第20回日本老年精神医学会大会プログラム

 6月16日(木) ホールB5(2)

レビー小体型痴呆 1

 

 

当院入院患者におけるレビー小体型痴呆の実態調査

北山通朗,中曽一裕,中島健二

鳥取大学医学部脳幹性疾患研究施設脳神経内科部門

TB2-04

【目的】Lewy小体型痴呆(DLB)は比較的新しい疾患概念であるが,現在ではAlzheimer型痴呆,脳血管性痴呆と共に重要な痴呆性疾患と考えられている.しかし,その頻度に関する疫学的報告は様々であり,いまだ確立した見解はない.今回,我々は,痴呆を伴ったパーキンソン病関連疾患群やその他の痴呆性疾患群におけるDLBの割合について検討した.

【方法】1996年4月〜2004年11月までの間に,パーキンソン病関連疾患あるいは痴呆性疾患として当科入院となった473症例(平均70.4±10.8歳)について,年齢,性別,臨床診断,臨床症状(精神症状,痴呆症状,パーキンソニズムの有無)について検索した.また,初期の臨床診断から変化があった症例についてはその要因について検討した.また,DLBの診断は,臨床診断基準及び痴呆症状がパーキンソニズム発症後1年以内であるものをDLBとし,パーキンソニズム発症後1年以上のものをDLB疑い例,DLBの臨床診断基準を満たさずパーキンソン病と痴呆症状を合併したものをPDDとし,その割合を検討した.

【倫理的配慮】神経心理検査等各種検査については,患者の同意を得た後施行した.

【結果】パーキンソン病関連疾患あるいは痴呆性疾患として当科入院となった473症例のうち,パーキンソン病関連疾患として入院となったのは225例(平均70.2±9.92歳),痴呆性疾患として入院となったのは248例(平均70.2±11.7歳),男女比は1:1.3であった.DLBと臨床診断されたのは44例,全体の9%であった.パーキンソン病関連疾患,痴呆性疾患を分けて検討すると,パーキンソン病関連疾患では,パーキンソン病,DLBの割合はそれぞれ52%,17%であり,痴呆性疾患ではAlzheimer型痴呆,DLB,脳血管性痴呆の割合はそれぞれ48%,19%,12%であった.65歳以上に限定すると,パーキンソン病関連疾患では,47%,21%であり,痴呆性疾患では52%,19%,13%であった.一方,DLB疑い例は19例で,パーキンソン症候群のうちの8%を占め,PDDは5例と少数であった.また,DLB 44例のうち,パーキンソニズムから発症する例,痴呆症状から発症する例はほぼ同数であった.

【考察】DLBはドネペジルをはじめとした治療に対してその有効性が指摘され,その診断は臨床的に重要である.今回,DLBはパーキンソン関連疾患群,痴呆性疾患群の中では15〜20%の頻度であったが,疑い例を合わせるとパーキンソン症候群の中では25%と比較的頻度の高い疾患と考えられ,それに対してPDDは少数であった.今後,MIBG心筋シンチ,神経心理学的検査を詳細に行うことにより,さらに頻度が高くなることが予測され,今後も更なる検討が必要である.

 

DLBの認知機能の推移について

磯島大輔1),藤城弘樹2),都甲  崇1),入谷修司3),赤津裕康4),
平安良雄1),小阪憲司4)


1) 横浜市立大学医学部精神医学教室,2) 名古屋大学医学部老年科
3) 名古屋大学医学部精神医学教室,
4) 医療法人さわらび会福祉村病院長寿医学研究所

TB2-05

【目的】痴呆性疾患の中で,アルツハイマー型変性痴呆の臨床経過について論じた文献は多く存在するが,非アルツハイマー型痴呆性疾患の臨床経過については不明な点も多い.アルツハイマー型痴呆に次いで多いとされるレビー小体型痴呆(DLB)について,その認知障害の動揺性は特徴的であり,しばしば経験するが,剖検症例を縦断的に解析した研究は少ない.本研究は各種スケールを用いて継続的評価を行い,DLBの認知機能の推移について考察検討した.

【方法】福祉村病院長寿医学研究所に保存されている剖検脳から,神経病理学的にDLBと診断された症例を選び出し,臨床経過および繰り返し施行された認知機能スケールの推移について調べ,DLB剖検脳症例における認知機能の推移について検討考察した.

【倫理的配慮】福祉村病院長寿医学研究所の既定により,病理解剖時,研究について個人の御家族の同意を得ている.

【結果】連続剖検330症例中,DLB症例は31例(男性14例,女性17例)であり,発症年齢,死亡年齢,罹患期間は,それぞれ74.3±8.8歳,80.5±7.0歳,75.7±54.5ヶ月であった.その内訳はneocortical type 10例(72.2±5.6歳,77.7±5.6歳,70.4±50.2ヶ月),transitional type 14例(77.1±6.9歳,82.6±6.4歳,66.6±50.2ヶ月),brain stem type 7例(71.7±14.2歳,80.5±9.4歳,101.7±68.6ヶ月)であった.この中で,死亡直前2年以内にMMSE,HDS-Rを1年以上施行された症例を選出し,評価検討した.全ての症例において,各値の動揺を認めた.neocortical type では概ね動揺しながら,各値の漸減を認めるのに対し,transitional type および brain stem type では死亡1年前までは比較的高い値を保っていた.

【考察】各認知スケール値の動揺は,DLBにおける意識の動揺性が関与している可能性が示唆された.また,neocortical type の経過が transitional type および brain stem type に比して各スケールの漸減を認めることは,レビー小体病変の局在性と一致すると思われた.

 

変動する人物誤認症状を呈し,レビー小体型痴呆と考えられた1例

大原一幸,中島貴也,西井理恵,守田嘉男

兵庫医科大学精神科神経科

TB2-06

【はじめに】人物誤認症状が変動する症例を経験したが,経過中にカプグラ症状様(妻が同定出来ない)の訴えやフレゴリ症状様(同一人物が複数出現する)の錯覚もみられた.人物誤認症状の変動は認知機能の変動ととらえ,レビー小体型痴呆に伴うものと考えた.若干の考察を加える.

【症例提示】68歳,男性.右利き.【既往歴】50歳頃より糖尿病.【現病歴】X−6年頃より物忘れがみられた.X−1年,不安発作様症状が出現しA病院受診.X年5月,仕事の話し合いの前日になると,不穏状態となると当科紹介受診.受診時,意識障害はなく神経学的にも軽度筋強剛の他には腱反射,眼球運動などに異常なし.時間の失見当識がみられ,HDS-R=13点.物品名呼称はほぼ確実.左右失認(−),手指失認(−),バリント症状(−),失読(−)であるが,書字は変動があった.構成障害(±).語想起は,カテゴリー(野菜)が4/分.日常場面で緊張し困惑することが多かった.頭部MRIでは,微小な脳梗塞がみられる以外には著変なし.SPECTでは頭頂-後頭に血流低下,脳波ではθ波の混入がみられた.X年9月より塩酸ドネペジルの投与を開始.その後も病状の変動があったが,X+1年11月のHDS-R =10点.X+2年1月頃より,他人に「馬鹿にされている」と被害念慮が再三みられた.また,近所の通夜の席で隣人の顔がわからないことを妻に気づかれた.同年4月,「A(嫁)がもう一人いる」と言い出した.さらに,妻が目の前に居るにもかかわらず,「よく知った人がいる」と述べだした.また,この頃には視覚失調がみられることがあったが,妻と話していても途中から「顔がわからなくなる」「一生懸命にしてくれるけど,誰かな?」と妻のことがわからないことが時々あった.またお風呂で妻が背中を流すと「(妻と)よう似た人がきれいにしてくれる」と述べた.症状には変動が激しく,カラオケを歌っている途中に突然歌詞がわからなり,「(妻に)よく似た人がたくさん座って居る」と言った.X+2年11月頃には,病院の待合室でも妻に「失礼ですが,おたく(妻の姓名)じゃなかったかねえー」と述べた.診察時には妻を認識できていたが,妻が「別に居るとー(思った)」「一致しないんやね」と述べた.現在も治療継続中である.

【倫理的配慮】症例検討に直接関係しない病歴に変更を加えた.

【考察】本例は,症状の変動が激しく,視覚失調,人物誤認症状にまで症状の変動がみられた.人物誤認症状については,当初は錯覚あるいは幻覚とも判別困難なものであったが,次第に眼前の妻を「よく似た人」と言い認識できなくなることが再三となった.時に妻とよく似た人が複数いると述べたが,替え玉がいるという典型的なカプグラ症状はなかった.明らかな替え玉妄想がなかったのは,誤認した対象への猜疑心や被害念慮が無いことと関連しているように思われた.