第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木) ホールB5(2)

検査 1

 

 

新しい痴呆スクリーニング検査
The Rapid Dementia Screening Test(RDST)の有用性

酒井佳永1),小高愛子1),村山憲男2),高野真喜1),広瀬克紀3),
江渡  江1),新井平伊1)

1) 順天堂大学医学部精神医学教室
2) 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック,
3) 常総病院

TB2-07

【目的】The Rapid Dementia Screening Test(RDST)は,言語流暢性課題および数を表す語と算用数字とを変換する課題の2課題からなる新しい痴呆のスクリーニング検査である.RDSTの原著者らは,RDSTには非常に施行時間が短く(およそ3分間),また施行が簡単であるという利点があり,感度と特異性もよいことを報告している.今回,我々はRDST日本語版を作成し,そのスクリーニング検査としての有用性を検討したので報告する.

【方法】まずRDST日本語版を作成した.言語流暢性課題は原版と同様「スーパーマーケットで買えるもの」という条件の意味流暢性課題とした.数字変換課題は,漢数字と算用数字を変換させる課題とした.RDST日本語版とMMSEを痴呆患者群および健常統制群に施行した.対象は158人であり,患者群64人,統制群94人であった.統制群はCDR=0,精神科受診歴および最近3ヶ月間の入院歴がない40歳から80歳の社会的に自立した成人とした.患者群はA大学医学部附属の3施設の精神神経科を受診し,ICD-10による痴呆性疾患の診断が確定した40歳から80歳の軽度から中等度(CDR=1 or 2)の痴呆患者とした.両検査は各施設の臨床心理士が施行した.

【倫理的配慮】統制群については本人,患者群については本人もしくは代諾者から,紙面による告知同意を得た.調査票にはIDのみ記入し調査結果が個人と結びつかないよう配慮した.

【結果】言語流暢性課題(64歳以下統制群17.3点±6.4,65歳以上統制群17.0点±6.1,患者群8.6点±5.7),数字変換課題(64歳以下統制群3.3点±1.1,65歳以上統制群3.0点±1.1,患者群1.6点±1.4)のどちらにおいても,患者群は統制群より有意に得点が低かった.統制群において年齢群間の有意差はなかったが,数字変換課題,MMSEと教育年数の間に有意な相関があった.RDSTの2課題の素点を独立変数とした判別分析を行うと,患者群の79.7%,統制群の85.1%が正しく分類された.課題ごとに判別分析を行うと,言語流暢性課題が感度・特異性ともに高かったため,言語流暢性課題が数字変換課題の2倍の重みを持つよう素点を評価点に換算した(数字変換課題0-4点,言語流暢性課題0-8点,RDST全体で0-12点をとる).ROC曲線によりカットオフを検討すると,8/9で感度76.5%,特異性83.0%であり,全体の80.4%を正しく分類できた.RDSTとMMSEの順位相関係数は0.8であり両検査は高い相関を示した.

【考察】RDST日本語版は,高い感度と特異性をもち,かつ施行が非常に簡便で,患者群,統制群ともに教示内容の理解が良く,スクリーニング検査として高い有用性があることが確認された.MMSEとの相関も高く併存的妥当性も確認された.ただし,言語流暢性課題は教育,年齢の影響を受けなかったが,数字変換課題は教育の影響を受けるという限界があった.教育による影響はMMSEにも共通していた.今後,教育年数を考慮した標準化を進める必要がある.

 

日本語版 NPI-Dと NPI-Qの妥当性と信頼性の検討

松本直美1),池田  学1),福原竜治1),兵頭隆幸1),石川智久1),森  崇明1),
豊田泰孝1)松本光央1),足立浩祥1),品川俊一郎1),鉾石和彦1),田辺敬貴1),
博野信次2)

1) 愛媛大学医学部神経精神医学講座,2) 神戸学院大学人文学部人間心理学科

TB2-08

【目的】精神症候の評価法として有用性が確認されているNeuropsychiatric Inventory(NPI)の別バージョンであるNeuropsychiatric Inventory- Brief Questionnaire Form(NPI-Q)と Neuropsychiatric Inventory Caregiver Distress Scale(NPI-D)を邦訳し,その日本語版の信頼性と妥当性を検討した.

【方法】対象は2003年1月から2005年1月までに,愛媛大学附属病院精神科神経科高次脳機能外来を受診した痴呆症患者のうち,主介護者が同居している患者110名(AD 57名,CLB 25名,FTLD 6名,VaD 6名,その他16名).主介護者に対しNPI-Q,続いてNPIおよびNPI-Dを行った.NPI-Qの妥当性は,NPIと比較することにより,NPI-Dの妥当性は同時に行ったZarit介護負担尺度(ZBI),Minimental State Examination(MMSE)と比較することにより検討した.NPI-Qの検査再検査信頼性は19名を無作為に選択し,NPI試行翌日に再度施行し検討した.NPI-Dの検査再検査信頼性は27名を無作為に選択し,初回の評価者とは別の医師が1度目の施行から約1ヶ月の期間をおいて評価することにより検討した.

【倫理的配慮】対象となった患者の家族に対し口頭および書面で研究目的について説明し,同意を得た上で行った.

【結果】全対象患者のMMSEは平均18.6(標準偏差6.9,範囲0-30),ZBI合計点は平均29.22(標準偏差17.0,範囲2-80),NPI-D合計点は平均7.1(標準偏差7.0,範囲0-27),NPI-Q重症度合計点は平均8.3(標準偏差6.9,範囲0-28),NPI-Q負担度合計点は平均9.0(標準偏差9.3,範囲0-47)であった.NPI-D合計点とZBI合計点の間には強い正の相関が認められ,これはMMSEとの間の相関よりも強かった.NPI-Dの検査再検査間では,相関係数は0.40(p=0.04)で有意な相関が認められた.NPI-Qの重症度の合計とNPI重症度の合計の相関係数は0.75(p<0.0001),NPI-Qの重症度の合計とNPI重症度と頻度の積の合計の相関係数は0.71(p<0.0001)で有意な相関が認められた.NPI-Qの検査再検査間では,総合重症度の相関係数は0.82(p<0.0001),総合負担度の相関係数は0.71(p=0.0005)で有意な相関が認められた.

【考察】NPI-Dは認知機能検査より介護負担尺度と強い相関があり,介護負担尺度として妥当性があると考えられた.NPI-Dの検査再検査間では有意な相関はあるが,原著の成績に比べ低かった.これは,本研究では最も一致しにくい異なる検者で異なる時期の評価の相関を検討した為と考えられた.NPI-Q合計点はNPIと有意な相関があり,これは原著と大差なく,日本語版も原版と同様の妥当性があると考えられた.NPI-Qの検査再検査間では有意な相関は認められるが,その値は原著に比べ低かった.

 

日本語版National Adult Reading Test (JART) の作成とその妥当性検証

松岡恵子1),宇野正威2),笠井清登3),武井教使4),小山恵子5),金  吉晴6)

1) NPO法人TBIリハビリテーションセンター,2) 吉岡リハビリテーションクリニック
3) 東京大学医学部付属病院精神神経科,4) 浜松医科大学精神神経科
5) 東京都老人医療センター,
6) 国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部

TB2-09

【目的】National Adult Reading Test(NART)は英国で用いられている検査であり,綴りに対して不規則な音読をもつ単語の音読成績によって認知障害を有する人の病前IQを推定する.我々は難読漢字50熟語を素材として日本語版 NART(以下,JART)を作成し,健常高齢者における標準化およびアルツハイマー病(以下,AD)患者における妥当性を検討したので報告する.

【方法】本研究の対象は健常高齢者106名である.すべての対象者に,JART,Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised (WAIS-R),Mini-Mental State Examination(MMSE),The Center of Epidemiology Studies(CES-D)を行った.MMSEが23点以下もしくはCES-Dが16点以上であった対象者を除外した結果,分析対象者は100名となった.この100名をランダムに標準化群(n=50)と妥当性検証群(n=50)に分類した.標準化群においてJART誤答数からIQを算出する回帰式を作り,妥当性検証群においてその回帰式の妥当性を検討した.また,年齢・性別・教育年数でマッチさせたAD患者74名に,WAIS-R,JART,MMSEを施行し,AD患者におけるJARTの妥当性を検討した.

【倫理的配慮】調査プロトコルは,国立精神・神経センターの倫理委員会に申請し研究遂行の許諾を得た.研究はそのプロトコルに則って行われ無事に終了した.

【結果】標準化群において,JART誤答数からIQを予測する以下のような回帰式を得た.予測IQ=124.1−0.964 ×(JART誤答数) この回帰式を妥当性検証群に当てはめた結果,実際に得られたIQ,VIQ,PIQ,11種の下位検査すべてと有意な相関がみられ,実際に得られたIQの分散の73%を説明した.妥当性検証群の96%において標準化された残差は2以内であった.また,実際にWAIS-Rによって測定されたIQ及びJARTによる推定IQをAD患者と妥当性検証群とで比較すると,実測IQでは2群間に有意差がみられたが(91.7 vs 102.0,p<0.001),推定IQでは差がみられなかった(102.4 vs 102.3, p=0.94).

【考察】JARTによる推定IQは,健常高齢者においては実測IQと高い相関を示したことから,健常高齢者のIQを推定する上での妥当性が示された.また,実測IQの低下が認められるAD患者において,JARTによる推定IQは同年齢の健常者と同等に保持されており,このことからAD患者の病前IQを推定する上でJARTの妥当性が示された.