在宅介護破綻時における病理診断された |
藤城弘樹1),磯島大輔2),梅垣宏行1),入谷修司3),赤津裕康2), |
UB2-19 |
【目的】レビー小体型痴呆は,アルツハイマー型痴呆についで多い痴呆性疾患であるが,その介護に関する報告はほとんど認められない.今研究は,病理学的に診断されたレビー小体型痴呆の在宅介護破綻時のBPSDの特徴を明らかにすることを目的とした. 【方法】福祉村病院長寿医学研究所に保存されている剖検脳から,神経病理学的にレビー小体型痴呆(DLB)と診断された症例を選び出し,臨床記録より入院時の臨床症状を調べた.発症から入院までの罹患期間,入院前1ヶ月以内の外来,あるいは,入院時に施行したGBSスケール(下位項目:運動機能,知的機能,感情機能,痴呆に共通なその他の症状についてそれぞれ0-6の7段階で評価)などについて検討した. 【倫理的配慮】福祉村病院倫理委員会で承認され,個人が同定されぬよう配慮している.また,病理解剖を行うときに同意書を取っている. 【結果】入院前1ヶ月以内の外来,あるいは,入院時に施行したGBSスケールが記録されていたDLB 20例(男7例,女13例,平均年齢81.7±6.0歳)について検討した.発症から入院までの罹病期間は,平均3.6(±3.2 S.D.)年,中央値2.5年であった.GBSの下位項目で高値を示したものは,運動機能:着脱衣の障害4.1,個人的衛生管理の障害3.9,用便の管理不能3.9,知的機能:時間の見当識障害4.4,場所の見当識3.7,集中力の障害3.4,速い動作の困難3.4,感情機能:感情鈍麻3.5,痴呆に共通なその他の症状:錯乱3.2であった. 【考察】DLBにおいて,症状発現より入所までの期間は,平均3.6年(中央値2.5年)と比較的早い可能性があり,他の痴呆性疾患との比較も含め,更なる検討が必要である. |
ドネペジル使用中に精神症状が再燃した |
繁信和恵1),田伏 薫1),池田 学2) |
UB2-20 |
【目的】レビー小体病の幻覚やそれに伴う興奮等の精神症状に対するコリンエステラーゼ阻害薬の有用性は明らかにされつつある.また本疾患はとくに抗精神病薬の使用により錐体外路症状が悪化しやすいため非定型抗精神病薬の使用が推奨されている.今回我々は,初期にはドネペジルによる治療で幻視が消失あるいは軽減していたが,進行に伴い幻視やそれに伴う精神症状が再燃したレビー小体病に対して,クエチアピンによる治療を行いその効果を検討した. 【方法】ドネペジル使用開始後18ヶ月以上経過し,幻視やそれに伴う精神症状が再燃したレビー小体病5例を対象とした.クエチピン治療開始前,治療開始3週間後,6週間後にNPI(neuropsychiatric inventory),シンプソン-アンガス尺度,バイタルサインを評価した.治療開始前,6週間後にMMSE(mini-mental state examination),臨床血液検査を評価した.ドネペジル5 mgは継続投与とし,クエチアピンの追加は12.5 mgから開始し症状に応じて漸増した. 【倫理的配慮】本研究の内容について十分な説明を行った後,本人と家族に同意を得て実施した. 【結果】対象は,女性5名.平均年齢80.0歳.平均罹病期間5.2年.平均ドネペジル使用期間21.6ヶ月.CDR 2;2名,CDR 3;3名.治療開始6週間後の評価では,NPIの総得点,幻覚,興奮,不安の項目で有意な得点の低下が見られた(p<0.05).シンプソン-アンガス尺度,MMSEでは有意な変化は認められなかった.異常なバイタルサインの変化や臨床血液検査の変化は認めなかった.6週間後のクエチアピン平均使用量は30 mg(25 mg;4名,50 mg;1名)であった. 【考察】クエチアピンは,その薬理学的特徴から錐体外路症状の出現が少なく,抗コリン作用がほとんどみられない.これまでにクエチアピン単剤で効果のあった報告はいくつかなされている.今回の検討から,比較的進行したレビー小体病において,ドネペジル使用中に再燃した幻覚等の精神症状に対しても,クエチアピンの少量の追加が錐体外路症状の悪化を来さず有効であることが示唆された. |
paroxetineとamantadineにて精神神経症状と |
土屋泰夫1),加藤雄司1),大城公恵1),大城 一1),岡本典雄2) |
UB2-21 |
【はじめに】痴呆性疾患の疫学的調査からレビー小体型痴呆(DLB)はアルツハイマー型痴呆(AD)に次いで多いといわれ,高齢化社会に伴いDLBのような特異な変性性痴呆も医療・福祉・介護の上の重要課題になると考えられる.しかしDLBの知名度は低くADと誤診されることが少なくない.今回我々はDLBの臨床診断基準(Neurology 47:1113-1124,1996)におけるprobable DLBに相当した重度痴呆症例を経験し,paroxetineとamantadineにて精神神経症状とADLが改善した1例を文献的考察の上報告する. 【症例提示】患者は75歳女性.不整脈と子宮脱の手術にて入院歴あり.家族歴に特記すべきことなし.病前性格はまじめで几帳面.同居家族は長男夫婦と孫3人.X−3年より記憶障害・失見当識が出現した.X−2年に「畳の上に虫がたくさんいる」などの幻視を認めA精神科を受診した.tiaprideとperospironeを処方されたが歩行状態が悪化したため,X−1年5月に痴呆とせん妄の診断にて当院を紹介受診した.MR所見は両側頭前方の大脳皮質の萎縮,脳室周囲の循環障害とラクナ梗塞であった.同月より当院デイケア通所を開始した.不安な表情で感情失禁あり,夜間歩き回ったり,疎通性は日差・日時によって変動があった.その後小刻み歩行,振戦,筋強剛にてパーキンソンニズムと診断し,trihexyphenidyl 4〜6 mg/日を処方した.アカシジアの他同12月より項部・四肢硬直状態(ジストニア)で転倒を繰り返すため,ビペリデン2〜3 mg/日を追加したが,X年5月20日ADL低下のため精査目的に入院となった.MRでは側頭葉の萎縮のみが進展し,HDS-R 0点,CDR 3であった.被害妄想を訴え食事は全介助を要した.ビペリデン2 mgを再投与を試みたが項部痛を生じたため中止した.同6月昼間診察中に「あそこに孫がきてくれた」と具体性のある幻視を認め,認知の動揺性,パーキンソンニズム,睡眠時行動異常,向精神薬の高感受性,妄想,うつ症状からDLBの臨床診断基準におけるprobable DLBと診断した.amantadine 100 mg/日から投与し,抑うつ症状のためparoxetine 10 mg/日を開始した.各々を徐々に漸増し,amantadine 600 mg/日,paroxetine 30 mg/日,aspirinにて経過観察中である.同7月には不安な表情はなく車椅子に落ち着いていられた.同9月には軽いジストニアがあるものの,ベッドから車椅子への移乗は半介助,食事は自立していた.X+1年1月現在,それ以上の改善はなく,介助にて起立・歩行ができる状態で,認知の動揺性も残り当院入院中である. 【倫理的配慮】今回の症例報告では個人のプライバシーの保護のため若干の事実関係の変更を行い,発表に際しては同居家族の承諾を得た.またその上で病歴の詳細などの臨床情報についてご協力いただいた. 【考察】本症例は確定診断に至るまでに3年を要し,当院の神経内科専門医の診察の上DLBと診断されたことから,早期診断に精神神経科のみでなく神経内科的介入が必要と考えられた.治療ではコリンエステラーゼ阻害剤が有効であるとの報告はあるが,家族の経済的問題から適応外と判断し,dopamine agonist(amantadine)とselective serotonin reuptake inhibiter(paroxetine)を投与し効果が認められた.本症例の治験から重度DLBの治療法の選択肢の一つになりうると考えられた. |