟2),山本泰司3),前田  潔3)

1) 若栄クリニック,2) 先端医療センター映像医療研究部,
3) 神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学分野

TB1-04

【目的】医療のない介護はないという立場に立って,2002年5月に診療所を開設し,介護保険被保険者外来を始めた.この専門外来は地域の居宅サービスや施設サービスと協力しあいながら,よりよい医療を提供し,介護支援の場をめざすものである.こういった専門外来は前例がないと考えている.最近2年間の診療活動を振り返り,介護保険被保険者の受診状況を把握し,その問題点を明らかにすることを目的とした.

【方法】介護保険被保険者専門外来について,ネットワーク医療が重要と考え,そのネットワークモデルを考案した.次にそのネットワークを実際にどう活用するかについてアルゴリズムに示した.そして受診者のうち,3症例を呈示し,ネットワークを実際にどう活用したかを示した.調査対象としては最近2年3ヶ月間の診療において,当院受診者38名を居宅サービス群として,また演者が嘱託医として診療にあたっている特別養護老人ホームの入所者36名を施設サービス群として,両群を比較検討した.介護の質を高めるには介護力・利用できる社会資源・社会活動への参加の3要素が必要とされるが,その3要素が,居宅と施設でそれぞれどの程度活用されているのかについて比較検討した.また受診者の疾患についても分類し,どのような疾患が多かったかについても検討した.

【倫理的配慮】インフォームドコンセントは,情報(本調査の目的と方法,その利益と危険性)の開示,自発性,患者の判断能力の3要素に考慮して,目的と方法に関するインフォームドコンセントを行った.

【結果】神戸市における介護保険被保険者専門外来(シルバー外来)を中心とするネットワークを図示した.専門外来受診者のうち,3症例(Capgras症状を伴ったアルツハイマー型老年痴呆,MCI,皮膚寄生虫妄想)について検討してそれぞれに考察を加えると共に,ネットワークの有効な利用によって,より精度の高い診断と治療,介護につながる可能性を示した.介護の3要素(介護力・利用できる社会資源・社会活動への参加)について検討したところ,介護サービスのうち居宅サービスは実際には充分活用されておらず,要介護度未認定も比較的多かった.施設サービスにおいては,居宅サービスに比べて介護力・社会活動への参加共に不足していた.受診者を疾患別にみると,痴呆(認知症)性疾患が最も多く,その他不安障害,気分障害,心気症,MCI,てんかん,統合失調症などがあり,介護保険被保険者専門外来(シルバー外来)は物忘れ外来ネットワークの一部だったと同時に,物忘れ外来に比べて老年期精神障害にわたって受診していた.

【考察】精度の高い診断と治療,介護に結びつける為には,ネットワーク医療が重要であり,それを有効に利用するには,更なるネットワークの系統的な整備が必要と思われた.居宅サービスについては,サービスにつなぐ前の段階として,要介護度認定の重要性を強調すると共に,居宅介護に結びつける更なる工夫が必要と思われた.施設サービスの介護の3要素は,更なる改善が必要と思われた.老年期精神障害について,この様な介護保険被保険者専門外来の必要性が高まると考えられた.