第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月17日(金) ホールB5(2)

MCI 2

座長:深津 亮(埼玉医科大学総合医療センター)
 

 

ECD脳血流画像を用いたMild Cognitive Impairment
(軽度認知機能障害)の進行予測

川崎洋介,古賀良彦,大滝純一

杏林大学医学部精神神経科学教室

UB2-13

【目的】MCI(軽度認知機能障害)は,記憶障害は明らかであるものの,その他の認知機能は正常で自立した日常生活が継続できる段階で,将来痴呆へと進行する可能性のある前駆段階として位置付けされている.しかし,MCIには標準化された診断基準はなく,MCIの予後に関する研究においても,うつ病や不変例(Stable MCI)などの報告も多い.今回我々は,MCIにおけるSPECT所見と予後の関連性を検討し,MCIの診断マーカーとしてのSPECT検査の有用性について評価を行った.

【方法】杏林大学医学部付属病院精神神経科および高齢医学科の物忘れ(記憶障害)を主訴とする外来および入院患者の中で,39名の60歳以上の患者(平均73.4歳)を対象とした.SPECT脳血流画像の解析は,easy Z-score Imaging System(e-ZIS)ソフトウェアおよびthree-dimensional stereotactic ROI template(3 DSRT)ソフトウェアにより各個人の脳血流解析を行い,群間比較をStatistical Parametric Mapping(SPM)ソフトウェア(SPM99)を使用し統計解析した.

【倫理的配慮】本研究の主旨を説明した上で賛同を得られた39名を対象とした.

【結果】39名の対象者のうちMCI患者18名については,1年以上経過後にMCI患者3名(17%),アルツハイマー型痴呆患者6名(33%),うつ病患者6名(33%),老年期精神障害患者1名の臨床診断となった(脱落者2名).MCI群の1年以上経過後の,MCI群,ATD群,うつ病群では各々の群間において海馬血流量に有意差は見られなかった.MCIからATDへ進行した6例では,左前頭葉背外側部の血流低下と両側頭頂葉内側から後部帯状回皮質にかけての血流低下がみられていた.MCIからうつ病の診断となった6例では右前部帯状回皮質,両側前頭葉背外側部,両側眼窩回での血流低下がみられていた.MCIの診断のままであった3例では,左前頭葉背外側部,両側眼窩回の血流低下がみられていた.

【考察】MCIと分類された患者は1年以上の経過の中で臨床的に,ATDへ移行するもの,うつ病,不変のものに大別することができた.これらの分類においては,初期の段階から99mTc-ECD SPECT脳血流画像で各々特徴的な脳血流異常を示しており,その鑑別に有効なものと考えられた.特に99mTc-ECD SPECT脳血流画像を用いることにより,帯状回皮質の血流異常に注目することで,MCIの中でもうつ病とアルツハイマー型痴呆に移行するタイプのスクリーニングを行える可能性が考えられた.

 

軽度認知機能障害(MCI)の下位分類における脳機能画像所見
― 利根町研究 ―

山下典生1),根本清貴2),横銭  拓1),木之下徹3),宮本美佐1)
谷向  知2),水上勝義2),大西  隆4),松田博史5),朝田  隆2)

1) 筑波大学人間総合科学研究科,2) 筑波大学臨床医学系精神医学,
3) 医療法人こだま会こだまクリニック
4) 国立精神・神経センター武蔵病院放射線科,5) 埼玉医科大学病院核医学診療科

UB2-14

【目的】軽度認知機能障害(MCI)は正常からアルツハイマー病(AD)への移行段階であるとされ,近年盛んに研究が行われている.MCIの診断や経過観察の有用な手段として脳機能画像検査があり,様々な報告がなされつつある.今回の研究は,近年提唱されたMCIの下位分類において脳機能画像の解析を行い,早期診断に繋がる特徴的所見を見出すことを目的とした.

【方法】<対象>対象は茨城県利根町居住の65歳以上の高齢者で,認知機能検査を施行した1708人の中からMRI,SPECTを施行し得た117人である.
<方法>対象者に認知機能検査を行い,注意,記憶,視空間認知,言語,類推の各機能を得点化した.年齢,性別,教育年数で標準化した得点から1SD以上の得点低下を機能低下ありとし,記憶機能のみの低下が見られた群をMCI-amnestic群,記憶以外の1つの領域での機能低下がみられた群をMCI-single non-memory domain群,2つ以上の領域での機能低下が見られた群をMCI-multiple domains slightly impaired群とした.どの領域にも機能低下が認められないものを正常群とした.
対象者に頭部MRIと99mTc-ECDをトレーサとしたSPECTを施行した.部分容積効果を補正した脳血流画像において各MCI群と正常群について群間比較を行った.

【倫理的配慮】対象者全員から書面によるインフォームドコンセントを得た.また,本研究は筑波大学医倫理委員会の承認を受けて行った.

【結果】対象者117名中,MCIと判定されたものは33名であった.このうち,MCI-amnestic群が22名,MCI-single non-memory domain群が7名,MCI-multiple domain slightly impaired群が4名と分類された.MCI-amnestic群では正常群に較べ,両側の頭頂連合野,楔前部などで血流低下をみとめた.MCI-multiple domain slightly impaired群では前部帯状回をはじめ,前頭葉に広範な血流低下をみとめた.MCI-single non-memory domain群では両側頭頂連合野に加えて両側下側頭回に血流の低下がみられた.

【考察】MCIの下位分類においてADに最も移行しやすいとされるMCI-multiple domains slightly impaired群では他のMCI群に較べ前頭葉に広範な血流低下を認め,多領域での機能低下を反映する結果と思われた.
MCI-amnestic,single non-memory domainの2群では両側頭頂連合野の血流低下をみとめ,早期アルツハイマー型痴呆の血流低下パターンに類似した所見と考えられた.

 

MCI及び軽症Alzheimer病診断における
リバーミード行動記憶検査の有用性について

足立浩祥,池田  学,鉾石和彦,小森憲治郎,福原竜治,兵頭隆幸,石川智久
森  崇明,松本光央,豊田泰孝,松本直美,品川俊一郎,田邉敬貴

愛媛大学医学部神経精神医学講座

UB2-15

【目的】軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)及び軽症Alzheimer’s disease(AD)の診断における,リバーミード行動記憶検査(Rivermead Behavioural Memory Test:RBMT)の有用性についてMMSE及びADAS-J cogと比較検討する.

【方法】我々の高次脳機能外来に物忘れを主訴に受診し,NINCDS-ADRDAのpossibleないしprobable AD,あるいはPetersenの提唱する基準でamnestic MCIと診断された者に対して,ADAS-J cog,RBMTを施行した.このうち,CDRが0.5及び1に該当するものに対し,各検査間の相関関係を検討した.また,標準化された通常用いられるカットオフ値によって,どの程度の患者が検査上異常と捉えられるか検討を行った.

【倫理的配慮】調査にあたり,書面にて本研究の同意を得た.また,本調査により,種々の個人情報を得るため,これらのデータが外部に漏れることがないよう,管理を徹底した.

【結果】対象者は計27名で,CDR=0.5に該当する者が17名,CDR=1に該当する者が10名であった.MMSEないしADAS-J cogとRBMT profile score及びscreening scoreの相関関係を検討したところ,Pearsonの相関係数はいずれも0.5前後であり,統計学的にもp<0.01と有意な相関を認めた.次に,個々の症例のRBMT profile score及びscreening scoreとMMSE,ADAS-J cogの得点について,これまで報告されている標準化されたカットオフ値を用いることにより,実際の症例をどの程度異常と捉えられるかどうか検討を行った.この結果,それぞれのカットオフ値による患者の偽陰性false-negativeとなる割合は,MMSEで44%,ADAS-J cogで48%であった.これに対し,RBMT profile scoreでは15%,RBMT screening scoreでは19%であり,MMSE,ADAS-J cogと比して良好な結果が得られた.

【考察】MCI及び軽症ADの適切な診断を行っていく上で,日常記憶の障害を評価するRBMTは,通常のスクリーニング検査では見落とされうる極早期の日常生活場面で必要とされる多様な記憶形態の障害を測定し,診断に役立つものと考えられる.