アルツハイマー型痴呆に見られる行動・心理学的症状とその関連要因 |
島袋 仁1),粟田主一2) |
UB2-22 |
【目的】AD患者に見られる多様なBPSDに対する関連要因研究として,ADに見られる特徴的なBPSDの症状パターンを抽出して,その関連要因を分析した. 【方法】対象は,平成13年4月〜平成15年3月までの24ヶ月間に,宮城県古川市立病院メンタルケアセンター外来を新患受診したAD連続症例108名で,生活歴,既往歴,現病歴,家族歴,現在症を調査し,神経学的検査,血液生化学検査を行った.また,認知機能評価にMini-Mental State Examination (MMSE),重症度評価にClinical Dementia Rating(CDR),BPSDの評価には日本語版NPI(博野ら:脳神経.1997)を用い,認知機能障害,精神症状,行動障害を包括的に評価した.以上の評価に加えて頭部MRI,核医学検査などの神経画像検査を施行し,それらの結果を参考にして鑑別診断を行い,最終的にはDSM-Wの診断基準に従いADの診断に至った.そして,対象者におけるNPI-10項目の因子分析を行い,その結果得られた4症候群の関連を調べた. 【倫理的配慮】対象108名において,本人,家族と面接し,今回の研究の目的・方法などについて,口頭にて説明し,同意を得た. 【結果】対象者の内訳は男性32名,女性76名,平均年齢75.6±7.8歳(平均±標準偏差)で,年齢範囲は53歳〜93歳であった.因子分析の結果,NPI-10項目の中で,興奮症候群,異常行動症候群,精神病症候群,感情症候群の4つの症候群が同定され,興奮症候群で易刺激性,興奮,脱抑制,妄想の重症度が高く,異常行動症候群で異常行動,多幸,無為の重症度が高く,精神病症候群で幻覚,妄想の重症度が高かった.そして感情症候群は不安,うつの重症度が高かった.その中で,異常行動症候群のみがCDR,MMSEと有意な関連を認め,痴呆重症度が高いほど,認知機能が低いほど異常行動症候群は出現しやすかった. 【考察】無為は最も高率に出現し,一見するとうつと似ているので混同されやすいが,うつは感情障害因子,無為は異常行動因子もしくは身体行動因子に分類される異なった症状であると考えられ,ADに対する診断・対応を行う臨床の場で,薬物療法も含めて注意を要すると考えられた. |
認知症高齢者の短期入所サービス利用に関する考察 |
大澤 誠 |
UB2-23 |
【目的】認知症高齢者の在宅生活継続のためには,通所サービスとともに入所サービスも欠かせない.しかし,前者が利用者の社会性を維持する,残存能力を生かす,情緒を安定させる等の目的を持つのに比し,後者は介護家族のレスパイトケアの色彩が強く,利用者本人に対する直接的な目的は乏しい.そればかりか利用中から混乱し,家に戻っても不穏な状態が続くといった例を散見する.短期入所サービス利用にあたって配慮しなければならない事項の検討が必要である. 【方法】今回演者の所属する医療法人の介護支援専門員5名の担当する利用者のうち,認知症を有する137名で,平成16年1月1日から同年12月31日の間に短期入所を利用した方を対象として,短期入所利用の目的・利用期間・利用回数・利用時及び利用後のBPSD等に関し,提供表等を縦覧するとともに,介護家族・受け入れ事業所・介護支援専門員からの聴き取りを行った. 【倫理的配慮】介護家族・受け入れ事業所・介護支援専門員に対して,調査の目的を話し,匿名を約束して情報提供に協力してもらった. 【結果】同期間に,短期入所サービスを利用した認知症高齢者は27名で,延べ205回に及んだ.利用者の内訳は,男10名,女17名で,年齢は68歳〜92歳.アルツハイマー型痴呆16名,血管性痴呆11名.利用期間は,最短0泊1日から最長17泊18日.その目的は,介護家族の休息・介護家族の所用・本人の体調等であった.利用施設は,(保健福祉医療)圏域以外にもおよび13ヶ所,特養・老健・療養型の順に多かった(いわゆる宅老所の利用はない).その中で,すべての施設で受け入れ担当は決まっていたが,利用時に専任の担当者がいる施設は5ヶ所であった.そして利用時BPSDが悪化したケースは27名中8名,そのうち利用短縮となったのは2名であった.利用後BPSDが悪化したケースは10名(利用時の8名を含む)であった.また,利用中体調を崩し,入院または帰宅の転帰をたどったケースも3名あった. 【考察】短期入所サービスの利用は,介護家族のレスパイトケアの意味が強く,利用者個人のことを考えてのものとはいえない.短期入所サービスの利用が,利用者個人にとっても,自立支援に結びつくような利用のあり方を,調査結果と数例の症例を通して検討した. |
進行性核上性麻痺の精神症状 |
篠山大明,宮下光弘,福田崇宏,犬塚 伸,横山 伸,天野直二 |
UB2-24 |
【はじめに】進行性核上性麻痺は,主に錐体外路障害による歩行障害,仮性球麻痺による嚥下障害,構音障害,さらに特徴的な眼球運動障害や頸部ジストニアを呈する神経変性疾患である.精神症状として幻覚,妄想,気分障害,せん妄がみられ,皮質下性痴呆の代表的な疾患とされている.臨床経過において意識レベルの変動が高度であり,中には“周期性の昏迷様状態”を呈する症例を認めている.今回もその意識レベルの変動を中心に精神症状について報告する. 【症例提示】[症例1]83歳,女性.83歳時より心気的な訴え,食欲低下が出現.徐々に抑うつ状態,軽度の健忘,意欲低下,拒絶がみられるようになった.数ヵ月後には寝たきりになり,さらに幻視,不眠,せん妄が出現.幻覚妄想状態は増悪したが,抗精神病薬,抗うつ薬ともに著効しなかった.錐体外路症状の出現により歩行不能になり,また失禁,浮腫,頻脈,仮性球麻痺が認められた.胃瘻増設目的で当科に入院.見当識障害が著しく,幻覚妄想による興奮状態や昏迷状態になるときがあり,精神症状は数日ごとに変動した.その後,傾眠で寝たきりのことが多く,痴呆以外の精神症状は目立たなくなった.胃瘻増設後は某老人病棟へ転院. [症例2]75歳,男性.73歳より腹部異常感の心気的訴えが出現.抗うつ剤などによる治療を開始するも改善をみなかった.この頃から手の力が抜けてきて運転中に事故を起こした.また,寡動,仮面様顔貌がみられ,たびたび転倒するようになった.一点をみつめてぼーっとすることがたびたびみられた.頭部MRIにて脳幹部の萎縮,第3脳室の拡大を認め,進行性核上性麻痺と診断. [症例3]70歳,男性.65歳頃より,表情が硬くなり,前傾姿勢をとるようになった.69歳頃より徐々に口数が少なくなった.転倒しやすくなり,痴呆症状を認め,頭部CTでは前頭葉の萎縮がみられた.その後,日常生活での活動性が低下.発語は極端に減り,筆談でコミュニケーションをとるようになり,嚥下困難のため飲食不能となった.70歳時に当科入院.垂直方向の眼球運動障害,嚥下障害,構音障害があり,姿勢反射障害と体幹の強い固縮を認めた.経管栄養としていたが,経管チューブの自己抜去などの異常行動がみられた.昏迷様になることがある一方で,発語がみられホールに出て新聞を読むこともあり,精神症状に強い変動がみられた. 【倫理的配慮】個人が特定できないように配慮した. 【考察】進行性核上性麻痺の3症例で歩行障害,嚥下障害,筋固縮,眼球運動障害などの典型的な神経症状がみられた.精神症状はうつ状態,幻覚妄想状態,せん妄,痴呆など多様な症状が比較的病初期から認められた.さらに進行すると意識レベルの変動が認められ,挿間性の昏迷様状態も確認された.神経変性疾患は慢性的で進行性であるのを特徴とするが,さまざまな精神症状を呈し意識変容もみられる疾患であり,脳幹,視床などの器質的な病変とその機能障害との相関が興味深い. |