アルツハイマー病の臨床的重症度とBenton視覚記銘検査の意義 |
橋爪敏彦1),加田博秀1),古川はるこ1),笠原洋勇1),中山和彦2) |
TB2-10 |
【目的】アルツハイマー病の臨床的重症度とBenton視覚記銘検査との関係の検討,及びMini-Mental State Examination(MMSE),その下位尺度との関係を検討する. 【方法】正常(CDR 0)群,26例(男性6例,女性20例,平均年齢±標準偏差;70±8.3歳),痴呆疑い(CDR 0.5)群,33例(男性11例,女性22例,72.6±9.1歳),軽度AD(CDR 1)群,30例(男性9例,女性21例,77.0±6.3歳),中等度および高度AD(CDR 2 & 3)群,20例(男性4例,女性16例,74.6±8.6歳)を対象とし,Benton視覚記銘検査,MMSE,改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の各認知機能下位尺度とClinical Dementia Rating(CDR)を用いた臨床的重症度との関連を比較した. 【倫理的配慮】本人および家族に対し,上記の検査内容の説明を十分に行い同意を得た. 【結果】BVRTの正確数と誤謬数ともCDR 0 群に比べCDR 0.5 群との間では有意差(p<0.01)が認められた.正答率はそれぞれの図版においてCDR 0 群,CDR 0.5 群,CDR 1 群,CDR 2 & 3 群と低下していった.結果として視空間認知機能と臨床的重症度との相関が有意に高いことが示された. 【考察】ADの重症度診断において,視空間認知機能に注目することで早期に痴呆のスクリーニングが可能であることが示唆された. |
軽度アルツハイマー型痴呆における先行刺激抑制の検討 |
佐藤典子,植木昭紀,後藤恭子,吉田泰子,守田嘉男 |
TB2-11 |
【目的】突然に起こる強い聴覚刺激(驚愕刺激,P)は驚愕反応(S)を引き起こすが,その直前に弱い聴覚刺激(先行刺激,PP)を付加するとSが抑制される現象を先行刺激抑制(PPI)という.脊椎動物に普遍的にみられる現象で統合失調症などの機能性精神障害では情報処理,思考や認知の障害の関与が示唆される.脳器質性疾患での報告は極めて少ない.本研究では軽度アルツハイマー型痴呆(DATm)におけるPPIの変化を検討した. 【方法】DATmはNINCDS-ADRDAのprobable Alzheimer’s diseaseの基準を満たしFAST4,MMSE 18-23点である.対照(C)は精神神経疾患の罹患,家族歴のないMMSE 24点以上の初老期,老年期の健常者である.DATmの認知機能の評価としてADAS-cogをPPIの測定前に実施した.外来で塩酸ドネペジル単剤投与しリハビリテーションは実施しなかった.ADAS-cogの1年間の得点差をDATmの認知機能障害の進行の指標とした.聴力に異常がないことを確認した.Pが115dB,50 msec,PPが85dB,30 msecの白色雑音,その間隔が50 msecで被験者に装着した振動センサーによりS強度を測定した.100−(PP付加時S強度÷P時S強度)×100をPPIの指標とした. 【倫理的配慮】倫理委員会の承認を受け,DATmの場合は代諾者を含めてすべての被験者に研究の趣旨を説明し自由意志に基づく書面での同意を得た. 【結果】DATmは23名(男6,女17),Cは20名(男11,女9)で,性別,年齢(DATm:71.0±8.6,C:67.7±9.7),教育年数(DATm:11.3±3.1,C:11.4±3.1)に有意差はなかった.DATmとCのP時のS強度(DATm:0.22±0.26,C:0.54±1.45)に有意差はなかったが,PPIの指標はCと比べDATmで有意に減弱していた(DATm:−5.9±16.0,C:3.4±12.4).PPI測定時のDATm のADAS-cog得点は14.6±3.5,1年間の得点差は1.5±1.5であった.PPIの指標とADAS-cog得点に相関関係はなかったが,PPIの指標と1年間の得点差との間には有意の逆相関(r=−0.771)を認めた. 【考察】DATmの早期から内嗅皮質に神経病理学的変化が出現するが私たちは内嗅皮質の一部の破壊がPPIを制御する辺縁系,線条体,淡蒼球,橋を巡る回路に影響を与えPPIに異常が生じることを報告している(Behav Brain Res 2002,Psychiatry Clin Neurosci 2004).DATmの辺縁系での病変がPPIを制御する神経回路に影響すると思われる. PPIがDATmの認知機能障害の進行を予測する指標となる可能性がある. |
粘土による造形課題と他の課題との相関の検討 |
中山隆人1),松田年司1),柿木達也1),大植正俊1),前田 潔2) |
TB2-12 |
【目的】構成障害は,認知症の脳機能障害の一つとして認められている.MMSE,ADAS等の評価尺度でも,構成課題が指標の一つとして用いられている.脳機能障害患者における,3次元課題の成績に関しては,報告は少ない.以前,我々は,認知症高齢者に,立方体図形の図形模写と,同立方体図形の粘土による造形の課題を行い,その相関について発表した.今回,粘土による造形の課題と,他の評価項目との相関を調査したところ,興味深い結果が得られたので報告する. 【方法】対象者は,当院に入院もしくは通院する痴呆性高齢者216名で,平均年齢75.6±11.1,MMSE平均値18.4±6.2である.立方体図形の粘土による造形の課題との比較検討として,MMSE,HDS-Rの各項目.前頭葉課題として,語想起Category,Initial phoneme,2-1tapping,交互系列描画,交互系列動作.2次元の構成課題として,立方体の図形模写,マッチ棒を並べて立方体図形を表す課題.3次元課題として口頭指示で「箱,マスの形を粘土で作る」課題.これらの課題について,立方体図形の粘土による造形の課題との順位相関を算出し検討した. 【倫理的配慮】この度の研究を行う上での,検査,個人情報の取り扱い等については,病院管理者を含め,国の定めた指針をふまえ倫理的配慮についての検討がなされた上で行われた. 【結果】立方体図形の粘土による造形の課題との相関係数4以上の有意な相関が認められた課題は,MMSE構成課題(重なり合う五角形の模写),立方体の図形模写,語想起Category(動物),書字,逆唱相関係数3以上の有意な相関が認められた課題は,口頭指示で「箱,マスの形を粘土で作る」課題,読字,順唱,5つの物の記銘,Serial7’s,3step command,語想起Category(食物),HDS-R語想起であった. 【考察】この度の結果では,立方体図形の粘土による造形の課題と,図形模写,口頭指示で「箱,マスの形を粘土で作る」これらの2つの構成課題に中度の相関が見られた.立方体図形の粘土による造形の課題と多くの前頭葉課題,MMSE,HDS-Rの中でも前頭側頭機能に関わる項目に,上記構成課題と同等の相関を認めた.構成は,多くの機能を使用しているとされているが,立方体図形の粘土による造形という3次元構成課題に関しては,前頭側頭葉機能との関わりが示唆されたと考える. |